(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】振動センサを利用した位置追跡システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20221201BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20221201BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20221201BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20221201BHJP
G01S 5/30 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01C15/00 101
G08B25/04 K
G08B21/02
G01B21/00 D
G01S5/30
(21)【出願番号】P 2018201737
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】397038037
【氏名又は名称】学校法人成蹊学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】小口 喜美夫
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-077163(JP,A)
【文献】特開2003-279648(JP,A)
【文献】特開2009-143453(JP,A)
【文献】特開2013-215220(JP,A)
【文献】特開2004-227053(JP,A)
【文献】柏本 幸俊,床に貼り付けた振動センサによる屋内位置推定手法の検討,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.114 No.480 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2015年02月23日,第114巻, 第480号,171~174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G08B 25/04
G08B 21/02
G01B 21/00
G01S 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床上の対象者の位置を追跡するためのシステムであって、
床に配設される
複数の振動センサ
各々が出力する振動値のピーク値を検出する手段と、
前記振動センサが出力する振動値のピーク値に基づいて、該振動センサから振動発生源までの離間距離を導出する距離導出手段と、
それぞれ、前記振動センサの設置位置を中心とし、該振動センサについて導出された前記離間距離を半径とする
複数の第1の円と、直近に記録された対象者の位置を中心とし、所定の
第1の閾値距離を半径とする第2の円とを定義する円定義手段と、
前記複数の第1の円の重なる領域から対象者の位置が特定されない場合に、前記第2の円と重なる
、前記
複数の第1の円の中で最小の半径を有する
と判定される円がある場合に、前記最小の半径を有する該円と該第2の円
とが重なる領域の
第1の代表位置を対象者の位置として算出する位置記録手段
と
を含む
、位置追跡システム。
【請求項2】
前記
第1の閾値距離は、対象者の歩幅の限界値である、
請求項1に記載の位置追跡システム。
【請求項3】
前記
第1の代表位置は、前記重なる領域の重心である、
請求項1または2に記載の位置追跡システム。
【請求項4】
前記複数の振動センサは、3以上の振動センサ
を含み、
前記円定義手段は、前記複数の第1の円として、上位3位までのピーク値を出力した3個の前記振動センサの各々について、
該振動センサの設置位置を中心とし、該振動センサについて導出された前記離間距離を半径とする
3つの前記第1の円を定義
し、
前記位置記録手段は、上位3位までのピーク値に基づいて定義された3つの前記
第1の円が重なる場合に、該
第1の円が重なる領域の
第2の代表位置を対象者の位置として記録
する、請求項1~3のいずれか1項に記載の位置追跡システム。
【請求項5】
前記位置記録手段は、
定義された3つの前記
第1の円が重ならない場合であって、上位2位までのピーク値に基づいて定義された2つの前記
第1の円が重なる場合に、該
第1の円が重なる領域の
第2の代表位置を対象者の位置として記録する、
請求項4に記載の位置追跡システム。
【請求項6】
前記位置記録手段は、
前記3つの前記第1の円が重なる場合または前記2つの前記第1の円が重なる場合において、前記第
2の代表位置と直近に記録された対象者の位置との離間距離が所定の
