(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】薄膜付き基材の製造方法及び薄膜付き基材
(51)【国際特許分類】
B05D 3/10 20060101AFI20221201BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221201BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B05D3/10 Z
B05D7/24 302B
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2019564699
(86)(22)【出願日】2019-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2019000247
(87)【国際公開番号】W WO2019139008
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018002828
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-043145(JP,A)
【文献】特開平09-239314(JP,A)
【文献】特開平10-225659(JP,A)
【文献】特開平11-246787(JP,A)
【文献】特開2016-033109(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117665(WO,A1)
【文献】特開2011-212988(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190111(WO,A1)
【文献】特開2001-007363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
C03C 15/00- 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜付き基材の製造方法であって、前記薄膜はSiO
2を主成分として含み、
前記製造方法は、
前記薄膜を形成するための塗工液を基材に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された前記塗工液の液膜を
、前記液膜の表面が到達する最高温度が60℃以上300℃未満となる温度で乾燥させて乾燥膜とし、乾燥膜付き基材を得る乾燥工程と、
前記乾燥膜付き基材における前記乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理工程と、
前記脱アルカリ処理工程後に得られた薄膜付き基材を、前記薄膜の表面が達する最高温度が300℃以上となるように加熱する熱処理工程と、
をこの順で含み、
前記塗工液は、固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含み、かつ、溶媒の主成分として水を含む、
薄膜付き基材の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、前記液膜の表面温度が60℃以上である時間が2秒以上である、
請求項
1に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜におけるLi
2Oの含有率が3質量%未満であり、
前記薄膜の物理膜厚が5nm以上500nm以下である、
請求項1
又は2に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜におけるLi
2Oの含有率が1質量%未満である、
請求項
3に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜が、実質的にLi
2Oを含まない、
請求項
4に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項6】
薄膜付き基材の製造方法であって、前記薄膜はSiO
2
を主成分として含み、
前記製造方法は、
前記薄膜を形成するための塗工液を基材に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された前記塗工液の液膜を、前記液膜の表面が到達する最高温度が300℃以上となる温度で乾燥させて乾燥膜とし、乾燥膜付き基材を得る乾燥工程と、
前記乾燥膜付き基材における前記乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理工程と、
をこの順で含み、
前記塗工液は、固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含み、かつ、溶媒の主成分として水を含む、
薄膜付き基材の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜におけるLi
2Oの含有率が3質量%以上12質量%以下であり、
前記薄膜の物理膜厚が5nm以上500nm以下である、
請求項
6に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項8】
前記薄膜が、リチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含まない、
請求項1~
7のいずれか1項に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項9】
前記塗工液に含まれる前記水溶性リチウムケイ酸塩において、Li
2Oに対するSiO
2のモル比(SiO
2/Li
2O)が、1以上20以下であり、
前記塗工液において、前記水溶性リチウムケイ酸塩の濃度が、0.01質量%以上25質量%以下である、
