IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立精神・神経医療研究センターの特許一覧 ▶ 中外製薬株式会社の特許一覧

特許7185884IL-6及び好中球の関連する疾患の治療効果の予測及び判定方法
<>
  • 特許-IL-6及び好中球の関連する疾患の治療効果の予測及び判定方法 図1
  • 特許-IL-6及び好中球の関連する疾患の治療効果の予測及び判定方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】IL-6及び好中球の関連する疾患の治療効果の予測及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20221201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221201BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
C12Q1/68
A61P43/00 111
A61P25/02 101
A61P25/00 ZNA
A61P9/10
A61K45/00
A61K39/395 U
A61K39/395 D
C12N15/09 Z
C07K16/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019515730
(86)(22)【出願日】2018-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2018017374
(87)【国際公開番号】W WO2018203545
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2017091600
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年11月4日、米子市分化ホールにおいて開催された第34回日本神経治療学会総会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月13日、Hilton Hotel Los Angeles Airportにおいて開催された9th Annual International Roundtable Conference on NMOで発表
(73)【特許権者】
【識別番号】510147776
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】松岡 貴子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 学
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】最新医学,2016年,71 (6),1159-1167
【文献】Neurology,2014年,82,1302-1306
【文献】Translational Research,2017年05月,183,87-103 [Epub on 2016-12-09]
【文献】Annals of the Rheumatic Diseases,2013年,71 (Suppl 3),380
【文献】Multiple Sclerosis Journal,2012年,18 (12),1801-1803
【文献】Ann. Neurol.,2012年,71,323-333
【文献】Journal of Autoimmunity,2017年,82,31-40 [Epub on 2017-04-29]
【文献】Annals of the Rheumatic Diseases,2006年,65 (Suppl 2),474
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/68-1/6897
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、視神経脊髄炎、神経スウィート病、脳卒中、および脳梗塞からなる群から選ばれるIL-6関連疾患の患者における抗IL-6受容体抗体による治療効果を予測する方法:
(i) 前記患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程であり、その好中球関連遺伝子がCTSG (cathepsin G)、DEFA4 (defensin, alpha 4, corticostatin)、AZU1 (azurocidin 1) BPI(bactericidal/permeability-increasing protein)、LTF(lactotransferrin)、DEFA3(defensin, alpha 3, neutrophil-specific)、LCN2(lipocalin 2)、およびCAMP(cathelicidin antimicrobial peptide)からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子であり、および
(ii) 工程(i)で測定された発現レベルを対照と比較する工程であって、前記対照が、健常者から得られた試料における前記好中球関連遺伝子の発現レベルであり、当該発現レベルが対照よりも高い場合に抗IL-6受容体抗体による治療効果が高いと示される、工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、視神経脊髄炎、神経スウィート病、脳卒中、および脳梗塞からなる群から選ばれるIL-6関連疾患の患者における抗IL-6受容体抗体による治療効果を判定する方法:
(i) 抗IL-6受容体抗体を投与された前記患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程であり、その好中球関連遺伝子がCTSG (cathepsin G)、DEFA4 (defensin, alpha 4, corticostatin)、AZU1 (azurocidin 1) BPI(bactericidal/permeability-increasing protein)、LTF(lactotransferrin)、DEFA3(defensin, alpha 3, neutrophil-specific)、LCN2(lipocalin 2)、およびCAMP(cathelicidin antimicrobial peptide)からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子であり、および
(ii) 工程(i)で測定された発現レベルを対照と比較する工程であって、前記対照が、抗IL-6受容体抗体投与前の前記患者から得られた試料における前記好中球関連遺伝子の発現レベルであり、当該発現レベルが対照よりも低い場合に抗IL-6受容体抗体による治療効果が高いと示される、工程。
【請求項3】
請求項1または2に記載の、抗IL-6受容体抗体 によるIL-6関連疾患の治療効果を予測または判定する方法における、CTSG (cathepsin G)、DEFA4 (defensin, alpha 4, corticostatin)、AZU1 (azurocidin 1) BPI(bactericidal/permeability-increasing protein)、LTF(lactotransferrin)、DEFA3(defensin, alpha 3, neutrophil-specific)、LCN2(lipocalin 2)、およびCAMP(cathelicidin antimicrobial peptide)からなる群より選択される少なくとも一つの好中球関連遺伝子の使用。
【請求項4】
抗IL-6受容体抗体 を有効成分として含有する、請求項1に記載の方法により抗IL-6受容体抗体による治療効果が高いことが示された患者に投与するために用いる治療剤。
【請求項5】
抗IL-6受容体抗体 を有効成分として含有する、請求項2に記載の方法により抗IL-6受容体抗体による治療効果が高いことが示された患者に継続して投与するために用いる治療剤。
【請求項6】
抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項4または5に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-6及び好中球の関連する疾患(以下、好中球関連疾患と称する場合あり)の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を予測する方法に関する。また、本発明は、好中球関連疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を判定する方法に関する。さらに、本発明は、IL-6阻害剤を含有する好中球関連疾患の治療剤であって、特に、好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者に投与される好中球関連疾患の治療剤に関する。加えて、本発明は、好中球関連疾患の治療方法にも関し、当該方法は、好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者にIL-6阻害剤を投与することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン6(IL-6)阻害剤により治療されうる疾患として、視神経脊髄炎(NMO)、関節リウマチ、若年性特発性関節炎等のIL-6が病態に関係する疾患(IL-6関連疾患)が知られている(非特許文献1、2)。IL-6阻害剤としては、次のような成分が利用されている(特許文献1):
抗IL-6抗体、
抗IL-6受容体(IL-6R)抗体、
シグナル伝達兼転写活性化因子3(Signal transducer and activator of transcription 3; STAT3)阻害剤、
Janusキナーゼ1(JAK1)阻害剤、等
これらの公知のIL-6阻害剤のうち、例えば、抗IL-6R抗体であるトシリズマブ(TCZ; 一般名)は、キャッスマン病、関節リウマチ、若年性特発性関節炎の治療薬として承認されている。
【0003】
