(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】畦塗り機
(51)【国際特許分類】
A01B 35/00 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A01B35/00 B
A01B35/00 C
A01B35/00 E
(21)【出願番号】P 2019009591
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藤元 隆史
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-013104(JP,A)
【文献】特開平10-036065(JP,A)
【文献】特開2004-142614(JP,A)
【文献】特開2013-074854(JP,A)
【文献】特開2014-045731(JP,A)
【文献】特開2017-060531(JP,A)
【文献】特開2011-135808(JP,A)
【文献】特開2009-131196(JP,A)
【文献】特開2014-018122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畦の上面を形成する上面形成部及び畦の法面を形成する法面形成部を備えた畦形成部と、
前記上面形成部の前方に設けられて旧畦の上面を切り崩し、フレームに対して上下に揺動可能な天場処理部と、
前記天場処理部と前記フレームとを連結し、前記天場処理部の上方に設けられたリンク機構部と、
を有
し、
前記リンク機構部が展開された作業状態において、前記天場処理部は、
前記リンク機構部によって上下に揺動し、
自重によって畦方向に押しつけられている畦塗り機。
【請求項2】
前記リンク機構部は、
前記フレームに回動可能に接続された第1リンクアームと、
前記第1リンクアーム及び前記天場処理部の各々に回動可能に接続された第2リンクアームと、
を有する、請求項1に記載の畦塗り機。
【請求項3】
前記リンク機構部は、
前記リンク機構部が展開された状態において、前記天場処理部の下方への移動を規制する第1ストッパと、
前記リンク機構部が折り畳まれた状態において、前記天場処理部の上方への移動を規制する第2ストッパと、
前記天場処理部を前記リンク機構部が折り畳まれた状態で固定する第3ストッパと、を有する、請求項2に記載の畦塗り機。
【請求項4】
前記第1ストッパ及び前記第2ストッパは、前記第1リンクアームに設けられ、前記第2リンクアームと接触することで前記天場処理部の移動を規制する、請求項3に記載の畦塗り機。
【請求項5】
前記天場処理部は、
回転する作業爪と、
前記作業爪の上方に設けられたカバー部材と、
を有し、
前記作業爪は、前記作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲し、
前記カバー部材は、前記作業爪の回転軌跡に沿って曲がった形状を有し、
前記第2リンクアームは、第1回動軸で前記第1リンクアームに接続され、第2回動軸で前記天場処理部に接続され、
前記第2リンクアームは、前記第2リンクアームの中央部が前記第1回動軸と前記第2回動軸とを結ぶ直線よりも前記作業爪の回転中心から遠くに位置するように曲がっている、請求項2乃至4のいずれか一に記載の畦塗り機。
【請求項6】
畦の上面を形成する上面形成部及び畦の法面を形成する法面形成部を備えた畦形成部と、
前記上面形成部の前方に設けられて旧畦の上面を切り崩し、フレームに対して上下に揺動可能な天場処理部と、
前記天場処理部と前記フレームとを連結し、前記天場処理部の上方に設けられたリンク機構部と、を有し、
前記リンク機構部が展開された作業状態において、前記天場処理部は、前記リンク機構部によって上下に揺動し、
前記リンク機構部は、
前記フレームに回動可能に接続された第1リンクアームと、
前記第1リンクアーム及び前記天場処理部の各々に回動可能に接続された第2リンクアームと、
前記リンク機構部が展開された状態において、前記天場処理部の下方への移動を規制する第1ストッパと、
前記リンク機構部が折り畳まれた状態において、前記天場処理部の上方への移動を規制する第2ストッパと、
前記天場処理部を前記リンク機構部が折り畳まれた状態で固定する第3ストッパと、
前記第2リンクアームに回動可能に接続されたフック
と、を有し、
前記フックは、
前記天場処理部が、
前記作業状態から前記リンク機構部が折り畳まれた収納状態に向かって移動する間に、前記第3ストッパと摺動して、前記フックに回転動力を生じさせる摺動部と、
前記収納状態において、前記第3ストッパに係止して前記天場処理部の下方への移動を規制する第1係止部と、
を有す
る畦塗り機。
【請求項7】
前記フックは回動軸を中心として回動し、
前記フックは、前記第1係止部から突出した第2係止部を有し、
前記回動軸を中心とする円であって、
前記収納状態において前記第3ストッパと接する円のうち、最も半径が大きい円を仮想円とすると、前記第2係止部は、前記仮想円の内側に位置している、請求項6に記載の畦塗り機。
【請求項8】
前記天場処理部は、
回転する作業爪と、
前記作業爪の上方に設けられたカバー部材と、
を有し、
前記作業爪は、前記作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲し、
前記フックは、レバーを有し、
前記カバー部材は、把手部を有し、
前記レバー及び前記把手部は、上面視において、前記カバー部材と重なる位置で互いに隣接している、請求項6又は7に記載の畦塗り機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は畦塗り機に関する。特に、本発明は、古い畦の天場を切り崩して新たに畦の天場を形成する天場処理部を備えた畦塗り機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、農作業の労働時間を軽減するために農作業機のオートマチック化が進められ、様々な農作業機が開発されている。特に、トラクタ等の走行機体の後方に装着され、畦塗り、耕耘、及び代かきなどの作業の種類に応じて交換可能な農作業機(畦塗り機、耕耘機、及び代かき機)は、走行機体に対してアタッチメントのように交換するだけで様々な農作業に対応することが可能であり、農作業のコスト低減に大きく寄与している。
【0003】
