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特許7185890土壌改良装置、掘進機および土壌改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】土壌改良装置、掘進機および土壌改良方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
E21D9/06 301K
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022097864
(22)【出願日】2022-06-17
(62)【分割の表示】P 2021208202の分割
【原出願日】2021-12-22
【審査請求日】2022-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596149899
【氏名又は名称】N.JETエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320004124
【氏名又は名称】エーエヌエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】特許業務法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中黒 憲一
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-035941(JP,A)
【文献】特開2019-178579(JP,A)
【文献】特開2012-188869(JP,A)
【文献】特開2019-027238(JP,A)
【文献】特開2004-169376(JP,A)
【文献】特開2000-054368(JP,A)
【文献】特開平07-252824(JP,A)
【文献】特開平11-324568(JP,A)
【文献】特開2004-257210(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105649655(CN,A)
【文献】特開2018-096146(JP,A)
【文献】特開平11-210380(JP,A)
【文献】特開平08-060976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
E21B 1/00-19/24
E21B 44/00-44/10
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機であって、
掘進機本体と、
土壌改良装置と
を備え、
前記土壌改良装置は、
長手方向に延在する軸線を有するケーシングと、
前記ケーシング内に配置され、流体を前記長手方向と交差する方向に高圧噴射可能に構成された少なくとも1つの第1の噴射ノズルと、
前記軸線を中心として前記ケーシングを回転可能、かつ、前記長手方向に沿って、前記ケーシングを前記掘進機本体に対して、前記掘進機の掘進方向前方に向かう第1の方向、および、前記第1の方向と反対の第2の方向に進退可能に構成された回転進退機構と、
前記掘進機本体の内部空間をチャンバと後側空間とに仕切る隔壁であって、排泥孔を有する隔壁と
を備え、
前記掘進機が地中に位置する状態で前記ケーシングを前記第1の方向へ前進させる前進工程において、前記ケーシングを回転させつつ、前記ケーシングの周囲の土壌を撹拌混合するように前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルから溶液型の土壌改良材を高圧噴射し、前記掘進機が地中に位置する状態で前記前進工程の後に前記ケーシングを前記第2の方向へ後退させる後退工程において、前記ケーシングを回転させつつ、前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材を高圧噴射し、それによって前記第2の方向に押し出される、前記前進工程で撹拌混合された土壌を、前記チャンバおよび前記排泥孔を介して前記掘進機本体の内部に導くように構成された
掘進機。
【請求項2】
請求項1に記載の掘進機であって、
前記後退工程において、前記ケーシングの後退動作と同時に前記ケーシングを回転させつつ、前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルから前記セメント系の土壌改良材を高圧噴射するように構成された
掘進機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の掘進機であって、
前記前進工程において、前記ケーシングの前進動作と同時に前記ケーシングを回転させつつ、前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルから前記溶液型の土壌改良材を高圧噴射するように構成された
掘進機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の掘進機であって、
前記ケーシング内に配置され、前記前進工程において前記ケーシングの先端から前方に向けて前記セメント系以外の土壌改良材、または、土壌改良材以外の流体を高圧噴射可能に構成された第2の噴射ノズルを備えた
掘進機。
【請求項5】
請求項4に記載の掘進機であって、
前記前進工程において、前記ケーシングを回転させつつ、前記軸線に対して偏心した位置で前記第2の噴射ノズルから前記セメント系以外の土壌改良材、または、土壌改良材以外の流体を高圧噴射するように配置された
掘進機。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の掘進機であって、
前記前進工程において、前記ケーシングを回転させつつ、前記第2の噴射ノズルから前記セメント系以外の土壌改良材、または、土壌改良材以外の流体を高圧噴射し、