請求項1~
8のいずれか1項に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項10】
前記塗工液は、リチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含有しない、及び、リチウムケイ酸塩以外のアルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない、
請求項
9に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項11】
前記脱アルカリ処理工程は、前記乾燥膜を、水を主成分として含む洗浄液と接触させる水洗工程を含む、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項12】
前記洗浄液は、実質的に水からなり、5℃以上95℃以下の温度を有する、
請求項
11に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥膜が前記洗浄液と接する時間が、2秒以上である、
請求項
11又は
12に記載の薄膜付き基材の製造方法。
【請求項14】
薄膜付き基材の製造方法であって、前記薄膜はSiO
2
を主成分として含み、
前記製造方法は、
前記薄膜を形成するための塗工液を基材に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された前記塗工液の液膜を、前記液膜の表面が到達する最高温度が60℃以上300℃未満となる温度で乾燥させて乾燥膜とし、乾燥膜付き基材を得る乾燥工程と、
前記乾燥膜付き基材における前記乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理工程と、
をこの順で含み、
前記塗工液の固形分は水溶性リチウムケイ酸塩からなり、かつ、溶媒の主成分として水を含み、
前記乾燥工程と前記脱アルカリ処理工程とが連続して実施され、
前記脱アルカリ処理工程は、前記乾燥膜を、水からなる洗浄液と接触させる水洗工程のみによって実施され、
前記塗布工程において、前記塗工液を前記基材に塗布する方法は、スピンコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、又はスロットダイコーティングである、
薄膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜付き基材の製造方法と、薄膜付き基材とに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、セラミックなどの基材の表面には、その基材の用途における機能改善を目的として、薄膜が形成される。例えば、基材に十分な耐久性を付与するために、シリカを主成分とする薄膜が基材の表面に形成される。
【0003】
シリカを主成分として含む薄膜は、例えば、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性シリコン化合物をシリカ供給源として用い、この加水分解性シリコン化合物を、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合することにより、製造される(例えば、非特許文献1)。また、シリカを主成分として含み、さらにアルカリ成分を含まない薄膜は、例えば、水ガラス(ナトリウムのケイ酸塩及び/又はカリウムのケイ酸塩の水溶液)とリチウムケイ酸塩の水溶液との混合物を塗布乾燥させ、さらに得られた乾燥塗膜を加熱することによって、製造される(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】作花済夫著、「ゾル-ゲル法の科学」、第1版、アグネ承風社、1988年7月5日、p.85-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリカ(SiO2)を主成分として含み、かつ耐久性を有する薄膜を、従来の方法よりも簡単に形成できる、薄膜付き基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、薄膜付き基材の製造方法であって、前記薄膜はSiO2を主成分として含み、
前記製造方法が、
前記薄膜を形成するための塗工液を基材に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された前記塗工液の液膜を乾燥させて乾燥膜とし、乾燥膜付き基材を得る乾燥工程と、
前記乾燥膜付き基材における前記乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理工程と、
をこの順で含み、
前記塗工液は、固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含み、かつ、溶媒の主成分として水を含む、
薄膜付き基材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、SiO2を主成分として含み、かつ耐久性を有する薄膜を、従来の方法よりも簡単に製造できる。また、本発明によれば、SiO2を主成分として含む薄膜を備えた薄膜付き基材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の薄膜付き基材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態の製造方法によって得られる薄膜付き基材の薄膜は、シリカ(SiO2)を主成分として含む。なお、薄膜がSiO2を主成分として含むとは、薄膜におけるSiO2の含有率が50質量%以上であることをいう。
【0011】
本実施形態の製造方法は、