一方、トシリズマブの作用の一つとして、好中球数の減少または増加が知られている。また、視神経脊髄炎(neuromyelitis optica ; NMO)の病態に好中球が関連することが報告されている(非特許文献3、4)。NMOの他にも、IL-6及び好中球が病態に関連する疾患(IL-6及び好中球の関連する疾患)として、神経スウィート病、脳卒中、脳梗塞等が知られている(非特許文献5)。しかし、トシリズマブがどのように好中球の生存や機能に影響を与えるかは知られておらず、抗IL-6R抗体に代表されるIL-6阻害剤の作用機序の更なる解明が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2010/035769
【非特許文献】
【0005】
【文献】Neurology 2014; 82; 1302-1306
【文献】Annu.Rev.Pharmacol. Toxicol.2012.52:199-219
【文献】Multiple Sclerosis Journal, 18(12), 1801-1803, 2012
【文献】ANN NEUROL 2012; 71: 323-333
【文献】臨床神経2012;52:1234-1236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、IL-6阻害剤の作用機序の解明による、好中球関連疾患の新たな治療戦略の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を行なった。具体的には、まず、視神経脊髄炎の患者を対象に、IL-6阻害剤であるトシリズマブを投与し、投与前には健常人と比較して発現が高く、投与後に発現が低下した遺伝子をDNAマイクロアレイにより解析した。その結果、発現レベルの変動が大きかった遺伝子のうち、上位9位までの遺伝子が好中球の顆粒内容物に関するものであることを明らかにした。IL-6Rの阻害によって、好中球に関連する遺伝子(以下、好中球関連遺伝子と称する)が変動することは、これまで知られていなかった。この知見に基づいて、本発明者らは、前記好中球関連遺伝子の発現レベルを指標として、好中球関連疾患に対するIL-6阻害剤の治療効果を予測又は判定することが可能であることを見出した。また、本発明者らは、IL-6阻害剤が好中球関連疾患の治療に有用であることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づくものであり、具体的には以下の発明に関する。
〔1〕以下の工程を含む、IL-6及び好中球の関連する疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を予測する方法:
(i) IL-6及び好中球の関連する疾患の患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(ii) 工程(i)で測定された発現レベルを対照と比較する工程であって、当該発現レベルが対照よりも高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、工程。
〔2〕前記対照が、健常者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕工程(ii)において、工程(i)で測定された発現レベルが健常者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルよりも5倍以上高い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、〔1〕に記載の方法。
〔4〕工程(ii)において、工程(i)で測定された発現レベルが健常者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルよりも10倍以上高い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、〔1〕に記載の方法。
〔5〕以下の工程を含む、IL-6及び好中球の関連する疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を判定する方法:
(i) IL-6阻害剤を投与されたIL-6及び好中球の関連する疾患の患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(ii) 工程(i)で測定された発現レベルを対照と比較する工程であって、当該発現レベルが対照よりも低い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、工程。
〔6〕前記対照が、IL-6阻害剤投与前の前記患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルである、〔5〕に記載の方法。
〔7〕工程(ii)において、工程(i)で測定された発現レベルがIL-6阻害剤投与前の前記患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルの0.5倍未満である場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、〔5〕に記載の方法。
〔8〕工程(ii)において、工程(i)で測定された発現レベルがIL-6阻害剤投与前の前記患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルの0.2倍未満である場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、〔5〕に記載の方法。
〔9〕前記好中球関連遺伝子が、CTSG(cathepsin G)、DEFA4(defensin, alpha 4, corticostatin)、AZU1(azurocidin 1)、BPI(bactericidal/permeability-increasing protein)、ELANE(elastase, neutrophil expressed)、LTF(lactotransferrin)、DEFA3(defensin, alpha 3, neutrophil-specific)、LCN2(lipocalin 2)、およびCAMP(cathelicidin antimicrobial peptide)、からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
[10]前記好中球関連遺伝子が、CTSG(cathepsin G)、DEFA4(defensin, alpha 4, corticostatin)、およびAZU1(azurocidin 1)からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕IL-6阻害剤が抗IL-6受容体抗体である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕IL-6阻害剤によるIL-6及び好中球の関連する疾患の治療効果の予測または判定における、好中球関連遺伝子の使用。
〔13〕IL-6阻害剤を有効成分として含有する、〔1〕に記載の方法によりIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示された患者に投与するための治療剤。
〔14〕IL-6阻害剤を有効成分として含有する、〔5〕に記載の方法によりIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示された患者に継続して投与するための治療剤。
〔15〕IL-6阻害剤が抗IL-6受容体抗体である、〔13〕または〔14〕に記載の治療剤。
〔16〕抗IL-6受容体抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、〔15〕に記載の治療剤。
〔17〕〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の方法によりIL-6阻害剤による治療効果が高いと判断された患者に投与されることを特徴とする、〔13〕に記載の治療剤。
〔18〕IL-6及び好中球の関連する疾患を治療する方法であって、IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者にIL-6阻害剤を投与する工程を含む方法。
〔19〕IL-6及び好中球の関連する疾患を治療する方法であって、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の方法によりIL-6阻害剤による治療効果が高いと判断された患者にIL-6阻害剤を投与する工程を含む方法。
〔20〕IL-6及び好中球の関連する疾患の治療において使用するためのIL-6阻害剤であって、IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者に投与される、IL-6阻害剤。
〔21〕IL-6及び好中球の関連する疾患の治療剤の製造におけるIL-6阻害剤の使用であって、当該治療剤が、IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者に投与される、使用。
〔22〕IL-6及び好中球の関連する疾患の治療におけるIL-6阻害剤の使用であって、当該治療を受ける患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高いことを特徴とする、使用。
〔23〕IL-6阻害剤を有効成分として含む、IL-6及び好中球の関連する疾患の治療剤の製造方法であって、当該治療剤が、IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者に投与される、方法。
〔24〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果を予測又は判定するためのキットであって、好中球関連遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むことを特徴とするキット。
〔25〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果の予測又は判定において使用するための好中球関連遺伝子を検出する試薬。
〔26〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果の予測剤又は判定剤の製造における好中球関連遺伝子を検出する試薬の使用。
