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特許7186173神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221201BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221201BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K14/47
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019547175
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2017078759
(87)【国際公開番号】W WO2018087229
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】16002379.2
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519166604
【氏名又は名称】ブレイン バイオマーカー ソリューションズ イン ヨーテボリ アーベー
【氏名又は名称原語表記】Brain Biomarker Solutions in Gothenburg AB
【住所又は居所原語表記】Erik Dahlbergsgatan 11A,floor 2,411 26 Gothenburg(SE)
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレンノウ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】ゼッターベルグ,ヘンリック
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/061634(WO,A2)
【文献】BACIOGLU MEHTAP,NEUROFILAMENT LIGHT CHAIN IN BLOOD AND CSF AS MARKER OF DISEASE PROGRESSION IN MOUSE 以下備考,NEURON,2016年07月06日,VOL:91, NR:1,PAGE(S):56 - 66,http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.05.018,MODELS AND IN NEURODEGENERATIVE DISEASES
【文献】JOHANNA GAIOTTINO,INCREASED NEUROFILAMENT LIGHT CHAIN BLOOD LEVELS IN NEURODEGENERATIVE NEUROLOGICAL DISEASES,PLOS ONE,2013年09月20日,VOL:8, NR:9,PAGE(S):E75091 (1 - 9),http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0075091
【文献】LIEKE H MEETER,NEUROFILAMENT LIGHT CHAIN: A BIOMARKER FOR GENETIC FRONTOTEMPORAL DEMENTIA,ANNALS OF CLINICAL AND TRANSLATIONAL NEUROLOGY,英国,2016年07月,VOL:3, NR:8,PAGE(S):623 - 636,http://dx.doi.org/10.1002/acn3.325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDES(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出するためのNfLタンパク質のインビトロ使用であって、前記個体からの血清、血漿、もしくは全血から選択された血液サンプル、または脳脊髄液(CSF)サンプル中のNfLタンパク質の値がコントロールのものと比べて増大していることがアルツハイマー病を将来発症することの指標となる、インビトロ使用。
【請求項2】
アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出するのを支援するインビトロ方法であって、
a)血清、血漿、もしくは全血から選択された血液サンプル、または脳脊髄液(CSF)サンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)タンパク質の量または濃度を測定する工程と、
b)工程a)で決定されたNfLタンパク質の前記量または濃度に関する情報を医師に提供し、その情報によって、アルツハイマー病を発症するリスクがある個体を検出するのを支援する工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する方法であって、a)前記個体から得られたサンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量または濃度を測定する工程と、b)工程a)で決定した前記量または濃度をコントロール中のNfLの量または濃度と比較することによって、前記疾患を発症するリスクがある個体を検出する工程とを含み、前記コントロールに比べてNfLの値の増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる方法、および、それに関連する使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病では、病理的変化は臨床症状の発症の幾年も前に始まり、アミロイドβ(Aβ)および過リン酸化タウの蓄積と、それに続く下流として神経変性が起こる(非特許文献1、非特許文献2)。臨床的に有意な神経細胞の消失以前の、この症状発症前の期間中に効力のあるAD疾患修飾治療を試してみることには、高い関心がある(非特許文献3)。
【0003】
これを容易にするために、強力で感度の高いバイオマーカーが、リスクを有する個体を同定し、その疾患のステージを決め、疾患の進行を追跡するのに必要とされる(非特許文献4)。理想的には、そのような任意のバイオマーカーは、非侵襲的、安価、そして取得が簡単であることが期待される(非特許文献5)。
【0004】
初期AD病理変化の検出は、現状では、脳脊髄液(CSF)分析または神経画像診断手法のいずれかに大きく依存している。初期AD疾患に活性のある血液ベースのバイオマーカーができると利便性がより大きくなり、そして、患者がより受け入れやすくなる可能性がある。しかし、標的分析物の濃度がより低いことで、確実に検出したり定量したりするのをより困難にしてしまうことを含む多数の理由のために、CSF測定よりも難しい課題があることが証明されている。最近の体系的な調査においても、初期疾患に有用性がある血液バイオマーカーは同定されなかった(非特許文献6)。
【0005】
ニューロフィラメント軽鎖(NfL)は、CSFからサンプルを採取する場合、有望な神経変性バイオマーカーとなっている(非特許文献7)。ニューロフィラメント中鎖(NfM)と重鎖(NfH)と一緒になって、NfLは軸索の構造を完全にする重要な一部を形成する(非特許文献8)。
【0006】
CSFでNfL濃度が増大していることは、多くの神経性症状(AD、多発性硬化症、運動ニューロン疾患、前頭側頭型認知症、および非定型パーキンソン症候群を含むもの)に確認されており、軸索変性を反映すると考えられている(非特許文献7;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TL, et al. Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. N Engl J Med 2012;367:795-804
【文献】Villemagne VL, Burnham S, Bourgeat P, et al. Amyloid β deposition, neurodegeneration, and cognitive decline in sporadic Alzheimer's disease: a prospective cohort study. The Lancet Neurology 2013;12:357-367
【文献】Sperling RA, Jack CR, Jr., Aisen PS. Testing the right target and right drug at the right stage. Sci Transl Med 2011;3:111cm133
【文献】Sperling RA, Aisen PS, Beckett LA, et al. Toward defining the preclinical stages of Alzheimer's disease: recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimers Dement 2011;7:280-292
【文献】Consensus report of the Working Group on: "Molecular and Biochemical Markers of Alzheimer's Disease". The Ronald and Nancy Reagan Research Institute of the Alzheimer's Association and the National Institute on Aging Working Group. Neurobiol Aging 1998;19:109-116
【文献】Olsson B, Lautner R, Andreasson U, et al. CSF and blood biomarkers for the diagnosis of Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol 2016;15:673-684
【文献】Zetterberg H, Skillback T, Mattsson N, et al. Association of Cerebrospinal Fluid Neurofilament Light Concentration With Alzheimer Disease Progression. JAMA Neurol 2016;73:60-67
【文献】Lee MK, Xu Z, Wong PC, Cleveland DW. Neurofilaments are obligate heteropolymers in vivo. J Cell Biol 1993;122:1337-1350
【文献】Teunissen CE, Dijkstra C, Polman C. Biological markers in CSF and blood for axonal degeneration in multiple sclerosis. Lancet Neurol 2005;4:32-41
【文献】Tortelli R, Ruggieri M, Cortese R, et al. Elevated cerebrospinal fluid neurofilament light levels in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a possible marker of disease severity and progression. Eur J Neurol 2012; 19:1561-1567
【文献】Scherling CS, Hall T, Berisha F, et al. Cerebrospinal fluid neurofilament concentration reflects disease severity in frontotemporal degeneration. Ann Neurol 2014;75:116-126
【文献】Hall S, Ohrfelt A, Constantinescu R, et al. Accuracy of a panel of 5 cerebrospinal fluid biomarkers in the differential diagnosis of patients with dementia and/or parkinsonian disorders. Arch Neurol 2012;69:1445-1452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルツハイマー病(AD)では、初期の神経変性の感度の高いバイオマーカーが必須である。血液ベースのバイオマーカーがあれば非常に価値があるものになるが、これまでのところ、健康な老化から初期ADを識別することが証明されたそのようなマーカーはない。
【0009】
従って、症状発症前と症状発症中の疾患の両方を通じて容易に取得可能なAD神経変性バイオマーカーに対する強い医学的必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の測定が、初期軸索変性のマーカー、従って、症状発症前と症状発症中の疾患の両方を通じて容易に取得可能なAD神経変性バイオマーカーを提供できることが見出された。特に、驚くべきことに、血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の測定が、既にアルツハイマー病の症状発症前フェーズにあるアルツハイマー病の容易に取得可能なバイオマーカーを提供できることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図および表
図1】3つの群間での血清中NfLに関する箱ひげ図である。
図2】EYOに対する血清中NfLの散布図である。突然変異の保因者を●で示し、非保因者を×で示す。未調整の回帰直線を当てはめている。同定されて、従って、その突然変異状態が分かってしまう可能性がある個々の参加者をグラフから除外して、遺伝子の盲検性が維持されることを保証した(しかしながら、回帰直線は図示されていない者を含む全ての参加者を数に入れた)。●:突然変異の保因者。×:非保因者。
図3】認知力および画像評価値に対する血清中NfLの散布図である。未調整の回帰直線を当てはめている。
図4】表1:参加者の人口統計学的属性、認知力テストの点数、画像評価値および血清中NfL濃度を示す表である。全ての値は、群の平均(およびSD)である。測定値は、任意の共変数に関して修正していない。
図5】表2:バイオマーカーとEYOの間の症状発症前相関を示す表である。症状発症前参加者のみにおける、EYOに対する血清中NfL、認知力テストの点数、および画像評価値のスピアマン相関係数である。異なる測定値間の直接比較を可能にするため、画像評価値が利用可能な13人の症状発症前突然変異の保因者のみを含める。