前記薄膜を形成するための塗工液を基材に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された前記塗工液の液膜を乾燥させて乾燥膜とし、乾燥膜付き基材を得る乾燥工程と、
前記乾燥膜付き基材における前記乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理工程と、
をこの順で含む。さらに、本実施形態の製造方法において用いられる塗工液は、固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含み、かつ、溶媒の主成分として水を含む。
【0012】
本実施形態の製造方法は、水溶性リチウムケイ酸塩と水とを含む塗工液を基材に塗布し、塗布された液膜を乾燥させた後に、得られた乾燥膜に対して脱アルカリ処理を施す、という簡単な方法である。本実施形態の製造方法によれば、従来よりも簡単な方法で、SiO2を主成分として含む薄膜を備えた基材を得ることができる。
【0013】
以下、本実施形態の製造方法の各工程について、詳しく説明する。
【0014】
(塗布工程)
SiO2を主成分として含む薄膜を形成するための塗工液を準備する。
【0015】
塗工液は、固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含む。ここで、塗工液が固形分の主成分として水溶性リチウムケイ酸塩を含むとは、塗工液の固形分における水溶性リチウムケイ酸塩の含有率が、50質量%以上であることをいう。塗工液の固形分は、水溶性リチウムケイ酸塩を70質量%以上含んでいることが好ましく、80質量%以上含んでいることがより好ましく、水溶性リチウムケイ酸塩からなっていてもよい。
【0016】
塗工液に含まれる前記水溶性リチウムケイ酸塩において、Li2Oに対するSiO2のモル比(SiO2/Li2O)は1以上20以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、3以上8以下であることが特に好ましい。
【0017】
塗工液において、水溶性リチウムケイ酸塩の濃度や塗工液の固形分の濃度は、前記薄膜の膜厚や塗工液の塗布方法により適宜選択すればよい。一例として、塗工液における水溶性リチウムケイ酸塩の濃度を、0.01質量%以上25質量%以下としてもよい。
【0018】
塗工液は、溶媒の主成分として水を含む。ここで、塗工液が溶媒の主成分として水を含むとは、塗工液の溶媒における水の含有率が50質量%以上であることをいう。塗工液の溶媒は、水を70質量%以上含んでいることが好ましく、90質量%以上含んでいることがより好ましく、水からなっていてもよい。塗工液は、水以外の溶媒として、例えばグリセリン等を含んでいてもよい。
【0019】
塗工液は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。塗工液が界面活性剤を含む場合、塗工液における界面活性剤の含有率は、0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましい。界面活性剤としては、例えばシロキサン-ポリアルキレンオキシド共重合体を用いることができる。
【0020】
塗工液は、リチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含有しない、及び、リチウムケイ酸塩以外のアルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しないことが好ましい。これにより、薄膜の耐久性が向上する。ここで、塗工液がリチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含有しないとは、塗工液におけるリチウム以外のアルカリ金属成分の含有率が0.1質量%以下であることをいう。また、塗工液がリチウムケイ酸塩以外のアルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しないとは、塗工液におけるリチウムケイ酸塩以外のアルカリ金属ケイ酸塩の含有率が0.1質量%以下であることをいう。
【0021】
塗工液を基材に塗布する方法には、公知の任意の方法、例えばスピンコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スロットダイコーティングなど、を用いることができる。スプレーコーティングは量産性の点で優れている。ロールコーティングやバーコーティングは量産性に加えて塗膜外観の均質性の点で優れている。
【0022】
塗工液を基材に塗布することによって形成される液膜の厚さは、特には限定されないが、例えば数μm~数10μmとできる。
【0023】
次に、基材について説明する。基材は、例えば透明基材である。透明基材としては、例えばガラス基材を用いることができる。ガラス基材としては、例えば、ガラス板、及び、透明導電層を含む被膜付きガラス板(例えば、透明導電膜付きガラス基板及び低放射膜(Low-E(Low Emissivity)膜)付きガラス板)等が用いられる。ここでは、ガラス基材としてガラス板を用いる例について説明する。
【0024】
ガラス板は、特に限定されないが、その主表面上に設けられる薄膜の表面を平滑にするためには、微視的な表面の平滑性が優れているものが好ましい。たとえば、ガラス板は、その主表面の算術平均粗さRaがたとえば1nm以下、好ましくは0.5nm以下の平滑性を有するフロート板ガラスであってもよい。ここで、本明細書における算術平均粗さRaは、JIS B0601-1994に規定された値である。
【0025】
