(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】フッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20221130BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20221130BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221130BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221130BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20221130BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221130BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C08J5/04 CEW
C08L27/18
C08K3/013
B32B15/08 J
B32B27/12
H05K1/03 610H
H05K1/03 610R
H05K1/03 610T
H01B3/44 C
(21)【出願番号】P 2021092326
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2021-06-01
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】陳 豪昇
(72)【発明者】
【氏名】張 智凱
(72)【発明者】
【氏名】張 宏毅
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-050860(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109467858(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101857708(CN,A)
【文献】特開2001-328205(JP,A)
【文献】特開平05-320383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0339493(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化基材層と、前記強化基材層を覆うフッ素系樹脂層とを含み、前記フッ素系樹脂層は、フッ素系樹脂100重量部、及び無機フィーラー20~110重量部を含み、前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%と
、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)0.1wt%~5wt%と、を含む、
ことを特徴とするフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項2】
前記無機フィーラーは、無機粉末であり、かつ、前記無機粉末の平均粒子径は0.01~20μmであり、前記無機フィーラーは、二酸化ケイ素、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、窒化ホウ素、窒素アルミニウム、炭化ケイ素、酸化セリウムまたはそれらの組合せから選ばれるものである、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項3】
前記強化基材層は、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、酸化アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維またはそれらの組合せによって形成されるものである、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項4】
前記強化基材層の厚さは20μm~100μmである、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項5】
前記フッ素系樹脂層の厚さは30μm~200μmである、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂層の流動性が5~15%である、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項7】
加工剤0.1~5重量部をさらに含み、前記加工剤は、
ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれるものである、請求項1に記載のフッ素系樹脂プリプレグ材。
【請求項8】
強化基材層、及び前記強化基材層を覆うフッ素系樹脂層を含み、前記フッ素系樹脂層がフッ素系樹脂100重量部、及び無機フィーラー20~110重量部を含み、前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%と
、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)0.1wt%~5wt%と、を含む、フッ素系樹脂基板と、
前記フッ素系樹脂基板に配置される回路層と、
を備える、ことを特徴とする回路基板。
【請求項9】
前記強化基材層は、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、酸化アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維またはそれらの組合せで形成される、請求項
