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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20221130BHJP
【FI】
F16H61/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021561381
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043399
(87)【国際公開番号】W WO2021106785
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019216986
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 倫平
(72)【発明者】
【氏名】濱野 正宏
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150137(WO,A1)
【文献】特開2004-68989(JP,A)
【文献】特開2015-90191(JP,A)
【文献】特開2017-155779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機の制御装置であって、
前記変速機コントロールユニットは、ギヤ比異常判定部とリンプホーム制御部を有し、
前記ギヤ比異常判定部は、所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と前記所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
前記リンプホーム制御部は、前記ギヤ比異常判定部がギヤ比異常を判定すると、前記複数の摩擦要素を全て解放する解放指示を出力し、
前記解放指示の出力によりニュートラル状態への移行が確認されると、前記有段変速機構に有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて、前記複数の摩擦要素のうち特定の摩擦要素の締結・解放を判定し、
前記特定の摩擦要素の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、決定した前記退避ギヤ段へ変速する
自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機の制御装置において、
前記有段変速機構に有する回転メンバは、前記有段変速機構に有し、変速機入力軸及び変速機出力軸以外の中間軸であり、
前記中間軸の回転を検出する中間軸回転センサの回転/停止情報に基づいて、前記中間軸をトランスミッションケースに固定する摩擦要素の締結・解放を判定する
自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ギヤ比異常判定部は、前記退避ギヤ段への変速後、前記退避ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と前記退避ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
前記リンプホーム制御部は、前記ギヤ比異常判定部が前記退避ギヤ段でのギヤ比異常を判定し、且つ、解放故障要素が推定されると、解放故障要素の推定に基づいて前記退避ギヤ段を変更し、変更した第2の退避ギヤ段に変速する
自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された自動変速機の制御装置において、
変速機入力軸に連結される走行用駆動源を制御する走行用駆動源コントローラに、前記変速機コントロールユニットからの要求により前記走行用駆動源の上限トルクを制限するトルク制限制御部を有し、
前記ギヤ比異常判定部は、前記退避ギヤ段への変速後、前記退避ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と前記退避ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
前記リンプホーム制御部は、前記ギヤ比異常判定部が前記退避ギヤ段でのギヤ比異常を判定し、且つ、解放故障要素が推定されないと、ライン圧制御の機能異常と判定し、前記走行用駆動源の前記上限トルクを制限する要求を前記トルク制限制御部へ出力する
自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載された自動変速機の制御装置において、
前記リンプホーム制御部は、走行中にギヤ比異常を判定したときに選択されているギヤ段が前記特定の摩擦要素を締結状態として成立する第1ギヤ段であるか否かを判定し、
前記第1ギヤ段による走行中にギヤ比異常を判定すると、ニュートラル状態へ移行することなく、前記複数の摩擦要素の締結/解放の組み合わせ関係が前記第1ギヤ段とは逆の組み合わせ関係となっている第2ギヤ段を退避ギヤ段として決定し、決定した前記第2ギヤ段へ変速する
自動変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載された自動変速機の制御装置において、
前記変速機コントロールユニットは、前記摩擦要素の締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令を前記変速系ソレノイドへ出力する変速系ソレノイド制御部を有する
自動変速機の制御装置。
【請求項7】
有段変速機構の複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う自動変速機の制御方法であって、
所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と前記所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になると、前記複数の摩擦要素を全て解放する解放指示を出力し、
前記解放指示の出力によりニュートラル状態へ移行し、前記有段変速機構の回転メンバの回転/停止情報に基づいて決定した退避ギヤ段へ変速する
自動変速機の制御方法。
【請求項8】
有段変速機構の複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う自動変速機の制御装置であって、
所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と前記所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になると、前記複数の摩擦要素を全て解放する解放指示を出力し、
前記解放指示の出力によりニュートラル状態へ移行し、前記有段変速機構の回転メンバの回転/停止情報に基づいて決定した退避ギヤ段へ変速する
自動変速機の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載された自動変速機の制御装置において、
前記回転メンバは、前記有段変速機構の変速機入力軸及び変速機出力軸以外の中間軸であり、
前記中間軸の回転を検出する中間軸回転センサの回転/停止情報に基づいて決定した前記退避ギヤ段へ変速する
自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2010-151263Aには、変速(例えば3-4変速)終了時から第1の所定時間T1の間にギヤ比が各ギヤ段のギヤ比の何れかとなったことが判定され、かつ本来のギヤ比(4TH)と演算されたギヤ比(5TH)とが異なる場合、解放されるはずのクラッチC-3が係合フェールであることを判定することが開示されている。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、JP2010-151263Aにあっては、実ギヤ比が所定ギヤ段の設定ギヤ比と一致しない、つまり4速ギヤ比や5速ギヤ比から乖離するギヤ比異常が発生した場合、複数の摩擦要素のうち誤締結又は誤解放となっている摩擦要素を特定することができない。このため、ギヤ比異常が発生した場合、リンプホーム先の退避ギヤ段を決めることができず、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することができない、という課題があった。
【0004】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、設定ギヤ比から実ギヤ比が乖離するギヤ比異常が発生した場合、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある態様に係る自動変速機の制御装置は、有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える。
変速機コントロールユニットは、ギヤ比異常判定部とリンプホーム制御部を有する。
ギヤ比異常判定部は、所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定する。
リンプホーム制御部は、ギヤ比異常判定部がギヤ比異常を判定すると、複数の摩擦要素を全て解放する解放指示を出力する。解放指示の出力によりニュートラル状態への移行が確認されると、有段変速機構に有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて、複数の摩擦要素のうち特定の摩擦要素の締結・解放を判定する。特定の摩擦要素の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、決定した退避ギヤ段へ変速する。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、設定ギヤ比から実ギヤ比が乖離するギヤ比異常が発生した場合、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
