(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】糸通し装置
(51)【国際特許分類】
D05B 87/02 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
D05B87/02
(21)【出願番号】P 2018055409
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】石川 宗幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 真
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-171441(JP,A)
【文献】特開2010-088760(JP,A)
【文献】特開2010-131184(JP,A)
【文献】特開平04-141191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 87/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向を軸方向とする針棒の下端部に設けられ、糸駒から引出された上糸が掛けられる糸掛け部と、
前記針棒に平行に配置され、初期位置と糸通し位置との間を自身の軸方向に移動可能に且つ自身の軸回りに回転可能に支持された糸通し軸と、
前記糸通し軸の軸方向に一体移動可能に且つ前記糸通し軸の軸回りに回転可能に前記糸通し軸の下端側に連結され、前記糸掛け部に掛けられた前記上糸の先端側を保持する
第1糸保持フック及び第2糸保持フックを含む糸保持部を有し、退避位置から誘導位置へ前記糸通し軸の軸回りに回転することで、
前記第1糸保持フックと前記第2糸保持フックとの間に針を配置し且つ前記糸保持部によって保持された前記上糸を針の針孔に接近した位置に誘導する糸誘導部材と、
前記糸通し軸の下端部に固定され、前記針の針孔に挿通可能に構成された糸通しフックを有し、待機位置から挿通位置へ前記糸通し軸の軸回りに回転することで、前記糸通しフックが前記針孔内を挿通して前記針の針孔に接近した上糸を捕捉する糸通し部材と、
前記糸通し部材と前記糸誘導部材とを前記糸通し軸の軸回りにおいて互いに逆方向に回転させる回転機構と、
前記糸誘導部材に設けられ、前記上糸を捕捉すると共に、前記退避位置から前記誘導位置への回転時に、
前記糸通し軸の軸方向から見て前記針に接離して捕捉した前記上糸を前記糸保持部側から前記糸掛け部側へ引出し、前記誘導位置から前記退避位置への回転時に、前記上糸に対する捕捉状態を解除する上糸引出部と、
を備えた糸通し装置。
【請求項2】
前記上糸引出部には、前記上糸が挿入可能に構成された凹部が形成されており、
前記糸通し軸の初期位置から糸通し位置への移動時に、前記上糸が前記凹部内に挿入されて、前記上糸引出部が前記上糸を捕捉することを特徴とする請求項1に記載の糸通し装置。
【請求項3】
前記初期位置において、前記上糸引出部が、前記糸掛け部と前記糸保持部との間の前記上糸の上側に配置されると共に、前記糸通し軸の軸方向から見て、前記凹部が当該上糸と重なって配置されていることを特徴とする請求項2に記載の糸通し装置。
【請求項4】
前記上糸引出部は、前記糸保持部に対して前記糸通し軸の径方向内側に配置されていることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載の糸通し装置。
【請求項5】
前記回転機構は、
前記糸通し軸に設けられ、前記糸通し軸の径方向外側へ突出された第1軸と、
前記糸誘導部材に設けられ、軸方向を前記糸通し軸の径方向に一致する方向とする第2軸と、
前記初期位置と前記糸通し位置との間で前記糸通し軸と一体移動可能に且つ前記糸通し位置において前記糸通し軸に対して下方側に相対移動可能に前記糸通し軸に連結された案内部材と、
を含んで構成されており、
前記案内部材には、前記第1軸が移動可能に挿入された第1カム孔と、前記第2軸が移動可能に挿入された第2カム孔と、が形成されていることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の糸通し装置。
【請求項6】
前記針棒には、位置決め部材が固定されており、
前記位置決め部材は、
前記糸通し軸が前記糸通し位置に下降したときに前記第1軸が当接される当接部と、
前記糸通し部材の前記挿通位置側への回転時に前記第1軸が挿入されて、上下方向における前記糸通し軸の移動を規制する規制溝と、
を含んで構成されている請求項5に記載の糸通し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸通し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1のミシンの糸通し装置では、糸誘導部材と糸通しフックとが、回転機構によって互いに反対側に回転される。そして、糸誘導部材によって誘導された上糸を、針孔を挿通した糸通しフックによって捕捉して、上糸の針孔への糸通しを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の糸通し装置では、以下に示す点において、改善の余地がある。すなわち、上記糸通し装置では、糸通しフックによって上糸を捕捉して、糸通しフックが、捕捉した上糸を引張りながら、針の針孔から抜け出るようになっている。このとき、上糸には、所定の張力が作用しており、糸通しフックが、捕捉した上糸を引張るときに、当該張力に抗しきれずに、上糸が糸通しフックから外れる虞がある。また、このときには、針孔から引張られた上糸の量が少なくなり、上糸が針孔から外れてしまうことがある。これにより、糸通し装置の糸通し性能が低下する可能性がある。
【0005】
上記事実を考慮して、本発明は、糸通し性能を向上することができる糸通し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する第1の形態は、上下方向を軸方向とする針棒の下端部に設けられ、糸駒から引出された上糸が掛けられる糸掛け部と、前記針棒に平行に配置され、初期位置と糸通し位置との間を自身の軸方向に移動可能に且つ自身の軸回りに回転可能に支持された糸通し軸と、前記糸通し軸の軸方向に一体移動可能に且つ前記糸通し軸の軸回りに回転可能に前記糸通し軸の下端側に連結され、前記糸掛け部に掛けられた前記上糸の先端側を保持する第1糸保持フック及び第2糸保持フックを含む糸保持部を有し、退避位置から誘導位置へ前記糸通し軸の軸回りに回転することで、前記第1糸保持フックと前記第2糸保持フックとの間に針を配置し且つ前記糸保持部によって保持された前記上糸を針の針孔に接近した位置に誘導する糸誘導部材と、前記糸通し軸の下端部に固定され、前記針の針孔に挿通可能に構成された糸通しフックを有し、待機位置から挿通位置へ前記糸通し軸の軸回りに回転することで、前記糸通しフックが前記針孔内を挿通して前記針の針孔に接近した上糸を捕捉する糸通し部材と、前記糸通し部材と前記糸誘導部材とを前記糸通し軸の軸回りにおいて互いに逆方向に回転させる回転機構と、前記糸誘導部材に設けられ、前記上糸を捕捉すると共に、前記退避位置から前記誘導位置への回転時に、前記糸通し軸の軸方向から見て前記針に接離して捕捉した前記上糸を前記糸保持部側から前記糸掛け部側へ引出し、前記誘導位置から前記退避位置への回転時に、前記上糸に対する捕捉状態を解除する上糸引出部と、を備えた糸通し装置である。