上記の農作業機のうち、特に畦塗り機は、作業者による手作業では実現が難しい高精度かつ高強度の畦を形成することができる点で非常に有用である。畦塗り機は、ロータなどによって圃場の土を耕耘し、耕耘された土をドラムなどの畦形成部によって押し固めることで、畦を形成する。畦には水をせき止める斜面(法面)とその上方の天場(上面)があるため、畦塗り機には、それぞれの面に対して圃場及び古い畦(旧畦)を切り崩すためのロータ及び新たな畦を形成する畦形成部が備えられている。天場に対して設けられたロータ(天場処理部)は、旧畦のうち天場に近い上部の領域だけを切り崩せる構成を有することが好ましい。そのために、例えば特許文献1の畦塗り機では、天場に対して設けられたロータ(天場処理部)の上下位置調整がスライドロッドによって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の天場処理部はスライドロッドによって上下位置を調整されるため、天場処理部とスライドロッドとを前後方向にずらして配置する必要がある。また、天場処理部を収納するために上方に持ち上げる場合、天場処理部の上方への移動量はスライドロッドの長さに制限されてしまう。つまり、天場処理部の上方への移動量を大きくしようとすると、スライドロッドを長くする必要がある。このように、スライドロッドを用いて天場処理部の上下の移動を調整しようとすると、装置サイズが大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、コンパクトな畦塗り機を実現することを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による畦塗り機は、畦の上面を形成する上面形成部及び畦の法面を形成する法面形成部を備えた畦形成部と、前記上面形成部の前方に設けられて旧畦の上面を切り崩し、フレームに対して上下に揺動可能な天場処理部と、前記天場処理部と前記フレームとを連結し、前記天場処理部の上方に設けられたリンク機構部と、を有する。
【0008】
前記リンク機構部は、前記フレームに回動可能に接続された第1リンクアームと、前記第1リンクアーム及び前記天場処理部の各々に回動可能に接続された第2リンクアームと、を有してもよい。
【0009】
前記リンク機構部は、前記リンク機構部が展開された状態において、前記天場処理部の下方への移動を規制する第1ストッパと、前記リンク機構部が折り畳まれた状態において、前記天場処理部の上方への移動を規制する第2ストッパと、前記天場処理部を前記リンク機構部が折り畳まれた状態で固定する第3ストッパと、を有してもよい。
【0010】
前記第1ストッパ及び前記第2ストッパは、前記第1リンクアームに設けられ、前記第2リンクアームと接触することで前記天場処理部の移動を規制してもよい。
【0011】
前記天場処理部は、回転する作業爪と、前記作業爪の上方に設けられたカバー部材と、を有し、前記作業爪は、前記作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲し、前記カバー部材は、前記作業爪の回転軌跡に沿って曲がった形状を有し、前記第2リンクアームは、第1回動軸で前記第1リンクアームに接続され、第2回動軸で前記天場処理部に接続され、前記第2リンクアームは、前記第2リンクアームの中央部が前記第1回動軸と前記第2回動軸とを結ぶ直線よりも前記作業爪の回転中心から遠くに位置するように曲がっていてもよい。
【0012】
前記リンク機構部は、前記第2リンクアームに回動可能に接続されたフックを有し、前記フックは、前記天場処理部が、前記リンク機構部が展開された作業状態から前記リンク機構部が折り畳まれた収納状態に向かって移動する間に、前記第3ストッパと摺動して、前記フックに回転動力を生じさせる摺動部と、前記収納状態において、前記第3ストッパに係止して前記天場処理部の下方への移動を規制する第1係止部と、を有してもよい。
【0013】
前記フックは回動軸を中心として回動し、前記フックは、前記第1係止部から突出した第2係止部を有し、前記回動軸を中心とする円であって、前記第3ストッパと接する円のうち、最も半径が大きい円を仮想円とすると、前記第2係止部は、前記仮想円の内側に位置していてもよい。
【0014】
前記天場処理部は、回転する作業爪と、前記作業爪の上方に設けられたカバー部材と、を有し、前記作業爪は、前記作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲し、前記フックは、レバーを有し、前記カバー部材は、把手部を有し、前記レバー及び前記把手部は、上面視において、前記カバー部材と重なる位置で互いに隣接していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、コンパクトな畦塗り機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る畦塗り機の収納状態における全体構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る畦塗り機の作業状態における全体構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の作業状態を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の収納状態を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部のロック機構を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の作業状態及び収納状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る畦塗り機について説明する。但し、本発明の一実施形態に係る畦塗り機は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号の後にアルファベットを付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0018】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、特段のことわりがない場合は、「上」は圃場から垂直に遠ざかる方向を示し、「下」は圃場に向かって垂直に近づく方向を示す。また、「前」は作業機を基準として走行機体が位置する方向を示し、「後」は前とは180°反対の方向を示す。また、「左」は作業機を基準として走行機体が位置する方向に向かったときの左を示し、「右」は左とは180°反対の方向を示す。
