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特許7185997リチウムイオン電池正極用導電ペースト及びリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池正極用導電ペースト及びリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20221201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017139507
(22)【出願日】2017-07-18
(65)【公開番号】P2019021517
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆宣
(72)【発明者】
【氏名】湯川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英輝
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高畑 浩二
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-192136(JP,A)
【文献】特開2013-089485(JP,A)
【文献】特開2014-193986(JP,A)
【文献】特開2012-006665(JP,A)
【文献】国際公開第2007/040007(WO,A1)
【文献】特開平11-045706(JP,A)
【文献】特開2000-040505(JP,A)
【文献】国際公開第2016/000359(WO,A1)
【文献】特開2011-100594(JP,A)
【文献】特開2012-186054(JP,A)
【文献】国際公開第2010/092976(WO,A1)
【文献】特開2003-045432(JP,A)
【文献】特開2017-117522(JP,A)
【文献】特開2016-177901(JP,A)
【文献】特開2017-091859(JP,A)
【文献】特開2015-030777(JP,A)
【文献】特開2004-281096(JP,A)
【文献】「デンカブラック」カタログ,日本,デンカ株式会社,2010年06月,pp. 1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分量が10000ppm未満の分散樹脂(A)と、水分量が10000ppm未満の導電カーボン(B)と、水分量が10000ppm未満の溶媒(C)とを混合及び分散する工程を含む、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法であって、
該分散樹脂(A)が、多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)及び/又はポリビニルアルコール樹脂(A2)を含有し、
該導電ペーストの水分量が10000ppm未満であり、
導電カーボン(B)の吸湿量をY(質量%)とし、比表面積をZ(m/g)とした場合に、下記式で得られるXの値が、X≦500の範囲内であることを特徴とする、方法
X=Y×Z
〔吸湿量測定条件〕
140℃の温度で3時間乾燥させて得た導電カーボンの質量をY1とし、さらに温度20℃、相対湿度65%の条件で24時間放置して得た導電カーボンの質量をY2とした場合に、下記式で得られるYの値(質量%)を吸湿量とする。
Y=(Y2-Y1)/Y1×100。
【請求項2】
露点10℃以下の雰囲気下で混合及び/又は分散を行なうことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により水分量が10000ppm未満のリチウムイオン電池正極用導電ペーストを製造する工程、及び
上記工程で得られた水分量が10000ppm未満のリチウムイオン電池正極用導電ペーストに、水分量が10000ppm未満かつ水酸化リチウム量が10000ppm未満の電極活物質を混合する工程を含む、リチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法であって、該合材ペーストの水分量が10000ppm未満である、方法。
【請求項4】
下記条件での合材ペーストの粘度変化率が、600%以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法。
〔粘度測定条件〕
ペーストを25℃の温度で7日間貯蔵を行い、初期粘度と貯蔵後の粘度の比較を行う。粘度は、コーン&プレート型粘度計「Mars2」(商品名、HAAKE社製)を用い、シアーレート1.0sec-1で測定する。
〔粘度変化率(%)〕=〔貯蔵後の粘度〕/〔初期粘度〕×100
【請求項5】
請求項3又は4に記載の方法で得られる合材ペーストを集電材に塗布する工程を含む、リチウムイオン電池正極合材層の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の方法で得られる正極合材層を備えた正極を電池ケース内に設置するリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池正極用導電ペースト及びリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、非水電解質二次電池の一種であって、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う二次電池である。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いこと、充電エネルギーの保持特性が優れていること、見た目上の容量が減るいわゆるメモリー現象が小さいこと等の優れた特性を有する。従って、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン二次電池は、主に正極板、負極板、これら正極板と負極板とを絶縁するためのセパレータ、非水電解液等を備えている。上記正極板は、正極芯材の表面に正極合材層が形成されたものである。当該正極合材層は、導電助剤(カーボン等)、バインダー及び溶剤を含む導電ペーストに電極活物質を混和した正極用合材ペーストを正極芯材の表面に塗布し、これを乾燥することで、製造することができる。
【0004】
上記のように正極合材層の製造は正極芯材の表面に正極用合材ペーストを塗工することにより行われるため、上記正極用合材ペースト及びその構成材料である導電ペーストは、低粘度であることが求められる。かかる状況の下、導電助剤を導電ペースト又は分散液中に分散させるための分散剤を添加する方法が知られている(特許文献1、2)。また、特定のビニルアルコール系重合体をバインダーとして用いる方法も知られている(特許文献3)。
【0005】
ここで、ポリフッ化ビニリデンは、金属酸化物と集電体との結着材等として導電ペーストに配合するのに有用であるが、ポリフッ化ビニリデンを配合した導電ペースト又は合材ペーストにおいては、特に塩基性物質が含まれる場合、貯蔵により、ペーストが高粘度化、ゲル化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-89485号公報
【文献】特開2014-193986号公報
【文献】特開平11-250915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき課題は、高粘度化、ゲル化が抑制され、塗工しやすい粘度を有するリチウムイオン電池正極用合材ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、本発明者らは鋭意検討した結果、水分量が10000ppm未満の分散樹脂(A)と、水分量が10000ppm未満の導電カーボン(B)と、水分量が10000ppm未満の溶媒(C)とを混合及び分散する工程を含む、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法であって、該導電ペーストの水分量が10000ppm未満である方法、又は上記方法で得られる水分量が10000ppm未満の導電ペーストに、水分量が10000ppm未満かつ水酸化リチウム量が10000ppm未満の電極活物質を混合する工程を含む、リチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法であって、該合材ペーストの水分量が10000ppm未満である方法を用いることにより上記課題を解決できることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.水分量が10000ppm未満の分散樹脂(A)と、水分量が10000ppm未満の導電カーボン(B)と、水分量が10000ppm未満の溶媒(C)とを混合及び分散する工程を含む、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法であって、該導電ペーストの水分量が10000ppm未満である、方法。
項2.露点10℃以下の雰囲気下で混合及び/又は分散を行なうことを特徴とする前記項1に記載のリチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法。
項3.導電カーボン(B)の吸湿量をY(質量%)とし、比表面積をZ(m/g)とした場合に、下記式で得られるXの値が、X≦500の範囲内であることを特徴とする前記項1又は2に記載のリチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法。
X=Y×Z
〔吸湿量測定条件〕
140℃の温度で3時間乾燥させて得た導電カーボンの質量をY1とし、さらに温度20℃、相対湿度65%の条件で24時間放置して得た導電カーボンの質量をY2とした場合に、下記式で得られるYの値(質量%)を吸湿量とする。
Y=(Y2-Y1)/Y1×100
項4.水分量が10000ppm未満の導電ペーストに、水分量が10000ppm未満かつ水酸化リチウム量が10000ppm未満の電極活物質を混合する工程を含む、リチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法であって、該合材ペーストの水分量が10000ppm未満である、方法。
項5.下記条件での合材ペーストの粘度変化率が、600%以下であることを特徴とする前記項4に記載のリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法。
〔粘度測定条件〕
ペーストを25℃の温度で7日間貯蔵を行い、初期粘度と貯蔵後の粘度の比較を行う。
粘度は、コーン&プレート型粘度計「Mars2」(商品名、HAAKE社製)を用い、シアーレート1.0sec-1で測定する。
〔粘度変化率(%)〕=〔貯蔵後の粘度〕/〔初期粘度〕×100
項6.前記項4又は5に記載の方法で得られる合材ペーストを集電材に塗布する工程を含む、リチウムイオン電池正極合材層の製造方法。
項7.前記項6に記載の方法で得られる正極合材層を備えた正極を電池ケース内に設置するリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池正極用導電ペースト及びリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法は、前記構成上の特徴に起因して、従来のリチウムイオン電池正極用導電又は合材ペーストよりも高粘度化、ゲル化が抑制されており、特にリチウムイオン電池正極用導電又は合材ペーストに塩基性化合物が配合された場合であっても、高粘度化、ゲル化が抑制され、塗工に適したペーストの粘度が維持される。
【0011】
