(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/68 20060101AFI20221130BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221130BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20221130BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20221130BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B01D71/68
B01D69/00
B01D71/40
B01D69/12
B01D69/10
(21)【出願番号】P 2021511964
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013889
(87)【国際公開番号】W WO2020203716
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2019065206
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高園 康隼
(72)【発明者】
【氏名】小室 雅廉
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194647(JP,A)
【文献】特開2017-148737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/68
B01D 69/00-69/12
B01D 71/40
D06M 101/30
D01F 6/76
D06M 15/263
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子と親水性高分子を含む多孔質膜であって、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により前記多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが、1.0≦Tであ
り、
前記疎水性高分子由来のイオンがC
6
H
4
O(m/z=92)であり、
前記親水性高分子由来のイオンがC
4
H
5
O
2
(m/z=85)であり、
前記親水性高分子がメタクリレート系高分子であり、
前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、
前記親水性高分子が、前記疎水性高分子を含む基材膜にコーティングされている、前記多孔質膜。
【請求項2】
前記親水性高分子が非水溶性の親水性高分子である、請求項
1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記親水性高分子が電気的に中性である、請求項1
又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記メタクリレート系高分子がポリヒドロキシエチルメタクリレートである、請求項
1~3のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記ポリスルホン系高分子がポリエーテルスルホンである、請求項
1~4のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
バブルポイントが1.4~2.0MPaである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項7】
純水の透水量が150~500L/hr・m
2・barである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項8】
ウイルス除去用の、請求項1~
7のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項9】
ウイルスの対数除去率(LRV)が4以上である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項10】
前記親水性高分子の含量が、前記疎水性高分子に対し5~20重量%である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項11】
前記平均値Tが、1.0≦T≦7.0である、請求項1~10のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項12】
疎水性高分子と親水性高分子を含む多孔質膜の製造方法であって
、
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で
コーティングして親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程
;
を含み、
前記疎水性高分子由来のイオンがC
6
H
4
O(m/z=92)であり、
前記親水性高分子由来のイオンがC
4
H
5
O
2
(m/z=85)であり、
前記親水性高分子がメタクリレート系高分子であり、
前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、
前記調節工程が、前記親水化された多孔質膜を洗浄及び/又は高圧熱水処理することを含む、方法。
【請求項13】
疎水性高分子を含む基材膜を親水化した後の膜付きを低減する方法であって
、
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で
コーティングして親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程
;
を含み、
前記疎水性高分子由来のイオンがC
6
H
4
O(m/z=92)であり、
前記親水性高分子由来のイオンがC
4
H
5
O
2
(m/z=85)であり、
前記親水性高分子がメタクリレート系高分子であり、
前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、
前記調節工程が、前記親水化された多孔質膜を洗浄及び/又は高圧熱水処理することを含む、方法。
【請求項14】
前記親水化工程が、前記基材膜を束化して親水化処理を行う工程を含む、請求項
12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜、多孔質膜の製造方法、及び膜付きの低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、副作用が少ないこと及び治療効果が高いことにより、医薬品として、血漿分画製剤及びバイオ医薬品を用いた治療が広まってきている。しかし、血漿分画製剤はヒト血液由来であること、バイオ医薬品は動物細胞由来であることから、ウイルス等の病原性物質が医薬品に混入するリスクが存在する。
【0003】
医薬品へのウイルス混入を防ぐため、ウイルスの除去又は不活化が必ず行われている。ウイルスの除去又は不活化法として、加熱処理、光学的処理及び化学薬品処理等が挙げられる。タンパク質の変性、ウイルスの不活化効率及び化学薬品の混入等の問題から、ウイルスの熱的及び化学的な性質に拘わらず、すべてのウイルスに有効な膜濾過方法が注目されている。
【0004】
除去又は不活化すべきウイルスとしては、直径25~30nmのポリオウイルスや、最も小さいウイルスとして直径18~24nmのパルボウイルスが挙げられ、比較的大きいウイルスでは直径80~100nmのHIVウイルスが挙げられる。近年、特にパルボウイルス等の小さいウイルスの除去に対するニーズが高まっている。
【0005】
ウイルス除去膜に求められる第一の性能は、安全性である。安全性として、血漿分画製剤及びバイオ医薬品にウイルス等の病原性物質を混入させない安全性と、ウイルス除去膜からの溶出物等の異物を混入させない安全性が挙げられる。
ウイルス等の病原性物質を混入させない安全性として、ウイルス除去膜によりウイルスを十分に除去することが重要となる。非特許文献1には、マウス微小ウイルスやブタパルボウイルスの目標とすべきクリアランス(LRV)は、4とされている。
また、溶出物等の異物を混入させない安全性として、ウイルス除去膜から溶出物を出さないことが重要となる。
【0006】
ウイルス除去膜に求められる第二の性能は、生産性である。生産性とは、5nmサイズのアルブミン及び10nmサイズのグロブリン等のタンパク質を効率的に回収することである。
【0007】
特許文献1では、疎水性高分子と非水溶性の高分子を含有する多孔質膜を用いたウイルス除去方法が開示されている。
特許文献2では、熱誘起相分離法により製膜されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる膜にグラフト重合法により表面が親水化されたウイルス除去膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/031834号
【文献】国際公開第2004/035180号
