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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザー装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/042 20060101AFI20221201BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01S3/042
H01S3/0941
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018092757
(22)【出願日】2018-05-14
(65)【公開番号】P2019201015
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「マイクロチップレーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】安原 亮
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082122(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106602391(CN,A)
【文献】特開2012-069907(JP,A)
【文献】特開2015-167216(JP,A)
【文献】米国特許第06658861(US,B1)
【文献】特開平08-054498(JP,A)
【文献】特開2017-220652(JP,A)
【文献】特表平05-503396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0180472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0293542(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0183467(US,A1)
【文献】特表2008-515204(JP,A)
【文献】特開2018-073984(JP,A)
【文献】特開2015-084390(JP,A)
【文献】特開2017-079283(JP,A)
【文献】KAUSAS, A. et al.,Distributed Face Cooling scheme for tiny laser power scale-up,2017 5th International Workshop on Low Temperature Bonding for 3D Integration (LTB-3D),米国,IEEE,2017年,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=7947404,DOI: 10.23919/LTB-3D.2017.7947404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー装置であって、
レーザー光を射出する円形断面のレーザー材料と、
前記レーザー材料を励起するための励起用レーザーを、前記レーザー光が射出される軸方向から前記レーザー材料に照射する励起機構と、
液体金属を冷媒として前記レーザー材料の端面以外の部分を冷却する冷却機構と、
前記レーザー材料および冷却機構の少なくとも一方が、冷却に伴って前記レーザー材料に生じる温度分布の偏りによる影響を抑制するための温度分布抑制構造を有し、
前記温度分布抑制構造は、前記レーザー材料を、励起用レーザーによって励起される薄板状のホスト材料と、透光性を有し該レーザー材料よりも径の大きいディスク状の放熱部材とを積層した構造であり、
前記冷却機構は、前記放熱部材を前記液体金属で冷却する機構であって、
前記レーザー材料および前記放熱部材を収容することによって、その外周側に前記液体金属の流路が形成される容器と、
前記レーザー材料の一方の端面側に前記円形形状の直径方向の対向する位置に前記軸方向に開口して形成され、前記流路に前記液体金属を供給するための2つの供給口と、
前記レーザー材料の一方の他端側に前記軸方向に開口して形成され、前記液体金属を前記流路から排出するための2つの排出口とを備え
前記供給口と排出口は、該レーザー材料の光軸周りに90度回転させた位置関係にあるレーザー装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザー装置であって、
前記ホスト材料の側面を断熱素材でコーティングしたレーザー装置。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のレーザー装置であって、
前記冷却機構は、前記液体金属を循環させる循環流路を有しており、
該循環流路の内面は、該循環流路を形成する素材よりも前記液体金属の濡れ性を低減させるためのコーティングが施されているレーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー装置の冷却機構に関する。
【背景技術】
【0002】
YAGレーザーその他の個体レーザーでは、高出力化を図ると、レーザー材料で熱が発生し、数百度に達することもあるため、レーザー材料の冷却が重要となる。従来、レーザー材料の冷却効率を向上させるため、液体の冷媒を用いることも試みられていた。
