(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】カテーテル組立体
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A61M25/06 500
A61M25/06 580
(21)【出願番号】P 2019051562
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】水野 慎一
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-501459(JP,A)
【文献】特表2002-511007(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01884257(EP,A1)
【文献】特表平10-500337(JP,A)
【文献】国際公開第2018/075435(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルと、
前記カテーテル内に挿入され、生体への穿刺時に血液を基端方向に流動可能な流路を有する内針と、
前記内針の基端側を保持する針ハブとを備えるカテーテル組立体であって、
前記針ハブは、前記流路を流動した血液を視認させる被視認部と、
前記流路に陰圧を付与する陰圧付与機構部とを備え
、
前記陰圧付与機構部は、前記針ハブ内で前記流路に連通し、前記被視認部を構成するチャンバ部と、
前記チャンバ部に移動可能に収容されるピストン部材とを備え、
前記ピストン部材の基端方向の移動に伴い、前記ピストン部材よりも先端側の前記チャンバ部に陰圧を生じさせ、
前記ピストン部材は、前記チャンバ部を囲う前記針ハブの壁部の全周にわたって密着するガスケット部と、
前記ガスケット部に連結され、当該ガスケット部の基端方向の移動を操作させる操作部とを含み、
前記ガスケット部は、前記操作部を前記針ハブの基端方向へスライド操作させることにより基端方向に移動し、
前記針ハブは、当該針ハブの軸方向に沿って延在する長孔を有し、
前記操作部は、前記チャンバ部から前記長孔を介して突出し、当該長孔に沿って移動可能なレバー部材であり、
前記レバー部材の基端方向への移動は、前記レバー部材が前記長孔の基端を構成する壁部に接触することにより規制される、
カテーテル組立体。
【請求項2】
請求項
1記載のカテーテル組立体において、
前記被視認部は、前記ピストン部材よりも先端側で前記チャンバ部を形成している壁部が透明に構成されることで、当該チャンバ部に流入した血液を視認させる
カテーテル組立体。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載のカテーテル組立体において、
前記操作部は、前記ガスケット部が前記チャンバ部を移動する可動域よりも基端側に設けられている
カテーテル組立体。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記操作部は、前記針ハブの延在方向中間位置よりも先端側に配置されている
カテーテル組立体。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記操作部は、前記針ハブの内方への押圧操作に基づき前記ガスケット部を基端方向に移動させる構造である
カテーテル組立体。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載のカテーテル組立体において、
前記
ガスケット部は、
前記操作部を前記針ハブの先端方向へスライド操作
させることにより基端方向に移動
する
カテーテル組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を基端方向に流動させることで血管の確保をユーザに確認可能とするカテーテル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液や輸血を行う際には、留置針として機能するカテーテル組立体を使用する。例えば、特許文献1に開示のカテーテル組立体(留置針)は、カテーテル(外針)と、カテーテル内に挿入される内針とにより多重構造針を形成している。このカテーテル組立体は、使用時にカテーテル及び内針が一体のまま患者に穿刺され、穿刺後にカテーテルから内針が離脱されることで、カテーテルが患者に留置される。
【0003】
