(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019233048
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】日本電産モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直幸
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6505257(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/051550(WO,A1)
【文献】特開2010-132253(JP,A)
【文献】特開2012-45990(JP,A)
【文献】特開2017-40606(JP,A)
【文献】特開2017-52448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵機構を駆動するための第1の電動モータおよび第2電動モータをそれぞれ制御する第1制御システムおよび第2制御システムを含む電動パワーステアリング制御装置であって、
前記第1制御システムは、
前記操舵機構に関する値を出力する第1センサと、
前記第1センサの出力値に基づいて前記第1の電動モータを制御する第1制御部と、
前記第1センサの信頼度を示す第1信頼度を取得する第1算出部と、
を有し、
前記第2制御システムは、
前記第1センサと同じ検出対象に対する値を出力する第2センサと、
前記第2センサの出力値に基づいて前記第2の電動モータを制御する第2制御部と、
前記第2センサの信頼度を示す第2信頼度を算出する第2算出部と、
を有し、
前記第1制御部は、前記第1センサの出力値および前記第2センサの出力値を、前記第1信頼度および前記第2信頼度を用いて重みづけして得られた値に基づいて、前記第1の電動モータを制御する
ことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
前記第1制御システムは、前記第1センサと同じ検出対象に対する値を出力する第3センサをさらに有し、
前記第1算出部は、前記第1センサの出力値と前記第3センサの出力値とに基づいて、前記第1信頼度を算出し、
前記第2制御システムは、前記第2センサと同じ検出対象に対する値を出力する第4センサをさらに有し、
前記第2算出部は、前記第2センサの出力値と前記第4センサの出力値とに基づいて、前記第2信頼度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
前記第1算出部は、前記第1センサの出力値と前記第3センサの出力値との差分に応じて、前記第1信頼度を算出し、
前記第2算出部は、前記第2センサの出力値と前記第4センサの出力値との差分に応じて、前記第2信頼度を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
前記第1制御部は、前記第1信頼度が所定の閾値より低い状態が所定の回数確認された場合、前記第1の電動モータの制御を停止することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
前記第1の電動モータは、ロータに対応する第1の巻線であり、前記第2の電動モータは、前記ロータに対応する第2の巻線であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項6】
前記第1の電動モータは、第1のロータと前記第1のロータに対応する第1の巻線とを備えた電動モータであり、
前記第2の電動モータは、第2のロータと前記第2のロータに対応する第2の巻線とを備えた電動モータであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項7】
前記第1センサおよび前記第2センサは、前記操舵機構におけるステアリングのトルクを検出するトルクセンサ、ステアリングの舵角を検出する操舵角センサ、ロータの回転角を検出するMRセンサ、のうちいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項8】
車両の操舵機構を駆動するための第1の電動モータおよび第2電動モータをそれぞれ制御する第1制御システムおよび第2制御システムを含む電動パワーステアリング制御装置の制御方法であって、