図2図2は、自動変速機のギヤトレーンの一例を示すスケルトン図である。
図3図3は、自動変速機での変速用摩擦要素の各ギヤ段での締結状態を示す締結表図である。
図4図4は、自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図5図5は、自動変速機のコントロールバルブユニットを示す油圧制御系構成図である。
図6図6は、変速機コントロールユニットの変速制御部の詳細構成を示すブロック図である。
図7図7は、変速制御部のギヤ比異常判定部とリンプホーム制御部にて実行される変速系ソレノイド機能異常時における変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、5速ギヤ段での走行中であって第1ブレーキの誤締結によりギヤ比異常が判定されたときの5速ギヤ段→ニュートラル→8速ギヤ段への移行作用を示すタイムチャートである。
図9図9は、5速ギヤ段での走行中であって第1ブレーキの誤締結以外によりギヤ比異常が判定されたときの5速ギヤ段→ニュートラル→2速ギヤ段への移行作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1の制御装置は、前進9速・後退1速のギヤ段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「変速制御部の詳細構成」、「変速制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成(図1)]
以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。エンジン車の駆動系には、図1に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3は、ギヤトレーン3aとパークギヤ3bを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0011】
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個のソレノイドバルブを有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
【0012】
エンジン車の電子制御系には、図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。つまり、変速機コントロールユニット10の起動/停止を、イグニッションスイッチによる起動/停止の場合に比べて起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」としている。
【0013】
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送信するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送信する。この変速機コントロールユニット10は、他にタービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、第3クラッチ油圧センサ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0014】
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。第3クラッチ油圧センサ15は、第3クラッチK3のクラッチ油圧を検出し、第3クラッチ油圧PK3を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0015】
シフタコントロールユニット18は、運転者によるシフタ181へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を判定し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送信する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する(図2を参照)。
【0016】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(図4を参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0017】
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0018】
アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。
【0019】
エンジンコントロールモジュール11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して変速機コントロールユニット10と接続されている。エンジンコントロールモジュール11には、変速機コントロールユニット10からCAN通信線70を介してトルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするトルク制限制御部110を有する。また、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転速度Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。
【0020】
[自動変速機の詳細構成(図2図4)]
以下、図2図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。自動変速機3は、複数のギヤ段が設定可能なギヤトレーン3a(有段変速機構)と複数の摩擦要素を有するもので、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチソレノイドに最大圧指令を出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20に出力する。
(d) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0021】
自動変速機3は、図2に示すように、ギヤトレーン3aを構成する遊星歯車として、変速機入力軸INから変速機出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0022】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0023】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0024】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0025】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0026】
自動変速機3は、図2に示すように、変速機入力軸INと、変速機出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0027】
変速機入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0028】
変速機出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0029】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0030】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0031】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0032】
図3に基づいて、各ギヤ段を成立させる変速構成を説明する。1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブギヤ段である。
【0033】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0034】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブギヤ段である。
【0035】
さらに、1速段から9速段までのギヤ段のうち、隣接するギヤ段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギヤ段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0036】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、基本的に6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0037】
そして、変速機コントロールユニット10には、図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギヤ段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0038】
[油圧制御系の詳細構成(図5)]
以下、図5に基づいて油圧制御系の詳細構成を説明する。変速機コントロールユニット10によって油圧制御されるコントロールバルブユニット6は、図5に示すように、油圧源として、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