前記後退工程において、前記ケーシングを回転させつつ、前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルから前記セメント系の土壌改良材を高圧噴射する
ように構成された掘進機。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の掘進機であって、
前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、前記長手方向に対して直交する方向に噴射方向が角度付けられた第1角度噴射ノズルを含む
掘進機。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の掘進機であって、
前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、前記ケーシングの前進方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられた第2角度噴射ノズルを含む
掘進機。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の掘進機であって、
前記少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、前記ケーシングの後退方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられた第3角度噴射ノズルを含む
掘進機。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の掘進機であって、
前記ケーシングの前進角度を可変に設定可能に構成された
掘進機。
【請求項11】
地中に配置された掘進機より土壌改良を行う土壌改良方法であって、
長手方向に延在する軸線を有するケーシングであって、前記長手方向と交差する方向に流体を高圧噴射可能に構成された少なくとも1つの噴射ノズルが内部に配置されたケーシングを掘進機本体に対して、前記掘進機の掘進方向前方に向かう第1の方向に前記長手方向に沿って前進させる前進工程と、
前記前進工程の後に前記ケーシングを掘進機本体に対して、前記第1の方向と反対の第2の方向に前記長手方向に沿って後退させる後退工程と
を備え、
前記前進工程は、前記軸線を中心として前記ケーシングを回転させつつ、前記ケーシングの周囲の土壌を撹拌混合するように前記少なくとも1つの噴射ノズルから溶液型の土壌改良材を高圧噴射する工程を含み、
前記後退工程は、前記軸線を中心として前記ケーシングを回転させつつ、前記少なくとも1つの噴射ノズルからセメント系の土壌改良材を高圧噴射し、それによって後方に押し出される、前記前進工程で撹拌混合された土壌を、前記掘進機本体の内部空間をチャンバと後側空間とに仕切る隔壁に形成された排泥孔と前記チャンバとを介して前記掘進機本体の内部に導く工程を含む
土壌改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌を掘進機で掘削して管路またはトンネルを構築する際に、掘削経路の周辺を土壌改良する必要が生じる場合がある。下記の特許文献1は、地中に位置する掘進機のカッターヘッド部に固定された噴射ノズルから、掘進方向前方に向けて土壌改良材を高圧噴射する技術を開示している。このような土壌改良技術によれば、地上環境に影響を与えることなく、必要な土壌改良を地中より行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5657072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の土壌改良技術は、改善の余地を残している。具体的には、特許文献1の技術では、掘進機から高圧噴射された土壌改良材の到達距離は、1.5m程度である。このため、掘進機から1.5mよりも前方まで土壌改良したい場合には、掘進機から前方へ1.5m程度の範囲内の土壌改良を行った後、掘進機を1.5mほど前進させ、その位置で再度、土壌改良を行う必要があった。
【0005】
このようなことから、より前方まで地中より土壌改良を行える技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
本発明の第1の形態によれば、土壌改良装置が提供される。この土壌改良装置は、長手方向に延在する軸線を有するケーシングと、ケーシング内に配置され、流体を長手方向と交差する方向に高圧噴射可能に構成された少なくとも1つの第1の噴射ノズルと、軸線を中心としてケーシングを回転可能、かつ、長手方向にケーシングを進退可能に構成された回転進退機構と、を備えている。ケーシングを前進させる前進工程、および、前進工程の後にケーシングを後退させる後退工程のうちの少なくとも後退工程において、ケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから土壌改良材を噴射するように構成される。
【0008】
この土壌改良装置は、以下のようにして、例えば、掘進機とともに使用することができる。前進工程では、掘進機の掘進方向前方(水平方向に対して角度が付けられていてもよい)に向けて、掘進機からケーシングが前進される。後退工程では、ケーシングが前進前の元の位置に向けて後退される。そして、前進工程および後退工程のうちの少なくとも後退工程において、ケーシングを回転させつつ、ケーシングの長手方向と交差する方向に、土壌改良材が噴射される。これによって、軸線を中心としてコラム状に土壌改良層が形成される。この土壌改良装置によれば、掘進機の位置(または、土壌改良装置の設置位置)を変えることなく、ケーシングを進退可能な範囲で、土壌改良を行うことができる。ケーシングは、その強度を確保すれば、1.5mよりも長い距離進退可能である。したがって、上述した従来技術と比べて、掘進機のより前方まで地中より土壌改良を行うことができる。また、土壌改良材はケーシングの長手方向と交差する方向に噴射されるので、長手方向に噴射される場合と比べて、広い範囲に亘って土壌改良を行うことができる。