図6】表1に記載されている被験者のうち32人からの経過観察データを示す図である。これらの被験者(点線で示される突然変異の保因者と実線で示される突然変異非保因者)を二つの時点でサンプルを採取した。二つのサンプル採取時点間の時間を、線の長さで示す。血清中NfL濃度は、常染色体優性家族性AD(FAD)突然変異の保因者の症状発症までの推定年数(EYO)より約5~10年前から増大し始める。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らはここに、常染色体優性家族性AD(FAD)突然変異の保因者のコホートにおける血清中NfLレベルを測定する研究の結果を報告する。プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)またはアミロイド前駆体タンパク質(APP)の遺伝子におけるFAD突然変異の保因者は発症に比較的予想可能な年齢を有し(Ryman DC, Acosta-Baena N, Aisen PS, et al. Symptom onset in autosomal dominant Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis. Neurology 2014;83:253-260)、これは臨床的にAD発症前の症状のない個体の前向き研究の機会が提供される。FADは、病態生理学的にも臨床的にも、より一般的な孤発性の疾患と多くの特徴を共有している(Bateman RJ, Aisen PS, De Strooper B, et al. Autosomal-dominant Alzheimer's disease: a review and proposal for the prevention of Alzheimer's disease. Alzheimers Res Ther 2011;3:1)。本発明者らは、本方法が常染色体優性家族性AD(FAD)における血清中NfLの症状発症前の上昇を検出する能力を評価した。
【0013】
NfLは標準的免疫アッセイ様式を使用して血清中で測定可能である(Gaiottino J, Norgren N, Dobson R, et al. Increased neurofilament light chain blood levels in neurodegenerative neurological diseases. PLoS One 2013; 8:e75091; Bacioglu M, Maia LF, Preische O, et al. Neurofilament Light Chain in Blood and CSF as Marker of Disease Progression in Mouse Models and in Neurodegenerative Diseases. Neuron 2016)。本明細書において、本発明者らは、サブフェムトモル濃度(1pg/ml未満)までの分析物の定量を可能にする単分子アレイ(Single molecule array;Simoa)技術に基づいて最近開発された免疫アッセイを使用した(Rissin DM, Kan CW, Campbell TG, et al. Single-molecule enzyme-linked immunosorbent assay detects serum proteins at subfemtomolar concentrations. Nat Biotechnol 2010;28:595-599)。この方法を使用して得られた血清中NfL濃度は、CSF中濃度と密接に相関し、そして、HIV関連認知症、進行性核上性麻痺、および前頭側頭型認知症において増大している(Gisslen M. et al., EBioMedicine. 2015 Nov 22;3:135-40. doi: 10.1016/j.ebiom.2015.11.036. eCollection 2016; Rojas J.C. et al., Ann Clin Transl Neurol. 2016 Feb 1;3(3):216-25. doi: 10.1002/acn3.290. eCollection 2016.; Rohrer J.D. et al., Neurology. 2016 Sep 27;87(13):1329-36. doi: 10.1212/WNL.0000000000003154)。
【0014】
驚くべき知見とは、血清中NfLの上昇が症状発症前に検出可能であり、そして、検査した症状発症前および症状発症中の試験参加者の疾患ステージ(病期)と低下率とに相関することであった。
【0015】
特に、症状はないがリスクのある試験参加者の内、19人が突然変異の保因者(EYO中央値=8.3)であり、11人が非保因者であった。年齢と性別で補正して非保因者と比べると、血清中NfLは症状発症中の突然変異保因者(p<0.0001)と症状発症前の突然変異保因者(p=0.007)の両者で高かった。血清中NfLは、EYO(p<0.0001)と複数の認知力および画像評価値(MMSE(p=0.0001)と脳全体の萎縮率(p=0.0091)を含むもの)とに相関していた。
【0016】
実施例から得た結論は、血清中NfL濃度が、症状発症前にFADで増大し、疾患ステージと重症度の基準とに相関するということであった。従って、血清中NfLは初期AD関連神経変性の容易に取得可能なバイオマーカーとなり得る。
【0017】
特に、本発明者らの研究は、初期AD関連神経変性を検出するために、新規超高感度アッセイを使用して、血清中NfLを測定することの有用性の最初の評価を提示する。実施例での本発明者らの結果は、意外にも、血清中NfLが臨床症状発症の幾年も前に上昇することを示している。本発明者らはまた、血清中NfLが推定症状発症までの/からの年数と非常に密接に相関することも示す。従って、血清中NfLは疾患の進行を追跡でき、そしてそれによって、モニターおよび予測することができる。血清中NfLはまた、現在有効なAD重症度の基準(萎縮の構造的画像評価値および認知力テストの成績を含むもの)と密接に相関することも見出している。しかしながら、症状発症前期間においては、血清中NfLは、これらのより確立された測定法よりも、神経変性の変化に対してより感度が高い場合がある。経過観察データが示すのは、血清NfL濃度が、常染色体優性家族性AD(FAD)突然変異の保因者の症状発症までの推定年数(EYO)の約5~10年前に増大し始めることである(図6)。
【0018】
実施例中に提供した本発明者らの試験後、今明らかになったのは、血清中NfLが、疾患症状発症前の10年間に亘って徐々に上昇し、そして、神経細胞消失の他のマーカーと相関することである。現状の証拠は従って、症状発症前と症状発症中の疾患の両方を通じて容易に取得可能なAD神経変性のバイオマーカーとしての血清中NfLの使用を支持する。
【0019】
従って、一つの実施形態では、本発明は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する方法であって、
a)前記個体から得られたサンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量または濃度を測定する工程と、
b)工程a)で決定した前記量または濃度をコントロール中のNfLの量または濃度と比較することによって、前記疾患を発症するリスクがある個体を検出する工程とを含み、
前記コントロールに比べてNfLの値の増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる、方法に関する。
【0020】
本発明の方法におけるマーカーは、ニューロフィラメント軽鎖またはNfL、好ましくはヒトニューロフィラメント軽鎖またはヒトNfLである。ニューロフィラメント軽鎖タンパク質は、ヒトにおいてNEFL遺伝子にコードされるタンパク質である。ニューロフィラメント中鎖(NfM)と重鎖(NfH)と一緒になって、NfLは軸索の構造を完全にする重要な一部を形成する。ヒトNfLタンパク質は、2016年10月8日のNCBI参照配列番号:NP_006149.2に記載されている配列を有する。ヒトNfL mRNAは、2016年10月8日のGenBankアクセション番号:BC066952.1に記載されている配列を有する。ニューロフィラメント軽鎖(NfL)タンパク質の量または濃度を測定する工程は、サンプル、特に血液サンプル中の全長タンパク質、その断片(全長タンパク質に代表的かつ特異的なもの)、修飾型NfL(例、リン酸化NfL)、またはNfLタンパク質の集合体(例、二量体、オリゴマーまたは高次集合体)の量または濃度を測定する工程を含む。
【0021】
本発明の方法は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するためのものである。
【0022】
神経変性疾患を発症するリスクのある個体は、前記神経変性疾患の臨床フェーズにある個体または症状発症中の個体、特に、その初期フェーズにある個体と、前記神経変性疾患の前臨床フェーズにある個体または症状発症前の個体を含む。前臨床フェーズにある個体は、前記神経変性疾患の少なくとも一つの臨床症状を示していないか、および/または、前記神経変性疾患に罹患しているとの疑いがない。臨床フェーズにある個体は、前記神経変性疾患の少なくとも一つの臨床症状を示しているか、および/または、前記神経変性疾患に罹患しているとの疑いがある。
【0023】
神経変性疾患は、中枢および末梢神経系の疾患であって、神経細胞の構造または機能の進行性消失(神経細胞死を含むもの)を特徴とするものとして理解される。神経変性疾患には、パーキンソン病、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脱神経性萎縮症、耳硬化症、認知症(例、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病関連認知症、前頭側頭型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、正常圧水頭症認知症、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、およびAD)、多発性硬化症、ハンチントン舞踏病、後天性免疫不全症(AIDS)関連脳症、ならびに神経細胞毒性および細胞死に関連する他の疾患が含まれる。実施例で示されたのは、血清中NfLが症状発症前と症状発症中の両方を通じて容易に取得可能なAD神経変性のバイオマーカーとして使用可能であることである。従って、アルツハイマー病またはADは、好ましい神経変性疾患に相当する。
【0024】
アルツハイマー病またはADは、進行性の記憶喪失を伴い、結果として認知症になる中枢神経系の慢性神経変性疾患である。検死でAD患者に観察される二つの病理特徴は、海馬、大脳皮質、および認知機能に必須な他の脳領域における細胞外プラークと細胞内濃縮体である。プラークはアミロイドβ(Aβ)(アミロイド前駆体タンパク質(APP)由来のペプチド)の蓄積からほとんどが形成される。繊維状の濃縮体は、ニューロフィラメントと過リン酸化タウタンパク質(微小管結合タンパク質)とから構成される対になった螺旋状繊維から形成される。ADには様々なステージがある。アルツハイマー病を評価するためには、一または複数の以下の検査:脳の磁気共鳴画像法(MRI)、神経学的診察および認知機能評価を組み合わせる場合がある。そのような検査を実施例中に記載する。さらに、AD臨床ステージは、認知機能障害を評価するCDR分類に従って当業者により区別可能である。CDR分類(Clinical Dementia Rating(臨床的認知症重症度))によって、以下のステージ(0=正常;0.5=非常に軽度の認知症(MCIに相当);1=軽度の認知症(軽度ADに相当);2=中程度の認知症(中程度ADに相当);3=重度の認知症(重度ADに相当))に区別される。MRIを使用して、全脳体積または脳室体積を測定してもよい。
【0025】
ADの主要な臨床的特徴と症状は、進行性の認知機能低下と、従って、認知障害(例、記憶喪失)とである。アルツハイマー病の症状には、認知障害(例、言語障害、視覚機能の欠損、記憶喪失、および短期記憶の障害)、不安の増大、睡眠障害、人格変化(例、だんだんやる気が無くなることまたは激高すること)、愛情表現の低下、うつ病、ならびに精神病が含まれる。記憶機能障害は、短期記憶喪失としてしばしば特徴づけられる新規情報の学習障害に関与する。この病気の初期および中期ステージでは、かなり昔の良く親しんだ事柄を思い出すことは保もたれているように見える場合があるが、新規情報を十分には記憶に取り込むことはできない。時間感覚が無くなることは記憶障害と密接に関連する。言語障害もADの際立った症状である。これらはしばしば、自然に会話している途中で言葉を見つけるのが難しいこととして最初に現れる。AD患者の言葉はしばしばあいまいで、具体性を欠き、そして、いつもの文句や決まり文句が増える場合がある。日常の物の名前を言うのが難しいのもよくあることである。視覚機能の複合的欠損が多くのAD患者に存在し、他の限局的な認知障害(例、失行症、失算症、および左右識別不能症)もそうである。判断や問題解決における障害もしばしば見受けられる。非認知の症状または行動症状もADでは一般的であり、それらは、認知機能不全よりも、介護者の負担やストレスの大きな割合を占めている事象である。人格変化は共通して報告されていて、だんだんやる気が無くなることから激高することまでの範囲にある。患者は、愛情表現の低下等の変化を示す場合もある。うつ症状は最大40%で見られる。不安に関しても同様な割合が認識されている。精神病は25%で起こる。いくつかの症例では、人格変化が認知機能異常の前に起こる場合がある。
【0026】
従って、「アルツハイマー病の症状」には、認知障害(例、言語障害、視覚機能の欠損、記憶喪失、および短期記憶の障害)、不安の増大、睡眠障害、人格変化(例、だんだんやる気が無くなることまたは激高すること)、愛情表現の低下、うつ病、ならびに精神病が含まれるとして理解される。アルツハイマー病の初期症状は、軽度認知障害(MCI)である。軽度認知障害またはMCIは、完全な認知機能状態と臨床的認知症(「Diagnostic and Statistical Manual for Mental Disorders(精神疾患の診断と統計マニュアル)」(DSM)で規定される、特にDSM-5バージョンで規定されるもの)との間のグレーゾーンとして当業者により理解される。軽度認知障害(MCI)を呈する患者の約70%が、後に、アルツハイマー病を発症する。残りの患者は、異なる型の認知症(例、血管性認知症)を発症する。
【0027】
本発明の方法を適用する場合、コントロールに比べてNfLの値の増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる。
【0028】
将来発症することとは、個体がサンプル取得時点で症状発症前である場合を含む。コントロールに比べてNfLの値の増大していることが決定される場合、個体は将来、例えば、約1ヵ月、6ヵ月、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15年で神経変性疾患を発症する確率が高い。これらの場合では、神経変性疾患の発症が、その神経変性疾患の一または複数の症状の発症前約1ヵ月、6ヵ月、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15年で検出される。一つの好ましい実施形態では、個体は、約1年以上、好ましくは約2年以上、より好ましくは約3年以上、さらに好ましくは約4年以上、最も好ましくは約5年以上で神経変性疾患を発症する確率が高いと判定される。これらの場合では、神経変性疾患の発症が、その神経変性疾患の一または複数の症状の発症前およそ少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは4年、最も好ましくは少なくとも5年で検出される。実施例では、症状発症前のFAD突然変異の保因者に関して血清中NfLレベルが上昇しており、そして、症状発症までの推定年数(EYO)とさらに相関があった。
【0029】