【0019】
なお、以下の各実施形態は、技術的な矛盾を生じない限り、互いに組み合わせることができる。
【0020】
〈第1実施形態〉
[畦塗り機の構成]
本実施形態に係る畦塗り機10の概略の構成について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1及び
図2は、いずれも本発明の一実施形態に係る畦塗り機の全体構成を示す図である。なお、
図1は、収納状態における畦塗り機10を示す図であり、
図2は、作業状態における畦塗り機10を示す図である。
図1及び
図2において、(A)に示す図は、畦塗り機10を前方右側上方から見た斜視図である。同図において、(B)に示す図は、畦塗り機10を上方から見た上面図である。同図において、(C)に示す図は、畦塗り機10を側方(右側)から見た側面図である。
【0021】
[収納状態の説明]
図1に示すように、本実施形態における畦塗り機10は、装着部100、オフセット機構部200、動力伝達部300、及び作業部400を備えている。畦塗り機10は装着部100によってトラクタ等の走行機体に連結される。装着部100及び作業部400は、オフセット機構部200及び動力伝達部300を介して連結される。この構成によって、走行機体の走行に伴って畦塗り機10が牽引され、作業部400による畦塗り作業が行われる。
【0022】
装着部100は、走行機体の2つの後方タイヤの間に設けられた三点リンク機構に対して連結される。走行機体の三点リンク機構は、トップリンク、リフトロッド及びロワーリンクで構成される。
図1の(A)に示すように、畦塗り機10の装着部100は、トップマスト101及びロワーリンク連結部103を有する。トップマスト101は、オートヒッチアーム(図示せず)を介して三点リンク機構のトップリンクに接続される。ロワーリンク連結部103は、オートヒッチアーム(図示せず)を介して三点リンク機構のロワーリンクに接続される。なお、三点リンク機構は、公知の機構であるため、詳細な説明は省略する。
【0023】
装着部100は、走行機体の幅方向である左右方向に延びるヒッチフレーム110を備える。ヒッチフレーム110は、上記の三点リンク機構に連結可能に構成されている。ヒッチフレーム110の中央下部にはギアボックス(図示せず)が設けられ、このギアボックス(図示せず)に走行機体から動力を受ける入力軸107が設けられている。入力軸107には、走行機体に設けられたPTO軸からユニバーサルジョイントを介して動力が伝達される。
【0024】
オフセット機構部200は、作業部400のオフセット移動を行うための回動機構である。オフセット機構部200は、走行機体の進行方向(D1方向)に対して走行機体の側方にオフセットした位置に、作業部400を移動させることができる。本実施形態のオフセット機構部200は、オフセットフレーム210、リンクロッド220、支持フレーム230、及び動力部240を有する。オフセットフレーム210は、回動軸211において装着部100に回動可能に接続されており、回動軸211を中心に回動する。リンクロッド220は、回動軸211とは異なる位置に設けられた回動軸221において装着部100に回動可能に接続されており、回動軸221を中心に回動する。オフセットフレーム210及びリンクロッド220が、それぞれ回動軸211及び221を中心として回動することで、作業部400が走行機体の側方に移動する。なお、
図1では、オフセット機構部200は走行機体の前進方向に対して左側(時計回り)に回動した状態である。この状態では、作業部400は走行機体の後方に位置している。この状態を「収納状態」という。
【0025】
オフセットフレーム210は、中空状部材で構成される長尺のフレームであり、動力伝達部300の下方に配置される(
図1の(C)参照)。上記のように、オフセットフレーム210の一端は、回動軸211において、ヒッチフレーム110に対して回動可能に接続されている。一方、オフセットフレーム210の他端は、回動軸213において、作業部400及び支持フレーム230に対して回動可能に接続されている。オフセットフレーム210は、回動軸211を中心としてヒッチフレーム110に対して水平面上で回動する。作業部400は、回動軸213を中心としてオフセットフレーム210に対して水平面上で回動する。このような構成によって、作業部400は装着部100に対して水平面上で回動する。オフセットフレーム210は、動力伝達部300に接続されており、動力伝達部300と共に移動する。
【0026】
リンクロッド220は、筒状部材で構成される長尺の部材であり、オフセットフレーム210と同程度の長さを有する。上記のように、リンクロッド220の一端は、回動軸221において、ヒッチフレーム110に対して回動可能に接続されている。一方、リンクロッド220の他端は、回動軸223において、支持フレーム230に対して回動可能に接続されている。
【0027】
支持フレーム230は、筒状部材で構成され、オフセットフレーム210及びリンクロッド220に比べて短尺の部材であり、オフセットフレーム210とリンクロッド220とを相互に連結する部材である。上記のように、支持フレーム230に対し、オフセットフレーム210及びリンクロッド220は、共に回動可能に連結される。支持フレーム230は、作業部400に接続されており、作業部400のオフセット動作の際に作業部400と一体に動く。換言すると、作業部400に対する支持フレーム230の角度は一定に保たれている。
【0028】
回動軸211、213、221、223の4点を結ぶ形状は略平行四辺形である。以上の構成により、ヒッチフレーム110、オフセットフレーム210、リンクロッド220、及び支持フレーム230は、それぞれの回動軸を頂点とする平行四辺形の回動機構を構成する。この回動機構により、オフセット機構部200は、走行機体の進行方向に対する作業部400の角度を保持したまま、作業部400をオフセット移動させることができる。
【0029】
図1の(B)に示す動力部240は、オフセット機構部200の動力源(アクチュエータ)であり、例えば電動シリンダ、油圧シリンダ等で構成される伸縮部材である。動力部240の一端は、ヒッチフレーム110に連結され、他端は、オフセットフレーム210に連結される。動力部240の伸縮により、オフセット機構部200が駆動され、作業部400のオフセット量(オフセット方向への移動量)を制御することができる。換言すると、オフセット機構部200は、動力部240の伸縮によって、回動軸211を中心に作業部400を回動させる。作業部400のオフセット方向への移動量は、動力部240の伸縮量によって決まるため、無段階で調整可能である。
