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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】スクロール部材用鍛造品
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/36 20060101AFI20221201BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20221201BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B21K1/36
B21J5/00 D
B21J5/06 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019003055
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110820
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】宮下 一民
(72)【発明者】
【氏名】森田 知朗
(72)【発明者】
【氏名】丸山 匠
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-058464(JP,A)
【文献】特開2007-321728(JP,A)
【文献】特開平10-272536(JP,A)
【文献】特開2013-142168(JP,A)
【文献】特開平06-114489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/36
B21J 5/00
B21J 5/06
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレート部と、前記ベースプレート部の一面に一体に突出され、かつベースプレート部の中央部から所定の渦巻曲線に沿って外周部にかけて形成される羽根部とを備えたアルミニウム合金製のスクロール部材用鍛造品であって、
前記ベースプレート部における羽根部に対応する領域である羽根部対応領域のうち、前記ベースプレート部の中央部に位置する領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されていることを特徴とするスクロール部材用鍛造品。
【請求項2】
前記羽根部対応領域のうち、前記羽根部における内周側の端縁から、前記羽根部の渦巻方向に沿って1/4周の範囲内に配置される領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されている請求項1に記載のスクロール部材用鍛造品。
【請求項3】
前記羽根部対応領域のうち、前記羽根部における内周側の端縁から、前記羽根部の渦巻方向に沿って1周の範囲内に配置される領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されている請求項1または2に記載のスクロール部材用鍛造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用エアコンディショナーのコンプレッサーとして好適に用いられるスクロール部材用鍛造品およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車、電気自動車(EV)等、自動車の電動化に伴い、自動車用エアコンディショナー(エアコン)のコンプレッサーとしてスクロール型コンプレッサーが多く用いられている。スクロール型コンプレッサーを構成するスクロール部材は、冷媒の圧縮に伴い発生する圧力に耐えるための強度、高い回転数に対応するための耐久性および耐摩耗性、さらに燃費向上のための軽量化が求められており、これらの理由から比強度が高いアルミニウムの鍛造品が多く用いられている。
【0003】
図6(a)に示すようにスクロール部材5は、可動スクロール5aと、固定スクロール5bとがあり、それぞれ円盤状のベースプレート部51と、そのベースプレート部51の一面に立設された渦巻形状の羽根部52とを備えている。
【0004】
そして可動スクロール5aと固定スクロール5bとが、互いの羽根部52,52同士が嵌合するように突き合わせられた状態で、可動スクロール5aが固定スクロール5bに対して偏心回転することにより、両スクロール5a,5b間に形成される密閉空間が、外周部から中心部に向かうに従って次第に、狭められていくことを利用して、羽根部52の外周側端部において冷媒を吸引し、この冷媒を圧縮しつつ中心側に向けて押し込んでいき、中心部の吐出口から圧縮冷媒を排出するようにしている。
【0005】
