(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】マット材
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20221201BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
F01N3/28 ZAB
B32B5/26
F01N3/28 311P
(21)【出願番号】P 2019003466
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】内村 玲夫
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241820(JP,A)
【文献】特開2014-233920(JP,A)
【文献】特開2015-28326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含む平面視矩形のマットが複数枚積層され、各マットの長手方向の長さが、積層されるにつれて順次長くなるように構成された積層マットと、
前記積層マットに巻き付けられた有機シートとからなるマット材であって、
前記積層マットは、マットの長手方向の長さが最も長い第1の主面と、前記第1の主面の反対側でマットの長手方向の長さが最も短い第2の主面と、マットの長手方向に平行な第1の長側面と、前記第1の長側面の反対側の第2の長側面とを有し、
前記有機シートは、前記積層マットの前記第1の主面、前記第1の長側面、前記第2の主面及び前記第2の長側面に連続的に巻き付けられており、
マットの主面間同士は接着されておらず、かつ、
前記有機シートは、前記積層マットの前記第1の主面と前記第2の主面の両方に接着されており、前記第1の長側面及び前記第2の長側面には接着されていないことを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記積層マットの前記第2の主面において、前記有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部が存在し、前記有機シートの前記巻き付け開始部及び前記巻き付け終了部が前記積層マットに接着されていて、前記巻き付け開始部と前記巻き付け終了部の間に前記有機シートが存在せずに積層マットの主面が露出する露出部が形成されている請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記積層マットの前記第2の主面において、前記有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部が存在し、前記巻き付け開始部の有機シートと前記巻き付け終了部の有機シートが重なって接着されている請求項1に記載のマット材。
【請求項4】
前記積層マットの前記第1の主面及び前記第2の主面の両方において、前記積層マットの幅方向の全体にわたって前記有機シートが前記積層マットに接着されている請求項1に記載のマット材。
【請求項5】
前記有機シートが前記積層マットに接着されている部位は、前記積層マットの主面の長手方向に沿った向きに伸びている請求項1~4のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項6】
前記有機シートは有機繊維からなる不織布である請求項1~5のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項7】
前記有機シートは樹脂フィルムからなる請求項1~5のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項8】
前記有機シートはポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂からなる請求項1~7のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項9】
前記有機シートはヒートシールにより前記積層マットに接着されている請求項1~8のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項10】
前記有機シートは接着剤により前記積層マットに接着されている請求項1~8のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項11】
前記積層マットの前記第1の主面における前記有機シートと前記積層マットの間の接着力が、前記積層マットの前記第2の主面における前記有機シートと前記積層マットの間の接着力よりも弱い請求項1~10のいずれか1項に記載のマット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される保持シール材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
このような用途で用いられる保持シール材としては、無機繊維からなるマット材が用いられる。無機繊維からなるマット材は、自動車等の配管に巻き付けて使用する断熱用途、防音用途にも用いられる。
【0005】
特許文献1には、無機繊維からなるマットが複数枚積層されており、複数枚のマットが固着力を有していない帯状体により結束されている保持シール材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された保持シール材では、マットと帯状体は固着していないのでマットが脱落してしまうことがある。そのため、複数枚のマットの相対位置を安定させるためには複数枚のマットを帯状体により強い力で結束させる必要がある。そして、帯状体による結束力を強くした場合には保持シール材の巻き付けを行う際にマット間が滑りにくくなるために内側のマットがたわんでしまい、巻き付け性が不充分になることがあった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、複数枚のマットを備えたマット材であって巻き付け性に優れたマット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマット材は、無機繊維を含む平面視矩形のマットが複数枚積層され、各マットの長手方向の長さが、積層されるにつれて順次長くなるように構成された積層マットと、
