(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】硫黄化合物吸着剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20221201BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221201BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221201BHJP
C10G 25/05 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B01J20/06 A
B01J20/30
B01J20/28 Z
C10G25/05
(21)【出願番号】P 2018129912
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】小島 千尋
(72)【発明者】
【氏名】八島 崇博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 薫
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-331986(JP,A)
【文献】特開2018-118225(JP,A)
【文献】特開平03-213115(JP,A)
【文献】特開2011-093774(JP,A)
【文献】特開2000-042407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
C10G 25/00-25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤であって、
酸化銅、アルミニウム化合物、および活性炭を含み、
該活性炭が直径0.1μm以上~10μm以下の細孔を有し、
該活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、
直径0.1μm以上~10μm以下の細孔の容積が0.1ml/g以上~0.25mL/g以下であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、
該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲であることを特徴とする硫黄化合物吸着剤。
【請求項2】
炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤を製造する方法であって、
直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有する活性炭と、酸化銅、およびアルミニウム化合物を混合して原料混合物を得る混合工程を含み、
該原料混合物
を成形して吸着剤を得る成型工程を含み、
該成型工程で得られた
吸着剤を乾燥する乾燥工程を含み、
該活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、
水銀圧入法により測定される細孔分布において
直径0.1μm以上~10μm以下の細孔の容積が0.1ml/g以上~0.25mL/g以下であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲である吸着剤を製造する硫黄化合物吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原油等から得られる炭化水素は、蒸留や化学反応などの種々の工程を経て、燃料や高分子材料など種々の化成品に加工されている。このような炭化水素中には、原料に由来する硫黄化合物が含まれることがあり、この硫黄化合物は配管の腐食や触媒の劣化を引き起こす原因の一つであることが知られている。例えば、近年その需要が増大しているプロピレンは、沸点が近い硫化カルボニルを不純物として含んでおり、このようなプロピレンを重合すると、硫化カルボニルによってプロピレン重合用の触媒が被毒されてしまうことが知られている(特許文献1)。
【0003】
このような硫黄化合物を炭化水素から除去する方法として、吸着剤を用いる方法が知られている。例えば、特許文献2には、担体に銅成分が担持された吸着剤を用い、流体中の硫化カルボニルを吸着して除去する方法が開示されている。この酸化銅を担持する担体として、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、活性炭、珪藻土、活性白土、マグネシアなどが用いられ、特にアルミナが好ましいことが開示されている。
【0004】
アルミナに銅成分が担持された吸着剤としては、特許文献2の他に、特許文献3のような吸着剤も知られている。また、特許文献4のような、活性炭に銅成分及びアルミニウム成分が担持された吸着剤なども知られている。
【0005】
このような炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤は、炭化水素を吸着剤に流通させる際に圧力損失が増加することを避けるため、粉末状ではなく0.5~5mm程度の成型体が使用されている。しかし、このような吸着剤は、吸着剤の外表面には炭化水素が浸透するが、吸着剤の内部には炭化水素が浸透し難いため、硫黄化合物に対する吸着性能が低いという課題が知られている。
【0006】
このような課題を解決する方法の一つとして、特許文献4には、成型体の形状をシリンダー状ではなく球状にし、吸着剤の外表面から中心部までの平均距離を短くすることによって、硫黄化合物が吸着剤内部の細孔に拡散しやすくすることが開示されている。しかし、特許文献4の吸着剤は、必ずしも硫黄化合物の細孔内拡散性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-206944号公報
【文献】特開平3-213115号公報
【文献】特開昭59-160584号公報