さらに、将来発症することとは、個体がサンプル取得時点で症状発症中である場合を含む。コントロールに比べてNfLの値の増大していることが決定される場合、個体は将来神経変性疾患をさらに発症する確率が高く、および/または、疾患の進行をさらに呈する場合がある。例えば、個体がサンプル取得時点で軽度認知障害(MCI)を示し、且つ、コントロールに比べてNfLの値の増大していることが決定される場合、その個体は疾患の進行(例、認知障害の進行)、および/または、アルツハイマー病または他の型の認知症の一または複数のさらなる症状の発症を示す確率が高い。
【0030】
従って、本発明の好ましい実施形態では、個体は症状発症前または症状発症中である。
【0031】
症状発症中の個体は、神経変性疾患の少なくとも一つの臨床症状を示す個体であると理解される。アルツハイマー病の場合、症状発症中の個体は、例えば、認知症または認知障害(例、軽度認知障害)を呈する場合がある。
【0032】
症状発症前の個体は、神経変性疾患の臨床症状を示さない個体であると理解される。そのような個体は、健常個体、神経変性疾患とは違う疾患(複数可)に罹患している個体、または、家族にFAD症例が発生したがAD症状を示さない個体であってもよい。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明は、アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出する方法であって、
a)前記個体から得られた血液サンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)タンパク質の量または濃度を測定する工程と、
b)工程a)で決定した前記量または濃度をコントロール中のNfLタンパク質の量または濃度と比較することによって、アルツハイマー病を発症するリスクがある個体を検出する工程とを含み、前記コントロールに比べてNfLタンパク質の値の増大していることがアルツハイマー病を将来発症することの指標となる、方法に関する。
【0034】
より好ましくは、
-NfLタンパク質の量または濃度がアルツハイマー病の一または複数の症状の発症までの時間と相関し、好ましくは、NfLタンパク質の量または濃度が臨床症状の発症前に上昇し、および/または、
-本方法が、一または複数の症状の発症前少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは4年、最も好ましくは少なくとも5年で、アルツハイマー病の発症を検出することができ、特に、そこでは、NfLタンパク質の量または濃度が臨床症状の発症前に上昇し、および/または、
-本方法が、一または複数の症状の発症前少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは4年、最も好ましくは少なくとも5年で、アルツハイマー病の発症を検出することができ、好ましくは、そこでは、NfLタンパク質の量または濃度が臨床症状の発症前に上昇し、および/または、
-アルツハイマー病が家族性アルツハイマー病であり、および/または、
-本方法を前記個体または予防的処置をモニターするために異なる時点で繰り返し、および/または、
-コントロールの値を、コントロール健常個体またはコントロール健常コホートから取得するか、もしくは、より早い時点での同一個体から取得し、および/または、
-血液サンプルが血清、血漿、または全血であり、好ましくは血清であり、および/または、
-コントロールに比べてNfLタンパク質の値の増大していることがアルツハイマー病を約1ヵ月~10年内に発症することの指標となる。
【0035】
上記したように、実施例中での驚くべき知見とは、血清中NfLレベルが症状発症前のFAD突然変異の保因者で増大していたことと、そのレベルが、そのような症状発症前のFAD突然変異の保因者の症状発症までの推定年数(EYO)とさらに相関していたことであった。特に分かったことは、症状発症までの推定年数(EYO)が長い症状発症前のFAD突然変異の保因者に関しては、症状発症までの推定年数(EYO)が短い症状発症前のFAD突然変異の保因者と比べて、NfLの値の増大が少ないと決定されたことであった。
【0036】
FAD突然変異の保因者に関しては、症状発症までの推定年数(EYO)は上記したように家族歴から決定可能である。EYO値は、症状発症前の個体がADの臨床症状を示すと予想される時点に関連する。FAD突然変異の保因者に関しては、EYO値は前記疾患の一または複数の症状の発症までの時間と相関している。
【0037】
従って、本発明の別の好ましい実施形態では、NfLの量または濃度は前記疾患の一または複数の症状の発症までの時間と相関する。疾患の発症までの時間は、ある特定の検査時点での症状発症前の個体が対象疾患の少なくとも一つの臨床症状を示すか、および/または、対象疾患を呈するまでに経過した期間に関する。神経変性疾患、特にADの発症までの時間は、例えば、1ヵ月、6ヵ月、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15年である場合がある。従って、本発明の方法は、神経変性疾患、特にADの一または複数の症状の発症前1ヵ月、6ヵ月、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15年で、神経変性疾患、特にADの発症を検出することができる。
【0038】
従って、本発明のさらに別の好ましい実施形態では、本方法は、一または複数の症状の発症前少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは4年、最も好ましくは少なくとも5年で、前記疾患の発症を検出することができる。
【0039】
本発明の別の好ましい実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病、特に家族性アルツハイマー病である。
【0040】
実施例では、NfLレベルの上昇が家族性アルツハイマー病の症状発症中と症状発症前の突然変異の保因者の両者で同定された;それら症状発症前の個体は予期される症状発症からは平均9年にあった。従って、本発明の方法は、家族性アルツハイマー病(FAD)発症のリスクがある個体を検出するのに特に有用である。
【0041】
家族性アルツハイマー病またはFADは、常染色体優性様式で遺伝するアルツハイマー病の型である。家族性アルツハイマー病は通常、人生のより早い時期に、標準的には65歳前、通常50~65歳の間に起こるが、早くては15歳でも起こり得る。常染色体優性家族性AD(FAD)突然変異の保因者は、アルツハイマー病を発症するリスクの増大を示す。FAD突然変異には、プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)およびアミロイド前駆体タンパク質(APP)の遺伝子中の突然変異が含まれる。
【0042】
神経変性疾患の将来の発症は、個体において後に検出されることになる。
【0043】
本発明に係る個体は任意のヒトまたは非ヒト動物、特に、哺乳類、魚類、爬虫類または鳥類であってもよい。従って、本明細書中に記載される方法と組成物は、ヒトと動物の疾患の両方に適用可能である。明らかなことであるが、特に対象となる非ヒト哺乳類には、実験動物(例、げっ歯類)(例えば、マウス、ラット、ウサギを含むもの)、またはゼブラフィッシュ、飼育動物(例、ペット)、および、商業的価値のある動物(例、モルモット、ウサギ、ウマ、ロバ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ラクダ、ネコ、イヌ、ウミガメ、リクガメ、ヘビ、トカゲまたはキンギョを含むもの)が含まれる。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、前記個体はヒトである。
【0045】
神経変性疾患の将来の発症を検出するために、サンプルを個体から取得する。
【0046】
サンプルは、本発明に従ってマーカーNfLを測定するのに適する任意のサンプルであり、インビトロで評価する目的で取得する生体試料を指す。サンプルは、個体に具体的に関係づけ可能な材料であって、それからその個体に関する特定の情報が決定、計算または推定可能なものである。サンプルは、患者の生体材料の全体または一部(例、血液サンプル)から構成可能である。サンプルはまた、個体に関する情報を提供するサンプルで実施される検査を可能にするやり方で患者に関係した材料である場合もある。サンプルは、好ましくは任意の体液を含む場合がある。例示的検査サンプルには、血液、血清、血漿、尿、唾液、全血、末梢血中を循環する粒子(例、エキソソーム)、または、脳脊髄液(CSF)が含まれる。サンプルは個体から採取して直ちに使用するか、または測定工程a)の前に処理することができる。処理には、精製(例、遠心分離等の分離)、濃縮、希釈、細胞構成物の溶解、凍結、酸性化、保存等が含まれる場合がある。好ましいサンプルは、血清、血漿、全血、または末梢血中を循環する粒子(例、エキソソーム)であるが、血清が最も好ましいタイプのサンプルに相当する。
【0047】
末梢血中を循環する粒子は、遠心分離法によって末梢血から分離可能な粒子である。末梢血中を循環する粒子で特に好ましいものはエキソソームである。エキソソームは直径の範囲が約30~約100nmの小さい小胞であって、エンドサイトーシス由来で、いくつかの細胞タイプにより細胞外環境に放出されるものである。エキソソームは、当業者に既知の方法、例えば、超遠心分離、特に、差動超遠心分離法を、任意ではあるが、精密ろ過、勾配型もしくはサイズ排除クロマトグラフィー、または、市販のキット(例、Exoquick(登録商標)(SBI社、Palo Alto、米国))と組み合わせることによって単離および/または分離可能である。
【0048】
従って、本発明の別の好ましい実施形態では、サンプルは脳脊髄液または血液サンプルであり、好ましくは血清、血漿、全血、または、末梢血中を循環する粒子(例、エキソソーム)であり、より好ましくは血清である。
【0049】
本発明によると、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するために、マーカーNfLの量または濃度を測定する。物質の量は、要素粒子(例、原子、分子、電子、および他の粒子)の集合体のサイズを計測するのに標準で定義された量である。化学量と称されることもある。国際単位系(SI)は、存在する要素粒子の数に比例するものとして物質の量を定義する。物質量のSI単位はモルである。それは、単位記号molを有する。物質の濃度は、構成要素の量を混合物の総体積で割り算したものである。いくつかのタイプの数学的記載(質量濃度、モル濃度、個数濃度および体積濃度)が区別可能である。用語「濃度」は任意の種類の化学混合物に適用可能であるが、非常にしばしば、その用語は溶液中の溶質や溶剤を指していう。モル(量的)濃度には、バリエーション(例、規定濃度および浸透圧濃度)がある。
【0050】
マーカーNfLのレベルを測定する工程を以下のように実行してもよい。サンプルと、任意ではあるが、校正物質および/またはコントロールは、NfLに適した特異的結合剤(任意ではあるが、例えば固相に固定化したもの)を、その結合剤がマーカーNfLに結合することを可能にする条件下で接触させる場合がある。任意ではあるが、結合していない結合剤を分離工程(例、一または複数の洗浄工程)によって除去する。第二剤(例、標識した剤)を加えて、それが結合してその物を定量することを可能にするように、結合した結合剤および/またはその結合したマーカーNfLを検出してもよい。任意ではあるが、結合していない第二剤を第二分離工程(例、一または複数の洗浄工程)によって除去する。マーカーの量に比例する第二結合剤の量は、例えば、標識に基づいて定量化できる。定量化は、例えば、測定値を各校正物質の濃度に対してプロットすることによって各アッセイについて作成した検量線に基づいてもよい。サンプル中のマーカーの濃度または量は、検量線から読み取ることができる。
【0051】
マーカーの量または濃度が決定された後、得られた値を、コントロール(例、コントロールサンプル、コントロールコホート、コントロール集団またはコントロール群)で決定されたマーカーNfLの量または濃度と比較する。表現「・・・前記量または濃度を、コントロールの・・・量または濃度と比較する」は、当業者に明白である事柄をさらに説明するために単に使用される。コントロールサンプルは内在性または外因性コントロールであってもよい。一つの実施形態では、内在性コントロールを使用する。つまり、マーカーレベルを試験サンプルおよび同じ被験者から採取した一または複数の他のサンプル中で評価して、前記マーカーのレベルの変化があるかどうかを決定する。従って、一つの好ましい実施形態では、コントロールの値をより早い時点で同一個体から得る。さらに好ましいのは、コントロールに関しては、同一個体が前記早い時点では症状発症前であるか、またはその早い時点でわずかに症状を呈するか、および/もしくは、軽度の疾患症状を呈している場合である。別の実施形態では、外因性コントロールを使用する。外因性コントロールに関しては、個体由来のサンプル中のマーカーの存在または量が、所定の状態(例、神経変性疾患、または、ADなどの神経変性疾患を発症するリスクがある状態)が無いと知られている個体または個体集団(すなわち、「正常個体」)のその量または濃度と比較される。従って、一つの好ましい実施形態では、コントロールの値を、コントロール健常個体またはコントロール健常コホートから得る。通常、サンプルのマーカーレベルは診断または予測と直接的または間接的に相関し、そして、マーカーレベルを例えば使用して、個体が神経変性疾患を発症するリスクがあるかどうかを決定する。適切なコントロールサンプル/集団/コホート/群、および、そこで決定されたマーカーに対するコントロールまたは参照値を選ぶことは従事者の技能の範囲内にある。当業者によって理解されるのは、そのようなコントロールが、一つの好ましい実施形態では、年齢を合わせ、紛らわしい疾患が無い参照集団から得られるということである。また、当業者に明らかなことには、コントロールで決定されたマーカーの絶対値が使用するアッセイに依存することになることである。好ましくは、適切な参照集団由来の100以上の十分特徴解析された個体からのサンプルを使用して、コントロール(参照)値を決定する。また好ましくは、参照集団は、少なくとも20、30、50、200、500または1000人の個体からなるように選択可能である。健常個体達は、参照値を決定するための好ましい参照集団に相当する。代替的には、参照集団、例えば、健常個体の一集団と、神経変性疾患(例、AD)の症状発症中であることが知られた個体またはFAD突然変異の保因者の一集団が、本発明の方法中で使用可能である。
【0052】
従って、本発明の別の好ましい実施形態では、コントロールの値を、コントロール健常個体、コントロール健常コホート、または、より早い時点での同一個体から得る。
【0053】
サンプル中のマーカー分子NfLの量または濃度を測定する。マーカー分子NfLを測定する各種方法が当該技術分野で既知であり、それらの任意のものが使用可能である。
【0054】
好ましくは、マーカーNfLを、特異的結合剤を使用することによって液体サンプルから特異的に測定する。
【0055】
特異的結合剤は、例えば、マーカーの受容体、マーカーに対する抗体、マーカータンパク質に係る核酸に相補的な核酸(例、マーカーのmRNAまたはその関連部分に相補的な核酸)である。好ましくは、マーカー分子NfLを、タンパク質レベルで測定する。
【0056】
従って、本発明の別の好ましい実施形態では、NfLをNfLタンパク質またはNfL mRNAとして測定する。
【0057】
NfL mRNAは、当該技術分野で既知の任意の手法によって検出可能である。これらの手法には、ノーザンブロット分析、逆転写-PCR増幅法(RT-PCR)、マイクロアレイ解析およびリボヌクレアーゼプロテクション法が含まれる。
