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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】高密度ポリエチレン管及び継手
(51)【国際特許分類】
   B32B 1/08 20060101AFI20221201BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20221201BHJP
   F16L 11/10 20060101ALI20221201BHJP
   B29C 63/18 20060101ALI20221201BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20221201BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B32B1/08 B
F16L11/12
F16L11/10 B
B29C63/18
B32B27/28 102
B32B27/32 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019013925
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121444
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本棒 享子
(72)【発明者】
【氏名】永田 純也
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 圭論
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-500193(JP,A)
【文献】特表2016-527102(JP,A)
【文献】特開2018-021135(JP,A)
【文献】特開2018-100330(JP,A)
【文献】特開昭57-125046(JP,A)
【文献】特開2006-289964(JP,A)
【文献】特開2002-240173(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0094612(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146378(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 11/10-11/12
B29C 63/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.940g/cm以上0.980g/cm以下の高密度ポリエチレンを主成分とする導管と、
前記導管の内表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する内側のガスバリアフィルムと、
前記導管の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する外側のガスバリアフィルムと、
前記外側のガスバリアフィルムの外表面を覆い、外層の加熱成形時に前記外側のガスバリアフィルムの前記外層または前記導管への融着を防止する、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、
前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、
を備え
前記内側のガスバリアフィルム及び前記外側のガスバリアフィルムは、それぞれ、前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の厚さが0.5μm以上60μm以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項2】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内側のガスバリアフィルムの内表面を覆い、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレンを主成分とする内層を備える高密度ポリエチレン管。
【請求項3】
請求項2に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記導管と前記内側のガスバリアフィルムとの間に、前記内層の加熱成形時に前記内側のガスバリアフィルムの前記内層または前記導管への融着を防止する、融点が150℃以上の樹脂からなる内側の融着防止フィルムを備える高密度ポリエチレン管。
【請求項4】
請求項2に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内側のガスバリアフィルムと前記内層との間に、前記内層の加熱成形時に前記内側のガスバリアフィルムの前記内層または前記導管への融着を防止する、融点が150℃以上の樹脂からなる内側の融着防止フィルムを備える高密度ポリエチレン管。
【請求項5】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記導管が、原油を精製した際に生じるナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるアロマティックスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を含む高密度ポリエチレン管。
【請求項6】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記導管が、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが10%以上60%以下のナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CAが5%以上80%以下のアロマティックスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を含む高密度ポリエチレン管。
【請求項7】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内側のガスバリアフィルム及び前記外側のガスバリアフィルムは、それぞれ、前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の厚さが1μm以上50μm以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項8】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内側のガスバリアフィルム及び前記外側のガスバリアフィルムは、それぞれ、前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる中間層と、前記中間層の両面に積層された表面層と、を有する多層フィルムであり、
前記表面層は、低密度ポリエチレン、及び、直鎖状低密度ポリエチレンのうちの少なくとも一方を主成分とする高密度ポリエチレン管。
【請求項9】
請求項8に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記多層フィルムを巻き付けて配置したときの前記多層フィルムの総厚さが50μm以上400μm以下の範囲内である高密度ポリエチレン管。
【請求項10】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記融着防止フィルムは、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム、ポリイミドフィルム、又は、ポリアミドイミドフィルムである高密度ポリエチレン管。
【請求項11】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記融着防止フィルムを巻き付けて配置したときの前記融着防止フィルムの総厚さが20μm以上200μm以下の範囲内である高密度ポリエチレン管。
【請求項12】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記外層が、カーボンブラックを含有する高密度ポリエチレン管。
【請求項13】
請求項12に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記カーボンブラックは、前記外層あたりの含有量が1.0質量%以上3.0質量%以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の高密度ポリエチレン管であって、
原子力関連施設における流体の輸送に用いられる原子力設備用配管である高密度ポリエチレン管。
【請求項15】
密度が0.940g/cm以上0.980g/cm以下の高密度ポリエチレンを主成分とする筒状の導管部と、
前記導管部の内表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する内側のガスバリアフィルムと、
前記導管部の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する外側のガスバリアフィルムと、
前記外側のガスバリアフィルムの外表面を覆い、外層の加熱成形時に前記外側のガスバリアフィルムの前記外層または前記導管への融着を防止する、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、
前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、
を備え
前記内側のガスバリアフィルム及び前記外側のガスバリアフィルムは、それぞれ、前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の厚さが0.5μm以上60μm以下である継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力設備用等の用途に用いられる高密度ポリエチレン管及び継手に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設に敷設される原子力設備用配管は、放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下での流体の輸送を、長期間にわたって安全に実施できる性能が求められる。従来、原子力設備用配管としては、鋼管が使用されてきた。しかし、空間的制約や時間的制約が想定される原子力関連施設では、施工のために必要とされる工数や機材の多さから、鋼管が最適とはいえなくなっている。このような状況下、移動や加工が容易であり、管同士や継手の接合も容易な樹脂製配管への代替が進められている。
【0003】
樹脂製配管としては、水道用の長距離配管としても利用されている高密度ポリエチレン管の使用が検討されている。しかし、高密度ポリエチレン管は、鋼管と比較して耐放射線性が劣っており、高放射線量下において、脆性破壊を生じ易くなる欠点がある。高密度ポリエチレン管が劣化して樹脂に微小な欠陥を生じると、配管内の流体からの圧力や、配管外からの土圧等が加わったとき、その欠陥部に応力が集中し、割れや破裂を生じる。
【0004】
