IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タキロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-化粧シート 図1
  • 特許-化粧シート 図2
  • 特許-化粧シート 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20221130BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20221130BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/04 A
B32B27/30 A
B32B27/30 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022562852
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2022037599
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2022042836
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁美
(72)【発明者】
【氏名】米澤 杏奈
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-165033(JP,A)
【文献】特開2021-24102(JP,A)
【文献】特開平11-157001(JP,A)
【文献】特開2022-25616(JP,A)
【文献】特開2020-82521(JP,A)
【文献】特開2011-27897(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
B41M3/00-3/18
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
D06N1/00-7/06
D21H27/20
E04F13/00-13/30
15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた表面層と
を備え、
前記表面層は、前記基材の表面上に形成された紫外線硬化物層と該紫外線硬化物層の表面上に形成されたエキシマ光硬化物層とにより構成され、
前記表面層がウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有し、
前記表面層における前記ウレタンアクリレートと前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比が、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:2~100:60であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面層の光沢度が5以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面層の、前記基材側と反対側の表面における表面粗さの標準偏差が0.2μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等の様々な用途で、表面装飾を施して意匠性を高めるために化粧シートが用いられている。この化粧シートとしては、例えば、基材上に低艶化(艶消し)効果を有する層が設けられたものが知られている。
【0003】
例えば、基材上に着色材を含有する化粧層を有し、化粧層上に、コールターカウンター法(AP50μm)により測定される平均粒子径が5μm以下の湿式ゲル法シリカ粒子を含有するクリア層を有する化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、無機粒子を含有するクリア層を有している場合であっても着色層の色味を好適に保持し、良好な艶消し表面を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、基材上に設けられた塗膜構成体の表面にエキシマランプから照射されたエキシマ光を照射することにより、塗膜構成体の表面における電磁波の照射部分の光沢を、電磁波の照射前よりも低減させた化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、艶消感の異なる領域を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-77691号公報
【文献】特開2018-164901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の化粧シートにおいては、単に、クリア層にシリカ粒子を配合したに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、低光沢性が発現しにくいという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の化粧シートにおいては、クリア層にシリカ粒子等が配合されておらず、単に、エキシマ光を照射するに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、さらにクリア層に不均一な凹凸が形成されるため、美観(意匠性)が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、美観に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の化粧シートは、基材と、基材上に設けられた表面層とを備え、表面層は、基材の表面上に形成された紫外線硬化物層と紫外線硬化物層の表面上に形成されたエキシマ光硬化物層とにより構成され、表面層がウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有し、表面層におけるウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比が、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:2~100:60であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれは、低光沢性を有するとともに、表面層の表面の全体において均一に凹凸が形成された、美観に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートを示す断面図である。
図2】実施例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
図3】比較例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の化粧シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0013】
<化粧シート>
図1に示すように、本発明の化粧シート1は、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた表面層3とを備えている。
【0014】
<基材>
基材2は、例えば、熱可塑性樹脂シートからなり、この熱可塑性樹脂シートとしては、化粧シート1における基材に通常用いられるものを使用できる。具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニルシート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)シート、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シート、ポリオレフィンシート(ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)シート、ポリカーボネートシート等が挙げられる。また、基材2に用いられる非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シートとして、PETボトルなどを原料としたリサイクルポリエチレンテレフタレート(RPET)シートが挙げられる。
【0015】