【0030】
動力伝達部300は、装着部100の入力軸107で受けた走行機体からの動力を、作業部400側に伝達するための機構である。動力伝達部300として、チェーン駆動機構が用いられている。具体的には、動力伝達部300は、少なくとも駆動スプロケット、従動スプロケット、及びローラーチェーンを備えている。ローラーチェーンが駆動スプロケット及び従動スプロケットに巻き掛けられ、駆動スプロケットの動力がローラーチェーンを介して従動スプロケットに伝達される。作業部400は、従動スプロケットから動力を受けて畦塗り作業を行う。
【0031】
[作業状態の説明]
上記のように、畦塗り機10の収納状態と作業状態との切り替えは、動力部240の伸縮によって行われる。具体的には、動力部240が伸長することで、
図1に示す収納状態から
図2に示す「作業状態」に切り換えられる。動力部240が伸長すると、オフセット機構部200の動作によって作業部400は、回動軸211を中心に回動し、走行機体の進行方向に対する側方に移動する。この移動をオフセット移動ということができる。このとき、作業部400に対する支持フレーム230の角度が一定に保たれているため、オフセット移動の間、作業部400の向きは変わらない。
【0032】
図2の作業状態の畦塗り機10を参照して、作業部400の詳細な構成を説明する。作業部400は、畦塗り作業を行う部位である。作業部400は、畦形成部500、天場処理部600、接地部700、リンク機構部800、及び前処理部900を有する。
図1に示す天場処理部600の収納状態では、接地部700は上方に折り畳まれて格納されているが、
図2に示す天場処理部600の作業状態では、接地部700は展開されて作業位置に配置されている。
【0033】
畦形成部500は、畦の上面を形成する上面形成部510及び畦の法面を形成する法面形成部520を備える。本実施形態では、上面形成部510は、中心軸が作業機体の進行方向に対して直交する方向に延びた、円筒形状の部材である。畦形成部500は、この中心軸に対して回動可能に支持されている。畦形成部500は、動力伝達部300から動力を受けることで回動する。また、法面形成部520は、上記の中心軸に対して傾斜した傾斜面を有する略円錐形状の部材である。本実施形態の法面形成部520は、円周方向に複数の板状部材が部分的に重なるように配置された多面体ドラムである。複数の板状部材の各々は、法面形成部520の円周方向に、法面形成部520の中心軸から遠ざかる形状を有している。この法面形成部520の形状によって、各板状部材は、法面形成部520の回転に伴って畦の法面に近づくため、畦の法面をより強固に固めることができる。上記の構成を換言すると、作業状態において、上面形成部510は圃場に対して平行であり、法面形成部520は圃場に対して傾斜している。なお、本実施形態では、上面形成部510が圃場に対して平行である構成を例示したが、上面形成部510は法面形成部520に比べて圃場に対する傾斜角が小さければよく、圃場に対して傾斜していてもよい。
【0034】
なお、上面形成部510及び法面形成部520の形状は、上記の構成に限定されない。例えば、上面形成部510が、多面体ドラムと同様に、複数の板状部材が部分的に重なる形状であってもよい。また、法面形成部520が、多面体ドラムでなくてもよい。つまり、法面形成部520が、法面形成部520の円周方向に、法面形成部520の中心軸から遠ざかる形状でなくてもよい。
【0035】
前処理部900は、畦形成部500の前方に設けられている。より詳しくは、前処理部900は、法面形成部520の前方に設けられている。前処理部900は、複数の作業爪が備えられた作業ロータ910(
図2の(C)参照)、及び作業ロータ910の上方を覆うカバー部材920(
図2の(A)、(B)参照)を有する。作業ロータ910は動力伝達部300から動力を受けて動作し、作業爪を回転させる。作業ロータ910の回転軸は、進行方向に対して傾斜している。具体的には、作業ロータ910の回転軸は、畦塗り機10の後方から前方に向かって畦塗り機10の外側に傾斜している。作業ロータ910に備えられた複数の作業爪のうち、ある作業爪は作業爪の回転方向とは逆方向及び後方に向かって湾曲し、別の作業爪は作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲している。
【0036】
天場処理部600は、畦形成部500の前方に設けられている。より詳しくは、天場処理部600は、上面形成部510の前方に設けられている。天場処理部600は、前処理部900と同様に複数の作業爪が備えられた作業ロータ610(
図2の(A)、(C)参照)、及び作業ロータ610の上方と前方とを覆うカバー部材620を有する。作業ロータ610は動力伝達部300から動力を受けて動作し、作業爪を回転させる。作業ロータ610の回転軸は、進行方向に対して傾斜している。具体的には、作業ロータ610の回転軸は、畦塗り機10の後方から前方に向かって畦塗り機10の外側に傾斜している。なお、本実施形態では、作業ロータ610の回転軸は作業ロータ910の回転軸と平行である。作業ロータ610に備えられた複数の作業爪は、作業爪の回転方向とは逆方向及び前方に向かって湾曲している。カバー部材620の前側と作業爪との間には、隙間が形成されている。そのため、その隙間に土が堆積したまま後方に向かって湾曲している作業爪を回転させ続けると、堆積した土によって作業爪、特に作業爪の根本部分の摩耗が進んでしまう。しかしながら、前方に向かって湾曲している作業爪であれば、カバー部材620の前側と作業爪との間に土が堆積する前に前方に向かって湾曲した作業爪の爪先が土に作用することによって土が崩れ、その結果、作業爪が摩耗しにくくなる。天場処理部600は、作業ロータ610によって新たに畦を塗り固めるために旧畦の天場を切り崩す。
【0037】
鉛直方向において、天場処理部600は前処理部900よりも上方に設けられている。換言すると、鉛直方向において、天場処理部600に備えられた作業爪の回転軌跡の下端は、前処理部900に備えられた作業爪の回転軌跡の下端よりも上方に位置している。
【0038】
リンク機構部800は、フレーム410と天場処理部600とを連結する(