【0007】
上記課題を解決する第2の形態は、前記上糸引出部には、前記上糸が挿入可能に構成された凹部が形成されており、前記糸通し軸の初期位置から糸通し位置への移動時に、前記上糸が前記凹部内に挿入されて、前記上糸引出部が前記上糸を捕捉することを特徴とする糸通し装置である。
【0008】
上記課題を解決する第3の形態は、前記初期位置において、前記上糸引出部が、前記糸掛け部と前記糸保持部との間の前記上糸の上側に配置されると共に、前記糸通し軸の軸方向から見て、前記凹部が当該上糸と重なって配置されていることを特徴とする糸通し装置である。
【0009】
上記課題を解決する第4の形態は、前記上糸引出部は、前記糸保持部に対して前記糸通し軸の径方向内側に配置されていることを特徴とする糸通し装置である。
【0010】
上記課題を解決する第5の形態は、前記回転機構は、前記糸通し軸に設けられ、前記糸通し軸の径方向外側へ突出された第1軸と、前記糸誘導部材に設けられ、軸方向を前記糸通し軸の径方向に一致する方向とする第2軸と、前記初期位置と前記糸通し位置との間で前記糸通し軸と一体移動可能に且つ前記糸通し位置において前記糸通し軸に対して下方側に相対移動可能に前記糸通し軸に連結された案内部材と、を含んで構成されており、前記案内部材には、前記第1軸が移動可能に挿入された第1カム孔と、前記第2軸が移動可能に挿入された第2カム孔と、が形成されていることを特徴とする糸通し装置である。
【0011】
上記課題を解決する第6の形態は、前記針棒には、位置決め部材が固定されており、前記位置決め部材は、前記糸通し軸が前記糸通し位置に下降したときに前記第1軸が当接される当接部と、前記糸通し部材の前記挿通位置側への回転時に前記第1軸が挿入されて、上下方向における前記糸通し軸の移動を規制する規制溝と、を含んで構成されている糸通し装置である。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の糸通し装置によれば、糸通し性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態に係る糸通し装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示される糸通し装置が適用されたミシンの左側端部を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示される糸通し装置を示す前側から見た正面図である。
【
図4】
図3に示される糸通し装置の上部を拡大して示す後側から見た裏面図である。
【
図5】
図3に示される糸通し軸を示す側面図である。
【
図6】
図3に示される案内部材を示す側面図である。
【
図7】
図1に示される糸誘導部材を拡大して示す斜視図である。
【
図8】(A)は、糸通し装置の糸通し軸が初期位置に配置された状態を示す正面図であり、(B)は、糸通し軸が初期位置から下降した状態を示す正面図であり、(C)は、糸通し軸が糸通し位置に下降した状態を示す正面図である。
【
図9】(A)は、
図8(C)の状態から案内部材が糸通し軸に対して下側へ相対移動した状態を示す正面図であり、(B)は、(A)の状態から案内部材が糸通し軸に対して下側へさらに相対移動した状態を示す正面図であり、(C)は、(B)の状態から案内部材が糸通し軸に対して下側へさらに相対移動して操作完了位置に配置された状態を示す正面図である。
【
図10】(A)は、
図9(C)の状態から案内部材が糸通し軸に対して上側へ相対移動した状態を示す正面図であり、(B)は、(A)の状態から案内部材が上側へさらに移動した状態を示す正面図であり、(C)は、(B)の状態から案内部材が糸通し軸に対して上側へさらに移動して初期位置に復帰した状態を示す正面図である。
【
図11】
図8~
図10に示される糸誘導部材及び糸通し位置の動作を説明するための下側から見た説明図であり、(A)は、
図8(A)に対応する説明であり、(B)は、
図8(B)に対応する説明であり、(C)は、
図8(C)に対応する説明である。(D)は、
図9(A)に対応する説明であり、(E)は、
図9(B)に対応する説明であり、(F)は、
図9(C)に対応する説明である。(G)は、
図10(A)に対応する説明であり、(H)は、
図10(B)に対応する説明であり、(I)は、
図10(C)に対応する説明である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本実施の形態に係る糸通し装置10について説明する。糸通し装置10は、ミシン1における針32の針孔32Aに上糸Tを通す装置として構成されている。そして、図面において、適宜示される矢印UP、矢印FR、矢印RHは、それぞれ糸通し装置10の上側、前側、右側を示している。また、糸通し装置10の上側、前側、右側と、ミシン1の上側、前側、右側とは、それぞれ一致している。さらに、以下の説明において、上下、前後、左右の方向を用いて説明するときは、特に断りのない限り、糸通し装置10の上下、前後、左右を示すものとする。
【0015】
図2に示されるように、糸通し装置10は、ミシン1の左端部に設けられており、糸通し装置10の大半が、ミシン1のカバー2によって覆われている。
図1及び
図3に示されるように、糸通し装置10は、針棒支持体20と、針棒30と、ベース部材40と、糸通し軸50と、回転機構60と、糸通し部材70と、糸誘導部材80と、を含んで構成されている。以下、糸通し装置10の各構成について説明する。
【0016】
(針棒支持体20について)
針棒支持体20は、上下方向に延在された略矩形柱状に形成されて、ミシン1の左端部において、図示しないミシン本体によって支持されている。この針棒支持体20には、後述する針棒30を支持するための上下一対の針棒支持部20Aが設けられている。針棒支持部20Aは、上下方向を軸方向とする略円筒状に形成されて、針棒支持体20から右側へ突出されている。
【0017】
(針棒30について)
針棒30は、上下方向を軸方向とする略円柱状に形成されている。そして、針棒30が、針棒支持体20における上下一対の針棒支持部20A内に挿入されて、上下方向に移動可能に針棒支持部20Aに支持されている。これにより、針棒30が、針棒支持体20の右側に近接して配置されている。