前記第1制御システムは、前記操舵機構に関する値を出力する第1センサを有し、
前記第2制御システムは、前記操舵機構に関する値を出力する第2センサを有し、
前記第1センサの信頼度を示す第1信頼度を取得する工程と、
前記第2センサの信頼度を示す第2信頼度を取得する工程と、
前記第1センサの出力値および前記第2センサの出力値を、前記第1信頼度および前記第2信頼度を用いて重みづけして得られた値に基づいて、前記第1の電動モータを制御する工程と、
を有することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置の制御方法。
【請求項9】
車両の操舵機構を駆動するための駆動力を出力するn個の電動モータと、前記n個の電動モータをそれぞれ制御するn個の制御システムとを有する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記制御システムは、それぞれ、
自己のシステムに対応して設けられる所定の検出対象の状態情報を検出するセンサからの出力値を入力され、前記センサの信頼度を算出する信頼度算出部と、
自己のシステムにおける前記信頼度および前記センサとの出力値と、他のシステムから受信する他のシステムにおける前記信頼度および他のシステムにおけるセンサの出力値とに基づいて制御信号を出力する加重平均処理部と、
前記制御信号に基づき、前記電動モータを駆動するための駆動信号を生成するモータ制御部と、
を備える電動パワーステアリング制御装置。
【請求項10】
車両の操舵機構を駆動するための駆動力を出力するn個の電動モータと、前記n個の電動モータをそれぞれ制御するn個の制御システムとを有する電動パワーステアリング制御装置の制御方法であって、
それぞれのシステムにおいて、
自己のシステムに対応して設けられる所定の検出対象の状態情報を検出するセンサからの出力値の入力を受け付け、前記センサの信頼度を算出し、
自己のシステムにおける前記信頼度および前記センサの出力値と、他のシステムから受信する他のシステムにおける信頼度および他のシステムにおけるセンサの出力値とに基づいて制御信号を出力し、
前記制御信号に基づき、前記電動モータを駆動するための駆動信号を生成する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング制御装置および制御方法に関し、特に冗長系を有する電動パワーステアリング制御装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冗長系を有し、異常が生じても制御を継続する電動パワーステアリング制御装置に関する技術が知られている。例えば、特許文献1は、2重系に構成された二つの制御ユニットは夫々CPUを有し、夫々のCPUは互いに相手方の制御ユニットの入力情報を入手し、正常時には夫々が独立に電動モータを駆動し、入力情報に関連する異常を検知したときは、相手側の制御ユニットの入力情報を利用してモータ駆動を継続し、入力情報以外の情報に関連する異常を検知したときは、その異常の内容に応じて異常が発生した制御ユニットは駆動を継続し又は駆動を停止するよう電動モータを制御し、正常側の制御ユニットは少なくとも通常通り駆動を継続するように電動モータを制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来技術では、一方のCPUが、自身が属する制御ユニットに於ける入力情報に関連する異常を検知したときは、そのCPUは、自身が属しない制御ユニットに於ける入力情報を用いて制御量を演算し、その演算した制御量に基づく制御指令を、自身が属する制御ユニットに於ける駆動回路に与えるように構成されている。しかし、このような構成だと、正常時から異常時に切り替わる際に、電動モータの駆動制御の基礎となる入力情報が自身側の入力情報から相手側の入力情報に突然切り替わることになる。操舵トルク等の入力情報を出力するセンサは、仕様上同一であっても僅かな個体差がある場合がある。