IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特許7185851熱膨張性マイクロカプセル、その製造方法、及び発泡成形品
<>
  • 特許-熱膨張性マイクロカプセル、その製造方法、及び発泡成形品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】熱膨張性マイクロカプセル、その製造方法、及び発泡成形品
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221201BHJP
   B01J 13/18 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 220/70 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 4/34 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C09K3/00 111B
B01J13/18
C08F220/70
C08F4/34
C08F2/18
C08F2/44 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019540975
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2018032835
(87)【国際公開番号】W WO2019049881
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017170741
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭二
(72)【発明者】
【氏名】糸山 諒介
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/046273(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029916(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/049616(WO,A1)
【文献】特開2014-105216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
B01J 13/18
C08F 220/70
C08F 4/34
C08F 2/18
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有する熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記コアは、揮発性物質を含有し、
前記シェルは、重合体を含有し、
前記重合体は、単量体混合物と一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R一般式(2):
【化2】
(式(2)中、R は水素またはメチル基を表し、nは1から2の整数を表す。)で表される重合性基、及び
一般式(3):
【化3】
(式(3)中、R は水素またはメチル基を表し、mは0から2の整数を表す。)で表される重合性基のいずれか1つ以上である。)で表される有機過酸化物を反応して得られる重合体であることを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
前記単量体混合物は、ニトリル系モノマーを含み、
前記単量体混合物中、前記ニトリル系モノマーの割合が、25質量%以上100質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
前記単量体混合物が、さらに、カルボキシル基を有するモノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物、アリール(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー、ビニルエステル系モノマー、及びハロゲン化ビニル系モノマーからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、
少なくとも、前記単量体混合物、前記一般式(1)で表される有機過酸化物、及び前記揮発性物質を含有する油性混合液を、水性分散媒体に分散させて分散液を得る工程と、
得られた分散液中で、前記単量体混合物と前記一般式(1)で表される有機過酸化物を反応させて、単量体混合物を重合させる工程を含むことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセルを用いてなることを特徴とする発泡成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性マイクロカプセル、その製造方法、及び発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の軽量化や機能性、意匠性の付与のため、化学発泡剤や物理発泡剤を用いた各種発泡成形が行われているが、塗料等の薄膜や、ガス抜けが起こりやすい素材、高品質の外観等が要求される素材等の発泡に、熱膨張性マイクロカプセルが発泡剤として使用されている。
【0003】
熱膨張性マイクロカプセルは、重合体から形成されたシェルと、加熱により気化する揮発性物質が内包されたコアからなるコアシェル型構造を有するマイクロカプセルであり、熱膨張性微小球、熱発泡性マイクロスフェアー等とも呼ばれている。熱膨張性マイクロカプセルは、水性分散媒体中で、単量体混合物、揮発性物質、及び重合開始剤を含有する油性混合液体を、懸濁重合することにより製造できることが、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
シェルを形成する重合体としては、例えば、ガスバリア性が良好な熱可塑性樹脂が用いられている。また、揮発性物質としては、例えば、重合体の軟化点以下の温度で気化する炭化水素等が用いられる。熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、重合体の軟化と同時に、内包された揮発性物質の気化にともなう内圧の上昇によりシェルが延伸され、熱膨張性マイクロカプセルの膨張(発泡)が始まる。そして、加熱が継続されると、発泡倍率は更に大きくなる。この時点で冷却した場合、シェルが延伸された状態で固化し、膨張粒子(中空粒子)が形成される。一方、さらに加熱を継続した場合、シェルの薄膜化とともに、気化した揮発性物質がシェルの薄膜部や破断部から抜け出し、マイクロカプセルが収縮してしまう(以下、ヘタリ現象とも称す)。
【0005】
このヘタリ現象は、膨張により延伸されたシェルの、ガスバリア性、耐熱性、強度の不足に基づく現象である。ヘタリ現象を低減させるため、例えば、特許文献2には、単量体混合物に含まれる架橋剤(多官能の単量体)を0.1から1質量%配合することにより、ヘタリ現象を低減でき、耐溶剤性を向上できることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、理想活性酸素量が7.8%以上である過酸化物を重合開始剤として用いることにより、耐溶剤性が向上した熱膨張性マイクロカプセルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭42-26524号公報
【文献】特公平5-15499号公報
