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特許7185948焼成用スラリー組成物、グリーンシート、グリーンシートの製造方法、焼結体の製造方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】焼成用スラリー組成物、グリーンシート、グリーンシートの製造方法、焼結体の製造方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/634 20060101AFI20221201BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221201BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20221201BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20221201BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C04B35/634
C08K3/013
C08L29/04 C
C08L33/06
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020526053
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010213
(87)【国際公開番号】W WO2020183637
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 豊
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-095572(JP,A)
【文献】特開2018-002991(JP,A)
【文献】特開2002-097069(JP,A)
【文献】特開平06-237054(JP,A)
【文献】特開2004-231428(JP,A)
【文献】特開2005-162572(JP,A)
【文献】特開2001-089671(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143195(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/055731(WO,A1)
【文献】特開2002-284579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C08L 23/00-57/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンシートを作製するための焼成用スラリー組成物であって、
無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)と、水とを含有し、
前記ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下である成分(C3)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満である成分(C4)とを含有し、
前記アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
前記焼成用スラリー組成物の固形分全体に対する前記アクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である、
焼成用スラリー組成物。
【請求項2】
前記アクリル重合体(D)は、カルボキシル基とエチレン性不飽和結合を有する化合物(d1)と、前記化合物(d1)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物(d2)との共重合体(D1)を含む、
請求項1に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項3】
前記共重合体(D1)は、アミン化合物(E)により中和されている、
請求項2に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項4】
前記アクリル重合体(D)の重量平均分子量は、10,000以上500,000以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)と、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)とを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項6】
前記アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、カルボキシル基を有するポリビニルアルコール樹脂(C21)を含む、
請求項に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項7】
前記ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)とを含有する、
請求項5又は6に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項8】
前記ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)を含有し、前記ポリビニルアルコール樹脂(C21)は、ケン化度が60mol%以上85mol%未満、かつカルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)を含有する、
請求項6又は7に記載の焼成用スラリー組成物。
【請求項9】
無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)とを含有し、
前記ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下である成分(C3)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満である成分(C4)とを含有し、
前記アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
前記アクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である、
グリーンシート。
【請求項10】
前記グリーンシートは、焼成されることにより前記無機粉体(B)の焼結体を含有するセラミックコンデンサを作製するために用いられる、
請求項に記載のグリーンシート。
【請求項11】
請求項1からのいずれか一項に記載の焼成用スラリー組成物を塗布して乾燥することを含む、
グリーンシートの製造方法。
【請求項12】
請求項若しくは10に記載のグリーンシート、又は請求項11に記載のグリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを焼成することを含む、
焼結体の製造方法。
【請求項13】
請求項若しくは10に記載のグリーンシート、又は請求項11に記載のグリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを複数枚重ねた積層体を焼成することを含む、
積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用スラリー組成物、グリーンシート、グリーンシートの製造方法、焼結体の製造方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。より詳しくは、無機粉体の焼結体を作製するための焼成用スラリー組成物、この焼成用スラリー組成物の乾燥体を含有するグリーンシート、グリーンシートの製造方法、焼結体の製造方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックグリーンシートを作製するための焼成用のバインダー組成物及びスラリー組成物等には溶剤として、主にトルエン等の有機溶媒が配合されている。