リチウムイオン電池正極用導電又は合材ペーストが高粘度化、ゲル化する機構は明らかになってはいないが、下記のようなメカニズムが推測される。例えばポリフッ化ビニリデンを含むリチウムイオン電池正極用導電又は合材ペーストにおいては、ポリフッ化ビニリデン中のフッ素基に隣接するプロトンの酸性度はフッ素基の電子吸引性により非常に高くなっており、そのため、特に塩基性の条件では容易にこのプロトン脱離が進行する。かかるプロトン脱離は導電又は合材ペースト中に水分が存在する場合に特に進みやすいものと推測される。プロトン脱離後の炭素上には陰イオンが生じ、当該陰イオンによりフッ素基の脱離が促され、そしてポリフッ化ビニリデン分子の主鎖中に二重結合が生じることになる。そして、二重結合を有することとなった複数のポリフッ化ビニリデン分子が重合し、さらなる高分子化をして、粘度上昇、ゲル化に至るものと推測される。特に合材ペースト中の電極活物質は塩基性物質の水酸化リチウムを含む場合があるため、高粘度化、ゲル化は合材ペーストにおいて顕著である。
【0012】
本発明においては、水分量を規定した原材料を用い、かつ導電ペースト及び合材ペーストの水分量を規定することにより、高分子成分(ポリフッ化ビニリデン)の重合を抑制し、リチウムイオン電池正極用導電又は合材ペーストの粘度上昇、ゲル化を抑えることができたものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0014】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。また、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを意味する。また、「重合性不飽和モノマー」とは、ラジカル重合しうる重合性不飽和基を有するモノマーを意味し、該重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0015】
また、本明細書において、水分(含有)量はカールフィッシャー電量滴定法にて測定することができる。具体的には、カールフィッシャー水分率計(京都電子工業株式会社製、製品名:MKC-610)を用い、該装置に備えられた水分気化装置(京都電子(株)製、ADP-611)の設定温度は130℃として測定することができる。
【0016】
リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法
本発明は、水分量が10000ppm未満の分散樹脂(A)と、水分量が10000ppm未満の導電カーボン(B)と、水分量が10000ppm未満の溶媒(C)とを混合及び分散する工程を含む、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法であって、該導電ペーストの水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは4500ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満の方法を提供する。
【0017】
本発明の製造方法で得られるリチウムイオン電池正極用導電ペースト固形分中の分散樹脂(A)の固形分含有量の合計量は、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下であることが、顔料分散時の粘度、顔料分散性、分散安定性及び生産効率等の面から好適である。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池正極用導電ペースト固形分中の導電カーボン(B)の固形分含有量は、通常、50質量%以上、かつ100質量%未満、好ましくは60質量%以上、かつ100質量%未満、より好ましくは70質量%以上、かつ100質量%未満が電池性能の点から好適である。また、本発明のリチウムイオン電池正極用導電ペースト中の溶媒(C)の含有量は、通常、50質量%以上、かつ100質量%未満、好ましくは70質量%以上、かつ100質量%未満、より好ましくは80質量%以上、かつ100質量%未満が乾燥効率、ペースト粘度の点から好適である。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池正極用導電ペーストは、以上に述べた各成分を、例えば、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ペブルミル、LMZミル、DCPパールミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、二軸混練機、薄膜旋回型高速ミキサー等の従来公知の分散機を用いて均一に混合、分散させることにより調製することができる。本発明においては、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造においては、露点10℃以下、より好ましくは露点7℃以下、さらに好ましくは露点5℃以下の雰囲気下で混合及び/又は顔料分散を行なうことが、粘度及び貯蔵安定性の観点から好ましい。
【0020】
水分はできるだけ除去することが好ましいが、原材料や大気から水分が導電ペースト内に混入されることになるため、少なくとも100ppm以上の水分は含有することになり得る。また、設備や製造工程の関係上、600ppm以上の水分は含有することになり得る。
【0021】
本発明の製造方法で得られたリチウムイオン電池正極用導電ペーストは、後述するように、電極活物質と混和してリチウムイオン電池正極用合材ペーストを製造するために用いることができる。
【0022】
分散樹脂(A)
上記分散樹脂(A)としては、水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは8000ppm未満であり、より好ましくは5000ppm未満であり、さらに好ましくは3000ppm未満である分散樹脂であって、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの分野において導電カーボンを分散させるために使用されているものを広く用いることができる。例えば、多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)、ポリビニルアルコール樹脂(A2)等が挙げられる。本発明においては、分散樹脂(A)は、多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)及びポリビニルアルコール樹脂(A2)を共に含むことが好ましい。
【0023】
多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)
上記多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)としては、モノマー混合物の固形分の総量を基準として、多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)を1~70質量%含有するモノマー混合物を共重合することにより得ることができる。この場合の樹脂(A1)は、モノマー混合物の固形分の総量を基準として、多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)を1~70質量%含有するモノマー混合物の共重合体と言い換えることもできる。また、多環芳香族炭化水素を有さない樹脂を合成した後に多環芳香族炭化水素を付加することで多環芳香族炭化水素基を有する樹脂を得ることもできる。
【0024】
上記樹脂(A1)の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられるが、特にアクリル樹脂が好ましい。
【0025】
尚、本明細書において、「誘導体」とは、ある化合物に対し、官能基の導入、原子の置換、又はその他の化学反応により分子内の小部分(複数の部分でもよい)を変化させて得られる化合物を意味する。例えば、ナフタレンに、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基等の官能基を、1種又は2種以上導入した化合物はナフタレン誘導体である。
【0026】
多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)
上記多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)の多環芳香族炭化水素としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、トリフェニレン環、テトラフェン環、テトラセン環、クリセン環、ピレン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、ヘプタセン環、コロネン環、ケクレン環を有する炭化水素基及びその誘導体が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)としては、上記多環芳香族のうち、ナフタレン環を有するもの、すなわち、ナフチル基を有する重合性不飽和モノマー又はその誘導体(A1-2)が挙げられる。ナフチル基を有する重合性不飽和モノマー又はその誘導体(A1-2)としては、例えば、後述する式(3)で表わされるナフチル基を有する重合性不飽和モノマー又はその誘導体(A1-1-2)等が挙げられる。
【0027】
また、上記多環芳香族炭化水素を有するモノマー(A1-1)としては、下記式(2)で表わされる多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1-1)であることが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Aは多環芳香族炭化水素基を示し、Wは存在しても存在しなくても良い。Wが存在する場合、Wは炭素原子、窒素原子及び/又は酸素原子の数が1~20の有機基であり、Wが存在しない場合、WはAに直接結合する。) 尚、「重合性不飽和モノマー」は、ラジカル重合しうる重合性不飽和基を有するモノマーを意味し、該重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0030】
上記多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1-1)としては、具体的には、例えば、ビニルナフタレン、ナフチル(メタ)アクリレート、ナフチルアルキル(メタ)アクリレート、ビニルアントラセン、アントラセニル(メタ)アクリレート、アントラセニルアルキル(メタ)アクリレート、ビニルピレン、ピレニル(メタ)アクリレート、ピレニルアルキル(メタ)アクリレート、ビニルクリセン、ビニルナフタセン、ビニルペンタセン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。また、グリシジル基やイソシアネート基等の反応性官能基を有する重合性不飽和基モノマーと、該反応性官能基と反応する官能基を有する多環芳香族炭化水素とを反応せしめたものも含まれる。互いに反応する官能基の組み合わせであればいずれも好適に使用できるが、カルボキシル基とグリシジル基、アミノ基とグリシジル基、水酸基とイソシアネート基の組み合わせがより好ましい。具体的には、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートと1-ナフチル酢酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートと1-ナフトール、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートと1-(2-ナフチル)エタノールの組み合わせ等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0031】