【文献】特許第5824171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のヘタリ現象が高温領域まで起きない熱膨張性マイクロカプセルが、一般的に耐熱性に優れると言われる。熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形品の製造において、成形加工の容易さの観点から、幅広い温度域において、ヘタリ現象を抑制することが課題として挙げられる。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載される多官能の単量体を少量配合する方法では、シェルを形成する重合体の強度の向上等への効果は乏しい。また、局所的に高度な架橋構造を有するミクロゲルが生成するため、膨張によりシェルが延伸された際に、その不均一性からシェルの破断に至りやすい。このため、高温時のヘタリ現象の抑制には十分ではなかった。一方、多官能の単量体の添加量を増加させると、懸濁重合時に粒子同士の凝集が起こりやすく、熱膨張性マイクロカプセルが合成できても、シェルを形成する重合体が全体的に3次元的な架橋構造をとることで、シェルが延伸されなくなり、その発泡倍率は抑えられてしまう。
【0010】
一方、重合体の溶融状態での張力や歪み硬化性等の溶融特性を向上する手段として、重合体の高分子量化や重合体への分岐構造の導入が有効であると考えられる。特許文献3においては、4官能のペルオキシケタールとして2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパンを重合開始剤として使用した場合、その分解過程において最終的には4つのラジカルが同一分子内に生成することにより、分岐構造を有する重合体が生成される。しかし、4つのラジカルの一部はケージ反応により失活するため、3方向に伸びた重合体や2方向に伸びた直鎖状の重合体も生成することが知られている。さらに、分解により4個のt-ブトキシラジカルも生成し、これらからは直鎖状のポリマーを生成する。このように、4官能のペルオキシケタールを重合開始剤に用いても、重合体への分岐構造の導入効率は高くない。さらに、一般的にペルオキシケタール類は有機過酸化物の中でも比較的分解温度は高く、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパンの10時間半減期温度は95℃であり、85℃の重合では15時間においてもその分解率は約25%である。このため、この重合条件においては、分子内の4個の過酸化結合のうち、平均1個の過酸化結合が分解している状態であり、分岐構造の重合体の生成は微量と推測される。このため、特許文献4においては、耐溶剤性の向上は確認されているものの、ヘタリ現象の抑制には至っていない。
【0011】
従って、上記課題を解決すべく、本発明は、幅広い温度域においてヘタリ現象を抑制できる、優れた耐熱性と高い発泡倍率を有する熱膨張性マイクロカプセル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有する熱膨張性マイクロカプセルであって、前記コアは、揮発性物質を含有し、前記シェルは、重合体を含有し、前記重合体は、単量体混合物と一般式(1):
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数が2から12の不飽和炭化水素基であり、当該不飽和炭化水素基は-CO-O-、-O-CO-、及び-O-のいずれか1つ以上で中断されてもよい。)で表される有機過酸化物を反応して得られる重合体である熱膨張性マイクロカプセル、に関する。
【0013】
また、本発明は、前記熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、少なくとも、前記単量体混合物、前記一般式(1)で表される有機過酸化物、及び前記揮発性物質を含有する油性混合液を、水性分散媒体に分散させて分散液を得る工程と、得られた分散液中で、前記単量体混合物と前記一般式(1)で表される有機過酸化物を反応させて、単量体混合物を重合させる工程を含む熱膨張性マイクロカプセルの製造方法、に関する。
【0014】
さらに、本発明は、前記熱膨張性マイクロカプセルを用いてなる発泡成形品、に関する。
【発明の効果】
【0015】
一般的に、熱膨張性マイクロカプセルにおいて、熱膨張によりシェルが延伸される際、必ずしも全体が均一に延伸される訳ではなく、強度が弱い薄膜部がより延伸され、その箇所からガス抜けやシェルの破断に至る。一方、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、前記一般式(1)で表される有機過酸化物を用いて単量体混合物を重合することを特徴とする。本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、前記有機過酸化物が、分子内に2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するため、当該有機過酸化物の過酸化結合の分解によって、単量体混合物が反応したマクロモノマーが生成され、さらに、当該マクロモノマーが単量体混合物と共重合することにより、多分岐構造の重合体で形成されたシェルを有するものと推定される。あるいは、前記有機過酸化物が、単量体混合物と共重合した後、重合体中に残存する過酸化結合が分解し、単量体混合物が重合することにより、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、多分岐構造の重合体で形成されたシェルを有するものと推定される。このような多分岐構造を有する重合体で形成されたシェルを有する熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張によりシェルが延伸されると、歪み硬化性(高度に分岐構造を有する高分子量が、高延伸の際に粘度が急上昇する現象)によって、高延伸された薄膜部は粘度上昇により延伸し難くなるのに対し、粘度上昇の緩やかな厚膜部がより延伸されるため、マイクロカプセル全体が均一に延伸されるものと推定される結果、ガス抜けや重合体の破断が起こりにくくなると考えられる。よって、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、高温時のヘタリ現象を抑制でき、耐熱性に優れる。
【0016】
また、実質的に多官能の単量体を使用しない本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、前述の重合機構により、3次元的な架橋構造を有していないと推定されるため、発泡倍率が高い。
【0017】
よって、本発明の熱膨張性マイクロカプセルを用いれば、発泡成形加工時に幅広い加工条件において、容易に発泡成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】熱膨張性マイクロカプセルにおける、代表的な実施例及び比較例のTMAの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<熱膨張性マイクロカプセル>
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、コア及びシェルを含むコアシェル型構造を有し、前記コアは加熱により気化する揮発性物質を含有し、前記シェルは重合体を含有する。
【0020】
前記熱膨張性マイクロカプセルは、通常、前記シェルを形成する重合体の軟化温度以上に加熱されると、内包された揮発性物質の気化にともなう内圧の上昇によってシェルが延伸され、膨張が始まるため、前記重合体の軟化温度は、使用目的に応じて適宜選択できるが、50℃以上240℃以下であることが好ましく、80℃以上220℃以下であることがより好ましく、100℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。なお、前記重合体の軟化温度は、通常、重合体のガラス転移温度に対応し、例えば、示差走査熱量計(DSC)等によって測定することができる。