上記積層マットに巻き付けられた有機シートとからなるマット材であって、
上記積層マットは、マットの長手方向の長さが最も長い第1の主面と、上記第1の主面の反対側でマットの長手方向の長さが最も短い第2の主面と、マットの長手方向に平行な第1の長側面と、上記第1の長側面の反対側の第2の長側面とを有し、
上記有機シートは、上記積層マットの上記第1の主面、上記第1の長側面、上記第2の主面及び上記第2の長側面に連続的に巻き付けられており、
マットの主面間同士は接着されておらず、かつ、
上記有機シートは、上記積層マットの上記第1の主面と上記第2の主面の両方に接着されており、上記第1の長側面及び上記第2の長側面には接着されていないことを特徴とする。
【0010】
有機シートを積層マットに巻き付け、さらに有機シートを積層マットの第1の主面と第2の主面の両方に接着することによって、マットの脱落が生じないように複数枚のマットの相対位置を安定させることができる。
有機シートは、ある程度伸長性を持っている材料であるため、巻き付け時にゆがむことができる。そして、マットの主面間同士は接着されておらず、かつ、積層マットの第1の長側面及び第2の長側面は有機シートと接着されていないので、そのため、マット同士が適度に滑ってマット間でずれることができる。そのために巻き付け時に内側のマットがたわむことは防止されるので、巻き付け性に優れたマット材とすることができる。
【0011】
本発明のマット材においては、上記積層マットの上記第2の主面において、上記有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部が存在し、上記有機シートの上記巻き付け開始部及び上記巻き付け終了部が上記積層マットに接着されていて、上記巻き付け開始部と上記巻き付け終了部の間に上記有機シートが存在せずに積層マットの主面が露出する露出部が形成されていることが好ましい。
露出部が形成されているということは、露出部を設けない場合に比べて有機シートの使用量が少ないということになる。有機シートは使用時に加熱されることにより有機ガス分を放出する原因となるのでその使用量が少ないほうが好ましい。
【0012】
また、露出部が積層マットの第2の主面に設けられていると、排ガス処理体にマット材を巻き付けた際に排ガス処理体と露出部が接するため密着性が向上する。また、排ガス処理体にマット材を巻き付けたのちにケーシングに圧入をする際に、ケーシング側に露出部が無く有機シートがケーシングに接する面積が大きいとマット材が滑りやすくなり圧入がしやすくなる。
【0013】
本発明のマット材においては、上記積層マットの上記第2の主面において、上記有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部が存在し、上記巻き付け開始部の有機シートと上記巻き付け終了部の有機シートが重なって接着されていることが好ましい。
有機シートが重なって接着される部位がマット材を巻き付ける際に内側になる面であると、巻き付け時にテンションがかかりにくいためである。
【0014】
本発明のマット材では、上記積層マットの上記第1の主面及び上記第2の主面の両方において、上記積層マットの幅方向の全体にわたって上記有機シートが上記積層マットに接着されていることが好ましい。
【0015】
本発明のマット材において、上記有機シートが上記積層マットに接着されている部位は、上記積層マットの主面の長手方向に沿った向きに伸びていることが好ましい。
【0016】
本発明のマット材において、上記有機シートは有機繊維からなる不織布であることが好ましい。また、上記有機シートは樹脂フィルムからなることも好ましい。
【0017】
本発明のマット材において、上記有機シートはポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。
これらの材料は柔軟性及び弾性に優れており、ヒートシールにより積層マットに接着することができるため好ましい。
【0018】
本発明のマット材において、上記有機シートはヒートシールにより上記積層マットに接着されていることが好ましい。
ヒートシールにより有機シートを積層マットを構成する無機繊維に融着させることにより、確実に有機シートを積層マットに接着することができる。
また、熱板で押圧することで接着が可能であり、有機シートを接着する工程が簡便である。
【0019】
本発明のマット材において、上記有機シートは接着剤により上記積層マットに接着されていることが好ましい。
接着剤を使用すると接着部位の設定が容易になる。
例えば、積層マットの中央部分は強度の強い接着剤を用いて接着し、積層マットの端部は強度の弱い接着剤を用いて接着することができる。
このようにすると巻き付け時に強くテンションがかかる端部については、積層マットと有機シートが程よく剥がれるために有機シートが巻き付け性を阻害しないようにすることができる。
【0020】
本発明のマット材においては、上記積層マットの上記第1の主面における上記有機シートと上記積層マットの間の接着力が、上記積層マットの上記第2の主面における上記有機シートと上記積層マットの間の接着力よりも弱いことが好ましい。
第1の主面は巻き付け時に外側になる面であり、巻き付け時に内側よりも強い張力が加わる面である。第1の主面における有機シートと積層マットの間の接着力が弱いと巻き付け維持の張力により有機シートが積層マットから剥がれて、マット間がずれやすくなるので巻き付け性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)は、マット材の一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示すマット材のA-A線断面図の一例であり、