〔27〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果の予測又は判定における好中球関連遺伝子を検出する試薬の使用。
〔28〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果の予測用マーカー又は判定用マーカーを検出する方法であって、当該患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法。
〔29〕IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者を選別する方法であって、IL-6及び好中球の関連する疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルが高い患者をIL-6阻害剤による治療効果が高い患者であると判断する工程を含む方法。
〔30〕IL-6及び好中球の関連する疾患が、視神経脊髄炎、神経スウィート病、脳卒中又は脳梗塞である、〔1〕~〔29〕のいずれかに記載の方法、使用、治療剤又はキット。
〔31〕IL-6及び好中球の関連する疾患が、視神経脊髄炎である、〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の方法、使用、治療剤又はキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、好中球関連遺伝子の発現レベルを指標として、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果を予測および判定する方法が提供された。本発明の方法により、IL-6阻害剤による治療効果を期待できない、あるいは重篤な副作用の発現を強いられる患者へのIL-6阻害剤の投与を回避し、適切な治療方法を選択することが可能となった。さらに本発明により、IL-6阻害剤が、好中球関連遺伝子の発現レベルが高い好中球関連疾患患者の治療に有効であることが明らかになった。したがって本発明により、好中球関連遺伝子の発現レベルが高い好中球関連疾患の治療剤および治療方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各カテゴリーで差次的に発現されたプローブの数を示すベン図である。
図2】TCZ処置前後のNMO患者におけるCTSG、DEFA4、およびAZU1の全血中mRNAレベルをRT-PCRで確認した結果を示す。縦軸は、ACTBの発現レベルに対する相対発現強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、好中球関連疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果の予測および/または判定用の遺伝子マーカー(IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療の適応の可否の判定用マーカー:以後、本発明の遺伝子マーカーとも称する)に関する。換言すると、本発明は、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測または判定における本発明の遺伝子マーカーの使用に関する。本発明の遺伝子マーカーは、IL-6阻害剤による治療効果が高い好中球関連疾患患者の予測および/または判定に用いることができる。したがって、本発明の遺伝子マーカー(または本発明のマーカー遺伝子)は、好中球関連遺伝子、好中球及びIL-6に関連する遺伝子、あるいは好中球/IL-6関連遺伝子と称することもできる。本発明の遺伝子マーカーとして、例えば、以下の遺伝子を挙げることができる:
CTSG(cathepsin G)、
DEFA4(defensin, alpha 4, corticostatin)、
AZU1(azurocidin 1)、
BPI(bactericidal/permeability-increasing protein)、
ELANE(elastase, neutrophil expressed)、
LTF(lactotransferrin)、
DEFA3(defensin, alpha 3, neutrophil-specific)、
LCN2(lipocalin 2)、および
CAMP(cathelicidin antimicrobial peptide)
本発明におけるマーカーは、本明細書内で挙げられたマーカーの中から一つを選択して用いてもよいし、二つ以上を選択しそれらを組み合わせて用いてもよい。すなわち、本発明における好中球関連遺伝子は、CTSG、DEFA4、AZU1、BPI、ELANE、LTF、DEFA3、LCN2、およびCAMPからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子でありえる。これら好中球関連遺伝子は、いずれか1つ、あるいは2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、好ましい態様においては9の全てであることができる。
【0012】
ここに、好中球関連遺伝子の例として挙げた各マーカー遺伝子の核酸配列およびアミノ酸配列は、ヒトにおいては、次のとおり公知である;
核酸配列 アミノ酸配列
CTSG(cathepsin G; NM_001911) 配列番号:1 配列番号:2
DEFA4 配列番号:3 配列番号:4
(defensin, alpha 4, corticostatin; NM_001925)
AZU1(azurocidin 1; NM_001700) 配列番号:5 配列番号:6
BPI 配列番号:7 配列番号:8
(bactericidal/permeability-increasing protein; NM_001725)
ELANE 配列番号:9 配列番号:10
(elastase, neutrophil expressed; NM_001972)
LTF(lactotransferrin; NM_002343) 配列番号:11 配列番号:12
DEFA3 配列番号:13 配列番号:14
(defensin, alpha 3, neutrophil-specific; NM_005217)
LCN2(lipocalin 2; NM_005564) 配列番号:15 配列番号:16
CAMP 配列番号:17 配列番号:18
(cathelicidin antimicrobial peptide; NM_004345)
遺伝子マーカーとして利用する各種好中球関連遺伝子の、ヒト以外の種におけるホモログについても、その構造は明らかにされている。したがって、ヒト以外のモデル動物における評価のためには、動物種に応じて、各遺伝子のホモログを選択することができる。
【0013】
本発明の遺伝子マーカーを指標としてIL-6阻害剤による治療効果を予測/判定することができる疾患は、好中球が病態に関連する疾患であり、かつIL-6が病態に関係する疾患(「IL-6及び好中球の関連する疾患」、あるいは「好中球/IL-6関連疾患」と称する、以下、好中球関連疾患と称する場合あり)である。当該疾患は、本発明の遺伝子マーカー(または、好中球関連遺伝子、好中球及びIL-6に関連する遺伝子、好中球/IL-6関連遺伝子)の発現レベルが高いことを特徴とする。当該疾患の例として、視神経脊髄炎(NMO)、神経スウィート病、脳卒中、脳梗塞等を挙げることができるが、これに限定されない。なお、本発明において、用語「視神経脊髄炎」には視神経脊髄炎スペクトラム疾患が含まれる。
【0014】
本発明におけるマーカーとは、バイオマーカーと言い換えることもでき、正常な生物学的過程、発病過程、又は治療に対する薬理学的な応答性の指標として客観的に測定され評価され得る特定の生体内化学物質を指す。マーカーは、疾患の有無、進行状態、もしくは罹患のしやすさの評価、あるいは薬剤の効果、至適用量、もしくは安全性の評価もしくは予測、あるいは予後の予測などに有用である。本発明におけるマーカーは遺伝子名で特定されており、マーカーとなる遺伝子をポリペプチドまたはポリヌクレオチドとして測定することが好ましく、ポリヌクレオチドとして測定することが特に好ましい。
【0015】
本発明は、好中球関連疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を予測する方法であって、好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法に関する。当該好中球関連遺伝子は、好ましくは、CTSG、DEFA4、AZU1、BPI、ELANE、LTF、DEFA3、LCN2、およびCAMPからなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である。
【0016】
上記の本発明の治療効果予測方法においては、好中球関連疾患の患者における本発明の遺伝子マーカーの発現レベルが高い場合に、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果が高いと予測される。従って、本発明の方法は、患者から得られた試料における本発明の遺伝子マーカーの発現レベルが高い患者をIL-6阻害剤による治療効果が高いと予測する工程をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明はまた、好中球関連疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を判定する方法であって、IL-6阻害剤を投与された好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法にも関する。当該好中球関連遺伝子は、好ましくは、CTSG、DEFA4、AZU1、BPI、ELANE、LTF、DEFA3、LCN2、およびCAMPからなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である。
【0018】
上記の本発明の治療効果判定方法においては、好中球関連疾患患者における本発明の遺伝子マーカーの発現レベルがIL-6阻害剤の投与によって低下した場合に、当該患者においてIL-6阻害剤による治療効果が高いと判定される。IL-6阻害剤による治療効果を判定するための本発明の遺伝子マーカーの発現レベルの測定に用いられる生物学的試料は、IL-6阻害剤を投与された患者から採取された試料であって、当該判定に使用できるものであれば特に限定されない。当該試料は、例えば、IL-6阻害剤の投与から1ヶ月後、2ヶ月後、数ヶ月後、1年後、2年後、または数年後の患者から得られた試料である。