【0003】
近年、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)等の環境及び人体への影響を懸念して、有機溶剤に対する排出規制等が強化されている。そのため、焼成用のバインダー組成物及びスラリー組成物等に配合する溶剤は、有機溶剤から水系溶剤への変換が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、セラミック原料と、バインダー樹脂と、溶剤水と、可塑剤とを含有する水系セラミックグリーンシート用塗料組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の水系セラミックグリーンシート用塗料組成物では、シートの強度を維持したまま、高い柔軟性を有することは困難であった。また、形成したシートを積層した場合のシートの接着性にも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-284579号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、シートに形成した場合のシートの高い強度を維持したまま、高い柔軟性を有し、かつシートを積層した場合のシートの接着性を向上できる焼成用スラリー組成物、グリーンシート、グリーンシートの製造方法、焼結体の製造方法、及び積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様に係る焼成用スラリー組成物は、グリーンシートを作製するための焼成用スラリー組成物である。無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)と、水とを含有する。前記アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。前記焼成用スラリー組成物の固形分全体に対する前記アクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0009】
本発明の一態様に係るグリーンシートは、無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)とを含有する。前記アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。グリーンシートに対する前記アクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0010】
本発明の一態様に係るグリーンシートの製造方法は、前記焼成用スラリー組成物を塗布して乾燥することを含む。
【0011】
本発明の一態様に係る焼結体の製造方法は、前記グリーンシート、又は前記グリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを焼成することを含む。
【0012】
本発明の一態様に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、前記グリーンシート、又は前記グリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを複数枚重ねた積層体を焼成することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る焼成用スラリー組成物及びグリーンシートについて、説明する。
【0014】
<焼成用スラリー組成物>
本実施形態に係る焼成用スラリー組成物は、グリーンシートを作製するための組成物である。焼成用スラリー組成物は、無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)と、水とを含有する。アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。焼成用スラリー組成物の固形分全体に対するアクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0015】
本実施形態の焼成用スラリー組成物では、ポリビニルアルコール樹脂(C)がバインダーとしての機能を有しうる。また、アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である特性を有するため、焼成用スラリー組成物から形成されるグリーンシートに高い強度と柔軟性とを付与することができる。さらに、焼成用スラリー組成物が無機粉体(B)を含有するため、焼成用スラリー組成物、又は焼成用スラリー組成物から形成されるグリーンシートを焼成させると、ポリビニルアルコール樹脂(C)等の成分が熱分解して除去され、無機粉体(B)が焼結する。これにより、無機粉体(B)の焼結体が形成される。なお、本明細書において、「グリーンシート」を、単に「シート」ということもある。
【0016】
焼成用スラリー組成物から形成されるシートに、高い強度及び柔軟性を付与できる理由は明らかとはなっていないが、次のような作用によると推察される。
【0017】
焼成用スラリー組成物中のポリビニルアルコール樹脂(C)とアクリル重合体(D)とは、いずれも水に溶解しうる。これにより、焼成用スラリー組成物が溶剤として水を含有するにもかかわらず、焼成用スラリー組成物中の成分が効率よく水に分散しうる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、分子中に水酸基を有し、これらの水酸基が無機粉体(B)の表面と相互作用を形成しやすいことも、シートの強度の向上に寄与しうると考えられる。さらに、アクリル重合体(D)は、比較的低いガラス転移温度を有しうるため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートに柔軟性を付与しうると考えられる。アクリル重合体(D)は、酸価を有することにより、焼成用スラリー組成物から形成されるシートに接着性を付与でき、更に、酸価がこの範囲内(50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下)であることにより、強度、柔軟性、接着性の良好なバランス保つことが可能となる。
【0018】
また、本実施形態では、シートを複数枚積層した場合、隣り合うシート同士の接着性を向上させることができる。これは、焼成用スラリー組成物が無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)とを含有することで、シートを柔軟にすることができ、かつ、無機粉体(B)に対して吸着しにくいアクリル重合体(D)が隣り合うシート同士の界面に染み出すことにより、良好な接着性を付与できるためと考えられる。
【0019】
次に、本実施形態に係る焼成用スラリー組成物を構成する成分について、具体的に説明する。
【0020】
[アクリル重合体(D)]
まず、アクリル重合体(D)について、説明する。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルとの少なくとも一方を含む。例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの少なくとも一方である。
【0021】
アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。このため、アクリル重合体(D)は、シートの柔軟性及び強度の向上に寄与することができる。さらに、アクリル重合体(D)は、焼成用スラリー組成物の保存安定性を向上させうる。アクリル重合体(D)のガラス転移温度は、-40℃以上20℃以下であればより好ましい。アクリル重合体(D)の酸価は、60mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であればより好ましく、80mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であれば更に好ましい。アクリル重合体(D)の上記のガラス転移温度及び酸価は、後述するアクリル重合体(D)を構成しうる成分の配合、反応条件等を適宜調整することで達成しうる。