【0039】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23を備える。そして、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切り替え弁66を備える。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を備える。
【0040】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。
【0041】
ここで、ライン圧ソレノイド21は、変速機コントロールユニット10に有するライン圧制御部100から制御指令により調圧駆動する。ライン圧制御部100は、ギヤトレーン3aへの入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性に基づいてライン圧PLを制御する。
【0042】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。ここで、クラッチソレノイド20は、変速機コントロールユニット10に有する変速制御部101からの制御指令により調圧駆動し、燃費性能の向上を意図し、インギヤ中に締結状態とされる摩擦要素に対し、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する。
【0043】
ロックアップソレノイド23は、ロックアップクラッチ2aの締結時、ライン圧調圧弁64により作り出されたライン圧PLと調圧余剰油を用い、ロックアップクラッチ2aのクラッチ差圧を制御する。
【0044】
ここで、ロックアップソレノイド23は、変速機コントロールユニット10に有するロックアップ制御部102からの制御指令により調圧駆動する。ロックアップ制御部102は、低車速域に設定された所定車速以上の領域での走行中、完全締結状態を保つクラッチ差圧制御ではなく、ロックアップクラッチ2aの微小スリップを許容するゼロスリップ締結状態を維持するクラッチ差圧制御を、ギヤトレーン3aのギヤ段や変速にかかわらず実行する。
【0045】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切り替え弁66への切替え圧とを作り出し、摩擦要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0046】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦要素とギヤトレーン3aを含むパワートレーン(PT)へクーラー69を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0047】
ブースト切り替え弁66は、潤滑ソレノイド22からの切替え圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切り替え弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0048】
P-nP切り替え弁67は、潤滑ソレノイド22(又はパークソレノイド)からの切替え圧によってパーク油圧アクチュエータ68へのライン圧路を切り替える。Pレンジへの選択時にパークギヤ3bを噛合わせるパークロックと、PレンジからPレンジ以外のレンジへの選択時にパークギヤ3bの噛合を解除するパークロック解除を行う。
【0049】
このように、運転者が操作するシフトレバーと機械的に連結され、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路やPレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止したコントロールバルブユニット6の構成としている。そして、シフタ181によりD,R,Nレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、6個の摩擦要素を独立に締結/解放する制御を採用することで「シフト・バイ・ワイヤ」を達成している。さらに、シフタ181によりPレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、パークモジュールを構成するP-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を作動させることで「パーク・バイ・ワイヤ」を達成している。
【0050】
[変速制御部の詳細構成(図6)]
以下、図6に基づいて変速機コントロールユニット10の変速制御部101の詳細構成を説明する。変速制御部101は、図6に示すように、ギヤ比異常判定部101aと、通常変速制御部101bと、リンプホーム制御部101cと、変速系ソレノイド制御部101dと、を備える。
【0051】
ギヤ比異常判定部101aは、1速ギヤ段~9速ギヤ段の何れかのギヤ段による前進走行中、ギヤトレーン3aにおけるギヤ比異常を判定する。ギヤ比異常判定部101aは、タービン回転センサ13からのタービン回転速度Ntと、出力軸回転センサ14からの出力軸回転速度Noと、シフタコントロールユニット18からの選択されているレンジ位置の情報を入力する。Dレンジでの所定ギヤ段による前進走行中、変速機入力軸回転速度(タービン回転速度Nt)と変速機出力軸回転速度(出力軸回転速度No)から実ギヤ比を算出する。そして、算出される実ギヤ比とそのときの所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値未満であるとギヤ比正常と判定し、算出される実ギヤ比とそのときの所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定する。
【0052】
ここで、「設定値」は、所定ギヤ段における正常時の設定ギヤ比に対して±H%によるギヤ比異常判定閾値により与える。「ギヤ比異常の判定」は、変速過渡期を除くインギヤ中において実ギヤ比と設定ギヤ比の差が設定値以上になった時間を累積し、累積時間がギヤ比異常確定タイマー時間以上になるとギヤ比異常確定と判定する。即ち、実ギヤ比が瞬間的に設定ギヤ比から乖離することによるギヤ比異常の誤判定を防止する判定としていて、以下で記述する「ギヤ比異常判定」の正確な意味は、ギヤ比異常の累積時間がギヤ比異常確定タイマー時間以上になってギヤ比異常の異常確定が判定されたことをいう。
【0053】
通常変速制御部101bは、ギヤ比異常判定部101aからギヤ比正常判定結果を入力している間、そのときの運転点(VSP,APO)と図4に示す変速マップを用いてアップシフト及びダウンシフトを行う通常変速制御を実行する。通常変速制御では、各ギヤ段における6個のクラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20fに対する締結指令/解放指令を図3に示す締結表に従って決め、決めた締結指令/解放指令を変速系ソレノイド制御部101dへ出力する。なお、20aは第1ブレーキソレノイド、20bは第2ブレーキソレノイド、20cは第3ブレーキソレノイド、20dは第1クラッチソレノイド、20eは第2クラッチソレノイド、20fは第3クラッチソレノイドである。
【0054】
リンプホーム制御部101cは、ギヤ比異常判定部101aからギヤ比異常確定によるギヤ比異常判定結果を入力すると、ギヤ比異常対応のリンプホーム制御を実行する。リンプホーム制御では、ギヤ比異常判定結果を入力すると、6個のクラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20fを全て解放する解放指示を出力する。そして、解放指示の出力によりニュートラル状態への移行が確認されると、ギヤトレーン3aに有する中間軸回転センサ19からの回転/停止情報に基づいて、6個の摩擦要素のうち中間軸をトランスミッションケースTCに固定する第1ブレーキB1(特定の摩擦要素)の締結・解放を判定する。次に、第1ブレーキB1の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、そのときのギヤ段から決定した退避ギヤ段へ変速する指令を変速系ソレノイド制御部101dへ出力する。
【0055】
退避ギヤ段への変速後、退避ギヤ段による前進走行中、再度、ギヤ比異常判定部101aにおいて、実ギヤ比と退避ギヤ段における設定ギヤ比の差に基づいて、退避ギヤ段でのギヤ比異常を判定する。そして、ギヤ比異常判定部101aが退避ギヤ段でのギヤ比異常が判定され、且つ、解放故障要素が推定されると、リンプホーム制御部101cでは、解放故障要素の推定に基づいて退避ギヤ段を変更し、退避ギヤ段から変更した第2の退避ギヤ段に変速する。一方、ギヤ比異常判定部101aが退避ギヤ段でのギヤ比異常が判定されたが解放故障要素が推定されないと、リンプホーム制御部101cでは、ライン圧制御の機能異常と判定し、エンジン1の上限トルクを制限する要求をトルク制限制御部110へ出力する。
【0056】
ここで、リンプホーム制御部101cは、前進走行中にギヤ比異常を判定したときに選択されているギヤ段が第1ブレーキB1を締結状態として成立する8速ギヤ段又は9速ギヤ段(第1ギヤ段)であるか否かを判定する。そして、8速ギヤ段又は9速ギヤ段による走行中にギヤ比異常を判定すると、ニュートラル状態へ移行することなく、8速ギヤ段の場合は退避ギヤ段を3速ギヤ段と決定し、9速ギヤ段の場合は退避ギヤ段を2速ギヤ段と決定し、それぞれ決定したギヤ段へ変速する。なお、8速ギヤ段の場合に3速ギヤ段を退避ギヤ段として決定するのは、図3に示すように、複数の摩擦要素の締結/解放の組み合わせ関係が逆の組み合わせ関係であり、8速ギヤ段でいずれかの摩擦要素に誤締結又は誤解放が生じていても3速ギヤ段を成立させることができることによる。9速ギヤ段の場合に2速ギヤ段を退避ギヤ段として決定するのは、図3に示すように、複数の摩擦要素の締結/解放の組み合わせ関係が逆の組み合わせ関係であり、9速ギヤ段でいずれかの摩擦要素に誤締結又は誤解放が生じていても2速ギヤ段を成立させることができることによる。
