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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】波動測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/42 20060101AFI20221201BHJP
   E02D 1/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01V1/42
E02D1/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018207123
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020071188
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】503119111
【氏名又は名称】株式会社ジェイアール総研エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 有史
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 亮
(72)【発明者】
【氏名】獅子目 修一
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-132845(JP,A)
【文献】特開2000-178955(JP,A)
【文献】特開平10-121452(JP,A)
【文献】特開平01-126585(JP,A)
【文献】特開2000-186319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-1/52
E02D 1/00-1/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に弾性波又は電磁波を発生させる発信機と、該発信機によって発生した弾性波又は電磁波を受信する受信機と、を用いて、地盤中を伝わる弾性波又は電磁波を測定する方法であって、
軸材と前記受信機とを有する受信体を、地中孔である受信孔の中に設置する受信体設置工程と、
地中孔である発信孔内、又は地上に設置された前記発信機によって弾性波又は電磁波を発生させるとともに、前記受信体の前記受信機が受信した弾性波に基づいて地盤の弾性波速度を、又は前記受信体の前記受信機が受信した電磁波に基づいて地盤の比抵抗を、測定する測定工程と、
前記発信孔の中に前記発信機を設置するとともに1又は2以上の前記受信機を地上に配置したうえで、該発信機によって弾性波又は電磁波を発生させるとともに、地上に配置された該受信機が受信した弾性波に基づいて地盤の弾性波速度を、又は地上に配置された該受信機が受信した電磁波に基づいて地盤の比抵抗を、測定する確認測定工程と、を備え、
前記受信体は、鉛直又は略鉛直方向に配列された2以上の前記受信機が、設置位置が可変となるように前記軸材に取り付けられて形成され、
前記受信体設置工程では、前記軸材が前記受信孔内に垂下するように、且つあらかじめ推定された地層ごとに前記受信体の前記受信機が配置されるように該受信機の設置位置を調整したうえで、該受信体を設置し、
前記測定工程によって得られた地盤の弾性波速度又は比抵抗と、前記確認測定工程によって得られた地盤の弾性波速度又は比抵抗と、を照らし合わせ、照らし合わせた結果が許容できる程度の相違であれば該測定工程による結果を表示手段に表示する、
ことを特徴とする波動測定方法。
【請求項2】
前記発信機は、地盤内に弾性波を発生させ、
前記受信機は、弾性波を3方向から受信する3成分測定用受信機であり、
前記測定工程では、前記受信機が受信した弾性波に基づいて地盤のP波速度及びS波速度を測定する、
ことを特徴とする請求項1記載の波動測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地盤の性状を確認するために行う物理探査に関する技術であり、より具体的には、多層地盤であってもそれぞれの地層に受信機を配置することができる波動測定装置、及び波動測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木構造物や建築構造物など比較的大きな重量の構造物を構築する場合、透水係数や飽和度、一軸圧縮強度、せん断弾性係数といった地盤の特性値を把握するためにあらかじめ調査を行うのが一般的である。例えば、トンネルを構築するためには事前に掘削対象の地盤の調査を行い、橋梁の下部工や高層建築物などを建設するためには支持地盤の調査を行い、支持層となる地盤に対して地盤改良を行った場合はその効果を確認するための調査が行われる。
