(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】粗度断面曲線評価方法、粗度解析装置及び粗度解析プログラム並びに粗度計測方法及び粗度計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/30 20060101AFI20221201BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20221201BHJP
G01B 5/28 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G01B21/30 102
G01B11/30 102Z
G01B5/28 102
(21)【出願番号】P 2019029459
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三重野 紘央
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-178470(JP,A)
【文献】特開2008-304332(JP,A)
【文献】特開2018-136149(JP,A)
【文献】特開2004-125632(JP,A)
【文献】特開平03-251701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/30
G01B 11/30
G01B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の測定断面曲線から該測定対象の表面粗度評価を行う粗度断面曲線評価方法であって、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを生成し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを生成し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を生成する、粗度断面曲線評価方法。
【請求項2】
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出する、請求項1に記載の粗度断面曲線評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粗度断面曲線評価方法をコンピュータにより実行させるための粗度解析プログラム。
【請求項4】
請求項3に記載の粗度解析プログラムを記録したコンピュータ可読記録媒体。
【請求項5】
測定対象の測定断面曲線から該測定対象の表面粗度評価を行う粗度解析装置であって、
前記測定対象の測定断面曲線を特定可能な測定断面曲線特定データをデータ入力可能な入力手段と、
前記測定断面曲線特定データに基づき、前記測定対象の測定断面曲線を生成するとともに、前記測定対象の測定断面曲線から表面粗度パラメーターを算出する演算装置と、
を備え、
前記演算装置が、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを取得し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを取得し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を取得するように構成される、粗度解析装置。
【請求項6】
前記演算装置が、
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出するように構成される、請求項5に記載の粗度解析装置。
【請求項7】
測定対象の表面粗度を計測する粗度計測方法であって、
変位計によって、X軸方向の一定間隔毎に変位を測定することにより変位データを取得することによって、前記測定対象の測定断面曲線を生成し、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを生成し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを生成し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を生成する、粗度計測方法。
【請求項8】
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出する、請求項7に記載の粗度計測方法。
【請求項9】
変位計と、
前記変位計をX軸方向に移動させる移動機構と、
前記変位計のX軸方向の移動距離を読み取る移動距離計測装置と、
前記変位計により取得された変位データと、前記移動距離計測装置により取得された移動距離データとに基づき、測定対象の測定断面曲線を生成するとともに、前記測定対象の測定断面曲線から表面粗度パラメーターを算出する演算装置と、
を備える粗度計測装置であって、
前記演算装置が、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを取得し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを取得し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を取得するように構成される、粗度計測装置。
【請求項10】
前記演算装置が、