8に記載の回路基板。
【請求項10】
前記回路層は高密度配線層であり、前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)50wt%~70wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)15wt%~30wt%と
、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)1wt%~20wt%とを含む、請求項
8に記載の回路基板。
【請求項11】
前記フッ素系樹脂層はさらに加工剤0.1~5重量部を含み、前記加工剤は、
ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせから選ばれるものである、請求項
8に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板に関し、特に高周波伝送に使用されるフッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、基地局アンテナ、衛星レーダー、自動車レーダー、無線通信アンテナ、電力増幅器などの高周波伝送部品に使用される高周波基板には、より小さい誘電率(dielectric constant,Dk)、より小さい誘電正接(dielectric dissipation factor,Df)、より高い熱伝導率が求められる。
【0003】
現在、高周波基板の多くは、低Dk、低Dfの特性を持つフッ素系樹脂が使用されている。一般的に使用されているフッ素系樹脂には、主成分としてポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)が含まれていることが多い。しかし、ポリテトラフルオロエチレンには多くの加工上の制限があり、その応用には困難が伴い、例えば、ポリテトラフルオロエチレンは高い融点(約327℃)を持っていると共に、当該融点においても、高粘度を有し、流動性が低下する。
【0004】
そのため、プレス加工で多層配線板を形成する場合、少なくとも400℃以上の温度に加熱する必要があり、工程が難しくなってしまう。また、高密度回路を有するプリント配線板を形成する工程では、ポリテトラフルオロエチレンの低流動性と低充填性のために、プリント配線板の回路層とフッ素系樹脂との間に空隙が生じることがある。その後のプリント配線板の加工や熱処理の際に、前記空隙によって回路層とフッ素系樹脂の熱膨張率の差による悪影響がさらに大きくなり、プリント配線板の歩留まりに影響を与える。
【0005】
したがって、フッ素系樹脂の配合を改良してプレス温度を下げ、高周波回路基板の流動性と充填性を同時に向上させることは、この業界の解決すべき課題の一つとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、既存の技術の不足に対し、高周波回路基板に適用するために、プレス加工に必要なプレス温度を下げると共に、フッ素系樹脂プリプレグ材の流動性と充填性を向上させる、フッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するために、本発明に採用された技術手段の1つは、次のようなフッ素系樹脂プリプレグ材を提供することである。フッ素系樹脂プリプレグ材は、強化基材層及びフッ素系樹脂層を含む。フッ素系樹脂層は強化基材層を覆い、かつ、フッ素系樹脂層は、フッ素系樹脂100重量部と、無機フィーラー20~110重量部とを含む。フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%とを含む。
【0008】
上記技術的課題を解決するために、本発明に採用された他の技術的手段は、次のような回路基板を提供することである。回路基板は、上記フッ素系樹脂基板、及び回路層を含み、回路層がフッ素系樹脂基板に配置される。
【発明の効果】
【0009】
本発明による有益な効果として、本発明が提供するフッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板は、「フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%とを含む」という技術的手段によって、フッ素系樹脂プリプレグ材に低いプレス温度及び高い流動性と充填性を持たせるため、それは作高周波回路基板、特に、回路密度の高い回路基板の作製に適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材を示す局部断面模式図である。
【
図2】本発明に係る第1の実施形態の回路基板を示す局部断面模式図である。
【
図3】本発明に係る第2の実施形態の回路基板を示す局部断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照する。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するためのものではない。
【0012】
下記より、具体的な実施例で本発明が開示する「フッ素系樹脂プリプレグ材及びそれを使用した回路基板」に係る実施形態を説明する。当業者は本明細書の公開内容により本発明のメリット及び効果を理解し得る。本発明は他の異なる実施形態により実行又は応用できる。本明細書における各細節も様々な観点又は応用に基づいて、本発明の精神を逸脱しない限りに、均等の変形と変更を行うことができる。また、本発明の図面は簡単で模式的に説明するためのものであり、実際的な寸法を示すものではない。以下の実施形態において、さらに本発明に係る技術事項を説明するが、公開された内容は本発明を限定するものではない。
