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特許7185798アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子及びその製造方法、熱伝導性組成物、物品、液状組成物、熱伝導性薄膜、並びに、電子機器用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子及びその製造方法、熱伝導性組成物、物品、液状組成物、熱伝導性薄膜、並びに、電子機器用部材
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/442 20220101AFI20221130BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221130BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221130BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20221130BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20221130BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20221130BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C01F7/442
C08K3/22
C08L101/00
C08K3/30
C08K3/38
C08K3/34
C09K5/14 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022073469
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-05-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 章
(72)【発明者】
【氏名】山根 健一
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00
C08K
C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム原料、及びガラスフリットを含有する原料混合物(ただし、ホウ酸化合物を含有するものを除く)を焼成して得られるアルミナ系熱伝導性酸化物の粒子であって、
前記アルミニウム原料が、ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ガラスフリットの屈伏点が300℃以上800℃以下であり、
前記原料混合物中の前記ガラスフリットの含有量が、前記アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記アルミナ系熱伝導性酸化物の一次粒子は、平均粒径が1μm以上50μm以下であり、平均厚みが0.1μm以上5μm以下であり、アスペクト比が1超50以下であり、形状が丸み盤状である、アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
【請求項2】
前記原料混合物が、さらに前記ガラスフリット以外の酸化物原料を含有し、前記酸化物原料がチタン化合物、リン化合物、タングステン化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでなる、請求項1に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
【請求項3】
前記アルミナ系熱伝導性酸化物が、鉄、コバルト、銅、マンガン、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、着色している、請求項1に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
【請求項4】
前記ガラスフリットが、鉛を含有しないものである、請求項1に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子の製造方法であって、
ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルミニウム原料と、ガラスフリットとを混合して原料混合物を得る工程と、
得られた前記原料混合物を焼成する工程と、を備え、
前記原料混合物中の前記ガラスフリットの含有量が、前記アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上質量部以下であり、
前記原料混合物を焼成する工程では、前記原料混合物を空気中1000℃以上1400℃以下で焼成する、アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子と、熱伝導性フィラーと、を含有する、熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を含有する、物品。
【請求項8】
熱伝導性フィラーをさらに含有する、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記物品は、グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物のいずれかである、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
熱伝導性薄膜を形成するために用いられる液状組成物であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を含む熱伝導性成分と、膜形成用樹脂と、液媒体と、を含有する液状組成物。
【請求項11】
前記熱伝導性成分が、熱伝導性フィラーをさらに含有し、
前記熱伝導性フィラーが、硫酸バリウム、タルク、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項10に記載の液状組成物。
【請求項12】
前記膜形成用樹脂100質量部に対する、前記熱伝導性成分の含有量が、50質量部以上600質量部以下である、請求項10に記載の液状組成物。
【請求項13】
前記膜形成用樹脂が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種の溶剤可溶性樹脂である、請求項10に記載の液状組成物。
【請求項14】
請求項10に記載の液状組成物を塗工して形成される、熱伝導性薄膜。
【請求項15】
金属製部材と、前記金属製部材の表面上に配置された請求項14に記載の熱伝導性薄膜と、を備える、電子機器用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填性に優れるアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、熱伝導性材料として数多くの素材が検討されている。半導体素子の集積度の向上に伴い、放熱への要求はますます強くなっており、従来よりもはるかに高い熱伝導性及び絶縁性を有する材料の開発が不可欠となっている。このような要求を満たす材料として、熱伝導性のフィラーを樹脂に練り込んで得られるコンポジット材料(樹脂組成物)が知られている。
【0003】
コンポジット材料に用いられるフィラーとしては、アルミナは耐水性、耐酸性、及び絶縁性に優れているとともに、良好な熱伝導性を有し、かつ、安価であることから、多くの場面で用いられている。アルミナにも種々の形状のものが知られており、真球状、丸み状、不定形状、及び板状等がある。この中でも板状のアルミナは熱伝導性フィラー、光輝性顔料、研磨剤、摺動材、滑剤、及びバリアー材等多くの用途がある。熱伝導性フィラーへの応用を図る場合、樹脂への練り込み性(充填性)、高い熱伝導性に優れたアルミナは強く求められている。
【0004】
板状アルミナの製法としては、従来から多くの方法が知られている。関連する従来技術としては、塩化ナトリウム、及び硫酸カリウム等の多量の希釈材中において、鉱化剤として氷晶石といった金属フッ化物を添加しアルミニウム原料を熱処理する方法(特許文献1)がある。また、硫酸アルミニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の混合溶液を、オートクレーブ中にて水熱反応を行い製造する方法(特許文献2)がある。また、アルミニウム原料、形状制御材、及び酸化モリブデンを焼成時に添加することにより、ゼータ電位から高い分散性となりうることを主張している板状粒子およびその製造方法(特許文献3)がある。さらに、アルミニウム原料と、フリットや金属酸化物を用いたアルミナ系熱伝導性粒子の製造方法(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2006-515557号公報