【0003】
地盤調査には、ボーリング標準貫入試験やボーリングコアの室内物性値試験、平板載荷試験、物理探査など様々な手法がある。このうちボーリング標準貫入試験は、比較的容易に実施できるうえ、直接的に地盤の情報を得ることができることから、最も多用される手法のひとつとされている。反面、このボーリング標準貫入試験や平板載荷試験は、ある特定点での情報しか得られないため、対象とする地盤が広範囲であれば、複数点で調査を実施するもののそれ以外の範囲は調査点の情報を基に推定しているのが実情である。
【0004】
他方、物理探査試験は、地盤の電気的性質を測定することで地盤性状を把握する電気探査や、地盤の比抵抗を測定することで地盤性状を把握する電磁探査、地盤の弾性波速度を測定することで地盤性状を把握する弾性波速度検層などが代表例として挙げられ、非破壊で地盤内部の性状を確認することができ、比較的広範囲に地盤の情報を得ることができる調査手法である。特に弾性波速度検層は、ボーリング孔を利用することができることから、ボーリング標準貫入試験と組み合わせて行われることが多く、トンネル掘削の事前調査や地盤改良の確認調査で多用される手法である。
【0005】
例えば特許文献1では、薬液注入地盤の効果を確認するための弾性波速度検層について記載しており、より詳しくは、発信孔に挿入した発信機の深さを変化させながら弾性波を発振する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-87572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で示される弾性波速度検層は、発振側のボーリング孔に配置した発振器が発生した弾性波を、受信側のボーリング孔に設置した複数の受信機で受信するいわゆる孔間弾性波測定と呼ばれる手法である。このように孔間弾性波測定は、2孔間(受信孔と発信孔との間)にある地盤全体を調査することができるため、その調査結果(あるいは解析結果)を鉛直断面内に可視化表現することができる手法である。
【0008】
しかしながら従来の孔間弾性波測定は、いくつかの問題を指摘することができる。第1に、受信孔に設置する複数の受信機が一定間隔で固定されるため、あらかじめ推定された地層ごとに各受信機が配置されず、すなわち各地層の弾性速度を直接測定できないという問題がある。例えば図10では、表層のほか第1層~第6層までの地層が想定されているが、受信孔Ha内に挿入された4個の受信機REはそれぞれ等間隔で固定されているため、第3層と第5層には受信機REが配置されていない。つまり、発信孔He内に設置された発信機EXからの弾性波は、第3層と第5層で受信されることがなく、これらの地層の弾性速度を直接測定できない結果となる。
【0009】
第2に、1成分(x方向の弾性波)測定用の受信機を使用するため、P波速度のみの測定にとどまり、S波速度を測定することができないという問題がある。特許文献1でも記載しているように、これまではP波速度に基づいて必要な地盤特性を求めることが多く、積極的にS波速度を測定することがなかった。例えば、液状化判定を行うためにS波速度を要する場合であっても、P波速度とポアソン比からS波速度を推定したうえでその判定を行っており、そのため概略は把握できたとしても高精度で液状化判定を行うことは難しかった。
【0010】
第3に、受信孔と発信孔を含む断面の情報しか得られず、3次元的に地盤の情報を得ることができず、すなわち地盤の性状を3次元で可視化することができないという問題がある。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち多層地盤であってもそれぞれの地層に受信機を配置することができ、しかも地盤のP波速度及びS波速度を測定することができ、さらに地盤の性状を3次元で可視化することができる、波動測定装置、及び波動測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、受信機の設置位置を可変にするという点、そして3方向から受信する3成分測定用受信機を利用して弾性波測定を行うという点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の波動測定装置は、地盤中を伝わる弾性波速度又は電磁波を測定する装置であり、地盤内に弾性波又は電磁波を発生させる発信機と、受信体を備えたものである。受信体は、地中孔内に垂下する軸材と、発信機によって発生した弾性波又は電磁波を受信する受信機を有するとともに、略鉛直(鉛直含む)方向に配列された2以上の受信機が軸材に取り付けられたものである。なお、2以上の受信機は、その設置位置が可変となるように軸材に取り付けられる。