なかでも、多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1-1)としては、下記式(3)で表わされるナフチル基を有する重合性不飽和モノマー又はその誘導体(A1-1-2)であることが好ましい。
【0032】
【化2】
【0033】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、ホスホリルオキシ基、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アリールオキシ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基のいずれかを示す。Wが存在する場合、Wは炭素原子、窒素原子及び/もしくは酸素原子の数が1~20の有機基又は単結合である。)
【0034】
上記ナフチル基を有する重合性不飽和モノマー又はその誘導体(A1-1-2)としては、例えば、ビニルナフタレン、ナフチル(メタ)アクリレート、ナフチルアルキル(メタ)アクリレート、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0035】
なかでも、ナフチル(メタ)アクリレート又はその誘導体(A1-1-2)が、下記式(4)で表わされるナフチル(メタ)アクリレート又はその誘導体(A1-1-3)であることが好ましい。
【0036】
【化3】
【0037】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アルコキシカルボニルオキシ基、ホスホリルオキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アリールオキシ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基のいずれかを示す。)
上記ナフチル(メタ)アクリレート又はその誘導体(A1-1-3)としては、例えば、1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-ナフチル(メタ)アクリレート、及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0038】
なかでも、ナフチル(メタ)アクリレート又はその誘導体(A1-1-3)が、下記式(5)で表わされる4-置換-1-ナフチル(メタ)アクリレート(A1-1-4)であることが好ましい。
【0039】
【化4】
【0040】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Zは水酸基又は炭素数1~8のアルコキシ基を示す。)
【0041】
上記式(5)中の置換基であるZがアルコキシ基の場合、アルコキシ基の炭素数としては、通常1~8であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2であり、特に好ましくは1である。
【0042】
上記4-置換-1-ナフチル(メタ)アクリレート(A1-1-4)としては、例えば、4-メチル-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-エチル-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-メトキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-エトキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-メトキシ-4-ヒドロキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-エトキシ-4-ヒドロキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-4-エトキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-メトキシカルボニルオキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、4-フェノキシカルボニルオキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、及び4-ホスホリルオキシ-1-ナフチル(メタ)アクリレート、若しくはその誘導体等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0043】
本発明の多環芳香族炭化水素を有する顔料分散樹脂が、顔料の分散性及び安定性に効果がある理由としては、詳しい事は解っていないが、例えば、顔料が芳香環を有している場合、顔料と顔料分散樹脂間のπ-π相互作用により安定化するためだと考えられる。尚、π-π相互作用とは、芳香環の間に働く分散力であり、2つの芳香環がコインを積み重ねたような配置で安定化する傾向があるため、スタッキング相互作用とも呼ばれる。
【0044】
また、上記4-置換-1-ナフチル(メタ)アクリレート(A1-1-4)の置換基が、顔料の分散性及び安定性に効果がある理由としては、詳しい事は解っていないが、例えば、置換基を有することによって芳香環の静電ポテンシャルが上昇し顔料との親和性を高めるためだと推測している。
【0045】
多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1)以外の重合性不飽和モノマー
上記多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)は、多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1)と該(A1-1)以外の重合性不飽和モノマーを共重合して得ることができる。多環芳香族炭化水素を有する重合性不飽和モノマー(A1-1)以外の重合性不飽和モノマーとしては、通常、アクリル樹脂の合成で使用される重合性不飽和モノマーであれば特に制限なく用いることができ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の炭素数3以下のアルキル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香環含有重合性不飽和モノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物、該(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール、分子末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン化合物との付加物等のウレタン結合を含まない含窒素重合性不飽和モノマー;イソシアネート基含有重合性不飽和モノマーと水酸基含有化合物との反応生成物又は水酸基含有重合性不飽和モノマーとイソシアネート基含有化合物との反応生成物等のウレタン結合を有する重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、アリルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸等、これらスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー;2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート等のリン酸基を有する重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
なかでも、少なくとも1種のスチレンを含有していることが好ましく、重合性不飽和モノマー成分の総量を基準として、スチレンを5~65質量%含有することがより好ましい。
【0047】
また、樹脂の立体反発層を形成し顔料分散ペーストの安定性を確保する観点から、重合性不飽和モノマー成分の総量を基準として、ポリアルキレングリコールマクロモノマーを含有することができる。
【0048】
また、ポリアルキレングリコールマクロモノマーは、下記式(6)で示される非イオン性の重合性不飽和モノマーであり、そのようなモノマーの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのうち、特に、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが好適である。
CH=C(R)COO(C2nO)-R ・・・式(6)
〔式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、mは4~60、特に4~55の整数であり、nは2~3の整数であり、ここで、m個のオキシアルキレン単位(C2nO)は同じであっても又は互いに異なっていてもよい。〕
【0049】
また、少なくとも1種の(メタ)アクリルアミド化合物を含有することが好ましい。上記(メタ)アクリルアミド化合物としては、それ自体既知のものを特に制限なく用いることができ、具体的には、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドブチルエーテル、N-メチロールメタクリルアミドブチルエーテル、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシプロピルアクリルアミド、N-ヒドロキシブチルアクリルアミド、N-ヒドロキシペンチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジヒドロキシメチルアクリルアミド、N,N-ジヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジヒドロキシプロピルアクリルアミド、N,N-ジヒドロキシブチルアクリルアミド、N,N-ジヒドロキシペンチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、N-ヒドロキシブチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシペンチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシメチル-N-エチルメタクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシメチルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシエチルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシプロピルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシブチルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシペンチルメタクリルアミド、N,N-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチル,N-エチルアクリルアミド、N-メチル,N-エチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドメチルエーテル、N-メチロールメタクリルアミドメチルエーテル、N-メチロールアクリルアミドエチルエーテル、N-メチロールメタクリルアミドエチルエーテル、N-メチロールアクリルアミドプロピルエーテル、N-メチロールメタクリルアミドプロピルエーテル、N-メチロールアクリルアミドブチルエーテル、N-メチロールメタクリルアミドブチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有(メタ)アクリルアミド化合物、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(アクリエステルDMC、商品名、三菱レイヨン社製)等の第4級アンモニウム塩基含有アクリルアミド化合物、アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0050】
