(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】前眼部疾患の治療のためのタクロリムスの持続送達用ナノリポソーム
(51)【国際特許分類】
A61K 31/436 20060101AFI20221201BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20221201BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20221201BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K47/24
A61K9/127
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2018554752
(86)(22)【出願日】2017-04-19
(86)【国際出願番号】 SG2017050216
(87)【国際公開番号】W WO2017184080
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】10201603094P
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】508320723
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ベンカトラマン、スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】ナタラジャン、ジャヤガネッシュ ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ボイ、イン チャン フレディ
(72)【発明者】
【氏名】メータ、ジョードビル シン
(72)【発明者】
【氏名】ホーデン、ティナ ツェー リン
(72)【発明者】
【氏名】ウン、シュー ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ウン、ハー チュン アンソニー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0013340(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0028728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前眼部疾患の予防および/または治療のための医薬の製造におけるナノリポソームの使用であって、前記ナノリポソームは、タクロリムスを
封入する少なくとも1つの脂質二重層を形成する
脂質を含み、
前記脂質は卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり、前記タクロリムス/前記脂質が0.2までの重量比を有
する、使用。
【請求項2】
前記ナノリポソームが、1mg/mlまでの薬物充填量を有している、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ナノリポソームが、4℃での貯蔵前に80nm~150nmの平均サイズを有している、請求項1
または2に記載の使用。
【請求項4】
前記ナノリポソームが、4℃での貯蔵後に90nm~120nmの平均サイズを有している、請求項1~
3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記ナノリポソームが、貯蔵の前後で0.3未満の多分散指数を有している、請求項1~
4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記ナノリポソームが、多層小胞または単層小胞である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前眼部疾患の予防および/または治療に使用
するためのナノリポソームであって、前記ナノリポソームは、タクロリムスを
封入する少なくとも1つの脂質二重層を形成する
脂質を含み、
前記脂質は卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)であり、前記タクロリムス/前記脂質が0.2までの重量比を有
する、ナノリポソーム。
【請求項8】
前記ナノリポソームが、1mg/mlまでの薬物充填量を有している、請求項
7に記載のナノリポソーム。
【請求項9】
前記ナノリポソームが、4℃での貯蔵前に80nm~150nmの平均サイズを有している、請求項
7または8に記載のナノリポソーム。
【請求項10】
前記ナノリポソームが、4℃での貯蔵後に90nm~120nmの平均サイズを有している、請求項
7~9のいずれか1項に記載のナノリポソーム。
【請求項11】
前記ナノリポソームが、貯蔵の前後で0.3未満の多分散指数を有している、請求項
7~10のいずれか1項に記載のナノリポソーム。
【請求項12】
前記ナノリポソームが、多層小胞または単層小胞である、請求項
7~11のいずれか1項に記載のナノリポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、タクロリムスなどの疎水性薬物を含むナノリポソーム、ならびに前眼部疾患の予防および/または治療におけるナノリポソームの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タクロリムス(別名FK506またはFK-506)は、免疫調節活性および抗炎症活性を有するマクロラクタム誘導体である。タクロリムスは点眼液に使用されており、タクロリムス局所点眼液は、種々の前眼部疾患の管理のために診療所で日常的に使用されている。一般に、タクロリムス点眼液は、季節性アレルギー(例えば結膜炎)や眼表面疾患(例えばドライアイ)の治療、線維柱帯切除術(trabeculectomy)および移植片拒絶の術後管理に用いてもよい。より優れた治療反応のために点眼液の長期使用が必要とされがちであるが、それは、副作用などの合併症や患者のコンプライアンス不良をもたらす恐れがある。例えば、あまりに頻繁に点眼液を使用することの潜在的欠点のいくつかには、前述の状態もしくは疾患の準最適管理および/または永久的発赤もしくは眼の血管への損傷などの重篤な副作用があり得る。