【0014】
本願発明の波動測定装置は、受信した弾性波に基づいて、地盤のP波速度及びS波速度を測定し得るものとすることもできる。この場合の発信機は、地盤内に弾性波を発生させ、受信機は、弾性波を3方向から受信する3成分測定用受信機とされる。
【0015】
本願発明の波動測定装置は、起振機を発信機とするものとすることもできる。
【0016】
本願発明の波動測定装置は、地盤特性出力手段をさらに備えたものとすることもできる。この地盤特性出力手段は、受信機で測定された地盤のP波速度及びS波速度に基づいて地盤位置ごとの地盤特性を算出するとともに、この地盤特性を3次元表示する手段である。
【0017】
本願発明の波動測定装置は、発信機が地上に配置されたものとすることもできる。
【0018】
本願発明の波動測定装置は、2以上の発信機が地上に配置され、しかも地中孔を取り囲むように配置されたものとすることもできる。
【0019】
本願発明の波動測定装置は、発信機が地上に設置され、しかも地中孔の周囲を移動可能に設置されたものとすることもできる。
【0020】
本願発明の波動測定装置は、2以上の発信機が地上に配置され、しかも地中孔を通る直線上に位置するように配置されたものとすることもできる。
【0021】
本願発明の波動測定装置は、発信体を地中孔の中に設置し、受信機を地上に設置したものとすることもできる。この発信体は、地中孔内に垂下する発信機用軸材と、地盤内に弾性波又は電磁波を発生させる発信機を有するとともに、略鉛直(鉛直含む)方向に配列された2以上の発信機が軸材に取り付けられたものである。なお、2以上の発信機は、その設置位置が可変となるように軸材に取り付けられる。
【0022】
本願発明の波動測定方法は、波動測定装置を用いて地盤中を伝わる弾性波又は電磁波を測定する方法であり、受信体設置工程と測定工程を備えた方法である。受信体設置工程では、あらかじめ推定された地層ごとに受信機が配置されるように、受信機の設置位置を調整したうえで、受信体を地中孔の中に設置する。一方、測定工程では、発信機によって弾性波又は電磁波を発生させるとともに、受信機が弾性波を受信したときはその弾性波に基づいて地盤の弾性波速度を測定し、受信機が電磁波を受信したときはその電磁波に基づいて地盤の比抵抗を測定する。
【0023】
本願発明の波動測定方法は、確認測定工程をさらに備えた方法とすることもできる。確認測定工程では、発信機を地中孔の中に設置するとともに1又は2以上の受信機を地上に配置したうえで、この発信機によって弾性波又は電磁波を発生させるとともに、受信機が弾性波を受信したときはその弾性波に基づいて地盤の弾性波速度を測定し、受信機が電磁波を受信したときはその電磁波に基づいて地盤の比抵抗を測定する。そして、測定工程によって得られた地盤の弾性波速度又は比抵抗と、確認測定工程によって得られた弾性波速度又は比抵抗とを照らし合わせる。
【0024】
本願発明の波動測定方法は、地盤のP波速度及びS波速度を測定する方法とすることもできる。この場合の発信機は、地盤内に弾性波を発生させ、受信機は、弾性波を3方向から受信する3成分測定用受信機とされる。そして測定工程では、受信機が受信した弾性波に基づいて地盤のP波速度及びS波速度を測定する。
【発明の効果】
【0025】
本願発明の波動測定装置、及び波動測定方法には、次のような効果がある。
(1)受信機の設置位置を可変とすることから、多層地盤であっても各地層に受信機を配置することができ、すなわち各地層の弾性波速度や比抵抗を直接測定することができる。
(2)P波速度に加えS波速度も測定することによって、せん断弾性係数を含む種々の地盤特性を求めることができ、高い精度で液状化判定を行うこともできる。
(3)高精度かつ3次元で可視化表示することによって、地盤特性や地盤改良の程度を的確に把握することができる。
(4)発信機を地上に設置することによって、発信機用の地中孔を省略することができる。
(5)地盤特性を解析する際の収束判定を調整することによって、調査後に短時間で結果を確認することができ。その結果、地盤改良等の施工の手戻りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明の波動測定装置によって弾性波測定を行っている状況を示す断面図。