図2の(A)参照)。なお、フレーム410は作業部400を構成する部材の一部であり、作業部400の骨組みとなる部材である。フレーム410は畦形成部500と共にオフセット機構部200に対して回動する。つまり、フレーム410と畦形成部500との位置関係は固定されている。リンク機構部800は、天場処理部600の上方に設けられている。リンク機構部800が展開されることで、天場処理部600が作業状態になり、リンク機構部800が折り畳まれることで、天場処理部600が収納状態になる。
図1に示す天場処理部600の状態は収納状態であり、
図2に示す天場処理部600の状態は作業状態である。
図2の(B)に示すように、上面視において、天場処理部600とリンク機構部800とは重なっている。上述のように、
図1では、リンク機構部800が折り畳まれて接地部700が上方に収納されているが、
図2では、リンク機構部800が展開されて、作業位置において天場処理部600及び接地部700がそれぞれの自重によって畦方向に押しつけられている。この状態において、天場処理部600及び接地部700は、これら以外の機構によって付勢されていない。この構成によって、天場処理部600は、リンク機構部800によって上下に揺動可能である。
【0039】
接地部700は、天場処理部600の前方に設けられている。接地部700は、天場処理部600に取り付けられている。つまり、接地部700は、天場処理部600と共に上下に揺動可能である。接地部700は、旧畦に接し、旧畦上をスライド移動する。接地部700が旧畦に接することで、天場処理部600の圃場からの高さが決定される。つまり、接地部700は、旧畦の高さが変化した場合であっても、天場処理部600の耕深が一定になるように、天場処理部600の高さを調整する。なお、接地部700の詳細な構造は後述する。
【0040】
[リンク機構部800の構成]
図3~
図5を用いて、リンク機構部800の詳細な構成を説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の作業状態を示す図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の収納状態を示す図である。
図3及び
図4の各々の(A)、(B)、(C)は、
図2の天場処理部600及びリンク機構部800を、それぞれ前方右側上方、上方、前方から見た図である。
【0041】
図3は、天場処理部600を作業状態にするために、リンク機構部800を展開した状態を示す図である。天場処理部600は点P1を中心に回動する(
図3の(C)参照)。
図3に示すように、リンク機構部800は、取付座810、第1リンクアーム820、第2リンクアーム830、第1ストッパ840、第2ストッパ850、第3ストッパ860、及びフック870を有する。取付座810は、フレーム410(
図2の(A)及び
図3の(B)参照)に取り付けられている。第1リンクアーム820は、回動軸811を中心として、取付座810及びフレーム410に対して回動可能に接続されている。第2リンクアーム830は、回動軸821を中心として、第1リンクアーム820に対して回動可能に接続されている。第2リンクアーム830は、回動軸831を中心として、取付座750に固定された接続アーム770に対して回動可能に接続されている。換言すると、第2リンクアーム830は、第1リンクアーム820及び天場処理部600の各々に回動可能に接続されている。第1ストッパ840及び第2ストッパ850は第1リンクアーム820に設けられている。フック870は、回動軸831を中心として、第2リンクアーム830に対して回動可能に接続されている。
図3の(B)に示すように、フック870は、上面視においてカバー部材620と重なった位置に設けられている。なお、本実施形態では、リンク機構部800が第1リンクアーム820及び第2リンクアーム830の2つのアーム部材で構成された例を示したが、リンク機構部800は、3つ以上のアーム部材で構成されていてもよい。
【0042】
フック870は、頭頂部871、レバー873、係止部875、摺動部877、及び突出部879を有する(
図3及び
図5参照)。頭頂部871は、回動軸831が接続される領域から取付座810側に向かって突出している。頭頂部871のうち天場処理部600に近い側には、摺動部877が設けられている。摺動部877は、天場処理部600が作業状態から収納状態に向かって移動する間に、つまり、リンク機構部800が展開された状態から折り畳まれる途中に、第3ストッパ860と摺動する。摺動部877と第3ストッパ860との摺動によって、フック870に回転動力が生じる。係止部875は、摺動部877よりもさらに天場処理部600側に設けられている。詳細は後述するが、係止部875は、天場処理部600の収納状態において第3ストッパ860に係止する。係止部875の係止によって、天場処理部600の下方への移動が規制される。係止部875が第3ストッパ860に係止した状態をロック状態という。
【0043】
図3の(C)に示すように、レバー873及び突出部879は、フック870の回動中心に対して、頭頂部871、係止部875、及び摺動部877とは反対側に設けられている。レバー873は、接続アーム770の上方において、頭頂部871とは反対方向に延びている。突出部879は、接続アーム770の下方において、頭頂部871とは反対方向に延びている。つまり、レバー873及び突出部879によって二股形状が構成されている。この二股形状の間に接続アーム770が設けられている。突出部879が接続アーム770に対して接続アーム770の下方から接触することで、頭頂部871がカバー部材620に近づく向きにおけるフック870の回動が規制される。
図3の(B)に示すように、レバー873は、上面視においてカバー部材620と重なった位置に設けられている。
【0044】
図3の(A)に示すように、接続アーム770は取付座771を有する。取付座771は、接続アーム770の上端部に設けられている。取付座771は2枚の板状部材であり、接続アーム770の他の部材と一体として動くように固定されている。第2リンクアーム830は、取付座771の間に挟まれるようにして、回動軸831において取付座771に接続されている。取付座771とフック870との間に、ねじりコイルバネ880が設けられている。ねじりコイルバネ880の一端は取付座771に係止しており、ねじりコイルバネ880の他端はフック870に係止している。ねじりコイルバネ880は、係止部875(