また、高放射線量下においては、配管内を流される水が放射線分解する。水が放射線分解すると、主として水素と過酸化水素が発生するが、酸素も発生する。高密度ポリエチレン管は、配管内の気相部に滞留している酸素ガスや、配管内の流体中に溶存している酸素ガスに晒され得る。配管内の流体中に塩素等が存在している場合には、次亜塩素酸、過塩素酸等をはじめ、高活性を示す化学物質が生成されることもある。
【0005】
高密度ポリエチレンの劣化は、主にラジカルが関与する自動酸化によって進行するが、放射線の作用だけでなく、紫外線や酸素によっても促進される。紫外線や大気中に存在する酸素は、主として配管の外側から高密度ポリエチレンを劣化させる。一方、水の放射線分解によって配管内に発生した酸素は、主として配管の内側から高密度ポリエチレンを劣化させる。また、配管内に存在する化学物質は、樹脂に微小な欠陥をもたらすケミカルクラックの発生因子となる。
【0006】
高密度ポリエチレン管で輸送する流体が、放射性物質を含む場合や、放射化する可能性がある場合には、漏洩事象を発生させないことが重要である。そのため、放射線、酸素、紫外線等の外的因子や、過酸化水素、次亜塩素酸、過塩素酸等の化学物質による劣化を防止する対策が必要になっている。
【0007】
例えば、特許文献1には、高密度ポリエチレンに、ヒドロ芳香族型劣化防止剤又はプロピルフルオランテンを1~7質量部となるように添加する技術が記載されている。
【0008】
特許文献2には、高密度ポリエチレン配管と、その外表面に熱融着可能な継手や、これらを備える流体輸送装置が記載されている。高密度ポリエチレン配管は、破壊の起点となり易い結晶構造を繋ぐタイ分子の間が、架橋構造で強化されている。また、高密度ポリエチレン配管の外表面には、熱融着可能な非架橋のポリエチレン層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-020628号公報
【文献】特開2017-101688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のように、高密度ポリエチレンに劣化防止剤を添加したり、特許文献2のように、タイ分子の間を架橋構造で強化したりすると、高密度ポリエチレン管の耐放射線性を向上させることができる。また、高密度ポリエチレン管を二重管構造にすると、紫外線や大気中の酸素が内側に到達し難くなるため、高放射線量下の屋外等であっても、ある程度長い期間にわたって配管の健全性を保つことができる。
【0011】
しかし、40年以上の耐久寿命があり、短期間での取り替えを必要としない鋼管と比較すると、これらの高密度ポリエチレン管も、十分な耐久性があるとはいえない。高密度ポリエチレンは、配管に必要とされる耐圧強度や硬度を示す一方、延性に乏しく、高放射線量下で使用を続けた場合に、容易に脆性破壊する、という本質的な欠点を有している。樹脂を劣化させるラジカル反応は、放射線によって容易に開始されるが、酸素、紫外線等の外的因子によって促進されるため、これらを防止する高度な対策が求められている。
【0012】
また、高放射線量下において、放射線が原因で配管内に酸素や化学物質が生成する場合や、配管内に高濃度の酸素や薬品等を含む流体が流される場合、配管の内側から酸化劣化やケミカルクラックが起こるため、配管内に存在する酸素や化学物質への対策も不可欠となっている。また、高密度ポリエチレン製の管継手についても、放射線、酸素、紫外線等の外的因子や化学物質に晒される場合があり、同様に対策が求められている。
【0013】
そこで、本発明は、放射線、酸素、紫外線等の外的因子による劣化や化学物質によるケミカルクラックが抑制される高密度ポリエチレン管及び継手を提供することを目的とする。
【0014】
前記課題を解決するために本発明に係る高密度ポリエチレン管は、密度が0.940g/cm以上0.980g/cm以下の高密度ポリエチレンを主成分とする導管と、前記導管の内表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する内側のガスバリアフィルムと、前記導管の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を有する外側のガスバリアフィルムと、前記外側のガスバリアフィルムの外表面を覆い、外層の加熱成形時に前記外側のガスバリアフィルムの前記外層または前記導管への融着を防止する、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、を備え、前記内側のガスバリアフィルム及び前記外側のガスバリアフィルムは、それぞれ、前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の厚さが0.5μm以上60μm以下である
【0015】
また、本発明に係る継手は、前記の高密度ポリエチレン管と同様の層構成を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、放射線、酸素、紫外線等の外的因子による劣化や化学物質によるケミカルクラックが抑制される高密度ポリエチレン管及び継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す断面図。
図2】本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す斜視図。
図3】本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す断面図。
図4A】添加剤として用いたオイルの%CNと破断時の伸びとの関係を示す図。
図4B】添加剤として用いたオイルの%CNと破断時の伸びとの関係を示す図。
図5A】添加剤として用いたオイルの%CAと破断時の伸びとの関係を示す図。
図5B】添加剤として用いたオイルの%CAと破断時の伸びとの関係を示す図。
図6A】ガスバリアフィルムに用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRと破断時の伸びとの関係を示す図。
図6B】ガスバリアフィルムに用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRと破断時の伸びとの関係を示す図。
図7A】ガスバリアフィルムの総厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図7B】ガスバリアフィルムの総厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図8A】ガスバリアフィルムに用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図8B】ガスバリアフィルムに用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図9A】融着防止フィルムの厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図9B】融着防止フィルムの厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図10A】外層の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
図10B】外層の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る高密度ポリエチレン管及び継手について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において主機能が共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す断面図である。また、図2は、本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す斜視図である。図2では、高密度ポリエチレン管の層構成を示すために、管体の内側を露出させている。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管10は、流体の通路を形成する筒状の導管1と、導管1の内表面を覆う内側のガスバリアフィルム2aと、導管1の外表面を覆う外側のガスバリアフィルム2bと、外側のガスバリアフィルム2bの外表面を覆う外側の融着防止フィルム3bと、外側の融着防止フィルム3bの外表面を覆う外層4bと、を備えている。
【0021】
また、高密度ポリエチレン管10は、導管1の内側に、内側のガスバリアフィルム2aの内表面を覆う内層4aを備えている。また、高密度ポリエチレン管10は、導管1と内側のガスバリアフィルム2aとの間に、内側の融着防止フィルム3aを備えている。なお、本明細書において、「ある層が別の層の内表面又は外表面を覆う」という場合、それらの層同士が互いに隣接して一方の表面を覆ってもよいし、それらの層同士が他の層を挟んだ状態で一方の表面を覆ってもよい。
【0022】
高密度ポリエチレン管10は、主に機器や設備間で流体の輸送を行う流体輸送用の配管として用いられる。高密度ポリエチレン管10は、優れた耐放射線性を備え、放射線、大気中の酸素、紫外線等の外的因子や、放射線等が原因で配管内の流体中に生じる酸素や、放射線等が原因で配管内の流体中に生じる過酸化水素、次亜塩素酸、過塩素酸等の化学物質や、配管内を流される薬品等の化学物質による導管1の劣化が抑制される。そのため、高密度ポリエチレン管10は、高濃度の放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下での流体の輸送、特に高濃度の酸素や化学物質を含む流体の輸送に、好適に用いられる。
【0023】
高密度ポリエチレン管10は、高放射線量下で使用を続けた場合に容易に脆性破壊する、という高密度ポリエチレンが持つ本質的な欠点を抜本的に改善するために、流体が流される導管1の内外両面を、ガスバリアフィルム2(2a,2b)で覆った被覆管である。内外両側のガスバリアフィルム2と外側の層(導管1,外層4b)との間には、樹脂成形時にガスバリアフィルム2が破損しないように、融着防止フィルム3(3a,3b)を挟んだ層構成としている。
【0024】
導管1は、密度が0.940g/cm以上0.980g/cm以下の高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene:HDPE)を主成分として形成される。高密度ポリエチレンは、高い引張強さや耐衝撃性を有する一方、脆性が低いため、本発明の高密度ポリエチレンを主成分とする導管1によると、配管に必要な耐圧強度や硬度が得られる。
【0025】
高密度ポリエチレンは、密度等の物性が損なわれない限り、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン等を含むことができる。高密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.940g/cm以上0.970g/cm以下、より好ましくは0.945g/cm以上0.965g/cm以下である。
【0026】
高密度ポリエチレンは、チーグラー触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等のいずれの触媒で重合したものでもよい。また、高密度ポリエチレンは、その他の樹脂とブレンドされた混合材や、ポリエチレン製品を原料として再利用した再生材であってもよい。高密度ポリエチレンは、質量基準で50%未満の範囲であれば、ポリプロピレン等の他の樹脂を含んでいてもよい。
【0027】