この様な場合に、突然自身側のセンサが出力した入力情報から相手側のセンサが出力した入力情報に切り替わると、入力情報に不連続が生じ、その入力情報を用いて演算した電動モータに対する制御指令も不連続となるため、運転者に違和感や不快感を与える可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる事情を鑑みて考案されたものであり、冗長化されたシステムにおいて、一方のシステムの入力情報に異常を検出し、他方のシステムの入力情報に切り替えて電動モータの駆動を継続する場合でも、切り替え時に不連続的な変化が生じることを低減する電動パワーステアリング制御装置および制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、車両の操舵機構を駆動するための第1の電動モータおよび第2電動モータをそれぞれ制御する第1制御システムおよび第2制御システムを含む電動パワーステアリング制御装置であって、前記第1制御システムは、前記操舵機構に関する値を出力する第1センサと、前記第1センサの出力値に基づいて前記第1の電動モータを制御する第1制御部と、前記第1センサの信頼度を示す第1信頼度を取得する第1算出部と、 を有し、前記第2制御システムは、前記第1センサと同じ検出対象に対する値を出力する第2センサと、前記第2センサの出力値に基づいて前記第2の電動モータを制御する第2制御部と、前記第2センサの信頼度を示す第2信頼度を算出する第2算出部と、を有し、前記第1制御部は、前記第1センサの出力値および前記第2センサの出力値を、前記第1信頼度および前記第2信頼度を用いて重みづけして得られた値に基づいて、前記第1の電動モータを制御する電動パワーステアリング制御装置が提供される。
これによれば、正常時から自己のシステムおよび他のシステムの状態情報の入力を受け付けて、自己のシステムの状態情報と他のシステムの状態情報を重み付けして平均化した
値に基づいて、電動モータを制御するすることで、切り替え時の不連続的な変化を低減する電動パワーステアリング制御装置を提供することができる。
【0007】
さらに、前記第1制御システムは、前記第1センサと同じ検出対象に対する値を出力する第3センサをさらに有し、前記第1算出部は、前記第1センサの出力値と前記第3センサの出力値とに基づいて、前記第1信頼度を算出し、前記第2制御システムは、前記第2センサと同じ検出対象に対する値を出力する第4センサをさらに有し、前記第2算出部は、前記第2センサの出力値と前記第4センサの出力値とに基づいて、前記第2信頼度を算出することを特徴としてもよい。
【0008】
さらに、前記第1算出部は、前記第1センサの出力値と前記第3センサの出力値との差分に応じて、前記第1信頼度を算出し、前記第2算出部は、前記第2センサの出力値と前記第4センサの出力値との差分に応じて、前記第2信頼度を算出することを特徴としてもよい。
これによれば、冗長化された2つのセンサからの出力値の差分に応じて信頼度を算出することで、信頼性の高い切り替えを行うことができる。
【0009】
さらに、 前記第1制御部は、前記第1信頼度が所定の閾値より低い状態が所定の回数確認された場合、前記第1の電動モータの制御を停止することを特徴としてもよい。
【0010】
上記課題を解決するために、車両の操舵機構を駆動するための第1の電動モータおよび第2電動モータをそれぞれ制御する第1制御システムおよび第2制御システムを含む電動パワーステアリング制御装置の制御方法であって、前記第1制御システムは、前記操舵機構に関する値を出力する第1センサを有し、前記第2制御システムは、前記操舵機構に関する値を出力する第2センサを有し、前記第1センサの信頼度を示す第1信頼度を取得する工程と、前記第2センサの信頼度を示す第2信頼度を取得する工程と、前記第1センサの出力値および前記第2センサの出力値を、前記第1信頼度および前記第2信頼度を用いて重みづけして得られた値に基づいて、前記第1の電動モータを制御する工程と、を有する制御方法が提供される。
これによれば、正常時から自己のシステムおよび他のシステムの状態情報の入力を受け付けて、自己のシステムの状態情報と他のシステムの状態情報を重み付けして得られた値に基づいて、電動モータを制御することで、切り替え時の不連続的な変化を低減する制御方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、冗長化されたシステムにおいて、一方のシステムの入力情報に異常を検出し、他方のシステムの入力情報に切り替えて電動モータの駆動を継続する場合でも、切り替え時に不連続的な変化が生じることを低減する制御装置および制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る第一実施例の電動パワーステアリング制御装置のブロック構成図。
