(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】焼結部材の製造方法、及び焼結部材
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20221201BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20221201BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
B22F3/10 E
C22C33/02 A
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2020521207
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019767
(87)【国際公開番号】W WO2019225513
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/019912
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】上本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山本 達司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 俊一
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-218102(JP,A)
【文献】特開平09-085389(JP,A)
【文献】特開2000-170768(JP,A)
【文献】特開2015-117391(JP,A)
【文献】特開2014-227561(JP,A)
【文献】特開2008-231538(JP,A)
【文献】特開2010-133016(JP,A)
【文献】特開2010-111937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe粉末又はFe合金粉末と、C粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を高周波誘導加熱により焼結する工程とを備え、
前記原料粉末における前記C粉末の含有量が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、
前記圧粉成形体を焼結する工程では、以下の条件(I)から条件(III)の全てを満たすように前記圧粉成形体の温度を制御する焼結部材の製造方法。
(I)Fe-C系状態図のA
1点以上前記圧粉成形体の焼結温度未満の温度域で温度を保持することなく昇温する。
(II)Fe-C系状態図のA
1点からA
3点までの温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(III)Fe-C系状態図のA
3点から前記圧粉成形体の焼結温度までの温度域での昇温速度を4℃/秒以上とする。
【請求項2】
前記原料粉末は、更に、Cu粉末を0.1質量%以上3.0質量%以下含む請求項1に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項3】
前記圧粉成形体の焼結温度での保持時間が、30秒以上90秒以下である請求項1又は請求項2に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項4】
前記圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度が、1135℃以上1250℃未満である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項5】
前記圧粉成形体を焼結する工程の昇温過程において、400℃以上700℃未満の雰囲気温度を保持せず、その雰囲気温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項6】
前記圧粉成形体を焼結する工程の昇温過程において、400℃以上700℃未満の雰囲気温度を30秒以上90秒以下保持する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項7】
前記圧粉成形体を焼結する工程の冷却過程における降温速度が1℃/秒以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の焼結部材の製造方法。
【請求項8】
Cを含むFe合金からなる組成を有する焼結部材であって、
Cの含有量が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、
前記焼結部材の断面における空孔の球状化率[{空孔面積/(空孔の周長)
2}/0.0796]×100が、50%以上85%以下である焼結部材。
【請求項9】
前記組成は、更にCuを含み、
電子線マイクロアナライザーを用い、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間として前記焼結部材の断面を面分析した際、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.4倍以上0.65倍以下を満たす領域の合計面積αと、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.16倍以上を満たす領域の合計面積βとの比率(α/β)×100が、40%以上である請求項8に記載の焼結部材。
【請求項10】
前記焼結部材は、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライト組織を有し、
前記セメンタイトの幅が120nm以下であり、
隣り合う前記セメンタイト同士の間隔が250nm以下である請求項8又は請求項9に記載の焼結部材。
【請求項11】
前記焼結部材は、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライト組織を有し、
前記組成は、更にCuを含み、
電子線マイクロアナライザーを用い、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間として前記焼結部材の断面を面分析した際、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.4倍以上0.65倍以下を満たす領域の合計面積αと、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.16倍以上を満たす領域の合計面積βとの比率(α/β)×100が、40%以上であり、
前記セメンタイトの幅が120nm以下であり、
隣り合う前記セメンタイト同士の間隔が250nm以下である請求項8に記載の焼結部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結部材の製造方法、及び焼結部材に関する。
本出願は、2018年5月23日付の国際出願のPCT/JP2018/019912に基づく優先権を主張し、前記国際出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用部品や一般機械の部品などに利用される鉄系の焼結部材の製造には、例えば、特許文献1に記載のようにメッシュベルト式連続焼結炉が用いられている。メッシュベルト式連続焼結炉は、上流から下流に向かって順に、予熱部、焼結部、冷却部が設けられている。このメッシュベルト式連続焼結炉は、プーリーを回転駆動させてメッシュベルトを走行させることで、メッシュベルト上に載置したワークを予熱部、焼結部、冷却部の順に移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る焼結部材の製造方法は、
Fe粉末又はFe合金粉末と、C粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を高周波誘導加熱により焼結する工程とを備え、
前記原料粉末における前記C粉末の含有量が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、
前記圧粉成形体を焼結する工程では、以下の条件(I)から条件(III)の全てを満たすように前記圧粉成形体の温度を制御する。
(I)Fe-C系状態図のA1点以上前記圧粉成形体の焼結温度未満の温度域で温度を保持することなく昇温する。
(II)Fe-C系状態図のA1点からA3点までの温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(III)Fe-C系状態図のA3点から前記圧粉成形体の焼結温度までの温度域での昇温速度を4℃/秒以上とする。
【0005】
本開示に係る焼結部材は、
Cを含むFe合金からなる組成を有する焼結部材であって、
前記焼結部材の断面における空孔の球状化率[{空孔面積/(空孔の周長)2}/0.0796]×100が、50%以上85%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、試料No.1に係る焼結部材の焼結工程における温度プロファイルを示すグラフである。
【
図2】