【0022】
なお、アクリル重合体(D)の酸価は、例えば中和滴定法で測定できる。また、ガラス転移温度(Tg)は、モノマー成分の組成割合から理論的に計算される値であり、下記のFoxの式で算出した値である。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg
上記Foxの式において、nは1以上の整数であり、モノマーとして用いるモノマーの種類を示す。すなわち、n種類のモノマーの重合によってアクリル重合体(D)を得た場合の計算式である。W,W,・・・Wは、n種類のモノマーの各質量分率を示し、Tg,Tg,・・・Tgは、n種類のモノマーの各ガラス転移温度を示す。上記Foxの式におけるガラス転移温度の単位は絶対温度「K」であり、その計算値をセルシウス温度「℃」に変換した値をアクリル重合体(D)のガラス転移温度とする。
【0023】
焼成用スラリー組成物の固形分全体に対するアクリル重合体(D)の量は、上述のとおり、0.1質量%以上5.0質量%以下である。このため、焼成用スラリー組成物中で、アクリル重合体(D)と無機粉体(B)とが良好な相互作用を形成しやすくなり、焼成用スラリーから形成されるシートに、シートを積層した場合の隣り合うシート同士の接着性を付与することができる。焼成用スラリー組成物の固形分全体に対するアクリル重合体(D)の量は、0.2質量%以上3.0質量%以下であればより好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下であれば更に好ましい。
【0024】
アクリル重合体(D)は、カルボキシル基とエチレン性不飽和結合を有する化合物(d1)と、化合物(d1)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物(d2)との共重合体(D1)を含むことが好ましい。
【0025】
共重合体(D1)における、化合物(d1)と化合物(d2)との量は適宜調整すればよい。例えば化合物(d1)と化合物(d2)との合計量に対する化合物(d1)の量は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この場合、良好な接着性を有するとともに、無機粉体との吸着性、親水性、及びガラス転移点の調整などが可能となるため、良好なシート特性をも有することができる。
【0026】
共重合体(D1)は、化合物(d1)及び化合物(d2)を、重合開始剤の存在下で共重合することで合成できる。
【0027】
化合物(d1)は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、及び2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む。化合物(d1)は、アクリル酸とメタクリル酸とのうちの一方又は両方を含有することが好ましい。
【0028】
化合物(d2)は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む。化合物(d2)は、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、及びヘキシルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含有することが好ましい。
【0029】
重合開始剤は、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5,-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチエルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、及び過酸化ベンゾイルからなる群からなる少なくとも一つを含む。
【0030】
化合物(d1)が二種以上の化合物を含み、かつ化合物(d2)も二種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0031】
共重合体(D1)は、アミン化合物(E)によって中和されていてもよい。すなわち、共重合体(D1)は、化合物(d1)と化合物(d2)とを共重合させ、更に化合物(d1)に由来するカルボキシル基とアミン化合物(E)中のアミノ基とを反応させることで合成されてもよい。この場合、共重合体(D1)は特に高い水溶性を有することができ、このため、アクリル重合体(D)は、焼成用スラリー組成物の保存安定性をより向上させることができる。アミン化合物(E)は、例えばアンモニア、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール、及びモルホリンからなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0032】
共重合体(D1)は、適宜の方法で合成することができる。例えば、共重合体(D1)を製造する場合、まず化合物(d1)と化合物(d2)と水とを混合することで混合液を調製する。この混合液を撹拌しながら、混合溶液中に重合開始剤を添加し、加熱することで重合反応を進行させる。これにより、共重合体(D1)を合成できる。また、重合反応後の生成物に、アミン化合物(E)を添加することで更に中和反応をさせることで、共重合体(D1)を合成してもよい。アミン化合物(E)の量は、共重合体(D1)の酸価等に応じて適宜調整される。
【0033】
アクリル重合体(D)の重量平均分子量は、10,000以上500,000以下であることが好ましい。アクリル重合体(D)の重量平均分子量が10,000以上であれば、シートの強度を低下させにくい。また、重量平均分子量が500,000以下であれば、シートの強度を維持することができつつも、シートの硬度が高くなりにくいため、柔軟性及び接着性を低下させにくくできる。また、この場合、焼成用スラリー組成物の、水への溶解性を低下させにくくできる。アクリル重合体(D)の重量平均分子量は、50,000以上300,000以下であればより好ましく、100,000以上200,000以下であれば更に好ましい。
【0034】
なお、アクリル重合体(D)は、上記で説明した共重合体(D1)に限られず、共重合体(D1)以外の共重合体を含んでもよい。
【0035】
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィによる測定結果から得られるポリスチレン換算した分子量分布から導出される。
【0036】
[無機粉体(B)]
無機粉体(B)は、無機粉体(B)から作製される焼結体に求められる特性に応じた適宜の材料を含むことができる。具体的には、無機粉体(B)は、例えば金属の酸化物、炭化物、ホウ化物、硫化物、及び窒化物等からなる群から選択される少なくとも一種の材料を含有する。金属は、例えばLi、Pd,K,Be,Mg,B,Al,Si,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,Ga,In,ランタニド、アクチニド、Ti、Zr,Hf,Bi,V,Nb,Ta,W,Mn、Fe,Ca及びNi等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。無機粉体(B)が複数の金属元素を含む場合、無機粉体(B)は、例えばマセライト、チタン酸バリウム、ケイ酸塩ガラス、フェライト、鉛ガラス、CaO・Al23・SiO2系無機ガラス、MgO・Al23・SiO2系無機ガラス及びLiO2・Al23・SiO2系無機ガラスからなる群から選択される一種以上の成分を含有できる。無機紛体(B)は、アルミニウムを含有する酸化物、ケイ素を含有する窒化物、酸化鉄、及びチタン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも一種の材料を含有することが特に好ましい。アルミニウムを含有する酸化物は、例えばCaO・Al23・SiO2系無機ガラス、MgO・Al23・SiO2系無機ガラス及びLiO2・Al23・SiO2系無機ガラス等からなる群から選択される少なくとも一種の材料を含む。