高密度ポリエチレンとしては、例えば、反応圧力が5kgf/cm以上200kgf/cm以下、反応温度が60℃以上100℃以下の条件で重合させた樹脂を用いることができる。また、ISO1133に準拠して求められる溶解指数(Melt flow rate:MFR)が、試験温度190℃、試験荷重5.0kgf(49.03N)において、0.1g/10分以上3.0g/10分以下の樹脂、より好ましくは0.2g/10分以上0.5g/10分以下の樹脂を用いることができる。但し、導管1を構成する高密度ポリエチレンは、このような物性を示す樹脂に制限されるものではない。
【0028】
導管1は、高密度ポリエチレンを主成分とする基材に対し、酸化防止剤、耐熱安定剤、滑剤等の一般的な添加剤が添加されていてもよいし、一般的な添加剤が添加されていなくてもよい。また、図1及び図2において、導管1の形状は円筒状とされているが、導管1の楕円度や断面の形状、長手方向の形状、内外径や肉厚等の寸法は、特に制限されるものではない。
【0029】
導管1は、高密度ポリエチレンを主成分とする基材に対し、原油を精製した際に生じるナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるアロマティックスを含有するオイルのうち、少なくとも一方が配合されていることが好ましい。これらのオイルが配合されていると、後記するように、ポリエチレンの分子のすべり性が向上し、クレイズ破壊による高密度ポリエチレンの劣化が抑制される。
【0030】
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を原料とし、これを精製して得られるオイルを配合することができる。例えば、ナフテン系原油を減圧蒸留し、溶剤抽出によって芳香族成分を含むオイルを取り除いたものを用いることができる。また、溶剤抽出の他に、吸着処理、白土処理、脱酸処理等を施して精製したオイルを用いてもよい。なお、ナフテンとは、一般式:C2nで表される環状炭化水素を意味する。
【0031】
アロマティックスを含有するオイルとしては、パラフィン系原油やナフテン系原油を原料とし、これらを精製して得られるオイルを配合することができる。例えば、パラフィン系原油やナフテン系原油の精製過程で生じる、高比重、高粘度の残油等を用いることができる。なお、アロマティックスとは、一般式:C2n-6で表される芳香族炭化水素、すなわち、共役二重結合を有する不飽和で環状の炭化水素を意味する。
【0032】
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが10%以上100%以下のオイルが好ましく、10%以上80%以下のオイルがより好ましく、10%以上60%以下のオイルが更に好ましい。%CNが10%以上60%以下であると、高密度ポリエチレンの劣化を抑制する高い効果が得られる。
【0033】
アロマティックスを含有するオイルとしては、パラフィン系原油やナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CAが5%以上100%以下のオイルが好ましく、5%以上80%以下のオイルがより好ましく、15%以上60%以下のオイルが更に好ましい。%CAが5%以上80%以下であると、高密度ポリエチレンの劣化を抑制する高い効果が得られる。
【0034】
また、ナフテンを含有するオイルや、アロマティックスを含有するオイルとしては、例えば、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが20%以上60%以下、且つ、n-d-M法による環分析の%CAが5%以上40%以下のオイルを添加剤として用いてもよい。
【0035】
n-d-M法は、ASTM D 3238-85に準拠した油(オイル)の構造基分析の一方法(環分析法)であり、ベースオイルの組成分析に一般的に利用されている。n-d-M法によれば、20℃におけるオイルの密度d20、20℃におけるオイルの屈折率nD20、及び、オイルの平均分子量のデータに基づいて、全炭素量に対するパラフィン炭素の質量割合(%CP)、全炭素量に対するナフテン炭素の質量割合(%CN)、全炭素量に対する芳香族炭素の質量割合(%CA)、一分子当たりのナフテン環の平均環数(RN)、及び、一分子当たりの芳香族環の平均環数(RA)が求められる。
【0036】
ガスバリアフィルム2は、少なくともエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(ethylene-vinylalcohol copolymer:EVOH)を含む樹脂フィルムによって形成することが好ましい。ガスバリアフィルム2によると、酸素等のガスや化学物質の導管1側への拡散・浸透が抑制されるため、導管1の酸化劣化やケミカルクラックが抑制される。
【0037】
一般に、高密度ポリエチレンの酸素透過係数は、0.4×10-10cm(STP)・cm/(cm・s・cmHg)程度であり、低密度ポリエチレンの酸素透過係数は、6.9×10-10cm(STP)・cm/(cm・s・cmHg)程度である。これに対し、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、酸素透過係数が、0.0001×10-10cm(STP)・cm/(cm・s・cmHg)程度と小さく、酸素の透過を高密度ポリエチレンに対して1/4000、低密度ポリエチレンに対して1/67000に抑制することができる。
【0038】
ガスバリアフィルム2は、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる単層で構成されてもよいし、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を含む複数層で構成されてもよい。なお、図において、ガスバリアフィルム2としては、内側のガスバリアフィルム2aと、外側のガスバリアフィルム2bと、が備えられているが、これらは、同じ層構成とされてもよいし、互いに異なる層構成とされてもよい。
【0039】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の平均重合度、エチレンの含有率、及び、けん化度は、特に制限されるものではない。例えば、平均重合度は、500以上3000以下とすることができる。エチレンの含有率は、例えば、20%以上80%以下とすることができる。エチレンの含有量は、柔軟性や耐水性を向上させる観点からは、25%以上とすることが好ましい。けん化度は、例えば、85%以上99%以下とすることができる。けん化度は、ガスバリア性を確保する観点からは、90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましい。
【0040】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは5μm以上である。また、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さが0.5μm以上で厚いほど、優れたガスバリア性が得られ、導管1の酸化劣化やケミカルクラックが抑制される。また、ピンホールを生じ難くなるため、ガスバリア性が健全に保たれる。一方、厚さが60μm以下で薄いほど、柔軟性が備わるため、高密度ポリエチレン管10を施工、移動等する際に、ガスバリアフィルム2が破損し難くなる。また、厚さが5μm以上50μm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、有効な耐放射線性が得られる。
【0041】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、他の樹脂とブレンドされた混合材であってもよい。ブレンドする他の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。また、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、エポキシ化合物等で変性された樹脂であってもよいし、エチレンや酢酸ビニル以外の他の単量体を含む共重合体であってもよい。
【0042】
ガスバリアフィルム2は、図1及び図2に示すように、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる中間層21と、中間層21の両面に積層された表面層22と、を備える多層フィルムであることが好ましい。なお、図において、表面層22としては、中間層21の内側に配置された内側層21aと、外側に配置された外側層21bと、が備えられているが、これらは、同じ層構成とされてもよいし、互いに異なる層構成とされてもよく、内外両側に積層される層の数や種類は、特に制限されるものではない。
【0043】
表面層22は、低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene:LDPE)、及び、直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene:LLDPE)のうち、少なくとも一方を主成分とすることが好ましい。これらのポリエチレンによると、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂との共押出が可能である。また、ポリエチレンによると、樹脂自体によって高い中性子遮蔽能が得られるため、導管1の放射線劣化をより抑制することができる。
【0044】
特に、表面層22を低密度ポリエチレンで形成すると、柔軟性、耐衝撃性、耐寒性、耐湿性等が高い多層フィルムを高精度で成形することができる。また、高密度ポリエチレン管10に加わる外圧、衝撃等を緩和して、導管1の損傷や、ガスバリアフィルム2の剥離、脱落等を防ぐことができる。なお、低密度ポリエチレンとは、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下のポリエチレンを意味する。低密度ポリエチレンは、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン等を含むことができる。
【0045】
また、表面層22を直鎖状低密度ポリエチレンで形成すると、低密度ポリエチレンよりも高い引張破壊強さ、密着性、耐寒性等が得られる。なお、直鎖状低密度ポリエチレンとは、密度が0.910g/cm以上0.925g/cm以下であり、分枝を有する単量体の含有率が数%であるポリエチレンを意味する。直鎖状低密度ポリエチレンは、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を含むことができる。直鎖状低密度ポリエチレンは、チーグラー触媒、フィリップス触媒等のいずれの触媒で重合したものでもよい。
【0046】
表面層22を形成する低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンは、ISO1133に準拠して求められる溶解指数(MFR)が、0.5g/10分以上であることが好ましい。また、50g/10分以下であることが好ましく、20g/10分以下であることがより好ましく、10g/10分以下であることが更に好ましく、5g/10分以下であることが更に好ましく、3g/10分以下であることが特に好ましい。樹脂の分子量とMFRとは相関性があることが知られている。このようなMFRを示す樹脂は、低分子量の成分が少ない樹脂層を形成できる。
【0047】
