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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20221201BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20221201BHJP
   E02F 9/00 20060101ALI20221201BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F01N3/20 C ZAB
F01N3/08 H
F01N3/20 B
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/96 500
E02F9/00 D
E02F9/26 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018167720
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020041442
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】中本 拓志
(72)【発明者】
【氏名】糸賀 健太郎
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-240640(JP,A)
【文献】特開2002-195089(JP,A)
【文献】特開2008-144626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/08
B01D 53/94
B01D 53/96
E02F 9/00
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジンと、
前記エンジンから排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置と、
コントローラとを備える建設機械において、
前記排気ガス浄化装置は、
前記エンジンの排気通路に配置されて、排気ガスに含まれるNOxを還元する還元触媒と、
前記還元触媒より前記排気通路の上流において、排気ガス中のNOx濃度を検知する第1濃度センサと、
前記還元触媒より前記排気通路の下流において、排気ガス中のNOx濃度を検知する第2濃度センサと
前記還元触媒より前記排気通路の上流において、排気ガス温度を検知する温度センサとを備えており、
前記コントローラは、
前記第1濃度センサ及び前記第2濃度センサから取得したNOx濃度に基づいて、前記還元触媒によるNOxの浄化率を演算し、
演算された前記浄化率が閾値浄化率未満か否かを判定し、
前記浄化率が前記閾値浄化率未満だと判定されたことに応じて、前記還元触媒の性能を再生させる触媒再生処理を実行し、
前記触媒再生処理の実行後に前記温度センサから取得した前記排気ガス温度が、前記浄化率を演算したときの前記排気ガス温度に達したことに応じて、前記触媒再生処理の実行後に前記第1濃度センサ及び前記第2濃度センサから取得したNOx濃度に基づいて、前記触媒再生処理による前記還元触媒の性能の回復量を演算し、
演算された前記回復量が閾値回復量未満か否かを判定し、
前記回復量が前記閾値回復量未満だと判定されたことに応じて、前記触媒再生処理で前記還元触媒の性能が不十分であることを報知することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において
記コントローラは、
前記温度センサから取得した前記排気ガス温度が閾値温度範囲内か否かを判定し、
前記排気ガス温度が前記閾値温度範囲内だと判定されたことに応じて、前記浄化率を演算することを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記コントローラは、
前記エンジンに加わる負荷の変動幅が閾値幅未満である定常状態が閾値時間継続したか否かを判定し、
前記定常状態が前記閾値時間継続したと判定されたことに応じて、前記浄化率を演算することを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項3に記載の建設機械において、
前記エンジンの駆動力によって駆動される油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを動作可能な状態から動作不能な状態に切り替えるオペレータの操作を受け付ける操作装置とを備え、
前記コントローラは、
前記操作装置を通じて前記油圧アクチュエータが動作不能な状態に切り替えられたことに応じて、前記エンジンの回転数を予め定められた定常回転数に維持し、
前記エンジンの回転数が前記定常回転数に維持されている時間が前記閾値時間に達したか否かを判定することを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において