【0058】
例えば、サンプル中のNfL mRNAは、ノーザンブロット分析で測定可能である。ここで、組織RNAを電気泳動で分画し、固相膜支持体(例、ニトロセルロースまたはナイロン)に固定し、そして、サンプル中のNfL mRNAと選択的にハイブリダイズすることができるプローブとハイブリダイズする。実際のレベルは、一または複数のコントロールハウスキーピング遺伝子と比べて定量可能である。ハウスキーピング遺伝子は、細胞の一般的代謝または維持に関与する遺伝子であり、細胞タイプ、生理的状態または細胞周期のステージに関係なく一定レベルで発現していると考えられている。適切なハウスキーピング遺伝子の例はβ-アクチン、GAPDH、ヒストンH3.3、またはリボソームタンパク質L13である。
【0059】
別の実施形態では、NfL mRNAを増幅して、定量的に分析する。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用して、一連の繰り返し工程(変性工程、nfl mRNA配列に従って設計されたオリゴヌクレオチドプライマーのアニーリング工程、および、DNAポリメラーゼを使ってプライマーから伸長する工程)を通して、特異的核酸配列を増幅することができる。逆転写-PCR(RT-PCR)では、この方法に先立って逆転写工程があり、mRNAのコピー数の大規模増幅を可能とする。
【0060】
RT-PCR産物の定量は、反応産物が指数関数的に増加している間に行うことができ、診断上有用な臨床データを生成可能である。一つの実施形態では、測定は、RT-PCRによって増幅された一または複数のハウスキーピング遺伝子と比べることによって行われる。RT-PCR産物の定量は、例えば、ゲル電気泳動して目視して調べるか、画像解析することによるか、HPLCによるか、または、蛍光検出法を使用することによって行うことができる。
【0061】
一つのより好ましい実施形態では、NfLをNfLタンパク質として測定する。
【0062】
マーカータンパク質の結合相手としてのタンパク質の測定は、タンパク質と特異的に相互作用するタンパク質を同定し、取得するための数多くの公知の方法のいずれを用いても、例えば、米国特許第5,283,173号や米国特許第5,468,614号またはそれと同等のものに記載されている酵母ツーハイブリッドスクリーニングシステムを使用しても実行可能である。特異的結合剤は、好ましくは、その対応する標的分子に対する親和性が少なくとも107l/molである。特異的結合剤は、好ましくは、その対応する標的分子に対する親和性が108l/molまたはさらに好ましくは109l/molである。当業者の理解するように、特異的という用語は、サンプルに存在する他の生体分子がマーカーに特異的な結合剤に有意に結合しないことを示すために使用される。好ましくは、標的分子以外の生体分子への結合レベルは、各標的分子に対する親和性のわずか10%以下、より好ましくはわずか5%以下の結合親和性となる。好ましい特異的結合剤は親和性と特異性に関する上記最低限の基準の両方を満たすことになる。
【0063】
好ましくは、特異的結合剤は、マーカーNfLと反応する抗体である。抗体という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、そのような抗体の抗原結合断片、単鎖抗体、および、抗体の結合領域を含む遺伝子構築物のことをいう。
【0064】
好ましくは、マーカーは、免疫アッセイ、特にサンドウィッチ型アッセイ様式で検出される。そのようなアッセイでは、第一の特異的結合剤(例、一次抗体)を使用して対象マーカーを捕獲する。任意ではあるが、第一の特異的結合剤を、共有結合的または非共有結合的に、特に受動的に固相に結合する。固相は一般的にはガラス、磁性材料もしくは常磁性材料またはポリマーであり、最も一般的に使用されるポリマーはセルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、またはポリプロピレンである。固相は、微粒子、チューブ、ビーズ、マイクロプレートディスク、または免疫アッセイを実施するのに適した任意の他の表面の形態であってもよい。結合プロセスは、当該技術分野で周知であり、結合剤を架橋、共有結合および物理的に吸着することを含み、第一の特異的結合剤と固相支持体の複合体(例、ポリマー-抗体複合体)を形成する。非共有結合は、例えば、生体親和性結合ペア(例、ビオチンとストレプトアビジン)によって達成可能である。
【0065】
適当な条件下でマーカーと適切な時間、つまり、マーカーと第一の特異的結合剤の複合体の形成を可能にするのに十分な時間のインキュベーション後、そして、任意ではあるが、洗浄工程後、第二の特異的結合剤(例、二次抗体)(標識されて直接的または間接的に検出可能なもの)を使用して、対象マーカー、第一の特異的結合剤、または、マーカーと第一の特異的結合剤を含んで形成された複合体のいずれかを捕獲する。第二の特異的結合剤は、検出可能なリポーター部分または標識(例、酵素、染料、放射性核種、発光基、蛍光基、もしくはビオチン等)を含む場合がある。任意のリポーター部分または標識は、そのシグナルが結合剤の量に直接関連するか比例する限り、本明細書中に開示される方法で使用可能である。任意の未反応物は洗い流すことができる。対象マーカー、第一の特異的結合剤、または、マーカーと第一の特異的結合剤を含んで形成された複合体のいずれかに結合したままの第二結合剤の量は、その後、特異的に検出可能なリポーター部分または標識に適切な方法を使用して測定する。放射性基に関しては、シンチレーション測定またはオートラジオグラフィー法が一般的に適切である。抗体-酵素結合体は、各種カップリング手法(総説に関しては、例えば、Scouten, W. H., Methods in Enzymology, 135:30-65, 1987を参照されたい)を使用して調製可能である。分光法が、染料(例、酵素反応の比色生成物を含む)、発光基および蛍光基を検出するために使用できる。ビオチンは、アビジンまたはストレプトアビジンを使用して検出可能であり、異なるリポーター基(一般的には放射性もしくは蛍光性基または酵素)に結合可能である。酵素リポーター基は、基質を(一般的には特定時間)加えて、その後、その反応生成物を分光分析、分光光度分析、または他の分析を行うことによって、一般的に検出可能である。標準物質と標準添加物が、周知の手法を使用してサンプル中の抗原レベルを測定するために使用することができる。
【0066】
用語「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、その抗原結合断片、および、任意の天然または組換え生産される結合相手(NfLタンパク質に特異的に結合する分子)が含まれる。抗体の「抗原結合断片」という用語は、抗体と似た様式で抗原に結合する能力を有するが、完全な抗体分子よりもサイズが小さい分子を指す。例えば、抗体の二個の「抗原結合断片」は、3個の断片(つまり、二個の同一断片であって「Fab断片」と呼ばれるもの(「Fab部分」または「Fab領域」とも称されるもの)で、各々が単一の抗原結合部位を有するものと、残りの「Fc断片」(「Fc部分」または「Fc領域」とも称されるもの)であって、その名前が容易に結晶化可能な能力を反映するもの)を生成するパパイン消化によって取得される。さらに、抗原結合断片には、Ig分子のヒンジ領域をさらに含むFab断片を指す「Fab’断片」と、化学的に連結されるかまたはジスルフィド結合を介して結合された2個のFab’断片を含むとして理解される「F(ab’)2断片とが含まれる。一方、「単一ドメイン抗体(sdAb)」については、Desmyter et al. (1996) Nat. Structure Biol. 3:803-811に記載されている。さらに含まれるのは、単一VH領域のみを含む「ナノボディー」、軽鎖可変領域に短いリンカーペプチドを介して連結された重鎖可変領域を含む「単鎖Fv(scFV)」(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879-5883)、二個のscFv(scFvA-scFvB)を連結して設計可能な二価単鎖可変断片(di-scFvs)である。これは、2つのVH領域と2つのVL領域で単一ペプチド鎖を作製し、「タンデムscFv」(VHA-VLA-VHB-VLB)を得ることにより実行される。別の可能性は、2つの可変領域が一緒に畳みこまれるには小さすぎるリンカーを使用してscFvを作り、そのscFvを二量体化させることである。通常、5残基長のリンカーを使用してこれらの二量体を作製する。このタイプは「ダイアボディー」として知られている。VH領域とVL領域の間のさらに短いリンカー(1または2アミノ酸)は、単一特異性三量体、いわゆる「トリアボディー」または「トリボディー」の形成を導く。二重特異性のダイアボディーは、それぞれ、VHA-VLBとVHB-VLAまたはVLA-VHBとVLB-VHA配列を各鎖に発現させることによって形成される。単鎖ダイアボディー(scDb)は、12~20アミノ酸、好ましくは14アミノ酸のリンカーペプチド(P)で連結されるVHA-VLBおよびVHB-VLA断片(VHA-VLB-P-VHB-VLA)を含む。二重親和性再標的化分子(「DART」分子)は、C末端のジスルフィド架橋を介してさらに安定化されたダイアボディーである。
【0067】
抗体は、例えば、Tijssen(Tijssen, P., Practice and theory of enzyme immunoassays, Elsevier Science Publishers B. V., Amsterdam (1990),、本全体、特に43-78ページ)に記載される最先端の方法で作製される。また、当業者は、抗体の特異的単離に使用可能な免疫吸着材に基づく方法をよく認識している。これらの手段によって、ポリクローナル抗体の品質と従ってそれらの免疫アッセイでの性能は向上可能となる(Tijssen, P.、上記、108-115ページ)。
【0068】
本発明が開示する成果のために、例えば、ヤギで作製したポリクローナル抗体が使用可能である。しかしながら、別の種、例えば、ラット、ウサギまたはモルモット由来のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体も使用可能なことも明白である。モノクローナル抗体は任意の必要な量で一定の特性を有して生産可能であるので、臨床で定期的に使用されるアッセイの開発における理想的ツールとなる。
【0069】
測定のために、個体から得られたサンプルを、結合剤/マーカー複合体形成に適する条件下で対象マーカーに対する特異的結合剤とインキュベーションする。そのような条件が特定される必要がない理由は、当業者が創意工夫なしに容易にそのような適切なインキュベーション条件を同定することができるためである。結合剤/マーカー複合体の量を測定し、そして、本発明の方法および使用において使用する。当業者が理解するように、特異的結合剤/マーカー複合体の量を測定する多数の方法があり、それらはすべて妥当な教科書(例、Tijssen P.、上記のもの、またはDiamandis, E.P. and Christopoulos, T.K. (eds.), Immunoassay, Academic Press, Boston (1996)を参照されたい)に詳細に記載されている。実施例では、Uman Diagnostics(UmanDiagnostics社、ウメオ、スウェーデン)のNF-Lightアッセイに含まれるモノクローナル抗体mAB47:3とmAb2:1が、サンプル中のNfLタンパク質の量と濃度を測定するのに使用できた。
【0070】
特に、マーカーNfLタンパク質に対するモノクローナル抗体は、定量的免疫アッセイ(このマーカーの量または濃度を測定するもの)で使用される。
【0071】
本発明で使用可能な好ましい免疫アッセイには、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、電気化学的測定方法(ECL)、電気化学発光免疫アッセイ(ECLIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)または超高感度単分子アレイアッセイ(Simoa)が含まれる。
【0072】
上記したように、NfLタンパク質を測定するためのさまざまな方法がある。NfL測定のための市販製品には、NfL ELISA(UmanDiagnostics社のNF-Lightアッセイ(UmanDiagnostics社、ウメオ、スウェーデン))が含まれる。さらに、先行技術に記載される電気化学発光アッセイをNfLタンパク質の測定に使用してもよい(Kuhle J, Barro C, Andreasson U, et al. Comparison of three analytical platforms for quantification of the neurofilament light chain in blood samples: ELISA, electrochemiluminescence immunoassay and Simoa. Clin Chem Lab Med 2016)。
【0073】
サンプル中のNfLの量または濃度を測定する特定の実施形態では、第一および第二の特異的結合剤、好ましくは、一次および二次抗体は、分析するマーカーを含むサンプルと混合される。
【0074】
好ましい実施形態では、第一の特異的結合剤(好ましくは抗体)は、微粒子またはビーズ、より好ましくは常磁性微粒子またはビーズ上にコーティングされる。さらに、第二の特異的結合剤(好ましくは抗体)は、直接的または間接的に検出可能とするように標識される。
【0075】
一つの好ましい実施形態では、微粒子またはビーズ上へのコーティングは、生体親和性結合体ペア(例、ビオチンとストレプトアビジン)によって達成可能である。そのような実施形態では、微粒子またはビーズは、好ましい実施形態では、磁性または常磁性の微粒子またはビーズである。
【0076】
一つの好ましい実施形態では、洗浄工程無しに免疫アッセイが実施され、そのような混合とインキュベーションが単一の反応容器中で実行される。3種類の要素(例、それぞれ、第一の特異的結合剤(例、抗体)でコーティングした微粒子、マーカーを含むサンプル、および、検出可能に標識された二次抗体)を加えて混合する順番は重要ではない。この混合物は、第一の特異的結合剤(特に、微粒子またはビーズ上にコーティングされた一次抗体)と検出可能に標識された第二の特異的結合剤(特に、二次抗体)がNfLに結合するのに十分な時間インキュベーションする。
【0077】
別の好ましい実施形態では、洗浄工程を有する免疫アッセイが実施され、第一の特異的結合剤(特に、微粒子またはビーズ上にコーティングされた一次抗体)と、サンプルと、検出可能に標識された第二の特異的結合剤(特に、抗体)の添加と混合は、単一の反応容器中で連続的に実行する。第一工程(分析物捕獲工程)では、一次抗体でコーティングした微粒子またはビーズを、分析物(つまり、NfL)と結合するのに十分な時間で、分析されるサンプルとインキュベーションする。洗浄工程の後、検出可能に標識された二次抗体を加えて、分析物(つまり、NfL)に二次抗体が結合するのに十分な時間インキュベーションする。好ましい実施形態では、本方法を競合アッセイ様式で実施する。
【0078】
