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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】曲がり管の自動肉盛溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20221201BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20221201BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B23K9/04 Q
B23K9/095 505A
B23K9/095 510A
B23K9/12 350D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019128005
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021013928
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 要輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 光亮
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光良
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-136085(JP,A)
【文献】特開2001-289387(JP,A)
【文献】特開2016-159301(JP,A)
【文献】特開平10-58139(JP,A)
【文献】特開平9-277045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/095
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲がり管を横向きに配置する配置工程と、
前記配置工程で横向きに配置された曲がり管の側面に、当該曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接により溶接ビードを置く側面溶接工程と、
前記曲がり管に置かれた溶接ビードの上止端から当該曲がり管の軸に平行な基準高さまでの距離を算出する距離算出工程と、
前記距離算出工程で算出された距離が大きい/小さいほど、次に隣接して置く溶接ビードの幅が大きく/小さくなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接を行う側上面溶接工程とを備えることを特徴とする曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項2】
側上面溶接工程における溶接条件の調整が、距離算出工程で算出された距離に応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出することを特徴とする請求項1に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項3】
側上面溶接工程における自動肉盛溶接が、ウィービングで行われ、
前記側上面溶接工程で調整される溶接条件が、曲がり管の軸方向に沿った溶接速度、並びに、前記ウィービングの周波数および振幅を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項4】
側上面溶接工程における自動肉盛溶接が、置く溶接ビードの幅を当該溶接ビードの上止端側で調整することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項5】
配置工程で横向きに配置された曲がり管の頂点に沿って置かれる予定の溶接ビードにそれぞれ隣接する2本の溶接ビードの間隔を算出する間隔算出工程と、
前記間隔算出工程で算出された間隔が大きい/小さいほど、次に前記頂点に置く溶接ビードの幅が大きく/小さくなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接を行う頂点溶接工程とを備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項6】
頂点溶接工程における溶接条件の調整が、間隔算出工程で算出された間隔に応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出することを特徴とする請求項5に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【請求項7】
頂点溶接工程における自動肉盛溶接が、ウィービングで行われ、
前記頂点溶接工程で調整される溶接条件が、曲がり管の軸方向に沿った溶接速度、並びに、前記ウィービングの周波数および振幅を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の曲がり管の自動肉盛溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲がり管の自動肉盛溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管の肉盛溶接は、管同士を接合する通常の溶接と異なり、管の表面を溶接金属で覆う溶接である。このため、管の肉盛溶接は、溶射やめっきに比べて、管の表面に厚い層が形成されるとともに、当該層と管とが冶金的結合するので、管の耐久性を高める上で有効である。
【0003】