【文献】特開2008-195569号公報
【文献】特開2019-123664号公報
【文献】特開2018-145025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミナはモース硬度が高く、ブレードや押出機の軸へ負荷をかけてしまうため樹脂組成物等への練り込みが難しく、さらに摩耗した部品が混入し、コンタミの原因となってしまう。また、板状のアルミナについてはその形状から光輝材や滑剤、摺動材等多用途への展開が図られているが、熱伝導材への応用を見ると、その形状からくる樹脂への充填性がその他のアルミナに比べて劣る傾向があるものである。
特許文献1の希釈剤と鉱化剤を用いた方法や、特許文献2の水熱法による合成では、いずれも小粒径でアスペクト比の高い粒子は生成されているものの、特許文献1では原料の水酸化アルミニウムを事前に粉砕する必要があり、また熱処理後には多量の希釈材を水洗除去する必要がある。希釈材は鋼板を腐食させやすい成分でもあることから、製造設備への負荷が大きくなる課題がある。また、特許文献2の水熱法では特殊な製造設備が必要となること、高温、高圧での反応であるため、装置の大きさには制限があり、一度に製造できる量が少ないという制約もある。
【0007】
特許文献3で提案されたアルミニウム原料、形状制御材、酸化モリブデンを焼成時に添加する方法では、モリブデンの添加量がアルミニウム原料に対し数十パーセントに及び、焼成時に気散するものの、一部残留するモリブデンの含有量を粒子表面の洗浄によりある程度減らしてはいる。しかしながら、該特許では、健康有害性の指摘があるモリブデンが粒子中に存在しているため、この粒子を含んだ製品の取り扱いについては注意する必要がある。また、アルミニウム原料については特に言及されておらず、使用するアルミニウム原料の違いにより、どのような影響があるかについては述べられていない。更に、該特許においては、ゼータ電位の測定により高い分散性となりうることを主張しているが、実際に高分子材料等へ適用した例はなく、また熱伝導性についても実験データがないことから、高分子組成物中にどれだけ添加できるか、添加した際に熱伝導率がどのように変化するかは不明である。
【0008】
特許文献4で提案されたガラスフリットや金属酸化物を用いたアルミナ系熱伝導性粒子では、使用する材料は近いものの、該特許では粒子径が球状と思料される物となっている。しかしながら、該特許では、他の形状に制御できるとの記述はあるものの、実際に球状以外の粒子を作製しておらず、また、形状を変化させるための詳細な手法が記載されていない。さらに、樹脂組成物等への充填量や、充填性について示されていない。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、熱伝導性のみならず、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能なアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子、及びその製造方法を提供することにある。本発明では、ガラスフリットと、場合によっては酸化物原料を使用することにより結晶性に優れ、アスペクト比や粒子表面状態を調整しうることを見出したものである。特に従来の板状アルミナに比べ厚みのある盤状が得られやすく、丸み盤状からアスペクト比のそれほど大きくない盤状を簡便に得る方法である。また粒子の性状として鋭利な角がなく、全体としても丸みを帯びた粒子形状を取ることで、樹脂への練り込み性(充填性)が向上していることも特徴になっている。本発明の課題とするところは、上記アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を用いた熱伝導性組成物及び物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示すアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子及びその製造方法が提供される。
[1]アルミニウム原料、及びガラスフリットを含有する原料混合物を焼成して得られるアルミナ系熱伝導性酸化物の粒子であって、
前記アルミニウム原料が、ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ガラスフリットの屈伏点が300℃以上800℃以下であり、
前記原料混合物中の前記ガラスフリットの含有量が、前記アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記アルミナ系熱伝導性酸化物の一次粒子は、平均粒径が1μm以上50μm以下であり、平均厚みが0.1μm以上5μm以下であり、アスペクト比が150以下であり、形状が丸み盤状である、アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
[2]前記原料混合物が、さらに前記ガラスフリット以外の酸化物原料を含有し、前記酸化物原料がホウ素化合物、チタン化合物、リン化合物、タングステン化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでなる、[1]に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
[3]前記アルミナ系熱伝導性酸化物が、鉄、コバルト、銅、マンガン、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、着色している、[1]又は[2]に記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
[4]前記ガラスフリットが、鉛を含有しないものである、[1]~[3]のいずれかに記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子の製造方法であって、
ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルミニウム原料と、ガラスフリットとを混合して原料混合物を得る工程と、
得られた前記原料混合物を焼成する工程と、を備え、
前記原料混合物中の前記ガラスフリットの含有量が、前記アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記原料混合物を焼成する工程では、前記原料混合物を空気中1000℃以上1400℃以下で焼成する、アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子の製造方法。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す熱伝導性組成物及び物品が提供される。
[6][1]~[4]のいずれかに記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子と、熱伝導性フィラーと、を含有する、熱伝導性組成物。
[7][1]~[4]のいずれかに記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を含有する、物品。
[8]熱伝導性フィラーをさらに含有する、[7]に記載の物品。
[9]前記物品は、グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物のいずれかである、[7]又は[8]に記載の物品。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下に示す液状組成物、熱伝導性薄膜、及び電子機器用部材が提供される。
[10]熱伝導性薄膜を形成するために用いられる液状組成物であって、
[1]~[4]のいずれかに記載のアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を含む熱伝導性成分と、膜形成用樹脂と、液媒体と、を含有する液状組成物。
[11]前記熱伝導性成分が、熱伝導性フィラーをさらに含有し、
前記熱伝導性フィラーが、硫酸バリウム、タルク、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種である、[10]に記載の液状組成物。
[12]前記膜形成用樹脂100質量部に対する、前記熱伝導性成分の含有量が、50質量部以上600質量部以下である、[10]又は[11]に記載の液状組成物。