【0037】
なお、本実施形態の無機粉体(B)とは、平均粒子径が、10μm以下である粉状の粒子の集合体(粉末)である。平均粒子径は、例えばレーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径(D50)であり、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて得られる。
【0038】
[ポリビニルアルコール樹脂(C)]
ポリビニルアルコール樹脂(C)は、焼成用スラリー組成物において、バインダーとして機能する樹脂である。ポリビニルアルコール樹脂(C)は、無機粉体(B)を良好に吸着しうる。そのため、焼成用スラリー組成物中での無機粉体(B)の分散性を向上させることができる。このため、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、焼成用スラリー組成物の保存安定性を向上させうる。なお、本実施形態では、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ポリ酢酸ビニルが完全ケン化されたポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルが部分ケン化されたポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールの構造の水酸基の一部又は酢酸基(アセチルオキシ基)の一部を変性させた変性物からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0039】
ポリビニルアルコール樹脂(C)の平均重合度は、500以上9000以下であることが好ましい。この場合、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、水に容易に溶解しうる。また、この場合、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、無機粉体(B)をより吸着させやすくなるため、焼成用スラリー組成物中での無機粉体(B)の分散性をより向上させることができる。ポリビニルアルコール樹脂(C)の平均重合度は、500以上4000以下であればより好ましく、1500以上4000以下であれば更に好ましい。平均重合度は、ポリビニルアルコール(C)を水酸化ナトリウムで完全ケン化した後、オストワルト粘度計を用いて水との相対粘度を求め、その相対粘度から算出可能である。
【0040】
ポリビニルアルコール樹脂(C)に含有されうる成分について、更に詳細に説明する。
【0041】
ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)とアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)とを含有することが好ましい。この場合、焼成用スラリー組成物から形成されるシートの強度をより向上させることができる。具体的には、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、上記のノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)に比べて、より高い親水性を有しうる。そのため、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、シートの強度を更に向上に寄与できる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C)が、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)だけでなくアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)を含有することで、焼成用スラリー組成物の物性とpHのバランスを調整しやすい。そのため、焼成用スラリー組成物からペーストを作製した場合の凝集及びゲル化を生じにくくすることができる。ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)とアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)との合計量に対するノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)の割合は、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、カルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)を含むことが好ましい。この場合、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)のカルボキシル基と、無機粉体(B)との相互作用がより強くなり、シートの強度を更に向上させることができる。また、この場合、焼成用スラリー組成物の物性とpHのバランスをより調整しやすい。そのため、焼成用スラリー組成物からペーストを作製した場合の凝集及びゲル化を生じにくくすることができ、これにより、シートの物性の更なる向上が実現できる。
【0043】
カルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)の具体的な市販品の例としては、クラレ株式会社製の品名KL-506、KL-318、KL-118;日本合成化学株式会社製の品名ゴーセネックスT-330、T-350、T-330H;日本酢ビ・ポバール株式会社製の品名AP-17、AT-17、AF-17等が挙げられる。
【0044】
ポリビニルアルコール樹脂(C)は、例えばケン化度が異なる少なくとも二種類の成分を含有しうる。ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下である成分(C3)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満である成分(C4)とを含有することも好ましい。この場合、成分(C3)は、成分(C4)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートの強度の向上に寄与でき、一方、成分(C4)は、シートの柔軟性の向上に寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートにより高い強度及び柔軟性を付与することができる。成分(C4)のケン化度は、60mol%以上80mol%未満であることがより好ましい。成分(C3)と成分(C4)との合計量に対する成分(C3)の割合は、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。なお、ケン化度は、ポリビニルアルコール樹脂において、例えばJIS K6726(1994)に準拠して測定することにより算出でき、ポリビニルアルコール樹脂(C)に含まれる成分のケン化度が異なることは、測定された結果から判定できる。
【0045】
また、成分(C3)及び成分(C4)は、上述のとおり、ケン化度によって区別される成分である。そのため、成分(C3)及び成分(C4)は、それぞれノニオン性とアニオン性とのいずれであってもよい。このため、成分(C3)及び成分(C4)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)及びアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)のいずれかに含まれる成分と重複しうる。