【0018】
針棒30の下端部には、糸掛け部31が設けられている。この糸掛け部31は、所定の形状を成すプレート状に形成されて、ねじによって針棒30の下端部に固定されている。この糸掛け部31は、糸駒(図示省略)から引出され且つミシン1の天秤(図示省略)を経由した上糸Tを掛ける部材として構成されている。
【0019】
また、針棒30の下端部には、針32が固定されている。詳しくは、針32の上端部が、ネジS1によって針棒30の下端部に固定されて、針32が、針棒30から下側へ延出されている。また、針32の下端部の針孔32Aが前後方向に貫通するように、針32が針棒30に装着されている。
【0020】
さらに、針棒30の軸方向中間部には、「位置決め部材」としての位置決め板33が固定されている。
図4に示されるように、位置決め板33は、前後方向を板厚方向とし、後側から見て、針棒30から左側へ且つ下側へ延出された略クランク形板状に形成されている。位置決め板33の下端部には、左側へ突出された「当接部」としてのストッパ片33Aが形成されている。また、位置決め板33の下端部には、ストッパ片33Aの上側において、左側へ開放された規制溝33Bが形成されている。
【0021】
(ベース部材40について)
図1及び
図3に示されるように、ベース部材40は、前後方向を板厚方向とし且つ上下方向を長手方向とする略長尺板状に形成されて、針棒支持体20の左側に近接して配置されている。ベース部材40の下端部には、右側へ延出された固定片41が形成されている。そして、固定片41が、針棒支持体20の前側に配置されて、ネジS2によって針棒支持体20に締結固定されている。また、ベース部材40の上端部には、前後一対の係合部42が形成されており、係合部42はベース部材40から右側へ突出されている。そして、前後一対の係合部42が、針棒支持体20の上側部分を前後方向に挟持した状態で、針棒支持体20と係合している。これにより、ベース部材40が針棒支持体20に固定されている。
【0022】
ベース部材40の上端部には、後側へ屈曲された上壁43が形成されている。この上壁43には、後述する糸通し軸50を支持するための上側軸支部44が形成されている。この上側軸支部44は、上下方向を軸方向とする略円筒状に形成されて、上壁43から上側へ延出されている。なお、上側軸支部44の下端部は、下側へ開口している。
【0023】
一方、ベース部材40の下端部には、後述する糸通し軸50を支持するための下側軸支部45が一体に形成されている。この下側軸支部45は、上下方向を軸方向とする略円筒状に形成されて、上側軸支部44と同軸上に配置されている。この下側軸支部45の外周部には、左側へ延出された前後一対のガイド片46が一体に形成されており、ガイド片46は、前後方向を板厚方向とする略矩形板状に形成されている。
【0024】
また、ベース部材40の下側部分には、後述する回転機構60を構成するベースカム孔47が貫通形成されている。ベースカム孔47は、上下方向に延在されたスリット状に形成されている。具体的には、ベースカム孔47は、ベースカム孔47の上部を構成する第1ベースカム孔部47Aと、ベースカム孔47の下端部を構成する第2ベースカム孔部47Bと、を含んで構成されている。
【0025】
第1ベースカム孔部47Aの上部は、上下方向に直線状に延在されており、第1ベースカム孔部47Aの下部が、下側へ向かうに従い左側へ若干傾斜している。
一方、第2ベースカム孔部47Bでは、第2ベースカム孔部47Bの幅方向の寸法が、第1ベースカム孔部47Aの幅方向の寸法よりも大きく設定されている。具体的には、第1ベースカム孔部47Aの下端部が、第2ベースカム孔部47Bの上端の右側部分に接続されて、第2ベースカム孔部47Bの左側部分が、第1ベースカム孔部47Aよりも左側へ張り出すように配置されている。
【0026】
(糸通し軸50について)
図1及び
図3~
図5に示されるように、糸通し軸50は、上下方向を軸方向とする略円柱状に形成されている。そして、糸通し軸50が、ベース部材40の上側軸支部44及び下側軸支部45の内部に挿入されて、上側軸支部44及び下側軸支部45によって相対移動可能に支持されている。これにより、糸通し軸50が、平面視で針32の左側に離間して配置されると共に、自身の軸方向に移動可能に且つ自身の軸回りに回転可能に、ベース部材40によって支持されている。具体的には、糸通し軸50が、初期位置(
図8(A)に示される位置)と、初期位置よりも下側の糸通し位置(
図8(C)に示される位置)と、の間を移動可能に構成されている。そして、糸通し装置10の非作動状態では、糸通し軸50が初期位置に配置されている。以下、糸通し装置10の非作動状態として説明する。
【0027】
糸通し軸50の上下方向中間部には、後述する回転機構60を構成する「第1軸」としての第1ピン51が設けられている。第1ピン51は、軸方向を糸通し軸50の径方向として配置されており、第1ピン51の軸方向両端部が、糸通し軸50から糸通し軸50の径方向外側へ突出されている。また、第1ピン51の直径は、ベースカム孔47の第1ベースカム孔部47Aの幅寸法よりも僅かに小さく設定されている。そして、第1ピン51の一端部が、ベースカム孔47内に相対移動可能に挿入されると共に、ベースカム孔47の上端部に配置されている。
【0028】
さらに、第1ピン51の他端部は、位置決め板33のストッパ片33Aの上側に離間して配置されている(
図4参照)。そして、糸通し軸50が初期位置から下降して糸通し位置に移動したときには、第1ピン51の他端部が、ストッパ片33Aに当接して、糸通し位置における糸通し軸50の下側への移動が制限される構成になっている(
図4の2点鎖線にて示される第1ピン51を参照)。また、糸通し位置では、後述する回転機構60によって、糸通し軸50が軸回り一方側(
図1の矢印A方向側)へ回転して、第1ピン51の他端部が、規制溝33B内に挿入されるようになっている。これにより、第1ピン51(すなわち、糸通し軸50)が糸通し位置に保持される構成になっている。
【0029】
(回転機構60について)
回転機構60は、後述する糸通し部材70及び糸誘導部材80を、糸通し軸50の軸回りにおいて、互いに逆方向に回転させる機構として構成されている。
【0030】
図1、
図3、
図4、及び
図6に示されるように、回転機構60は、案内部材61を主要部として構成されており、案内部材61は、案内部材本体62と、操作レバー68と、を含んで構成されている。なお、
図6以外の図面では、便宜上、案内部材61において操作レバー68を図示省略している。
【0031】