【0003】
点眼液の長期使用または乱用を抑制するために、タクロリムスの持続放出を提供する代替の治療戦略の開発が求められている。この治療戦略には、タクロリムスの侵襲性および/または危険な投与(例えば硝子体内注射)を最小限にすることも求められている。
【0004】
以上を踏まえて、上記の利点を有すると同時に上記の欠点の一以上を改善する薬物送達手段を提供することが求められている。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、前眼部疾患の予防および/または治療のための医薬の製造におけるナノリポソームの使用が開示され、ナノリポソームは、タクロリムスを含む疎水性薬物をカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含み、疎水性薬物と複数の不飽和脂質および/または飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。
【0006】
別の態様では、前眼部疾患の予防および/または治療に使用されるナノリポソームが開示され、ナノリポソームは、タクロリムスを含む疎水性薬物をカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含み、疎水性薬物と複数の飽和脂質および/または不飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。
【0007】
別の態様では、タクロリムスを含む疎水性薬物をカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含んだナノリポソームを投与することによって前眼部疾患を予防および/または治療する方法が開示され、疎水性薬物と複数の飽和脂質および/または不飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図面において、同様の符号は、一般に、異なる図面を通じて同様の部分を指す。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、一般に本発明の原理の説明において強調がなされている。以下の説明において、種々の本開示の実施形態が、以下の図面を参照して説明されている。
【
図1】時間(日数)に対する累積百分率タクロリムス放出(%)プロットを示す図である。このプロットは、本明細書に開示された実施形態に従って製造された3つの独立した試料(A、BおよびCと呼ぶ)についての、タクロリムスが充填された卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)リポソームのin vitro薬物放出挙動を示す。各試料について、pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームを透析した。
【
図2】時間(日数)に対する累積百分率タクロリムス放出(%)プロットを示す図である。このプロットは、本明細書に開示された実施形態に従って製造された3つの独立した試料についての、タクロリムスが充填された1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)リポソームのin vitro薬物放出挙動を示す。各試料について、pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームを透析した。各データポイントは、3つの試料の平均読み取り値を表す。
【
図3】3つの独立した試料についての、タクロリムスが充填されたPOPCリポソームのin vitro薬物放出挙動を示す図である。毎日の(算出された)タクロリムス量放出(μg)を時間(日数)に対してプロットした。各試料について、pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームを透析した。平らな実線によって示される、点眼液に基づくタクロリムスの放出挙動もまた、
図3に含まれている。各データポイントは、3つの試料の平均読み取り値を表す。
【
図4】時間(日数)に対する累積タクロリムス放出(%)プロットを示す図である。このプロットは、本明細書に開示されている実施形態に従って製造された3つの独立した試料(E、FおよびGと呼ぶ)についての、タクロリムスが充填されたジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)リポソームのin vitro薬物放出挙動を示す。各試料について、pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームを透析した。
【
図5】本明細書に記載のナノリポソームの非限定的な例示的実施形態を示す図である。特に、
図5は、タクロリムスが脂質二重層に封入されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明は、本発明を実施し得る特定の詳細および実施形態を例示として示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者であれば本発明を実施できるように十分詳細に説明されている。他の実施形態を用いてもよく、本発明の範囲から逸脱することなく変更を行ってもよい。これらの種々の実施形態は必ずしも相互に排他的ではない。なぜなら、一部の実施形態と一以上の他の実施形態とを組み合わせて新規な実施形態を作成することができるからである。
【0010】