記コントローラは、前記温度センサから取得した前記排気ガス温度が高いほど、前記閾値浄化率を大きくすることを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関し、特に選択還元型触媒を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排ガス規制に対応するため、エンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を還元し、無害な物質として大気に放出する排気ガス浄化装置を搭載した建設機械が知られている。このような排気ガス浄化装置において、排気ガスに曝される還元触媒には、時間の経過と共に硫黄酸化物などが付着(「被毒」と表記する)する。その結果、図7に示されるように、排気ガス浄化装置のNOx浄化率は、稼働時間の増加に伴って低下する。
【0003】
なお、X(T)は、前回の触媒の再生が完了した時刻を稼働時間0[sec]とした時のNOx浄化率、すなわち、前回の触媒の再生直後におけるNOx浄化率であって、後述する図6と同様である。X(T)は、規制内の硫黄を使用し、前回の触媒の再生から時間tsだけ稼働させた際のNOx浄化率である。X(T)は、規制外の硫黄を使用し、前回の触媒の再生から時間tsだけ稼働させた際のNOx浄化率である。
【0004】
特に、硫黄の含有量が規制値を超える燃料を使用した場合のNOx浄化率の変化量ΔXは、硫黄の含有量が規制範囲内の燃料を使用した場合の変化量ΔXより遥かに大きい。そして、被毒した還元触媒を継続して使用すると、排気ガス中のNOxを十分に浄化できないだけでなく、排気ガス浄化装置の破損を引き起こす可能性がある。
【0005】
そこで特許文献1には、還元触媒の性能が温度によって変化することを利用して、測定したNOx浄化率と温度に対応する閾値とを比較し、還元触媒の劣化の度合いを診断する技術が記載されている。また特許文献2には、還元触媒が被毒した際に、硫黄酸化物を脱離させて触媒性能を回復させる再生制御の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-117726号公報
【文献】国際公開第2016/104774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な還元触媒は、白金などの貴金属によって構成されている。そして、排気ガス中の硫黄酸化物が貴金属の表面に付着した状態を「一時被毒」と言う。一方、排気ガス中のリンなどの触媒毒が貴金属と化学反応を起こして化合物を生成した状態を「永久被毒」と言う。一時被毒と永久被毒とは、いずれも還元触媒のNOx浄化率を低下させる点で共通する。一方、一時被毒は再生制御によってNOx浄化率が回復するのに対して、永久被毒は通常の再生制御でNOx浄化率を回復させるのが難しい。
【0008】
しかしながら、特許文献1、2では、NOx浄化率の低下の原因が、一時被毒によるものか、永久被毒によるものかを判定していない。そのため、永久被毒した還元触媒に対して、NOx浄化率の回復が見込めない再生制御を繰り返し実行してしまうという課題がある。
【0009】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気ガス浄化装置を搭載した建設機械において、還元触媒の状態を判別して適切に対処する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る建設機械は、燃料を燃焼させて駆動力を発生させるエンジンと、前記エンジンから排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置と、コントローラとを備える建設機械において、前記排気ガス浄化装置は、前記エンジンの排気通路に配置されて、排気ガスに含まれるNOxを還元する還元触媒と、前記還元触媒より前記排気通路の上流において、排気ガス中のNOx濃度を検知する第1濃度センサと、前記還元触媒より前記排気通路の下流において、排気ガス中のNOx濃度を検知する第2濃度センサと、前記還元触媒より前記排気通路の上流において、排気ガス温度を検知する温度センサとを備えており、前記コントローラは、前記第1濃度センサ及び前記第2濃度センサから取得したNOx濃度に基づいて、前記還元触媒によるNOxの浄化率を演算し、演算された前記浄化率が閾値浄化率未満か否かを判定し、前記浄化率が前記閾値浄化率未満だと判定されたことに応じて、前記還元触媒の性能を再生させる触媒再生処理を実行し、前記触媒再生処理の実行後に前記温度センサから取得した前記排気ガス温度が、前記浄化率を演算したときの前記排気ガス温度に達したことに応じて、前記触媒再生処理の実行後に前記第1濃度センサ及び前記第2濃度センサから取得したNOx濃度に基づいて、前記触媒再生処理による前記還元触媒の性能の回復量を演算し、演算された前記回復量が閾値回復量未満か否かを判定し、前記回復量が前記閾値回復量未満だと判定されたことに応じて、前記触媒再生処理で前記還元触媒の性能が不十分であることを報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、還元触媒の被毒の状態を判別して適切に対処することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る建設機械の代表例である油圧ショベルの側面図。
