(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221130BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C30B29/38 D
(21)【出願番号】P 2022538925
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022001705
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021057250
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】野中 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】磯田 佳範
(72)【発明者】
【氏名】今井 克宏
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075599(WO,A1)
【文献】特開2019-194132(JP,A)
【文献】特開2014-159368(JP,A)
【文献】特開2020-059644(JP,A)
【文献】特開2019-210210(JP,A)
【文献】特開2012-144424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定面に対する法線方向でc軸方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子によって構成される窒化ガリウム系結晶体からなるスパッタリングターゲットであって、
前記窒化ガリウム系結晶体の
酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度
の測定値が150質量ppm以下であり、前記窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が2×10
17cm
-3以上であることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記窒化ガリウム系結晶体のアルキメデス法による相対密度の測定値が98.0%以上であることを特徴とする、請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記窒化ガリウム系結晶体のX線ロッキングカーブの(002)面反射の半値幅が1000秒以下であることを特徴とする、請求項1または2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
厚さが1mm以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つの請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
直径が50mm以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つの請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記窒化ガリウム系結晶体が透光性を有しないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つの請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記窒化ガリウム系単結晶粒子の炭素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が1×10
16cm
-3以下であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一つの請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記窒化ガリウム系単結晶粒子のゲルマニウム濃度のダイナミックSIMS法による測定値が1×10
18cm
-3以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一つの請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム系結晶体からなるスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム薄膜を形成する手法として、スパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法では、原料として例えば窒化ガリウムで構成されたスパッタリングターゲットを用いることが検討されている。スパッタリングターゲットとしては、窒化ガリウム粉末を焼結して作製したターゲット(例えば特許文献1)やハイドライド気相堆積法などで作製された多結晶体のターゲット(例えば特許文献2、非特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】‘’Synthesis of dense polycrystalline GaN of high purity by the chemical vapor reaction process’’ (Journal of Crystal Growth Volume 286, Issue 1, 1 January 2006, Pages 50-54)
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/158651
【文献】特開2018-119171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ガリウム粉末からなる焼結体を形成してスパッタリングターゲットとする場合には、原料の窒化ガリウム粉末の表面が酸化されやすく、スパッタリング開始時にターゲットから酸素が放出され、酸化ガリウムが形成されやすい。また、焼結粒子間に隙間が存在するために、ターゲットの密度が高めにくいという問題がある。
【0006】