図1(c)は、
図1(a)に示すマット材のA-A線断面図の別の一例である。
【
図2】
図2(a)は、マット材の別の一例を模式的に示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すマット材のB-B線断面図である。
【
図3】
図3(a)は、マット材のさらに別の一例を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示すマット材のC-C線断面図である。
【
図4】
図4は、比較例1において製造したマット材を模式的に示す斜視図である。
【0022】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のマット材について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0023】
本発明のマット材は、無機繊維を含む平面視矩形のマットが複数枚積層され、各マットの長手方向の長さが、積層されるにつれて順次長くなるように構成された積層マットと、上記積層マットに巻き付けられた有機シートとからなるマット材であって、上記積層マットは、マットの長手方向の長さが最も長い第1の主面と、上記第1の主面の反対側でマットの長手方向の長さが最も短い第2の主面と、マットの長手方向に平行な第1の長側面と、上記第1の長側面の反対側の第2の長側面とを有し、上記有機シートは、上記積層マットの上記第1の主面、上記第1の長側面、上記第2の主面及び上記第2の長側面に連続的に巻き付けられており、マットの主面間同士は接着されておらず、かつ、上記有機シートは、上記積層マットの上記第1の主面と上記第2の主面の両方に接着されており、上記第1の長側面及び上記第2の長側面には接着されていないことを特徴とする。
【0024】
図1(a)は、マット材の一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示すマット材のA-A線断面図の一例であり、
図1(c)は、
図1(a)に示すマット材のA-A線断面図の別の一例である。
図1(a)に示すマット材10は、マットが複数枚積層されてなる積層マット20と、積層マット20に巻き付けられた有機シート30とからなる。
【0025】
積層マット20は第1のマット21と第2のマット22の2枚が積層されてなる。
第1のマット21はその長手方向(
図1(a)中、両矢印Lで示す方向)の長さが長いマットであり、第2のマット22はその長手方向の長さが短いマットである。
【0026】
積層マット20は2つの主面を有しており、マットの長手方向の長さが最も長い主面が第1の主面23であり、マットの長手方向の長さが最も短い主面が第2の主面24である。
第1の主面23は第1のマット21の下側の主面であり、第2の主面24は第2のマット22の上側の主面である。
【0027】
積層マット20は4つの側面を有しており、マットの長手方向に沿った側面が第1の長側面25及び第2の長側面26である。また、マットの幅方向(
図1(a)中、両矢印Wで示す方向)に沿った側面が第1の短側面27及び第2の短側面28である。
第1の短側面27には凹部、第2の短側面28には凸部がそれぞれ形成されている。凹部と凸部は、外周が円柱状の排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管にマット材を巻きつける際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。
なお、
図1(a)中、両矢印Tで示す方向がマット材の厚さ方向である。
【0028】
有機シート30は、積層マット20に連続的に巻き付けられている。
有機シート30には巻き付け開始部31と巻き付け終了部32が存在しており、巻き付け開始部31と巻き付け終了部32は積層マット20の第2の主面24に存在している。
すなわち、有機シート30は積層マット20の第2の主面24の巻き付け開始部31から、第1の長側面25、第1の主面23、第2の長側面26を経て第2の主面24の巻き付け終了部32まで連続的に巻き付けられている。
【0029】
また、有機シート30の巻き付け開始部31及び巻き付け終了部32の間には有機シート30が存在せずに積層マット20の主面が露出する露出部29が形成されている。
露出部が形成されているということは、露出部を設けない場合に比べて有機シートの使用量が少ないということになる。有機シートは使用時に加熱されることにより有機ガス分を放出する原因となるのでその使用量が少ないほうが好ましい。
【0030】
本発明のマット材において有機シートは積層マットの第1の主面と第2の主面の両方に接着されている。
図1(a)には有機シート30が積層マット20の第2の主面24に接着されている部分の有機シート30に斜線でハッチングを示している。
図1(b)及び
図1(c)には、有機シート30が積層マット20の第1の主面23に接着されている部分の有機シート30に斜線でハッチングを示している。
図1(b)及び
図1(c)はそれぞれ異なる形態のマット材であるので、
図1(b)に示すマット材は参照符号10a、
図1(c)に示すマット材は参照符号10bを付す。
【0031】
図1(b)に示すように、有機シート30が積層マット20の幅方向(
図1(b)で両矢印Wで示す方向)の全体にわたって第1の主面23に接着されていてもよい。
また、
図1(c)に示すように、有機シート30が積層マット20の幅方向(
図1(c)で両矢印Wで示す方向)の一部にわたって第1の主面23に接着されていてもよい。
図1(c)では、積層マット20の幅方向の両端(参照符号30a、30bで示す領域)では有機シート30が積層マット20の第1の主面23に接着されており、積層マット20の幅方向の中央(参照符号30cで示す領域)では有機シート30が積層マット20の第1の主面23に接着されていない。