このスクロール型コンプレッサーにおいては作動中に、羽根部52とベースプレート部51の一面に大きな面圧が加わり、同図(b)に示すように、羽根部52の中心部で冷媒の圧縮が完了するため、図7に示すように羽根部52の中心部と、その根元のベースプレート部51とに冷媒圧力による最も高い負荷(面圧P)がかかることになる。従ってこの最も高い負荷がかかる部分(同図の斜線によるハッチングを施した部分)の強度を向上させることができれば、スクロール部材全体として十分な強度を確保することができる。
【0006】
一方、従来のスクロール部材の鍛造方法に用いられる鍛造装置としては、下記特許文献1に示すものが周知である。この鍛造装置は図8に示すように、下金型6と、パンチ7とを備えている。下金型6の成形凹部61の底面には、羽根部52を成形するための渦巻状の羽根部成形溝62が形成されている。
【0007】
そして同図(a)に示すように、下金型6の成形凹部61内に鍛造素材Wが設置された状態で、パンチ7が下金型6の成形凹部61内に打ち込まれて、鍛造素材Wが加圧される。この加圧によって、鍛造素材Wを構成する金属材料(メタル)の所要部分が塑性流動し、まず始めに同図(b)に示すように流動する金属材料は、パンチ7の成形面全域に隙間なく接して、スクロール部材の背面側(上面側)が成形されることにより、スクロール部材の背面側において金属材料の塑性流動が停止し、その後同図(c)に示すようにスクロール部材の正面側(下面側)において、金属材料が下金型6の羽根部成形溝62内に充填されて、スクロール部材の正面および羽根部52が成形されて鍛造が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-114489号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の鍛造装置による鍛造方法においては、成形開始(図8(a))から成形途中(図8(b))までの間に、鍛造素材Wのうち塑性流動する部位は図9(a)に示すように、スクロール部材の背面側では、背面側の凸部の根元部周辺の部位Wbであり、スクロール部材の正面側では、羽根部52の根元部周辺の部位Wbである。その後、スクロール部材の背面側では、塑性流動が停止するため、成形途中(図8(b))から成形完了(図8(c))までの間には図9(b)に示すように、スクロール部材の背面側では金属材料は塑性流動せず、スクロール部材の正面側では、ベースプレート部51の下側における羽根部52周辺の部位が、塑性流動する部位Wcとなる。
【0010】
このように従来の鍛造方法においては、スクロール部材5の背面側の中央部に塑性流動が少ない領域Wxが残存するため、その領域Wx内の組織が等軸晶となり、十分な強度を得ることができない。特にスクロール部材5におけるベースプレート部51の中心部は、既述した通り、最も高い負荷が加わる部分であり、スクロール部材5として強度を十分に確保することが困難であるという課題があった。その結果、スクロール部材5の耐圧性、耐久性、耐摩耗性を向上できず、さらに強度を確保するためにベースプレート部51の薄肉化を図ることができず、軽量化を図ることも困難になってしまう。
【0011】
ここで本発明において等軸晶とは、鍛造時に発生する組織であり、鋳塊中心部に発生する等軸晶帯の組織もしくは二次デンドライトアームおよび三次デンドライトアームに発生する等軸な結晶粒界形状の組織である。
【0012】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ベースプレート部の中央部に十分な強度を確保することができるスクロール部材用鍛造品およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の手段を提供するものである。
【0014】
[1]ベースプレート部と、前記ベースプレート部の一面に一体に突出され、かつベースプレート部の中央部から所定の渦巻曲線に沿って外周部にかけて形成される羽根部とを備えたアルミニウム合金製のスクロール部材用鍛造品であって、
前記ベースプレート部における羽根部に対応する領域である羽根部対応領域のうち、前記ベースプレート部の中央部に位置する領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されていることを特徴とするスクロール部材用鍛造品。
【0015】
[2]前記羽根部対応領域のうち、前記羽根部における内周側の端縁から、前記羽根部の渦巻方向に沿って1/4周の範囲内に配置される領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されている前項1に記載のスクロール部材用鍛造品。
【0016】
[3]前記羽根部対応領域のうち、前記羽根部における内周側の端縁から、前記羽根部の渦巻方向に沿って1周の範囲内に配置される領域が、等軸晶が存在しない組織によって構成されている前項1または2に記載のスクロール部材用鍛造品。
【0017】