第2の閾値距離を超えない場合に、該
第2の代表位置を対象者の位置として記録する、
請求項
5に記載の位置追跡システム。
【請求項7】
前記第
2の閾値距離は、対象者の歩幅の限界値である、
請求項6に記載の位置追跡システム。
【請求項8】
前記
第2の代表位置は、前記重なる領域の重心である、
請求項4~7のいずれか一項に記載の位置追跡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の位置を追跡するシステムに関し、より詳細には、振動センサを利用した位置追跡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
屋内において、人の位置を追跡しようとする場合、屋内に監視カメラを設置することが考えられるが、このような方法は、プライバシーの観点から好ましくない。
【0003】
一方、対象者が携帯する何らかの無線デバイス(スマートフォンやRFタグなど)との通信を介して対象者の位置を追跡する方法が広く知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このような方法は、対象者が無線デバイスを携帯していることを前提とするものであり、対象者の協力がなければ機能しない。
【0004】
特に、老人養護施設などでは、認知症患者の夜間徘徊による事故を未然に防止するために、入居者の夜間の動きを監視したいという要望があるが、認知症患者に無線デバイスを常時携帯させることは簡単なことではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、対象者に無線デバイスの携帯を強いることなく、対象者の位置を追跡することができる位置追跡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、対象者に無線デバイスの携帯を強いることなく、対象者の位置を追跡することができる位置追跡システムにつき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、床上の対象者の位置を追跡するためのシステムであって、床に配設される1以上の振動センサが出力する振動値のピーク値を検出する手段と、前記振動センサが出力する振動値のピーク値に基づいて該振動センサから振動発生源までの離間距離を導出する距離導出手段と、前記振動センサの設置位置を中心とし、該振動センサについて導出された前記離間距離を半径とする第1の円と、直近に記録された対象者の位置を中心とし、所定の閾値距離を半径とする第2の円とを定義する円定義手段と、前記第2の円と重なる前記第1の円の中で最小の半径を有する円と該第2の円が重なる領域の代表位置を対象者の位置として算出する位置記録手段と、を含む位置追跡システムが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、床上の対象者の位置を追跡するためのシステムであって、床に配設される3以上の振動センサが出力する振動値のピーク値を検出する手段と、前記振動センサが出力する振動値のピーク値に基づいて該振動センサから振動発生源までの離間距離を導出する距離導出手段と、上位3位までのピーク値を出力した3個の前記振動センサの各々について、前記振動センサの設置位置を中心とし、該振動センサについて導出された前記離間距離を半径とする円を定義する円定義手段と、上位3位までのピーク値に基づいて定義された3つの前記円が重なる場合に、該円が重なる領域の代表位置を対象者の位置として記録する位置記録手段と、を含む位置追跡システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、対象者に無線デバイスの携帯を強いることなく、対象者の位置を追跡することができる位置追跡システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本実施形態のコンピュータの機能ブロック図。
【
図3】本実施形態のコンピュータが記憶する情報を示す図。
【
図4】本実施形態のコンピュータが実行する処理のフローチャート。
【
図5】本実施形態の位置記録部が実行する処理を説明するための概念図。
【
図6】本実施形態の位置記録部が実行する処理を説明するための概念図。
【
図7】本実施形態の位置記録部が実行する処理を説明するための概念図。
【
図9】振動加速度とセンサからの離間距離の関係を示す片対数グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0013】
図1は、本発明の実施形態である位置追跡システム100を老人養護施設に適用した例を示す。本実施形態の位置追跡システム100は、N個(Nは3以上の整数)の振動センサ20とコンピュータ10とを含んで構成されている。N個の振動センサ20は、適切な距離を隔てて、老人養護施設の床面に分散配置されており、各振動センサ20とコンピュータ10は、ネットワーク50を介して通信可能に接続されている。なお、ネットワーク50は、有線または無線またはその両方を含むものであってよい。