【0032】
マット材に露出部が形成される場合、露出部は積層マットの第1の主面と第2の主面のいずれに設けられていてもよいが、露出部は積層マットの第2の主面に設けられていることが好ましい。排ガス処理体にマット材を巻き付けた際に排ガス処理体と露出部が接すると密着性が向上する。また、排ガス処理体にマット材を巻き付けたのちにケーシングに圧入をする際に、ケーシング側に露出部が無く有機シートがケーシングに接する面積が大きい方がマット材が滑りやすくなり圧入がしやすくなるためである。
【0033】
有機シート30が積層マット20に接着されている部位の長さは
図1(a)で両矢印L
1で示す長さである。
積層マット20の第2の主面24において、有機シート30が積層マット20に接着されている部位の幅は
図1(a)で両矢印W
1で示す長さと両矢印W
2で示す長さの合計である。なお、露出部29の幅は
図1(a)で両矢印W
3で示す長さである。
【0034】
また、積層マット20の第1の主面23において、有機シート30が積層マット20に接着されている部位の幅は、
図1(b)の態様の場合は両矢印W
4で示す長さである。
図1(c)の態様の場合は両矢印W
5で示す長さと両矢印W
6で示す長さの合計である。
【0035】
有機シートを積層マットに巻き付け、さらに有機シートを積層マットの第1の主面と第2の主面の両方に接着することによって、マットの脱落が生じないように複数枚のマットの相対位置を安定させることができる。
有機シートは、ある程度伸長性を持っている材料であるため、巻き付け時にゆがむことができる。そして、マットの主面間同士は接着されておらず、かつ、積層マットの第1の長側面及び第2の長側面は有機シートと接着されていないので、そのため、マット同士が適度に滑ってマット間でずれることができる。そのために巻き付け時に内側のマットがたわむことは防止されるので、巻き付け性に優れたマット材とすることができる。
【0036】
本発明のマット材において、有機シートが積層マットに接着されている部位は、積層マットの主面の長手方向に沿った向きに伸びていることが好ましい。
本明細書において有機シートが積層マットに接着されている部位の伸びる方向は、有機シートが積層マットに接着されている部位の形状を見て、長辺の方向がどちらになるかにより判断する。
図1(a)に示すマット材10では、有機シート30が積層マット20に接着されている部位を長方形のハッチングで示している。この長方形2つの長辺の方向は、積層マット20の第2の主面24の長手方向に沿った向きとなっていることから、このマット材10では有機シート30が積層マット20に接着されている部位は積層マット20の第2の主面24の長手方向に沿った向きに伸びていると判断できる。
有機シートが積層マットに接着されている部位が積層マットの主面の長手方向に沿った向きに伸びていると、巻き付け性により優れたマット材とすることができる。
【0037】
有機シート30はヒートシールにより積層マット20に接着されていることが好ましい。
ヒートシールにより有機シートを積層マットを構成する無機繊維に融着させることにより、確実に有機シートを積層マットに接着することができる。
また、熱板で押圧することで接着が可能であり、有機シートを接着する工程が簡便である。
【0038】
また、有機シート30は接着剤により積層マット20に接着されていることも好ましい。
接着剤を使用すると接着部位の設定が容易になる。
例えば、マット材の中央部分は強度の強い接着剤を用いて接着し、マット材の端部には弱い接着剤を用いることができる。
このようにすると巻き付け時に強くテンションがかかる端部については、マット材と有機シートが程よく剥がれるために有機シートが巻き付け性を阻害しないようにすることができる。
【0039】
また、本発明のマット材では、積層マットの第1の主面における有機シートと積層マットの間の接着力が、積層マットの第2の主面における有機シートと積層マットの間の接着力よりも弱いことが好ましい。
第1の主面は巻き付け時に外側になる面であり、巻き付け時に内側よりも強い張力が加わる面である。第1の主面における有機シートと積層マットの間の接着力が弱いと巻き付け維持の張力により有機シートが積層マットから剥がれて、マット間がずれやすくなるので巻き付け性を向上させることができる。
【0040】
有機シートと積層マットの間の接着力は、有機シートと積層マットが接着されている部分において、後述する実施例で説明するように、マット材の両面に両面テープを介してT字型治具を接着し、T字型治具を上下方向に引っ張る引張試験により測定することができる。
また、第1の主面における有機シートと積層マットの間の接着力が、第2の主面における有機シートと積層マットの間の接着力の50~90%であることが好ましい。
【0041】
上記のような本発明のマット材を構成する材料、寸法等の特性について説明する。
マット材を構成するマットは無機繊維からなる。無機繊維は、特に限定されず、アルミナ-シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維等であってもよい。また、ガラス繊維や生体溶解性繊維であってもよい。耐熱性や耐風蝕性等、マット材に要求される特性等に応じて変更すればよく、各国の環境規制に適合できるような太径繊維や繊維長のものを使用するのが好ましい。
【0042】
この中でも、低結晶性アルミナ質の無機繊維が好ましく、ムライト組成の低結晶性アルミナ質の無機繊維がより好ましい。加えて、スピネル型化合物を含む無機繊維がさらに好ましい。
【0043】
積層マットにおいてマット材が積層される枚数は複数枚であれば特に限定されるものではない。2枚又は3枚であることが好ましく、2枚であることがより好ましい。
【0044】
積層マットの寸法の好ましい範囲は以下の通りである。
積層マットの長手方向の長さ(
図1(a)で両矢印Lで示す長さで、第1の主面を有するマットの長手方向の長さ)が300~1300mmであることが好ましい。