好ましい実施形態では、第一の特異的結合剤(特に、微粒子またはビーズ上にコーティングされた一次抗体)と、サンプルと、検出可能に標識された第二の特異的結合剤(例、抗体)とを含む混合物を60分未満、つまり、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、または5分未満インキュベーションする。より好ましい実施形態では、前記混合物を4分~1時間(つまり、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60分)インキュベーションする。さらに好ましい実施形態では、前記混合物を5分~45分(つまり、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、または45分)間インキュベーションする。さらにより好ましい実施形態では、前記混合物を5分~30分(つまり、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30分)間インキュベーションする。特に好ましい実施形態では、前記混合物を9または18分間インキュベーションする。さらに別の好ましい実施形態では、前記混合物を1~12時間(つまり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12時間)インキュベーションする。より好ましい実施形態では、前記混合物を、1~4時間または8~12時間インキュベーションする。
【0079】
さらに好ましい実施形態では、前記混合物を3~40℃(つまり、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40℃)の温度でインキュベーションする。好ましい実施形態では、前記混合物を、3℃~8℃(つまり、3、4、5、6、7または8℃)、より好ましくは4~5℃の温度で、または、20℃~25℃(つまり、20、21、22、23、24、または25℃)、特に20~22℃の温度で、あるいは、35~37℃の温度でインキュベーションする。
【0080】
当業者に周知なのは、インキュベーション温度とインキュベーション時間が互いに依存関係にあることである。従って、好ましい実施形態では、前記混合物を20~25℃で10分~1時間インキュベーションし、すなわち、前記混合物を20、21、22、23、24、または25℃で10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60分間インキュベーションする。他の好ましい実施形態では、前記混合物を22℃で10分未満または20分未満インキュベーションする。さらに他の好ましい実施形態では、前記混合物を3~8℃で1~12時間インキュベーションする。特に、前記混合物を3~8℃、特に4~5℃で1~4時間または8~12時間インキュベーションする。
【0081】
第一の特異的結合剤および/または第二の特異的結合剤、好ましくは、一次抗体および/または二次抗体を、微粒子またはビーズ上にコーティングされた一次抗体と検出可能に標識された二次抗体がサンプル中のNfLに結合するのに十分な時間インキュベーションする。
【0082】
好ましい実施形態では、第一の特異的結合剤および/または第二の特異的結合剤、好ましくは、一次抗体および/または二次抗体を、生理的溶液(特に、生理的緩衝液)中に含ませたり、インキュベーションしたりする。好ましい実施形態では、緩衝液を、TAPS、ビシン、トリス、トリシン、TAPSO、HEPES、TES、MOPS、PIPES、カコジル酸塩、およびMESからなる群より選択する。より好ましい実施形態では、緩衝液はMESバッファーである。さらに好ましい実施形態では、MESバッファーは以下の成分:50mM MES、150mM NaCl、2mM EDTA-Na2(二水和物)、0.1%N-メチルイソチアゾロン-HCl、0.1%オキシピリオン(Oxypyrion)、0.1%ポリドカノール(Thesit)、1.0%アルブミンRPLA4(アッセイグレード)、0.2%PAK<->R-IgG(DET)、ミリポア水(pHは2NのNaOHで6.30に調整したもの))を含む。
【0083】
一つの好ましい実施形態では、形成された第一特異的結合剤-マーカー-第二特異的結合剤複合体、好ましくは、一次抗体-抗原(マーカー)-二次抗体複合体、特に、一次抗体とNfLと二次抗体を含んで形成された複合体を、当該技術分野で周知の任意の方法を介して検出する。特定の実施形態では、形成された複合体を、電気化学発光、化学発光、または、蛍光を介して検出する。
【0084】
電気化学(ECL)アッセイまたは電気化学発光(ECLIA)アッセイでは、結合した分析物分子を検出剤に連結した標識によって検出する。電極は、電気化学的に、検出剤に連結された化学標識の発光を開始させる。標識による発光は光検出器で測定され、結合した分析物分子/標的分子複合体の存在または量を示す。ECLIA法は、例えば、米国特許番号第5,543,112号;5,935,779号;および6,316,607号明細書中に記載されている。正確で感度の高い測定のために、異なる分析物分子濃度に関してシグナル変調を最大化することができる。例えば、標識はルテニウム標識としてよい。
【0085】
さらに別の実施形態では、超高感度単分子アレイ(Simoa)サンドイッチ型免疫アッセイを実行する。先行技術に記載があるのは、NfLが標準的免疫アッセイ様式を使用して血清中で測定可能なことであるが、コントロールサンプルと疾患群由来のサンプルの多くはその方法の分析感度より低いNfL濃度を有している場合がある。実施例では、単分子アレイ(Simoa)技術に基づいて最近開発された免疫アッセイ(サブフェムトモルの分析物濃度(1pg/ml未満)までの定量を可能にし、NfLの定量は従前の電気化学発光ベースの方法よりも25倍感度が高いもの)が使用できた。実施例では、Rissin D.M.ら(Nature Biotechnology (doi:10.1038/nbt.1641))により記載されたSimoaアッセイが使用できた。
【0086】
超高感度単分子アレイ(Simoa)サンドイッチ型免疫アッセイ中では、蛍光が異なる常磁性ビーズ(直径が約2.7μmの場合があるもの)を捕獲抗体に結合する。酵素、特にストレプトアビジン-β-ガラクトシダーゼで標識された単一の免疫複合体をビーズ表面に形成させる従来のビーズベースのサンドイッチ型免疫アッセイ法を適用する。極端に低濃度の分析物を含むサンプルを検査する場合、ビーズに対する分析物分子および得られる免疫複合体の割合は小さく(<1)、標識された免疫複合体を含むビーズのパーセンテージはポアソン分布に従う。従って、ビーズは単一の免疫複合体を含むか、または、何も含まないかのいずれかである。ビーズ表面上の酵素標識の濃度が非常に低い場合の検出は、多数のウエル(例、>104または>105個のウエル、例えば216,000個のウエル)を有するアレイ中にビーズを充填し、そして、個々の酵素によって生成されたフルオロフォアを非常に小さい体積(例、約50フェムトリットル)に閉じ込めることによって実行する。一個のウエル中に一個のビーズがあることを保障するようにビーズをオイルで封入する。単一の酵素が標識された免疫複合体を保持するビーズは、封鎖されたウエル中で局所濃度が高いフルオロフォアを生成する。標準的な顕微鏡光学を使用してアレイのタイムラプス蛍光イメージを取得することによって、酵素分子と結合していないビーズ(「オフ」ウエル)から単一の酵素分子が結合したビーズ(「オン」ウエル)を区別可能にする。タンパク質濃度が低くて、ビーズに対する酵素ラベルの比率が約1.2未満である場合、ビーズは0または少ない数の酵素を保持していて、そして、タンパク質濃度を「オン」または「オフ」ビーズの存在を計数すること(すなわち、デジタル方式)によって定量する。タンパク質濃度がそれより高い場合は、各ビーズは一般的に複数の酵素標識を保持していて、そして、各ビーズ上に存在する酵素標識の平均数を平均蛍光強度の測定値(すなわち、アナログ方式)から定量する。デジタルとアナログ濃度範囲の両方は、一般的単位、つまり、ビーズ当たりの平均酵素標識数(AEB)によって定量する。一つ一つにしたビーズの蛍光測定に関するデジタルモードとアナログモードを組み合わせて、酵素標識に対して6桁に渡る大きさの直線的ダイナミックレンジが実現可能となる。
【0087】
本発明によると、コントロールに比べてマーカーの量または濃度の値の増大していることが神経変性疾患の将来の発症の指標となる。もしその値が増大すると、神経変性疾患を将来発症することになる。そのように同定された個体はさらに診断または治療方法(さらなる血液もしくはCSF検査、画像検査法、認知力テストまたは治療、特に予防的処置を含むもの)の対象となる場合がある。熟練した従事者は、当該分野で広く行われている医療行為に従って適切な手段を選択することができる。
【0088】
一つの実施形態では、量の値が、コントロールの値に比べて少なくとも110%まで、より好ましくは少なくとも120%まで、より好ましくは少なくとも130%まで、より好ましくは少なくとも140%まで、より好ましくは少なくとも150%まで、より好ましくは少なくとも160%まで、より好ましくは少なくとも170%まで、より好ましくは少なくとも180%まで、さらに好ましくは少なくとも190%まで大きくなった場合に、値が増大するとする。
【0089】
代替的には、コントロール群またはコントロール集団で測定されるNfLの値を例えば使用して、カットオフ値または参照範囲を決定する。そのようなカットオフ値より高い値または参照範囲の高い方の端の外側の値であれば増大したと見なす。一つの実施形態では、決まったカットオフ値を決定する。そのようなカットオフ値は、診断または予測目的値と合うように選択される。一つの実施形態では、コントロール群またはコントロール集団で測定されるNfLの値を使用して参照範囲を決定する。好ましい実施形態では、もし測定値が参照範囲の90%値(%-percentile)より高い場合に、NfL濃度が増大したと見なす。さらに好ましい実施形態では、測定値が参照範囲の95%値、96%値、97%値または97.5%値よりも高い場合に、NfL値が増大したと見なす。カットオフ値は、神経変性疾患を発症するリスクが無い個体から神経変性疾患を発症するリスクのある個体を識別するのに適切な値に相当するものとしてよい。
【0090】
適切なカットオフ値は、所望の感度と特異度に応じて選択可能である。感度と特異度は、分類関数として統計学において知られる二項分類検定を実行する際の統計的尺度である。
【0091】
感度(真陽性率とも呼ばれる)は陽性が正しく同定される割合(例、神経変性疾患を発症するリスクがあると正しく同定されるそのリスクがある人々のパーセンテージ)を評価する。
【0092】
特異度(真陰性率とも呼ばれる)は陰性が正しく同定される割合(例、神経変性疾患を発症するリスクが無いと正しく同定されるそのリスクが無い人々のパーセンテージ)を評価する。
【0093】
いかなるテストでも、通常評価基準間でトレードオフがある。例えば、安全性への潜在的脅威を探す空港セキュリティー設備においては、飛行機や乗員乗客に脅威を与える物を見過ごすリスクを減らすために(高感度)、バックルや鍵のような低リスクアイテムでも検出を起こすように(低特異度)スキャナーを設定する場合がある。このトレードオフは受信者動作特性曲線としてグラフ化可能である。完璧な予測は、100%の感度(例、リスクのあるすべての個体をリスクがある個体として同定すること)と100%の特異度(例、全ての健常者がリスクのある個体として同定されないこと)があるとして記載され得る;しかしながら、如何なる理論的予測もベイズ誤り率として知られる最小限のエラーバウンドを有する。感度または特異度のいずれかを増大させるためにカットオフを設定することができる。
【0094】
統計学では、受信者動作特性(ROC)またはROC曲線は、識別閾値としての二項分類系の実行が変化することを説明するグラフィカル・プロットである。その曲線は、各種閾値設定で、偽陽性率(FPR)に対して真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。上記に詳細に示したように、真陽性率は、感度もしくは感度指標d’(信号検出やバイオ医学情報科学においては「d-プライム」として知られるもの)または機械学習の再現率としても知られる。偽陽性率はフォールアウトとしても知られ、(1-特異度)として計算可能である。ROC曲線は、二分法の結果を予測する能力に関する値の範囲に渡り、特異度に対して感度を比較する。曲線下面積(AUC)は、検定性能の比較に関する総合的正確さを示す(Florkowski CM, 2008, Clin Biochem Rev 29 (Suppl 1): S83-S87)。感度とは、個体を疾患があると正しく分類する検定の能力をいう。個体を疾患が無いまたはリスクが無いと正しく分類する検定の能力は、特異度と呼ばれている。
【0095】
ROC分析は、コストまたはクラス分布とは独立して(およびそれらを特定する前に)最適であろうモデルを選択し最適以下のものを捨てるためのツールを提供する。ROC分析は、直接的で自然なやり方で、診断を下す際のコスト・ベネフィット分析と関連する。
【0096】
本発明のさらに別の好ましい実施形態では、本方法が前記個体または予防的処置をモニターするために複数の異なる時点で繰り返し行われる。
【0097】
本方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上異なる時点で繰り返すことができる。それによって、個体をモニターすることを可能にするタイムコースを決定する場合がある。時間間隔は異なっていてもよく、例えば、1日と20年の間(例、1ヵ月と1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10年との間)の時間間隔であってもよい。また、時間間隔は、本方法が2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上異なる時点で繰り返される場合に異なる可能性がある。例えば、コントロールは、コントロール健常個体またはコントロール健常コホートである場合があるし、それぞれより早い時点での同一個体(例、第一時点での同一個体)のものである場合もある。経時的にNfLの値の増大が認められる場合、神経変性疾患を発症するリスクはさらに増大するが、その後の時点での値が一定であったり減少したりすることは、神経変性疾患を発症するリスクがさらに増大しないこと、または減少することを示す。
【0098】
従って、別の実施形態では、本発明は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する方法であって、
a)(i)前記個体から得られたサンプルと(ii)NfLに適した前記第一の特異的結合剤とを接触させ、それによって、NfLと前記第一の特異的結合剤とを含む複合体が形成される工程と、
b)任意ではあるが、NfLとNfLに適した前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体を残りのサンプルから分離する工程と、
c)NfLとNfLに適した前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体をNfLに適した第二の特異的結合剤と接触させ、それによって、NfLとNfLに適した前記第二の特異的結合剤および/またはNfLに適した前記第一の特異的結合剤とを含む複合体が形成される工程と、
d)NfLと前記第一の特異的結合剤および/または前記第二の特異的結合剤を含む前記複合体の量または濃度を測定する工程と、
e)工程d)で決定した前記量または濃度を、コントロール中のNfLと前記第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む複合体の量または濃度と比較することによって前記疾患を発症するリスクがある個体を検出する工程とを含み、NfLと前記第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体の値が前記コントロールのものと比べて増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる、方法に関する。