【文献】特開2000-42407号公報(特許第3324746号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炭化水素に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤において、従来の吸着剤は吸着剤内部への拡散が不十分であると云う問題を解決したものであり、吸着剤の内部に硫黄化合物を含む炭化水素が拡散しやすい吸着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の吸着剤は、炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤であって、酸化銅、アルミニウム合物、および活性炭を含み、該活性炭が直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有し、該活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の細孔の容積が0.1ml/g以上~0.25mL/g以下であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲であることを特徴とする硫黄化合物吸着剤である。
【0010】
本発明では、酸化銅およびアルミニウム化合物を含む吸着剤において、直径0.1μm以上~10μm以下の細孔容積を増やすことによって、硫黄化合物を含む炭化水素を吸着剤の外表面から内部に拡散しやすくした。このような直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔の細孔容積を増やすために、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を多数含む活性炭を吸着剤に加え、吸着剤内部への硫黄化合物を含む炭化水素の拡散を容易にした。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着剤は、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積が0.1mL/g以上であり、好ましくは、0.1mL/g以上~0.25mL/g以下であるので、吸着剤の内部まで硫黄化合物を含む炭化水素が拡散しやすくなる。本発明の吸着剤について、硫黄化合物を吸着した状態を
図1に示す。
図1に示すように、本発明の吸着剤は吸着剤の中心部まで硫黄が吸着している。この結果、硫黄の吸着量が高い。一方、細孔径を調整しない吸着剤について、硫黄化合物を吸着した状態を
図2に示す。
図2に示すように、この吸着剤は中心部には硫黄があまり吸着していない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の吸着剤について、硫黄の吸着状態を示す顕微鏡写真と
吸着状態の模式図。
【
図2】比較例1の吸着剤について、硫黄の吸着状態を示す顕微鏡写真と
吸着状態の模式図。
【
図3】実施例1~4と比較例2、3の炭素含有化合物
(実施例1~4は活性炭、比較例
2はグラファイト、比較例3は活性炭)の細孔分布を示すグラフ。
【
図4】実施例1~4、比較例1~3の吸着剤の細孔分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の吸着剤を実施形態に基づいて具体的に説明する。
〔本発明の吸着剤〕
本発明の吸着剤は、酸化銅、アルミニウム合物、および活性炭を含み、該活性炭が直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有し、該活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の細孔の容積が0.1ml/g以上~0.25mL/g以下であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲であることを特徴とする硫黄化合物吸着剤である。
【0014】
本発明の吸着剤は、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を多数有する活性炭を含み、この活性炭を含む吸着剤全体の炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔分布において、前記細孔の細孔容積が0.1mL/g以上~0.25mL/g以下の範囲であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲であることが、従来の特許文献2~4に開示されている吸着剤に比較して明確に相違している。
【0015】
なお、特許文献3には、硝酸銅および硝酸アルミニウムを活性炭に担持させ、これを窒素雰囲気下、300℃で焼成して得た吸着剤が開示されている(実施例:吸着剤No.5)。特許文献3の吸着剤は、銅およびアルミニウムの担持量から活性炭の含有量は99重量%以上と考えられ、活性炭の含有量が本発明の吸着剤とは大きく異なる。さらに、特許文献3の吸着剤では、活性炭は担体として用いられているものの、活性炭の細孔の大きさや吸着剤としての細孔容積については全く考慮されていない。本発明のような吸着剤の内部での炭化水素の拡散を良好にするための細孔径および細孔容積の範囲については、特許文献3の吸着剤では全く認識されておらず、この点が本発明の吸着剤とは本質的に異なる。また、特許文献2、4には、酸化銅、アルミニウム化合物および炭素含有化合物を含む吸着剤は開示されていない。
【0016】
本発明の吸着剤に含まれる活性炭は、表1の実施例1~4に示すように、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲にある細孔を多数有する。該活性炭が直径0.1μ以上~10μm以下の範囲にある細孔を有することは、電子顕微鏡を用いて該活性炭の細孔を直接観察するか、水銀圧入法により該活性炭の細孔分布を測定して判断することができる。また、このような細孔を多数有することは、本発明の吸着剤の前記細孔径の範囲の細孔容積が0.1mL/g以上、好ましくは、0.1mL/g以上~0.25mL/g以下であることから確認することができる。
【0017】
このように、本発明の吸着剤は、疎水性であって、比較的大きい細孔(直径0.1μ以上~10μm以下の範囲にある細孔)を有する活性炭を含むので、吸着剤内部に硫黄化合物を含む炭化水素が拡散しやすい。
