(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221201BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20221201BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221201BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20221201BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20221201BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20221201BHJP
F16C 33/34 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C19/54
F16C19/06
F16C19/36
F16C19/38
F16C33/58
F16C33/34
(21)【出願番号】P 2019543472
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2018029643
(87)【国際公開番号】W WO2019058798
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017180418
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 史人
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018121(WO,A1)
【文献】特開平01-150045(JP,A)
【文献】特開2013-148169(JP,A)
【文献】実開昭63-106944(JP,U)
【文献】特開2017-110705(JP,A)
【文献】特開2013-122300(JP,A)
【文献】特開昭52-047164(JP,A)
【文献】特開昭58-196349(JP,A)
【文献】特開2009-061836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/54
F16C 19/06
F16C 19/36
F16C 19/38
F16C 33/58
F16C 33/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え
、
前記主軸受は、クロスローラ軸受または4点接触ボール軸受であることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受の作用線は、前記主軸受の軸方向に対して傾斜していることを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受の作用線は、前記主軸受の作用線と平行であることを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え、
前記主軸受はクロスローラ軸受であり、前記転がり軸受は円筒ころ軸受であり、両者の作用線は前記主軸受の軸方向に対して45度をなすことを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記主軸受の転動体はクラウニングを有さず、前記転がり軸受の転動体はクラウニングを有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え、
前記転がり軸受の転動体は、前記主軸受の作用線上にあることを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、
前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、
前記主軸受よりも径方向内側において、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備え、
前記主軸受と前記転がり軸受とは、径方向から見て重なることを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記転がり軸受は、スラスト軸受であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、
前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、
前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯部材は、前記第2内歯歯車の径方向外側まで延びた第1延長部を有し、
前記第2内歯部材は、前記第1内歯歯車の径方向外側まで延びた第2延長部を有し、
本撓み噛合い式歯車装置はさらに、
前記第1延長部と前記第2内歯部材との間に配置された第1主軸受と、
前記第2延長部と前記第1内歯部材との間に配置された第2主軸受と、を備えることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ軽量で高減速比が得られる歯車装置として、撓み噛合い式歯車装置が知られている。従来では、起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に隣接して配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、第1内歯部材と第2内歯部材との間に配置される主軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような従来の撓み噛合い式歯車装置では、外部からのモーメント荷重により内歯歯車が傾き、内歯歯車と外歯歯車とが片当たりを起こし、歯車が摩耗しうる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、歯車の摩耗を抑止できる撓み噛合い式歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、第1内歯部材と第2内歯部材との間に配置される主軸受と、主軸受よりも径方向内側において、第1内歯部材と第2内歯部材との間に配置される転がり軸受と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、撓み噛合い式歯車装置である。この装置は、起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、第1内歯部材は、第2内歯歯車の径方向外側まで延長された第1延長部を有する。第2内歯部材は、第1内歯歯車の径方向外側まで延長された第2延長部を有する。本撓み噛合い式歯車装置はさらに、第1延長部と第2内歯部材との間に配置された第1主軸受と、第2延長部と第1内歯部材との間に配置された第2主軸受と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歯車の摩耗を抑止できる撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図2】
