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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】給油ガイド及び紡糸引取装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/096 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
D01D5/096 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018017965
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019135335
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 海
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216838(JP,A)
【文献】特開平11-286824(JP,A)
【文献】特開2002-105740(JP,A)
【文献】特開平07-070819(JP,A)
【文献】特開昭60-151312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸に油剤を付与する給油ガイドであって、
第1方向に沿って延びた表面を有し、当該表面が糸を接触させるための接触面を有するガイド本体と、
前記ガイド本体の前記表面の、前記接触面よりも前記第1方向における一方側の部分に形成され、油剤を吐出する吐出口と、
前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向において、前記吐出口の両側に位置するように前記ガイド本体の前記表面に配置され、前記第1方向の前記一方側から他方側に向かうほど、前記第2方向における互いの間隔が狭くなるように延びた、複数のフィラメントを前記第2方向における前記吐出口の中央側に案内する2つの糸案内部材と、を備え、
前記接触面は、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面であり、
前記第2方向から見て、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端の位置での前記湾曲面の接線と重ならず、
前記接線を、第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの直線とも重ならないことを特徴とする給油ガイド。
【請求項2】
紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸に油剤を付与する給油ガイドであって、
第1方向に沿って延びた表面を有し、当該表面が糸を接触させるための接触面を有するガイド本体と、
前記ガイド本体の前記表面の前記第1方向における前記接触面よりも一方側の部分に形成され、油剤を吐出する吐出口と、
前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向において、前記吐出口の両側に位置するように前記ガイド本体の前記表面に配置され、前記第1方向の一方側から他方側に向かうほど、前記第2方向における互いの間隔が狭くなるように延びた、複数のフィラメントを前記第2方向における前記吐出口の中央側に案内する2つの糸案内部材と、を備え、
前記接触面は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を形成する平面を有し、
前記第2方向から見て、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記平面を延長した第1延長面と重ならず、
前記第1延長面を、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの第2延長面とも重ならないことを特徴とする給油ガイド。
【請求項3】
前記接触面は、前記第1方向における前記平面の前記他方側の端に接続され、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面、を有していることを特徴とする請求項2に記載の給油ガイド。
【請求項4】
紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸を引き取る紡糸引取装置であって、
第1方向の一方側から他方側に向かって走行する糸に油剤を付与する給油ガイド、を備え、
前記給油ガイドは、
前記第1方向に沿って延びた表面を有するガイド本体と、
前記ガイド本体の前記表面に形成され、粘度が50cSt以下の油剤を吐出する吐出口と、を備え、
糸が、前記吐出口の周縁部において前記表面に接触し始め、
前記ガイド本体の前記表面は、第1方向において前記吐出口よりも前記他方側に位置する、糸を接触させるための接触面を有し、
前記接触面は、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面であり、
前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向から見て、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端の位置での前記湾曲面の接線と重ならず、
前記給油ガイドは、
前記第2方向から見て、
前記接線の、前記表面に接触する直前の糸の走行方向となす角度が10°以下となるように配置され、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記接線を、第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの直線とも重ならないことを特徴とする紡糸引取装置。
【請求項5】
紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸を引き取る紡糸引取装置であって、
第1方向の一方側から他方側に向かって走行する糸に油剤を付与する給油ガイド、を備え、
前記給油ガイドは、
前記第1方向に沿って延びた表面を有するガイド本体と、
前記ガイド本体の前記表面に形成され、粘度が50cSt以下の油剤を吐出する吐出口と、を備え、
糸が、前記吐出口の周縁部において前記表面に接触し始め、
前記ガイド本体の前記表面は、前記第1方向において前記吐出口よりも前記他方側に位置する、糸を接触させるための接触面、を有し、