一実施形態の文脈において記載されている特徴は、同様に、他の実施形態における同一または同様な特徴に適用することが可能である。一実施形態の文脈において記載されている特徴は、たとえこれらの他の実施形態に明示的に記載されていなくても、他の実施形態に適用することが可能である。さらにまた、一実施形態の文脈における特徴について記載されている追加および/または組み合わせおよび/または選択肢は、同様に、他の実施形態における同一または同様な特徴に適用することが可能である。
【0011】
本開示において、種々の前眼部疾患に対する効果的な治療戦略として、タクロリムスをカプセル化する持続放出性ナノリポソームが開発された。このような疾患の非限定的な例には、前眼部における炎症状態(例えばアレルギー性結膜炎)、眼表面での問題(例えばドライアイ)、および、免疫抑制の欠如に関連する状態(例えば角膜移植後)を含めてもよい。本開示のナノリポソームは、硝子体内注射の代わりに、結膜下注射などの、よりリスクの少ない手技によって投与されてもよい。
【0012】
有利には、本明細書に記載の持続放出性ナノリポソームを使用することによって、長期の治療効果のためにタクロリムス点眼液の使用を日常的に必要とする既存の臨床治療戦略に関連する問題を回避することができる。結膜下注射によってナノリポソームを投与することができるために点眼液を点眼する必要性が回避されるばかりでなく、さらにこの薬物は、より長い期間(例えば数日間から数ヶ月間)にわたって放出されると考えられるため、その治療反応をより効果的に管理することができる。これによって、患者のコンプライアンスが劇的に改善され、疾患の進行を止めるために必要な頻繁な点眼液の投与に由来する潜在的な副作用は最小限となる。
【0013】
以上を念頭に、本開示は、前眼部疾患の予防および/または治療のための医薬の製造におけるナノリポソームの使用を提供する。本開示は、前眼部疾患の予防および/または治療に使用されるそのようなナノリポソームも提供する。本開示は、さらに、そのようなナノリポソームを投与することによって前眼部疾患を予防および/または治療する方法を提供する。ナノリポソームおよびその使用の文脈において記載されている実施形態は、本明細書に記載の治療方法に同様に有効であり、逆もまた同様である。
【0014】
ナノリポソームおよびその使用の詳細に入る前に、ナノリポソームおよびその種々の実施形態に基づく治療方法、特定の用語、表現または語句の定義を最初に説明する。
本開示の文脈において、用語「ナノリポソーム」とは、大きくても200nmのサイズのリポソームのことをいう。
【0015】
本開示の文脈において、用語「疎水性」とは、水に可溶性および/または膨潤性でない材料または物質のことをいう。ゆえに、「疎水性」材料または物質は、水と混和しない傾向および/または水とは異なる別の相を維持する傾向がある。この点において、語句「混和しない」とは、それらの材料または物質が放置されたときに、混合しないことおよび/または分離する傾向があることを意味する。
【0016】
「まで」という表現は、数値に関して用いられる場合、その数値以下であると理解してよい。すなわち、この表現には、それが示す数値が含まれる。例えば、「0.2まで」には、0.2未満である場合と0.2に等しい場合とが含まれる。
【0017】
語「実質的に」とは、「完全に」を排除しない。例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yをまったく含まなくてもよい。必要ならば、語「実質的に」を本発明の定義から省略してもよい。
【0018】
種々の実施形態の文脈において、ある特徴または要素に関して用いる冠詞「a」、「an」および「the」は、その特徴または要素の一以上に対する言及を含む。
種々の実施形態の文脈において、数値に使用される用語「約」または「おおよそ」は、正確な値と妥当な変動とを含む。
【0019】
本明細書において、用語「および/または」は、関連する記載項目の一以上のありとあらゆる組み合わせを含む。
本明細書において、「AおよびBの少なくとも1つ」という形式の語句には、AもしくはBまたはAおよびBの両方を含めてもよい。同様に、「AおよびBおよびCの少なくとも1つ」という形式の語句またはさらなる記載項目を含む語句には、関連する記載項目の一以上のありとあらゆる組み合わせが含まれてもよい。
【0020】
特記しない限り、用語「含むこと」および「含む」ならびにそれらの文法的変形は、それらが記載されている要素を含むが、さらなる記載されていない要素の包含も可能にするような「オープン」または「包括的」な言語であるものとする。一方では、用語「からなっている」および「からなる」ならびにそれらの文法的変形は、それらが記載された要素のみを含むが、さらなる記載されていない要素を排除するような「クローズ」または「排他的」な言語であるものとする。
【0021】
種々の用語、表現および語句を定義してきたが、次に、ナノリポソームおよびその使用、ナノリポソームに基づく治療方法ならびに種々の実施形態の詳細を以下に述べる。
本開示では、前眼部疾患の予防および/または治療のための医薬の製造におけるナノリポソームの使用が開示され、ナノリポソームは、タクロリムスを含む疎水性薬物をカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含み、疎水性薬物と複数の不飽和脂質および/または飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。
【0022】
疎水性薬物は、1mg/mlまで、0.5mg/mlまで、0.1mg/mlまでの濃度でナノリポソームに充填されてもよく、これらの範囲内の任意の他の充填量でナノリポソームに充填されてもよい。ゆえに、種々の実施形態によれば、ナノリポソームは1mg/mlまでの薬物充填量を有してもよい。充填される疎水性薬物は、一以上の疎水性薬物の調合物であってもよい。場合によっては、充填される疎水性薬物は、タクロリムスを含んでもよく、あるいはタクロリムスからなってもよい。タクロリムスの構造を以下に示す。