【0057】
変速系ソレノイド制御部101dは、通常変速制御部101b又はリンプホーム制御部101cからの指令に基づいて、6個のクラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20fに対する締結指令/解放指令を出力する。この変速系ソレノイド制御部101dは、各ギヤ段において3個の摩擦要素の締結状態を維持するインギヤ中、ライン圧PLを元圧とし、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20(変速系ソレノイド)へ出力する。
【0058】
[変速制御処理構成(図7)]
以下、図7に基づいて変速機コントロールユニット10の変速制御部101にて実行される変速制御処理構成を説明する。なお、図7の変速制御処理はイグニッションオンにより開始する。
【0059】
ステップS1では、処理スタートに続き、変速系ソレノイドの異常診断条件が成立しているか否かを判断する。YES(診断条件成立)の場合はステップS2へ進み、NO(診断条件不成立)の場合はステップS3へ進む。ここで、変速系ソレノイドの異常診断条件は、診断禁止条件が不成立で、且つ、診断許可条件が成立であると、診断条件成立と判定される。診断禁止条件としては、タービン回転センサ異常、車速センサ異常、ライン圧ソレノイド電気異常等の条件が与えられる。診断許可条件としては、P,R,Nレンジ以外であって、車速が所定車速以上、タービン回転速度が所定値以上、エンジン回転速度が所定値以上等の条件が与えられる。そして、診断禁止条件のうち一つの条件が成立していても、又、診断許可条件のうち一つの条件が不成立であっても診断条件不成立と判断される。
【0060】
ステップS2では、S1での診断条件成立との判定に続き、そのとき選択されているギヤ段でのギヤ比異常無しか否かを判定する。YES(ギヤ比異常無し)の場合はステップS3へ進み、NO(ギヤ比異常有り)の場合はステップS5へ進む。ここで、「ギヤ比異常無し」とは、ギヤ比異常確定と判定されてない状況をいう。つまり、インギヤ中において実ギヤ比とそのとき選択されているギヤ段での設定ギヤ比のギヤ比差が設定値未満である状況、或いは、ギヤ比差が設定値以上になってもその累積時間がギヤ比異常確定タイマー時間に達していない状況をいう。又、ギヤ比異常有りと判定された場合、変速系ソレノイドの異常をあらわす警報や表示やアナウンスをし、運転者に変速系ソレノイド異常対応の行動を促す。
【0061】
ステップS3では、S1での診断条件不成立との判定、或いは、S2でのギヤ比異常無しとの判定に続き、そのときの運転点(VSP,APO)と図4に示す変速マップを用いてアップシフト及びダウンシフトを行う通常変速制御を実行し、ステップS4へ進む。
【0062】
ステップS4では、S3での通常変速制御処理に続き、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判定する。YES(IGN OFF)の場合はエンドへ進み、NO(IGN ON)の場合はステップS1へ戻る。
【0063】
ステップS5では、S2でのギヤ比異常有りとの判定に続き、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が8速ギヤ段又は9速ギヤ段であるか否かを判断する。YES(8,9速ギヤ段)の場合はステップS6へ進み、NO(1速ギヤ段~7速ギヤ段)の場合はステップS11へ進む。ここで、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段は、通常変速制御において設定されている目標ギヤ段の情報等を用いて判定する。
【0064】
ステップS6では、S5での8,9速ギヤ段であるとの判定に続き、8速ギヤ段の場合は3速ギヤ段に固定し、9速ギヤ段の場合は2速ギヤ段に固定し、ステップS7へ進む。なお、8速ギヤ段の場合、退避ギヤ段を3速ギヤ段に決定し、8速ギヤ段から決定した3速ギヤ段へ変速した後、3速ギヤ段を固定する制御を行う。一方、9速ギヤ段の場合、退避ギヤ段を2速ギヤ段に決定し、9速ギヤ段から決定した2速ギヤ段へ変速した後、2速ギヤ段を固定する制御を行う。
【0065】
ステップS7では、S6での3速ギヤ段、又は、2速ギヤ段の固定、或いは、S9での診断条件成立との判定に続き、そのとき選択されている3速ギヤ段、又は、2速ギヤ段でのギヤ比異常有りか否かを判定する。YES(ギヤ比異常有り)の場合はステップS8へ進み、NO(ギヤ比異常無し)の場合はステップS9へ進む。
【0066】
ステップS8では、S7でのギヤ比異常有りとの判定に続き、エンジン1の上限トルクを制限する要求をトルク制限制御部110へ出力し、ステップS9へ進む。ここで、エンジン1の上限トルクを制限するのは、解放故障の懸念が無い3速ギヤ段、又は、2速ギヤ段へ退避しているにもかかわらずギヤ比異常が発生する場合、原因としてライン圧PLが低下している場合が想定されるため、ライン圧ソレノイド21の機能異常として取り扱うことによる。
【0067】
ステップS9では、S7でのギヤ比異常無しとの判定、或いは、S8でのトルク制限に続き、変速系ソレノイドの異常診断条件が不成立であるか否かを判断する。YES(診断条件不成立)の場合はステップS10へ進み、NO(診断条件成立)の場合はステップS7へ戻る。
【0068】
ステップS10では、S9での診断条件不成立との判定に続き、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判定する。YES(IGN OFF)の場合はエンドへ進み、NO(IGN ON)の場合はギヤ段固定、又は、(ギヤ段固定+トルク制限)のままでステップS10の判定を繰り返す。
【0069】
ステップS11では、S5での1速ギヤ段~7速ギヤ段であるとの判定、或いは、S12での所定時間未経過であるとの判定に続き、全てのクラッチソレノイド20へ解放指令を出力し、ステップS12へ進む。ここで、全てのクラッチソレノイド20へ解放指令を出力するのは、ギヤトレーン3aをニュートラル状態へ移行することを意図するためである。
【0070】
ステップS12では、S11での全クラッチソレノイド20への解放指令の出力に続き、解放指令の出力開始から所定時間が経過したか否かを判定する。YES(所定時間経過)の場合はステップS13へ進み、NO(所定時間未経過)の場合はステップS11へ戻る。ここで、「所定時間」は、油圧応答遅れを考慮し、全クラッチソレノイド20への解放指令の出力から6個の摩擦要素の解放動作が完了し、ギヤトレーン3aがニュートラル状態へ移行するまでに要する必要時間に設定される。
【0071】
ステップS13では、S12での所定時間経過との判定に続き、中間軸をトランスミッションケースTCに固定する第1ブレーキB1の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、ステップS10へ進む。ここで、退避ギヤ段を決定する際、1速ギヤ段~7速ギヤ段のそれぞれのギヤ段において、第1ブレーキB1が誤締結であるか、誤締結以外であるかに切り分けて行う。1速ギヤ段~7速ギヤ段のそれぞれのギヤ段で第1ブレーキB1が誤締結である場合は、第1ブレーキB1の締結により成り立つ8速ギヤ段を退避ギヤ段として決定する。1速ギヤ段~7速ギヤ段のそれぞれのギヤ段で第1ブレーキB1が誤締結以外である場合は、解放故障要素を推定し、1速ギヤ段~7速ギヤ段のそれぞれで異なるギヤ段を退避ギヤ段として決定する。
【0072】
ステップS14では、S13での退避ギヤ段の決定に続き、決定した退避ギヤ段に固定し、ステップS11へ進む。例えば、1速ギヤ段で第1ブレーキB1が誤締結以外である場合、退避ギヤ段を5速ギヤ段に決定し、1速ギヤ段から決定した5速ギヤ段へ変速し、5速ギヤ段を固定する制御を行う。
【0073】
ステップS15では、S14での退避ギヤ段の固定、或いは、S16での診断条件成立との判定に続き、固定された退避ギヤ段においてギヤ比異常無しか否かを判定する。YES(ギヤ比異常無し)の場合はステップS16へ進み、NO(ギヤ比異常有り)の場合はステップS18へ進む。
【0074】
ステップS16では、S15でのギヤ比異常無しとの判定に続き、変速系ソレノイドの異常診断条件が不成立であるか否かを判断する。YES(診断条件不成立)の場合はステップS17へ進み、NO(診断条件成立)の場合はステップS15へ戻る。
【0075】
ステップS17では、S16での診断条件不成立との判定に続き、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判定する。YES(IGN OFF)の場合はエンドへ進み、NO(IGN ON)の場合は退避ギヤ段固定のままでステップS17の判定を繰り返す。
【0076】
ステップS18では、S15でのギヤ比異常有りとの判定に続き、解放故障要素を推定することが可能であるか否かを判定する。YES(解放故障要素の推定可能)の場合はステップS19へ進み、NO(解放故障要素の推定不可能)の場合はステップS21へ進む。
【0077】
ステップS19では、S18での解放故障要素の推定可能であるとの判定に続き、中間軸をトランスミッションケースTCに固定する第1ブレーキB1の締結・解放判定情報とギヤ段移行による解放故障要素の推定情報に基づいて第2の退避ギヤ段を決定し、ステップS20へ進む。ここで、第2の退避ギヤ段を決定する際、退避ギヤ段の決定と同様に、1速ギヤ段~7速ギヤ段のそれぞれのギヤ段において、第1ブレーキB1が誤締結であるか、誤締結以外であるかに切り分けて行う。
【0078】