図2図1に示す油圧ショベルに搭載された排気ガス浄化装置のブロック図。
図3図1に示す油圧ショベルのコントローラの機能ブロック図。
図4】排気ガス温度、閾値浄化率、及び閾値温度範囲の関係を示す図。
図5】本発明に係る再生制御処理のフローチャート。
図6】排気ガス浄化装置の稼働時間とNOx浄化率との関係を示す図。
図7】燃料内の硫黄酸化物の含有量とNOx浄化率の変化量の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る建設機械の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係る建設機械の代表例である油圧ショベル1の側面図である。なお、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。また、建設機械の具体例は油圧ショベル1に限定されず、ダンプトラック、モータグレーダー、ホイールローダー等であってもよい。
【0014】
図1に示すように、油圧ショベル1は、走行体2と、この走行体2の上側に旋回可能に取り付けられる旋回体3とを備える。旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム10と、この旋回フレーム10の前方左側に配置されるキャブ7と、旋回フレーム10の前方中央に上下方向に回動可能に取り付けられるフロント作業機(作業機械)4と、旋回フレーム10の後方に配置されるカウンタウェイト6とを備える。
【0015】
キャブ7には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。フロント作業機4は、ブーム4a、アーム4b、バケット4c、及び油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)4d~4fを含む。カウンタウェイト6は、フロント作業機4との重量バランスを取るためのもので、円弧状をした重量物である。
【0016】
キャブ7の内部空間には、走行体2を走行させ、旋回体3を旋回させ、フロント作業機4の動作させるためのオペレータの操作を受け付け、受け付けた操作に対応する信号をコントローラ40(図3参照)に出力する操作装置(ステアリング、ペダル、レバー、スイッチなど)が配置されている。すなわち、キャブ7に搭乗したオペレータが操作装置を操作することによって、油圧ショベル1が動作する。
【0017】
また、操作装置は、ゲートロックレバー16(図3参照)を含む。ゲートロックレバー16は、油圧シリンダ4d~4fを動作可能な状態(「ON状態」と表記する)及び動作不能な状態(「OFF状態」と表記する)の一方から他方に切り替えるオペレータの操作を受け付けるものである。例えば、ゲートロックレバー16をON状態にすると、作動油タンク(図示省略)から油圧シリンダ4d~4fに至る作動油流路が連通する。一方、ゲートロックレバー16をOFF状態にすると、前述の流路が遮断される。
【0018】
すなわち、ゲートロックレバー16をON状態にした状態で操作装置を操作すれば、操作に応じた向き及び流量の作動油が油圧ポンプ15(図3参照)からアクチュエータ4d~4fに供給されて、フロント作業機4が動作する。一方、ゲートロックレバー16をOFF状態にした状態で操作装置を操作しても、アクチュエータ4d~4fに作動油が供給されないので、フロント作業機4が動作しない。
【0019】
図2は、排気ガス浄化装置20のブロック図である。旋回体3の内部には、油圧ショベル1を動作させる駆動力を発生させるエンジン13と、エンジン13から排出される排気ガスを油圧ショベル1の外部に導く排気管(排気通路)14と、排気管14を通過する排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置20とが配置されている。
【0020】
エンジン13は、例えば、軽油(燃料)と空気との混合物を燃焼させて駆動力を発生させるディーゼルエンジンである。エンジン13の駆動力は、走行体2の転輪(図示省略)、油圧シリンダ4d~4fに作動油を供給する油圧ポンプ15、コントローラ40などに供給する電力を発生させる発電機(図示省略)に伝達されて、走行体2を走行させ、フロント作業機4を動作させ、コントローラ40を動作させる。
【0021】