【0018】
本発明の吸着剤は、活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下の範囲である。この炭素含有量は主に前記活性炭に基づくものである。本発明の吸着剤には、この活性炭が有する多数の比較的大きい細孔(直径0.1μ以上~10μm以下の範囲にある細孔)によって吸着剤の内部に硫黄化合物を含む炭化水素が拡散しやすくなる。
【0019】
吸着剤の前記炭素含有量が前記範囲よりも多過ぎると、吸着剤の機械的強度が低下して破損しやすくなる傾向があるので好ましくない。また、この炭素含有量が前記範囲より少な過ぎると、吸着剤の内部に硫黄化合物を含む炭化水素が拡散し難いので好ましくない。また、本発明の吸着剤において、炭素含有量が4重量%以上~10重量%以下の範囲であれば、吸着剤の実用的な強度を良好に保ちつつ、吸着剤内部に硫黄化合物を含む炭化水素をより拡散しやすくすることができる。
【0020】
本発明の吸着剤について、その炭素含有量は、後述の実施例に記載された燃焼赤外線吸収法によって測定することができる。なお、本発明の吸着剤は、その製造方法によって吸着剤中にバインダーや滑材などの成型助剤が残留することがあり、この成型助剤として有機化合物が使用されることもあるが、前述の炭素含有量は、このような成型助剤に含まれる有機化合物に由来する炭素も含まれる。なお、吸着剤を製造する場合に成型助剤として使用される有機化合物は、焼成工程で除去されるのが一般的であるが、焼成工程を含まない製造方法では、成型助剤等の有機物が多量に残留すると、これらの有機物は、本発明で用いる活性炭が有する細孔径の範囲(直径0.1μm以上~10μm以下)のものは少ないので、該細孔径範囲の細孔容積が0.1mL/g以上にならなくなる場合がある。従って、このような有機物由来の炭素量は自ずと制限される。具体的には、本発明の吸着剤に含まれる活性炭を含む炭素含有量は、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔の細孔容積が0.1mL/g以上~0.25mL/g以下の範囲になる量であり、有機物由来の炭素量は上記細孔容積の範囲を逸脱しない量に制限される。
【0021】
本発明の吸着剤は、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積が0.1mL/g以上である。このような細孔径の範囲とその細孔容積の大きさによって、吸着剤の外表面から内部へ硫黄化合物を含む炭化水素の拡散が良好になる。このように直径が比較的大きい細孔の容積を増やすことで、炭化水素が吸着剤の外表面から内部に拡散する抵抗を下げることができる。
【0022】
なお、炭化水素に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤の分野においては、このように直径が大きい細孔(マクロ孔:0.1μm以上)の容積は機械的強度を高めるために少ないほうが良いとされているが(例えば、特許文献4)、本発明の吸着剤においては、この細孔径の範囲で特に直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積を多くすることによって、吸着剤の機械的強度を維持しつつ、吸着剤の外表面から内部への硫黄化合物を含む炭化水素の拡散を良好にしている。なお、この範囲の細孔容積が増加しても、吸着剤の機械的強度への影響は小さい。ただし、この細孔容積が大きすぎると吸着剤の機械的強度が低下することがあるので、この細孔容積は0.1mL/g以上~0.25mL/g以下の範囲にあることが好ましい。
【0023】
本発明の吸着剤は、前述の水銀圧入法により測定される細孔分布において、全細孔容積が0.3mL/g以上の範囲にあることが好ましく、0.3mL/g以上~0.45mL/g以下の範囲にあることがより好ましい。全細孔容積が少なすぎると、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積も低下することがあるので好ましくない。なお、全細孔容積に対する直径0.1μm以上~10μm以下の範囲にある細孔の容積の割合は32~60%の範囲にあることが好ましい。この割合が低すぎると、硫黄化合物を含む炭化水素の細孔内拡散が不十分となり、硫黄化合物の除去効率が低下する。一方、この割合が高すぎても機械的強度が低下するので好ましくない。
【0024】
本発明の吸着剤は酸化銅を含む。本発明の吸着剤において、酸化銅は、硫黄を吸着して除去する働きを有している。例えば、酸化銅は、硫黄化合物の1種であり炭化水素にしばしば含まれる硫化カルボニル(COS)に対して、CuO+COS→CuS+CO2の反応により、COSに含まれる硫黄を吸着する働きを有している。また、酸化銅は、硫化水素(H2S)に対しては、CuO+H2S→CuS+H2Oの反応により、硫化水素に含まれる硫黄を吸着する働きを有している。このような酸化銅の働きにより、炭化水素中から硫黄化合物が除去される。
【0025】
本発明の吸着剤に含まれる酸化銅の含有量は、CuO換算で、20重量%以上~60重量%以下の範囲にあることが好ましく、25重量%以上~50重量%以下の範囲にあることがより好ましい。本発明の吸着剤に含まれる酸化銅の含有量が多くなると、吸着剤が吸着できる硫黄の量が増加するが、酸化銅の含有量が前記範囲より多くても硫黄を吸着できる量はそれほど増加しない。一方、酸化銅の含有量が前記範囲より少なすぎると、吸着剤が吸着できる硫黄の量が減少するので、吸着剤の使用寿命が短くなる。また、酸化銅は、吸着剤を構成する成分の中で最も高価な成分であるため、その含有量が多すぎるとコストアップにつながる。したがって、本発明の吸着剤に含まれる酸化銅の含有量は、前述の範囲内にあることが好ましい。
【0026】
本発明の吸着剤に含まれる酸化銅は、X線回折パターンから判別することができる。本発明の吸着剤に含まれる酸化銅は、前述のX線回折パターンにおいて、2θ=37~40°の範囲に現れる酸化銅に帰属される回折ピークの半価幅が、0.8~2°の範囲にあることが好ましい。この半価幅が前述の範囲にある酸化銅は硫黄化合物の除去効果が高くなる。
【0027】