ステップS20では、S19での第2の退避ギヤ段の決定に続き、決定した第2の退避ギヤ段に固定し、ステップS22へ進む。例えば、1速ギヤ段で第1ブレーキB1が誤締結以外である場合は、退避ギヤ段である5速ギヤ段にてギヤ比異常が発生すると、第2の退避ギヤ段を6速ギヤ段に決定し、5速ギヤ段から決定した6速ギヤ段へ変速し、6速ギヤ段を固定する制御を行う。
【0079】
ステップS21では、S18での解放故障要素の推定不可能であるとの判定に続き、エンジン1の上限トルクを制限する要求をトルク制限制御部110へ出力し、ステップS22へ進む。ここで、エンジン1の上限トルクを制限するのは、退避ギヤ段に固定し、且つ、解放故障要素が推定できない状況でギヤ比異常が発生する場合、原因としてライン圧PLが低下していることが想定されるため、ライン圧ソレノイド21の機能異常として取り扱うことによる。
【0080】
ステップS22では、S20での第2の退避ギヤ段固定、或いは、S21のトルク制限に続き、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判定する。YES(IGN OFF)の場合はエンドへ進み、NO(IGN ON)の場合は第2の退避ギヤ段固定、又は、(退避ギヤ段固定+トルク制限)のままでステップS22の判定を繰り返す。
【0081】
次に、「背景技術と課題解決方策」について説明する。そして、実施例1の作用を、「変速制御処理作用」、「リンプホーム制御作用」、「5速ギヤ段での走行中におけるギヤ比異常発生作用」に分けて説明する。
【0082】
[背景技術と課題解決方策]
変速用クラッチの誤締結判定技術としては、JP2010-151263Aに開示された先行技術が知られている。上記公報には、変速(例えば3-4変速)終了時から第1の所定時間T1の間にギヤ比が各ギヤ段のギヤ比の何れかとなったことが判定され、かつ本来のギヤ比(4TH)と演算されたギヤ比(5TH)とが異なる場合、解放されるはずのクラッチC-3が係合フェールであることを判定することが開示されている。
【0083】
しかしながら、上記先行技術にあっては、実ギヤ比が所定ギヤ段の設定ギヤ比と一致しない、つまり4速ギヤ比や5速ギヤ比から乖離するギヤ比異常が発生した場合、複数の摩擦要素のうち誤締結又は誤解放となっている摩擦要素を特定することができない。このため、ギヤ比異常が発生した場合、リンプホーム先の退避ギヤ段を決めることができず、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することができない、という課題があった。
【0084】
そこで、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中に実ギヤ比が所定ギヤ段の設定ギヤ比と一致しないギヤ比異常状態になったことを判定する探り制御を適用する案がある。しかし、探り制御によってギヤ比異常状態になったことが判定されても、誤締結故障要素や誤解放故障要素を特定することが困難である、という課題があった。特に、燃費性能の向上を狙い、各ギヤ段にて締結される複数の摩擦要素のそれぞれのクラッチソレノイドに対して、最大圧指令より低い入力トルク相当の中間圧指令を出力し、締結状態を維持する中間圧クラッチ制御を行うものとする。この場合、所定のギヤ段にて締結されている複数の摩擦要素のうち、最初に滑りが発生する特定の摩擦要素(ヒューズクラッチ)が不定となってしまい、誤締結故障要素や誤解放故障要素を特定する困難性が増す。
【0085】
そして、変速系ソレノイドの機能異常が発生すると、変速系ソレノイドに機能異常が発生したことを誤締結故障要素などにより車両走行に支障が発生する前に検知し、誤締結故障要素や誤解放故障要素の特定に基づいてリンプホーム先のギヤ段を決める。そして、リンプホーム先のギヤ段へ変速し、ディラーや自宅等までの車両走行を確保するリンプホーム制御へ移行したい、という要求がある。
【0086】
本発明者は、上記課題や上記要求に対する解決策を検証した結果、
(A) 誤締結要素があってもギヤ比異常がない滑り締結状態では急減速することなく走行可能であり、その状態では車両走行を継続させることができる。
(B) ギヤ比異常が発生したことを判定すると、誤締結要素によってインターロック状態に陥る可能性があるため、ギヤ比異常が判定されると素早くニュートラル状態へ移行することで急減速を回避できる。
(C) ニュートラル状態へ移行した後、全ての摩擦要素が解放状態であるとの前提にて回転メンバの回転/停止状況を監視すると、誤締結要素等を特定することが可能であり、要素特定に基づいてリンプホーム先のギヤ段を決めることができる。
という点に着目した。
【0087】
上記着目点に基づいて、本開示の変速機コントロールユニット10は、ギヤ比異常判定部101aとリンプホーム制御部101cを有する。ギヤ比異常判定部101aは、所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定する。リンプホーム制御部101cは、ギヤ比異常判定部101aがギヤ比異常を判定すると、複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3を全て解放する解放指示を出力する。解放指示の出力によりニュートラル状態への移行が確認されると、ギヤトレーン3aに有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて、複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3のうち特定の摩擦要素B1の締結・解放を判定する。特定の摩擦要素B1の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、決定した退避ギヤ段へ変速する、という解決手段を採用した。
【0088】
即ち、ギヤ比異常判定部101aによってギヤ比異常が判定されると、複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3を全て解放する解放指示が出力される。つまり、ギヤ比異常が判定されると、誤締結要素によってギヤトレーン3aがインターロック状態に陥ってしまい、ギヤ比異常の判定後、車両が急減速になる可能性がある。これに対し、ギヤ比異常の判定を条件とし、直ちにニュートラル状態へ移行する制御を行うことで、急減速の発生有無にかかわらず、未然に誤締結要素による急減速が回避されることになる。
【0089】
ニュートラル状態への移行が確認されると、ギヤトレーン3aに有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて、複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3のうち特定の摩擦要素B1の締結・解放が判定される。そして、特定の摩擦要素B1の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段が決定され、決定された退避ギヤ段へ変速される。つまり、ニュートラル状態へ移行した後、全ての摩擦要素が解放状態であるとの前提にて回転メンバの回転/停止状況を監視することにより、誤締結要素などを特定することが可能である。例えば、ニュートラル状態では回転状態の回転メンバが停止していると、その回転メンバをケース固定する摩擦要素が誤締結要素であると特定される。そして、誤締結要素の特定を手掛かりとして、誤締結要素を締結状態にすることで成立するリンプホーム先のギヤ段、又は、正常な解放要素として成立可能なリンプホーム先のギヤ段候補を決めることができる。
【0090】
この結果、設定ギヤ比から実ギヤ比が乖離するギヤ比異常が発生した場合、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することができることになる。特に、摩擦要素の締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する場合であっても、ヒューズクラッチが不定で困難とされる故障要素の特定することができる。
【0091】
[変速制御処理作用(図7)]
変速制御処理作用を図7のフローチャートに基づいて説明する。まず、イグニッションオン中、変速系ソレノイドの異常診断条件が不成立である間は、S1→S3→S4へと進む流れが繰り返される。S3では、そのときの運転点(VSP,APO)と図4に示す変速マップを用いてアップシフト及びダウンシフトを行う通常変速制御が実行される。そして、Dレンジでの走行中、変速系ソレノイドの異常診断条件が成立すると、S1からS2へ進み、S2では、そのとき選択されているギヤ段でのギヤ比異常無しか否かが判定される。そして、ギヤ比異常無しと判定されている間は、S1→S2→S3→S4へと進む流れが繰り返され、S3では、通常変速制御が継続して実行される。
【0092】
一方、変速系ソレノイドに異常が発生し、S2において、そのとき選択されているギヤ段でギヤ比異常が生じたことの確定判定がなされると、S2からS5以降へと進む。このとき、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が8速ギヤ段又は9速ギヤ段である場合は、S5~S10による処理が実行され、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が1速ギヤ段から7速ギヤ段の何れかである場合は、S11~S22による処理が実行される。
【0093】
ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が8速ギヤ段又は9速ギヤ段であると、S5からS6へと進み、S6では、8速ギヤ段の場合は3速ギヤ段に固定され、9速ギヤ段の場合は2速ギヤ段に固定される。そして、S9にて診断条件が成立したままで、8速ギヤ段の退避ギヤ段である3速ギヤ段、又は、9速ギヤ段に退避ギヤ段である2速ギヤ段にてギヤ比異常無しと判定されている間は、S6からS7→S9へと進む流れが繰り返され、3速ギヤ段又は2速ギヤ段を固定する制御が継続される。
