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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】歯科修復物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20221201BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61C 13/15 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61C13/34 Z
A61C13/00 Z
A61C13/15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019554680
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 US2018026217
(87)【国際公開番号】W WO2018187545
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】17165402.3
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】キルヒナー,バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】コルテン,マルテ
(72)【発明者】
【氏名】シェヒナー,ガルス
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/153830(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0372085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/34
A61C 13/00
A61C 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ及び歯科修復物の制作機械による歯科修復物の製造方法であって、
前記コンピュータが、所定の仮想マスター歯科修復物表面をデータベースから取り出す工程と、
前記コンピュータが、前記仮想マスター歯科修復物表面を三次元的に変換して仮想歯科修復物外側表面を提供することにより、前記仮想マスター歯科修復物表面を、少なくとも修復されるべき歯に隣接する領域において患者の歯の形状に基づいて決定された前記修復されるべき歯のための歯科修復物の収容に利用可能な仮想空間内に適合させる工程と、
前記コンピュータが、前記修復されるべき歯の形状とは独立して、仮想歯科修復物内側表面を作製する工程と、
前記コンピュータが、前記仮想歯科修復物外側表面と前記仮想歯科修復物内側表面との組み合わせに基づいて、歯科修復物の仮想モデルを提供する工程と、
前記歯科修復物の制作機械が、前記歯科修復物モデルに基づいて前記歯科修復物を製作する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記仮想歯科修復物内側表面が、前記仮想歯科修復物外側表面に基づいて、コンピュータによって自動的に生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記仮想歯科修復物内側表面の少なくとも一部が、前記歯科修復物の壁厚を表すオフセット値に基づいて、前記仮想歯科修復物外側表面の対応する部分の三次元等距離縮小として生成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記壁厚が、0.3mm~1.5mmの範囲内にある、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記三次元変換が、前記仮想マスター歯科修復物表面の三次元的比例スケーリングにより実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コンピュータが、前記修復されるべき歯の任意の支台歯のマージンとは独立して、前記歯科修復物モデルの高さを決定する工程を更に含み、前記歯科修復物モデルが歯軸を有し、前記高さが、前記歯軸に沿った前記歯科修復物モデルの寸法によって画定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科修復物の製造方法に関する。具体的には、本発明は、歯科修復物が、最低限の設計工程で標準化された歯のモデルに基づいて製造される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科修復物、特に、代生歯、クラウン又はブリッジのようなより大きな歯科修復物は、例えば、様々な基準に応じて異なる構成で製造することができる。このような基準としては、例えば、選択された製造業者の所望の美観、費用、支台歯形成時間、又は能力が挙げられる。