表面層22は、低密度ポリエチレンからなる層や直鎖状低密度ポリエチレンからなる層の他に、その他の樹脂が積層された層構成であってもよい。例えば、多層フィルムを強靭化する観点や、中間層21を形成するための基材として用いる観点等から、ナイロン6等のポリアミド(polyamide:PA)や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル(polyester:PEs)を含む層構成としてもよい。
【0048】
多層フィルムの具体例としては、LDPE/EVOH/LDPE、LLDPE/EVOH/LLDPE等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、低密度ポリエチレンや、直鎖状低密度ポリエチレンは、耐放射線性を向上させる観点からは、樹脂の密度等に影響する低分子量の成分を含まないものが好ましい。中間層21と表面層22との間には、必要に応じて、接着層等の他の層が設けられてもよい。
【0049】
多層フィルムの厚さは、好ましくは20μm以上200μm以下である。厚さが20μm以上で厚いほど、耐久性が高くなるため、高密度ポリエチレン管10を施工、移動等する際や、屋外等の外力が加わり易い過酷環境に敷設した場合に、ガスバリア性を健全に保つことができる。また、厚さが200μm以下で薄いほど、可撓性が失われ難いため、ハンドリング性や巻回性が良好になり、取り扱い時のフィルムの破損が低減する。
【0050】
ガスバリアフィルム2は、管状に巻き付けたときの総厚さが、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上である。また、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下である。総厚さが20μm以上で厚いほど、高いガスバリア性が得られるため、導管1の酸化劣化やケミカルクラックを確実に抑制することができる。一方、総厚さが500μm以下で薄いほど、材料コストや巻回の手間が低減する。また、総厚さが50μm以上400μm以下であると、有効な耐放射線性が得られる。
【0051】
ガスバリアフィルム2は、導管1に対して融着によって面接合させないことが好ましい。導管1とガスバリアフィルム2とを融着によって面接合させると、配管の長さ方向や径方向に力が加わったとき、伸び率が異なる導管1とガスバリアフィルム2とに反対向きの応力を生じるため、応力破壊や引き裂き等の発生確率が高くなる。なお、ガスバリアフィルム2は、導管1と同様に、ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合されていてもよい。
【0052】
ここで、高密度ポリエチレン管に添加するオイルや、ガスバリアフィルムの作用効果について具体的に説明する。
【0053】
ポリエチレン管は、鋼管に比べて軽量であり、移動や加工が容易であることから、水道用の長距離配管等として広く用いられている。しかし、ポリエチレン管は、鋼管とは異なり、主として炭素と水素で構成される有機高分子で形成されている。ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の外的因子によって劣化が進行し、弾性、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等が低下するため、配管に内圧、外圧、衝撃等が加わったり、配管に傷を生じたり、配管が化学物質に暴露されたりした場合に脆性破壊を生じ易い。
【0054】
有機高分子は、放射線、紫外線、熱等で分子が励起され、分子中の結合が切断して分解することが知られている。例えば、ポリエチレンに放射線等が作用すると、水素ラジカル(H・)や炭化水素ラジカル(R・)が生成する。ラジカルは、反応性が高く、ラジカル同士が結合(再結合)したり、ラジカルが元素を引き抜いて別のラジカルを生成(引き抜き反応)させたり、ラジカルが二重結合に付加(付加反応)したり、ラジカル同士が結合すると同時に分子鎖が切断(不均化反応)されたりする。
【0055】
ラジカルによる再結合や付加反応は、架橋と呼ばれる分子量の増大をもたらし、不均化反応は、崩壊と呼ばれる分子量の減少をもたらす。ポリエチレン管において、分子鎖の架橋や崩壊が進行すると、衝撃や屈曲に対する抵抗性が低くなり、管体が脆くなる等の物性の変化を生じる。そして、管体の脆化が進むと、内圧、外圧、衝撃、荷重等が加わった場合に、き裂、割れ等の応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなり、管壁にき裂や脆性割れを生じたり、管体が破裂したりする等の不具合を生じる。
【0056】
配水用ポリエチレン管等の配管材料としては、多段重合や改良触媒を用いて高性能化した高密度ポリエチレンも使用されている。この種の高密度ポリエチレンでは、高分子量の領域を増加させて、結晶構造同士を繋ぐタイ分子を増やすことで、長期静水圧強度と耐環境応力き裂性を向上させている。
【0057】
一般に、結晶領域は、過酷環境下であっても影響を受け難いが、非晶領域は、過酷環境下でタイ分子が切断されると増加することが知られている。タイ分子の切断が進むと、外力が加わったとき、樹脂の内部で応力集中が起こり易くなり、長期静水圧強度や、耐環境応力き裂性や、耐衝撃性が低下すると考えられている。
【0058】
特に、酸素が存在する大気中では、ラジカルにより酸化の伝播反応(連鎖反応)が進行することが知られている。また、配管内に酸素が存在する場合、大気に接する配管の外側だけでなく配管の内側でも、酸化の伝搬反応が進行する。はじめに、反応式(1)のように、炭化水素ラジカル(R・)と酸素(O)とが反応して、過酸化ラジカル(ROO・)が生成する。
【0059】
【化1】
【0060】
過酸化ラジカル(ROO・)は、反応性に富み、反応式(2)のように、他の分子(RH)から水素(H)を引き抜いて、過酸化物(ROOH)と新たな炭化水素ラジカル(R・)を生じる。
【0061】
【化2】
【0062】
そして、新たに生成した炭化水素ラジカル(R・)は、反応式(1)にしたがって、別の過酸化ラジカル(ROO・)を生成し、過酸化ラジカル(ROO・)は、反応式(2)にしたがって、別の過酸化物(ROOH)を生成する。過酸化物(ROOH)も、不安定であるため、反応式(3)~(5)のように、新たなオキシラジカル(RO・)、過酸化ラジカル(ROO・)等を生成する。
【0063】
【化3】
【0064】
【化4】
【0065】
【化5】
【0066】
酸素が存在する大気中や酸素が存在する配管内では、このような酸化の伝播反応によって、最初に発生した炭化水素ラジカル(R・)が新たなラジカルを多数増殖させて、分子鎖の架橋や崩壊を進行させる。そのため、樹脂の劣化が加速的に進み、応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなる。
【0067】
また、酸素が存在する大気中や酸素が存在する配管内では、放射線や紫外線によって、オゾンが生成されることがある。オゾンは、二重結合を持つポリエチレンに対する反応性が高く、ポリエチレンとの反応によってオゾナイドを生成する。オゾナイドは不安定であるため、O-O結合が切断して、アルデヒド、ケトン、エステル、ラクトン、過酸化物等が生成される。このような反応で起こる分子の分解は、樹脂に微小なクラック(オゾンクラック)を形成することが知られている。
【0068】
特に、ポリエチレン管に1MPa程度以上の流体圧力、土圧等がかかる場合、分子鎖が伸長した状態となり易いため、オゾンの浸透率が高まると共に、特定の部位に応力が集中し易くなる。このような場合、オゾンクラックの発生の可能性や、オゾンクラックを起点とする破壊の可能性が高まる。
【0069】
また、汚染水、排水等の水が流される配管内では、水の放射線分解によって、過酸化水素や酸素が生成されることがある。過酸化水素は、配管内に塩化物イオン等が存在している場合に、次亜塩素酸、過塩素酸等を生じる。これらの化学物質は、樹脂のマトリックスに拡散・浸透し、樹脂に流体圧力等が加わったとき、応力と相乗的に作用してケミカルクラックを生じる。配管の内表面にケミカルクラックが発生すると、配管の内側から割れや破裂を生じる可能性が高くなる。
【0070】
また、ポリエチレン管は、高温の流体の輸送に用いられることもある。分子の分解をもたらす様々な素反応は、分子運動、すなわち、分子の振動や衝突確率とも関係している。分子運動は、高温になるほど激しくなるため、ポリエチレンが高温に晒されると、分子鎖の架橋や崩壊が加速し、樹脂の劣化が著しく進行する。
【0071】
特に、酸化反応を伴う系では、温度が、酸化層の厚さや、酸素の拡散速度や、酸化分解の反応速度に影響を及ぼすため、分子の酸化分解が益々加速される。一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になる。そのため、ポリエチレン管を高温の流体の輸送に用いる場合等に、ポリエチレンが高温に晒されると、酸化劣化が加速して分子鎖の架橋や崩壊が進み、樹脂の劣化が著しくなる。
【0072】
このような放射線、紫外線、熱等によるポリエチレンの劣化は、弾性率、引張強さ、伸び等の種々の特性を低下させて、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等を悪化させる。放射線環境、紫外線環境、高温環境等の過酷環境下でポリエチレン製の配管や継手の使用が続けられると、内圧、外圧、衝撃等が加わったり、化学物質に晒されたりした場合に、応力破壊やクリープ破壊が起こり、き裂、割れ、管体の破裂等の不具合が生じて、流体の漏洩等の問題を生じる。
【0073】
これに対し、導管1の内外両面をガスバリアフィルム2で覆うと、酸素ガスの透過が妨げられ、酸化の伝搬反応が抑止されるため、高放射線量下であっても、導管1の酸化劣化が抑制される。ガスバリアフィルム2は、過酸化水素、次亜塩素酸、過塩素酸等の化学物質や、化学物質が生成するガスの透過も妨げるため、導管1の内側からの劣化も抑制することができる。また、導管1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、放射線や紫外線の作用で発生したラジカルを、オイルの成分によって捕捉することができる。
【0074】
一般に、ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の様々な外的因子によって、き裂、割れ等を生じるが、外的因子の種類によらず、いずれの破壊モードであっても、伸びが低下し、破面に白化が現れる特徴がある。破面には、白化やクラックが発生しており、ボイドとフィブリルが存在している。白化は、ボイドの形成による光のミー散乱によって起こる現象である。白化は、ボイドとフィブリルで構成された損傷形態であるクレイズ破壊が生じたことを示している。
【0075】
一般に、ポリエチレンの引張による破断は、次の(A)~(D)の順に進行することが知られている。
(A)引張降伏直後に発生するひずみの局所化領域の伝播
(B)クレイズ破壊領域の伝播
(C)クレイズ破壊の集中部で分子鎖切断やクラックが発生
(D)ポリマ破断
【0076】
また、結晶レベルでは、引張により次のような変化を生じることが知られている。
(a)分子レベルの結晶の破壊(分子鎖剥離)
(b)結晶のブロック状破壊(分子鎖剥離)
(c)結晶内での分子のすべり回転(変化小)
【0077】
これらのうち、(a)及び(b)では、結晶領域が破壊され、非晶領域が増加する。また、分子鎖が結晶領域から剥離し、ボイドやフィブリルが形成されて、クレイズ破壊が起こる。しかし、(c)では、結晶領域のダメージは少なく、非晶領域は殆ど増加しない。