【0099】
本発明の第一実施形態に関して上記したように、定量的サンドイッチ型免疫アッセイを使用して、NfLタンパク質の量または濃度を決定することができる。例えば、好ましい特異的結合剤である第一のNfL特異的抗体は、工程a)で個体から得られたサンプルとインキュベーション可能である。それによって、NfLと第一のNfL抗体とを含む複合体が形成される。第一のNfL特異的抗体は、好ましくは、固相支持体へ結合しているか、または、固相支持体へ結合可能なものである。そのような固相支持体は、例えば、ウエル(例、マルチウエルプレート)、アレイ(例、マイクロアレイもしくはナノアレイ)、または、ビーズもしくは微粒子(例、磁性ビーズもしくは微粒子または常磁性ビーズもしくは微粒子)である場合がある。例えば、共有結合または非共有結合によって支持体に結合させることによって、工程b)に係る、NfLと前記第一のNfL特異的結合剤とを含む前記複合体を残りのサンプルから分離することを可能にする。代替的または付加的に、残りのサンプルから分離するために一または複数の洗浄工程を含めてもよい。非共有結合は、生体親和性結合ペア(例、ビオチンとストレプトアビジン、または、受容体とリガンド)の要素によって実現可能である。続いて、前記複合体をNfLに適した第二の特異的結合剤(例、第二のNfL抗体)とインキュベーションする。それによって、NfLとNfLに適した前記第二の特異的結合剤および/またはNfLに適した前記第一の特異的結合剤とを含む複合体が形成される。形成された複合体はまた、各特異的結合剤が結合する各エピトープに依存する。一つの好ましい実施形態では、NfLに適した第二の特異的結合剤およびNfLに適した第一の特異的結合剤は別個に結合し、より好ましくはNfLタンパク質の重複しないエピトープであり、両方の特異的結合剤を含む複合体形成とサンドイッチ型免疫アッセイ様式での検出とを可能にする。一つの好ましい実施形態では、NfLに適した第二の特異的結合剤を標識して、上記したように直接的または間接的に検出可能にし、それによって、NfLとNfLに適した第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む複合体の量または濃度を検出可能にする。NfLとNfLに適した第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体の値が前記コントロールのものと比べて増大していることが、上記したように前記神経変性疾患を将来発症することの指標となる。
【0100】
好ましくは、本発明は、アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出するインビトロ方法であって、
a)(i)前記個体から得られた血液サンプルと(ii)NfLタンパク質に適した第一の特異的結合剤とを接触させ、それによって、NfLタンパク質と前記第一の特異的結合剤とを含む複合体が形成される工程と、
b)任意ではあるが、NfLとNfLに適した前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体を残りのサンプルから分離する工程と、
c)NfLタンパク質とNfLタンパク質に適した前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体をNfLタンパク質に適した第二の特異的結合剤と接触させ、それによって、NfLタンパク質とNfLタンパク質に適した前記第二の特異的結合剤および/またはNfLタンパク質に適した前記第一の特異的結合剤とを含む複合体が形成される工程と、
d)NfLタンパク質と前記第一の特異的結合剤および/または前記第二の特異的結合剤とを含む前記複合体の量または濃度を測定する工程と、
e)工程d)で決定した前記量または濃度を、コントロール中のNfLと前記第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む複合体の量または濃度と比較することによってアルツハイマー病を発症するリスクがある個体を検出する工程とを含み、NfLタンパク質と前記第二の特異的結合剤および/または前記第一の特異的結合剤とを含む前記複合体の値が前記コントロールのものと比べて増大していることがアルツハイマー病を将来発症することの指標となる、方法に関する。
【0101】
本発明の別の好ましい実施形態では、NfLをNfL mRNAとして測定する。
【0102】
NfL mRNAは、当該技術分野で既知の任意の手法によって検出可能である。これらの手法には、ノーザンブロット分析、逆転写-PCR増幅法(RT-PCR)、マイクロアレイ分析およびリボヌクレアーゼプロテクション法が含まれる。
【0103】
例えば、サンプル中のNfL mRNAは、ノーザンブロット分析で測定可能である。ここで、組織RNAを電気泳動で分画し、固相膜支持体(例、ニトロセルロースまたはナイロン)に固定し、そして、サンプル中のNfL mRNAと選択的にハイブリダイズすることができるプローブとハイブリダイズする。実際のレベルは、一または複数のコントロールハウスキーピング遺伝子と比べて定量可能である。ハウスキーピング遺伝子は、細胞の一般的代謝または維持に関与する遺伝子であり、細胞タイプ、生理的状態または細胞周期のステージに関係なく一定レベルで発現していると考えられている。適切なハウスキーピング遺伝子の例はβ-アクチン、GAPDH、ヒストンH3.3、またはリボソームタンパク質L13である。
【0104】
別の実施形態では、NfL mRNAを増幅して、定量的に分析する。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用して、一連の繰り返し工程(変性工程、nfl mRNA配列に従って設計されたオリゴヌクレオチドプライマーのアニーリング工程、および、DNAポリメラーゼを使ってプライマーから伸長する工程)を通して、特異的核酸配列を増幅することができる。逆転写-PCR(RT-PCR)では、この方法に先立ってmRNAのコピー数の大規模増幅を可能とする逆転写工程がなされる。
【0105】
RT-PCR産物の定量は、反応産物が指数関数的に増加している間に行うことができ、診断上有用な臨床データを生成可能である。一つの実施形態では、測定は、RT-PCRによって増幅された一または複数のハウスキーピング遺伝子と比べることによって行われる。RT-PCR産物の定量は、例えば、ゲル電気泳動して目視して調べるか、画像分析することによるか、HPLCによるか、または、蛍光検出法を使用することによって行うことができる。
【0106】
本発明によると、コントロールに比べてマーカーの量または濃度の値の増大していることが神経変性疾患の将来の発症の指標となる。もしその値が増大すると、神経変性疾患を将来発症することになる。そのように同定された個体はさらに診断または治療方法(さらなる血液もしくはCSF検査、画像検査法、認知力テストまたは治療、特に予防的処置を含むもの)の対象となる場合がある。熟練した従事者は、当該分野で広く行われている医療行為に従って適切な手段を選択することができる。
【0107】
一つの実施形態では、量の値が、コントロールの値に比べて少なくとも110%まで、より好ましくは少なくとも120%まで、より好ましくは少なくとも130%まで、より好ましくは少なくとも140%まで、より好ましくは少なくとも150%まで、より好ましくは少なくとも160%まで、より好ましくは少なくとも170%まで、より好ましくは少なくとも180%まで、さらに好ましくは少なくとも190%まで大きくなった場合に、値が増大するとする。
【0108】
代替的には、コントロール群またはコントロール集団で測定されるNfLの値を例えば使用して、カットオフ値または参照範囲を決定する。そのようなカットオフ値より高い値または参照範囲の高い方の端の外側の値であれば増大したと見なす。一つの実施形態では、決まったカットオフ値を決定する。そのようなカットオフ値は、診断または予測目的値と合うように選択される。一つの実施形態では、コントロール群またはコントロール集団で測定されるNfLの値を使用して参照範囲を決定する。好ましい実施形態では、もし測定値が参照範囲の90%値より高い場合に、NfL濃度が増大したと見なす。さらに好ましい実施形態では、測定値が参照範囲の95%値、96%値、97%値または97.5%値よりも高い場合に、NfL値が増大したと見なす。カットオフ値は、神経変性疾患を発症するリスクが無い個体から神経変性疾患を発症するリスクのある個体を識別するのに適切な値に相当するものとしてよい。
【0109】
適切なカットオフ値は、所望の感度と特異度に応じて選択可能である。感度と特異度は、分類関数として統計学において知られる二項分類検定を実行する際の統計的尺度である。
【0110】
感度(真陽性率とも呼ばれる)は陽性が正しく同定される割合(例、神経変性疾患を発症するリスクがあると正しく同定されるそのリスクがある人々のパーセンテージ)を評価する。
【0111】
特異度(真陰性率とも呼ばれる)は陰性が正しく同定される割合(例、神経変性疾患を発症するリスクが無いと正しく同定されるそのリスクが無い人々のパーセンテージ)を評価する。
【0112】
いかなるテストでも、通常評価基準間でトレードオフがある。例えば、安全性への潜在的脅威を探す空港セキュリティー設備においては、飛行機や乗員乗客に脅威を与える物を見過ごすリスクを減らすために(高感度)、バックルや鍵のような低リスクアイテムでも検出を起こすように(低特異度)スキャナーを設定する場合がある。このトレードオフは受信者動作特性曲線としてグラフ化可能である。完璧な予測は、100%の感度(例、リスクのあるすべての個体をリスクがある個体として同定すること)と100%の特異度(例、全ての健常者がリスクのある個体として同定されないこと)があるとして記載され得る;しかしながら、如何なる理論的予測もベイズ誤り率として知られる最小限のエラーバウンドを有する。感度または特異度のいずれかを増大させるためにカットオフを設定することができる。
【0113】
統計学では、受信者動作特性(ROC)またはROC曲線は、識別閾値としての二項分類系の実行が変化することを説明するグラフィカル・プロットである。その曲線は、各種閾値設定で、偽陽性率(FPR)に対して真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。上記に詳細に示したように、真陽性率は、感度もしくは感度指標d’(信号検出やバイオ医学情報科学においては「d-プライム」として知られるもの)または機械学習の再現率としても知られる。偽陽性率はフォールアウトとしても知られ、(1-特異度)として計算可能である。ROC曲線は、二分法の結果を予測する能力に関する値の範囲に渡り、特異度に対して感度を比較する。曲線下面積(AUC)は、検定性能の比較に関する総合的正確さを示す(Florkowski CM, 2008, Clin Biochem Rev 29 (Suppl 1): S83-S87)。感度とは、個体を疾患があると正しく分類する検定の能力をいう。個体を疾患が無いまたはリスクが無いと正しく分類する検定の能力は、特異度と呼ばれている。
【0114】
ROC分析は、コストまたはクラス分布とは独立して(およびそれらを特定する前に)最適であろうモデルを選択し最適以下のものを捨てるためのツールを提供する。ROC分析は、直接的で自然なやり方で、診断を下す際のコスト・ベネフィット分析と関連する。
【0115】
本発明のさらに別の好ましい実施形態では、本方法が前記個体または予防的処置をモニターするために複数の異なる時点で繰り返し行われる。
【0116】
本方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上異なる時点で繰り返すことができる。それによって、個体をモニターすることを可能にするタイムコースを決定する場合がある。時間間隔は異なっていてもよく、例えば、1日と20年の間(例、1ヵ月と1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10年との間)の時間間隔であってもよい。また、時間間隔は、本方法が2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上異なる時点で繰り返される場合に異なる可能性がある。例えば、コントロールは、コントロール健常個体またはコントロール健常コホートである場合があるし、それぞれより早い時点での同一個体(例、第一時点での同一個体)のものである場合もある。経時的にNfLの値の増大が認められる場合、神経変性疾患を発症するリスクはさらに増大するが、その後の時点での値が一定であったり減少したりすることは、神経変性疾患を発症するリスクがさらに増大しないこと、または減少することを示す。
【0117】
予防的処置(例、治療的有効量の抗Aβオリゴマー抗体(例、アデュカヌマブ)または向知性薬(例、メマンチン)を用いた処置)を患者が受ける場合、本方法を使用して、予防的処置をモニターすることができる。経時的にNfLの値の増大が認められる場合、神経変性疾患を発症するリスクはさらに増大するが、そのことは予防的処置が成功していないことを示す。一方、値が一定であったり減少したりすることは、神経変性疾患を発症するリスクがさらに増大しないこと、または減少することを示していて、その予防的処置が成功していることを示す。
【0118】
実施例で示されるように、NfLは意外にも、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するために使用可能である。特に、個体から得られたサンプル中のNfLの値がコントロールのものと比べて増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる。
【0119】
従って、別の実施形態では、本発明は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するためのNfLの使用であって、前記個体から得られたサンプル中のNfLの値がコントロールのものと比べて増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となる、使用に関する。その使用は、好ましくはインビトロでの使用である。
【0120】
好ましい実施形態では、本使用は、本発明の方法に対して具体化されるようにさらに規定される。従って、本発明の方法に関して本明細書中に開示される実施形態がまた、本発明の使用にも適用される。特に、アルツハイマー病は好ましい神経変性疾患である。
【0121】
好ましくは、本発明は、アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出するためのNfLタンパク質の使用であって、前記個体から得られた血液サンプル中のNfLタンパク質の値がコントロールのものと比べて増大していることがアルツハイマー病を将来発症することの指標となり、特に、本発明の方法の記載中で上記したように具体化して、前記使用がさらに規定される、使用に関する。
【0122】
マーカーNfLは、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する際に医師をさらに支援することができる。
【0123】
従って、またさらなる実施形態では、本発明は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するのを支援する方法であって、