積層マットの幅方向の長さ(
図1(a)で両矢印Wで示す長さ)が40~400mmであることが好ましい。
積層マットの厚さ(
図1(a)で両矢印Tで示す長さ)が2~30mmであることが好ましい。
積層マットの厚さが2mm未満であると、その厚さが薄すぎるため、断熱性能や防音性能が低下してしまう。一方、積層マットの厚さが30mmを超えると、柔軟性が低下し、装着対象となる部材への装着性が低下する。
また、積層マットを構成するマット1枚の厚さは、複数枚のマットごとに異なっていても同じであってもよいが、1枚の厚さが1~15mmであることが好ましい。
【0045】
積層マットは、巻き付け方向となる長手方向と、長手方向に直交する短手方向を有する。
積層マットには、積層マットの長手方向側の端部のうち、一方の端部である第1の端部には凸部が形成されており、他方の端部である第2の端部には凹部が形成されていることが好ましい。積層マットの凸部及び凹部は、外周が円柱状の排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管に積層マットを巻きつける際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっていることが好ましい。
また、積層マットは凸部及び凹部が形成されていない形状であってもよい。
【0046】
積層マットを構成するマットのかさ密度は、特に限定されるものではないが、0.05~0.30g/cm3であることが望ましい。マットのかさ密度が0.05g/cm3未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、マットの形状を所定の形状に保ちにくくなる。一方、マットのかさ密度が0.30g/cm3を超えると、マットが硬くなり、装着対象となる部材への装着性が低下し、マットが割れやすくなる。
【0047】
積層マットを構成するマットは、種々の方法により得ることができるが、例えば、抄造法又はニードリング法により製造することができる。
抄造法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。
無機繊維を開繊し、開繊した無機繊維を溶媒中に分散させて混合液とする。底面にろ過用のメッシュが形成された成形器に混合液を流し込み、混合液中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得る。そして、無機繊維集合体を乾燥することによりマットを得ることができる。
ニードリング法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。
塩基性塩化アルミニウム水溶液とシリカゾル等とを原料とする紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して3~10μmの平均繊維径を有する無機繊維前駆体を作製する。続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、焼成処理を施すことによりマットを得ることができる。この焼成処理の前後のいずれかにニードルパンチング処理を行い、無機繊維同士を交絡させる。
【0048】
積層マットを構成するマットの凸部及び凹部は、外周が円柱状の排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管にマット材を巻きつける際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっていることが好ましい。
また、積層マットを構成するマットは凸部及び凹部が形成されていない形状であってもよい。
【0049】
本発明のマット材を構成する有機シートは、有機材料からなる。有機材料は、特に限定されない。例えば、紙、樹脂フィルム、有機繊維からなる不織布等が挙げられる。
また、上記有機シートは樹脂フィルムからなることも好ましい。
有機シートは、ポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。
これらの材料は柔軟性及び弾性に優れており、ヒートシールにより積層マットに接着することができるため好ましい。
【0050】
有機繊維からなる不織布としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維にPE(ポリエチレン)パウダーが融着したものが挙げられる。
他に使用できる有機繊維としては、PP(ポリプロピレン)、レーヨン等が挙げられる。
また、有機シートが樹脂フィルムである場合、樹脂フィルムを構成する有機材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等が挙げられる。
【0051】
有機シートと積層マットの貼り付けは、有機シートとは別の接着剤を介して行ってもよく、接着剤を使用せずに、有機シート自体をヒートシールすることにより行ってもよい。
【0052】
有機シートと積層マットの貼り付けを接着剤を介して行う場合、接着剤としてはアクリル系接着剤、アクリレート系ラテックス、ウレタン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を使用することができる。
【0053】
有機シート自体をヒートシールする場合は、有機シートを構成する有機材料の種類に応じて適切な加熱温度によりヒートシールを行えばよい。
【0054】
有機シートの目付量は、特に限定されるものではないが、10g/m2以上であることが好ましく、30g/m2以下であることが好ましい。
有機シートの目付量が上記範囲であると、巻き付け性を阻害することがなく、マットの脱落が生じない程度に複数枚のマットの相対位置を安定させることができる。
【0055】
有機シートの厚さは、特に限定されるものではないが、0.05mm以上であることが好ましく、0.3mm以下であることが好ましい。
有機シートの目付量が上記範囲であると、巻き付け性を阻害することがなく、マットの脱落が生じない程度に複数枚のマットの相対位置を安定させることができる。
