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  • 特許-筒状構造物の補強方法および補強構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】筒状構造物の補強方法および補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018243054
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105733
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 靖夫
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207568308(CN,U)
【文献】特開昭64-083768(JP,A)
【文献】特開平10-088863(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101168976(CN,A)
【文献】特開2007-231732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の筒状構造物を補強する方法であって、
筒状構造物の内壁面に沿って、線状の曲げ補強材を筒軸方向に配置するステップと、
曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって膜状の補強被覆材を設けて、補強被覆材を介して曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるステップとを有し、
曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって膜状の補強被覆材を設ける際に、曲げ補強材の上から筒状構造物の内壁面に樹脂を主体とする補強被覆材を吹き付けて、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成することによって、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させることを特徴とする筒状構造物の補強方法。
【請求項2】
複数の曲げ補強材を筒軸に直交する方向に重ねて配置することにより、筒状構造物の内壁面に対して曲げ補強材を筒軸方向に連続的に切れ目なく配置することを特徴とする請求項1に記載の筒状構造物の補強方法。
【請求項3】
既設の筒状構造物を補強する構造であって、
筒状構造物の内壁面に沿って、筒軸方向に配置された線状の曲げ補強材と、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって吹き付けられた膜状の補強被覆材とを備え、
補強被覆材は、樹脂を主体とする材料からなり、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成することによって、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化していることを特徴とする筒状構造物の補強構造。
【請求項4】
筒軸に直交する方向に重ねて配置され、筒状構造物の内壁面に対して筒軸方向に連続的に切れ目なく配置される複数の曲げ補強材を備えることを特徴とする請求項に記載の筒状構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既設の煙突や排気塔などの組積造の筒状構造物の補強方法および補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存のレンガ造構造物などの組積造構造物を補強する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。補強の際に、煙突や排気塔などの筒状の細長い構造部分(以下、筒状構造物という。)の補強が必要となることがある。特に、レンガ造の筒状構造物では、レンガ目地が壊れてばらばらになることを防ぐとともに、筒状構造物全体としての曲げ破壊を防ぐ必要がある。
【0003】
このような構造物を補強する従来の方法としては、鉄筋コンクリート壁を増し打ちする方法、鉄骨フレームを設置してあと施工アンカーで接合する方法、炭素繊維シートなど連続繊維補強材を接着する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-021422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鉄筋コンクリートや鉄骨による補強は工事が大掛かりになるという問題がある。また、構造物の外観を保存するために、筒状構造物の内側で補強を行うと、狭いスペースでの作業が困難になるという問題がある。炭素繊維シートなどによる補強方法も接着前に表面を平滑にする必要があり、手間がかかるという問題がある。また、レンガ壁に鉛直孔をあけてPC鋼棒を通して締め付けたり、鉄筋を通して埋め込んだりする補強方法もあるが、筒状構造物の壁厚が薄い場合は孔あけが困難という問題がある。