【0009】
前進工程において、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから流体が噴射される場合には、ケーシングの前進動作と、ケーシングを回転させつつ流体を噴射する噴射動作と、は同時に連続的に行われてもよいし、繰り返し交互に行われてもよい。後退工程において、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから土壌改良材が噴射される場合には、ケーシングの後退動作と、ケーシングを回転させつつ土壌改良材を噴射する噴射動作と、は同時に連続的に行われてもよいし、繰り返し交互に行われてもよい。
【0010】
本発明の第2の形態によれば、第1の形態において、土壌改良装置は、後退工程において、ケーシングの後退動作と同時にケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから土壌改良材を噴射するように構成される。この形態によれば、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから、ケーシングの長手方向に交差する方向に土壌改良材を噴射している状態で、ケーシングの後退動作が行われる。このため、後退動作時のケーシングの外周面と土壌との間の摩擦抵抗が土壌改良材の噴射によって低減され、後退動作を円滑化できる。
【0011】
本発明の第3の形態によれば、第1または第2の形態において、土壌改良装置は、前進工程において、ケーシングの前進動作と同時にケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材以外の流体を噴射するように構成される。この形態によれば、前進動作時のケーシングの外周面と土壌との間の摩擦抵抗が土壌改良材以外の流体の噴射によって低減され、前進動作を円滑化できる。
【0012】
本発明の第4の形態によれば、第1ないし第3のいずれかの形態において、土壌改良装置は、ケーシング内に配置され、前進工程においてケーシングの先端から前方に向けてセメント系の土壌改良材以外の流体を高圧噴射可能に構成された第2の噴射ノズルを備えている。この形態によれば、ケーシングが前進すべき経路上の土壌を撹拌できるので、ケーシングの前進動作を円滑化できる。「前方に向けて」とは、ケーシングの長手方向であってもよいし、長手方向に対して角度が付けられていてもよい。
【0013】
本発明の第5の形態によれば、第4の形態において、土壌改良装置は、ケーシングを回転させつつ、軸線に対して偏心した位置で第2の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材以外の流体を噴射するように配置される。この形態によれば、軸線と同軸の位置でセメント系の土壌改良材以外の流体を噴射する場合と比べて、ケーシングが回転しているときにセメント系の土壌改良材以外の流体を、軸線を中心としたより広範囲な土壌領域に噴射できる。その結果、土壌の撹拌範囲を広げることができる。
【0014】
本発明の第6の形態によれば、第1ないし第5のいずれかの形態において、土壌改良装置は、前進工程において、ケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材以外の流体を噴射し、後退工程において、ケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材を噴射するように構成される。この形態によれば、前進工程においてセメント系の土壌改良材以外の流体の噴射によって周辺土壌を撹拌混合し、当該周辺土壌の少なくとも一部を、後退工程においてセメント系の土壌改良材に置換することができる。セメント系の土壌改良材は、ケーシングの長手方向と交差する方向に噴射されるので、セメント系の土壌改良層をコラム状に容易に形成することができるとともに、形成される土壌改良層の形状や範囲を制御しやすい。セメント系の土壌改良材に置換された土壌(置換前の周辺土壌)は、掘削機内に回収され得る。本形態は、例えば粘土層の改良に特に適している。
【0015】
本発明の第7の形態によれば、第4または第5の形態において、土壌改良装置は、前進工程において、第2の噴射ノズルから前進方向へ向けてセメント系の土壌改良材以外の流体を噴射し、後退工程において、ケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルからセメント系の土壌改良材を噴射するように構成される。この形態によれば、前進工程においてセメント系の土壌改良材以外の流体を前進方向へ向けて噴射することによって、ケーシングは、その周辺土壌を撹拌混合しながら、前進できる。そして、最終的には、後退工程によって、セメント系の土壌改良材は、ケーシングの長手方向と交差する方向に噴射されるので、セメント系の土壌改良層をコラム状に容易に形成することができるとともに、土壌改良層の形状や範囲を制御しやすい。本形態は、例えば砂層の改良に特に適している。前進工程において撹拌混合された周辺土壌は、後退工程における排泥経路として機能し得る。
【0016】
本発明の第8の形態によれば、第1ないし第7のいずれかの形態において、少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、長手方向に対して実質的に直交する方向に噴射方向が角度付けられた第1角度噴射ノズルを含む。この形態によれば、第1角度噴射ノズルによって、径方向における土壌改良範囲を最大化できる。
【0017】