なかでも、下記式(7)で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物であることが好ましい。
CH=C(-R)-C(=O)-N(-R)-R ・・・式(7)
上記式(7)中のRは水素原子又はメチル基であり、R及びRは異なっていても同じでも良く、水素原子、水酸基を有する有機基及びアルキル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらにR及びRの両方又は片方が水酸基を有する有機基であることがより好ましく、具体的には、例えば、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル-N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル-N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル-N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0051】
多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)の合成
上記多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)は、ラジカル重合開始剤の存在下に、有機溶剤中で溶液重合する方法、又は水性媒体中でエマルション重合する方法等の、それ自体既知のラジカル重合法によって得ることができる。
【0052】
重合に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-アミルパーオキサイド、ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の過酸化物系重合開始剤;2,2´-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、アゾクメン、2,2´-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2´-アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4´-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2-(t-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2´-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2´-アゾビス(2-メチルプロパン)、ジメチル2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0053】
上記の重合又は希釈に使用される溶媒としては、特に制限はなく、水や有機溶剤、又はその混合物等を挙げることができる。有機溶剤としては、例えば、n-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン等の炭化水素溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;n-ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール等の等のアルコール系溶剤;エクアミド(商品名、出光興産株式会社製、アミド系溶剤)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロピオアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶剤等、従来公知の溶剤を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0054】
有機溶剤中での溶液重合において重合開始剤、重合性不飽和モノマー成分、及び有機溶剤を混合し、攪拌しながら加熱する方法、反応熱による系の温度上昇を抑えるために有機溶剤を反応槽に仕込み、60℃~200℃の温度で攪拌しながら必要に応じて窒素やアルゴン等の不活性ガスを吹き込みながら、重合性不飽和モノマー成分と重合開始剤を所定の時間かけて混合滴下又は分離滴下する方法等が用いられる。
【0055】
重合は、一般に1~10時間程度行うことができる。各段階の重合の後に必要に応じて重合開始剤を滴下しながら反応槽を加熱する追加触媒工程を設けてもよい。
【0056】
上記の通り得られる本発明の顔料分散樹脂は、重量平均分子量が好ましくは1,000~100,000、より好ましくは3,000~50,000の範囲内であることが好適である。
【0057】
上記樹脂(A1)は、合成終了後に脱溶媒及び/又は溶媒置換することで、固体又は任意の溶媒に置き換えた樹脂溶液にすることができる。置換溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アルコール系溶媒等が好ましい。
【0058】
脱溶媒の方法としては、常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。溶媒置換の方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中、又は脱溶媒後のいずれの段階で置換溶媒を投入してもよい。
【0059】
尚、本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0060】
ポリビニルアルコール樹脂(A2)
上記ポリビニルアルコール樹脂(A2)としては、下記式(1)で示される重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)とその他の重合性不飽和モノマーとを共重合して得られる樹脂(本明細書において、単にポリビニルアルコール樹脂(A2a)又は樹脂(A2a)と示すこともある)、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)(本明細書において、単にポリビニルアルコール樹脂(A2b)又は樹脂(A2b)と示すこともある)、及び樹脂(A2a)と樹脂(A2b)以外のポリビニルアルコール樹脂(A2c)(本明細書において、単にポリビニルアルコール樹脂(A2c)又は樹脂(A2c)と示すこともある)が挙げられる:
【0061】
【化5】
【0062】
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、水酸基、メチロール基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、かつR、R、R及びRの少なくとも1つが水酸基である。また、Xは存在しても存在しなくても良く、Xが存在する場合、Xは1種以上の原子からなる連結鎖である。)。
【0063】
本発明においては、ポリビニルアルコール樹脂(A2)として、ポリビニルアルコール樹脂(A2a)及び/又はポリビニルアルコール樹脂(A2b)を好適に用いることができるが、さらにポリビニルアルコール樹脂(A2c)を併用して用いることが好ましい。
【0064】
ポリビニルアルコール樹脂(A2a)
ポリビニルアルコール樹脂(A2a)は、前記式(1)で示される重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)とその他の重合性不飽和モノマーとを共重合して得られる樹脂である。本発明において、「重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を構成成分の1つとする樹脂」とは、重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を含む原料モノマーの(共)重合により得られる樹脂を意味する。同様に、本発明において、モノマーXを「構成成分とする」樹脂とは、モノマーXを含む原料を(共)重合することにより得られる樹脂を意味する。また、上記ポリビニルアルコール樹脂(A2a)はスルホン酸変性をしておらず、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)とは明確に区別できる。
【0065】
前記式(1)で表わされる重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)中のR、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、水酸基、メチロール基から選ばれる少なくとも1種であり、かつR、R、R及びRの少なくとも1つ(例えば、1~3個が好ましく、2~3個がより好ましい)が水酸基である。また、前記式(1)で表わされるモノマー中のXは、存在しても存在しなくても良く、存在しない場合は単結合であり、Xが存在する場合は1種以上の原子からなる連結鎖である。かかる連結鎖としては特に限定されないが、アルキレン(例えば、炭素数1~6の直鎖又は分枝鎖状のアルキレン)、アルケニレン(例えば、炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状であり、2重結合を1~2個(好ましくは1個)有するアルケニレン)、アルキニレン(例えば、炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状であり、3重結合を1~2個(好ましくは1個)有するアルキニレン)、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素基(これらの炭化水素基はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(R-O)-、-(O-R)-、-(R-O)-R-、-C(=O)-、-R(-OH)-、-C(=O)-O-、-R-C(=O)-O-、-C(=O)-O-R-、-C(=O)-N(-R)-、-C(=O)-N(-R)-R-、-R-C(=O)-N(-R)-、-R-C(=O)-N(-R)-R-、等が挙げられる。(上記のRは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましい。また、mは1以上の整数である。)
中でも、単結合(Xは存在しない)、炭化水素基、エステル基〔-C(=O)-O-〕、アミド基〔-C(=O)-NH-〕、アミドメチル基〔-C(=O)NH-CH2-〕から選ばれる連結鎖であることが好ましく、単結合(Xは存在しない)であることがより好ましい。
【0066】
かかるモノマー(A2a-1)としては、具体的には、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートの開環物、2ープロペン-1-オール、1-プロペン-1,3-ジオール、1ープロペン-2-オール、2-メチル-2-プロペン-1-オール、2-ブテン-1-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オール、1-メチル-2-ブテン-1-オール、2-ブテン-1,4-ジオール、1-ブテン-3,4-ジオール、2-メチル-2-ブテン-1,4-ジオール、4-ペンテン-2-オール、3-ペンテン-1-オール、4-ペンテン-2-オール、4-ペンテン-1-オール、1-ペンテン-4,5-ジオール、2-ペンテン-1,5-ジオール、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-(1-メチル-2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、1,2-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、及びその誘導体等が挙げられる。