一方で、ガラス板は、その表面に、肉眼で確認できるサイズの巨視的な凹凸を有する型板ガラスであってもよい。なお、ここでいう巨視的な凹凸とは、粗さ曲線における評価長さをセンチメートルオーダーとした際に確認される、平均間隔Smがミリメートルオーダー程度の凹凸のことである。型板ガラスの表面における凹凸の平均間隔Smは、0.3mm以上、さらに0.4mm以上、特に0.45mm以上であることが好ましく、2.5mm以下、さらに2.1mm以下、特に2.0mm以下、とりわけ1.5mm以下であることが好ましい。ここで、平均間隔Smは、粗さ曲線が平均線と交差する点から求めた山谷一周期の間隔の平均値を意味する。さらに、型板ガラス板の表面凹凸は、上記範囲の平均間隔Smとともに、0.5μm~10μm、特に1μm~8μmの最大高さRyを有することが好ましい。ここで、平均間隔Smおよび最大高さRyは、JIS(日本工業規格) B0601-1994に規定された値である。なお、このような型板ガラスであっても、微視的には(例えば原子間力顕微鏡(AFM)観察のような、粗さ曲線における評価長さが数100nmである表面粗さ測定では)、算術平均粗さRaが数nm以下、例えば1nm以下を満たすことが可能である。したがって、型板ガラスであっても、微視的な表面の平滑性に優れるガラス板として、本実施形態の薄膜付き基材の基材に好適に使用できる。
【0026】
なお、ガラス板は、通常の型板ガラス、建築用板ガラス、自動車用板ガラスと同様の組成であってよい。着色成分を極力含まないガラス板の場合は、ガラス板において、代表的な着色成分である酸化鉄の含有率は、Fe2O3に換算して、0.06質量%以下、特に0.02質量%以下が好適である。一方、着色ガラスの場合は、酸化鉄を例えば0.3質量%以上1.5質量%以下含むガラス板であってよい。
【0027】
また、ガラス板は、透明導電層を含む被膜付きガラス板であってもよい。透明導電層を含む被膜付きガラス板は、ガラス板と、ガラス板の少なくとも一方の主表面に設けられた透明導電層を含む被膜とで形成されている。基材として透明導電層を含む被膜付きガラス板を用いる場合、被膜の表面の算術平均粗さRaは、例えば10nm以上20nm以下であることが好ましく、13nm以上17nm以下がより好ましい。なお、この場合、透明導電層を含む被膜の上に設けられている、本実施形態の製造方法において形成されるSiO2を含む薄膜の表面粗さは、例えば2nm以上10nm以下であることが好ましく、6nm以上10nm以下であってもよいし、2nm以上6nm以下であってもよい。
【0028】
上記被膜は、ガラス板の主平面から順に配置された、1層以上の下地層及び透明導電性酸化物層を含む積層構造であってもよい。
【0029】
上記下地層の第1の例として、酸炭化ケイ素(SiOC)を主成分として含み、かつ20nm以上120nm以下の厚さを有する下地層が挙げられる。第1の例の下地層は、実質的に酸炭化ケイ素からなっていてもよい。ここで、下地層が酸炭化ケイ素を主成分として含むとは、下地層における酸炭化ケイ素の含有率が50質量%以上であることをいう。また、下地層が実質的に酸炭化ケイ素からなるとは、下地層における酸炭化ケイ素の含有率が90質量%以上であることをいう。第1の例の下地層は、30nm以上100nm以下の厚さを有することが好ましく、30nm以上60nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0030】
上記下地層の第2の例として、実質的に酸化スズからなり、かつ10nm以上90nm以下の厚さを有する第1下地層と、実質的にSiO2からなり、かつ10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、からなる下地層が挙げられる。ここで、第1下地層が実質的に酸化スズからなるとは、第1下地層における酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。第2下地層が実質的にSiO2からなるとは、第2下地層におけるSiO2の含有率が90質量%以上であることをいう。第2の例の下地層において、第1下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。第2の例の下地層において、第2下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0031】
上記下地層の第3の例として、実質的にSiO2からなり、かつ10nm以上30nm以下の厚さを有する第1下地層と、実質的に酸化スズからなり、かつ10nm以上90nm以下の厚さを有する第2下地層と、実質的にSiO2からなり、かつ10nm以上90nm以下の厚さを有する第3下地層と、からなる下地層が挙げられる。ここで、第1下地層が実質的にSiO2からなるとは、第1下地層におけるSiO2の含有率が90質量%以上であることをいう。第2下地層が実質的に酸化スズからなるとは、第2下地層における酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。第3下地層が実質的にSiO2からなるとは、第3下地層におけるSiO2の含有率が90質量%以上であることをいう。第3の例の下地層において、第1下地層は、10nm以上20nm以下の厚さを有することが好ましい。第3の例の下地層において、第2下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。第3の例の下地層において、第3下地層は、10nm以上70nm以下の厚さを有することが好ましく、12nm以上40nm以下の厚さを有することがより好ましい。
【0032】