【0078】
このような機構で増加する非晶領域は、応力割れをはじめとする破壊の起点となる。そのため、ボイドやフィブリルの形成やクレイズ破壊の発生をできるだけ阻止し、配管の内部からの流体圧力や、配管の外部からの土圧等が加わったとき、脆性破壊やクリープ破壊を生じないようにすることが望ましい。
【0079】
これに対し、導管1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、ポリエチレンの結晶内に存在する分子のすべり性を大きく向上させることができる。結晶レベルの変化を結晶内での分子のすべり回転に転換することにより、ボイドやフィブリルの形成や、クレイズ破壊を低減し、非晶領域を拡大し難くすることができるため、高密度ポリエチレンの劣化による脆性破壊やクリープ破壊を低減することができる。
【0080】
また、ナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンとSP値が近く、相溶性が良好である。導管1にナフテンを含有するオイルを添加すると、オイルを結晶内の分子の細部にまで浸透させて、結晶内での分子のすべり性を大きく向上させることができる。そのため、分子レベルの結晶の破壊や、結晶のブロック状破壊を抑制しつつ、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くすることができる。
【0081】
また、ナフテンを含有するオイルは、低温においても常温に近い流動性を示す。一般に、高分子材料は低温脆化を起こし易く、高密度ポリエチレンは低温における耐衝撃性が低い欠点を持つので、結晶内やタイ分子の周辺において分子のすべり回転を生じ易くすることが重要である。導管1にナフテンを含有するオイルを添加すると、結晶内やタイ分子の周辺に浸透したオイルが、低温においても高い流動性を保ち、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くするため、低温脆化に対する耐性や、低温における耐衝撃性を向上させることができる。
【0082】
一方、アロマティックスを含有するオイルは、粘度指数が高く、広い温度範囲において高密度ポリエチレンから染み出し難い特徴を有している。そのため、導管1にアロマティックスを含有するオイルを添加すると、オイルの添加による効果が長時間にわたって持続する。
【0083】
また、アロマティックスを含有するオイルは、引火点が高い特徴を有している。そのため、添加剤としてアロマティックスを含有するオイルを用いると、高密度ポリエチレン管10を安全に製造することができる。
【0084】
また、アロマティックスを含有するオイルは、硫黄分等の不純物を含んでいたり、酸価が高かったりすることが多い。硫黄分や、アルデヒド、カルボン酸等は、ラジカル反応に関与し易いため、オイル自体が犠牲的に劣化することで、導管1の劣化を抑制する効果が得られる。
【0085】
また、ナフテンを含有するオイルや、アロマティックスを含有するオイルは、ポリエチレンを軟化させる作用を示す。一般に、ポリエチレンは、放射線環境下で使用を続けた場合、硬くなり容易に脆化する。しかし、導管1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、高密度ポリエチレン自体が軟化するため、放射線による脆化を生じ難くすることができる。
【0086】
ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルの添加量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、0.1質量部以上7質量部以下とすることが好ましく、1質量部以上7質量部以下とすることがより好ましい。添加量が7質量部を超えると、オイルが染み出すため、適切な配合が困難になる。一方、添加量が0.1質量部未満であると、添加による十分な効果を得ることができない。これに対し、前記の添加量の範囲で添加量が多いほど、樹脂の劣化を抑制する効果や、ポリエチレンの分子のすべり性を向上させる効果が高くなる。
【0087】
樹脂に含まれるオイルの含有量は、例えば、赤外分光分析によって測定することができる。また、樹脂中における結晶領域及び非晶領域の増減は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry:DSC)を用いて調べることができる。一般的な高密度ポリエチレンでは、樹脂の劣化により結晶融解発熱量が大きく減少する。しかし、添加剤として、ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、結晶融解発熱量が殆ど減少しなくなる。
【0088】
融着防止フィルム3は、融点が150℃以上の樹脂からなる樹脂フィルムによって形成される。融着防止フィルム3によると、ガスバリアフィルム2を覆うように樹脂を加熱成形するとき、ガスバリアフィルム2への溶融樹脂の融着や、ガスバリアフィルム2への溶融樹脂からの伝熱を遮断することができる。ガスバリアフィルム2に他の層が融着していると、外力等が加わった場合に、ガスバリアフィルム2に大きな張力がかかる。また、ガスバリアフィルム2に溶融樹脂の熱が伝熱すると、ガスバリアフィルム2自体が溶融してしまう。しかし、融着防止フィルム3で融着や伝熱を遮断すると、ピンホールやクラックを生じなくなるため、ガスバリア性を健全に保つことができる。
【0089】
融着防止フィルム3は、一種の樹脂フィルムで構成されてもよいし、複数種の樹脂フィルムで構成されてもよい。なお、図において、融着防止フィルム3としては、内側の融着防止フィルム3aと、外側の融着防止フィルム3bと、が備えられているが、これらは、同じ層構成とされてもよいし、互いに異なる層構成とされてもよい。
【0090】
融着防止フィルム3は、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム、ポリイミドフィルム、又は、ポリアミドイミドフィルムで形成されることが好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートやポリアミドイミドは、融点が150℃以上である。また、ポリイミドは、150℃よりも高温(約500℃)で熱分解するまで溶融しない。そのため、これらの樹脂によると、導管1等を樹脂成形するときの加熱温度において、融着防止フィルム3自体が溶融するのを避けることができる。ガスバリアフィルム2の他の層への融着や溶融が防止されるため、ガスバリア性を健全に保つことができる。
【0091】
また、延伸ポリエチレンテレフタレートや、ポリイミドや、ポリアミドイミドは、芳香環を有しており、耐放射線性が高く、高放射線量下であっても物性が変化し難い。そのため、このような融着防止フィルム3を用いることにより、高密度ポリエチレン管10の製造後に、導管1やガスバリアフィルム2を、放射線、衝撃、外圧等から保護することができる。
【0092】
融着防止フィルム3は、管状に巻き付けたときの総厚さが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは50μm以上である。また、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。総厚さが10μm以上で厚いほど、融着や伝熱を抑制して、ガスバリアフィルム2のガスバリア性を健全に保つことができる。一方、総厚さが300μm以下で薄いほど、材料コストや巻回の手間が低減する。また、総厚さが20μm以上200μm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、有効な耐放射線性が得られる。
【0093】
内層4aは、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレン(LDPE)を主成分として形成することが好ましい。低密度ポリエチレンは、柔軟性、耐衝撃性、耐湿性、耐水性、耐薬品性等が高いため、低密度ポリエチレンを主成分とする内層4aによると、高密度ポリエチレン管10の内側を、衝撃や外圧、傷の発生、配管内の流体や化学物質等から保護することができる。特に、高放射線量下では、流体中に発生した過酸化水素が次亜塩素酸や過塩素酸を生成し、これらの化学物質がケミカルクラックを生じて割れや漏洩を引き起こす可能性がある。しかし、内層4aを設けると、過酸化水素、次亜塩素酸、過塩素酸等の化学物質が導管1側に浸透するのを抑制することができる。
【0094】
外層4bは、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレン(LDPE)を主成分として形成することが好ましい。低密度ポリエチレンは、柔軟性、耐衝撃性、耐湿性、耐水性、耐薬品性等が高いため、低密度ポリエチレンを主成分とする外層4bによると、高密度ポリエチレン管10の外側を、衝撃や外圧、傷の発生、配管外の化学物質、水蒸気、雨水、結露水等から保護することができる。
【0095】
一般的な二層管は、導管と被覆層とが融着しており、樹脂マトリックスが連続した構造を有している。そのため、被覆層の樹脂が劣化したとき、被覆層に生じた脆性破壊の衝撃や動的歪みが導管に向けて伝搬し易く、導管が応力割れ等を連鎖的に起こし易いという欠点がある。特に、被覆層が高密度ポリエチレンや中密度ポリエチレンである場合、柔軟性が高い低密度ポリエチレンと比較して、導管に向けて伝搬する衝撃や動的歪みは大きくなる。
【0096】
これに対し、高密度ポリエチレン管10では、導管1と内層4aとの間や、導管1と外層4bとの間に、ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3が介在している。ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3は、融着のように層同士が面接合で一体化した構造ではなく、フィルムの巻回によって層を形成する。これらのガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3は、衝撃や動的歪みの伝搬や、割れの進展を阻止する障壁として機能するため、導管1を内外両側から保護することができる。
【0097】
外層4bは、高密度ポリエチレン管10が屋外等の紫外線環境に晒される場合、添加剤としてカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を用いることができる。カーボンブラックが配合されていると、紫外線が吸収されるため、外層4b自体や導管1の劣化を抑制することができる。
【0098】
カーボンブラックは、外層4bあたりの含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である。含有量が1.0質量%以上で多いほど、紫外線を吸収する高い効果が得られるため、高密度ポリエチレン管10の耐候性を十分に向上させることができる。また、含有量が4.0質量%以下で少ないほど、カーボンブラックが樹脂中に凝集塊を生じ難くなるため、凝集塊が破壊の起点になるのを避けることができる。
【0099】
内層4aや外層4bの厚さは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上、更に好ましくは1.0mm以上である。また、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下である。厚さが0.4mm以上で厚いほど、高い保護性能が得られる。一方、厚さが4mm以下で薄いほど、所定の外径に対して十分な内径が確保されるし、材料コストが低減する。また、厚さが0.5mm以上3mm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、有効な耐放射線性が得られる。