図1の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図4】第1の実施の形態の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】第1の実施の形態の別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図6】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図7】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図8】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図10】
図9の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図11】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図12】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図13】第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受および転がり軸受とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図14】第2の実施の形態の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速して出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、波動発生器2と、外歯歯車4と、第1内歯歯車6と、第1内歯部材7と、第2内歯歯車8と、第2内歯部材9と、第1規制部材12と、第2規制部材14と、主軸受16と、第1軸受ハウジング18と、第2軸受ハウジング20と、転がり軸受50と、を備える。噛合い式歯車装置100には、潤滑剤(例えばグリース)が封入されている。潤滑剤は、外歯歯車4と第1内歯歯車6および第2内歯歯車8との噛み合い部や各軸受等を潤滑する。
【0013】
波動発生器2は、起振体軸22と、起振体軸22と外歯歯車4(の第1外歯部4a)との間に配置される第1起振体軸受21aと、起振体軸22と外歯歯車4(の第2外歯部4b)との間に配置される第2起振体軸受21bと、を有する。第1起振体軸受21aは、複数の第1転動体24aと、第1保持器26aと、第1外輪部材28aと、を含む。第2起振体軸受21bは、複数の第2転動体24bと、第2保持器26bと、第2外輪部材28bと、を含む。起振体軸22は、入力軸であり、例えばモータ等の回転駆動源に接続され、回転軸Rを中心に回転する。起振体軸22には、回転軸Rに直交する断面が略楕円形状である起振体22aが一体に形成されている。
【0014】
複数の第1転動体24aはそれぞれ、略円柱形状を有し、軸方向が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。第1転動体24aは、第1保持器26aにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第1起振体軸受21aの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。第2転動体24bは、第1転動体24aと同様に構成される。複数の第2転動体24bは、第1保持器26aと軸方向に並ぶように配置された第2保持器26bにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第2起振体軸受21bの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。以降では、第1転動体24aと第2転動体24bとをまとめて「転動体24」とも呼ぶ。また、第1保持器26aと第2保持器26bとをまとめて「保持器26」とも呼ぶ
【0015】
第1外輪部材28aは、複数の第1転動体24aを環囲する。第1外輪部材28aは、可撓性を有し、複数の第1転動体24aを介して起振体22aにより楕円状に撓められる。第1外輪部材28aは、起振体22a(すなわち起振体軸22)が回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと同様に構成される。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと一体に形成されてもよい。以降では、第1外輪部材28aと第2外輪部材28bとをまとめて「外輪部材28」とも呼ぶ。
【0016】
外歯歯車4は、可撓性を有する環状の部材であり、その内側には起振体22a、転動体24および外輪部材28が嵌まる。外歯歯車4は、起振体22a、転動体24および外輪部材28が嵌まることによって楕円状に撓められる。外歯歯車4は、起振体22aが回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。外歯歯車4は、第1外輪部材28aの外側に位置する第1外歯部4aと、第2外輪部材28bの外側に位置する第2外歯部4bと、基材4cと、を含む。第1外歯部4aと第2外歯部4bとは単一の基材である基材4cに形成されており、同歯数である。
【0017】
第1内歯歯車6は、剛性を有する環状の部材であり、その内周に第1内歯部6aが形成されている。第1内歯部6aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第1外歯部4aを環囲し、起振体22aの長軸近傍の所定領域(2領域)で第1外歯部4aと噛み合う。第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも多くの歯を有する。
【0018】
第2内歯歯車8は、第1内歯歯車6と軸方向に隣接して(並んで)配置される。第2内歯歯車8は、剛性を有する円筒状の部材であり、その内周に第2内歯部8aが形成されている。第2内歯部8aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第2外歯部4bを環囲し、起振体22aの長軸方向の所定領域(2領域)で第2外歯部4bと噛み合う。第2内歯部8aは、第2外歯部4bと同数の歯を有する。したがって、第2内歯歯車8は、第2外歯部4bひいては外歯歯車4の自転と同期して回転する。