【文献】PDA Journal of GMP and Validation in Japan, Vol.7, No.1, p.44(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、多孔質膜の製造時に膜同士が固着する現象(本明細書において、「膜付き」と呼ぶ)が低減された多孔質膜を提供することにある。また別の課題は、多孔質膜の製造時に発生する膜付きを低減する方法を提供することにある。さらに、多孔質中空糸膜の製造時に発生する膜付き(以下、多孔質中空糸膜における膜付きを「糸付き」と呼ぶことがある)が低減された多孔質中空糸膜を提供すること、多孔質中空糸膜の製造時に発生する膜付きを低減する方法を提供することも本発明の課題として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、特許文献1に開示される方法により多孔質膜を製造した場合、特に多孔質膜のコーティングによる親水化後に、膜同士が固着する膜付きが生ずるという問題点を見出した。膜を用いて膜モジュールを製造する際、膜同士の膜付きが生ずると、その製造工程で、膜同士を引きはがす作業が発生し、膜モジュールの製造効率が悪くなるだけでなく、引きはがす作業により、膜を傷つける結果、その性能を低下させるリスクがあることに本発明者は初めて気がついた。特に多孔質膜が中空糸膜である場合には、多孔質中空糸膜を束化して行う多孔質中空糸膜のコーティングによる親水化後に、多孔質中空糸膜同士が固着する膜付きが生じ、その問題が顕著になることを見出した。このように本発明者は、多孔質膜について従来知られていなかった親水化後の膜付きの発生を低減するという新規な課題を見出し、当該課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示すような特定の構成をとることにより、膜付きが低減された多孔質膜を取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明としては、以下が挙げられる。
〔1〕疎水性高分子と親水性高分子を含む多孔質膜であって、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により前記多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが、1.0≦Tである、前記多孔質膜。
〔2〕前記疎水性高分子由来のイオンがC6H4O(m/z=92)である、前記〔1〕に記載の多孔質膜。
〔3〕前記親水性高分子由来のイオンがC4H5O2(m/z=85)である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の多孔質膜。
〔4〕前記親水性高分子が非水溶性の親水性高分子である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔5〕前記親水性高分子が電気的に中性である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔6〕記親水性高分子がメタクリレート系高分子である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔7〕前記メタクリレート系高分子がポリヒドロキシエチルメタクリレートである、前記〔6〕に記載の多孔質膜。
〔8〕前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔9〕前記ポリスルホン系高分子がポリエーテルスルホンである、前記〔8〕に記載の多孔質膜。
〔10〕バブルポイントが1.4~2.0MPaである、前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔11〕純水の透水量が150~500L/hr・m2・barである、前記〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔12〕ウイルス除去用の、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔13〕ウイルスの対数除去率(LRV)が4以上である、前記〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔14〕前記親水性高分子が、前記疎水性高分子を含む基材膜にコーティングされている、前記〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔15〕前記親水性高分子の含量が、前記疎水性高分子に対し5~20重量%である、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔16〕疎水性高分子と親水性高分子を含む多孔質膜の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程。
〔17〕疎水性高分子を含む基材膜を親水化した後の膜付きを低減する方法であって、以下の工程を含む方法:
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程。
〔18〕前記調節工程が、前記親水化された多孔質膜を洗浄及び/又は高圧熱水処理することを含む、前記〔16〕又は〔17〕に記載の方法。
〔19〕前記親水化工程が、前記基材膜を束化して親水化処理を行う工程を含む、前記〔16〕~〔18〕のいずれか1項に記載の方法。
〔20〕少なくとも膜の濾過下流部位に緻密層を有し、
細孔の平均孔径が濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有し、及び
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5~12.0である、前記〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔21〕前記緻密層における10nm以下の孔の存在割合が8.0%以下である、前記〔20〕に記載の多孔質膜。
〔22〕前記緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径の値が0.85以下である、前記〔20〕又は〔21〕のに記載の多孔質膜。
〔23〕前記緻密層における10nm超20nm以下の孔の存在割合が20.0%以上35.0%以下である、前記〔20〕~〔22〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔24〕前記緻密層における空隙率が30.0%以上45.0%以下である、前記〔20〕~〔23〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
〔25〕前記緻密層の厚みが1~8μmである、前記〔20〕~〔24〕のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔質膜の製造時の膜付きが低減された多孔質膜が提供される。これにより、膜モジュールを効率的に製造できるだけでなく、多孔質膜の性能の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と言うことがある)について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法等を例示するものであって、これらの例示に限定されるものではない。
【0014】
<多孔質膜>
一つの実施形態において、多孔質膜は、疎水性高分子と親水性高分子を含有し、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により前記多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが、1.0≦Tである。
【0015】
一つの実施形態において、多孔質膜としては、多孔質膜の上記平均値Tを適宜の値に設定することにより膜付きが改善される多孔質膜であれば特に限定されないが、平膜又は中空糸膜が例示される。膜付きの改善度合いの観点からは中空糸膜が好ましい。中空糸膜の場合、膜の表面としては内表面と外表面を有するが、外表面の平均値Tが1.0≦Tを満たしていればよい。平膜の場合、2つある表面のうちいずれか一方の表面における平均値Tが本発明の値を示せばよいが、平膜の2つの表面がいずれも本発明の値を示すことが好ましい。
【0016】
本実施形態の多孔質膜では、製造時の膜付きが低減される。これにより、膜モジュールを効率的に製造できるだけでなく、多孔質膜の性能の低下を防ぐことができる。また、一つの実施形態において、多孔質膜では、濾過中のタンパク質の吸着による経時的なFlux低下が抑制される。更に、一つの実施形態において、多孔質膜は、高いウイルス除去性能を有する。
【0017】
本実施形態の多孔質膜は、疎水性高分子と親水性高分子を含有する。疎水性高分子と親水性高分子を含有する多孔質膜であれば特に限定されないが、疎水性高分子と親水性高分子とがブレンドされて製膜されてもよく、当該ブレンド製膜された膜(ブレンド膜)がさらに親水性高分子で被覆されてもよい。また、疎水性高分子からなる基材膜が、例えばコーティングやグラフトにより親水性高分子で親水化された膜も多孔質膜に含まれる。
【0018】
本明細書において、疎水性高分子とは、高分子のフィルム上にPBS(日水製薬社から市販されているダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」9.6gを水に溶解させ全量を1Lとしたもの)を接触させたときの接触角が90度を超える当該高分子を意味する。
【0019】
一つの実施形態において、疎水性高分子としては、疎水性の高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリケトン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、又はポリスルホン系高分子が挙げられる。高い製膜性、膜構造制御の観点から、ポリスルホン系高分子が好ましい。
疎水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0020】
ポリスルホン系高分子とは、下記式1で示される繰り返し単位を有するポリスルホン(PSf)又は下記式2で示される繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン(PES)が例示され、製膜性の観点からはポリエーテルスルホンが好ましい。
【0021】
【0022】
【0023】
ポリスルホン系高分子としては、式1や式2の構造において、官能基やアルキル基等の置換基を含んでもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲン等の他の原子や置換基で置換されていてもよい。
ポリスルホン系高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0024】
一つの実施形態において、多孔質膜は、親水性高分子を含有する。
