(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を使用した周波数多重化マイクロ波信号の選択的増幅
(51)【国際特許分類】
H03F 7/00 20060101AFI20221201BHJP
G06N 10/00 20220101ALI20221201BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H03F7/00
G06N10/00
H03F3/68
(21)【出願番号】P 2020529381
(86)(22)【出願日】2018-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2018050246
(87)【国際公開番号】W WO2019105592
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】アブド、バレーフ
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-541146(JP,A)
【文献】特開2005-295428(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149319(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0062107(US,A1)
【文献】国際公開第2017/082983(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/138406(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 7/00
G06N 10/00
H03F 3/68
H03K 19/195
H03K 17/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジョセフソン・デバイスのセットであり、前記セットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスが、対応するマイクロ波周波数動作帯域幅を有し、異なる動作帯域幅が、対応する異なる中心周波数を有
し、
前記ジョセフソン・デバイスが、マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器(MPIJDA)であり、前記MPIJDAが、第1の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第1のパラメトリック増幅器)と、第2の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第2のパラメトリック増幅器)と、前記MPIJDAの第1の入力/出力(I/O)ポートに結合された第1のポート、前記MPIJDAの第2のI/Oポートに結合された第2のポート、前記第1のパラメトリック増幅器に結合された第3のポートおよび前記第2のパラメトリック増幅器に結合された第4のポートを有する90°ハイブリッドとを備える、前記ジョセフソン・デバイスのセットと、
前記セットの中の第1のジョセフソン・デバイスと前記セットの中のn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合であり、前記直列結合により、前記第1のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第1の信号流れ方向において、周波数多重化マイクロ波信号(多重化信号)の中の第1の周波数の信号を増幅し、前記n番目のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第2の信号流れ方向において、n番目の周波数の信号を増幅し、前記第2の信号流れ方向が前記第1の信号流れ方向とは反対である、前記直列結合と
を備え、
前記第1のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号を増幅して前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号および前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、
前記n番目のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号および前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号を増幅して前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させる、
カスケーディング選択的マイクロ波方向性増幅器(カスケード)。
【請求項2】
前記直列結合内の前記セットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに備え、nが2よりも大きく、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1のジョセフソン・デバイスと前記n番目のジョセフソン・デバイスとの間の前記直列結合に含まれており、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する、
請求項1に記載のカスケード。
【請求項3】
前記直列結合内の前記セットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに備え、nが2よりも大きく、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1のジョセフソン・デバイスと前記n番目のジョセフソン・デバイスとの間の前記直列結合に含まれており、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第2の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する、
請求項1に記載のカスケード。
【請求項4】
前記直列結合により、前記第1のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の前記第1の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の前記n番目の周波数の前記信号を増幅なしで伝搬させ、前記n番目のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の前記第2の信号流れ方向において、前記第1の周波数の前記信号を増幅なしで伝搬させる、
請求項1に記載のカスケード。
【請求項5】
前記第1のジョセフソン・デバイスに対応する第1のマイクロ波周波数動作帯域幅が、少なくとも一部の周波数について、前記n番目のジョセフソン・デバイスに対応するn番目のマイクロ波周波数動作帯域幅と重なっていない、
請求項1に記載のカスケード。
【請求項6】
前記カスケードの全体の増幅帯域幅が、前記第1の動作帯域幅および前記n番目の動作帯域幅を含む、
請求項5に記載のカスケード。
【請求項7】
前記マイクロ波信号が、前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器内における前記第1のI/Oポートから前記第2のI/Oポートへの第1の方向に伝搬する間は、前記第1の周波数の信号は増幅されて前記第1の周波数の信号以外の信号は増幅されずに伝送され、前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器内における前記第2のI/Oポートから前記第1のI/Oポートへの第2の方向に伝搬する間は、前記第1の周波数の信号および前記第1の周波数の信号以外の信号は増幅されずに伝送され、前記第1の周波数が前記第1のジョセフソン・デバイスの第1の動作帯域幅内にある、
請求項1に記載のカスケード。
【請求項8】
第1のマイクロ波ドライブを、ポンプ周波数および第1のポンプ位相で前記第1のパラメトリック増幅器に注入する第1のマイクロ波ポンプであり、前記第1のパラメトリック増幅器を低パワー利得動作点で動作させるように構成された前記第1のマイクロ波ポンプと、
第2のマイクロ波ドライブを、前記ポンプ周波数および第2のポンプ位相で前記第2のパラメトリック増幅器に注入する第2のマイクロ波ポンプであり、前記第2のパラメトリック増幅器を前記低パワー利得動作点で動作させるように構成された前記第2のマイクロ波ポンプと
をさらに備える、請求項7に記載のカスケード。
【請求項9】
前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器がそれぞれ非縮退3波混合パラメトリック増幅器である、請求項7に記載のカスケード。
【請求項10】
前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器がそれぞれジョセフソン・パラメトリック変換器(JPC)であり、前記第1のパラメトリック増幅器と前記第2のパラメトリック増幅器が公称で全く同じものである、請求項7に記載のカスケード。
【請求項11】
カスケーディング選択的マイクロ波方向性増幅器(カスケード)を形成する方法であって、前記方法が、
ジョセフソン・デバイスのセットを製造することであって、前記セットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスが、対応するマイクロ波周波数動作帯域幅を有し、異なる動作帯域幅が、対応する異なる中心周波数を有
し、