【0019】
第1規制部材12は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第1外輪部材28aおよび第1保持器26aと第1軸受ハウジング18との間に配置される。第2規制部材14は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第2外輪部材28bおよび第2保持器26bと第2軸受ハウジング20との間に配置される。第1規制部材12および第2規制部材14は、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0020】
第1内歯部材7は、本体部52と、延長部54と、を含む。
【0021】
本体部52は、環状の部材であり、その内周側に第1内歯歯車6が設けられている。本実施の形態では、第1内歯歯車6と本体部52とは、一体的に形成される。したがって、本体部52ひいては第1内歯部材7は、第1内歯歯車6と一体的に回転する。なお、第1内歯歯車6と本体部52とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0022】
延長部54は、略円筒状の部材である。延長部54には、本体部52がインロー嵌合されボルト(不図示)により一体化される。延長部54は、本体部52から第2内歯歯車8の径方向外側まで延び、第2内歯歯車8および第2内歯部材9を環囲する。
【0023】
第2内歯部材9は、第1内歯部材7の本体部52と軸方向に隣接して配置される。第2内歯部材9は、筒状の部材であり、その内周側に第2内歯歯車8が設けられている。本実施の形態では、第2内歯歯車8と第2内歯部材9とは、一体的に形成される。したがって、第2内歯部材9は、第2内歯歯車8と一体的に回転する。なお、第2内歯歯車8と第2内歯部材9とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0024】
主軸受16は、その軸方向が回転軸Rと一致するように、延長部54と第2内歯部材9との間に配置される。延長部54ひいては第1内歯部材7は、主軸受16を介して、第2内歯部材9を相対回転自在に支持する。
【0025】
転がり軸受50は、第1内歯部材7と第2内歯部材9との間に設けられる。転がり軸受50は、第1内歯部材7と第2内歯部材9との相対回転を許容する。
【0026】
第1軸受ハウジング18は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。同様に、第2軸受ハウジング20は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。第1軸受ハウジング18と第2軸受ハウジング20とは、外歯歯車4、転動体24、保持器26、外輪部材28、第1規制部材12および第2規制部材14を軸方向に挟むよう配置される。第1軸受ハウジング18は、第1内歯部材7の本体部52に対してインロー嵌合されボルト固定される。第2軸受ハウジング20は、第2内歯部材9に対してインロー嵌合されボルト固定される。第1軸受ハウジング18の内周には軸受30が組み込まれており、第2軸受ハウジング20の内周には軸受32が組み込まれており、起振体軸22は、軸受30および軸受32を介して、第1軸受ハウジング18および第2軸受ハウジング20に対して回転自在に支持される。
【0027】
起振体軸22と第1軸受ハウジング18の間にはオイルシール40が配置され、第1軸受ハウジング18と第1内歯部材7の本体部52との間にはOリング34が配置され、第1内歯部材7の本体部52と延長部54との間にはOリング36が配置され、第1内歯部材7の延長部54と第2内歯部材9との間にはオイルシール42が配置され、第2内歯部材9と第2軸受ハウジング20との間にはOリング38が配置され、第2軸受ハウジング20と起振体軸22との間にはオイルシール44が配置される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100内の潤滑剤が漏れるのを抑止できる。
【0028】
図2は、主軸受16および転がり軸受50とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【0029】
主軸受16は、本実施の形態ではクロスローラ軸受であり、内輪側転走面56と、外輪側転走面58と、複数の転動体60と、を含む。なお、主軸受16の軸受の種類は特に限定されるものではなく、例えば4点接触ボール軸受であってもよい。
【0030】
内輪側転走面56は、第1内歯部材7の延長部54と対向する第2内歯部材9の外周に、第2内歯部材9と一体的に形成される。内輪側転走面56は、回転軸R(
図2では不図示)を含む断面がV字形状を有する。詳しくは、内輪側転走面56は、第1内輪側転走面56aと、第2内輪側転走面56bと、を含む。第1内輪側転走面56aおよび第2内輪側転走面56bは、いずれも回転軸Rを環囲する。第2内輪側転走面56bは、軸方向において、第1内輪側転走面56aよりも、第1内歯部材7の本体部52側に位置する。
【0031】
外輪側転走面58は、第2内歯部材9と対向する第1内歯部材7の延長部54の内周に、延長部54と一体的に形成される。外輪側転走面58は、回転軸Rを含む断面が逆V字形状を有する。詳しくは、外輪側転走面58は、第1外輪側転走面58aと、第2外輪側転走面58bと、を含む。第1外輪側転走面58aおよび第2外輪側転走面58bは、いずれも回転軸Rを環囲する。第2外輪側転走面58bは、軸方向において、第1外輪側転走面58aよりも、第1内歯部材7の本体部52側に位置する。
【0032】
複数の転動体60は、内輪側転走面56と外輪側転走面58との間に、周方向に間隔を空けて設けられる。複数の転動体60は、内輪側転走面56および外輪側転走面58を転走する。
【0033】
転がり軸受50は、主軸受16よりも径方向内側において第1内歯部材7と第2内歯部材9との間に配置される。ここで、転がり軸受50が主軸受16よりも径方向内側に配置されるとは、転がり軸受50のうちの最も径方向外側に位置する部分(本実施形態では、転動体66およびその保持器の最も径方向外側に位置する部分P)が、主軸受16のうちの最も径方向外側に位置する部分(本実施形態では、転動体60の最も径方向外側に位置する部分Q)よりも径方向内側に位置するように配置されることをいう。
【0034】
また、転がり軸受50は、本実施の形態では、径方向から見て主軸受16と重なるように設けられている。
【0035】
転がり軸受50は、本実施の形態では円筒ころ軸受であり、内輪側転走面62と、外輪側転走面64と、複数の転動体66と、を含む。
【0036】
内輪側転走面62は、回転軸Rを環囲する。内輪側転走面62は、軸方向において第2内歯部材9と対向する第1内歯部材7の本体部52の端面に、本体部52と一体的に形成される。なお、本体部52とは別体の専用の内輪を有してもよい。