案内部材本体62は、上下方向に延在された矩形柱状に形成されて、糸通し軸50の左側に配置されている。具体的には、案内部材本体62が、ベース部材40の前後一対のガイド片46の間に配置されて、ガイド片46によって上下方向に移動可能に支持されている。また、案内部材本体62の上端部には、支持筒部63が一体に設けられており、支持筒部63は、上下方向を軸方向とする略円筒状に形成されると共に、案内部材本体62から右側へ突出されている。そして、支持筒部63の内部に糸通し軸50が相対移動可能に挿入されている。また、支持筒部63は、糸通し軸50の第1ピン51の上側に離間して配置されると共に、ベース部材40の上壁43の下側に隣接して配置されている(
図4参照)。
【0032】
ここで、
図4に示されるように、前述した糸通し軸50には、支持筒部63と第1ピン51との間の位置において、圧縮コイルバネ52が装着されており、圧縮コイルバネ52の下端部が第1ピン51に係止され、圧縮コイルバネ52の上端部が支持筒部63に係止されている。また、案内部材61には、図示しないバネによって上側への付勢力が付与されている。なお、案内部材61と第1ピン51との間に圧縮コイルバネ52が配置されている。これにより、糸通し軸50の初期位置と糸通し位置との間では、案内部材61及び糸通し軸50が、上下方向に一体に移動する構成になっている(
図4において2点鎖線にて示される案内部材61及び糸通し軸50を参照)。
【0033】
また、前述したように、糸通し位置では、第1ピン51が位置決め板33のストッパ片33Aに当接することで、糸通し軸50の下側への移動が制限される。このため、糸通し軸50の糸通し位置において、案内部材61を圧縮コイルバネ52の付勢力に抗して押し下げて、圧縮コイルバネ52を圧縮変形させることで、案内部材61が糸通し軸50に対して下側へ相対移動するようになっている。具体的には、案内部材61が、
図9(C)に示される操作完了位置まで移動可能に構成されている。つまり、糸通し軸50の初期位置と糸通し位置との間において、案内部材61が糸通し軸50と一体に移動し、糸通し軸50の糸通し位置では、案内部材61が糸通し軸50に対して下側へ相対移動可能に構成されている。
【0034】
図1、
図3、及び
図6に示されるように、案内部材本体62の上端部には、支持筒部63に対して前側の位置において、カム片64が設けられている。カム片64は、前後方向を板厚方向し且つ上下方向を長手方向とする略矩形板状に形成されて、案内部材本体62から右側へ延出されると共に、ベース部材40の上端部の前側に隣接して配置されている。
【0035】
カム片64には、「第1カム孔」としての第1案内カム孔65が貫通形成されている。第1案内カム孔65は、上下方向に延在されると共に、第1案内カム孔65の上部が上斜め左側へ傾斜している。具体的には、第1案内カム孔65は、第1案内カム孔65の下部を構成し且つ上下方向に延在された下側カム孔65Lと、下側カム孔65Lの上端部から延出され且つ上側へ向かうに従い左側へ傾斜した傾斜カム孔65Uと、を含んで構成されている。また、第1案内カム孔65の幅寸法は、糸通し軸50の第1ピン51の直径寸法よりも大きく設定されている。そして、第1ピン51の一端部が、第1案内カム孔65内に移動可能に挿入されると共に、第1案内カム孔65の下端部に配置されている。
【0036】
また、糸通し軸50が案内部材61と共に初期位置と糸通し位置との間を下降(上昇)するときには、第1ピン51がベースカム孔47の第1ベースカム孔部47Aに沿って下降(上昇)する。そして、前述のように、ベースカム孔47における第1ベースカム孔部47Aの下部は、下側へ向かうに従い左側へ若干傾斜している。このため、糸通し軸50が案内部材61と共に初期位置と糸通し位置との間を下降(上昇)するときには、第1ピン51(糸通し軸50)が、第1ベースカム孔部47Aによって糸通し軸50の軸回り一方側(軸回り他方側)に回転するようになっている。
さらに、案内部材61が、糸通し位置と操作完了位置との間において、糸通し軸50に対して相対的に下降(上昇)するときには、第1ピン51が、案内部材61の傾斜カム孔65Uの内周面によって押圧されて、糸通し軸50が軸回り一方側(軸回り他方側)に回転するようになっている。
すなわち、案内部材61の初期位置と操作完了位置との間の移動に伴って、糸通し軸50が軸回りに回転するようになっている。
【0037】
案内部材本体62の下端部には、カム筒部66が一体に形成されている。カム筒部66は、上下方向を軸方向とする略円筒状に形成されており、カム筒部66の外周部の一部が径方向に開放されている。またカム筒部66は、糸通し軸50と同軸上に配置されており、カム筒部66の内側に、糸通し軸50の下端側の部分が配置されている。
【0038】
カム筒部66の外周部には、「第2カム孔」としての第2案内カム孔67が貫通形成されている。第2案内カム孔67は、カム筒部66の周方向に延在されると共に、カム筒部66の径方向から見て、カム筒部66(糸通し軸50)の軸回り他方側(
図1の矢印B方向側)へ向かうに従い上側へ傾斜している。
【0039】
図6に示されるように、操作レバー68は、上下方向を軸方向とする略矩形柱状に形成されて、案内部材本体62の左側に配置されている。そして、操作レバー68の上端部が、案内部材本体62の上端部に接続されている。操作レバー68の下端部には、左側へ突出されたレバー部68Aが形成されている。そして、使用者がレバー部68Aを把持して操作レバー68を操作することで、案内部材61が初期位置と操作完了位置との間を移動するようになっている。
【0040】
(糸通し部材70について)
図1、
図3、
図5、及び
図11に示されるように、糸通し部材70は、糸通し軸50の下端部に設けられている。この糸通し部材70は、略円筒状の固定部71を有しており、糸通し軸50の下端部が固定部71の内部に嵌入されて、糸通し部材70が糸通し軸50に固定されている。これにより、糸通し部材70が、糸通し軸50と一体移動可能に構成されている。すなわち、案内部材61の上下方向の移動に伴って、糸通し部材70が、待機位置(
図11(A)参照)と、待機位置に対して糸通し軸50の軸回り一方側の挿通位置(
図11(F)参照)と、の間を回転するようになっている。そして、糸通し装置10の非作動状態では、糸通し部材70が待機位置に配置されている。
【0041】
また、固定部71には、外側へ延出されたアーム72が形成されており、アーム72は、糸通し軸50の軸方向から見て、右側へ向かうに従い後側へ傾斜されている。このアーム72の先端部には、一対の糸通しガイド73が設けられており、糸通しガイド73は、アーム72の先端部からアーム72の延出方向と平行に延出されている。また、糸通しガイド73の先端部は、前側へ略90度に屈曲されている。さらに、
図11に示されるように、一対の糸通しガイド73の間には、糸通しフック74が設けられている。糸通しフック74は、アーム72の先端部からアーム72の延出方向と平行に延出されており、ガイド片46の先端側の部分が、前側へ略90度に屈曲されている。
【0042】