特許文献1は、ロッド状のレーザー材料の周囲に冷媒の流路を形成するとともに、その上流側に羽根車を設けることによって、レーザー材料の側面に均一の流れを生じさせ、レーザー材料の温度分布の不均一を抑制する技術を開示している。
特許文献2は、ディスク状のレーザー材料の裏面に液体金属を収納した冷却器を配置した冷却機構を開示している。
特許文献3は、スラブ形状のレーザー材料の外周に冷媒の流路を形成した冷却機構を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-232652号公報
【文献】特開平5-152646号公報
【文献】特開2003-101108公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術において、さらに冷却効率を向上させる方法の一つとして、冷媒として熱伝達率の高い液体金属を利用することが考えられる。しかし、特許文献2は、冷媒として冷却水よりも熱伝達率の高い液体金属を使用しているものの、レーザー材料の背面しか冷却できない。また、特許文献1、3は冷却水などを念頭においた構成であり、側面から照射するランプによって励起する構成であるため、透光性で劣る液体金属を冷媒として適用することはできない。
本発明は、かかる課題に鑑み、液体金属を冷媒として用い、レーザー装置の冷却効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、レーザー装置であって、
レーザー光を射出するレーザー材料と、
前記レーザー材料を励起するための励起用レーザーを、前記レーザー光が射出される軸方向から前記レーザー材料に照射する励起機構と、
液体金属を冷媒として前記レーザー材料の端面以外の部分を冷却する冷却機構と、
前記レーザー材料および冷却機構の少なくとも一方が、冷却に伴って前記レーザー材料に生じる温度分布の偏りによる影響を抑制するための温度分布抑制構造を有するレーザー装置として構成することができる。
【0006】
本発明によれば、液体金属を冷媒として用いることにより、冷却効率を向上させることができる。励起用レーザーは、レーザー材料の端面に軸方向から照射されるため、透光性に劣る液体金属を冷媒として用いても励起には支障がない。
また、本発明には、温度分布抑制構造が設けられている。レーザー材料に温度分布の偏りが生じると、これによって射出されるレーザー光の品質が低下したり、発振できなくなったり、レーザー材料が損傷したり、といった悪影響が生じることがある。レーザー材料の冷却効率が低下すれば、かかる悪影響は、より顕著となるおそれがある。温度分布抑制構造は、こうした温度分布の偏りに起因する影響を抑制するための構造である。本発明では、このように温度分布抑制構造を設けることにより、かかる悪影響を緩和しながら、冷却効率を向上させることが可能となるのである。液体金属を利用することにより、熱伝達率の差違によって、冷却水を用いる場合よりも10倍程度の冷却効率向上が見込まれることになる。
【0007】
本発明においてレーザー材料としては、ネオジムなどの希土類元素や遷移金属元素を数%添加したYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)等の酸化物結晶、セラミックス材料、フッ化物材料等、ファイバーなどを用いることができる。
液体金属としては、室温で液体となる種々の金属、即ち融点が室温以下である金属を利用可能であり、ガリウム、インジウム、水銀、すず、鉛、亜鉛、ビスマスなどから選択することができる。
【0008】
本発明は、温度分布抑制構造に応じて、第1の態様、第2の態様に大きく2分できる。以下、順番に説明する。
<第1の態様>
第1の態様として、本発明のレーザー装置においては、
前記温度分布抑制構造は、前記レーザー材料を軸方向に長い形状とするとともに、レーザー材料内でレーザー光が側面に反射しながら進む構造とし、
前記冷却機構は、液体金属を前記レーザー材料の外周側面に直接、または該レーザー材料の外周側面に施されたコーティングを介して接触させる機構であるものとしてもよい。
【0009】
第1の態様では、レーザー材料内をレーザー光が反射しながら進む構造とする。かかる構造としては、例えば、レーザー材料をスラブ形状等とすることが挙げられる。レーザー材料の周囲は、レーザー光を反射させるためのコーティングを施してもよい。ここで言うコーティングには、レーザー材料の外周に、レーザー材料と同素材で他元素を添加していないもので覆うものも含まれる。また、レーザー材料の周囲にコーティングを施さない構造としてもよい。第1の態様では、レーザー材料の外周側面に液体金属を接触させるため、冷媒としての液体金属が反射のためのコーティングの機能を果たすこともできるからである。
このようにレーザー材料内をレーザー光が反射しながら進む構造とすることにより、レーザー材料内に温度分布の偏りが生じたとしても、レーザー光は種々の温度分布の領域を通過することになるから、温度分布の偏りによる影響を平均化し、緩和することができる。その上で、第1の態様によれば、レーザー材料を直接またはコーティングを介して液体金属に接触させることができるため、冷却効率の向上を図ることができる。
【0010】
第1の態様においては、
前記冷却機構は、前記液体金属を貯留する冷却槽を備え、
前記レーザー材料は、側面のみが前記液体金属に接触するよう端面を前記冷却槽外に出した状態で、前記冷却槽内に収容されているものとしてもよい。