【0100】
次に、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管の製造方法について説明する。
【0101】
高密度ポリエチレン管10(図1図2参照)は、筒状の内層4aを樹脂成形する工程と、成形された内層4aの外表面に内側のガスバリアフィルム2aを巻回する工程と、内側のガスバリアフィルム2aが巻回された管体の外表面に内側の融着防止フィルム3aを巻回する工程と、内側の融着防止フィルム3aが巻回された管体の外表面に導管1を樹脂成形する工程と、成形された導管1の外表面に外側のガスバリアフィルム2bを巻回する工程と、外側のガスバリアフィルム2bが巻回された管体の外表面に外側の融着防止フィルム3bを巻回する工程と、外側の融着防止フィルム3bが巻回された管体の外表面に筒状の外層4bを樹脂成形する工程と、を含む製造方法によって製造することができる。
【0102】
高密度ポリエチレン管10の内層4aは、ペレット等として用意される樹脂を加熱し、必要に応じて添加剤を加えて混練し、溶融した樹脂組成物を押出成形、射出成形等で筒状に樹脂成形して得ることができる。また、導管1や外層4bは、ペレット等として用意される樹脂を加熱し、必要に応じてオイル、カーボンブラック等の添加剤を加えて混練し、溶融した樹脂組成物を内側の層が形成された管体の外周に被覆成形して得ることができる。
【0103】
導管1や外層4bを被覆成形する方法としては、例えば、管体を回転させながらTダイ等で被覆成形する方法や、管体を回転させると共に引き取りながら適宜の形状のダイで被覆成形する方法や、管体を引き取りながら丸ダイ等で外周に押出成形する方法等を用いることができる。
【0104】
原料として用いる樹脂組成物の製造時や、高密度ポリエチレン管の製造時において、添加剤は、ドライブレンドしてもよいし、ペレット等の樹脂組成物に予め配合しておいてもよい。但し、カーボンブラック等の固体の添加剤は、混練が不十分であると凝集して破壊の起点となり得る。そのため、添加剤は、予めマスターバッチとしてから混合することが好ましく、特に、オイルと混合した状態でマスターバッチとしてから混合することが好ましい。
【0105】
例えば、原料として用いる樹脂組成物の製造時、添加剤をドライブレンドする場合には、添加剤を配合して作製したマスターバッチペレットと、樹脂からなる樹脂ペレットとを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を、多数の孔(例えば、直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤に通して水中に押し出し、円盤面に平行に設置されているナイフで所定長さ(例えば、長さ3mm程度)に切断することによって、添加剤が配合された樹脂組成物ペレットを得ることができる。
【0106】
或いは、原料として用いる樹脂組成物の製造時、添加剤として配合するオイルは、溶融した樹脂組成物に単独で直接的に混合してもよい。例えば、マスターバッチペレットや樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入すると共に、マイクロチューブポンプ等を用いてオイルを一定の滴下速度で滴下し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を水中に押し出し、所定長さに切断することによって、添加剤が配合された樹脂組成物ペレットを得ることもできる。
【0107】
また、内層4aの形成時には、添加剤が配合された樹脂組成物ペレットのみを材料として用いてもよいし、添加剤を配合して作製したマスターバッチペレットと樹脂ペレットを材料として用いてもよい。例えば、これらのペレットを押出機(パイプ製造装置)のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、所定のダイスから円筒状に押し出し、引取機で引き取りながら必要に応じてサイジングを行い、冷却水槽等に通して冷却することによって、筒状の内層4aを形成することができる。
【0108】
また、導管1の形成時や、外層4bの形成時には、添加剤が配合された樹脂組成物ペレットのみを材料として用いてもよいし、添加剤を配合して作製したマスターバッチペレットと樹脂ペレットを材料として用いてもよい。例えば、これらのペレットを押出機に供給し、押出機中で加熱溶融し、所定のダイスから内側の層が形成されている管体の外表面に押し出し、必要に応じてサイジングを行い、冷却することによって、導管1や筒状の外層4bを形成することができる。導管1の形成時や、外層4bの形成時には、内側の層の溶融やフィルムの融着を防止するため、管体の内表面側を冷却しながら樹脂成形することが好ましい。
【0109】
混練機としては、バンバリーミキサ等の回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダ等の各種の混練機を用いることができる。また、押出機としては、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等を用いることができる。ダイスは、ストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイス等のいずれのタイプであってもよい。また、サイジングは、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法で行ってもよい。
【0110】
ポリエチレンの混練温度は、120℃以上250℃以下とすることが好ましい。バンバリーミキサを用いる場合、例えば、180℃で10分間の混練等で、十分に溶融した樹脂組成物を得ることができる。なお、ポリエチレンの樹脂組成物は、ポリエチレン100質量部に対して0.1~5質量部の範囲であれば、酸化チタンが配合されていてもよい。
【0111】
ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3は、塗布成形等の適宜の方法で得ることができる。また、ガスバリアフィルム2として用いる多層フィルムは、共押出法、ラミネート法等の適宜の方法で得ることができる。多層フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び、二軸延伸フィルムのいずれによって形成されてもよい。多層フィルムは、高強度や優れたガスバリア性を得る観点からは、二軸延伸フィルムで形成することが好ましい。
【0112】
ガスバリアフィルム2は、内側の層が形成された管体の外表面を覆うように、巻き付け機や手巻きで巻回することができる。内層4aや導管1は、ガスバリアフィルム2の巻回前に、水冷や空冷によって、少なくとも熱融着を生じない温度まで冷却しておくことが好ましい。ガスバリアフィルム2の巻き方は、一重巻き、多重巻き、及び、螺旋巻きのうち、いずれの巻き方としてもよい。但し、ガスバリア性を確実に発揮させる観点からは、任意の重なり幅を設けた巻き方が好ましい。例えば、フィルム幅の1/2以上となる重なり幅を設けた多重巻き又は螺旋巻きが好ましい。
【0113】
融着防止フィルム3は、内側の層が形成された管体に巻回されているガスバリアフィルム2の外表面を覆うように、巻き付け機や手巻きで巻回することができる。融着防止フィルム3の巻き方は、一重巻き、多重巻き、及び、螺旋巻きのうち、いずれの巻き方としてもよい。但し、外側の層を樹脂成形するときに、ガスバリアフィルム2に溶融樹脂が融着したり、溶融樹脂の熱でガスバリアフィルム2が溶融したりするのを避ける観点からは、任意の重なり幅を設けた巻き方が好ましい。例えば、フィルム幅の1/2以上となる重なり幅を設けた多重巻き又は螺旋巻きが好ましい。
【0114】
次に、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管の層構成を変えた別の形態について説明する。
【0115】
図3は、本発明に係る高密度ポリエチレン管の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管10Aは、図1に示す高密度ポリエチレン管10と同様に、流体の通路を形成する筒状の導管1と、導管1の内表面を覆う内側のガスバリアフィルム2aと、導管1の外表面を覆う外側のガスバリアフィルム2bと、外側のガスバリアフィルム2bの外表面を覆う外側の融着防止フィルム3bと、外側の融着防止フィルム3bの外表面を覆う外層4bと、を備えている。
【0116】
また、高密度ポリエチレン管10Aは、導管1の内側に、内側のガスバリアフィルム2aの内表面を覆う内層4aを備えている。図3に示す高密度ポリエチレン管10Aが、図1に示す高密度ポリエチレン管10と異なる点は、導管1と内側のガスバリアフィルム2aとの間ではなく、内側のガスバリアフィルム2aと内層4aとの間に、内側の融着防止フィルム3aを備えている点である。
【0117】
高密度ポリエチレン管10A(図3参照)は、筒状の導管1を樹脂成形する工程と、成形された導管1の外表面に外側のガスバリアフィルム2bを巻回する工程と、外側のガスバリアフィルム2bが巻回された管体の外表面に外側の融着防止フィルム3bを巻回する工程と、外側の融着防止フィルム3bが巻回された管体の外表面に筒状の外層4bを樹脂成形する工程と、内側のガスバリアフィルム2a及び内側の融着防止フィルム3aを巻回して導管1の内側に配置する工程と、内側のガスバリアフィルム2a及び内側の融着防止フィルム3aが巻回されて配置された管体の内表面に筒状の内層4aを樹脂成形する工程と、を含む製造方法によって製造することができる。
【0118】
高密度ポリエチレン管10Aの導管1は、ペレット等として用意される樹脂を加熱し、必要に応じてオイル等の添加剤を加えて混練し、溶融した樹脂組成物を押出成形、射出成形等で筒状に樹脂成形して得ることができる。また、外層4bは、ペレット等として用意される樹脂を加熱し、必要に応じてカーボンブラック等の添加剤を加えて混練し、溶融した樹脂組成物を内側の層が形成された管体の外周に被覆成形して得ることができる。また、内層4aは、ペレット等として用意される樹脂を加熱し、必要に応じて添加剤を加えて混練し、溶融した樹脂組成物を外側の層が形成された管体の内周に被覆成形して得ることができる。
【0119】
内層4aを被覆成形する方法としては、例えば、管体を回転させながら管体の内側に挿入可能な適宜の形状のダイで管体の内表面に被覆成形する方法や、管体の内側にパリソン状の樹脂組成物を挿入し、その樹脂組成物を管体の内側からのガスブロー等で管体の内表面に融着させてから冷却する方法等を用いることができる。
【0120】
高密度ポリエチレン管10Aの内側のガスバリアフィルム2aや内側の融着防止フィルム3aは、外側の層が形成された管体の内表面を覆うように、巻き付け機や手巻きで巻回することができる。例えば、導管1の内側に挿入可能な巻き付け機を用いて巻回しながら導管1の内側に配置する方法や、導管1の内側に挿入可能な筒状又は柱状の基材の外周に、ガスバリアフィルム2aや融着防止フィルム3aを予め巻回し、その基材を導管1の内側に挿入し、巻回された状態のフィルムを導管1の内面に付着させて基材のみを引き抜く方法等を用いることができる。基材としては、外表面にポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ワックス等の離型剤を塗布した基材や、離型シートを巻回した基材等を用いることが好ましい。