【0037】
外輪側転走面64は、回転軸Rを環囲する。外輪側転走面64は、軸方向において第1内歯部材7の本体部52と対向する第2内歯部材9の端面に、第2内歯部材9と一体的に形成される。外輪側転走面64は、回転軸Rを含む断面が内輪側転走面62と平行となるように形成される。なお、第2内歯部材9とは別体の専用の外輪を有してもよい。
【0038】
複数の転動体66はそれぞれ、略円筒形状を有する。複数の転動体66は、軸方向が内輪側転走面62および外輪側転走面64と略平行な方向を向いた状態で、内輪側転走面62と外輪側転走面64との間に周方向に間隔を空けて設けられる。複数の転動体66は、内輪側転走面62および外輪側転走面64を転走する。
【0039】
以上が転がり軸受50の基本的な構成である。続いて、転がり軸受50の特徴的な構成を説明する。
【0040】
好ましくは、転がり軸受50は、その作用線F1が主軸受16の軸方向(回転軸R)に対して傾斜するよう構成される。これを実現するために、内輪側転走面62は、軸方向で第2内歯部材9側(
図2では左側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して(すなわち主軸受16の軸方向に対して)傾斜するように形成される。また、外輪側転走面64は、軸方向で反本体部側(
図2では左側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して(すなわち主軸受16の軸方向に対して)傾斜するように形成される。
【0041】
より好ましくは、転がり軸受50は、その作用線F1が主軸受16の作用線F2と平行になるよう構成される。これを実現するために、内輪側転走面62および外輪側転走面64は、主軸受16の作用線F2と直交するように形成される。
【0042】
さらに好ましくは、転がり軸受50の作用線F1と主軸受16の作用線F2とが平行であって、作用線F1、F2それぞれが主軸受16の軸方向に対してなす角度θ1、θ2が45度となるように構成される。これを実現するために、転がり軸受50の内輪側転走面62、外輪側転走面64は、主軸受16の軸方向に対して45度をなすように形成される。同様に、主軸受16の内輪側転走面56、外輪側転走面58も、主軸受16の軸方向に対して45度をなすように形成される。
【0043】
また、転がり軸受50は、転動体66が主軸受16の作用線F2上に位置するように構成される。これを実現するために、転がり軸受50の内輪側転走面62、外輪側転走面64は、主軸受16の作用線F2が内輪側転走面62上および外輪側転走面64上を通過するように形成される。
【0044】
また、好ましくは、転がり軸受50の転動体66はクラウニングを有する。一方、主軸受16の転動体60は、クラウニングを有しない。
【0045】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、第1外歯部4aの歯数が100、第2外歯部4bの歯数が100、第1内歯部6aの歯数が102、第2内歯部8aの歯数が100の場合を例に説明する。また、第2内歯部材9および第2軸受ハウジング20が被駆動部材に連結される場合を例に説明する。
【0046】
第1外歯部4aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯部6aと噛み合っている状態で、起振体軸22が回転すると、これに伴って第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛み合い位置も周方向に移動する。第1外歯部4aと第1内歯部6aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯部6aに対して第1外歯部4aが相対的に回転する。第1内歯部材7および第1軸受ハウジング18が固定状態にあるため、第1外歯部4aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体軸22の回転が大幅に減速されて第1外歯部4aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1外歯部4aの歯数-第1内歯部6aの歯数)/第1外歯部4aの歯数
=(100-102)/100
=-1/50
【0047】
第2外歯部4bは、第1外歯部4aと一体的に形成されているため、第1外歯部4aと一体に回転する。第2外歯部4bと第2内歯部8aは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2外歯部4bと第2内歯部8aとは一体に回転する。このため、第1外歯部4aの自転と同一の回転が第2内歯部8aに出力される。結果として、第2内歯部材9からは起振体軸22の回転を-1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0048】
以上説明した本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、第1内歯部材7と第2内歯部材9との相対回転を許容する転がり軸受50が、主軸受16よりも径方向内側において、第1内歯部材7(の本体部52)と第2内歯部材9との間に配置される。これにより、外部からのモーメント荷重を主軸受16に加えて転がり軸受50でも受ける。つまり、本実施の形態によれば、撓み噛合い式歯車装置100のモーメント剛性が向上する。モーメント剛性が向上することにより、外部からのモーメント荷重によって内歯歯車が傾くのが抑止され、内歯歯車と外歯歯車とが片当たりを起こすのが抑止され、その結果、歯車の摩耗を抑止できる。
【0049】
また、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100では、好ましくは、転がり軸受50は、その作用線F1が主軸受16の軸方向に対して傾斜するよう構成される。より好ましくは、転がり軸受50は、その作用線F1が主軸受16の作用線F2と平行になるよう構成される。さらに好ましくは、転がり軸受50の作用線F1と主軸受16の作用線F2とが平行であって、それらが主軸受16の軸方向に対して45度をなすように構成される。これらによると、外部からのモーメント荷重をより確実に転がり軸受50で受けることができ、撓み噛合い式歯車装置100のモーメント剛性がさらに向上する。したがって、歯車の摩耗をさらに抑止できる。
【0050】
また、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、主軸受16の転動体60はクラウニングを有さず、転がり軸受50の転動体66はクラウニングを有する。これにより、主軸受16の剛性は確保しつつ、ミスアライメントを抑制してエッジロードを抑止できる。
【0051】
