(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】アディポネクチン分泌促進剤、脂肪前駆細胞分化促進剤並びにそれらを含む医薬組成物、食品及び飼料
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20221201BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20221201BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20221201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221201BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221201BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
A61K36/185
A23L33/105
A23K10/30
A61P43/00 111
A61P3/10
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2017178808
(22)【出願日】2017-09-19
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】上村 知広
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祥子
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102068475(CN,A)
【文献】特開2013-107843(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2015-0077794(KR,A)
【文献】特開2010-202580(JP,A)
【文献】Global Journal of Pharmacology,2011年,Vol. 5, Issue 3,p. 186-190
【文献】Journal of Medicinal Plants Research,2011年,Vol. 5, Issue 31,p. 6805-6812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
A23K 10/00-10/40
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウビシ(Trapa bispinosa )の果皮の抽出物を有効成分として含むことを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項2】
トウビシ(Trapa bispinosa )の果皮の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪前駆細胞分化促進剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用医薬組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用食品。
【請求項6】
請求項2記載の脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用食品。
【請求項7】
請求項1に記載のアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用飼料。
【請求項8】
請求項2記載の脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアディポネクチン分泌促進剤、脂肪前駆細胞分化促進剤並びにそれらを含む医薬組成物、食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であるが、これは、遺伝的な因子に加えて、環境因子、特に、過食や運動不足といった生活習慣が、肥満発生の大きな要因となっている。メタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)の定義は、「内蔵脂肪の蓄積と、それを基盤にしたインスリン抵抗性及び糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧を複合合併するマルチプルリスクファクター症候群で、動脈硬化になりやすい状態」とされている。メタボリックシンドロームの有病者数は約940万人、予備軍者数は約1020万人、合わせて約1960万人と推定されている(2006年調査)。
【0003】
ヒトを含む哺乳動物には2種類の脂肪組織があることが知られている。そのうち、褐色脂肪組織は、脂肪を分解し熱産生を行う器官であるのに対し、白色脂肪組織は、皮下脂肪や内蔵脂肪(腸管膜脂肪)として存在している。近年の研究から、白色脂肪組織は単なる脂肪の貯蔵場所ではなく、様々な生理活性物質を産生、分泌し、生体へ大きな影響を及ぼす内分泌組織であることが明らかとなってきた。
【0004】
また、近年の研究結果から、肥満と脂肪組織における炎症の関係が注目されている。肥満は、脂肪組織の慢性炎症状態であり、これがアディポサイトカインの異常をきたし、その結果メタボリックシンドロームを引き起こす。よって、最上流の肥満(内蔵脂肪蓄積)の抑制はもちろんであるが、肥満による脂肪組織の炎症、アディポサイトカインの発現・分泌異常の正常化は脂肪組織を維持し、メタボリックシンドロームを治療、予防する重要な標的の一つと考えられる。
