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特許7185832ピロロキノリンキノンの可溶化促進剤、それを含む組成物及び可溶化促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノンの可溶化促進剤、それを含む組成物及び可溶化促進方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/30 20160101AFI20221201BHJP
   A23L 2/70 20060101ALI20221201BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20221201BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20221201BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L2/00 K
A23L2/00 V
A23L5/00 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019549933
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034120
(87)【国際公開番号】W WO2019082549
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017206348
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-092875(JP,A)
【文献】特開2016-174552(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175327(WO,A1)
【文献】梶田武俊ほか編,調理のための食品学事典,1996年,p.137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性デキストリンを有効成分として含む、水性溶媒におけるピロロキノリンキノン又はその塩の可溶化促進剤。
【請求項2】
粉末の形態である、請求項1に記載の可溶化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノンの可溶化促進剤、それを含む組成物及び可溶化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
難消化性デキストリンは食物繊維の一種であり、整腸作用、血糖値上昇抑制作用、中性脂肪上昇抑制作用を有することが知られている。難消化性デキストリンは清涼飲料をはじめ様々な食品への添加されているところである(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
難消化性デキストリンが上記機能を発揮するには1日当たりグラムスケールの摂取が必要である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ピロロキノリンキノンは脳機能改善、寿命延長、肌の保湿などの機能が知られている。ピロロキノリンキノンは通常ジナトリウム塩として提供され、脳機能改善や肌の保湿のためには1日あたり数十ミリグラムスケールの摂取が必要である(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-014354号公報
【文献】特開2014-161295号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Applied Glycoscience Vol. 53 (2006) No. 1 P 65-69
【文献】Biosci Biotechnol Biochem. 2016;80(1):13-22. doi: 10.1080/09168451.2015.1062715.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の健康志向の高まりから、健康に対する価値を付与するため、健康機能性を有する食品素材を加える清涼飲料が年々増加している。しかしながら、ピロロキノリンキノンは水性溶媒における溶解度が低く、析出しやすい欠点を有している。特に硬水(カルシウムやマグネシウム)を含む場合、溶解度が下がってしまう。また、ピロロキノリンキノンの溶解度は水溶液中のpHによっても変動し、酸性で析出する傾向がある。
【0008】
本発明は、水性溶媒においてピロロキノリンキノンの析出を低減することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような中、本発明者らは、難消化性デキストリンの存在下で、健康機能性を有する食品素材であるピロロキノリンキノンの水溶液における溶解性が増大することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)
難消化性デキストリンを有効成分として含む、水性溶媒におけるピロロキノリンキノン又はその塩の可溶化促進剤。
(2)
粉末の形態である、(1)に記載の可溶化促進剤。
(3)
(1)又は(2)に記載の可溶化促進剤を含む、組成物。
(4)
難消化性デキストリンの含有量が0.3~23重量%である、(3)に記載の組成物。
(5)
飲食品の形態である、(3)又は(4)に記載の組成物。
(6)
飲料の形態であり、そのpHが1.5~8である、(3)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)
水性溶媒が硬水であることを特徴とする、(6)に記載の組成物。
(8)
炭酸ガスを含む、(6)又は(7)に記載の組成物。
(9)
水性溶媒において難消化性デキストリンと接触させる工程を含む、ピロロキノリンキノン又はその塩の可溶化促進方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難消化性デキストリンを用いることで、生理機能に富むピロロキノリンキノンを高濃度で含有する溶液の提供が可能になる。