一つの実施形態において、タンパク質の吸着による膜の目詰まりによる濾過速度の急激な低下を防止する観点から、多孔質膜は、疎水性高分子を含有する基材膜の細孔表面に親水性高分子が存在することにより親水化されてもよい。前記基材膜は疎水性高分子を含有する、コーティング又はグラフト又は架橋の対象となる膜を意味する。前記基材膜は親水性高分子を含んでいてもよい。例えばブレンド膜が基材膜となる場合もある。
基材膜の親水化方法としては、疎水性高分子からなる基材膜製膜後の、コーティング、グラフト反応、又は架橋反応等が挙げられる。また、疎水性高分子と親水性高分子のブレンド製膜後に、コーティング、グラフト反応、架橋反応等により、ブレンド膜が親水性高分子で被覆されてもよい。
【0025】
本明細書において、親水性高分子とは、高分子のフィルム上にPBS(日水製薬社から市販されているダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」9.6gを水に溶解させ全量を1Lとしたもの)を接触させたときの接触角が90度以下になる当該高分子を意味する。
前記接触角は60度以下が好ましく、40度以下がより好ましい。接触角が60度以下の親水性高分子を含有する場合には、多孔質膜が水に濡れ易く、接触角が40度以下の親水性高分子を含有する場合には、水に濡れ易くなる傾向が一層顕著である。
接触角とは、前記フィルム表面に水滴を落とした時に、前記フィルムと水滴表面がなす角度を意味し、JIS R3257で定義される。
【0026】
一つの実施形態において、親水性高分子としては、非水溶性の親水性高分子が例示される。非水溶性とは、有効膜面積3cm2になるように組み立てられた膜モジュールを、2.0barの定圧デッドエンド濾過により、25℃の純水を100mL濾過した場合に、溶出率が0.1%以下であることを意味する。
溶出率は、以下の方法により算出する。
25℃の純水を100mL濾過して得られた濾液を回収し、濃縮する。得られた濃縮液を用い、全有機炭素計TOC-L(島津製作所社製)にて、炭素量を測定して、膜からの溶出率を算出する。
【0027】
本明細書において、非水溶性の親水性高分子とは、上記接触角と溶出率を満たす物質である。非水溶性の親水性高分子には、物質自体が非水溶性である親水性高分子に加え、水溶性の親水性高分子であっても、製造工程で非水溶化された親水性高分子も含まれる。すなわち、水溶性の親水性高分子であっても、上記接触角を満たす物質であって、製造工程で非水溶化されることで、膜モジュールを組み立てた後の定圧デッドエンド濾過において、上記溶出率を満たすのであれば、本実施形態における非水溶性の親水性高分子に含まれる。水溶性の親水性高分子を、膜の製造過程で非水溶化した非水溶性の親水性高分子としては、例えば、疎水性高分子の基材膜に、側鎖にアジド基を有するモノマーと2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーを共重合させた水溶性の親水性高分子をコーティングした後、熱処理をすることにより、基材膜に水溶性の親水性高分子を共有結合させることで、水溶性の親水性高分子を非水溶化したものであってもよい。また、疎水性高分子の基材膜に対して、2-ヒドロキシアルキルアクリレート等の親水性モノマーをグラフト重合させてもよい。
【0028】
親水性高分子は、溶質であるタンパク質の吸着を防ぐ観点で、電気的に中性であることが好ましい。
本実施形態においては、電気的に中性とは、分子内に荷電を有さない、又は、分子内のカチオンとアニオンが等量であることをいう。
【0029】
親水性高分子としては、例えば、ビニル系ポリマーが挙げられる。
ビニル系ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等のホモポリマー;スチレン、エチレン、プロピレン、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート等の疎水性モノマーと、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーのランダム共重合体、グラフト型共重合体及びブロック型共重合体等が挙げられ、好ましくはメタクリレート系高分子であり、より好ましくはポリヒドロキシエチルメタクリレートである。
また、ビニル系ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ホスホオキシエチルメタクリレート等のアニオン性モノマーと、上記疎水性モノマーとの共重合体等が挙げられ、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーを電気的に中性となるように等量含有するポリマーであってもよい。
【0030】
親水性高分子としては、多糖類であるセルロース等や、その誘導体であるセルローストリアセテート等も例示される。また、多糖類又はその誘導体として、ヒドロキシアルキルセルロース等が架橋処理されたものも含まれる。
【0031】
親水性高分子としては、ポリエチレングリコール及びその誘導体であってもよく、エチレングリコールと上記疎水性モノマーとのブロック共重合体や、エチレングリコールと、プロピレングリコール、エチルベンジルグリコール等とのランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。また、ポリエチレングリコール及び上記共重合体の片末端又は両末端が疎水基で置換され、非水溶化されていてもよい。
ポリエチレングリコールの片末端又は両末端が疎水基で置換された化合物としては、α,ω-ジベンジルポリエチレングリコール、α,ω-ジドデシルポリエチレングリコール等が挙げられ、また、ポリエチレングリコールと分子内の両末端にハロゲン基を有するジクロロジフェニルスルホン等の疎水性モノマーとの共重合体等であってもよい。
【0032】
親水性高分子としては、縮合重合により得られる、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等の主鎖中の水素原子が親水基に置換され、親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等も例示される。親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等としては、主鎖中の水素原子が、アニオン基、カチオン基で置換されていてもよく、アニオン基、カチオン基が等量のものでもよい。
【0033】
親水性高分子としては、ビスフェノールA型、ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基が開環されたものや、エポキシ基にビニルポリマーやポリエチレングリコール等が導入されたものでもよい。
また、シランカップリングされたものでもよい。
親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0034】
親水性高分子としては、製造のしやすさの観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレートの疎水性モノマーとのランダム共重合体が好ましく、親水性高分子をコートするときのコート液の溶媒の選択のしやすさ、コート液中での分散性及び操作性の観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート等の疎水性モノマーとのランダム共重合体がより好ましい。
【0035】
親水性高分子の含量としては、多孔質膜の製造時の膜付きが発生しなければ特に限定されないが、透水性能又はウイルス除去性能の観点から、疎水性高分子に対し、下限値として5重量%以上が例示され、別の態様として6重量%以上が例示され、別の態様として7重量%以上が例示され、さらに別の態様として8重量%以上が例示され、さらに別の態様として9重量%以上が例示され、さらに別の態様として10重量%以上が例示される。また、疎水性高分子に対し、上限値として20重量%以下例示され、別の態様として19重量%以下が例示され、さらに別の態様として18重量%以下が例示され、さらに別の態様として17重量%以下が例示され、さらに別の態様として16重量%以下が例示され、さらに別の態様として15重量%以下が例示され、さらに別の態様として14重量%以下が例示される。コーティングにより親水化された多孔質膜における、疎水性高分子に対する親水性高分子の割合(=親水性高分子の重量/疎水性高分子の重量×100)をコート率と呼ぶことがある。なお、コート率の計算式における「親水性高分子の重量」とは、基材膜にコートされた親水性高分子の重量であって、疎水性高分子と親水性高分子とのブレンド製膜時に基材膜に組み込まれた親水性高分子の重量は含まれない。
【0036】
本実施形態の多孔質膜、あるいは、本実施形態における基材膜は、親水性高分子と疎水性高分子がブレンド製膜されたものであってもよい。
ブレンド製膜に用いられる親水性高分子は良溶媒に疎水性高分子と相溶するものであれば、特に限定されないが、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン又はビニルピロリドンを含有する共重合体が好ましい。
ポリビニルピロリドンとしては、具体的には、BASF社より市販されているLUVITEC(商品名)K60、K80、K85、K90等が挙げられ、LUVITEC(商品名)K80、K85、K90が好ましい。
ビニルピロリドンを含有する共重合体としては、疎水性高分子との相溶性や、タンパク質の膜表面への相互作用の抑制の観点で、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合比は、タンパク質の膜表面への吸着やポリスルホン系高分子との膜中での相互作用の観点から、6:4から9:1が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体としては、具体的には、BASF社より市販されているLUVISKOL(商品名)VA64、VA73等が挙げられる。
親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