[13]前記膜形成用樹脂が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種の溶剤可溶性樹脂である、[10]~[12]のいずれかに記載の液状組成物。
[14][10]~[13]のいずれかに記載の液状組成物を塗工して形成される、熱伝導性薄膜。
[15]金属製部材と、前記金属製部材の表面上に配置された[14]に記載の熱伝導性薄膜と、を備える、電子機器用部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導性のみならず、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能なアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子、及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を用いた熱伝導性組成物及び物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2で得られたアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を示す電子顕微鏡写真である。
図2】実施例19で得られたアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を示す電子顕微鏡写真である。
図3】実施例26で得られたアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を示す電子顕微鏡写真である。
図4】比較例2で得られたアルミナ系熱伝導性粒子を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<アルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子>
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態に係るアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子(以下、単に「丸み盤状粒子」とも記すこともある)は、アルミニウム原料を含有する原料混合物を焼成して得られるものである。また、アルミニウム原料が、ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種である。原料混合物は、さらにガラスフリットを含有し、場合によってはホウ素化合物、チタン化合物、リン化合物、タングステン化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも一種のガラスフリット以外の酸化物原料を含有する。そして、原料混合物中のガラスフリットの含有量がアルミニウム原料100質量部に対し0.5質量部以上5質量部以下である。以下、本実施形態に係る丸み盤状粒子の詳細について説明する。
【0016】
樹脂は一般的に熱伝導性が低い。このため、樹脂製物品の熱伝導性を向上させようとするには、通常、アルミナ等の熱伝導性フィラーを樹脂に多量に添加する手法が採用される。熱伝導性フィラーを樹脂に配合し、熱伝導性フィラー同士が接点を持つように樹脂中に分散させることで、熱伝導性フィラー特有の熱伝導性が発揮される。但し、より高い熱伝導性を発揮させるには、より大粒径のアルミナを使用するか、或いは真球状のアルミナを使用するかして、大量のアルミナを樹脂に分散しやすいように設計する。しかし、このように設計されたアルミナを樹脂に配合すると、アルミナ同士の接点が少なくなり、熱伝導性はさほど向上しないことが多い。一方、粒子径のより小さいアルミナを樹脂に添加すると、樹脂への練り込み性(充填性)が低下して大量のアルミナを樹脂中に分散させることが困難になり、熱伝導性を向上させることが困難になる。
一方、板状アルミナは形状異方性を持つため、面接触の機会が増え、面方向の熱伝導率を高くすることができる。しかしながら、板状であることから、真球状や破砕アルミナと比較した場合、樹脂への充填性が劣る場合が多く、高熱伝導を達成するための配合上の制約を受けるものが多いのが現状である。
【0017】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、水酸化アルミニウム等のアルミニウム原料、ガラスフリット、場合によってはガラスフリット以外の酸化物原料を所定の割合で含有する原料混合物を焼成して得られるものである。ガラスフリットは、単にフリットや多成分ガラスとも呼ばれるもので、主として窯業用に用いられるものであるが、本発明者らはこれがアルミナの形状異方性をもたらすものに好適であることを見出した。ガラスフリットは焼成温度以下で融解するものがよく、これが融解することによりアルミナの結晶成長時に、アルミナの結晶方向を規定し、本実施形態に係る丸み盤状粒子が得られるものと推察している。またガラスフリットは融解するとともに、鉱化剤としても機能し、α-アルミナを通常より低温で得られる利点もある。少量添加により丸み盤状のα-アルミナを容易に得られ、鉱化剤としての働きも相まって表面を滑らかにする効果もあり、樹脂に対する濡れ性が高い丸み盤状粒子が得られるので、熱伝導性が向上するとともに、成形性にも優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能となる。また、丸み盤状以外の、例えば球状や多角状といったような形状を持つその他熱伝導性フィラーと組み合わせることにより、フィラー同士の接点をより多く作ることも可能であり、好ましい使用の一つである。
【0018】
ガラスフリットは、いくつかの金属が均一に溶け合った構成をしている。この構成する金属の酸化物をそれぞれの金属酸化物に分けて添加しても、各金属酸化物の融点が異なり、本実施形態のような効果をもたらさない。ガラスフリットという多成分ガラスになったものを使用する必要性がここにあることは、本発明者らは確認している。
ただし、ガラス成分であるため、過剰な添加では融解したガラスフリットが粒子同士を融着させてしまい、サイズの大きい粒子や、凝集体のような形となり、分散性の悪い粒子になってしまうことから、ある特定範囲にガラスフリットの使用量を本発明者らは規定している。
【0019】
前記ガラスフリットに加えて、さらに、前記ガラスフリット以外の酸化物原料を混合してもよい。これらの成分は、ガラスフリット成分を補助する目的で使用される。酸化物原料は、凝集性となりやすい場合や、α化に難のある場合、アスペクト比を調整したい場合等の問題を解決させるために添加される。
【0020】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、一次粒子が下記の条件を満たすものであることが必要である。
平均粒径は、1μm以上50μm以下であることが必要である。平均粒径が1μm未満である場合には、樹脂への練り込み性(充填性)が低下してしまう。一方、平均粒径が50μmを超えると、熱伝導性の向上効果が不足してしまう。このような観点から、平均粒径は、1.1μm以上30μm以下であることが好ましく、1.2μm以上20μm以下であることがより好ましい。
平均厚みは、0.1μm以上5μm以下であることが必要である。平均厚みが0.1μm未満である場合には、樹脂への練り込み性が低下してしまう。一方、平均厚みが5μmを超えると、アスペクト比が高い粒子を得にくくなる。このような観点から、平均厚みは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましく、0.3μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
アスペクト比は、1を超えて50以下であることが必要である。アスペクト比については、平均粒径の値を平均厚みの値で除すること(平均粒径/平均厚み)によって算出される。アスペクト比が1の場合、形状異方性を持たないため、特に薄膜等の形状での熱伝導性の効果が充分に発揮できない。一方、アスペクト比が50を超えた場合、樹脂中への充填性が劣るようになり、熱伝導材に求められる高充填での使用に難が出てきてしまう。このような観点から、アスペクト比は、2以上45以下であることが好ましく、3以上40以下であることがより好ましく、3.5以上36以下であることが特に好ましい。
粒子形状は、丸み盤状であることが必要である。粒子形状は、電子顕微鏡での観察結果から確認できる。
【0021】