図2】本願発明の波動測定装置の主な構成を示すブロック図。
図3】受信体を模式的に示す側面図。
図4】発信機を地上に設置した波動測定装置によって弾性波測定を行っている状況を示す断面図。
図5】(a)は受信孔を通る直線(図では破線で示す)上に位置するように地上に配置された発信機を示す平面図、(b)は受信孔を通る直線上に位置するように地上に配置された発信機を示す断面図。
図6】受信孔を取り囲むように地上に配置された発信機を示す平面図。
図7】受信孔の周囲を移動できるように地上に配置された発信機を示す平面図。
図8】発信機を発信孔内に設置し受信機を地上に設置した本願発明の波動測定装置を示す断面図。
図9】本願発明の波動測定方法の主な工程を示すフロー図。
図10】従来の孔間弾性波測定を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の波動測定装置、及び波動測定方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0028】
1.全体概要
図1は、本願発明の波動測定装置100によって弾性波測定を行っている状況を示す断面図である。この図に示すように波動測定装置100は、受信体110と発信機121を備えており、この受信体110は略鉛直(鉛直含む)方向に配列された2以上(図では6個)の受信機111を含んで構成される。なお本願発明は、発信機121が弾性波を発生してこれを受信機111が受信するケース(以下、「弾性波測定ケース」という。)と、発信機121が電磁波を発生してこれを受信機111が受信するケース(以下、「電磁波測定ケース」という。)に大別することができる。弾性波を発生させる場合、「発振」及び「受振」という語が用いられることもあるが、便宜上ここでは、「弾性波測定ケース」、「電磁波測定ケース」ともに、「発信」及び「受信」という語を用いることとする。すなわち、ここでいう「発信」には弾性波を「発振」することが含まれ、「受信」には弾性波を「受振」することが含まれる。
【0029】
本願発明の波動測定装置100を用いて弾性波や電磁波を測定するには、地盤内に設けられた一方の地中孔(以下、「受信孔200」という。)に受信体110を挿入し、他方の地中孔(以下、「発信孔300」という。)に発信機121を挿入したうえで、発信機121が弾性波又は電磁波を発生させ、受信体110がその弾性波又は電磁波を受信する。なお弾性波測定ケースでは、3方向(例えば、X軸方向とY軸方向、Z軸方向)からの波を受信することができる3成分測定用の受信機111を利用するとよい。受信体110が3方向から弾性波を受信することから、縦波であるP波と横波であるS波を受信することができ、その結果、地盤ごとのP波速度及びS波速度を測定することができるわけである。
【0030】
2.波動測定装置
本願発明の波動測定装置100について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の波動測定方法は、本願発明の波動測定装置100を用いて弾性波を測定する方法であり、したがってまずは本願発明の波動測定装置100について説明し、その後に本願発明の波動測定方法について説明することとする。また、既述したとおり本願発明は「弾性波測定ケース」と「電磁波測定ケース」に大別することができるが、便宜上ここでは「弾性波測定ケース」の例で説明することとする。
【0031】
図2は、本願発明の波動測定装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように波動測定装置100は、受信体110と発信機121を含んで構成され、さらに弾性波速度算出手段130や、弾性波速度記憶手段140、地盤特性出力手段150、地盤特性記憶手段160、ディスプレイ等の表示手段170を含んで構成することもできる。
【0032】
波動測定装置100のうち弾性波速度算出手段130と地盤特性出力手段150は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末、あるいはPDA(Personal Data Assistance)などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。また、弾性波速度記憶手段140と地盤特性記憶手段160は、例えばデータベースサーバに構築することができ、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信や有線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0033】