肉盛溶接の対象が直管である場合、当該直管の軸方向は直線なので、この軸方向に沿った溶接線も直線となり、前記肉盛溶接の自動化が容易である。これに対して、肉盛溶接の対象が曲がり管である場合、当該曲がり管の軸方向が曲線なので、この軸方向に沿った溶接線も曲線となり、肉盛溶接の自動化が困難である。
【0004】
これに対して、従来では、溶接線が曲線となる対象物への自動化された肉盛溶接の方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6303673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載の方法では、肉盛溶接の溶接線が真円という極めて単純な曲線であるから、自動化が比較的容易である。しかしながら、一般的に曲がり管は軸方向が複雑な曲線なので、このような曲がり管に対して、前記特許文献1に記載の方法での自動化された肉盛溶接は不可能である。
【0007】
仮に、現状の自動肉盛溶接装置に、曲がり管の軸方向に沿った溶接線の位置情報を事前に入力し、入力された位置情報に沿って自動肉盛溶接を行わせる方法も考えられる。しかしながら、この方法では、自動肉盛溶接の条件次第で、隣接する溶接ビードの重なりが過剰または不十分になるおそれがあり、その結果、不適切な肉盛溶接になる。
【0008】
そこで、本発明は、曲がり管への適切な自動肉盛溶接を行い得る曲がり管の自動肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、曲がり管を横向きに配置する配置工程と、
前記配置工程で横向きに配置された曲がり管の側面に、当該曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接により溶接ビードを置く側面溶接工程と、
前記曲がり管に置かれた溶接ビードの上止端から当該曲がり管の軸に平行な基準高さまでの距離を算出する距離算出工程と、
前記距離算出工程で算出された距離が大きい/小さいほど、次に隣接して置く溶接ビードの幅が大きく/小さくなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接を行う側上面溶接工程とを備える方法である。
【0010】
また、第2の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第1の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法の側上面溶接工程における溶接条件の調整が、距離算出工程で算出された距離に応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出する方法である。
【0011】
さらに、第3の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第1または第2の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法の側上面溶接工程における自動肉盛溶接が、ウィービングで行われ、
前記側上面溶接工程で調整される溶接条件が、曲がり管の軸方向に沿った溶接速度、並びに、前記ウィービングの周波数および振幅を含む方法である。
【0012】
加えて、第4の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法の側上面溶接工程における自動肉盛溶接が、置く溶接ビードの幅を当該溶接ビードの上止端側で調整する方法である。
【0013】
また、第5の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第1乃至第4のいずれかの発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法において、配置工程で横向きに配置された曲がり管の頂点に沿って置かれる予定の溶接ビードにそれぞれ隣接する2本の溶接ビードの間隔を算出する間隔算出工程と、
前記間隔算出工程で算出された間隔が大きい/小さいほど、次に前記頂点に置く溶接ビードの幅が大きく/小さくなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管の軸方向に沿って自動肉盛溶接を行う頂点溶接工程とを備える方法である。
【0014】
また、第6の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第5の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法の頂点溶接工程における溶接条件の調整が、間隔算出工程で算出された間隔に応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出する方法である。
【0015】
また、第7の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法は、第5または第6の発明に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法の頂点溶接工程における自動肉盛溶接が、ウィービングで行われ、
前記頂点溶接工程で調整される溶接条件が、曲がり管の軸方向に沿った溶接速度、並びに、前記ウィービングの周波数および振幅を含む方法である。
【発明の効果】
【0016】
前記曲がり管の自動肉盛溶接方法によると、距離算出工程を経た側上面溶接工程により適切な幅の溶接ビードが置かれるので、曲がり管への適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法で自動肉盛溶接が行われた曲がり管の概略斜視図である。