【0019】
また本発明は、好中球関連疾患の患者におけるIL-6阻害剤による治療効果を予測する方法であって、
(i) 好中球関連疾患の患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(ii) 工程(i)で測定された発現レベルを対照と比較する工程であって、当該発現レベルが対照よりも高い場合にIL-6阻害剤による治療効果が高いと示される、工程
を含む方法に関する。
あるいは本発明は、(ii)の後さらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患の患者にIL-6阻害剤を投与する工程
を含むことができる。すなわち本発明は、(i)~(iii)の工程を含む、好中球関連疾患の治療方法に関する。
【0020】
あるいは本発明は、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測剤または判定剤の製造における、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬の使用に関する。
【0021】
あるいは本発明は、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測または判定における、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬の使用に関する。
【0022】
あるいは本発明は、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測または判定における、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬の使用であって、
(i) 好中球関連疾患の患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与する、使用に関する。
【0023】
また本発明は、好中球関連疾患の治療おけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与する、使用に関する。
【0024】
あるいは本発明は、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測剤または判定剤の製造における、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬の使用であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与する、使用に関する。
【0025】
また本発明は、好中球関連疾患の治療剤の製造におけるIL-6阻害剤の使用であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与する、使用に関する。
【0026】
あるいは発明は、好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測または判定用マーカーの検出方法に関する。
【0027】
あるいは発明は、以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者への投与に使用するための、または、以下の工程を含む方法によってIL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患の治療に使用するための、IL-6阻害剤または好中球関連疾患治療剤に関する。
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程。
本発明においては、(ii)の後にさらに、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤もしくは好中球関連疾患治療剤を投与する工程
を含むことができる。
【0028】
あるいは本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する好中球関連疾患治療剤であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者に投与するための好中球関連疾患治療剤に関する。
【0029】
あるいは本発明は、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬を含むIL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果の予測剤または判定剤であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与するための予測剤または判定剤に関する。
本発明において、好中球関連遺伝子の発現レベルの検出試薬には、検出対象とする遺伝子をコードするmRNAや、その翻訳産物(すなわちタンパク)を検出するための試薬を利用することができる。翻訳産物は、タンパク量や、その生物学的な活性を指標に検出することができる。具体的には、mRNAに特異的に結合するオリゴヌクレオチドは、典型的な検出試薬の一つである。オリゴヌクレオチドは、その特異的な結合によって、mRNAを検出することができる。また、PCR等の公知の手法においては、検出対象のmRNAを増幅し、生成される像副産物を指標にmRNAを検出することができる。あるいは、翻訳産物であるタンパクに特異的に結合する抗体も、好ましい検出試薬である。抗体は、イムノアッセイやウエスタンブロット解析に有用である。これらの検出試薬は、適宜標識したり、あるいは固相に結合させて、種々のアッセイフォーマットに応用することができる。
【0030】
あるいは本発明は、(i) 試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを検出するための試薬、および(ii) 好中球関連遺伝子の発現レベルに対する陽性対照試料を含む、好中球関連疾患の治療効果の予測または判定用マーカーを検出するためのキットも提供する。陽性対照試料は、そこに含まれるマーカーの量が予め特定されている試料であれば特に限定されないが、当該キットで測定されるマーカーの形態に応じて適宜調製することができる。例えば、マーカーの形態がポリペプチドの場合、当該マーカーと同じポリペプチドを単離精製して定量したものを含む試料が陽性対照試料として好ましい。
本発明のキットは、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定し、
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示され、
(iii) IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者にIL-6阻害剤を投与するための、
好中球関連疾患の治療効果の予測または判定用マーカーを検出するためのキットである。
本発明において、陽性対照試料とは、少なくとも一つの好中球関連遺伝子の転写産物(mRNA)や翻訳産物(タンパク)を、IL-6阻害剤による治療効果が高かった患者群における検出レベルを与える量で含む試料である。陽性対照試料は、実際に患者から採取して測定するための試料と同じものであることが好ましい。したがって、全血などの血液試料を対象とする場合には、好ましい陽性対照試料も血液試料である。血液試料とは、全血、血清、あるいは血漿を含む。陽性対照は、液状や凍結乾燥品とすることができる。液状試料の場合には、濃縮されたものであっても良い。
【0031】
本発明における、好中球関連疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療効果を予測する方法とは、好中球関連疾患に罹患した患者のIL-6阻害剤による治療に対する有効性を評価する方法と言い換えることができる。また、好中球関連疾患に罹患した患者の中からIL-6阻害剤による治療に適した患者を選別する方法と言い換えることもできる。あるいは、好中球関連疾患に罹患した患者における、IL-6阻害剤による治療効果を予測するためのマーカー、当該治療に対する有効性を評価するためのマーカー、または当該治療に適した患者を選別するためのマーカーを検出する方法と言い換えることもできる。これらの方法は、患者から得られた試料を用いて、インビトロで行うことができる。
【0032】
本発明において、治療効果の予測方法は、予後の予測方法、治療の適応の可否の判定方法、治療効果の診断方法、治療継続の可否の判断方法などと言い換えることもできる。
また本発明において「治療の効果が高いと示される」という表現は、「治療の効果が高いと判断される」と言い換えることもできる。
【0033】
また本発明においては、「IL-6阻害剤による治療の効果が高いと示された好中球関連疾患患者」は「IL-6阻害剤による治療の適応患者」、「IL-6阻害剤応答性患者」などと言い換えることができる。したがって本発明は、
IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療の適応患者の同定方法であって、
(i) 好中球関連疾患患者から得られた試料における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(ii) 健常者と比較して好中球関連遺伝子の発現レベルが高い場合、またはIL-6阻害剤投与前の当該患者と比較して投与後の当該患者において好中球関連遺伝子の発現レベルが低い場合に、IL-6阻害剤による治療効果が高いと示される工程
を含む方法に関する。
【0034】
本発明において試料を得る患者は、好中球関連疾患に罹患した患者であればどのような患者であってもよい。好中球関連疾患の治療をまだ受けていない患者であってもよいし、治療をすでに受けている患者であってもよい。IL-6阻害剤による治療をすでに受けている患者の場合、本発明は、IL-6阻害剤による治療に対する当該患者の応答性をモニタリングする方法、または当該患者に対してIL-6阻害剤による治療を継続するべきか否かを判断する方法を提供する。
【0035】