【
図2】本発明に係る第一実施例の電動パワーステアリング制御装置のフローチャート。(A)は全体動作フローを示し、(B)は制御入力取り込み・共有処理を示す。
【
図3A】本発明に係る第一実施例の電動パワーステアリング制御装置においてセンサに異常が発生した場合の信頼度などを示すグラフ。
【
図3B】本発明に係る第一実施例の電動パワーステアリング制御装置においてセンサに異常が発生しない場合の信頼度などを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施例について説明する。
【0014】
<第一実施例>
図1を参照し、本実施例における電動パワーステアリング制御装置1を説明する。電動パワーステアリング制御装置1は、車両の操舵機構に含まれるEPS(Electric Power Steering)ギヤを駆動する電動モータと、その電動モータを制御する第1系統100および第2系統200から構成される。この電動モータは、1個のロータに2巻線を備え、2系統に冗長化された3相電動モータであり、本明細書では、2系統を区別して説明する場合、第1電動モータMT1と第2電動モータMT2と呼ぶ。第1電動モータMT1/第2電動モータMT2は、これに限定されず、1個のロータに1巻線を備えた電動モータを2個用いて、2系統に冗長化された電動モータであってもよい。第1電動モータMT1と第2電動モータMT2は、車両の操舵機構を駆動するための駆動力を分担して出力する。なお、本明細書では、2系統に冗長化された電動モータを例に説明するが、2系統であることに限定されず、n個(n≧2)の系統に冗長化されていてもよい。
【0015】
電動パワーステアリング制御装置1は、いずれかの系(システム)で異常が生じても制御を継続するため、2系統に冗長化された電動モータに対応するように冗長系を有する。電動パワーステアリング制御装置1は、第1電動モータMT1に対する第1系統100に対応した第1制御システム110と、第2電動モータMT2に対する第2系統200に対応した第2制御システム210を備える。第1制御システム110および第2制御システム210は、バッテリ(図示せず)から電力を供給され、主トルクセンサ/副トルクセンサからステアリングに付加されるトルク値を、主操舵角センサ/副操舵角センサからステアリングの舵角を、主MRセンサ/副MRセンサから第1電動モータMT1/第2電動モータMT2のロータの回転軸に設けられたマグネットから得られるロータの回転角を、取得する。なお、MRセンサとは、磁気抵抗(Magnetic Resistance)センサである。第1制御システム110および第2制御システム210は、これらのセンサが検出した信号に基づきパワーステアリングの補助力を生成するために第1電動モータMT1および第2電動モータMT2をそれぞれ駆動する。第1電動モータMT1および第2電動モータMT2の駆動力は、車両の運転者がステアリングを操舵する力を補助する。
【0016】
第1制御システム110は、これらのセンサの信号を取得し、第1電動モータMT1の回転を制御するマイクロコンピュータ111と、マイクロコンピュータ111の制御信号に基づき、第1電動モータMT1を駆動するための駆動信号を生成するモータ制御部120と、マイクロコンピュータ111とモータ制御部120に電源を供給する電源部130と、を備える。モータ制御部120は、マイクロコンピュータ111の制御信号からPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成するプリドライバ121と、PWM信号により第1電動モータMT1を回転駆動する駆動力を出力するため電流を供給するインバータ回路122とを備える。
【0017】
電動パワーステアリングにとって重要な情報となるステアリングのトルクを検出するトルクセンサは、主トルクセンサと副トルクセンサの2つのセンサから構成され冗長化されている。同様に、ステアリングの舵角を検出する操舵角センサは、主操舵角センサと副操舵角センサの2つのセンサから構成され冗長化されている。第1電動モータMT1のロータの回転角を検出するMRセンサは、主MRセンサと副MRセンサの2つのセンサから構成され冗長化されている。これらの冗長化されている主センサおよび副センサからの出力値は、異常がなければ所定の検出対象の同一の状態情報を検出するので同じになるように設計されている。なお、所定の検出対象とは、操舵機構のステアリングのトルクや操舵角、電動モータのロータの回転角などを言う。