前記接触面は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を形成する平面を有し、
前記ガイド本体の前記表面と平行でかつ前記第1方向と直交する第2方向から見て、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記平面を延長した第1延長面と重ならず、
前記給油ガイドは、
前記第2方向から見て、
前記第1延長面の、前記表面に接触する直前の糸の走行方向となす角度が10°以下となるように配置され、
前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、
前記第1延長面を、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの第2延長面とも重ならないことを特徴とする紡糸引取装置。
【請求項6】
前記給油ガイドは、
前記第1方向における前記平面の前記他方側の端に接続され、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面、を有していることを特徴とする請求項5に記載の紡糸引取装置。
【請求項7】
前記給油ガイドが、前記吐出口から濃度が85%以上の油剤を吐出することを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の紡糸引取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸装置から紡出された糸に油剤を付与する給油ガイド及び当該給油ガイドを備えた紡糸引取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の給油ガイドは、紡糸装置から紡出された糸に油剤を付与する給油ガイドである。特許文献1の給油ガイドは、油剤を吐出する吐出口と、糸が接触する接触面とを有する。また、接触面は、吐出口が形成された第1湾曲面と、第1湾曲面よりも下側に位置する第2湾曲面を有する。糸は、吐出口の周縁部にて接触面に接触し始め、第2湾曲面の所定位置にて、その位置での接線方向に走行することで接触面から離間する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-216838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の給油ガイドにおいて、製造誤差等により、吐出口の上端が下端よりも前方に飛び出した形状となることがある。この場合には、糸が吐出口の上端近傍の部分において接触面に接触し始め、糸と第2湾曲面との間に隙間ができる。この隙間には吐出口から吐出された油剤が溜まり、この隙間に溜まった油剤が糸に付与される。このとき、油剤の粘度が低い場合には、油剤はこの隙間から流れ落ちやすく、この隙間における油剤の量が時間の経過によって変動しやすい。その結果、糸において油剤の付着ムラ(付着斑)が生じてしまう虞がある。
【0005】
本発明の目的は、油剤の粘度が低い場合でも、糸に均一に油剤を付与することが可能な給油ガイド、及び、給油ガイドを備えた紡糸引取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る給油ガイドは、紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸に油剤を付与する給油ガイドであって、第1方向に沿って延びた表面を有し、当該表面が糸を接触させるための接触面を有するガイド本体と、前記ガイド本体の前記表面の、前記接触面よりも前記第1方向における一方側の部分に形成され、油剤を吐出する吐出口と、前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向において、前記吐出口の両側に位置するように前記ガイド本体の前記表面に配置され、前記第1方向の前記一方側から他方側に向かうほど、前記第2方向における互いの間隔が狭くなるように延びた、複数のフィラメントを前記第2方向における前記吐出口の中央側に案内する2つの糸案内部材と、を備え、前記接触面は、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面であり、前記第2方向から見て、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端の位置での前記湾曲面の接線と重ならず、前記接線を、第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの直線とも重ならない。
【0007】
本発明と異なり、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、あるいは、ガイド本体の、第1方向において吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での湾曲面の接線と重なる場合を考える。この場合、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部において給油ガイドの表面に接触し始めるように配置すると、糸が、第1方向における吐出口の一方側の端近傍の部分においてガイド本体の上記表面と接触し始める。すると、湾曲面と糸との間に隙間ができる。そして、この隙間には吐出口から吐出された油剤が溜まり、この隙間に溜まった油剤が糸に付与される。しかしながら、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合には、油剤はこの隙間に長期間留まることはなく流れ落ちやすいため、隙間における油剤の量が不安定となり、糸において油剤の付着のムラ(付着斑)が生じる虞がある。
【0008】
本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、前記第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での湾曲面の接線と重ならない。そのため、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部においてガイド本体の上記表面に接触し始めるように配置すると、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において湾曲面に接触し始める。これにより、湾曲面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。その結果、油剤の粘度が低い場合でも、糸に均一に油剤を付与することができる。
【0009】