図2】同曲がり管の断面図である。
図3】同曲がり管を平面視で部分的に撮影した写真である。
図4】本発明の実施の形態に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法に使用される曲がり管を横向きに配置した状態を示す概略斜視図である。
図5】同自動肉盛溶接方法における側面溶接工程で溶接ビードが置かれた曲がり管の斜視図である。
図6】同溶接ビードの上止端から曲がり管の頂点までの距離を示す斜視図である。
図7】同溶接ビードが置かれた曲がり管の左側面図である。
図8】同溶接ビードの上止端をセンサで検出する状態を示す斜視図である。
図9】同自動肉盛溶接方法における側上面溶接工程で溶接ビードが置かれた曲がり管の左側面図である。
図10】同自動肉盛溶接方法における間隔算出工程で算出される間隔を示す断面図である。
図11図10の平面図である。
図12】同自動肉盛溶接方法を使用する自動肉盛溶接装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る曲がり管の自動肉盛溶接方法について図面に基づき説明する。
【0019】
まず、前記自動肉盛溶接方法で自動肉盛溶接が行われた曲がり管について説明する。
【0020】
図1に示すように、前記曲がり管Pは、その軸Oが曲がっている管であり、直管以外の全ての管を含む。図2および図3に示すように、前記曲がり管Pは、自動肉盛溶接が行われることで、その軸O方向に沿った溶接ビードB1~B9で所定範囲における外周面の全てが覆われている。なお、本実施の形態で、溶接ビードB1~B8の上止端bとは、溶接ビードB1~B8の最も上の端線を指すのではなく、溶接ビードB1~B8の曲がり管Pの外周面に接した部分における最も上の端線を指す。なお、上止端bは、横断面図である図2だと点で示されるが、端線であるから軸O方向に沿った長さを有する。
【0021】
次に、前記自動肉盛溶接方法について説明する。
【0022】
まず、前記自動肉盛溶接方法が備える配置工程として、図4に示すように、自動肉盛溶接が行われる前の曲がり管Pを、台30の上面などに横向きに配置する。ここで、曲がり管Pを横向きに配置するとは、曲がり管Pの軸Oが水平に対して±45°未満となるように配置することである。曲がり管Pに行われる自動肉盛溶接の精度を高めるためにも、当該曲がり管Pは、その軸Oが水平(実質的な誤差を許容する)になるように配置されることが好ましい。ここで、実質的な誤差とは、±0.1°程度である。この誤差の範囲内に収めるために、前記曲がり管Pの配置される姿勢がスペーサ32などで調整される。横向きに配置された曲がり管Pは、自動肉盛溶接の際に動かないように、保持具31などで保持されることが好ましい。
【0023】
次に、前記自動肉盛溶接方法が備える側面溶接工程として、図5に示すように、前記配置工程で横向きに配置された曲がり管Pの側面に、当該曲がり管Pの軸O方向に沿って自動肉盛溶接により溶接ビードB1,B2を置く。ここで、前記側面溶接工程で置かれる溶接ビードB1,B2は、必ずしも曲がり管Pの軸Oと同じ高さに限られず、この高さから上下に外れてもよい。図5には、前記側面溶接工程で置かれる溶接ビードとして、符号B1,B2が付されたもののみを示すが、これらに限られない。前記溶接ビードは、例えば、図2において符号B1~B6で示されるように、曲がり管Pの頂点Tでの溶接ビードB9およびこれに隣接する溶接ビードB7,B8を除く溶接ビードB1~B6であれば、前記側面溶接工程で置かれてもよい。本発明の要旨は、前記側面溶接工程ではなく後述する距離算出工程を経た側上面溶接工程であるから、前記側面溶接工程で置かれる溶接ビードが少なく、その分だけ側上面溶接工程で置かれる溶接ビードが多いほど、自動肉盛溶接の品質を向上させるためにも好ましい。
【0024】
次に、前記自動肉盛溶接方法が備える距離算出工程として、図6および図7に示すように、前記曲がり管Pに置かれた溶接ビードB1,B2の上止端bから当該曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さ(図6および図7では当該曲がり管Pの頂点T)までの距離Wを算出する。算出された距離Wは、図7に示すように、溶接ビードB1の上止端bの上下変動に応じて変動し、このため大きい値Wと小さい値Wとがある。前記距離Wは、前記曲がり管Pの所定範囲に亘って連続的に算出される必要は無く、ある程度のピッチ(例えば、数mm~数百mm)で断続的に算出されてもよい。ここで、曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さは、特に限定されないが、当該曲がり管Pの頂点Tであれば、当該曲がり管Pの三次元CADデータを読込むことや後述するセンサで検出することにより容易に求められるので好ましい。また、前記曲がり管Pが水平に配置されるなど既知の角度で配置されている場合、当該既知の角度の面を曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さにしてもよい。例えば、曲がり管Pが水平な台30の上面に配置されている場合、当該曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さは、前記水平な台30の上面(すなわち、曲がり管Pの底点)にすることが可能である。図8に示すように、曲がり管Pに置かれた溶接ビードB1,B2の上止端bは、例えばセンサ13で検出される。センサ13で検出された溶接ビードの上止端bは、当該センサ13に特有の座標であるセンサ座標系で取得された場合、曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さとの演算が可能な座標系に変換される。