前記ジョセフソン・デバイスが、マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器(MPIJDA)であり、前記MPIJDAが、第1の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第1のパラメトリック増幅器)と、第2の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第2のパラメトリック増幅器)と、前記MPIJDAの第1の入力/出力(I/O)ポートに結合された第1のポート、前記MPIJDAの第2のI/Oポートに結合された第2のポート、前記第1のパラメトリック増幅器に結合された第3のポートおよび前記第2のパラメトリック増幅器に結合された第4のポートを有する90°ハイブリッドとを備える、前記製造することと、
前記セットの中の第1のジョセフソン・デバイスと前記セットの中のn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合を形成することであって、前記直列結合により、前記第1のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第1の信号流れ方向において、周波数多重化マイクロ波信号(多重化信号)の中の第1の周波数の信号を増幅し、前記n番目のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第2の信号流れ方向において、n番目の周波数の信号を増幅し、前記第2の信号流れ方向が前記第1の信号流れ方向とは反対である、前記形成することと
を含み、
前記第1のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号を増幅して前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号および前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、
前記n番目のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号および前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号を増幅して前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させる、
方法。
【請求項12】
超電導体製造システムであって、カスケーディング選択的マイクロ波方向性増幅器(カスケード)を製造するために動作させたときに、
ジョセフソン・デバイスのセットを製造することであって、前記セットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスが、対応するマイクロ波周波数動作帯域幅を有し、異なる動作帯域幅が、対応する異なる中心周波数を有
し、
前記ジョセフソン・デバイスが、マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器(MPIJDA)であり、前記MPIJDAが、第1の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第1のパラメトリック増幅器)と、第2の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第2のパラメトリック増幅器)と、前記MPIJDAの第1の入力/出力(I/O)ポートに結合された第1のポート、前記MPIJDAの第2のI/Oポートに結合された第2のポート、前記第1のパラメトリック増幅器に結合された第3のポートおよび前記第2のパラメトリック増幅器に結合された第4のポートを有する90°ハイブリッドとを備える、前記製造することと、
前記セットの中の第1のジョセフソン・デバイスと前記セットの中のn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合を形成することであって、前記直列結合により、前記第1のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第1の信号流れ方向において、周波数多重化マイクロ波信号(多重化信号)の中の第1の周波数の信号を増幅し、前記n番目のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の第2の信号流れ方向において、n番目の周波数の信号を増幅し、前記第2の信号流れ方向が前記第1の信号流れ方向とは反対である、前記形成することと
を含む動作を実行し、
前記第1のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号を増幅して前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記第1の周波数の信号および前記第1の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、
前記n番目のジョセフソン・デバイスは、前記第1の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号および前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させ、前記第2の信号流れ方向に前記多重化信号を入力して出力するときは、前記n番目の周波数の信号を増幅して前記n番目の周波数の信号以外の信号を増幅せずに前記多重化信号を伝搬させる、
超電導体製造システム。
【請求項13】
前記直列結合内の前記セットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに備え、nが2よりも大きく、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1のジョセフソン・デバイスと前記n番目のジョセフソン・デバイスとの間の前記直列結合に含まれており、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する、
請求項12に記載の超電導体製造システム。
【請求項14】
前記直列結合内の前記セットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに備え、nが2よりも大きく、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第1のジョセフソン・デバイスと前記n番目のジョセフソン・デバイスとの間の前記直列結合に含まれており、前記(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、前記第2の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する、
請求項12に記載の超電導体製造システム。
【請求項15】
前記直列結合により、前記第1のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の前記第1の信号流れ方向において、前記多重化信号の中の前記n番目の周波数の前記信号を増幅なしで伝搬させ、前記n番目のジョセフソン・デバイスが、前記直列結合内の前記第2の信号流れ方向において、前記第1の周波数の前記信号を増幅なしで伝搬させる、
請求項12に記載の超電導体製造システム。
【請求項16】
前記第1のジョセフソン・デバイスに対応する第1のマイクロ波周波数動作帯域幅が、少なくとも一部の周波数について、前記n番目のジョセフソン・デバイスに対応するn番目のマイクロ波周波数動作帯域幅と重なっていない、
請求項12に記載の超電導体製造システム。
【請求項17】
前記カスケードの全体の増幅帯域幅が、前記第1の動作帯域幅および前記n番目の動作帯域幅を含む、
請求項16に記載の超電導体製造システム。
【請求項18】
前記マイクロ波信号が、前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器内における前記第1のI/Oポートから前記第2のI/Oポートへの第1の方向に伝搬する間は、前記第1の周波数の信号は増幅されて前記第1の周波数の信号以外の信号は増幅されずに伝送され、前記第1のパラメトリック増幅器および前記第2のパラメトリック増幅器内における前記第2のI/Oポートから前記第1のI/Oポートへの第2の方向に伝搬する間は、前記第1の周波数の信号および前記第1の周波数の信号以外の信号は増幅されずに伝送され、前記第1の周波数が前記第1のジョセフソン・デバイスの第1の動作帯域幅内にある、
請求項12に記載の超電導体製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、量子コンピューティングにおいて超電導キュービット(superconducting qubit)とともに使用可能な周波数多重化マイクロ波光増幅器(frequency multiplexed microwave light amplifier)のためのデバイス、製造方法および製造システムに関する。より詳細には、本発明は、帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器(cascading multi-path interferometric Josephson directional amplifier)を使用して周波数多重化マイクロ波信号を選択的に増幅するためのデバイス、方法およびシステムに関する。この方向性増幅器は、非縮退3波混合ジョセフソン・デバイス(nondegenerate three-wave-mixing Josephson device)に基づく。
【背景技術】
【0002】
使用されている箇所で特に識別されていない限り、本明細書では以降、句の語の中の接頭辞「Q」が、量子コンピューティング文脈においてその語または句に言及していることを示す。
【0003】
分子および亜原子粒子(subatomic particle)は量子力学の法則に従う。量子力学は、物質界(physical world)がどのように機能しているのかを最も基本的なレベルで探究する物理学の一部門である。このレベルで、粒子は不思議な振舞いを示し、同時に2つ以上の状態をとり、非常に遠く離れた別の粒子と相互作用する。量子コンピューティングはこれらの量子現象を利用して情報を処理する。