また、図示は省略するが、糸通しフック74の先端部には、上糸Tを捕捉するためのフック部が形成されており、フック部は、針32の針孔32Aに挿通可能に構成されている。そして、糸通し部材70の挿通位置では、糸通しフック74のフック部が針32の針孔32A内を後側から挿通するようになっている。
【0043】
(糸誘導部材80について)
図1、
図3、及び
図7に示されるように、糸誘導部材80は、糸通し軸50の下端側の部分に連結されており、正面視で、前述した糸掛け部31の左側に配置されている。糸誘導部材80は、連結筒部81と、誘導プレート83と、糸保持部84と、「上糸引出部」としての糸引出フック85と、を含んで構成されている。
【0044】
連結筒部81は、上下方向を軸方向とした円筒状に形成されている。連結筒部81は、案内部材61のカム筒部66の内側において、糸通し軸50と同軸上に配置されている。さらに、連結筒部81は、糸通し軸50の下端側の部分に、糸通し軸50の軸回りに回転可能に且つ上下方向に一体移動可能に連結されている。このため、糸誘導部材80が、糸通し軸50と共に初期位置と糸通し位置との間を一体に移動するようになっている。
【0045】
連結筒部81には、前述した回転機構60を構成する「第2軸」としての第2ピン82が設けられている。この第2ピン82は、軸方向を連結筒部81(すなわち、糸通し軸50)の径方向とする略円柱状に形成されており、第2ピン82の先端部が、連結筒部81から径方向外側へ突出されている。
【0046】
そして、第2ピン82の先端部が、案内部材61の第2案内カム孔67内に相対移動可能に挿入されると共に、第2案内カム孔67の下端部に配置されている。これにより、糸通し位置において、案内部材61が糸通し軸50に対して下側へ相対移動すると、第2案内カム孔67が第2ピン82に対して下側へ相対変位するため、第2ピン82が第2案内カム孔67に沿って下端部から上端部側へ変位するようになっている。このため、糸誘導部材80が、糸通し軸50の軸回り他方側へ回転する構成になっている。具体的には、糸誘導部材80が、退避位置(
図11(A)参照)と、退避位置に対して糸通し軸50の軸回り他方側の誘導位置(
図11(F)参照)と、の間を回転するようになっている。そして、糸通し装置10の非作動状態では、糸誘導部材80が退避位置に配置されている。
【0047】
誘導プレート83は、上下方向を板厚方向とする略矩形板状に形成されており、誘導プレート83の一端部に、連結筒部81の下端が固定されている。これにより、誘導プレート83が連結筒部81から、糸通し軸50の径方向外側へ延出されている。より詳しくは、誘導プレート83が、糸通し軸50の軸方向から見て、前側へ向かうに従い左側へ傾斜して配置されている。
【0048】
糸保持部84は、誘導プレート83の他端部に設けられている。この糸保持部84は、第1糸保持フック84A及び第2糸保持フック84Bを有しており、第1糸保持フック84A及び第2糸保持フック84Bは、糸通し軸50の径方向において所定の間隔を空けて配置されている。そして、糸掛け部31に掛けられた上糸Tの先端側の部分が、第1糸保持フック84A及び第2糸保持フック84Bに下側から掛け回されて、糸保持部84に保持されるようになっている。また、以下の説明では、上糸Tにおける糸掛け部31と糸保持部84との間の部分を、上糸中間部TCと称する(
図8(A)参照)。
【0049】
そして、糸誘導部材80が誘導位置に回転したときには、第1糸保持フック84Aと第2糸保持フック84Bとの間の上糸Tが、針32の針孔32Aに接近して針孔32Aの前側に配置されるようになっている。
【0050】
糸引出フック85は、誘導プレート83の一端側の部分に設けられている。つまり、糸引出フック85が糸保持部84よりも糸通し軸50の径方向内側に配置されている。この糸引出フック85は、誘導プレート83から上側へ突出されると共に、誘導プレート83の先端側から見て針32側へ屈曲された逆L字形状に形成されている。具体的には、糸引出フック85は、誘導プレート83から上側へ延出された本体部85Aと、誘導プレート83の先端側から見て本体部85Aの上端部から針32側へ延出されたフック部85Bと、を含んで構成されている。
【0051】
また、フック部85Bには、「凹部」としての溝部85Cが形成されており、溝部85Cは、糸通し軸50の軸方向から見て、糸通し軸50の軸回り他方側(誘導位置側)へ開放された略U字形溝状に形成されている。さらに、糸引出フック85は、上糸中間部TCの上側に配置されており、糸通し軸50の初期位置において、上糸中間部TCが、糸通し軸50の軸方向から見て、溝部85Cと重なるように配置されている(
図11(A)参照)。そして、糸通し軸50(すなわち、糸誘導部材80)の初期位置から糸通し位置への下降時には、上糸中間部TCが溝部85C内に挿入されて、糸引出フック85が上糸中間部TCを捕捉するようになっている(
図8(C)参照)。
【0052】
また、詳細については後述するが、糸誘導部材80が退避位置から誘導位置へ回転するときには、糸引出フック85により捕捉した上糸中間部TCを糸引出フック85によって糸保持部84から糸掛け部31側(上糸Tの基端側)へ引出して、上糸中間部TCの長さを長くするようになっている。一方、糸誘導部材80が誘導位置から退避位置へ回転するときには、糸引出フック85の上糸中間部TCに対する捕捉状態が解除されるようになっている。
【0053】
(作用及び効果)
次に、糸通し装置10の動作を説明しつつ、本実施の形態の作用及び効果について説明する。なお、以下の説明では、糸通し装置10の動作状態を時系列にした状態1~状態9に分けて、糸通し装置10の動作を説明する。
【0054】
(状態1)
図8(A)及び
図11(A)に示されように、状態1は、糸通し装置10の非作動状態であり、この状態1では、糸通し軸50及び案内部材61が初期位置に配置されている。この状態1において、糸駒から引出された上糸Tを操作者によって糸掛け部31に掛ける。さらに、糸掛け部31に掛けた上糸Tの先端側の部分を糸誘導部材80の糸保持部84によって保持させる。これにより、上糸中間部TCが、糸掛け部31から左側へ延出された状態で、糸掛け部31及び糸保持部84によって保持される。さらに、糸保持部84によって保持された上糸Tの先端側の部分を、ミシン1のカバー2に設けられた糸切部3(
図2参照)によって切断する。
【0055】
また、状態1では、糸通し軸50が初期位置に配置されているため、糸通し部材70が待機位置に配置されている。具体的には、糸通し軸50の軸方向から見て、糸通し部材70の糸通しフック74の先端部が、針32に対して左斜め後方に配置されている。
【0056】
さらに、状態1では、糸通し軸50が初期位置に配置されているため、糸誘導部材80が退避位置に配置されている。具体的には、糸通し軸50の軸方向から見て、糸誘導部材80の糸保持部84及び糸引出フック85が、針32に対して左斜め前方に配置されている。また、この状態では、糸通し軸50の軸方向から見て、上糸中間部TCの一部が糸引出フック85の溝部85Cに重なるように配置されている。