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出するように構成される、請求項9に記載の粗度計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体や構造物などの表面粗度を評価するために測定装置によって取得される粗度断面曲線から、測定装置固有のノイズを除去する粗度断面曲線評価方法、粗度解析装置及び粗度解析プログラム、並びに、このような粗度断面曲線評価方法を採用する粗度計測方法及び粗度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面粗度形状は、その表面の摩擦特性を把握する上で重要である。近年では、非特許文献1に示すように、物体表面の水流摩擦特性の把握には、粗度高さだけではなく、波長等を含めた形状パラメーターの測定の重要性が示されている。
【0003】
非特許文献1では、船体の表面粗度(塗膜表面粗度)に関する評価について述べられており、船体塗膜表面粗度の評価には、波長の評価が重要であることが示されている。また、粗度のパラメーターを評価する場合、その粗度の波長に対して十分な水平方向の解像度を有する測定が必要となる。
【0004】
しかしながら、水平方向の解像度を上げた場合、測定装置固有のノイズが粗度断面曲線に現れる場合がある。測定装置固有のノイズの原因としては、例えば、触針や光プローブ(レーザー)の機械的振動、電気信号に乗る熱雑音などの電気的ノイズ、レーザー光の散乱などによるものが考えられる。
【0005】
このような測定装置固有のノイズを除去する方法として、例えば、非特許文献2のように短波長λSを非通過とするフィルタを用いる方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】三重野 紘央、増田 宏、「船底塗料の塗膜表面粗度による抵抗増加について-船底外板塗料による船体抵抗低減」、日本マリンエンジニアリング学会誌、第48巻、第 3 号(2013)、p300-307
【文献】ISO 4287、 「Geometrical Product specifications (GPS)-Surface texture : Profile method: Terms, definitions and surface texture parameters.」、 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献2に開示されている手法では、測定装置固有のノイズと、粗度形状の波長とが、同一領域にあり混在している場合には、短波長λSを非通過とするフィルタの適用により、粗度形状も同時に除去してしまうことになり、正確な粗度評価が行えないという問題がある。
【0008】
本発明では、このような現状に鑑み、測定装置固有のノイズと、粗度形状とが同一領域に混在する場合にも、粗度断面曲線から、測定装置固有のノイズのみを除去する粗度断面曲線評価方法、粗度解析装置及び粗度解析プログラム、並びに、このような粗度断面曲線評価方法を採用する粗度計測方法及び粗度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述するような従来技術における課題を解決するために発明されたものであって、本発明は、例えば、以下の態様を含む。
【0010】
[1] 測定対象の測定断面曲線から該測定対象の表面粗度評価を行う粗度断面曲線評価方法であって、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを生成し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを生成し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を生成する、粗度断面曲線評価方法。
【0011】
[2] 前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出する、項[1]に記載の粗度断面曲線評価方法。
【0012】
[3] 項[1]または[2]に記載の粗度断面曲線評価方法をコンピュータにより実行させるための粗度解析プログラム。
【0013】
[4] 項[3]に記載の粗度解析プログラムを記録したコンピュータ可読記録媒体。
【0014】
[5] 測定対象の測定断面曲線から該測定対象の表面粗度評価を行う粗度解析装置であって、
前記測定対象の測定断面曲線を特定可能な測定断面曲線特定データをデータ入力可能な入力手段と、
前記測定断面曲線特定データに基づき、前記測定対象の測定断面曲線を生成するとともに、前記測定対象の測定断面曲線から表面粗度パラメーターを算出する演算装置と、
を備え、
前記演算装置が、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを取得し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを取得し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を取得するように構成される、粗度解析装置。
【0015】
[6] 前記演算装置が、
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出するように構成される、項[5]に記載の粗度解析装置。
【0016】
[7] 測定対象の表面粗度を計測する粗度計測方法であって、