本発明において、マーカーの発現レベルが高いとは、マーカーの測定値がそのマーカーに対して設定された所定の値より高いことを意味し、マーカーの発現レベルが低いとは、そのマーカーに対して設定された所定の値以下であることを意味する。したがって、本発明の治療効果予測方法において、患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが当該マーカーに対して設定された所定の値より高いことにより、当該患者はIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。一態様において、本発明の治療効果予測方法は、患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルを、当該マーカーに対して設定された所定の値と比較する工程、および、当該測定された発現レベルが当該所定の値より高い場合に当該患者をIL-6阻害剤による治療効果が高いと判断する工程を含んでもよい。一方、本発明の治療効果判定方法においては、IL-6阻害剤を投与された患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが当該マーカーに対して設定された所定の値より低いことにより、当該患者はIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。一態様において、本発明の治療効果判定方法は、IL-6阻害剤を投与された患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルを、当該マーカーに対して設定された所定の値と比較する工程、および、当該測定された発現レベルが当該所定の値より低い場合に当該患者をIL-6阻害剤による治療効果が高いと判断する工程を含んでもよい。
【0036】
本発明における所定の値とは、何らかの科学的根拠に基づいて予め決定された値を意味するが、その値を基準にして、好中球関連疾患に罹患した患者がIL-6阻害剤による治療効果が高いか低いかを判断することができれば、どのような値であっても構わない。本発明における所定の値は、マーカーごとに設定されていてもよい。
【0037】
本発明における所定の値は、例えば健常者から得られた試料(対照試料)におけるマーカーの測定値(対照値)から設定することができる。本発明のマーカーの測定値は、健常者と比較して、好中球関連疾患に罹患した患者で増大していることが本研究の結果すでに判明しているため、一つの取り得る手段として、複数の健常者から得られた試料におけるマーカーの測定値の平均値をそのまま所定の値としてもよいし、また、別の取り得る手段として、測定値の平均値に標準偏差の1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、または3.0倍の値を加えた値を所定の値としてもよい。あるいは、複数の健常者から得られた試料におけるマーカーの測定値の平均値の1.2倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、またはそれ以上の値を所定の値としてもよい。したがって、本発明の治療効果予測方法の一態様において、健常者から得られた試料(対照試料)において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが高い(例えば、対照と比較して1.2倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、またはそれ以上高い、好ましくは5.0倍以上、さらに好ましくは10倍以上である)ことにより、当該患者がIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。
【0038】
本発明における所定の値は、例えばIL-6阻害剤投与前の患者から得られた試料(対照試料)におけるマーカーの測定値(対照値)から設定することができる。本発明のマーカーの測定値は、好中球関連疾患に罹患した患者においてIL-6阻害剤投与前と比較して投与後に低下していることが本研究の結果すでに判明している。したがって、ある態様において、IL-6阻害剤投与前の当該患者から得られた試料におけるマーカーの測定値、または複数の患者から得られた試料におけるマーカーの測定値の平均値をそのまま所定の値とすることができる。あるいは別の態様において、測定値の平均値に標準偏差の1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、または3.0倍の値を加えた値を所定の値としてもすることもできる。あるいは、複数の健常者から得られた試料におけるマーカーの測定値(またはその平均値)の0.9倍、0.8倍、0.7倍、0.6倍、0.5倍、0.4倍、またはそれ以下の値を所定の値としてもよい。したがって、本発明の治療効果判定方法の一態様において、IL-6阻害剤投与前の患者から得られた試料(対照試料)において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、IL-6阻害剤投与後の患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが低い(例えば、対照との0.9倍、0.8倍、0.7倍、0.6倍、0.5倍、0.4倍、またはそれ以下、好ましくは0.5倍未満、さらに好ましくは0.2倍未満である)ことにより、当該患者がIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。
【0039】
また、本発明における所定の値は、臨床試験など好中球関連疾患に罹患した複数の患者に対してIL-6阻害剤による治療を行った際の結果に基づいて設定することもできる。ある基準値に対して、マーカーの測定値がそれより高い患者群とそれ以下の患者群とで、IL-6阻害剤による治療の効果に差が見られる場合、その基準値を本発明における所定の値とすることができる。その際、両群の治療効果には統計学的な有意差が見られることが望ましい。例えば、本発明の治療効果予測方法の一態様において、IL-6阻害剤による治療効果が低い、好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが高いことにより、当該患者がIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。一方、本発明の治療効果判定方法の一態様においては、IL-6阻害剤による治療効果が高い、好中球関連疾患に罹患した患者から、IL-6阻害剤投与後に得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルと比較して、好中球関連疾患に罹患した患者から得られた試料において測定されたマーカーの発現レベルが低いことにより、当該患者がIL-6阻害剤による治療効果が高いことが示される。
【0040】
本発明におけるマーカーの測定値や所定の値は、マーカーの発現レベルの測定結果を何らかの方法で数値化したものを意味するが、数値としては測定の結果得られる値(例えば発色強度など)をそのまま用いてもよいし、また、含まれるマーカーの量が既知の陽性対照試料を別途用意して、それとの比較で測定結果を換算した値(例えば濃度など)を用いてもよい。あるいは、上記のようにして得られた値を一定の範囲で区切るなどしてスコア化した値(例えばグレード1、2、3など)を用いてもよい。
【0041】
マーカーの発現レベルの測定は、マーカーの形態あるいはマーカーの発現レベルを測定しようとする試料の種類に応じて適切な方法を選択して実施することができる。マーカーの形態がポリペプチドの場合は、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた免疫学的手法によって発現レベルを評価することができる。免疫学的手法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光(ECL)法、ウエスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴法、抗体アレイを用いた方法、免疫組織染色法、蛍光活性化細胞選別(FACS)法、イムノクロマトグラフィー法、免疫沈降法、免疫比濁法、ラテックス凝集法などを挙げることができる。
他方、マーカーの形態がポリヌクレオチドの場合は、当該ポリヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子工学的手法により測定を行うことが好ましく、そのような手法として例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、逆転写PCR(RT-PCR)法、リアルタイム定量PCR(Q-PCR)法、ノーザンブロッティング法、ハイブリダイゼーション法(DNAマイクロアレイなどのオリゴヌクレオチドアレイを用いた方法も含む)などを挙げることができる。
【0042】
本発明における好中球関連遺伝子の発現レベルの測定には、ポリペプチドを測定すること及びポリヌクレオチドを測定することの双方が含まれる。遺伝子の発現レベルは、一般に、遺伝子の発現産物の定量によって評価することができる。したがって、本発明において測定されるポリペプチドは、通常、遺伝子によってコードされるタンパク質であることができる。タンパク質は、生体試料中の量的なレベルを反映し得るものである限り、翻訳語修飾されたタンパク質であったり、タンパク質の断片であることもできる。一方ポリヌクレオチドを測定するときには、遺伝子の発現産物としてmRNAを測定するのが一般的である。mRNAの発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子の発現レベルで補正することによって、細胞あたりの発現レベルを比較することもできる。
【0043】
本発明における試料は、生体試料と言い換えることもでき、生体内に含まれる器官、組織、細胞、体液、あるいはそれらの混合物を指す。具体的な例としては、皮膚、気道、腸管、尿生殖路、神経、腫瘍、骨髄、血球、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、脳脊髄液、腹腔内液、滑液、肺内液、唾液、喀痰、尿などを挙げることができる。また、これらを洗浄して得られるもの、あるいは生体外で培養して得られるものも本発明における試料に含まれる。本発明における好ましい試料は血液であり、特に好ましい試料は血漿または血清である。
【0044】
あるいは、マーカーの形態がポリヌクレオチドの場合は、全血や血液細胞分画を試料として利用することもできる。これらの血液に由来する試料から、好中球関連遺伝子の血液における発現レベルを知ることができる。全血からmRNAを抽出して、その発現レベルを評価する方法が公知である。本発明において、血中の好中球関連遺伝子の発現レベルの比較は、マーカーの評価方法として好ましい。すなわち本発明の好ましい態様において、好中球関連遺伝子は、血中マーカーとして利用することができる。