【0057】
(状態2)
図8(B)及び
図11(B)に示されように、状態2では、操作者が操作レバー68のレバー部68Aを把持して、案内部材61を初期位置から押し下げた状態になっている。これにより、案内部材61と共に、糸通し軸50が初期位置から下降する。
【0058】
糸通し軸50が初期位置から下降するときには、糸通し軸50の第1ピン51が、ベース部材40のベースカム孔47(第1ベースカム孔部47A)の上端部から第1ベースカム孔部47Aに沿って下側へ移動する。そして、第1ベースカム孔部47Aの下部は、下側へ向かうに従い左側へ若干傾斜している。このため、第1ピン51(すなわち、糸通し軸50)が、状態1から糸通し軸50の軸回り一方側へ若干回転する。これにより、糸通し軸50に固定された糸通し部材70が、待機位置から挿通位置側(糸通し軸50の軸回り一方側であり、
図11(B)の矢印A方向側)へ回転して、糸通し部材70の糸通しフック74の先端部が、後側から針32に接近する。
【0059】
また、糸誘導部材80は、糸通し軸50と上下方向に一体移動可能に構成されている。このため、糸通し軸50が初期位置から下降するときには、糸誘導部材80も糸通し軸50と共に下降する。そして、状態2では、上糸中間部TCが、糸誘導部材80における糸引出フック85の溝部85C内に挿入されて、糸引出フック85が、上糸中間部TCを捕捉する。
なお、状態2では、糸誘導部材80の退避位置に配置された状態が維持されている。
【0060】
さらに、状態2では、糸誘導部材80が、糸通し軸50と共に下降するため、上糸中間部TCの長さが状態1よりも長くなる。すなわち、糸誘導部材80の下降によって、上糸中間部TCが、糸保持部84側から糸掛け部31側(つまり、上糸Tの基端側)へ引出される(
図8(B)の矢印参照)。
【0061】
(状態3)
図8(C)及び
図11(C)に示されるように、状態3では、糸通し軸50が、案内部材61と共に、状態2に対してさらに下降して、糸通し軸50の第1ピン51が位置決め板33のストッパ片33Aに当接した状態になっている。これにより、糸通し軸50の下側への移動が制限されて、糸通し軸50が糸通し位置に配置される。
【0062】
糸通し位置では、糸通し軸50(すなわち、第1ピン51)の下側への移動が、位置決め板33によって停止するため、糸通し軸50の軸回り一方側への回転も停止する。これにより、糸通し部材70における糸通しフック74の先端部が、後側から針32へさらに接近した位置に配置された状態で、糸通し部材70の挿通位置側への回転が停止する。
【0063】
一方、状態3では、案内部材61が糸通し位置に配置されているため、糸誘導部材80が、依然として退避位置に配置されている。
さらに、糸通し軸50が状態2から糸通し位置へ下降するときには、糸誘導部材80の糸引出フック85が上糸中間部TCを捕捉した状態を維持しつつ、糸誘導部材80が糸通し軸50と共に下降する。このため、上糸中間部TCの長さが状態2よりも長くなる。これにより、糸誘導部材80の下降によって、上糸中間部TCが、糸保持部84側から糸掛け部31側へさらに引出される。
【0064】
(状態4)
図9(A)及び
図11(D)に示されるように、状態4では、操作者が、圧縮コイルバネ52の付勢力に抗して、操作レバー68を状態3に対してさらに押し下げた状態になっている。すなわち、状態4では、糸通し軸50が糸通し位置に配置された状態で、案内部材61が糸通し軸50に対して下側へ相対移動した状態になっている。
【0065】
そして、状態4では、案内部材61が糸通し軸50(すなわち、第1ピン51)に対して下側へ相対移動するため、案内部材61の第1案内カム孔65が第1ピン51に対して、下側へ相対変位する。具体的には、第1ピン51が、第1案内カム孔65における下側カム孔65Lの上端部に配置される。このため、糸通し軸50が、軸回りに回転せずに、糸通し部材70の回転停止状態が維持される。
【0066】
一方、糸誘導部材80は、糸通し軸50に相対回転可能に且つ上下方向に一体移動可能に設けられている。すなわち、状態4における糸誘導部材80の上下位置は、状態3に対して変化しない。このため、状態3から状態4では、案内部材61のカム筒部66が糸誘導部材80に対して下側へ相対移動する。すなわち、案内部材61の第2案内カム孔67が、糸誘導部材80の第2ピン82に対して下側へ相対移動する。そして、第2案内カム孔67は、カム筒部66の径方向から見て、糸通し軸50の軸回り他方側へ向かうに従い上側へ傾斜している。このため、第2ピン82が、第2案内カム孔67に沿って第2案内カム孔67の下端部から上端側へ変位する。その結果、糸誘導部材80が退避位置から誘導位置側(糸通し軸50の軸回り他方側であり、
図11(D)の矢印B方向側)へ回転して、糸誘導部材80の糸保持部84が針32の前側に接近するように回転する。
【0067】
また、このときには、糸誘導部材80の糸引出フック85が、上糸中間部TCを捕捉した状態で、糸通し軸50の軸回り他方側へ回転して、糸通し軸50の軸方向から見て、針32に対して左斜め後方に配置される。
【0068】
(状態5)
図9(B)及び
図11(E)に示されるように、状態5では、案内部材61が状態4の位置よりもさらに下降した状態になっている。このため、案内部材61の第1案内カム孔65が糸通し軸50の第1ピン51に対して下側へさらに相対変位する。具体的には、第1案内カム孔65における傾斜カム孔65Uの内周面が、第1ピン51に当接して、第1ピン51を上側から押圧する。これにより、第1ピン51が、傾斜カム孔65Uの内周面に沿って左側へ変位する。その結果、糸通し軸50が軸回り一方側(
図11(E)の矢印A方向側)へ回転する。すなわち、糸通し部材70の挿通位置側への回転が再開されて、糸通し部材70の糸通しフック74が針32に後側から接近する。
【0069】
一方、糸誘導部材80では、案内部材61の下降によって、第2ピン82が第2案内カム孔67の上端側へさらに変位して、糸誘導部材80が誘導位置側(
図11(E)の矢印B方向側)へさらに回転する。これにより、糸誘導部材80の糸保持部84が、前側から針32に接近する。具体的には、糸保持部84の第1糸保持フック84Aと第2糸保持フック84Bの間に、針32が配置されて、糸保持部84によって保持された上糸中間部TCが針32の針孔32Aの略前側に配置される。
【0070】
さらに、糸誘導部材80の糸引出フック85が、上糸中間部TCを捕捉した状態で、糸通し軸50の軸回り他方側へさらに回転する。具体的には、糸引出フック85が、針32に対して左斜め後方に配置されると共に、状態4よりも針32から離間した位置に配置されている。
【0071】