[4]ベースプレート部と、前記ベースプレート部の一面に一体に突出された渦巻状の羽根部と、前記ベースプレート部の他面に形成された他面凹部とを備えたアルミニウム合金製のスクロール部材用鍛造品を製造するための鍛造方法であって、
前記他面凹部を成形するための成形面を有するパンチと、
成形凹部を有し、その成形凹部の底面に前記羽根部を成形するための羽根部成形溝が設けられた下金型とを備え、
鍛造素材を前記成形凹部に設置して、前記パンチを前記下金型に打ち込んで前記スクロール部材用鍛造品を成形するに際して、前記羽根部を成形した後、前記スクロール部材の他面側を成形するようにしたことを特徴とする鍛造方法。
【0018】
[5]ベースプレート部と、前記ベースプレート部の一面に一体に突出された渦巻状の羽根部と、前記ベースプレート部の他面に形成された他面凹部とを備えたアルミニウム合金製のスクロール部材用鍛造品を製造するための鍛造装置であって、
成形面と、その成形面に突出可能に収容され、かつ前記他面凹部を成形するための他面凹部成形ピンとを有するパンチと、
成形凹部を有し、その成形凹部の底面に前記羽根部を成形するための羽根部成形溝が設けられた下金型と、
前記成形凹部に鍛造素材が収容された前記下金型に対し、前記他面凹部成形ピンを没入した状態で、前記パンチを打ち込んで、鍛造素材を構成する金属材料を前記羽根部成形溝内に充填して、羽根部を成形する第1駆動手段と、
前記第1駆動手段によって打ち込まれたパンチに対し、前記成形面のうち前記他面凹部成形ピンが配置されていないピン未配置領域を後退させつつ、前記他面凹部成形ピンを進出させることにより、前記ベースプレートの他面側を成形する第2駆動手段とを備えたことを特徴とする鍛造装置。
【発明の効果】
【0019】
発明[1]~[3]のスクロール部材用鍛造品によれば、作動時に最も負荷がかかる、ベースプレート部の中央部が、等軸晶でない組織によって構成されるため、その部分の強度を十分に向上させることができ、鍛造品全体の強度を向上させることができる。
【0020】
発明[4][5]によれば、上記発明のスクロール部材用鍛造品を確実に製造できる鍛造方法および鍛造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はこの発明の実施形態であるスクロール部材を示す図であって、図(a)は正面図、図(b)は図(a)の中央部を拡大して示す正面図である。
図2図2は実施形態のスクロール部材の片側半分を示す断面図である。
図3図3は実施形態であるスクロール部材を製造する手順を示すフローチャートである。
図4図4は実施形態のスクロール部材を製造するための鍛造装置を示す断面図であって、図(a)は成形開始直前の状態の断面図、図(b)は成形途中の状態の断面図、図(c)は成形完了直後の状態の断面図である。
図5図5は実施形態の鍛造装置による金属材料の塑性流動部位を説明するための断面図であって、図(a)は成形途中での断面図、図(b)は成形完了後での断面図である。
図6図6はスクロール型コンプレッサーを説明するための断面図であって、図(a)は中央部の圧縮比が低い状態での断面図、図(b)は中央部の圧縮比が高い状態での断面図である。
図7図7は従来のスクロール部材を示す断面図である。
図8図8は従来のスクロール部材を製造するための鍛造装置を示す断面図であって、図(a)は成形開始直前の状態の断面図、図(b)は成形途中の状態の断面図、図(c)は成形完了直後の状態の断面図である。
図9図9は従来の鍛造装置による金属材料の塑性流動部位を説明するための断面図であって、図(a)は成形途中での断面図、図(b)は成形完了後での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(a)はこの発明の実施形態であるスクロール部材を示す正面図(下面図)、図1(b)は図1(a)の中央部を拡大して示す図、図2はそのスクロール部材の片側半分の断面図である。
【0023】
これらの図に示すように本実施形態のスクロール部材1は、円盤状のベースプレート部11と、ベースプレート部11の一面である正面(下面)に一体に形成された渦巻状の羽根部12と、ベースプレート部11の他面である背面(上面)に形成された凸部(背面凸部)13および凹部(背面凹部)14とを備えている。
【0024】
なお発明の名称として用いられているスクロール部材用鍛造品は、鍛造品によって構成されるスクロール部材と実質的に同義であり、本実施形態においてスクロール部材に相当する用語である。
【0025】
スクロール部材1における羽根部12は、ベースプレート部11の正面における渦巻曲線Csに沿って形成されている。渦巻曲線Csの起点(内周側の端点)121は、ベースプレート部11の中心Oを中心とする半径aの基準円Ca上に設定されている。なお本実施形態においては、渦巻曲線Csの起点と、羽根部12の内周側の端縁とは一致するため、両者に同じ参照符号「121」を用いるものとする。