【0005】
また、近年の研究により、脂肪細胞は、その大きさにより性質が異なることが分かってきた。内蔵における小型脂肪細胞は、分泌タンパク質であるアディポネクチンを分泌しているが、脂肪細胞が肥大化することにより、アディポネクチンの分泌量が減少し、インスリン抵抗性が惹起される。更に、肥大化した脂肪細胞は、アポトーシスにより減少するが、その際に、TNF-α等のインスリン抵抗性を惹起する物質を多く放出することも知られている。なお、インスリン抵抗性とは、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの作用が十分に発揮できない状態をいう。インスリン抵抗性が惹起された結果、筋や脂肪組織の糖取り込み能が低下し、肝臓では糖新生が抑えられなくなる。その結果、血糖値が下がりにくくなり、血糖値を正常な状態に戻すためにより多くのインスリンが必要となる。この状態が続くと、膵臓のインスリン分泌機能が低下し、血糖値が上昇するため、II型糖尿病を引き起こすといわれる。
【0006】
アディポネクチンは最近になって同定されたタンパク質であるため、その作用等について不明な点も多いが、インスリン受容体を介さない細胞へのグルコースの取り込みの促進、肝臓や骨格筋のAMPキナーゼの活性化を介した細胞内の脂肪酸の減少及びインスリン抵抗性の亢進等の作用が報告されている。肥大化した脂肪細胞を減少させ、小型脂肪細胞を増加させると共に、アディポネクチンの産生を促進する作用を有する薬品として、ピオグリタゾン等のチアゾリジンジオン誘導体が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
また、アディポネクチンの産生促進作用及び/又は減少抑制作用を有する食品由来成分の探索も行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】星薬科大学オープン・リサーチ・センターWebサイト「糖尿病治療薬」(URL:http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/diabetes%20drugs.html)(「4.インスリン抵抗性改善薬・チアゾリジンジオン誘導体」参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、人工化合物等の薬品には副作用の懸念がある。一方、食品由来成分には、アディポネクチンの分泌促進活性が低いものや、脂肪前駆細胞の小型脂肪細胞への分化促進作用を示さないものもある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、安全で高い活性を示すアディポネクチン分泌促進剤及び脂肪前駆細胞分化促進剤並びにこれらの一方又は双方を含む医薬組成物、食品及び飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、トウビシ(Trapa bispinosa )の果皮の抽出物を有効成分として含むことを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0013】
本発明の第2の態様は、トウビシ(Trapa bispinosa )の果皮の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪前駆細胞分化促進剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係るアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様に係る脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0017】
本発明の第5の態様は、本発明の第1の態様に係るアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用食品を提供することにより上記課題を解決するものである。
本発明の第6の態様は、本発明の第2の態様に係る脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用食品を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0018】
本発明の第7の態様は、本発明の第1の態様に係るアディポネクチン分泌促進剤を含むアディポネクチン分泌促進用飼料を提供することにより上記課題を解決するものである。
本発明の第8の態様は、本発明の第2の態様に係る脂肪前駆細胞分化促進剤を含む脂肪前駆細胞分化促進用飼料を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアディポネクチン分泌促進剤及び脂肪前駆細胞分化促進剤の有効成分である化合物は、食経験のあるヒシ科に属する植物に含まれているものであり、安全性が確認されたものであると共に、本発明において見出されたように、高いアディポネクチン分泌促進活性及び脂肪前駆細胞分化促進活性を有する。このように、本発明によると、安全で活性の高いアディポネクチン分泌促進剤及び脂肪前駆細胞分化促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】トウビシ抽出物を用いた脂肪前駆細胞の分化促進試験における、オイルレッドO染色の結果を示すグラフである。
【
図2】トウビシ抽出物を用いた脂肪前駆細胞の分化促進試験における、アディポネクチン産生量の結果を示すグラフである。