排気ガス浄化装置20は、排気ガス中のNOxを除去する装置であって、第1酸化触媒21と、還元剤噴射装置22と、還元触媒23と、第2酸化触媒24と、温度センサ25と、NOxセンサ26、27とを備える。なお、排気ガス浄化装置20は、排気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)などを酸化して除去するPM処理装置をさらに備えてもよい。
【0022】
第1酸化触媒21は、排気ガス中のNOを酸化してNOを生成し、後述する還元触媒23における還元反応を加速させる役割を担う。また、第1酸化触媒21は、後述する触媒再生処理において、エンジン13から排出される未燃燃料を酸化して、排気ガス温度を上昇させる役割を担う。ただし、第1酸化触媒21は省略することができる。
【0023】
還元剤噴射装置22は、尿素水(還元剤)を貯留するタンク22aと、タンク22aに貯留された尿素水を排気管14内で噴射するノズル22bとを有する。ノズル22bは、第1酸化触媒21より下流で且つ還元触媒23より上流において、コントローラ40の支持に従って排気管14内に尿素水を噴射する。排気管14内に噴射された尿素水は、熱分解されてアンモニア(NH)となる。
【0024】
還元触媒23は、尿素水から生成されたアンモニアを用いて、排気ガス中の窒素酸化物を除去する役割を担う。より詳細には、還元触媒23は、アンモニアとNOxとを還元反応させて水と窒素(N)とに分解する。第2酸化触媒24は、NOxと反応しなかったアンモニアを酸化させて除去する役割を担う。ただし、第2酸化触媒24は省略することができる。
【0025】
温度センサ25は、ノズル22bより下流で且つ還元触媒23より上流に配置されて、排気管14を通過する排気ガスの温度(排気ガス温度)を検知する。NOxセンサ26は、第1酸化触媒21より下流で且つ還元触媒23(より詳細には、ノズル22b)より上流に配置されて、排気管14を通過する排気ガス中のNOxの割合(NOx濃度)を検知する第1濃度センサである。NOxセンサ27は、還元触媒23(より詳細には、第2酸化触媒24)より下流に配置されて、排気管14を通過する排気ガス中のNOx濃度を検知する第2濃度センサである。温度センサ25及びNOxセンサ26、27は、検知した排気ガス温度及びNOx濃度を示す信号を、所定の時間間隔毎に繰り返しコントローラ40に出力する。
【0026】
図3は、油圧ショベル1に搭載されたコントローラ40の機能ブロック図である。コントローラ40には、ゲートロックレバー16を含む操作装置、回転数センサ17、流量センサ18、温度センサ25、NOxセンサ26、27、エンジン13、油圧ポンプ15、還元剤噴射装置22、及び報知装置19が接続されている。
【0027】
回転数センサ17は、エンジン13の回転数を検知し、検知した回転数を示す信号をコントローラ40に出力する。流量センサ18は、油圧ポンプ15から油圧シリンダ4d~4fに供給される作動油の向き及び流量を検知し、検知した向き及び流量を示す信号をコントローラ40に出力する。報知装置19は、例えば、文字、画像、映像を表示させるディスプレイ、警告灯、或いは音声を出力するスピーカである。
【0028】
コントローラ40は、操作装置から取得した信号に従ってエンジン13及び油圧ポンプ15を駆動させ、エンジン13の回転中は還元剤噴射装置22に尿素水を噴射させる。図示は省略するが、コントローラ40は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備える。ただし、コントローラ40の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0029】
コントローラ40は、ROMに格納されたプログラムコードをCPUが読み出して実行することによって、ソフトウェアとハードウェアとが協働して、回転制御部41、定常状態判定部42、温度判定部43、浄化率演算部44、浄化率判定部45、再生処理部46、回復量演算部47、回復量判定部48、報知処理部49として機能する。また、RAMは、CPUがプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。各処理部41~49の処理の詳細は、図5を参照して後述する。
【0030】
図4は、排気管14内の排気ガス温度、浄化率判定部45が使用する閾値浄化率、及び温度判定部43が使用する閾値温度範囲の関係を示す図である。図4において、プロット“〇”は、例えば新品(理想状態)の還元触媒23のNOx浄化率と、排気ガス温度との関係を示す。プロット“□”は、後述する触媒再生処理を実行しても性能が回復できないほど被毒(再生不能状態)した還元触媒23のNOx浄化率と、排気ガス温度との関係を示す。プロット“△”は、開発者によって設定された閾値浄化率と、排気ガス温度との関係を示す。
【0031】