<DSC測定条件>
測定試料としては、揮発性物質を含まない重合体を別途合成した試料を測定してもよく、熱膨張性マイクロカプセルのシェルを測定する場合には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒に熱膨張性マイクロカプセルを溶解または膨潤させた後に、溶媒と揮発性物質を乾燥させた試料を測定することができる。
アルミニウムパンに試料を秤量してDSCにセットし、試料を入れない同タイプのアルミニウムパンをリファレンスとして、10℃/分で昇温することにより得られたDSCチャートからガラス転移温度を決定することができる。
【0021】
熱膨張性マイクロカプセルは、平均粒径が、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上300μm以下であることがより好ましく、5μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。前記平均粒径が、1μmよりも小さい場合、シェルの厚みが薄いため、十分な発泡倍率を得ることができず、500μmよりも大きい場合、発泡後の気泡径が大きすぎ発泡成形品の機械的強度が低下するため好ましくない。なお、前記平均粒径は、以下のレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定することができる。
<レーザー回折式粒度分布測定条件>
前記熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2100、島津製作所社製)を使用して測定した。粒径の積算%(体積基準及び対数スケール)の粒径分布曲線に基づいて得られる50%粒子径(メディアン径)を平均粒径として算出した。
【0022】
前記熱膨張性マイクロカプセルは、発泡開始温度(T)が限定されるものではないが、50℃以上240℃以下であることが好ましく、100℃以上230℃以下であることがより好ましく、120℃以上220℃以下であることがさらに好ましい。また、前記熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)が限定されるものではないが、80℃以上300℃以下であることが好ましく、120℃以上290℃以下であることがより好ましく、150℃以上280℃以下であることがさらに好ましい。熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形において、発泡開始温度(T)および最大発泡温度(Tmax)が低すぎると、成形前の混練時に発泡してしまうことがあり、発泡開始温度(T)および最大発泡温度(Tmax)が高すぎると、成形時に発泡しないことがあるため好ましくない。なお、前記発泡開始温度(T)は、後述する熱機械分析装置(TMA)による測定方法によって求められる。
【0023】
<重合体>
本発明の重合体は、単量体混合物と一般式(1):
【化2】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数が2から12の不飽和炭化水素基であり、当該不飽和炭化水素基は-CO-O-、-O-CO-、及び-O-のいずれか1つ以上で中断されてもよい。)で表される有機過酸化物を反応して得られる重合体である。
【0024】
<単量体混合物>
本発明の単量体混合物は、単量体(モノマー)を含む単量体(モノマー)成分である。前記単量体は、得られる重合体が揮発性物質によって溶解せず、揮発性物質を内包したマイクロカプセルを後述の製造方法により合成できれば、特に限定されない。前記単量体混合物は、熱膨張性マイクロカプセルに、ガスバリア性、耐熱性、耐溶剤性を付与する観点から、単量体として、ニトリル系モノマーを使用することが好ましい。
【0025】
前記ニトリル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、3-エトキシアクリロニトリル、クロトノニトリル等が挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。前記ニトリル系モノマーは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
前記単量体混合物中に、前記ニトリル系モノマーを含む場合、前記単量体混合物中、前記ニトリル系モノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに、ガスバリア性、耐熱性、耐溶剤性を付与する観点から、25質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
また、前記ニトリル系モノマーは、アクリロニトリルによって重合速度を速める観点、及びメタクリロニトリルによって重合体の貯蔵弾性率、ガスバリア性を高くできる観点から、アクリロニトリルとメタクリロニトリルを併用することが好ましく、この場合、アクリロニトリルとメタクリロニトリルの質量比(アクリロニトリル/メタクリロニトリル)は、10/90以上90/10以下であることが好ましく、20/80以上80/20以下であることがより好ましく、30/70以上70/30以下であることがさらに好ましい。なお、アクリロニトリルとメタクリロニトリルの質量比が90/10よりも大きい場合、発泡開始温度が低くなる場合や、高温での発泡倍率が小さくなる場合がある。アクリロニトリルとメタクリロニトリルの質量比が10/90よりも小さい場合、重合が十分に完結せず、発泡倍率が小さくなる場合がある。
【0028】
また、前記単量体混合物は、単量体として、前記ニトリル系モノマー以外の他の単量体を使用することができる。前記他の単量体の種類及び組成により、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度、最大発泡温度、最大発泡倍率を調整することができ、使用目的に応じた熱膨張性マイクロカプセルを合成することができる。
【0029】
前記他の単量体としては、前記ニトリル系モノマーと共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、シトラコン酸、フマル酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、マレイン酸モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、2―エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート等の鎖状または環状のエーテル結合を有するモノマー;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ビニルピロリドン等の窒素原子を有するモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー等が挙げられる。前記他の単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、これらの中でも、カルボキシル基を有するモノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物、アリール(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー、ビニルエステル系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデンであることがより好ましい。