以下、波動測定装置100を構成する主な要素ごとに説明する。
【0034】
(受信体)
図3は、受信体110を模式的に示す側面図である。この図に示すように受信体110は、2以上(図では4個)の受信機111が受信機用軸材112に取り付けられることで形成される。既述したとおりこれら受信機111は、3成分測定用の受信機を用いることが望ましく、略鉛直方向に配列される。一方の受信機用軸材112は、受信孔200内に垂下されるものであって、断面寸法よりも長手方向の寸法が極端に大きなものであり、断面が管状のもの(例えば、鋼管や樹脂管)やロープ状のもの(例えば、ワイヤーロープ)などを利用することができ、受信孔200内の所定位置まで届くよう相当の長さとされる。
【0035】
図3に示すように受信機111は、受信機用軸材112の軸方向(図では上下方向)に、受信機用軸材112に対して相対的に移動できるように、換言すれば受信孔200内での位置を変えられるように、受信機用軸材112に取り付けるとよい。受信機111の取り付け位置を可変とすることによって、図1に示すようにあらかじめ地層(図では第1層~第6層)の位置が把握されていれば、受信機111がそれぞれの地層に配置されるように、受信体110を受信孔200内に挿入することができる。従来の孔間弾性波測定では受信機を一定間隔で固定していたため、多層地盤においては図10に示すように各層にそれぞれ受信機を配置することができなかった。一方、本願発明の波動測定装置100によれば、多層地盤であっても各地層に受信機111を配置することができ、すなわち各地層の弾性波速度を直接測定することができるため、効率的かつ高精度に弾性波速度を測定することができるわけである。
【0036】
受信機111の設置位置を可変とする場合、手動によって受信機111を移動させることもできるし、油圧や電力を利用することで機械的に移動させることもできる。手動で受信機111を移動する場合、受信機111を受信機用軸材112の軸上でスライド可能とし、ボルトやストッパを利用して受信機111を所定位置に固定する構造とすることができる。また機械的に受信機111を移動する場合、受信体110を受信孔200内に挿入した後でも受信機111の配置を変更できるように、遠隔操作(リモートコントロール)可能な構造にするとよい。
【0037】
(発信機)
発信機121は、弾性波を発生させるものであり、起振機や火薬発破装置など従来用いられている種々の発信手段を利用することができる。もちろん「電磁波測定ケース」における発信機121は、電磁波を発生させるものであり、従来用いられているものを利用することができる。図1に示すように、発信孔300内の発信機121から発信された弾性波(あるいは電磁波)が、測定対象である地盤内を経由して受信孔200に到達し、これをそれぞれの受信機111が受信するとともにその受信信号を解析(例えばトモグラフィー解析)することによって地盤ごとの弾性波速度(あるいは地盤ごとの比抵抗)を求めるわけである。また、3成分測定用の受信機111を利用することによって、弾性波速度としてP波速度とS波速度を得ることができる。
【0038】
図1では、発信孔300内の所定位置に設置した発信機121によって弾性波(あるいは電磁波)を発信しているが、発信孔300内で発信機121を上下に移動させながらそれぞれの位置で弾性波(あるいは電磁波)を発信してもよい。あるいは、発信孔300内の設置に代えて、図4に示すように発信機121を地上に設置することもできる。発信機121を地上に設置すれば、発信孔300を省略することができて好適となる。
【0039】
地上に発信機121を設置する場合、図4に示すように1個所に設置してもよいし、2以上の箇所に設置することもできる。図5は、受信孔200を通る直線(図では破線で示す)上に位置するように地上に配置された発信機121を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその断面図である。なおこの図では、3個の発信機121を設置して弾性波(あるいは電磁波)を発信しているが、これに限らず2個の発信機121を設置して弾性波(あるいは電磁波)を発信してもよいし、4個以上の発信機121を設置して弾性波(あるいは電磁波)を発信してもよい。このように、受信孔200を通る直線上に、複数の発信機121を設置して弾性波(あるいは電磁波)を発信することで、図4のケースと同様、受信孔200を含む鉛直断面内における地盤の弾性波速度(あるいは比抵抗)を取得することができ、しかも同一断面上で複数の波形を交差させていることから図4のケースよりも高精度に弾性波速度(あるいは比抵抗)を測定することができるわけである。