ハイドライド気相堆積法やフラックス法によって形成した多結晶体でスパッタリングターゲットを構成した場合は、密度の高いターゲットを得やすい。しかし、窒化ガリウム多結晶体を形成するには、例えば特許文献2に記載されているように、下地基板として窒化ガリウムとは結晶構造や格子定数が大きく異なる異種材料基板を用いたり、低温バッファ層を用いない形態で成膜する製法が考えられる。この場合は酸素などの不純物を取り込みやすく、スパッタターゲットに求められる低酸素濃度を得ることが難しい。
【0007】
一方、非特許文献1では、塩化物原料(NH4Cl)を用いた気相成長法であるCVPR法を用いて、比較的低酸素濃度で高密度な多結晶窒化ガリウムを合成した報告がなされている。しかし、得られた結晶は特定の結晶方位に配向しておらず、品質が不均質であるため、スパッタリング時にエロージョン(ターゲットが不均一に蒸発する)が発生し、ターゲット寿命が短くなると考えられる。
【0008】
本発明者は、窒化ガリウム単結晶基板をスパッタリングターゲットとして用いることも検討した。しかし、単結晶基板はスパッタリング中に割れやすく、また、スパッタ時の成膜速度が非常に遅いという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、低酸素濃度であって、スパッタリング時に割れにくい窒化ガリウム系ガリウムスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定面に対する法線方向でc軸方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子によって構成される窒化ガリウム系結晶体からなるスパッタリングターゲットであって、
前記窒化ガリウム系結晶体の酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度の測定値が150質量ppm以下であり、前記窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が2×1017cm-3以上であることを特徴とする、スパッタリングターゲットに係るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、c軸方向に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成された多結晶窒化ガリウム系結晶体をスパッタリングターゲットとして採用した。これによって、品質が均一になり易く、スパッタリング時のエロージョン(ターゲットが不均一に蒸発する現象)が抑制され、ターゲット寿命が長くなる。これを前提として、更に、窒化ガリウム系結晶体の酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度の測定値を低くすることで、スパッタリングによって得られる窒化ガリウム系結晶膜の酸素濃度を低くし、また安定させることができる。本発明者は、こうした目的で、窒化ガリウム系結晶体の酸素濃度を更に低下させることを試みてみた。
【0012】
ところが、意外なことに、窒化ガリウム系結晶体中の酸素濃度を低くすると、スパッタリング時にスパッタリングターゲットに割れが生じやすくなることがわかった。この原因は明らかではないが、窒化ガリウム系結晶体中の酸素濃度を著しく低減させることで、窒化ガリウム系結晶体を構成する単結晶粒子の配列の規則性が高くなり、単結晶に近づくことで、割れが生じやすくなるものと考えられる。
【0013】
具体的には、窒化ガリウム系結晶体の酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度の測定値を150質量ppm以下とすることで、スパッタリングにより得られる窒化ガリウム系結晶膜の酸素濃度を低くし、品質を安定させることができる。これとともに、窒化ガリウム系結晶体を構成する窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値を2×1017cm-3以上に保持することによって、スパッタリング時のスパッタリングターゲットの割れを抑制できることを見いだし、本発明に到達した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】スパッタリングターゲット1を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1に模式的に示すように、本発明のスパッタリングターゲット1は、所定面2aに対する略法線方向Nでc軸方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子3によって構成される窒化ガリウム系結晶体2からなる。
すなわち、窒化ガリウム系結晶体2は、複数の窒化ガリウム系単結晶粒子3によって構成される多結晶体である。そして、窒化ガリウム系結晶体の所定面2aをスパッタリングに用いる。そして、所定面に対する法線方向Nから見たとき、各窒化ガリウム系単結晶粒子3の結晶方位Lは概ねc軸方位となっている。
【0016】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム系結晶体のX線ロッキングカーブの(002)面反射の半値幅が1000秒以下である。このようにc軸配向性の高い窒化ガリウム系結晶体を用いることで、得られる窒化ガリウム系結晶の品質が一層向上する。こうした観点からは、窒化ガリウム系結晶体のX線ロッキングカーブの(002)面反射の半値幅が800秒以下であることが更に好ましい。
【0017】
上記窒化ガリウム系結晶体2は、法線方向Nに見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、窒化ガリウム系結晶体は、法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位を有する構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。
【0018】
本発明のスパッタリングターゲットを構成する窒化ガリウム系結晶体の全酸素濃度が150質量ppm以下であり、窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が2×1017cm-3以上である。