【0056】
以下、本発明のマット材につき、
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)に示したマット材とは別の形態の例について説明する。
図2(a)は、マット材の別の一例を模式的に示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すマット材のB-B線断面図である。
図2(a)及び
図2(b)に示すマット材11は、
図1(a)に示すマット材10と、積層マット20の構成は同じであり、有機シート30を巻き付けて接着する形態が異なる。
【0057】
マット材11では、有機シート30は積層マット20の第1の主面23と第2の主面24の両方に接着されている。
有機シート30が積層マット20に接着されている第2の主面24において、有機シート30の巻き付け開始部31と巻き付け終了部32が存在し、巻き付け開始部31の有機シートと巻き付け終了部32の有機シートが重なって接着されている。
巻き付け開始部31の有機シートと巻き付け終了部32の有機シート間が接着されていて、さらに巻き付け開始部31の有機シートは積層マット20の第2の主面24に接着されている。
【0058】
この場合、巻き付け開始部31及び巻き付け終了部32の間に積層マット20の主面は露出しないので露出部は形成されていない。
また、有機シート30が積層マット20に接着されている部位は、積層マット20の主面の長手方向に沿った向きに伸びている。
【0059】
また、有機シート30は積層マット20の第2の主面24に対して、
図2(a)及び
図2(b)でハッチングを付した箇所(巻き付け開始部と巻き付け終了部が重なる場所)でのみ接着されている。すなわち、有機シートは積層マットの第2の主面の一部に接着されていることになる。
有機シート30が積層マット20の第2の主面24に対して接着されている部位の幅は
図2(a)で両矢印W
7で示す長さである。
【0060】
有機シートが積層マットに接着されている主面において、有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部が存在し、巻き付け開始部の有機シートと巻き付け終了部の有機シートが重なって接着されるようにすると、巻き付け開始部の有機シートと巻き付け終了部の有機シートが重なっている部位にヒートシールを行うことで巻き付け開始部と巻き付け終了部の固定と、有機シートと積層マットの接着を一度の工程で行うことができるので作業が簡便であるため好ましい。
【0061】
また、
図2(a)及び
図2(b)に示すマット材11のように巻き付け開始部の有機シートと巻き付け終了部の有機シートが重なって接着される場合、有機シートが重なって接着される部位が第2の主面側であることが好ましい。有機シートが重なって接着される部位がマット材を巻き付ける際に内側になる面であると、巻き付け時にテンションがかかりにくいためである。
【0062】
また、積層マット20の第1の主面23においては、有機シート30が積層マット20の幅方向の一部にわたって第1の主面23に接着されている。
図2(b)では、積層マット20の幅方向の中央(参照符号30dで示す領域)では有機シート30が積層マット20の第1の主面23に接着されており、積層マット20の幅方向の両端(参照符号30e、30fで示す領域)では有機シート30が積層マット20の第1の主面23に接着されていない。
図2(b)に示すように有機シート30が積層マット20と接着される幅方向での位置が積層マット20の両面で同じであると、一度のヒートシールにより積層マット20の両面での有機シート30の接着を行うことができる。
【0063】
なお、積層マットの第1の主面において有機シートが接着される部位は
図2(b)に示す部位に限定されるものではなく、積層マットの幅方向の全体にわたって接着されていてもよいし、積層マットの幅方向の両端で接着されていてもよい。
【0064】
図3(a)は、マット材のさらに別の一例を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示すマット材のC-C線断面図である。
図3(a)及び
図3(b)に示すマット材12は、
図1(a)に示すマット材10と、積層マット20の構成は同じであり、有機シート30を巻き付けて接着する形態が異なる。
【0065】
マット材12では、積層マット20の第2の主面24と第1の主面23の両方において、積層マット20の幅方向の全体にわたって有機シート30が積層マット20に接着されている。
また、第2の主面24において、有機シート30の巻き付け開始部31と巻き付け終了部32が存在し、巻き付け開始部31の有機シートと巻き付け終了部32の有機シートが重なって接着されている。
また、有機シート30が積層マット20に接着されている部位は、積層マット20の主面の長手方向に沿った向きに伸びている。
このような形態でも本発明のマット材の効果を発揮させることができる。
【0066】
本発明のマット材は、排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管にマット材を巻きつけることにより、保持シール材、断熱材、防音材等の用途に使用することができる。
排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管の形状は特に限定されるものではないが、円柱状、角柱状、円管状、角管状等とすることができる。
【0067】
排ガス処理体は、多孔質セラミック等のセラミック質のハニカム構造体であり、触媒担体として使用される。触媒担体においては、排ガス流入側端面及び排ガス流出側端面がともに開口した貫通孔に排ガスが流入し、貫通孔を隔てる隔壁に担持させた触媒の作用により排ガスが浄化される。
また、排ガス処理体は貫通孔のいずれかの端部が交互に封止されてなるDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)であってもよい。