【0004】
現在我々が使用しているコンピュータは、古典的コンピュータ(本明細書では「従来型」コンピュータまたは従来型ノード(conventional node)ないし「CN」とも呼ぶ)として知られている。従来型コンピュータは、半導体材料および半導体技術、半導体メモリ、ならびに磁気または固体記憶デバイスを使用して製造された従来型のプロセッサを、フォン・ノイマン型アーキテクチャとして知られてアーキテクチャ内で使用する。具体的には、従来型コンピュータのプロセッサは、2進プロセッサ、すなわち1および0で表された2進データに対して演算を実施するプロセッサである。
【0005】
量子プロセッサ(qプロセッサ)は、エンタングルされた(entangled)キュービット・デバイス(本明細書では簡潔に「キュービット」(「qubit」、複数形は「qubits」)と呼ぶ)の変わった性質を使用して、計算タスクを実行する。量子力学が機能する特定の領域において、物質の粒子は、例えば「オン」状態、「オフ」状態、および同時に「オン」と「オフ」の両方の状態など、多数の状態で存在しうる。半導体プロセッサを使用する2進コンピューティングは、(2進コードの1および0と等価の)オン状態およびオフ状態だけを使用することに限定されているが、量子プロセッサは、物質のこれらの量子状態を利用して、データ・コンピューティングで使用可能な信号を出力する。
【0006】
従来型コンピュータは、情報をビットとしてコード化する。それぞれのビットは値1または0をとることができる。これらの1および0は、コンピュータ機能を最終的に駆動するオン/オフ・スイッチの働きをする。他方、量子コンピュータはキュービットに基づき、キュービットは、量子物理学の鍵となる2つの原理、すなわち重ね合わせ(superposition)およびエンタングルメント(entanglement)に従って動作する。重ね合わせは、それぞれのキュービットが1と0の両方を同時に表すことができることを意味する。エンタングルメントは、重ね合わせのキュービットを古典的でない手法で互いに相関させることができること、すなわち、1つの状態(それが1なのかもしくは0なのかまたはその両方であるのかは問わない)が別の状態に依存しうること、および2つのキュービットがエンタングルされているときの方が、それらの2つのキュービットが個別に処理されるときよりも、それらの2つのキュービットに関して確認することができるより多くの情報が存在することを意味する。
【0007】
これらの2つの原理を使用して、キュービットは、従来型コンピュータを使用することによっては手に負えない難しい問題を量子コンピュータが解決することを可能にする手法で量子コンピュータが機能することを可能にする、より洗練された情報プロセッサとして動作する。IBM(R)は、超電導キュービットを使用した量子プロセッサを構築し、その動作可能性(operability)を示すことに成功した(IBMは、米国および他の国におけるInternational Business Machines社の登録商標である)。
【0008】
超電導キュービットはジョセフソン接合を含む。ジョセフソン接合は、2つの薄膜超電導金属層を非超電導材料によって分離することによって形成される。超電導層の金属を、例えばその金属の温度を指定された極低温まで下げることによって超電導性にすると、非超電導層を通して一方の超電導層からもう一方の超電導層へ電子の対がトンネリングすることができる。キュービットでは、分散非線形インダクタとして機能するジョセフソン接合が、1つまたは複数の容量性デバイスと並列に電気的に結合されて、非線形マイクロ波発振器を形成する。この発振器は、キュービット回路のインダクタンスおよび静電容量の値によって決まる共振/遷移周波数を有する。使用されている箇所で特に識別されていない限り、用語「キュービット」への言及は、ジョセフソン接合を使用した超電導キュービット回路への言及である。
【0009】
キュービットによって処理された情報は、マイクロ波周波数範囲のマイクロ波信号/光子の形態で搬送または伝送される。それらのマイクロ波信号は、その中にコード化された量子情報を解読するために捕捉、処理および解析される。読出し回路は、キュービットの量子状態を捕捉し、読み出し、測定するためにキュービットに結合された回路である。読出し回路の出力は、計算を実行するためにqプロセッサによって使用可能な情報である。
【0010】
超電導キュービットは2つの量子状態、すなわち|0>および|1>を有する。これらの2つの状態は、原子の2つのエネルギー状態、例えば人工超電導原子(超電導キュービット)の基底状態(|g>)および第1の励起状態(|e>)とすることができる。他の例には、核スピンまたは電子スピンのスピンアップとスピンダウン、結晶欠陥の2つの位置、量子ドットの2つの状態などがある。このシステムは量子性を有するため、これらの2つの状態の任意の組合せが許容され、有効である。
【0011】
キュービットを使用した量子コンピューティングを信頼性の高いものにするためには、量子回路、例えばキュービット自体、キュービットに関連した読出し回路および量子プロセッサの他の部分が、エネルギーを注入しもしくは放散させることなどによって、キュービットのエネルギー状態をあまり変更してはならず、またはキュービットの|0>状態と|1>状態の間の相対位相に影響を与えてはならない。量子情報を使用して動作する回路に対するこの動作上の制約は、このような回路で使用される半導体および超電導構造体を製造する際に特別な考慮を必要とする。
【0012】
方向性マイクロ波増幅器は、一方向においては、マイクロ波光波がデバイスを通過するときにマイクロ波光波のパワーを増大させ(増幅し)(順方向の顕著な順方向利得)、反対方向においては、マイクロ波光波が通過しようとしたときにマイクロ波光波をあまり増幅しまたは減衰させることなく通過させる(逆方向のわずかな逆方向利得)デバイスである。本明細書で「増幅器」への言及は方向性マイクロ波増幅器への言及である。言い換えると、増幅器は、マイクロ波光パワーの増強器として動作し、デバイスの応答は、デバイス内をマイクロ波光が伝搬する方向に依存する。量子コンピューティングでは、処理後の信号にほとんどまたは全く雑音を追加することなく、指定された流れ方向に量子プロセッサに入る弱いマイクロ波信号および量子プロセッサを出た弱いマイクロ波信号を増幅するために、低雑音の増幅器が使用される。
【0013】
本明細書では以降、非縮退3波混合ジョセフソン・パラメトリック・デバイスに基づくマルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を、簡潔に、かつ相互に交換可能に、マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器(Multi-Path Interferometric Josephson Directional Amplifier:MPIJDA)と呼ぶ。MPIJDAデバイスを、超電導量子回路内のマイクロ波増幅器として実装することができる。MPIJDA内での方向性増幅は、デバイスを駆動している2つのポンプ・トーン(pump tone)間に位相勾配を与えることによって生成される。MPIJDAは、順方向において、MPIJDAの帯域幅内の周波数を有する信号を大幅に増幅する。MPIJDAの帯域幅内の周波数を有する、逆方向に伝搬している信号は、2dB程度の少量(わずかな量)だけ増幅され、一方、MPIJDAの帯域の外側の周波数を有する信号は、逆方向において、利得なしでまたはごくわずかな利得で伝送される。説明を分かりやすくするため、MPIJDA内の逆方向の増幅は、どの周波数の信号でもゼロ利得(zero-gain)とみなす。
【0014】
増幅(光子利得(photon gain))モードで動作させることにより、超電導非縮退3波混合パラメトリック増幅器デバイスをMPIJDAの一部として使用することができる。この非縮退3波パラメトリック増幅器をジョセフソン・パラメトリック変換器(Josephson parametric converter:JPC)とすることができる。
【0015】
超電導非縮退3波混合パラメトリック増幅器は3つのポートを有する。この3つのポートは、周波数fSのマイクロ波信号を入力することができる信号ポート(S)、周波数fIのアイドラ(idler)マイクロ波信号を入力することができるアイドラ・ポート(I)、および周波数fP、パワーPP、位相φpのマイクロ波信号を入力することができるポンプ・ポート(P)である。この超電導非縮退3波混合パラメトリック増幅器が非縮退と特徴づけられるのは、この増幅器が、空間とスペクトルの両方に関して異なる2つのモード、すなわちSモードおよびIモードを有するためである。
【0016】
それぞれ小さな3~7dBの利得を限度に動作する非縮退3波混合パラメトリック増幅器の適当な2つの表現物(manifestation)が、例示的な実施形態に基づくMPIJDA内の1つの構成要素として使用される。JPCは、非限定的なそのような1つの表現物である。
【0017】
量子回路では、マイクロ波信号が2つ以上の周波数の信号を含みうる。一般に、マイクロ波信号は1つの周波数帯域にわたって広がる。MPIJDAは一般に、そのMPIJDAがそれに合わせて調整された中心周波数の周囲の比較的に幅の狭い信号周波数帯域で動作する。例示的な実施形態は、たとえ信号の周波数が単一のMPIJDAの動作周波数帯域の外側にある場合であっても、異なる周波数を有する全てのまたは一部のマイクロ波信号を増幅することができる、新しい増幅器設計が求められていることを認識している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