【0025】
次に、前記自動肉盛溶接方法が備える側上面溶接工程として、図9に示すように、前記距離算出工程で算出された距離Wが大きいW/小さいWほど、次に隣接して置く溶接ビードB3の幅が大きくB/小さくBなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管Pの軸O方向に沿って自動肉盛溶接を行う。図9には、前記側上面溶接工程で置かれる溶接ビードとして、符号B3が付されたもののみ示すが、これに限られない。前記側上面溶接工程で置かれる溶接ビードは、図10において符号B3~B8で示されるように、曲がり管Pの頂点Tでの溶接ビードB9および側面溶接工程で置かれた溶接ビードB1,B2を除く溶接ビードB3~B8であることが好ましい。この場合、これら溶接ビードB3~B8を曲がり管Pに置くために、その数だけ前記距離算出工程を経た側上面溶接工程が繰り返される。
【0026】
前記側上面溶接工程における溶接条件の調整は、前記距離算出工程で算出された距離Wに応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出することが好ましい。適切な溶接条件を選出するのに溶接条件選出テーブルが使用されることで、適切な溶接条件を選出するだけで足り、複雑な演算が不必要になることから、自動化に一層適することになる。
【0027】
前記側上面溶接工程における自動肉盛溶接は、ウィービングで行われることが好ましい。ウィービングであれば、溶接ビードB3~B8の品質を均一にしたまま、当該溶接ビードB3~B8の幅を容易に調整可能だからである。溶接ビードB3~B8の幅および品質に影響を与える溶接条件のパラメータは、前記曲がり管Pの軸O方向に沿った溶接速度、前記ウィービングの周波数(1秒当たりの往復回数)および振幅である。前記ウィービングで溶接ビードB3~B8の幅を大きく/小さくするには、溶接条件として、当該ウィービングの振幅を大きく/小さくする。前記ウィービングの振幅が大きく/小さくなれば、溶接ビードB3~B8の品質を均一にするために、前記曲がり管Pの軸O方向に沿った溶接速度を小さく/大きくし、前記ウィービングの周波数を少なく/多くする。このウィービングの振幅の大小は、当該ウィービングで置かれる溶接ビードB3~B8の上止端側で調整されることが好ましい。これにより、当該溶接ビードB3~B8と、この溶接ビードB3~B8の下方で隣接する溶接ビードB1~B6との境界の品質が、曲がり管Pの軸O方向に沿って均一になるからである。
【0028】
前記側上面溶接工程において、自動肉盛溶接がウィービングで行われる場合、適切な溶接条件を選出するのに使用される溶接条件選出テーブルの例を、次の表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
このような溶接条件選出テーブルは、溶接ビードB3~B8において、同一のものが使用されてもよく、異なるものが使用されてもよい。溶接ビードB3,B5,B7(B4,B6,B8)は、自動肉盛溶接の際に受ける重力の方向が異なるので、より適切な溶接条件を選出するためにも、各溶接ビードB3,B5,B7(B4,B6,B8)に適した異なる溶接条件選出テーブルを使用することが好ましい。
【0031】
次に、前記自動肉盛溶接方法が備える間隔算出工程として、図10に示すように、配置工程で横向きに配置された曲がり管Pの頂点Tに沿って置かれる予定の溶接ビードB9にそれぞれ隣接する2本の溶接ビードB7,B8の間隔Gを算出する。前記距離算出工程でセンサ13を使用した場合、前記間隔算出工程でも当該センサ13を使用して2本の溶接ビードB7,B8の各上止端bを検出することが、構成を簡素にするためにも好ましい。算出された間隔Gは、図11に示すように、前記2本の溶接ビードB7,B8の上止端bの上下変動に応じて変動し、このため大きい値Gと小さい値Gとがある。前記間隔Gは、前記曲がり管Pの所定範囲に亘って連続的に算出される必要は無く、ある程度のピッチ(例えば、数mm~数百mm)で断続的に算出されてもよい。
【0032】
次に、前記自動肉盛溶接方法が備える頂点溶接工程として、前記間隔算出工程で算出された間隔Gが大きいG/小さいGほど、次に前記頂点Tに置く溶接ビードB9の幅が大きく/小さくなるように溶接条件を調整して、前記曲がり管Pの軸O方向に沿って自動肉盛溶接を行う。
【0033】
前記頂点溶接工程における溶接条件の調整も、前記側上面溶接工程における溶接条件の調整と同様に、前記間隔算出工程で算出された間隔Gに応じて溶接条件を溶接条件選出テーブルから選出することが好ましい。適切な溶接条件を選出するのに溶接条件選出テーブルが使用されることで、適切な溶接条件を選出するだけで足り、複雑な演算が不必要になることから、自動化に一層適することになる。
【0034】
前記頂点溶接工程における自動肉盛溶接も、前記側上面溶接工程と同様の理由で、ウィービングで行われることが好ましい。溶接ビードB9の幅および品質に影響を与える溶接条件のパラメータも、前記側上面溶接工程と同様に、前記曲がり管Pの軸O方向に沿った溶接速度、前記ウィービングの周波数(1秒当たりの往復回数)および振幅である。
【0035】
前記頂点溶接工程において、適切な溶接条件を選出するのに使用される溶接条件選出テーブルの例を、次の表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
以上より、前記曲がり管Pの上半分に自動肉盛溶接が行われる。そして、当該曲がり管Pの下半分にも自動肉盛溶接を行うために、当該曲がり管Pを上下反転した後、当該曲がり管Pの新たに上半分になった部分に対して、前述した自動肉盛り溶接方法を行う。これにより、前記曲がり管Pは、その軸O方向に沿った溶接ビードで所定範囲における外周面の全てが覆われる。