a)サンプルを入手する工程と、
b)前記サンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量または濃度を測定する工程と、
c)工程(b)で決定されたNfLの前記量または濃度に関する情報を医師に提供し、その情報によって、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するのを支援する工程とを含む、方法に関する。
【0124】
特に、生化学検査室、医師、検査室技師、または自動分析装置は、工程a)で、検査される個体のサンプル(例、脳脊髄液または血液サンプル、好ましくは血清、血漿、全血、または、末梢血中を循環する粒子(例、エキソソーム)、より好ましくは血清)を受け入れる場合がある。そのようなサンプルは、検査室、医師、検査室技師、または自動分析装置へと(例、手作業または自動的に移送、運送業者または郵便配達によって)届けることによって入手可能である。一般的には、サンプルを、適切な容器(例、任意ではあるが密封容器または注射器)で受け取る。工程a)で入手したサンプルは未処理または処理済のものであってもよい。処理済サンプルには、精製(例、遠心分離等の分離)、濃縮、希釈、細胞構成物の溶解、凍結、酸性化、保存等の後に取得可能なサンプルが含まれる。好ましいサンプルは、血清、血漿、全血、または末梢血中を循環する粒子(例、エキソソーム)であるが、血清が最も好ましいタイプのサンプルに相当する。例えば、入手サンプルは、工程b)の前に冷却および/または凍結可能である。
【0125】
続いて、上記で詳細に記載したように、前記サンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量または濃度を測定する。
【0126】
工程(b)で決定したNfLの量または濃度に関する情報を、その後、医師へと提供する。情報提供は、そのような目的に適した任意の手段(例、電子的、書面的、視覚的、および/または、口述的手段)によって達成可能である。例えば、その量または濃度に関する情報は、電子的に(例、eメールを介するか)、または、保存情報が入った電子的保存媒体を送達することによって提供可能である。さらに、当該情報を含む報告書または視覚的に当該情報を提供するプレゼンテーションによっても送達可能である。さらに、当該情報を口頭で(例、電話で)提供することもできる。その情報によって、当該提供情報は、神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する際に医師を支援する。例えば、NfLの量または濃度がコントロールのものに比べて増大していると医師が判断した場合、医師は、その増大が前記疾患を将来発症することになる指標となり、その疾患を発症するリスクがある患者を同定することになる。医師は、上記したように、適切なコントロールを十分選択することができる。例えば、コントロールの値の情報は、コントロール健常個体もしくはコントロール健常コホートから取得するか、または、より早い時点での同一個体から取得してもよい。NfLの量または濃度は前記疾患の一または複数の症状の発症までの時間と相関するので、医師は、工程c)で情報を得た際に、前記疾患の一または複数の症状の発症までの時間を判断することができる。特に、本方法は、一または複数の症状の発症前少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは4年、最も好ましくは少なくとも5年で、前記疾患の発症を検出することができる。好ましい実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病、特に家族性アルツハイマー病である。
【0127】
好ましい実施形態では、本方法は、本発明の神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するための方法に関して具体化されるようにさらに規定される。
【0128】
従って、本発明の神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する本方法に関して本明細書中に開示される実施形態はまた、本発明の神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出するのを支援する本方法にも適用される。
【0129】
好ましくは、本発明は、アルツハイマー病を発症するリスクがある症状発症前のヒト個体を検出するのを支援する方法であって、
a)血液サンプルを入手する工程と、
b)前記サンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)タンパク質の量または濃度を測定する工程と、
c)工程b)で決定されたNfLタンパク質の前記量または濃度に関する情報を医師に提供し、その情報によって、アルツハイマー病を発症するリスクがある個体を検出するのを支援する工程とを含み、
特に、本発明の方法の記載中で上記したように具体化されるように、前記方法がさらに規定される、方法に関する。
【0130】
またさらなる実施形態では、本発明は、個体の神経変性疾患を予防および/または治療する方法であって、
i)神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する工程であって、前記工程が、
a)前記個体から得られたサンプル中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量または濃度を測定する工程と、
b)工程a)で決定した前記量または濃度をコントロール中のNfLの量または濃度と比較することによって、前記疾患を発症するリスクがある個体を検出する工程と、を含み、
前記コントロールに比べてNfLの値の増大していることが前記疾患を将来発症することの指標となり、
ii)工程i)において前記疾患を発症するリスクがある個体が同定される場合に、前記個体へ治療および/または予防的処置を施す工程を含む、方法に関する。
【0131】
例えば、前記疾患の予防または治療に適する治療的有効量の薬剤が患者に投与可能である。例えば、治療または予防に有効な量の抗Aβオリゴマー抗体(例、アデュカヌマブ)または向知性薬(例、メマンチン)は、本発明の方法によってADを発症するリスクがあると同定された個体へ投与可能である。当業者は治療有効用量、投与計画、および、そのような薬剤の製剤形態を認識している。例えば、メマンチンは、錠剤または点滴薬として処方可能である。さらに、一日当たり約1mg~50mg(例、20mg)のメマンチンが投与可能である。さらに、他の神経変性疾患の予防または治療に適する薬剤も当業者には既知である。
【0132】
好ましい実施形態では、本方法は、本発明のさらなる方法に対して具体化されるようにさらに規定される。従って、本発明の神経変性疾患を発症するリスクがある個体を検出する本方法に関して本明細書中に開示される実施形態はまた、本発明の神経変性疾患を予防および/または治療する本方法にも適用される。特に、アルツハイマー病は好ましい神経変性疾患である。
【0133】
一般的に、本開示は、本明細書中に記載される特定の方法論、手順、および試薬に限定されない。なぜなら、それらにはバリエーションがあるからである。さらに、本明細書中に使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためだけであって、本開示の範囲を限定する意図は無い。本明細書と添付した特許請求の範囲に使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文章が明らかにそうでないと規定していない限り、複数形への言及も含む。同様に、単語「comprise」、「contain」、および「encompass」は排他的というよりはむしろ他のものも含めるように解釈される。
【0134】
定義がなされていない場合、本明細書中で使用する全ての技術的や科学的な用語および任意の頭字語は、本開示の分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと同様または等価な任意の方法と物は本明細書中に提示された実務に用いることができるが、具体的な方法や物を本明細書中に記載する。
【0135】
値に関する記載中の用語「約」は、値±10%、好ましくは、値±5%を指す。
【実施例
【0136】
実施例
方法
PSEN1またはAPPのいずれかに遺伝子変異を有する家族から48人の個体を採用した。18人の参加者が症状発症中の家族性ADを有していて、30人は、症状は無いが、将来症状のある疾患を発症するリスクが50%であった。各参加者について、血清中NfLを、単分子アレイ(Simoa)プラットフォーム上で超高感度免疫アッセイを使用して測定した。構造MRIや多数の認知力測定も実施した。33人の個体が2度目のMRIスキャンを行い(平均間隔±SD=1.33±0.46年)、萎縮率を計算することができた。遺伝子検査を実施して、突然変異の有無を推定した。一般化最小二乗回帰モデルを使用して、症状発症中の突然変異の保因者、症状発症前の突然変異の保因者および非保因者間で血清中NfLを比較した。スピアマン相関係数によって、血清中NfLと1)症状発症までの推定年数(EYO)、2)認知力評価値、および3)脳萎縮の画像評価値との関連を評価した。
【0137】
試験設計と参加者
本発明者らは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの認知症研究センターでのFADバイオマーカー試験では、2010~2015年の間にFAD家系の48人の参加者を採用した。18人の参加者は症状発症中のFADを有していて、病理学的突然変異がPSEN1遺伝子またはAPP遺伝子のいずれかにあった;30人の個体は症状が無かったが、罹患した親が含まれることに照らすと、将来、症状のある疾患を発症するリスクは50%であった。全ての参加者に遺伝子検査を実施して、突然変異の有無を決定した。遺伝子データは統計解析を実施する特定個人にしか提供しなかったので、従って、参加者、参加者を評価する臨床医、および、検査室で分析を行うものは遺伝子状態に関して盲検性を維持していた。
【0138】
各参加者には、採血、脳磁気共鳴画像検査(MRI)、神経学的診察、および、認知機能評価を行い、全ての評価は採血時から4ヵ月以内に完了した。認知機能評価には、ウェクスラー短縮知能検査(WASI)(Wechsler D. WASI: Wechsler abbreviated scale of intelligence. Hove: Psychological Corporation, 1999)、National Adult Reading Test(NART)(発病前のIQ予測基準)、再認記憶テスト(RMT)(顔、言語)、精神状態短時間検査(MMSE)が含まれる。傍系の病歴を得るために別個インタビューされた親しい情報提供者によって、全ての個体が身元を確認された。臨床的認知症重症度スケール(CDR)(参加者と情報提供者の双方からの情報を取り込んだもの)を使用して、臨床での重症度のさらなる推測を提供した。包括的CDR(global CDR)とCDR判定尺度の合計点(sum of boxes;SOB)の両方を計算した。もし包括的CDRが>0であり、認知機能の低下の症状が続いていると参加者および/またはその情報提供者によって報告があった場合に、個体を症状発症中であるとして定義した。症状発生までの推定年数(Estimated years to symptom onset;EYO)は、罹患した親が進行性の認知症症状を最初に発症した年齢から参加者の現在の年齢を引き算して各突然変異の保因者に関して計算した。
【0139】
血清中NfL濃度の測定
血清サンプルを各参加者から採取し、その後、標準的手順で処理、分注および-80℃で凍結した。血清中NfL濃度は、Homebrewキット(Quanterix社、ボストン、MA、米国)(詳細な指示はSimoa Homebrew Assay Development Guide(Quanterix社)中に見ることができる)で作製したSimoaプラットフォーム上に移し、Uman Diagnostics社(UmanDiagnostics社、ウメオ、スウェーデン)のNF-Lightアッセイを使用して測定した。手短に言うと、常磁性カルボン酸化ビーズ(カタログ#:100451、Quanterix社)は、1.4×106ビーズ/μlの磁性ビーズ溶液に5%(v/v)10mg/mLの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC、カタログ#:100022、Quanterix社)を加えることによって活性化した。室温(RT)で30分間インキュベーション後、ビーズを、磁気セパレーターを使用して洗浄し、そして、初期容量、つまり、前工程のEDAC+ビーズ溶液容量の捕獲抗体(UD1、UmanDiagnostics社)0.3mg/mL氷冷溶液を加えた。RTでミキサー(2000rpm、Multi-TubeVortexer、Allsheng、中国)上で2時間インキュベーション後、ビーズを洗浄し、そして、初期反応容量のブロッキング溶液を加えた。3回洗浄した後、結合ビーズを再懸濁し、分析まで4℃で保存した。分析前に、ビーズは、ビーズ希釈液中に2500ビーズ/μlで希釈した。検出抗体(1mg/mL、UD2、UmanDiagnostics社)は、3%(v/v)3.4mMのEZ-Link(商標)NHS-PEG4-ビオチン(Quanterix社)を加え、その後、RTで30分間インキュベーションしてビオチン化した。遊離ビオチンは、スピンろ過(Amicon(登録商標)Ultra-2、50kD、Sigma社)を使用して除去し、そして、ビオチン化抗体を分析まで4℃で保存した。2ステップアッセイ希釈手順(100μLの結合ビーズ(2500ビーズ/μl)からビーズ希釈液を吸い出して開始し、その後、そのビーズペレットへ20μLのビオチン化抗体(0.1μg/ml)と100μlの4倍希釈サンプル(または希釈していない校正物質)を加える手順)を使用して、Simoa HD1装置(Quanterix社)上で、血清サンプルを二度反復して測定した。サンプルと校正物質の両方に関しては、同じ希釈液[PBS;0.1%Tween-20;2%BSA;10μg/mlのTRU Block(Meridian Life Science社、Memphis、TN、米国)]を使用した。47ケイデンス(cadance)(1ケイデンス=45秒)のインキュベーションの後、ビーズを洗浄し、その後、100μLのストレプトアビジン結合β-ガラクトシダーゼ(150pM、カタログ#:100439、Quanterix社)を加えた。この後、7ケイデンスのインキュベーションと洗浄を行った。測定前に、25μLのレソルフィンβ-D-ガラクトピラノシド(カタログ#:100017、Quanterix社)を加えた。検量線を、NfL ELISA(NF-light(登録商標)、UmanDiagnostics社)の標準物質を三重反復して使用して作成した。ブランクサンプル(サンプル希釈液)のシグナル由来の濃度+3および10標準偏差によって規定される検出および定量化の下限は、それぞれ、0.97pg/mLおよび2.93pg/mLであった。濃度が13.0pg/mLのQCサンプルに関しては、繰返し精度は14.0%であり、中間精度は15.7%であった。濃度が131.8pg/mLのQCサンプルに関しては、繰返し精度は13.3%であり、中間精度は13.3%であった。全ての測定を、臨床データを見ていない認定検査技師によって、一つのバッチの試薬を一回の実験に使用して実施した。
【0140】
MRI取得と分析