また、特許文献1に開示のカテーテル組立体は、針ハブにシリンジを接続して構成され、内針が血管内に到達した際に、シリンジの陰圧付与下に内針の内腔を通して基端方向に血液を流動させ、シリンジ内に血液を導くように構成されている。これによりユーザは、内針が血管に達したこと(血管の確保)を認識することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のカテーテル組立体の技術に関連したものであり、より簡単な構成により基端方向への血液の流動を迅速化することで、処置の短時間化を促すと共に、処置を一層安全に実施させることができるカテーテル組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明の一態様は、カテーテルと、前記カテーテル内に挿入され、生体への穿刺時に血液を基端方向に流動可能な流路を有する内針と、前記内針の基端側を保持する針ハブとを備えるカテーテル組立体であって、前記針ハブは、前記流路を流動した血液を視認させる被視認部と、前記流路に陰圧を付与する陰圧付与機構部とを備え、前記陰圧付与機構部は、前記針ハブ内で前記流路に連通し、前記被視認部を構成するチャンバ部と、前記チャンバ部に移動可能に収容されるピストン部材とを備え、前記ピストン部材の基端方向の移動に伴い、前記ピストン部材よりも先端側の前記チャンバ部に陰圧を生じさせ、前記ピストン部材は、前記チャンバ部を囲う前記針ハブの壁部の全周にわたって密着するガスケット部と、前記ガスケット部に連結され、当該ガスケット部の基端方向の移動を操作させる操作部とを含み、前記ガスケット部は、前記操作部を前記針ハブの基端方向へスライド操作させることにより基端方向に移動し、前記針ハブは、当該針ハブの軸方向に沿って延在する長孔を有し、前記操作部は、前記チャンバ部から前記長孔を介して突出し、当該長孔に沿って移動可能なレバー部材であり、前記レバー部材の基端方向への移動は、前記レバー部材が前記長孔の基端を構成する壁部に接触することにより規制される。
【発明の効果】
【0007】
上記のカテーテル組立体は、被視認部及び陰圧付与機構部を針ハブに備えることで、シリンジを針ハブに接続せずに陰圧を付与し、流路における血液の流動を迅速化させることができる。これにより、ユーザは、カテーテル及び内針の穿刺時に内針の針先が血管に到達すると、針先から流路を介して流動した血液を、被視認部において直ちに視認し、血管の確保を認識することができる。従って、カテーテル組立体は、例えば、血管後壁を針先が突き破る等の誤操作(過挿入)を抑制させることができ、処置の短時間化を促すと共に、処置を一層安全に実施させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカテーテル組立体の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のカテーテル組立体の側面断面図である。
【
図3】
図3Aは、カテーテル組立体の使用時の動作を示す第1側面断面図である。
図3Bは、カテーテル組立体の使用時の動作を示す第2側面断面図である。
【
図4】
図4Aは、カテーテル組立体の使用時の動作を示す第3側面断面図である。
図4Bは、カテーテル組立体の使用時の動作を示す第4側面断面図である。
【
図5】
図5Aは、第1変形例に係る陰圧付与機構部を概略的に示す説明図である。
図5Bは、第2変形例に係る陰圧付与機構部を概略的に示す説明図である。
図5Cは、第3変形例に係る陰圧付与機構部を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態に係るカテーテル組立体10は、
図1に示すように、患者(生体)の体内に挿入及び留置されるカテーテル12を有し、輸液や輸血、採血等において液体(薬液や血液)の入出部を構築するために用いられる。カテーテル12は、末梢静脈カテーテルに構成されている。なお、カテーテル12は、末梢静脈カテーテルよりも長いカテーテル(例えば、中心静脈カテーテル)でもよい。また、カテーテル12は、静脈用カテーテルに限らず、末梢動脈カテーテル等の動脈用カテーテルでもよい。
【0011】
図1及び
図2に示すように、カテーテル組立体10は、内針14と、内針14の基端に固定される針ハブ16とで構成される操作体18を有する。またカテーテル組立体10は、上記のカテーテル12と、カテーテル12の基端に固定されるカテーテルハブ20とで構成されるカテーテル留置体22を有する。