上記透明導電性酸化物層の第1の例として、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ200nm以上400nm以下の厚さを有する透明導電性酸化物層が挙げられる。ここで、透明導電性酸化物層が実質的にフッ素含有酸化スズからなるとは、透明導電性酸化物層におけるフッ素含有酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。この第1の例では、被膜は低放射膜として機能する。第1の例の透明導電性酸化物層において、透明導電性酸化物層は、300nm以上400nm以下の厚さを有することが好ましい。第1の例の透明導電性酸化物層が用いられる場合、下地層は、上記第2の例の下地層のような2層構造を有することが好ましい。また、第1の例の透明導電性酸化物層を含む被膜付きの基材の表面に設けられる薄膜は、10nm以上100nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0033】
上記透明導電性酸化物層の第2の例として、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ400nm以上800nm以下の厚さを有する透明導電性酸化物層が挙げられる。ここで、透明導電性酸化物層が実質的にフッ素含有酸化スズからなるとは、透明導電性酸化物層におけるフッ素含有酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。この第2の例では、被膜は透明導電膜として機能する。第2の例の透明導電性酸化物層において、透明導電性酸化物層は、500nm以上700nm以下の厚さを有することが好ましい。第2の例の透明導電性酸化物層が用いられる場合、下地層は、上記第2の例の下地層のような2層構造を有することが好ましい。また、第2の例の透明導電性酸化物層を含む被膜付きの基材の表面に設けられる薄膜は、40nm以上250nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0034】
上記透明導電性酸化物層の第3の例として、実質的にアンチモン含有酸化スズからなり、かつ100nm以上300nm以下の厚さを有する第1透明導電性酸化物層と、実質的にフッ素含有酸化スズからなり、かつ150nm以上400nm以下の厚さを有する第2透明導電性酸化物層とを含む積層構造を有する透明導電性酸化物層が挙げられる。ここで、第1透明導電性酸化物層が実質的にアンチモン含有酸化スズからなるとは、第1透明導電性酸化物層におけるアンチモン含有酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。第2透明導電性酸化物層が実質的にフッ素含有酸化スズからなるとは、第2透明導電性酸化物層におけるフッ素含有酸化スズの含有率が90質量%以上であることをいう。この第3の例では、被膜は低放射膜として機能する。第3の例の透明導電性酸化物層において、第1透明導電性酸化物層は150nm以上200nm以下の厚さを有することが好ましく、第2透明導電性酸化物層は200nm以上300nm以下の厚さを有することが好ましい。第3の例の透明導電性酸化物層が用いられる場合、下地層は、上記第2の例の下地層のような2層構造を有することが好ましい。また、第3の例の透明導電性酸化物層を含む被膜付きの基材の表面に設けられる薄膜は、10nm以上100nm以下の物理膜厚を有することが好ましい。
【0035】
低放射膜付きガラス板を基材として用い、低放射膜が形成されている面上に本実施形態の製造方法によって薄膜を形成することによって得られる薄膜付き基材は、低放射膜付きガラス板のヘイズ値を低下させることができる。さらに、低放射膜付きガラス板は、本実施形態の薄膜が形成されている面とは反対側の面上にも別の低放射膜を有していてもよい。この別の低放射膜は、前述の低放射膜と同様でもよいが、誘電体層と、銀を主成分として含む層と、別の誘電体層とがこの順に積層された積層体を含む膜であってもよい。
【0036】
(乾燥工程)
次に、基材に塗布された塗工膜の液膜を乾燥させて、乾燥膜付き基材を得る。液膜の乾燥方法は、特には限定されない。以下に、好ましい乾燥方法の第1の例及び第2の例について説明する。
【0037】
好ましい乾燥方法の第1の例では、液膜の表面が到達する最高温度が60℃以上300℃未満であり、80℃以上250℃以下であることが好ましく、90℃以上220℃以下であることがより好ましく、100℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。この場合、液膜の表面温度が60℃以上(好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上)である時間が、2秒以上(好ましくは10秒以上、より好ましくは18秒以上)であることが好ましい。以下、この第1の例を「低温乾燥」ということがある。
【0038】
好ましい乾燥方法の第2の例では、液膜の表面が到達する最高温度が300℃以上であり、400℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましい。なお、第2の例では、液膜の表面が到達する最高温度の上限は特には限定されないが、例えば基材が変形する温度未満とする。第2の例では、液膜の乾燥のための加熱を、基材を加熱して成形する工程の加熱と兼用することも可能である。第2の例では、液膜の表面温度が最高温度となる時間は限定されず、最高温度が上記温度に達するならばその温度が保持される時間はわずかでもよい。以下、この第2の例を「高温乾燥」ということがある。
【0039】
乾燥工程は、例えば、熱風乾燥によって実施されてもよい。また、乾燥工程は、所定の温度に設定された加熱炉中に、液膜が塗布された基材を所定の時間保持することによって実施されてもよい。なお、得られる乾燥膜の組成は、塗工液の固形分の組成と実質的に一致する。
【0040】
(脱アルカリ処理工程)
次に、乾燥膜付き基材の乾燥膜から、アルカリ成分を低減させる又は除去する、脱アルカリ処理を行う。
【0041】