【0018】
第1制御システム110は、第2系統200の主トルクセンサが検出した操舵トルク信号も取得する。本図では、第1制御システム110は、第2系統200の主トルクセンサのみから操舵トルク信号を取得するが、これに限定されず、第2系統200の副トルクセンサからも操舵トルク信号を取得してもよい。その場合、第1制御システム110は、主トルクセンサと副トルクセンサの操舵トルク信号からトルク値の平均値を算出してもよい。また、本図では、第1制御システム110は、第2系統200の主トルクセンサのみから操舵トルク信号を取得するが、主操舵角センサ/副操舵角センサ、主MRセンサ/副MRセンサなどの他のセンサから検出信号を取得してもよい。この場合、第1制御システム110は、これらのセンサが検出する操舵角や回転角に基づき、後述する信頼度算出部113や加重平均処理部114が行う処理を行ってもよい。
【0019】
マイクロコンピュータ111は、第1制御システム110を全体的に制御することに加え、モータ制御部120に対して制御信号を生成する制御信号処理部112を備える。制御信号処理部112は、信頼度算出部113と加重平均処理部114を有する。信頼度算出部113は、自己のシステムの主トルクセンサおよび副トルクセンサからの操舵トルク信号を取得し、その操舵トルク信号から得られる主トルクセンサの出力値S1mと副トルクセンサの出力値S1sの差分の絶対値に基づき、主トルクセンサの信頼度R1を算出する。この場合、信頼度R1は、差分の絶対値が小さいほど信頼度が高くなるように設定し、ゼロと1の間の値を取るように正規化することが望ましい。
【0020】
なお、信頼度R1は、センサの正常の度合いを示すものである。信頼度R1は、たとえば、正常時には1、センサに大きな異常が発生した場合にはゼロを示すような値が好ましい。信頼度R1の算出方法はいくつか考えられる。たとえば、信頼度R1は、(式1)に示すように、主トルクセンサの出力値S1mと副トルクセンサの出力値S1sの差分の大きさ(絶対値)に応じたものと定義できる。(式1)では、差分の大きさ(|S1m-S1s|)と所定の異常判定閾値THとの比を1からマイナスすることで、2つのトルクセンサの出力値の差分を用いて、正常時には1、センサの続行不可能な異常時にはゼロを示し、その間の中間的な値として主トルクセンサの正常の度合いを示す。なお、差分の大きさが異常判定閾値THより大きくなった場合は、R1をゼロとする。例として、異常判定閾値THが0.2ボルトとする場合、差分の絶対値がゼロである正常時は、信頼度R1は1となり、差分の絶対値が0.1である異常が発生した場合信頼度R1は0.5となり、差分の絶対値が異常判定閾値THと同じ値の0.2である場合信頼度R1はゼロとなり、差分の絶対値が異常判定閾値THを超える場合信頼度R1はゼロとなる。ただし、信頼度R1の算出方法は、上記の例では差分の大きさと信頼度R1は線形として説明したが、これに限定されず、非線形の関数を用いて算出してもよい。
R1=1-|S1m-S1s|/TH ・・・(式1)
【0021】
加重平均処理部114は、自己のシステムの信頼度算出部113が算出した信頼度R1および自己のシステムの主トルクセンサの出力値S1mと、他のシステムである第2制御システム210から受信する第2制御システム210の信頼度算出部213が算出した信頼度R2と、第2制御システム210の主トルクセンサの出力値S2mとに基づいて制御信号を出力する。加重平均処理部114は、出力値S1mおよび出力値S2mを、自己の信頼度R1および信頼度R2で重み付けして平均化した(式2)のように算出した加重平均値WAを用いて、制御信号を出力する。このように、中間的な値を取れる自己のシステムの信頼度R1と他のシステムの信頼度R2を用いて自己のシステムのセンサの出力値と他のシステムの出力値を加重平均することで、実質的に異常が生じたシステムのセンサの出力値を使用せずに、正常なシステムの出力値を用いて電動モータの駆動を継続することができる。
WA=(R1*S1m+R2*S2m)/(R1+R2) ・・・(式2)
【0022】