【0012】
カテーテル組立体10は、使用前の初期状態(製品提供状態)で、カテーテル留置体22の基端に操作体18が組み付けられることで、カテーテル12に内針14が挿通した多重構造針11を形成している。多重構造針11は、カテーテル12の先端から内針14の針先14aを突出させており、内針14及びカテーテル12を患者に一体的に穿刺することが可能である。
【0013】
医師や看護師等のユーザは、カテーテル組立体10の使用時に針ハブ16を把持操作して、患者の体内に多重構造針11を穿刺し、針先14aを血管に到達させた穿刺状態とする。さらにユーザは、穿刺状態を維持しつつ、カテーテル12を内針14と相対的に進出することで血管内に挿入していく。その後、カテーテル12と相対的に内針14を後退し、さらにカテーテルハブ20から内針14を抜去することで、カテーテル留置体22が患者に留置される。そして、カテーテル留置体22は、医療機器のコネクタがカテーテルハブ20に接続されることで、薬液や血液の患者への投与、患者からの採血等の処置が実施可能となる。以下、このカテーテル組立体10の各構成について詳述していく。
【0014】
カテーテル12は、内腔12aが内側に形成された可撓性を有する中空管に構成されている。内腔12aは、カテーテル12の先端に形成された先端開口12a1と、カテーテル12の基端に形成された基端開口12a2(
図2参照)とに連通している。
【0015】
カテーテル12を構成する材料は、特に限定されるものではないが、透明性を有する軟質樹脂材料を適用するとよい。例えば、カテーテル12の構成材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂又はこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂、オレフィン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体との混合物等があげられる。
【0016】
カテーテル12の長さは、特に限定されず用途や諸条件等に応じて適宜設計可能であり、例えば、14~1000mm程度に設定される。カテーテル12の基端は、カテーテルハブ20の内部に挿入され固着されている。
【0017】
カテーテルハブ20は、カテーテル12が患者の血管内に挿入された状態で患者の皮膚上に露出され、テープ等により貼り付けられてカテーテル12と共に留置される。
図1及び
図2に示すように、カテーテルハブ20は、先端方向に先細りの円筒状に形成され、その内側には中空部21が設けられている。
【0018】
中空部21は、先端側においてカテーテル12を保持して内腔12a(基端開口12a2)に連通している。この中空部21は、カテーテルハブ20の基端側に形成された基端開放部21aに連通している。また、カテーテルハブ20の外周面には、当該カテーテルハブ20の軸方向に沿って延在するリブ24が周方向に沿って複数設けられている。カテーテルハブ20の基端側の外周面には、径方向外側に突出し周方向に沿って延在するフランジ26が設けられている。
【0019】
カテーテル12とカテーテルハブ20は、かしめ、融着、接着等の適宜の固着手段によって固着される。
図2中では、カテーテルハブ20の中空部21にかしめピン28を挿入して、カテーテルハブ20の内壁とかしめピン28との間にカテーテル12を挟み込んで、かしめピン28をかしめることで、カテーテル12を固定している。
【0020】
カテーテルハブ20の中空部21には、中空部21に流入した血液が基端開放部21aから流出することを防止する図示しない弁体(止血弁)が設けられてもよい。また弁体を備える場合に、中空部21には、カテーテルハブ20に対する医療機器(輸液や輸血のチューブ、シリンジ)のコネクタの挿入時に、弁体を開通させる図示しない開通部材が収容されていてもよい。さらに、中空部21には、弁体や開通部材の収容に応じて種々の構成(中空部21のエアを抜けさせるフィルタ、開通部材を基端方向に移動させる部材、開通部材の脱落を防止する部材等)が設けられてよい。
【0021】
カテーテルハブ20を構成する材料は、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂を適用することができる。
【0022】