なお、熱可塑性樹脂シートとしては、二次曲面加工が容易であり、三次元成形性に優れるとの観点から、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートは、ポリエチレンテレフタレートの一種であり、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分がエチレングリコールであるのに対し、グリコール成分として、エチレングリコールの他、エチレングリコール以外のジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール)が含まれている非結晶性ポリエステルである。
【0016】
また、熱可塑性樹脂シートは、延伸シートであってもよく、未延伸シートであってもよい。また、熱可塑性樹脂シートには、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、滑剤、充填剤等の添加剤が含有されていてもよい。なお、熱可塑性樹脂シートは、意匠性の点から、着色されていることが好ましい。
【0017】
基材2の厚みは、特に限定されないが、50~800μmが好ましく、250~500μmがより好ましい。基材2の厚みが50μm以上であれば、機械強度と隠蔽性を十分に向上させることができる。また、基材2の厚みが800μm以下であれば、三次元成形性がより優れ、また、可撓性と印刷適性を確保し易くなる。
【0018】
<表面層>
表面層3は、ウレタンアクリレートと単官能アクリレートを主成分とし、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含有する塗料の塗膜である。
【0019】
この表面層3は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含有する塗料を基材2の表面2a上に塗工し、硬化させることにより形成することができ、表面層3は、基材2の表面2a上に形成された紫外線硬化物層6と、紫外線硬化物層6の表面6a上に形成されたエキシマ光硬化物層7により構成されている。
【0020】
また、図1に示すように、表面層3の表面(すなわち、基材2側と反対側の表面)3aには、シワが形成されている。
【0021】
表面層3を形成するウレタンアクリレートとしては、2~10官能のものが使用され、例えば、フェニルグリカミシルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、EBECRYL8402、KRM8452、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL4500、EBECRYL230、EBECRLY270、EBECRYL4858、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9270、EBECRYL4100、EBECRYL4513、EBECRYL8311、EBECRYL8465、EBECRYL9260、EBECRYL8701、KRM8667、EBECRYL4265、EBECRYL4587、EBECRYL4200、EBECRYL8210、EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL8254、EBECRYL8301R、KRM8200、KRM8904、RUA-062NS(2官能アクリレートモノマー含有品)、U-6LPA、UA-1100H、U-200PA、UA-160TM、及びUV-7600B(いずれも商品名)等の市販品を使用することができる。なお、これらのウレタンアクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、表面層3を形成する単官能アクリレートとしては、例えば、エチルカルビトールアクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、3-アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらの単官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、表面層3におけるウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの配合比は、本発明の化粧シート1の特徴を損なわない限り、特に制限はないが、質量比で、ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=10:90~90:10の範囲が好ましい。これは、ウレタンアクリレートは流動性が低いため、ウレタンアクリレートの質量比が大きくなると、表面層3の表面3aにシワが発生しにくくなり、艶消し効果による低光沢性が発現しにくくなるためである。また、単官能アクリレートは反応性が低いため、単官能アクリレートの質量比が大きくなると、塗料の硬化が生じにくくなるためである。
【0024】
また、表面層3の厚みTは特に限定されないが、1~45μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。表面層3の厚みが1μmよりも小さい場合は、エキシマ照射の際に後述の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の可動可能な塗膜領域が減少するため、シワが発生しにくくなり、艶消し効果による低光沢性が発現しにくくなる場合があるためである。また、表面層3の厚みが45μmよりも大きい場合は、触感性が更に低下して硬度が高くなるため、成型加工性が低下する場合があるためである。なお、表面層3の厚みが10μmよりも大きい場合は、表面層3の表面粗さSaが大きくなるため、耐指紋性が向上する反面、触感性が低下する場合がある。
【0025】
ここで、本発明の化粧シート1においては、表面層におけるウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比が、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:2~100:60である点に特徴がある。
【0026】
そして、このような構成により、表面層3において、反応基を有していない塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体より凹凸が形成されるため、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸を形成することが可能になる。
【0027】
なお、表面層3におけるウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比は、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:4~100:60であることが好ましい。
【0028】
また、表面層3において、ウレタンアクリレート100質量部にする塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の含有量が2質量部未満の場合は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の量が少ないため、後述の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体によるシワの形成が十分に促進されず、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸を形成することが困難になる場合がある。また、表面層3において、ウレタンアクリレート100質量部に対する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の含有量が60質量部よりも多い場合は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体にモノマー成分が過剰に吸収されて流動性を失うため、後述の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体によるシワの形成が十分に促進されず、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸を形成することが困難になる場合がある。
【0029】