本発明の第9の形態によれば、第1ないし第8のいずれかの形態において、少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、ケーシングの前進方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられた第2角度噴射ノズルを含む。この形態によれば、前進工程において第2角度噴射ノズルから流体を噴射すれば、前進工程におけるケーシングの前進動作をより円滑化できる。また、第9の形態が第6および第8の形態と組み合わされる場合には、異なる2つの角度でセメント系の土壌改良材以外の流体が噴射されるので、噴射による土壌の撹拌性能を向上できる。また、第9の形態が第7の形態と組み合わされる場合には、異なる2つの角度でセメント系の土壌改良材以外の流体が噴射されるので、噴射による土壌の撹拌性能を向上できる。
【0018】
本発明の第10の形態によれば、第1ないし第9のいずれかの形態において、少なくとも1つの第1の噴射ノズルは、ケーシングの後退方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられた第3角度噴射ノズルを含む。この形態によれば、第6の形態と組み合わせられる場合に、後退工程において噴射されるセメント系の土壌改良材への置換性能を高めることができる。また、第10の形態が第6の形態と、第8および第9の形態の少なくとも一方と、に組み合わされる場合には、異なる2つ以上の角度で土壌改良材が噴射されるので、噴射による土壌の撹拌性能が向上し、セメント系の土壌改良材への置換性能をさらに高めることができる。また、第10の形態が、第7の形態と、第8および第9の形態の少なくとも一方と、に組み合わされる場合には、異なる2つ以上の角度で土壌改良材が噴射されるので、噴射による土壌の撹拌性能を向上できる。
【0019】
本発明の第11の形態によれば、第1ないし第10のいずれかの形態において、土壌改良装置は、ケーシングの前進角度を可変に設定可能に構成される。この形態によれば、様々な前進角度でケーシングを前進させることができるので、掘進機の位置(または土壌改良装置の設置位置)に対する土壌改良可能範囲が広がる。あるいは、複数の前進角度のそれぞれに対して、前進工程および後退工程を実施することで、広い範囲に亘って土壌改良を行うことができる。
【0020】
本発明の第12の形態によれば、掘進機が提供される。この掘進機は、掘進機本体と、第1ないし第11のいずれかの形態の土壌改良装置と、を備えている。ケーシングは、掘進機本体に対して進退可能に構成される。この掘進機によれば、第1ないし第11の形態と同様の効果が得られる。
【0021】
本発明の第13の形態によれば、地中より土壌改良を行う土壌改良方法が提供される。この土壌改良方法は、長手方向に延在する軸線を有するケーシングを長手方向に前進させる前進工程と、前進工程の後にケーシングを長手方向に後退させる後退工程と、を備えている。前進工程および後退工程のうちの少なくとも後退工程は、軸線を中心としてケーシングを回転させつつ、ケーシングから、長手方向と交差する方向に土壌改良材を高圧噴射する工程を含む。この土壌改良方法によれば、第1の形態と同様の効果が得られる。第13の形態に、第2ないし第11の形態のいずれかを付加することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態による掘進機の該略縦断面図である。
図2】掘進機の該略正面図である。
図3】土壌改良装置の概略側面図である。
図4】土壌改良装置の概略側面図である。
図5】ケーシングの先端部の拡大図である。
図6】第2実施形態によるノズル配置を示す概略図である。
図7】代替実施形態によるノズル配置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態による掘進機10の概略縦断面図である。図2は、掘進機の概略正面図である。以下の説明では、説明の便宜上、掘進機10の掘進方向およびその反対側に向かう方向を前後方向と定義する。また、掘進機10に対する掘進方向の前方側を掘進機10の前側と定義し、掘進方向の後方側を掘進機10の後側と定義する。図1に示すように、掘進機10は、前後方向に延在する略円筒状の掘進機本体20を備えている。掘進機本体20は、固定部30と、固定部30よりも前側に配置され、固定部30に対して回転可能に構成される回転部40と、を備えている。固定部30の前端付近には、掘進機本体20の内部空間を前側空間34(チャンバとも称される)と後側空間35とに仕切る隔壁31が形成されている。
【0024】
回転部40の後端部は、メインシャフト41の前端部と連結されている。メインシャフト41は、前後方向(掘進機10の長手方向)に延在して隔壁31を貫通するように配置され、軸受によって回転可能に支持されている。メインシャフト41には、後側空間35内に設けられた駆動モータ42が連結されている(連結部分は図示せず)。このため、回転部40は、駆動モータ42の回転駆動力によって、メインシャフト41と一体的に回転するように構成される。
【0025】
図2に示すように、略円筒状の回転部40の内側には、複数(図2の例では4つ)のスポーク43が架け渡されている。複数のスポーク43は、回転部40の略円筒形状の中心部から放射状にそれぞれ延在して十字形状をなすように配置されている。複数のスポーク43の各々には、土壌を切削するためのカッタビット44,45が取り付けられている。スポーク43が架け渡されていない箇所については、回転部40を前後方向に貫通する空間が形成されている。なお、スポーク43の数、形状および配置は、特に限定されるものではなく、施工条件に応じて任意に設定可能である。
【0026】
図2に示すように、隔壁31の上部および下部には、隔壁31を前後方向に貫通する排泥孔32,33が、それぞれ形成されている。排泥孔32,33は、掘進時に掘削され、チャンバ34内に侵入した土壌を掘進機10の機内に導くために設けられている。排泥孔33から機内に取り込まれた土壌は、排出コンベヤ36(図1参照)を介して後方に搬送される。