【0121】
以上の層構成を変えた高密度ポリエチレン管10A(図3参照)によると、前記の高密度ポリエチレン管10(図1参照)と比較して、導管1を単独で樹脂成形することができるため、導管1の樹脂成形の条件・設計の自由度が制約され難くなる。なお、高密度ポリエチレン管10Aの製造において、導管1の内外両側の層を形成する順序は、特に制限されるものではない。また、高密度ポリエチレン管10Aの機能、各層の主な構成、製造に用いるその他の操作・装置等は、前記の高密度ポリエチレン管10と同様にすることができる。
【0122】
次に、本実施形態に係る高密度ポリエチレン製の継手について説明する。
【0123】
本実施形態に係る継手は、前記の高密度ポリエチレン管10,10Aと同様の層構成を有する。具体的には、本実施形態に係る継手は、流体の通路を形成する筒状の導管部(導管1)と、導管部(導管1)の内表面を覆う内側のガスバリアフィルム2aと、導管部(導管1)の外表面を覆う外側のガスバリアフィルム2bと、外側のガスバリアフィルム2bの外表面を覆う外側の融着防止フィルム3bと、外側の融着防止フィルム3bの外表面を覆う外層4bと、を備える。
【0124】
また、本実施形態に係る継手は、前記の高密度ポリエチレン管10,10Aと同様に、導管部(導管1)の内側に、内側のガスバリアフィルム2aの内表面を覆う内層4aを備えることができる。また、前記の高密度ポリエチレン管10,10Aと同様に、導管部(導管1)と内側のガスバリアフィルム2aとの間、又は、内側のガスバリアフィルム2aと内層4aとの間に、内側の融着防止フィルム3aを備えることができる。
【0125】
本実施形態に係る継手は、寸法、形状、接続法等が、特に制限されるものではない。接続法としては、メカニカル式、エレクトロフュージョン式、ねじ込み式等のいずれであってもよい。本実施形態に係る継手は、管が連結される胴部が前記の高密度ポリエチレン管10,10Aと同様に、高密度ポリエチレン製の導管部(導管1)、ガスバリアフィルム2、融着防止フィルム3を有する限り、フランジ、ナット、サドル、シール材等を付属していてもよい。
【0126】
本実施形態に係る継手は、例えば、前記の高密度ポリエチレン管10,10Aと同様に、押出成形、射出成形等で胴部となる筒状の内層4a又は導管部(導管1)を樹脂成形し、内外両面に巻回されたガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3を配置し、各融着防止フィルム3の表面に外層4bや内層4aを樹脂成形し、管継手に必要な二次加工を施すことによって製造することができる。
【0127】
以上の本実施形態に係る高密度ポリエチレン管及び継手によると、導管の内外両側がガスバリアフィルムで覆われるため、大気中の酸素や、配管内の酸素による導管の酸化劣化を抑制することができる。そのため、高密度ポリエチレン管や継手が、高線量の放射線、大気中の酸素、配管内の気相部に存在する酸素、配管内の流体中に溶存している酸素、夏場の屋外のような強い紫外線、酸性雨等に長時間晒される場合や、高濃度ないし高線量の放射性物質を含む流体、高温の流体等に長時間接触する場合等であっても、酸化の伝播反応が抑えられ、放射線、紫外線、酸素、熱等の外的因子による導管の劣化が大幅に抑制される。また、配管内を流れる流体が放射線分解等によって高活性の化学物質を生成したり、配管内に薬品等の化学物質が流されたりすることがあっても、これらの化学物質が導管側に拡散・浸透し難くなり、ケミカルクラックが抑制される。
【0128】
また、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管及び継手によると、外側のガスバリアフィルムが外層で覆われるため、外部から土圧、衝撃、荷重等が加わった場合にガスバリアフィルムが損傷するのが防止されるし、ガスバリアフィルム自体や導管が放射線や紫外線で劣化するのも抑制される。また、内側のガスバリアフィルムが内層で覆われるため、配管内を流れる異物が衝突する場合や、配管の内側から流体圧力が加わる場合等に、ガスバリアフィルムの損傷が防止されるし、配管の内側からの化学物質の拡散・浸透がより抑制される。更に、ガスバリアフィルムの外側が融着防止フィルムで覆われるため、ガスバリアフィルムの健全性を保ちつつ、加熱溶融させた樹脂で外層を樹脂成形することができる。配管の最表面に保護テープを巻回するような場合とは異なり、樹脂成形された外層は、隙間・孔を生じ難く、剥離し難いため、外的因子に対する耐性が向上する。
【0129】
よって、高密度ポリエチレン管及び継手に、流体圧力、土圧、その他、衝撃、荷重等が加わった場合にも、環境応力き裂やクリープ破壊が生じ難くなり、き裂、脆性割れ等が発生したり、配管等が破裂したりするのが防止される。すなわち、ポリエチレンが持つ脆性破壊割れを起こし易いという本質的な欠点を、抜本的に改善することができる。目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力が集中して脆性破壊や応力き裂を起こし難く、十分な伸び、弾性が得られるため、耐応力環境き裂性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0130】
特に、通常環境だけでなく、高線量の放射線環境、夏場の屋外等の紫外線環境、夏場等の高温環境、高濃度の酸素や酸性雨に晒される環境等、種々の過酷環境下においても、樹脂の劣化による脆性破壊やクリープ破壊が低減する高密度ポリエチレン管や継手が得られる。また、長期静水圧強度、弾性、耐環境応力き裂性、耐衝撃性等が長期間にわたって低下し難く、脆性破壊割れや破裂に至り難い高密度ポリエチレン管や継手が得られる。
【0131】
なお、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管及び継手は、用途が特に制限されるものではない。高密度ポリエチレン管及び継手は、適宜の環境で用いることができる。また、高密度ポリエチレン管及び継手は、水、海水等の適宜の流体の輸送に用いることができる。特に、高密度ポリエチレン管や継手は、原子力関連施設における水、海水、汚染水、建屋内滞留水等の輸送に好適である。
【0132】
例えば、原子力関連施設においては、数十~数百本の原子力設備用配管が張り巡らされ、複数の汚染水滞留エリアと接続されている。これらの配管の全長は、一般に、約10km~20km程度ある。高密度ポリエチレン管や継手は、このような汚染水を処理したり、建屋内からの排水を処理したりする原子力設備用配管の用途に好適に用いることができる。
【0133】
高密度ポリエチレン管や継手によると、放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下ないし屋外での流体の輸送を、長期間にわたって健全且つ確実に行うことができる。高濃度の放射性物質を含む流体を取り扱う場合においても、長期にわたる使用が可能であり、取替えや点検の頻度が縮減されるため、敷設・装着のための工数や機材数、施工者や点検者の被曝の危険性等を大幅に低減することができる。
【0134】
以上、本発明に係る高密度ポリエチレン管及び継手の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0135】
例えば、前記の高密度ポリエチレン管及び継手は、内側に内層4aを備えているが、内側のガスバリアフィルム2aや融着防止フィルム3aの種類や厚さ、配管内を流される流体の種類、流体に含まれる異物の濃度等によっては、内層4aを設けなくてもよい。内層4aを設けない場合、ガスバリアフィルム2aの内側の融着防止フィルム3aも設けなくてもよい。
【0136】
内層4aを設けない場合、導管1の内側に挿入可能な筒状又は柱状の基材の外周に、ガスバリアフィルム2aを予め巻回し、その基材を導管1の内側に挿入し、巻回された状態のフィルムを導管1の内面に付着させて基材のみを引き抜く方法によって、高密度ポリエチレン管を製造することができる。
【0137】
また、前記の高密度ポリエチレン管及び継手は、導管1と、ガスバリアフィルム2と、融着防止フィルム3と、内層4aと、外層4bと、を備えているが、導管1と外側のガスバリアフィルム2bとの間や、外側のガスバリアフィルム2bと外側の融着防止フィルム3bとの間等に、衝撃を緩衝する緩衝層等を設けることもできる。緩衝層は、例えば、密度が0.940g/cm未満のポリエチレンを主成分とする樹脂や、その他のフィルム、テープ等で設けることができる。
【実施例
【0138】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0139】
ナフテンを含有するオイル及びアロマティックスを含有するオイルの添加量や、ガスバリアフィルムの層構成を変えて高密度ポリエチレン管の試験片を作製し、放射線照射処理後の引張破断伸びを評価した。
【0140】
導管としては、チーグラー触媒を使用して製造された高密度ポリエチレンを用いた。高密度ポリエチレンの基材に、添加剤として、ナフテンを含有するオイル、又は、アロマティックスを含有するオイルを配合し、バンバリーミキサを用いて180℃で10分間混練し、高密度ポリエチレン管用のペレットを造粒した。そして、このペレットを射出成形機に投入し、円筒状の導管を成形した。
【0141】
続いて、成形した導管の外周のみ、又は、外周と内周の両方に、巻き付け機を用いてガスバリアフィルムを巻回し、外側のガスバリアフィルムの外周に、融着防止フィルムを巻回した。そして、融着防止フィルムの外周に、カーボンを配合した密度が0.910g/cm以上0.930g/cm以下の低密度ポリエチレンを押出成形して外層を形成し、高密度ポリエチレン管を得た。
【0142】
作製した高密度ポリエチレン管から、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)JIS K 7162に記載されている1B形のダンベル形状の試験片を作製した。そして、作製した試験片に対し、60Co線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で照射した。吸収線量は、1200kGyとした。
【0143】
<引張試験>
引張試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル形状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B 7721に記載の装置を使用した。試験片の厚さと平行部の幅を測定し、伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、試験速度25mm/min、室温で引張試験を行った。標線間距離は50mmとした。引張試験を行って試験片の破断時の標線間距離を測定し、下記数式(1)によって、破断時の伸びを算出した。なお、数式(1)において、EBは破断時の伸び(%)、L0は標線間距離(mm)、L1は破断時の標線間距離(mm)をそれぞれ示している。
【0144】
【数1】
【0145】
以下、ナフテンを含有するオイルの添加量を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0146】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが所定値であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0147】