【0011】
レーザー材料を液体金属に浸して冷却する態様である。液体金属は熱伝達率が高いため、浸す方法によっても、液体金属の温度がレーザー材料の周囲のみ局所的に高くなるといった現象が生じにくく均一に冷却をすることが可能となる。レーザー材料の端面は、冷却槽外に出すため、冷却槽内の液体金属によってレーザー光や励起用レーザーの入射・射出に支障が生じることはない。冷却槽外には、レーザー材料の端面を冷却槽の外面と面一にすることも含まれる。例えば、冷却槽を構成する側壁に、レーザー材料を取り付けるための孔を形成し、ここから端面を突出させてレーザー材料をはめ込んだり、孔を設けた側面とレーザー材料の端面を面一に取り付けたりする構造が考えられる。かかる構造では、液体金属の漏出を防ぐため、レーザー材料と孔との隙間を埋めるシールを適宜、施すことが好ましい。
この態様においては、冷却槽に液体金属の供給口、排出口を設け、冷却槽内の液体金属が入れ替わるようにすることが好ましいが、必須ではない。例えば、液体金属が入れ替わらない構造であっても、レーザー材料で生じる熱に対して冷却槽が十分な容量をもたせることにより、レーザー装置の使用中は冷却効果を維持することは可能である。
【0012】
また第1の態様においては、
前記冷却槽に前記液体金属を供給するための供給口は前記レーザー材料の一方の端面近傍に形成され、
前記液体金属を前記冷却槽から排出するための排出口は前記レーザー材料の他方の端面近傍に形成されているものとしてもよい。
【0013】
こうすることにより、冷却槽内の液体金属の入れ替えによる冷却効果の維持を図ることができる。また、供給口、排出口をレーザー材料の両端面の近傍に形成するため、冷却槽内を一方の端面から他方の端面に向けて液体金属の流れを形成することができ、レーザー材料を全体にわたってより均一に冷却することが可能となる。上記態様において「端面近傍」とは、このようにレーザー材料の一方の端面から他方の端面に向かう流れを形成できる程度に、供給口、排出口が離れて形成されていればよい。また、供給口および排出口とレーザー材料の端面との間に、こうした流れの影響を受けずに液体金属が淀む箇所が形成されるほど、供給口、排出口が端面から離れていなければよい。
【0014】
<第2の態様>
第2の態様として、本発明のレーザー装置においては、
前記温度分布抑制構造は、前記レーザー材料を、励起用レーザーによって励起される薄板状のホスト材料と、透光性を有するディスク状の放熱部材とを交互に積層したDFC(Distributed Face Cooling)構造であり、
前記冷却機構は、前記放熱部材を前記液体金属で冷却する機構であるものとしてもよい。
【0015】
第2の態様によれば、放熱部材を介して薄板状のホスト材料を側面からではなく面全体で冷却することができ、ホスト材料の温度分布の偏りを抑制しつつ冷却することが可能となる。
第2の態様においても、ホスト材料としては、先に説明したYAGなどを用いることができる。放熱部材としては、サファイア、ダイヤモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、他元素を添加していないYAG、SiC(シリコンカーバイド)などを用いることができる。
【0016】
第2の態様においては、
前記ホスト材料の側面を断熱素材でコーティングしてもよい。
【0017】
こうすることにより、ホスト材料が側面から冷却されることを抑制し、ホスト材料に温度分布の偏りが生じることを抑制できる。
断熱素材は、テフロン(登録商標)、ガラス、真空などとすることができる。真空を断熱素材として用いる場合には、ホスト材料の側面に、真空の空間を形成すればよい。
【0018】
第2の態様においては、
前記冷却機構は、前記レーザー材料の端面以外の部分に沿って前記液体金属を流す流路を有し、該流路内に前記放熱部材の外周部分を突出させた機構であるものとしてもよい。
【0019】
こうすることにより、液体金属によって放熱部材は外周部分から全体が冷却され、ホスト材料を冷却することになる。流路内には、DFC構造を形成する複数の放熱部材が突出する状態となるため、液体金属に乱流を生じさせ、熱伝達をより促進させることができる。また、かかる構造によれば、流路内に突出させた分、放熱部材と液体金属との接触面積を増大させることもでき、より冷却効率を向上させることができる。
【0020】
第2の態様においては、
前記流路に前記液体金属を供給するための供給口は前記レーザー材料の一方の端面側に前記軸方向に開口して形成され、
前記液体金属を前記流路から排出するための排出口は前記レーザー材料の他方の端面側に前記軸方向に開口して形成され、
前記供給口と排出口は、該レーザー材料の光軸周りに回転させた位置関係にあるものとしてもよい。
【0021】
こうすることにより、液体金属をレーザー材料の側面に沿って軸方向に流すとともに、側面に沿って周方向の流れを生じさせることも可能となる。従って、レーザー材料周囲の液体金属の流れを均一化することができ、均一に冷却することが可能となる。
供給口と排出口は、360度の周内に均一に配置することがより好ましい。例えば、供給口と排出口とをそれぞれ1つずつ設ける場合には、相互に180度ずらした位置に設ければよい。2つずつ設ける場合には、90度ずつずらした位置に設ければよい。
【0022】
第1の態様および第2の態様のいずれにおいても、本発明のレーザー装置においては、
前記冷却機構は、前記液体金属を循環させる循環流路を有しており、