【0046】
ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)とを含有し、かつアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、カルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)を含有することが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)とノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)とアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)とを含有することが好ましい。この場合、ポリビニルアルコール樹脂(C11)は、ポリビニルアルコール樹脂(C12)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートの強度の向上に寄与できる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C21)は、カルボキシル基を有することで、シートの強度の向上への寄与は更に大きい。一方、ポリビニルアルコール樹脂(C12)は、シートの柔軟性の向上に寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートに更に高い強度及び柔軟性を付与することができる。ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)のケン化度は、60mol%以上80mol%未満であることがより好ましい。ポリビニルアルコール樹脂(C11)とポリビニルアルコール樹脂(C12)とポリビニルアルコール樹脂(C21)との合計量に対するポリビニルアルコール樹脂(C21)の割合は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)を含有し、ポリビニルアルコール樹脂(C21)は、ケン化度が60以上85未満かつカルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)を含有することも好ましい。すなわち、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)とアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)との両方を含有することが好ましい。この場合、ポリビニルアルコール樹脂(C11)は、ポリビニルアルコール樹脂(C211)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートの強度の向上に寄与できる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C211)は、ポリビニルアルコール樹脂(C11)よりも、水酸基の割合は少ないものの、カルボキシル基を有するため、シートの高い柔軟性を維持しながら、強度の向上にも寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートに更に高い強度及び柔軟性を付与することができる。カルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)のケン化度が60mol%以上80mol%未満であることがより好ましい。ポリビニルアルコール樹脂(C11)とポリビニルアルコール樹脂(C211)との合計量に対するポリビニルアルコール樹脂(C211)の割合は、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
ケン化度が85以上99以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)の具体的な市販品の例としては、クラレ株式会社製の品名PVA-235、PVA-217、PVA-105、PVA-117、PVA-124、PVA-205、PVA-224;デンカ株式会社製の品名デンカポバールK-05、K-17C、H-17、B-20;日本酢ビ・ポバール株式会社製の品名JC-33、JF-05、JM-23、JP-03等が挙げられる。
【0049】
ケン化度が60以上85未満であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)の具体的な市販品の例としては、クラレ株式会社製の品名PVA-505、PVA-405、PVA-417、PVA-420;日本合成化学株式会社製の品名ゴーセノールKL-05、KL-03、KH-20、KH-17、KP-08R、NK-05R;日本酢ビ・ポバール株式会社製の品名JL-05E、JL-22E、JL-25E、JR-05等が挙げられる。
【0050】
ケン化度が60以上85未満であり、かつカルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)の具体的な市販品の例としては、クラレ株式会社製の品名KL-506等が挙げられる。なお、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)は、上記のアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)に含まれる。
【0051】
なお、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、上記で説明したノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)及びアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)以外に、例えばカチオン性ポリビニルアルコール樹脂を含有してもよい。また、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、上記で説明した、ケン化度が60mol%未満である成分を含有してもよい。
【0052】
[溶剤]
本実施形態では、焼成用スラリー組成物は、水を含有する。焼成用スラリー組成物は、溶剤として水を配合しても、各成分の水中での分散性が高い。このため、焼成用スラリー組成物は、高い保存安定性を有することができる。また、焼成用スラリー組成物は、高い分散性を有するため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートは、高い平滑性を有する。なお、焼成用スラリー組成物は、水以外の溶剤を含有してもよい。水以外の溶剤は、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及び2-ヒドロキシイソ酪酸メチル等からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。
【0053】
[その他の成分]
焼成用スラリー組成物は、上記で説明した成分以外の添加剤等の成分を配合してもよい。添加剤の例には、分散剤、可塑剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤、湿潤剤、密着性付与剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0054】
本実施形態に係る焼成用スラリー組成物は、例えば無機粉体(B)、ポリビニルアルコール樹脂(C)、アクリル重合体(D)、水、及び必要により溶剤、分散剤などの添加剤を混合し、攪拌することで、各成分を分散させることにより調製できる。なお、アクリル重合体(D)は、予め水に溶解させ、水溶液の状態で混合してもよい。この場合のアクリル重合体(D)の水溶液の濃度は、適宜調整すればよい。
【0055】
焼成用スラリー組成物を組成する各成分の量は、適宜設定すればよく、例えば焼成用スラリー組成物の無機粉体とバインダー固形分の合計量に対するアミノアルコール化合物(A)の量は、0.1質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
