(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
(21)【出願番号】P 2018159598
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 英将
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207124(JP,A)
【文献】特開2017-137973(JP,A)
【文献】特開2017-106604(JP,A)
【文献】特開2016-80141(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110626(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0284470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心状に配置された内軸と外輪とを備え、当該外輪の軸方向端面に隙間を有して対向する側面を有したフランジが前記内軸の端部に設けられた車輪用転がり軸受装置に用いられ、前記内軸と前記外輪との間の環状空間に泥水が浸入するのを防ぐ密封装置であって、
前記内軸の端部に嵌合固定されるとともに、前記フランジの側面に沿って径方向外方に延びるスリンガと、
前記外輪の端部外周面に嵌合固定される芯金と、
前記芯金に固定され、当該芯金の外径部に設けられるデフレクタ及び前記スリンガに摺接するシールリップを有するシール部材と、を備え、
前記スリンガは、前記内軸の端部に嵌合固定される第1円筒部と、前記第1円筒部の軸方向外方側の端部から径方向外方に延びる第1円環部と、前記第1円環部の外周端から軸方向内方に延びる第2円筒部と、前記第2円筒部の軸方向内方側の端部から径方向外方に延びる第2円環部と、前記第2円環部の外周端から軸方向内方に延びる最外径部と、を有し、
前記シール部材は、前記デフレクタの径方向内方に設けられ、径方向外方且つ前記スリンガに近づく方向に突出する突出部を更に有しており、
前記デフレクタと前記突出部とで径方向外方に開口する
第1樋構造が形成されており、且つ、前記
第1樋構造の一方の周壁を構成する前記突出部の先端部と前記スリンガとの間にラビリンス構造が形成されてい
て、
前記シール部材は、前記シールリップと前記突出部との間に位置し前記芯金から前記スリンガに近づく方向に延びて設けられているカバーリップを有しており、前記カバーリップにより径方向外方に開口する第2樋構造が形成されており、
前記最外径部が、前記第1樋構造と径方向について対向していて、前記第2円筒部が、前記第2樋構造と径方向について対向している、
ことを特徴とする、密封装置。
【請求項2】
同心状に配置された内軸と外輪とを備え、当該外輪の軸方向端面に隙間を有して対向する側面を有したフランジが前記内軸の端部に設けられた車輪用転がり軸受装置に用いられ、前記内軸と前記外輪との間の環状空間に泥水が浸入するのを防ぐ密封装置であって、
前記内軸の端部に嵌合固定されるとともに、前記フランジの側面に沿って径方向外方に延びるスリンガと、
前記外輪の端部外周面に嵌合固定される芯金と、
前記芯金に固定され、当該芯金の外径部に設けられるデフレクタ及び前記スリンガに摺接するシールリップを有するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記デフレクタの径方向内方に設けられ、径方向外方且つ前記スリンガに近づく方向に突出する突出部を更に有しており、
前記デフレクタと前記突出部とで径方向外方に開口する樋構造が形成されており、且つ、前記樋構造の一方の周壁を構成する前記突出部の先端部と前記スリンガとの間にラビリンス構造が形成されてい
て、
前記樋構造と対向するスリンガの最外径部は、先端に向かうに従い連続的に拡径された拡径部である、こと
を特徴とする、密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封装置に関する。さらに詳しくは、車輪用転がり軸受装置に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載され車輪を回転可能に支持する車輪用転がり軸受装置は、同心状に配置された径方向内側の内軸と径方向外側の外輪とを備えており、これら内軸と外輪との間に介在する転動体(玉やテーパローラ)によって、例えば、外輪に対して内軸が回転可能となる。内軸の軸方向端部には、径方向外方へ延びたフランジが設けられており、このフランジに車輪及びブレーキディスクが取り付けられる。