このような問題は、レンガ造の筒状構造物だけでなく、鉄筋量の少ない鉄筋コンクリート造の筒状構造物でも同様に問題となる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、施工性を向上した筒状構造物の補強方法および補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る筒状構造物の補強方法は、既設の筒状構造物を補強する方法であって、筒状構造物の内壁面に沿って、線状の曲げ補強材を筒軸方向に配置するステップと、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって膜状の補強被覆材を設けて、補強被覆材を介して曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるステップとを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法は、上述した発明において、曲げ補強材の上から筒状構造物の内壁面に樹脂を主体とする補強被覆材を吹き付けて、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成することによって、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法は、上述した発明において、複数の曲げ補強材を筒軸に直交する方向に重ねて配置することにより、筒状構造物の内壁面に対して曲げ補強材を筒軸方向に連続的に切れ目なく配置することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る筒状構造物の補強構造は、既設の筒状構造物を補強する構造であって、筒状構造物の内壁面に沿って、筒軸方向に配置された線状の曲げ補強材と、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって設けられた膜状の補強被覆材とを備え、補強被覆材は、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造は、上述した発明において、補強被覆材は、樹脂を主体とする材料からなり、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成するものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造は、上述した発明において、筒軸に直交する方向に重ねて配置され、筒状構造物の内壁面に対して筒軸方向に連続的に切れ目なく配置される複数の曲げ補強材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る筒状構造物の補強方法によれば、既設の筒状構造物を補強する方法であって、筒状構造物の内壁面に沿って、線状の曲げ補強材を筒軸方向に配置するステップと、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって膜状の補強被覆材を設けて、補強被覆材を介して曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるステップとを備えるので、筒状構造物の内側の狭小なスペースでも施工が可能であり、比較的軽量な材料だけで施工できることから、従来の補強方法と比べて施工性を大きく向上することができるという効果を奏する。また、筒状構造物の内部の作業だけで補強できるため、外観への影響がなく、文化財の保存に有効である。炭素繊維シート補強のように表面を平滑にする必要がないので、施工を大幅に簡易化することができる。
【0014】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法によれば、曲げ補強材の上から筒状構造物の内壁面に樹脂を主体とする補強被覆材を吹き付けて、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成することによって、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるので、筒状構造物を構成するレンガのような組積材の目地が壊れてばらばらになるような破壊を防止することができるという効果を奏する。また、筒状構造物の引張力は補強被覆層を介して曲げ補強材に伝達されることにより、筒状構造物全体の曲げ破壊を防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法によれば、複数の曲げ補強材を筒軸に直交する方向に重ねて配置することにより、筒状構造物の内壁面に対して曲げ補強材を筒軸方向に連続的に切れ目なく配置するので、軽量で短小な曲げ補強材を用いて施工できることから、施工性を向上することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る筒状構造物の補強構造によれば、既設の筒状構造物を補強する構造であって、筒状構造物の内壁面に沿って、筒軸方向に配置された線状の曲げ補強材と、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって設けられた膜状の補強被覆材とを備え、補強被覆材は、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化しているので、筒状構造物の内側の狭小なスペースでも施工が可能であり、比較的軽量な材料だけで施工できることから、従来の補強構造と比べて施工性を大きく向上することができるという効果を奏する。また、筒状構造物の内部の作業だけで補強できるため、外観への影響がなく、文化財の保存に有効である。炭素繊維シート補強のように表面を平滑にする必要がないので、施工を大幅に簡易化することができる。