焼成用スラリー組成物の固形分全体に対する無機粉体(B)の量は、例えば75質量%以上95質量%以下であることが好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、85質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
【0057】
焼成用スラリー組成物の無機粉体(B)に対するポリビニルアルコール樹脂(C)の量は、例えば1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上12質量%以下であることが更に好ましい。
【0058】
焼成用スラリー組成物の全量に対する水の量は、6質量%以上45質量%以下であることが好ましく、8質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上37質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
なお、「焼成用スラリー組成物の固形分全体」とは、焼成用スラリーから溶剤を除いた成分の合計量である。
【0060】
焼成用スラリー組成物は、ポリビニルアルコール樹脂(C)の水溶液を含むことができ、すなわち予めポリビニルアルコール樹脂(C)を水に溶解させてから、他の成分と混合して、焼成用スラリー組成物を調製してもよい。
【0061】
焼成用スラリー組成物のpHは、5以上8未満であることが好ましい。この場合、焼成用スラリー組成物の凝集、ゲル化及び相分離が生じにくいため、焼成用スラリー組成物の保存安定性をより向上させることができる。そのため、焼成用スラリー組成物から形成されるシートに柔軟性を付与できる。焼成用スラリー組成物のpHは、6以上7以下であることがより好ましい。焼成用スラリー組成物のpHの調整は、例えばアミノアルコール化合物(A)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)(特にアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2))との配合量を適宜調整すること等により実現可能である。
【0062】
次に、上記で説明した焼成用スラリー組成物から形成されるグリーンシート、焼結体、及びセラミックコンデンサについて、詳細に説明する。
【0063】
<グリーンシート>
本実施形態に係るシート(グリーンシート)は、無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)とを含有する。アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。シートに対するアクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。このため、シートは、高い強度及び柔軟性を有する。そのため、焼成用スラリー組成物からシートを形成すると、上記の通り、シートに柔軟性を付与することができるため、シートを反りにくくすることができる。これにより、例えばキャリアフィルム等の基材に対する、シートの密着性を向上させることができる。このため、シートにクラックが発生することも抑制することができる。さらに、本実施形態では、複数のシートを積層した場合の隣り合うシート間の高い接着性を実現できる。
【0064】
無機粉体(B)、ポリビニルアルコール樹脂(C)、及びアクリル重合体(D)は、上記の焼成用スラリー組成物について説明した構成と同じであるため、重複する説明は省略する。
【0065】
シート(グリーンシート)は、例えば次のように作製できる。
【0066】
上記で説明した焼成用スラリー組成物を調製してから、焼成用スラリー組成物を基材上に塗布し、必要により乾燥させることで、シートが得られる。焼成用スラリー組成物の基材への塗布方法は、適宜の方法を採用できるが、例えばドクターブレード法、スクリーン印刷法、及びディスペンス法等が挙げられる。また、焼成用スラリー組成物を塗布するための基材は、適宜の基材を採用できるが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のキャリアフィルムであってよい。
【0067】
<焼結体及びセラミックコンデンサ>
シートは、積層セラミックコンデンサ等を作製するためのセラミックスグリーンシートとして好適に利用することができる。シートを焼成させることにより、ポリビニルアルコール樹脂(C)及びアクリル重合体(D)等の成分が熱分解して除去され、無機粉体(B)が焼結する。これにより、無機粉体(B)の焼結体が形成され、この焼結体が電極、導体配線などの適宜の要素を構成しうる。例えば、シートから、導体層、誘電体層、絶縁層等といった適宜の要素を作製することができ、具体的には、例えばシートは、積層セラミックコンデンサ中の誘電体層及びセラミック回路基板中の絶縁層等を作製するために利用することができる。上記の通り、シートは、高い強度及び柔軟性を有するため、シートから積層セラミックコンデンサを作製するにあたって、多層に積層しても容易に薄膜化が可能である。特に、本実施形態では、シートを複数枚積層した場合、隣り合うシート同士の接着性を向上させることができる。
【0068】
シートから積層セラミックコンデンサを、例えば次のようにして作製することができる。
【0069】
まず、シートを適宜の寸法に切断し、切断したシートを目的に応じた枚数重ねる。続いて、重ねた複数枚のシートを加圧して圧縮した後、焼成炉に入れて、焼成する。これにより、積層セラミックコンデンサ中の誘電体層、セラミック回路基板中の絶縁層等を作製することができる。
【0070】
シートを積層して加圧する際の圧力は、特に制限されず、積層枚数等に応じて適宜設定すればよいが、例えば10MPa以上100MPa以下とすることができる。また、焼成する際の条件は、無機粉体(B)の焼結する温度に応じて適宜設定すればよいが、加熱温度は、例えば500℃以上1500℃以下、加熱時間は、例えば1時間以上24時間以下とすることができる。なお、上記では複数枚のシートから多層の積層セラミックコンデンサを作製する場合について説明したが、適宜の寸法の一枚のシートから単層のセラミックコンデンサを作製してもよい。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例によって、更に詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0072】
(1)焼成用スラリー組成物の調製
(1-1)アクリル水溶液1~8の合成
表2及び3に示す[アクリル重合体]のアクリル水溶液1~8は、次のように合成し、調製した。
【0073】
還流冷却器、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取付けた容量1Lの四つ口フラスコ内に、表1中の「モノマー成分」の欄に示す成分と、水100質量部とを入れ混合することで混合物を調製した。この混合物を撹拌しながら、重合開始剤である過酸化ベンゾイル2質量部を添加した。混合物を更に撹拌しながら、80℃まで昇温させた。混合物の温度が80℃に到達してから、更に5時間、80℃で撹拌した。続いて、フラスコ内の温度が室温になるまで放冷した後、アミン成分のジエタノールアミン10質量部をゆっくり添加して中和した。これにより、アクリル水溶液1~8を得た。なお、得られたアクリル水溶液1~8のpHは約7であった。アクリル水溶液1~8の重量平均分子量、固形分割合、ガラス転移温度Tg、固形分酸価は、表1に示す通りである。
【0074】
【表1】
【0075】
(1-2)焼成用スラリー組成物の調製[実施例1~11及び比較例1~6]