超電導デバイスならびに該超電導デバイスの製造方法および製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一実施形態の超電導デバイスは、カスケーディング選択的マイクロ波方向性増幅器(カスケード)を形成し、このカスケーディング選択的マイクロ波方向性増幅器(カスケード)は、ジョセフソン・デバイスのセットであり、このセットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスが、対応するマイクロ波周波数動作帯域幅を有し、異なる動作帯域幅が、対応する異なる中心周波数を有する、ジョセフソン・デバイスのセットと、このセットの中の第1のジョセフソン・デバイスとこのセットの中のn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合であり、この直列結合により、第1のジョセフソン・デバイスが、直列結合内の第1の信号流れ方向において、周波数多重化マイクロ波信号(多重化信号)の中の第1の周波数の信号を増幅し、n番目のジョセフソン・デバイスが、直列内の第2の信号流れ方向において、n番目の周波数の信号を増幅し、第2の信号流れ方向が第1の信号流れ方向とは反対である、直列結合とを含む。
【0020】
別の実施形態では、このカスケードが、直列結合内のセットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに含み、nが1よりも大きく、(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、第1のジョセフソン・デバイスとn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合に含まれており、(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、第1の信号流れ方向において、多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する。
【0021】
別の実施形態では、このカスケードが、直列結合内のセットの中の(n-1)番目のジョセフソン・デバイスをさらに含み、nが1よりも大きく、(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、第1のジョセフソン・デバイスとn番目のジョセフソン・デバイスとの間の直列結合に含まれており、(n-1)番目のジョセフソン・デバイスが、第2の信号流れ方向において、多重化信号の中の(n-1)番目の周波数の信号を増幅する。
【0022】
別の実施形態では、この直列結合により、第1のジョセフソン・デバイスが、直列結合内の第1の信号流れ方向において、多重化信号の中のn番目の周波数の信号を増幅なしで伝搬させ、n番目のジョセフソン・デバイスが、直列内の第2の信号流れ方向において、第1の周波数の信号を増幅なしで伝搬させる。
【0023】
別の実施形態では、この直列結合により、第1のジョセフソン・デバイスが、直列結合内の第1の信号流れ方向において、多重化信号の中から、第1の周波数の信号を除く、第1のジョセフソン・デバイスに入来する全ての周波数の信号を増幅なしで伝搬させ、第1の周波数の信号を選択的に増幅し、この直列結合により、n番目のジョセフソン・デバイスが、直列結合内の第2の信号流れ方向において、多重化信号の中から、n番目の周波数の信号を除く、n番目のジョセフソン・デバイスに入来する全ての周波数の信号を増幅なしで伝搬させ、n番目の周波数の信号を選択的に増幅する。
【0024】
別の実施形態では、第1のジョセフソン・デバイスに対応する第1のマイクロ波周波数動作帯域幅が、少なくとも一部の周波数について、n番目のジョセフソン・デバイスに対応するn番目のマイクロ波周波数動作帯域幅と重なっていない。
【0025】
別の実施形態では、カスケードの全体の増幅帯域幅が、第1の動作帯域幅およびn番目の動作帯域幅を含む。
【0026】
別の実施形態では、ジョセフソン・デバイスのセットの中の第1のジョセフソン・デバイスがMPIJDAであり、このMPIJDAが、第1の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第1のパラメトリック増幅器)と、第2の非縮退マイクロ波パラメトリック増幅器デバイス(第2のパラメトリック増幅器)と、第1のパラメトリック増幅器の入力ポートおよび第2のパラメトリック増幅器の入力ポートに結合された第1の入力/出力(I/O)ポートと、第1のパラメトリック増幅器の入力ポートおよび第2のパラメトリック増幅器の入力ポートに結合された第2のI/Oポートとを備え、マイクロ波信号(第1のI/Oポートと第2のI/Oポートの間で伝達される第1の周波数の信号)が、第1のパラメトリック増幅器および第2のパラメトリック増幅器内における第1のI/Oポートから第2のI/Oポートへの第1の方向に伝搬する間は伝送され、第1のパラメトリック増幅器および第2のパラメトリック増幅器内における第2のI/Oポートから第1のI/Oポートへの第2の方向に伝搬する間は実質的に増幅されず、第1の周波数が第1のジョセフソン・デバイスの第1の動作帯域幅内にある。
【0027】
別の実施形態では、このカスケードが、第1のマイクロ波ドライブを、ポンプ周波数および第1のポンプ位相で第1のパラメトリック増幅器に注入する第1のマイクロ波ポンプであり、第1のパラメトリック増幅器を低パワー利得動作点で動作させるように構成された第1のマイクロ波ポンプと、第2のマイクロ波ドライブを、ポンプ周波数および第2のポンプ位相で第2のパラメトリック増幅器に注入する第2のマイクロ波ポンプであり、第2のパラメトリック増幅器を低パワー利得動作点で動作させるように構成された第2のマイクロ波ポンプとをさらに含む。
【0028】
別の実施形態では、第1のパラメトリック増幅器および第2のパラメトリック増幅器がそれぞれ非縮退3波混合パラメトリック増幅器である。
【0029】
別の実施形態では、第1のパラメトリック増幅器および第2のパラメトリック増幅器がそれぞれジョセフソン・パラメトリック変換器(JPC)であり、第1のパラメトリック増幅器と第2のパラメトリック増幅器が公称で全く同じものである。
【0030】
一実施形態は、超電導デバイスを製造するための製造方法を含む。
【0031】
一実施形態は、超電導デバイスを製造するための製造システムを含む。
【0032】
本発明の特徴と考えられる新規の特徴は添付の請求項に示されている。しかしながら、本発明、本発明の好ましい使用モード、本発明のさらなる目的および利点は、添付図面とともに読んだときに、例示的な実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】カスケードの中で使用可能な例示的な実施形態に従うMPIJDAの例示的な構成のブロック図である。
【
図2】カスケードの中で使用可能な例示的な実施形態に従うMPIJDAの別の代替構成を示す図である。
【
図3】例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な構成および増幅動作のブロック図である。
【
図4】例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの利得がゼロに近い通過の逆方向動作の一例のブロック図である。
【
図5】帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を使用して、周波数多重化マイクロ波信号の中の全ての周波数の信号を増幅して伝搬させるためまたは増幅なしで伝搬させるための、例示的な実施形態に従う例示的なプロセスの流れ図である。
【
図6】例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な構成および選択的増幅動作のブロック図である。
【
図7】例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な選択的増幅動作のブロック図である。
【
図8】帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を使用して、周波数多重化マイクロ波信号の中の全てでない一部の周波数の信号をゼロに近い利得(以後、近ゼロ利得)で伝搬させるためまたは増幅するための、例示的な実施形態に従う例示的なプロセスの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を説明するために使用される例示的な実施形態は一般に、一部または全部の周波数多重化マイクロ波信号の信号を増幅する上述の必要性を対象とし、そのような必要性を解決する。例示的な実施形態は、帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を含む増幅器デバイスを提供し、この増幅器は、非縮退3波混合パラメトリック・増幅器ジョセフソン・デバイスに基づく。本明細書では、このようなカスケーディング増幅器デバイスを、簡潔に、カスケーディングMPIJDAと呼ぶ。
【0035】
1つの周波数または複数の周波数に関して実施すると本明細書に記載された動作は、その1つの周波数または複数の周波数の信号に関して実施すると解釈されるべきである。使用されている箇所で特に識別されていない限り、「信号」への言及は全て、マイクロ波信号への言及である。
【0036】
用語「周波数多重化信号(frequency multiplexed signal)」は、さまざまな周波数の多数の信号を含む複合信号を指し、したがって、この用語は、一緒に多重化されたさまざまな周波数の複数の信号を指す複数形の用語「周波数多重化信号(frequency multiplexed signals)」と異なるものではない。したがって、これらの2つの用語は相互に交換可能に使用され、多重化された異なる周波数の2つ以上の信号、またはデバイスに対してもしくは動作において一緒に示された異なる周波数の2つ以上の信号を意味する。
【0037】