【0026】
本実施形態において、ベースプレート部11の正面上において、中心Oと渦巻曲線Csの起点121とを通過する直線をx軸とし、x軸と直交し、かつ中心Oを通過する直線をy軸とし、基準円Caの半径を「a」とし、x軸に対する反時計方向の角度を「θ」としたとき、渦巻曲線Csは以下の式で表すことができる。
【0027】
渦巻曲線:x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ-θcosθ)
また本実施形態において、ベースプレート部11の内部において、羽根部12が形成されている領域を羽根部対応領域と称している。さらにスクロール部材1において、等軸晶が存在しない組織によって構成される領域を等軸晶非存在領域と称している。
【0028】
本実施形態においては、ベースプレート部11の中央部に、等軸晶非存在領域が形成されており、この中央部の等軸晶非存在領域には、羽根部対応領域のうち、ベースプレート部11の中央部に位置する領域(図1および図2において斜線によるハッチングを施している領域)が含まれている。
【0029】
ここで本実施形態においては、羽根部対応領域のうち、羽根部12の内周側端縁121からx軸に対する角度θが90°の範囲内の領域、換言すると羽根部対応領域のうち、羽根部12の内周側端縁121から羽根部12の渦巻方向に沿って1/4周の範囲内の領域が等軸晶非存在領域に設定されるのが良く、より好ましくは、羽根部対応領域のうち、羽根部12の内周側端縁121から角度θが360°の範囲内の領域、換言すると羽根部対応領域のうち、羽根部12の内周側端縁121から羽根部12の渦巻方向に沿って1周の範囲内の領域が等軸晶非存在領域に設定されるのが良い。すなわちこの範囲内に等軸晶非存在領域が形成される場合には、後述するようにスクロール部材1として、十分な強度を確保できて、耐圧性、耐久性および耐摩耗性を向上させることができるとともに、薄型化も図ることができる。
【0030】
本実施形態において、上記の構成のスクロール部材1は図3に示す製造手順で作製される。すなわち連続鋳造によって得られた鋳造棒に対し、均質化処理およびピーリングを行った後、切断して、鍛造素材を得る。続いて後述するように、その鍛造素材を鍛造して鍛造品(スクロール部材)を成形した後、機械加工および表面加工を行って、最終製品としてのスクロール製品を製造するものである。
【0031】
図4はこの実施形態のスクロール部材1を製造するための鍛造装置を示す断面図である。同図に示すように本実施形態のスクロール部材1を製造する際に用いられる鍛造装置は、下型(ダイス)としての下金型2と、上型としてのパンチ3とを備えている。
【0032】
下金型2は、その上面側にスクロール部材1のベースプレート部11の下面および外周面を成形するための成形凹部21を有し、その成形凹部21の底面には、スクロール部材1の羽根部12を成形するための羽根部成形溝22が形成されている。
【0033】
またパンチ3は、その成形面としての下面には、スクロール部材1におけるベースプレート部11の背面に形成された背面凹部14に対応して、軸心方向に沿ってピン孔33が形成されており、そのピン孔33内に背面凹部14を成形するための背面凹部成形ピン34が軸心方向に沿ってスライド自在に収容されている。
【0034】
また本実施形態においては、パンチ3の成形面のうち、背面凹部成形ピン34が配置されていない領域が、ピン未配置領域35として構成されている。本実施形態においては、このピン未配置領域35によって、スクロール部材1におけるベースプレート部11の背面における背面凹部14以外の領域、例えば背面凸部13等を成形することになる。
【0035】
また本実施形態においては、背面凹部成形ピン34の先端を、そのピン周辺のピン未配置領域35に対し同一平面内に配置した没入(後退)位置と、背面凹部成形ピン34を、そのピン周辺のピン未配置領域35に対し下方に突出した突出(進出)位置との間でスライドできるように構成されている。
【0036】
さらに本実施形態においては、背面凹部成形ピン34を後退位置に配置した状態で、パンチ3の全体を下方にプレスするプレス装置(第1駆動手段)と、プレス装置によってプレスした後、続いて背面凹部成形ピン34を下方に進出(プレス)させつつ、パンチ3のピン未配置領域35を上方に後退させる第2駆動手段とを備えられている。言うまでもなく、第1駆動手段と第2駆動手段とは独立して作動するものである。
【0037】
この構成の鍛造装置においては、以下のようにして鍛造加工が行われるものである。まず図4(a)に示すように、下金型2の成形凹部21内に鍛造素材Wが投入される。なお必要に応じて下金型2、パンチ3および鍛造素材Wは加熱されている。またパンチ3の背面凹部成形ピン34は、後退した位置にあり、そのピン34の先端面がその周辺のピン未配置領域35と同一平面内に配置されている。
【0038】