ボールミル内に、表2及び3中のA欄(「無機粉体」、「溶剤」、「分散剤」、及び「可塑剤」の欄)に示す成分を入れて混合し、30分間ボールミルで攪拌することで混合物を分散させた。続いて、表2及び3中のB欄(「消泡剤」、「ポリビニルアルコール樹脂」、及び「アクリル重合体」の欄)に示す成分を、更に添加して混合し、8時間ボールミルで攪拌し、分散させることで、焼成用スラリー組成物を調整した。表2及び3に示す各成分の詳細は次の通りである。
【0076】
[無機粉体]
・酸化鉄。
【0077】
[分散剤]
・ポリアクリル酸アンモニウム塩水溶液(互応化学工業株式会社製 ミクロゾールKE-511、40%水溶液、ガラス転移温度100℃、固形分酸価750mgKOH/g)。
【0078】
[可塑剤]
・ジエタノールアミン。
【0079】
[消泡剤]
・SNデフォーマー470(サンノプコ株式会社製:ポリエーテル、変性シリコン化合物等の混合物)。
・SNデフォーマー485(サンノプコ株式会社製:特殊ポリエーテル系非イオン界面活性剤等の混合物)。
【0080】
[ポリビニルアルコール樹脂]
・PVA-235水溶液(クラレ株式会社製:濃度15%、ケン化度88mol%、平均重合度3500)。
・PVA-505水溶液(濃度30%、ケン化度74mol%、重合度500)。
・KL-506水溶液(クラレ株式会社製:濃度30%、ケン化度77mol%、カルボキシル基含有、平均重合度600)。
・KL-318水溶液(クラレ株式会社製:濃度30%、ケン化度88mol%、カルボキシル基含有、平均重合1800)。
・ゴーセノールKL-05水溶液(日本合成化学株式会社製:濃度30%、ケン化度80mol%、平均重合度500)。
【0081】
なお、上記に示す[ポリビニルアルコール樹脂]は、括弧内に記載の濃度となるように、それぞれ水に溶解した水溶液を調整して混合した。表中の値は、ポリビニルアルコール樹脂の各水溶液の上記各濃度での、水溶液の量を示す。
【0082】
(2)評価試験
(1)で得られた各実施例、及び比較例の焼成用スラリー樹脂組成物、及びこの組成物から作製したシートの評価試験を下記の通り実施した。その結果を下記表に示す。
【0083】
(2-1)粘度
(1)で調製した焼成用スラリー組成物の粘度を、東機産業株式会社製の型番RE-215SR/Uにより、25℃、回転速度50rpm、2分間の条件で測定した。
【0084】
(2-2)スラリー安定性(保存安定性)
(1)で調製した焼成用スラリー組成物を、常温で静置させ、4週間保存した。焼成用スラリー組成物を調整してから、4週間経過するまでの間、焼成用スラリー組成物を目視で観察し、相分離の有無、沈降の有無、及び外観の変化を確認し、下記の基準で評価した。
A:作製してから4週間経過後、外観に変化が見られない。
B:作製してから2週間経過後、外観に変化がみられないが4週間経過後に変化が見られた。
C:作製してから1日経過後~2週間以内に変化が見られた。
D:作製してから1日以内に状態変化が見られ、不均一な状態となった。
【0085】
(2-3)熱分解性
(1)において、[無機粉体]を配合せず焼成用スラリー組成物を調製し、この組成物から皮膜を作製し、差動型示差熱天秤(株式会社リガク製 型番TG8120)を用い、空気雰囲気下、昇温速度10℃/minで室温から550℃まで皮膜を加熱しながら重量変化を測定した。その結果、室温時の焼成用スラリー組成物の重量に対する550℃における重量減少率を算出し、下記の基準で評価した。
A:550℃の時の焼成用スラリー組成物の重量減少率が99質量%以上であり、焼成残渣が見られなかった。
B:550℃の時の焼成用スラリー組成物の重量減少率が99質量%以上であったが、焼成残渣が僅かに見られた。
C:550℃の時の焼成用スラリー組成物の重量減少率が95質量%以上99質量%未満であった。
D:550℃の時の焼成用スラリー組成物の重量減少率が95質量%未満であり、測定終了後、炭化物等の残渣が目視で観察された。
【0086】
なお、本評価は、測定の便宜上、無機粉体を添加せず焼成用スラリー組成物から作製した皮膜に対して評価を行っているが、熱分解性の評価に影響を与えるものではない。
【0087】
(2-4)平滑性
(1)で調製した焼成用スラリー組成物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(寸法100mm×100mm)上に4面アプリケーター(太佑機材株式会社製、型番No.112)を用いて、約100μmの膜厚となるように塗布することで、皮膜を形成した。得られた皮膜の外観を観察し、下記の基準で評価した。
A:皮膜に凹凸、凝集物、泡跡、又は反り等が見られず、皮膜表面が均一で平滑である。
B:被膜に凹凸、凝集物、泡後、又は反り等のいずれかが若干見られたが、製品として問題のない程度に皮膜表面が均一で平滑である。
C:皮膜に凹凸、凝集物、泡跡、又は反り等が皮膜の50%未満の領域で見られ、均一で平滑な皮膜が得られない。
D:皮膜に凹凸や、集物、泡跡、又は反り等が皮膜の50%以上の領域で見られ、均一で平滑な皮膜が得られない。
【0088】
(2-5)強度
(2-4)でPETフィルム上に形成した皮膜を、PETフィルムの表面に対して、垂直方向に手でゆっくりと剥離することにより、皮膜の強度を下記の基準で評価した。
A:皮膜をPETフィルムから剥がすことが可能であり、引っ張りにも耐えうる。さらに、2週間以上経過しても強度を維持している。
B:皮膜をPETフィルムから剥がすことが可能であり、引っ張りにも耐えうるが、2週間以上経過すると強度低下が見られる。
C:皮膜をPETフィルムから剥がすことは可能であるが、引っ張りに対して、簡単に破れてしまう。
D:皮膜をPETフィルムから剥がすことが不可能、又は剥離する際に破れてしまう。
【0089】
(2-6)柔軟性
(2-4)でPETフィルム上に形成した皮膜を、約180°に曲げることにより亀裂、及び割れの発生の有無を確認し、下記の基準で評価した。
A:皮膜を20回以上、180°に曲げても、皮膜に亀裂や割れが生じなかった。
B:皮膜を2回以上、180°に曲げても、皮膜に亀裂や割れが生じないが、20回以上繰り返すと皮膜に亀裂や割れが生じた。
C:皮膜を2回以上、180°に曲げると、皮膜に亀裂や割れが生じた。
D:皮膜を1回でも180°曲げると、皮膜に亀裂や割れが生じた。
【0090】
(2-7)接着性
(2-4)でPETフィルム上に形成した皮膜を、縦3cm、横3cmの正方形状(3cm角)にカットして、皮膜を10枚積み重ねてから、プレス機を用いて加圧し、加圧して積層した皮膜を剥離することにより、接着性について下記の基準で評価した。なお、加圧の条件は80℃で10MPa×5分とした。
A:皮膜の接着性が強く、界面で剥離できない。さらに、2週間以上経過しても接着性を維持している。
B:皮膜の接着性が強く、界面で剥離できないが、2週間以上経過すると接着性が低下する。
C:皮膜を手で強く剥がすと、界面で剥離してしまう。
D:皮膜同士が全く接着していない。
【0091】
上記の評価試験の結果は、以下の表1~5に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
(まとめ)
以上から明らかなように、本発明に係る第一の態様の焼成用スラリー組成物は、グリーンシートを作製するための焼成用スラリー組成物である。焼成用スラリー組成物は、無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)と、水とを含有する。アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。焼成用スラリー組成物の固形分全体に対するアクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0095】
第一の態様によれば、シートに形成した場合のシートの高い強度を維持したまま、高い柔軟性を有することができ、かつシートに形成して積層した場合の接着性に優れるという利点がある。
【0096】
第二の態様の焼成用スラリー組成物は、第一の態様において、アクリル重合体(D)は、カルボキシル基とエチレン性不飽和結合を有する化合物(d1)と、化合物(d1)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物(d2)との共重合体(D1)を含む。