一実施形態は、カスケーディングMPIJDAの構成を提供する。別の実施形態は、カスケーディングMPIJDAの製造方法を、ソフトウェア・アプリケーションとして実施することができるような形で提供する。製造方法の実施形態を実施するこのアプリケーションは、リソグラフィ・システムなどの既存の超電導体製造システムとともに機能するように構成することができる。
【0038】
説明を分かりやすくするため、その説明に限定される含意なしに、例示的な実施形態は、いくつかの例示的な構成を使用して説明される。この開示から、当業者は、記載された目的を達成するための記載された構成の多くの改変、適合および変更を考案することができ、例示的な実施形態の範囲内で同じことが企図される。
【0039】
さらに、図および例示的な実施形態では、例示的なパラメトリック増幅器、ハイブリッド(hybrid)および他の回路構成要素の簡略図が使用される。実際の製造または回路には、例示的な実施形態の範囲を逸脱することなく、本明細書に示されていないもしくは本明細書に記載されていない追加の構造体もしくは構成要素、または、示された構造体もしくは構成要素とは異なるが本明細書に記載された目的にかなう構造体もしくは構成要素が存在することがある。
【0040】
さらに、実際のまたは仮定の特定の構成要素に関して、例示的な実施形態は単なる例として記載されている。例示的なさまざまな実施形態によって説明されたステップを、カスケーディングMPIJDA内の記載された機能を提供することを目的としうる、またはそのような機能を提供するために転用しうるさまざまな構成要素を使用して回路を製造するように適合させることができ、そのような適合は、例示的な実施形態の範囲に含まれることが企図される。
【0041】
例示的な実施形態は、あるタイプの材料、電気特性、ステップ、数、信号周波数、回路、構成要素および用途に関して、単なる例として説明される。これらのアーチファクトおよび他の同様のアーチファクトの特定の表現物が本発明を限定することは意図されていない。例示的な実施形態の範囲内で、これらのアーチファクトおよび他の同様のアーチファクトの適当な表現物を選択することができる。
【0042】
本開示の例は、説明を分かりやすくするためだけに使用され、例示的な実施形態を限定するものではない。本明細書に挙げられた利点は、単なる例であり、それらの利点が例示的な実施形態を限定することは意図されていない。特定の例示的な実施形態によって追加の利点または異なる利点を実現することができる。さらに、特定の例示的な実施形態は、上に挙げた利点の一部もしくは全部を有することがあり、または上に挙げた利点を1つも持たないことがある。
【0043】
図1を参照して、この図は、カスケードの中で使用可能な例示的な実施形態に従うMPIJDAの例示的な構成のブロック図を示す。MPIJDA構成100は、非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Aと非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Bの対102を含む。非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Aおよび非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Bはそれぞれ低パワー利得動作点で動作している。
【0044】
非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Aは、物理ポートa1(信号ポートSに対応)、b1(信号ポートIに対応)、p1(信号ポートPに対応)およびb1’(信号ポートIに対応)を備えるように構成されている。ポンプ周波数(fP)は、アイドラ周波数(f2)と入力信号周波数(f1)の和であり、式108に従う。物理ポートb1’は、コールド・ターミネータ(cold terminator)を使用して終端されている。例えば、ポートb1’のコールド・ターミネーション(cold termination)を50オーム終端とすることができる。
【0045】
増幅器102Aと同様に、非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Bは、物理ポートa2、b2、p2およびb2’、ポンプ周波数(fP)ならびにコールド・ターミネータを備えるように構成されている。増幅器102Aのポートb1と増幅器102Bのポートb2は伝送線103を使用して互いに結合されている。
【0046】
90°ハイブリッド104のポート1および2はそれぞれ、本明細書に記載されたMPIJDA100のポート1および2を形成する。非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Aのポートa1はハイブリッド104のポート3に結合されている。非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Bのポートa2はハイブリッド104のポート4に結合されている。
【0047】
非縮退3波パラメトリック増幅器102Aおよび102Bのこの構成100、ならびに記載された構成要素を使用した同様の目的の他の可能な構成は、記号110として簡潔に表現される。例えば、
図2は、記載された構成要素を使用した同様の目的の別の可能な構成を示す。記号110の枠内の曲線矢印は、記号110内におけるポート1からポート2への信号の増幅方向を表している。言い換えると、MPIJDA110は、ポート2からポート1への信号は増幅しないが、ポート1からポート2への信号は増幅する。
【0048】
このMPIJDAデバイスのこの直列接続は、直観的には理解できない。電気要素または電子要素の通常の直列結合では、直列のパラメータ(例えば直列の帯域幅)が、直列鎖の中のそのパラメータの最弱/最小/最低値によって制限される。それらの要素の直列全体はその最弱/最小/最低値で動作する。対照的に、MPIJDAデバイスのカスケードでは、カスケードの中で使用されているMPIJDAデバイスの特別な特性のため、帯域外信号(デバイスの帯域幅に含まれない周波数の信号)に作用が及ばず、帯域外信号は、単純に通過することが許される。それぞれのデバイスは、信号のうち、そのデバイスの帯域幅内にある部分にだけ作用し(そのような部分だけを増幅し)、したがって、その帯域幅において非直観的な付加的スパン(additive span)を提供する。
【0049】
図2を参照して、この図は、カスケードの中で使用可能な例示的な実施形態に従うMPIJDAの別の代替構成を示す。ハイブリッド204は90°ハイブリッドである。ハイブリッド204は、
図1のハイブリッド104が非縮退3波混合パラメトリック増幅器102Aおよび102Bを備えるように構成されているのと実質的に同様に、ハイブリッドレスJPC(hybrid-less JPC)202AおよびハイブリッドレスJPC202Bを備えるように構成されている。構成200は、単一のポンプ・ドライブをハイブリッド206とともに使用して、ハイブリッドレスJPC202AおよびハイブリッドレスJPC202Bにポンプ入力を供給する。構成200も記号110によって表される。
【0050】
図3~
図5は、異なる周波数を有する全ての周波数多重化マイクロ波信号の信号を増幅するためまたは増幅なしで通過させるためのカスケーディング構成および該カスケーディング構成を動作させる方式を説明する。
図6~
図8は、全てでない一部の周波数多重化マイクロ波信号の信号を選択的に増幅するためまたは増幅なしで通過させるための異なるカスケーディング構成および該カスケーディング構成を動作させる方式を説明する。
【0051】
図3を参照して、この図は、例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な構成および増幅動作のブロック図を示す。このカスケーディング構成は、カスケードされたいずれかのMPIJDAデバイスの帯域幅内の異なる周波数を有する全ての周波数多重化マイクロ波信号の信号を増幅する。MPIJDAデバイス302
1、302
2...302
Nはそれぞれ、記号110に従うMPIJDAである。MPIJDAデバイス302
1~302
Nは、構成300の中のカスケードされたN個(N>1)のMPIJDAデバイスを表す。
【0052】
MPIJDAデバイスのカスケーディングは、MPIJDAデバイスの直列接続であり、この直列接続によって、マイクロ波信号入力を受け取るために(カスケード300は曲線矢印によって示された増幅方向に動作していると仮定する)、最初のMPIJDA(3021)のポート1が外部回路に結合され、最初のMPIJDA(3021)のポート2が次のMPIJDA(3022)のポート1に結合され、次のMPIJDA(3022)のポート2が次のMPIJDAのポート1に結合され、以下同様に結合され、最終的にN-1番目のMPIJDAのポート2が最後のMPIJDA(302N)のポート1に結合され、最後のMPIJDA(302N)のポート2が、カスケード300が増幅マイクロ波信号出力を提供する先の外部回路に結合される。
【0053】
カスケード300のそれぞれのMPIJDA3021~302Nは、それぞれのMPIJDA3021~302Nが、同じ方向(それらのそれぞれの記号の中の曲線矢印の方向。矢印は全て同じ方向を向いている)に入力信号を増幅し、同じ反対方向(それらのそれぞれの記号の中の曲線矢印の方向とは反対の方向)では入力信号を増幅なしで通過させるように構成されている。
【0054】
さらに、カスケード300の中のそれぞれのMPIJDA3021~302Nは、実質的に重なっていない周波数帯域で動作する。例えば、MPIJDA3021は、中心周波数がf1である狭い帯域幅(BW1)内で動作する。すなわちBW1の半分はf1以下であり、f1を含み、BW1の半分はf1よりも大きい。したがって、BW1は[f1-BW1/2からf1+BW1/2]である。同様に、MPIJDA3022は、中心周波数f2および[f2-BW2/2からf2+BW2/2]のBW2を有する。セットの中のMPIJDAデバイスは同様の方式で規定され、MPIJDA302Nは、中心周波数fNおよび[fN-BWN/2からfN+BWN/2]のBWNを有する。BW1...BWNは重なっていないか、またはわずかな量だけ重なっている。