該循環流路の内面は、該循環流路を形成する素材よりも前記液体金属の濡れ性を低減させるためのコーティングが施されているものとしてもよい。
【0023】
こうすることにより、レーザー材料を冷却した後の液体金属を循環させ、無駄なく利用することができる。循環流路には、液体金属を冷却する熱交換器を設けることがより好ましい。
しかも、上記態様では、循環流路に、濡れ性を低減させるためのコーティングが施されている。液体金属は、一般に濡れ性が非常に高いため、循環する過程で圧力損失が生じやすいが、かかるコーティングを施すことにより圧力損失を抑制できる利点がある。コーティングには、例えば、テフロン(登録商標)、グラファイトなどを用いることができる。
また、循環流路を金属で形成する場合、液体金属によって、流路が金属脆性を誘発することがあるが、コーティングを施すことにより金属脆性を抑制することができる効果もある。
【0024】
上述した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。
また、本発明は、レーザー装置としての態様の他、レーザー装置の冷却機構、若しくはレーザー装置の冷却方法など、種々の態様で構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例としてのレーザー装置の構成を模式的に示す説明図である。
図2】レーザー材料および冷却機構の構造を示す説明図である。
図3】変形例としてのレーザー材料および冷却機構の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、実施例としてのレーザー装置の構成を模式的に示す説明図である。このレーザー装置において、レーザー材料・冷却機構20には、励起されてレーザー光を発振するレーザー材料が組み込まれている。このレーザー材料と、高反射ミラーとしてのダイクロイックミラー3、および出力ミラー5が共振器を構成する。
レーザー装置は、レーザー材料を励起するための励起用レーザーとして、半導体レーザー6を有する。半導体レーザー6から射出されたレーザー光は、光ファイバーによって導かれ、照射器7から励起用レーザー光L1として照射される。励起用レーザー光L1は、コリメートレンズ1、集光レンズ2を介して集光されながら、ダイクロイックミラー3を透過し、レーザー材料に照射される。こうすることによって、レーザー材料が励起され、レーザー光L2が発振される。本実施例では、出力されるレーザー光は連続光となるが、レーザー材料後段にQスイッチレーザーを設けることで、パルス光とすることもできる。
【0027】
レーザー材料・冷却機構20には、冷媒として液体金属が供給される。図示する通り、レーザー装置には、レーザー材料・冷却機構20を通じて液体金属を循環させるための循環機構10が設けられている。循環機構10は、液体金属を循環させる循環流路11、ポンプ12、熱交換器13で構成されている。熱交換器13は、外管13aの内部に、液体金属が流れる内管13bを設けた二重管となっている。本実施例では、外管13aには、液体金属を冷却するための冷却水を流している。熱交換器13は、レーザー材料を冷却した後の液体金属を冷却するための装置であるから、ここで例示した二重管以外の構造を適用することもできる。
【0028】
循環流路11は、内部にテフロン(登録商標)でコーティングが施されている。こうすることにより液体金属と循環流路11の濡れ性を低減することができ、液体金属を循環させる際の圧力損失を抑制することができる。
テフロン(登録商標)によるコーティングは、必ずしも循環流路11の全体に施されている必要はなく、一部にのみ施されていても良い。また、ポンプ内などに施しても良い。
【0029】
図2は、レーザー材料および冷却機構の構造を示す説明図である。レーザー材料・冷却機構20は、冷却機構21にレーザー材料24をはめ込んだ構造となっている。
冷却機構21は、内部が中空の直方体であり、液体金属を貯留することができる。上面には、液体金属を供給するための供給口22が設けられ、下面には、液体金属を排出するための排出口23が設けられている。供給口22および排出口23は、図1に示した循環流路11に接続されている。
【0030】
レーザー材料24は、スラブ形状とすることができる。本実施例では、YAGを用いた。その側面24aには、レーザー光をレーザー材料内で反射するためのコーティングが施されている。このコーティングにより、端面24bから入射したレーザー光L1(励起用レーザー光の場合もある)は、破線L3で示すように内部でジグザグに反射し、他方の端面24cからレーザー光L2として射出される。このようにレーザー光がレーザー材料24の内部をジグザグに通過することにより、レーザー材料24に温度分布の偏りが生じたとしても、温度の低いところだけレーザーが通過する光路や温度が高いところだけレーザーが通過する光路がなくなり、温度の高いところ及び低いところをまんべんなく通過することにより、その影響を平均化し緩和することが可能となる。
冷却機構21内の液体金属もレーザー光を反射させる効果を奏することができるから、上述のコーティングを施すことなくレーザー材料24を液体金属に浸すようにしてもよい。こうすることにより、レーザー材料24を直接液体金属に接触させることができるから、より冷却効果を向上させることができる。
【0031】