【0027】
図1に示すように、掘進機10は、さらに、地中に位置する掘進機10から土壌改良を行うための土壌改良装置50を備えている。土壌改良装置50は、ケーシング60と回転進退機構70とを備えている。ケーシング60は、剛性を有する金属材料(例えば、鋼材)から形成された円筒状部材である。ケーシング60は、その長手方向に延在する軸線AXを有している。本実施形態では、ケーシング60は、複数のケーシングを長手方向にネジ式に繋ぎ合わせることによって構成される。これにより、ケーシング60の取扱性が向上する。ただし、ケーシング60は、分離不能な一体的な1つの部材から形成されていてもよい。回転進退機構70は、軸線AXを中心としてケーシング60を回転可能、かつ、ケーシング60の長手方向にケーシング60を進退可能に構成される。
【0028】
図3に示すように、回転進退機構70は、支持体71と球体72とボールバルブ73とシール部74とベース75とを備えている。支持体71は、ケーシング60が前後方向に貫通可能な貫通孔711(図2参照)を有している。同様に、球体72およびシール部74の各々も、ケーシング60が前後方向に貫通可能な貫通孔(図示せず)を有している。ボールバルブ73は、前後方向に貫通する流路を有しており、ボールバルブ73が開かれた状態では、ケーシング60は、ボールバルブ73の流路を通ってボールバルブ73を貫通可能である。ボールバルブ73は、ケーシング60にボールバルブ73を貫通させるときにだけ開かれ、それ以外のときは、止水のために閉じられる。
【0029】
支持体71は、球体72を摺動可能に支持する。支持体71は、図1および図2に示すように、隔壁31に埋め込まれるように取り付けられている。ただし、後側空間35側からチャンバ34内をメンテナンスするために隔壁31にメンテナンス孔が形成されている場合には、支持体71は、メンテナンス孔内に配置され、任意の固定具によって固定部30(例えば、隔壁31)に固定されてもよい。図3に示すように、この支持体71は、球体72の略球状の外形に適合する湾曲内面(球面座)を有している。このため、球体72は、支持体71内で任意の方向に回転可能である。シール部74は、その貫通孔をケーシング60が貫通した状態において、ケーシング60の周囲の隙間をシールするパッキンを有している。球体72、ボールバルブ73およびシール部74は、一体化されており、前後方向に延在するベース75の前端部に固定されている。
【0030】
図3に示すように、回転進退機構70は、さらに、モータ76と固定部77と回転部78とチャック装置79とガイド部82とジャッキ83とを備えている。回転部78は、ケーシング60を周方向に取り囲むように配置されており、モータ76から提供される回転駆動力によって回転可能に構成される。固定部77は、回転部78を周方向に取り囲むように配置されており、軸受を介して回転部78を回転可能に支持している。また、固定部77は、モータ76を支持している。この固定部77は、ベース75上に摺動可能に支持されている。
【0031】
チャック装置79は、回転部78からケーシング60へ回転駆動力を伝達するように構成される。具体的には、チャック装置79は、環状部80とチャッキングボルト81とを備えている。環状部80は、ケーシング60の外周面に適合する内面を有している。環状部80は、回転部78にそれぞれ、ボルトによって取り付けられる複数の部材から構成されている。複数の部材のうち、下側の部材を回転部78に取り付けた状態で、下側の部材上にケーシング60を載置し、上側の部材を回転部78に取り付けることによって、環状部80は、その内周面がケーシング60の外周面に適合するように、ケーシング60を周方向に取り囲む。この状態で、上側の部材に螺合するチャッキングボルト81を締め付けることによって、環状部80の内周面が縮径する。それによって、ケーシング60が環状部80の内周面に締め付けられ、ケーシング60と環状部80とが固定される。このような状態で、モータ76を駆動させると、その回転駆動力が回転部78および環状部80を介して、ケーシング60へ伝達される。
【0032】
油圧式のジャッキ83は、ベース75の後端付近において、ベース75上に固定されている。ジャッキ83は、油圧ユニット(図示せず)から供給される油圧によって、ロッド84をベース75の長手方向に(換言すれば、ケーシング60の長手方向に)伸縮可能に構成される。ロッド84の前端部は、固定部77に連結されている。このため、ジャッキ83のロッド84が図3に示す位置から図4に示す位置まで伸びると、固定部77、回転部78およびチャック装置79が一体的に前方へ移動され、その結果、チャック装置79にチャックされたケーシング60も前方へ移動される。ロッド84が図4に示す位置から図3に示す位置まで縮むと、固定部77、回転部78およびチャック装置79、ひいてはケーシング60が元の位置(図3の位置)まで後退する。このような構成によって、回転進退機構70は、軸線AXを中心としてケーシング60を回転可能、かつ、掘進機10に対して、ケーシング60の長手方向にケーシング60を進退可能となる。ガイド部82は、ベース75の両側面および下面を取り囲むように固定部77の下端に取り付けられており、固定部77がベース75上を摺動する際のガイドとして機能する。
【0033】
このような回転進退機構70は、図1に示すように、ベース75の後端と固定部30とに連結されたレバーブロック91(「レバーブロック」は登録商標)と、ベース75の前端と固定部30とに連結されたレバーブロック92と、によって吊り下げ支持される。レバーブロック91,92の各々の揚程を調節すれば、ベース75の上下方向の傾きを変更することができる。また、レバーブロック91,92の各々の固定部30に対する連結位置を変更すれば、ベース75の左右方向の傾きを変更することができる。また、球体72は、上述の通り、任意の方向に回転可能であるから、球体72の回転位置と、ベース75の上下方向および左右方向の傾きと、を整合させることによって、ケーシング60の前進方向(前進角度)を任意の方向に設定可能である。