【0067】
これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。中でも、2つ以上の水酸基を持つものが好ましい。
【0068】
また、前記式(1)で表わされるモノマー(A2a-1)中のX、R、及びR中の炭素原子と酸素原子の合計数が、3以上であることが好ましい。
【0069】
樹脂(A2a)中の重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)の含有割合としては、0.01~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.1~15質量%の範囲内であることがより好ましく、0.5~10質量%の範囲内であることが特に好ましい。本発明において、「樹脂(A2a)中の重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)の含有割合」とは、樹脂(A2a)の原料となるモノマー混合物中の重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)の含有割合を意味する。従って、樹脂(A2a)中の重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)の含有割合が0.1~20質量%である、とは、樹脂(A2a)が、重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を0.1~20質量%含む原料モノマーの共重合体であることを意味する。同様に、「樹脂Y中のモノマーXの含有割合」とは、樹脂Yの原料となるモノマー混合物中のモノマーXの含有割合を意味する。従って、樹脂Y中の重合性不飽和基含有モノマーXの含有割合がa質量%である、とは、樹脂Yが、モノマーXをa質量%含む原料モノマーの共重合体であることを意味する。
【0070】
上記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)と共重合するその他の重合性不飽和モノマーとしては、該モノマー(A2a-1)と共重合可能なモノマーであれば、特に制限なく使用することができ、具体的には、例えば、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有モノマー;アリルグリシジルエーテル等のアリルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル系化合物;アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができ、中でも、脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)が好ましい。脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)としては、具体的には、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、アジピン酸ジビニル、及びその誘導体が挙げられ、中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0071】
さらに共重合して得られた樹脂(A2a)をケン化することで、脂肪酸ビニルエステル単位の全部又は一部を加水分解してビニルアルコール単位にすることが分散性及び溶解性の観点から好ましい。
【0072】
ケン化度としては、50~100mol%の範囲内であることが好ましく、70~100mol%の範囲内であることがより好ましく、86~100mol%の範囲内であることが更に好ましく、88~99.9mol%の範囲内であることが特に好ましい。
言い換えると、少なくとも1種の重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)と少なくとも1種の脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)の共重合体をケン化することによって、樹脂(A2a)が、重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)、脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)、及びビニルアルコール(A2a-3)を構成成分とする樹脂となることが特に好ましい。
【0073】
通常、高ケン化度(高極性)になると、カーボン等の無機顔料への吸着性は良くなるものの、溶媒(NMP等)との溶解性は落ち、立体反発層が形成できず分散性は劣ることとなる。しかし、本発明において、上記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を構成成分の1つとする樹脂(A2a)が導電ペーストの分散性に効果を奏する理由としては、樹脂の側鎖に特定の官能基を導入することにより、比較的嵩高い側鎖官能基が立体障害となることで樹脂の融点を低下させ、また、特定の水酸基の水素結合によって樹脂の結晶性を低下させることができるため、溶媒への溶解性と顔料への吸着性が両立できたと考えられる。
【0074】
上記樹脂(A2a)の重合方法としては、それ自体既知の重合方法、例えば、有機溶媒中で溶液重合する方法により製造することができるが、これに限られるものではなく、例えば、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等でもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、モノマーは一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0075】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、具体的には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物;アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0076】
重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30~200℃程度の範囲で設定することができる。
【0077】
ケン化をする場合の条件としては、特に限定されず、公知の方法でケン化することができる。例えば、メタノール等のアルコール溶液中において、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。
【0078】
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
【0079】
ケン化反応の温度は、特に限定されないが、好ましくは10~70℃、より好ましくは30~40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分~3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0080】
上記樹脂(A2a)は、合成終了後に脱溶媒及び/又は溶媒置換することで、固体又は任意の溶媒に置き換えた樹脂溶液にすることができる。置換溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アルコール系溶媒等が好ましい。
【0081】
脱溶媒の方法としては、常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。溶媒置換の方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中、又は脱溶媒後のいずれの段階で置換溶媒を投入してもよい。
【0082】
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)は、以下の製造方法でスルホン酸を付与したポリアルコール樹脂のことである。また、ポリビニルアルコール樹脂(A2b)は前記式(1)で示される重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を含有しておらず、ポリビニルアルコール樹脂(A2a)とは明確に区別できる。
(1)スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物と、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルとを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法。
(2)ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等をポリビニルアルコールにマイケル付加させる方法。
(3)ポリビニルアルコールを硫酸化合物溶液(硫酸水溶液や亜硫酸ナトリウム水溶液等)で加熱する方法。
(4)ポリビニルアルコールをスルホン酸基含有アルデヒド化合物でアセタール化する方法。
(5)スルホン酸基を有するアルコール、アルデヒド及びチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させ、ポリビニルアルコールの重合をする方法。
【0083】
いずれの製造方法でも好適に用いることができるが、特に(1)のスルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物とその他の重合性不飽和モノマー(特に酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが好ましい)とを共重合し、得られる重合体を更にケン化する方法が好ましい。
【0084】
上記スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物(本明細書において、単にスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマーと示すこともある)としては、脂肪酸ビニルエステルと共重合が可能な化合物であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、例えば、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸;ナトリウムスルホプロピル2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等のスルホアルキルマレート;2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-スルホイソブチレンアクリルアミドナトリウム等のスルホアルキル(メタ)アクリルアミド;3-メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4-メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ナトリウム-4-スチレンスルホネート、ナトリウム2-スルホエチルアクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタアリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、オレイル2-ヒドロキシ-〔3-アリルオキシ〕-プロピルスルホサクシネートアンモニウム塩等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0085】