第1電動モータMT1の各相U/V/Wの制御信号CS(U、V、W)は、自己のシステムの検出情報だけで生成する場合、(式3)のようにたとえば主トルクセンサで検出した操舵トルク信号に基づき生成される。しかし、本発明における制御信号CS(U、V、W)は、(式4)のように算出される。マイクロコンピュータ111は、これらのセンサから得られた信号に基づき、インバータ回路122の各相回路に設けられた半導体素子をオンオフするためのPWMデューティ値を算出する。プリドライバ121は、そのPWMデューティ値に基づき、インバータ回路122を駆動するためのPWM信号を出力する。インバータ回路122は、第1制御システム110の外部に存する第1電動モータMT1を回転駆動する。
CS(U、V、W)=F(S1m) ・・・(式3)
CS(U、V、W)=F(WA) ・・・(式4)
【0023】
このように、自己のシステムは他のシステムの情報を必要とするため、第1制御システム110のマイクロコンピュータ111と第2制御システム210のマイクロコンピュータ211は、互いのシステム内の情報を適宜交換している。マイクロコンピュータ111は、マイクロコンピュータ211から第2制御システム210の信頼度R2を取り込むと共に自己のシステムの信頼度R1をマイクロコンピュータ211に出力する。各種センサの信号は、本図のように他のシステムのセンサから直接取り込んでもよいし、マイクロコンピュータ経由で取り込んでもよい。
【0024】
第2制御システム210は、第2電動モータMT2の回転を制御するマイクロコンピュータ211と、マイクロコンピュータ211の制御信号に基づき、第2電動モータMT2を駆動するための駆動信号を生成するモータ制御部220と、マイクロコンピュータ211とモータ制御部220に電源を供給する電源部230と、を備える。これらの構成要素は、上述した第1制御システム110における相当する構成要素と同じなので、説明を省略する。
【0025】
図2を参照して、電動パワーステアリング制御装置1の制御フローを説明する。この制御フローは、第1制御システム110と第2制御システム210の両方において実行される。以下では、第1制御システム110が実行する例として説明する。マイクロコンピュータ111は、S100において、車両のイグニッションがオンにされたなどのタイミングで第1制御システム110を初期設定と初期診断を行う。マイクロコンピュータ111は、初期設定により各センサの出力値や制御パラメータなどをリセットし、初期診断により各センサが正しく機能しているかを診断する。
【0026】
マイクロコンピュータ111は、S200において、自己のシステムの各センサの出力値、および、他のシステムの各センサの出力値やマイクロコンピュータ211から他のシステムに関する情報を取り込むと共に、他のシステムへ自己のシステムの情報を出力する。より具体的には、マイクロコンピュータ111は、S202において、自己のシステムの主トルクセンサと副トルクセンサの出力値を取り込む。マイクロコンピュータ111は、S204において、制御パラメータを生成する。制御パラメータは、たとえば、主トルクセンサの出力値のみを抽出して生成する場合にはS1mとなり、主トルクセンサと副トルクセンサの出力値の平均値を生成する場合には(S1m+S1s)/2としてもよい。生成した制御パラメータは、相手方の第2系統200に送信される。マイクロコンピュータ111は、S206において、生成された制御パラメータが正常なものであるか否かの診断を実施する。この診断は、たとえば、主トルクセンサと副トルクセンサの出力値の間に相関性があるか否かにより行う。
【0027】
信頼度算出部113は、S208において、自己のシステムの信頼度R1(信頼性パラメータ)を生成する。信頼度R1の算出方法について、
図3Aと
図3Bを参照して説明する。
図3Aの上段のグラフは、第1系統100における異常が発生した主トルクセンサの出力値S1mおよび副トルクセンサの出力値S1sを示す。主トルクセンサは、時間t1から出力値S1mが徐々に減少し始め、時間t3には出力値S1mがゼロになっている。副トルクセンサは正常のままであり、その出力値S1sは一定している。
図3Aの中段のグラフは、上段のグラフのように出力値S1mと出力値S1sが変化した場合の差分の大きさの絶対値(|S1m-S1s|)を示す。時間t1までは出力値S1mと出力値S1sは同じ値だったので、差分の大きさはゼロであるが、時間t1から出力値S1mが減少し時間t3にゼロになるため、差分の大きさは、時間t1から上昇し始め時間t3で一定となる。なお、差分の大きさは、異常判定閾値THを時間t2で超える。