また、本発明では、接触面が湾曲面であるので、湾曲面に接触した糸は、吐出口の他方側の端よりも他方側の部分で、当該部分での接線方向に走行することで湾曲面から離間する。したがって、糸が湾曲面から離れる際に、角部で油剤が掻き落とされるといったことがない。これにより、糸に付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【0011】
給油ガイドを、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での接触面の接線が、糸の走行方向に対して多少傾くように配置することがある。本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、上記接線を第1方向における吐出口の他方側の端を中心として、第1方向における吐出口の一方側の端に近づく方向に10°傾けた直線とも重ならない。これにより、給油ガイドを、上記接線が糸の走行方向に対して10°以下の範囲で傾くように配置しても、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において湾曲面に接触し始め、湾曲面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。
【0012】
第2の発明に係る給油ガイドは、紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸に油剤を付与する給油ガイドであって、第1方向に沿って延びた表面を有し、当該表面が糸を接触させるための接触面を有するガイド本体と、前記ガイド本体の前記表面の前記第1方向における前記接触面よりも一方側の部分に形成され、油剤を吐出する吐出口と、前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向において、前記吐出口の両側に位置するように前記ガイド本体の前記表面に配置され、前記第1方向の一方側から他方側に向かうほど、前記第2方向における互いの間隔が狭くなるように延びた、複数のフィラメントを前記第2方向における前記吐出口の中央側に案内する2つの糸案内部材と、を備え、前記接触面は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を形成する平面を有し、前記第2方向から見て、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記平面を延長した第1延長面と重ならず、前記第1延長面を、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの第2延長面とも重ならない。
【0013】
本発明と異なり、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、あるいは、ガイド本体の、第1方向において吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1延長面と重なる場合を考える。この場合、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部において給油ガイドの表面に接触し始めるように配置すると、糸が、第1方向における吐出口の一方側の端近傍の部分においてガイド本体の上記表面と接触し始める。すると、上記平面と糸との間に隙間ができる。そして、この隙間には吐出口から吐出された油剤が溜まり、この隙間に溜まった油剤が糸に付与される。しかしながら、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合には、油剤はこの隙間に長期間留まることはなく流れ落ちやすいため、隙間における油剤の量が不安定となり、糸において油剤の付着のムラ(付着斑)が生じる虞がある。
【0014】
本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1延長面と重ならない。そのため、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部においてガイド本体の上記表面に接触し始めるように配置すると、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において上記平面に接触し始める。これにより、上記平面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。その結果、油剤の粘度が低い場合でも、糸に均一に油剤を付与することができる。
【0016】
給油ガイドを、上記平面が、糸の走行方向に対して多少傾くように配置することがある。本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第2延長面とも重ならない。これにより、給油ガイドを、上記平面が糸の走行方向に対して10°以下の範囲で傾くように配置しても、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において上記平面に接触し始め、平面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。
【0017】
の発明に係る給油ガイドは、第の発明に係る給油ガイドにおいて、前記接触面は、前記第1方向における前記平面の前記他方側の端に接続され、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面、を有している。
【0018】
本発明では、接触面が、第1方向における平面の他方側の端に接続され、ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面を有しているので、接触面に接触した糸が、第1方向における平面の他方側の端から離れるときに、角部で油剤が掻き落とされるといったことがない。これにより、糸に付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【0019】