脱アルカリ処理工程は、例えば、乾燥膜を水を主成分として含む洗浄液と接触させる水洗工程を含む。ここで、水を主成分として含む洗浄液とは、洗浄液における水の含有率が80質量%以上であることを意味する。洗浄液は、特別な洗浄剤を含んでいなくてもよく、実質的に水からなっていてよい。ここで、洗浄液が実質的に水からなるとは、洗浄液における水の含有率が95質量%以上であることを意味する。洗浄剤に含まれる水は、純水である必要はなく、市水(工業用水道水)であってもよい。
【0042】
水洗工程において、洗浄剤の温度は、例えば5℃以上95℃以下とすることができ、好ましくは10℃以上80℃以下であり、より好ましくは15℃以上45℃以下である。
【0043】
水洗工程において、乾燥膜が洗浄液と接する時間は、例えば2秒以上である。
【0044】
後述する、薄膜の物理膜厚の好ましい第1の例では、乾燥膜が洗浄液と接する時間は、30秒以下でよく、15秒以下でもよい。
【0045】
本発明の乾燥膜については、上記時間において十分な脱アルカリ処理が施されうる。
【0046】
後述する、薄膜の物理膜厚の好ましい第2の例では、乾燥膜が洗浄液と接する時間は、より長いことが好ましく、4秒以上2分以下でよく、30秒以下でもよい。
【0047】
水洗工程において、乾燥膜に機械的な力を作用させてもよい。具体的には、ブラシ、スポンジ又は超音波等を用いて、乾燥膜に機械的な力を付与すればよい。
【0048】
乾燥工程で低温乾燥を実施した場合は、水洗工程において、薄膜中のLi2O含有率を3質量%未満とすることが好ましく、1質量%未満とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましく、0.3質量%以下とすることが特に好ましい。薄膜が、実質的にLi2Oを含まないようにしてもよい。なお、薄膜が実質的にLi2Oを含まないとは、薄膜におけるLi2Oの含有率が0.05質量%未満であることを意味する。また、薄膜におけるLi2Oの含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下、又は、0.1質量%以上0.5質量%以下となるようにしてもよい。
【0049】
乾燥工程で前述の高温乾燥を実施した場合は、水洗工程において、薄膜中のLi2O含有率を3質量%以上12質量%以下とすることが好ましい。
【0050】
(後熱処理工程)
乾燥工程で前述の低温乾燥を実施した場合には、脱アルカリ処理工程の後に、薄膜を加熱する後熱処理工程をさらに実施してもよい。この後熱処理工程においては、例えば、薄膜付き基材の薄膜の表面が到達する最高温度が300℃以上であり、400℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。なお、この後熱処理工程では、薄膜の表面が到達する最高温度の上限は特には限定されないが、例えば基材が変形する温度未満とする。第2の例では、液膜の乾燥のための加熱を、基材を加熱して成形する工程の加熱と兼用することも可能である。
【0051】
なお、脱アルカリ処理工程の後に、薄膜を加熱する後熱処理工程が実施されなくてもよい。
【0052】
以上の本実施形態の製造方法によって、例えば、透明基材と、前記透明基材の表面の少なくとも一部に設けられている薄膜と、を含む薄膜付き基材であって、薄膜がSiO2を主成分として含み、前記薄膜におけるLi2Oの含有率が12質量%以下(例えば3質量%未満、又は、3質量%以上12質量%以下)であり、前記薄膜の物理膜厚が5nm以上500nm以下である、薄膜付き基材を得ることが可能である。
【0053】
本実施形態の製造方法において、塗工液の塗布条件(塗工液の濃度及び基材上に形成される液膜の厚さ等)を適宜調整することにより、薄膜の物理膜厚を調整することが可能である。例えば、薄膜の物理膜厚の好ましい第1の例は、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは15nm以上80nm以下、より好ましくは20nm以上39nm以下である。薄膜の物理膜厚をこの第1の例の範囲とすることにより、薄膜の有無で反射色調が変化しないという効果が得られる。また、薄膜の物理膜厚の好ましい第2の例は、例えば40nm以上250nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下、より好ましくは50nm以上150nm以下、さらに好ましくは80nm以上120nm以下である。この第2の例の物理膜厚を有する薄膜は、特に緑色色調を有する基材(例えば、フッ素含有酸化スズで形成された透明導電性酸化物層を有する低放射膜付きガラス板)と組み合わせた場合に、薄膜の有無で色調が変化しないという効果を有する。
【0054】
本実施形態の製造方法において、乾燥工程で低温乾燥を実施した場合は、脱アルカリ処理工程の条件の調整により、薄膜におけるLi2Oの含有率を3質量%未満とすることが好ましく、1質量%未満とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることがさらに好ましく、0.3質量%以下とすることが特に好ましい。薄膜が、実質的にLi2Oを含まないようにしてもよい。また、脱アルカリ処理工程において、薄膜が実質的にLi2Oを含まないように洗浄された場合、実質的にLi2Oを含まない薄膜を備えた薄膜付き基材を得ることができる。また、本実施形態の製造方法において、乾燥工程で低温乾燥を実施した場合は、脱アルカリ処理工程の条件の調整により、Li2Oの含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下、又は、0.1質量%以上0.5質量%以下である薄膜を備えた薄膜付き基材を得ることもできる。
【0055】
本実施形態の製造方法において、乾燥工程で前述の高温乾燥を実施した場合は、脱アルカリ処理工程の条件の調整により、薄膜中のLi2O含有率を3質量%以上12質量%以下とすることが好ましい。
【0056】