たとえば、PAXgene Blood RNA System (QIAGEN)は、採血後の血中RNAを安定化する採血管と、RNA抽出用のカラム等からなる汎用のキットの組み合わせである。このような商業的に供給されているRNA分析用のツールを利用すれば、血中の好中球関連遺伝子の発現レベルを容易に評価することができる。
【0045】
本発明において、患者などから得られた試料は、マーカーの発現レベルの測定に供される前に、濃縮、精製、抽出、単離、あるいは物理的/化学的処理などの方法により加工されてもよい。例えば、血液試料から血球あるいは血漿成分を分離してもよいし、また、組織/細胞試料からDNAやRNAを抽出してもよい。あるいは加熱や化学試薬により不要成分を変性/除去してもよい。このような加工は、主にマーカーの安定性、その発現レベルを測定する感度や特異性等を向上させる目的で行われる。
【0046】
本発明は、好中球関連遺伝子の発現レベルを指標として、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果を予測または判定する。本発明において「IL-6阻害剤」は、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害することが可能な限り限定されない。IL-6阻害剤の具体的な例として、IL-6に結合する物質、IL-6受容体に結合する物質、gp130に結合する物質などを挙げることができるがこれらに限定されない。また、IL-6阻害剤としては、IL-6による細胞内シグナルとして重要なSTAT3リン酸化を阻害する物質、例えばAG490などを挙げることもできるがこれに限定されない。IL-6阻害剤には、特に限定されないが、抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体、IL-6部分ペプチド、IL-6受容体部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子化合物などが含まれる。
【0047】
IL-6阻害剤の好ましい態様として、IL-6受容体阻害剤、特に抗IL-6受容体抗体を挙げることができる。
【0048】
本発明で用いられる抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
【0049】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。通常、この抗体はIL-6、IL-6受容体、gp130等と結合することにより、IL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0050】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体、IL-6、gp130等を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0051】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗IL-6受容体抗体を作製する場合、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子の塩基配列/IL-6受容体タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0052】
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
【0053】
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0054】
同様に、IL-6を抗体取得の感作抗原として用いる場合には、ヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550、J. Immunol.(1988)140, 1534-1541、あるいはAgr. Biol. Chem. (1990)54, 2685-2688に開示されたIL-6遺伝子の塩基配列/IL-6タンパク質のアミノ酸配列を用いることによって得られる。また、抗gp130抗体取得の感作抗原としては、欧州特許出願公開番号EP 411946に開示されたgp130遺伝子の塩基配列/gp130タンパク質のアミノ酸配列を用いることができる。
【0055】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0056】
感作抗原の動物への免疫は、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0057】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0058】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F.Et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell (1976) 8, 405-415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133)等が適宜使用される。
【0059】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0060】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0061】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1~10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0062】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000~6000程度のPEG溶液を通常、30~60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0063】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日~数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0064】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0065】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0066】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0067】
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0068】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0069】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0070】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M.A. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0071】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0072】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0073】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体等を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0074】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0075】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP125023、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0076】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0077】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0078】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、通常、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体重鎖C領域としては、Cγなどが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。ヒト抗体軽鎖C領域としては、例えば、κまたはλを挙げることができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0079】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、これらはヒト体内における抗原性が低下しているため、医薬品として使用される抗体として有用である。
【0080】
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO92-19759参照)。
【0081】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0082】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0083】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0084】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R.C. et al., Nature (1979) 277, 108-114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)に従えば容易に実施することができる。