一方、カテーテル組立体10(操作体18)の内針14は、初期状態でカテーテルハブ20の基端から中空部21を通ってカテーテル12の内腔12aに挿入されている。内針14は、生体の皮膚を穿刺可能な剛性を有する中空管に構成され、その先端に鋭利な針先14aを備える。内針14の内部には、内針14の軸方向に沿って延在する流路15が設けられている。流路15は、針先14aに設けられた先端開口15aに連通すると共に、内針14の基端に設けられた基端開口15bに連通している。
【0023】
内針14の基端は、針ハブ16内に形成された後記のチャンバ部48の先端まで延在し、基端開口15bはチャンバ部48に連通している。なお、内針14には、カテーテル12の内周面と当該内針14の外周面との間に血液を導くカテーテル12用のフラッシュバック機構が設けられていてもよい。例えば、カテーテル12用のフラッシュバック機構は、内針14の外周面に溝を設ける、又は流路15と外周面を連通する側孔(不図示)を設ける等の構成をとり得る。
【0024】
内針14の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のような金属材料、或いは硬質樹脂、セラミックス等があげられる。内針14は、融着、接着、インサート成形等の適宜の固着手段により、針ハブ16に強固に固定される。
【0025】
針ハブ16は、カテーテルハブ20の基端側で当該カテーテルハブ20よりも長く延在することにより、カテーテル留置体22と操作体18が組み付けられた初期状態で、ユーザが把持するグリップ部分を構成している。この針ハブ16は、初期状態でカテーテルハブ20の基端に接続される接続部材30と、この接続部材30の基端に接続される基端部材32とを備える。
【0026】
接続部材30は、カテーテルハブ20内に挿入される被挿入部34と、被挿入部34の基端に連なる中間部36と、中間部36の基端に連なる基部38とを有する。接続部材30は、被挿入部34及び中間部36の中心(軸心)に内針14の基端を保持するための保持孔40を有する。
【0027】
被挿入部34は、中空部21の直径よりも小さな直径の中央筒部と、中央筒部の外周面から径方向外側に突出し且つ軸方向に沿って延在する複数の突条部とを備える(共に図示せず)。複数の突条部は、カテーテルハブ20の中空部21を構成する内壁にテーパ嵌合する。これによりカテーテル組立体10は、針ハブ16とカテーテルハブ20が適度な嵌合力で固定されつつ、ユーザがカテーテルハブ20に対し針ハブ16を基端方向に後退させた際に、カテーテルハブ20から針ハブ16をスムーズに離脱させる。
【0028】
中間部36は、被挿入部34よりも大きな直径の円筒状に形成され、初期状態でカテーテルハブ20の基端から露出されている。中間部36は、内針14を安定的に固定するための長さを確保するために設けられる。内針14と接続部材30の固着手段は、特に限定されず、例えば、溶着や接着等をとり得る。
【0029】
基部38は、中間部36に対し幅方向両側に長く突出する楕円状のフランジ42を先端に有し、またフランジ42(
図1参照)から基端方向に向かって所定長さ延在する筒部44を有する。基部38の延在長さ(全長)は、被挿入部34と中間部36を足した全長よりも長く設定されている。
【0030】
そして、本実施形態に係る接続部材30(基部38)には、流路15を流動した血液をユーザに視認させる被視認部45と、内針14の流路15に対し陰圧を付与可能な陰圧付与機構部46とが設けられている。被視認部45は、本実施形態において、接続部材30全体が透明又は半透明に構成されることで実現している。
【0031】
陰圧付与機構部46は、筒部44の壁部44aにより囲われたチャンバ部48と、チャンバ部48内に進退自在に収容されたピストン部材50とを有する。チャンバ部48は、保持孔40に対し径方向外側に大きく広がる直径を有し、その直径を維持したまま基端方向に向かって所定長さ延在している。初期状態では、チャンバ部48を構成する先端の壁部44aに接触するようにピストン部材50が配置されている。なお
図2中では、初期状態でガスケット部54が、チャンバ部48の先端側の壁部44aに接触している状態を例示しているが、ガスケット部54は、初期状態でチャンバ部48の先端側に多少の空間を形成してもよい。
【0032】
また、チャンバ部48の基端側は、基端部材32が挿入される挿入孔49に連通している。挿入孔49を構成する壁部44aは、基端方向に向かって直径が漸増するテーパ面に形成されている。
【0033】