図4を参照すれば明らかなように、排気ガス温度がTaより低いと、還元触媒23はNOxを還元できない。また、排気ガス温度がTbより高くなると、NOx還元率は徐々に低下する。一方、排気ガス温度がTa~Tbの範囲内では、排気ガス温度の増加に追従(正の相関)して、還元触媒23のNOx浄化率が向上する。ただし、還元触媒23の被毒が進むと、還元触媒23がNOxを還元できる排気ガス温度の下限値が高くなる傾向がある。
【0032】
そして、排気ガス温度に対応する閾値浄化率は、理想状態のNOx浄化率と、再生不能状態のNOx浄化率との間の値に設定される。すなわち、閾値浄化率のプロット“△”は、同一の排気ガス温度に対応する理想状態のプロット“〇”及び再生不能状態のプロット“□”の間に位置する。閾値浄化率と排気ガス温度との関係は、例えば、テーブルの形式或いは関数の形式で、ROM或いはRAMに記憶される。また、閾値温度範囲は、還元触媒23が被毒しているか否かによってNOx浄化率が変化する温度範囲に設定される。例えば図4において、理想状態と再生不能状態とでNOx浄化率とが異なる温度の下限値Ta(例えば、200℃)と上限値Tb(例えば、350℃)との間を、閾値温度範囲に設定すればよい。
【0033】
図5及び図6を参照して、本発明に係るコントローラ40の動作を説明する。図5は、コントローラ40が実行する再生制御処理のフローチャートである。図6は、油圧ショベル1の稼働時間に対するNOx浄化率の推移の一例を示す図である。図6に示されるように、エンジン13の回転中は還元触媒23が排気ガス中の硫黄酸化物に曝されるので、油圧ショベル1の稼働時間に追従して還元触媒23の被毒が進み、その結果としてNOx浄化率が徐々に低下する。
【0034】
なお、図6の横軸の稼働時間[sec]は、前回再生時からの稼働時間である。時刻tは、触媒の再生の開始時刻であって、NOx浄化率が閾値Xth(T)を下回ったときの時刻である。時刻tは、触媒の再生が完了した時刻である。X(T)は、前回の触媒の再生が完了した時刻を稼働時間0[sec]とした時のNOx浄化率、すなわち、前回の触媒の再生直後におけるNOx浄化率である。
【0035】
そこで、回転制御部41は、ゲートロックレバー16がOFF状態に切り替えられるのを監視する(S101)。そして、回転制御部41は、ゲートロックレバー16がOFF状態に切り替えられたことを示す信号を取得したことに応じて(S101:Yes)、エンジン13を“Hi IDLE”状態にする(S102)。“Hi IDLE”状態とは、予め定められた定常回転数(例えば、2500rpm)でエンジン13を継続して回転させる状態である。定常回転数は、例えば、排気ガス温度を閾値範囲内(Ta~Tb)に維持できる回転数であって、通常のアイドリング状態(アクセルペダルを踏んでいない状態)の回転数より高く設定される。
【0036】
次に、定常状態判定部42は、エンジン13が定常状態に維持されている時間が閾値時間(例えば、5分間)継続したか否かを判定する(S103)。定常状態とは、エンジン13に加わる負荷の変動幅が閾値幅未満の状態を指す。“Hi IDLE”状態は、定常状態の一例である。ゲートロックレバー16がOFF状態の場合、油圧ポンプ15からエンジン13に加わる負荷は変動しない(常に0)ので、定常状態判定部42は、所定の時間間隔で回転数センサ17から信号を取得して、エンジン13の回転数が定常回転数に維持されている時間が閾値時間に達したか否かを判定すればよい。
【0037】
また、温度判定部43は、定常状態判定部42の処理(S103)と並行して、排気ガス温度が閾値範囲内か否かを判定する(S104)。すなわち、温度判定部43は、所定の時間間隔で温度センサ25から信号を取得して、排気ガス温度が閾値範囲内か否かを判定すればよい。そして、定常状態が閾値時間継続していないと定常状態判定部42が判定するか(S103:No)、排気ガス温度が閾値範囲外だと温度判定部43が判定している(S104:No)間は、S105以降の処理に進まずにS103、S104の処理が繰り返し実行される。
【0038】
次に、浄化率演算部44は、定常状態が閾値時間継続したと定常状態判定部42が判定し、排気ガス温度が閾値範囲内(Ta≦T≦Tb)だと温度判定部43が判定したことに応じて(S103:Yes&S104:Yes)、NOxセンサ26、27から取得したNOx濃度に基づいて、還元触媒23の現在のNOx濃度X(T)を演算し、演算結果をRAMに記憶させる(S105)。また、温度判定部43は、S104でYesと判定したときの排気ガス温度TをRAMに記憶させる。
【0039】
浄化率演算部44は、例えば、NOxセンサ26から取得した還元触媒23より上流のNOx濃度Cと、NOxセンサ27から取得した還元触媒23より下流のNOx濃度Cとを、下記式1に代入することによって、還元触媒23の現在(すなわち、触媒再生処理前で且つ排気ガス温度Tのとき)のNOx濃度X(T)を演算すればよい。ただし、NOx還元率の演算方法は、これに限定されない。