【0055】
カスケーディング構成300の中のMPIJDAは、そのMPIJDAがそれに合わせて調整された周波数帯域幅内の信号に対してだけ動作する。言い換えると、MPIJDAは、(ポート1からポート2への方向に流れる)そのMPIJDAの動作帯域幅内に含まれる周波数の信号を増幅し、(ポート2からポート1への方向に流れる)そのMPIJDAの動作帯域幅内に含まれる周波数の信号を増幅なしで通過させる。MPIJDAは、そのMPIJDAの動作帯域幅の外側の周波数の信号を、両方向に、実質的にゼロ利得の方式で増幅なしで通過させる。
【0056】
例えば、MPIJDA3022のポート1からMPIJDA3022のポート2に信号が流れる場合、MPIJDA3022は、BW2内の周波数の信号だけを(かなり大きなパワー利得で)増幅し、BW1、BW3、BW4...BWN内の周波数の信号が実質的にゼロ利得の方式で増幅方向に流れることは許す。非増幅方向において、MPIJDA3022は、BW2内の周波数の信号だけでなく、BW1、BW3、BW4...BWN内の周波数の信号も、実質的にゼロ利得の方式で通過することを許す。構成300の中のそれぞれのMPIJDA3021...302Nは、そのそれぞれの動作帯域幅に対して、およびその動作帯域幅の外側の信号周波数に対してこの方式で動作する。
【0057】
構成300において、MPIJDA3021は、増幅方向で周波数f1の信号を増幅する(MPIJDA3021のポート1およびポート2のf1の矢印のサイズを比べられたい(サイズは代表的なものであり、倍率は正確ではない))。これは、MPIJDA3021がBW1内の周波数の信号を増幅し、f1がBW1内の周波数であるためである。MPIJDA3021は、周波数f2...fNの信号が増幅なしで通過することを許す。これは、それらの信号周波数がBW1の帯域外の周波数であるためである。同様に、MPIJDA3022は、増幅方向において周波数f2の信号を増幅する(MPIJDA3022のポート1およびポート2のf2の矢印のサイズを比べられたい(サイズは代表的なものであり、倍率は正確ではない))。これは、MPIJDA3022がその動作帯域幅BW2内の周波数の信号を増幅し、f2がBW2内の周波数であるためである。MPIJDA3022は、周波数f1、fi...fNの信号が増幅なしで通過することを許す。これは、それらの周波数がBW2の外側の周波数であるためである。MPIJDA302Nは、増幅方向において周波数fNの信号を増幅する(MPIJDA302Nのポート1およびポート2のfNの矢印のサイズを比べられたい(サイズは代表的なものであり、倍率は正確ではない))。これは、MPIJDA302NがBWN内の周波数の信号を増幅し、fNがBWN内の周波数であるためである。MPIJDA302Nは、周波数f1...fN-1の信号が増幅なしで通過することを許す。これは、それらの周波数がBWNの外側の周波数であるためである。したがって、この図に示されているとおり、関与するMPIJDAデバイス3021...302Nの増幅方向において、周波数f1、f2...fNの信号を多重化した入力信号は、カスケード300内で、周波数f1、f2...fNの信号のパワーの増幅を受ける。
【0058】
構成300は、カスケーディングMPIJDA302として簡潔に表現される。したがって、カスケーディングMPIJDA302が増幅することができる有効帯域幅は下記のとおりである。
BW={[f1-BW1/2からf1+BW1/2],[f2-BW2/2からf2+BW2/2],...[fN-BWN/2からfN+BWN/2]}
【0059】
カスケーディングMPIJDA302の増幅帯域幅BWは、構成300の中のどの単一のMPIJDAの増幅帯域幅よりも大きい。したがって、カスケーディングMPIJDA302は、単一のMPIJDAの動作帯域幅よりも幅広い帯域幅にわたって動作可能である。カスケーディングMPIJDA302の増幅動作は、多重化周波数f1、f2...fNの信号が、(カスケードの最初のMPIJDAのポート1である)カスケーディングMPIJDA302のポート1から(カスケードの最後のMPIJDAのポート2である)カスケーディングMPIJDA302のポート2まで増幅することを示す。
【0060】
図4を参照して、この図は、例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの利得がゼロに近い通過の逆方向動作の一例のブロック図を示す。このカスケーディング構成は、周波数多重化マイクロ波信号の中の全ての周波数の信号をあまり増幅せずに通過させる。カスケード300、MPIJDAデバイス302
1、302
2...302
NおよびカスケーディングMPIJDA302は
図3と同じものである。周波数f
1は、MPIJDA302
1のBW
1内の周波数、f
2は、MPIJDA302
2のBW
2内の周波数、...f
Nは、MPIJDA302
NのBW
N内の周波数である。
【0061】
この図の逆方向動作では、周波数f1、f2...fNの信号がカスケード300のポート2、すなわちカスケード300の最後のMPIJDA(302N)のポート2に入力される。カスケード300では、MPIJDA302Nが、逆方向(ポート2からポート1の方向)において、帯域内周波数fNの信号および帯域BWNの外側の周波数fN-1...f1の信号を増幅なしで通過させる。同様に、N-1番目のMPIJDAは、逆方向において、帯域内周波数fN-1の信号および帯域幅BWN-1の外側の周波数fN、fN-2...f1の信号を通過させる。
【0062】
このように動作すると、それぞれのMPIJDAは、逆方向において、それぞれの帯域内および帯域外周波数の信号を増幅なしで通過させる。したがって、逆方向では、多重化入力信号の中のどの周波数f1...fNの信号も増幅されずにカスケード300のポート1に到達する。したがって、この図に示されているとおり、関与するMPIJDAデバイス3021...302Nの逆方向において、周波数f1、f2...fNを多重化した入力信号は、カスケード300によって実質的に変化しない(ゼロまたはごくわずかな利得)。
【0063】
構成300に従うカスケーディングMPIJDA302は、カスケーディングMPIJDA302が増幅なしに通過させることができる下記の有効帯域幅を有する。
BW={[f1-BW1/2からf1+BW1/2],[f2-BW2/2からf2+BW2/2],...[fN-BWN/2からfN+BWN/2]}
【0064】
この場合も、カスケーディングMPIJDA302の非増幅帯域幅BWは、構成300の中のどの単一のMPIJDAの非増幅帯域幅よりも大きい。したがって、カスケーディングMPIJDA302は、逆方向において、単一のMPIJDAの動作帯域幅よりも幅広い帯域幅にわたる周波数多重化信号を利得なしに通過させるように動作可能である。カスケーディングMPIJDA302の近ゼロ利得逆方向動作は、(カスケードの最後のMPIJDAのポート2である)カスケーディングMPIJDA302のポート2から、(カスケードの最初のMPIJDAのポート1である)カスケーディングMPIJDA302のポート1まで、周波数f1、f2...fNの多重化信号が、実質的に変化せずに伝搬することを示す。
【0065】
図5を参照して、この図は、帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を使用して、周波数多重化マイクロ波信号の中の全ての周波数の信号を増幅して伝搬させるためまたは増幅なしで伝搬させるための、例示的な実施形態に従う例示的なプロセスの流れ図を示す。プロセス500は、
図3および
図4に記載された動作のためにカスケーディングMPIJDA302を使用して実施することができる。
【0066】
ジョセフソン・デバイスのセットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスをMPIJDAとして構成する(ブロック502)。1つのMPIJDAを別のMPIJDAに直列接続で接続することにより、これらのMPIJDAデバイスをカスケードとして接続する(ブロック504)。この直列接続の中のMPIJDAデバイスは、直列の中の全てのMPIJDAデバイスが、カスケード内の同じ信号流れ方向において、それらのそれぞれの周波数のマイクロ波信号を増幅するように構成される。このカスケードは、セットの中の全てのMPIJDAデバイスをこのように直列に追加することによって構築される(ブロック506)。
【0067】
このカスケードは、直列の中のいずれかのMPIJDAデバイスの帯域幅に対応する周波数を有する入力マイクロ波信号を(
図3の場合のように)増幅するように、または(
図4の場合のように)ほとんどもしくは全く増幅せずに通過させるように動作する(ブロック508)。
【0068】
次に、
図6~
図8は、周波数多重化マイクロ波信号の中の全てでない一部の周波数の信号を選択的に増幅するためまたは増幅なしで選択的に通過させるための異なるカスケーディング構成および該カスケーディング構成を動作させる方式を説明する。
【0069】
図6を参照して、この図は、例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な構成および選択的増幅動作のブロック図を示す。このカスケーディング構成は、周波数多重化マイクロ波信号の中の一部の周波数の信号だけを増幅する。MPIJDAデバイス602
1、602
2...602
Nはそれぞれ、記号110に従うMPIJDAである。MPIJDAデバイス602
1~602
Nは、構成600の中のカスケードされたN個(N>1)のMPIJDAデバイスを表す。
【0070】
MPIJDAデバイスのカスケーディングは、MPIJDAデバイスの直列接続であり、この直列接続によって、直列の中のMPIJDAを、そのMPIJDA内の増幅方向が直列内の信号流れ方向と一致するように、またはそのMPIJDA内の非増幅(近ゼロ利得)方向が直列内の信号流れ方向と一致するように接続することができる。例えば、非限定的な例示的なカスケード600は、周波数多重化マイクロ波信号入力を受け取るために最初のMPIJDA(602