図2は、試料No.1に係る焼結部材の断面を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、試料No.2に係る焼結部材の断面を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、試料No.4に係る焼結部材の断面を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、
図4に示す試料No.4に係る焼結部材の断面観察像を二値化処理した画像である。
【
図6】
図6は、
図5の二値化処理画像を画像解析して空孔の輪郭を抽出した画像である。
【
図7】
図7は、試料No.1に係る焼結部材の断面の内周領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図8】
図8は、試料No.1に係る焼結部材の断面の中央領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図9】
図9は、試料No.1に係る焼結部材の断面の外周領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図10】
図10は、試料No.1に係る焼結部材の断面の内周領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、試料No.1に係る焼結部材の断面の中央領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、試料No.1に係る焼結部材の断面の外周領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、試料No.101に係る焼結部材の焼結工程における温度プロファイルを示すグラフである。
【
図14】
図14は、試料No.101に係る焼結部材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、試料No.101に係る焼結部材の断面の内周領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図16】
図16は、試料No.101に係る焼結部材の断面の中央領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図17】
図17は、試料No.101に係る焼結部材の断面の外周領域における元素の濃度分布を示す分布図である。
【
図18】
図18は、試料No.101に係る焼結部材の断面の内周領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【
図19】
図19は、試料No.101に係る焼結部材の断面の中央領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【
図20】
図20は、試料No.101に係る焼結部材の断面の外周領域における組織を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
焼結部材の強度の更なる向上は勿論、焼結部材の生産性の向上が望まれている。ベルト式連続焼結炉は、焼結部材の製造時間が長い。昇温速度が遅いため、焼結前に焼結炉を所定の温度にまで高めるために長時間を要する上に、焼結時に圧粉成形体を所定の温度にまで高めるために長時間を要するからである。
【0008】
また、ベルト式連続焼結炉は、大型になり易く、広大な設備スペースを要する。昇温速度が遅いことで、焼結炉の全長を長くする必要があるからである。更に、ベルト式連続焼結炉は、膨大なエネルギーを消費する。その理由は、焼結部材の製造に長時間を要するからである。加えて、焼結炉を所定温度にまで高めると圧粉成形体を焼結しない間も焼結炉の温度を保持し続けることがあるからである。圧粉成形体を焼結しない間に、一旦、焼結炉の温度を下げて、再度、所定の温度まで高めると、長時間を要するため作業効率が下がることがある。
【0009】
そこで、短時間で高強度な焼結部材を製造できる焼結部材の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0010】
また、高強度な焼結部材を提供することを目的の一つとする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の焼結部材の製造方法は、短時間で高強度な焼結部材を製造できる。
【0012】
本開示の焼結部材は、高強度である。
【0013】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の一態様に係る焼結部材の製造方法は、
Fe粉末又はFe合金粉末と、C粉末とを含む原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を高周波誘導加熱により焼結する工程とを備え、
前記原料粉末における前記C粉末の含有量が0.2質量%以上1.2質量%以下であり、
前記圧粉成形体を焼結する工程では、以下の条件(I)から条件(III)の全てを満たすように前記圧粉成形体の温度を制御する。
(I)Fe-C系状態図のA1点以上前記圧粉成形体の焼結温度未満の温度域で温度を保持することなく昇温する。
(II)Fe-C系状態図のA1点からA3点までの温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(III)Fe-C系状態図のA3点から前記圧粉成形体の焼結温度までの温度域での昇温速度を4℃/秒以上とする。
【0015】
上記の構成は、短時間で高強度な焼結部材を製造できる。
【0016】
製造時間を短くできる理由は、高周波誘導加熱では高速昇温できるからである。そのため、高周波誘導加熱は、ベルト式連続焼結炉を用いる場合に比較して、圧粉成形体を短時間で所定温度にまで高められるからである。その上、ベルト式連続焼結炉のように焼結炉本体を昇温する必要がない。
【0017】
焼結部材を高強度にできる理由は、次のように考えられる。条件(I)の温度域では高温のためCがFe中へ拡散し易いが、この温度域で温度を保持せず、昇温速度を条件(II)及び(III)のような高速とすることで、CのFe中への拡散が抑制される。Cの拡散が抑制されることにより、Feの表面にCリッチ相(Cのみの場合もある)が残存すると、焼結温度においてCリッチ相がFe-Cの液相になる。即ち、CがFe中へ拡散し易い温度域で温度を保持せずに高速昇温すると、Fe-Cの液相が生成され易い。このFe-Cの液相が、粒子間に形成される空孔の角を丸め、強度の低下の原因となる空孔の鋭角部を低減する。その結果、焼結部材の強度、特に圧環強度を高められる。
【0018】
また、上記の構成は、ベルト式連続焼結炉を用いる場合に比較して、設備の小型化を図り易い。高速昇温が可能なため、ベルト式連続焼結炉のような全長の長い焼結炉を用いなくてもよいからである。その上、上記の構成は、ベルト式連続焼結炉を用いる場合に比較して、消費電力量を低減し易い。製造時間を短くできる上に、ベルト式連続焼結炉のように焼結炉内の温度を保持し続ける必要がないからである。
【0019】
(2)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記原料粉末は、更に、Cu粉末を0.1質量%以上3.0質量%以下含むことが挙げられる。
【0020】
上記の構成は、高強度な焼結部材を製造できる。Cuは、Fe中に固溶して強度を高める働きがあり、Cu粉末の含有量が上記範囲を満たせば、強度向上に効果的である。
【0021】
(3)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体の焼結温度での保持時間が、30秒以上90秒以下であることが挙げられる。
【0022】
上記保持時間を30秒以上とすれば、圧粉成形体を十分に加熱できて、高強度な焼結部材を製造し易い。上記保持時間を90秒以下とすれば、保持時間が短いため、短時間で焼結部材を製造できる。
【0023】
(4)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度が、1135℃以上1250℃未満であることが挙げられる。
【0024】
圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度を1135℃以上とすれば、圧粉成形体を十分に加熱できて、高強度な焼結部材を製造し易い。圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度を1250℃未満とすれば、温度が高すぎず液相の過度な生成を抑制できるため、寸法精度の高い焼結部材を製造し易い。
【0025】
(5)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体を焼結する工程の昇温過程において、400℃以上700℃未満の雰囲気温度を保持せず、その雰囲気温度域での昇温速度を12℃/秒以上とすることが挙げられる。
【0026】
上記の構成は、上記雰囲気温度を保持する場合に比較して、高強度な焼結部材を短時間で製造できる。
【0027】
(6)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体を焼結する工程の昇温過程において、400℃以上700℃未満の雰囲気温度を30秒以上90秒以下保持することが挙げられる。
【0028】
上記の構成は、圧粉成形体を均熱化し易い。そのため、上記の構成は、例えば、サイズの大きな圧粉成形体を焼結する場合に好適である。また、上記雰囲気温度を上記時間保持しても、高強度な焼結部材が得られる。
【0029】
(7)上記焼結部材の製造方法の一形態として、