本発明の吸着剤は、アルミニウム化合物を含む。本発明において、アルミニウム化合物は、担体としての働きを有している。本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物としては、酸化銅を固定化できるアルミニウム化合物であれば、従来公知のアルミニウム化合物を使用することができる。例えば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)またはこれらの混合物であること好ましい。水酸化アルミニウムを含む場合、その結晶構造は、擬ベーマイトであることがより好ましい。なお、水酸化アルミニウムの結晶構造は、X線回折パターンから判断することができる。
【0028】
ただし、ベーマイトと擬ベーマイトは、その結晶構造が似ていることから、X線回折パターンから明確に区別することは困難であるが、擬ベーマイトのX線回折パターンはベーマイトと比較してブロードになることが知られているので、本発明においては、ベーマイトの結晶構造に由来する(020)面に帰属されるピークの半価幅が、1.0°以上であれば擬ベーマイト構造を有しているものと判断する。酸化アルミニウムを含む場合、その結晶構造は、χ(カイ)、ρ(ロー)、θ(シータ)から選ばれる1種以上の結晶構造を有していることがより好ましい。なお、酸化アルミニウムの結晶構造は、X線回折パターンから判断することができる。
【0029】
本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物として、弱酸を有するアルミニウム化合物を用いると、アルミニウム化合物に硫化カルボニルを加水分解する機能を付与することができる。硫化カルボニルは酸化銅との前述の反応によって除去されるが、硫化カルボニルを、弱酸を有するアルミニウム化合物によって硫化水素に加水分解した後で、酸化銅と接触させて除去すると、吸着剤としての除去速度が硫化カルボニルを直接酸化銅と反応させた場合と比較してより早くなる。したがって、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物は、弱酸を有していることが好ましい。
【0030】
具体的には、NH3-TPD測定によって算出される25℃以上、200℃以下の温度域におけるNH3の脱離量が、0.01mmol/g以上の範囲にあるアルミニウム化合物を含むことが好ましい。このNH3脱離量は、0.01≦NH3脱離量≦0.2mmol/gの範囲であればよく、0.01≦NH3脱離量≦0.05mmol/gの範囲であれば十分である。本発明の吸着剤において、このNH3脱離量が多いほど硫化カルボニルの加水分解活性が高くなることが見込まれるが、前述の範囲のようなNH3脱離量が比較的少ない場合でも、その加水分解活性が顕著に高くなる。
【0031】
本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物は、アルカリ金属ないしアルカリ土類金属の含有量が、それぞれの元素あたり1重量%未満であることが好ましく、特に0.1重量%未満であることが好ましい。アルカリ金属ないしアルカリ土類金属は、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物の酸点に吸着して失活させることがあるので、その含有量は可能な限り少ないほうが好ましい。
【0032】
本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物は、遷移金属の含有量が、それぞれ1重量%未満であってもよく、特に0.1重量%未満であってもよい。アルミニウム化合物にCrやZn等の遷移金属を担持した硫化カルボニルの加水分解触媒が種々知られているが、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物は、これらの遷移金属が極めて少なく、または含まない場合であっても、硫化カルボニルを十分に加水分解することができる。
【0033】
本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物の含有量は、酸化銅を担持するのに適する量であればよく、例えば、吸着剤に含まれる酸化銅の含有量が20重量%以上~60重量%以下であるとき、吸着剤に含まれるアルミニウム化合物の含有量は、Al2O3換算で概ね25重量%以上~77重量%以下の範囲であればよい。吸着剤に含まれる酸化銅の含有量が25重量%以上~50重量%以下であるときは、吸着剤に含まれるアルミニウム化合物の含有量は、概ねAl2O3換算で35重量%以上~72重量%以下の範囲であればよい。
【0034】
本発明の吸着剤の比表面積は、200m2/g以上であることが好ましく、250m2/g以上~450m2/g以下の範囲にあることがより好ましい。本発明の吸着剤の比表面積が低すぎると、硫黄化合物の吸着量が低下することがあるので、好ましくない。なお、比表面積は、例えば、BET多点法や1点法などの従来公知の方法で測定することができる。
【0035】
本発明の吸着剤の圧壊強度は、1ペレット当たり20N以上であることが好ましく、30N以上であることがより好ましい。本発明の吸着剤の圧壊強度が低すぎると、吸着剤の粉化や崩壊が起こりやすくなるので、好ましくない。なお、圧壊強度は、例えば、実施例に後述する方法で測定することができる。
【0036】
本発明の吸着剤の嵩密度は、0.9kg/L以下の範囲にあることが好ましく、0.8kg/L以下の範囲にあることがより好ましい。吸着剤の嵩密度が低くければ、吸着剤を吸着塔に充填する際の衝撃が緩和されるので、圧壊強度が低い吸着剤でも破損し難くなる。更に、吸着剤の充填後も、充填層の下部にある吸着剤の受ける荷重が小さくなるので、吸着剤の自重による破損等を抑制することができる。
【0037】
本発明の吸着剤の形状は、従来公知の形状であればよく、例えば、球状、柱状またはこれらに類する形状であってもよい。また、そのサイズ(吸着剤の最小距離)は、1~6mmの範囲にあるものがよい。例えば、直径2mm、長さ5mmの円柱状であった場合、そのサイズは2mmとなる。吸着剤のサイズが大きすぎると、吸着剤と炭化水素の接触面積が小さくなり、硫黄化合物を含む炭化水素が吸着剤の外表面から内部に拡散し難くなるので好ましくない。一方、吸着剤のサイズが小さすぎても、硫黄化合物を含む炭化水素を流通させる際に圧力損失が高くなり、ハンドリング性が低下することがある。