【
図3】トウビシ抽出物を用いたヒト経口投与試験における、血中アディポネクチン濃度の変化を示すグラフである。
【
図4】トウビシ抽出物を用いたヒト経口投与試験における、女性被験者の血中アディポネクチン濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1の実施の形態に係るアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の第2の実施の形態に係る脂肪前駆細胞分化促進剤(以下、それぞれ「アディポネクチン分泌促進剤」及び「脂肪前駆細胞分化促進剤」と略称する場合がある。)は、ヒシ科に属する植物の果皮及び果実の一方又は双方に含まれる1又は複数の化合物を有効成分として含んでおり、それぞれ、小型脂肪細胞(白色脂肪細胞)からのアディポネクチンの分泌を促進する活性及び脂肪前駆細胞の小型脂肪細胞への分化を誘導又は促進する活性を有している。
【0022】
アディポネクチン分泌促進剤及び脂肪前駆細胞分化促進剤の有効成分であるヒシ科植物の果皮及び果実の一方又は双方に含まれる1又は複数の化合物としては、例えば、経口投与用の組成物の場合には、果皮や果実の粉砕物又は微粉化したものを含んでいてもよいが、例えば、注射剤として用いられる組成物等の製造の場合には、果実の搾汁や、果実及び果皮の一方又は双方の抽出物が好ましく用いられる。
【0023】
ヒシ科植物の果皮及び果実の一方又は双方に含まれる1又は複数の化合物は、好ましくは、果皮及び果実の一方又は双方の抽出物又は該抽出物より分離される1又は複数の化合物である。以下、果皮及び果実の一方又は双方の抽出物の調製方法について詳述する。
【0024】
ヒシ科植物の果実及び果皮は、生の実又は生の実から採取したもの、採取後乾燥したもの、乾燥した実又は乾燥した実から採取したもののいずれであってもよい。抽出効率を向上させるために、溶媒抽出の前に任意の方法を用いて破砕又は粉砕等の前処理を行ってもよい。
【0025】
抽出に用いられるヒシ科植物は特に制限されないが、具体例としては、ヒシ(Trapa japonica)、オニビシ(Trapa natans L. ver. japonica)、ヒメビシ(Trapa incisa)及びトウビシ(Trapa bispinosa Roxb.)が挙げられる。
【0026】
抽出に用いる溶媒としては、水、水溶液、水と混和する任意の1種以上の溶媒と水とを任意の割合で混合した混合溶媒(水性溶媒)を用いることができるが、好ましい抽出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの任意の2以上を任意の割合で混合した水性溶媒であり、特に好ましい抽出溶媒は、水、食品添加物として認められている有機溶媒であるエタノールと水とを任意の割合で混合した水性溶媒である。抽出溶媒の温度は、室温を超え抽出溶媒の沸点以下の任意の温度であってよいが、抽出効率、被抽出物の耐熱性及び揮発性等を考慮して決定されることが好ましい。
【0027】
抽出溶媒として水及び水性溶媒を用いる場合には、抽出効率を向上させるために、必要に応じて、酸、塩基、塩等を適宜含んでいてもよい。抽出に用いる水の温度及びpHについては特に制限はないが、pHについては、生体への使用を考慮して中性付近、より具体的にはpH4~9であることが好ましく、6~8であることがより好ましい。必要に応じて、抽出効率を向上させるために、加熱した抽出溶媒を用いてもよい。
【0028】
溶媒抽出は、任意の公知の方法により行うことができ、例えば、ヒシ科植物の果皮及び果実の一方又は双方を溶媒中で所定時間混合後、ろ過、遠心分離、デカンテーション等により固形分と分離する方法、ソックスレー抽出法等の連続抽出法等の方法を用いることができる。
【0029】
ヒシ科植物の果皮又は果実の溶媒抽出物から、1又は複数の化合物を分離する前に、高分子量成分や不溶分等を除去するために、透析、限外ろ過、ろ過、カラムクロマトグラフィー等による前処理を行ってもよい。
【0030】
ろ過により不溶分等を除去する場合には、必要に応じて、不純物を除去するために活性炭、ベントナイト、セライト等の吸着剤やろ過助剤を添加してもよい。特に抽出液の状態で用いる場合には、メンブレンフィルター等による除菌ろ過を併せて行うことが好ましい。
【0031】
必要に応じて上述のような前処理を行った溶媒抽出物の分離は、カラムクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー等の任意の公知の方法を用いて行うことができ、後述する、アディポネクチンの分泌の促進及び脂肪前駆細胞の小型脂肪細胞への分化の誘導又は促進に関連すると思われる各種の活性の高い画分を分画することにより行うことができる。
【0032】
ヒシ科植物の果皮又は果実の溶媒抽出物又はその画分(以下、「抽出物等」と略称する場合がある。)のアディポネクチンの分泌を促進する活性の評価は、in vitro及びin vivoのいずれにおいても行うことができ、抽出物等を含む培地上での小型脂肪細胞又は脂肪前駆細胞の培養試験又はヒト若しくは動物を対象とする投与試験において、アディポネクチンの産生量の指標としてのアディポネクチンの分泌量又は血中アディポネクチン濃度を定量することにより行うことができる。アディポネクチンの定量は、ELISA法等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。
【0033】