【0003】
成人歯科において、歯科修復物は、典型的には高度に個人に合わせたものである。これは、歯科修復物が典型的には、歯科修復物の内側表面及び外側表面が、患者の口腔内で修復される1つ以上の歯、及び修復される1つ以上の歯に隣接する歯又は対向する歯に対してカスタマイズされる設計プロセスを使用して調製されることを意味する。このような設計プロセスでは、仮想ワックスナイフ及び咬頭修正ツールにより、典型的には、歯科修復物が天然歯の形状によく似ているように設計されることが可能になる。このような設計プロセスは、従来、歯科技工室で使用されてきたが、それと同時に、歯科医院での使用を意味するチェアサイド使用に利用可能になってきた。
【0004】
小児歯科では、このようなチェアサイド設計プロセス中に患者から必要とされる忍耐及び協力は、典型的には子供たちに期待することができない。したがって、小児歯科では、歯を修復するために既製のクラウンが使用されることが多い。その一方で、個人に合わせた歯科修復物は、それらの良好な美的及び臨床的性能のために、一般的に望ましいと考えられる。
【0005】
歯科修復物を製造する既存の方法は、特定の利点を提供するが、小児歯科における歯科修復物を製造する方法は依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、歯科修復物の製造方法に関する。この方法は、
少なくとも修復されるべき歯に隣接する領域において患者の歯の形状を捕捉することによって、修復されるべき歯のための歯科修復物の収容に利用可能な仮想空間を決定する工程と、
所定の仮想マスター歯科修復物表面をデータベースから取り出す工程と、
仮想マスター歯科修復物表面を三次元的に変換して仮想歯科修復物外側表面を提供することにより、仮想マスター歯科修復物表面を空間内に適合させる工程と、
修復されるべき歯の形状とは独立して、仮想歯科修復物内側表面を作製する工程と、
仮想歯科修復物外側表面と仮想歯科修復物内側表面との組み合わせに基づいて、歯科修復物の仮想モデルを提供する工程と、
歯科修復物モデルに基づいて歯科修復物を製作する工程と、を含む。
【0007】
本発明は、歯科修復物の製造中の設計工程を最小限に抑えるのに役立つ点で有利である。更に、本発明は、歯科修復物の設計を容易にする点で有利である。したがって、歯科修復物を調製するための時間及び患者の治療のための時間を最小限に抑えることができる。
【0008】
患者の歯の形状は、口腔内走査によって捕捉することが好ましい。あるいは、患者の歯の形状は、患者の歯の石膏モデルを走査して捕捉されてもよい。石膏モデルは、患者の歯から歯科印象を取り、この歯科印象を使用して石膏モデルをその中に注型することによって得ることができる。好ましくは、空間は、少なくとも修復されるべき歯に隣接する領域において、患者の歯の仮想モデルによって画定される。具体的には、患者の歯のモデルは、修復されるべき歯に直接隣接する少なくとも1つの歯、又は修復されるべき歯に直接隣接する2つの歯の仮想モデルを含んでもよい。患者の歯のモデルは、修復されるべき歯の対合歯(反対側の歯)の仮想モデルを更に含んでもよい。
【0009】
データベースは、1つ又は複数の仮想マスター歯科修復物表面を記憶できる。データベースは、コンピュータ上に提供され得る。仮想マスター歯科修復物表面は、例えば、ある種の歯の平均又は典型的な形状に対応する歯の所定の表面である。例えば、平均又は典型的な臼歯、小臼歯、切歯、又は犬歯に似た仮想マスター歯科修復物表面があり得る。仮想マスター歯科修復物表面は、典型的には、個々の患者に関連せず、標準化された形状を有する。
【0010】
一実施形態において、仮想歯科修復物内側表面は、仮想歯科修復物外側表面に基づいて、コンピュータによって自動的に生成される。仮想歯科修復物内側表面は、仮想歯科修復物外側表面のみに基づいて、コンピュータによって自動的に生成することもできる。仮想歯科修復物内側表面の少なくとも一部は、歯科修復物の壁厚を表すオフセット値に基づいて、仮想歯科修復物外側表面の対応する部分の三次元等距離縮小として生成され得る。あるいは、仮想歯科修復物内側表面全体は、歯科修復物の壁厚を表すオフセット値に基づいて、仮想歯科修復物外側表面の三次元等距離縮小として生成されてもよい。
【0011】