変位計によって、X軸方向の一定間隔毎に変位を測定することにより変位データを取得することによって、前記測定対象の測定断面曲線を生成し、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを生成し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを生成し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を生成する、粗度計測方法。
【0017】
[8] 前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出する、項[7]に記載の粗度計測方法。
【0018】
[9] 変位計と、
前記変位計をX軸方向に移動させる移動機構と、
前記変位計のX軸方向の移動距離を読み取る移動距離計測装置と、
前記変位計により取得された変位データと、前記移動距離計測装置により取得された移動距離データとに基づき、測定対象の測定断面曲線を生成するとともに、前記測定対象の測定断面曲線から表面粗度パラメーターを算出する演算装置と、
を備える粗度計測装置であって、
前記演算装置が、
前記測定対象の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記測定対象の粗度スペクトルを取得し、
予め測定した基準面の測定断面曲線をフーリエ変換することによって、前記基準面の粗度スペクトルを取得し、
前記測定対象の粗度スペクトルから、前記基準面の粗度スペクトルを減算することによって、前記測定対象の粗度スペクトルからノイズ除去を行い、
ノイズ除去後の前記測定対象の粗度スペクトルを逆フーリエ変換することによって、前記測定対象の断面曲線を取得するように構成される、粗度計測装置。
【0019】
[10] 前記演算装置が、
前記測定対象の断面曲線について、パラメーター解析することによって、前記測定対象の表面粗度パラメーターを算出するように構成される、項[9]に記載の粗度計測装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、測定された断面曲線をフーリエ変換することによって、ノイズの特性が現れやすい周波数領域においてノイズ除去を行っているため、測定対象である粗面特有の要素を除去することなく、正確な粗度評価を行うことができる。
【0021】
これにより、例えば、移動機構の偏心によって生じる長波長側の影響など、粗度測定装置固有のノイズを除去することができ、粗度測定装置の個体差によらず、正確な粗度評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の粗度解析装置を含む粗度計測装置の一例を説明するための概略構成図であり、
図1(a)は概略側面図、
図1(b)は概略正面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の粗度計測装置を用いて粗度断面曲線を評価する流れを説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例における粗面A~D及び基準面について取得された測定断面曲線における粗度スペクトルを示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例における粗面A~Dのノイズ除去後の粗度スペクトルを示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例における粗面A~Dの短波長ガウシアンフィルタ適用後の粗度スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいて、より詳細に説明する。
図1は、本発明の粗度解析装置を含む粗度計測装置の一例を説明するための概略構成図であり、
図1(a)は概略側面図、
図1(b)は概略正面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の粗度計測装置10は、二次元レーザー変位計12と、移動機構14と、移動距離計測装置16と、演算装置18と、二次元レーザー変位計12,移動距離計測装置16,演算装置18を動作させるための可搬型バッテリー20と、を備えている。
【0025】
二次元レーザー変位計12としては、特に限定されるものではないが、例えば、キーエンス社製LJ-V7080(基準距離におけるレーザー幅32mm)などを用いることができる。なお、本実施形態では、変位計として二次元レーザー変位計12を用いているが、本発明における変位計はこれに限定されることはなく、例えば、触針型変位計であってもよく、また、二次元レーザー変位計12以外のレーザー型変位計などであってもよい。
【0026】
また、二次元レーザー変位計12は、一定間隔毎にY軸方向の座標の変位データを一度に読み取れるように、二次元レーザー変位計12の幅方向が、移動機構14の移動方向(X軸方向)と垂直、すなわち、Y軸方向と一致するように配置されている。
【0027】
また、本実施例において、移動機構14は、所定方向(X軸方向)のみに移動可能な二対の車輪(すなわち、四輪)としているが、所定方向のみに移動可能な機構であれば特に限定されるものではなく、例えば、クローラーなどであってもよい。
【0028】
また、本実施例では、移動距離計測装置16として、ロータリーエンコーダーを用いており、移動機構14である車輪の回転数を読み取ることにより、車輪の周長と回転数とに基づいて移動距離を算出している。