【0040】
また、地上に発信機121を設置する場合、図6に示すように、平面的に受信孔200を取り囲むように2以上の発信機121を設置することもできる。なおこの図では、受信孔200を中心とする円上に30度間隔で12個の発信機121を設置して弾性波(あるいは電磁波)を発信しているが、これに限らず様々な任意配置で受信孔200を取り囲むこともできるし、11個以下あるいは13個以上の発信機121で受信孔200を取り囲むこともできる。さらに、図4の配置と組み合わせることもでき、受信孔200から放射状に延びる複数の直線上にそれぞれ2以上の発信機121を配置してもよい。このように、受信孔200を通る直線(図5に示す破線)上とならないように複数の発信機121を配置することによって、多方向から弾性波(あるいは電磁波)を発信することができ、すなわち受信機111は、多方向から弾性波(あるいは電磁波)を受信することから、空間的に(3次元で)地盤の弾性波速度(あるいは比抵抗)を測定することができる。したがって、地盤の特性を3次元で可視化することができ、つまり3次元で地盤の状況を確認することができるわけである。
【0041】
空間的に地盤の弾性波速度(あるいは比抵抗)を測定するには、多数の発信機121で受信孔200を取り囲む(図6)ほか、図7に示すように受信孔200の周囲を移動できるように発信機121を地上に設置することもできる。発信機121が移動しながら弾性波(あるいは電磁波)を発信することによって、受信機111は多方向から弾性波(あるいは電磁波)を受信することができるわけである。これにより、図6の配置に比べて用意する発信機121の数を低減することができる。この場合。発信機121は台車等を利用して移動させるとよい。例えば図7では、軌道(レール)400上を自走する台車に発信機121を載置しており、そのほかタイヤ式の自走台車やクローラ式の自走台車に載置することもできるし、あるいは飛行体(いわゆるドローンなど)に発信機121を搭載することもできる。また、移動中の位置(つまり、弾性波等の発信位置)を特定できるよう自走台車や飛行体にGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を搭載することもできる。このように移動しながら弾性波(あるいは電磁波)を発信させる場合、さらに図4の配置と組み合わせることもでき、例えば、受信孔200を中心とする複数の同心円上を、受信孔200を通る直線上の配置を保ちながら2以上の発信機121を移動させてもよい。
【0042】
(弾性波速度算出手段)
弾性波速度算出手段130は、受信機111が受信した波形信号からP波速度及びS波速度を求める手段である。P波速度及びS波速度を求めるための解析手法としては、弾性波トモグラフィー解析など従来用いられている種々の解析手法を採用することができる。なお、P波速度及びS波速度は、地層ごとに算出され、しかも対象地盤を複数に分割した小領域ごとに算出するとよい。例えば、任意の鉛直断面内における地盤の弾性波速度が得られる場合は、その鉛直断面内を複数に分割した平面的小領域(いわゆるメッシュ)ごとにP波速度及びS波速度を求め、空間的に(3次元で)地盤の弾性波速度が得られる場合は、対象空間を複数に分割した立体的小領域(いわゆるボクセル)ごとにP波速度及びS波速度を求めるとよい。弾性波速度算出手段130によって求められた地盤のP波速度及びS波速度は、弾性波速度記憶手段140に記憶される(図2)。一方、「電磁波測定ケース」では、弾性波速度算出手段130に代えて、受信した電磁波から地盤ごとの比抵抗を算出する比抵抗算出手段を具備することとなり、小領域(メッシュやボクセル)ごとに求められた地盤の比抵抗は、比抵抗記憶手段に記憶されることとなる。
【0043】
従来、受信機111が受信した波形信号から弾性波速度を算出するに当たっては、一般的に数日の期間を要していた。そのため、地盤改良を行う際にその効果を速やかに確認することができず、手戻りが生ずることもあった。一方、本願発明の波動測定装置100によれば、多層地盤であっても各地層に受信機111を配置することができ、すなわち各地層の弾性波(あるいは電磁波)の信号を直接受信することから、効率的につまり迅速に弾性波速度(あるいは比抵抗)を算出することができるわけである。さらに、解析における収束判定を調整することによって、より迅速に弾性波速度(あるいは比抵抗)を算出することもできる。これにより、地盤改良の効果を速やかに確認することができ、その結果、手戻りを防ぐことができるわけである。