本明細書に記述した三次元等距離縮小は、仮想歯科修復物内側表面(又はその一部)が、仮想歯科修復物外側表面の内側で等距離に作製されることを意味する。したがって、仮想歯科修復物内側表面及び仮想歯科修復物外側表面は、均一に離間される。仮想歯科修復物内側表面と仮想歯科修復物外側表面との間の距離は、壁厚又はオフセット値に対応する。壁厚は、0.3mm~1.5mm、好ましくは0.5mmであってよい。
【0012】
本方法は、使用者にオフセット値を入力又は選択させる工程を含んでもよい。例えば、本方法では、使用者は、歯科修復物の所望の壁厚に対応する特定の値をコンピュータに入力してもよく、又は使用者は、コンピュータ内のメニューからそのような特定の値を選択してもよい。
【0013】
仮想歯科修復物外側表面は、歯科修復物がその歯に固定されたときに修復された歯から見て外方に向く歯科修復物の表面の表現に対応する。更に、仮想歯科修復物内側表面は、歯科修復物がその歯に固定されたときに修復された歯に面した歯科修復物の表面の表現に対応する。
【0014】
一実施形態では、三次元変換は、仮想マスター歯科修復物表面の三次元的比例スケーリングにより実行される。これは、仮想マスター歯科修復物表面の形状の三次元のそれぞれが、1つの共通の要因によって拡大又は縮小されることを意味する。したがって、その形状のサイズは変更されるが、形状(その比率を含む)自体は変化しない。これは、(不規則な形状の本体の)比率が変化する三次元等距離縮小(又は拡大)とは対照的である。
【0015】
更なる実施形態では、本方法は、修復されるべき歯の任意の支台歯のマージンから独立して(又は非存在下で)歯科修復物モデルの高さを決定する工程を更に含む。歯科修復物モデルは、歯軸を有する。歯軸は、歯の歯根及び咬合面を通って延在する中心軸によって歯列内に画定される、天然歯の歯軸の対応する軸である。歯科修復物モデルは歯根を有さないが、歯軸の位置、寸法、及び勾配は、天然歯の歯軸に対応する。高さは、歯軸に沿った歯科修復物モデルの寸法(又はサイズ)によって画定される。
【0016】
好ましい実施形態では、歯科修復物は、クラウン、好ましくは単一の歯のクラウンである。したがって、歯科修復物モデルは、好ましくは、クラウン、好ましくは単一の歯のクラウンの形状を有する。
【0017】
更なる実施形態では、本方法は、決定された歯科修復物の高さに基づいて歯科修復物モデルを仮想的にトリミングする工程を更に含む。トリミングは、好ましくは、高さを超えて延在する仮想歯科修復物内側表面及び外側表面の一部を仮想的に切り取ることによって、コンピュータによって実行される。
【0018】
本方法は、仮想歯科修復物内側表面の自由縁と仮想歯科修復物外側表面の自由縁との間の間隙を閉じる工程を含んでもよい。自由縁は、仮想歯科修復物内側表面及び外側表面をトリミングすることによって得ることができる。好ましくは、間隙の閉鎖は、間隙の縁とブリッジとの間に延在する表面を生成することによって、コンピュータを活用して行われる。
【0019】
一実施形態において、本方法は、歯科修復物の歯の色を決定する工程を更に含む。歯の色は、シェードガイド、例えばVITA Zahnfabrik H.Rauter GmbH & Co.KG(Germany)から入手可能なVITA classical A1-D4(登録商標)又はVITA SYSTEM 3D-MASTER(登録商標)の使用によって決定することができる。
【0020】
一実施形態において、本方法は、歯の色に基づいて歯科修復物が製作される歯科材料を提供する工程を更に含む。歯科材料は、好ましくは光硬化性樹脂である。更に、歯科材料は、3D印刷機で加工されるのに好適であることが好ましい。更に好ましくは、歯科修復物は、歯科材料の、特に光硬化性樹脂からの3D印刷によって製作される。歯科修復物の3D印刷に好適な機械は、ステレオリソグラフィに基づいたものでもよい。例示的な機械は、Rapid Shape GmbH(Germany)からRapidShape S30の商標名で入手可能である。3D印刷は好ましいが、他の製作方法が可能である。例えば、歯科材料のブランク(例えば、複合材料又はジルコニア)から歯科修復物を粉砕又は研削する。
【0021】
一実施形態では、光硬化性樹脂は、反応性モノマー、光開始剤、任意選択的に無機充填剤、及び任意選択に添加剤を含む組成物をベースとする。
【0022】
更なる実施形態では、完成した歯科修復物は、仮想歯科修復物外側表面の形状に対応する外形を有する。完成した歯科修復物は、仮想歯科修復物外側表面の表面の三次元的比例縮小又は比例拡大の形状に対応する外形を有し得る。後者は、歯科修復物の製作中に生じ得る任意の収縮又は膨張が理由である。
【0023】