抽出物等の脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を誘導又は促進する活性の評価は、抽出物等を含む培地上での脂肪前駆細胞の培養試験を行い、培養後の蓄積した脂肪量を定量することにより行うことができる。蓄積脂肪量の定量は、中性脂肪を選択的又は特異的に染色する、脂溶性色素であるオイルレッドO等を用いて、培養前後の吸光度を比較する等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。
【0034】
アディポネクチン分泌促進剤及び脂肪前駆細胞分化促進剤は、上述の方法により得られた同一の抽出物、画分又は単離された化合物であってもよく、異なる抽出物、画分又は単離された化合物であってもよい。
【0035】
アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を担体等と混合することにより、糖尿病及びそれに関連する疾患及び症状に対する治療効果及び予防効果の一方又は双方を有する医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒト或いは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的及びこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、好ましくは成人1日当り0.1~2000mg/日である。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、或いは上記範囲を超えて必要な場合もある。
【0036】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製でき、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤と、製薬学的に許容し得る担体又は希釈剤、安定剤、及びその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0037】
アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を含む食品としては、アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を食品に配合したもの、或いは、カプセル、錠剤等、食品又はサプリメントに通常用いられる任意の形態をとることができる。配合される食品の種類に特に制限はなく、例えば、コーヒー、果汁、清涼飲料水、ビール、牛乳、味噌汁、スープ、紅茶、茶、栄養剤、シロップ、マーガリン、ジャム等の液状(流動状)食品、米飯、パン、じゃがいも製品、もち、飴、チョコレート、ふりかけ、ハム、ソーセージ、キャンディーなどの固形形状食品等の主食、副食、菓子類ならびに調味料に配合することも可能である。用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形してもよい。また、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と適宜混合してもよい。
【0038】
また、ヒトの消費に供する食品及びサプリメント以外にも、アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を飼料中に混合して、家畜、ペット等のほ乳動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を飼料に添加して投与することもできる。すなわち、アディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を有効成分として含む飼料は、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、ペット(イヌ、ネコ)等の飼料に添加することにより、安全で、これらの動物における糖尿病等の疾患を改善する活性を有する機能性飼料として用いることができる。
【0039】
本発明は、ヒシ科植物の果皮及び果実の一方又は双方に含まれる1又は複数の化合物を有効成分として含むアディポネクチン分泌促進剤又は脂肪前駆細胞分化促進剤を投与することにより、ヒトの糖尿病等の疾患を改善する方法及びヒト以外の哺乳動物における糖尿病等の疾患を改善する方法を提供するものでもある。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:ヒシ果皮抽出物及びそれを含む経口投与剤の調製
(1)ヒシ科植物の熱水抽出物(以下、「ヒシ果皮抽出物」と略称する。)の調製
収穫後のトウビシ(Trapa bispinosa)の果実を乾燥させ、乾燥果皮を回収した。フードプロセッサーを使用して乾燥果皮を粉末化し、熱水抽出(乾燥果皮の1重量部に対し6重量部の90℃の熱水を使用)し、最終的に得られるヒシ果皮抽出物のポリフェノール含量が25重量%以上となるよう予め定めた所定の濃縮率で抽出液を濃縮した。濃縮液67重量%に対し33重量%のデキストリンを添加し、スプレードライヤーで噴霧乾燥した。このようにして得られた粉末(ポリフェノール含量25重量%以上)を、ヒシ果皮抽出物として、以下の試験に使用した。
【0041】
(2)ヒシ果皮抽出物を含む経口投与剤の調製
上記(1)で調製したヒシ果皮抽出物100mgに、賦型剤としてコーンスターチ187mg及びステアリン酸カルシウム3mgを加え、これをゼラチンハードカプセルに封入した。後述する実施例3において、被験者には、後述するように、上記ハードカプセルを一日一カプセル投与することにより摂取させた。また、ヒシ果皮抽出物の代わりにデキストリンを用いて調製したものをプラセボ(ヒシ果皮抽出物を含む経口投与剤と外観上区別できない。)として用いた。