また、表面層3を形成するための塗料は、発明の効果を損なわない範囲で、ウレタンアクリレート、単官能アクリレート、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、光重合開始剤、耐候剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤等が挙げられる。
【0030】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、及びカチオン系等の開始剤を使用することができる。また、耐候剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤を使用することができる。
【0031】
<製造方法>
本発明の化粧シート1を製造する際には、まず、例えば、上述の熱可塑性樹脂シートからなる基材2を準備する。この熱可塑性樹脂シートは、市販のものを用いてもよく、カレンダー法、押出成形法等の公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
【0032】
次に、基材2の表面2a上に、溶剤に、ウレタンアクリレート、単官能アクリレート、光重合開始剤、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体が添加された塗料を塗布し、基材2の表面2a上に表面層3となる塗膜を形成する。
【0033】
なお、例えば、上述のRUA-062NS等の2官能アクリレートモノマーが含有されたウレタンアクリレートを使用する場合は、単官能アクリレートの使用を省略することができる。
【0034】
また、塗料の塗工方法としては、特に限定されず、例えば、キャスト塗工法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールナイフコート法、リバースロールコート法、ロールコート法、及びコンマコート法等が挙げられる。
【0035】
次に、基材2の表面2a上に形成された塗膜にエキシマ光を照射する。より具体的には、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射する。そうすると、表面層3となる塗膜の最表面のみに硬化が生じて、上述のエキシマ光硬化物層7が形成される。
【0036】
その際、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における低光沢度(低光沢性)を実現することが可能になる。さらに、塗膜内部の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体は反応基を有しておらず、塗膜の表面(すなわち、エキシマ光硬化物層7)に移動しやすいため、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体により、上述のシワの形成が促進されて表面に凹凸が形成され、結果として、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸を形成することが可能になる。
【0037】
なお、エキシマランプを用いてエキシマ光を照射する場合、エキシマランプに充填されている放電ガスを変更することにより、電磁波のピーク波長を変化させることができる。上記ピーク波長のエキシマ光を照射する放電ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe等を用いることができる。
【0038】
そして、紫外線(350~450nm)を照射して塗膜を硬化させることにより、紫外線硬化物層6が形成されて、基材2の表面2a上に形成された紫外線硬化物層6と紫外線硬化物層6の表面6a上に形成されたエキシマ光硬化物層7により構成された表面層3が形成され、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸が形成される。その結果、エキシマ照射による低光沢性を維持した状態で、均一に形成された凹凸により美観が向上した化粧シート1が製造される。
【0039】
なお、上記紫外線(350~450nm)の代わりに、再度、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射しても、塗膜は完全に硬化しない。
【0040】
また、本発明の化粧シート1においては、上述のごとく、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体により、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸が形成されるため、表面層3の表面3aにおける表面粗さSa[μm]の標準偏差σが0.2μm以下となり、美観に優れた化粧シート1を提供することが可能になる。
【0041】
なお、ここで言う「表面粗さSa」とは、ISO 25178に規定されている「三次元表面性状パラメータ(三次元の算術平均粗さ)」のことを言う。
【0042】
また、「表面粗さSaの標準偏差σ」とは、表面粗さSaの広がり幅(表面粗さSaのバラツキ)を示し、この標準偏差σは後述の方法で求めることができる。
【0043】
また、本発明の化粧シート1は、上述のシワによる艶消し効果により、表面層3の表面3aにおける光沢度Gが5以下となるため、低光沢性を図ることが可能になる。
【0044】
なお、ここで言う「光沢度」とは、低艶性の指標であり、JIS Z 8741:1997に準拠した方法で測定される60°光沢度のことを言う。
【0045】
また、低艶性をより一層向上させて、意匠性を高めるとの観点から、光沢度Gは4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0046】
以上に説明したように、本発明の化粧シート1においては、表面層3がウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有し、表面層3におけるウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比が、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:2~100:60であるため、表面層3の表面3aの全体において均一に凹凸が形成された、美観に優れた化粧シート1を提供することが可能になる。
【0047】
また、上述のシワによる艶消し効果により、低光沢性を有する化粧シート1を提供することが可能になる。
【実施例
【0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0049】
化粧シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ウレタンアクリレート:9官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル社製、商品名:UV-7620EA)
(2)単官能アクリレート:テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートTHF-A)
(3)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体1:(カネカ社製、商品名:HM515)
(4)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体2:(カネカ社製、商品名:T5HX)
(5)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体3:(日信化学工業社製、商品名:ソルバインAL)
(6)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体4:(日信化学工業社製、商品名:ソルバインCL)
(7)開始剤1:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins B.V.製、商品名:Omnirad1173)
(8)反応性樹脂1:ラウリルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートL-A)
(9)反応性樹脂2:ステアリルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートS-A)
(10)反応性樹脂3:トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート(ダイセル・オルネクス社製、商品名:EBECRYL160S)