チャンバ部48を構成する壁部44aの一部には、基部38の軸方向に沿って延在する長孔52が設けられている。長孔52は、接続部材30の上面(内針14の針先14aの刃面が臨む方向)に形成され、チャンバ部48からピストン部材50の一部を操作可能に露出させる。長孔52の先端は、チャンバ部48の先端から所定長さ離れた位置(チャンバ部48に流入した血液をユーザが視認可能な長さを確保した位置)に設定される一方で、長孔52の基端は、挿入孔49よりも若干先端側の位置に設定される。
【0034】
ピストン部材50は、チャンバ部48内を基端方向(軸方向)に移動可能であり、基端方向への移動時にピストン部材50の先端側と壁部44aとで構成される空間(ピストン部材50の先端側のチャンバ部48)に陰圧を生じさせる。具体的には、ピストン部材50は、ガスケット部54と、ガスケット部54の基端に連結される操作部56とを備える。
【0035】
例えば、ガスケット部54は、チャンバ部48の先端でテーパ状に形成された壁部44aに対応して、先端側が円錐形状で、基端側が円盤状のブロック体に形成されている。ガスケット部54の外周面54aは、チャンバ部48を囲う壁部44aの全周にわたって密着することが可能である。ガスケット部54は、その配置位置に応じて、チャンバ部48を軸方向の前後の空間に分割している。壁部44aに密着したガスケット部54は、基端方向に摺動した際にガスケット部54よりも先端側のチャンバ部48に陰圧を生じさせる。
【0036】
ガスケット部54を構成する材料は特に限定されるものではないが、ゴム材料を適用するとよい。例えば、ガスケット部54の材料としては、ポリブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系等の合成ゴムやポリイソプレン等の天然ゴム、又はウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、或いは他のエラストマー等が挙げられる。また例えば、ガスケット部54は、液体の透過を遮断する一方で、気体の透過を許容する構成(例えば、多孔質体)を適用してもよい。
【0037】
操作部56は、針ハブ16(接続部材30、基端部材32)の延在方向中間位置よりも先端側に配置されている。操作部56は、ガスケット部54からチャンバ部48内を基端方向に向かって延在し、基端位置において基部38の軸方向と直交する方向に屈曲するL字形状のレバー部材58に構成されている。レバー部材58の先端には、ガスケット部54の基端に形成された取付部54bに挿入され、ガスケット部54に係合する頭部58aが設けられている。すなわち、ガスケット部54とレバー部材58(操作部56)は、チャンバ部48内において一体的に移動する。
【0038】
チャンバ部48内のレバー部材58の延在長さは、長孔52の延在長さに一致(又は長孔52よりも若干短く)設定されている。例えば、レバー部材58の延在長さは、チャンバ部48の全長の1/2に設定されている。
【0039】
レバー部材58は、チャンバ部48内から接続部材30の長孔52を通過して、針ハブ16の上方向に突出するタブ59を有する。タブ59は、長孔52の延在方向に沿って移動可能であり、基部38の外周面からユーザの指を掛けられる程度の長さで突出している。従って、レバー部材58は、長孔52により移動のガイドがなされ、長孔52の先端と基端の間を移動する。長孔52及びタブ59は、ガスケット部54がチャンバ部48内を移動する可動域よりも基端側に設けられ、タブ59が長孔52の基端に達しても、ガスケット部54が長孔52から露出させることがない。
【0040】
接続部材30を構成する材料は、特に限定されず、例えば、カテーテルハブ20であげた材料を適用することができる。被視認部45として透明に構成された接続部材30は、ガスケット部54よりも先端側のチャンバ部48に流入した血液を良好に視認可能とする。なお、接続部材30は、ガスケット部54よりも先端側のチャンバ部48に重なる壁部44aが透明に構成される一方で、他の部分が不透明に構成されていてもよい。被視認部45は、ユーザへの血液の視認性を向上させる窓部(例えば、拡大鏡等)を接続部材30に形成して構成されてもよい。また接続部材30は、
図2中の二点鎖線で示すようにチャンバ部48に連通し径方向外側に突出する膨出部45aを有し、膨出部45aが透明に構成されていてもよい。
【0041】