【0038】
本発明の吸着剤は、炭化水素に含まれる硫黄化合物を除去する吸着剤として用いられる。本発明の吸着剤は、C2~C6のオレフィン中に含まれる硫化カルボニルを除去する吸着剤として好適であり、特にプロピレン中に含まれる硫化カルボニルを除去する吸着剤として好適である。また、本発明の吸着剤は、吸着剤の内部に拡散し難い液相の炭化水素に含まれる硫黄化合物であっても、これを効率よく除去することができる。
【0039】
本発明の吸着剤は、炭化水素に含まれる硫黄化合物の濃度が0.01~30ppmvの範囲にあるプロセスにおいて好適に使用することができる。また、硫化カルボニルを含むプロセスに本発明の吸着剤を用いる場合、硫化カルボニルに対して水の量が少ないプロセスであっても、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物の表面OH基等を利用して硫化カルボニルを加水分解することができるので、硫化カルボニルを効率的に除去することができる。硫化カルボニルと水の加水分解は、COS+H2O→CO2+H2Sの反応によって進み、炭化水素に含まれる硫化カルボニルと水のモル比(H2O/COS)が1未満のプロセスであっても、硫化カルボニルを効率的に除去することができる。また、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物として擬ベーマイト構造の水酸化アルミニウムを含む場合は、表面OH基のほかに層間に含まれる水も反応に使用することができるので、H2O/COSモル比が1未満の場合であっても、より効率的に硫化カルボニルを加水分解することができる。
【0040】
本発明の吸着剤は、硫黄化合物を含む炭化水素の温度が-10~70℃の範囲にあるプロセスにおいて、効率的に硫黄化合物を除去することができる。
【0041】
以下、本発明の吸着剤の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)を実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0042】
〔本発明の製造方法〕
本発明の製造方法は、炭化水素中に含まれる硫黄化合物を除去するための吸着剤を製造する方法であって、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有する活性炭と、酸化銅、およびアルミニウム化合物を混合して原料混合物を得る混合工程を含み、該原料混合物を成形して吸着剤を得る成型工程を含み、該成型工程で得られた吸着剤を乾燥する乾燥工程を含み、該活性炭を含む炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔分布において直径0.1μm以上~10μm以下の細孔の容積が0.1ml/g以上~0.25mL/g以下であって、全細孔容積が0.3mL/g以上~0.45mL/g以下であり、該全細孔容積に対する前記細孔容積の割合が32~60%の範囲である吸着剤を製造する硫黄化合物吸着剤の製造方法である。
【0043】
本発明の製造方法は、水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有し、該細孔の細孔容積が1mL/g以上の活性炭と、酸化銅およびアルミニウム化合物を混合して原料混合物を得る混合工程を含む。
【0044】
前記混合工程において用いる、0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を有し、該細孔の細孔容積が1mL/g以上の活性炭は、本発明の吸着剤の細孔容積(0.1mL/g~0.25mL/g)を得る成分である。本発明の吸着剤の活性炭を含む炭素含有量は3重量%以上~15重量%以下であり、本発明の吸着剤の細孔容積が上記範囲(0.1mL/g~0.25mL/g)になる量で用いられる。
【0045】
このように、原料混合物に細孔容積が大きい活性炭を含むことによって、吸着剤の外表面から内部への硫黄化合物を含む炭化水素の拡散を良好にすることができる。
【0046】
前記混合工程において用いる酸化銅は、銅化合物を焼成して得られたものであってもよく、水溶液中で合成されたものであってもよい。銅化合物を焼成する場合は、酢酸銅、塩基性炭酸銅、硝酸銅等の銅化合物を300~500℃で焼成することで得ることができる。また、水溶液中で酸化銅を合成する場合は、水溶液中に水酸化銅が分散した状態で50℃以上に加熱することで得ることができる。
【0047】
前記混合工程において用いるアルミニウム化合物は、酸化銅を固定化できるアルミニウム化合物であれば、従来公知のアルミニウム化合物を使用することができる。例えば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)またはこれらの混合物であること好ましい。水酸化アルミニウムを含む場合、その結晶構造は、擬ベーマイトであることがより好ましい。酸化アルミニウムを含む場合、その結晶構造は、χ(カイ)、ρ(ロー)、θ(シータ)から選ばれる1種以上の結晶構造を有していることがより好ましく、特にχが好ましい。
【0048】
前記混合工程において用いるアルミニウム化合物は、NH3-TPD測定によって算出される25℃以上~200℃以下の温度域におけるNH3の脱離量が0.01mmol/g以上のアルミニウム化合物が好ましい。このようなアルミニウム化合物を用いることによって、本発明の吸着剤に硫化カルボニルを加水分解する機能を付与することができる。このNH3脱離量は0.01mmol/g以上~0.2mmol/g以下の範囲であればよく、0.01mmol/g以上~0.05mmol/g以下の範囲でもよい。本発明の吸着剤において、このNH3脱離量が多ければ多いほど硫化カルボニルの加水分解活性が高くなることが見込まれるが、前述の範囲のようなNH3脱離量が比較的少ない場合でも、その加水分解活性が顕著に高くなる。
【0049】