第4の発明に係る紡糸引取装置は、紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸を引き取る紡糸引取装置であって、第1方向の一方側から他方側に向かって走行する糸に油剤を付与する給油ガイド、を備え、前記給油ガイドは、前記第1方向に沿って延びた表面を有するガイド本体と、前記ガイド本体の前記表面に形成され、粘度が50cSt以下の油剤を吐出する吐出口と、を備え、糸が、前記吐出口の周縁部において前記表面に接触し始め、前記ガイド本体の前記表面は、第1方向において前記吐出口よりも前記他方側に位置する、糸を接触させるための接触面を有し、前記接触面は、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面であり、前記ガイド本体の前記表面と平行で且つ前記第1方向と直交する第2方向から見て、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端の位置での前記湾曲面の接線と重ならず、前記給油ガイドは、前記第2方向から見て、前記接線の、前記表面に接触する直前の糸の走行方向となす角度が10°以下となるように配置され、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記接線を、第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の範囲で傾けたいずれの直線とも重ならない。
【0020】
本発明と異なり、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、あるいは、ガイド本体の、第1方向において吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での湾曲面の接線と重なる場合を考える。この場合、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部において給油ガイドの表面に接触し始めるように配置すると、糸が、第1方向における吐出口の一方側の端近傍の部分においてガイド本体の上記表面と接触し始める。すると、湾曲面と糸との間に隙間ができる。そして、この隙間には吐出口から吐出された油剤が溜まり、この隙間に溜まった油剤が糸に付与される。しかしながら、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合には、油剤はこの隙間に長期間留まることはなく流れ落ちやすいため、隙間における油剤の量が不安定となり、糸において油剤の付着のムラ(付着斑)が生じる虞がある。
【0021】
本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での湾曲面の接線と重ならない。そのため、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部においてガイド本体の上記表面に接触し始めるように配置すると、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において湾曲面に接触し始める。これにより、湾曲面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。その結果、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合でも、糸に均一に油剤を付与することができる。
【0022】
また、本発明では、接触面が湾曲面であるので、湾曲面に接触した糸は、吐出口の他方側の端よりも他方側の部分で、当該部分での接線方向に走行することで湾曲面から離間する。したがって、糸が湾曲面から離れる際に、角部で油剤が掻き落とされるといったことがない。これにより、糸に付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【0024】
給油ガイドを、第1方向における吐出口の他方側の端の位置での接触面の接線が、糸の走行方向に対して多少傾くように配置することがある。本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、上記接線を第1方向における吐出口の他方側の端を中心として、第1方向における吐出口の一方側の端に近づく方向に10°傾けた直線とも重ならない。これにより、給油ガイドを、上記接線が糸の走行方向に対して10°以下の範囲で傾くように配置しても、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において湾曲面に接触し始め、上述したような油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。
【0025】
第5の発明に係る紡糸引取装置は、紡糸装置から紡出された複数のフィラメントによって構成される糸を引き取る紡糸引取装置であって、第1方向の一方側から他方側に向かって走行する糸に油剤を付与する給油ガイド、を備え、前記給油ガイドは、前記第1方向に沿って延びた表面を有するガイド本体と、前記ガイド本体の前記表面に形成され、粘度が50cSt以下の油剤を吐出する吐出口と、を備え、糸が、前記吐出口の周縁部において前記表面に接触し始め、前記ガイド本体の前記表面は、前記第1方向において前記吐出口よりも前記他方側に位置する、糸を接触させるための接触面、を有し、前記接触面は、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を形成する平面を有し、前記ガイド本体の前記表面と平行でかつ前記第1方向と直交する第2方向から見て、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記平面を延長した第1延長面と重ならず、前記給油ガイドは、前記第2方向から見て、前記第1延長面の、前記表面に接触する直前の糸の走行方向となす角度が10°以下となるように配置され、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端、及び、前記ガイド本体の、前記第1方向において、前記吐出口の前記一方側の端よりも前記一方側の部分は、前記第1延長面を、前記第1方向における前記吐出口の前記他方側の端を中心として、前記第1方向における前記吐出口の前記一方側の端に近づく方向に10°以下の角度で傾けたいずれの第2延長面とも重ならない。

【0026】
本発明と異なり、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、あるいは、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1延長面と重なる場合を考える。この場合、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部において給油ガイドの表面に接触し始めるように配置すると、糸が、第1方向における吐出口の一方側の端近傍の部分においてガイド本体の上記表面と接触し始める。すると、接触面と糸との間に隙間ができる。そして、この隙間には吐出口から吐出された油剤が溜まり、この隙間に溜まった油剤が糸に付与される。しかしながら、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合には、油剤はこの隙間に長期間留まることはなく流れ落ちやすいため、隙間における油剤の量が不安定となり、糸において油剤の付着のムラ(付着斑)が生じる虞がある。