【0034】
図5は、ケーシング60の先端部分の拡大図であり、その内部を透視的に示している。図5に示すように、ケーシング60の先端63には、部分的に前方に突出するカッター支持部62が形成されている。カッター支持部62には、ケーシング60の前進時に土壌を掘削するための複数のカッタビット61が取り付けられている。カッター支持部62の内部(より具体的には、先端63付近)には、土壌改良材などの流体を高圧噴射(例えば、土壌条件に応じて30~245MPaから選択される)するための噴射ノズル64が配置されている。噴射ノズル64は、ケーシング60の長手方向(軸線AXの延在方向)と交差する方向に流体を噴射するように方向付けられる。本実施形態では、噴射ノズル64は、長手方向に対して実質的に直交する方向に噴射角度が角度付けされている。
【0035】
本実施形態では、土壌改良材として、溶液型の土壌改良材と、セメント系の土壌改良材と、が選択的に使用される。溶液型の土壌改良材とは、セメントを含まない任意の土壌改良材である。本実施形態では、溶液型の土壌改良材として、珪酸ナトリウム溶液と硬化剤との混合物が使用される。また、セメント系の土壌改良材とは、セメントを含む任意の土壌改良材である。本実施形態では、セメント系の土壌改良材として、珪酸ナトリウム溶液とセメントミルクとの混合物が使用される。
【0036】
図5に示すように、本実施形態では、噴射ノズル64には、第1供給ライン65と第2供給ライン66とが接続されている。本実施形態では、第1供給ライン65および第2供給ライン66は、ケーシング60内を長手方向に延在するホースの形態である。第1供給ライン65は、噴射ノズル64に珪酸ナトリウム溶液を供給する。図示は省略するが、第1供給ライン65の後端は、ケーシング60の後端から延出しており、高圧の珪酸ナトリウム溶液を発生させる高圧発生装置(図示せず)が接続される。第2供給ライン66は、噴射ノズル64に硬化剤溶液またはセメントミルクを供給する。図示は省略するが、第2供給ライン66の後端は、ケーシング60の後端から延出しており、硬化剤供給装置(図示せず)とセメントミルク供給装置(図示せず)と、のいずれかに選択的に接続される。つまり、溶液型の土壌改良材を噴射する場合には、第2供給ライン66の後端は硬化剤供給装置に接続され、セメント系の土壌改良材を噴射する場合には、第2供給ライン66の後端はセメントミルク供給装置に接続される。第1供給ライン65および第2供給ライン66から噴射ノズル64に供給された流体は、噴射ノズル64内で混合された後、噴射ノズル64外へ噴射される。
【0037】
以下、地中に位置する掘進機10内に設置された土壌改良装置50を用いて土壌改良を行う場合の施工例について説明する。以下では、粘土層の土壌改良を行う場合について説明する。土壌改良工程は、ケーシング60を前進させる前進工程と、ケーシング60を前進させた後に、元の位置に向けてケーシング60を後退させる後退工程と、に大別できる。ケーシング60の前進角度は、掘進機10の位置に対する土壌改良を行いたい地中領域の位置に応じて適宜、設定される。
【0038】
まず、前進工程では、ジャッキ83によって、図3に示す位置から図4に示す位置までケーシング60が土壌中を前進される。本実施形態では、ケーシング60の前進動作と同時に、モータ76の駆動によってケーシング60が回転され、かつ、噴射ノズル64から溶液型の土壌改良材が噴射される。ケーシング60の前進動作中に土壌改良材がケーシング60の長手方向と交差する方向(軸線AXと交差する方向)に噴射されることで、前進動作時のケーシング60の外周面と土壌との間の摩擦抵抗が低減され、前進動作を円滑化できる。ただし、ケーシング60を所定距離だけ前進させて停止させる動作と、その停止箇所でケーシング60を回転させつつ土壌改良材を噴射する動作と、が、繰り返し交互に行われてもよい。前進工程において溶液型の土壌改良材を軸線AXと交差する方向に噴射することによって、ケーシング60の周囲の土壌を撹拌混合することができる。
【0039】
そして、ケーシング60が図4に示した最前位置に到達すると、後退工程が実施される。後退工程では、ジャッキ83によって、図4に示す位置から図3に示す位置までケーシング60が後退される。本実施形態では、ケーシング60の後退動作と同時に、モータ76の駆動によってケーシング60が回転され、かつ、噴射ノズル64からセメント型の土壌改良材が噴射される。ケーシング60の後退動作中に土壌改良材が軸線AXと交差する方向に噴射されることで、後退動作時のケーシング60の外周面と土壌との間の摩擦抵抗が低減され、後退動作を円滑化できる。ただし、ケーシング60を所定距離だけ後退させて停止させる動作と、その停止箇所でケーシング60を回転させつつ土壌改良材を噴射する動作と、が、繰り返し交互に行われてもよい。
【0040】
後退工程においてセメント系の土壌改良材を軸線AXと交差する方向に噴射することによって、前進工程で撹拌混合された土壌の少なくとも一部は、後方に押し出され、セメント系の土壌改良材に置換される。これによって、ケーシング60の移動軌跡およびその周囲に、軸線AXを中心とするコラム状のセメント系土壌改良層が形成される。後方に押し出された土壌は、排泥孔32を介して機内に導かれた後、掘進機10から後方へ排出される。
【0041】
土壌改良材はケーシング60の長手方向と交差する方向に噴射されるので、長手方向に噴射される場合と比べて、前進工程では、広い範囲に亘って土壌を撹拌混合することができ、後退工程では、広い範囲に亘ってセメント系の土壌改良層を形成することができる。特に、本実施形態では、土壌改良材は長手方向と実質的に直交する方向(径方向)に噴射されるので、径方向における土壌改良範囲を最大化できる。また、長手方向に噴射される場合と比べて、形成される土壌改良層の形状や範囲を制御しやすい。