本明細書において、平均粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置を用いて、測定できる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。また、電子顕微鏡での観察結果からも、平均粒径を測定でき、この方法でも、測定値は、レーザ回折式粒子径分布測定装置による測定値とほぼ同様の値となる。
平均厚みは、電子顕微鏡での観察結果からも、平均粒径を測定できる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0022】
本実施形態に係る丸み盤状粒子の樹脂への練り込み性(充填性)については、様々な樹脂に対して良好であるが、本実施形態においては一例として、電子部品に使用されることが多いエポキシ樹脂に対しての充填量評価で判断している。評価方法としては、エポキシ樹脂100質量部に対して、250質量部以上充填できるものが好ましく、300質量部以上充填できるものがより好ましい。250質量部未満であると、樹脂への親和性が低く分散不良となり、また樹脂に対する熱伝導性粒子の量が少ないため、充分な熱伝導性を発揮することができない。また、充填量は1000質量部以下であることが好ましい。1000質量部を超えると、丸み盤状粒子が多すぎて、樹脂の成形性や加工性、強度が劣ってしまうためである。
【0023】
本実施形態に係る丸み盤状粒子の熱伝導性については、エポキシ樹脂30質量部に対して、70質量部添加した際の数値を指標とした。その際のエポキシ樹脂組成物の熱伝導率が0.9W/m・K以上であることが好ましい。これにより、電子部品に使用した際に、高熱伝導率となり目的である放熱性能を達成することができる。
【0024】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、熱伝導性に優れているとともに、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れている。しかも、樹脂に対する濡れ性が高く、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であることから、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や、塗料や接着剤組成物等の物品を製造することが可能なものである。
【0025】
(アルミニウム原料)
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、アルミニウム原料、ガラスフリット、場合によりガラスフリット以外の酸化物原料を含有する原料混合物を焼成して得られるものであり、好ましくはα-アルミナを主成分として構成されている。アルミニウム原料は、水酸化アルミニウム、及びベーマイトからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0026】
アルミニウム原料としては、ベーマイトや水酸化アルミニウムを用いることができる。アルミニウム原料の形状及び粒径は、特に限定されないが、丸み盤状粒子の分散性等を考慮すると平均粒径が1μm以上50μm以下の粒子であることが好ましい。より具体的なアルミニウム原料の形状としては、球状や無定形等を挙げることができる。アルミニウム原料としてアルミナを使用した場合は、本実施形態で言う丸み盤状の粒子を生成させることが困難であり使用に適さない。
【0027】
(原料混合物)
アルミニウム原料とともに用いる原料混合物は、ガラスフリットに加えて、ガラスフリット以外の酸化物原料を含んでいてもよい。この酸化物原料は、ホウ素化合物、チタン化合物、リン化合物、タングステン化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも一種である。これらは丸み盤状粒子の分散性向上、アルミナのα化促進、又はアスペクト比調整の作用をもたらすものである。
【0028】
(ガラスフリット)
ガラスフリットは、数種類の元素により構成されている。アモルファス(非晶質)である物質において融点は存在せず、代わりに軟化点、屈伏点が存在するが、本実施形態では屈伏点に注目した。ガラスフリットの屈伏点は、300℃以上800℃以下であることが必要である。屈伏点が300℃以下であると粒子の融着する割合が多くなり分散性に劣る粒子となり、屈伏点が800℃以上であると本実施形態に係る丸み盤状粒子を形成させることが困難となり好ましくない。このような観点から、ガラスフリットの屈伏点は、350℃以上600℃以下であることが好ましく、380℃以上550℃以下であることがより好ましい。ガラスフリットとしては、ケイ素、ホウ素を含有するとともに、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、フッ素、チタン及びリンからなる群より選択される少なくとも一種の元素をさらに含有するものが好ましい。このような組成のガラスフリットを用いることにより丸み盤状粒子の生成が起こり、樹脂に対する濡れ性が向上し、樹脂への練り込み性(充填性)をより高めることができる。さらに、環境対応の観点から、ガラスフリットは鉛を含有しないことが好ましい。
【0029】
(酸化物原料)
ガラスフリット以外の酸化物原料の例として、ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸マグネシウム、及びホウ酸リチウム等を挙げることができる。チタン化合物としては、ルチル型、又はアナターゼ型の酸化チタン等を挙げることができる。リン化合物としてはオルトリン酸、メタリン酸、オルトリン酸ソーダ、及びメタリン酸ソーダ等を挙げることができる。タングステン化合物としては、酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、及びタングステン酸ナトリウム等を挙げることができる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、及びビスマス酸ナトリウム等を挙げることができる。中でも、ホウ酸、タングステン酸ナトリウム、酸化ビスマス、又は塩基性炭酸ビスマスを用いると、充填率の高い丸み盤状粒子が形成されるため好ましい。さらに、鉄、コバルト、銅、マンガン、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有させることで、着色した熱伝導性丸み盤状粒子とすることができる。
【0030】
前記酸化物原料は、熱分解又は相転移して酸化物を生成するものであればよく。酸化物以外では、水酸化物、オキソ酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニウム塩等のものを用いることができる。熱分解又は相転移して酸化物を生成する成分を酸化物原料として用いることで、粒子径を制御することができるとともに、反応を均一化することができ、かつ、粒子表面を滑らかにすることができる。
【0031】
原料混合物中のガラスフリットの含有量は、アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下であることが必要である。アルミニウム原料100質量部に対するガラスフリットの量が0.5質量部未満であると、丸み盤状の形状の発現が弱く、丸み盤状粒子としての効果を期待することができない。またアルミニウム原料100質量部に対するガラスフリットの添加量が5質量部を超えると、ガラスフリット融解に伴う粒子同士の融着が起きてきて分散性の悪い丸み盤状粒子となってしまう。このような観点から、原料混合物中のガラスフリットの含有量は、アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部超3質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以上3質量部未満であることがより好ましく、1質量部以上2質量部以下であることが特に好ましい。
原料混合物中のガラスフリット以外の酸化物原料の含有量は、アルミニウム原料100質量部に対して、0.1質量部以上6質量部以下であることが好ましい。一方、アルミニウム原料100質量部に対するガラスフリット以外の酸化物原料の量が6質量部を超えると、ガラスフリットの丸み盤状化の効果に悪影響を与える場合があり、熱伝導性がかえって低下する傾向にある。アルミニウム原料100質量部に対するガラスフリット以外の酸化物原料の量が0.1質量部より少ないと、目的とする丸み盤状粒子が得られなくなってくる傾向にある。このような観点から、原料混合物中のガラスフリット以外の酸化物原料の含有量は、アルミニウム原料100質量部に対して、0.2質量部以上3質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上2質量部以下であることが特に好ましい。