【0097】
第二の態様によれば、この場合、無機粉体との吸着性、親水性、及びガラス転移点を容易に調整可能となる。
【0098】
第三の態様の焼成用スラリー組成物は、第二の態様において、共重合体(D1)は、アミン化合物(E)により中和されている。
【0099】
第三の態様によれば、焼成用スラリー組成物は、水溶性の高い共重合体(D1)を含有しうるため、アクリル重合体(D)は、焼成用スラリー組成物の保存安定性をより向上させることができる。また、この場合、シートを積層する場合の接着性をより向上させることができる。
【0100】
第四の態様の焼成用スラリー組成物は、第一から第三の態様のいずれか一つにおいて、アクリル重合体(D)の重量平均分子量は、10,000以上500,000以下である。
【0101】
第四の態様によれば、この場合、シートの強度、柔軟性、接着性、及び水への溶解性を確保することができる。
【0102】
第五の態様の焼成用スラリー組成物は、第一から第四の態様のいずれか一つにおいて、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下である成分(C3)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満である成分(C4)とを含有する。
【0103】
第五の態様によれば、成分(C3)は、成分(C4)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートの強度の向上に寄与でき、一方成分(C4)は、シートの柔軟性の向上に寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートにより高い強度及び柔軟性を付与することができる。
【0104】
第六の態様の焼成用スラリー組成物は、第一から第五の態様のいずれか一つにおいて、ポリビニルアルコール樹脂(C)は、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)と、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)とを含有する。
【0105】
第六の態様によれば、焼成用スラリー組成物から作製されるシートの強度をより向上させることができる。
【0106】
第七の態様の焼成用スラリー組成物は、第六の態様において、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C2)は、カルボキシル基を有するポリビニルアルコール樹脂(C21)を含む。
【0107】
第七の態様によれば、アニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C21)のカルボキシル基と、無機粉体(B)との相互作用がより強くなり、シートの強度を更に向上させることができる。また、この場合、焼成用スラリー組成物の物性とpHのバランスをより調整しやすい。そのため、焼成用スラリー組成物からペーストを作製した場合の凝集及びゲル化を生じにくくすることができ、これにより、シートの物性の更なる向上が実現できる。
【0108】
第八の態様の焼成用スラリー組成物は、第七の態様において、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)と、ケン化度が60mol%以上85mol%未満であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C12)とを含有する。
【0109】
第八の態様によれば、ポリビニルアルコール樹脂(C11)は、ポリビニルアルコール樹脂(C12)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートの強度の向上に寄与できる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C21)は、カルボキシル基を有することで、シートの強度の向上への寄与は更に大きい。一方、ポリビニルアルコール樹脂(C12)は、シートの柔軟性の向上に寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートに更に高い強度及び柔軟性を付与することができる。
【0110】
第九の態様の焼成用スラリー組成物は、第八の態様において、ノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C1)は、ケン化度が85mol%以上99mol%以下であるノニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C11)を含有し、ポリビニルアルコール樹脂(C21)は、ケン化度が60mol%以上85mol%未満、かつカルボキシル基を有するアニオン性ポリビニルアルコール樹脂(C211)を含有する。
【0111】
第九の態様によれば、ポリビニルアルコール樹脂(C11)は、ポリビニルアルコール樹脂(C21)よりも水酸基の割合が多いため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートの強度の向上に寄与できる。また、ポリビニルアルコール樹脂(C211)は、ポリビニルアルコール樹脂(C12)よりも、水酸基の割合は少ないものの、カルボキシル基を有するため、シートの高い柔軟性を維持しながら、強度の向上にも寄与することができる。そのため、焼成用スラリー組成物から作製されるシートに更に高い強度及び柔軟性を付与することができる。
【0112】
第十の態様のグリーンシートは、無機粉体(B)と、ポリビニルアルコール樹脂(C)と、アクリル重合体(D)とを含有する。アクリル重合体(D)は、ガラス転移温度が-50℃以上30℃以下であり、かつ酸価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。グリーンシートに対するアクリル重合体(D)の量は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0113】
第十の態様によれば、グリーンシートは高い強度及び柔軟性を有することができる。そのため、シートを反りにくくすることができる。これにより、例えばキャリアフィルム等の基材に対する、シートの密着性を向上させることができる。このため、グリーンシートでは、クラックが発生することも抑制することができる。
【0114】
第十一の態様のグリーンシートは、第十の態様において、グリーンシートは、焼成されることにより無機粉体(B)の焼結体を含有するセラミックコンデンサを作製するために用いられる。
【0115】
第十一の態様によれば、積層セラミックコンデンサ等を作製するためのセラミックスグリーンシートの用途に好適に利用することができる。
【0116】
第十二の態様のグリーンシートの製造方法は、第一から第九の態様のいずれかい一つの焼成用スラリー組成物を塗布して乾燥することを含む。
【0117】
第十二の態様によれば、高い強度を維持したまま、高い柔軟性を有するグリーンシートが得られる。
【0118】
第十三の態様の焼結体の製造方法は、第十若しくは第十一の態様のグリーンシート、又は第十二の態様のグリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを焼成することを含む。
【0119】
第十三の態様によれば、上記のグリーンシートは、高い強度及び柔軟性を有するため、グリーンシートから積層セラミックコンデンサを作製するにあたって、多層に積層しても隣り合うシート同士の接着性に優れ、また容易に薄膜化が可能である。
【0120】
第十四の態様の積層セラミックコンデンサの製造方法は、第十若しくは第十一の態様のグリーンシート、又は第十二の態様グリーンシートの製造方法で得られるグリーンシートを複数枚重ねた積層体を焼成することを含む。
【0121】
第十四の態様によれば、多層に積層しても、隣り合うシート同士の接着性を高くすることができ、容易に薄膜化が可能である。