【0003】
このような車輪用転がり軸受装置では、内軸と外輪との間に形成され転動体が配設されている環状空間に泥水等の異物が浸入するのを防ぐために、当該環状空間の軸方向両端部に密封装置が装着されている。
【0004】
環状空間の軸方向両端部のうち、軸方向車両外側の端部に装着されている密封装置110として、
図3に示されるように、内軸103の端部に嵌合固定され、フランジ106の側面106aに沿って径方向外方に延びるスリンガ120と、外輪102の端部外周面102aに嵌合される芯金130と、この芯金130に固定されるシール部材140とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の密封装置110におけるシール部材140は、弾性材料からなり、複数のシールリップ142a,142b,142cを有している。これらのシールリップ142a,142b,142cは、スリンガ120に摺接するシール摺動部を構成している。
【0005】
また、
図3に示される密封装置110は、前記シールリップ142a,142b,142cの径方向外方において樋形状のカバーリップ144を有しており、このカバーリップ144の軸方向車両内側に位置する、シール部材140の円筒部141には環状溝141aが形成されている。
【0006】
密封装置110では、外輪102の端部とフランジ106との間の隙間Sに浸入した泥水をカバーリップ144に沿って下方に案内して落下させ、また、円筒部141に付着した泥水を環状溝141aに沿って下方に案内して落下させることで、当該カバーリップ144よりも径方向内方のシール摺動部に泥水が浸入するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、車両が水たまりの多い道路を走行するなどして前記隙間Sに浸入する泥水の量が多くなると、前述したカバーリップ144や環状溝141aではシール摺動部への泥水の浸入を十分に抑制できない場合も考えられる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、シール摺動部への泥水浸入抑制効果を向上させることができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の密封装置は、
(1)同心状に配置された内軸と外輪とを備え、当該外輪の軸方向端面に隙間を有して対向する側面を有したフランジが前記内軸の端部に設けられた車輪用転がり軸受装置に用いられ、前記内軸と前記外輪との間の環状空間に泥水が浸入するのを防ぐ密封装置であって、
前記内軸の端部に嵌合固定されるとともに、前記フランジの側面に沿って径方向外方に延びるスリンガと、
前記外輪の端部外周面に嵌合固定される芯金と、
前記芯金に固定され、当該芯金の外径部に設けられるデフレクタ及び前記スリンガに摺接するシールリップを有するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記デフレクタの径方向内方に設けられ、径方向外方且つ前記スリンガに近づく方向に突出する突出部を更に有しており、
前記デフレクタと前記突出部とで径方向外方に開口する樋構造が形成されており、且つ、前記樋構造の一方の周壁を構成する前記突出部の先端部と前記スリンガとの間にラビリンス構造が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の密封装置では、シール部材のデフレクタの径方向内方に突出部を設けている。この突出部は、径方向外方且つスリンガに近づく方向に突出しており、当該突出部と前記デフレクタとで径方向外方に開口する樋構造が形成されている。これにより、外部から浸入した泥水は樋構造により下方に案内されて落下するので、シール摺動部を構成するシールリップへ泥水が浸入するのを抑制することができる。また、樋構造の一方の周壁を構成する突出部の先端部とスリンガとの間にはラビリンス構造が形成されているので、樋構造に浸入する泥水の量が多くなり、その一部が周壁に沿って当該樋構造から溢れたとしても、当該ラビリンス構造によりシールリップへの泥水の浸入を抑制することができる。
【0012】