(T)={(C-C)/C}×100 ・・・(式1)
【0040】
なお図示は省略するが、回転制御部41は、定常状態が閾値時間継続したと定常状態判定部42が判定し、排気ガス温度が閾値範囲内だと温度判定部43が判定したことに応じて(S103:Yes&S104:Yes)、“Hi IDLE”状態を維持する処理を終了すればよい。また、S105の実行前にゲートロックレバー16がON状態に切り替えられた場合も、“Hi IDLE”状態が解除されて、再生制御処理を終了してもよい。
【0041】
次に、浄化率判定部45は、図4に示される閾値浄化率及び排気ガス温度の対応関係に基づいて、温度判定部43がRAMに記憶させた排気ガス温度Tに対応する閾値浄化率Xth(T)を特定する。すなわち、浄化率判定部45は、排気ガス温度が高いほど閾値浄化率を大きくする。そして、浄化率判定部45は、浄化率演算部44が演算したNOx濃度X(T)が閾値浄化率Xth(T)未満か否かを判定する(S106)。そして、浄化率判定部45がX(T)≧Xth(T)だと判定すると(S106:No)、S107~S111の処理が実行されずに、再生制御処理が終了する。
【0042】
一方、再生処理部46は、浄化率判定部45がX(T)<Xth(T)だと判定したことに応じて(S106:Yes)、触媒再生処理を実行する(S107)。触媒再生処理は、一時被毒によって低下した還元触媒23の性能(すなわち、NOx浄化率)を回復させる処理である。再生処理部46は、例えば、燃料噴射装置(不図示)にポスト噴射を実行させればよい。ポスト噴射とは、エンジン13内で燃焼させる燃料を噴射する主噴射の直後に、さらに燃料を噴射することを指す。
【0043】
ポスト噴射でエンジン13内に噴射された燃料の大部分は、燃焼されずに排気ガスに混じって排気管14に排出される。燃焼されずに排出された燃料(未燃燃料)は、第1酸化触媒21で酸化反応を起こして、排気ガスの温度を上昇させる。そして、排気ガスの温度が600℃程度まで上昇すると、還元触媒23の貴金属部分に付着した硫黄酸化物が脱離する。その結果、図6に示すように、一時被毒によって低下した還元触媒23のNOx浄化率が改善する。一方、600℃程度の昇温では永久被毒は解消されないので、図6に示すように、触媒再生処理を実行してもNOx浄化率が完全に回復するとは限らない。
【0044】
触媒再生処理が終了すると、排気ガス温度がS104で測定されたTに到達するまで(S108:No)、S109以降の処理が実行されない。すなわち、回復量演算部47は、RAMに記憶された排気ガス温度Tを読み出し、所定の時間間隔で温度センサ25から取得した排気ガス温度と比較する(S108)。一般的には、触媒再生処理で排気ガス温度がTより上昇するので、回復量演算部47は、排気ガス温度が低下してTに達するまで、S109の実行を待機すればよい。
【0045】
そして、回復量演算部47は、現在の排気ガス温度TがS105の時点の排気ガス温度Tに達したことに応じて(S108:Yes)、NOxセンサ26、27から取得したNOx濃度に基づいて、触媒再生処理による還元触媒23の性能の回復量(浄化率回復量)を演算し、演算結果をRAMに記憶させる(S109)。
【0046】
より詳細には、回復量演算部47は、NOxセンサ26から取得した還元触媒23より上流のNOx濃度C’と、NOxセンサ27から取得した還元触媒23より下流のNOx濃度C’とを、式1に代入することによって、還元触媒23の現在(すなわち、触媒再生処理後で且つ排気ガス温度Tのとき)のNOx濃度X(T)を演算する。そして、回復量演算部47は、S109で演算したNOx濃度X(T)からS105でRAMに記憶させたNOx濃度X(T)を減じて、浄化率回復量ΔX(T)を演算すればよい。ただし、浄化率回復量ΔX(T)の演算方法は、これに限定されない。
【0047】
次に、回復量判定部48は、回復量演算部47が演算した浄化率回復量ΔX(T)が閾値回復量ΔXth(T)未満か否かを判定する(S110)。閾値回復量ΔXth(T)は、硫黄の含有量が規制範囲内の燃料で油圧ショベル1を時間ts稼働させたときのNOx浄化率の変化量ΔX図7参照)より大きな値に設定するのが望ましい。閾値回復量ΔXth(T)は、閾値浄化率Xth(T)と同様に、排気ガス温度毎に異なる値が設定されていてもよいし、全ての排気ガス温度に共通の値であってもよい。いずれの場合も、閾値回復量ΔXth(T)は、ROM或いはRAMに記憶されている。
【0048】
そして、報知処理部49は、浄化率回復量ΔX(T)が閾値回復量ΔXth(T)未満だと回復量判定部48が判定したことに応じて(S110:Yes)、還元触媒23の交換を報知する(S111)。報知の具体的な内容は特に限定されないが、還元触媒23の永久被毒が進んでいることなど、触媒再生処理を実行しても還元触媒23の性能が不十分であることをオペレータが理解できる内容であればよい。一方、浄化率回復量ΔX(T)が閾値回復量ΔXth(T)以上だと回復量判定部48が判定したことに応じて(S110:No)、S111の処理が実行されずに、再生制御処理が終了する。