1)のポート1を外部回路に結合することによって形成され、この場合には、MPIJDA602
1内の増幅方向が
図6の信号流れ方向と一致する。最初のMPIJDA(602
1)のポート2は次のMPIJDA(602
2)のポート2に結合され、この場合には、MPIJDA602
2内の増幅方向が
図6の信号流れ方向と一致する。MPIJDA602
2のポート1は次のMPIJDAのポート1に結合され、この場合には、この次のMPIJDA内の増幅方向が
図6の信号流れ方向と一致する。以下同様に結合され、最終的にN-1番目のMPIJDAのポート2が最後のMPIJDA(602
N)のポート2に結合され、最後のMPIJDA(602
N)のポート1が、カスケード600がマイクロ波信号出力を提供する先の外部回路に結合される。MPIJDA602
N内の逆方向の流れによって、MPIJDA602
Nは、MPIJDA602
Nの帯域内の周波数を有する信号だけをほとんど増幅せずに通過させる。
【0071】
限定する一切の含意なしに、単に説明を分かりやすくするために、例示的な構成600は、逆向きに接続された1つだけのMPIJDA(602N)を有するように示されている(このMPIJDAの増幅方向はカスケード内の信号流れ方向とは反対である)。ある周波数の信号を選択的に増幅するカスケードを構築するために、任意の数のMPIJDAデバイスを、それらのそれぞれの増幅方向を信号流れ方向と整列させて直列に結合し、任意の数のMPIJDAデバイスを、それらのそれぞれの増幅方向を信号流れ方向とは反対にして直列に結合することができる。このように構築されたカスケードは、信号流れ方向と整列した増幅方向を有する対応するMPIJDAデバイスの帯域幅内の周波数を有する信号を増幅し(そのような信号のパワーにかなり大きな利得を適用し)、このように構築されたカスケードは、信号流れ方向とは反対の増幅方向を有するMPIJDAデバイスに対応する周波数を有する信号を通過させる(わずかな増幅で伝搬させる)。
【0072】
したがって、周波数多重化マイクロ波信号の中のどのグループの信号周波数を伝搬させなければならないのかに応じて、一部のMPIJDA6021~602Nが、信号流れ方向(それらのそれぞれの記号の中の曲線矢印の方向。矢印は全て信号流れ方向と同じ方向を向いている)において入力信号の中の1つの周波数の信号を増幅するように、それらの周波数多重化マイクロ波信号の周波数に対応する帯域を有する1つまたは複数のMPIJDA6021~602Nが、カスケード600として構成される。また、周波数多重化マイクロ波信号の中のどの周波数を、増幅せずにまたはほとんど増幅せずに通過させなければならないのかに応じて、それらのMPIJDAが、信号流れ方向において近ゼロ利得を提供するように(それらのそれぞれの記号の中の曲線矢印の方向は信号流れ方向とは反対である)、それらの周波数多重化マイクロ波信号の周波数に対応する帯域を有する1つまたは複数のMPIJDA6021~602Nが、カスケード600として構成される。
【0073】
さらに、カスケード600の中のそれぞれのMPIJDA6021~602Nは、実質的に重なっていない周波数帯域で動作する。例えば、MPIJDA6021は、中心周波数がf1である比較的に狭い帯域幅(BW1)内で動作する。すなわちBW1の半分はf1以下であり、BW1の半分はf1よりも大きい。したがって、BW1は[f1-BW1/2からf1+BW1/2]である。同様に、MPIJDA6022は、中心周波数f2および[f2-BW2/2からf2+BW2/2]のBW2を有する。セットの中のMPIJDAデバイスは同様の方式で規定され、(N-1)番目のMPIJDAは、中心周波数fN-1および[fN-1-BWN-1/2からfN-1+BWN-1/2]のBWN-1を有し、MPIJDA602Nは、中心周波数fNおよび[fN-BWN/2からfN+BWN/2]のBWNを有する。BW1...BWNは重なっていないか、またはわずかな量だけ重なっている。
【0074】
カスケーディング構成600の中のMPIJDAは、そのMPIJDAがそれに合わせて調整された周波数帯域幅内の信号だけを増幅する。言い換えると、MPIJDAは、(そのMPIJDAのポート1からポート2への方向に流れる)その動作帯域幅内に含まれる周波数の信号を増幅する。MPIJDAは、そのMPIJDAの動作帯域幅の外側の周波数の信号を、両方向に、実質的にゼロ利得方式で通過させる。
【0075】
例えば、MPIJDA6022は、MPIJDA6022のポート1からMPIJDA6022のポート2に信号が流れる場合、BW2内の周波数の信号だけを増幅し、BW1、BW3、BW4...BWN-1、BWN内の周波数の信号が実質的にゼロ利得方式で増幅方向に通過することは許す。非増幅方向(ポート2からポート1の方向)において、MPIJDA6022は、BW2内の周波数の信号だけでなく、BW1、BW3、BW4...BWN-1、BWN内の周波数の信号も、実質的にゼロ利得方式で通過することを許す。構成600の中のそれぞれのMPIJDA6021...602Nは、そのそれぞれの動作帯域幅に対して、およびその動作帯域幅の外側の周波数に対してこの方式で動作する。
【0076】
構成600において、MPIJDA6021は、増幅方向で周波数f1の信号を増幅する。これは、MPIJDA6021がBW1内の周波数の信号を増幅し、f1がBW1内の周波数であるためである。MPIJDA6021は、周波数f2...fNの信号がゼロ利得で通過することを許す。これは、それらの周波数がBW1の外側の周波数であるためである。カスケード600の中のMPIJDAデバイス6022...602N-1が増幅方向を向くように構成されていると仮定すると、f1...fi...fN-1を含む多重化信号がMPIJDA602Nに到達する。しかしながら、MPIJDA602Nは、カスケード600の中で、非増幅方向を向くように構成されており(矢印604の方向が矢印606の方向とは逆である)、したがって、MPIJDA602Nは、周波数fNの信号に近ゼロ利得を適用する。これは、MPIJDA602Nが、ポート2からポート1の方向のBWN内の周波数の信号に対して近ゼロ利得を有し、fNがBWN内の周波数であるためである。MPIJDA602Nは、周波数f1、fi...fN-1の信号がゼロ利得で通過することを許す。これは、それらの周波数がBWNの外側の周波数であるためである。したがって、この図に示されているとおり、周波数f1...fNの信号を多重化した入力信号は、選択された周波数f1...fN-1についてはカスケード600内で増幅され、周波数fNの信号は、入力信号から増幅されることなく選択的に通過する。
【0077】
一般化すると、(カスケードのポート1の)入力信号が、周波数fA、fB、fC、fD、fE、fF、fGおよびfHの信号を有し、(fAの信号を増幅する)MPIJDA A、(fCの信号を増幅する)C、(fEの信号を増幅する)E、(fGの信号を増幅する)Gが、カスケードの中で、信号流れ方向に増幅するような向きに配置されており、(fBの信号を増幅する)MPIJDA B、(fDの信号を増幅する)D,(fFの信号を増幅する)F、(fHの信号を増幅する)Hが、カスケードの中で、信号流れ方向に、増幅なしでまたはわずかな増幅で信号を通過させるような向きに配置されている場合、(カスケードのポート2の)出力信号は、fA、fC、fEおよびfGの増幅信号を含み、fB、fD、fFおよびfHのほとんど増幅されていない信号を含む。
【0078】
したがって、カスケード600がある周波数の信号を選択的に増幅することができる有効帯域幅は下記のとおりである。
BW={[f1-BW1/2からf1+BW1/2],[f2-BW2/2からf2+BW2/2],...[fN-BWN/2からfN+BWN/2]}
【0079】
カスケード600の近ゼロ利得通過帯域幅または増幅帯域幅BWは、構成600の中のどの単一のMPIJDAの近ゼロ利得通過帯域幅または増幅帯域幅よりも大きい。したがって、カスケード600は、単一のMPIJDAの動作帯域幅よりも幅広い帯域幅にわたる周波数多重化信号の中のある周波数の信号を選択的に増幅するように動作可能である。
【0080】
図7を参照して、この図は、例示的な実施形態に従うカスケーディングMPIJDAの例示的な選択的増幅動作のブロック図を示す。このカスケーディング構成は、周波数多重化マイクロ波信号の中の全てでない一部の周波数の信号を選択的に増幅する。カスケード600およびMPIJDAデバイス602
1、602
2...602
Nは
図6と同じものである。周波数f
1は、MPIJDA602
1のBW
1内の周波数、f
2は、MPIJDA602
2のBW
2内の周波数、...f
N-1は、(N-1)番目のMPIJDAのBW
N-1内の周波数、f
Nは、MPIJDA602
NのBW
N内の周波数である。
【0081】
この図の選択的増幅動作では、周波数f1、f2...fNの信号が、示された信号流れ方向に、カスケード600のポート2、すなわちカスケード600の最後のMPIJDA(602N)のポート1に入力される。カスケード600のこの動作では、MPIJDA602Nが、周波数fNの信号を増幅し、帯域幅BWNの外側の周波数fN-1...f1の信号が増幅方向に通過することを許す。これは、MPIJDA602NがBWN内の周波数の信号だけを増幅し、fNがBWN内の周波数であるためである。(カスケード600の中のそれぞれのMPIJDAのそれぞれの周波数を表す矢印のサイズを比べられたい。)このように動作すると、MPIJDA602Nは、多重化入力マイクロ波信号の中の周波数fNの信号だけを事実上選択的に増幅する。N-1番目のMPIJDAは、逆方向において、帯域内周波数fN-1の信号および帯域幅BWN-1の外側の周波数fN-2...f1の信号を実質的にゼロ利得で通過させる。MPIJDA602Nはすでに周波数fNの信号を増幅しており、帯域外周波数fNの増幅信号も、MPIJDA602N-1をゼロ利得で通過する。