一実施形態では、本方法は、(i)少なくとも修復すべき歯に隣接する領域における患者の歯の形状と、(ii)仮想マスター歯科修復物表面と、を組み合わせて表示する工程を更に含み、空間への仮想マスター歯科修復物モデルの適合は、表示された(i)と(ii)との組み合わせに基づいた光学制御によって使用者により実行される。患者の歯の形状及び仮想マスター歯科修復物表面は、歯科用CADシステム上に表示され得る。使用者は、(必要に応じて)歯科修復物のための空間内に仮想マスター歯科修復物表面をドラッグし、仮想マスター歯科修復物表面をその空間内に適合させるためにサイズ変更してもよい。使用者は、好ましくは、例えば、仮想マスター歯科修復物表面を部分的に修正するような、任意の又は任意の実質的な設計工程を実行しない。
【0024】
更なる実施形態では、本方法は、修復されるべき歯の任意の侵襲的治療の前に実行される。これは、患者の歯を捕捉することができても、修復されるべき歯が、歯科修復物が完成するまで、例えば研削による材料除去によって処置されなくてもよいことを意味する。
【0025】
更なる実施形態では、上記で使用される用語は、以下のように指定されてもよい。
仮想空間又は第1の仮想空間、
歯科修復物又は第1の歯科修復物、
修復されるべき歯又は第1の修復されるべき歯、
患者の歯又は患者の第1の歯、
仮想歯科修復物外側表面又は第1の仮想歯科修復物外側表面、
仮想歯科修復物内側表面又は第1の仮想歯科修復物内側表面、
歯科修復物の仮想モデル又は第1の歯科修復物の仮想モデル。
【0026】
方法は、
少なくとも修復されるべき第2の歯に隣接する領域において患者の第2の歯の形状を捕捉することによって、修復されるべき第2の歯のための第2の歯科修復物の収容に利用可能な第2の仮想空間を決定する工程と、
同じ所定の仮想マスター歯科修復物表面をデータベースから取り出す工程と、
仮想マスター歯科修復物モデルを三次元的に変換して第2の仮想歯科修復物外側表面を提供することにより、仮想マスター歯科修復物表面を第2の空間内に適合させる工程と、
修復されるべき第2の歯の形状とは独立して、第2の仮想歯科修復物内側表面を作製する工程と、
第2の仮想歯科修復物外側表面と第2の仮想歯科修復物内側表面との組み合わせに基づいて、第2の歯科修復物の仮想モデルを提供する工程と、
第2の歯科修復物モデルに基づいて第2の歯科修復物を製作する工程と、を含む。
【0027】
本方法では、完成した第2の歯科修復物は、歯科修復物の外形に対応する外形、又はその三次元的比例スケーリングされた形状を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る方法における患者の歯の仮想状況の概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る方法における歯科修復物のための空間を決定する工程の概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係る方法における仮想マスター歯科修復物表面を三次元的に変換する工程の概略図である。
図4】本発明の一実施形態に係る方法における仮想歯科修復物内側表面を作製する工程の概略図である。
図5】本発明の一実施形態に係る方法における歯科修復物の高さを判定する工程の概略図である。
図6】修復されるべき歯に置かれた歯科修復物を有する患者の歯の物理的状況の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、修復されるべき歯の領域101中の及びその隣接の、患者の口腔から捕捉された患者の歯100を示す。図は、別の例では、直接隣接する歯102、103及び対合歯104のみを示しているが、より多くの(又はより少ない)歯が、適切に捕捉されてもよい。例えば、患者の歯の全四分円、2つの対向する四分円、又は片方若しくは両方の全顎が必要に応じて捕捉されてもよい。
【0030】
図示のように、修復される歯101はまだ支台歯形成されていない。歯101の任意の欠損は図示されていないが、別の例では、修復される歯は不完全であってもよく、例えば、1つ以上の部分を欠いていてもよい。
【0031】
好ましくは、患者の歯は、口腔内走査によって捕捉される。しかしながら、先ず、最終的に走査される1つ以上の石膏モデルが得られる1つ以上の物理的な歯科印象を製造することが可能である。少なくとも修復されるべき歯101に隣接する領域において患者の歯の形状を捕捉することによって、歯科修復物の収容に利用可能な空間(図2中の105)が決定される。
【0032】
図2は、歯科修復物の収容に利用可能な空間105を示す。空間105は、歯102、103、104の境界によって決定される。空間105は、隣接する歯及び対向する歯102、103、104間の専用領域として示されているが、空間105自体は、独立した仮想モデルの形態であってもなくてもよいことに留意されたい。
【0033】