【0031】
前記単量体混合物中に、前記カルボキシル基を有するモノマー及び/または(メタ)アクリルアミド系モノマーを含む場合、前記単量体混合物中、前記カルボキシル基を有するモノマー及び/または(メタ)アクリルアミド系モノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに、耐熱性、耐溶剤性を付与する観点から、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、そして、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
前記単量体混合物中に、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物、前記アリール(メタ)アクリレート、前記スチレン系モノマー、前記ビニルエステル系モノマーのいずれか1つ以上を含む場合、前記単量体混合物中、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル化合物、前記アリール(メタ)アクリレート、前記スチレン系モノマー、前記ビニルエステル系モノマーのいずれか1つ以上は、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度等の発泡特性を調整しやすく、発泡成形品のマトリックス樹脂への分散性が向上することにより、発泡成形品の外観を向上させることができる観点から、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、そして、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
前記単量体混合物中に、前記ハロゲン化ビニル系モノマーを含む場合、前記単量体混合物中、前記ハロゲン化ビニル系モノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに、ガスバリア性を付与する観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、そして、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
また、前記単量体混合物は、熱膨張性マイクロカプセルの発泡特性や耐熱性、耐溶剤性等を改良するため、必要に応じて、単量体として、官能基を有する単量体や多官能単量体を併用してもよい。前記官能基を有する単量体、前記多官能単量体は、重合体間で架橋反応ができ、重合体で形成されるシェルを強固にすることができる。
【0035】
前記官能基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシ基を有するモノマー、イソシアネート基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、アルコキシシリル基を有するモノマー、アリル基を有するモノマー等を挙げることができる。また、前記多官能単量体としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物を挙げることができる。前記官能基を有する単量体、前記多官能単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記単量体混合物中に、前記官能基を有する単量体及び/または前記多官能単量体を含む場合、前記単量体混合物中、前記官能基を有する単量体及び/または前記多官能単量体は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
<一般式(1)で表される有機過酸化物>
本発明の一般式(1)で表される有機過酸化物は、分子内に2つ以上のエチレン性不飽和結合と、ペルオキシジカーボネート構造を有する有機過酸化物である。前記一般式(1)で表される有機過酸化物は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化3】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数が2から12の不飽和炭化水素基であり、当該不飽和炭化水素基は-CO-O-、-O-CO-、及び-O-のいずれか1つ以上で中断されてもよい。)
【0038】
前記一般式(1)で表される有機過酸化物は、ペルオキシジカーボネート構造を有する有機過酸化物であることから、通常、10時間半減期温度は30℃以上50℃以下となる。なお、10時間半減期温度(T10)は、前記有機過酸化物を、例えば、0.05から0.1モル/リットルになるようにベンゼンに溶解させた溶液を熱分解させた際に、当該有機過酸化物が10時間で半減期を迎える温度のことを意味する。
【0039】
前記一般式(1)中、前記不飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよい。前記炭化水素基の炭素数は、2以上10以下であることが好ましく、3以上8以下であることがより好ましい。炭素数が2であることは実質上の下限であり、炭素数が12よりも多くなると重合活性が劣るため好ましくない。
【0040】
前記一般式(1)中、前記不飽和炭化水素基におけるエチレン性不飽和二重結合の位置に限定はないが、単量体混合物との共重合性の観点から、不飽和炭化水素基の末端にエチレン性不飽和二重結合があることが好ましい。前記エチレン性不飽和二重結合としては、例えば、ビニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、アリル基、メタリル基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、マレオイル基、フマロイル基、スチリル基等を挙げることができ、単量体の共重合性の観点から、ビニル基、アリル基、メタリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基であることが好ましい。
【0041】
前記一般式(1)中、Rは、前記一般式(1)で表される有機過酸化物の合成が容易である観点から、下記一般式(2)で表される重合性基、及び下記一般式(3)で表される重合性基のいずれか1つ以上であることが好ましい。
【化4】
(式(2)中、Rは水素またはメチル基を表し、nは1から2の整数を表す。)
【化5】
(式(3)中、Rは水素またはメチル基を表し、mは0から2の整数を表す。)
【0042】
前記一般式(2)中、nは、重合活性の観点から1であることが好ましく、また、前記一般式(3)中、mは、重合活性の観点から0から1であることが好ましい。
【0043】