前記圧粉成形体を焼結する工程の冷却過程における降温速度が1℃/秒以上であることが挙げられる。
【0030】
上記の構成は、強度を高め易い。上記降温速度が1℃/秒以上であれば、素速く冷却できる。そのため、上記の構成は、パーライト組織以外のベイナイト組織を形成し易いからである。更にはマルテンサイト組織を形成し易いからである。
【0031】
(8)本開示の一態様に係る焼結部材は、
Cを含むFe合金からなる組成を有する焼結部材であって、
前記焼結部材の断面における空孔の球状化率[{空孔面積/(空孔の周長)2}/0.0796]×100が、50%以上85%以下である。
【0032】
上記の構成は、焼結部材中の空孔の形状がある程度丸いため、空孔の角も丸い。そのため、破壊の起点となって強度の低下を招く空孔の鋭角部が少ないので、強度(圧環強度)に優れる。
【0033】
(9)上記焼結部材の一形態として、
前記組成は、更にCuを含み、
電子線マイクロアナライザーを用い、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間として前記焼結部材の断面を面分析した際、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.4倍以上0.65倍以下を満たす領域の合計面積αと、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.16倍以上を満たす領域の合計面積βとの比率(α/β)×100が、40%以上であることが挙げられる。
【0034】
上記の構成は、CuがFe中へ拡散している領域の割合が大きいため、強度に優れる。
【0035】
(10)上記焼結部材の一形態として、
前記焼結部材は、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライト組織を有し、
前記セメンタイトの幅が120nm以下であり、
隣り合う前記セメンタイト同士の間隔が250nm以下であることが挙げられる。
【0036】
上記の構成は、微細なパーライト組織を有するため、強度に優れる。
【0037】
(11)上記焼結部材の一形態として、
前記焼結部材は、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライト組織を有し、
前記組成は、更にCuを含み、
電子線マイクロアナライザーを用い、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間として前記焼結部材の断面を面分析した際、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.4倍以上0.65倍以下を満たす領域の合計面積αと、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.16倍以上を満たす領域の合計面積βとの比率(α/β)×100が、40%以上であり、
前記セメンタイトの幅が120nm以下であり、
隣り合う前記セメンタイト同士の間隔が250nm以下であることが挙げられる。
【0038】
上記の構成は、強度に優れる。その理由は、CuがFe中へ拡散している領域の割合が大きいからである。その上、微細なパーライト組織を有するからである。
【0039】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。実施形態での説明は、焼結部材の製造方法、焼結部材の順に行う。
【0040】
〔焼結部材の製造方法〕
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、焼結部材の原料粉末を準備する工程(以下、準備工程)と、原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作成する工程(以下、成形工程)と、圧粉成形体を高周波誘導加熱により焼結する工程(以下、焼結工程)とを備える。この焼結部材の製造方法の特徴の一つは、準備工程で特定の原料粉末を準備する点と、焼結工程で特定の条件で焼結する点とにある。以下、各工程の詳細を説明する。
【0041】
[準備工程]
準備工程では、Fe粉末又はFe合金粉末と、C粉末とを含む原料粉末を準備する。この原料粉末は、Fe粉末又はFe合金粉末を主体とする。以下、Fe粉末とFe合金粉末とをまとめてFe系粉末ということがある。
【0042】
(Fe粉末、Fe合金粉末)
Fe粉末は、純鉄粉である。Fe合金粉末は、鉄を主成分とし、例えばNi、及びMoの中からなる群より選択される1種以上の添加元素を含有するFe合金粒子を複数有する。Fe合金は、不可避的不純物を含むことを許容する。具体的なFe合金としては、Fe-Ni-Mo系合金が挙げられる。Fe系粉末は、例えば、水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉、カルボニル粉、還元粉を使用できる。原料粉末におけるFe系粉末の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、90質量%以上が挙げられ、更に95質量%以上が挙げられる。Fe合金におけるFeの含有量は、Fe合金を100質量%とするとき、90質量%以上、更に95質量%以上が挙げられる。Fe合金における添加元素の含有量は、合計で0質量%超10.0質量%以下、更に0.1質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。
【0043】
Fe系粉末の平均粒径は、例えば、50μm以上150μm以下が挙げられる。平均粒径が上記範囲内のFe系粉末は、取り扱い易く、加圧成形し易い。平均粒径が50μm以上のFe系粉末は、流動性を確保し易い。平均粒径が150μm以下のFe系粉末は、緻密な組織の焼結部材を得易い。Fe系粉末の平均粒径は、更に55μm以上100μm以下が挙げられる。「平均粒径」は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)のことである。この点は、後述のC粉末及びCu粉末の平均粒径でも同様である。
【0044】
(C粉末)
C粉末は、昇温時にFe-Cの液相となり、焼結部材中の空孔の角を丸くして焼結部材の強度(圧環強度)を向上させる。原料粉末におけるC粉末の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、0.2質量%以上1.2質量%以下が挙げられる。C粉末の含有量を0.2質量%以上とすることで、Fe-Cの液相が十分出現して、空孔の角部を効果的に丸くし易くて強度を向上し易い。C粉末の含有量を1.2質量%以下とすることで、Fe-Cの液相が過度に生成されることを抑制し易く、寸法精度の高い焼結部材を製造し易い。C粉末の含有量は、更に0.4質量%以上1.0質量%以下が好ましく、特に0.6質量%以上0.8質量%以下が好ましい。C粉末の平均粒径は、Fe系粉末の平均粒径よりも小さくすることが好ましい。Fe系粉末よりも小さなC粉末は、Fe系粒子間に均一に分散し易いため、合金化を進行し易い。C粉末の平均粒径は、例えば、1μm以上30μm以下が挙げられ、更に10μm以上25μm以下が挙げられる。Fe-Cの液相を生成させるという観点ではC粉末の平均粒径は大きい方が好ましいが、大きすぎると液相の出現する時間が長くなることで空孔が大きくなりすぎて欠陥となる。なお、原料粉末が純鉄粉を含むがCを含まない場合、本例の製造方法により製造された焼結部材の強度は、ベルト式連続焼結炉を用いて製造された焼結部材よりも低くなる。
【0045】
(Cu粉末)
原料粉末は、更にCu粉末を含むことが好ましい。Cu粉末は、後述の焼結工程の昇温時にFe-Cの液相化に寄与する。その上、CuはFe中に固溶して強度を高める働きがあり、Cu粉末を含むことで高強度な焼結部材を製造できる。原料粉末におけるCu粉末の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、0.1質量%以上3.0質量%以下が挙げられる。Cu粉末の含有量を0.1質量%以上とすることで、Fe-Cの液相を生成させ易い。その理由は、昇温(焼結)時にCuがFe中に拡散してCのFe中への拡散を抑制し易いからである。Cu粉末の含有量を3.0質量%以下とすることで、寸法精度の高い焼結部材を製造し易い。その理由は、Cuが昇温(焼結)時にFe中に拡散することでFe粒子が膨張して、焼結時の収縮を相殺するように作用するからである。Cu粉末の含有量は、更に1.5質量%以上2.5質量%以下が挙げられる。Cu粉末の平均粒径は、C粉末と同様、Fe系粉末の平均粒径よりも小さくすることが好ましい。Fe系粉末よりも小さなCu粉末は、Fe系粒子間に均一に分散し易いため、合金化を進行し易い。Cu粉末の平均粒径は、例えば、1μm以上30μm以下が挙げられ、更に10μm以上25μm以下が挙げられる。
【0046】
(その他)