本実施形態の製造方法において、塗布工程で用いられる塗工液が、リチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含有しない、又は、リチウムケイ酸塩以外のアルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない場合、リチウム以外のアルカリ金属成分を実質的に含まない薄膜を備えた薄膜付き基材を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)
<塗工液の調製>
水溶性リチウムケイ酸水溶液(「リチウムシリケート35」、日産化学工業株式会社、SiO2/Li2Oモル比:3.5、SiO2含有率:20質量%、溶媒:水のみ)を、さらに固形分が1.7質量%となるように水で希釈した。
【0059】
<薄膜の形成>
ガラス板を基材として用いた。このガラス板は、低放射膜付きガラス板であった。この低放射膜は、ガラス板の主表面側から、厚さ25nmの酸化スズ層(第1下地層)、厚さ25nmのSiO2層(第2下地層)、厚さ340nmのフッ素含有酸化スズ層(透明導電性酸化物層)が、オンラインCVD法によってこの順に積層されることによって形成されたものである。このガラス板の低放射膜の上に、実施例1の塗工液をスピンコート法によって塗布した。具体的には、ガラス板をスピンコート装置上で水平に保持し、ガラス板の中央部に塗工液を滴下し、ガラス板を回転数1500rpmで回転させ、30秒間その回転数を保持した後、ガラス板の回転を停止させた。これにより、ガラス板の低放射膜の上に薄膜形成用の塗工液の液膜が形成された。
【0060】
次いで、この液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に25秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は102℃であり、60℃以上である時間は18秒、80℃以上である時間は10秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0061】
次いで、乾燥膜に対して脱アルカリ処理を施した。脱アルカリ処理は、乾燥膜を温度25℃の市水で、スポンジを用いて5往復手洗いすることによって行った。この手洗いの間、乾燥膜は市水に約10秒間接触していた。その後、薄膜を自然乾燥させた。
【0062】
こうして得た、膜厚30nmの薄膜を有する薄膜付き基材について、後述の方法で各特性を評価した。その結果を表1~3に示す。
【0063】
(実施例2)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例2の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に55秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は142℃であり、60℃以上である時間は48秒、80℃以上である時間は40秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0064】
(実施例3)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例3の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に100秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は180℃であり、60℃以上である時間は93秒、80℃以上である時間は85秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0065】
(実施例4)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例4の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に130秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は200℃であり、60℃以上である時間は123秒、80℃以上である時間は115秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0066】
(実施例5)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例5の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に250秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は250℃であり、60℃以上である時間は243秒、80℃以上である時間は235秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0067】
(実施例6)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例6の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に550秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は280℃であり、60℃以上である時間は543秒、80℃以上である時間は535秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0068】
(実施例7)