【0013】
なお、本明細書において「第1」、「第2」、「第3」等の用語で各種の部品又は信号を説明する場合があるが、これらの部品又は信号はこれらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は、主として一つの部品と別の部品、又は一つの信号と別の信号を区分するためのものであることが理解されたい。また、本明細書に用いられる「又は」という用語は、実際の状況に応じて、関連する項目中の何れか一つ又は複数の組合せを含み得る。
【0014】
図1を参照されたい。
図1は、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材を示す局部断面模式図である。本発明に提供されたフッ素系樹脂プリプレグ材1は、強化基材層10及びフッ素系樹脂層11を含む。
【0015】
強化基材層10は、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、酸化アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維またはそれらの組合せによって構成されてもよい、好ましい実施形態において、強化基材層10はガラス繊維布である。強化基材層10の厚さは20μm~100μmである。
【0016】
本実施形態において、フッ素系樹脂層11は強化基材層10を完全に覆うようになる。具体的に、フッ素系樹脂層11は、
図1に示すように、強化基材層10を挟みながら強化基材層10を完全に覆うように、強化基材層10の両側に形成されてもよい。
【0017】
フッ素系樹脂プリプレグ材1を形成するために、強化基材層10に複数回にわたってフッ素系樹脂組成物を含浸させるようにしてもよい。また、含浸するたびに、含浸済みの強化基材層10を高温まで加熱して乾燥を行うことによって所定の厚さを有するフッ素系樹脂層11に形成させる。特定の実施形態において、フッ素系樹脂層11の厚さは、30μm~200μmである。なお、本発明はフッ素系樹脂プリプレグ材1の製造方法について制限する意図はない。他の実施形態においては、フッ素系樹脂組成物の溶液を強化基材層10に塗布することによってフッ素系樹脂層11を形成してもよい。
【0018】
さらに、フッ素系樹脂層11は、フッ素系樹脂100重量部、及び無機フィーラー20~110重量部を含む。好ましい実施形態において、無機フィーラーは80~110重量部となる。
【0019】
特定の実施形態において、フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethene,PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(fluorinatedethylenepropylene,FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(perfluoroalkoxyalkane,PFA)0.1wt%~40wt%とを含む。
【0020】
なお、プレス加工工程において、フッ素系樹脂プリプレグ材1におけるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量が高いほど、フッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性が低下しつつ、プレス加工に必要なプレス温度も高くなり、一方、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)の含有量が少なく過ぎると、フッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性が低下するが、含有量が多すぎるとフッ素系樹脂プリプレグ材1の誘電特性に悪い影響を及ぼすため、高周波伝送に回路基板を適用するのに不利となることは説明しておきたい。
【0021】
ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)の含有量が少なく過ぎるとフッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性が低下となる一方、含有量が多すぎるとフッ素系樹脂プリプレグ材1のプレス温度の増加に繋がる。それで、本実施形態においては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)及びペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)と組み合わせることによって、フッ素系樹脂プリプレグ材1のプレス温度及び流動性を調整する。
【0022】
高密度配線(high density interconnect,HDI)基板は、回路層における配線幅と配線間隔が例えば、3mil程度に小さいため、製造する際のフッ素系樹脂プリプレグ材1は高い流動性が必要となる。好ましい実施形態において、高密度配線回路基板を作製するために、フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン50wt%~70wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)15wt%~30wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)1wt%~20wt%とを含む。
【0023】