【0014】
振動センサ20は、振動を電気信号に変換して出力するセンサである。振動センサ20は、対象者の歩行によって発生する床面の振動を検出可能な態様で、床上、床下、その他の適切な位置に設置される。本実施形態では、振動センサ20として3軸加速度センサを用いることができ、その場合、振動センサ20は、センサの3軸方向(XYZ)と、床面をXY平面とする3次元直交座標系の3軸方向(XYZ)が一致するように設置される。
【0015】
コンピュータ10は、床面に設置された振動センサ20の各々からのネットワーク50を介してセンサ出力(加速度データ)を受信し、それに基づいて演算を実行するコンピュータである。なお、コンピュータ10は、パーソナルコンピュータであってもよいし、本システムの用途に特化した専用の組み込みコンピュータであってもよい。
【0016】
以上、本実施形態の位置追跡システム100のシステム構成を説明してきたが、続いて、
図2に示す機能ブロック図に基づいて、コンピュータ10の機能構成を説明する。
【0017】
本実施形態のコンピュータ10は、振動値データ生成部12と、ピーク検出部13と、距離導出部14と、円定義部15と、位置記録部16と、出力部17と、記憶手段18とを含んで構成される。なお、本実施形態では、コンピュータ10が、所定のプログラムを実行することにより、上述した各手段として機能する。
【0018】
振動値データ生成部12は、振動センサ20から受信した加速度データを下記式(1)に基づいて振動加速度(以下、振動値という)に変換し、その時系列データ(以下、振動値データという)を生成する手段である。なお、下記式(1)において、ax、ay、azおよびgは、それぞれ、x軸の加速度、y軸の加速度、z軸の加速度および重力加速度を表す。振動値データ生成部12は、センサ毎に振動値データを生成して記憶手段18に保持する。
【0019】
【0020】
なお、演算負荷低減の観点から、az-g(z軸の加速度から重力加速度を減じた値)を振動値として生成するようにしてもよい。
【0021】
ピーク検出部13は、対象者の歩行に伴って周期的に発生する振動値のピーク値を検出するための手段である。ピーク検出部13は、所定の時間間隔毎に記憶手段18からN個の振動値データを一斉に読み出し、当該時間間隔における振動値のピーク値(極大値)を検出するともに、ピーク値の発生時刻を取得する。
【0022】
距離導出部14は、ピーク検出部13が検出した振動値のピーク値の大きさに基づいて、対応する振動センサ20から振動発生源(すなわち、対象者の足の着地位置)までの離間距離を導出する手段である。ここで、本実施形態では、振動センサ20が出力する振動値の大きさと当該振動センサ20から振動発生源までの離間距離を対応付けたルックアップテーブル(以下、距離テーブルという)を用いて離間距離を導出する。
【0023】
図3(a)は、距離テーブルを例示的に示す。
図3(a)に示すように、振動センサ20が出力する振動値の大きさと当該振動センサ20から振動発生源までの離間距離は負の相関関係を有している。本実施形態では、本システムを適用する床面を想定した予備実験あるいはコンピュータシミュレーションを事前に行い、その結果に基づいて距離テーブルを作成して、記憶手段18に格納しておく。なお、距離テーブルを作成する際には、隣接する振動値の階級を区別する閾値は、2つの振動値の確率分布曲線の交点を基準として設定することが好ましい。
【0024】
円定義部15は、注目する振動センサ20の設置位置を中心とし、距離導出部14が導出した当該振動センサ20に係る離間距離を半径とする円を、床面をXY平面とする2次元直交座標系(以下、床面座標系という。)上に定義する手段である。
【0025】
ここで、記憶手段18には、床面に設置されるN個の振動センサ20の識別情報と設置位置の床面座標系上の座標を対応付けたテーブル(以下、センサ管理テーブルという)が格納されており、円定義部15は、当該センサ管理テーブルを参照して、注目する振動センサ20の設置位置の座標を取得し、当該設置位置を中心とする円を定義する。
図3(b)は、センサ管理テーブルを例示的に示す。
【0026】
位置記録部16は、円定義部15が定義した円に基づいて、床面座標系における対象者の位置を算出し、算出した対象者の位置と、対応するピーク値の発生時刻(すなわち、対象者の足が着地した時刻)を対応付けた時系列データ(以下、位置履歴データという)を記憶手段18に記録する手段である。
図3(c)は、位置履歴データを例示的に示す。
【0027】