【0023】
【化1】
疎水性薬物は、ナノリポソームに封入されてもよい。ナノリポソームは、少なくとも1つの脂質二重層で形成されてもよい。脂質二重層は、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含んでもよく、あるいは複数の不飽和脂質および/または飽和脂質からなってもよい。したがって、疎水性薬物は脂質二重層に封入されてもよい。例えば、タクロリムスは、二重層を形成する脂質の疎水性尾部の間に封入されてもよく、あるいは二重層内の任意の他の位置に封入されてもよい。
【0024】
種々の実施形態において、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、ホスホコリンおよびスフィンゴ脂質からなる群から選択されてもよい。場合によっては、不飽和脂質は、ホスホコリンおよび/またはスフィンゴ脂質を含んでもよく、あるいはホスホコリンおよび/またはスフィンゴ脂質からなってもよい。他の例において、飽和脂質は、ホスホコリンおよび/またはスフィンゴ脂質を含んでもよく、あるいはホスホコリンおよび/またはスフィンゴ脂質からなってもよい。
【0025】
ホスホコリンは、卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、およびジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)からなる群から選択されてもよい。ナノリポソームの少なくとも1つの二重層を形成するために、他の適切なホスホコリンを用いてもよい。一方、スフィンゴ脂質は、スフィンゴミエリン、スフィンゴシン、セラミドなどを含んでもよい。
【0026】
好ましい実施形態において、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質を含んでもよく、あるいはそのような少なくとも1つの不飽和脂質からなってもよい。
【0027】
長期間(例えば数日間)にわたって疎水性薬物(例えばタクロリムス)のより優れた持続放出を示すナノリポソームは、好ましくは、PC「頭部」に結合した不飽和脂質尾部を主要成分として有してもよい。PC「頭部」は、頭部グループとしてコリンを組み込むホスファチジルコリン(PC)として理解してもよい。好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質は、頭部グループとしてコリンを組み込んだホスファチジルコリン(PC)を含んでもよい。コリングループ(例えばPOPC)を有する非限定的な例示的不飽和脂質の構造を以下に示す。
【0028】
【化2】
本明細書に開示されている種々の実施形態に使用されるEggPCは一般的に、不飽和尾部を有する約50重量%以下、さらに言えば約5重量%のスフィンゴミエリンに加えて、不飽和尾部を有する約50重量%超、さらに言えば約95重量%のPOPCおよび/または他のPCを含んでもよい。EggPCに存在すると考えられるいくつかの主要成分の構造を以下に示す。
【0029】
【化3】
例示した種々の脂質にもかかわらず、完全飽和脂質からなるナノリポソームの薬物放出挙動は理想的ではない。従って、ナノリポソームを形成するために使用される脂質は、好ましくは、不飽和脂質または、少なくとも1つの不飽和脂質を主成分として含有する脂質の混合物を含んでもよい。好ましい不飽和脂質は、限定するものではないが、POPC、DOPC、スフィンゴ脂質などを含んでもよい。一方、飽和脂質は、ナノリポソームの少量成分を形成してもよい。すなわち、ナノリポソーム中の飽和脂質は、約50重量%以下で存在してもよい。
【0030】
ナノリポソームは、用いる不飽和脂質および/または飽和脂質の種類に応じて、異なるサイズを有してもよい。ナノリポソームのサイズは、貯蔵後にわずかに変化してもよい。
種々の実施形態において、ナノリポソームは、80nm~150nm、85nm~110nm、85nm~105nm、85nm~100nm、90nm~115nm、90nm~100nm、90nm~95nmの平均サイズを有してもよく、これらの特定の範囲内に入る任意の他の平均サイズを有してもよい。使用される脂質に応じて、他のサイズが可能である。ナノリポソームは、充填される薬物の有無によらず、貯蔵前にこれらの範囲内に入るサイズを有してもよい。種々の例において、ナノリポソームは、4℃での貯蔵の前にこれらの平均サイズのいずれかを有してもよい。例えば、EggPCナノリポソームは、貯蔵(例えば4℃での貯蔵)の前に89.64nm±0.78nmであってもよい。別の例において、DPPCナノリポソームは、貯蔵(例えば4℃での貯蔵)の前に106.37nm±1.00nmであってもよい。
【0031】
種々の他の実施形態において、ナノリポソームは、貯蔵後に90nm~120nm、90nm~110nm、90nm~100nm、100nm~120nm、110nm~120の平均サイズを有してもよく、これらの特定の範囲内に入る任意の他の平均サイズを有してもよい。使用される脂質に応じて、他のサイズが可能である。ナノリポソームは、充填される薬物の有無によらず、貯蔵の後にこれらの範囲内に入るサイズを有してもよい。種々の例において、ナノリポソームは、特定の期間(数日間または数ヶ月間)の(例えば4℃での)貯蔵の後にこれらの平均サイズのいずれかを有してもよい。例えば、EggPCナノリポソームは、(例えば4℃での)貯蔵の後に90.67nm±0.49nmであってもよい。別の例において、DPPCナノリポソームは、(例えば4℃での)貯蔵の後に112.8nm±1.05nmであってもよい。
【0032】
(例えば4℃での)貯蔵の前後のサイズの変化に基づけば、ナノリポソームは、有利には、その構造完全性および薬物完全性が損なわれることなく、薬物が充填されていても長期間保存できる。種々の例において、ナノリポソームのサイズはその直径を指してもよい。
【0033】