アルミニウム原料100質量部に対するガラスフリット、及びガラスフリット以外の酸化物原料の量を上記の範囲とすることで、本実施形態に係る丸み盤状粒子について諸耐性を維持しつつ、熱伝導性、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能な丸み盤状粒子とすることができる。
【0032】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、アルミニウム原料に対するガラスフリットや、ガラスフリット以外の酸化物原料の添加量が少なく設計できるため、アルミナの熱伝導性への影響は少ない。また粉体の混合物を焼成する簡略なプロセスで製造できることはコスト的にも利点となる。さらに樹脂への充填性がよいことから、熱伝導性フィラーへの応用を考えた時、従来の板状粒子で問題になりやすいフィラーの高添加量での設計ができにくいとの課題も解決することができる。
【0033】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、熱伝導性フィラーとして好適に使用できるものであるが、丸み盤状アルミナの用途である、研磨剤、反射材、摺動材、ガスバリアー材、潤滑剤、硬度補強材、又は機械強度補強材等、使用条件にマッチした用途にも十分使用可能なものである。
【0034】
(表面処理)
本実施形態に係る丸み盤状粒子は表面処理を行ってもよい。表面処理した丸み盤状粒子は、樹脂に対する親和性及び分散性が向上するため、熱伝導性に優れた樹脂組成物等の物品を製造することができる。表面処理に使用する化合物(処理剤)としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、リン酸エステル、リン酸エステル金属塩、シランカップリング剤、界面活性剤、高分子凝集剤、チタネート、及びシリコーン等を挙げることができる。これらの処理剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。表面処理に用いる化合物の量は、丸み盤状粒子100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。処理方法としては、例えば、丸み盤状粒子の粉末に処理剤を投入し、混合して処理する方法や、丸み盤状粒子の粉末を水に投入して分散させた後、さらに処理剤を投入し、濾過及び乾燥する方法等がある。
【0035】
(丸み盤状粒子の使用)
本実施形態に係る丸み盤状粒子の好ましい利用のなかでも、熱伝導性付与を目的とした、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の種々のプラスチックスへの添加が有効である。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、及びポリアリレート樹脂等を用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、及び(変性)ポリフェニレンエーテル等を用いることができる。これらの熱硬化性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
<アルミナ系丸み盤状粒子の製造方法>
次に、本実施形態に係る丸み盤状粒子の製造方法について説明する。本実施形態に係る丸み盤状粒子の製造方法は、アルミニウム原料、ガラスフリット、場合によってガラスフリット以外の酸化物原料を混合して原料混合物を得る工程(工程(1))と、得られた原料混合物を焼成する工程(工程(2))とを有する。
この製造方法によれば、従来の板状アルミナに比べ厚みのある盤状が得られやすく、丸み盤状からアスペクト比のそれほど大きくない盤状を簡便に得られる。この理由については、必ずしも明らかではないが、次のとおりであると本発明者らは推察している。すなわち、ガラスフリットが焼成温度以下で融解することにより、アルミナの結晶成長時に、アルミナの結晶方向を規定し、本実施形態に係る丸み盤状粒子が得られるものと本発明者らは推察している。
【0037】
工程(1)では、アルミニウム原料、ガラスフリット、場合によってガラスフリット以外の酸化物原料を混合する。アルミニウム原料と酸化物原料を混合する装置としてはポットミル、ヘンシェルミキサー、エアーミックス、コニカルブレンダー、遊星ボールミル、振動ミル、リボンミキサー、及びバーチカルブレンダー等の機器を使用して各成分を混合した後、焼成する。各成分の混合に際しては、各成分が均一となるように混合すればよく、各成分の粒子を粉砕する必要はない。
原料混合物中の各成分の量については、前述のとおりである。
【0038】
工程(2)では、工程(1)で得た原料混合物を、1,000℃以上1,400℃以下で焼成する。また、好ましくは1,100℃以上1,300℃以下で焼成する。焼成することによって、アルミニウム原料が結晶化したα-アルミナとすることができる。焼成温度が1,000℃未満であると、α-アルミナ構造が形成されにくくなる。遷移アルミナの熱伝導率はα-アルミナの熱伝導率よりも低いため、焼成してα-アルミナを形成させることが好ましい。一方、焼成温度が1,400℃を超えても、得られる丸み盤状粒子の特性は大きく変化せず、エネルギー消費が無駄になる。焼成後、必要に応じて焼成物を解砕することで本実施形態に係るアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を得ることができる。解砕については公知の方法を用いてよく、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、ビーズミル、又は振動ミル等、従来から用いられている各種機器を使用することができる。
【0039】
<熱伝導性組成物>
熱伝導性組成物において、本実施形態に係る丸み盤状粒子に加え、アルミナ、窒化ホウ素、グラファイト、酸化亜鉛、硫酸バリウム、タルク、及び酸化マグネシウム等、その他の熱伝導性フィラーと組み合わせて使用するのも好ましい様態である。以下その詳細について説明する。
【0040】
一般的なフィラーは、強度や機能性の向上等を目的として、樹脂、ゴム、及び塗料等の材料に添加される。熱伝導性フィラーの配合量が増加すると、通常、樹脂等の材料の溶融流動性及び機械的強度が低下する。また、カーボン系フィラーは導電性を有するため、樹脂に配合すると樹脂本来の特徴である絶縁性が損なわれやすいといった問題がある。さらに、セラミック系フィラーは絶縁性を有するが、熱伝導性が低い等の問題がある。熱伝導性フィラーには、例えば、銀、銅、アルミニウム、及び鉄等の金属系フィラー;アルミナ、マグネシア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、及び炭化チタン等の無機系フィラー;並びに、ダイヤモンド、黒鉛、及びグラファイト等の炭素系フィラー等がある。高い電気絶縁性が要求される電子機器等では、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びダイヤモンド等のフィラーが好ましいとされている。しかし、これらのフィラーは、耐水性、耐薬品性、硬度、及び電気絶縁性の面で課題が多い。
【0041】
これに対して、本実施形態に係る丸み盤状粒子は、以上の各種フィラーの弱点が改善され、優れた特性を有していることから改良フィラーとして好適に用いることができる。さらに、既存の熱伝導性フィラーの弱点を補うべく、上記の各種熱伝導性フィラーとともに利用することも好ましい。すなわち、上記の各種熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物において、本実施形態に係る丸み盤状粒子の使用は、目的とする特性に応じて調製される好ましい態様である。また、本実施形態に係る丸み盤状粒子は、顔料や染料を添加しなくとも、鉄、コバルト、銅、マンガン、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有させることで着色することができる。
【0042】
<物品>
本実施形態に係る物品は、前述の丸み盤状粒子を含有する、例えば、グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物等の物品(熱伝導性物品、熱伝導性材料)である。なお、本実施形態に係る物品には、必要に応じて、前述の各種熱伝導性フィラーがさらに含有されていることも好ましい。
【0043】
(グラビアインキ)