図3の(C)参照)が天場処理部600に近づく方向(
図3の(C)において、フック870が時計回りに回動する方向)にフック870を回動させる回転動力を生じさせる。なお、天場処理部600の作業状態において、フック870は、ねじりコイルバネ880によって係止部875が天場処理部600に近づく方向に付勢されるが、
図3の(C)に示すように突出部879が、接続アーム770に対して、接続アーム770の下方から係止することで、フック870の時計回りに回動する方向への回動が規制される。
【0045】
天場処理部600の作業状態、つまりリンク機構部800が展開された状態において、第1ストッパ840が第2リンクアーム830の端部833に接触することで、天場処理部600の下方への移動が規制される。換言すると、第2リンクアーム830の一部が第1ストッパ840に接触することで、リンク機構部800の展開動作が規制される。
【0046】
図4は、天場処理部600を収納状態にするために、リンク機構部800を折り畳んだ状態を示す図である。
図4に示す状態は、天場処理部600が上方に持ち上げられ、リンク機構部800が折り畳まれた状態で、天場処理部600の下方への回動が規制されたロック状態である。天場処理部600の収納状態において、フック870が第3ストッパ860に係止することで、天場処理部600の下方への回動が規制されている。
【0047】
上記のロック状態において、ねじりコイルバネ880は、係止部875が天場処理部600に近づく方向にフック870を付勢している。換言すると、ねじりコイルバネ880によって、フック870は、第3ストッパ860に対して第3ストッパ860の上方から押しつけられている。上記の構成によって、
図4に示す状態から単に天場処理部600が上方に持ち上げられただけでは、ロック解除状態にはならない。なお、ロック解除状態とは、係止部875が第3ストッパ860に係止していない状態をいう。
図4に示す状態から天場処理部600を上方に持ち上げ、その状態でねじりコイルバネ880によって発生しているフック870の付勢力よりも強い力でレバー873を下方に押し下げることで、ロック状態からロック解除状態に変わる。なお、ねじりコイルバネ880以外の手段を用いてフック870を第3ストッパ860に押しつけてもよい。
【0048】
図4に示す天場処理部600の収納状態では、第2リンクアーム830は第2ストッパ850に接触していないが、
図4に示す状態からさらに天場処理部600が上方に持ち上げられ、リンク機構部800がさらに折り畳まれると、第2ストッパ850が第2リンクアーム830に接触する。第2ストッパ850と第2リンクアーム830との接触によって、天場処理部600の上方への移動が規制される。つまり、第2ストッパ850は、天場処理部600の上方への回動範囲の上限を決定する。
【0049】
図3及び
図4の各々の(C)に示すように、カバー部材620は、作業ロータ610の上方に、作業ロータ610に取り付けられた作業爪の回転軌跡611に沿って曲がった形状を有している(天井部621)。天井部621には把手部622が設けられている。把手部622は、作業者が把手部622を握って天場処理部600を上方に持ち上げることが可能な形状を有する。把手部622は、側面視においてレバー873の下方に位置しており、上面視においてレバー873に隣接する位置に設けられている(
図3及び
図4の各々の(B)参照)。なお、把手部622は、側面視においてレバー873の下方であって、上面視においてレバー873と重なる位置に設けられていてもよい。
【0050】
第2リンクアーム830は、天井部621の湾曲形状に合わせて曲がった形状を有している。換言すると、第2リンクアーム830は、回動軸821から上方に向かって延び、天井部621が湾曲する方向と同じ方向に湾曲している。さらに換言すると、第2リンクアーム830は、第2リンクアーム830の中央部が回動軸821(第1回動軸)と回動軸831(第2回動軸)とを結ぶ直線よりも回転軌跡611の中心(又は作業爪の回転中心)から遠くに位置するように曲がっている。なお、本実施形態では、第2リンクアーム830は天井部621に沿って曲がっている。この構成によって、リンク機構部800の可動範囲において、第2リンクアーム830がカバー部材620に接触することを抑制することができる。また、第2リンクアーム830がカバー部材620に接触しなければ、第2リンクアーム830は、天井部621に沿って曲がっていなくてもよい。例えば、第2リンクアーム830は、曲線形状ではなく、直線的に折り曲がっている屈曲形状であってもよい。
【0051】
図5は、本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部のロック機構の動作を説明する図である。なお、
図5におけるD2方向は、フック870が天場処理部600と共に回動する方向である。つまり、D2方向は、
図3及び
図4の各々の(C)に示す点P1を中心とする円弧方向である。天場処理部600が、外力を受けて
図3に示す作業状態から
図4に示す収納状態に変化すると、まず
図5の(A)に示すように、フック870の摺動部877が第3ストッパ860と接触する。(A)の状態から、フック870がさらにD2方向に移動すると、第3ストッパ860が摺動部877を摺動する。この摺動によって、フック870が回動軸831を中心にD3方向に回動する。なお、第3ストッパ860が摺動部877を摺動している間、フック870は、ねじりコイルバネ880(
図3及び
図4参照)によってD3方向の反対方向へ付勢されている。したがって、摺動部877は、第3ストッパ860に押しつけられている。
【0052】
フック870が、
図5の(A)の状態からさらにD2方向に移動し、第3ストッパ860が係止部875を越える位置まで移動すると、ねじりコイルバネ880の付勢力によってフック870がD3方向の反対方向に回動し、フック870は
図5の(B)のロック状態になる。(B)のロック状態でD2方向への外力を解除すると、天場処理部600はその自重によってD2方向の反対方向へ移動しようとするが、係止部875が第3ストッパ860に係止しているため、天場処理部600のD2方向の反対方向への移動が規制される。上記の状態において、係止部875のうち第3ストッパ860に係止する部分を第1係止部875-1という場合がある。
【0053】
なお、