【0017】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造によれば、補強被覆材は、樹脂を主体とする材料からなり、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成するものであるので、筒状構造物を構成するレンガのような組積材の目地が壊れてばらばらになるような破壊を防止することができるという効果を奏する。また、筒状構造物の引張力は補強被覆層を介して曲げ補強材に伝達されることにより、筒状構造物全体の曲げ破壊を防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造によれば、筒軸に直交する方向に重ねて配置され、筒状構造物の内壁面に対して筒軸方向に連続的に切れ目なく配置される複数の曲げ補強材を備えるので、軽量で短小な曲げ補強材を用いて施工できることから、施工性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る筒状構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を示す図であり、(1)は上面図、(2)は正面断面図、(3)は側面断面図である。
図2図2は、本発明に係る筒状構造物の補強方法および補強構造の他の実施の形態を示す図であり、(1)は正面断面図、(2)は側面断面図である。
図3図3は、重ね長さLに関する説明図であり、(a)は正面断面図、(b)は水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る筒状構造物の補強方法および補強構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
本実施の形態では、補強対象の筒状構造物として、図1に示すようなレンガ造の筒状構造物10を例にとり説明する。この筒状構造物10は、組積材としてのレンガ12を積み上げて形成した、上端が開口した四角筒状体であり、コンクリート製の基礎20上に構築されている。レンガ12は、粘土や頁岩と泥を焼き固めて、または圧縮して作られた直方体状の建築材である。上下および左右に隣り合うレンガ12間には、モルタルやグラウトなどからなる目地14が設けられている。なお、本発明の筒状構造物はレンガ造の筒状構造物に限るものではなく、例えば、コンクリートブロックを組積材として積み上げたコンクリート造の筒状構造物や、石材などを組積材として積み上げた筒状構造物であってもよい。
【0022】
また、本実施の形態では、曲げ補強材がフラットバー(平鋼)である場合を例にとり説明するが、本発明の曲げ補強材はこれに限るものではなく、例えば鉄筋、ワイヤー、FRP製のロッドなど、筒軸方向に一定の引張強度を有するものであれば何でもよい。
【0023】
本実施の形態の補強方法は、ステップ1~2の施工手順で行われる。以下、各ステップの施工内容について説明する。
【0024】
(ステップ1)
まず、図1に示すように、筒状構造物10の内壁面16に沿って、鉛直方向(筒軸方向)にフラットバー18(曲げ補強材)を配置する。最下部については、基礎20に対してあと施工アンカー22やPC締め付けなどでフラットバー18を固定する。なお、最下部のフラットバー18の固定先については、基礎20に限るものではなく、筒状構造物10が取り付けられる梁や壁などに固定してもよい。
【0025】
フラットバー18は、筒状構造物10の補強区間全長にわたり溶接やボルト接合でつながっている必要はなく、図1のように重ね長さLをとりながら水平方向(横方向)に重ねて配置してもよい。このようにすれば、筒状構造物10の内壁面16に対してフラットバー18を鉛直方向に連続的に切れ目なく配置することができる。
【0026】
ここで、重ね長さLは、例えばフラットバー幅の10倍以上に設定することが好ましい。この根拠について説明する。本実施の形態では、フラットバー18の引張力を後述のポリウレア樹脂(補強被覆層24)のせん断応力度により伝える。そこで、図3に示すように、フラットバー18の上面18Aおよび側面18Bに付着した樹脂24Aを介して力が伝達されると仮定すると、フラットバー18の引張力は、以下のように表せる。
【0027】
・W・σ
ただし、W:フラットバーの幅
σ:フラットバーの引張応力度
:フラットバーの厚さ(=t-t
:フラットバー上の樹脂厚
:フラットバー横の樹脂厚
【0028】
樹脂24Aのせん断力は、以下のように表せる。
・L・τ
ただし、τ:樹脂のせん断応力度
【0029】
十分な応力伝達できる重ね長さLは、以下の関係式より求めることができる。
・W・σ≦t・L・τ ・・・(1)
【0030】
フラットバー18の強度を樹脂24Aの10倍程度と考えると、上記の関係式(1)は以下のように変形できる。
L/W≧(t/t)・(σ/τ)=(t/t)・10 ・・・(2)
【0031】
フラットバー18上の樹脂厚が0の場合を考えると、上記の式(2)は以下のように変形できる。
L/W≧10 ・・・(3)
【0032】
したがって、重ね長さLはフラットバー18の幅Wの10倍以上あればよい。このようにすれば、フラットバー18の引張力を後述のポリウレア樹脂(補強被覆層24)のせん断応力度により十分伝達可能である。
【0033】
(ステップ2)
次に、筒状構造物10の内壁面16にフラットバー18の上からポリウレア樹脂(補強被覆材)を吹き付けて、フラットバー18の上面および筒状構造物10の内壁面16に膜状の補強被覆層24を形成し、この補強被覆層24を介して筒状構造物10の内壁面16およびフラットバー18を一体化させる。このようにすることで、本実施の形態に係る筒状構造物の補強構造を得ることができる。
【0034】
なお、図2に示すように、筒状構造物10の下部の周囲に剛強な躯体26があって定着がとれる場合は、下にフラットバー18を延ばして同様にポリウレア樹脂を吹き付けてもよい。この場合、図2中の符号Tが定着長さ、符号Pが曲げ破壊想定位置となる。
【0035】
上記の実施の形態において、フラットバー18は、筒状構造物10の内壁面16に直接接着する必要はなく、吹き付けたポリウレア樹脂による補強被覆層24で上面がつながるように筒状構造物10の内壁面16に接触するか近い位置にあればよい。
【0036】