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、電池用包装材料用のトップコート剤等として用いられるグラビアインキに添加して用いることができる。グラビアインキ中の丸み盤状粒子の含有量は、グラビアインキ全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。このようなグラビアインキ(電池用包装材料用のトップコート剤)を使用すれば、耐酸性等の耐薬品性に優れているとともに、熱伝導率が高く、かつ、熱放射率も高い電池用包装材料を作製することができる。
【0044】
(塗工液)
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、塗料等の塗工液に添加して用いることができる。塗工液は、丸み盤状粒子とともに、例えば、着色剤、被膜又は成形物形成用の樹脂、及び有機溶剤等をビヒクルに混合及び分散させて得られる着色用製剤とすることもできる。塗工液中の丸み盤状粒子の含有量は、塗工液全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。このようにして調製される塗工液を用いて形成した塗工被膜や塗工成形物は、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性に優れているとともに、強度が保持され、かつ、熱伝導性にも優れている。
【0045】
塗工液に含有させることのできる樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリアミド系、セルロース系、ポリカーボネート系、又はポリ乳酸系の熱可塑性樹脂;並びに、ウレタン系、フェノール系、又はシリコーン系の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、エマルジョンであってもよい。
【0046】
塗工液に含有させることのできる液媒体の具体例としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、及びシクロヘキサン等を挙げることができる。これら液媒体は、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0047】
塗工液には、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で「その他の成分」を適宜選択して含有させることができる。「その他の成分」の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、及び殺菌剤等を挙げることができる。
【0048】
塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、スプレー塗装、ハケ塗り、静電塗装、カーテン塗装、又はロールコータを用いる方法、或いは浸漬による方法等を挙げることができる。また、塗工した塗工液を被膜とするための乾燥方法としても、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、自然乾燥、又は焼き付け等の方法を、塗工液の性状等に応じて適宜選択して採用すればよい。
【0049】
塗工液を用いれば、基材上に塗工して得られる塗工被膜や塗工成形物を作製することができる。基材としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革等を用途に応じて選択することができる。なお、このようにして機能性が付与された塗工被膜は、家庭用以外にも、工業、農業、鉱業、又は漁業等の各産業に利用することができる。また、塗工形状にも制限はなく、シート状、又はフィルム状等、用途に応じて選択することができる。
【0050】
(樹脂組成物)
本実施形態に係る丸み盤状粒子をポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂等の樹脂に配合することで、樹脂組成物とすることができる。より具体的には、樹脂に対して、必要に応じてその他の添加剤とともに丸み盤状粒子を公知の方法に準じて配合及び混合すれば、樹脂組成物を得ることができる。さらに、得られた樹脂組成物を押出成形機に供して成形すれば、所定の樹脂成形物を製造することができる。樹脂組成物中の丸み盤状粒子の含有量は、樹脂組成物全体に対して、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。丸み盤状粒子の含有量を上記の範囲とすることで、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性により優れているとともに、強度がさらに保持され、かつ、より成形性に優れた樹脂組成物とすることができる。丸み盤状粒子の含有量が95質量%超であると、強度や成形性が低下する場合がある。一方、丸み盤状粒子の含有量が5質量%未満であると、熱伝導性が不足する場合がある。
【0051】
樹脂への丸み盤状粒子の添加方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、丸み盤状粒子を樹脂に直接配合して、混練及び成形加工する方法の他、丸み盤状粒子を樹脂や滑剤等に予め高濃度に分散させておいた組成物(マスターバッチ)を使用する方法等がある。その他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤、安定剤、架橋剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤、難燃剤、並びに、タルク、アルミナ、クレー、及びシリカ等の無機充填剤等を挙げることができる。また、丸み盤状粒子の分散助剤として、金属石けん、及びポリエチレンワックス等を用いることもできる。金属石けんとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、及びオレイン酸コバルト等を挙げることができる。ポリエチレンワックスとしては、例えば、一般重合型、分解型、又は変成型等の各種ポリエチレンワックスを用いることができる。
【0052】
なお、上述の塗工液や樹脂組成物には、各種の有機顔料や無機顔料を着色剤として配合することもできる。着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アゾメチン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、及びペリノン・ペリレン系顔料等の有機顔料;黒色以外の複合酸化物系顔料;酸化チタン系白色顔料、酸化チタン系黄色顔料、及び酸化チタン系黒色顔料等の酸化チタン系顔料;並びに、カーボンブラック、群青、及びベンガラ等の無機顔料等を挙げることができる。なお、フタロシアニン系顔料としては、臭素化フタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料等を挙げることができる。また、アゾ系顔料としては、ポリ縮合アゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料等を挙げることができる。
【0053】
さらに、コンパウンド用樹脂に対して、丸み盤状粒子、各種顔料、及び添加剤等を配合したマスターバッチコンパウンドを、押出成形機等を使用して溶融混練することによっても樹脂組成物を得ることができる。より具体的には、(i)コンパウンド用樹脂に丸み盤状粒子及び分散助剤を配合するとともに、必要に応じてその他の添加剤を添加して、ヘンシェルミキサー等の混合機を使用して混合する方法;(ii)マスターバッチコンパウンドをニーダーや加熱二本ロールミルを使用して混練した後、冷却してから粉砕機で粉砕して粗粉状にする方法;或いは、(iii)マスターバッチコンパウンドを押出成形機に供し、押出成形してビーズ状や柱形状等の形状に成形する方法等によって、樹脂組成物を得ることができる。成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形法、押出成形法、加熱圧縮成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、又は真空成形法等を採用すればよい。
【0054】
(接着剤組成物)
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、接着剤に添加して接着剤組成物として用いることができる。接着剤に含有される樹脂の種類は限定されず、ウレタン系、エポキシ系、酢酸ビニル系、又はアクリル系等の接着性を有する樹脂であればよい。また、接着機構についても限定されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、又は熱圧型等のいずれであってもよい。接着剤組成物中の丸み盤状粒子の含有量は、接着剤組成物全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。丸み盤状粒子の含有量を上記の範囲とすることで、熱伝導性、接着性、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性により優れた接着剤組成物とすることができる。丸み盤状粒子の含有量が80質量%を超えると、接着強度が不足する場合がある。一方、丸み盤状粒子の含有量が5質量%未満であると、熱伝導性が不足する場合がある。