図5の(B)に示す状態において、外力によってフック870をD3方向に回動させようとしても、係止部875の先端部が第3ストッパ860に係止しているため、フック870はD3方向に回動しない。つまり、レバー873にロック状態を解除する意図がない外力が加わったとしても、ロック状態は解除されない。この状態を多重ロック状態という。
【0054】
上記の多重ロック状態について、詳細に説明する。
図5の(C)は、(B)の四角点線で囲んだ領域の部分拡大図である。(C)に示すように、係止部875のうち、第3ストッパ860に係止してフック870のD3方向の回動を規制している部分を第2係止部875-2という場合がある。第2係止部875-2は、第1係止部875-1から係止部875の先端側に突出している、ということができる。ここで、第3ストッパ860と係止部875との接点よりも係止部875の先端側を第2係止部875-2ということができる。
【0055】
図3及び
図4の各々の(C)に示すように、フック870は、天場処理部600と共に点P1を中心に回動する。このフック870の回動に伴って、フック870の回動軸831は、
図5の(A)、(B)、(D)に示す円弧891に沿って回動する。つまり、円弧891は、点P1を中心とする円弧である。
図5の(B)、(C)に示す円弧893は、回動軸831を中心とする円弧である。円弧893は、回動軸831を中心とし、第3ストッパ860と内接する円の円弧である。換言すると、円弧893は、回動軸831を中心とする仮想円のうち、第3ストッパ860と接する仮想円のうち最も半径が大きい仮想円の円弧である。
【0056】
上記のような円弧893を仮定した場合に、第2係止部875-2は円弧893の内側に位置している。第2係止部875-2が円弧893の内側に存在していることで、フック870がD3方向に回動しようとしたときに、第2係止部875-2が第3ストッパ860に干渉するため、フック870のD3方向への回動が抑制される。なお、この状態において、フック870は、天場処理部600等の自重によって、D2方向の反対方向に付勢されている。したがって、円弧893の内側の領域に、第3ストッパ860と干渉する第2係止部875-2が少しでも存在しているだけで、フック870のD3方向への回動を抑制することができる。
図5の例では、上記の回動をより効率的に抑制するために、第2係止部875-2が凹部を有しており、第3ストッパ860が当該凹部の内部に配置されている。つまり、
図5の状態において、第3ストッパ860の最下部(最も点P1に近い部分)よりも左側(D2方向とは反対側)において、第2係止部875-2は、第3ストッパ860の最下部よりも上方に突出している。換言すると、第2係止部875-2の一部は、点P1を中心とした第3ストッパ860を通る仮想円のうち、最も半径が小さい仮想円の外側に存在している。
【0057】
図5の(B)の多重ロック状態を解除するためには、天場処理部600と共にフック870をD2方向に移動し、
図5の(D)に示すように係止部875と第3ストッパ860とがD2方向に離隔した状態で、フック870をD3方向に回動させる。このとき、フック870をD3方向へ回動させる外力の大きさは、ねじりコイルバネ880によって発生しているD3方向の反対方向への回転動力よりも大きい。
【0058】
上記のように、多重ロック状態を解除するためには、フック870をD2方向に移動したうえで、フック870をD3方向に回動させる必要がある。つまり、多重ロック状態を解除するためには、多段階の操作が必要である。よって、ロック状態を解除する意図がないなどの不用意な外力が加わったとしても、ロック状態が解除されることを防止し、ロック状態を維持することができる。なお、本実施形態では、2段階の操作で多重ロック状態を解除している。
【0059】
[接地部700の構成]
図3に示すように、接地部700は、スライド部710、ロッド接続部720、リブ730、連結ロッド740、取付座750、取付ピン760、及び締結具790を有する。ロッド接続部720はスライド部710に固定されている。スライド部710及びロッド接続部720は、締結具790によって、連結ロッド740に回動可能に接続されている。連結ロッド740は、取付ピン760によって、取付座750に上下位置を調整可能に接続されている。
【0060】
スライド部710は、旧畦の上面に接し、旧畦の上面をスライド移動する。スライド部710は、進行方向(D1方向)に長手を有している。スライド部710の下面には、接地面711及び先端部713が設けられている。接地面711は、旧畦の上面に接する面であり、進行方向に長手を有している。先端部713は、接地面711から前方に向かって延び、上方に反った形状を有している。
【0061】
ロッド接続部720は、スライド部710の上端から上方に向かって突出している。ロッド接続部720は、スライド部710の接地面711の反対側の面から上方に突出している。ロッド接続部720は、スライド部710の長手方向の2箇所に設けられており、各々のロッド接続部720には開口が設けられている。連結ロッド740にも、ロッド接続部720に設けられた開口に対応する位置に開口が設けられている。これらの開口が位置合わせされた状態で、これらの開口を締結具790が貫通することで、連結ロッド740がロッド接続部720に接続される。このような接続構成によって、スライド部710及びロッド接続部720は、連結ロッド740に対して回動可能に接続される。詳細は後述するが、接地部700は、接地面711が旧畦の上面に追従するように接地面711の傾きが変わる構成を有する。つまり、スライド部710は、連結ロッド740に対して可動自在に接続されている。ロッド接続部720に設けられた開口を結ぶ線は進行方向(D1方向)に概略一致する。つまり、締結具790の長手は進行方向に概略一致する。したがって、スライド部710及びロッド接続部720は、進行方向を軸として回動する。
【0062】
リブ730は、スライド部710の上面側に設けられている。リブ730は、スライド部710の接地面711に対応する領域から先端部713に対応する領域まで連続して設けられている。また、リブ730は、相対的に先端部713に近い側(つまり、前方)のロッド接続部720に接続されている。リブ730は、ロッド接続部720の上端を越えて上方に延びている。リブ730には、長手形状の開口731が設けられている。開口731は、作業者が接地部700を持ちやすくするための把手として機能する。
【0063】