(状態6)
図9(C)及び
図11(F)に示されるように、状態6では、案内部材61が、状態5の位置よりもさらに下降して、操作完了位置に配置された状態になっている。そして、状態6では、状態5に対して、糸通し軸50の第1ピン51が傾斜カム孔65Uの内周面によって押圧されて、左側へさらに変位する。これにより、糸通し軸50が軸回り一方側へさらに回転して、糸通し部材70が挿通位置に配置される。このため、糸通し部材70の糸通しフック74の先端部が、針32の針孔32A内に後側から挿入される。
【0072】
一方、糸誘導部材80では、第2ピン82が第2案内カム孔67の上端部に配置されて、糸誘導部材80が誘導位置まで回転する。具体的には、糸誘導部材80の糸保持部84が、針32にさらに接近して、糸保持部84によって保持された上糸中間部TCが針32の針孔32Aの前側に配置される。そして、針孔32Aの前側に配置された上糸中間部TCを糸通し部材70の糸通しフック74が捕捉する。
【0073】
さらに、糸誘導部材80の糸引出フック85は、上糸中間部TCを捕捉した状態で、糸通し軸50の軸回り他方側へさらに回転する。具体的には、糸引出フック85が、針32に対して左斜め後方に配置されると共に、状態5よりも針32から離間した位置に配置されている。
【0074】
ここで、糸誘導部材80が、退避位置から誘導位置へ回転するときには、糸通し軸50の軸方向から見て、糸引出フック85が、状態3~状態4において針32に一旦接近するが、状態4~状態6において、針32から離間するように、糸通し軸50の軸回り他方側へ回転する。このため、状態6では、上糸中間部TCの長さが状態3と比べて長くなる。つまり、糸駒(図示省略)から糸保持部84を通って糸切部3で切断された上糸Tについて、糸誘導部材80が、退避位置から誘導位置へ回転するときには、糸引出フック85が、捕捉した上糸中間部TCを糸保持部84側(すなわち、上糸Tの先端側)から糸掛け部31側(すなわち、上糸Tの基端側)へさらに引出して、上糸中間部TCの長さが長くなる。そして、状態6において、糸引出フック85による上糸中間部TCに対する引出しが完了する。
【0075】
(状態7)
図10(A)及び
図11(G)に示されるように、状態7では、操作者によって操作レバー68を操作完了位置から引き上げて、案内部材61を上昇させた状態になっている。具体的には、案内部材61を状態4と同じ位置に上昇させており、糸通し軸50が糸通し位置に配置されている。
【0076】
このとき、案内部材61の第1案内カム孔65は、状態6と比べて、糸通し軸50の第1ピン51に対して上側へ相対変位する。具体的には、第1案内カム孔65における傾斜カム孔65Uの内周面が、第1ピン51に当接して、第1ピン51を下側から押圧した後、第1ピン51が、第1案内カム孔65の下側カム孔65Lの上端部に配置される。これにより、第1ピン51(すなわち、糸通し軸50)が、状態6に対して糸通し軸50の軸回り他方側へ回転する。このため、糸通し部材70が、挿通位置から待機位置側(
図11(G)の矢印B方向側)へ回転する。また、このときには、糸通しフック74が、上糸中間部TCを捕捉した状態で、針32の針孔32Aから後側へ抜け出る。これにより、針32の針孔32A内に上糸T(上糸中間部TC)が通される。
【0077】
また、状態7では、糸通し軸50が糸通し位置に配置されているため、糸誘導部材80の上下位置が、状態6に対して変化しない。これにより、案内部材61のカム筒部66が、糸誘導部材80の第2ピン82に対して上側へ相対変位して、糸誘導部材80の第2ピン82が、第2案内カム孔67に沿って第2案内カム孔67の上端部から下端部側へ変位する。その結果、糸誘導部材80が、誘導位置から退避位置側(
図11(G)の矢印A方向側)へ回転する。
【0078】
さらに、糸誘導部材80が、誘導位置から退避位置側へ回転するときには、上糸中間部TCが、糸引出フック85の溝部85Cから外れて、糸引出フック85による上糸中間部TCに対する捕捉状態が解除される。すなわち、上糸中間部TCにおける、針32の針孔32Aと糸掛け部31との間の部分が、弛んだ状態になる。よって、糸通しフック74が、上糸中間部TCを捕捉した状態で、針32の針孔32Aから後側へ抜け出るときには、糸通しフック74が、弛んだ状態の上糸中間部TCを針32の針孔32A内に通す。なお、状態7では、上糸中間部TCが、糸誘導部材80の糸保持部84から外れる。
【0079】
(状態8)
図10(B)及び
図11(H)に示されるように、状態8では、操作者の操作によって操作レバー68をさらに引き上げて、案内部材61を上昇させた状態になっている。具体的には、案内部材61を状態2と同じ位置に上昇させており、糸通し軸50が糸通し位置よりも上昇した位置に配置されている。
【0080】
これにより、糸通し部材70が、状態7に対して上側へ移動しているため、糸通し部材70の糸通しフック74が、捕捉した上糸T(上糸中間部TC)の弛みを吸収しながら、上側へ移動する。また、糸通し部材70は、状態7に対して待機位置側(
図11(H)の矢印B方向側)へさらに回転した位置に配置される。これにより、上糸Tが針孔32Aから引出され、上糸Tにおける、針32の針孔32Aから先端側の部分の長さが徐々に短くなる。
【0081】
一方、状態8では、糸通し軸50が状態2と同じ位置に配置されているため、糸誘導部材80が、状態7に対して退避位置側(
図11(H)の矢印A方向側)へさらに回転して、退避位置に配置される。
【0082】
(状態9)
図10(C)及び
図11(I)に示されるように、状態9では、操作者の操作によって操作レバー68をさらに引き上げて、案内部材61及び糸通し軸50を初期位置へ復帰させた状態になっている。これにより、糸通し部材70が待機位置に復帰されると共に、糸誘導部材80が退避位置に配置されている。また、状態8と状態9との間において、糸通し部材70の糸通しフック74の上糸Tに対する捕捉状態が解除される。以上により、上糸Tに対する針32の針孔32Aへの糸通しが完了する。
【0083】
ここで、糸通し装置10によれば、糸誘導部材80に糸引出フック85が設けられており、糸引出フック85が、上糸Tにおける糸掛け部31と糸保持部84との間の上糸中間部TCを捕捉する。そして、上述のように、糸引出フック85が糸誘導部材80と共に退避位置から誘導位置へ回転するときには、糸引出フック85が、捕捉した上糸中間部TCを糸保持部84側から糸掛け部31側(上糸Tの基端側)へ引出する。このため、上糸中間部TCの長さが長くなる。
また、このときには、糸誘導部材80の誘導位置への回転によって、糸保持部84に保持された上糸中間部TCが、針32の針孔32Aに接近する。
さらに、このときには、糸通し部材70が挿通位置に回転して、糸通し部材70の糸通しフック74が、針32の針孔32Aを挿通した状態で、針孔32Aに接近した上糸中間部TCを捕捉する。