【0055】
本実施形態に係る丸み盤状粒子は、上述のようなグラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物等の熱伝導性物品や熱伝導性材料とし、これを用いることで、放熱性(熱伝導性)と同時に、優れた耐薬品性、耐水性、及び絶縁性を有する電子デバイスとしても使用することができる。より具体的には、金属回路基板、回路基板、金属積層板、内層回路入り金属張積層板、電池用包装材料、封止材、又は保護シート等に利用することができる。さらに、接着性シート、放熱シート、放熱コート剤、半導体封止剤、接着剤、放熱スペーサー、グリース等として使用することができる。
【0056】
<液状組成物>
本実施形態に係る液状組成物は、熱伝導性薄膜を形成するために用いられる液状組成物であって、前述の丸み盤状粒子を含む熱伝導性成分と、膜形成用樹脂と、液媒体と、を含有するものである。なお、この熱伝導性成分は、硫酸バリウム、タルク、及び窒化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有することが好ましい。
液状組成物中の丸み盤状粒子の含有量は、液状組成物全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。また、膜形成用樹脂100質量部に対する熱伝導性成分の含有量は、50質量部以上600質量部以下であることが好ましい。このようにして調製される液状組成物を用いて形成した熱伝導性薄膜は、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性に優れているとともに、強度が保持され、かつ、熱伝導性にも優れている。
【0057】
膜形成用樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種の溶剤可溶性樹脂である。また、液媒体としては、前述の塗工液で用いる液媒体と同様のものである。
【0058】
<熱伝導性薄膜及び電子機器用部材>
本実施形態に係る熱伝導性薄膜は、前述の液状組成物を塗工して形成される薄膜である。熱伝導性薄膜の厚みは、20μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る電子機器用部材は、金属製部材と、前記金属製部材の表面上に配置された前述の熱伝導性薄膜と、を備える部材である。
金属製部材としては、金属回路基板、回路基板、金属積層板、及び内層回路入り金属張積層板等を挙げることができる。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0060】
<アルミニウム原料>
以下に示すアルミニウム原料を用いた。
・ベーマイト:球状、平均粒径3μm
・水酸化アルミニウムA:球状、平均粒径6μm
・水酸化アルミニウムB:球状、平均粒径10μm
・水酸化アルミニウムC:球状、平均粒径1μm
【0061】
<ガラスフリット>
ガラスフリットについては以下に示す金属を含有するものを用いた。
・ガラスフリットA:屈伏点390℃、ケイ素、ホウ素、及びフッ素等含有
・ガラスフリットB:屈伏点460℃、ケイ素、ホウ素、及びフッ素等含有
・ガラスフリットC:屈伏点540℃、ケイ素、ホウ素、及びフッ素等含有
【0062】
<熱伝導性丸み盤状粒子の製造>
(実施例1)
水酸化アルミニウムA100部、ガラスフリットA1部を小型ミキサーに投入し、撹拌混合して原料混合物を得た。得られた原料混合物を、空気中、1,200℃で3時間焼成した後に解砕して、粉末状の熱伝導性丸み盤状粒子を得た。
【0063】
(実施例2~28)
表1に示す種類及び量のアルミニウム原料、ガラスフリット及び酸化物原料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして粉末状の熱伝導性丸み盤状粒子を得た。
【0064】
(比較例1)
水酸化アルミニウムA100部を、空気中、1,200℃で2時間焼成して得た粉末を比較例1の試料とした。
【0065】
(比較例2)
水酸化アルミニウムA100部、及びガラスフリットA7部を実施例1と同様の方法にて混合し原料混合物を得た。得られた原料混合物を、空気中、1,200℃で2時間焼成して得た粉末を比較例2の試料とした。
【0066】
(比較例3)
ベーマイト100部を、空気中、1,200℃で2時間焼成して得た粉末を比較例3の試料とした。
【0067】
(比較例4~9)
表1に示す物質をそれぞれ比較例4~9の試料とした。
【0068】
【表1】
【0069】
<評価(1)>
(充填性)
実施例1~28、比較例1~9で得られた粉末の、エポキシ樹脂への最大充填量評価を行った。評価方法としては、エポキシ樹脂に前記粉末をヘラで混練しながら徐々に添加していき、塊の状態を維持できず粉末状態となった時の添加量を最大充填量とした。この時の最大充填量をもとに、以下の評価基準にて充填性を評価した。結果を表2に示す。
◎:充填量80%以上
○:充填量75%以上80%未満
△:充填量70%以上75%未満
×:充填量70%未満
【0070】
(摩耗成形性)
ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR:20g/10min)30部と、熱伝導性酸化物70部とを混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。次いで、縦20mm×横20mm×高さ6mmの金型を用いて175℃の条件で金型プレス成形して試験片を作製した。作製時の機械の摩耗性、及び作製した成形体の表面状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがって摩耗成形性を評価した。結果を表2に示す。
○:摩耗性及び表面状態に特に問題なし
△:摩耗性及び表面状態のいずれかに問題あり
×:摩耗性及び表面状態に問題あり
【0071】
(平均粒径、平均厚み、及びアスペクト比)
実施例1~28、比較例1~9で得られた粉末を、マスターサイザー3000(マルバーン・パナリティカル社製)にて平均粒径の計測を行った。具体的には、前記粉末を0.2%メタリン酸ソーダ水溶液に投入し、超音波洗浄機(アズワン社製、ASU-6D)を用いて2分間解膠処理を行い、その後測定を行った。結果を表2に示す。
実施例1~28、比較例1~9で得られた粉末を電子顕微鏡で観察し、10個の粒子について平均厚みを算出した。なお、観察する粒子としては、粒子厚みが分かるようになっている粒子を選択している。結果を表2に示す。なお、実施例2、19及び26、並びに比較例2で得られた粉末の電子顕微鏡写真を、それぞれ、図1図4に示す。また、比較例1~4、8及び9では、図4に示すように、粒子形状が乱れており、平均厚みを測定できなかった。
また、実施例1で得られた粉末を電子顕微鏡で観察し、10個の粒子について平均粒径を算出したところ、この測定値が、マスターサイザー3000を用いた場合の測定値とほぼ一致することが確認された。
実施例1~28、比較例1~4、8及び9で得られた粉末について、平均粒径及び平均厚みの値から、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)を算出した。結果を表2に示す。
【0072】
(熱伝導率の測定)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製)とアミン系硬化剤(DIC社製)の混合液30部と、熱伝導性酸化物70部を混練して得た樹脂組成物を、直径100mm以上・厚み4mm以上の円形シート成型物になるように金型プレスした。その後、設定温度120℃の条件で30分間乾燥し、放冷した後で中心角90°の扇型になるよう四等分に裁断し試験片を作製した。ホットディスク法熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)を使用して、作製した試験片の熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(絶縁性)
熱伝導率の測定に用いた評価用エポキシ樹脂組成物の試験片を使用し、電気抵抗率計を用いて電気体積抵抗値を測定した。測定結果から、以下に示す評価基準にしたがって絶縁性を評価した。結果を表2に示す。