【0050】
(実施例1)
<化粧シートの作製>
まず、基材として、厚みが350μmであるポリ塩化ビニルシートを準備した。次に、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の塗料を準備し、この塗料を、バーコーターを用いて基材の表面上に塗布して、60℃で1分間、乾燥させることにより、基材の表面上に表面層となる塗膜を形成した。なお、塗料の溶剤として、メチルエチルケトンを使用した。
【0051】
次に、エキシマ照射装置(ウシオ電機(株)製、商品名:172nm Ligth Emission Unit、型式:SUS1000)を用いて、窒素雰囲気下において、Xeを放電ガスとして用いたエキシマ光(ピーク波長:172nm)を塗膜に照射した。なお、積算光量が25mJ/cm、照射光度が16mW/cmとなるように照射した。
【0052】
そして、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、紫外硬化用高圧水銀ランプ4kW(H04-L41))を用いて、塗膜に紫外線(主波長:365nm)を照射して、塗膜を光硬化させることにより、基材の表面上に表面層を形成し、化粧シートを作製した。なお、紫外線の照射距離が15cm、ランプ移動速度が0.75m/分の条件下で紫外線照射を行い、照射量を200mJ/cmとした。
【0053】
<厚みの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層の厚みTを、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、商品名:VHX-5000)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-4800)を用いて測定した。
【0054】
より具体的には、シートを割断することにより断面を露出させ、デジタルマイクロスコープ(測定倍率:500倍)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(測定倍率:1000倍))で断面を観察した際の、塗膜高さの高い部分と低い部分を10か所選択して、厚みを測定し、平均値を算出した。なお、上記測定を3回行い、3回分の塗膜高さの平均値を算出し、表面層の厚みTとした。以上の結果を表1に示す。
【0055】
<光沢度の測定>
次に、作製した化粧シートの表面層における60°の光沢度Gを、JIS Z 8741:1997に準拠して、光沢計((株)堀場製作所製、商品名:グロスチェッカーIG-320)を用いて測定した。なお、上記測定を5回行い、5回分の光沢度の平均値を算出し、表面層における光沢度Gとした。
【0056】
また、測定した5回の光沢度を使用して、標準偏差σを算出した。より具体的には、測定した5回の光沢度を、G,G,G,G,Gとし、下記式(1)を使用して求めた。以上の結果を表1に示す。
【0057】
【数1】
【0058】
<表面粗さの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層の表面粗さ(表面層の、基材側と反対側の表面における表面粗さ)Saを、ISO 25178に準拠して、形状解析レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、商品名:VK-X1000)を用いて測定した。なお、レーザー種として404nm半導体レーザーを用い、標準対物レンズ50倍を利用して、277μm×208μmの範囲を測定した。また、上記測定を10回行い、10回分の表面粗さSaの平均値を算出し、表面層における表面粗さSaとした。
【0059】
また、測定した10回の表面粗さSaを使用して、標準偏差σを算出した。より具体的には、測定した10回の表面粗さを、Sa,Sa,Sa,Sa,Sa,Sa6,Sa,Sa,Sa,Sa10とし、下記式(2)を使用して求めた。以上の結果を表1に示す。
【0060】
【数2】
【0061】
なお、本実施例の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を図2に示す。図2に示すように、本実施例の化粧シートは、低光沢性を有するとともに、表面層の表面の全体において均一に凹凸が形成され、美観に優れていることが分かる。
【0062】
(実施例2~11、比較例1~4)
塗料成分の組成を表1~表2に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0063】
そして、上述の実施例1と同様にして、厚みの測定、光沢度の測定、及び表面粗さの測定を行った。以上の結果を表1~表2に示す。
【0064】
なお、比較例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を図3に示す。図3に示すように、比較例1の化粧シートは、不均一な凹凸が形成されており、美観(意匠性)が低下していることが分かる。
【0065】
(比較例5~6)
塗料成分の組成を表2に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製しようとしたが、比較例5~6においては、表面層におけるウレタンアクリレート100質量部に対する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の含有量が60質量部よりも多いため、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体が溶剤(メチルエチルケトン)に溶解せず、塗料化することができなかった。
【0066】
従って、比較例5~6においては、厚みの測定、光沢度の測定、及び表面粗さの測定を行うことができなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1に示すように、実施例1~11の化粧シートにおいては、表面層の光沢度が5以下であるため、低光沢性を有するとともに、表面粗さSaの標準偏差が0.2μm以下であるため、表面層の表面の全体において均一に凹凸が形成され、美観に優れていることが分かる。
【0070】
一方、表2に示すように、比較例1~3の化粧シートにおいては、表面層が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含有しておらず、反応性樹脂(反応基を有する樹脂)を含有しているため、反応性樹脂が塗膜の表面に移動せず、シワの形成が十分に促進されなかったため、表面粗さSaの標準偏差が0.2μmよりも大きくなり、表面層の表面の全体において不均一に凹凸が形成され、美観に乏しいことが分かる。
【0071】
また、比較例4においては、表面層におけるウレタンアクリレート100質量部に対する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の含有量が2質量部未満であるため、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体によるシワの形成が十分に促進されず、表面粗さSaの標準偏差が0.2μmよりも大きくなり、表面層の表面の全体において不均一に凹凸が形成され、美観に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は、化粧シートに適している。
【符号の説明】
【0073】
1 化粧シート
2 基材
2a 基材の表面
3 表面層
3a 表面層の表面
6 紫外線硬化物層
6a 紫外線硬化物層の表面
7 エキシマ光硬化物層
T 表面層の厚み
【要約】
化粧シート(1)は、基材(2)と、基材(2)上に設けられた表面層(3)とを備えている。表面層(3)は、基材(2)の表面(2a)上に形成された紫外線硬化物層(6)と紫外線硬化物層(6)の表面(6a)上に形成されたエキシマ光硬化物層(7)とにより構成されている。表面層(3)がウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有し、表面層におけるウレタンアクリレートと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との質量比が、ウレタンアクリレート:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=100:2~100:60である。
図1
図2
図3