前記一般式(1)で表される有機過酸化物としては、例えば、ジ(2-アクリロイルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-(2’-アクリロイルオキシエチル)エチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-(2’-メタクリロイルオキシエチル)エチル)ペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネート、ジ(2-アリルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-(2’-アリルオキシエチル)エチル)ペルオキシジカーボネート、ジメタリルペルオキシジカーボネート、ジ(2-メタリルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-(2’-メタリルオキシエチル)エチル)ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。なお、前記一般式(1)で表される有機過酸化物は、特開昭62-114956号公報等に記載の製造方法にて得ることができる。例えば、前記一般式(1)と同じRで表されるアルコール体(R-OH)をホスゲンと反応させることでクロロホルメート体を合成し、次いで、クロロホルメート体と過酸化水素および、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを反応させることにより、前記一般式(1)で表される有機過酸化物を合成することができる。その際、反応温度は通常、-5から25℃である。反応溶媒としては、例えば、トルエン等の芳香族系炭化水素類、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類等を使用することができる。反応後に、余剰の原料や副生物を除去するために、例えば、イオン交換水や、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液を用いて洗浄し、目的物を精製することができる。
【0044】
前記一般式(1)で表される有機過酸化物は、前記単量体混合物100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下で使用することが好ましく、0.05質量部以上6質量部以下で使用することがより好ましく、0.1質量部以上4質量部以下で使用することがさらに好ましい。前記一般式(1)で表される有機過酸化物が、前記単量体混合物100質量部に対して、0.01質量部よりも少ない場合、十分に分岐構造が形成されずに溶融張力の向上しないため発泡倍率が小さくなる傾向があり、10質量部よりも多い場合、分子量が小さくなるため発泡倍率が小さくなる傾向を有する。上記の好適な範囲において、高分子量の多分岐ポリマーを効率よく製造することができ、その結果、高温領域や成形加工時において長時間、シェルの破裂やガス抜けが起こらない熱膨張性マイクロカプセルを得ることが可能となる。
【0045】
また、前記単量体混合物と前記一般式(1)で表される有機過酸化物を反応する際に、さらに、重合体の分子量や分岐度の調整、生産性の向上、残存する単量体の低減のため、重合開始剤を使用することができる。前記重合開始剤としては、特に限定されず、この分野で一般的に使用されているものを使用することができるが、単量体混合物に可溶できる、油溶性重合開始剤が好ましい。
【0046】
前記重合開始剤としては、例えば、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス-(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジ-メトキシブチルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート;t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-アミルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、クミルペルオキシネオデカノエート、(α,α’-ビス-ネオデカノイルペルオキシ)ジ-イソプロピルベンゼン、t-ブチルペルオキシピバレート、t-アミルペルオキシピバレート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン等のペルオキシエステル;ジイソブチリルペルオキシド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ビス(3-カルボキシプロピオニル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル等のアゾ化合物等が挙げられる。前記重合開始剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
前記重合開始剤は、10時間半減期温度が、20℃以上80℃以下であることが好ましく、25℃以上60℃以下であることがより好ましく、30℃以上から50℃以下であることがさらに好ましい。前記重合開始剤の10時間半減期温度が、20℃よりも低い場合、重合開始剤の分解速度が速すぎるため、単量体が残存し、発泡倍率が小さくなる傾向にある。前記重合開始剤の10時間半減期温度が、80℃よりも高い場合、重合後に多くの重合開始剤が重合体中に残存するため、発泡成形時に重合体が架橋することで発泡倍率が低下する場合や、発泡成形品の着色原因となる場合がある。なお、10時間半減期温度(T10)は、前記重合開始剤を、例えば、0.05から0.1モル/リットルになるようにベンゼンに溶解させた溶液を熱分解させた際に、当該重合開始剤が10時間で半減期を迎える温度のことを意味する。
【0048】
前記重合開始剤を使用する場合、前記重合開始剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下で使用することが好ましく、0.2質量部以上5質量部以下で使用することがより好ましく、0.3質量部以上3質量部以下で使用することがさらに好ましい。前記重合開始剤が、単量体混合物100質量部に対して、0.1質量部よりも少ない場合、重合が完結しないため効果が発揮されないことがあり、8質量部よりも多い場合、分子量が小さくなるため発泡倍率が小さくなる傾向を有する。
【0049】
前記重合開始剤を使用する場合、前記一般式(1)で表される有機過酸化物と前記重合開始剤との質量比(一般式(1)で表される有機過酸化物/重合開始剤)は目的に応じて適宜選択することができるため、特に制限はないが、5/95以上であることが好ましく、15/85以上であることがより好ましく、そして、95/5以下であることが好ましく、85/15以下であることがより好ましい。好適な範囲を外れた場合には、前記重合開始剤を複合した効果が現れない場合がある。
【0050】
<揮発性物質>
本発明の揮発性物質は、前記熱膨張性マイクロカプセルに内包される物質である。前記揮発性物質は、前記重合体を溶解せずに、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度(T)以下の沸点を有する液体を用いることが好ましい。なお、前記発泡開始温度(T)は、後述する熱機械分析装置(TMA)によって求められる。
【0051】
前記揮発性物質としては、例えば、プロパン、n-ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、石油エーテル、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、メチルシクロヘキサン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、イソドデカン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン混合物等の炭素数20以下の炭化水素;ブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール等の炭素数14以下のアルコール;CClF、CCl、CClF、CClF-CClF等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン等のテトラアルキルシラン等;アゾジカルボンアミド等の重合体の軟化点以下の温度で分解し、気体を発生する物質等が挙げられる。これらの中でも、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、石油エーテル、n-ヘキサン、イソオクタン、イソドデカンが好ましい。前記揮発性物質は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