(2)上記(1)の密封装置において、前記樋構造と対向するスリンガの最外径部は、先端に向かうに従い連続的に拡径された拡径部であることが望ましい。この場合、樋構造と対向するスリンガの最外径部(スリンガのうち、最も径方向外方に位置する部分)を拡径部とすることで、樋構造により下方に案内されて当該最外径部に落下した泥水を外部に容易に排出することができる。また、内軸回転時においては泥水を容易に振り切ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封装置によれば、シール摺動部への泥水浸入抑制効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る密封装置が装着されている車輪用転がり軸受装置の断面説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る密封装置の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の密封装置の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1は、本発明の一実施形態に係る密封装置10が用いられている車輪用転がり軸受装置1の断面説明図であり、
図2は、
図1における密封装置10の断面説明図である。なお、
図2では、分かり易くするために、外輪2及び内軸3(フランジ8及び軸本体部6)を二点鎖線により示している。
【0016】
〔車輪用転がり軸受装置1〕
図1に示されるように、車輪用転がり軸受装置1(以下、単に「軸受装置」ともいう)は、自動車の車体に設けられている懸架装置50に対して車輪を回転可能に支持するものであり、径方向外側の外輪2と径方向内側の内軸3とを備えている。
【0017】
外輪2は円筒形状の部材であり、車体側の懸架装置50に固定される。
内軸3は、軸本体部6と、この軸本体部6の車両内側(
図1において左側)A1の端部に外嵌して固定されている環状の内輪部材7とを有している。外輪2と内軸3との間には2列でかつ各列に複数の玉(転動体)4が介在している。外輪2と内軸3とは同心状に配置され、本実施形態では、外輪2に対して内軸3が回転自在となる。また、この軸受装置1は、複数の玉4を保持する保持器5を備えている。
【0018】
外輪2の軸方向両端部と内軸3との間には、密封装置10,60が取り付けられている。これら密封装置10,60によって、外輪2の径方向外側から、外輪2と内軸3との間に形成される環状空間9に、泥水等の異物が浸入するのを防ぐ。そして、これら密封装置10,60のうち、車両外側(
図1において右側)A2の密封装置10に、以下の実施形態に係る密封装置が用いられている。
【0019】
〔密封装置10〕
密封装置10は、
図2に示されるように、内軸3の端部に嵌合固定されるスリンガ20と、外輪2の端部に嵌合固定される芯金30と、当該芯金30に固定されるシール部材40とを備えている。なお、
図2に示される密封装置10は、軸受装置1に装着される前の変形前の自然状態を示している。また、本明細書では、車両外側に向く方向(
図2において右方向)を軸方向外方、車両内側に向く方向(
図2において左方向)を軸方向内方ともいう。
【0020】
[スリンガ20]
スリンガ20は、ステンレス等の金属をプレス加工することによって環状に形成された部材である。スリンガ20は、内軸3の軸方向外方側の端部であってフランジ8よりも軸方向内方側の部分の外周面3aに嵌合固定される第1円筒部21と、この第1円筒部21の軸方向外方側の端部からフランジ8の軸方向内方側の側面8aに沿って径方向外方に延びる第1円環部22と、この第1円環部22の外周端から軸方向内方に延びる第2円筒部23と、この第2円筒部23の軸方向内方側の端部から径方向外方に延びる第2円環部24と、この第2円環部24の外周端から軸方向内方且つ径方向外方に延びる拡径部25とを有している。拡径部25は、スリンガ20のうち、最も径方向外方に位置する部分であり、後述する樋構造とほぼ径方向において対向する位置に配置される。また、拡径部25は先端に向かうに従い連続的に拡径された部分である。
【0021】
[芯金30]
芯金30は、SPCC等の鋼板をプレス加工することによって環状に形成された部材である。芯金30は、外輪2の軸方向外方側の端部の外周面2aに嵌合固定される円筒部31と、この円筒部31の軸方向外方側の端部から径方向内方に延びており、外輪2の軸方向外方側の端面2bに密接する第1円環部32と、この第1円環部32の径方向内方の端部から軸方向外方且つ径方向内方に延びる傾斜部33と、この傾斜部33の径方向内方側の端部から径方向内方に延びる第2円環部34とを有している。円筒部31の軸方向内方側の端部の内周面には、径方向外方に窪んだ環状の窪み部31aが形成されている。