針ハブ16の基端部材32は、多重構造針11の穿刺時に、ユーザが把持するグリップ部分を構成する。基端部材32は、円筒状に形成され、接続部材30の挿入孔49に挿入されてテーパ嵌合する先端部60を備える。また先端部60よりも基端側の胴部62の外周面には、基端部材32の軸方向に沿って延在するリブ64が周方向に複数設けられている。
【0042】
また、基端部材32は、先端部60及び胴部62を貫通する空間部32aを内部に有する。空間部32aは、接続部材30のチャンバ部48に連通している。なお、針ハブ16は、基端部材32を備えない構成でもよい。
【0043】
本実施形態に係るカテーテル組立体10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その動作について説明する。
【0044】
カテーテル組立体10は、上記したように、患者への輸液や輸血、採血等の入出部を構築する際に使用される。この際、ユーザは、
図3Aに示す初期状態のカテーテル組立体10の針ハブ16を把持して、患者の体表100に多重構造針11を穿刺する操作を行う。
【0045】
穿刺操作時に、ユーザは、
図3Bに示すように、針先14aを体表100に挿入し且つ血管102に到達する前の段階で陰圧付与機構部46を動作させる。すなわち、ユーザは、針ハブ16を把持している状態で、接続部材30から突出するタブ59に指をかけてタブ59を基端方向に徐々に移動させる。これにより、レバー部材58(操作部56)がガスケット部54と共に基端方向に移動して、ガスケット部54よりも先端側のチャンバ部48内に陰圧を生じさせる。
【0046】
陰圧付与機構部46の陰圧は、チャンバ部48に連通する内針14の流路15に付与され、内針14の先端開口15aに吸引力を生じさせる。ただし、針先14aが血管102に到達していない段階では、生体組織によって先端開口15aが塞がれる。このため、流路15内は、ピストン部材50の基端方向の移動量に応じて陰圧が高まる。
【0047】
図4Aに示すように、レバー部材58の基端方向への移動中に、針先14aの先端開口15aが血管102内に到達すると、塞がれていた先端開口15aが急に開放される。このため、レバー部材58を操作していたユーザの指には、針先14aが血管102内に進入した際の操作感(陰圧発生時の抵抗感が解放された感覚)が得られる。よって、ユーザは、針先14aが血管102に達したことを感覚的に認識することができる。
【0048】
また、内針14の針先14aが血管102に到達すると、血液は、内針14の先端開口15aから流路15に流入して、流路15を基端方向に流動する。この際、流路15に付与されていた陰圧により、血液は流路15を素早く流動して、基端開口15bからチャンバ部48に流入する。すなわち、チャンバ部48には、血液が短時間に貯留されていく。
【0049】
そして、ユーザは、透明の壁部44a(被視認部45)を介してチャンバ部48への血液の貯留(フラッシュバック)を視認することで、内針14の針先14aが血管102内に位置すること(血管102の確保)を認識することができる。レバー部材58の基端方向への移動は、長孔52の基端を構成する壁部44aにより規制され、必要以上の血液の流出が防止される。
【0050】
カテーテル12が血管102に達すると、
図4Bに示すように、ユーザは、カテーテル12を内針14と相対的に進出させて血管102に挿入し、カテーテル12が血管102にある程度挿入されると、カテーテル12に対して内針14を後退させる。これによりカテーテルハブ20の基端開放部21aから内針14が離脱して、カテーテル留置体22から操作体18が分離することになり、カテーテル留置体22が患者に留置される。
【0051】
カテーテル留置体22の留置状態において、ユーザは、図示しない医療機器のコネクタをカテーテルハブ20の基端開放部21aから中空部21に挿入することで、カテーテルハブ20とコネクタの接続を行う。これにより、カテーテル留置体22は、患者への輸液や輸血、採血等を実施可能とする。
【0052】
なお、カテーテル組立体10の使用時に、陰圧付与機構部46を動作させるタイミングは、ユーザの任意であり、例えば針先14aが血管102に達した際に操作部56の移動操作を開始し、チャンバ部48に血液を吸引してもよい。
【0053】
また、本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、チャンバ部48内を移動するピストン部材50は、ガスケット部54と操作部56が一体成形されたものでもよい。また、レバー部材58のタブ59が針ハブ16から突出する位置は、針ハブ16の上面に限定されず、針ハブ16の側面や下面等でもよい。