【0042】
粘土層では、単にセメント系の土壌改良材を噴射しても、十分な撹拌混合効果が期待できず、その結果、十分な範囲にセメント系の土壌改良材が行き渡らない。一方、上述した施工例によれば、セメント系の土壌改良材の噴射の前に、溶液型の土壌改良材の噴射によって十分な撹拌混合効果が期待でき、その結果、十分な範囲にセメント系の土壌改良層を形成できる。なお、上述の施工例は、粘土層に限らず、求められる施工内容に応じて任意の土質条件に適用され得る。また、前進工程では、溶液型の土壌改良材に代えて、セメント系の土壌改良材以外の任意の流体(例えば、水、加泥材など)が噴射されてもよい。こうしても、十分な撹拌混合効果を得ることができる。
【0043】
次いで、第2実施形態による土壌改良装置50について説明する。第2実施形態による土壌改良装置50は、構造的には、ケーシング60内のノズル配置が第1実施形態と異なっている。具体的には、図6に示すように、ケーシング60の内部には、流体を高圧噴射するための2つの噴射ノズル、すなわち、第1の噴射ノズル161および第2の噴射ノズル162が配置されている。第1の噴射ノズル161は、ケーシング60の長手方向に対して実質的に直交する方向に噴射角度が角度付けられている。第2の噴射ノズル162は、カッター支持部62を避けた箇所に、ケーシング60の先端から前方に向けて、セメント系の土壌改良材以外の任意の流体(例えば、溶液型の土壌改良材、水、加泥材など。以下、非セメント系流体と呼ぶ)を噴射可能に配置されている。本実施形態では、第2の噴射ノズル162は、長手方向に非セメント系流体を噴射するように角度付けられているが、長手方向に対して僅かに角度(例えば、10度以下)が付けられた方向に非セメント系流体を噴射するように角度付けられていてもよい。また、第2の噴射ノズル162は、軸線AXに対して偏心した位置で流体を噴射するように配置されている。
【0044】
以下では、第2実施形態による土壌改良装置50によって砂層の土壌改良を行う場合について説明する。まず、前進工程では、ケーシング60を回転させつつ、第2の噴射ノズル162から非セメント系流体が前進方向に向けて噴射される。次いで、後退工程では、第1実施形態と同様に、ケーシング60を回転させつつ、第1の噴射ノズル161からセメント系の土壌改良材が噴射される。
【0045】
このような施工によれば、前進工程において非セメント系流体が前進方向に向けて噴射されるので、ケーシング60は、その周辺土壌を撹拌混合しながら、前進できる。このように、後退工程に先立って、ケーシング60の周辺の土壌が撹拌混合されることによって、後退工程における排泥経路が形成される。このため、第1実施形態と同様に、ケーシング60の移動軌跡およびその周囲に、軸線AXを中心とするコラム状のセメント系土壌改良層を容易に形成できる。このような施工は、後退工程でのセメント系の土壌改良材の噴射によって十分な撹拌混合が期待される土質(例えば、砂層)に適している。この施工例は、砂層に限らず、求められる施工内容に応じて任意の土質条件に適用され得る。
【0046】
また、第2の噴射ノズル162は、軸線AXに対して偏心した位置で非セメント系流体を噴射するように配置されている。このため、軸線AXと同軸の位置で流体を噴射する場合と比べて、ケーシング60が回転しているときに非セメント系流体を、軸線AXを中心としたより広範囲な土壌領域に噴射できる。その結果、土壌の撹拌範囲を広げることができる。
【0047】
上述した掘進機10および土壌改良装置50によれば、掘進機10の位置を変えることなく、ケーシング60を進退可能な範囲で、土壌改良を行うことができる。ケーシング60は、その強度を確保すれば、1.5mよりも長い距離(例えば、3~5m)進退可能である。したがって、上述した従来技術と比べて、掘進機10のより前方まで地中より土壌改良を行うことができる。
【0048】
さらに、掘進機10および土壌改良装置50によれば、土壌改良装置50は、ケーシング60の前進角度を可変に設定可能に構成されるので、様々な前進角度でケーシング60を前進させることができる。このため、掘進機10の位置に対する土壌改良可能範囲が広がる。あるいは、前進角度を変えて、土壌改良工程(前進工程および後退工程)を繰り返し実施することで、広い範囲に亘って土壌改良を行うことができる。
【0049】
代替実施形態では、土壌改良装置50は、軸線AXと交差する方向に流体を高圧噴射する単一の噴射ノズル(第1実施形態では噴射ノズル64、第2実施形態では第1の噴射ノズル161)に代えて、軸線AXと交差する方向に流体を高圧噴射するための2つ以上の噴射ノズルを備えていてもよい。図7は、そのような幾つかの代替実施形態を模式的に示している。図7(a)の例では、ケーシング60の内部に、土壌改良材を噴射するための2つの噴射ノズル、すなわち、第1角度噴射ノズル261および第2角度噴射ノズル262が配置されている。第1角度噴射ノズル261は、ケーシング60の長手方向に対して実質的に直交する方向に噴射角度が角度付けられており、第2角度噴射ノズル262は、ケーシング60の前進方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられている。
【0050】
第1の噴射ノズル161および第2の噴射ノズル162は、前進工程および後退工程の少なくとも一方において、同時に使用されてもよい(流体を噴射してもよい)し、いずれか一方のみが使用されてもよい。第1角度噴射ノズル261と第2角度噴射ノズル262とが同時に使用される場合には、異なる2つの角度で流体が噴射されるので、流体の噴射による土壌の撹拌性能を向上できる。また、第1実施形態の前進工程において、少なくとも第2角度噴射ノズル262が使用される場合には、前進工程におけるケーシング60の前進動作をより円滑化できる。
【0051】