アルミニウム化合物の酸性質は、その結晶構造や、不純物(Siやアルカリ等)、製造方法等により変化することが知られており、本発明の吸着剤に含まれるアルミニウム化合物は、例えば、従来公知のアルミニウム化合物を弱酸で表面処理したり、工業原料として販売されているアルミニウム化合物の中からNH3-TPD測定によって算出される25℃以上~200℃以下の温度域におけるNH3の脱離量が0.01mmol/g以上の範囲にあるアルミニウム化合物を使用することができる。
【0050】
本発明の製造方法において、前記炭素含有化合物、酸化銅、およびアルミニウム化合物を混合する方法は、これらの成分が均一に混合できる方法であれば良く、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ニーダーやミキサー等を用いて混合することができる。
【0051】
混合工程において、炭素含有化合物、酸化銅、およびアルミニウム化合物の各成分は、最終的に得られる吸着剤の各成分の含有量が本発明の吸着剤における各成分の含有量となるような混合比率で混合される。例えば、原料混合物に含まれる炭素含有化合物の量は、製造された吸着剤において、炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であって、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積が0.1mL/g以上になる量が用いられる。また、原料混合物に含まれる酸化銅の量は、例えば製造された吸着剤において、CuO換算で20重量%以上~60重量%以下の範囲になる量が用いられ、好ましくは25重量%以上~45重量%以下の範囲になる量が用いられる。さらに、原料混合物に含まれるアルミニウム化合物の量は、例えば、製造された吸着剤に含まれる酸化銅の含有量が20重量%以上~60重量%以下であるとき、約25重量%以上~約77重量%以下になる量が用いられ、製造された吸着剤に含まれる酸化銅の含有量が25重量%以上~50重量%以下であるとき、好ましくは約35重量%以上~約72重量%以下になる量が用いられる。
【0052】
混合後に得られた原料混合物は、粉末状であってもよく、塊状であってもよく、また混合時に水を加えて粘土状にしてもよい。粉末状の原料混合物は、打錠成型等の圧縮成型により所望の形状に成型することができ、粘土状の原料混合物は、押出成型により所望の形状に成型することができる。ただし、過度に粉砕が進む混合方法を用いると、前記活性炭の細孔構造を壊してしまうことがあるので、好ましくない。また、後述の成型工程において、成型性を高めるため、必要によってバインダーや滑材といった成型助剤を一緒に混合してもよい。更に、セルロース誘導体を用いることで、本発明の吸着剤に耐水性を付与することもできる。
【0053】
本発明の製造方法は、前記原料混合物を所望の形状に成型する成型工程を含む。例えば、球状、柱状またはこれらに類する形状であって、そのサイズ(吸着剤の最小距離)は、
1~6mmの範囲にある形に成型することが好ましい。成型方法としては、打錠成型や押出成形等の方法の方法を用いることができるが、打錠成型では成型する際に原料混合物の負荷が大きくなるので、打錠の条件によっては活性炭の細孔が壊れてしまうことがある。したがって、本発明の製造方法においては、原料混合物に対する負荷が小さい製造方法、例えば押出成型が好ましい。
【0054】
本発明の製造方法は、前記成型工程で得られた吸着剤を乾燥する乾燥工程を含む。この工程では、成型工程で得られた吸着剤に含まれる溶媒(水分等)が除去される。なお、本発明の乾燥工程は、大気雰囲気下での250℃以上の加熱処理は行わない。大気雰囲気下において250℃以上の温度で加熱処理すると、吸着剤に含まれる活性炭が燃焼して除去されてしまうことがある。また、該活性炭が燃焼すると、激しい発熱と共に二酸化炭素が生成するので、発熱により酸化銅がシンタリングして硫黄化合物に対する吸着性能が低下したり、発生した二酸化炭素によって吸着剤が破裂したりすることがあるので好ましくない。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の吸着剤について、実施例に基づいて詳述する。また、比較例を示す。各例において、炭素含有化合物(実施例1~4は活性炭、比較例2はグラファイト、比較例3は活性炭)の細孔分布は水銀圧入法によって測定した。吸着剤の炭素含有量および硫黄吸着量は燃焼赤外線吸収法によって測定した。
吸着剤の嵩密度は後述の方法によって測定した。吸着剤の比表面積は窒素吸収法(BET法)によって測定した。製造した吸着剤の機械的強度(圧壊強度)は後述の方法によって測定した。
【0056】
〔実施例1〕
イオン交換水5.8kgに水酸化ナトリウム231gを溶解させて、母液を調製した。次に、イオン交換水2.6kgに硫酸銅5水和物676gを溶解させて注加液を調製した。母液および注加液をそれぞれ加温した状態で混合して、酸化銅の沈殿物を生成させた。その酸化銅の沈殿物を含むスラリーを濾過して、酸化銅の沈殿物を分離した後、十分に洗浄して酸化銅の沈殿ケーキを得た。その沈殿ケーキをイオン交換水4.0kgに分散させて酸化銅スラリーを得た。その酸化銅スラリーを乾燥し、粉末状の酸化銅を得た。
【0057】
前記酸化銅を240g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、炭素含有化合物として活性炭(セラケム社製:花F1-W50)を80g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水360gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0058】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。
【0059】
実施例1にて得られた吸着剤及び使用した炭素含有化合物について、水銀圧入法にて測定した細孔分布の結果を表1に示す。また、水銀圧入法による細孔分布の測定は以下の条件で行った。
測定装置:AutoPore IV micromeritics社製)
試料重量:0.8g(吸着剤)、0.1g(炭素含有化合物)
試料前処理:110℃-3hr
圧力範囲:1.5~60000psia
【0060】