【0085】
宿主として原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0086】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E.S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E.S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043)に従えばよい。
【0087】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S.P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0088】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0089】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。In vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0090】
宿主として真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(babY ha好中球関連疾患ter kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0091】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0092】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0093】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0094】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0095】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
【0096】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO94-11523参照)。
【0097】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
【0098】
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0099】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0100】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0101】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
【0102】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0103】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0104】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0105】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0106】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0107】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0108】
抗IL-6抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MH166(Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1998) 18, 951-956)やSK2抗体(Sato K et al., 第21回日本免疫学会総会、学術記録 (1991) 21,166)などを挙げることができる。
【0109】
抗IL-6受容体抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられるが、これらに限定されない。また、ヒト化抗IL-6受容体抗体の好ましい例としては、配列番号:19の配列を有する重鎖可変領域および配列番号:20の配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、配列番号:21の配列を有する重鎖及び配列番号22の配列を有する軽鎖を含む抗体、ヒト化PM-1抗体(トシリズマブ、MRA)及びSA237を挙げることができるがこれに限定されない。ヒト化抗IL-6受容体抗体の他の好ましい例としてはWO2009/041621、WO2010/035769に記載された抗体を挙げることができるがこれらに限定されない。さらに、抗IL-6受容体抗体の他の好ましい態様として、ヒト化PM-1抗体(トシリズマブ、MRA)が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗IL-6受容体抗体およびSA237が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗IL-6受容体抗体を挙げることができるがこれに限定されない。
【0110】
抗gp130抗体の具体的な例としては、特に限定されないが、AM64抗体(日本公開公報 特開平3-219894)、4B11抗体、2H4抗体(アメリカ特許公報 US5571513)、B-P8抗体(日本公開公報 特開平8-291199)などが挙げられる。
【0111】
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
【0112】
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56)を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
【0113】
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367、WO96-18648、WO96-17869に開示されているIL-6改変体を挙げることができる。
【0114】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10~80、好ましくは20~50、より好ましくは20~40個のアミノ酸残基からなる。
【0115】
IL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
【0116】
IL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
【0117】
IL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
【0118】
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
【0119】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
【0120】
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
【0121】
また本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含む、好中球関連遺伝子の発現レベルが高い好中球関連疾患の治療剤に関する。本発明における「好中球関連遺伝子の発現レベルが高い好中球関連疾患」は、好ましくは、IL-6阻害剤投与前は好中球関連遺伝子の発現レベルが高いが、IL-6阻害剤投与前と比較し投与後において好中球関連遺伝子の発現レベルが低下する、好中球関連疾患をいう。
【0122】
本発明において「有効成分として含有する」とは、IL-6阻害剤を活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、その含有率を制限するものではない。また、本発明の治療剤は、IL-6阻害剤以外の他の有効成分を含有してもよい。また本発明の治療剤は治療目的だけでなく、予防目的に用いられてもよい。
【0123】
本発明の治療剤は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明の治療剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等の蛋白質、並びに、アミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、IL-6阻害剤を、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0124】
IL-6阻害剤をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明のIL-6阻害剤に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。さらに、本発明の治療剤にヒアルロニダーゼを添加あるいは混合することで皮下に投与する液量を増加させることも可能である(例えば、WO2004/078140等)。
【0125】
本発明の治療剤は、経口または非経口のいずれでも投与可能であるが、好ましくは非経口投与される。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射または皮下注射等により全身又は局所的に投与することができる。治療部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射してもよい。経皮投与剤型の例としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、および貼付剤等があげられ、全身又は局所的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、1回につき体重1 kgあたり活性成分が0.0001 mg~100 mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001~1000 mg/kg・body・weightの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、本発明の抗体が0.01~50mg/kg・body・weight程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明の治療剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0126】