図4A及び4Bは、添加剤として用いたオイルの%CNと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図4A及び4Bにおいて、横軸は、添加剤として用いたオイルの%CN(%)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図4Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図4Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0148】
図4Aに示すように、添加剤としてナフテンを含有するオイルを添加した場合、%CNが20%以上60%以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図4Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図4Aよりも若干上昇し、%CNが10%以上60%以下で引張破断伸びが大きくなっている。
【0149】
次に、アロマティックスを含有するオイルの添加量を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0150】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CAが所定値であり、%CNが40%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0151】
図5A及び5Bは、添加剤として用いたオイルの%CAと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図5A及び5Bにおいて、横軸は、添加剤として用いたアロマティックスを含有するオイルの%CA(%)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図5Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図5Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0152】
図5Aに示すように、添加剤としてアロマティックスを含有するオイルを添加した場合、%CAが5%以上60%以下、特に5%以上40%以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図5Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図5Aよりも若干上昇し、%CNが5%以上80%以下、特に15%以上60%以下で引張破断伸びが大きくなっている。
【0153】
次に、ガスバリアフィルムのLLDPEのMFRを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0154】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μmのフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0155】
図6A及び6Bは、ガスバリアフィルムに用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図6A及び6Bにおいて、横軸は、ガスバリアフィルムの表面層として用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFR(g/10分)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図6Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図6Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0156】
図6Aに示すように、ガスバリアフィルムの表面層として用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRが、0.8g/10分以上10g/10分以下で、引張破断伸びが400%を超えており、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図6Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図6Aよりも若干上昇し、MFRが3g/10分以下で引張破断伸びが大きくなっている。
【0157】
次に、ガスバリアフィルムの総厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0158】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0159】
図7A及び7Bは、ガスバリアフィルムの総厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図7A及び7Bにおいて、横軸は、ガスバリアフィルムを導管の外周に巻き付けたときの総厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図7Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図7Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0160】
図7Aに示すように、ガスバリアフィルムの総厚さが、50μm以上400μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図7Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図7Aよりも若干上昇している。
【0161】
次に、ガスバリアフィルムのEVOHの厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0162】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0163】
図8A及び8Bは、ガスバリアフィルムに用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図8A及び8Bにおいて、横軸は、ガスバリアフィルムの中間層として用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図8Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図8Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0164】
図8Aに示すように、ガスバリアフィルムの中間層として用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さが、6μm以上50μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図8Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図8Aよりも若干上昇している。
【0165】
次に、融着防止フィルムの厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0166】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0167】
図9A及び9Bは、融着防止フィルムの厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図9A及び9Bにおいて、横軸は、融着防止フィルムの厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図9Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図9Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0168】
図9Aに示すように、融着防止フィルムの厚さが、20μm以上200μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図9Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図9Aよりも若干上昇している。
【0169】
次に、外層の厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0170】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0171】
図10A及び10Bは、外層の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図10A及び10Bにおいて、横軸は、外層の厚さ(mm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。図10Aは、導管の外周のみにガスバリアフィルムを巻回した結果、図10Bは、導管の外周と内周の両方に同種のガスバリアフィルムを巻回した結果である。
【0172】
図10Aに示すように、外層の厚さが、0.5mm以上3mm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。図10Bに示すように、内側のガスバリアフィルムがある場合、引張破断伸びは図10Aよりも若干上昇している。
【0173】
次に、ガスバリアフィルムの層構成を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果、及び、ケミカルクラックの確認結果を示す。
【0174】
なお、導管としては、密度が0.95g/cmの高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが32%であり、%CAが10%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、EVOHの厚さが6μmの多層フィルムを、巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。外層としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0175】
【表1】
【0176】
表1に示すように、ガスバリアフィルムの表面層として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いると、低密度ポリエチレン(LDPE)の場合と比較して、放射線劣化が抑制された。ガスバリアフィルムがいずれの種類であっても、高い耐放射線性が得られ、ケミカルクラックの発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0177】
1 導管,導管部
2 ガスバリアフィルム
3 融着防止フィルム
4a 内層
4b 外層
10 高密度ポリエチレン管
21 中間層
22 表面層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B