実施例1にて得られた吸着剤について、燃焼赤外線吸収法にて測定した炭素含有量を表1に示す。さらに、後述の硫黄化合物の吸着試験において、実施例1の吸着剤について測定した硫黄吸着量を表1に示す。燃焼赤外線吸収法による炭素含有量および硫黄含有量の測定は以下の条件で行った。
測定装置:CS-230(LECO社製)
試料形状:粉末状(吸着剤を粉砕したもの)
<検量線作成>
炭素量および硫黄量が既知の標準鉄鋼試料(一般社団法人日本鉄鋼連盟製JSS601-11、JSS243-6、および、BUREAU OF ANALYSED SAMPLES LTD.製BCS-CRM405/2)を使用し、これらの前記標準鉄鋼試料を各々3回測定して得られた平均値とブランクを3回測定して得られた平均値を基に検量線を作成した。この検量線によって、実施例1の吸着剤の炭素量および硫黄量を定めた。
【0061】
実施例1にて用いた酸化銅およびアルミニウム化合物について、X線回折測定を行った。結果を表1に示す。X線回折測定は以下の条件で行った。このX線回折測定によって得られたX線回折パターンをX線回折測定装置に付属の解析ソフトを用いて解析した結果、表1に記載の結晶構造に帰属された。
<X線回折測定条件>
装置 :MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :20mA
開始角度 :2θ=20°
終了角度 :2θ=70°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :4.000°/min
【0062】
実施例1にて用いたアルミニウム化合物について、NH3-TPD測定を行った。具体的には、前述のアルミニウム化合物をサンプルとして0.05g秤量し、NH3-TPD測定装置(マイクロトラック・ベル社製、装置名:BEL-CAT A)の試料管にセットした。その後、不活性ガス(He)を30ml/minの流量で試料管に流通しながら、150℃で60分加熱処理した。その後、試料管の温度を100℃で保持しながら、NH3を含むガス(NH3:5%、He:バランス)を60分間流通して、サンプルにNH3を吸着させた。その後、不活性ガスを30ml/minの流量で試料管に流通した状態で60分保持した。次に保持温度100℃、不活性ガス30ml/minの流量のまま、水蒸気を30分間試験管に導入し、物理吸着分のNH3を除去した。水蒸気の導入を停止し、保持温度100℃、不活性ガス30ml/minの流量で30分間保持した。次に昇温速度10℃/minで700℃まで昇温し、10分間保持した。このとき、サンプルから脱離したNH3を四重極型重量分析計(Q-Mass)を用いて測定した。この測定により得られたデータから、試料管の温度が25℃以上~200℃以下の間に脱離したNH3量を算出し、これをサンプルの仕込量で除算し、25℃以上~200℃以下の温度域におけるNH3脱離量を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例1にて得られた吸着剤について、組成分析を行った。結果を表1に示す。また、組成分析は以下の条件で行った。
<組成の測定方法>
吸着剤を粉末状に粉砕したのち、加圧成型用リングに試料を入れ、成型圧力30MPaで3分間加圧成型した。この成型試料を蛍光X線分析装置(株式会社リガク社製、ZSX100e)にセットし、オーダー(半定量)分析にて測定した。
【0064】
実施例1にて得られた吸着剤について、圧壊強度の測定を行った。結果を表1に示す。また、組成分析は以下の条件で行った。
測定装置:圧壊強度計(インストロン社製、型式3365)
測定回数:10回(この平均値を測定値とした)
測定方向:縦、横、高さ方向で最も薄い面(圧壊強度が最も低い面)を測定した。
【0065】
実施例1にて得られた吸着剤について、嵩密度を測定した。結果を表1に示す。嵩密度の測定は以下の条件で行った。
<嵩密度の測定方法>
固定されたロートを用いて吸着剤を自然落下によって1L円筒容器に充填した。この容器の山になった部分(吸着剤が容器からあふれた分)をすり切りヘラですり切り、1L相当の吸着剤重量を精秤することで測定した。この操作を3回繰り返し、その平均値を嵩密度とした。なお、吸着剤を充填する際にタップ等は行わなかった。
【0066】
実施例1にて得られた吸着剤について、比表面積を測定した。結果を表1に示す。比表面積の測定は以下の条件で行った。
<比表面積の測定方法>
窒素流通下にて前処理を行い、全自動比表面積測定装置(マウンテック製、型式;MacsorbHM model-1220)にセットし、窒素吸着法(BET法)を用いて、窒素の脱離量から、BET1点法により比表面積を算出した。具体的には、試料0.1gを測定セルに充填し取り、窒素流通下にて250℃-40minで前処理を行い、窒素混合ガス(体積分率で窒素が30%、ヘリウムが70%)の気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させた。次に、上記混合ガスを流しながら試料温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量をTCDで検出した。最後に純窒素を1ccパルスで流通させ、先の窒素脱離量との比から比表面積を算出した。
【0067】
実施例1で得られた吸着剤について、硫化カルボニルの吸着試験を実施した。具体的には、内径が1cmの反応管に吸着剤の層高が8cmとなるようにサンプルを充填した後、窒素を流通させながら170℃で1時間加熱処理した。放冷後、室温で原料液(COS:10wtppm、1-ヘキセン:バランス)を5.0g/分の速度で供給した。原料液を120分流通させた後、サンプルを取出し、炭素硫黄分析装置で硫黄吸着量を分析した。
【0068】
実施例1の吸着剤各5gを、COS/1-ヘキセン溶液(COS濃度:200wtppm)1Lに常温で28日間浸漬した。吸着剤を取出し、乾燥した後、EDS分析により吸着剤内部の硫黄の分布を観察した。この結果を
図1に示した。
【0069】