原料粉末は、潤滑剤を有していてもよい。潤滑剤は、原料粉末の成形時の潤滑性が高められ、成形性を向上させる。潤滑剤の種類は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。金属石鹸は、例えば、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどが挙げられる。脂肪酸アミドは、例えば、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミドなどが挙げられる。高級脂肪酸アミドは、例えば、エチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。潤滑剤の存在形態は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤には、これらの少なくとも1種を単独で又は組み合わせて用いることができる。原料粉末における潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば、0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられ、更に0.3質量%以上1.5質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.0質量%以下が挙げられる。
【0047】
原料粉末は、有機バインダーを含有してもよい。有機バインダーの種類は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、パラフィン、各種ワックスなどが挙げられる。有機バインダーの含有量は、原料粉末を100質量%としたとき、0.1質量%以下が挙げられる。有機バインダーの含有量が0.1質量%以下であれば、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできるため、緻密な圧粉成形体を得易い。有機バインダーを含有しない場合、圧粉成形体を後工程で脱脂する必要がない。
【0048】
[成形工程]
成形工程は、原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する。圧粉成形体の形状は、焼結部材の最終形状に沿った形状、具体的には円柱状や円筒状などが挙げられる。圧粉成形体の作製には、上記形状に成形できる適宜な成形装置(金型)を用いることが挙げられる。例えば、円柱や円筒の軸方向に沿ってプレス成形するように一軸加圧が可能な金型を用いることが挙げられる。成形圧力は、高いほど、圧粉成形体を高密度化でき、延いては焼結部材を高強度化できる。成形圧力は、例えば、400MPa以上が挙げられ、更に500MPa以上が挙げられ、特に600MPa以上が挙げられる。成形圧力の上限は、特に限定されないが、例えば、2000MPa以下が挙げられ、更には、1000MPa以下が挙げられ、特に900MPa以下が挙げられる。この圧粉成形体には、適宜、切削加工が施されていてもよい。切削加工は、公知の加工が利用できる。
【0049】
[焼結工程]
焼結工程では、圧粉成形体を加熱して焼結部材を作製する。この加熱には、高周波誘導加熱を利用する。高周波誘導加熱は、高速昇温できるため、圧粉成形体を短時間で所定温度にまで高められる。そのため、高周波誘導加熱は、焼結部材を短時間で製造し易い。なお、加熱には、直接通電加熱を利用することも考えられる。高周波誘導加熱には、例えば、出力や周波数を調整可能な電源と、電源に接続されるコイルと、コイル内に配置されて圧粉成形体を収納する収納容器とを備える高周波誘導加熱装置を利用できる(図示略)。高周波誘導加熱装置は、更に、収納容器内に不活性ガスを供給するガス供給路と、収納容器外にガスを排出するガス排出路とを備えることが好ましい。ガス供給路及びガス排出路を備える高周波誘導加熱装置は、非酸化性雰囲気で圧粉成形体を焼結できる。不活性ガスは、窒素ガスやアルゴンガスなどが挙げられる。焼結工程では、昇温過程、焼結過程、冷却過程を順に経る。
【0050】
(昇温過程)
昇温過程では、以下の条件(I)から条件(III)の全てを満たすように圧粉成形体の温度を制御する。A1点は、738℃程度であり、A3点は、910℃程度である。
(I)Fe-C系状態図のA1点以上圧粉成形体の焼結温度未満の温度域で温度を保持することなく昇温する。
(II)Fe-C系状態図のA1点からA3点までの温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(III)Fe-C系状態図のA3点から圧粉成形体の焼結温度までの昇温速度を4℃/秒以上とする。
【0051】
条件(I)から条件(III)を満たすように温度制御すれば、以下の条件(i)から条件(iii)を満たす。条件(I)から条件(III)と条件(i)から条件(iii)とは実質的に相関関係があるからである。即ち、条件(i)から条件(iii)を満たせば、条件(I)から条件(III)を満たすように温度制御している。
(i)Fe-C系状態図のA1点以上圧粉成形体の焼結温度未満に対応する雰囲気温度域で雰囲気温度を保持することなく昇温する。
(ii)Fe-C系状態図のA1点からA3点までに対応する雰囲気温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(iii)Fe-C系状態図のA3点から圧粉成形体の焼結温度までに対応する雰囲気温度域での昇温速度を4℃/秒以上とする。
【0052】
雰囲気温度とは、上記収納容器内の雰囲気の温度で、圧粉成形体から8.5mm以内に配置した熱電対(直径Φ3.5mm)で測定した温度とする。上記収納容器内の雰囲気は、誘導加熱された圧粉成形体の熱で温められるため、雰囲気温度は、誘導加熱された圧粉成形体自体の温度に比較して少し低い温度となることが多い。例えば、A1点に対応する雰囲気温度とは、圧粉成形体の温度がA1点となったときの雰囲気の温度であり、A1点以下の温度となることが多い。A3点に対応する雰囲気温度や圧粉成形体の焼結温度に対応する雰囲気温度も同様である。
【0053】
条件(I)から条件(III)の全て(条件(i)から条件(iii)の全て)を満たすことで、高強度な焼結部材を製造できる。その理由は、次のように考えられる。条件(I)の温度域ではCがFe中へ拡散し易いが、この温度域で温度を保持せず、昇温速度を条件(II)及び(III)のような高速とすることで、CのFe中への拡散が抑制される。Cの拡散が抑制されると、例えば、Fe粒子に隣接したC粒子が固相のまま残存し、そのFe粒子とC粒子との隣接界面などがCリッチ相(Cのみの場合もある)となる。Cリッチ相がFeの表面に残存すると、焼結温度においてFe-Cの液相になる。Fe-C系状態図から明らかなように、Cが約0.2質量%以上であれば、1153℃以上でFe-C系材料は液相になる。そのため、圧粉成形体を1153℃以上の焼結温度とすれば、Cリッチ相が液相になる。即ち、CがFe中へ拡散し易い温度域で温度を保持せずに高速昇温すると、Fe-Cの液相が生成され易い。このFe-Cの液相が、粒子間に形成される空孔の角を丸め、強度の低下の原因(破壊の起点)となる空孔の鋭角部を低減する。その結果、焼結部材の強度、特に圧環強度を高められる。
【0054】
昇温速度は、高周波誘導加熱装置の電源の出力や周波数を調整することで調整できる。出力や周波数の設定は、例えば、条件(II)の昇温速度を満たす出力や周波数の設定とすることが挙げられる。出力や周波数の設定は、条件(II)の温度域から条件(III)の温度域にわたって一定としてもよいし、条件(II)の温度域から条件(III)の温度域に移行する際に変えてもよい。出力や周波数の設定を条件(II)の温度域から条件(III)の温度域にわたって一定とすれば、条件(III)の昇温速度を満たすことができる。但し、出力や周波数を一定とすれば、条件(III)の昇温速度は、条件(II)の昇温速度よりも遅くなる。出力や周波数の設定を条件(II)の温度域から条件(III)の温度域に移行する際に変えれば、条件(III)の昇温速度を更に速められ、延いては条件(II)の昇温速度と同等程度とすることもできる。
【0055】
条件(II)の昇温速度は、速いほど好ましく、例えば、更に12.5℃/秒以上が好ましい。条件(II)の昇温速度の上限は、例えば、50℃/秒以下が挙げられ、更に15℃/秒以下が好ましい。条件(III)の昇温速度は、上記条件(II)と同様、速いほど好ましく、例えば、5℃/秒以上が好ましく、更に10℃/秒以上が好ましい。条件(III)の昇温速度の上限は、例えば、50℃/秒以下が挙げられ、更に15℃/秒以下が好ましい。
【0056】
昇温過程では、更に、条件(IV)及び条件(V)のいずれか一方を満たすように圧粉成形体の温度を制御することが好ましい。
(IV)圧粉成形体が410℃以上Fe-C系状態図のA1点未満となる温度域で温度を保持せず、この温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(V)圧粉成形体が410℃以上Fe-C系状態図のA1点未満となる温度域の温度を30秒以上90秒以下保持する。
【0057】
条件(IV)及び条件(V)のいずれか一方を満たすように温度制御すれば、以下の条件(iv)及び条件(v)のいずれか一方を満たす。条件(IV)及び条件(V)と条件(iv)及び条件(v)とは実質的に相関関係があるからである。即ち、条件(iv)及び条件(v)のいずれか一方を満たせば、条件(IV)及び条件(V)のいずれか一方を満たすように温度制御している。
(iv)400℃以上700℃未満の雰囲気温度を保持せず、この雰囲気温度域での昇温速度を12℃/秒以上とする。
(v)400℃以上700℃未満の雰囲気温度を30秒以上90秒以下保持する。
【0058】
条件(IV)、条件(iv)を満たせば、条件(V)、条件(v)を満たす場合に比較して、高強度な焼結部材を短時間で製造できる。条件(IV)、条件(iv)の昇温速度は、例えば、出力や周波数の設定を条件(II)、条件(ii)の昇温速度を満たす出力や周波数と同じ設定とすることで達成できる。この場合、高周波誘導加熱装置の電源の出力や周波数の設定を昇温開始時から焼結時まで常時一定とし、昇温開始時の雰囲気温度から焼結時の雰囲気温度までの雰囲気温度を保持しないことが挙げられる。焼結時の雰囲気温度未満の雰囲気温度を保持しないため、短時間で焼結部材を製造できる。条件(IV)、条件(iv)の雰囲気温度での昇温速度は、更に15℃/秒以上が好ましく、特に20℃/秒以上が好ましい。