好ましい実施形態において、フッ素系樹脂はさらに、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ethylene-tetra-fluoro-ethylene,ETFE)を含む。さらに、フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%と、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)0.1wt%~5wt%とを含む。
【0024】
テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)はフッ素系樹脂層11の加工性を高めることができる。さらに、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)を添加することによって、フッ素系樹脂層11のプレス温度はさらに下げられる。また、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)を添加することによってフッ素系樹脂層11の引張強度を高めることができる。
【0025】
特定の実施形態において、無機フィーラーは、二酸化ケイ素、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、窒化ホウ素、窒素アルミニウム、炭化ケイ素、酸化セリウムまたはそれらの組合せから選ばれるものである。
【0026】
二酸化ケイ素は、溶融二酸化ケイ素または結晶性二酸化ケイ素であり得、銅箔基板全体の誘電特性を考慮する場合、溶融二酸化ケイ素が好ましい。二酸化チタンは、ルチル型(rutile)二酸化チタン、アナターゼ型(anatase)二酸化チタン、またはブルッカイト型(brookite)二酸化チタンであり得、回路基板の誘電特性を考慮する場合、ルチル型二酸化チタンが好ましい。
【0027】
また、特定の実施形態において、無機フィーラーは無機粉末であり、かつ、無機粉末の平均粒子径は0.01~20μmである。なお、フッ素系樹脂の重量部に対し、無機粉末の含有量が60重量部を超えると、樹脂組成物の懸濁性に影響を及ぼすことによって、含侵工程での析出によりプリプレグの均質性が悪くなり、工程に支障をきたすことがある。
【0028】
好ましい実施形態では、フッ素系樹脂プリプレグ材1は、0.1~5重量部の加工剤をさらに含む。加工剤は、分散剤、湿潤剤、変形剤などを含むことができるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、加工剤は、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0029】
上記を踏まえて、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1は低いプレス温度及び優れた流動性を有する。特定の実施形態において、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1によって回路基板を作製する際、プレス温度はおよそ240℃~300℃である。
【0030】
IPC-TM-650-2.3.17のテスト方法に準拠してテストを行った結果、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性は5~16%であった。また、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1は、低い誘電正接(Df)及び低い誘電率(Dk)を兼有するために、高周波信号の伝送用回路基板の要求をさらに満たすことができる。
【0031】
本発明に係るフッ素系樹脂プリプレグ材1は、過剰な誘電損失を発生させることなく、また誘電特性を犠牲にすることなく、高い流動特性と低い圧縮温度を実現することができる。下表を参照されたい。本発明に係る様々な実施例及び比較例のフッ素系樹脂プリプレグ材の物性、及び各実施例のフッ素系樹脂プリプレグ材1の組成を示した。物性の評価方法は次の通りである。
(1)熱伝導率解析試験:熱伝導率解析試験。界面材の熱抵抗と熱伝導率の測定器(Long Win Science and Technology Corporation,LW-9389)を用いて、ASTM-D5470の試験方法に従って、熱伝導率の分析と試験を行った。
(2)誘電率(10GHz):誘電体分析器(Dielectric Analyzer)(型番HPAgilentE4991A)を用いて、10GHzでの誘電率を測定した。
(3)誘電正接(10GHz):誘電正接。誘電体分析器(Dielectric Analyzer)(型番HPAgilentE4991A)を用いて、10GHzでの誘電正接を測定した。
(4)剥離強度試験:IPC-TM-650-2.4.8の試験方法に準拠して、銅箔基板の剥離強度を測定した。
(5)流動性試験:IPC-TM-650-2.3.17の試験方向に準拠して、フッ素系樹脂プリプレグ材の流動性を測定した。
(6)プレス温度:ホットプレスは、真空ホットプレス機を用いて行う。真空ホットプレス機の上部プレートと下部プレートの温度は、プレス前に所定の温度になるように調整される。プレス時間は120分、プレス温度はフッ素系樹脂プリプレグ材1が必要な流動性を有し、かつ銅箔と完全に接着するために必要な温度となる。
【表1】
【0032】