サイズとは別に、使用される脂質の種類が、ナノリポソームの多分散指数に影響を及ぼしてもよい。ナノリポソームの多分散性は、貯蔵後にわずかに変化してもよい。
種々の実施形態において、ナノリポソームは、貯蔵の前後で0.3未満、0.2未満、さらに言えば0.1未満の多分散指数を有してもよい。使用される脂質の種類に基づいて、他の多分散指数が可能である。いくつかの例において、EggPCナノリポソームは、貯蔵の前に0.052±0.018の多分散指数を有してもよく、一方で、DPPCナノリポソームは、貯蔵の前に0.28±0.016の多分散指数を有してもよい。種々の例によれば、(例えば4℃での)貯蔵の後に、EggPCナノリポソームは、0.014±0.007の多分散指数を有してもよく、一方で、DPPCナノリポソームは、0.218±0.036の多分散指数を有してもよい。(例えば4℃での)貯蔵の前後の多分散指数に基づけば、これによって、本ナノリポソームが、その構造完全性および薬物完全性が損なわれることなく、薬物が充填されていても長期間保存できることが再び示される。
【0034】
種々の実施形態によれば、前述のナノリポソームは、多層小胞(multilamellar vesicle)または単層小胞(unilamellar vesicle)であってもよい。
上記のように、本開示は、前眼部疾患の予防および/または治療に使用されるナノリポソームにも関し、ナノリポソームは、タクロリムスを含む疎水性薬物をそれぞれがカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質を含み、疎水性薬物と複数の飽和脂質および/または不飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。ナノリポソームに関連する実施形態について前述してきたが、以下にも繰り返して述べる。
【0035】
ナノリポソームは、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/mlまでの薬物充填量を有してもよく、これらの範囲内の任意の他の充填量を有してもよい。疎水性薬物は、一以上の疎水性薬物の調合物であってもよい。疎水性薬物は、タクロリムスを含んでもよく、あるいはタクロリムスからなってもよい。
【0036】
疎水性薬物はナノリポソームに封入されてもよく、ナノリポソームは、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質で形成される少なくとも1つの脂質二重層を有してもよい。したがって、疎水性薬物は脂質二重層に封入されてもよい。例えば、タクロリムスは、二重層を形成する脂質の疎水性尾部の間に封入されてもよく、あるいは二重層内の任意の他の位置に封入されてもよい。
【0037】
複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、ホスホコリンおよびスフィンゴ脂質からなる群から選択されてもよい。ホスホコリンは、卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、およびジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)からなる群から選択されてもよい。EggPCの成分については前述した。ナノリポソームの少なくとも1つの二重層を形成するために、他の適切なホスホコリンを用いてもよい。一方、スフィンゴ脂質は、スフィンゴミエリン、スフィンゴシン、セラミドなどを含んでもよい。
【0038】
好ましい実施形態において、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質を含んでもよく、あるいはそのような少なくとも1つの不飽和脂質からなってもよい。
【0039】
長期間(例えば数日間)にわたって疎水性薬物(例えばタクロリムス)のより優れた持続放出を示すナノリポソームの好ましい実施形態は、PC「頭部」に結合した不飽和脂質尾部を主要成分として含んでもよく、あるいはそのような不飽和脂質尾部からなってもよい。これは、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質が、頭部グループとしてコリンを組み込むホスファチジルコリン(PC)で構成されてもよいことを意味する。
【0040】
ナノリポソームは、用いる不飽和脂質または飽和脂質の種類に応じて、貯蔵の前または後で異なるサイズを有してもよい。ナノリポソームのサイズは、貯蔵後にわずかに変化してもよい。
【0041】
ナノリポソームは、(例えば4℃での)貯蔵の前に80nm~150nm、85nm~110nmの平均サイズを有してもよい。貯蔵前の他のサイズまたはサイズ範囲に関する実施形態については前述した。
【0042】
ナノリポソームは、(例えば4℃での)貯蔵の後に90nm~120nmの平均サイズを有してもよい。(例えば4℃での)貯蔵後の他のサイズまたはサイズ範囲に関する実施形態については前述した。
【0043】
前述のように、使用される脂質の種類は、ナノリポソームの多分散指数に影響を及ぼしてもよい。ナノリポソームの多分散性は、貯蔵後にわずかに変化してもよい。種々の実施形態において、ナノリポソームは、貯蔵の前後で0.3未満、0.2未満、さらに言えば0.1未満の多分散指数を有してもよい。貯蔵の前後のEggPCナノリポソームおよびDPPCナノリポソームに基づく非限定的な実施形態については前述した。
【0044】
ナノリポソームは、本明細書に開示されている種々の実施形態による多層小胞または単層小胞であってもよい。
前述のように、本開示はさらに、タクロリムスを含む疎水性薬物をカプセル化する少なくとも1つの脂質二重層を形成する複数の不飽和脂質および/または飽和脂質方を含んだナノリポソームを投与することによって前眼部疾患を予防および/または治療する方法に関し、疎水性薬物と複数の飽和脂質および/または不飽和脂質とが0.2までの重量比を有している。
【0045】