出力部17は、記憶手段18に記録された位置履歴データに基づいて任意のデータを生成し、任意の出力装置に出力する手段である。なお、本実施形態は、出力部17の出力態様を限定するものではなく、例えば、対象者の移動経路を表すマップをディスプレイに表示出力するといった運用や、対象者の退室を検知して警報音を音声出力したり、夜勤スタッフにメールを送信したりするといった運用が考えられる。
【0028】
以上、コンピュータ10の機能構成について説明してきたが、続いて、
図4に示すフローチャートに基づいてコンピュータ10が実行する処理を説明する。
【0029】
ステップ101では、ピーク検出部13が、記憶手段18からN個の振動センサ20の振動値データを一斉に読み出し、各振動センサ20の振動値データから、直近の時間間隔(例えば、10msec)における振動値のピーク値を検出するとともに、ピーク値の発生時刻を取得する。
【0030】
続くステップ102では、ピーク検出部13が、ノイズレベルを超えるピーク値が検出されたか否かを判断する。その結果、ノイズレベルを超えるピーク値が1つも検出されなかった場合は(ステップ102、No)、位置履歴データを更新することなく、そのまま処理を終了する。一方、ノイズレベルを超えるピーク値が検出された場合は(ステップ102、Yes)、処理はステップ103に進む。
【0031】
続くステップ103では、距離導出部14が、記憶手段18に格納される距離テーブルを用いて、ノイズレベルを超えるピーク値のうち、上位3位までのピーク値を出力した3個の振動センサ20について、各々のピーク値に対応する距離Lを導出する。具体的には、第1の振動センサ20が出力した上位1位のピーク値を距離テーブルと照合して、当該第1の振動センサ20から振動発生源までの距離L1を導出し、第2の振動センサ20が出力した上位2位のピーク値を距離テーブルと照合して、当該第2の振動センサ20から振動発生源までの距離L2を導出し、第3の振動センサ20が出力した上位3位のピーク値を距離テーブルと照合して、当該第3の振動センサ20から振動発生源までの距離L3を導出する。このとき、導出される3つの距離は、L1≦L2≦L3という関係にある。
【0032】
続くステップ104では、円定義部15が、第1の振動センサ20の設置位置を中心とし距離L1を半径とする円(1)と、第2の振動センサ20の設置位置を中心とし距離L2を半径とする円(2)と、第3の振動センサ20の設置位置を中心とし距離L3を半径とする円(3)を、床面座標系上に定義する。
【0033】
続くステップ105では、位置記録部16が、先のステップ104で定義した3つの円(1)、(2)、(3)が同時に重なる領域が存在するか否かを判断する。その結果、3つの円が同時に重なる領域が存在する場合には(ステップ105、Yes)、処理はステップ113に進む。
【0034】
一方、ステップ105において、3つの円(1)、(2)、(3)が同時に重なる領域が存在しないと判断した場合には(ステップ105、No)、処理はステップ106に進み、位置記録部16が、先のステップ104で定義した2つの円(1)、(2)が重なる領域が存在するか否かを判断する。その結果、2つの円(1)、(2)が重なる領域が存在する場合には(ステップ106、Yes)、処理はステップ113に進む。
【0035】
続くステップ113では、位置記録部16が、円が重なる領域の代表位置を任意の規則に従って算出する。なお、本実施形態は、代表位置の算出規則をこれに限定するものではななく、例えば、円が重なる領域の重心を代表位置として算出することができる。以下では、便宜的に、円が重なる領域の頂点の幾何中心を代表位置として算出する場合を例にとって説明を行う。
【0036】
例えば、
図5(a)に示すように、3つの円(1)、(2)、(3)が同時に重なる領域が存在する場合には、当該重なる領域の3つの頂点(C1、C2、C3)の幾何中心の座標が代表位置として算出される。また、
図5(b)に示すように、3つの円(1)、(2)、(3)が同時に重なる領域は存在せず、2つの円(1)、(2)が重なる領域が存在する場合には、当該重なる領域の2つの頂点(C1、C2)の幾何中心の座標が代表位置として算出される。
【0037】
ここで、
図5においては、直近に記録された対象者の位置を☆で示し、振動発生源の位置を★で示し、円が重なる領域をハッチングで示し、円が重なる領域の代表位置を◎で示している(以下で参照する他の図においても同様)。なお、ここでいう振動発生源の位置(★)は、対象者の足の最新の着地位置に相当し、直近に記録された対象者の位置(☆)は、最新の着地位置の直前に対象者の足が着地した位置に相当する。
【0038】