【0044】
(地盤特性出力手段)
地盤特性出力手段150は、弾性波速度記憶手段140から読み出したP波速度及びS波速度(あるいは比抵抗)に基づいて地盤特性を求めるとともに、その地盤特性を表示手段170に出力する(表示する)手段である。P波速度及びS波速度(あるいは比抵抗)が小領域(メッシュやボクセル)ごとに得られていることから、地盤特性もやはり小領域(メッシュやボクセル)ごとに算出するとよい。特に、受信孔200を取り囲む多数の発信機121(図6)によって弾性波(あるいは電磁波)を発信した場合、あるいはGNSS受信機を搭載した自走台車等で移動しながら弾性波(あるいは電磁波)を発信した場合は、多種の断面データが得られることから、これらを合成して求められる地盤特性を三次元で表現することができる。ここで地盤特性とは、透水係数や飽和度、一軸圧縮強度、せん断弾性係数を含む地盤の物性値のことである。透水係数と飽和度と一軸圧縮強度は、その地盤のP波速度から推定できることが知られており、せん断弾性係数は、その地盤のS波速度から推定できることが知られている。また、小領域(メッシュやボクセル)ごとの飽和度から、対象地盤全体の地下水面を推定することもできるし、2時期で測定した結果得られる2時期の地盤特性(一軸圧縮強度やせん断弾性係数など)から地盤改良の効果を判定することもできる。
【0045】
地盤特性出力手段150は、P波速度及びS波速度(あるいは比抵抗)に基づいて算出された小領域(メッシュやボクセル)ごとの地盤特性を、ディスプレイ等の表示手段170に表示する(図2)。このとき、ボクセルごとの地盤特性が得られていれば、対象地盤全体をその地盤特性とともに3次元表示させるとよい。地盤特性出力手段150によって求められた地盤特性は、地盤特性記憶手段160に記憶される(図2)。
【0046】
(他の実施例)
ここまで、受信体110が受信孔200内に設置され、発信機121が地上に設置される例について説明したが、本願発明の波動測定装置100は、図8に示すように、発信機121を発信孔300内に設置し、受信機111を地上に設置することもできる。この場合、発信機用軸材122に発信機121を取り付けた発信体120を発信孔300内に挿入するとよい。
【0047】
発信機用軸材122は、既述した受信機用軸材112と同様、発信孔300内に垂下されるものであって、断面寸法よりも長手方向の寸法が極端に大きなものであり、断面が管状のもの(例えば、鋼管や樹脂管)やロープ状のもの(例えば、ワイヤーロープ)などを利用することができ、発信孔300内の所定位置まで届くよう相当の長さとされる。また、発信機用軸材122の軸方向(図8では上下方向)に移動できるように、換言すれば発信孔300内での位置を変えられるように、発信機121を発信機用軸材122に取り付けることもできる。この場合も受信機111の例と同様、手動によって発信機121を移動させる構造とすることもできるし、機械的に発信機121を移動させる構造とすることもできる。
【0048】
また、地上に設置される受信機111は、図4に示すように1個所の配置としてもよいし、発信孔300を通る直線上に複数配置することもできる。また、図6に示すように、平面的に発信孔300を取り囲むように2以上の受信機111を設置することもできるし、図7に示すように発信孔300の周囲を移動できるように受信機111を地上に設置することもできる。この場合も移動式の発信機121と同様、種々の自走台車や飛行体に受信機111を搭載することができ、さらに自走台や飛行体にGNSS受信機を搭載することもできる。発信孔300を取り囲む多数の受信機111によって弾性波(あるいは電磁波)を受信した場合、あるいはGNSS受信機を搭載した自走台車等で移動しながら弾性波(あるいは電磁波)を受信した場合は、多種の断面データが得られることから、これらを合成して求められる地盤特性を三次元で表現することができる。
【0049】
図8に示す態様の波動測定装置100は、例えば、受信体110を受信孔200内に設置する態様の波動測定装置100(図1図7)で弾性波測定(あるいは電磁波測定)を行った後、その結果を検証するために利用するとよい。
【0050】
3.波動測定方法