本発明においては、スルホン酸基は遊離の酸の形であっても、あるいはナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の形であってもよい。
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)中におけるスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマーの含有割合は、0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.2~5質量%である。本発明において、「樹脂(A2b)におけるスルホン酸基を有するモノマーの含有割合」とは、樹脂(A2b)の原料となるモノマー混合物中のスルホン酸基を有するモノマーの含有割合を意味する。従って、樹脂(A2b)中のスルホン酸基を有するモノマーの含有割合が0.1~10質量%である、とは、樹脂(A2b)が、スルホン酸基を有するモノマーを0.1~10質量%含む原料モノマーの共重合体であることを意味する。
【0086】
上記スルホン酸基及び重合性不飽和基を含有する化合物と共重合するその他の重合性不飽和モノマーとしては、スルホン酸基を有する重合性不飽和モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限なく使用することができる。〔ただし、前記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)以外のモノマーに限る。〕具体的には、例えば、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有モノマー;アリルグリシジルエーテル等のアリルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル系化合物;アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができ、中でも、脂肪酸ビニルエステルが好ましい。脂肪酸ビニルエステルとしては、脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)で例示した脂肪酸ビニルエステルの中から1種又は2種以上を好適に用いることができ、なかでも酢酸ビニルが好ましい。
【0087】
スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)のケン化度としては、30~100mol%の範囲内であることが好ましく、50~100mol%の範囲内であることがより好ましく、86~100mol%の範囲内であることが更に好ましく、88~99.9mol%の範囲内であることが特に好ましい。
【0088】
通常、高ケン化度(高極性)になると、カーボン等の無機顔料への吸着性は良くなるものの、溶媒(NMP等)との溶解性は落ち、立体反発層が形成できず分散性は劣ることとなる。しかし、本発明において、スルホン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(A2b)が導電ペーストの分散性に効果を奏する理由としては、樹脂の側鎖に特定の官能基を導入することにより、比較的嵩高い側鎖官能基(スルホン酸を含有する官能基)が立体障害となることで樹脂の融点を低下させ、また、高極性の側鎖官能基(スルホン酸を含有する官能基)によって樹脂の結晶性を低下させることができるため、溶媒への溶解性と顔料への吸着性が両立できたと考えられる。
【0089】
上記樹脂(A2b)の重合方法としては、前出した樹脂(A2a)と同様の方法を用いることができる。
【0090】
樹脂(A2a)及び樹脂(A2b)以外のポリビニルアルコール樹脂(A2c)
分散樹脂(A)は、前記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を含まず、スルホン酸変性をしていないケン化度30~100mol%のポリビニルアルコール樹脂(A2c)を含有することができる。本発明において、「重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を含まないポリビニルアルコール樹脂」とは、重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)を含まない原料モノマーの(共)重合により得られるポリビニルアルコール樹脂を意味する。また、「スルホン酸変性をしていないポリビニルアルコール樹脂」とは、スルホン酸基を含有しない原料モノマーの(共)重合により得られるポリビニルアルコール樹脂またはポリビニルアルコール樹脂を前述した変性等によりスルホン酸基を付加していない樹脂を意味する。
【0091】
上記ポリビニルアルコール樹脂(A2c)としては、それ自体既知の重合方法、例えば、酢酸ビニルに代表される脂肪酸ビニルエステルを重合し、加水分解することにより得ることができる。
【0092】
上記脂肪酸ビニルエステルとしては、脂肪酸ビニルエステル(A2a-2)で例示した脂肪酸ビニルエステルの中から1種又は2種以上を好適に用いることができ、なかでも酢酸ビニルが好ましい。
【0093】
上記ポリビニルアルコール樹脂(A2c)は、脂肪酸ビニルエステル以外の重合性不飽和モノマーと共重合して得ることができる。〔ただし、前記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)とスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー以外のモノマーに限る。〕
脂肪酸ビニルエステルと共重合可能な重合性不飽和モノマーとしては、前記重合性不飽和基含有モノマー(A2a-1)とスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー以外のモノマーであれば特に制限なく使用することができ、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;アルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有モノマー;アリルグリシジルエーテル等のアリルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル系化合物;アルキルビニルエーテル、4-ヒドロキシビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0094】
尚、以下において、主として酢酸ビニルを引用して説明を行うが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0095】
上記ポリビニルアルコール樹脂(A2c)の重合方法は、それ自体既知の重合方法、例えば、酢酸ビニルをアルコール系有機溶媒中で溶液重合してポリ酢酸ビニルを製造し、これをケン化する等の方法により製造することができるが、これに限られるものではなく、例えば、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等でもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0096】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、具体的には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物;アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0097】
重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30~200℃程度の範囲で設定することができる。
【0098】
ポリビニルアルコール樹脂(A2c)を製造する際のケン化条件は、特に限定されず、公知の方法でケン化することができる。一般的には、メタノール等のアルコール溶液中において、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。
【0099】
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。
【0100】
ケン化反応の温度は、特に限定されないが、好ましくは10~70℃、より好ましくは30~40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分~3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0101】
このようにして得ることができるポリビニルアルコール樹脂は、重合度が100~4,000であることが好ましく、100~3,000であることがより好ましい。
また、ケン化度は、通常30~100mol%の範囲内であり、好ましくは32~94mol%の範囲内である。
【0102】
本発明においてポリビニルアルコール樹脂(A2c)のケン化度とは、ポリビニルアルコール樹脂(A2c)に含まれる脂肪酸ビニルエステル由来の構成単位のうち、エステル結合が加水分解されているものの割合(mol%)を意味する。ケン化度は、ポリビニルアルコール樹脂を水酸化ナトリウムのようなアルカリ性物質で完全にケン化し、得られた脂肪酸塩(例えば酢酸塩)の量を測定することにより測定することができる。(完全にケン化したかは赤外吸光分析により確認することができる。)
尚、上記ポリビニルアルコール樹脂(A2c)は市販品であっても良い。
【0103】
上記ポリビニルアルコール樹脂(A2c)は、合成終了後に脱溶媒及び/又は溶媒置換することで、固体又は任意の溶媒に置き換えた樹脂溶液にすることができる。置換溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アルコール系溶媒等が好ましい。
【0104】
脱溶媒の方法としては、常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。溶媒置換の方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中、又は脱溶媒後のいずれの段階で置換溶媒を投入してもよい。
【0105】
本発明の導電ペーストにおいて、高極性の樹脂(A2a)及び/又は(A2b)と比較的低極性のポリビニルアルコール樹脂(A2c)とを併用することによって樹脂同士が相溶化され、該樹脂混合物により、溶媒溶解性と顔料吸着性が更に両立できたと考えられる。
【0106】
分散樹脂(A)中に多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)及びポリビニルアルコール樹脂(A2)が含まれる場合、その配合割合は限定されないが、分散樹脂(A)の固形分100質量部に対し、多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)の固形分を、通常5~95質量部、好ましくは10~50質量部の範囲、ポリビニルアルコール樹脂(A2)の固形分を、通常5~95質量部、好ましくは50~90質量部の範囲とすることが、粘度及び電池性能の観点から好ましい。ポリビニルアルコール(A2)が前記ポリビニルアルコール樹脂(A2a)及び/又は(A2b)と前記ポリビニルアルコール(A2c)を共に含む場合、その配合割合は限定されないが、ポリビニルアルコール樹脂(A2a)と樹脂(A2b)とを合計した固形分100質量部に対し、ポリビニルアルコール(A2c)の固形分を、通常5~100質量部、好ましくは15~70質量部の範囲とすることが、粘度及び電池性能の観点から好ましい。