【0084】
一方、糸引出フック85が誘導位置から退避位置への回転するときには、糸引出フック85における上糸中間部TCに対する捕捉状態が解除される。このため、上述のように、上糸中間部TCが、弛んだ状態になる。
また、このときには、糸通しフック74が上糸中間部TCを捕捉した状態で、糸通し部材70が挿通位置から待機位置へ回転する。すなわち、糸引出フック85による捕捉が解除されて弛んだ状態の上糸中間部TCを、糸通しフック74によって、後側へ引張りながら針32の針孔32A内に挿通させる。その後、糸通し軸50が初期位置へ戻る際に、糸通しフック74は上糸中間部TCを捕捉したまま上昇する。そして、このときには、上糸中間部TCに弛みがあるため、糸通しフック74によって上糸Tを引張るときには、上糸Tにおいて糸掛け部31側(すなわち、上糸Tの基端側)への張力がほとんど生じない。これにより、当該張力に対抗しきれずに、上糸Tが糸通しフック74から外れることを抑制できる。以上により、糸通し装置10の糸通し性能を向上することができる。
【0085】
また、糸引出フック85には、上糸T(上糸中間部TC)が挿入可能に構成された溝部85Cが形成されている。さらに、糸通し軸50の初期位置では、糸通し軸50の軸方向から見て、溝部85Cが、上糸中間部TCの一部と重なって配置されている。このため、糸通し軸50が初期位置から糸通し位置へ下降するときには、上糸中間部TCが溝部85Cに挿入されて、糸引出フック85が上糸中間部TCを捕捉する。これにより、溝部85C内に上糸中間部TCを挿入した状態で、糸誘導部材80を退避位置から誘導位置へ回転させることで、捕捉した上糸中間部TCを糸保持部84側から糸掛け部31側へ良好に引出すことができる。
【0086】
また、溝部85Cは、誘導位置側へ開放された溝として構成されている。このため、糸誘導部材80(糸引出フック85)が誘導位置から退避位置に回転するときに、糸引出フック85における上糸中間部TCに対する捕捉状態を容易に解除することができる。
【0087】
さらに、糸引出フック85は、糸保持部84に対して糸通し軸50の径方向内側に配置されている。このため、糸誘導部材80の大型化を抑制しつつ、糸誘導部材80に糸引出フック85を設けることができる。
【0088】
また、糸引出フック85が糸誘導部材80に設けられているため、上糸中間部TCを針32の針孔32Aに接近させる糸誘導部材80を活用して、上糸中間部TCの長さを長くして、上糸中間部TCを弛んだ状態にさせることができる。したがって、部品点数の増加を抑制しつつ、糸通し装置10の糸通し性能を向上することができる。
【0089】
また、回転機構60では、糸通し軸50の初期位置と糸通し位置との間において、案内部材61が糸通し軸50と一体に移動し、糸通し軸50の糸通し位置では、案内部材61が糸通し軸50に対して下側へ相対移動可能に構成されている。さらに、案内部材61は、第1案内カム孔65及び第2案内カム孔67を有しており、糸通し軸50の第1ピン51が第1案内カム孔65内に移動可能に挿入され、糸誘導部材80の第2ピン82が第2案内カム孔67に移動可能に挿入されている。すなわち、回転機構60が、所謂カム機構によって構成されて、糸通し部材70及び糸誘導部材80を、糸通し軸50の軸回りにおいて、互いに逆方向に回転させるようになっている。したがって、簡易な構成で、糸通し部材70及び糸誘導部材80を、糸通し軸50の軸回りにおいて、互いに逆方向に回転させることができる。
【0090】
また、針棒30には、位置決め板33が固定されている。そして、糸通し軸50が初期位置から糸通し位置に下降したときには、糸通し軸50の第1ピンが位置決め板33のストッパ片33Aに当接して、糸通し軸50の下側への移動が制限される。また、糸通し位置において、糸通し軸50が軸回り一方側へ回転して、糸通し部材70が挿通位置側へ回転されると、第1ピンが位置決め板33の規制溝33B内に配置されて、第1ピン51(すなわち、糸通し軸50)の上下方向の移動が制限される。したがって、規制溝33Bによって糸通し軸50を糸通し位置に保持させることができる。これにより、糸通し装置10によって上糸Tを針32の針孔32Aに通すときの、操作者に対する作業性を向上することができる。
【0091】
なお、本実施の形態の糸通し装置10では、糸誘導部材80の溝部85Cが、糸通し軸50の軸方向から見て、糸通し軸50の軸回り他方側(誘導位置側)へ開放された略U字形溝状に形成されているが、溝部85Cの形状はこれに限らない。例えば、糸誘導部材80の溝部85Cを、糸通し軸50の軸方向から見て、糸通し軸50の軸回り他方側(誘導位置側)へ開放された略V字形溝状に形成してもよい。
【0092】
また、本実施の形態の糸通し装置10では、糸通し軸50が初期位置から糸通し位置へ下降するときに、上糸中間部TCが溝部85Cに挿入されて、糸引出フック85が上糸中間部TCを捕捉するようになっているが、糸引出フック85が上糸中間部TCを捕捉するタイミングはこれに限らない。例えば、糸誘導部材80が、退避位置から誘導位置へ回転するときに、糸引出フック85によって上糸中間部TCを捕捉してもよい。
【0093】
また、本実施の形態では、案内部材61に操作レバー68が一体に形成されているが、案内部材61と操作レバー68とを別体に構成してもよい。この場合には、例えば、操作レバー68をミシン本体によって上下方向に移動可能に支持すると共に、操作レバー68の下降時に操作レバー68が案内部材61に係合して案内部材61を押し下げるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 ミシン
2 カバー
3 糸切部
10 糸通し装置
20 針棒支持体
20A 針棒支持部
30 針棒
31 糸掛け部
32 針
32A 針孔
33 位置決め板(位置決め部材)
33A ストッパ片(当接部)
33B 規制溝
40 ベース部材
41 固定片
42 係合部
43 上壁
44 上側軸支部
45 下側軸支部
46 ガイド片
47 ベースカム孔
47A 第1ベースカム孔部
47B 第2ベースカム孔部
50 糸通し軸
51 第1ピン(第1軸)
52 圧縮コイルバネ
60 回転機構
61 案内部材
62 案内部材本体
63 支持筒部
64 カム片
65 第1案内カム孔(第1カム孔)
65L 下側カム孔
65U 傾斜カム孔
66 カム筒部
67 第2案内カム孔(第2カム孔)
68 操作レバー
68A レバー部
70 糸通し部材
71 固定部
72 アーム
73 糸通しガイド
74 糸通しフック
80 糸誘導部材
81 連結筒部
82 第2ピン(第2軸)
83 誘導プレート
84 糸保持部
84A 第1糸保持フック
84B 第2糸保持フック
85 糸引出フック(上糸引出部)
85A 本体部
85B フック部
85C 溝部(凹部)
S1 ネジ
S2 ネジ
T 上糸
TC 上糸中間部