一つの実施形態において、濾過中の膜からの異物の溶出を抑制するという観点から、ブレンド製膜時に水溶性の親水性高分子を使用した場合は、ブレンド製膜後、熱水で洗浄することが好ましい。洗浄により、疎水高分子との絡み合いが不十分である親水性高分子が膜中から除去され、濾過中の溶出が抑制される。
熱水での洗浄として、高圧熱水処理、コート後の温水処理を行ってもよい。
【0038】
一つの実施形態において、多孔質膜は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により膜の表面を測定した場合の疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tであることが例示される。
【0039】
平均値Tが1.0以上であると、膜付きが低減される。膜付きが低減されるメカニズムとしては、例えば、疎水性高分子がポリスルホン系高分子で親水性高分子がメタクリレート系高分子である場合、平均値Tが1.0以上であると平均値Tが1.0未満の場合と比較して、多くのメタクリレート系高分子の水酸基が膜のより表面側に配置された状態になっており、当該表面側を向いた水酸基に空気中の水分子が結合し、表面に水分子の層が形成されることで膜同士の固着又はポリマー同士の絡みが回避されていることが例として挙げられる。
【0040】
平均値Tは、「イオンのカウント数の比の測定」として実施例に記載の方法により測定される。
カウントする疎水性高分子由来のイオンとして、当該疎水性高分子を最もよく表すイオンを選択し、これを検出イオンとしてスペクトルを検出する。例えば、ポリエーテルスルホンの場合は、C6H4O(m/z=92)を、PVDFの場合は、C3F(m/z=55)やC4F(m/z=67)を検出イオンとして使用することができる。着目するイオンの選択の基準としては、膜を構成する他の成分と重ならないイオンであること、物質の特徴を反映しているイオンであること、が挙げられる。
カウントする親水性高分子由来のイオンとして、当該親水性高分子を最もよく表すイオンを選択し、これを検出イオンとして検出する。例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの場合は、C4H5O2(m/z=85)を、ポリビニルピロリドンの場合は、C4H6NO(m/z=84)を、ポリビニル酢酸の場合はC2H3O2(m/z=59)を検出イオンとして使用することができる。
【0041】
一つの実施形態において、平均値Tは、膜製造時の膜付きが低減されるような値であれば特に限定されないが、上限として7.0以下が例示され、6.0以下が例示され、5.0以下が例示され、4.0以下が例示され、3.0以下が例示され、2.0以下が例示され、下限として1.0以上が例示され、1.5以上が例示され、2.0以上が例示され、2.5以上が例示される。
【0042】
一つの実施形態において、多孔質膜は、製造時の膜付きが低減されている。特に多孔質膜の親水化処理後の膜付きが低減されている。膜付き低減の度合いとしては特に限定されないが、例えば膜モジュール製造時に、膜を引きはがす工程が不要な程度に膜付きが低減されていれば特に限定されない。例えば、束化して親水化した膜束中から、膜束を構成する膜の4%を抵抗なく採取可能な場合には、膜付きが低減されていると判断することができる。
【0043】
一つの実施形態において、多孔質膜は傾斜型非対構造を有する。傾斜型非対称構造とは、細孔の平均孔径が膜の濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる構造であるが、膜厚方向において、濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる全体的な傾向を有していればよく、構造ムラや測定誤差に起因する平均孔径の局所的な多少の逆転があってもよい。緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数としては0.5~12.0である。
【0044】
本明細書において、多孔質膜の内表面側に通液する場合、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位となる。
【0045】
本明細書において、多孔質膜において、平均孔径が50nm以下の視野を緻密層と定義し、平均孔径が50nm超の視野を粗大層と定義する。
【0046】
本明細書において、多孔質膜の緻密層と粗大層は、膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影することで決定される。例えば、撮影倍率を50,000倍に設定し、膜断面の任意の部位において膜厚方向に対して水平に視野を設定する。設定した一視野での撮像後、膜厚方向に対して水平に撮像視野を移動し、次の視野を撮像する。この撮影操作を繰り返し、隙間なく膜断面の写真を撮影し、得られた写真を結合することで一枚の膜断面写真を得る。この断面写真において、(膜厚方向に対して垂直方向に2μm)×(膜厚方向の濾過下流面から濾過上流面側に向かつて1μm)の範囲における平均孔径を濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm毎に算出する。
【0047】
本明細書において、平均孔径の算出方法は、画像解析を用いた方法で算出する。具体的には、Media Cybernetics社製Image-pro plusを用いて空孔部と実部の二値化処理を行う。明度を基準に空孔部と実部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正する。空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別する。二値化処理の後、空孔/ 1個の面積値を真円と仮定し、孔径を算出する。全ての孔毎に実施し、1μm×2μmの範囲毎に平均孔径を算出していく。なお、視野の端部で途切れた空孔部についてもカウン卜することとする。
【0048】
本明細書において、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数とは、緻密層と定義された第1の視野とこれに隣接する粗大層と定義された第2の視野に基づいて算出される。平均孔径が50nm以下の緻密層と定義された視野から平均孔径が50nm超の粗大層と定義された視野に移行する箇所が出現する。この隣接した緻密層と粗大層の視野を用いて傾斜指数を算出する。具体的には、下記式により、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数を算出することができる。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数(nm/μm)=(粗大層(第2の視野)の平均孔径(nm)一緻密層(第1の視野)の平均孔径(nm))/1(μm)
【0049】
一つの実施形態において、多孔質膜は緻密層と粗大層を有する。一つの実施形態において、多孔質膜は、緻密層に対して濾過上流面側に粗大層を有しており、緻密層と粗大層とは隣接している。
【0050】
一つの実施形態において、多孔質膜は、内表面部位に粗大層を有し、外表面部位に緻密層を有する。この時、内表面部位が濾過上流部位であり、外表面部位が濾過下流部位である。
【0051】
一つの実施形態において、緻密層は、少なくとも濾過下流部位に存在すれば特に限定されない。例えば、濾過下流部位に緻密層の始点があり、濾過下流部位を濾過上流面側に超えた位置に緻密層の終点があっても良い。
【0052】
一つの実施形態において、緻密層の厚みとしては、ウイルスを除去できる厚みであれば特に限定されないが、1~10μmが例示され、別の態様として1~8μmが例示され、別の態様として2~8μmが例示される。
【0053】
一つの実施形態において、多孔質膜は、緻密層における10nm以下の細孔の存在割合(%)が8.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。
緻密層における10nm以下の細孔の存在割合(%)は、上記SEM画像の解析から、下記式で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した一視野における孔径が10nm以下の細孔の総数/同視野における細孔の総数)× 100
【0054】
一つの実施形態において、多孔質膜は、緻密層における10nm超20nm以下の細孔の存在割合(%)が20.0%以上35.0%以下であることが好ましい。
緻密層における10nm超20nm以下の細孔の存在割合(%)は、上記SEM画像の解析から、下記式で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した-視野における孔径が10nm超20nm以下の細孔の総数/同視野における細孔の総数)× 100
【0055】
一つの実施形態において、多孔質膜は、緻密層における空隙率(%)が30.0%以上45.0%以下であることが好ましい。
緻密層における空隙率(%)は、上記SEM画像の解析から、下記で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した一視野における孔の総面積/同視野の面積)×100
【0056】
ウイルス除去性能を保持しつつ、高効率なタンパク質回収を実現させるためには、緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径が小さいことも重要である。緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径が小さい場合、過度に大きな孔と過度に小さな孔の存在量が少ないことを意味する。本発明者らの検討により、ウイルス除去性能を保持しつつ、タンパク質単量体が緻密層で孔を閉塞させることを抑制し、高効率なタンパク質回収を実現させるためには、緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径は0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましい。