【0107】
その他の分散樹脂
分散樹脂(A)には、上記の樹脂(A1)及び樹脂(A2)以外の樹脂を任意選択で配合してもよい。例えば、樹脂(A1)及び樹脂(A2)以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)以外のフッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、フッ素樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂を併用して用いることが好ましい。また、これらの樹脂は、顔料分散樹脂として、又は顔料分散後の添加樹脂として導電ペーストに配合することができる。
【0108】
導電カーボン(B)
上記導電カーボン(B)としては、水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは3000ppm未満であり、さらに好ましくは1000ppm未満である導電カーボンであって、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの分野において既知のものを広く用いることができる。例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノチューブ、グラフェン、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、黒鉛等が挙げられる。好ましくは、アセチレンブラック、黒鉛等が挙げられ、より好ましくはアセチレンブラック等が挙げられる。また、本発明の好ましい実施形態において、導電カーボン(B)は、アセチレンブラック及び黒鉛の両方を含んでいてもよい。これらの導電カーボンは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0109】
また、導電カーボンは、導電カーボンの製造及び貯蔵、並びに各種ペーストの製造及び貯蔵などの工程で大気中の水分を吸着することが知られているが、本発明においては各工程で導電カーボンが水分を吸着しない事が望ましい。大気中の湿度に対する導電カーボンの吸水量は、湿度、カーボンの表面積、及びカーボンの表面性状(親水度)によって決まる。
【0110】
導電カーボン(B)における一定条件下での吸湿量をY(質量%)とし、比表面積をZ(m/g)とした場合に、X=Y×Zで得られるXの値が、通常500以下、好ましくは400以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは100以下である場合に、導電カーボン(B)の水分吸着量を減少させ、それによりペーストの増粘及びゲル化を抑制できる事を発明者らは見出した。なお、上記吸湿量Yは下記の測定条件によって求められる。
〔吸湿量測定条件〕
140℃の温度で3時間乾燥させて得た導電カーボンの質量をY1とし、さらに温度20℃、相対湿度65%の条件で24時間放置して得た導電カーボンの質量をY2とした場合に、下記式で得られるYの値(質量%)を吸湿量とする。
Y=(Y2-Y1)/Y1×100
尚、上記比表面積はBET法により求められた比表面積である。
【0111】
溶媒(C)
上記溶媒(C)としては、水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは4000ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満であり、特に好ましくは1000ppm未満である溶媒であって、リチウムイオン電池正極用導電ペーストの分野において既知のものを広く用いることができ、前述した多環芳香族炭化水素基を有する樹脂(A1)の重合又は希釈に使用される水以外の溶媒を好適に用いることができる。好ましい溶媒(C)の具体例としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール等が挙げられ、好ましくはN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0112】
その他の成分
リチウムイオン電池正極用導電ペーストには、上記成分(A)、(B)、及び(C)以外の成分を配合してもよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、脱水剤、添加剤を用いることができ、特にポリフッ化ビニリデンを用いることが好ましい。
【0113】
ポリフッ化ビニリデン
上記ポリフッ化ビニリデンとしては、発明が属するリチウムイオン電池正極用導電ペーストの分野において耕地のものを広く用いることができる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は特に限定されないが、通常10,000~2,000,000が好ましく、50,000~1,700,000がより好ましく、100,000~1,500,000が特に好ましい。上記ポリフッ化ビニリデンは、導電カーボンの分散樹脂として用いてもよく、または導電カーボンの分散後に添加してもよい。
【0114】
脱水剤
上記脱水剤としては、脱水作用を有するものであれば公知のものを特に制限なく用いることができる。導電ペーストの溶媒(C)に溶解しない固体の脱水剤でもよいし、溶媒(C)に溶解する脱水剤でもよい。具体的には、例えば、ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、モレキュラーシーブ、活性アルミナ、酸化バリウム、水素化カルシウム、硫酸ナトリウム等の固形脱水剤;トリメチルホスフェイト、トリ-2-プロピルホスフェイト、トリブチルホスフェイト、テトライソプロピルエチレンホスホネート等のリン酸エステル;トルブチルホスフィンオキサイド、トリオクチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド;オルト蟻酸メチルエステル、オルト蟻酸エチルエステル、オルト酢酸メチルエステル、オルト酢酸エチルエステル、オルト安息香酸エチルエステル等のオルトエステル類;無水シュウ酸、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、二硫酸、五酸化二窒素、二リン酸、五酸化二リン、三酸化二リン、五酸化二ヒ素、三酸化二ヒ素、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、スルホ安息香酸無水物等の酸無水物などが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0115】
添加剤
添加剤としては、例えば、中和剤、顔料分散剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤、結着剤(バインダー)等を挙げることができる。
【0116】
顔料分散剤及び/又は結着剤としては、例えば、上記分散樹脂(A)及びポリフッ化ビニリデン以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0117】
リチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法
本発明は、1つの実施形態において、上記の水分量10000ppm未満(好ましくは、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは4500ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満)の導電ペーストに、さらに水分量が10000ppm未満かつ水酸化リチウム量が10000ppm未満の電極活物質を混合する工程を含むリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法であって、該合材ペーストの水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは4500ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満の方法を提供する。
【0118】
本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペーストの製造方法としては、例えば、前述したリチウムイオン電池正極用導電ペーストをまず調製し、当該導電ペーストに電極活物質を混合することにより得ることができる。
【0119】
また、本実施形態おいては、導電ペーストは、水分量が上記範囲のものであれば特に限定されないが、例えば、分散樹脂(A)、導電カーボン(B)及び溶媒(C)を含むものが好ましい。分散樹脂(A)、導電カーボン(B)及び溶媒(C)のそれぞれの具体的な成分等については、前述と同様のものを使用することができる。本実施形態においては、電池正極用導電ペーストが上記水分量であれば、分散樹脂(A)、導電カーボン(B)及び溶媒(C)が全て10000ppm未満のものを原料として用いて得られたものであっても、そうでなくてもよい。
【0120】
本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペースト固形分中の分散樹脂(A)の固形分含有量の合計量は、通常0.001~20質量%、好ましくは0.005~10質量%であることが、電池性能、ペースト粘度等の面から好適である。
【0121】
本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペースト固形分中の導電カーボン(B)の固形分含有量は、通常、0.01~30質量%、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~15質量%が電池性能の点から好適である。
【0122】
本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペースト中の溶媒(C)の含有量は、通常、0.1~60質量%、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは1~45質量%が電極乾燥効率、ペースト粘度の点から好適である。
【0123】
本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペースト固形分中のポリフッ化ビニリデンの固形分含有量は、通常、0質量%以上、かつ3質量%未満、好ましくは0.1質量%以上、かつ2.5質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上、かつ2質量%未満が好適である。
【0124】
本発明の製造方法で用いるリチウムイオン電池正極用合材ペーストにおいては、水分はできるだけ含有しないことが好ましいが、導電ペーストや大気から水分が合材ペースト内に混入されることになるため、少なくとも100ppm以上の水分は含有することになり得る。また、設備や製造工程の関係上、600ppm以上の水分は含有することになり得る。
【0125】
尚、上記の水分含有量は合材ペーストに含まれる含有量であって、合材ペーストを乾燥した正極合材層に含まれる水分含有量ではない。合材ペーストを乾燥する過程において、合材ペーストに含まれる水分の一部又は全部が蒸発するものと考えられる。
【0126】
本発明の製造方法で得られる合材ペーストは、貯蔵中の粘度変化が少ない事が塗工性の観点から好ましく、下記条件で測定された粘度変化率が、600%以下である場合に良好な塗工性が得られることがわかった。
〔粘度測定条件〕
ペーストを25℃の温度で7日間貯蔵を行い、初期粘度と貯蔵後の粘度の比較を行う。