その状態から図4(b)に示すように、第1駆動手段によってパンチ3が下金型2に打ち込まれて鍛造素材Wが加圧される。この加圧によって鍛造素材Wを構成する金属材料(メタル)の所要部分が塑性流動し、流動した金属材料がパンチ3の成形面に接触する一方、下金型2の成形凹部21に充満しつつ、羽根部成形溝22内に充填される。これによりスクロール部材1におけるベースプレート部11の正面(下面)および羽根部12が成形される。
【0039】
続いて図4(c)に示すように、第2駆動手段によって、背面凹部成形ピン35が下方に進出するとともに、パンチ自体、つまりピン未配置領域35が上方に後退する。こうしてピン35によって、ベースプレート部11の背面凹部14が成形されるとともに、ピン未配置領域35によって、背面凹部14以外の領域、例えば背面凸部13等が成形される。なお本実施形態においては、ピン未配置領域35は、流動する金属材料に対し背圧を付与しながら後退するように構成されている。
【0040】
こうして本実施形態の鍛造品としてのスクロール部材1が製造される。このスクロール部材1においては、以下に詳述するようにベースプレート部11の中央部が等軸晶非存在領域として構成されており、換言すると、ベースプレート部11の羽根部対応領域のうち、中央部が等軸晶非存在領域として構成される。
【0041】
すなわち本実施形態においては、図4(b)に示すように、スクロール部材1の正面における羽根部12を成形した後、図4(c)に示すように、ベースプレート部11の背面側を成形するようにしているため、図4(a)の鍛造開始から図4(b)の鍛造途中(羽根部成形直後)までの間では、図5(a)に示すようにベースプレート部11の正面側(下面側)の部位と、羽根部12の根元から中間部まで部位が、金属材料が塑性流動する部位Wbとなる。
【0042】
さらに図4(b)の鍛造途中から図4(c)の鍛造終了後までの間では、背面凹部成形ピン35によってベースプレート部11の背面側、特にその中央部が押圧されるため、図5(b)に示すようにベースプレート部11の背面側の部位が、金属材料が塑性流動する部位Wcとなる。
【0043】
このようにベースプレート部11の内周部(中間部)のほぼ全域が、塑性流動する部位Wb,Wcとなるため、塑性流動しない部位、つまり組織が等軸晶の領域Wxは、ベースプレート部11の中央部から外周側に離れた位置に配置される一方、塑性流動する部位、つまり等軸晶非存在領域が、ベースプレート部11の中央部に配置される。このためスクロール型コンプレッサーにおいて最も負荷がかかる部分(中央部)が、等軸晶非存在領域によって構成されるため、その部分の強度を十分に向上させることができ、スクロール部材1全体の強度を向上させることができる。従って、スクロール部材1の耐圧性、耐久性および耐摩耗性を向上させることができる。さらに強度を確保しながら薄肉化を図ることができて、軽量化も確実に図ることができる。
【0044】
その結果、このスクロール部材1を用いたコンプレッサーにおいては、ベースプレート部11に高い負荷をかけることができるため、より高圧な状態で使用でき、冷媒の圧縮比を高めることができ、より一層冷却性能を向上させることができる。
【0045】
さらにベースプレート部11の薄肉化によるスクロール部材1の軽量化によって、可動スクロールの動作を安定させることができ、コンプレッサーのエネルギー効率をより一層向上させることができる。
【0046】
なお上記実施形態の鍛造装置においては、第2駆動手段によってパンチ3を駆動する際に、ピン未配置領域35の全体を後退(上昇)させるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、ピン未配置領域35のうち少なくとも一部を後退させるようにすれば良い。
【0047】
また上記実施形態においては、スクロール部材におけるベースプレート部の中央部が等軸晶非存在領域に形成されているが、それだけに限られず、本発明においては、ベースプレート部における少なくとも羽根部対応領域の中央部が等軸晶非存在領域に形成されていれば良い。
【0048】
また本発明においては、スクロール部材の羽根部を鍛造で成形するに際して、背圧鍛造を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明のスクロール部材用鍛造品は、スクロール型コンプレッサーのスクロール部品として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1:スクロール部材
11:ベースプレート部
12:羽根部
121:内周側端縁
14:背面凹部(他面凹部)
2:下金型
21:成形凹部
22:羽根部成形溝
3:パンチ
34:背面凹部成形ピン(他面凹部成形ピン)
35:ピン未配置領域
Cs:渦巻曲線
W:鍛造素材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9