(第2の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置200を示す断面図である。
図3は、第1の実施の形態の
図1に対応する。第1の実施の形態との主な違いは、第1内歯部材と第2内歯部材との間に転がり軸受を備えず、代わりに、主軸受を2つ備える点である。以下、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100との相違点を中心に説明する。
【0052】
撓み噛合い式歯車装置200は、波動発生器2と、外歯歯車4と、第1内歯歯車6と、第1内歯部材107と、第2内歯歯車8と、第2内歯部材109と、第1規制部材12と、第2規制部材14と、第1主軸受116と、第2主軸受117と、第1軸受ハウジング18と、第2軸受ハウジング20と、を備える。
【0053】
第1内歯部材107は、第1本体部152と、第1延長部154と、を含む。
【0054】
第1本体部152は、環状の部材であり、その内周側に第1内歯歯車6が設けられている。本実施の形態では、第1内歯歯車6と第1本体部152とは、一体的に形成される。したがって、第1本体部152ひいては第1内歯部材107は、第1内歯歯車6と一体的に回転する。なお、第1内歯歯車6と第1本体部152とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0055】
第1延長部154は、略円筒状の部材である。第1延長部154には、第1本体部152がインロー嵌合されボルト(不図示)により一体化される。第1延長部154は、第1本体部152から第2内歯歯車8の径方向外側まで延び、第2内歯歯車8および第2内歯部材109を環囲する。
【0056】
第2内歯部材109は、第2本体部170と、第2延長部172と、を含む。
【0057】
第2本体部170は、環状の部材であり、その内周側に第2内歯歯車8が設けられている。本実施の形態では、第2内歯歯車8と第2本体部170とは、一体的に形成される。したがって、第2本体部170ひいては第2内歯部材109は、第2内歯歯車8と一体的に回転する。なお、第2内歯歯車8と第2本体部170とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0058】
第2延長部172は、環状の部材である。第2延長部172は、軸方向において第2本体部170の第1内歯部材107側(
図3では右側)に設けられる。本実施の形態では、第2本体部170と第2延長部172とは、別体として形成された上で、ボルトにより結合される。なお、第2本体部170と第2延長部172とは一体的に形成されてもよい。第2延長部172は、第2本体部170から第1内歯歯車6の径方向外側まで延び、第1内歯歯車6を環囲する。
【0059】
第1主軸受116および第2主軸受117は、第1内歯部材107と第2内歯部材109との間に、背面合わせで配置される。第1内歯部材107は、第1主軸受116および第2主軸受117を介して、第2内歯部材109を相対回転自在に支持する。
【0060】
第1主軸受116は、第1内歯部材107の第1延長部154と第2内歯部材109の第2本体部170との間に配置される。第1主軸受116は、本実施の形態では円筒ころ軸受であり、第1内輪側転走面156と、第1外輪側転走面158と、複数の転動体160と、を含む。
【0061】
第1内輪側転走面156は、第2内歯部材109の第2本体部170の外周に、第2本体部170と一体的に形成される。第1内輪側転走面156は、軸方向で第1本体部152側(
図3では右側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0062】
第1内歯部材107の第1延長部154は、その内周側に、径方向内側に突出する突出部であって、回転軸Rを環囲する環状の突出部154aを有する。第1外輪側転走面158は、その突出部154aの内周に、突出部154aと一体的に形成される。第1外輪側転走面158は、第1内輪側転走面156と同様に、軸方向で第1本体部152側ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0063】
複数の転動体160はそれぞれ、略円筒形状を有し、軸方向が第1内輪側転走面156および第1外輪側転走面158と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。複数の転動体160は、第1内輪側転走面156および第1外輪側転走面158を転走する。
【0064】
第2主軸受117は、第2内歯部材109の第2延長部172と第1内歯部材107の第1延長部154との間に配置される。第2主軸受117は、本実施の形態では円筒ころ軸受であり、第2内輪側転走面174と、第2外輪側転走面176と、複数の転動体178と、を含む。
【0065】
第2内輪側転走面174は、第2内歯部材109の第2延長部172の外周に、第2延長部172と一体的に形成される。第2内輪側転走面174は、軸方向で反第1本体部側(
図3では左側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0066】
第2外輪側転走面176は、第1外輪側転走面158と同様に突出部154aの内周に、突出部154aと一体的に形成される。第2外輪側転走面176は、軸方向において第1外輪側転走面158よりも第1本体部152側に形成される。第2外輪側転走面176は、第2内輪側転走面174と同様に、軸方向で反第1本体部側ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0067】
複数の転動体178はそれぞれ、略円筒形状を有し、軸方向が第2内輪側転走面174および第2外輪側転走面176と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。複数の転動体178は、第2内輪側転走面174および第2外輪側転走面176を転走する。
【0068】
以上のように、本実施形態に第1主軸受116および第2主軸受117においては、内輪および外輪が、第1内歯部材107や第2内歯部材109に一体的に構成されているが、これに限らず、第1内歯部材107や第2内歯部材109とは別体の専用の内輪や外輪を備えてもよい。また、転動体の種類も特に限定されず、例えば玉やテーパころであってもよい。
【0069】
以上説明した本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置200によると、2つの主軸受116、117が、第1内歯部材107と第2内歯部材109との間に配置される。これにより、軸受スパンを大きくとれ、モーメント剛性が向上する。したがって、歯車の摩耗を抑止できる。なお、2つの主軸受116、117を背面合わせで配置した場合には、作用点距離をより大きくとれ、モーメント剛性がより向上する。