〇:電気体積抵抗値が1010Ω・cm以上
△:電気体積抵抗値が1010Ω・cm未満10Ω・cm以上
×:電気体積抵抗値が10Ω・cm未満
【0074】
【表2】
【0075】
(参考例)
熱伝導率を測定の際、熱伝導性酸化物70部について、実施例21で得られた粉末を60部、特許第6209695号の実施例3を10部用いて試験片を作製した。熱伝導性の試験方法として、ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR:20g/10min)30部と、熱伝導性酸化物70部とを混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。
次いで、縦20mm×横20mm×高さ6mmの金型を用いて175℃の条件で金型プレス成形して試験片を作製した。熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)を使用して作製した試験片の熱伝導率を測定した。この時の充填性は◎、摩耗成形性は○、絶縁性は○で、熱伝導率は1.12W/m・Kであり、異なる形状の粒子を混合しても、丸み盤状粒子のみを用いた場合とほぼ同様に実施例範囲内の結果となった。
【0076】
<塗工液の調製及び評価>
(応用例1、比較応用例1)
実施例21及び比較例4で得られた粉末(熱伝導性酸化物)をそれぞれ15部、粘度3,500mPa・sのウレタン系樹脂62部、並びに酢酸エチル23部を混合し、ディスパーで分散させて塗工液を調製した。ガラス棒を用いて調製した各塗工液を離型紙に均一に塗布した後、100℃のオーブンに2分間入れ、溶剤分を揮発させて厚さ50μmの塗工被膜(応用例1、比較応用例1)を形成した。この塗工被膜の熱伝導率を測定したところ、比較例4のα-アルミナを用いて形成した比較応用例1の塗工被膜の熱伝導率は0.29W/m・Kであった。これに対して、実施例21の熱伝導性酸化物を用いて形成した応用例1の塗工被膜の熱伝導率は0.36W/m・Kと高いことが分かった。また、実施例21の熱伝導性酸化物を用いて調製した塗工液を、グラビアコーターにより電池外装材用のナイロンフィルムに塗工し、電池外装材トップコートとして使用した。その結果、効果的に放熱し、電池の温度上昇を軽減できることが分かった。
【0077】
<接着剤の調製及び評価>
(応用例2、比較応用例2)
実施例21及び比較例4で得られた粉末(熱伝導性酸化物)をそれぞれ35部と、粘度300mPa・sのポリエステルポリオール65部とを混合し、ディスパーを用いて分散させて分散液を調製した。調製した分散液98部と、粘度2,600mPa・sのポリイソシアネート2部とを混合し、ディゾルバーを用いて撹拌して、ウレタン樹脂系の化学反応型接着剤を得た。ガラス棒を用いて得られた各接着剤を離型紙に均一に塗布した後、100℃のオーブンに2分間入れて溶剤分を揮発させた。さらに、40℃のオーブンに96時間入れて、接着剤の硬化皮膜(応用例2、比較応用例2)を形成した。この硬化皮膜の熱伝導率を測定したところ、比較例4のα-アルミナを用いて形成した比較応用例2の硬化皮膜の熱伝導率は0.53W/m・Kであった。これに対して、実施例21の熱伝導性酸化物を用いて形成した応用例2の硬化皮膜の熱伝導率は0.63W/m・Kと高いことが分かった。
【0078】
<液状組成物の製造>
(応用例3、比較応用例3)
実施例21及び比較例4で得られた粉末(熱伝導性酸化物)をそれぞれ20部、膜形成用樹脂としてポリウレタン樹脂(商品名「サンプレンIB-1700D」、三洋化成工業社製、樹脂分30%、溶剤分70%)63部、溶剤としてメチルエチルケトン/トルエン/イソプロピルアルコール混合溶媒17部を混合するとともに、ペイントシェイカー(ガラスビーズ(直径2mm)使用)を用いて撹拌して分散液を得た。得られた分散液100部に対し、ポリイソシアネート樹脂(商品名「タケネートD-160N」、三井化学社製、樹脂分75%、溶剤分25%)3部をそれぞれ添加した後、撹拌して、液状組成物(応用例3、比較応用例3)を得た。
【0079】
<評価(2)>
(評価用塗膜の形成)
マルチコーター(商品名「K-303」、RK Print Coat Instruments社製)を使用して液状組成物を離型紙にそれぞれ塗工した後、熱風乾燥して溶剤を除去した。次いで、40℃の乾燥機にて48時間エージングして、熱伝導性成分(フィラー)の濃度が48%であり、膜厚が約100μmである評価用塗膜を形成した。
【0080】
(熱伝導率(薄膜)の測定)
評価用塗膜を縦40mm×横40mmの大きさに切り出して試験片を得た。熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)の「うす膜測定モジュール」にて得られた試験片の熱伝導率を測定した。比較例4のα-アルミナを用いて形成した比較応用例3の硬化皮膜の熱伝導率は0.33W/m・Kであった。これに対して、実施例21の熱伝導性酸化物を用いて形成した応用例3の硬化皮膜の熱伝導率は0.53W/m・Kと高いことが分かった。
【0081】
(熱伝導率(ブロック)の測定)
ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR:20g/10min)50部、及び各熱伝導性成分50部を混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。次いで、縦20mm×横20mm×高さ6mmの金型を使用し、175℃の条件で金型プレス成形して試験片を得た。熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)の「標準等方性測定モジュール」にて得られた試験片の熱伝導率を測定した。比較例4のα-アルミナを用いて形成した比較応用例3の熱伝導率は0.47W/m・Kであった。これに対して、実施例21の熱伝導性酸化物を用いて形成した応用例3の熱伝導率は0.62W/m・Kと高いことが分かった。
【0082】
(耐薬品性)
評価用塗膜を縦40mm×横40mm×厚さ100μmの大きさに切り出して試験片を得た。得られた試験片を5%塩酸、5%硫酸水溶液、5%硝酸水溶液、及び5%水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ浸漬し、1日1回撹拌して一週間ずつ静置した。浸漬前後の試験片の質量を測定して浸漬前の試験片の質量を基準とした質量変化率(%)を算出し、以下に示す評価基準にしたがって耐薬品性を評価した。結果は応用例3、比較応用例3共に全て○であった。
○:質量変化率が5%未満
△:質量変化率が5%以上20%未満
×:質量変化率が20%以上
【0083】
(密着性)
バーコーター#5を使用して、二軸延伸ポリエステルフィルム(商品名「エステルフィルム E-5102」、東洋紡社製)と二軸延伸ナイロンフィルム(商品名「ハーデンフィルム N1102」、東洋紡社製)のコロナ処理面(処理PET、処理NY)及びコロナ未処理面(未処理PET、未処理NY)に液状組成物をそれぞれ塗工した。熱風乾燥して溶剤を除去した後、40℃の乾燥機にて48時間エージングして、フィルム表面上に薄膜が形成された試験片を作製した。セロハンテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」、ニチバン社製、24mm幅)を試験片の薄膜表面に貼りつけ、垂直方向に剥がす操作を同一箇所で3回実施した後、薄膜の状態を確認し、以下に示す評価基準にしたがって密着性を評価した結果は応用例3、比較応用例3共に全て○であった。
○:剥がれがなし
△:一部剥がれあり
×:大部分剥がれた
【要約】
【課題】熱伝導性のみならず、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能なアルミナ系熱伝導性丸み盤状粒子を提供する。
【解決手段】アルミニウム原料を含有する原料混合物を焼成して得られるアルミナ系熱伝導性酸化物の粒子である。アルミニウム原料が、ベーマイト、水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、原料混合物がガラスフリットを含み、酸化物原料をさらに含有してもよく、前記酸化物原料が、ホウ素化合物、チタン化合物、リン化合物、タングステン化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも一種であり、原料混合物中のガラスフリットの含有量が、アルミニウム原料100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下である。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4