図3は、データベース10から仮想マスター歯科修復物表面106を取り出すことを示す。仮想マスター歯科修復物表面は、仮想外側表面が仮想マスター歯科修復物表面を形成する仮想内側表面及び外側表面を有する仮想標準歯科修復物モデルの一部であってもよい。図示の例では、仮想マスター歯科修復物表面106は、表面のみである。図示されるように、仮想マスター歯科修復物表面106は、歯102、103及び104間の空間105に適合できないデフォルトサイズを有してもよい。しかしながら、本発明の方法によれば、仮想マスター歯科修復物表面106は、三次元的比例スケーリング(拡大又は縮小)することによって、空間105に適合させることができる。したがって、仮想歯科修復物外側表面107が得られる。図示のように、仮想歯科修復物外側表面107は、仮想マスター歯科修復物表面106の孤立部分のみを修正する設計工程を実行することなく提供される。例えば、仮想マスター歯科修復物表面106は、部分的に修正されるだけでなく、形状全体がスケーリングされる。これは、マスターモデルが使用され得るが、マスターモデルが、コンピュータを活用するが手動で制御された設計工程によって患者の歯科状況にカスタマイズされる、先行技術の方法とは対照的である。
【0034】
図4は、仮想歯科修復物内側表面109の作製を示す。仮想歯科修復物内側表面109は、コンピュータを活用して自動的に作製される。具体的には、仮想歯科修復物内側表面109は、共通オフセット108による仮想歯科修復物外側表面107の三次元的等距離シフト、具体的には、縮小によって作製される。したがって、仮想歯科修復物外側表面及び内側表面107、109は等距離である。これは、オフセット108によって仮想歯科修復物外側表面107を画定する各座標を、仮想歯科修復物外側表面107の座標における表面部分に垂直な方向にシフトさせることによって行うことができる。この点に関して、用語「シフトする」は、比喩的な意味で、実際には、例えば、元の座標から計算することによって新しい座標を作製し、元の座標を削除することを範囲に含むと理解される。三次元等距離縮小を実行する他の方法が可能である。
【0035】
図5は、歯科修復物モデルの高さHの判定を示す。高さHは、歯軸Aに沿った歯科修復物モデルの寸法によって画定される。高さHの判定は、コンピュータによって自動的に、例えば、コンピュータに格納された所定の標準高さに基づいて行うことができる。あるいは、高さHの判定は、手動で、例えば、所望の高さを手動で入力することによって、又は歯科修復物モデルの高さを決定するために仮想歯科修復物内側表面及び外側表面がトリミングされた切断線を手動で示すことによって実行されてもよい。高さを決定する工程は、修復されるべき歯の支台歯形成とは独立して行われる。したがって、歯科修復物の製造中、修復されるべき歯はまだ支台歯形成されていない。歯科修復物モデルの高さHが決定されると、仮想歯科修復物内側表面及び外側表面107、109間の任意の間隙を閉じることによって歯科修復物モデルが作製される。具体的には、仮想歯科修復内側表面及び外側表面107、109間の間隙を埋める追加の表面111が(好ましくは自動的に)追加されてもよい。あるいは、仮想歯科修復物内側表面109の自由端は、(図中の破線112によって示されるように)仮想歯科修復物外側表面107の自由端と一致してもよい。
【0036】
このように完成した(依然として仮想の)歯科修復物モデル110は、歯科修復物を製作するための機械に渡される。例えば、歯科修復物モデル110は、STLファイル又は任意の他の適切なファイル形式の形態で提供されてもよい。機械は、好ましくは3D印刷機、例えば、光硬化性材料を処理することによって動作するものである。
【0037】
図6は、修復されるべき物理的な歯21上に配置された物理的な製作された歯科修復物20を示す。修復されるべき歯21は、歯科修復物20を受け取ることから製造される。これは、歯科医が、歯科修復物20は、修復されるべき歯を、修復されるべき歯21上に取り付けることを可能にする形状(典型的には残根)に研削したことを意味する。従来技術の方法以外では、修復されるべき支台歯形成された歯21の形状は、歯科修復物の内形22とは異なる。具体的には、歯科修復物20は、修復されるべき支台歯形成された歯21と組み合わせて、歯科材料、例えば歯科用セメントで充填された広い間隙を形成する。修復されるべき歯の支台歯形成は、歯科修復物の製作後に開始することができる。したがって、歯科修復物を患者に提供するための患者の治療は、歯科修復物の製造のために中断される必要はなく、1つの連続するプロセスで完了することができる。一般に、治療は、中断されて2つのセッションに分割された場合、より不便であると認識される。本発明の方法により、治療時間(任意の中断を含む)を最小限に抑えることができる。これは、本発明の方法を、特に小児歯科に適したものとする。