【0070】
以上、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0071】
(第1の変形例)
図4は、第1の実施の形態の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受250とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図4は、第1の実施の形態の
図2に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受50の代わりに転がり軸受250を備える。
【0072】
転がり軸受250は、本変形例では玉軸受である。図示の例では、転がり軸受250はアンギュラ玉軸受であるが、他の種類の玉軸受であってもよい。転がり軸受250は、内輪側転走面262と、外輪側転走面264と、複数の転動体266と、を含む。
【0073】
内輪側転走面262および外輪側転走面264はいずれも、回転軸Rを環囲する。内輪側転走面262は、軸方向において第2内歯部材9と対向する第1内歯部材7の本体部52の端面に、本体部52と一体的に形成される。外輪側転走面264は、軸方向において第1内歯部材7の本体部52と対向する第2内歯部材9の端面に、第2内歯部材9と一体的に形成される。
【0074】
複数の転動体266はそれぞれ、球形状を有する。複数の転動体266は、内輪側転走面262と外輪側転走面264との間に、周方向に間隔を空けて設けられ、内輪側転走面262および外輪側転走面264を転走する。
【0075】
内輪側転走面262および外輪側転走面264は、主軸受16の作用線F2が通るように形成される。内輪側転走面262および外輪側転走面264は、回転軸Rを含む断面がいずれも略円弧状を有し、転がり軸受250の作用線F1が主軸受16の軸方向に対して傾斜するように形成される。図示の例では、内輪側転走面262および外輪側転走面264は、転がり軸受250の作用線F1が主軸受16の作用線F2と平行であって、作用線F1、F2それぞれが主軸受16の軸方向に対してなす角度θ1、θ2が45度となるように構成される。
【0076】
本変形例によれば、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0077】
(第2の変形例)
図5は、第1の実施の形態の別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受350とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図5は、第1の実施の形態の
図2に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受50の代わりに転がり軸受350を備える。
【0078】
転がり軸受350は、第1の実施の形態と同様に円筒ころ軸受であり、内輪側転走面362と、外輪側転走面364と、複数の転動体66と、を含む。
【0079】
第1内歯部材7の本体部52には、軸方向で第2内歯部材9と対向する端面に、軸方向で反第2内歯部材側に凹んだ環状の凹部52aが形成されている。内輪側転走面362は、この凹部52aの内周側の周壁に、本体部52と一体的に形成される。内輪側転走面362は、回転軸Rを含む断面が、軸方向と平行となる。
【0080】
第2内歯部材9は、軸方向で第1内歯部材7の本体部52と対向する端面に、軸方向で本体部52側に突出する環状の突出部9aを有する。外輪側転走面364は、この突出部9aの内周に、突出部9aと一体的に形成される。外輪側転走面364は、回転軸Rを含む断面が、軸方向と平行となる。
【0081】
複数の転動体66はそれぞれ、軸方向が内輪側転走面362および外輪側転走面364と略平行な方向を向いた状態で、内輪側転走面362と外輪側転走面364との間に周方向に間隔を空けて設けられる。複数の転動体66は、内輪側転走面362および外輪側転走面364を転走する。転動体66の軸方向も回転軸Rと平行となる。
【0082】
本変形例によると、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本変形例によると、内輪側転走面362が凹部52aに形成される。したがって、複数の転動体66はそれぞれ、その少なくとも一部分が、この凹部52a内に位置することになる。これにより、例えば第1内歯部材7の本体部52にも軸方向で第2内歯部材9側に突出する突出部を設け、この突出部に内輪側転走面362を形成した場合と比べ、撓み噛合い式歯車装置の軸方向の寸法を小さくできる。なお、第1内歯部材7の本体部52に突出部を形成し、第2内歯部材9に凹部を形成してもよい。
【0083】
(第3の変形例)
図6は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受450とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図6は、第2の変形例の
図5に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受350の代わりに転がり軸受450を備える。
【0084】
転がり軸受450は、本変形例では玉軸受である。転がり軸受450は、内輪側転走面462と、外輪側転走面464と、複数の転動体266と、を含む。
【0085】
内輪側転走面462は、第1内歯部材7の本体部52に形成された凹部52aの内周側の周壁に、本体部52と一体的に形成される。外輪側転走面464は、第2内歯部材9に形成された突出部9aの内周に、本体部52と一体的に形成される。複数の転動体266は、内輪側転走面462と外輪側転走面464との間に配置され、内輪側転走面462および外輪側転走面464を転走する。
【0086】
本変形例によると、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本変形例によると、内輪側転走面462が凹部52aに形成される。したがって、複数の転動体266はそれぞれ、その少なくとも一部分が、この凹部52a内に位置する。これにより、例えば第1内歯部材7の本体部52にも軸方向で第2内歯部材9側に突出する突出部を設け、この突出部に内輪側転走面462を形成した場合と比べ、撓み噛合い式歯車装置の軸方向の寸法を小さくできる。なお、第1内歯部材7の本体部52に突出部を形成し、第2内歯部材9に凹部を形成してもよい。
【0087】
(第4の変形例)
図7は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受550とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図7は、第2の変形例の