上述した手順で代表位置を算出した後、続くステップ114では、位置記録部16が、記憶手段18に格納される位置履歴データから直近に記録された対象者の位置(☆)を読み出し、直近の位置(☆)と先のステップ113で算出された代表位置(◎)との離間距離が閾値距離LThを超えるか否かを判断する。ただし、処理の開始時においては、位置履歴データに対象者の位置の記録が存在しないので、その代わりとして、予め決められた初期位置(これについては後述する)と代表位置(◎)との離間距離が閾値距離LThを超えるか否かを判断する。
【0039】
ここでいう閾値距離LThとは、算出された代表位置(◎)の妥当性を判断するために用意される指標値であり、想定される対象者の歩幅の限界値(例えば、1.5m)が設定される。閾値距離LThを1.5mと設定した場合に、☆と◎の離間距離が閾値距離LThを超えるということは、すなわち、対象者の歩幅が1.5mを超えていたことを意味するが、このようなことは現実には起こりえない。したがって、☆と◎の離間距離が閾値距離LThを超える場合には(ステップ114、Yes)、先のステップ113で算出された代表位置(◎)をエラーとして扱い、位置履歴データを更新することなく、そのまま処理を終了する。
【0040】
一方、
図5(a)、(b)に示す例のように、直近に記録された対象者の位置(☆)と代表位置(◎)との離間距離が閾値距離L
Thを超えない場合には(ステップ114、No)、処理はステップ112に進み、位置記録部16が、先のステップ113で算出した代表位置(◎)の座標と、先のステップ101で検出したピーク値の発生時刻とを対応付けた位置履歴データを記録し、処理を終了する。
【0041】
一方、先のステップ106において、2つの円(1)、(2)が重なる領域が存在しないと判断した場合には(ステップ106、No)、処理はステップ107に進み、円定義部15が、直近に記録された対象者の位置(☆)を中心とし、先述した閾値距離LThを半径とする円(Th)を床面座標系上に定義する。
【0042】
続くステップ108では、位置記録部16が、先のステップ104で定義した円(1)と先のステップ107で定義した円(Th)が重なる領域が存在するか否かを判断する。その結果、2つの円(1)、(Th)が重なる領域が存在する場合には(ステップ108、Yes)、処理はステップ111に進み、2つの円(1)、(Th)が重なる領域が存在しない場合には(ステップ108、No)、処理はステップ109に進む。
【0043】
続くステップ109では、位置記録部16が、先のステップ104で定義した円(2)と先のステップ107で定義した円(Th)が重なる領域が存在するか否かを判断する。その結果、2つの円(2)、(Th)が重なる領域が存在する場合には(ステップ109、Yes)、処理はステップ111に進み、2つの円(2)、(Th)が重なる領域が存在しない場合には(ステップ109、No)、処理はステップ110に進む。
【0044】
続くステップ110では、位置記録部16が、先のステップ104で定義した円(3)と先のステップ107で定義した円(Th)が重なる領域が存在するか否かを判断する。その結果、2つの円(3)、(Th)が重なる領域が存在する場合には(ステップ110、Yes)、処理はステップ111に進む。
【0045】
一方、続くステップ111では、位置記録部16が、円が重なる領域の代表位置を算出する。具体的には、
図6(a)に示すように、円(1)と円(Th)が重なる領域が存在する場合には(ステップ108、Yes)、当該重なる領域の2つの頂点(C1、C2)の幾何中心の座標を代表位置として算出し、
図6(b)に示すように、円(1)と円(Th)は重ならないが、円(2)と円(Th)が重なる領域が存在する場合には(ステップ109、Yes)、当該重なる領域の2つの頂点(C1、C2)の幾何中心の座標を代表位置として算出し、
図7(a)に示すように、円(3)と円(Th)が重なる領域のみが存在する場合には(ステップ110、Yes)、当該重なる領域の2つの頂点(C1、C2)の幾何中心の座標を代表位置として算出する。
【0046】
その後、処理はステップ112に進み、位置記録部16が、先のステップ111で算出した代表位置(◎)の座標(床面座標系上の座標)と、先のステップ101で検出したピーク値の発生時刻とを対応付けた位置履歴データを記録して、処理を終了する。
【0047】
一方、
図7(b)に示すように、円(Th)が3つの円(1)、(2)、(3)のいずれにも重ならない場合には(ステップ110、No)、位置履歴データを更新することなく、そのまま処理を終了する。
【0048】
なお、コンピュータ10は、上述した一連の処理を、対象者の歩行に伴って周期的に発生する振動値のピーク値の取りこぼしが起こらないように、適切な時間間隔(例えば、10msec)で繰り返し実行する。これにより、対象者の足が床面に着地する度に位置履歴データが逐次更新され、対象者の位置が実質的にリアルタイムで追跡されることになる。
【0049】