図3Aの下段のグラフは、(式1)により算出した信頼度R1を示す。信頼度R1は、時間t1までは正常なので1であるが、時間t1以降減少し始め、差分の大きさが異常判定閾値THを超える時間t2でゼロとなる。
【0028】
図3Bの上段のグラフは、第2系統200におけるいずれも正常な主トルクセンサの出力値S2mおよび副トルクセンサの出力値S2sを示す。出力値S2mと出力値S2sは、同じ値を示している。
図3Bの中段のグラフは、上段のグラフのように出力値S2mと出力値S2sが変化した場合の差分の大きさがゼロであり、異常判定閾値THを下回っていることを示している。
図3Bの下段のグラフは、(式1)により算出した信頼度R2を示しており、いずれも正常なので第2系統200の主トルクセンサの信頼度R2は最も正常の度合いが高いことを示す1である。このような信頼度R1と信頼度R2に基づいて算出される加重平均値WAは、両システムとも正常な時間t1辺りまでは信頼度R1と信頼度R2は等しいため実質的に両者の単純平均値であり、時間t2以降は信頼度R1がゼロのため実質的に第2系統200の主トルクセンサの出力値S2mであり、時間t1から時間t2の間はその移行期間として徐々に両者の重み付けが変化することになる。これにより、加重平均値WAを用いて生成される制御信号の変動は、異常が起こる前後において大きな変化を生じない。
【0029】
上述したような加重平均値WAを用いない場合、第1系統100では差分(|S1m-S1s|)が異常判定閾値THを越えているので、主トルクセンサの出力値S1mは、正常と考えられる第2系統200の主トルクセンサの出力値S2mに比べて、TH分は違っている。そうすると、第1系統100では、制御に用いるセンサ値は、S1mからS2mに切り替えられるので、第1制御システム110が用いるセンサ値はTH分だけ急変することになる。そうすると、制御信号には、瞬間的ではあるが大きな変動が発生し、これによりステアリングを操作する運転者にとっては違和感や不快感を感じることになる
【0030】
加重平均値WAを用いる場合、第1系統100では、差分(|S1m-S1s|)が異常判定閾値THを越えているので、主トルクセンサの出力値S1mは、正常と考えられる第2系統200の主トルクセンサの出力値S2mに比べて、TH分は違っている。第1制御システム110が制御に用いていたセンサ値は、(R1*S1m+R2*S2m)/(R1+R2)である。第2系統200は正常であるとすると、R2は1だから、代入すると、以下のようになる
(R1*S1m+R2*S2m)/(R1+R2)=
(R1*S1m+S2m)/(R1+1) ・・・ A
異常後は、R1=ゼロとなる。また第2系統200は正常とすると、R2は1であるから、以下のようになる。
(R1*S1m+R2*S2m)/(R1+R2)=S2m ・・・B
【0031】
そうすると、第1系統100では、制御に用いるセンサ値は、AからBに変化する。その変化量(A-B)は、以下のようになる。
(S1m-S2m)*R1/(R1+1)
第1系統100で制御に用いるセンサ値が切り替えられるのは、差分(|S1m-S1s|)が異常判定閾値THを超えた時点なので、以下のようになる。
(S1m-S2m)*R1/(R1+1)=TH*R1/(R1+1)
ここで、R1/(R1+1)は1より小さいので、TH*R1/(R1+1)はTHよりも小さくなる。仮に、切り替わる直前のR1=0.1とすると、
R1/(R1+1)=0.1/1.1=1/11
となる。これは、加重平均値WAを用いない場合に比べて、第1系統100が制御に用いるセンサ値の変化が約1/11に抑えられることを示す。
【0032】
このように、本願発明のように正常時から自己のシステムおよび他のシステムの状態情報の入力を受け付けて、自己のシステムの状態情報と他のシステムの状態情報を重み付けして平均化した制御信号を出力することで、切り替え時の不連続的な変化を低減することができる。また、冗長化された2つのセンサからの出力値の差分と所定の閾値との差を信頼度R1/R2として平均化することで、信頼性の高い切り替えを行うことができる。
【0033】
信頼度算出部113は、S210において、S208で生成した信頼度R1を相手方の第2系統200に送信する。マイクロコンピュータ111は、S212において、第2系統200から第2系統200における信頼度R2と、第2系統200における主トルクセンサの出力値S2mなどの制御パラメータを取り込む。
【0034】