【0054】
陰圧付与機構部46は、流路15やチャンバ部48内の陰圧発生時にガスケット部54が先端方向に戻ること防止する移動規制機構(不図示)を備えていてもよい。例えば、移動規制機構は、長孔52の延在方向に沿う縁部に逆進防止用の突起を複数備える一方で、この突起と係合可能な爪部をレバー部材58に備えた機構を採用することができる。
【0055】
陰圧付与機構部46の操作部56の構成は、上記に限定されず種々の構成をとり得る。以下、操作部56の幾つかの構成について、
図5A~
図5Cを参照して詳述する。なお、以降の説明において、上記の実施形態と同じ構成又は同じ機能を有する要素には、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
〔第1変形例〕
図5Aに示す第1変形例に係る陰圧付与機構部46Aは、操作部56として、ユーザによる接続部材30の内方へのボタン押圧下に陰圧を発生させるボタン操作構造70を有する。なお、ガスケット部54は、上記の実施形態と同様に、初期状態で針ハブ16のチャンバ部48の先端寄りに位置し、壁部44aに密着した状態を維持しつつ基端方向に摺動可能に収容されている。
【0057】
具体的には、ボタン操作構造70は、ガスケット部54に一端が連結されるワイヤ72と、ワイヤ72の途中位置で当該ワイヤ72に張力をかけるプーリ74と、ワイヤ72の他端に連結されるボタン体76とを備える。プーリ74は、針ハブ16と相対的に回転可能に構成され、チャンバ部48の軸方向に対しワイヤ72の基端側の延在方向を曲げる機能を有している。
【0058】
ボタン体76は、軸支部78を介して針ハブ16に取り付けられ、軸支部78を基点に先端側のワイヤ連結部分76aに対して、基端側の操作部分76bが下方向(針ハブ16の内方)に変位可能となっている。つまり、ボタン操作構造70は、ユーザが操作部分76bを下方向に押圧操作することで、ワイヤ連結部分76aがプーリ74に対して上方向に変位し、チャンバ部48においてワイヤ72を基端方向に引くことができる。
【0059】
〔第2変形例〕
図5Bに示す第2変形例に係る陰圧付与機構部46Bは、操作部56として、ユーザによる先端方向の押圧操作下に陰圧を発生させる先端押圧操作構造80を有する。先端押圧操作構造80は、ガスケット部54に一端が連結されるワイヤ82と、ワイヤ82の途中位置でワイヤ82に張力をかけるプーリ84と、ワイヤ82の他端に連結されるスライダ86とを備える。プーリ84は、針ハブ16と相対的に回転可能に構成され、チャンバ部48の軸方向に対しワイヤ82の先端方向に折り返している。
【0060】
スライダ86は、プーリ84により折り返されたワイヤ82が基端に連結され、針ハブ16と相対的に先端方向に向かって下方向に変位可能となっている。つまり、先端押圧操作構造80は、ユーザがスライダ86を先端方向に押圧操作することで、チャンバ部48においてワイヤ82を基端方向に引くことができる。
【0061】
〔第3変形例〕
図5Cに示す第3変形例に係る陰圧付与機構部46Cは、操作部56として、自動的にガスケット部54を基端方向に移動させる操作力軽減構造90を有する。具体的には、操作力軽減構造90は、ガスケット部54に基端方向の移動力を付与する移動力発生部材92と、ユーザが操作するまでガスケット部54の移動を規制する規制部材94とを備える。
【0062】
移動力発生部材92は、一端がガスケット部54に連結される一方で、チャンバ部48の基端方向に設けられた針ハブ16の固定体96(壁部44a)に連結され、弾性的に伸縮可能な弾性部材92aが適用される。弾性部材92aは、初期状態で伸長していることで、ユーザに代わってガスケット部54を移動させる力を付与する。なお、弾性部材92aは、ガスケット部54よりも先端側に設けられ、初期状態で収縮していてもよい。また移動力発生部材92は、弾性部材92aに限定されず、ガスケット部54との間で引力や斥力を生じさせる磁石等を適用してもよい。
【0063】
規制部材94は、初期状態で、チャンバ部48に突出してガスケット部54に係合すると共に、壁部44aに設けられた孔44a1から一部が露出している。規制部材94は、例えば、ユーザによる上方向への引っ張りよりチャンバ部48から抜けることで、弾性部材92aによるガスケット部54の基端方向への移動を誘発する。なお、規制部材94をチャンバ部48から後退させる操作は、ボタン操作や先端又は基端方向へのスライド操作等でもよい。