【0019】
ここで、窒化ガリウム系結晶体の酸素濃度は、元素分析によって測定し、具体的には酸素・窒素同時分析装置(例えば、EMGA-650W(HORIBA社製))によって測定する。ここで、窒化ガリウム系結晶体の酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度の測定値を150質量ppm以下とするが、50質量ppm以下とすることが更に好ましい。
【0020】
窒化ガリウム系結晶体の酸素・窒素同時分析装置を用いた質量分析による酸素濃度の測
定値を低下させるほど、スパッタリングによって得られる窒化ガリウム系結晶膜の酸素濃度も低くなり、安定する。しかし、本発明者が実際に検討してみると、窒化ガリウム系結晶体の酸素濃度が低くなりすぎると、スパッタリング時にスパッタリングターゲットの割れが生じやすくなる。こうしたスパッタリング時のターゲットの割れを抑制するという観点からは、微量の酸素を含有する必要があることが判明した。
【0021】
しかし、窒化ガリウム系結晶体中の全酸素含有量を酸素・窒素同時分析装置で測定する手法では、測定限界に近く、ターゲットの割れの抑制に必要な量の酸素量を捕捉できないことが判明してきた。このため、ダイナミックSIMS法で各窒化ガリウム系単結晶粒子中の酸素濃度を定量する方法を検討してみた。これは窒化ガリウム系結晶体の所定面における微細領域の酸素濃度を定量する手法である。この結果、窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値を2×1017cm-3以上とすることによって、スパッタリング時のターゲットの割れを著しく抑制できることを見いだした。
なお、窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値は、3×1019/cm3以下とすることが好ましく、1×1019/cm3以下とすることが更に好ましく、5×1018/cm3以下とすることが特に好ましい。
【0022】
窒化ガリウム系単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定は、以下のようにして行う。
すなわち、窒化ガリウム系結晶体の所定面について、ダイナミックSIMSで、200μm×200μmの正方形視野について酸素濃度を測定する。この測定を9視野について実施し、平均値を算出する。
【0023】
窒化ガリウム系結晶体は、AlxGa1-xN、InxGa1-xNで表されるが、この場合にxは0.5以下であることが好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。xは0であってもよい。
【0024】
好適な実施形態においては、スパッタリングターゲットのアルキメデス法による相対密度の測定値が98.0%以上であり、好ましくは99.0%以上であり、より好ましくは99.5%以上である。このような高密度の窒化ガリウム系結晶体によって、スパッタリング時にエロージョンや酸化が起こりにくくなる。
【0025】
好適な実施形態においては、スパッタリングターゲットの厚さが1mm以上である。この厚さは2mm以上であることが更に好ましく、4mm以上が更に好ましい。また実際上は8mm以下であることが好ましい。
【0026】
また、好適な実施形態においては、スパッタリングターゲットの直径が50mm以上である。この直径は75mm以上であることが好ましく、100mm以上が更に好ましい。また実際上は160mm以下であることが好ましい。
【0027】
好適な実施形態においては、スパッタリングターゲットが透光性を有しない。すなわち、スパッタリングターゲットが着色している。この着色は、窒素欠損などの欠陥による光吸収が原因と考えられる。こうした欠陥を有することで、スパッタリング時の成膜速度が向上する。
【0028】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム系単結晶粒子の炭素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が1×1016cm-3以下である。これによってスパッタリングにより生ずる窒化ガリウム系結晶の品質が一層向上する。
【0029】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム系単結晶粒子のゲルマニウム濃度のダイナミックSIMS法による測定値が1×1018cm-3以上である。これによって、ターゲット材の抵抗率を低下させた、導電性のあるスパッタリングターゲットを得ることができる。こうした観点からは、窒化ガリウム系単結晶粒子のゲルマニウム濃度のダイナミックSIMS法による測定値は、5×1018cm-3以上であることが更に好ましい。
【0030】
スパッタリングターゲットを構成する窒化ガリウム系結晶体の所定面は研磨加工することが、エロージョン防止の観点からは好ましい。この観点からは、窒化ガリウム系結晶体の所定面の算術平均粗さRaは0.1μm以下が好ましい。
【0031】
スパッタリングターゲットを構成する窒化ガリウム系結晶体には、n型ドーパントおよび/またはp型ドーパントがドープされていてもよくこうしたドーパントとしては、亜鉛、カルシウム、鉄、ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、カドミウム、スカンジウム、シリコン、ゲルマニウム、スズが挙げられる。
【0032】
本発明のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング方式としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができる。
スパッタリング時のガス圧力は 0.05~7.0Paとすることが好ましい。また、スパッタリング時のガスは、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスが好ましい。
また、スパッタリング時の温度は、100~1000℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
(スパッタリングターゲットの作製)