【0057】
一つの実施形態において、多孔質膜は、タンパク質溶液を濾過するために使用することができる。具体的には、例えばタンパク質溶液中に含まれるウイルスを、濾過することにより除去することができる。その場合、純水の透水量はタンパク質溶液の濾過速度Fluxの目安となる。タンパク質溶液は純水に比べ溶液の粘度が高くなるため、純水の透水量よりも低くなるが、純水の透水量が高いほど、タンパク質溶液の濾過速度は高くなる。そこで、一つの実施形態において、多孔質膜は、純水の透水量を高くすることによって、より高効率なタンパク質の回収を実現させられ得るタンパク質処理用膜とすることができる。
【0058】
ウイルス除去膜におけるウイルス除去機構は次のように考えられている。ウイルスを含んだ溶液は透過方向に対して垂直なウイルス捕捉面が何層も重なったウイルス除去層を透過する。この面の中の孔の大きさには必ず分布が存在し、ウイルスのサイズよりも小さな孔の部分でウイルスが捕捉される。この時、一つの面でのウイルス捕捉率は低いが、この面が何層も重なることにより、高いウイルス除去性能が実現される。例えば、一つの面でのウイルス捕捉率が20%であっても、この面が50層重なることにより、全体としてのウイルス捕捉率は99.999%となる。平均孔径が50nm以下の領域において、多数のウイルスが捕捉される。
【0059】
一つの実施形態において、タンパク質処理用膜の純水の透水量は150~500L/hr・m2・barが好ましい。
純水の透水量が、150L/hr・m2・bar以上であることにより、高効率なタンパク質の回収を実現することができる。また、純水の透水量は500L/hr・m2・bar以下であることにより、持続的なウイルス除去性能を発揮させることができる。
【0060】
本明細書において、純水の透水量は、「透水量測定」として実施例に記載の方法により測定される。
【0061】
一つの実施形態において、多孔質膜が親水性高分子により親水化された疎水性高分子から構成されることは、上述の方法により、実現することができる。
【0062】
本実施形態において、バブルポイント(BP)は、ハイドロフルオロエーテルに含浸させた膜の濾過上流面から空気で圧力をかけていった時に、濾過下流面側から気泡が発生するときの圧力を意味する。溶媒を含浸した膜に空気を透過させる際、小さい径の孔ほど高い印加圧で透過する。空気が最初に透過した時の圧力を評価することで、膜の最大孔径を評価することができる。
バブルポイントと最大孔径の関係を以下に示す。
DBP=4γ・cosθ/BP
ここでDBPは最大孔径を、γは溶媒の表面張力(N/m)を、cosθは溶媒と膜の接触角(-)を、BPはバブルポイント(MPa)を示す。
【0063】
多孔質膜のパルボウイルスクリアランスは、ウイルス除去膜として用いる場合には、LRVとして4以上が好ましく、5以上であることがより好ましい。パルボウイルスとして、実際の精製工程中に混入するウイルスに近似しているもの、操作の簡便性からブタパルボウイルス(PPV)であることが好ましい。
膜の最大孔径はLRVと相関があり、バブルポイントが高いほど、ウイルス除去性能が高くなるが、有用成分であるタンパク質の透過性を維持しつつ、ウイルス除去性能を発揮するためには、また、純水の透水量を制御する観点から、バブルポイントが1.40~2.00MPaであることが好ましく、1.40~1.80MPaであることがより好ましく、1.50~1.80MPaがさらに好ましく、1.60~1.80MPaがさらに好ましい。
本実施形態において、バブルポイントは、「バブルポイント測定」として実施例に記載の方法により測定される。
【0064】
パルボウイルスクリアランスは、「ブタパルボウイルスクリアランス測定」として実施例に記載の方法により測定される。
【0065】
<多孔質膜の製造方法及び膜付きの低減方法>
一つの実施形態は、疎水性高分子と親水性高分子を含む多孔質膜の製造方法であって、以下の工程:
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程;
を含む方法に関する。
【0066】
一つの実施形態は、疎水性高分子を含む基材膜を親水化した後の膜付きを低減する方法であって、以下の工程:
疎水性高分子を含む基材膜を、親水性高分子で親水化して、親水化された多孔質膜を得る親水化工程;及び
親水化された多孔質膜を、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により多孔質膜の表面を測定した場合の、前記疎水性高分子由来のイオンのカウント数に対する前記親水性高分子由来のイオンのカウント数の比の平均値Tが1.0≦Tとなるように、
処理する調節工程;
を含む方法に関する。
【0067】
一つの実施形態において、前記親水化工程は、下記で説明する、基材膜のコート工程である。一つの実施形態において、前記調節工程は、下記で説明する、コートされた基材膜に対する洗浄工程及び/又は高圧熱水処理工程である。洗浄工程及び高圧熱水処理工程は、いずれか一方のみを実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0068】
以下、多孔質膜の製造方法及び膜付きの低減方法の具体例について説明する。
【0069】
一つの実施形態において、多孔質膜は、特に限定されるものではないが、例えば以下のようにして製造することができ、同時に、膜付きを低減することもできる。疎水性高分子として、ポリスルホン系高分子を用いた場合を例にして以下説明する。
【0070】
例えば、中空糸膜の場合は、ポリスルホン系高分子、溶媒、非溶媒を混合溶解し、脱泡したものを製膜原液とし、芯液とともに二重管ノズル(紡口)の環状部、中心部から同時に吐出し、空走部を経て凝固浴に導いて膜を形成する。得られた膜を、水洗後巻取り、中空部内液抜き、熱処理、乾燥させる。その後、親水化処理させる。
また、平膜の場合は、例えば、ポリスルホン系高分子、溶媒、非溶媒を混合溶解し、脱泡したものを製膜原液とし、当業界では公知の典型的なプロセスによって製膜される。一つの典型的なプロセスにおいては、製膜原液を支持体上にキャストし、キャストした膜を非溶媒に導入し、相分離を起こさせる。次いでその膜を、そのポリマーに対して非溶媒であるもの(例えば水、アルコール、またはそれらの混合物)の中に入れ、溶媒を除去し、膜を乾燥させることで、多孔質膜を得ることができる。その後、得られた膜を親水化処理する。
【0071】
製膜原液に使用される溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド、ε-カプロラクタム等、ポリスルホン系高分子の良溶媒であれば、広く使用することができるが、NMP、DMF、DMAc等のアミド系溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0072】
製膜原液には非溶媒を添加するのが好ましい。製膜原液に使用される非溶媒としては、グリセリン、水、ジオール化合物等が挙げられ、ジオール化合物が好ましい。
ジオール化合物とは、分子の両末端に水酸基を有する化合物であり、ジオール化合物としては、下記式3で表され、繰り返し単位nが1以上のエチレングリコール構造を有する化合物が好ましい。
ジオール化合物としては、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TriEG)、テトラエチレングリコール(TetraEG)、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられ、DEG、TriEG、TetraEGが好ましく、TriEGがより好ましい。
【0073】
【0074】
詳細な機構は不明であるが、製膜原液中に非溶媒を添加することにより、製膜原液の粘度が上がり、凝固液中での溶媒、非溶媒の拡散速度を抑制させることにより、凝固を制御し、多孔質膜として好ましい構造制御をしやすくなり、所望の構造形成に好適である。
製膜原液中の溶媒/非溶媒の比は、質量比で20/80~80/20が好ましい。
【0075】
製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は、膜強度や透過性能の観点で、15~35質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。
【0076】
製膜原液は、ポリスルホン系高分子、良溶媒、非溶媒を一定温度で、撹拌しながら溶解することで得られる。3級以下の窒素を含有する化合物(NMP、DMF、DMAc)は空気中で酸化され、加温するとさらに酸化が進行しやすくなるため、溶解するときの温度は80℃以下が好ましい。また、製膜原液の調製は不活性気体雰囲気下もしくは真空下で行うことが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴン等が挙げられ、生産コストの観点から、窒素が好ましい。
【0077】
製膜後の欠陥の形成抑制の観点や、中空糸膜の場合は、紡糸中の糸切れ防止の観点で、製膜原液を脱泡することが好ましい。
脱泡工程は、以下のようにして行うことができる。完全に溶解された製膜原液が入ったタンク内を2kPaまで減圧し、1時間以上静置する。この操作を7回以上繰り返す。脱泡効率をあげるため、脱泡中に溶液を撹拌してもよい。
【0078】
(中空糸膜の製造方法)
前述の製膜原液を用いて、以下の工程を経て、中空糸膜を製膜する。
【0079】
製膜原液は、紡口から吐出される前までに、異物を除去することが好ましい。異物を除去することにより、紡糸中の糸切れ防止や、膜の構造制御を行うことができる。製膜原液タンクのパッキン等からの異物の混入を防ぐためにも、製膜原液が紡口から吐出される前に、フィルターを設置することが好ましい。孔径違いのフィルターを多段で設置してもよく、特に限定されるものではないが、例えば、製膜原液タンクに近い方から、順に孔径30μmのメッシュフィルター、孔径10μmのメッシュフィルターを設置することが好適である。
【0080】
製膜時に使用される芯液の組成は、製膜原液、凝固液に使用される良溶媒と同じ成分を使用することが好ましい。