上述した制御入力取り込み・共有処理(S200)の後、マイクロコンピュータ111は、S104において、上述した(式2)で示されるように加重平均値WAを算出し制御信号(制御入力値)を生成する。マイクロコンピュータ111は、S106において、自己のシステムに異常な入力があったかを判定を行う。本例では、R1=TH-(S1m-S1s)>0であることを異常が発生していない状態であると判定する。マイクロコンピュータ111は、異常が発生したと判定した場合S110において異常確定カウントFをプラス1し、異常が発生しないと判定した場合S108において異常確定カウントFをゼロにクリアする。そして、マイクロコンピュータ111は、S112において、異常確定カウントFが所定のカウント値Fcになった場合本当に異常が発生したと判定し、それ以外は正常であると判定する。すなわち、マイクロコンピュータ111は、異常な入力が連続的に所定のカウント値Fcの回数あった場合に本当に異常が発生したと判定する。
【0035】
各系統のセンサ、例えばトルクセンサが冗長では無く1つの場合には、上述したような主センサと副センサとの差分を用いることはできないが、例えば次のような方法を用いることで信頼度を求めることができる。異常によってセンサの出力が安定しないような場合には出力に含まれる変動(ノイズ)の大きさに応じて信頼度を決める。高周波ノイズを含む出力のピーク値とローパスフィルタで高周波ノイズを除去した出力との差分をノイズの大きさとし、ノイズが大きいほど信頼度は小さく設定する。
【0036】
自己のシステムに異常が発生したと判定した場合、マイクロコンピュータ111は、S116において、停止処理を行い、第1電動モータMT1の制御を停止する。自己のシステムに異常が発生していないと判定した場合、マイクロコンピュータ111は、S114において、(式4)で示す制御信号CS(U、V、W)を算出し、プリドライバ121とインバータ回路122を通じて第1電動モータMT1を回転駆動する。上述したS200~S114までの処理が、イグニッションスイッチがオフされるなど停止命令を受信するまで繰り返される(S118)。マイクロコンピュータ111は、S120において、停止命令を受信した場合は動作を停止する処理を行い、終了する。異常を確定する判断する制御(S106、S108、S110、S112、S116)は行わずに、信頼度がゼロになった場合でも、異常側の系統はモータの駆動をWAを用いて継続するようにしても良い。
【0037】
上述したことは、電動パワーステアリング制御装置1を制御する制御方法でもある。この制御方法は、車両の操舵機構を駆動するための駆動力を出力する第1電動モータMT1と第2電動モータMT2と、第1電動モータMT1を制御する第1制御システム110と第2電動モータMT2を制御する第2制御システム210とを有する電動パワーステアリング制御装置1の制御方法であって、それぞれのシステムにおいて、自己のシステムに対応して設けられる所定の検出対象の同一の状態情報を検出する主センサおよび副センサからの出力値の入力を受け付け、主センサの出力値と副センサの出力値の差分に基づいて主センサの信頼度を算出し、自己のシステムにおける信頼度および主センサと副センサの一方または両方の出力値と、他のシステムから受信する他のシステムにおける信頼度および主センサと副センサの一方または両方の出力値とに基づいて重み付けして平均化した制御信号を出力し、制御信号に基づき、電動モータを駆動するための駆動信号を生成する制御方法である。
【0038】
これによれば、正常時から自己のシステムおよび他のシステムの状態情報の入力を受け付けて、自己のシステムの状態情報と他のシステムの状態情報を重み付けして平均化した制御信号を出力することで、切り替え時の不連続的な変化を低減する制御方法を提供することができる。
【0039】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 電動パワーステアリング制御装置
100 第1系統
110 第1制御システム
111 マイクロコンピュータ
112 制御信号処理部
113 信頼度算出部
114 加重平均処理部
120 モータ制御部
121 プリドライバ
122 インバータ回路
130 電源部
200 第2系統
210 第2制御システム
212 制御信号処理部
213 信頼度算出部
214 加重平均処理部
220 モータ制御部
221 プリドライバ
222 インバータ回路
230 電源部
MT1 第1電動モータ
MT2 第2電動モータ