【0012】
特に、硬水はミネラルを含むことで好ましいが、ピロロキノリンキノンを析出させやすく、ピロロキノリンキノン含む硬水は長期に渡って品質を保持することが通常困難であった。本発明によれば、難消化性デキストリンを添加することにより、軟水か硬水かを問わずピロロキノリンキノンの溶解度を増大させるため、ピロロキノリンキノン含む水溶液の長期に渡る品質保持が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0014】
第一の実施形態に係る可溶化促進剤は、有効成分として難消化性デキストリンを含有する。可溶化促進剤は難消化性デキストリンのみから構成されていてもよい。
【0015】
本実施形態における難消化性デキストリンとは、とうもろこし、小麦、米、豆類、イモ類、タピオカなどの植物由来の澱粉を加酸及び/又は加熱して得た焙焼デキストリンを、必要に応じてαアミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼで処理した後、必要に応じて脱塩、脱色した水溶性食物繊維であり、難消化性の特徴を持つものをいう。この難消化性デキストリンは、例えば、澱粉に微量の塩酸を加えて加熱し、酵素処理して得ることができ、衛新第13号(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)で測定される難消化性成分を含むデキストリン、好ましくは85~95重量%の難消化性成分を含むデキストリンなどをいう。本実施形態では、水素添加により製造されるその還元物も難消化性デキストリンに含まれるものとする。なお、難消化性デキストリンとその還元物(還元難消化性デキストリン)は市販のものを使用することができる。
【0016】
可溶化促進剤の対象であるピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」とも記す。)は、一般式(1)で表される構造の物質である。
【化1】
【0017】
PQQは、アルカリ金属塩として使用されることが多く、塩はアルカリ金属イオンが1~3個ついたものが知られている。好ましいアルカリ金属塩はナトリウム、カリウム塩であり、より好ましくはジナトリウム塩である。
【0018】
水性溶媒におけるピロロキノリンキノンの溶解度は、水性溶媒の硬度や、溶解時の溶液の温度やpHによって変動する。本明細書で使用する場合、「可溶化促進」とは、有効成分の添加を除き同一条件で比較した場合に、ピロロキノリンキノンの溶解度が有効成分を添加していない場合よりも増大していることを意味する。
【0019】
本実施形態の可溶化促進剤の形態は粉末であってもよい。難消化性デキストリンは水溶性の食物繊維であり、水性溶媒中に溶解する。本明細書で使用する場合、「水性溶媒」とは、水相、アルコール相又はそれらの混合相などの溶媒を意味し、水、清涼飲料水、アルコール類、果汁飲料などが挙げられる。難消化性デキストリンの水性溶媒における含有量は、最終製品におけるピロロキノリンキノンの濃度を考慮して決定することができる。また、ピロロキノリンキノンの溶解度は水性溶媒の硬度や温度、更には溶解時の溶液の温度やpHによって変動するため、難消化性デキストリンの添加量の決定にあたっては、これらの要因も考慮すべきである。
【0020】
第二の実施形態に係る組成物は、可溶化促進剤を含む。組成物は飲食品の形態、好ましくは飲食品の形態であってもよい。
【0021】
組成物における難消化性デキストリンの量は、所望とするピロロキノリンキノンの溶解度を考慮して決定されるものである。限定することを意図するものではないが、4℃、pH3~4の軟水にピロロキノリンキノンを2g/L以上溶解させる場合、本実施形態の組成物は難消化性デキストリンを0.3~23重量%含有させることが好ましく、0.5~15重量%含有させることがより好ましく、0.5~10重量%含有させることがさらに好ましい。0.3重量%未満でも可溶化促進効果はあるが、この濃度より低い場合、効果が小さい。
【0022】
飲料におけるPQQ及びその塩の濃度は通常1~20g/Lの範囲内で適宜調節される。難消化性デキストリンは、同一条件で比較した場合、ピロロキノリンキノンの溶解度を3倍近く向上させることができるため、ピロロキノリンキノンを高濃度含有する飲食品に好適に配合され得る。
【0023】
難消化性デキストリンは水溶性の食物繊維であり、水性媒体で溶解する。そのため、組成物に配合する際の可溶化促進剤の形態は粉末であってもよい。ピロロキノリンキノンも粉末の場合、組成物に配合される難消化性デキストリン:ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の重量比は1:1~10000:1、好ましくは1:20の範囲内で適宜調整される。
【0024】
組成物が飲料である場合、そのpHは1.5~8であることが好ましい。ピロロキノリンキノンは酸性で沈殿する傾向があるため、可溶化促進剤は組成物が酸性飲料である場合に特に有効である。飲料を構成する水性溶媒は、ピロロキノリンキノンの溶解度向上の観点からは軟水が好ましいが、硬水であってもよい。
【0025】
組成物が飲食品である場合、甘味料、酸味料、無機塩、有機酸塩、アミノ酸、タンパク質、核酸、香料、保存料等の成分が適宜配合され得る。例えば、組成物が清涼飲料水のような飲料の場合、甘味料、特に高甘味度甘味料が配合されることが多い。
【0026】
高甘味度甘味料は、食品に甘味を付与する目的で使用される食品添加物のうち、ショ糖と同量(質量)を口に含んだ際に感じる甘味がショ糖の数十倍から数千倍と高いため、少量の添加で食品に十分な甘味を付与できる物質を意味する。
【0027】
添加される高甘味度甘味料としては、天然高甘味度甘味料であっても、合成高甘味度甘味料であってもよく、例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、D-キシロース、グリチルリチン及びその酸及びその塩、サッカリン、サッカリンナトリウム、スクラロース、D-ソルビトール、ステビア抽出物、ステビア末、タウマチン、アブルソサイドA、シクロカリオサイドI、N-アセチルグルコサミン、L-アラビノース、オリゴ-N-アセチルグルコサミン、カンゾウ抽出物、α-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア、酵素処理カンゾウ、L-ソルボース、ネオテーム、ラカンカ抽出物、L-ラムノース、D-リボース等が挙げられる。