【0042】
実施例2:脂肪前駆細胞の分化誘導活性試験
方法:
マウス由来脂肪前駆細胞3T3-L1(DSファーマバイオメディカル株式会社)を24ウェルコラーゲンコートプレートに播種(2×104cell/cm2)し、DMEM基本培地(10%FBS、抗生物質含む)で4日間培養し、次いで、分化誘導培地(DMEM基本培地に、デキサメタゾン1μM、3-イソブチル-1-メチルキサンチン0.5mM、インスリン10μg/mLを添加した培地)で3日間培養した。次に、分化促進培地(DMEM基本培地にインスリン5μg/mLを添加した培地)で4日間培養後、オイルレッドO染色及び培養上清中のアディポネクチン濃度の測定を行った。なお、被検物であるトウビシ果皮抽出物及び陽性対照としてのピオグリタゾン(東京化成工業)は、分化誘導培地及び分化促進培地の両方に添加した。また被験物を添加せずに、分化誘導及び分化促進させた細胞をコントロールとした。
【0043】
オイルレッドO染色法は前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を評価する手法の一つである。方法を以下に示す。24ウェルコラーゲンコートプレートの各ウェルの細胞培養上清を除去して、PBSで2回洗浄後、10%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬)を0.2mL添加し、常温で60分放置した(細胞固定)その後10%中性緩衝ホルマリン液を除去し、PBSで2回洗浄した。次いで、60%イソプロピルアルコール0.2mL添加し、5分常温放置して除去後、オイルレッドO染色液([オイルレッドO]/[60%イソプロピルアルコール]=1.8mg/mL、フィルターろ過)を0.2mL添加し、常温で15分放置した。オイルレッドO染色液を除去後、蒸留水で3回洗浄し、100%イソプロピルアルコール0.2mL添加し、室温で15分以上放置して色素抽出を行った。抽出液100μLを96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(TECAN)を用いて490nmでの吸光度を測定した。培養上清に含まれるアディポネクチン濃度は、マウス/ラットアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社)を用いて評価した。以上のオイルレッドO染色による吸光度及びアディポネクチン濃度に関する測定結果は、コントロールの値を1として相対値で示した。
【0044】
結果:
<脂肪細胞への分化促進作用>
図1に示すように、オイルレッドO染色による吸光度測定結果では、トウビシ果皮抽出物による濃度依存的な吸光度の増加が確認された。特に、5及び10μg/mLの添加濃度において、コントロールに対して吸光度の有意な増加を示し、医薬品であるピオグリタゾン(0.25μM)よりも高値を示した。以上の結果より、トウビシ果皮抽出物が脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を顕著に促進させることが示された。
【0045】
<脂肪細胞でのアディポネクチン産生促進作用>
図2に示すように、培養上清中のアディポネクチン濃度の測定結果では、トウビシ果皮抽出物による濃度依存的なアディポネクチンの増加が確認され、全ての濃度において、コントロールに対してアディポネクチン濃度の有意な増加が示された。特に10μg/mLの添加濃度においては、医薬品であるピオグリタゾン(0.25μM)を添加した場合に近い値を示した。以上の結果より、トウビシ果皮抽出物が脂肪細胞からのアディポネクチン産生を強く促進させることが示された。
【0046】
実施例3:ヒト被験者への経口投与試験
方法:
ヒト試験は、健常な男女を対象としてプラセボ対照二重盲検法により実施した。試験期間は12週間とした。試験期間中、プラセボ摂取群(12名)にはプラセボカプセル、トウビシ果皮抽出物摂取群(13名)にはトウビシ果皮抽出物入りカプセル(トウビシ果皮抽出物換算量約66mg/カプセル)を毎日1カプセルずつ継続的に摂取させた。また摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、摂取12週間後の計4回にわたり、被験者の血液採取を行った。
【0047】
採取した血液(血漿)中に含まれるアディポネクチン濃度の測定は、ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社)を用いて行った。
【0048】
結果:
血中アディポネクチン濃度の測定結果について、表1、表2、
図3及び
図4に示した。
図3に示すように、トウビシ果皮抽出物摂取群(ヒシ摂取群)は摂取12週間目において、摂取前と比較してアディポネクチン濃度が著しく増加した(10.8→13.5μg/mL)。また、摂取前に対するアディポネクチン濃度の変化量では、12週目においてヒシ摂取群はプラセボ群よりも有意な増加を示した。
【0049】
加えて、表2、
図4には、女性の被験者のみを抽出し、サブクラス解析(プラセボ群女性6名、ヒシ摂取群7名)を行った結果を示した。12週目においてヒシ摂取群は、摂取前及びプラセボ群に対してアディポネクチン濃度の顕著な増加を示した。
【0050】
以上の結果より、トウビシ果皮抽出物を継続摂取することにより、血中のアディポネクチン濃度が増加することが示された。以上に示したように、トウビシ果皮抽出物が、in vitroに加え、in vivoにおいてもアディポネクチンを顕著に増加させる作用を示すことが確認された。
【0051】
【0052】