基本的には、WO 2017-145803A1記載の方法に従って、窒化ガリウム結晶体を作製した。
具体的には、径φ4インチの配向多結晶アルミナ焼結体上に、MOCVD 法で厚さ2μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜を成膜し、種結晶基板を得た。
この種結晶基板を、窒素雰囲気のグローブボックス内でアルミナ坩堝の中に配置した。次に、Ga/Ga+Na(mol%)=30mol%となるように金属ガリウムと金属ナトリウムを坩堝内に充填し、アルミナ板で蓋をした。この坩堝をステンレス製内容器に入れ、さらにそれを収納できるステンレス製耐圧容器に入れて、窒素導入パイプの付いた容器蓋で閉じた。この耐圧容器を、予め真空ベークしてある結晶製造装置内の加熱部に設置されている回転台の上に配置し、耐圧容器に蓋をして密閉した。
【0034】
次いで、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。続いて、上段ヒータ、中段ヒータ及び下段ヒータを調節して加熱空間の温度を880℃になるように加熱しながら、4.0MPaまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入し、外容器を中心軸周りに20rpmで一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=15秒、保持時間=600秒、減速時間=15秒、停止時間=1秒とした。そして、この状態で10時間保持した。その後、加熱空間の温度が790℃になるように上段ヒータ、中段ヒータ及び下段ヒータを調整し、耐圧容器の回転速度を20rpmで一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=8秒、保持時間=300秒、減速時間=8秒、停止時間=0.5秒とした。そして、この状態で200時間保持し、窒化ガリウム結晶を成長させた。ただし、本実施例では、各容器内における酸素源を可能な限り排除するとともに、窒化ガリウム結晶の成長温度を例えば800℃以下まで低くし、また耐圧容器の回転方向を定期的に変更することで、窒化ガリウム結晶体の全酸素濃度および窒化ガリウム単結晶粒子の酸素濃度のダイナミックSIMSによる測定値を調節した。
【0035】
次いで、室温まで自然冷却して大気圧にまで減圧した後、耐圧容器の蓋を開けて中から坩堝を取り出した。坩堝の中の固化した金属ナトリウムを除去し、種結晶基板から剥離したクラックのない窒化ガリウム結晶体インゴットを回収した。
このインゴットの表面を研磨加工し、直径4インチ、厚さ2mmの窒化ガリウム結晶体からなるスパッタリングターゲットを得た。ただし、各元素濃度測定は破壊検査であるため、各元素濃度測定用の試料とスパッタリング実験用の試料とを分けて複数準備した。
【0036】
(各元素濃度の測定)
作製したスパッタリングターゲットを20mm角に切り出し、酸素・窒素同時分析装置(EMGA-650W(HORIBA社製))で酸素濃度を測定したところ、150質量ppmが得られた。
また、作製したスパッタリングターゲットの所定面について、ダイナミックSIMSで200μm×200μmの領域での酸素濃度を9箇所測定し、平均値を求めたところ、2.0×1017/cm3であった。
酸素・窒素同時分析で測定した全酸素濃度とダイナミックSIMSで測定した酸素濃度に差異があるのは、通常よりも低温で結晶成長させたことにより、酸素取り込み量の多いファセット面成長の速度が向上したことで、c面成長部とファセット面成長部での酸素濃度差が発生したことを反映していると考えられる。
【0037】
更に、ダイナミックSIMSによって測定した炭素濃度は9点のいずれの測定点でも5×1015/cm3以下であった。
更に、ダイナミックSIMSによって測定したゲルマニウム濃度は9点のいずれの測定点でも2×1016/cm3以下であった。
【0038】
(XRC-FWHM測定)
作製したスパッタリングターゲットの所定面について、X線源にCuKα線を用いたXRD装置(Bruker-AXS製D8-DISCOVER)を用いて2θ-ω測定を行った。入射側光学系にはGe(022)非対称反射モノクロメーターおよびw 1mm×h 10mmのスリットを用いた。2θの範囲は20°以上80°以下で、測定間隔0.01°、計測時間0.5秒で測定を行った。
図2は、2θ-ω測定結果を示すグラフである。
【0039】
図2に示すように、c面と等価である(002)面および(004)面の回折ピークのみが確認された。さらに、X線ロッキングカーブの(002)反射を測定し、半値幅を求めたところ、684arcsecが得られた。以上の結果から、窒化ガリウム系単結晶粒子はc軸に強く配向していることがわかる。
【0040】
(スパッタリング試験)
加熱した銅板(バッキングプレート)に金属インジウムを用いてスパッタリングターゲットを接合することで接合体を得た。
この接合体を用い、RFスパッタリング装置にてチャンバー雰囲気:Ar 20sccm、N2 100sccm、チャンバー圧力0.25 Pa、、基材として2インチサファイア基板を用い、ターゲット-基板間距離を150mm、基板の温度を500℃に設定して、スパッタリングによる窒化ガリウム結晶の成膜を行った。さらに、スパッタリング後のスパッタリングターゲットの外観について検査を行った。
【0041】
この結果、スパッタリング処理後、サファイア基板を取り出したところ、均一に厚さ1μmの窒化ガリウム結晶膜が形成されていた。窒化ガリウム結晶膜をSIMS分析したところ、酸素濃度は1×1017/cm3以下であった。
また、成膜後のスパッタリング後のスパッタリングターゲットの外観に、割れやひびの異常は現われなかった。
実施例1における測定結果をまとめて表1に示す。
【0042】
(比較例1)
(スパッタリングターゲットの作製)
径φ 4 インチの配向多結晶アルミナ焼結体に、MOCVD 法で厚さ2μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜を成膜し、種結晶基板を得た。
この種結晶基板を、窒素雰囲気のグローブボックス内でアルミナ坩堝の中に配置した。次に、Ga/Ga+Na(mol%)=30mol%となるように金属ガリウムと金属ナトリウムを坩堝内に充填し、アルミナ板で蓋をした。