【0049】
上記の再生制御処理を実行することにより、以下の作用効果を奏する。
【0050】
コントローラ40は、浄化率回復量ΔX(T)が閾値回復量ΔXth(T)未満なら、還元触媒23が永久被毒していると判定し、その旨をオペレータに報知する。その結果、触媒再生処理を無駄に繰り返すことなく、還元触媒23の交換などの適切な対応をオペレータに促すことができる。なお、報知の方法は油圧ショベル1に搭載された報知装置を用いることに限定されない。他の例として、油圧ショベル1を遠隔地から管理する管理端末、或いは油圧ショベル1の管理者が所持する携帯端末に報知情報を送信してもよい。
【0051】
また、排気ガスの温度が低過ぎる或いは高過ぎると、還元触媒23によるNOxの還元反応が不活性になる。そのため、永久被毒によって還元触媒23の性能が回復しないのか、還元反応が不活性なだけなのかを正確に区別することができない。そこでS104のように、排気ガス温度Tが還元反応を活性化させる範囲(Ta~Tb)の場合にのみ、S105以降の処理を実行させるのが望ましい。ただし、S104の処理は必須ではなく、省略することができる。
【0052】
また、エンジン13の負荷が大きく変動すると、排気ガス温度が大きく変化すると共に、排気ガス中のNOx濃度も大きく変化するので、還元触媒23が永久被毒しているか否かを正確に判定できない。そこでS103のように、定常状態が閾値時間継続した場合のみ、S105の処理を実行させるのが望ましい。ただし、S103の処理は必須ではなく、省略することができる。
【0053】
また、油圧シリンダ4d~4fを動作させるとエンジン13に加わる負荷が大きく変動する。そのため、オペレータが油圧シリンダ4d~4fを動作不能にしたタイミングでエンジン13を定常回転数で駆動させることによって、エンジン13に加わる負荷を安定させた状態でS105の処理を実行できる。その結果、還元触媒23が永久被毒したか否かをさらに正確に判定することができる。ただし、S101、S102の処理は必須ではなく、省略することができる。
【0054】
例えば、コントローラ40は、油圧ショベル1の稼働時間が所定の時間を超えるたびに、再生制御処理を実行してもよい。そして、コントローラ40は、S101、S102の処理に代えて、エンジン13の負荷を安定させるための操作を、報知装置19を通じてオペレータに促してもよい。エンジン13の負荷を安定させるための操作とは、例えば、フロント作業機4を引き込む操作、エンジン13が定常回転数で回転するようにアクセルペダルを踏み込む操作などである。
【0055】
また、定常状態判定部42は、回転数センサ17及び流量センサ18から出力された信号に基づいて、定常状態が閾値時間継続したか否かを判定してもよい。より詳細には、定常状態判定部42は、回転数センサ17から取得した回転数の変動幅が第1閾値幅未満で、且つ流量センサ18から取得した送油量の変動幅が第2閾値幅未満の状態が閾値時間継続したことに応じて、S103でYesと判定してもよい。
【0056】
また、油圧ショベル1を通常使用したときの排気ガス温度の範囲内では、排気ガス温度が高いほど還元反応が活性化する。そこでS105のように、排気ガス温度に応じた閾値浄化率Xth(T)を選択することによって、還元触媒23の性能低下を適切に判定することができる。ただし、閾値浄化率Xth(T)は、排気ガス温度によって変化しない固定値でもよい。
【0057】
また、還元触媒23のNOx浄化率は、排気ガス温度によって大きく変動する。そこでS108、S109のように、浄化率演算部44でNOx浄化率を演算したときと同じ排気ガス温度T下で、回復量演算部47による浄化率回復量の演算を行うことによって、還元触媒23が永久被毒したか否かをさらに正確に判定することができる。ただし、S108の処理は必須ではなく、省略することができる。すなわち、S105及びS109の実行時における排気ガス温度は、厳密に一致していなくてもよい。
【0058】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 走行体
3 旋回体
4 フロント作業機(作業装置)
13 エンジン
14 排気管
15 油圧ポンプ
16 ゲートロックレバー(操作装置)
17 回転数センサ
18 流量センサ
19 報知装置
20 排気ガス浄化装置
21 第1酸化触媒
22 還元剤噴射装置
23 還元触媒
24 第2酸化触媒
25 温度センサ
26,27 NOxセンサ
40 コントローラ
41 回転制御部
42 定常状態判定部
43 温度判定部
44 浄化率演算部
45 浄化率判定部
46 再生処理部
47 回復量演算部
48 回復量判定部
49 報知処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7