図5に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受350の代わりに転がり軸受550を備える。
【0088】
転がり軸受550は、本変形例では、円筒ころ軸受である。転がり軸受550は、内輪部材562と、外輪部材564と、複数の転動体66と、を含む。
【0089】
内輪部材562は、本体部52に形成された凹部52aの内周側の周壁に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。外輪部材564は、突出部9aの内周に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。複数の転動体66は、内輪部材562と外輪部材564との間に配置され、内輪部材562の外周面および外輪部材564の内周面を転走する。つまり、内輪部材562の外周面、外輪部材564の内周面はそれぞれ、転走面として機能する。
【0090】
本変形例によれば、第1の実施の形態および第2の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0091】
(第5の変形例)
図8は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受650とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図8は、第3の変形例の
図6に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受450の代わりに転がり軸受650を備える。
【0092】
転がり軸受650は、本変形例では、玉軸受である。転がり軸受650は、内輪部材662と、外輪部材664と、複数の転動体266と、を含む。
【0093】
内輪部材662は、本体部52に形成された凹部52aの内周側の周壁に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。外輪部材664は、突出部9aの内周に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。複数の転動体266は、内輪部材662と外輪部材664との間に配置され、内輪部材662の外周面および外輪部材664の内周面を転走する。つまり、内輪部材662の外周面、外輪部材664の内周面はそれぞれ、転走面として機能する。
【0094】
本変形例によれば、第1の実施の形態および第3の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0095】
(第6の変形例)
図9は、第1の実施の形態の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置400を示す断面図である。
図10は、
図9の主軸受16および転がり軸受750とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図9、10はそれぞれ、第1の実施の形態の
図1、2に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置400は、転がり軸受50の代わりに転がり軸受750を備える。
【0096】
撓み噛合い式歯車装置400は、波動発生器2と、外歯歯車4と、第1内歯歯車6と、第1内歯部材7と、第2内歯歯車8と、第2内歯部材9と、第1規制部材12と、第2規制部材14と、主軸受16と、第1軸受ハウジング18と、第2軸受ハウジング20と、転がり軸受750と、を備える。
【0097】
転がり軸受750は、本変形例では、スラスト玉軸受である。転がり軸受750は、円盤状の第1軌道盤762および第2軌道盤764と、複数の転動体266と、を含む。
【0098】
第1内歯部材7の本体部52には、軸方向において第2内歯部材9と対向する端面に、軸方向で反第2内歯部材側に凹んだ環状の凹部52aが形成されている。第1軌道盤762は、この凹部52aの内周側の周壁に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。したがって、第1軌道盤762は、その少なくとも一部分が、この凹部52a内に位置する。
【0099】
第2内歯部材9は、軸方向で第1内歯部材7の本体部52と対向する端面に、軸方向で本体部52側に突出する環状の突出部9aを有する。第2軌道盤764は、この突出部9aの内周に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。
【0100】
複数の転動体266は、第1軌道盤762と第2軌道盤764との間に配置され、第2軌道盤764と対向する第1軌道盤762の対向面762a、および、第1軌道盤762と対向する第2軌道盤764の対向面764aを転走する。つまり、第1軌道盤762の対向面762a、第2軌道盤764の対向面764aはそれぞれ、転走面として機能する。なお、複数の転動体266はそれぞれ、少なくとも一部分が凹部52a内に位置していてもよい。
【0101】
本変形例によれば、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本変形例によると、第1軌道盤762は少なくとも一部が凹部52a内に位置する。これにより、撓み噛合い式歯車装置の軸方向の寸法を小さくできる。また、転がり軸受750がスラスト軸受で構成されるため、第1内歯部材7と第2内歯部材9の間に軸方向に組み込めばよいため、組立て性が向上する。なお、第1内歯部材7の本体部52に突出部を形成し、第2内歯部材9に凹部を形成してもよい。
【0102】
(第7の変形例)
図11は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受850とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図11は、第6の変形例の
図10に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受750の代わりに転がり軸受850を備える。
【0103】
転がり軸受850は、本変形例ではスラスト玉軸受である。転がり軸受850は、第1転走面862と、第2転走面864と、複数の転動体266と、を含む。
【0104】
第1転走面862は、凹部52aの底面(軸方向で第2内歯部材9と対向する面)に、本体部52と一体的に形成される。第2転走面864は、軸方向において第1内歯部材7の本体部52と対向する第2内歯部材9の軸方向端面に、第2内歯部材9と一体的に形成される。複数の転動体266は、第1転走面862と第2転走面864との間に配置され、第1転走面862および第2転走面864を転走する。
【0105】