【0028】
添加される高甘味度甘味料は、単一成分として使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくは、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、アスパルテーム及びネオテームからなる群から選ばれる1種又は2種以上からなるものであってもよい。高甘味度甘味料を2種以上組み合わせて使用する場合の高甘味度甘味料の量は、2種以上の各高甘味度甘味料の量を合計した量で表すことができる。
【0029】
高甘味度甘味料は、市販されているものを使用しても、公知の方法に従って製造したものを使用してもよい。また、使用される高甘味度甘味料は、目的の高甘味度甘味料を含む植物等の抽出物(例えば、ステビアであればステビア抽出物)を使用してもよい。
【0030】
本実施形態の組成物中の高甘味度甘味料の含有量は、目的とする飲料に応じて適宜決定することができる。甘味度にもよるが、高甘味度甘味料の含有量は、例えば、0.01~0.2重量%の範囲であってもよい。
【0031】
高甘味度甘味料として、アスパルテーム、アセスルファムカリウム及びスクラロースの組み合わせが考えられる。
【0032】
本実施形態の組成物は炭酸飲料であってもよい。炭酸飲料としては、例えば、サイダー飲料、ラムネ飲料、コーラ飲料、果汁入り炭酸飲料、ノンアルコール・ビールタイプ飲料が挙げられる。
【0033】
本実施形態の組成物が飲料である場合、その容器は最終製品の種類に応じて適宜決定される。そのような容器としてPETボトル、缶、瓶等が挙げられる。
【0034】
本実施形態の組成物を利用した好ましい態様は、ピロロキノリンキノンと難消化性デキストリンとを含有する飲料である。本発明の組成より濃縮液を作ることができ、製造することが容易になる。
【0035】
第三の実施形態に係るピロロキノリンキノン又はその塩の可溶化促進方法は、水性溶媒において難消化性デキストリンとピロロキノリンキノンとを接触させる工程を含む。この方法はピロロキノリンキノンを高濃度含む飲料の製造方法に使用できる。
【0036】
これらの実施形態の方法で使用する難消化性デキストリン、ピロロキノリンキノンやその添加態様については上記の記載事項を参照することができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、下記の実施例により本発明が限定されるものではない。
【0038】
本実施例において、ピロロキノリンキノンジナトリウムは三菱ガス化学株式会社製BioPQQを使用した。吸光度は紫外可視スペクトロメーターを使用して算出した。
【0039】
[実施例1~6及び比較例1~2]水への溶解(pH3-4)
難消化性デキストリン(大東物産株式会社製)を表1のとおり所定濃度になるようにイオン交換水に溶解した。この溶液1mlをピロロキノリンキノンジナトリウム10mgと混合して水溶液を得た。得られたら水溶液を4℃と25℃にした。20時間後、遠心分離して溶解していないピロロキノリンキノンジナトリウムを除去した。各水溶液についてリン酸バッファーで希釈して吸光度測定よりピロロキノリンキノンジナトリウムの水への溶解度を算出した。比較例1として難消化性デキストリンが無添加の場合のピロロキノリンキノンジナトリウムの水への溶解度を100とした値を表1に示す。比較例1のピロロキノリンキノンジナトリウムの水への溶解度は1.8g/L(4℃)、2.99g/L(25℃)であった。
【0040】
また、比較例2としてデキストリン水和物(和光純薬社製)を使って試験した結果も表1に掲載する。表に記載の難消化性デキストリンとピロロキノリンキノンの重量比は、原料に使用した難消化性デキストリンとピロロキノリンキノンジナトリウムの重量比である。
【0041】
【表1】
【0042】
通常のデキストリンではピロロキノリンキノンの溶解度を上げる効果は見られず、ピロロキノリンキノンの可溶化効果は難消化性デキストリン特有の効果であることが分かった。
【0043】
[実施例7~10及び比較例3] 硬水
水に変えて硬度を上げたモデルとして塩化カルシウム水溶液0.2g/L(アメリカ硬度 180mg/L)に対するピロロキノリンキノンジナトリウムの4℃又は25℃における溶解度を実施例1と同様に測定した。各水溶液の難消化性デキストリンの濃度は表2のとおりとした。比較例3におけるピロロキノリンキノンジナトリウムの塩化カルシウム水溶液への溶解度は1.6g/L(4℃)、2.83g/L(25℃)であった。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果から、本発明は軟水だけでなく硬水においても効果を発揮できることが明らかである。ピロロキノリンキノンは硬水で溶解度が下がるが、難消化性デキストリンと併用することでミネラルを強化した飲料にも使用出来る。
【0046】
[実施例11~14及び比較例4]酸性での効果(pH2)
水に変えてクエン酸1重量%含む水溶液において、ピロロキノリンキノンジナトリウムの25℃での溶解度を実施例1と同様に測定した。各水溶液の難消化性デキストリンの濃度は表3のとおりとした。
【0047】
【表3】
【0048】
比較例4におけるピロロキノリンキノンジナトリウムの水への溶解度は1.8g/L(25℃)であった。
【0049】
[実施例15及び比較例5]中性での効果(pH7)
ピロロキノリンキノンジナトリウム30mgを水1mlに添加し、水酸化ナトリウムを使ってpHを7にした。ピロロキノリンキノンジナトリウムの25℃での溶解度を実施例1と同様に測定した。各水溶液の難消化性デキストリンの濃度は表4のとおりとした。
【0050】
【表4】
【0051】
比較例5におけるピロロキノリンキノンジナトリウムの水への溶解度は15.6g/L(25℃)であった。
【0052】
本発明によれば、難消化性デキストリンを配合することで、沈殿のないピロロキノリンキノンを含む組成物、ひいては高濃度のピロロキノリンキノン含有組成物の提供が可能になる。