【0022】
[シール部材40]
シール部材40は、ニトリルゴム等の弾性材を円環状に形成したものであり、芯金30に加硫接着している。シール部材40は、芯金30に固定されたシール本体41、このシール本体41と一体に形成されたデフレクタ42、突出部43、カバーリップ44、シールリップ45、及び補助リップ46を有している。
【0023】
シール本体41は、全体が環状の部材であり、シール円筒部41a、第1シール円環部41b、シール傾斜部41c、及び第2シール円環部41dを有している。シール円筒部41aは、芯金30の円筒部31の外周面31bに沿って固定されている。シール円筒部41aの軸方向内方側の端部は、芯金30の円筒部31の軸方向内方側の端部から窪み部31a側に折り返すように形成され、外輪2の外周面2aと密接している。第1シール円環部41bは、シール円筒部41aの軸方向外方側の端部から径方向内方に延びて形成されており、芯金30の第1円環部32の軸方向外方側の面32aに沿って固定されている。
【0024】
シール傾斜部41cは、第1シール円環部41bの径方向内方側の端部から軸方向外方且つ径方向内方に延びて形成されており、芯金30の傾斜部33の径方向外方側の面33aに沿って固定されている。第2シール円環部41dは、シール傾斜部41cの径方向内方側の端部から径方向内方に延びて形成されており、芯金30の第2円環部34の軸方向外方側の面34aに沿って固定されている。第2シール円環部41dの径方向内方側の端部は、芯金30の第2円環部34の径方向内方側の端部から当該第2円環部34の軸方向内方側の面34b側に折り返すように形成されている。
【0025】
デフレクタ42は、シール本体41のシール円筒部41aの径方向外側に形成された部材であり、数ミリ程度の厚さを有する円筒状に形成されている。外輪2の外周面2a上をフランジ8の側面8aに向かって流れてくる泥水は、デフレクタ42の軸方向端面42aで堰き止めてられて外輪2の外周面2aに沿って下方へ流されることで、泥水が外輪2とフランジ8との間の隙間に侵入するのを抑制できるようになっている。
【0026】
突出部43は、デフレクタ42の径方向内方且つ軸方向外方に設けられている。この突出部43は、また、シール円筒部41aの軸方向外方側の端部から径方向外方且つ軸方向外方に延びる又は突出するように設けられている。突出部43が設けられる部分も含め、デフレクタ42よりも軸方向外方側に位置するシール円筒部41aの部分は、スリンガ20の最外径部である拡径部25とほぼ径方向において対向する位置関係にある。突出部43は、スリンガ20の拡径部25における第2円環部24との境界寄りの部分25aに近づく方向に突出している。
【0027】
本実施形態では、突出部43とデフレクタ42とによって径方向外方に開口する環状の樋構造Cが形成されている。突出部43は、樋構造Cの軸方向外方側の周壁を構成している。突出部43の径方向の先端は、環状の先端面43aとされており、この先端面43aはスリンガ20の拡径部25の径方向内側の面25bと径方向において対向している。先端面43aと面25bとの間の隙間s1は0.1~0.6mm程度になるように設定されている。また、突出部43の軸方向外方側の端面43bはスリンガ20の第2円環部24の軸方向内方側の面24aと軸方向において対向している。端面43bと面24aとの間の隙間s2は0.5~0.9mm程度になるように設定されている。このように、本実施形態では、突出部43とスリンガ20との間に設けられる前記隙間s1及び隙間s2によってラビリンス構造が形成されている。
【0028】
樋構造Cの樋の深さdは、特に限定されるものではないが、例えば0.1~1.0mmとすることができる。本実施形態では、樋構造Cを形成する際の金型の離型性を向上させるために、突出部43の軸方向内方側の面43cを傾斜面とするとともに、デフレクタ42の軸方向外方側の根元部分の面42bも傾斜面としている。面43cは、径方向外方に向かうに従い軸方向外方側に傾斜する面であり、面42bは、径方向外方に向かうに従い軸方向内方側に傾斜する面である。
【0029】
カバーリップ44は、シールリップ45と突出部43との間においてシール本体41のシール傾斜部41cと一体に形成されている、カバーリップ44は、断面視において径方向外方に開口する樋形状に形成されている。