例えば、製膜原液の溶媒としてNMP、凝固液の良溶媒/非溶媒としてNMP/水を使用したならば、芯液はNMPと水から構成されることが好ましい。
芯液中の溶媒の量が多くなると、凝固の進行を遅らせ、膜構造形成をゆっくりと進行させる効果があり、水が多くなると、凝固の進行を早める効果がある。凝固の進行を適切に進行させ、膜構造を制御して多孔質中空糸膜の好ましい膜構造を得るためには、芯液中の良溶媒/水の比率を質量比で60/40~80/20にすることが好ましい。
【0081】
紡口温度は、適当な孔径とするために、25~50℃が好ましい。
製膜原液は紡口から吐出された後、空走部を経て、凝固浴に導入される。空走部の滞留時間は0.02~1.0秒が好ましい。滞留時間を0.02秒以上とすることにより、凝固浴導入までの凝固を十分にし、適切な孔径とすることができる。滞留時間を1秒以下とすることにより、凝固が過度に進行するのを防止し、凝固浴での精密な膜構造制御を可能にすることができる。
【0082】
また、空走部は密閉されていることが好ましい。詳細な機構は不明であるが、空走部を密閉することにより、空走部に水及び良溶媒の蒸気雰囲気が形成され、製膜原液が凝固浴に導入される前に、緩やかに相分離が進行するため、過度に小さな孔の形成が抑制され、孔径のCV値も小さくなると考えられる。
【0083】
紡糸速度は、欠陥のない膜が得られる条件であれば特に制限されないが、凝固浴中での膜と凝固浴の液交換をゆるやかにし、膜構造制御を行うためには、できるだけ遅い方が好ましい。従って、生産性や溶媒交換の観点から、好ましくは4~15m/minである。
【0084】
ドラフト比とは引取り速度と紡口からの製膜原液吐出線速度との比である。ドラフト比が高いとは、紡口から吐出されてからの延伸比が高いことを意味する。
一般的に、湿式相分離法で製膜されるとき、製膜原液が空走部を経て、凝固浴を出たときに、大方の膜構造が決定される。膜内部は、高分子鎖が絡み合うことにより形成される実部と高分子が存在しない空孔部から構成される。詳細な機構は不明であるが、凝固が完了する前に膜が過度に延伸されると、言い換えると、高分子鎖が絡み合う前に過度に延伸されると、高分子鎖の絡み合いが引き裂かれ、空孔部が連結されることにより、過度に大きな孔が形成されたり、空孔部が分割されることにより、過度に小さな孔が形成される。過度に大きな孔はウイルス漏れの原因となり、過度に小さな孔は目詰まりの原因となる。
構造制御の観点で、ドラフト比は極力小さくすることが好ましいが、ドラフト比は1.1~6が好ましく、1.1~4がより好ましい。
【0085】
製膜原液はフィルター、紡口を通り、空走部で適度に凝固された後、凝固液に導入される。詳細な機構は不明であるが、紡糸速度を遅くすることにより、膜外表面と凝固液の界面に形成される境膜が厚くなり、この界面での液交換が緩やかに行われることにより、紡糸速度が早い時に比べ、凝固が緩やかに進行するため、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜も緩やかになると考えられる。
良溶媒は凝固を遅らせる効果があり、水は凝固を早める効果があるため、凝固を適切な速さで進め、適当な緻密層の厚みとし、好ましい孔径の膜を得るため、凝固液組成として、良溶媒/水の比は、質量比で50/50~5/95が好ましい。
凝固浴温度は、孔径制御の観点で、10~40℃が好ましい。
【0086】
凝固浴から引き上げられた膜は、温水で洗浄される。
水洗工程では、良溶媒と非溶媒を確実に除去することが好ましい。膜が溶媒を含んだまま乾燥されると、乾燥中に膜内で溶媒が濃縮され、ポリスルホン系高分子が溶解又は膨潤することにより、膜構造を変化させる可能性がある。
除去すべき溶媒、非溶媒の拡散速度を高め、水洗効率を上げるため、温水の温度は50℃以上が好ましい。
十分に水洗を行うため、膜の水洗浴中の滞留時間は10~300秒が好ましい。
【0087】
水洗浴から引き上げられた膜は、巻取り機でカセに巻き取られる。この時、膜を空気中で巻き取ると、膜は徐々に乾燥していき、わずかであるが、膜は収縮する場合がある。同一の膜構造として、均一な膜とするために、膜は水中で巻き取られることが好ましい。
【0088】
カセに巻き取られた膜は、両端部を切断し、束にし、弛まないように支持体に把持される。そして、把持された膜は、粒子除去工程において、通液洗浄される。
カセに巻き取られた状態の膜の中空部には、白濁した液が残存している。この液中には、ナノメートルからマイクロメートルサイズのポリスルホン系高分子の粒子が浮遊している。この白濁液を除去せず、膜を乾燥させると、この微粒子が膜の孔を塞ぎ、膜性能が低下することがあるため、粒子除去工程において、中空部内液を除去することが好ましい。
水浸漬工程では、膜中に含まれる良溶媒、非溶媒が拡散により除去される。
水浸漬工程における、水の温度は10~30℃が好ましく、浸漬時間は、30~120分が好ましい。
浸漬する水は数回、交換することが好ましい。
【0089】
巻き取られた膜は高圧熱水処理をすることが好ましい。具体的には、膜を完全に水に浸漬させた状態で、高圧蒸気滅菌機に入れ、120℃以上で2~6時間処理するのが好ましい。詳細な機構は不明であるが、高圧熱水処理により、膜中に微残存する溶媒、非溶媒が完全に除去されるだけでなく、緻密層領域でのポリスルホン系高分子の絡み合い、存在状態が最適化される。
【0090】
高圧熱水処理された膜を乾燥させることによりポリスルホン系高分子からなる基材膜が完成する。乾燥方法は風乾、減圧乾燥、熱風乾燥等、特に制限されないが、乾燥中に膜が収縮しないように、膜の両端が固定された状態で、乾燥されることが好ましい。
【0091】
一つの実施形態において、基材膜はコート工程を経て多孔質中空糸膜となる。
例えば、コーティングにより親水化処理させる場合には、コート工程は、基材膜のコート液への浸漬工程、浸漬された基材膜から余剰なコート液を脱液するための脱液工程、脱液された基材膜の乾燥工程からなる。また、乾燥工程前後に膜を洗浄する工程を設けてもよい。
浸漬工程において、基材膜は束の状態で親水性高分子溶液に浸漬される。コート液の溶媒は親水性高分子の良溶媒であり、ポリスルホン系高分子の貧溶媒であれば特に制限されないが、アルコールが好ましい。
コート液中の親水性高分子の濃度は、親水性高分子によって基材膜の孔表面を十分に被覆させ、濾過中のタンパク質の吸着による経時的なFlux低下を抑制する観点から下限値としては0.5質量%以上が好ましく、上限値としては膜付きが低減されていれば特に限定はされないが、20.0質量%以下が好ましく、適切な厚さで被覆させ、孔径が小さくなりすぎて、Fluxが低下することを防ぐ観点から、10.0質量%以下が好ましい。
コート液への基材膜の浸漬時間は1~72時間が例示され、1~24時間が好ましい。
【0092】
所定時間、コート液に浸漬された基材膜は、脱液工程において、膜の中空部及び外周に付着している余分なコート液が脱液される。脱液方法は遠心分離法、吸引脱液法などの脱液方法であればよく、残存するコート液を効率よく除去するためには、遠心操作時の遠心力を10G以上、遠心操作時間を10min以上とすることが好ましく、遠心分離以外の方法の場合は、前述の遠心分離法と同程度の除去効率が得られる脱液条件とすることが好ましい。
【0093】
脱液工程では除去できなかったコート液を除去するために、脱液工程後に洗浄工程を加えてもよい。洗浄工程を実施することによって、平均値Tを調節することができ、具体的には、平均値Tを大きくすることができる。
【0094】
洗浄液はポリスルホン系高分子の貧溶媒であれば特に限定されないが、アルコール水溶液が好ましく、メタノール水溶液がより好ましい。水溶液のアルコール濃度は、膜に付着している親水性高分子の剥離の観点から、0~25%が好ましい。
洗浄工程の時間は、所望の平均値Tに達するまで適宜調節すればよい。また、洗浄工程は、所望の平均値Tに達するまで複数回実施してもよい。
【0095】
洗浄液により洗浄された中空糸膜は、脱液工程において、膜の中空部及び外周に付着している余分な洗浄液が脱液される。脱液方法は遠心分離法、吸引脱液法などの脱液方法であればよく、残存する親水性高分子を効率よく除去するためには、遠心操作時の遠心力を10G以上、遠心操作時間を10min以上とすることが好ましく、遠心分離以外の方法の場合は、前述の遠心分離法と同程度の除去効率が得られる脱液条件とすることが好ましい。
【0096】
脱液された膜を乾燥させることにより、本実施形態の多孔質中空糸膜を得ることができる。乾燥方法は特に限定されないが、最も効率的であるため、真空乾燥が好ましい。
膜モジュールへの加工のしやすさから、多孔質中空糸膜の内径は200~400μmであることが好ましく、膜厚は、上限としては200μm以下が例示され、別の態様として150μm以下が例示され、さらに別の態様として100μm以下が例示され、さらに別の態様として80μm以下が例示され、下限としては、20μm以上が例示され、別の態様として30μm以上が例示され、さらに別の態様として40μm以上が例示され、さらに別の態様として50μm以上が例示される。
【0097】
乾燥された中空糸膜は、高圧熱水処理工程をすることが好ましい。高圧熱水処理工程を実施することによって、平均値Tを調節することができ、具体的には、平均値Tを大きくすることができる。
【0098】
高圧熱水処理工程の条件は、所望の平均値Tに達するように適宜調節すればよいが、例えば、膜を完全に水に浸漬させた状態で、高圧蒸気滅菌機に入れ、120℃以上で1時間以上処理することが好ましい。本高圧熱水処理工程は、基材膜コーティング後に行う高圧熱水処理工程であり、基材膜コーティング前の段階で行う120℃以上で2~6時間の高圧熱水処理工程とは明確に異なる工程である。高圧熱水処理工程は、所望の平均値Tに達するまで複数回実施してもよい。高圧熱水処理工程により、膜に塗布された親水性高分子中の低分子成分が除去され、膜からの溶出物を低減し、膜中の細孔を開孔することもできる。
【0099】
高圧熱水処理された膜を乾燥させることにより、本実施形態の多孔質中空糸膜を得ることができる。乾燥方法は特に限定されないが、最も効率的であるため、真空乾燥が好ましい。
【0100】