前記揮発性物質は、前記単量体混合物100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、15質量部以上35質量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、前記揮発性物質は、熱膨張性マイクロカプセル発泡挙動を制御するため、前記発泡開始温度(T)以上の沸点を有する液体を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
<熱膨張性マイクロカプセルの製造方法>
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法は、少なくとも、前記単量体混合物、前記一般式(1)で表される有機過酸化物、及び前記揮発性物質を含有する油性混合液を、水性分散媒体に分散させて分散液を得る工程(分散工程)と、得られた分散液中で、前記単量体混合物と前記一般式(1)で表される有機過酸化物を反応させて、単量体混合物を重合させる工程(重合工程)を含む製造方法である。
【0055】
<油性混合液>
本発明の油性混合液は、少なくとも、前記単量体混合物、前記一般式(1)で表される有機過酸化物、及び前記揮発性物質を含有する混合液(混合物)である。また、前記油性混合液は、必要に応じて、前記重合開始剤のほか、連鎖移動剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、シランカップリング、消泡剤等を配合してもよい。
【0056】
<水性分散媒体>
前記水性分散媒体は、前記油性混合液を分散させるための、水を主成分とする媒体である。前記水としては、イオン交換水、蒸留水等を使用することができ、前記水性分散媒体は、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン等の水溶性有機溶媒をさらに含有してもよい。
【0057】
前記水性分散媒体は、前記単量体混合物100質量部に対して、70質量部以上1000質量部以下で使用することが好ましく、100質量部以上900質量部以下で使用することがより好ましい。
【0058】
前記水性分散媒体は、分散安定剤を含んでいてもよい。前記分散安定剤としては、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、シリカを使用することが好ましい。前記分散安定剤は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
前記分散安定剤を使用する場合、前記分散安定剤は、前記単量体混合物100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下で使用することが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下で使用することがより好ましい。
【0060】
前記水性分散媒体は、水溶性または水分散性の分散安定助剤を含んでいてもよい。前記分散安定助剤としては、例えば、ジエタノールアミン-脂肪族ジカルボン酸縮合物(例えば、ジエタノールアミン-アジピン酸縮合物、ジエタノールアミン-イタコン酸縮合物等)、尿素-ホルムアルデヒド縮合物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等)、ポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等)、ポリ(メタ)アクリルアミド、カチオン性ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアミンスルホン、ポリアリルアミン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸塩、ゼラチン、メチルセルロース、ジアルキルスルホコハク酸塩、ソルビタン脂肪族エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル、テトラメチルアンモニウム水酸化物もしくは塩化物等が挙げられる。これらの中でも、ジエタノールアミン-脂肪族ジカルボン酸縮合物、ポリビニルピロリドンを使用することが好ましい。また、ジエタノールアミン-脂肪族ジカルボン酸縮合物は、酸価は、60mgKOH/g以上140mgKOH/g以下であることが好ましく、65mgKOH/g以上120mgKOH/g以下であることがより好ましい。前記分散安定助剤は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
前記分散安定助剤を使用する場合、前記分散安定助剤は、前記単量体混合物100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下で使用することが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下で使用することがより好ましい。
【0062】
前記水性分散媒体は、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得られる観点から、電解質を含んでいてもよい。前記電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらの中でも、塩化ナトリウムを使用することが好ましい。前記電解質は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
前記電解質を使用する場合、前記電解質は、前記単量体混合物100質量部に対して、200質量部以下で使用することが好ましく、0.5質量部以上50質量部以下で使用することがより好ましい。
【0064】
前記水性分散媒体は、重合時の熱膨張性マイクロカプセル同士の凝集や、重合反応器内部表面のスケール付着防止の観点から、重合助剤を含んでいてもよい。前記重合助剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩;水溶性アスコルビン酸、水溶性ビタミンB類、水溶性ポリフェノール類、水溶性ホスホン酸、ホウ酸等が挙げられる。前記重合助剤は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
前記重合助剤を使用する場合、前記重合助剤は、前記単量体混合物100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下で使用することが好ましく、0.005質量部以上0.1質量部以下で使用することがより好ましい。
【0066】
前記水性分散媒体は、必要に応じ、水に前記分散安定剤、前記分散安定助剤、前記電解質、前記重合助剤等の各成分を添加することにより調整できる。各成分を添加する順序に特に制限はないが、例えば、水に前記分散安定剤を加え、前記分散安定助剤、前記電解質、前記重合助剤等を加えて水性分散媒体を調整できる。
【0067】
なお、使用する前記分散安定剤や前記分散安定助剤の種類によって、前記水性分散媒体のpHを調整することが好ましい。例えば、前記分散安定剤としてコロイダルシリカを使用する場合、前記水性分散媒体は、塩酸等を加えてpHを3から4に調整することが好ましい。
【0068】
<分散工程>