本変形例によると、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。また、第6の変形例と同様に、転がり軸受850がスラスト軸受で構成されるため、組立て性が向上する。加えて、本変形例によると、第1転走面862が凹部52aに形成される。したがって、複数の転動体266はそれぞれ、その少なくとも一部分が、この凹部52a内に位置することになる。これにより、凹部52aを設けない場合と比べ、撓み噛合い式歯車装置の軸方向の寸法を小さくできる。なお、凹部52aの代わりに、軸方向で本体部52と対向する第2内歯部材9の端面に、軸方向で反本体部側に凹んだ環状の凹部を形成してもよい。
【0106】
(第8の変形例)
図12は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受950とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図12は、第6の変形例の
図10に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受650の代わりに転がり軸受950を備える。
【0107】
転がり軸受950は、本変形例ではスラスト円筒ころ軸受である。転がり軸受950は、円盤状の第1軌道盤962および第2軌道盤964と、複数の転動体66と、を含む。
【0108】
第1軌道盤962は、凹部52aの内周側の周壁に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。したがって、第1軌道盤962は、その少なくとも一部分が、この凹部52a内に位置する。第2軌道盤764は、突出部9aの内周に、接着または圧入により、または接着と圧入を併用して固定される。
【0109】
複数の転動体66はそれぞれ、軸方向が当該転がり軸受950の径方向を向いた状態で、第1軌道盤962と第2軌道盤964との間に配置され、第2軌道盤964と対向する第1軌道盤962の対向面962a、および、第1軌道盤962と対向する第2軌道盤964の対向面964aを転走する。つまり、第1軌道盤962の対向面962a、第2軌道盤964の対向面964aはそれぞれ、転走面として機能する。なお、複数の転動体66はそれぞれ、少なくとも一部分が凹部52a内に位置していてもよい。
【0110】
本変形例によれば、第1の実施の形態および第6の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0111】
(第9の変形例)
図13は、第1の実施の形態のさらに別の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置の主軸受16および転がり軸受1050とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図13は、第7の変形例の
図11に対応する。本変形例では、撓み噛合い式歯車装置は、転がり軸受750の代わりに転がり軸受1050を備える。
【0112】
転がり軸受1050は、本変形例ではスラスト円筒ころ軸受である。転がり軸受1050は、第1転走面1062と、第2転走面1064と、複数の転動体66と、を含む。
【0113】
第1転走面1062は、凹部52aの底面(軸方向で第2内歯部材9と対向する面)に、本体部52と一体的に形成される。第2転走面1064は、軸方向において第1内歯部材7の本体部52と対向する第2内歯部材9の端面に、第2内歯部材9と一体的に形成される。複数の転動体66は、第1転走面1062と第2転走面1064との間に配置され、第1転走面1062および第2転走面1064を転走する。
【0114】
本変形例によれば、第1の実施の形態および第7の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0115】
(第10の変形例)
図14は、第2の実施の形態の変形例に係る撓み噛合い式歯車装置300を示す断面図である。
図14は、第2の実施の形態の
図3に対応する。第2の実施の形態との主な違いは、2つの主軸受の構成である。
【0116】
第2内歯部材109の第2本体部170と第2延長部172とは、一体に形成される。なお、第2本体部170と第2延長部172とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0117】
本変形例では、第1主軸受116および第2主軸受117の代わりに、第1主軸受716および第2主軸受717を備える。第1主軸受716および第2主軸受717は、第1内歯部材107と第2内歯部材109との間に、正面合わせで配置される。
【0118】
第1主軸受716は、第1内歯部材107の第1延長部154と第2内歯部材109の第2本体部170との間に配置される。
【0119】
第1主軸受716の第1内輪側転走面756は、第2内歯部材109の第2本体部170の外周に、第2本体部170と一体的に形成される。第1内輪側転走面756は、本変形例では、軸方向で反第1本体部側(
図14では左側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0120】
第2外輪側転走面758は、突出部154aの内周に、突出部154aと一体的に形成される。第2外輪側転走面758は、第1内輪側転走面756と同様に、軸方向で反第1本体部側ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0121】
第2主軸受717は、第1内歯部材107の第1本体部152と第2内歯部材109の第2延長部172との間に配置される。
【0122】
第2主軸受717の第2内輪側転走面774は、第2内歯部材109の第2延長部172の外周に、第2延長部172と一体的に形成される。第2内輪側転走面774は、本変形例では、軸方向で第1本体部152側(
図14では右側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【0123】
第2外輪側転走面776は、軸方向で第2内歯部材109の第2延長部172と対向する第1内歯部材107の第1本体部152の端面に、第1本体部152と一体的に形成される。第2外輪側転走面776は、第2内輪側転走面774と同様に、軸方向で第1本体部152側(
図14では右側)ほど回転軸Rに近づくように、回転軸Rに対して傾斜するように形成される。
【符号の説明】
【0124】
4 外歯歯車、 4a 第1外歯部、 4b 第2外歯部、 6 第1内歯歯車、 7 第1内歯部材7、 8 第2内歯歯車、 9 第2内歯部材、 16 主軸受、 22a 起振体、 50 転がり軸受、 100 撓み噛合い式歯車装置。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に利用できる。