【0027】
本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第1延長面と重ならない。そのため、給油ガイドを、糸が第1方向の一方側から他方側に向かって走行し、糸が吐出口の周縁部においてガイド本体の上記表面に接触し始めるように配置すると、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において上記平面に接触し始める。これにより、上記平面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。その結果、油剤の粘度が低く、単位時間あたりの油剤の吐出量が少ない場合でも、糸に均一に油剤を付与することができる。
【0029】
給油ガイドを、上記平面が、糸の走行方向に対して多少傾くように配置することがある。本発明では、第2方向から見て、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、第2延長面とも重ならない。これにより、給油ガイドを、上記平面が糸の走行方向に対して10°以下の範囲で傾くように配置しても、糸は、第1方向における吐出口の他方側の端近傍の部分において上記平面に接触し始め、上記平面と糸との間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。
【0030】
の発明に係る紡糸引取装置は、第の発明に係る紡糸引取装置において、前記給油ガイドは、前記第1方向における前記平面の前記他方側の端に接続され、前記ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面、を有している。
【0031】
本発明では、接触面が、第1方向における平面の他方側の端に接続され、ガイド本体の外側に凸となるように湾曲した湾曲面を有しているので、接触面に接触した糸が、第1方向における平面の他方側の端から離れるときに、角部で油剤が掻き落とされるといったことがない。これにより、糸に付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【0032】
の発明に係る紡糸引取装置は、第4~第6のいずれかの発明に係る紡糸引取装置において、前記給油ガイドが、前記吐出口から濃度が85%以上の油剤を吐出する。
【0033】
油剤の濃度が低い場合及び高い場合のいずれにおいても、油剤の粘度が低くなる。しかしながら、糸に必要とされる付与すべき油分量は変わらないため、油剤の濃度が高い場合には、油剤の濃度が低い場合と比較して、糸に所定量の油分を付与させるために、単位時間あたりに吐出口から吐出される油剤の吐出量が少ない。そのため、油剤の濃度が高い場合には、上記隙間に溜まる油剤の量の変動が生じやすい。したがって、油剤の濃度が85%以上の場合には、第1方向における吐出口の一方側の端、及び、ガイド本体の、第1方向において、吐出口の一方側の端よりも一方側の部分が、上記接線や上記第1延長面と重ならないようにして、接触面(湾曲面又は平面)と糸との間に油剤の溜まる隙間ができないようにする、あるいは、隙間を僅かなものとする意義は大きい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、油剤の粘度が低い場合でも、糸に均一に油剤を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】給油ガイドを備えた紡糸引取装置の模式図である。
図2】給油ガイドの正面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】油剤濃度と油剤粘度との関係を示す図である。
図5】吐出口の上端がより前方に位置している給油ガイドの図3相当の図である。
図6】(a)は比較例1~3におけるU%を示す図であり、(b)は実施例1~3におけるU%を示す図であり、(c)は測定に用いた油剤の濃度と粘度とを示す図である。
図7】一変形例における給油ガイドの図3相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0037】
(紡糸引取装置)
図1に示すように、紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数のフィラメントFからなる合成繊維糸Yをそれぞれ引き取り、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成する。なお、以下では、図1に示される上下方向、前後方向及び左右方向を、それぞれ、紡糸引取装置1の上下方向(本発明の「第1方向」)、紡糸引取装置1の前後方向、及び、紡糸引取装置1の左右方向(本発明の「第2方向」)と定義して説明を行う。
【0038】
紡糸引取装置1は、冷却部3、給油部4、延伸部5、引取ローラ6、7、交絡装置8、巻取装置9等を備えている。まず、紡糸装置2においては、ギヤポンプ等からなるポリマー供給装置(図示省略)から供給されたポリマーが、左右方向(図1の紙面奥行方向)に並んだ複数の口金2aから下方に押し出され、複数のフィラメントFからなる糸Yが、左右方向に複数並んだ状態で紡出される。
【0039】
紡糸装置2の複数の口金2aから紡出された複数の糸Yは、左右方向に並んだ状態で、冷却部3、給油部4、延伸部5、引取ローラ6、交絡装置8、引取ローラ7に沿った糸道を走行する。さらに、複数の糸Yは、引取ローラ7から前後方向に分配されたうえで、巻取装置9において複数のボビンBにそれぞれ巻き取られる。
【0040】
冷却部3は、複数の円筒状の冷却筒10を有しており、各冷却筒10は紡糸装置2に設けられた複数の口金2aの下方にそれぞれ配置されている。紡糸装置2の口金2aから紡出された複数の糸Yは、各冷却筒10の内部空間10aを、冷却筒10の軸方向に沿って上方から下方に向かって走行する。内部空間10aの周りには整流部10bが設けられており、不図示の圧空供給装置から供給される冷却風が、整流部10bで整流されつつ内部空間10aに流入する。主に、整流部10bは、内部空間10aに流入する冷却風の流量が、冷却筒10の周方向において概ね均一となるように整流する。
【0041】
給油部4は、各冷却筒10の下方にそれぞれ配置された複数の給油ガイド11を有する。給油ガイド11は、口金2aから紡出された複数のフィラメントFをまとめて1本の糸Yにするとともに、糸Y(複数のフィラメントF)に油剤を付与する。給油ガイド11については、後で詳細に説明する。