48人の参加者中33人に関して、一回目を採血時に、その後、約1年(平均間隔±SD=1.33±0.46年)後に再び、連続MRIスキャン画像を得た。全てのスキャンは、32チャンネルフェーズドアレイヘッドコイルを用いる同一の3T Siemens TIM Trioスキャナーで実行した。矢状三次元MP-RAGEのT1強調体積測定MRI(エコー時間/繰り返し時間/反転時間=2.9/2200/900ms、大きさ:256×256×208、ボクセルサイズ:1.1×1.1×1.1mm)を取得した。画像をチェックしてアーチファクトが無いかどうか調べた。全脳体積と脳室体積を、半自動化方法(Freeborough PA, Fox NC, Kitney RI. Interactive algorithms for the segmentation and quantitation of 3-D MRI brain scans. Comput Methods Programs Biomed 1997;53:15-25)を使用して計算した。全ての体積値を補正して総頭蓋内体積(TIV)を求めた。スキャン間の期間中の全脳体積と脳室体積の一年当たりの変化率を、境界シフト積分(interval)(BSI)-対象内での体積変化の登録ベースの方法(Freeborough PA, Fox NC. The boundary shift integral: an accurate and robust measure of cerebral volume changes from registered repeat MRI. IEEE Trans Med Imaging 1997;16:623-629)-を使用して計算した。
【0141】
統計解析
本試験の主要な目的は、症状発症中の突然変異の保因者、症状発症前の突然変異の保因者、およびコントロール健常者(つまり、遺伝子変異の無い家族メンバー)間で血清中NfLを比較することであった。残差分散が一定であると仮定しない一般化最小二乗直線回帰モデルを使用して、年齢と性別で調整した前記群間でNfLを比較した(各群間で異なる分散を許容するt-検定/ANOVAモデルの拡張)。平均値でのペアごとの差を用いて、それら群の各ペア間でNfLに違いがあるかについての証拠を検討した。複数検定では調整はしなかった。
【0142】
スピアマン相関係数を計算して、最初は全ての突然変異の保因者間で、次に症状発症前の保因者のみで、EYOとNfLとの間の関係を評価した。この方法をまた、NfLと認知力評価値(IQの推定変化(WASIによって測定された実際のIQからNARTによって測定された発症前IQ予測値を引き算することによって計算されたもの)、再認記憶(顔RMTと言語RMTの平均スコア)、MMSEおよびCDR SOBを含むもの)に対して使用した。最後に、本発明者らは任意の相関関係がNfLと構造的神経画像評価値との間に存在するかどうかを評価した。
【0143】
本発明者らは、症状発症前の参加者のみを含め、EYOに対する各画像評価値のスピアマン相関係数を計算した。これらの結果を血清中NfLと比較可能にするために、本発明者らはまた、EYOに対する血清中NfLの解析を繰り返したが、今回は、画像診断も受けた症状発症前の個体のみを含めた。
【0144】
結果
参加者の人口統計学的属性、認知力テストの点数、神経画像評価値、および血清中のNfLの値を、図4の表1と図1に示す。
【0145】
症状発症前の突然変異の保因者の平均EYOは9.6年であった。年齢と性別で調整すると、血清中NfL濃度は、症状発症前の突然変異の保因者(p<0.0001)と非保因者コントロール(p<0.0001)の両方と比較して、症状発症中の突然変異の保因者で有意に高かった。症状発症前の突然変異の保因者は、コントロールよりもNfLのレベルが有意に高かった(16.7pg/mL対12.7pg/mL、p=0.007)。
【0146】
全ての突然変異の保因者に渡り、EYOは血清中NfLと相関していた。それは図2に示される(スピアマン相関係数R=0.81、p<0.0001)。図3は、異なる認知力および画像評価値に対する血清中NfLの散布図を示す。血清中NfLと認知力評価値との間に有意な相関があり、例えば、MMSE(R=-0.62、p=0.0001)、CDR判定尺度の合計点(R=0.79、p<0.0001)、および、IQの推定変化(R=-0.48、p=0.005)が含まれるが、再認記憶の点数(R=-0.34、p=0.056)についてはその傾向があるだけであった。突然変異の保因者では、突然変異の保因者のNfLと神経画像評価値との間に有意な相関があり、例えば、ベースライン全脳体積(R=-0.66、p=0.0005)、ベースライン脳室体積(R=0.57、p=0.005)、全脳体積のその後の変化率(R=0.54、p=0.0091)、および、脳室体積のその後の変化率(R=0.58、p=0.005)が含まれる。
【0147】
症状発症前の参加者のみを含めた場合、NfLとEYOとの間の有意な相関(R=0.55、p=0.014)がまだあった。NfLとベースライン脳室体積との間の有意な相関もあったが、他の神経画像評価値や認知力評価値との有意な相関は無かった。
【0148】
連続画像診断もした13人の症状発症前の個体のみを含めた場合、血清中NfLとEYOとの間の有意な相関(R=0.73、p=0.005)がまだ残っていた。しかしながら、同じ13人の症状発症前の個体において前記4つの画像評価値のそれぞれとEYOとの間の相関を評価したが、どれも統計学的有意差は無かった(図5の表2)。
【0149】
上記した32人の被験者の2つの時点で採取したサンプル由来の経過観察データは、血清中NfL濃度が突然変異の保因者においてEYOの経過時点前約5~10年で増大が開始することを示している(図6)。
【0150】
考察
本発明者らは、最近開発された超高感度免疫アッセイを使用して、血清中NFL濃度がFADで高まり、症状の発症前に上昇するようになることを見出した。NfLレベルの上昇が症状発症中と症状発症前の突然変異の保因者の両者で確認された;それら症状発症前の個体は予期される症状発症からは平均9年にあった。血清中NfLは、疾患ステージを代理する基準(EYO)、CDR SOB、および各種認知力評価値と有意に相関した。血清中NfLおよびAD関連神経変性の神経画像診断マーカーとの間にも、断面体積とそれに続く萎縮率との両方に関して相関があった。このことは、血清中NfL濃度が疾患の有無を反映することのみならず、疾患の重症度および/または機能の喪失度合いに関する情報も提供する可能性があることを示唆する。
【0151】
症状発症中のFADで本発明者らが測定した血清中NfL濃度は、孤発性ADの過去の研究で測定されたもの(Gaiottino J et al.、上記;Bacioglu M. et al.、上記)と類似しているようである。しかしながら、ここで、本発明者らは、驚くべきことに、血清中NfLの増大が症状のある疾患の発症の幾年も前に始まり、症状発症まで/からの時間と関連することを示している。本発明者らが観察した進行性の症状発症前の増大は、提案された症状発症前のAD神経変性モデル(Jack CR, Jr., Knopman DS, Jagust WJ, et al. Hypothetical model of dynamic biomarkers of the Alzheimer's pathological cascade. Lancet Neurol 2010;9:119-128)と矛盾がなく、NfLの上昇は初期の軸索破壊を反映している可能性がある(Sjogren M, Blomberg M, Jonsson M, et al. Neurofilament protein in cerebrospinal fluid: a marker of white matter changes. J Neurosci Res 2001;66:510-516)。
【0152】
血清中NfLが、AD関連機能低下に感度があることが知られる認知力評価値と相関するという知見は、NfLの臨床的妥当性を支持する。FADにおける初期認知力の変化は比較的局所的なものであり、最も一般的にはエピソード記憶に関係するが(Fox NC, Warrington EK, Seiffer AL, Agnew SK, Rossor MN. Pre-symptomatic cognitive deficits in individuals at risk of familial Alzheimer's disease. A longitudinal prospective study. Brain 1998;121 ( Pt 9):1631-1639)、本発明者らは、血清中NfLが記憶スコアよりも総合認知力評価値に強く相関することを見出した。このことは、軸索安定化の必須な要素として脳全体を通じてのNfLの役割と関係があり、初期の上昇はおそらく、局所的な萎縮というよりはむしろ神経ネットワークの広範にわたる僅かな破壊を反映している(Warren JD, Rohrer JD, Schott JM, Fox NC, Hardy J, Rossor MN. Molecular nexopathies: a new paradigm of neurodegenerative disease. Trends Neurosci 2013;36:561-569)。
【0153】
NfL血清レベルの上昇が局所的というよりはむしろ全体的神経変性を反映しているという可能性は、全体的神経変性の尺度である全脳萎縮や脳室萎縮との相関によっても支持される。
【0154】
血清中NfLは症状発症前の群だけを含む場合でも疾患ステージ(つまり、EYO)と相関するが、画像評価値と認知力評価値は相関しなかった。このことが示すのは、使用した画像評価値と認知力評価値と違って、血清中NfLがこの症状発症前フェーズ中の有意な進行性変化を示すのに十分な感度があったということである。血清中NfLは従って、現在広く使用されている画像評価値や認知力評価値よりも初期の神経変性に感度が高い場合がある。
【0155】
軽度認知障害を有する個体のCSFを測定した場合、NfLはその後のAD認知症への進行を予測することが判明しているが(Zetterberg H et al.、上記)、最近のメタ解析は、それがAβ1-42、全タウ(total tau)およびリン酸化タウといったよく確立されたCSF ADバイオマーカーに相当する識別力を有することを示している(Olsson B et al、上記)。CSF中と血清中での血清中NfL測定を比較する最近の研究は、両者が密接に相関することを示しており、そのことは血清中NfLがその後の進行を予測する能力を同様に有する場合があることを暗示している。
【0156】
NfL遺伝子をノックアウトしたFADマウスモデルの研究では、NfL欠損がAD関連神経変性を有意に増大させることが判明し、従って、そのことはADで神経細胞構造を維持するNfLの中心的役割を強調する(Fernandez-Martos CM, King AE, Atkinson RA, Woodhouse A, Vickers JC. Neurofilament light gene deletion exacerbates amyloid, dystrophic neurite, and synaptic pathology in the APP/PS1 transgenic model of Alzheimer's disease. Neurobiol Aging 2015; 36:2757-2767)。APP/PS1マウスでは、血中の血清中NfLレベルがその疾患の初期に上昇し、基礎AD病理の進行と密接に関連することが示された(Bacioglu M et al.、上記)。さらにまた、同研究は、血清中NfL濃度が抗Aβ免疫療法に応答して下降することを示した;著者たちは血清中NfLが治療応答のマーカーとなる可能性があることを示唆している。
【0157】
血中で測定可能なバイオマーカーを同定することには明白なメリットがある(Consensus report of the Working Group on: "Molecular and Biochemical Markers of Alzheimer's Disease"、上記)。感度の高い血液ベースのADバイオマーカーの探索は従って、最近非常に関心の高い研究領域となっており、多数の候補が示唆されている(Lista S, O'Bryant SE, Blennow K, et al. Biomarkers in Sporadic and Familial Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis 2015;47:291-317)。しかしながら、血液ベースのマーカーの最近の総合的メタ解析は、全タウだけがコントール健常者からADを確実に区別できることを示した(Olsson B. et al.、上記;Zetterberg H, Wilson D, Andreasson U, et al. Plasma tau levels in Alzheimer's disease. Alzheimers Res Ther 2013;5:9);そのうえ、血中タウは確立された認知症症例においてADを同定するのに有用であることが証明されただけで、患者とコントロール群との間にはしばしば重なりがある(Olsson B. et al.、上記;Lista S et al.、上記)。Aβ(AD病理の他の重要な分子マーカー)のレベルの測定を行った研究では、これまでのところ矛盾する結果を得ていて、ADとコントロールとの間の差異の強い総合的証拠は無かった(Olsson B. et al.、上記;Lista S et al.、上記)。また、大脳のAβの蓄積は、症状のある疾患の発症の少し前にプラトーに達してしまうと考えられるので(Villemagne VL et al.、上記;Bateman RJ et al.、上記)、疾患の極めて初期でなければ、疾患の進行を追跡するのに有効でない可能性がある。神経変性の下流にあるマーカー(例、NfL)であって、進行中(および総合的な)疾患活性をより密接に反映するものが、従って、臨床試験実績の尺度としてより有用である可能性がある。
【0158】
結論として、ここに本発明者らは、新規超高感度アッセイを使用して初めて、血清中NfL濃度が、症状のある疾患の発生前からFADで増大し、そして、予測される症状発症まで/からの年数と相関することを示す。血清中NfLはまた、疾患の重症度の神経画像診断および認識マーカーと相関していた。本発明者らの知見は、初期のAD関連神経変性の容易に取得可能なバイオマーカーとしての血清中NfLの使用を支持するものである。
【0159】
本発明者らの試験は、初期のAD関連神経変性を検出するために、新規超高感度アッセイを使用して血清中NfLを測定することの有用性の初めての評価を提示する。本発明者らの結果は、血清中NfLが臨床症状発症の幾年も前に上昇することを示す。本発明者らはまた、血清中NfLが推定症状発症時まで/からの年数と非常に密接に相関することも示し、そのことは、疾患の進行を追跡できることを示唆する。血清中NfLはまた、萎縮の構造画像評価値と認知力テストの成績を含む現在有効なAD重症度の基準と密接に相関することも判明している。一方、症状発症前の期間においては、血清中NfLは、これらのより確立された基準よりも、神経変性の変化に感度が高い場合がある。
【0160】
本発明者らの試験後、今明らかになったのは、血清中NfLが、疾患症状発症前の10年間に亘って徐々に上昇し、そして、神経細胞消失の他のマーカーと相関することである。現状の証拠は従って、症状発症前と症状発症中の疾患の両方を通じて容易に取得可能なAD神経変性のバイオマーカーとしての血清中NfLの使用を支持する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6