【0094】
一方、S9にて診断条件が成立したままで、8速ギヤ段から退避した3速ギヤ段固定状態、又は、9速ギヤ段から退避した2速ギヤ段固定状態にてギヤ比異常有りと判定されると、S7からS8へと進む。S8では、3速ギヤ段固定状態又は2速ギヤ段固定状態を継続したままで、エンジン1の上限トルクを制限する要求がトルク制限制御部110へ出力される。その後、S9にて診断条件が不成立になると、S9からS10へ進み、S10にてイグニッションオフと判定されるとエンドへ進む。
【0095】
即ち、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が8速ギヤ段又は9速ギヤ段である場合、ニュートラル状態に移行することなく、予め決められた退避ギヤ段(2速ギヤ段又は3速ギヤ段)へ移行し、退避ギヤ段に固定するリンプホーム制御が実行される。ここで、固定された退避ギヤ段(2速ギヤ段又は3速ギヤ段)においてギヤ比異常が無いと、退避ギヤ段への固定がイグニッションオフになるまで維持される。なお、固定された退避ギヤ段(2速ギヤ段又は3速ギヤ段)においてギヤ比異常が有ると、退避ギヤ段への固定に加えてエンジントルクが制限される。
【0096】
次に、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が1速ギヤ段~7速ギヤ段であると、S5からS11→S12へと進み、所定時間が経過するまではS11→S12へと進む流れが繰り返される。S11では、全てのクラッチソレノイド20に対し解放指令が出力される。所定時間が経過すると、S12からS13→S14→S15→S16へと進む。S13では、中間軸をトランスミッションケースTCに固定する第1ブレーキB1の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段が決定される。S14では、決定した退避ギヤ段に固定される。そして、S16にて診断条件成立と判定されている間、S15→S16へと進む流れが繰り返され、S15では、固定された退避ギヤ段においてギヤ比異常無しか否かが判定される。S15にてギヤ比異常無しと判定されたままで、次のS16にて診断条件不成立と判定されると、S16からS17へ進み、S17にてイグニッションオフと判定されるとエンドへ進む。
【0097】
即ち、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が1速ギヤ段~7速ギヤ段である場合、ニュートラル状態へ移行し、ニュートラル状態から退避ギヤ段へ移行し、退避ギヤ段に固定するリンプホーム制御が実行される。そして、退避ギヤ段においてギヤ比異常が無いと、退避ギヤ段への固定状態がイグニッションオフになるまで維持される。
【0098】
S15にてギヤ比異常有りと判定されると、S15からS18へと進む。S18では、解放故障要素を推定することが可能であるか否かが判定される。S18にて解放故障要素の推定が可能であると判定されると、S18からS19→ステップS20→S22へと進む。S19では、中間軸をトランスミッションケースTCに固定する第1ブレーキB1の締結・解放判定情報とギヤ段移行による解放故障要素の推定情報に基づいて第2の退避ギヤ段が決定される。S20では、決定した第2の退避ギヤ段に固定される。一方、S18にて解放故障要素の推定が不可能であると判定されると、S18からS21→S22へと進む。S21では、エンジン1の上限トルクを制限する要求がトルク制限制御部110へ出力される。S22にてイグニッションオフと判定されるとエンドへ進む。
【0099】
即ち、ギヤ比異常が判定されたときのギヤ段が1速ギヤ段~7速ギヤ段である場合、ニュートラル状態へ移行し、ニュートラル状態から退避ギヤ段へ移行し、退避ギヤ段に固定する。そして、固定された退避ギヤ段においてギヤ比異常が有り、且つ、解放故障要素の推定が可能であると、退避ギヤ段から第2の退避ギヤ段へ移行し、第2の退避ギヤ段に固定するリンプホーム制御がイグニッションオフになるまで実行される。また、固定された退避ギヤ段においてギヤ比異常が有り、且つ、解放故障要素の推定が不可能であると、第2の退避ギヤ段へ移行することなく、退避ギヤ段への固定に加えてエンジントルクを制限するリンプホーム制御がイグニッションオフになるまで実行される。
【0100】
[リンプホーム制御作用]
ギヤ比異常が発生した場合のリンプホーム制御作用を、8速ギヤ段又は9速ギヤ段でギヤ比異常の場合、1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、に分けて説明する。
【0101】
〈8速ギヤ段又は9速ギヤ段でギヤ比異常の場合〉
・8速ギヤ段でギヤ比異常の場合、3速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒トルク制限へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・9速ギヤ段でギヤ比異常の場合、2速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒トルク制限へと移行するリンプホーム制御が行われる。
【0102】
8速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、図3に示す締結表から明らかなように、6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の締結/解放の組み合わせ関係が8速ギヤ段とは逆の組み合わせ関係となっていて、8速ギヤ段でいずれかの摩擦要素に誤締結又は誤解放が生じていても成立させることが可能な3速ギヤ段に移行させる。9速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、図3に示す締結表から明らかなように、6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の締結/解放の組み合わせ関係が9速ギヤ段とは逆の組み合わせ関係となっていて、9速ギヤ段でいずれかの摩擦要素に誤締結又は誤解放が生じていても成立させることが可能な2速ギヤ段に移行させる。このように、8速ギヤ段又は9速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、誤解放/誤締結が切り分けできないがリンプホーム先があることで、8速ギヤ段であると3速ギヤ段固定へ移行させ、9速ギヤ段であると2速ギヤ段固定へ移行させる。
【0103】
次に、退避先である3速ギヤ段固定又は2速ギヤ段固定でさらにギヤ比異常が発生した場合、誤解放故障、又は、ライン圧ソレノイド異常の可能性がある。これに対し、3速ギヤ段固定又は2速ギヤ段固定でさらにギヤ比異常が発生した場合は、誤解放故障要素を推定できない。このため、退避先ギヤ段を変更することなく、ライン圧ソレノイド異常対策としてトルク制限を実施する。
【0104】
〈1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合〉
・1速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒9速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・2速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒9速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・3速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒トルク制限へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・4速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・5速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・6速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結)の場合、ニュートラル状態⇒8速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
【0105】
このように、1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、8速ギヤ段や9速ギヤ段とは異なりリンプホーム先のギヤ段が無い。よって、リンプホーム先がない場合は、ニュートラル状態に退避させ、ニュートラル状態への移行後、中間軸回転センサ19からのセンサ信号を用いて探り制御を行う。即ち、1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常であって、中間軸回転センサ19により第1ブレーキB1が誤締結であることが検知されると、第1ブレーキB1を締結状態とする8速ギヤ段固定と9速ギヤ段固定のうち、ローギヤ段である8速ギヤ段固定へ移行する。
【0106】
次に、退避先の8速ギヤ段固定でさらにギヤ比異常が発生した場合、誤解放故障、又は、ライン圧ソレノイド異常の可能性がある。これに対し、1速ギヤ段及び2速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、退避先として選択可能な9速ギヤ段を第2の退避ギヤ段とする。3速ギヤ段でギヤ比異常の場合であって、8速ギヤ段固定でさらにギヤ比異常が発生した場合は、誤解放故障要素を推定できない。このため、退避先ギヤ段を変更することなく、ライン圧ソレノイド異常対策としてトルク制限を実施する。4速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常の場合には、退避先として8速ギヤ段でいずれかの摩擦要素に誤締結又は誤解放が生じていても成立させることが可能な3速ギヤ段を第2の退避ギヤ段とする。