【0064】
上記の実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について、以下に記載する。
【0065】
カテーテル組立体10は、被視認部45及び陰圧付与機構部46、46A~46Cを針ハブ16に備えることで、シリンジを針ハブ16に接続せずに陰圧を付与し、流路15における血液の流動を迅速化させることができる。これにより、ユーザは、カテーテル12及び内針14の穿刺時に内針14の針先14aが血管102に到達すると、針先14aから流路15を介して流動した血液を、被視認部45において直ちに視認し、血管102の確保を認識することができる。従って、カテーテル組立体10は、例えば、血管後壁を針先14aが突き破る等の誤操作(過挿入)を抑制させることが可能となり、処置の短時間化を促すと共に、処置を一層安全に実施させることができる。
【0066】
また、陰圧付与機構部46、46A~46Cは、針ハブ16内で流路15に連通し、被視認部45を構成するチャンバ部48と、チャンバ部48に移動可能に収容されるピストン部材50とを備え、ピストン部材50の基端方向の移動に伴い、ピストン部材50よりも先端側のチャンバ部48に陰圧を生じさせる。これにより、カテーテル組立体10は、ピストン部材50の基端方向の移動に伴いピストン部材50よりも先端側のチャンバ部48に血液を良好に流入させ、チャンバ部48に貯留されていく血液をユーザに視認させることができる。
【0067】
また、被視認部45は、ピストン部材50よりも先端側でチャンバ部48を形成している壁部44aが透明に構成されることで、当該チャンバ部48に流入した血液を視認させる。これにより、カテーテル組立体10は、チャンバ部48に流入した血液を確実に認識させることができる。
【0068】
また、ピストン部材50は、チャンバ部48を囲う針ハブ16の壁部44aの全周にわたって密着するガスケット部54と、ガスケット部54に連結され、当該ガスケット部54の基端方向の移動を操作させる操作部56とを含む。これにより、カテーテル組立体10は、ユーザによる操作部56の操作下に、ガスケット部54をスムーズに移動させることができる。
【0069】
また、操作部56は、ガスケット部54がチャンバ部48を移動する可動域よりも基端側に設けられている。これにより、ユーザが操作部56を操作する際に、ユーザの指が邪魔となることなく、チャンバ部48への血液の流入を良好に視認させることができる。
【0070】
また、操作部56は、針ハブ16の延在方向中間位置よりも先端側に配置されている。これにより、ユーザは、操作部56よりも基端側の針ハブ16を把持しつつ、操作部56を安定的に操作することができる。
【0071】
また、操作部56は、針ハブ16の基端方向へのスライド操作に基づきガスケット部54を基端方向に移動させる。これにより、カテーテル組立体10は、ユーザに対し操作部56を基端方向に移動させる操作感覚によりチャンバ部48に血液を吸引することができる。
【0072】
また、針ハブ16は、当該針ハブ16の軸方向に沿って延在する長孔52を有し、操作部56は、チャンバ部48から長孔52を介して突出し、当該長孔52に沿って移動可能なレバー部材58である。これにより、ユーザは、長孔52から突出しているレバー部材58を操作して、ガスケット部54を容易に基端方向に移動させることができる。
【0073】
また、操作部56は、針ハブ16の内方への押圧操作に基づきガスケット部54を基端方向に移動させる構造でもよい。これにより、陰圧付与機構部46Aは、ガスケット部54の基端方向の移動をより簡単な操作で実施することが可能となる。
【0074】
また、操作部56は、針ハブ16の先端方向へのスライド操作に基づきガスケット部54を基端方向に移動させる構成でもよい。これにより、陰圧付与機構部46Bは、針ハブ16の把持状態でユーザが操作し易い方向に操作部56を操作させてガスケット部54を基端方向に移動させることができる。
【符号の説明】
【0075】
10…カテーテル組立体 12…カテーテル
14…内針 14a…針先
15…流路 16…針ハブ
44a…壁部 45…被視認部
46、46A~46C…陰圧付与機構部 48…チャンバ部
50…ピストン部材 52…長孔
54…ガスケット部 56…操作部
58…レバー部材 70…ボタン操作構造
80…先端押圧操作構造