洗浄工程及び高圧熱水処理工程は、いずれか一方のみを実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0101】
(平膜の製造方法)
前述の製膜原液を用いて、以下の工程を経て、平膜を製膜する。
製膜原液は、支持体上に、当該技術分野で公知の様々なキャスト装置を用いてキャストすることができる。支持体は、製膜するうえで問題のない材料であれば、特に限定されるものではないが、一つの実施形態において、不織布が例示される。
【0102】
キャストされた膜は必要に応じて所定の長さの乾式部を通過させた後、凝固浴に導いて浸漬凝固させる。キャスト時の製膜原液温度は25℃以上50℃以下の範囲が例示される。多孔質膜の厚みは20μm以上100μm以下が例示される。
【0103】
支持体上にキャストされた製膜原液は凝固液体と接触し、凝固して多孔質膜を形成する。用いられる凝固液体は、非溶媒又は非溶媒と溶媒とを含む混合溶液を用いることができる。ここで非溶媒しては水を用いることが好ましく、溶媒としては原液作成時に使用する溶媒を用いることが好ましい。例えば、製膜原液の溶媒としてNMP、凝固液の良溶媒/非溶媒としてNMP/水を使用したならば、凝固液体はNMPと水から構成されることが好ましい。凝固液体における非溶媒は50重量%以上95重量%以下の範囲が例示される。また、凝固液体の温度は10℃以上40℃以下の範囲が例示される。
【0104】
前記凝固液体に接触させる形態としては、凝固液体と支持体にキャストされた製膜原液とが十分に接触して凝固が可能であるならば、特に限定されるものではなく、凝固液体が貯留された液槽形態であっても良いし、さらに必要により前記液槽は、温度や組成が調整された液体が循環もしくは更新されても良い。前記液槽形態が最も好適ではあるが、場合によっては、液体が管内を流動している形態であっても良いし、凝固液体をスプレーなどで噴射する形態であっても良い。
【0105】
凝固液体に接触した後の膜は、膜材料に対して非溶媒である液体に接触させることで溶媒を除去される。膜が溶媒を含んだまま乾燥されると、乾燥中に膜内で溶媒が濃縮され、ポリスルホン系高分子が溶解又は膨潤することにより、膜構造を変化させる可能性がある。
【0106】
使用する非溶媒としては水またはアルコールもしくはその混合液体があげられ、洗浄効率を上げるため、非溶媒の温度は50℃以上が例示される。
【0107】
十分に洗浄を行うため、膜の洗浄浴の滞留時間は10~300秒が例示される。
【0108】
洗浄された膜を乾燥させることによりポリスルホン系高分子からなる基材膜が完成する。乾燥方法は風乾、真空乾燥、熱風乾燥等、特に制限されない。
【0109】
一つの実施形態において、基材膜を束にし、親水性高分子が溶解した液体(コート液と呼ぶことがある)に接触させることで、基材膜に親水性が付与される。コート液に接触させる形態としては、基材膜が所望の親水性を付与されるのであれば、特に限定されるものではなく、コート液体が貯留された液槽形態であっても良いし、さらに必要により前記液槽は、温度や組成が調整された液体が循環もしくは更新されても良い。前記液槽形態が最も好適ではあるが、場合によっては、液体が管内を流動している形態であっても良い。
【0110】
コート液に接触した後の膜は、洗浄工程により洗浄されてもよい。洗浄工程を実施することによって、平均値Tを調節することができ、具体的には、平均値Tを大きくすることができる。
【0111】
洗浄液はポリスルホン系高分子の貧溶媒であれば特に限定されないが、アルコール水溶液が好ましく、メタノール水溶液がより好ましい。水溶液のアルコール濃度は、膜に付着している親水性高分子の剥離の観点から、0~25%が好ましい。
【0112】
洗浄工程の時間は、所望の平均値Tに達するまで適宜調節すればよい。また、洗浄工程は、所望の平均値Tに達するまで複数回実施してもよい。
【0113】
洗浄工程後の膜は、風乾、真空乾燥、熱風乾燥等により乾燥される。
【0114】
乾燥後の膜は高圧熱水処理工程をすることが好ましい。高圧熱水処理工程を実施することによって、平均値Tを調節することができ、具体的には、平均値Tを大きくすることができる。
高圧熱水処理工程の条件は、所望の平均値Tに達するように適宜調節すればよいが、例えば、膜を完全に水に浸漬させた状態で、高圧蒸気滅菌機に入れ、120℃以上で1時間以上処理することが好ましい。高圧熱水処理工程は、所望の平均値Tに達するまで複数回実施してもよい。高圧熱水処理工程により、膜に塗布された親水性高分子中の低分子成分が除去され、膜からの溶出物を低減し、膜中の細孔を開孔することもできる。
【0115】
洗浄工程及び高圧熱水処理工程は、いずれか一方のみを実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0116】
高圧熱水処理された膜を風乾、真空乾燥、熱風乾燥等の乾燥方法により乾燥させることにより、本実施形態の多孔質膜を得ることができる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例において示される試験方法は以下の通りである。
【0118】
(1)内径及び膜厚測定
多孔質中空糸膜の内径及び膜厚は、多孔質中空糸膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することにより求める。(外径-内径)/2を膜厚とする。
また、膜面積は内径と膜の有効長より算出する。
平膜の膜厚は、平膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することで得られる。
【0119】
(2)イオンのカウント数の比の測定
多孔質中空糸膜の外表面の疎水性高分子由来のイオンのカウント数は、中空糸膜を薬包紙で包み、スライドガラスで挟み平らにしたのち、TOF-SIMS装置(nano-TOF、アルバック・ファイ社製)を用いて、当該平らにした中空糸膜の一方の外表面を測定面として測定する。中空糸膜において分析される箇所としては、束化し製膜した中空糸膜を糸長方向に3等分した場合の2番目の部分から、糸長方向に約1cm切り出し、分析を実施する。測定条件は、一次イオンBi3
++、加速電圧30kV、電流約0.1nA(DCとして)、分析面積600μm×600μm、積算時間30minと設定し、検出器により当該疎水性高分子を最もよく表すイオン(下記実施例及び比較例では、C6H4O(m/z=92))を検出イオンとしてスペクトルを検出する。本測定装置の特性上、測定深さは表面から1~2nmまでに相当する。親水性高分子由来のイオンのカウント数も同様の測定条件で測定し、当該親水性高分子を最もよく表すイオン(下記実施例及び比較例では、C4H5O2(m/z=85))を検出イオンとして検出する。測定時の分析面積の解像度は、256×256ピクセルとする。測定したデータは、装置搭載ソフトであるWincadenceNを用いて、処理する。データ処理時の分析面積の解像度は256×256ピクセルとする。中空糸膜の円周方向1ピクセルと中空糸膜の糸長方向400μmにより構成される長方形領域から検出される、疎水性高分子由来のイオンのカウント数(To)に対する親水性高分子由来のイオンのカウント数(Ti)の比(T1=Ti/To)を求める。T1の値の、TOF-SIMSでの分析面積における、中空糸の円周方向の端からもう片端までの平均値(TA)を算出する。また、前述の一方の外表面の裏にあたるもう一方の外表面についても同様の手法でT1の平均値(TB)を求める。このとき、測定箇所は、前記一方の外表面の測定箇所から糸長方向に約1~2cm離れた距離にある位置を採用すれば良い。TA及びTBの平均をとることでTを得る。ここで、分析面積中における中空糸の端は、中空糸外表面における疎水性高分子由来のイオンの平均強度が、中空糸外表面中央の50ピクセルの疎水性高分子由来のイオンの強度の平均値の80%未満となった箇所として規定する。
【0120】
平均値Tの求め方をより具体的に説明する。まず、中空糸膜の円周方向1ピクセルと中空糸膜の糸長方向400μmにより構成される長方形領域から検出される、疎水性高分子由来のイオンのカウント数(Ton)に対する親水性高分子由来のイオンのカウント数(Tin)の比(Tn=Tin/Ton)を求める。ここでnは長方形領域の数であり、TOF-SIMSでの分析面積における、中空糸膜の製膜時の膜の進行方向に直交する方向の端を1個目とし、もう片側の端をn個目とする。T1からTnのすべての値を求めたら、T1からTnの値の平均値(TA)を算出する。また、前述の一方の外表面の裏にあたるもう一方の外表面についても同様の手法でT1からTnの平均値(TB)を求める。このとき、測定箇所は、前記一方の外表面の測定箇所から糸長方向に約1~2cm離れた距離にある位置を採用すれば良い。TA及びTBの平均をとることでTを得る。
【0121】
分析面積の一辺の長さは、平らにした中空糸膜の円周方向の両端間の長さの1倍以上、1.5倍未満となるように、適宜設定すればよく、好ましくは1.2倍が例示される。また、Tnを求めるため長方形領域の糸長方向の長さは、分析視野の2/3以上であればよく、好ましくは2/3が例示される。
【0122】
また、平膜の表面の疎水性高分子由来のイオンのカウント数は中空糸膜の場合と同様に測定すればよいが、薬包紙で包み、スライドガラスで平らにする操作は必要ない。平膜において、分析される箇所としては、製膜した平膜の任意の箇所を選択する。測定条件、分析面積および積算時間は中空糸膜と同様である。平膜の場合は、平膜の製膜時の進行方向に直交する方向に1ピクセルと平膜の製膜時の進行方向400μmで構成される長方形領域から検出される、疎水性高分子由来のイオンのカウント数(Ton)に対する親水性高分子由来のイオンのカウント数(Tin)の比(Tn=Tin/Ton)を求める。ここでnは長方形領域の数であり、TOF-SIMSでの分析面積における、平膜の製膜時の膜の進行方向に直交する方向の端を1個目とし、もう片側の端をn個目とする。例えば、分析面積全体に膜が存在している場合は、n=256となる。T1からTnのすべての値を求めたら、T1からTnの値の平均値(TA)を算出する。また、もう一か所の表面についても同様の手法でT1からTnの平均値(TB)を求める。このとき、測定箇所は、前記一方の表面の測定箇所から平膜製膜時の進行方向に約1~2cm離れた距離にある位置を採用すれば良い。TA及びTBの平均をとることでTを得る。