表1:実施例1~5、及び比較例1~3のフッ素系樹脂基板の組成及び物性について評価した。実施例1~5におけるフッ素系樹脂基板のいずれも、フッ素系樹脂49.5wt%、無機フィーラー50wt%、及び加工剤0.5wt%を含む。実施例6におけるフッ素系樹脂基板は、フッ素系樹脂82.5wt%(100重量部)と、無機フィーラー16.7wt%(およそ20重量部)と、加工剤0.8wt%とを含む。実施例7におけるフッ素系樹脂基板は、フッ素系樹脂55.46wt%(100重量部)と、無機フィーラー44wt%(およそ80重量部)と、加工剤0.56wt%とを含む。
【0033】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、FEPの含有率が9wt%から15wt%に増え、誘電正接(Df)は少し上がっている(0.0015から0.0018に増えている)が、プレス温度は360℃から330℃まで大幅に下がるようになった。
【0034】
また、実施例1及び実施例3では、PTFEの含有率を減らしPFAの含有率を増やすことによって、プレス温度を下げなから、流動性も高めることができる。また、実施例1及び実施例2を一緒に参照されたい。実施例1に対して、実施例2では、PTFEの含有率を減少せずにPFAの含有率を減らし、かつFEPの含有率を増やした。実施例1、2における誘電正接(Df)、流動性及びプレス温度を比較すると、実施例2における流動性はめっきりと上がって、かつ、プレス温度は330℃まで大幅に下がった。実施例2の誘電正接が僅かに増加しても、高周波回路基板の作製に適用し得る。
【0035】
実施例2及び実施例4を参照されたい。実施例2に対して、実施例4においては、PTFEの含有率を減らしながら、さらにFEPの含有率を増やすことによって、流動性がさらに15%にあがって、かつ、プレス温度は効果的に310℃まで下がった。なお、実施例4における誘電正接は実施例2に比べてめっきり増加しなかったため、いぜんとして、高周波回路基板に適用し得る。
【0036】
比較例1を参照されたい。比較例1から分かるように、FEPおよびPFAを全く添加しなかった場合、プレス温度は428℃まで増加しなければならないにもかかわらず、流動性は弱いものである。比較例2から分かるように、FEPのみを添加した場合、誘電正接(Df)は高くなり、超高周波伝送領域に適用されにくい。また、比較例3から分かるように、PFAのみを添加すれば、誘電特性は優れたが、流動性は不足となった。
【0037】
比較例1-3に比べて、実施例1~7のプレス温度は著しく下げられた。さらに、実施例1及び実施例5を参照されたい。実施例1に比べて、実施例5にETFEが添加されなかった。また、実施例1、5のプレス温度を比較すると、実施例1のプレス温度が低いため、フッ素系樹脂にPTFE、PFA及びFEPを添加すると著しくプレス温度を下げることができるが、ETFEを添加することによって、プレス温度をさらに下げられることが看取できる。
【0038】
また、実施例6を参照されたい。実施例6では、フッ素系樹脂をおよそ82.5wt%(100重量部)含み、無機フィーラーを16.7wt%(およそ20重量部)含んだ場合、低いプレス温度及び高い流動性が得られることが看取できる。また、実施例7によっては、フッ素系樹脂をおよそ55.5wt%(100重量部)含み、無機フィーラーを44wt%(およそ80重量部)含んだ場合、低い誘電正接(0.0015)のみならず、比較的に低いプレス温度(318℃)が得られる。
【0039】
図2を参照されたい。
図2は、本発明に係る第1の実施形態の回路基板を示す局部断面模式図である。回路基板P1は、フッ素系樹脂基板1’、及びフッ素系樹脂基板1’に配置される回路層2を含む。
【0040】
本実施形態の回路基板P1において、回路層2はフッ素系樹脂基板1’の両側に配置される。なお、他の実施形態において、回路層2はフッ素系樹脂基板1’の一方側のみに配置されてもよい。
【0041】
また、回路層2はエッチングされていない銅箔層、またはエッチングによって形成されたパターン化された銅箔層のいずれかであってもよい。本実施形態においては、フッ素系樹脂基板1’の両側に配置された回路層2のいずれもエッチングされていない銅箔層である。他の実施形態においては、少なくとも一層の回路層2がパターン化された銅箔層である。
【0042】
なお、本実施形態に係る回路基板P1を準備する時、前記フッ素系樹脂プリプレグ材1を絶縁層として取り扱う。即ち、回路基板P1において、前記フッ素系樹脂プリプレグ材1は、圧合硬化された後、回路基板P1におけるフッ素系樹脂基板1’として形成される。このように、回路基板P1のフッ素系樹脂基板1’はフッ素系樹脂プリプレグ材1と同じ構成を有するものになる。
【0043】
即ち、フッ素系樹脂基板1’は、強化基材層10、及び強化基材層10を覆うフッ素系樹脂層11’を含む。強化基材層10は、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、酸化アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維またはそれらの組合せで構成されてもよい。本実施形態において、強化基材層10はガラス繊維によって形成される。
【0044】
フッ素系樹脂層11’は、フッ素系樹脂100重量部、及び無機フィーラー20~60重量部を含む。フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%とを含む。
【0045】
特定の実施形態において、無機フィーラーは無機粉末であり、かつ、無機粉末の平均粒子径は0.01~20μmである。無機フィーラー二酸化ケイ素、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、窒化ホウ素、窒素アルミニウム、炭化ケイ素、酸化セリウムまたはそれらの組合せから選ばれるものである。
【0046】