【0029】
なお、移動距離計測装置16は、これに限らず、例えば、移動機構14と連動した円形スケールにより移動距離をスケールセンサーで読み取るような装置とすることもできる。
【0030】
また、演算装置18は、後述するように、二次元レーザー変位計12により取得される変位データや、移動距離計測装置16により取得される移動距離データなどの測定断面曲線を特定可能なデータ(本明細書においては、「測定断面曲線特定データ」と言う。)を入力可能なデータ入力手段19を備えるとともに、このような測定断面曲線特定データに基づき、表面粗度パラメーターなどを算出可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、タブレットコンピューターやスマートフォン、パーソナルコンピューターなどの外部端末に変位データと移動距離データとを送信して、この外部端末を演算装置18として演算処理を実施し、演算結果を外部端末に表示するように構成することができる。
【0031】
なお、演算装置18は、粗度計測装置10に内蔵することができる。この場合、粗度計測装置10に演算結果を表示する表示手段を設けてもよいし、データ出力手段を設けて、演算結果を上述するような外部端末に表示するように構成することもできる。
【0032】
演算装置18には、後述するように動作する粗度解析プログラムがインストールされており、粗度解析装置として動作する。
【0033】
また、可搬型バッテリー20としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉛蓄電池やニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池など、既存の二次電池を用いることもできる。
【0034】
なお、本実施形態において、可搬型バッテリー20を搭載することにより、持ち運び容易な粗度計測装置10としているが、二次元レーザー変位計12や演算装置18などの電源を、例えば、外部バッテリーや商用電源などから供給するように構成することも可能である。
【0035】
このように構成される本実施形態の粗度計測装置10は、以下のようにして、測定対象である粗面の断面曲線、及び、この断面曲線の解析によって得られる粗度パラメーターを算出することができる。
【0036】
図2は、本実施形態の粗度計測装置を用いて粗度断面曲線を評価する流れを説明するフローチャートである。
【0037】
まず、粗度計測装置10を移動機構14により基準面の表面上で移動させることにより、一定間隔毎に移動距離計測装置16により得られる移動距離に基づく移動距離データと、二次元レーザー変位計12により得られる変位データとを演算装置18に記録する。これにより、基準面の測定断面曲線が得られる(S1)。
【0038】
本明細書において、「基準面」とは、理想的には、一切の凹凸がない平滑面のことをいい、本実施形態においては、例えば、鏡面仕上げがなされた樹脂板や金属板など、表面の平滑度が高い平板を用いることができる。このような基準面を用いて取得された測定断面曲線には、粗度計測装置10固有のノイズのみが含まれている。
【0039】
また、基準面の測定断面曲線は、測定対象22の測定の都度、取得する必要はなく、予め取得しておき、演算装置18に記憶しておけばよい。なお、二次元レーザー変位計12の経時変化などを考慮すると、基準面の測定断面曲線を定期的に取得し、更新することが好ましい。
【0040】
次いで、粗度計測装置10を移動機構14により測定対象22の表面上で移動させることにより、一定間隔毎に移動距離計測装置16により得られる移動距離に基づく移動距離データと、二次元レーザー変位計12により得られる変位データとを演算装置18に記録する。これにより、測定対象22の測定断面曲線が得られる(S2)。
【0041】
演算装置18は、このようにして得られた基準面の測定断面曲線及び測定対象22の測定断面曲線について、それぞれフーリエ変換し、波長成分に分解する。これにより、各断面曲線を、波長λに対する振幅Hの関数として表す粗度スペクトルとすることができる(S3)。なお、演算装置18によるフーリエ変換としては、離散フーリエ変換(DFT)や高速フーリエ変換(FFT)などを用いることができる。
【0042】
次いで、演算装置18は、測定対象22の粗度スペクトルの各波長での振幅から、基準面の粗度スペクトルの各波長での振幅を減算する。
これにより、測定対象22の粗度スペクトルから、粗度計測装置10固有のノイズが除去されることになる(S4)。
【0043】
次いで、演算装置18は、ノイズ除去後の測定対象22の粗度スペクトルについて、逆フーリエ変換することによって、断面曲線を得ることができる(S5)。なお、演算装置18による逆フーリエ変換としては、逆離散フーリエ変換(IDFT)や逆高速フーリエ変換(IFFT)などを用いることができる。
【0044】
そして、演算装置18は、この断面曲線をパラメーター解析することによって、例えば、Rz(最大高さ粗さ)、RSm(要素の平均長さ)、RZJIS(十点平均粗さ)、Ra(算術平均粗さ)、Rq(二乗平均平方根粗さ)、Rc(粗さ曲線の平均高さ)、Rsk(スキューネス)、Rku(クルトシス)などの表面粗度パラメーターを算出する(S6)。
【0045】
断面曲線から表面粗度パラメーターを算出する方法は、例えば、ISO4287:1997やISO4288:1996などで規定された方法を用いることができる。