冷却機構21には、側面に孔が形成され、上述のレーザー材料24がはめ込まれている。レーザー材料24の周囲には、液体金属の漏出を防ぐシール25が施されている。かかる構造により、レーザー材料は、側面24aのほとんどが、冷却機構21内に貯留した液体金属に、コーティングを介して接触することになり、液体金属によって冷却されることになる。
図2の例では、レーザー材料24の両端が冷却機構21の側面から突出している状態を示したが、レーザー材料24の全体を冷却するという観点から、突出長さは短い方が好ましく、端面24b、24cが側面に面一とすることがより好ましい。
【0032】
実施例において、供給口22は、入射側の端面24bの近傍に設けられ、排出口23は、射出側の端面24cの近傍に設けられている。また、平面視において、供給口22と排出口23は対角に位置させてある。こうすることにより、冷却機構21内の液体金属に、冷却機構21の対角方向の流れを生じさせることができ、液体金属に淀みが生じることを抑制できる。この結果、レーザー材料を均一に冷却することが可能となる。
供給口22、排出口23は、図2に示した他、種々の位置に設けることができる。もっとも、供給口22、排出口23のいずれもレーザー材料24の端面24b、24cの付近に液体金属の淀みが生じない程度の位置に設けることが好ましい。
【0033】
図3は、変形例としてのレーザー材料および冷却機構の構造を示す説明図である。レーザー材料・冷却機構40では、レーザー材料として、DFC構造を採用した。図3(a)には、レーザー光の光軸を含む側断面を示し、図3(b)にはレーザー光L1の入射側から見た正面図を示した。
【0034】
変形例では、レーザー材料は、YAGによる円盤状のホスト材料46と、円盤状の放熱部材45とを複数枚積層した構造となっている。放熱部材45の直径は、ホスト材料46の直径よりも大きい。放熱部材としては、サファイア、ダイヤモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、他元素を添加していないYAG、SiC(シリコンカーバイド)などを用いることができる。
ホスト材料46の側面には、断熱材としてのテフロン(登録商標)のコーティング47が施されている。
【0035】
上述のDFC構造からなるレーザー材料は、円形断面の冷却機構41内に取り付けられている。冷却機構41には、外周側に、液体金属の流路44が形成されている。変形例では、レーザー材料も流路の一部を構成しており、放熱部材45は、その外周部分で流路内の液体金属と直接に接触しており、液体金属によって冷却される。放熱部材45が冷却されることにより、ホスト材料46を平面全体で冷却することが可能となり、ホスト材料46に温度分布の偏りが生じることを抑制できる。
放熱部材45が液体金属に接触するのに対し、ホスト材料46は、テフロン(登録商標)のコーティング47が流路の一部を形成しており、液体金属に直接接触してはいない。テフロン(登録商標)は断熱効果を有するため、かかる構造は、ホスト材料46が側面から冷却されることを抑制する効果を生じ、ホスト材料46に温度分布の偏りが生じることを抑制している。テフロン(登録商標)に代えて断熱性を有する他の素材を用いてもよいし、ホスト材料46と流路44との間に空隙を形成し、この部分を真空にしてもよい。
【0036】
図3(a)の右下に、レーザー材料の一部を拡大して示した。変形例では、放熱部材45の外周部分が流路44内に突出するため、放熱部材45は、側面だけでなく、外周部分の領域s1,s2などでも液体金属に接触することができ。このように変形例の構造では、放熱部材45と液体金属との接触面積を増大させることができるため、より冷却効率を向上させることができる。
また、積層したDFC構造において放熱部材45の外周部分を流路44に突出させることによって、流路44には、放熱部材45による凹凸が形成されることとなり、液体金属に乱流f1を生じさせることができる。かかる効果によっても、冷却効率を向上させることができる。
【0037】
流路44には液体金属の供給口42、排出口43が設けられている。図3(b)に示すように、変形例では供給口42,排出口43は、それぞれ上下、左右に2個ずつ形成されており、供給口42の位置と排出口43の位置はレーザー光の光軸回りに90度ずらしてある。こうすることにより、正面から見て、供給口42、排出口43を偏りなく配置することができる。この結果、冷却機構41内に供給される液体金属は、軸方向(図3(a)の左右方向)に流れるだけでなく、図3(b)に示すように周方向にも流れを生じることになる。従って、レーザー材料の外周を、均等に冷却することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施例について説明した。実施例および各変形例で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして実施例を構成することも可能である。この他にも、種々の変形例を構築することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、レーザー装置の冷却効率の向上に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 コリメートレンズ
2 集光レンズ
3 ダイクロイックミラー
5 出力ミラー
6 半導体レーザー
7 照射器
10 循環機構
11 循環流路
12 ポンプ
13 熱交換器
13a 外管
13b 内管
20 レーザー材料・冷却機構

図1
図2
図3