本方法は、硝子体内注射のリスクを緩和するために有利である。なぜなら、本ナノリポソームは、結膜下注射という、よりリスクの少ない手技によって投与されてもよいからである。有利には、結膜下注射は、本ナノリポソームからの疎水性薬物の放出を維持することができ、それによってタクロリムス点眼液の頻繁な局所投与の必要性が回避され、それによって点眼液の頻繁な局所投与の副作用が避けられる。ナノリポソームおよびその使用に関する前述の実施形態は、前眼部疾患を治療する本方法に適用可能である。
【0046】
種々の実施形態において、投与されるナノリポソームは、1mg/ml、0.5mg/ml、0.1mg/mlまでの薬物充填量を有してもよく、これらの範囲内の任意の他の充填量を有してもよい。疎水性薬物は、一以上の疎水性薬物の調合物であってもよい。疎水性薬物は、タクロリムスを含んでもよく、あるいはタクロリムスからなってもよい。
【0047】
疎水性薬物はナノリポソームに封入されてもよく、ナノリポソームは、疎水性薬物(例えばタクロリムス)が前述のように封入される少なくとも1つの脂質二重層を有する。
投与されるナノリポソームの複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、ホスホコリンおよびスフィンゴ脂質からなる群から選択されてもよい。ホスホコリンは、卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、およびジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)からなる群から選択されてもよい。EggPCの成分については前述した。ナノリポソームの少なくとも1つの脂質二重層を形成するために、他の適切なホスホコリンを用いてもよい。一方、スフィンゴ脂質は、スフィンゴミエリン、スフィンゴシン、セラミドなどを含んでもよい。
【0048】
好ましい実施形態において、複数の不飽和脂質および/または飽和脂質は、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質を含んでもよく、あるいはそのような少なくとも1つの不飽和脂質からなってもよい。
【0049】
前述のように、好ましい実施形態のナノリポソームは、PC「頭部」に結合した不飽和脂質尾部を主要成分として有している場合、長期間(例えば数日間)にわたって疎水性薬物(例えばタクロリムス)のより優れた持続放出を示す。すなわち、少なくとも1つの脂質二重層の50重量%超を構成する少なくとも1つの不飽和脂質は、頭部グループとしてコリンを組み込むホスファチジルコリン(PC)で構成されてもよい。
【0050】
投与されるナノリポソームは、用いる不飽和脂質または飽和脂質の種類に応じて、貯蔵の前または後で異なるサイズを有してもよい。ナノリポソームのサイズは、貯蔵の後にわずかに変化してもよい。
【0051】
投与されるナノリポソームは、貯蔵(例えば4℃での貯蔵)の前に80nm~150nm、85nm~110nmの平均サイズを有してもよい。貯蔵前の他のサイズまたはサイズ範囲に関する実施形態については前述した。EggPCおよびDPPCリポソームに基づく非限定的な実施形態についても前述されている。
【0052】
投与されるナノリポソームは、(例えば4℃での)貯蔵の後に90nm~120nmの平均サイズを有してもよい。(例えば4℃での)貯蔵後の他のサイズまたはサイズ範囲に関する実施形態については前述した。EggPCおよびDPPCリポソームに基づく非限定的な実施形態についても前述されている。
【0053】
前述のように、使用される脂質の種類は、投与されるナノリポソームの多分散指数に影響を及ぼしてもよい。ナノリポソームの多分散性は、貯蔵の後にわずかに変化してもよい。種々の実施形態において、投与されるナノリポソームは、貯蔵の前後で0.3未満、0.2未満、さらに言えば0.1未満の多分散指数を有してもよい。貯蔵の前後のEggPCナノリポソームおよびDPPCナノリポソームに基づく非限定的な実施形態については前述した。
【0054】
投与されるナノリポソームは、前述の種々の実施形態による多層小胞または単層小胞であってもよい。
本明細書に記載の実施形態のすべてにおいて、前眼部疾患は、眼炎症疾患、眼表面疾患、および、免疫抑制の欠如に関連する疾患または障害(例えば眼の移植片拒絶)を指してもよい。
【0055】
要約すれば、本開示は、眼の種々の炎症性疾患または障害、眼表面疾患、および、眼の移植片拒絶(例えば角膜移植後)を抑制するための免疫抑制における治療のためのタクロリムスの送達に使用されるナノリポソームに関する。
【0056】
ナノリポソームは、限定するものではないが、ホスホコリンおよびスフィンゴ脂質などの脂質から作製されてもよい。より具体的には、所望の充填濃度でタクロリムスを含有するナノリポソームは、受動的充填(passive loading)技術によって作製されてもよい。
【0057】
有利には、薬物が充填されたナノリポソームは、結膜下注射で投与されてもよく、長期間(数日間から数ヶ月間)にわたって薬物の放出を維持してもよい。これによって、患者のコンプライアンスが劇的に改善されるとともに、疾患の進行を止めるための頻繁な局所注入(例えば点眼液)に関連する副作用は最小限となる。
【0058】
ナノリポソームは、飽和脂質および/または不飽和脂質を含むか、あるいは飽和脂質および/または不飽和脂質からなるリポソーム材料の組成物と呼んでもよい。リポソームのそれぞれに封入される薬物充填量は1mg/mlまでであってもよく、薬物/脂質の重量比は0.2までであってもよい。この組成物は、有利には、2週間を超えてタクロリムスの放出を維持する。
【0059】