なお、以上の各実施形態に加えて以下の態様について付記する。
(付記1)
歯科修復物の製造方法であって、
少なくとも修復されるべき歯に隣接する領域において患者の歯の形状を捕捉することに よって、前記修復されるべき歯のための歯科修復物の収容に利用可能な仮想空間を決定す る工程と、
所定の仮想マスター歯科修復物表面をデータベースから取り出す工程と、
前記仮想マスター歯科修復物表面を三次元的に変換して仮想歯科修復物外側表面を提供 することにより、前記仮想マスター歯科修復物表面を前記空間内に適合させる工程と、
前記修復されるべき歯の形状とは独立して、仮想歯科修復物内側表面を作製する工程と
前記仮想歯科修復物外側表面と前記仮想歯科修復物内側表面との組み合わせに基づいて 、歯科修復物の仮想モデルを提供する工程と、
前記歯科修復物モデルに基づいて前記歯科修復物を製作する工程と、を含む、方法。
(付記2)
前記仮想歯科修復物内側表面が、前記仮想歯科修復物外側表面に基づいて、コンピュー タによって自動的に生成される、付記1に記載の方法。
(付記3)
前記仮想歯科修復物内側表面の少なくとも一部が、前記歯科修復物の壁厚を表すオフセ ット値に基づいて、前記仮想歯科修復物外側表面の対応する部分の三次元等距離縮小とし て生成される、付記1又は2に記載の方法。
(付記4)
前記壁厚が、0.3mm~1.5mm、好ましくは0.5mmである、付記3に記載の 方法。
(付記5)
前記三次元変換が、前記仮想マスター歯科修復物表面の三次元的比例スケーリングによ り実行される、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
(付記6)
前記修復されるべき歯の任意の支台歯のマージンとは独立して、前記歯科修復物モデル の高さを決定する工程を更に含み、前記歯科修復物モデルが歯軸を有し、前記高さが、前 記歯軸に沿った前記歯科修復物モデルの寸法によって画定される、付記1~5のいずれか 一項に記載の方法。
(付記7)
決定された歯科修復物の高さに基づいて前記歯科修復物モデルを仮想的にトリミングす る工程を更に含む、付記5に記載の方法。
(付記8)
前記歯科修復物のための歯の色を決定する工程と、前記歯の色に基づいて製作される前 記歯科修復物の歯科材料を提供する工程と、を更に含む、付記1~7のいずれか一項に記 載の方法。
(付記9)
前記歯科修復物が、光硬化性樹脂の3D印刷によって製作される、付記1~8のいずれ か一項に記載の方法。
(付記10)
前記光硬化性樹脂が、反応性モノマー、光開始剤、任意選択的に無機充填剤、及び任意 選択に添加剤を含む組成物をベースとする、付記9に記載の方法。
(付記11)
完成した歯科修復物が、前記仮想歯科修復物外側表面の形状に対応する外形、又はその 三次元的比例縮小若しくは比例拡大の外形を有する、付記1~10のいずれか一項に記載 の方法。
(付記12)
前記患者の歯の形状が、口腔内光学走査によって捕捉される、付記1~11のいずれか 一項に記載の方法。
(付記13)
(i)少なくとも前記修復すべき歯に隣接する領域における前記患者の歯の形状と、( ii)前記仮想マスター歯科修復物表面と、を組み合わせて表示する工程を更に含み、前 記空間への仮想マスター歯科修復物モデルの適合は、表示された(i)と(ii)との組 み合わせに基づいた光学制御によって使用者により実行される、付記1~12のいずれか 一項に記載の方法。
(付記14)
前記修復されるべき歯の任意の侵襲的治療の前に実行される、付記1~13のいずれか 一項に記載の方法。
(付記15)
少なくとも修復されるべき第2の歯に隣接する領域において患者の第2の歯の形状を捕 捉することによって、前記修復されるべき第2の歯のための第2の歯科修復物の収容に利 用可能な第2の仮想空間を決定する工程と、
同じ所定の仮想マスター歯科修復物表面を前記データベースから取り出す工程と、
前記仮想マスター歯科修復物モデルを三次元的に変換して第2の仮想歯科修復物外側表 面を提供することにより、前記仮想マスター歯科修復物表面を前記第2の空間内に適合さ せる工程と、
前記修復されるべき第2の歯の形状とは独立して、第2の仮想歯科修復物内側表面を作 製する工程と、
前記第2の仮想歯科修復物外側表面と前記第2の仮想歯科修復物内側表面との組み合わ せに基づいて、第2の歯科修復物の仮想モデルを提供する工程と、
前記第2の歯科修復物モデルに基づいて前記第2の歯科修復物を製作する工程と、を含 む、付記1~14のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6