【0042】
延伸部5は、給油部4の下方に配置されている。延伸部5は、保温ボックス12と、この保温ボックス12内に収容された複数の加熱ローラ(図示省略)を有する。延伸部5は、複数の加熱ローラにより、複数の糸Yをそれぞれ加熱しつつ延伸する。
【0043】
延伸部5で延伸された複数の糸Yは、引取ローラ6、7により巻取装置9に送られる。交絡装置8は、引取ローラ6と引取ローラ7との間に配置され、1本の糸Yを構成する複数のフィラメントFを絡ませて交絡を付与する。
【0044】
巻取装置9は、機台13と、ターレット14、2本のボビンホルダ15、支持枠体16、接触ローラ17、トラバース装置18等を備えている。巻取装置9は、ボビンホルダ15を回転させることによって、引取ローラ7から送られてきた複数の糸Yを、複数のボビンBに同時に巻き取り、複数のパッケージPを形成する。
【0045】
ターレット14は、円板状の部材であり、機台13に取り付けられている。ターレット14は、不図示のモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ15は、ターレット14に、前後方向に延びる姿勢で片持ち支持されている。各ボビンホルダ15には、その軸方向に沿って複数の円筒状のボビンBが並んだ状態で装着される。ターレット14が回転することにより、2本のボビンホルダ15が、上側の巻取位置と下側の退避位置との間で切り換え可能となっている。
【0046】
支持枠体16は、前後方向に延びる長尺なフレーム状の部材である。この支持枠体16は、機台13に固定されている。支持枠体16の下部には、前後に長いローラ支持部材19が、支持枠体16に対して上下に移動可能に取り付けられている。ローラ支持部材19には、ボビンホルダ15の軸方向に沿って延びる接触ローラ17が回転自在に支持されている。この接触ローラ17が形成途中のパッケージPに接し、パッケージPに所定の接圧が付与されることにより、パッケージPの形状が整えられる。
【0047】
トラバース装置18は、前後方向に並んだ複数のトラバースガイド18aを有する。複数のトラバースガイド18aは、不図示のモータによって駆動されて、それぞれ前後方向に往復移動する。糸Yが掛けられた状態でトラバースガイド18aが往復移動することにより、糸Yは、支点ガイド18bを中心に前後に綾振りされながら、対応するボビンBに巻き取られる。
【0048】
(給油ガイド)
上記のように、給油ガイド11は、紡糸装置2から紡出された多数のフィラメントFからなる糸Yに油剤を付与するものである。給油ガイド11は、アルミナやジルコニアなどのセラミックス材料によって形成されており、図2図3に示すように、ガイド本体20を有する。ガイド本体20は、前側の表面21が上下方向に沿って延びている。そして、表面21には、冷却部3から送られてきた、上方から下方(第1方向の一方側から他方側)に向かって走行する糸Y(複数のフィラメントF)が接触する。
【0049】
また、ガイド本体20は油剤流路22を有する。油剤流路22は、給油ガイド11の内部に形成され、前後方向に延びている。油剤流路22は、その前端が表面21に形成された吐出口25となっており、吐出口25から油剤を吐出することで、糸Y(複数のフィラメントF)に油剤を付与する。本実施形態では、吐出口25から吐出される油剤の濃度が85%程度である。ここで、油剤の濃度とは、水以外の、油分や添加物などの有効成分すべてを含んだ濃度を指す。図4は、油剤の濃度と油剤の粘度との関係を示している。図4に示すように、油剤においては、一般に、油分量と水分量との差が大きいほど、油剤の粘度が小さくなる。例えば、ある油剤では、濃度が85%程度の場合に、粘度が45cSt程度(50cSt以下)となる。また、例えば、特開平7-70819号公報に記載されているように、粘度が50cStを超える油剤を糸に付与する場合には糸切れが多発するため、糸Yに付与する油剤としては、粘度が50cSt以下の油剤を使用することが好ましいことが知られている。
【0050】
ここで、ガイド本体20の表面21は、吐出口25の上端25a(第1方向の一方側の端)よりも上方の上側湾曲面26と、吐出口25の下端25b(第1方向の他方側の端)よりも下方の下側湾曲面27(本発明の「接触面」、「湾曲面」)とを有する。湾曲面26、27は、いずれもガイド本体20の外側に凸となるように湾曲している。
【0051】
また、左右方向から見て(図3の断面で)、吐出口25の上端25a、及び、ガイド本体20の、吐出口25の上端25aよりも上方の上部分20aは、吐出口25の下端25bの位置での下側湾曲面27の接線L1と重ならない。さらに、左右方向から見て、吐出口25の上端25a、及び、ガイド本体20の上部分20aは、接線L1を、吐出口25の下端25bを中心に、図3の時計回り方向(吐出口25の上端25aに近づく方向)に10°回転させた直線L2とも重ならない。
【0052】
ここで、本実施形態では、例えば、接線L1と直交する方向において、吐出口25の上端25aと下端25bとの間の長さKが0.1[mm]程度となっていることにより、吐出口25の上端25aと下端25bとが、上述したような位置関係となっている。
【0053】
また、給油ガイド11は、左右方向から見たときに、接線L1が、冷却部3から送られてくる糸Y(フィラメントF)の走行方向とほぼ平行となるように配置される。
【0054】
また、ガイド本体20の表面21には、2つの糸案内部材23が配置されている。2つの糸案内部材23は、それぞれ、表面21の、吐出口25よりも右側の部分及び吐出口25よりも左側の部分に配置されている。すなわち、2つの糸案内部材23は、左右方向において吐出口25の両側に位置するように表面21に配置されている。また、2つの糸案内部材23は、上方から下方に向かうほど、左右方向における吐出口25の中央部に近づくように、上下方向に対して傾いて延びている。これにより、上方から下方(第1方向の一方側から他方側)に向かうほど、左右方向における2つの糸案内部材23の間隔が小さくなっている。そして、冷却部3から送られてきた複数のフィラメントFは、給油ガイド11を通過する間に、2つの糸案内部材23により左右方向の吐出口25の中央側に近づく方向に案内されることによって徐々に収束されてまとまり、1本の糸Yとなる。
【0055】
(効果)
ここで、本実施形態と異なり、図5に示すような給油ガイド11’を用いて糸Yに油剤を付与する場合を考える。給油ガイド11’は、表面21’が、吐出口25’の上端25a’よりも上方の上側湾曲面26’と、吐出口25’の下端25b’よりも下方の下側湾曲面27’とを有する。湾曲面26’、27’は、いずれもガイド本体20’の外側に凸となるように湾曲している。また、左右方向から見て(図5の断面で)、ガイド本体20’の、吐出口25’の上端25a’よりも上方の上部分20a’が、吐出口25’の下端25b’の位置での下側湾曲面27’の接線L1’と重なる。