【0059】
条件(V)、条件(v)を満たせば、条件(IV)、条件(iv)を満たす場合に比較して、圧粉成形体を均熱化し易い。即ち、条件(V)、条件(v)は、複雑形状の圧粉成形体を焼結する場合に特に好適である。また、条件(V)、条件(v)を満たしても、高強度な焼結部材が得られる。条件(V)の温度域は、更に735℃以下が好ましく、特に700℃以下が好ましい。条件(v)の雰囲気温度は、更に600℃以下が好ましく、特に500℃以下が好ましい。条件(V)、条件(v)の雰囲気温度を保持する保持時間は、更に45秒以上75秒以下が好ましい。条件(V)の温度、条件(v)の雰囲気温度を保持した後の昇温速度は、条件(II)、条件(ii)及び条件(III)、条件(iii)の昇温速度とする。
【0060】
(焼結過程)
圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度(焼結温度)での保持時間は、その雰囲気温度(焼結温度)や圧粉成形体のサイズにもよるが、例えば、30秒以上90秒以下が好ましい。上記保持時間を30秒以上とすれば、圧粉成形体を十分に加熱できて、高強度な焼結部材を製造し易い。上記保持時間を90秒以下とすれば、保持時間が短いため、短時間で焼結部材を製造できる。上記保持時間は、更に90秒未満が好ましく、特に60秒以下が好ましい。なお、サイズの大きな圧粉成形体などの場合、上記保持時間を90秒以上とすることが効果的な場合もある。
【0061】
圧粉成形体の焼結温度は、Fe-Cの液相が生成される温度以上とすることが挙げられ、1153℃以上が挙げられる。焼結温度を1153℃以上とすれば、液相を生成できて空孔の角を丸め易く、高強度な焼結部材を製造し易い。この焼結温度は、例えば、1250℃以下が好ましい。焼結温度が1250℃以下であれば、温度が高すぎず液相の過度な生成を抑制できるため、寸法精度の高い焼結部材を製造し易い。焼結温度は、更に1153℃以上1200℃以下が好ましく、特に1155℃以上1185℃以下が好ましい。
【0062】
圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度は、1135℃以上1250℃未満が好ましい。圧粉成形体の焼結温度が1153℃以上を満たせば、圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度は、1135℃以上を満たす。同様に、圧粉成形体の焼結温度が1250℃以下を満たせば、圧粉成形体の焼結時の雰囲気温度は、1250℃未満を満たす。焼結時の雰囲気温度は、更に1135℃以上1185℃以下が好ましく、特に1135℃以上1185℃未満が好ましい。
【0063】
(冷却過程)
焼結工程の冷却過程における降温速度は、速くすることが好ましい。降温速度を速めることで、ベイナイト組織を形成し易く、更にはマルテンサイト組織を形成し易いため、焼結部材の強度を高め易い。降温速度は、1℃/秒以上が好ましい。降温速度が1℃/秒以上であれば、素速く冷却できる。降温速度は、更に2℃/秒以上が好ましく、特に5℃/秒以上が好ましい。降温速度は、例えば、200℃/秒以下が挙げられ、更に100℃/秒以下が挙げられ、特に50℃/秒以下が挙げられる。
【0064】
この降温速度で冷却する温度域は、冷却開始(圧粉成形体の焼結温度)から冷却完了(例えば200℃程度)までの温度域としてもよい。特に、圧粉成形体の温度(雰囲気温度)が750℃(700℃)から230℃(200℃)までの温度域(雰囲気温度域)とすることが好ましい。冷却方法は、冷却ガスを焼結部材に吹き付けることが挙げられる。冷却ガスの種類は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられる。急速降温により後工程の熱処理工程を省略できる。
【0065】
[その他の工程]
焼結部材の製造方法は、その他、熱処理工程、及び仕上げ加工工程の少なくとも一つの工程を備えることができる。
【0066】
(熱処理工程)
熱処理工程では、焼結部材に焼入れ・焼戻しなどを行なう。そうして、焼結部材の機械的特性、特に硬度及び強度を向上させる。
【0067】
(仕上げ加工工程)
仕上げ加工工程は、焼結部材の寸法を設計寸法に合わせる。例えば、サイジングや焼結部材の表面への研磨加工などが挙げられる。特に、研磨加工は、焼結部材の表面粗さを小さくし易い。
【0068】
[用途]
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)の製造に好適に利用できる。
【0069】
〔作用効果〕
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、短時間で高強度な焼結部材を製造できる。その理由は、CがFe中へ拡散し易い温度域で温度を保持せずに高速昇温することで、Fe-Cの液相を効果的に生成できて、粒子間に形成される空孔の角を丸めることができるからである。
【0070】
〔焼結部材〕
焼結部材は、複数の金属粒子同士が結合されてなる。この焼結部材は、上述の焼結部材の製造方法により製造できる。焼結部材は、Cを含むFe合金からなる組成を有する。この組成は、更にCuや上述した添加元素(Ni,Mo)を含むことがある。
【0071】
焼結部材の内部には、角の丸い複数の空孔が形成されている。焼結部材の空孔の球状化率[{空孔面積/(空孔の周長)2}/0.0796]×100は、50%以上85%以下である。空孔の球状化率が上記範囲を満たすことで、焼結部材中の空孔の形状がある程度丸いため、空孔の角も丸い。そのため、焼結部材は強度(圧環強度)に優れる。空孔の球状化率は、更に55%以上80%以下が好ましく、特に58%以上78%以下が好ましい。空孔面積及び空孔の周長の求め方は、後述する。
【0072】
焼結部材は、Cuを含む場合、CuがFe中へ拡散した領域の割合(以下、拡散率)が大きいことが好ましい。上記拡散率は、例えば、40%以上が好ましい。上記拡散率が40%以上の焼結部材は、CuがFe中へ拡散している領域の割合が大きいため、高強度である。上記拡散率は、更に、42%以上が好ましく、特に、45%以上が好ましい。上記拡散率の上限値は、例えば、65%程度である。
【0073】
上記拡散率は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて焼結部材の断面を面分析することで求められる。焼結部材の断面は、任意の断面をとることができる。焼結部材の形状が円柱状や円筒状の場合、焼結部材の断面は、例えば、焼結部材の軸方向に平行な断面が挙げられる。焼結部材の断面において、3つ以上の観察視野をとる。焼結部材の形状が円筒状の場合、例えば、焼結部材の軸方向に平行な断面を径方向に三等分した内周領域、中央領域、及び外周領域の各々の領域から1つ以上の観察視野をとることが挙げられる。各観察視野の倍率は、200倍である。各観察視野のサイズは、500μm×460μmである。各観察視野において、EPMAによって元素マッピング分析を行い、Cu濃度の高い順に、白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒で色別する。分析条件は、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間とする。得られた各マッピング画像から、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.4倍以上0.65倍以下を満たす領域(概ね緑色~概ね黄色)の合計面積αと、Cu濃度レベルが最大のCu濃度レベルの0.16倍以上を満たす領域(概ね黒色を除く。即ち、白色~概ね紫色)の合計面積βとの比率(α/β)×100を求める。合計面積α、βは、画像解析ソフトで求められる。求めた全ての比率の平均値を上記拡散率とする。
【0074】
焼結部材は、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライト組織を有することが好ましい。パーライト組織を有することで、焼結部材の強度が高いからである。パーライト組織は、微細であることが好ましい。微細なパーライト組織を有することで、焼結部材の強度はより一層高いからである。パーライト組織中のセメンタイトの幅は、例えば、120nm以下が好ましい。セメンタイトの幅が120nm以下であれば、パーライト組織が微細になり易いため、焼結部材の強度が高くなり易い。セメンタイトの幅は、更に、100nm以下が好ましく、特に、80nm以下が好ましい。セメンタイトの幅の下限値は、例えば、60nm程度が挙げられる。パーライト組織中の隣り合うセメンタイト同士の間隔(ラメラ間隔)は、例えば、250nm以下が好ましい。上記間隔が250nm以下であれば、パーライト組織が微細になり易いため、焼結部材の強度が高くなり易い。上記間隔は、更に、200nm以下、180nm以下が好ましく、特に150nm以下、130nm以下が好ましい。上記間隔の下限値は、例えば、100nm程度が挙げられる。
【0075】
セメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔は、次のようにして求めた全てのセメンタイトの幅の平均値と隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値とする。電界放出形走査電子顕微鏡を用いて、焼結部材の断面から3つ以上の観察視野をとる。焼結部材の断面と各観察視野のとり方は、上記拡散率の求め方と同様とすることができる。各観察視野の倍率は、17000倍である。各観察視野のサイズは、8.1μm×5.7μmである。各観察視野において、画像解析ソフトを用い、セメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔を21箇所ずつ計測する。計測する21箇所の内訳は、幅や間隔が狭い部分から7箇所、幅や間隔が広い部分から7箇所、幅や間隔が狭い部分と広い部分との中間部分から7箇所とする。各セメンタイトの幅とは、セメンタイトの長手方向に直交する方向に沿った長さをいう。隣り合うセメンタイトの各間隔とは、左右に隣り合うセメンタイトのうち、左側のセメンタイトの右側辺と右側のセメンタイトの左側辺との間の距離をいう。例えば、焼結部材の形状が円筒状であり、焼結部材の軸方向に平行な断面を径方向に三等分した内周領域、中央領域、及び外周領域の各々の領域から1つ以上の観察視野をとったとき、セメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とは、全ての領域におけるセメンタイトの幅の平均値と隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値である。
【0076】
[用途]
実施形態に係る焼結部材は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)に好適に利用できる。
【0077】
〔作用効果〕
実施形態に係る焼結部材は、強度(圧環強度)に優れる。焼結部材中の空孔の形状がある程度丸いため、空孔の角も丸い。そのため、破壊の起点となって強度の低下を招く空孔の鋭角部が少ないからである。
【0078】
《試験例1》
焼結部材の製造方法に違いによる焼結部材の強度の違いを評価した。
【0079】
〔試料No.1~No.4〕
試料No.1~No.4の焼結部材は、上述の焼結部材の製造方法と同様にして、準備工程と成形工程と焼結工程とを経て、それぞれ2個ずつ作製した。
【0080】
[準備工程]
原料粉末として、Fe粉末とCu粉末とC粉末とを含む混合粉末を準備した。Fe粉末の平均粒径(D50)は、65μmであり、Cu粉末の平均粒径(D50)は、22μmであり、C粉末の平均粒径(D50)は、18μmである。各粉末の含有量は、Cu粉末の含有量を2.0質量%とし、C粉末の含有量を0.8質量%とし、Fe粉末の含有量を残部とした。
【0081】
[成形工程]
原料粉末を加圧成形して、円筒状(外径:34mm、内径:20mm、高さ:10mm)の圧粉成形体を作製した。成形圧力は、600MPaとした。
【0082】
[焼結工程]
圧粉成形体を高周波誘導加熱して焼結部材を作製した。本例では、出力や周波数を調整可能な電源と、電源に接続されるコイル(線径10mm、内径50mm)と、コイル内に配置されて圧粉成形体を収納する収納容器と、収納容器内に不活性ガスを供給するガス供給路と、収納容器外にガスを排出するガス排出路とを備える高周波誘導加熱装置を用いた。収納容器は、誘導加熱されない材質(セラミックス)で構成している。不活性ガスは、窒素ガスを用いた。焼結工程では、昇温過程、焼結過程、冷却過程を順に経た。各過程は、雰囲気温度を測定しながら行った。雰囲気温度の測定は、収納容器内で圧粉成形体から8.5mm以内に配置した熱電対(直径Φ3.5mm)で行った。本例では、熱電対の配置箇所は、圧粉成形体の内周面の内側(圧粉成形体の中心)とした。
【0083】
(昇温過程)
昇温過程では、高周波誘導加熱装置の電源の出力及び周波数を途中で変えずに一定にして、特定の温度域で温度を保持することなく昇温した。即ち、Fe-C系状態図のA1点以上圧粉成形体の焼結温度未満の温度域で温度を保持しなかった。試料No.1~No.3では、おおよそ出力を8.0kW、周波数を3.5kHzとし、試料No.4では、おおよそ出力を8.7kW、周波数を3.8kHzとした。
【0084】
(焼結過程)
焼結過程では、圧粉成形体を所定温度で所定時間保持した。試料No.1~No.3ではそれぞれ、測定した雰囲気温度が1135℃になったとき、その1135℃を30秒、60秒、90秒間保持した。試料No.4では、測定した雰囲気温度が1185℃になったときに、その1185℃を30秒間保持した。1135℃と1185℃のそれぞれの雰囲気温度を保持するように出力及び周波数を調整した。
【0085】
(冷却過程)
冷却過程では、冷却ガス(窒素ガス)を焼結部材に吹き付けて焼結部材を冷却した。雰囲気温度が冷却開始時(焼結完了時)から200℃までの温度域での降温速度(℃/秒)が表1に示すように1℃/秒以上となるようにした。その結果、冷却開始時から700℃までの温度域での降温速度は、3℃/秒程度であり、700℃から200℃までの温度域での降温速度は、1℃/秒程度であった。
【0086】
各試料における昇温過程から冷却過程までの雰囲気温度の推移(温度プロファイル)から、Fe-C系状態図のA
1点からA
3点までに対応する雰囲気温度域(700℃から900℃)での昇温速度と、A
3点から圧粉成形体の焼結温度までに対応する雰囲気温度域(900℃から1135℃、900℃から1185℃)での昇温速度とを求めた。その結果を表1に示す。なお、温度プロファイルから、200℃から700℃までの雰囲気温度域での昇温速度、更には400℃から700℃までの雰囲気温度域での昇温速度を求めた。その結果、それらの雰囲気温度域での昇温速度は、各試料のいずれにおいても12℃/秒以上であった。試料No.1の焼結部材の温度プロファイルを
図1に示す。
図1の横軸は、焼結時間(秒)であり、縦軸は、雰囲気温度(℃)である。試料No.2~No.4の温度プロファイルは、
図1に示す試料No.1と同様であったため、図示を省略している。試料No.1~No.4における昇温開始から焼結完了(冷却開始)までの時間は2~3分程度であり、昇温開始から冷却完了までの時間は15分程度であった。
【0087】
〔試料No.101〕
試料No.101の焼結部材は、焼結工程でベルト式連続焼結炉を用いた点を除き、試料No.1と同様として製造した。焼結炉内の雰囲気温度は、圧粉成形体の焼結温度が1130℃となるように表1に示す温度とした。焼結炉の雰囲気温度での保持時間は、表1に示す時間である。ベルト式連続焼結炉は、圧粉成形体の焼結時間が長いため、焼結炉の雰囲気温度と圧粉成形体自体の温度とが同様の温度になり易い。試料No.101の温度プロファイルから、昇温過程において、試料No.1などと同様の温度域での昇温速度と、冷却過程において、試料No.1などと同様の温度域での降温速度とを求めた。その結果を表1に示す。なお、温度プロファイルからすると、試料No.101の昇温速度は、昇温開始から焼結温度未満まで、0.7℃/秒で実質的に一定であった。試料No.101の圧粉成形体の焼結工程における温度プロファイルを
図13に示す。
図13の横軸は、焼結時間(分)であり、縦軸は、焼結炉内の雰囲気温度(℃)である。試料No.101における昇温開始から焼結完了(冷却開始)までの時間は40分程度であり、昇温開始から冷却完了までの時間は100分以上かかった。
【0088】
【0089】
〔密度測定〕
各試料の焼結部材の見掛け密度(g/cm3)をアルキメデス法で測定した。焼結部材の見掛け密度は、「(焼結部材の乾燥重量)/{(焼結部材の乾燥重量)-(焼結部材の油浸材の水中重量)}×水の密度」から求めた。焼結部材の油漬材の水中重量は、油中に浸漬して含油させた焼結部材を水中に浸漬させた部材の重量である。各試料の焼結部材の見掛け密度の測定結果を表2に示す。
【0090】
〔寸法精度の評価〕
各試料の焼結部材の寸法精度は、焼結前の圧粉成形体と焼結後の焼結部材のそれぞれの寸法を測定して、焼結前後での寸法変化率を求めることで評価した。ここでは、X軸方向の外径・内径の変化率(%)、Y軸方向の外径・内径の変化率(%)、高さ変化率(%)、外径・内径の真円度(mm)を求めた。X軸方向とY軸方向はどちらも、圧粉成形体・焼結部材の径方向をいい、X軸方向とY軸方向とは互いに直交している。X軸方向の外径変化率は、[{(焼結部材のX軸方向の外径)-(圧粉成形体のX軸方向の外径)}の絶対値/(圧粉成形体のX軸方向の外径)]×100、で求めた。Y軸方向の外径変化率、X軸方向の内径変化率、Y軸方向の内径変化率、高さ変化率は、上記「X軸方向の外径変化率」の「X軸方向」を「Y軸方向」、「外径」を「内径」、「X軸方向の外径」を「高さ」と適宜読み替えればよい。外径真円度は、焼結部材の(X軸方向の外径-Y軸方向の外径)の絶対値/2、で求めた。内径真円度は、上記「外径真円度」の「外径」を「内径」と読み替えればよい。X軸方向の外径・内径は、高さ方向の異なる三箇所の外径・内径の平均値である。Y軸方向の外径・内径も同様である。高さ方向に沿った測定箇所同士の間隔は均等とした。高さは、周方向の4箇所の高さの平均値である。周方向に沿った測定箇所同士の間隔は均等とした。それらの結果を表2に示す。
【0091】
〔強度の評価〕
各試料の焼結部材の強度は、圧環強度とロックウェル硬さHRBとを測定することで評価した。
【0092】
[圧環強度]
圧環強度の測定は、「焼結軸受-圧環強さ試験方法 JIS Z 2507(2000)」に準拠して行った。具体的には、筒状の焼結部材に対して、その径方向に対向するように二つのプレートを配置し、これらのプレートで上記試験片を挟持して、一方のプレートに荷重を加える。そして、筒状の焼結部材が破壊するときの最大荷重を求め、この最大荷重(n=3の平均)を圧環強度(MPa)として評価した。その結果を表2に示す。