次に、本願発明の波動測定方法ついて図を参照しながら説明する。なお、本願発明の波動測定方法は、ここまで説明した波動測定装置100を使用して行う方法であり、したがって波動測定装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の波動測定方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.波動測定装置」で説明したものと同様である。また、波動測定装置の説明と同様、便宜上ここでも「弾性波測定ケース」の例で説明することとする。
【0051】
図9は、本願発明の波動測定方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、まず受信孔200内に受信体110を設置する(Step101)。このとき、あらかじめ推定された地層ごとに受信機111が配置されるように、受信機用軸材112上で受信機111の設置位置を調整したうえで、受信体110を受信孔200内に挿入する。受信機111の設置位置を調整するに当たって、受信機111を手動で移動する構造とした場合は、受信体110を受信孔200内に挿入する前に、受信機111を受信機用軸材112の軸上でスライドし、ボルトやストッパを利用して受信機111を所定位置に固定する。一方、受信機111を機械的に移動する構造とした場合は、受信体110を受信孔200内に挿入した後に、遠隔操作(リモートコントロール)によって受信機111の配置を変更することもできる。
【0052】
受信孔200内に受信体110を設置すると、発信孔300内、あるいは地上に設置された発信機121によって弾性波(あるいは電磁波)を発信し、対象地盤を経由した弾性波(あるいは電磁波)を受信機111で受信する(Step102)。そして受信した信号を解析することによって、地盤の弾性波速度のP波速度及びS波速度(あるいは比抵抗)を求め、P波速度及びS波速度(あるいは比抵抗)に基づいて地盤特性を推定する。
【0053】
受信孔200内に受信体110を設置した測定(以下、「本測定」という。)により得られた結果(弾性波速度や比抵抗、地盤特性)は、表示手段170に表示される。このとき、ボクセルごとの弾性波速度(あるいは比抵抗)や地盤特性が得られていれば、対象地盤全体をその弾性波速度(あるいは比抵抗)や地盤特性とともに3次元表示させるとよい(Step105)。
【0054】
また、本測定の後、その結果を確認するために確認測定を行うこともできる(Step103)。この確認測定は、発信機121を発信孔300内に設置し、受信機111を地上に設置した態様の波動測定装置100(図8)を用いて行うとよい。確認測定によって得られた結果(弾性波速度や比抵抗、地盤特性)は、本測定によって得られた結果(弾性波速度や比抵抗、地盤特性)と照らし合わされる(Step104)。両者を照らし合わせた結果、許容できる程度の相違であれば本測定による結果をそのまま表示手段170に表示し(Step105)、相当程度の相違であれば本測定による結果を補正したうえで表示手段170に表示する(Step105)とよい。本測定による結果を補正する場合、確認測定による結果に基づいて補正することができる。また、本測定による結果と確認測定による結果に著しい相違が確認されたときは、再度、本測定を行うこととしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明の波動測定装置、及び波動測定方法は、土木構造物や建築構造物などの構造物設計に必要な調査に利用できるほか、地盤改良の効果を確認する調査や、構造物劣化診断の調査に利用することができる。本願発明が、社会インフラストラクチャーとして高品質の構造物を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0056】
100 波動測定装置
110 (波動測定装置の)受信体
111 (受信体の)受信機
112 (受信体の)受信機用軸材
120 (波動測定装置の)発信体
121 (発信体の)発信機
122 (発信体の)発信機用軸材
130 (波動測定装置の)弾性波速度算出手段
140 (波動測定装置の)弾性波速度記憶手段
150 (波動測定装置の)地盤特性出力手段
160 (波動測定装置の)地盤特性記憶手段
170 (波動測定装置の)表示手段
200 受信孔
300 発信孔
Ha (従来技術の)受信孔
RE (従来技術の)受信機
He (従来技術の)発信孔
EX (従来技術の)発信機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10