【0107】
〈1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合〉
・1速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒5速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒6速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・2速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒4速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒5速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・3速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒6速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒7速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・4速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒6速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・5速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒2速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒1速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・6速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒4速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒3速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
・7速ギヤ段でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、ニュートラル状態⇒3速ギヤ段固定⇒ギヤ比異常⇒2速ギヤ段固定へと移行するリンプホーム制御が行われる。
【0108】
このように、1速ギヤ段~7速ギヤ段でギヤ比異常であって、中間軸回転センサ19により第1ブレーキB1が誤締結以外であることが検知されると、第1ブレーキB1が誤締結である場合と同様に、一旦、ニュートラル状態に退避させる。そして、ニュートラル状態への移行後、下記に述べるように、各ギヤ段での解放故障要素の推定に基づいて、成立可能なギヤ段を退避ギヤ段及び第2の退避ギヤ段として移行する。
【0109】
1速ギヤ段(K1,K2が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第1クラッチK1と第2クラッチK2を締結状態とする5速ギヤ段、6速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を5速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を6速ギヤ段とする。
【0110】
2速ギヤ段(B3,K1が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第3ブレーキB3と第1クラッチK1を締結状態とする4速ギヤ段、5速ギヤ段、7速ギヤ段、9速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を4速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を5速ギヤ段とする。
【0111】
3速ギヤ段(K1,K3が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第1クラッチK1と第3クラッチK3を締結状態とする6速ギヤ段、7速ギヤ段、8速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を6速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を7速ギヤ段とする。
【0112】
4速ギヤ段(K2,K3が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第2クラッチK2と第3クラッチK3を締結状態とする2速ギヤ段、6速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を6速ギヤ段とする。そして、第2の退避ギヤ段を、6速ギヤ段にて解放状態である第2ブレーキB2と第3ブレーキB3を締結状態とする3速ギヤ段とする。
【0113】
5速ギヤ段(B2,K3が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第2ブレーキB2と第3クラッチK3を締結状態とする1速ギヤ段、2速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を2速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を1速ギヤ段とする。
【0114】
6速ギヤ段(B2,B3が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3を締結状態とする1速ギヤ段、3速ギヤ段、4速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を4速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を3速ギヤ段とする。
【0115】
7速ギヤ段(B2,K2が解放状態)でギヤ比異常(B1誤締結以外)の場合、退避可能なギヤ段は、図3の締結表から明らかなように、第2ブレーキB2と第2クラッチK2を締結状態とする2速ギヤ段、3速ギヤ段である。よって、退避ギヤ段を3速ギヤ段とし、第2の退避ギヤ段を2速ギヤ段とする。
【0116】
[5速ギヤ段での走行中におけるギヤ比異常発生作用(図8図9)]
5速ギヤ段での走行中であって第1ブレーキB1の誤締結によりギヤ比異常が判定されたときの5速ギヤ段→ニュートラル→8速ギヤ段への移行作用を、図8に示すタイムチャートにより説明する。
【0117】
例えば、Dレンジ5速での減速中、時刻t1にて実ギヤ比が5速ギヤ段での設定ギヤ比から-H%の閾値を超えてギヤ比異常が生じると、時刻t1から±H%の閾値を超えるギヤ比異常の累積時間を算出する。つまり、時刻t1から時刻t2までの経過時間と、時刻t3から時刻t4までの経過時間と、時刻t5からの経過時間とを加算する。そして、時刻t6になったとき、ギヤ比異常の累積時間がギヤ比異常確定タイマーに到達すると、ギヤ比異常の異常確定と判定する。
【0118】
よって、時刻t6にて6個のクラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20fの全てに対して解放指令を出力し、5速ギヤ段からニュートラル状態へと移行する。そして、時刻t6から所定時間を経過した時刻t7にてニュートラル状態への移行を確認する。時刻t7からは中間軸回転センサ19からの中間軸回転(=インタミ回転)を監視し、インタミ回転が時刻t7から所定時間を経過した時刻t8までインタミ回転速度=0の状態が継続すると、時刻t8にて第1ブレーキB1が誤締結であると判定する。
【0119】
このように、5速ギヤ段での減速中、ギヤ比異常が生じ、ニュートラル状態へ移行した後、第1ブレーキB1が誤締結であると判定されたため、時刻t8にてニュートラル状態から退避ギヤ段である第8速ギヤ段へ変速し、その後、第8速ギヤ段のままでギヤ段を固定する。このため、時刻t8以降は、第1ブレーキB1を締結状態とする第8速ギヤ段固定を退避ギヤ段とし、車両のリンプホーム走行が確保されることになる。
【0120】
次に、5速ギヤ段での走行中であって第1ブレーキB1の誤締結以外によりギヤ比異常が判定されたときの5速ギヤ段→ニュートラル→2速ギヤ段への移行作用を、図9に示すタイムチャートにより説明する。
【0121】
例えば、Dレンジ5速での減速中、時刻t1にて実ギヤ比が5速ギヤ段での設定ギヤ比から-H%の閾値を超えてギヤ比異常が生じると、時刻t1から±H%の閾値を超えるギヤ比異常の累積時間を算出する。つまり、時刻t1から時刻t2までの経過時間と、時刻t3から時刻t4までの経過時間と、時刻t5からの経過時間とを加算する。そして、時刻t6になったとき、ギヤ比異常の累積時間がギヤ比異常確定タイマーに到達すると、ギヤ比異常の異常確定と判定する。
【0122】
よって、時刻t6にて6個のクラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20fの全てに対して解放指令を出力し、5速ギヤ段からニュートラル状態へと移行する。そして、時刻t6から所定時間を経過した時刻t7にてニュートラル状態への移行を確認する。時刻t7からは中間軸回転センサ19からの中間軸回転(=インタミ回転)を監視し、インタミ回転が時刻t7から所定時間を経過した時刻t8までインタミ回転速度>の状態が継続すると、時刻t8にて第1ブレーキB1が解放であると判定する。