【0093】
[ロックウェル硬さ]
ロックウェル硬さHRBの測定は、「ロックウェル硬さ試験-試験方法 JIS Z 2245(2016)」に準拠して行った。ここでは、焼結部材の上・下端面のそれぞれに対して3箇所ずつ測定し、上・下端面のそれぞれの平均値を求めた。各端面における測定箇所同士の周方向に沿った間隔は、均等となるようにした。その結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示すように、試料No.1~No.3の焼結部材の見掛け密度及び寸法精度は、試料No.101と同程度である。試料No.4の焼結部材の見掛け密度及び寸法精度は、試料No.1~No.3ほどではないものの、試料No.101に近い値となっている。従って、高周波誘導加熱により寸法精度に優れる焼結部材を製造できることが分かる。
【0096】
表2に示すように、試料No.1~No.4の焼結部材の圧環強度及びロックウェル硬さは、試料No.101に比較して高いことが分かる。従って、短時間で高強度な焼結部材が製造できることが分かった。特に、試料No.1~No.4の比較から、焼結過程の保持時間が比較的短い試料No.1、No.2、No.4の焼結部材の強度は、焼結過程の保持時間が比較的長い試料No.3に比較して高いことが分かる。試料No.1とNo.4との比較から、焼結過程で保持した雰囲気温度が比較的高い試料No.4の焼結部材の強度は、焼結過程で保持した雰囲気温度が比較的低い試料No.1に比較して高いことが分かる。
【0097】
試料No.1、No.2、No.4、No.101の焼結部材の断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス VH-ZST、倍率:1000倍)で観察した。このとき、断面に対して斜めから光を当てた。その顕微鏡写真をそれぞれ、
図2~
図4、
図14に示す。断面は、次のようにして露出させた。焼結部材の一部を切断した試料片をエポキシ樹脂で埋設した成形体を作製し、成形体を研磨加工した。研磨加工は、2段階に分けて行った。一段階目の加工として、試料片の切断面が露出されるまで成形体の樹脂を研磨した。二段階目の加工として、露出した試料片の切断面を研磨した。この研磨は、鏡面研磨とした。即ち、観察した断面は、鏡面研磨面である。各図において、薄灰色の部分が空孔である。
【0098】
図2~
図4に示すように、試料No.1、No.2、No.4の焼結部材における空孔の角は丸くて、鋭角部が少ない(殆どない)ことが分かる。一方、
図14に示すように、試料No.101の焼結部材における空孔の角は鋭角であることが分かる。
【0099】
試料No.1、No.2、No.4では、CがFe中へ拡散し易い温度域で温度を保持せずに高速昇温したことで、Fe-Cの液相が生成されてこの液相が空孔の角を丸めたと考えられる。一方、試料No.101では、CがFe中へ拡散し易い温度域で温度を保持した時間が長いことで、実質的に全てのCがFe中へ拡散・固溶して液相が実質的に生成されなかったからだと考えられる。試料No.1、No.2、No.4の焼結部材は、破壊の起点となって強度の低下を招く空孔の鋭角部が殆どなく、空孔の角が丸いことで、試料No.101に比較して強度が高くなったと考えられる。試料No.3の強度は、試料No.1などと同様、試料No.101に比較して高いことから、試料No.3における空孔の角は、試料No.1などと同様、丸くなっていると考えられる。
【0100】
図2~
図4,
図14に示す試料No.1,No.2,No.4,No.101の焼結部材の断面における観察像から、空孔の球状化率[{空孔面積/(空孔の周長)
2}/0.0796]×100を求めた。空孔面積及び空孔の周長は、画像解析ソフト(アメリカ国立衛生研究所 フリーソフトImageJ)を用いて観察像を二値化処理して求めた。代表して、試料No.4の観察像(
図4)を二値化処理した画像を
図5に示している。ここでは、空孔とそれ以外とを黒い部分と白い部分とに二値化処理して分離した。そして、空孔面積と空孔の周長を求めるために、
図5の二値化処理画像を画像解析して空孔の輪郭を抽出した画像を
図6に示す。その他の試料の二値化処理画像及び抽出画像は、図示を省略している。
図6の抽出画像に含まれる全ての空孔のうち、空孔面積の大きい順に上位30個の空孔の[{空孔面積/(空孔の周長)
2}/0.0796]×100を求めて平均化し、その平均値を焼結部材の空孔の球状化率とした。その結果、空孔の球状化率は、試料No.1では59.7%であり、試料No.2では77.8%であり、試料No.4では76.0%であり、試料No.101では38.1%であった。
【0101】
各試料の焼結部材において、CuがFe中へ拡散した領域の割合(拡散率)を求めた。拡散率は、日本電子株式会社製のFE-EPMA(JXA-8530F)を用い、焼結部材の断面を面分析することで求めた。焼結部材の断面は、焼結部材の軸に平行な断面とした。断面は、上述したようの2段階の研磨加工により露出させた。即ち、この断面は鏡面研磨面である。焼結部材の断面を焼結部材の径方向に三等分した内周領域、中央領域、及び外周領域の各々の領域から1つずつ観察視野をとった。各観察視野の倍率は200倍とした。各観察視野のサイズは500μm×460μmとした。
【0102】
各観察視野に対して上記FE-EPMAによって元素マッピング分析を行った。分析条件は、加速電圧を15kV、ビーム電流を100nA、ビーム径を0.1μm、分析時間を3時間とした。代表して、試料No.1、試料No.101の焼結部材における元素の濃度分布を示す分布図(マッピング画像)を
図7~
図9、
図15~
図17に示す。
図7~
図9はそれぞれ、試料No.1の焼結部材の断面における内周領域、中央領域、及び外周領域の各観察視野のマッピング画像である。また、
図15~
図17はそれぞれ、試料No.101の焼結部材の断面における内周領域、中央領域、及び外周領域の各観察視野のマッピング画像である。各図のマッピング画像は、Cu濃度の高い順に、白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒で示す。各マッピング画像では、最大のCu濃度レベルが600であった。各マッピング画像において、Cu濃度レベルが240以上390以下(最大のCu濃度レベル600の0.4倍以上0.65倍以下)を満たす領域(概ね緑色~概ね黄色)の合計面積αとCu濃度レベルが96以上(Cu濃度の最大レベルの0.16倍以上)を満たす領域(概ね黒色を除く。即ち、白色~概ね紫色)の合計面積βとの比率(α/β)×100を求めた。合計面積α、βは、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて求めた。求めた全ての比率の平均値を上記拡散率とした。
【0103】
その結果、試料No.1の焼結部材における内周領域の上記比率が46.2%、中央領域の上記比率が62.5%、外周領域の上記比率が48.4%であった。そして、試料No.1の焼結部材における上記拡散率は、それらの比率の平均値である52.4%程度であった。このように、試料No.1の焼結部材は、内周領域、中央領域、及び外周領域の全てで上記比率が40%以上であり、上記拡散率が40%以上であった。図示は省略しているものの、試料No.2~試料No.4の焼結部材は、試料No.1の焼結部材と同様、内周領域、中央領域、及び外周領域の全ての領域で上記比率が40%以上であり、上記拡散率が40%以上であった。一方、試料No.101の焼結部材における内周領域の上記比率が30.8%、中央領域の上記比率が19.7%、外周領域の上記比率が25.8%であった。そして、試料No.101の焼結部材における上記拡散率は、それらの比率の平均値である25.4%程度であった。
【0104】
各試料の焼結部材の組織観察を行った。ここでは、上述のようにして作製した各焼結部材の鏡面研磨面に対してエッチングを施し、そのエッチング面を光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、各試料の焼結部材における空孔以外の部分の組織はいずれも、観察像における空孔以外の領域の合計面積を100%としたとき、面積割合で90%以上が微細なパーライトであり、残りがベイナイトであった。また、試料No.1~No.3の焼結部材の上記組織は、試料No.101に比べて微細なパーライトとなっていた。
【0105】
代表して、試料No.1、試料No.101の焼結部材における組織の観察像を
図10~
図12、
図18~
図20に示す。これらの観察像は、日本電子社製の電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-7600F)を用いて撮像した。
図10~
図12はそれぞれ、試料No.1の焼結部材の断面における内周領域、中央領域、及び外周領域の組織の観察像である。
図18~
図20はそれぞれ、試料No.101の焼結部材の断面における内周領域、中央領域、及び外周領域の組織の観察像である。
【0106】
試料No.1の焼結部材の組織は、
図10~
図12に示すように、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライトとなっていた。各図における細い突条の部分がセメンタイトであり、そのセメンタイト同士の間がフェライトである。試料No.1の焼結部材のパーライトは、セメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とが非常に小さく、非常に微細であった。図示は省略しているものの、試料No.2や試料No.3の焼結部材の組織も、試料No.1と同様の組織となっていた。