【0123】
(3)透水量測定
有効膜面積が3cm2になるように組み立てられた膜モジュールを1.0barの定圧デッドエンド濾過による25℃の純水の濾過量を測定し、濾過時間から透水量を算出する。
【0124】
(4)バブルポイント測定
有効膜面積が0.7cm2になるように組み立てられた膜モジュールの膜の濾過下流面側をハイドロフルオロエーテルで満たし、デッドエンドで濾過上流側から圧縮空気で昇圧させ、濾過下流面側から気泡の発生が確認されたとき(空気の流量が2.4mL/minになったとき)の圧力をバブルポイントとする。
【0125】
(5)免疫グロブリンの濾過試験
有効膜面積が3cm2になるように組み立てられた膜モジュールを122℃で60分高圧蒸気滅菌処理を行う。田辺三菱製薬会社より市販されている献血ヴェノグロブリン IH 5%静注(2.5g/50mL)を用いて、溶液の免疫グロブリン濃度が15g/L、塩化ナトリウム濃度が0.1M、pHが4.5になるように溶液を調製する。調製した溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行う。
180分間の積算免疫グロブリン透過量は、180分間の濾液回収量、濾液の免疫グロブリン濃度、膜モジュールの膜面積より算出する。
【0126】
(6)ブタパルボウイルスクリアランス測定
(6-1)濾過溶液の調製
田辺三菱製薬会社より市販されている献血ヴェノグロブリン IH 5%静注(2.5g/50mL)を用いて、溶液の免疫グロブリン濃度が15g/L、塩化ナトリウム濃度が0.1M、pHが4.5になるように溶液を調製する。この溶液に0.5容積%のブタパルボウイルス(PPV)溶液をspikeして得られる溶液を濾過溶液とする。
(6-2)膜の滅菌
有効膜面積が3cm2になるように組み立てられた膜モジュールを122℃で60分高圧蒸気滅菌処理をする。
(6-3)濾過
(1)で調整した濾過溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行う。
(6-4)ウイルスクリアランス
濾過溶液を濾過して得られた濾液のTiter(TCID50値)をウイルスアッセイにて測定する。PPVのウイルスクリアランスはLRV=Log(TCID50)/mL(濾過溶液))-Log(TCID50)/mL(濾液))により算出する。
なお、下記実施例2に示すようなコート率10%前後の、本発明の一態様の多孔質中空糸膜がLRV>5を示したことを確認済みである。
【0127】
(実施例1)
PES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)24質量部、NMP(キシダ化学社製)31質量部、TriEG(関東化学社製)45質量部を真空下で混合した溶液を製膜原液とした。二重管ノズルの環状部から製膜原液を吐出し、中心部からNMP77質量部、水23質量部の混合液を芯液として吐出した。吐出された製膜原液と芯液は、密閉された空走部を経て、18.5℃、NMP15質量部、水85質量部からなる凝固液が入った凝固浴に導入された。
凝固浴から引き出された膜は、水中でカセを用いて巻き取った。紡糸速度は5m/minとし、ドラフト比を1.79とした。
巻き取られた膜はカセの両端部で切断し、束にし、弛まないように両端を支持体に把持させ、128℃、6時間の条件で、高圧熱水処理した後、真空乾燥させることにより中空糸状の基材膜を得た。
得られた中空糸状の基材膜を、束にし、重量平均分子量120000のポリヒドロキシエチルメタクリレート(2-ヒドロキシエチルメタクリレート(関東化学社製)を用いて製造した。以下同じ)1.7質量部、メタノール(和光純薬工業社製、以下同じ)98.3質量部のコート液に20時間浸漬させた後、537Gで10min遠心脱液した。脱液後の糸束を20時間真空乾燥させた。真空乾燥後の糸束を128℃、60minの条件で高圧熱水処理し、処理後の糸束を20℃の水に20時間浸漬した。上記の高圧熱水処理および水浸漬操作を再度実施し、糸束を20時間真空乾燥させ、中空糸状の多孔質膜を得た。
得られた糸束の中から、4本の糸を容易に抜き取ることができ、膜付きが発生していないことを確認した。
【0128】
(実施例2)
遠心脱液後の糸束を、メタノール15質量部、水85質量部の洗浄液で、糸束を350ml/minの流量で60分間洗浄し、洗浄後の糸束を再度537Gで10min遠心脱液した以外は、実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0129】
(実施例3)
高圧熱水処理および水浸漬処理を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0130】
(実施例4)
コート液組成をポリヒドロキシエチルメタクリレート1.1質量部、メタノール98.9質量部とした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0131】
(実施例5)
遠心脱液後の糸束を、メタノール15質量部、水85質量部の洗浄液で、糸束を350ml/minの流量で60分間洗浄し、洗浄後の糸束を再度537Gで10min遠心脱液した以外は、実施例4と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0132】
(実施例6)
コート液組成をポリヒドロキシエチルメタクリレート2.3質量部、メタノール97.7質量部とした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0133】
(実施例7)
遠心脱液後の糸束を、メタノール15質量部、水85質量部の洗浄液で、糸束を350ml/minの流量で60分間洗浄し、洗浄後の糸束を再度537Gで10min遠心脱液した以外は、実施例6と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0134】
(実施例8)
コート液組成をポリヒドロキシエチルメタクリレート5.0質量部、メタノール95.0質量部とし、遠心脱液後の糸束を、メタノール15質量部、水85質量部の洗浄液で、糸束を350ml/minの流量で60分間洗浄し、洗浄後の糸束を再度537Gで10min遠心脱液した以外は、実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0135】
(実施例9)
コート液組成をポリヒドロキシエチルメタクリレート10.0質量部、メタノール90.0質量部とした以外は実施例8と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0136】
(実施例10)
コート液組成をポリヒドロキシエチルメタクリレート15.0質量部、メタノール85.0質量部とした以外は実施例8と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0137】
(実施例11)
脱液操作を、真空エジェクターで行い、真空エジェクターへの圧気の供給圧を0.4MPa、脱液時間を10minとし、洗浄液の脱液操作を真空エジェクターで行い、真空エジェクターへの圧気の供給圧を0.4MPa、脱液時間を10minとした以外は、実施例2と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
(実施例12)
実施例1に記載の製膜原液をポリエステル製不織布に塗布し、NMP15質量部、水85質量部からなる凝固液が入った18.5℃の凝固浴に導入し製膜原液を凝固させた後、連続的に熱風乾燥を行い、基材膜を得る。熱風乾燥後の平膜を束化し、重量平均分子量120000のポリヒドロキシエチルメタクリレート(2-ヒドロキシエチルメタクリレート(関東化学社製)を用いて製造する。以下同じ)1.7質量部、メタノール(和光純薬工業社製、以下同じ)98.3質量部のコート液の入った液槽内に導入し、液槽から引き上げた平膜を真空乾燥させ、真空乾燥後の膜束を128℃60minの条件で高圧熱水処理を施し、高圧熱水処理後の膜束を真空乾燥することで平膜を得る。
【0138】
(比較例1)
コート液脱液後の、高圧熱水処理および水浸漬を実施しなかった以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。これは特許文献1の実施例1に相当する多孔質膜である。
【0139】
真空乾燥後の糸束に糸付きが発生し、膜モジュール作成の際の、糸束から糸を抜き取る作業において、糸を傷つけないように引きはがすなどの、細かい配慮を必要とする作業が発生したため、作業効率が大幅に低下した。
【0140】
(比較例2)
コート液脱液後の、高圧熱水処理および水浸漬を実施しなかった以外は実施例4と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0141】
真空乾燥後の糸束に糸付きが発生し、膜モジュール作成の際の、糸束から糸を抜き取る作業において、糸を傷つけないように引きはがすなどの、細かい配慮を必要とする作業が発生したため、作業効率が大幅に低下した。
【0142】
(比較例3)
コート液脱液後の、高圧熱水処理および水浸漬を実施しなかった以外は実施例6と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0143】
真空乾燥後の糸束に糸付きが発生し、膜モジュール作成の際の、糸束から糸を抜き取る作業において、糸を傷つけないように引きはがすなどの、細かい配慮を必要とする作業が発生したため、作業効率が大幅に低下した。
【0144】
実施例1~11及び比較例1~3について、得られた多孔質中空糸膜の(1)~(5)の測定結果を表1に示した。なお、表1中「-」とあるのは未測定の項目を意味している。
【0145】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の多孔質膜は、血漿分画製剤やバイオ医薬品等の精製において好適に用いることができる点で、産業上の利用可能性を有する。