【0056】
この場合には、冷却部3から送られてきた糸Yを、吐出口25’の周縁部において表面21’に接触し始めるようにしたときに、糸Yは、まず、上側湾曲面26’の、吐出口25’の上端25a’、あるいは、これよりも上方の部分に接触する。その後、糸Yは、下側湾曲面27’の、吐出口25’の下端25b’よりも下側の部分Aに接触し、下側湾曲面27’の部分Aよりもさらに下側の部分S’から、その位置での接線T’の方向に走行することで、下側湾曲面27’から離間する。
【0057】
この場合には、下側湾曲面27’の、吐出口25’の下端25b’と部分Aとの間に位置する領域と、糸Yとの間に隙間Cができ、吐出口25’から吐出された油剤が隙間Cに溜まる。そして、隙間Cに溜まった油剤が糸Yに付与される。このとき、油剤の粘度が低く、単位時間あたりに吐出口25’から吐出される油剤の吐出量が少ないと、油剤は隙間Cに長時間留まり続けることなく流れ落ちやすい。そのため、隙間Cに溜まる油剤の量が不安定となり、糸Yに付与される油剤の量も不安定となる。その結果、糸Yにおいて油剤の付着のムラ(付着斑)が生じてしまう。ここで、油剤の濃度が低い(例えば30%以下)の場合にも、油剤の粘度は低くなる。しかしながら、糸Yに必要とされる付与すべき油分量は変わらないため、油剤の濃度が85%程度と高い場合、油剤の濃度が低い場合よりも、単位時間あたりに吐出口25’から吐出される油剤の吐出量が少なくなる。そのため、油剤の濃度が高い場合には、油剤の濃度が低い場合よりも隙間Cに溜まる油剤の量が不安定になりやすい。
【0058】
なお、給油ガイドにおいて、左右方向から見て、吐出口の上端が、吐出口の下端の位置での下側湾曲面の接線上に位置する場合には、上述したような問題は生じない。しかしながら、このような給油ガイドは、製造時の少しの誤差で、左右方向から見て、吐出口の下端に位置での下側湾曲面の接線と、吐出口の上端、及び、ガイド本体の、吐出口の上端よりも上方の上部分との位置関係が給油ガイド11’と同様になる可能性が高い。そして、この場合には、給油ガイド11’を用いる場合と同様、糸Yに付着斑が生じてしまう虞がある。
【0059】
これに対して、本実施形態では、左右方向から見て、吐出口25の上端25a及びガイド本体20の上部分20aは、吐出口25の下端25bの位置での下側湾曲面27の接線L1と重ならない。したがって、冷却部3から送られてきた糸Y(フィラメントF)を、吐出口25の周縁部において表面21に接触し始めるようにしたときに、糸Yは、下側湾曲面27の、吐出口25の下端25b近傍の部分において下側湾曲面27に接触し始め、上側湾曲面26には接触しない。これにより、下側湾曲面27と糸Yとの間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。したがって、吐出口25から吐出された油剤が直接付与されることになり、糸Yに付与される油剤の量が安定し、糸Yにおいて付着斑が生じにくい。
【0060】
また、給油ガイド11を、接線L1が冷却部3から送られてくる糸Yの走行方向に対して多少傾くような姿勢で配置することがある。これに対して、本実施形態では、左右方向から見て、吐出口25の上端25a及びガイド本体20の上部分20aは、接線L1を、吐出口25の下端25bを中心に、図3の時計回り方向(吐出口25の上端25aに近づく方向)に10°回転させた直線L2とも重ならない。これにより、給油ガイド11を、接線L1が冷却部3から送られてくる糸Yの走行方向に対して10°以下の範囲で傾くような姿勢で配置した場合でも、上述したのと同様、糸Yが、下側湾曲面27と糸Yとの間に油剤の溜まる隙間ができない、あるいは、隙間ができるとしても僅かなものとなる。これにより、糸Yにおいて付着斑が生じにくい。
【0061】
また、本実施形態では、糸Yは、下側湾曲面27の、接触し始めた部分(吐出口25の下端25b)よりも下側の部分Sから、その位置での接線Tの方向に走行することで、下側湾曲面27から離間する。そのため、糸Yが給油ガイド11から離れるときに、糸Yに付着した油剤が角部で掻き落とされるといったことがない。これにより、糸Yに付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【実施例
【0062】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0063】
図6(a)に、左右方向から見て、ガイド本体20’の上部分20a’が、吐出口25’の下端25b’の位置での下側湾曲面27’の接線L1’と重なる給油ガイド11’を用いて、糸Yに油剤G1、G2、G3の3種類の油剤を付与したときの、油剤の付与後の糸のU%の測定結果を示す(比較例1~3)。
【0064】
また、図6(b)に、左右方向から見て、吐出口25の上端25a、及び、ガイド本体20の上部分20aが、吐出口25の下端25bの位置での下側湾曲面27の接線L1と重ならない給油ガイド11を用いて、糸Yに油剤G1、G2、G3の3種類の油剤を付与したときの、油剤の付与後の糸のU%の測定結果を示す(実施例1~3)。
【0065】
ここで、糸のU%は、油剤の付与後の糸の径のばらつきの程度を示している。糸の径は付与される油剤の量によって変わり、糸に対する油剤の付着むらが小さいほど、U%が小さくなる。また、測定に用いた糸はポリエステル糸である。また、図6(c)に示すように、油剤G1は、濃度が85[%]で、粘度が45[cSt]の油剤である。油剤G2は、濃度が90[%]で、粘度が38[cSt]の油剤である。油剤G3は、濃度が98[%]で、粘度が23[cSt]の油剤である。
【0066】
なお、図6(a)に示す比較例1~3のU%の測定結果は、それぞれ、複数の給油ガイド11’を作製し、これらの給油ガイド11’を用いてそれぞれ糸に油剤を付与したときのU%の測定結果の平均値である。また、比較例1~3の測定に用いた複数の給油ガイド11’は、下側湾曲面27’の曲率半径の平均値が32.6[mm]である。また、これらの給油ガイド11’は、吐出口25’の上端25a’の下端25b’に対する前後方向の前側へのずれ量の平均値0.055[mm]である。
【0067】
また、図6(b)に示す実施例1~3のU%の測定結果は、それぞれ、複数の給油ガイド11を作製し、これらの給油ガイド11を用いてそれぞれ糸に油剤を付与したときのU%の測定結果の平均値である。また、実施例1~3の測定に用いた複数の給油ガイド11は、下側湾曲面27の曲率半径の平均値が32.7[mm]である。また、これらの給油ガイド11は、吐出口25の上端25aの下端25bに対する前後方向の後側へのずれ量の平均値が0.058[mm]である。