図7(b)の例では、ケーシング60の内部に、軸線AXと交差する方向に流体を噴射するための2つの噴射ノズル、すなわち、第1角度噴射ノズル361および第3角度噴射ノズル362が配置されている。第1角度噴射ノズル361は、ケーシング60の長手方向に対して実質的に直交する方向に噴射角度が角度付けられており、第3角度噴射ノズル362は、ケーシング60の後退方向に向けた方向成分を含むように噴射方向が角度付けられている。
【0052】
第1角度噴射ノズル361および第3角度噴射ノズル362は、前進工程および後退工程の少なくとも一方において、同時に使用されてもよいし、いずれか一方のみが使用されてもよい。第1角度噴射ノズル361と第3角度噴射ノズル362とが同時に使用される場合には、異なる2つの角度で流体が噴射されるので、流体の噴射による土壌の撹拌性能を向上できる。また、第1実施形態の後退工程において少なくとも第3角度噴射ノズル362が使用される場合には、前進工程において混合撹拌された土壌を掘進機10側へ押し出す効果が高まり、セメント系の土壌改良材への置換性能を高めることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、任意の省略が可能である。
【0054】
例えば、上述した種々のノズル配置は、適宜、部分的な省略または組み合わせが可能である。例えば、図7(a)の例において、第1角度噴射ノズル261が省略され、第2角度噴射ノズル262のみが設置されてもよい。あるいは、図7(b)の例において、第1角度噴射ノズル361が省略され、第3角度噴射ノズル362のみが設置されてもよい。あるいは、図7(a)の例において、第1角度噴射ノズル261に代えて、または、加えて、第3角度噴射ノズル362が設置されてもよい。
【0055】
あるいは、第1実施形態において、噴射ノズル64に加えて、第2実施形態の第2の噴射ノズル162が設置されてもよい。この場合、第1実施形態の前進工程において、第2の噴射ノズル162から前進方向に向けて非セメント系流体が噴射されてもよい。こうすれば、ケーシング60が前進すべき経路上の土壌が撹拌されるので、ケーシング60の前進動作をより円滑化できる。
【0056】
あるいは、第2実施形態の前進工程において、第1の噴射ノズル161から、軸線AXと交差する方向に向けて非セメント系流体が噴射されてもよい。こうすれば、ケーシング60の径方向における周辺の土壌が撹拌されるので、後退工程における排泥経路をより広く確保できる。
【0057】
あるいは、第2実施形態の前進工程では、ケーシング60は回転されることなく、前進されてもよい。また、第1実施形態または第2実施形態の前進工程および後退工程のうちの土壌改良材が噴射される工程において、どのような土壌改良材(例えば、セメント系または溶液型)を噴射するのかについては、土質条件に応じて任意に決定され得る。
【0058】
あるいは、支持体71(または、支持体71、球体72およびボールバルブ73)の数および設置箇所は、任意に設定可能である。例えば、支持体71を隔壁31の異なる箇所に複数対設ける場合、互いに異なる複数の位置からケーシング60を前進させることができるので、より広い範囲に亘って土壌改良を行うことができる。この場合、ケーシング60および回転進退機構70(支持体71を除く部分、または、支持体71、球体72およびボールバルブ73を除く部分)は、支持体71の設置位置ごとに個別に設置されてもよいし、支持体71の複数の設置位置間で共用されてもよい。支持体71球体72およびボールバルブ73が複数組設置され、そのうちの1組にケーシング60を貫通させる場合には、ケーシング60を貫通させていない支持体71球体72およびボールバルブ73の組は、排泥孔32に代えた、または、加えた排泥経路として利用することも可能である。
【0059】
上述した土壌改良装置50は、掘進機10内に配置される代わりに、立坑内に配置されてもよい。この場合、ケーシング60は、立坑に対して進退可能に構成される。
【符号の説明】
【0060】
10...掘進機
20...掘進機本体
30...固定部
31...隔壁
32,33...排泥孔
34...前側空間(チャンバ)
35...後側空間
36...排出コンベヤ
40...回転部
41...メインシャフト
42...駆動モータ
43...スポーク
44,45...カッタビット
50...土壌改良装置
60...ケーシング
61...カッタビット
62...カッター支持部
63...先端
64...噴射ノズル
65...第1供給ライン
66...第2供給ライン
70...回転進退機構
71...支持体
72...球体
73...ボールバルブ
74...シール部
75...ベース
76...モータ
77...固定部
78...回転部
79...チャック装置
80...環状部
81...チャッキングボルト
82...ガイド部
83...ジャッキ
84...ロッド
91,92...レバーブロック
161...第1の噴射ノズル
162...第2の噴射ノズル
261...第1角度噴射ノズル
262...第2角度噴射ノズル
361...第1角度噴射ノズル
362...第3角度噴射ノズル
711...貫通孔
AX...ケーシングの軸線
【要約】
【課題】 より前方まで地中より土壌改良を行える技術を提供する。
【解決手段】 土壌改良装置は、長手方向に延在する軸線を有するケーシングと、ケーシング内に配置され、流体を長手方向と交差する交差方向に高圧噴射可能に構成された少なくとも1つの第1の噴射ノズルと、軸線を中心としてケーシングを回転可能、かつ、長手方向にケーシングを進退可能に構成された回転進退機構と、を備えている。ケーシングを前進させる前進工程、および、前進工程の後にケーシングを後退させる後退工程のうちの少なくとも後退工程において、ケーシングを回転させつつ、少なくとも1つの第1の噴射ノズルから土壌改良材を噴射するように構成された。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7