排ガス処理体を構成する素材は特に限定されないが、炭化ケイ素質及び窒化ケイ素質等の非酸化物、並びに、コージェライト及びチタン酸アルミニウム等の酸化物を用いることができる。
【0068】
本発明のマット材を排ガス処理体や排気管に巻き付ける際は、積層マットの第2の主面を巻き付け対象物の側(内側)に配置し、積層マットの第1の主面を外側に配置する。
この際、有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部は積層マットの第2の主面に存在していることが好ましい。
また、巻き付け開始部と巻き付け終了部の間に露出部が形成されていてもよい。
露出部が積層マットの第2の主面に設けられていると、排ガス処理体にマット材を巻き付けた際に排ガス処理体と露出部が接するため密着性が向上する。また、排ガス処理体にマット材を巻き付けたのちにケーシングに圧入をする際に、ケーシング側に露出部が無く有機シートがケーシングに接する面積が大きいとマット材が滑りやすくなり圧入がしやすくなる。
また、巻き付け開始部の有機シートと巻き付け終了部の有機シートが重なって接着されていてもよい。有機シートが重なって接着される部位がマット材を巻き付ける際に内側になる面であると、巻き付け時にテンションがかかりにくいためである。
また、本発明のマット材は、巻き付け時にマット同士が適度に滑ってマット間でずれることができるため、巻き付け性の指標であるSeamGapが小さくなる。
SeamGapは、凸部と凹部が嵌合する位置での凸部と凹部の間の隙間の長さであり、これが短いほど巻き付け性が良いことを意味する。
【0069】
続いて、本発明のマット材を製造する方法の一例について説明する。
まず、積層マットを構成するマットを作製し、マットを積層することで積層マットを作製する。
マットは、種々の方法により得ることができるが、例えば、抄造法又はニードリング法により得たシート状部材を所定形状に打ち抜くことにより得ることができる。
【0070】
打ち抜きの際の寸法を変更することで、長手方向の長さの異なる複数のマットを作製し、複数のマットを長さが長くなる順で、又は、短くなる順で積層することで積層マットを作製する。
積層させるマットの数は、マット材に求められる保持力や断熱性能に応じて変更すればよい。
【0071】
次に、積層マットに有機シートを巻き付ける。有機シートの寸法を調整して、
図1(a)に示すように露出部を設けるように巻き付けてもよいし、
図2(a)及び
図2(b)並びに
図3(a)及び
図3(b)に示すように巻き付け開始部の有機シート及び巻き付け終了部の有機シートが積層マットの第2の主面側で重なるようにしてもよい。
【0072】
積層マットと有機シートの接着を接着剤により行う場合は、積層マット及び/又は有機シートの一部に接着剤を塗布しておく。
また、巻き付け開始部の有機シートと巻き付け終了部の有機シートの間の接着を接着剤により行う場合も、当該部位に接着剤を塗布しておく。
必要に応じて乾燥等を行い接着剤の接着力を発揮させる。
また、積層マットの第1の主面と第2の主面のそれぞれにおける有機シートと積層マットの接着力を異ならせる場合には、接着剤の種類、塗布量、乾燥条件等を両面で異なるようにすればよい。
【0073】
積層マットと有機シートの接着をヒートシールにより行う場合は、積層マットと有機シートを接着させる部位にヒートシーラーを当ててヒートシールを行う。
巻き付け開始部の有機シート及び巻き付け終了部の有機シートと積層マットを一度のヒートシールで接着してもよい。
また、積層マットの第1の主面と第2の主面のそれぞれにおける有機シートと積層マットの接着力を異ならせる場合には、ヒートシールの温度や時間等を両面で異なるようにすればよい。
【0074】
また、積層マットを構成するマットには通常は表裏面の区別があり、相対的に表面が粗いラフ面と、相対的に表面が平滑なスムース面がある。
マットを積層して積層マットとする際に、一方の面がラフ面、一方の面がスムース面になるように積層面を定めることで、積層マットの第1の主面と第2の主面の表面状態を異ならせることができる。積層マットの第1の主面と第2の主面の表面状態が異なる場合、同じ接着条件で積層マットと有機シートの接着を行った場合にも積層マットの第1の主面と第2の主面のそれぞれにおける有機シートと積層マットの接着力を異ならせることができる。
上記工程により本発明のマット材を製造することができる。
【0075】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
抄造法により、目付量(単位面積当たりの繊維重量)が1050g/m
2である、無機繊維(ムライト繊維)からなるシート状部材を作製した。
このシート状部材を打ち抜き加工して、長手方向の長さ673mm、幅98mm、厚さ6.8mmの第1のマットと長手方向の長さ630mm、幅98mm、厚さ6.8mmの第2のマットを作製した。第1のマットと第2のマットは
図3(a)に示すような凹部及び凸部を有する形状である。
第1のマットに第2のマットを積層して積層マットとした。
【0077】
有機シートとして、目付量が18g/m2で幅が500mmの有機繊維からなる不織布を準備した。これは、PET繊維にPEパウダーが融着した不織布である。
【0078】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、積層マットの第2の主面の側で、有機シートの巻き付け開始部と巻き付け終了部を重ねて、有機シートを積層マットに巻き付けた。
積層マットの第2の主面の全面及び第1の主面の全面に有機シートをヒートシールにより接着した。
ヒートシールの条件は100℃で5秒加熱である。
有機シートが積層マットに接着されている部位の長さ(
図1(a)で両矢印L
1で示す長さに相当)は不織布の幅の500mmである。
【0079】
(比較例1)
図4は、比較例1において製造したマット材を模式的に示す斜視図である。