【0068】
また、図6(b)の比率Qは、各実施例でのU%の、その実施例と同じ油剤を用いて測定を行った比較例でのU%に対する比率である。比率Qの値が小さいほど、油剤の付着むらの改善効果が大きいことを示している。実施例1~3のいずれにおいても、比率Qの値が1よりも小さくなっており、比較例1~3よりも油剤の付着むらが小さくなっていることがわかる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載の限りにおいて、様々な変更が可能である。
【0070】
上述の実施形態では、左右方向から見て、吐出口25の上端25a及びガイド本体20の上部分20aが、直線L2と重ならないが、これには限られない。左右方向から見て、吐出口25の上端25a及びガイド本体20の上部分20aは、接線L1と重ならなければ、直線L2と重なっていてもよい。この場合でも、少なくとも給油ガイドを、接線L1が冷却部3から送られてくるフィラメントF(糸Y)の走行方向とほぼ平行となるような姿勢で配置すれば、糸Yに付着斑が生じてしまうのを防止することができる。
【0071】
また、上述の実施形態では、ガイド本体20の表面21のうち、吐出口25の下端25bよりも下方に位置する部分が下側湾曲面27となっていたが、これには限られない。一変形例では、図7に示すように、給油ガイド101において、ガイド本体120の前側の表面121が、吐出口125の上端125aよりも上側に位置し、吐出口125の上端を形成する平面126と、吐出口125の下端125bよりも下側に位置し、吐出口125の下端を形成する平面127(本発明の「平面」)と、平面127よりも下側の平面128と、平面128よりも下側の平面129とを有している。平面126は、上方に向かうほど後方に向かうように上下方向に対して傾斜している。平面127は、上下方向とほぼ平行となっている。平面128、129は、下方に向かうほど後方に向かうように上下方向に対して傾斜している。また、平面129は平面128よりも上下方向に対する傾斜角度が大きくなっている。また、平面127と平面128とは、ガイド本体120の外側に凸となるように湾曲した湾曲面130によって接続されている。また、平面128と平面129とは、ガイド本体120の外側に凸となるように湾曲した湾曲面131によって接続されている。なお、本変形例では、平面127、128と湾曲面130とを合わせたものが、本発明の「接触面」に相当する。
【0072】
そして、本変形例では、吐出口125の上端125a、及び、ガイド本体120の、吐出口125の上端125aよりも上方の上部分120aが、吐出口125の下端125bを含む平面127を延長した第1延長面H1と重ならない。さらに、吐出口125の上端125a、及び、ガイド本体120の上部分120aは、第1延長面H1を、吐出口125の下端125bを中心に図の方向から見て時計回り方向に10°傾けた第2延長面H2とも重ならない。
【0073】
この場合には、糸Yを吐出口125の周縁部においてガイド本体120の表面121に接触し始めるようにしたときに、糸Yは、吐出口125の下端125b近傍の部分において平面127に接触し始め、平面126に接触することはない。また、糸Yは、平面127、湾曲面130及び平面128を順に走行した後、平面128と湾曲面131との接続部分において表面121から離間する。そして、この場合にも、平面127と糸Yとの間に隙間ができないため、糸Yに均一に油剤を付与することができる。
【0074】
また、本変形例では、平面127と平面128とが湾曲面130によって接続されているため、糸Yが平面127から平面128へ走行する際(平面127の下端から離れる際)に、糸Yに付着した油剤が角部で掻き落とされるといったことがない。また、平面128と平面129とが湾曲面131によって接続されているため、糸Yが表面121から離間する際に、糸Yは、湾曲面131の平面128との接続部分での接線方向に離れる。これにより、糸Yが平面128の下端から離れるときに、糸Yに付着した油剤が角部で掻き落とされるといったことがない。これらのことから、糸Yに付与される油剤の量を適切にコントロールすることができる。
【0075】
なお、本変形例では、ガイド本体120の表面121のうち、吐出口125の上端125aよりも上方の部分を平面126としたが、表面121の、吐出口125の上端125aよりも上方の部分を、上述の実施形態と同様に湾曲面としてもよい。また、上述の実施形態において、表面21の、吐出口25の上端25aよりも上方の部分を、上記変形例と同様に平面としてもよい。
【0076】
また、上記変形例では、平面127と平面128とが湾曲面130によって接続され、平面128と平面129とが湾曲面131によって接続されていたが、これには限られない。平面127と平面128とが直接接続され、平面127と平面128との接続部分が角部となっていてもよい。同様に、平面128と平面129とが直接接続され、平面128と平面129との接続部分が角部となっていてもよい。
【0077】
また、上述の実施形態では、油剤の濃度が85%程度であったが、これには限らない。油剤の濃度は85%よりもさらに高くてもよい。また、油剤の濃度が85%以上であることによって、油剤の粘度が50cSt以下となっていることにも限られない。例えば、油剤の濃度が30%以下と低濃度となっていることにより、油剤の粘度が50cSt以下となっていてもよい。さらに、油剤の濃度が30%より大きく、85%より小さい場合であっても、油剤の粘度が50cSt以下であればよい。これらの場合でも、上述の実施形態と同様、図5に示す給油ガイド11’を用いて糸Yに油剤を付与する場合に、糸Yに付着斑が生じやすい。
【0078】
上述の実施形態では、保温ボックスと加熱ローラを備えた延伸部が配置されていたが、これに限らない。例えば、加熱延伸を必要としないPOY生産設備に本発明を適用することも可能である。この場合、例えば、油剤の濃度が15%以下、且つ、油剤の粘度が50cSt以下になっていればよい。
【符号の説明】
【0079】
1 紡糸引取装置
2 紡糸装置
11 給油ガイド
20 ガイド本体
20a 上部分
21 表面
23 糸案内部材
25 吐出口
25a 上端
25b 下端
27 下側湾曲面
101 給油ガイド
120 ガイド本体
120a 上部分
121 表面
125 吐出口
125a 上端
125b 下端
127 平面
130 湾曲面
L1 接線
L2 直線
H1 第1延長面
H2 第2延長面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7