【0046】
なお、本発明の粗度解析装置を含む粗度計測装置、及び粗度断面曲線評価方法において、変位データ及び移動距離データの測定間隔は、いずれも制限されるものではないが、計測精度と計測時間のバランスの観点から、10μm~100μmとすることが好ましく、30μm~80μmとすることがより好ましい。
【0047】
[実施例]
このように構成される本実施形態の粗度計測装置10による測定対象22の表面粗度評価の具体例を以下に示す。
【0048】
本実施例においては、二次元レーザー変位計12のレーザーの幅方向(Y軸方向)に50μm間隔、進行方向(X軸方向)に62.5μm間隔で、幅方向に30mm、進行方向に32mmの範囲(X軸方向に513点、Y軸方向に601点)の変位データを各測定対象について測定し、断面曲線を取得した。
【0049】
測定対象として、粗面A,粗面B,粗面C,粗面Dの4つの粗面を測定した。また、同様の条件で、平滑面についても測定し、これを基準面とした。
【0050】
粗面A~D及び基準面について取得された測定断面曲線をそれぞれフーリエ変換し、波長成分に分解し、粗度スペクトルを取得した。
図3は、粗面A~D及び基準面について取得された測定断面曲線における粗度スペクトルを示すグラフである。なお、
図3では、粗度スペクトルのピークを詳細に確認するため、縦軸をH/λとしている。
【0051】
図3に示すように、粗面A~Dの粗度スペクトルには、各粗面特有のピークが現れているが、短波長側に粗面だけでなく基準面にも一様に現れるピークが確認できる。これは、全測定対象に一様に現れていることから、粗度計測装置10固有のノイズに起因するものであると考えられる。
【0052】
短波長側において、粗面のピークと粗度計測装置10固有のノイズとが混ざり合っているものもあり、この状態のまま、各粗面の測定断面曲線のパラメーター解析を行い、表面粗度パラメーターを算出したとしても、粗面の断面曲線を正確に評価することができない。
【0053】
表1は、粗面A~D及び基準面について取得された測定断面曲線について、パラメーター解析を行い算出された表面粗度パラメーターである。この表面粗度パラメーターには、粗度計測装置10固有のノイズを含むため、例えば、粗度高さに関するパラメーター(RzやRcなど)を過大評価し、粗度長さに関するパラメーター(RSmなど)を過小評価する恐れがある。
【0054】
【0055】
そこで、各粗面A~Dの粗度スペクトルから、基準面の粗度スペクトルを減算し、各粗面A~Dの粗度スペクトルから粗度計測装置10固有のノイズを除去した。
図4は、粗面A~Dのノイズ除去後の粗度スペクトルを示すグラフである。なお、
図4でも、
図3と同様に、粗度スペクトルのピークを詳細に確認するため、縦軸をH/λとしている。
【0056】
図4に示すように、
図3では短波長側に現れていた粗度計測装置10固有のノイズが除去され、各粗面の特徴のみを取得することが可能となっている。
【0057】
このようにして得られた粗面A~Dのノイズ除去後の粗度スペクトルについて、逆フーリエ変換を行い、粗面A~Dのノイズ除去後の断面曲線を得た。この断面曲線について、パラメーター解析を行い、表面粗度パラメーターを算出した。その結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
[比較例]
実施例1と同一の条件で、粗面A~Dの測定断面曲線を取得した。
このように取得した測定断面曲線に対して、ノイズ除去の方法としてISO4287:1997で規定されるように、カットオフ値λs(=1000μm)以下の短波長ガウシアンフィルタを適用した。
【0060】
短波長ガウシアンフィルタ適用後の測定断面曲線をフーリエ変換し、粗面A~Dの粗度スペクトルを取得した。
図5は、粗面A~Dの短波長ガウシアンフィルタ適用後の粗度スペクトルを示すグラフである。
【0061】
カットオフ値λsの短波長ガウシアンフィルタを適用した結果、短波長側に現れる粗度計測装置10固有のノイズが取り除かれているものの、粗面特有のピークの一部も同時に除去してしまっている。
【0062】
表3は、短波長ガウシアンフィルタ適用後の測定断面曲線について、パラメーター解析を行い算出された表面粗度パラメーターである。このように短波長ガウシアンフィルタを適用することによって、粗度計測装置10固有のノイズとともに、粗度の要素も同時に除去されてしまっているため、粗度高さに関するパラメーターを過小評価し、粗度長さに関するパラメーターを過大評価してしまっていることが明らかである。
【0063】
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
また、上述する粗度解析プログラムを記録した、例えば、磁気テープ(デジタルデータストレージ(DDS)など)、磁気ディスク(ハードディスクドライブ(HDD)、フレキシブルディスク(FD)など)、光ディスク(コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、ブルーレイディスク(BD)など)、光磁気ディスク(MO)、フラッシュメモリ(SSD(Solid State Drive)、メモリーカード、USBメモリなど)などのコンピュータ可読記録媒体も本発明の一態様として含まれる。
【符号の説明】
【0066】
10 粗度計測装置
12 二次元レーザー変位計
14 移動機構
16 移動距離計測装置
18 演算装置
19 データ入力手段
20 可搬型バッテリー
22 測定対象