特定の実施形態において、フッ素系樹脂は、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)0.1wt%~5wt%をさらに含む。詳しくは、フッ素系樹脂プリプレグ材1は、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)を特定の比率で含むフッ素系樹脂を含有することによって、回路基板P1を作製するプレス温度をさらに下げることができる。
【0047】
特定の実施形態においては、高温または高圧の環境において少なくとも1つの銅箔層及び少なくとも1つのフッ素系樹脂プリプレグ材1に圧力を加える圧合工程によって、銅箔層とフッ素系樹脂プリプレグ材1とを結合させることができる。冷却後、少なくとも1つの銅箔層及び少なくとも1つのフッ素系樹脂プリプレグ材1は互いに結合され、回路基板P1として形成される。ここで、伝統的なプリプレグに比べて、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1に含有するフッ素系樹脂の比率は、圧合工程でのプレス温度を下げるとともに、フッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性を高めることができることは説明されたい。特定の実施形態において、プレス温度は240℃~360℃である。
【0048】
また、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1は優れた流動性を有するため、高密度回線回路基板の作製に適する。
図3を参照されたい。
図3は、本発明に係る第2の実施形態の回路基板を示す局部断面模式図である。
【0049】
本実施形態に係る回路基板P2は、複数のフッ素系樹脂基板1’、及び多層の回路層2、2’を含む。かつ、複数のフッ素系樹脂基板1’及び多層の回路層2、2’は交互に重ねる。本実施形態において、一方の2層の回路層2’はパターン化された銅箔層であり、他方の2層の回路層2は、エッチングされていない銅箔層である。特定の実施形態において、回路基板P2は、高密度配線層を有する回路基板である。即ち、回路層2’は、高密度配線層であり、かつ、高密度配線層における配線間隔が3mil未満であるか、配線幅が3mil未満である。回路基板P2の製造過程においては、フッ素系樹脂プリプレグ材1をパターン化された銅箔層(例えば、回路層2’)に圧合することによって、積層を増加する。回路層2’の配線間隔が小さいため、フッ素系樹脂プリプレグ材1の流動性への要求が高い。なお、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1は優れた流動性を有するため、回路層2’の隙間に充填される。好ましい実施形態において、フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)50wt%~70wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)15wt%~30wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)1wt%~20wt%とを含む。
【0050】
これで、回路基板P2においては、回路層2’とフッ素系樹脂基板1’との間に隙間が比較的生じないため、続きの工程において、回路層2’とフッ素系樹脂基板1’との熱膨張率の差異と隙間によってフッ素系樹脂基板1’が回路層2’から剥離する状況を防ぐことができる。即ち、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1はより優れた流動性を有するため、回路基板P2の信頼性を高めることができる。
[実施形態による有益な効果]
【0051】
本発明による有益な効果の1つとして、本発明が提供するフッ素系樹脂プリプレグ材1及びそれを使用した回路基板では「フッ素系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)10wt%~80wt%と、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)10wt%~50wt%と、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)0.1wt%~40wt%とを含む」技術的手段によって、フッ素系樹脂プリプレグ材1に低いプレス温度及び高い流動性と充填性を持たせることができる。そのため、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1を回路基板の作製に適用する時、回路基板の製造の難しさをさらに下げることができる。また、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1が高い流動性を有するため、高密度配線を有する回路基板の製作に特に適する。
【0052】
さらに、本発明に係る実施形態のフッ素系樹脂プリプレグ材1で作製した回路基板P1、P2は高周波伝送に適用されると共に、高い信頼性を有することは理解されたい。
【0053】
以上に開示される内容は本発明の好ましい実施可能な実施例に過ぎず、これにより本発明の特許請求の範囲を制限するものではないので、本発明の明細書及び添付図面の内容に基づき為された等価の技術変形は、全て本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0054】
1:フッ素系樹脂プリプレグ材
10:強化基材層
11,11’:フッ素系樹脂層
P1,P2:回路基板
1’:フッ素系樹脂基板
2,2’:回路層