〔実施例2〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、炭素含有化合物として活性炭(フタムラ化学社製:太閤M)を40g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水429gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0070】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例3〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、炭素含有化合物として活性炭(フタムラ化学社製:太閤S)を40g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水439gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0072】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例4〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、炭素含有化合物として活性炭(フタムラ化学社製:太閤Y)を40g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水426gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0074】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、担体として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水320gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0076】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。その吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価及び分析を行った。結果を表1に示す。
比較例1の吸着剤各5gについて、実施例1と同様に処理して、EDS分析による吸着剤内部の硫黄の分布を観察した。この結果を
図2に示した。
【0077】
〔比較例2〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、炭素含有化合物として黒鉛(東日本カーボン社製:B-50)を40g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水320gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0078】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0079】
〔比較例3〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、炭素含有化合物として活性炭(クラレ社製:クラレコールPK-W5N)を80g、アルミニウム化合物として市販のアルミナ(UOP社製:VERSAL R-3)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水322gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0080】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0081】
〔比較例4〕
実施例1と同様の方法で粉末状の酸化銅を得た。この酸化銅を240g、アルミニウム化合物として市販の水酸化アルミニウム(昭和電工社製:H-32)を560g、セルロース誘導体(ユケン工業社製:YB-113C)を16g、滑材としてオレイン酸(関東化学社製)を8g、およびイオン交換水250gをミキサーに仕込み、均一に混合して原料混合物を得た。
【0082】
この原料混合物を押出成型機に投入し、直径1.65mmφ、厚さ4mmのダイスを用い、長さ3~5mmの円柱状に押出成型して吸着剤を得た。この吸着剤を電気乾燥機で120℃の温度で16時間乾燥した。この吸着剤について、実施例1と同様の方法で評価および分析を行った。結果を表1に示す。
【0083】
表1に示すように、実施例1~4の吸着剤は何れも、
活性炭が直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔を含み、該吸着剤の炭素含有量が3重量%以上~15重量%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積が0.1mL/g以上である。このため、硫化カルボニルの吸着試験において、原料液(硫化カルボニルを含む炭化水素)が吸着剤の内部に容易に拡散するので硫黄吸着量が高い。これは、実施例1の吸着剤について、吸着試験後の吸着剤内部の硫黄分布を示す
図1において、硫黄が吸着剤の中心部まで吸着していることからも確認できる。
【0084】
一方、比較例1~4の吸着剤は、水銀圧入法により測定される細孔分布において、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積が0.1mL/g未満であり、このため、硫化カルボニルの吸着試験において、原料液(硫化カルボニルを含む炭化水素)が吸着剤の内部に拡散し難い。これは、比較例1の吸着剤について、吸着試験後の吸着剤内部の硫黄分布を示す
図2において、硫黄が吸着剤の中心部にはあまり吸着していないことからも確認できる。
【0085】
実施例1~4の活性炭、比較例2のグラファイト、比較例3の活性炭について、その細孔分布を
図3のグラフに示す。また、実施例1~4、比較例1~3の吸着剤の細孔分布を
図4のグラフに示す。
図3に示すように、実施例1~4の吸着剤に用いる
活性炭の細孔は、直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の
細孔を有し、その細孔容積が比較例2,3に比べて格段に大きく、これらを用いた吸着剤の直径0.1μm以上~10μm以下の範囲の細孔容積も格段に大きくなっている。
【0086】