連結ロッド740は、上下方向に長手を有する。上記のように、連結ロッド740の下部には、ロッド接続部720の開口に対応した位置に、締結具790が貫通可能な開口が設けられている。連結ロッド740の中央部から上部にかけて、連結ロッド740には開口が設けられている。取付座750にも、連結ロッド740に設けられた開口に対応する位置に開口が設けられている。これらの開口が位置合わせされた状態で、これらの開口を取付ピン760が貫通することで、連結ロッド740が取付座750に接続される。なお、詳細は後述するが、連結ロッド740には、連結ロッド740の長手方向に複数の開口が設けられている。したがって、取付ピン760を貫通させる開口の位置を変えることで、連結ロッド740は、その長手方向に複数の箇所で天場処理部600に取り付け可能である。
【0064】
なお、
図3の(B)に示すように、上面視において、進行方向と直交する方向で、接地部700は、カバー部材620の端部よりも前処理部900側(内側)に位置している(
図2の(B)もあわせて参照)。換言すると、カバー部材620は、畦塗り機10が進行方向に進んだ場合に、接地部700がスライド移動した領域の旧畦の上方を通過する。上記の方向で、接地部700がカバー部材620の端部よりも前処理部900側とは反対側(外側)にはみ出してしまうと、カバー部材620内にある作業ロータ610とは関係のない位置において耕深の基準を設定することになり、接地部700が旧畦に埋まってしまう、又は必要以上に畦を切り崩してしまう、などの問題が発生してしまう。そのため、上記の方向で、接地部700は、カバー部材620の端部よりも前処理部900側に位置していることが好ましい。ただし、この構成に限定されない。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る畦塗り機10によると、天場処理部600の上下の揺動を制御するリンク機構部800が天場処理部600の上方に設けられていることで、コンパクトな畦塗り機を実現することができる。従来の畦塗り機では、天場処理部の上下の揺動を制御する機構がロッド及び圧縮バネによって構成されていたため、天場処理部の上方への可動範囲を大きくすることができなかった。一方で、本実施形態に係る畦塗り機10では、リンク機構部800を用いて天場処理部600を上方に回動させることで、天場処理部600の収納状態を実現することができる。
【0066】
また、リンク機構部800にフック870が設けられていることで、単に天場処理部600を所定の位置まで持ち上げるだけでロック解除状態からロック状態に変えることができる。一方、ロック状態からロック解除状態に変えるためには、多段階の操作(本実施形態では、天場処理部600の移動及びフック870の回動)を要する。したがって、意図せずにロック状態が解除されてしまうことを抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る畦塗り機10の作業状態において、接地部700は自重で下方に(旧畦に)付勢されている。例えば、接地部700が旧畦上をスライドしている間に、接地部700が石などに乗り上げ、上方に跳ね上げられた場合であっても、接地部700に過剰なストレスがかかることを抑制することができる。その結果、例えば、天場処理部600に備えられた作業爪を支持するシャーボルトなどの破損を抑制することができる。
【0068】
〈第2実施形態〉
本実施形態に係る畦塗り機10Aの構成について、
図6を用いて説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る畦塗り機に備えられた天場処理部の作業状態及び収納状態を示す図である。
図6に示す畦塗り機10Aは、
図3及び
図4に示す畦塗り機10に類似しているが、天場処理部600Aを収納状態に固定する機構が畦塗り機10とは相違する。なお、
図6の(A)は天場処理部600Aの作業状態を示し、
図6の(B)は天場処理部600Aの収納状態を示す。
【0069】
図6の(A)に示すように、取付座810Aに貫通孔812Aが設けられている。また、第2リンクアーム830Aに貫通孔832Aが設けられている。貫通孔812A及び貫通孔832Aは、第2リンクアーム830Aが折り畳まれたときに互いに重なる位置に設けられている。
【0070】
図6の(B)に示すように、貫通孔812Aと貫通孔832Aとが重なった状態で、これらの貫通孔にピン形状のストッパ890Aを貫通させることで、天場処理部600Aをロック状態にすることができる。なお、本実施形態では、ストッパ890Aが貫通孔812A、832Aから抜けないように、ストッパ890AにR形状のピン892Aが取り付けられている。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る畦塗り機10Aによると、第1実施形態に係る畦塗り機10と同様の効果を得ることができる。
【0072】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
10:畦塗り機、 100:装着部、 101:トップマスト、 103:ロワーリンク連結部、 107:入力軸、 110:ヒッチフレーム、 200:オフセット機構部、 210:オフセットフレーム、 211、213、221、223:回動軸、 220:リンクロッド、 230:支持フレーム、 240:動力部、 300:動力伝達部、 400:作業部、 410:フレーム、 500:畦形成部、 510:上面形成部、 520:法面形成部、 600:天場処理部、 610:作業ロータ、 611:回転軌跡、 620:カバー部材、 621:天井部、 622:把手部、 700:接地部、 710:スライド部、 711:接地面、 713:先端部、 720:ロッド接続部、 730:リブ、 731:開口、 740:連結ロッド、 750:取付座、 760:取付ピン、 770:接続アーム、 771:取付座、 790:締結具、 800:リンク機構部、 810:取付座、 811、821、831:回動軸、 812A、832A:貫通孔、 820:第1リンクアーム、 830:第2リンクアーム、 833:端部、 840:第1ストッパ、 850:第2ストッパ、 860:第3ストッパ、 870:フック、 871:頭頂部、 873:レバー、 875:係止部、 875-1:第1係止部、 875-2:第2係止部、 877:摺動部、 879:突出部、 880:ねじりコイルバネ、 890A:ストッパ、 891、893:円弧、 892A:ピン、 900:前処理部、 910:作業ロータ、 920:カバー部材