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法において、前記分散工程では、前記水性分散媒体に、前記油性混合液を添加し、攪拌(分散)させることで分散液を調整する。前記油性混合液の添加方式は、一括添加、分割添加、及び連続添加のいずれでもよく、特に制限されるものではない。なお、前記分散工程において、単量体混合物の重合を避ける必要がある場合、前記一般式(1)で表される有機過酸化物と前記重合開始剤を配合しない油性混合液を、前記水性分散媒体に添加して分散液を調整し、次いで、前記一般式(1)で表される有機過酸化物と前記重合開始剤を分散液に添加し、さらに攪拌(分散)させることで分散液を調整してもよい。
【0069】
前記分散工程における攪拌機(分散機)としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、スタティックミキサー、超音波分散機、膜乳化装置等の公知の攪拌機(分散機)を使用することができ、バッチ式でも連続式でもよい。
【0070】
前記分散工程における攪拌(分散)温度は、0℃以上40℃以下であることが好ましく、5℃以上30℃以下であることがより好ましい。また、前記分散工程における攪拌(分散)時間は、1分以上120分以下であることが好ましく、3分以上60分以下であることがより好ましい。
【0071】
前記分散液中の油滴の平均粒径は、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径とほぼ同じに調整することが好ましく、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上300μm以下であることがより好ましく、5μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。前記分散液中の油滴の平均粒径は、分散安定剤及び分散安定助剤の種類及び量や、攪拌機(分散機)の回転数及び処理時間等により調整することができる。
【0072】
<重合工程>
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法において、前記重合工程は、脱気又は窒素置換された反応装置において、上記の分散工程を経て得られた分散液を攪拌下で、例えば、加熱することにより行われる。前記一般式(1)で表される有機過酸化物および前記重合開始剤の分解方法としては、加熱により分解する方法や、光により分解する方法、また、促進剤等を併用することによるレドックス的な分解方法等があり、特に限定されるものではない。
【0073】
前記重合工程における攪拌は、油滴の浮上、重合後の熱膨張性マイクロカプセルの浮上もしくは沈降を防止できる程度に緩やかに攪拌すればよい。重合反応が進むにつれて、油性混合物に不溶の重合体が水との界面に析出することで自発的にシェルが形成され、そのシェル内に揮発性物質が内包された熱膨張性マイクロカプセルが得られる。
【0074】
前記重合工程における温度は、30℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましい。前記重合工程における重合時間は、1時間以上40時間以下であることが好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。前記重合工程において、温度を一定に保ちながら重合を行ってもよく、生産性の向上、残存する単量体や一般式(1)で表される有機過酸化物、重合開始剤の低減のため、段階的または連続的に温度を昇温させて重合を行ってもよい。
【0075】
前記重合工程の後に、熱膨張性マイクロカプセル中に残存する単量体の量は、使用した単量体の合計量に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、残存する単量体を含まないことが最も好ましい。前記残存する単量体の量が、0.5質量%よりも多い場合、残存する単量体によりシェルを構成する重合体が可塑化されることで発泡倍率が小さくなるため、好ましくない。なお、前記残存する単量体の量は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒に熱膨張性マイクロカプセルを溶解または膨潤させた後に、溶液をガスクロマトグラフィーにより測定することで残存する単量体の量を求めることができる。
【0076】
前記重合工程により、重合体で形成されたシェル内に揮発性物質が内包された熱膨張性マイクロカプセルが、水性分散媒体に分散した状態で合成される。このような水性分散媒体に分散した熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、沈降、ろ過、遠心除水等の公知の方法により分離できる(分離工程)。前記分離工程は、必要に応じて、水洗を行いながら繰り返し実施してもよい。
【0077】
上記のように、水性分散媒体から分離された熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張しない程度の比較的低温で乾燥することができる(乾燥工程)。乾燥工程は常圧又は減圧下で行うことができる。また、乾燥効率を高めるため、窒素等の気流下で行ってもよい。更に、必要に応じて、水性分散媒体から分離された熱膨張性マイクロカプセルを、予備加熱することにより、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度(T)等の発泡特性を調整することができる(予備加熱工程)。前記予備加熱工程は、水性分散媒体から分離された熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度(Ts´)よりも5℃から80℃低い温度で処理することが好ましく、10℃から70℃低い温度で処理することがより好ましい。また、前記予備加熱工程は、5秒から60分間処理することが好ましく、10秒から30分間処理することがより好ましい。前記予備加熱工程により、例えば、水性分散媒体から分離された熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度(Ts´)を、3℃から60℃程度低下させることができるため、所望する発泡特性が得られるように、予備加熱工程の条件を適宜選択することができる。
【0078】
<発泡成形品>
本発明の発泡成形品は、例えば、熱膨張性マイクロカプセル又は熱膨張性マイクロカプセルを含むマスターバッチを、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂に加え、射出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることで、発泡成形品を製造することができる。
【0079】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリル樹脂、ポリエチレンオキシド等の熱可塑性樹脂;ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイト等のエンジニアリングプラスチック;スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、塩素化ポリエチレン系、クロロスルフォン化エチレン系、ポリエステル系、ウレタン系、アミド系等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
前記熱膨張性マイクロカプセルの使用量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。また、気泡径や発泡倍率を調整するために、化学発泡剤や物理発泡剤等の公知の発泡剤を併用してもよい。前記化学発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ヒドラゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸又はクエン酸一ナトリウム等のクエン酸モノアルカリ金属塩との混合物等が挙げられる。前記物理発泡剤としては、例えば、炭酸ガス、液化炭酸ガス、超臨界炭酸ガス、炭化水素類、ハイドロクロロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類等が挙げられる。