【0043】
この坩堝をステンレス製内容器に入れ、さらにそれを収納できるステンレス製耐圧容器に入れて、窒素導入パイプの付いた容器蓋で閉じた。この耐圧容器を、予め真空ベークしてある結晶製造装置内の加熱部に設置されている回転台の上に配置し、耐圧容器に蓋をして密閉した。
次いで、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。続いて、上段ヒータ、中段ヒータ及び下段ヒータを調節して加熱空間の温度を880 ℃ になるように加熱しながら、4.0MPaまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入し、外容器を中心軸周りに20rpmで一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=15秒、保持時間=600秒、減速時間=15秒、停止時間=1秒とした。そして、この状態で200時間保持した。その後、室温まで自然冷却して大気圧にまで減圧した後、耐圧容器の蓋を開けて中から坩堝を取り出したところ、窒化ガリウム結晶体インゴットは種結晶基板から剥離していたものの、クラックが発生していた。
【0044】
(比較例2)
比較例1と同じ条件で保持時間を60時間としてGaN結晶を育成したところ、種結晶基板から剥離したクラックのない窒化ガリウム結晶体インゴットが作成できた。この窒化ガリウム結晶体インゴットの所定面を研磨加工し、厚さ0.8mmのスパッタリングターゲットを得た。
【0045】
作製したスパッタリングターゲットを20mm角に切り出し、表面を研磨加工したうえで、酸素・窒素同時分析装置(EMGA-650W(HORIBA社製))で全酸素濃度を測定したところ、測定下限値(10質量ppm)以下であった。
また、作製したスパッタリングターゲットの酸素濃度をダイナミックSIMSで9点測定したところ、いずれも3×1016cm-3以下であった。
【0046】
更に、実施例1と同様にしてX線回折測定を行ったところ、 (002)面および(004)面の回折ピークのみが確認された。さらに、X線ロッキングカーブの(002)反射を測定し、半値幅を求めたところ、83arcsecが得られた。
【0047】
(スパッタリング実験)
実施例1と同様にしてスパッタリングを実施したところ、スパッタリング中にターゲットに割れが発生し、スパッタリング成膜が中止された。
【0048】
(実施例2~5)
実施例1と同様にして、表1に示すように、実施例2~5の各窒化ガリウム結晶体インゴットおよびスパッタリングターゲットを作製した。ただし、実施例1において、200時間保持時における加熱空間の温度を調整することで、酸素濃度を調節した。
なお、実施例5においては、アルミナ坩堝内に四塩化ゲルマニウムをGe/Ga+Na+Ge(mol%)=0.6mol%となるように金属ガリウムと金属ナトリウムと共に充填した。
【0049】
各実施例のスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様にして各元素濃度を測定し、X線回折測定を行い、またスパッタリング実験を行った。結果を表1に示す。
この結果、スパッタリング処理後、サファイア基板を取り出したところ、均一に厚さ1μmの窒化ガリウム結晶膜が形成されていた。窒化ガリウム結晶膜をSIMS分析したところ、酸素濃度は2×1017/cm3以上であった。
また、成膜後のスパッタリング後のターゲットの外観に、割れやひびの異常は現われなかった。
【0050】
(比較例3)
比較例2と同様にして窒化ガリウム結晶体インゴットおよびスパッタリングターゲットを作製した。ただし、比較例2においてはアルミナ坩堝内に四塩化ゲルマニウムをGe/Ga+Na+Ge(mol%)=0.6mol%となるように金属ガリウムと金属ナトリウムと共に充填した。
【0051】
比較例2のスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様にして各元素濃度を測定し、X線回折測定を行い、またスパッタリング実験を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にしてスパッタリングを実施したところ、スパッタリング中にターゲットに割れが発生し、スパッタリング成膜が中止された。
【0052】
(比較例4)
WO2016-158651A1の[0067]の記載に基づいて窒化ガリウム焼結体を作製し、スパッタリングターゲットとした。
すなわち、平均粒子径1μmの窒化ガリウム粉末200gをφ120mmの黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて1100℃で3時間、面圧200kgf/c m2の条件で焼成した。
このようにして得た焼結体を研磨加工し、厚さ2.0mmのスパッタリングターゲットを得た。
【0053】
本例のスパッタリングターゲットの全酸素濃度は800質量ppmであった。また、X線回折結果は無配向状態であった。
また、実施例1と同様にしてスパッタリング実験を行った。この結果、スパッタリング処理後、サファイア基板を取り出したところ、均一に厚さ1μmの窒化ガリウム結晶膜が形成されていた。窒化ガリウム結晶膜をSIMS分析したところ、酸素濃度は2×1020/cm3であった。
また、成膜後のスパッタリング後のターゲット外観に、割れやひびの異常は現われなかった。
【0054】
【要約】
【課題】低酸素濃度であって、スパッタリング時に割れにくく、スパッタリングによる成膜速度が速い窒化ガリウム系ガリウムスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】スパッタリングターゲット1は、所定面2aに対する法線方向でc軸方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子3によって構成される窒化ガリウム系結晶体2からなる。窒化ガリウム系結晶体2の全酸素濃度が150質量ppm以下であり、窒化ガリウム系単結晶粒子3の酸素濃度のダイナミックSIMS法による測定値が2×10
17cm
-3以上である。
【選択図】
図1