比較例1では、
図4に示すようなマット材13を製造した。
マット材13では、2本のフィルムバンド130a及び130bで積層マット20を結束した。フィルムバンド130a及び130bは積層マット20と接着されていない。
フィルムバンドはOPP(2軸延伸ポリプロピレンフィルム)であり、フィルムバンドの目付量は60g/m
2である。
フィルムバンドが積層マットを結束する部位の長さ(
図4で両矢印L
2及びL
3で示す長さ)はそれぞれ30mmである。
【0080】
(巻き付け試験)
φ200mmの円柱状の基体に対し、実施例1及び比較例1に係るマット材をそれぞれ巻き付けた。
巻き付けの際には積層マットの第2の主面(第2のマット)を基体側とし、第1の主面(第1のマット)が外側になるようにした。
巻き付けた際の、凸部と凹部が嵌合する位置での凸部と凹部の間の隙間(Seam Gap)を、内側のマット(第2のマット)と外側のマット(第1のマット)のそれぞれにつき測定した。
その結果を表1にまとめた。
【0081】
(脱落試験)
マット材を構成する第1のマットの一方の端部を固定して、マット材の長手方向が鉛直方向となるようにマット材を吊るした。さらに、第1のマットを固定した端部(マット材を吊るした際の上側の端部)と反対側の端部(マット材を吊るした際の下側の端部)において第2のマットにステンレス板を吊るして第2のマットに下向きの荷重を加えた。
ステンレス板の枚数を変化させて荷重を変化させ、この状態で5秒間位置ずれを生じない荷重の最大値を求めた。この数値が大きいほど、複数枚のマットの相対位置が安定しており、マットの脱落が生じにくいこととなる。
測定結果を表1にまとめた。
なお、実施例1ではステンレス板の枚数を増やして荷重を3kgfまで高くしても位置ずれが生じなかったので「脱落無し」とした。
【0082】
巻き付け試験、脱落試験ともに、各実施例及び比較例に関し、試験試料としてマット材を3つずつ使用して測定を行い、その平均値を算出した。
【0083】
【0084】
実施例1ではSeamGapの値が比較例1に比べて小さくなっており、巻き付け性に優れていることが分かる。
また、実施例1では脱落試験の結果も良好であり、実施例1の構成とすることによってマットの脱落が生じない程度に複数枚のマットの相対位置を安定させることができることがわかる。
【0085】
(実施例2)
実施例1で製造した第1のマットと第2のマットを積層して積層マットとする際に、一方の面がラフ面、一方の面がスムース面になるように積層面を定めることで、積層マットの第1の主面がラフ面であり、第2の主面がスムース面である積層マットを作製した。
積層マットの第1の主面(ラフ面)の全面に有機シートをヒートシールにより接着してマット材Aを作製した。
積層マットの第2の主面(スムース面)には有機シートを接着していない。
積層マットの第2の主面(スムース面)の全面に有機シートをヒートシールにより接着してマット材Bを作製した。
積層マットの第1の主面(ラフ面)には有機シートを接着していない。
ヒートシールの条件は100℃で5秒加熱である。
マット材Aは積層マットのラフ面と有機シートの接着強度を測定するための試料であり、マット材Bは積層マットのスムース面と有機シートの接着強度を測定するための試料である。
【0086】
マット材A、Bのそれぞれを25mm×25mmに切断し、第1の主面と第2の主面に両面テープを貼り付けた。
マット材Aでは第1の主面で有機シートに両面テープが貼り付けられており、第2の主面で積層マットのスムース面に両面テープが貼り付けられている。
マット材Bでは第2の主面で有機シートに両面テープが貼り付けられており、第1の主面で積層マットのラフ面に両面テープが貼り付けられている。
25mm×25mmのプラスチック板(マット材との接着面となる板)に垂直方向に幅25mm×高さ77.5mmのプラスチック板が立てて接合されたT字型治具を準備し、このT字型治具をマット材に貼り付けた両面テープによりマット材の第1の主面と第2の主面のそれぞれに接着した。
T字型治具を上下方向に引っ張り速度10mm/minで引っ張り、ピーク荷重値(接着強度)を測定した。
【0087】
積層マットのラフ面が有機シートとの接着面となっているマット材Aでは接着強度が0.31N/mm2であった。積層マットのスムース面が有機シートとの接着面となっているマット材Bでは接着強度が0.44N/mm2であった。
【0088】
以上のことから、積層マットのラフ面とスムース面で有機シートとの接着強度を異ならせることができることが分かる。
従って、マットを積層して積層マットとする際に、積層マットの一方の面がラフ面、一方の面がスムース面になるように積層面を定めて、同じ接着条件で積層マットと有機シートの接着を行うことで、積層マットの第1の主面と第2の主面のそれぞれにおける有機シートと積層マットの接着力を異ならせることができる。
接着力を異ならせたマット材においては、有機シートと積層マットの接着力が弱い面を第1の主面とすることが好ましい。
第1の主面は巻き付け時に外側になる面であり、巻き付け時に内側よりも強い張力が加わる面である。
第1の主面における有機シートと積層マットの間の接着力が弱いと巻き付け維持の張力により有機シートが積層マットから剥がれて、マット間がずれやすくなるので巻き付け性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0089】
10、10a、10b、11、12、13 マット材
20 積層マット
21 第1のマット
22 第2のマット
23 積層マットの第1の主面
24 積層マットの第2の主面
25 積層マットの第1の長側面
26 積層マットの第2の長側面
27 積層マットの第1の短側面
28 積層マットの第2の短側面
29 露出部
30 有機シート
30a、30b、30d 有機シートが接着されている領域
30c、30e、30f 有機シートが接着されていない領域
31 巻き付け開始部
32 巻き付け終了部
130a、130b フィルムバンド