粘度は、コーン&プレート型粘度計(「Mars2」(商品名、HAAKE社製))を用い、シアーレート1.0sec-1で測定する。
〔粘度変化率(%)〕=〔貯蔵後の粘度〕/〔初期粘度〕×100
【0127】
電極活物質
上記電極活物質としては、水分量が、10000ppm未満であり、好ましくは7000ppm未満であり、より好ましくは4000ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満であって、水酸化リチウム量が、10000ppm未満であり、好ましくは6000ppm未満であり、より好ましくは3000ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満のものであって、リチウムイオン電池正極用合材ペーストの分野において既知のものを広く用いることができる。例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNi1/3Co1/3Mn1/32等のリチウム複合酸化物等が挙げられる。これらの電極活物質は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。本発明のリチウムイオン電池正極用合材ペースト固形分中の電極活物質の固形分含有量は、通常70質量%以上、かつ100質量%未満、好ましくは80質量%以上、かつ100質量%未満であることが、電池容量、電池抵抗等の面から好適である。
【0128】
上記水酸化リチウム量は、電極活物質を脱イオン水などの溶媒で過希釈し、遠心分離を行なった後、その上澄み液を塩酸で中和滴定する方法により測定することができる。
【0129】
リチウムイオン電池正極用電極の製法
前述したように、リチウムイオン二次電池の正極合材層は、リチウムイオン電池正極用合材ペーストを正極芯材の表面に塗布し、これを乾燥することで、製造することができる。また、本発明の製造方法で得られるリチウムイオン電池正極用導電ペーストの用途としては、合材層のペーストとして用いる以外に、正極芯材と合成層との間のプライマー層としても用いることができる。
【0130】
リチウムイオン電池正極用合材ペーストの塗布方法は、ダイコーター等を用いた自体公知の方法により行うことができる。リチウムイオン電池正極用合材ペーストの塗布量は特に限定されないが、例えば、乾燥後の正極合材層の厚みが0.04~0.30mm、好ましくは0.06~0.24mmの範囲となるように設定することができる。乾燥工程の温度としては、例えば、80~200℃、好ましくは100~180℃の範囲内で適宜設定することができる。乾燥工程の時間としては、例えば、5~120秒、好ましくは5~60秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0131】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【実施例
【0132】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0133】
分散樹脂(A)の製造
多環芳香環含有樹脂の製造
製造例1
攪拌加熱装置と冷却管を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル300部を仕込み、窒素置換後、105℃に保った。この中に、以下に示すモノマー混合物を3時間かけて滴下した。
<モノマー混合物>
4-ヒドロキシ-1-ナフチルメタクリレート 250部
2-メトキシ-4-ヒドロキシ-1-ナフチルアクリレート 250部
スチレン 50部
2-ヒドロキシエチルアクリレート 50部
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド 200部
N-エチル-N-ヒドロキシエチルアクリルアミド 200部
2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル) 40部
滴下終了後から1時間経過後、この中に2,2´-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)5部をプロピレングリコールモノメチルエーテル100部に溶かした溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、これをさらに1時間105℃に保持したのち、排出して熱風乾燥機で乾燥した。最終的に固形分100%の多環芳香環含有樹脂No.1を得た。多環芳香環含有樹脂No.1は、重量平均分子量11,000であった。
【0134】
製造例2
製造例1のモノマー組成を下記表1の種類及び配合量とする以外は、製造例1と同じ組成及び製造方法で多環芳香環含有樹脂No.2を製造した。
【0135】
【表1】
【0136】
ポリビニルアルコール樹脂の製造
製造例3
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル90質量部及び2-ブテン-1,4-ジオール10質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度95モル%のポリビニルアルコール樹脂No.1を得た。
【0137】
製造例4
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル90質量部及び1-ブテン-3,4-ジオール10質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度95モル%のポリビニルアルコール樹脂No.2を得た。
【0138】
製造例5
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル90質量部及び1-ペンテン-4,5-ジオール10質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度95モル%のポリビニルアルコール樹脂No.3を得た。
【0139】
製造例6
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル97質量部及びアリルスルホン酸ナトリウム3.0質量部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度300、ケン化度95モル%のポリビニルアルコール樹脂No.4を得た。
【0140】
製造例7
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度500、ケン化度57モル%のポリビニルアルコール樹脂No.5を得た。
【0141】
製造例8
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度500、ケン化度75モル%のポリビニルアルコール樹脂No.6を得た。
【0142】
製造例9
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥した。最終的に、重合度500、ケン化度92モル%のポリビニルアルコール樹脂No.7を得た。
【0143】
導電ペーストの製造
実施例1
製造例1で得られた多環芳香環含有樹脂No.1 6部(固形分6部)、製造例4で得られたポリビニルアルコール樹脂No.2 9部(固形分9部)、製造例5で得られたポリビニルアルコール樹脂No.3 9部(固形分9部)、製造例9で得られたポリビニルアルコール樹脂No.7 6部(固形分6部)、導電カーボンA(注)1200部、KFポリマーW#7300(商品名、ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、水分量100ppm)220部、N-メチル-2-ピロリドン8500部、及び脱水剤6部(五酸化二リン1.5部、無水酢酸1.5部、メタンスルホン酸無水物1.5部、オルト蟻酸エチルエステル1.5部)を混合してボールミルにて5時間分散し、導電ペーストX-1を得た。尚、混合、顔料分散、及び排出等の各工程は、露点4℃の雰囲気下で行なった。
【0144】
実施例2~21、比較例1~4
下記表2のものとする以外は、実施例1と同様にして、導電ペーストX-2~X-25を製造した。尚、表中の樹脂配合量は全て固形分の値である。
また、下記表2に、成分(A)、(B)、(C)、及び導電ペーストの水分量を記載する。
【0145】
【表2】
【0146】
(注)実施例及び比較例で用いたカーボンの種類、比表面積(cm/g)、吸湿量(%)、パラメータXの値〔比表面積(cm/g)×吸湿量(%)〕は下記のとおりである。
・導電カーボンA:アセチレンブラック、比表面積39cm/g、吸湿量0.3%、X=11.7
・導電カーボンB:アセチレンブラック、比表面積110cm/g、吸湿量1.5%、X=165
・導電カーボンC:アセチレンブラック、比表面積120cm/g、吸湿量2.8%、X=336
・導電カーボンD:アセチレンブラック、比表面積190cm/g、吸湿量2.9%、X=551
尚、吸湿量(%)は下記の条件で測定した。
〔吸湿量測定条件〕
各導電カーボン約5.0gをガラス板上の5cm×5cmの面積に均一に広げ、140℃の温度で3時間乾燥させ質量(Y1)を測定した。続いて、温度20℃、相対湿度65%の条件で24時間放置して、吸湿後の導電カーボンの質量(Y2)を測定した。
吸湿量(%)=(吸湿後の質量Y2-乾燥後の質量Y1)/乾燥後の質量Y1×100。
【0147】
合材ペーストの製造
実施例22
実施例1で得られた導電ペーストX-1 100部、及び活物質粒子(組成式LiNi0.5Mn1.5で表されるスピネル構造のリチウムニッケルマンガン酸化物粒子。平均粒径6μm、BET比表面積0.7m/g、水分量1000ppm、水酸化リチウム量1500ppm)150部を混合して合材ペーストY-1を製造した。尚、混合及び排出等の各工程は、露点4℃の雰囲気下で行なった。
【0148】
実施例23~42、比較例5~8
下記表3のものとする以外は、実施例22と同様にして、合材ペーストY-2~Y-21を製造した。
また、下記表3に活物質の水分量及び水酸化リチウム量、並びに合材ペーストの水分量を記載する。
【0149】
【表3】
【0150】
上記表3に下記の評価試験の結果(導電ペーストの粘度、合材ペーストの粘度変化率)を記載する。2つの評価試験のうち、1つでも不合格の評価結果「D」が出た場合、その導電ペースト及び合材ペーストは不合格である。
【0151】
評価試験
<導電ペーストの粘度>
実施例及び比較例で得られた導電ペーストをコーン&プレート型粘度計「Mars2」(商品名、HAAKE社製)を用い、シアーレート1.0sec-1で粘度を測定し、下記基準により評価した。評価としては、S、A、B、Cが合格で、Dが不合格である。
S:粘度が、1Pa・s未満である。
A:粘度が、1Pa・s以上、かつ5Pa・s未満である。
B:粘度が、5Pa・s以上、かつ30Pa・s未満である。
C:粘度が、30Pa・s以上、かつ100Pa・s未満である。
D:粘度が、100Pa・s以上である。
【0152】
<合材ペーストの粘度変化率>
実施例及び比較例で得られた合材ペーストを25℃の温度で7日間貯蔵を行い、初期粘度と貯蔵後の粘度の比較を行なった。粘度は、コーン&プレート型粘度計「Mars2」(商品名、HAAKE社製)を用い、シアーレート1.0sec-1で測定し、下記式により粘度上昇率を評価した。評価としては、S、A、B、Cが合格で、Dが不合格である。
粘度変化率(%)=貯蔵後の粘度/初期粘度×100
S:貯蔵後の粘度変化率(%)が、150%未満である。
A:貯蔵後の粘度変化率(%)が、150%以上、かつ250%未満である。
B:貯蔵後の粘度変化率(%)が、250%以上、かつ400%未満である。
C:貯蔵後の粘度変化率(%)が、400%以上、かつ600%未満である。
D:貯蔵後の粘度変化率(%)が、600%以上である。