吹き付ける補強被覆材は、ポリウレア樹脂に限るものではなく、例えばポリウレタン樹脂やエポキシ樹脂など、レンガ12同士をつないで一体化させ、レンガ12とフラットバー18に接着して荷重を伝達できる強度特性(強靭性)と伸び特性を有するものであればよい。また、吹き付ける補強被覆材は、上記の樹脂を主体とするものが好ましいが、これら樹脂以外の混合物を含んだものでもよい。
【0037】
筒状構造物10の内壁面16に大きな段差部分がある場合、フラットバーは必ずしも内壁面の全面に接触している必要はなく、内壁面の凹んだ部分28は隙間があいていてもよい。その場合も凹んだ部分28にはポリウレア樹脂を吹き付ける。
【0038】
このように、本実施の形態の補強方法によれば、レンガ壁内側全面にポリウレア樹脂を吹き付けることで、筒状構造物10のレンガ12が目地14で壊れてばらばらになるような破壊が防止される。さらに、レンガ壁の引張力がポリウレア樹脂を介してフラットバー18に伝達され、あと施工アンカー22または下に延伸した定着部により基礎20に伝達されることにより、筒状構造物10全体の曲げ破壊が防止される。
【0039】
また、筒状構造物10の内側の狭小なスペースでも施工が可能であり、フラットバー、ポリウレア樹脂などの比較的軽量な材料だけで施工できることから、従来の補強方法と比べて施工性を大きく向上することができる。また、筒状構造物10の内部の作業だけで補強できるため、外観への影響がなく、文化財の保存に有効である。炭素繊維シート補強のように表面を平滑にする必要がないので、施工を大幅に簡易化することができる。
【0040】
以上説明したように、本発明に係る筒状構造物の補強方法によれば、既設の筒状構造物を補強する方法であって、筒状構造物の内壁面に沿って、線状の曲げ補強材を筒軸方向に配置するステップと、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって膜状の補強被覆材を設けて、補強被覆材を介して曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるステップとを備えるので、筒状構造物の内側の狭小なスペースでも施工が可能であり、比較的軽量な材料だけで施工できることから、従来の補強方法と比べて施工性を大きく向上することができる。また、筒状構造物の内部の作業だけで補強できるため、外観への影響がなく、文化財の保存に有効である。炭素繊維シート補強のように表面を平滑にする必要がないので、施工を大幅に簡易化することができる。
【0041】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法によれば、曲げ補強材の上から筒状構造物の内壁面に樹脂を主体とする補強被覆材を吹き付けて、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成することによって、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化させるので、筒状構造物を構成するレンガのような組積材の目地が壊れてばらばらになるような破壊を防止することができる。また、筒状構造物の引張力は補強被覆層を介して曲げ補強材に伝達されることにより、筒状構造物全体の曲げ破壊を防止することができる。
【0042】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強方法によれば、複数の曲げ補強材を筒軸に直交する方向に重ねて配置することにより、筒状構造物の内壁面に対して曲げ補強材を筒軸方向に連続的に切れ目なく配置するので、軽量で短小な曲げ補強材を用いて施工できることから、施工性を向上することができる。
【0043】
また、本発明に係る筒状構造物の補強構造によれば、既設の筒状構造物を補強する構造であって、筒状構造物の内壁面に沿って、筒軸方向に配置された線状の曲げ補強材と、曲げ補強材の上面と筒状構造物の内壁面にわたって設けられた膜状の補強被覆材とを備え、補強被覆材は、曲げ補強材および筒状構造物の内壁面を一体化しているので、筒状構造物の内側の狭小なスペースでも施工が可能であり、比較的軽量な材料だけで施工できることから、従来の補強構造と比べて施工性を大きく向上することができる。また、筒状構造物の内部の作業だけで補強できるため、外観への影響がなく、文化財の保存に有効である。炭素繊維シート補強のように表面を平滑にする必要がないので、施工を大幅に簡易化することができる。
【0044】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造によれば、補強被覆材は、樹脂を主体とする材料からなり、曲げ補強材の上面および筒状構造物の内壁面に所定の強靭性を有する補強被覆層を形成するものであるので、筒状構造物を構成するレンガのような組積材の目地が壊れてばらばらになるような破壊を防止することができる。また、筒状構造物の引張力は補強被覆層を介して曲げ補強材に伝達されることにより、筒状構造物全体の曲げ破壊を防止することができる。
【0045】
また、本発明に係る他の筒状構造物の補強構造によれば、筒軸に直交する方向に重ねて配置され、筒状構造物の内壁面に対して筒軸方向に連続的に切れ目なく配置される複数の曲げ補強材を備えるので、軽量で短小な曲げ補強材を用いて施工できることから、施工性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る筒状構造物の補強方法および補強構造は、レンガ造の煙突や排気塔などの既設の筒状構造物を補強するのに有用であり、特に、補強工事の施工性を向上するのに適している。
【符号の説明】
【0047】
10 筒状構造物
12 レンガ
14 目地
16 内壁面
18 フラットバー(曲げ補強材)
20 基礎
22 あと施工アンカー
24 補強被覆層(補強被覆材)
26 剛強な躯体
28 凹んだ部分
図1
図2
図3