【0082】
このように動作すると、カスケード600内のMPIJDAの向きに応じて、それぞれのMPIJDAは、そのMPIJDAの帯域幅内の周波数の信号を増幅するか、またはほとんど増幅せずに通過させる。MPIJDA6022は反対の信号流れ方向に増幅を実施するため、MPIJDA6022は、周波数f2の信号をほとんど増幅せずに通過させる。MPIJDA6022はf1の信号を増幅なしで通過させる。これは、f1がBW2の外側の周波数であるためである。MPIJDA6021は、逆方向であるため、周波数f1の信号を増幅なしで通過させ、f2の信号を伝搬させる。これは、f2がBW1の外側の周波数であるためである。したがって、カスケード600のポート1、すなわちMPIJDA6021のポート1の出力信号は、周波数f1...fN-1の増幅されていない信号、および多重化入力信号f1...fNの中から選択的に増幅させた周波数fNの信号を含む。したがって、この図に示されているように、カスケード600によって、周波数f1...fNを多重化した入力信号が選択的に増幅される(全てでない一部の周波数の信号だけが増幅される)。
【0083】
カスケード600は、逆方向においてカスケーディングMPIJDA602が信号を選択的に増幅することができる下記の有効帯域幅を有する。
BW={[f1-BW1/2からf1+BW1/2],[f2-BW2/2からf2+BW2/2],...[fN-BWN/2からfN+BWN/2]}
【0084】
この場合も、逆方向におけるカスケード600の選択的増幅帯域幅BWは、構成600の中のどの単一のMPIJDAの増幅帯域幅よりも大きい。したがって、カスケード600は、単一のMPIJDAの動作帯域幅よりも幅広い帯域幅にわたる周波数多重化信号の中の一部の周波数の信号を選択的に増幅させるように動作可能である。
【0085】
この場合も、限定する一切の含意なしに、単に説明を分かりやすくするために、例示的な構成600は、カスケード内の信号流れ方向と整列した伝搬方向を有するように接続された1つだけのMPIJDA(602N)を有するように示されている。ある周波数の信号を選択的に増幅させるカスケードを構築するために、任意の数のMPIJDAデバイスを、それらのそれぞれの増幅方向を信号流れ方向と整列させて直列に結合し、任意の数のMPIJDAデバイスを、それらのそれぞれの増幅方向を信号流れ方向とは反対にして直列に結合することができる。このように構築されたカスケードは、信号流れ方向とは反対の伝搬方向を有するMPIJDAデバイスに対応する周波数の信号を近ゼロ利得で通過させ、信号流れ方向と整列した増幅方向を有するMPIJDAデバイスに対応する周波数の信号を増幅する。
【0086】
一般化すると、(カスケードのポート2の)入力信号が、周波数fA、fB、fC、fD、fE、fF、fGおよびfHの信号を有し、(fAの信号を増幅する)MPIJDA A、(fCの信号を増幅する)C、(fEの信号を増幅する)E、(fGの信号を増幅する)Gが、カスケードの中で、信号流れ方向に増幅するような向きに配置されており、(fBの信号を増幅する)MPIJDA B、(fDの信号を増幅する)D,(fFの信号を増幅する)F、(fHの信号を増幅する)Hが、カスケードの中で、信号流れ方向に近ゼロ利得で信号を通過させるような向きに配置されている場合、(カスケードのポート1の)出力信号は、周波数fA、fC、fEおよびfGの増幅信号を含み、fB、fD、fFおよびfHの信号はほとんど増幅されずに通過する。
【0087】
図8を参照して、この図は、帯域幅が重なっていないカスケーディング・マルチパス干渉ジョセフソン方向性増幅器を使用して、周波数多重化マイクロ波信号の中の全てでない一部の周波数の信号を近ゼロ利得で伝搬させるためまたは増幅するための、例示的な実施形態に従う例示的なプロセスの流れ図を示す。プロセス800は、
図6および
図7に記載された動作のためにカスケード600を使用して実施することができる。
【0088】
ジョセフソン・デバイスのセットの中のそれぞれのジョセフソン・デバイスをMPIJDAとして構成する(ブロック802)。1つのMPIJDAを別のMPIJDAに直列接続で接続することにより、これらのMPIJDAデバイスをカスケードとして接続する(ブロック804)。この直列接続の中のMPIJDAデバイスは、直列の中の少なくとも一部のMPIJDAデバイス(逆向きのMPIJDAデバイス)が、カスケード内の信号流れ方向において、それらのそれぞれの周波数のマイクロ波信号を近ゼロ利得で通過させるように構成される。このカスケードは、セットの中の全てのMPIJDAデバイスをこのように直列に追加することによって構築される(ブロック806)。
【0089】
このカスケードは、直列の中の逆向きのいずれかのMPIJDAデバイスに対応する周波数を含む周波数多重化入力マイクロ波信号を(
図6の場合のように)選択的に増幅するように、または(
図7の場合のように)近ゼロ利得で選択的に伝搬させるように動作する(ブロック808)。
【0090】
MPIJDAデバイスの回路要素およびそれらの回路要素への接続は、超電導材料でできたものとすることができる。対応するそれぞれの共振器および伝送/フィード/ポンプ線は、超電導材料でできたものとすることができる。ハイブリッド・カプラは、超電導材料でできたものとすることができる。(約10~100ミリケルビン(mK)または約4Kなどの低温で)超電導性である材料の例は、ニオブ、アルミニウム、タンタルなどを含む。例えば、ジョセフソン接合は超電導材料でできており、それらのトンネル接合は、酸化アルミニウムなどの薄いトンネル障壁でできたものとすることができる。キャパシタは、低損失誘電体材料によって分離された超電導材料でできたものとすることができる。さまざまな要素を接続する伝送線(すなわちワイヤ)は、超電導材料でできたものとすることができる。
【0091】
本明細書では、本発明のさまざまな実施形態が関連図を参照して説明される。本発明の範囲を逸脱することなく代替実施形態を考案することができる。以下の説明および図面には、要素間のさまざまな接続および位置関係(例えば上、下、隣りなど)が記載されているが、たとえ向きが変わっても記載された機能が維持されるときには、本明細書に記載された位置関係の多くは向きとは無関係であることを当業者は理解するであろう。これらの接続もしくは位置関係またはその両方は、特に指定されていない限り、直接的なものであることまたは間接的なものであることができ、本発明は、この点に関して限定を意図したものではない。したがって、実在物の結合は、直接結合または間接結合であることがあり、実在物間の位置関係は、直接的位置関係または間接的位置関係であることができる。間接的位置関係の例として、本明細書の説明に、層「A」を層「B」の上に形成すると記載されているとき、それは、層「A」および層「B」の関連特性および機能が中間層(例えば層「C」)によって実質的に変更されない限りにおいて、層「A」と層「B」との間に1つまたは複数の中間層が存在する状況を含む。
【0092】
特許請求の範囲および本明細書の解釈のために、以下の定義および略語が使用される。本明細書で使用されるとき、用語「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」もしくは「含有する(containing)」、またはこれらの用語の他の変異語は、非排他的包含(non-exlusive inclusion)をカバーすることが意図されている。例えば、要素のリストを含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの要素だけに限定されるわけではなく、明示的にはリストに入れられていない他の要素、あるいはこのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品または装置に固有の他の要素を含みうる。
【0093】
さらに、本明細書では、用語「例示的な」が、「例、事例または実例として役立つ」ことを意味するものとして使用されている。本明細書に「例示的」として記載された実施形態または設計は必ずしも、他の実施形態または設計よりも好ましいまたは有利であるとは解釈されない。用語「少なくとも1つの」および「1つまたは複数の」は、1以上の任意の整数、すなわち1、2、3、4などを含むと理解される。用語「複数の」は、2以上の任意の整数、すなわち2、3、4、5などを含むと理解される。用語「接続」は、間接「接続」および直接「接続」を含みうる。
【0094】
本明細書において「一実施形態」、「実施形態」、「例示的な実施形態」などへの言及は、記載されたその実施形態は特定の特徴、構造もしくは特性を含むことができるが、全ての実施形態がその特定の特徴、構造もしくは特性を含むこともありまたは含まないこともあることを示す。さらに、このような句が、同じ実施形態を指しているとは限らない。さらに、実施形態に関して特定の特徴、構造または特性が記載されているとき、明示的に記載されているか否かを問わない他の実施形態に関してそのような特徴、構造または特性に影響を及ぼすことは、当業者の知識の範囲内にあることが提示される。
【0095】
用語「約」、「実質的に」、「およそ」およびこれらの用語の変異語は、特定の数量の測定に関連した、本出願の提出時に利用可能な機器に基づく誤差の程度を含むことが意図されている。例えば、「約」は、所与の値の±8%、5%または2%の範囲を含みうる。
【0096】
本発明のさまざまな実施形態の以上の説明は、例示のために示したものであり、以上の説明が網羅的であること、または、以上の説明が、開示された実施形態だけに限定されることは意図されていない。当業者には、記載された実施形態の範囲および思想を逸脱しない多くの変更および変形が明らかである。本明細書で使用した用語は、実施形態の原理、実用的用途、もしくは市販されている技術にはない技術的改良点を最もよく説明するように、または本明細書に記載された実施形態を当業者が理解できるように選択した。