以上、説明したように、本実施形態の位置追跡システム100では、3個の振動センサ20のセンサ出力から算出される3つの距離に基づく三点測位法により対象者の位置を推定することを基本とするが、一般に、振動値に基づいて算出される距離は誤差が大きいため、そのままでは推定精度が低くなる虞がある。この点につき、本実施形態では、対象者の歩幅の限界値(閾値距離LTh)という指標を用いることによって、位置推定の精度を向上させている。
【0050】
ここで、
図8に基づいて先述した初期位置について説明する。先述したように、処理の開始時においては、対象者の直近の位置の記録が存在しないため、処理の開始時において、円(Th)の中心とすべき初期位置を予め設定しておく必要がある。この点につき、例えば、老人養護施設において、就寝時間帯における入居者の位置を追跡するケースでは、
図8(a)に示すように、居室のベッド30の脇に初期位置(☆)を設定することが考えられる。その場合、
図8(a)~(c)に示すように、居室の出入口の近傍に1個の振動センサ20を設置することで、入居者がベッド30から出入口に向かう移動を追跡することが可能になる。
【0051】
以上、本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の設計変更が可能である。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、距離導出部14が距離テーブルを使用して離散的な離間距離を導出する態様を説明したが、別の実施形態では、距離テーブルの代わりに、振動値を入力とし離間距離を出力とする関数を定義し、当該関数を使用して連続的な離間距離を導出するようにしてもよい。
【0053】
また、別の実施形態では、振動の伝播状態が場所によって異なることを考慮して、実際の現場に設置される振動センサ20のそれぞれについて、振動値を入力とし離間距離を出力とする学習済みモデルを生成し、距離導出部14が当該学習済みモデルを使用して離間距離を導出するようにしてもよい。
【0054】
また、別の実施形態では、追跡中の対象者の位置履歴データが一定時間以上更新されなかった場合に、出力部17が、不測の事態(例えば、転倒)が発生したものと判断して、その旨を報知するようにしてもよい。
【0055】
上述した以外にも、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の位置追跡システムついて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0057】
(予備実験)
体育館の木製の床の上に、3軸加速度センサ(TSND121, ATR-Promotion)を接着テープで固定した上で、3人の被験者(A、B、C)の各人にセンサを中心とする異なる半径(1m、2m、3m、4m)の円周上を歩かせ、その間の3軸加速度センサの出力に基づいて振動データを生成し、被験者の足の着地に同期して発生する振動加速度のピーク値を検出した。
図9に示す片対数グラフは、被験者が歩いた円周の半径(すなわち、センサからの離間距離)と、検出された振動加速度のピーク値の平均値(標準偏差)の関係を示す。
【0058】
(評価実験)
予備実験を行った体育館の床に予備実験で使用したのと同じ3個の3軸加速度センサを接着テープで固定した。
図10は、床面に固定した3個のセンサ(S1、S2、S3)の位置関係を示す。本実験では、3人の被験者(A、B、C)に一人ずつ、
図10に太い実線で示す経路P1および経路P2のそれぞれを15歩で歩かせることを5回繰り返し、その間の3個のセンサ(S1、S2、S3)の出力に基づいて振動データを生成した。
図11(a)~(c)は、被験者Aが経路P2を歩いたときに3個のセンサ(S1、S2、S3)の各々から取得された振動データを例示する。
【0059】
次に、3個のセンサ(S1、S2、S3)の各々から取得された振動データからノイズレベルを超える振動加速度のピーク値を検出した後、本発明の上述したアルゴリズムにより、検出した各ピーク値に対応する被験者の足の着地位置を算出した。なお、着地位置の算出にあたっては、
図9に示す結果に基づいて生成した距離テーブルを使用し、閾値距離L
Thを1.5mとした。
【0060】
最後に、算出された着地位置が実際の着地位置から2m以内にあるか否かで正誤を判定し、計算結果の正解率を評価した。なお、本実験では、第1歩目と最後の一歩の着地位置を判定対象から外し、各経路について、65個(13歩×5回)の着地位置の正誤を判定した。下記表1は、その判定結果を示す。
【0061】
【符号の説明】
【0062】
10…コンピュータ、12…振動値データ生成部、13…ピーク検出部、14…距離導出部、15…円定義部、16…位置記録部、17…出力部、18…記憶手段、20…振動センサ、30…ベッド、50…ネットワーク、100…位置追跡システム