【0107】
試料No.101の焼結部材の組織は、
図18~
図20に示すように、試料No.1と同様、セメンタイトとフェライトとが層状に配列されたパーライトとなっていた。しかし、試料No.101の焼結部材のパーライトは、試料No.1に比較して、セメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とが非常に大きく、粗大であった。
【0108】
各試料の焼結部材におけるセメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とを次のようにして求めた。まず、焼結部材の軸に平行な断面をとった。断面は、上述したようの2段階の研磨加工により露出させた。露出した鏡面研磨面に対してナイタールを用いてエッチングを施した。電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-7600F)を用い、断面における内周領域、中央領域、及び外周領域の17000倍の反射電子像を観察した。各領域の観察視野のサイズは、8.1μm×5.7μmであった。画像解析ソフト(ImageJ)を用い、各領域の観察画像からセメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とをそれぞれ21箇所ずつ求めて、各領域の平均値と全ての領域の平均値とを求めた。計測した21箇所の内訳は、幅や間隔が狭い部分から7箇所、幅や間隔が広い部分から7箇所、幅や間隔が狭い部分と広い部分との中間部分から7箇所とした。なお、明らかにパーライトではない部分は計測しなかった。全ての領域の平均値を各試料の焼結部材におけるセメンタイトの幅と隣り合うセメンタイト同士の間隔とした。
【0109】
試料No.1の焼結部材の内周領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、64nm程度であった。試料No.1の焼結部材の中央領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、73nm程度であった。試料No.1の焼結部材の外周領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、75nm程度であった。そして、試料No.1の焼結部材の全領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、71nm程度であった。また、試料No.1の焼結部材の内周領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、177nm程度であった。試料No.1の焼結部材の中央領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、124nm程度であった。試料No.1の焼結部材の外周領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、204nm程度であった。そして、試料No.1の焼結部材の全領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、169nm程度であった。このように、試料No.1の焼結部材は、内周領域、中央領域、及び外周領域の各領域でセメンタイトの幅の平均値が120nm以下であり、全ての領域の平均値も120nm以下であった。試料No.1の焼結部材は、内周領域、中央領域、及び外周領域の各領域で隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値が250nm以下であり、全ての領域の平均値も250nm以下であった。
【0110】
試料No.2や試料No.3の焼結部材の内周領域、中央領域、及び外周領域の各領域におけるセメンタイトの幅の平均値及び全ての領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、試料No.1の焼結部材と同様、120nm以下を満たしていた。また、試料No.2や試料No.3の焼結部材の内周領域、中央領域、及び外周領域の各領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値及び全ての領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、試料No.1の焼結部材と同様、250nm以下を満たしていた。
【0111】
一方、試料No.101の焼結部材の内周領域におけるセメンタイトの幅は、測定できなかった。試料No.101の焼結部材の中央領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、134nm程度であった、試料No.101の焼結部材の外周領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、145nm程度であった。そして、試料No.101の焼結部材の中央領域、及び外周領域におけるセメンタイトの幅の平均値は、139nm程度であった。試料No.101の焼結部材の内周領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔は、測定できなかった。試料No.101の焼結部材の中央領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、292nm程度であった。試料No.101の焼結部材の外周領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、309nm程度であった。そして、試料No.101の焼結部材の中央領域、及び外周領域における隣り合うセメンタイト同士の間隔の平均値は、300nm程度であった。
【0112】
《試験例2》
原料粉末の組成の違いによる焼結部材の強度の違いを評価した。
【0113】
〔試料No.21~No.24,No.201〕
試料No.21~No.24,No.201の焼結部材はそれぞれ、原料粉末として純鉄の代わりにFe-Ni-Moの三元系Fe合金粉末を含む点と、Cu粉末及びC粉末の含有量を変更した点とを除き、試料No.1~No.4、No.101と同様にして製造した。具体的には、原料粉末は、Cu粉末の含有量を1.5質量%とし、C粉末の含有量を0.5質量%とし、Fe-4.0質量%Ni-0.5質量%Mo合金粉末の含有量を残部とした。焼結時の雰囲気温度と、その雰囲気温度での保持時間と、雰囲気温度が冷却開始時(焼結完了時)から200℃までの温度域での降温速度とを表3に示す。また、試験例1と同様、各試料の温度プロファイルから求めたA1点からA3点までに対応する雰囲気温度域(700℃から900℃)での昇温速度と、A3点から圧粉成形体の焼結温度までに対応する雰囲気温度域(900℃から1135℃、900℃から1185℃)での昇温速度とを表3に示す。そして、試験例1と同様にして求めた焼結部材の見掛け密度と強度(圧環強度、ロックウェル硬さ)とを表4に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
表4に示すように、試料No.21~No.24の焼結部材の見掛け密度は、試料No.201と同程度である。従って、原料粉末がFe合金粉末を含む場合でも、原料粉末がFe粉末を含む場合と同様、高周波誘導加熱により寸法精度に優れる焼結部材を製造できることが分かる。
【0117】
表4に示すように、試料No.21~No.24の焼結部材の圧環強度及びロックウェル硬さは、試料No.201に比較して概ね高いことが分かる。従って、原料粉末がFe合金粉末を含む場合でも、原料粉末がFe粉末を含む場合と同様、短時間で高強度な焼結部材が製造できることが分かった。特に、試料No.21~No.24の比較から、原料粉末がFe合金粉末を含む場合には、原料粉末がFe粉末を含む場合と異なり、焼結過程の保持時間が比較的長いほど強度が高い傾向にあることが分かる。従って、図示は省略しているが、試料No.21~No.24の焼結部材は、試料No.1~No.4と同様、空孔の角が丸くて、鋭角部が少ない(殆どない)と考えられる。
【0118】
《試験例3》
昇温過程で特定の雰囲気温度を保持して製造した焼結部材の強度を評価した。
【0119】
〔試料No.31、No.32、No.301〕
試料No.31、No.32、No.301の焼結部材は、昇温過程において、400℃、500℃、300℃の雰囲気温度を30秒間保持した点を除き、試料No.1と同様にして、それぞれ1個ずつ作製した。試料No.1と同様にして、乾燥密度の測定、寸法精度の評価、強度の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0120】
【0121】
表5に示すように、試料No.31、No.32の圧環強度は、試料No.301や試料No.101(表2参照)に比較して高いことが分かる。従って、昇温過程において、400℃、500℃の雰囲気温度を保持しても、ベルト式連続焼結炉で製造する場合に比較して、短時間で高強度な焼結部材を製造できることが分かった。
【0122】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。