【0030】
シールリップ45は、カバーリップ44の径方向内方においてシール本体41の第2シール円環部41dと一体に形成されている。シールリップ45は、第2シール円環部41dから軸方向外方且つ径方向外方に延びるように形成されている。シールリップ45の先端部は、軸受装置1に装着された状態においてスリンガ20の第1円環部22に摺接しており、これにより軸受装置1の内部に泥水等の異物が侵入するのを抑制する機能を有している。
【0031】
補助リップ46は、シールリップ45の径方向内方且つ軸方向内方に設けられている。補助リップ46は、シール本体41の第2シール円環部41dと一体に形成されており、当該第2シール円環部41dから軸方向内方且つ径方向内方に延びるように形成されている。補助リップ46は、軸受内部のグリースを外部に漏らさない機能を有している。
【0032】
本実施形態に係る密封装置10は、前記のような突出部43を設け、この突出部43とデフレクタ42とで径方向外方に開口する樋構造Cを形成している。これにより、スリンガ20の拡径部25の先端とデフレクタ42との間の隙間s3から泥水が浸入したとしても、この泥水を樋構造Cで受け止めて当該樋構造Cに沿って下方に案内して落下させることができる。その結果、当該樋構造Cよりも径方向内方に泥水が浸入するのを抑制することができる。より詳細には、樋構造Cよりも径方向内方においてシール摺動部を構成するシールリップ45へ泥水が浸入するのを抑制することができる。
【0033】
一方、隙間s3から浸入する泥水の量が多くなり、その一部が突出部43の面43cに沿って当該樋構造Cから溢れたとしても、樋構造Cの一方の周壁を構成する突出部43の先端部とスリンガ20との間には、前述したように、隙間s1及び隙間s2からなるラビリンス構造が形成されているので、当該ラビリンス構造によりシールリップ45への泥水の浸入を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態では、樋構造Cとシールリップ45との間に樋形状のカバーリップ44が設けられている。このため、前述したラビリンス構造を通過して径方向内方に泥水が浸入したとしても、かかる泥水をカバーリップ44で受け止めて当該カバーリップ44に沿って下方に案内して落下させることができる。これにより、シール摺動部を構成するシールリップ45へ泥水が浸入するのを抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、樋構造Cと対向するスリンガ20の最外径部を、先端に向かうに従い連続的に拡径された拡径部25としている。これにより、樋構造Cにより下方に案内されて当該拡径部25に落下した泥水を外部に容易に排出することができる。また、内軸3の回転時においては泥水を容易に振り切ることができる。
【0036】
〔その他の変形例〕
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、スリンガに摺接するシールリップの数は1であるが、その数は本発明において特に限定されるものではなく、2以上とすることもできる。
【0037】
また、前述した実施形態では、樋構造とシールリップとの間にカバーリップを設けているが、このカバーリップは省略することもできる。
また、前述した実施形態では、軸受装置の転動体として玉を用いているが、テーパローラ等の転動体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0038】
1 : 軸受装置
2 : 外輪
3 : 内軸
4 : 玉(転動体)
5 : 保持器
6 : 軸本体部
6a: 外周面
8 : フランジ
9 : 環状空間
10 : 密封装置
20 : スリンガ
21 : 第1円筒部
22 : 第1円環部
23 : 第2円筒部
24 : 第2円環部
25 : 拡径部
30 : 芯金
31 : 円筒部
31a: 窪み部
31b: 外周面
32 : 第1円環部
33 : 傾斜部
34 : 第2円環部
40 : シール部材
41 : シール本体
41a: シール円筒
41b: 第1シール円環部
41c: シール傾斜部
41d: 第2シール円環部
42 : デフレクタ
42a: 端面
43 : 突出部
44 : カバーリップ
45 : シールリップ
46 : 補助リップ
C : 樋構造
s1: 隙間
s2: 隙間
s3: 隙間