【0038】
このように、曲がり管Pの自動肉盛溶接方法によると、距離算出工程を経た側上面溶接工程により適切な幅の溶接ビードB3~B8が置かれるので、曲がり管Pへの適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【0039】
また、溶接条件選出テーブルが使用されることで、自動化に一層適することになるので、曲がり管Pへの一層適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【0040】
さらに、自動肉盛溶接がウィービングで行われるとともに、溶接条件の適切なパラメータが調整されるので、一層品質が均一になる結果、曲がり管Pへの一層適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【0041】
加えて、側上面溶接工程で溶接ビードB3~B8の幅が当該溶接ビードの上止端側で調整されることで、当該溶接ビードB3~B8と下方で隣接する溶接ビードB1~B6との境界の品質が均一になるので、曲がり管Pへの一層適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【0042】
また、頂点溶接工程により頂点Tに置かれる溶接ビードB9の品質も均一になるので、曲がり管Pへの一層適切な自動肉盛溶接を行うことができる。
【0043】
次に、前述した曲がり管Pの自動肉盛溶接方法を行う自動肉盛溶接装置について説明する。
【0044】
図12に示すように、この自動肉盛溶接装置10は、自動肉盛溶接を行う自動肉盛溶接ロボット11と、前記自動肉盛溶接を制御する制御盤21とを備える。
【0045】
自動肉盛溶接ロボット11は、自動肉盛溶接により溶接ビードB1~B9を曲がり管Pの外周面に置く溶接トーチ12と、溶接ビードB1~B8の上止端bを検出するセンサ13とを有する。また、前記自動肉盛溶接ロボット11は、前記溶接トーチ12およびセンサ13を曲がり管Pの長手方向(曲がり管Pの軸O方向のうち主要な方向)にスライド自在に移動させるスライド構造14と、前記溶接トーチ12およびセンサ13を曲がり管Pにおける所望の外周面に向ける多関節構造15とを有する。
【0046】
前記制御盤21は、前記センサ13で検出された情報が入力されるセンサ情報入力部22と、前記センサ13で取得されたセンサ座標系での情報を前記自動肉盛溶接ロボット11の座標系に変換する座標系変換部23と、曲がり管Pの三次元CADデータが自動肉盛溶接ロボット11の座標系として入力されるCADデータ入力部24とを有する。
【0047】
また、前記制御盤21は、前記曲がり管Pの三次元CADデータから当該曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さ(例えば頂点T)を求め、当該曲がり管Pに置かれた溶接ビードの上止端bから当該曲がり管Pの軸Oに平行な基準高さまでの距離Wを算出する距離算出部25を有する。
【0048】
さらに、前記制御盤21は、前記曲がり管Pの頂点Tに沿って置かれる予定の溶接ビードB9にそれぞれ隣接する2本の溶接ビードB7,B8の間隔Gを算出する間隔算出部26を有する。
【0049】
加えて、前記制御盤21は、距離算出部25および間隔算出部26で算出された距離Wおよび間隔Gのそれぞれに応じて自動肉盛溶接の適切な溶接条件を選出する溶接条件選出テーブル27と、この溶接条件選出テーブル27で選出された溶接条件での自動肉盛溶接を自動肉盛溶接ロボット11に指示する溶接指示部28とを有する。
【0050】
このように、前記自動肉盛溶接装置10によると、前述した曲がり管Pの自動肉盛溶接方法が行われるので、当該自動肉盛溶接方法と同じ作用効果を奏する。
【0051】
ところで、前記実施の形態では、自動肉盛溶接により溶接ビードを置く順として、図2に示すB1,B2,B3,B4,B5,B6,B7,B8,B9の順(つまり、左上側面と右上側面とを交互に施工)として説明したが、B1,B3,B5,B7,B2,B4,B6,B8,B9の順(つまり、左上側面を施工し終えてから右上側面を施工)としてもよく、その逆(つまり、右上側面を施工し終えてから左上側面を施工)でもよい。
【0052】
また、前記実施の形態では、溶接条件選出テーブル27を使用するとして説明したが、溶接条件を選出するのに計算式など他の手段を使用してもよい。
【0053】
さらに、前記実施の形態では、自動肉盛溶接がウィービングであるとして説明したが、これに限定されることなく、溶接ビードの幅を調整可能な自動肉盛溶接であればよい。
【0054】
加えて、前記実施の形態を説明する図面では、曲がり管Pの外周面が真円であるものを示したが、楕円や角形など他の形状であってもよい。
【0055】
また、前記実施の形態では、前記距離算出工程および距離算出部25で算出される距離Wについて、直線距離、または、曲がり管Pの外周面に沿った距離のいずれかを説明しなかったが、いずれでもよい。勿論、前記距離Wは、自動肉盛溶接の品質を向上させるためにも、曲がり管Pの外周面に沿った距離の方が好ましい。
【0056】
また、前記実施の形態では、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
P 曲がり管
O 軸
W 距離
G 間隔
T 頂点
10 自動肉盛溶接装置
11 自動肉盛溶接ロボット
12 溶接トーチ
13 センサ
21 制御盤
25 距離算出部
26 間隔算出部
27 溶接条件選出テーブル
図1
図2
図3
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図12