【0081】
前記マスターバッチを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂又は予め各種添加剤が配合された熱可塑性樹脂等に本発明の熱膨張性マイクロカプセルを添加し、同方向二軸押出機等を用いて発泡開始温度以下で混練し、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット状に形成する方法等が挙げられる。また、前記熱可塑性樹脂と本発明の熱膨張性マイクロカプセル、各種添加剤を加圧ニーダー、バンバリーミキサー等のバッチ式の混練機で混練し、造粒機でペレット形状に形成させてもよい。
【0082】
前記発泡成形品の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形、混練成形等が挙げられる。射出成形の場合、例えば、コアバック法やショートショット法等を採用することができる。
【0083】
また、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、接着剤、接着剤の剥離剤、シーリング剤、発泡インキ、つや消し塗料、すべり防止塗料、壁紙、靴底、合成皮革、不織布、自動車アンダーコート、ウェザーストリップ、タイヤトレッド、自動車内装材、合成木材等の各種用途に、軽量化や多孔質性、遮音性、断熱性、耐衝撃性、スリップ性、クッション性等の機能を付与することを目的に使用できる。特に、前記熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、強度や高外観品質等が要求される、自動車内装材等のプラスチック成形品の軽量化等に好適に用いることができる。なお、前記熱膨張性マイクロカプセルは、前記各種用途では、あらかじめ発泡(膨張)させてもよく、又は未発泡のままで使用することもできる。
【実施例
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0085】
<実施例1>
<熱膨張性マイクロカプセルの製造>
固形分20質量%のコロイダルシリカ水分散液(商品名「スノーテックス-O」、日産化学工業社製)12.5g、ポリビニルピロリドン0.075g、及び塩化ナトリウム52gをイオン交換水198gに加えて混合し、pHが3.0になるように、36質量%の塩酸を添加し、水性分散媒体を調整した。
一方、単量体混合物としてアクリロニトリル20.0g、メタクリロニトリル19.2g、メタクリル酸10.9g(質量比:アクリロニトリル/メタクリロニトリル/メタクリル酸=40/38/22)と、揮発性物質としてイソオクタン15.0g(単量体混合物100質量部に対して30質量部)と、一般式(1)で表される有機過酸化物としてジ(2-メタクリロイルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート3.26g(純度:46質量%、酢酸エチル溶液、単量体混合物100質量部に対して希釈剤を除く純分量として3.0質量部)(以下、有機過酸化物A1とも称す)を混合して、油性混合液を調整した。
次いで、上記で得られた水性分散媒体と油性混合液を、20℃以下でホモミキサー(T.K ホモミキサーMARKII、特殊機化工業社製)を使用して、8分間、2,400rpmで攪拌することにより、油性混合液を水性分散媒体に分散させた。得られた分散液を攪拌機付の反応装置に仕込み、300rpmで攪拌し、窒素置換後、反応温度50℃で6時間、さらに、70℃で1時間重合させた。冷却後、生成した熱膨張性マイクロカプセルをろ過し、イオン交換水で洗浄した後に、減圧下で30℃、6時間乾燥させて熱膨張性マイクロカプセルを得た。得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、上述したレーザー回折式粒度分布測定によって平均粒径を求め、また、以下の熱機械分析装置(TMA)の測定によって発泡開始温度(T)、最大発泡温度(Tmax)、最大変位量(Dmax)を求め、さらに、耐熱性を評価した。
【0086】
<熱機械分析装置(TMA)の測定条件>
熱機械分析装置(TMA)(TMA/SS6100、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製社製)を使用し、試料250μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/分の昇温速度で60℃から350℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定した。変位が上がり始める温度を発泡開始温度(T)、最大変位量(Dmax)となる温度を最大発泡温度(Tmax)とした。また、耐熱性は、Dmaxの70%以上の変位量となる温度幅(ΔT70%)で評価した。
【0087】
<実施例2から7及び比較例1から7>
実施例1で用いた油性混合液を構成する各種成分及びその量、重合温度を表1に示すものに変更すること以外は、実施例1と同様の操作で、熱膨張性マイクロカプセルを製造した。なお、重合開始剤は、一般式(1)で表される有機過酸化物と同時、あるいは一般式(1)で表される有機過酸化物の替わりに使用した。一般式(1)で表される有機過酸化物及び重合開始剤の使用量は、希釈剤を除く純分量を示す。得られた各熱膨張性マイクロカプセルの各物性について評価した結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1中、DPHAは、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(シグマアルドリッチ試薬);
TMPTAは、トリメチロールプロパントリアクリレート(東京化成工業試薬);
有機過酸化物A1は、ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート(純度:46質量%、酢酸エチル溶液);
有機過酸化物A2は、ジアリルペルオキシジカーボネート(純度:40質量%、トルエン溶液);
有機過酸化物A3は、ジ(2-アリルオキシエチル)ペルオキシジカーボネート(純度:44質量%、トルエン溶液);
有機過酸化物B1は、ジ-sec-ブチルペルオキシジカーボネート(商品名「パーロイルSBP」、日油社製、純度:50質量%、炭化水素溶液);
有機過酸化物B2は、t-ブチルペルオキシピバレート(商品名「パーブチルPV」、日油社製、純度:71質量%、炭化水素溶液);
有機過酸化物B3は、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン(商品名「パーテトラA」、日油社製、純度:20質量%、エチルベンゼン溶液);を示す。
また、※1は、反応中に多量の凝集物が生成し、熱膨張性マイクロカプセルを合成できなかったことを示す。
【0090】
図1には、実施例4及び比較例1のTMAの測定結果を示す。図1の結果から、本発明の一般式(1)で表される有機過酸化物を使用した熱膨張性マイクロカプセルは、高温域の耐熱性が向上していることが明らかである。さらに、表1の結果より、本発明の一般式(1)で表される有機過酸化物を使用した熱膨張性マイクロカプセルは、一般式(1)で表される有機過酸化物を使用せずに、少量の多官能単量体を含むものや多官能の有機過酸化物を含むものと比較して、高温域の耐熱性が向上していることは明らかである。
図1