本発明の治療剤は、単独でヒトおよび動物における好中球関連遺伝子の発現レベルの高い好中球関連疾患の治療に用いることができる。あるいは医薬品や食品に通常使用されうる他の成分と混合して経口投与することもできる。また、好中球関連疾患の治療および/または予防効果が知られている他の化合物や微生物等と併用することもできる。
【0127】
また本発明は、IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、好中球関連遺伝子の発現レベルの高い対象における好中球関連疾患の治療方法に関する。IL-6阻害剤が投与される対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としてはヒト及びヒト以外の好中球関連疾患の治療や予防を必要とする哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトやサルが挙げられ、より好ましくはヒトが挙げられる。
【0128】
また本発明は、好中球関連遺伝子の発現レベルの高い好中球関連疾患の治療に使用するためのIL-6阻害剤に関する。あるいは本発明は、好中球関連遺伝子の発現レベルの高い好中球関連疾患の治療剤の製造における、IL-6阻害剤の使用に関する。
【0129】
また本発明は、IL-6阻害剤と薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、好中球関連遺伝子の発現レベルの高い好中球関連疾患の治療剤の製造方法に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0130】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0131】
以下に述べるように、本発明者らは、視神経脊髄炎(NMO)の患者にトシリズマブ(TCZ)を投与した後に正常化した遺伝子をDNAマイクロアレイにより解析した。
【0132】
遺伝子発現アッセイ
TCZを4週に一回、一回につき8mg/kg、静脈注射により投与したNMOの患者のうち、NMOが改善された患者7名を対象に、1回目のTCZ処置の投与前および12ヶ月後に、末梢血をPAXgene blood RNAチューブ(PreAnalytiX GmBH)に採取した。なお、末梢血の採取は日中に行った。当該末梢血から、PAXgene Blood miRNAスピンカラム(QIAGEN)を用いてmRNAを抽出した。当該mRNAから、One-Color Microarray-Based Gene Expression Analysis(Agilent Technologies)、ver.6.5によりcDNAを合成した。600ngのcDNAは、SurePrint G3 Human GEマイクロアレイ(Agilent Technologies)ver.2.0と共に17時間ハイブリダイズされ、洗浄され、Aglient DNAマイクロアレイスキャナを用いてスキャンされた。スキャンされた画像データをFeature Extraction ver.10.7.1.1.ソフトウェア(Agilent Technologies)を用いて定量化した。データをGeneSpring GX 12.0ソフトウェア(Agilent Technologies)を用いて正規化した。発現比率の変化をpaired t-testにより解析した。遺伝子プローブにおける発現比率およびバリエーションを、Excel 2013ソフトウェアを用いて抽出した。以下の2つの基準のうち1つを満たすプローブを抽出した: (1) 発現比率が1.5以上または0.67以下であり、p<0.05である;および (2) 発現比率が1を超えており且つ1.5未満であるか、または0.67を超えており且つ1未満であり、p<0.01である。抽出されたプローブを、DAVID 6.8(参考文献:Huang DW, Sherman BT, and Lempicki RA. Systematic and integrative analysis of large gene lists using DAVID bioinformatics resources. Nat Protoc.4; 44-57 (2009).)を用いてオンラインで解析した。
なお、NMOの改善は、1年間当たりの再発回数の低下、自覚症状としての痛みや疲労感の低下、EDSS(重症度分類総合障害度)の数値の低下等に基づき判断した。
【0133】
結果
以上の解析の結果を、図1に示す。NMO患者および非NMO患者(対照)における遺伝子発現を、総数50599のプローブを用いてDNAマイクロアレイにより解析したところ、対照と比較して、NMO患者において2219個のプローブがアップレギュレートされており、1890個のプローブがダウンレギュレートされていた。また、TCZ処置後の患者において、TCZ処置前と比較して、71個のプローブがアップレギュレートされており、224個のプローブがダウンレギュレートされていた。TCZ処置前のNMO患者において発現レベルが高かった2175個のプローブのうち、41個がTCZ処置後にダウンレギュレートされていた。
【0134】
対照と比較して有意差があったプローブのうち、TCZ処置の1年後にNMO患者においてダウンレギュレートされたプローブの例を表1に示す。表1には、TCZ処置の前と後の発現比率が0.5未満であったプローブが、発現比率が大きく低下したものから順に示されている。驚いたことに、これらのうち上位9位までの遺伝子が好中球の顆粒内容物に関連する遺伝子であった。これらの好中球関連遺伝子は、NMO患者における発現レベルが有意に高く、かつTCZ処置後に発現レベルが大きく低下する遺伝子であることから、IL-6阻害剤による好中球関連疾患の治療効果を予測または判定するためのマーカーとして有用であり得る。
視神経脊髄炎は、その病態に関連するものとしてIL-6の他に好中球が報告されている(非特許文献3、4)。視神経脊髄炎の他に、IL-6及び好中球が病態に関連する疾患として神経スウィート病、脳卒中、脳梗塞等が知られている(臨床神経2012;52:1234-1236)、これらの疾患についても患者における好中球関連遺伝子の発現レベルを測定することにより、IL-6阻害剤による治療効果を予測または判定することが可能と考える。
【0135】
【表1】
【0136】
血中cDNAのPCR解析
TCZを4週に一回、一回につき8mg/kg、静脈注射により投与し、NMOが改善された患者7名について、PAXgene RNA採血管 (PreAnalytiX GmBH)に全血を採取し、全血中のmRNAをPAXgene Blood miRNA Spin Column (QIAGEN)で抽出した。抽出したmRNAからPrimeScript RT-PCR Kit (TaKaRa)を用いてcDNAを合成した。RT-PCRにはSYBER Ex Taq assayを用い、LightCycler 96システム (Roche)で反応をモニタリングした。増幅用の各プライマーには、以下のとおり市販のセット(Quantitect Primer Assay, AIAGEN)を用いた。βアクチン(ACTB)は対照である。
Hs_CTSG_1_SG QuantiTect Primer Assay (200) QT00051667 QIAGEN
Hs_LTF_2_SG QuantiTect Primer Assay (200) QT01677879 QIAGEN
Hs_AZU1_1_SG QuantiTect Primer Assay (200) QT00012327 QIAGEN
Hs_BPI_1_SG QuantiTect Primer Assay (200) QT00096649 QIAGEN
Hs_DEFA4_1_SG QuantiTect Primer Assay (200) QT00001603 QIAGEN
β-actin フォーワード CACTCTTCCAGCCTTCCTTCC(配列番号:23)
リバース GCGTACAGGTCTTTGCGGATG(配列番号:24)
なお、全血の採取は、TCZの投与前及び投与から1年後に行われた。また、NMOの改善は、1年間当たりの再発回数の低下、自覚症状としての痛みや疲労感の低下、EDSS(重症度分類総合障害度)の数値の低下等に基づき判断した。
【0137】
統計解析
Prismソフトウェアを用いてTCZ処置の前と後のNMO群データを比較するために、Wilcoxonの符号付順位和検定を使用した。NMO群と対照群を比較するために、Mann-Whitney検定を使用した。0.05未満のp値を有意差ありと見なした。
【0138】
マイクロアレイによる解析結果を全血cDNAのRT-PCRによって検証した結果の一部を図2に示した。TCZ処置から1年後のNMO患者において、マイクロアレイ解析で発現レベルの有意な低下が観察された上位3つの遺伝子(CTSG、DEFA4、AZU1)は、RT-PCRによる解析でも同様に発現レベルの低下傾向が確認され、マイクロアレイによる解析結果が裏付けられた。一方、健常者(HC)においては、このような発現レベルの変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明により、IL-6及び好中球の関連する疾患の患者の好中球関連遺伝子の発現レベルを指標として、IL-6阻害剤による前記疾患の治療効果を予測するための方法が提供された。さらに本発明により、好中球関連遺伝子の発現レベルが高いIL-6及び好中球の関連する疾患の患者に対する新たな治療方法が提供された。本発明により、IL-6阻害剤による治療効果を期待できない、あるいは重篤な副作用の発現や併存免疫異常の悪化を強いられる患者へのIL-6阻害剤の投与を回避し、適切な治療方法を選択することが可能となった。
図1
図2
【配列表】
0007185884000001.app