前述の方法は、一連のステップまたは事象として例示し説明したが、このようなステップまたは事象のいかなる順序も限定的な意味で解釈されるべきではないことは明らかであろう。例えば、本明細書で例示および/または説明されたものとは別個に、異なる順序および/または他のステップもしくは事象と同時にいくつかのステップが行われてもよい。さらに、例示されたすべてのステップが、本明細書に記載の一以上の態様または実施形態を実施するために必要とされるわけではない。また、本明細書に記載のステップの一以上を、一以上の別々の行為および段階または一以上の別々の行為もしくは段階で行ってもよい。
【0060】
実施例
本発明は、眼疾患の治療のためのタクロリムスの持続送達用および/または放出用のナノリポソームに関する。下記の実施例に基づいて、ナノリポソームにおけるタクロリムスの高い充填濃度が、受動的充填技術を用いて達成された。さらに、ナノリポソームからのタクロリムスの放出制御および持続放出が、in vitro透析において達成された。in vitro透析に基づいて、薬物の放出が2週間を超えて維持されることがこれらの実施例によって明らかにされた。
【0061】
また、以下の実施例は、ナノリポソームにおける高い充填濃度でのタクロリムスのカプセル化を例示し、不飽和リポソームおよび飽和リポソームの両方に対して、望ましく高い0.2までの薬物/脂質(D/L)重量比が達成されている。D/L比が0.2を超える場合、薬物のカプセル化効率は低下し、それによって、ナノリポソームからの薬物の減損が起こる。タクロリムスがどのようにナノリポソームに封入されるかについての例を
図5に示す。
【0062】
実施例1: タクロリムスが充填されたリポソームの作製
脂質を計量し、真空デシケータ中に1時間入れて、計量前に残存水分を除去した。薬物(タクロリムス)もまた、計量前に乾燥させた。リポソームの各バッチを5mlに調製し、最初の脂質濃度を18ミリモル(mM)にした。
【0063】
計量した脂質および薬物を丸底フラスコ内で混合し、1:2の比率のメタノールおよびクロロホルムを含有する有機相混合物に溶解した。次いで、このフラスコを40℃の水槽温度で維持し、減圧下で1時間、ロータリーオペレータ中で回転させて有機相を除去し、最終的に、薬物が充填された脂質の薄膜が残ってフラスコの底部を覆った。この脂質の薄膜に5mlのリン酸緩衝液溶液(pH7.4のPBS)を加えて、薬物が充填された多層小胞(MLV)を即座に形成させた。
【0064】
カナダのノーザン・リピッズ社から購入した卓上押出機を用い、対応するサイズ順序で0.2μm(5回)および0.08μm(10回)のポリカーボネートフィルタ膜を通して押し出すことにより、リポソーム(MLV)のサイズを減少させた。これらの押出ステップの後、薬物が充填された大きな単層小胞(LUV)が形成され、それは約100±20nmの粒度分布を有していた。
【0065】
実施例2: 分配係数の測定
タクロリムスなどの疎水性薬物は、その薬物の溶解性に基づいて、脂質二重層と連続緩衝液相との間で分配される。分配係数は、これらの二つの相の間の濃度の比に基づいて算出した。分配係数の値は、押出ステップの前のMLVから推定した。
【0066】
簡潔に言えば、13000回転毎分(rpm)または16249相対遠心力(rcf)で30分間、ミクロ遠心管中でMLVを遠心分離した。ミクロンサイズの小胞のため、上清からの脂質ペレットの明確な分離が可能であった。上清は視覚的に澄明であり、これは完全な分離が可能であることを示していた。
【0067】
MLV中の薬物の総量と上清中の薬物の量とを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって推定した。連続(緩衝液)相の薬物量は、上清において測定された薬物から算出した。二重層中に分配される薬物の量は、総薬物量から、上清において測定された薬物を減算することによって算出される。次いで、MLVにおける薬物分配係数(P.C.)を、以下に示す式を用いて推定した。
P.C.=(薬物の総量-緩衝液における薬物量)/緩衝液における薬物量
実施例3: 閉じ込めた薬物の濃度の測定
一般に、種々のリポソーム試料を1:5(リポソーム:IPA)の容積比のイソプロピルアルコール(IPA)で破壊し、次いでpH7.4のPBSで希釈した。希釈率を考慮し、pH7.4のPBS中のタクロリムスの標準品に対して比較することによって、HPLC法を用いてリポソームの薬物濃度を測定した。
【0068】
実施例4: in vitro薬物放出の研究および1日あたりの実際の薬物放出
リポソームナノ担体からのタクロリムスの放出を評価するために透析法を使用した。実施例において、受容媒体は、薬物が充填されたリポソームから透析膜によって物理的に分離された。放出された薬物の濃度は、受容媒体からHPLCによって経時的に評価した。本実施例のために、薬物が充填されたリポソーム1mlを、セルロースエステル透析バッグ(100kDの分画分子量(MWCO)を有している)に充填し、両端を透析クリップで留めた。pH7.4のPBS緩衝液(137mM NaCl、2.68mM KC1、1.76mM KH2PO4、10.14mM Na2HP04)を40ml計量し、琥珀色のボトルに入れた。透析バッグをこのPBS緩衝液に浮遊させ、37℃の温度のインキュベータに入れた。毎日、透析媒体2mlをサンプリングし、全PBS媒体を毎日補充した。経時的に放出された薬物の量をHPLCを用いて測定し、時間に対してプロットした累積放出百分率として示した。
【0069】
実施例5: 薬物が充填されたリポソームの解析-サイズ安定性試験
リポソームの平均サイズおよび粒度分布(多分散指数)は、マルバーン社のゼータサイザーナノZSを用いて解析した。作製後に粒径を測定し、貯蔵(4℃)中に継続的にモニターした。
【0070】
実施例6a: 結果‐不飽和リポソーム(EggPCリポソーム)におけるタクロリムスのin vitroサイズ安定性
不飽和リポソームは、卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)リポソームに基づいたものであった。EggPCは、限定するものではないが、POPC、ホスファチジルエタノールアミン、DPPC、DOPC、およびスフィンゴミエリンなどを含む。EggPCリポソームは、0.2のD/L重量比を有し、1mg/mlの薬物(タクロリムス)充填濃度を有している。充填濃度は、1日量を数日間適切に送達するのに必要な濃度によって決めてもよい。