【0123】
このように、5速ギヤ段での減速中、ギヤ比異常が生じ、ニュートラル状態へ移行した後、第1ブレーキB1は解放であると判定されたため、時刻t8にてニュートラル状態から退避ギヤ段である第2速ギヤ段へ変速し、その後、第2速ギヤ段のままでギヤ段を固定する。このため、時刻t8以降は、第1ブレーキB1を解放状態とする第2速ギヤ段固定を退避ギヤ段とし、車両のリンプホーム走行が確保されることになる。
【0124】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を奏する。
【0125】
(1) 有段変速機構に有する複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3のそれぞれに設けられた変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20f)を制御し、複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニット10を備える自動変速機3の制御装置であって、変速機コントロールユニット10は、ギヤ比異常判定部101aとリンプホーム制御部101cを有し、
ギヤ比異常判定部101aは、所定ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と所定ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
リンプホーム制御部101cは、ギヤ比異常判定部101aがギヤ比異常を判定すると、複数の摩擦要素を全て解放する解放指示を出力し、
解放指示の出力によりニュートラル状態への移行が確認されると、有段変速機構に有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて、複数の摩擦要素のうち特定の摩擦要素の締結・解放を判定し、
特定の摩擦要素の締結・解放の判定情報に基づいて退避ギヤ段を決定し、決定した退避ギヤ段へ変速する。
このため、設定ギヤ比から実ギヤ比が乖離するギヤ比異常が発生した場合、誤締結要素による急減速を回避しつつ、リンプホーム制御に移行して車両の走行性を確保することができる。
【0126】
(2) 有段変速機構(ギヤトレーン3a)に有する回転メンバは、有段変速機構に有し、変速機入力軸IN及び変速機出力軸OUT以外の中間軸(第1キャリアC1)であり、
中間軸の回転を検出する中間軸回転センサ19の回転/停止情報に基づいて、中間軸をトランスミッションケースTCに固定する摩擦要素(第1ブレーキB1)の締結・解放を判定する。
このため、ギヤ比異常判定によりニュートラル状態へ移行した後、中間軸回転センサ19の停止情報に基づいて摩擦要素(第1ブレーキB1)の誤締結を判定することができる。さらに、中間軸回転センサ19の回転情報に基づいて摩擦要素(第1ブレーキB1)の解放を判定することができる。
【0127】
(3) ギヤ比異常判定部101aは、退避ギヤ段への変速後、退避ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と退避ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
リンプホーム制御部101cは、ギヤ比異常判定部101aが退避ギヤ段でのギヤ比異常を判定し、且つ、解放故障要素が推定されると、解放故障要素の推定に基づいて退避ギヤ段を変更し、変更した第2の退避ギヤ段に変速する。
このため、退避ギヤ段でギヤ比異常が判定された場合、解放故障要素の推定に基づいて第2の退避ギヤ段に変速することで、解放故障によりギヤ比異常が発生してもリンプホーム性を確保することができる。即ち、誤締結故障を疑って退避ギヤ段へ移行するが、解放故障要素が存在した場合には、退避ギヤ段においてもギヤ比異常が発生する可能性があり、ギヤ比異常が発生すると解放故障でもリンプホーム性を確保する必要がある。
【0128】
(4) 変速機入力軸INに連結される走行用駆動源(エンジン1)を制御する走行用駆動源コントローラ(エンジンコントロールモジュール11)に、変速機コントロールユニット10からの要求により走行用駆動源の上限トルクを制限するトルク制限制御部110を有し、
ギヤ比異常判定部101aは、退避ギヤ段への変速後、退避ギヤ段による走行中、変速機入力軸回転速度と変速機出力軸回転速度から算出される実ギヤ比と退避ギヤ段における設定ギヤ比の差が設定値以上になるとギヤ比異常と判定し、
リンプホーム制御部101cは、ギヤ比異常判定部101aが退避ギヤ段でのギヤ比異常を判定し、且つ、解放故障要素が推定されないと、ライン圧制御の機能異常と判定し、走行用駆動源の上限トルクを制限する要求をトルク制限制御部110へ出力する。
このため、退避ギヤ段でギヤ比異常が判定された場合、解放故障要素の推定できないと、ライン圧制御の機能異常判定に基づいて走行用駆動源(エンジン1)の上限トルクを制限することで、摩擦要素の熱劣化を抑制することができる。即ち、退避ギヤ段でギヤ比異常が判定された場合、摩擦要素の中に滑り摩擦要素が存在することが考えられる。このとき、高入力トルクでの滑り状態が継続すると、摩擦要素の熱劣化を進行させることになるため、入力トルクを低く抑え、摩擦要素の熱劣化進行を遅らせる必要がある。
【0129】
(5) リンプホーム制御部101cは、走行中にギヤ比異常を判定したときに選択されているギヤ段が特定の摩擦要素(第1ブレーキB1)を締結状態として成立する第1ギヤ段(第8速ギヤ段、第9速ギヤ段)であるか否かを判定し、
第1ギヤ段による走行中にギヤ比異常を判定すると、ニュートラル状態へ移行することなく、複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の締結/解放の組み合わせ関係が第1ギヤ段とは逆の組み合わせ関係となっている第2ギヤ段(第3速ギヤ段、第2速ギヤ段)を退避ギヤ段として決定し、決定した第2ギヤ段へ変速する。
このため、走行中にギヤ比異常を判定したときのギヤ段が第1ギヤ段(第8速ギヤ段、第9速ギヤ段)である場合、ニュートラル状態へ移行することなく、応答良くリンプホーム先のギヤ段へ移行し、車両のリンプホーム走行を確保することができる。
【0130】
(6) 変速機コントロールユニット10は、摩擦要素の締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令を変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20f)へ出力する変速系ソレノイド制御部101dを有する。
このため、走行中にギヤ比異常を判定したとき、ヒューズクラッチが不定でありながらも、急減速を回避することができるし、リンプホーム性を確保することができる。加えて、エンジン車の場合には、インギヤ中の締結油圧を低く抑えることで、ポンプ負荷の低減による燃費性能の向上を図ることができる。
【0131】
以上、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0132】
実施例1では、リンプホーム制御部101cとして、ギヤトレーン3aに有する回転メンバの回転/停止情報に基づいて特定の摩擦要素の締結・解放を判定する際、中間軸回転センサ19の回転/停止情報に基づいて第1ブレーキB1の締結・解放を判定する例を示した。しかし、リンプホーム制御部としては、ギヤトレーンに有する回転メンバの回転/停止情報を検出するセンサであれば、中間軸回転センサに限定されない。例えば、第2ブレーキや第3ブレーキの締結・解放を検出する回転センサを用いても良い。
【0133】
実施例1では、変速機コントロールユニット10として、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する変速系ソレノイド制御部101dを有する例を示した。しかし、変速機コントロールユニットとしては、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力する変速制御部を有する例に対しても適用することができる。
【0134】
実施例1では、自動変速機として、6個の摩擦要素を有し、3個の摩擦要素の締結により前進9速後退1速を達成する自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、2個の摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良いし、4個の摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良い。また、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギヤ段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と多段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0135】
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機3の制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機の制御装置としても適用することが可能である。
【0136】
本願は、2019年11月29日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-216986号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9