【0071】
貯蔵直後および貯蔵中のリポソームのサイズの変化は、ゼータサイザー(マルバーン・インスツルメンツ社、マルバーン、英国)を用いて継続的にモニターした。以下の表1に示すように、タクロリムスが充填されたEggPCリポソームは、4℃での貯蔵において少なくとも1ヶ月間安定であることが分かり、このリポソームの平均サイズ(Zavg)は約90nmであり、0.1未満の狭い多分散指数(PDI)を有していることが分かった。
【0072】
【表1】
実施例6b: 結果‐不飽和リポソーム(EggPCリポソーム)におけるタクロリムスのin vitro薬物放出の研究
EggPCリポソームからのタクロリムス放出を透析技術によって評価し、
図1に示すように、経時的な累積薬物放出(%)によって表した。
図1において、タクロリムスが充填されたEggPCリポソームの3つの独立した試料についての実施されたin vitro薬物放出の研究(pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームが透析される)が示されている。3つすべての試料が、同じ薬物充填量およびD/L比を有していた。
【0073】
最初の数日でバースト放出が観察されたにもかかわらず、リポソームからのタクロリムスの放出は、in vitroで2週間(およそ60%)を超えて維持された。
実施例6c: 結果-不飽和リポソーム(POPCリポソーム)におけるタクロリムスのin vitro薬物放出の研究
本実施例における不飽和リポソームは、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)に基づいたものであった。これらのリポソームからのタクロリムスの放出を前述のように透析技術によって評価し、
図2に示すように、経時的な累積薬物放出(%)によって表した。
図2において、タクロリムスが充填されたPOPCリポソーム(pH7.4のPBS40mlに対して透析される1mlのリポソーム)の3つの独立した試料についての実施されたin vitro薬物放出の研究が示されている。次いで、タクロリムス放出の累積百分率を時間(日数)に対してプロットした。POPCからのほぼ完全なタクロリムスの放出は、in vitroで42日間維持され、抑制されたバーストが最初の数日間で観察された。POPCリポソームについての薬物充填濃度およびD/L比はEggPCと同じである。
【0074】
タクロリムス点眼液とタクロリムスPOPCリポソームとの間のタクロリムス放出挙動の比較を
図3に示す。
図3において、タクロリムスが充填されたPOPCリポソーム(pH7.4のPBS40mlに対して透析される1mlのリポソーム)の3つの独立した試料についての実施されたin vitro薬物放出の研究が示されている。
図3に示すように、毎日の(算出された)タクロリムス量放出挙動を時間(日数)に対してプロットした。平らな実線によって示される、点眼液に基づくタクロリムスの放出挙動もまた、
図3に含まれている。
【0075】
毎日の0.72μg/日の放出速度が必要とされるタクロリムス点眼液のための従来のレジメン(
図3において、平らな実線で示されている)と比較して、本開示のリポソームからのin vitroタクロリムス放出は、持続放出の全期間にわたって従来の放出目標を満たしているか、さらに言えばそれを超えていることが観察できる。これらの結果に基づいて、本リポソームは、タクロリムス点眼液に関連する問題を回避するばかりでなく、改善された持続性の薬物送達期間も提供する。
【0076】
実施例7a: 結果‐飽和リポソーム(DPPCリポソーム)におけるタクロリムスのin vitroサイズ安定性
飽和リポソームは、実施例1に従って製造したジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)リポソームに基づいたものであった。このDPPCリポソームは、0.2のD/L重量比を有し、1mg/mlの薬物(タクロリムス)充填濃度を有している。以下の表2に示すように、薬物が充填されたDPPCリポソームは、4℃での少なくとも1ヶ月間の貯蔵でサイズが安定であった。
【0077】
【表2】
表2から、このリポソームの平均サイズ(Z
avg)は約110nmであり、0.3未満の狭い多分散指数(PDI)を有していることが見いだされた。
【0078】
実施例7b: 結果‐飽和リポソーム(DPPCリポソーム)におけるタクロリムスのin vitro薬物放出の研究
DPPCリポソームからのタクロリムスの放出を前述のように透析技術によって評価し、
図4に示すように、経時的な累積薬物放出(%)によって表した。
図4において、タクロリムスが充填されたDPPCリポソームの3つの独立した試料についての実施されたin vitro薬物放出の研究(pH7.4のPBS40mlに対して1mlのリポソームが透析される)が示されている。累積タクロリムス放出(%)を時間(日数)に対してプロットした。それぞれについて。最初の数日で小さなバーストが観察されたにもかかわらず、リポソームからのタクロリムスの放出は、in vitroで2週間(約35%)を超えて維持された。EggPCリポソームと比較して、DPPCリポソームの初期のバーストは小さく、EggPCリポソーム(約60%)と比較して、2週間の終わりに薬物の約35%のみが放出される。
【0079】
本発明を特定の実施形態を参照して具体的に示し説明してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更がなされてもよいことが理解されるべきである。このように、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲と等価の意味と範囲内に入るすべての変更は本発明の範囲に含まれることが意図される。