塗工液の固形分濃度と、塗工液の塗布方法と、薄膜形成時の乾燥工程とが異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例7の塗工液の固形分濃度は、0.1質量%であった。塗工液は、スプレーコート法によって、ガラス板の低放射膜上に塗布された。具体的には、市販のスプレーガンを用い、水平に保持されたガラス板の主表面の上方から塗工液を噴霧して行った。乾燥工程は、次のとおりである。液膜を、熱風発生機を用いて熱風で乾燥させた。熱風の設定温度を200℃とし、熱風吐出ノズルとガラス板との間の距離を50mmとして、液膜に熱風を219秒間あてた。ガラス板の液膜における最高到達温度は177℃であり、60℃以上である時間は177秒、80℃以上である時間は170秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0069】
(実施例8)
薄膜形成時の乾燥工程と、脱アルカリ処理工程とが異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例8の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉に55秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は142℃であり、60℃以上である時間は48秒、80℃以上である時間は40秒であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。実施例8の脱アルカリ処理は、温度25℃の市水を用いて行われ、具体的には水道の蛇口からの流水を5秒間乾燥膜にあてることによって行われた。その後、薄膜を自然乾燥させた。
【0070】
(実施例9)
薄膜形成時の乾燥工程と、脱アルカリ処理工程とが異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例9の乾燥工程は、実施例7の乾燥工程と同じであった。実施例9の脱アルカリ処理工程では、60rpmで回転する直径100mmのブラシに対して乾燥膜が接するように、乾燥膜付き基材を1m/minで搬送した。ブラシには、25℃の市水が供給された。この間、乾燥膜は市水に約6秒間接触していた。
【0071】
(実施例10)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例10の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に30秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は320℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた30秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0072】
(実施例11)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例11の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に65秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は420℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた65秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0073】
(実施例12)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例12の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に100秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は480℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた100秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0074】
(実施例13)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例13の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に150秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は570℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた150秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0075】
(実施例14)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例14の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に215秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は620℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた215秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0076】
(実施例15)
薄膜形成時の乾燥工程が異なる点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。実施例15の乾燥工程は、次のとおりである。液膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に275秒間保持したのち、電気炉から取り出して乾燥させた。このとき、ガラス板の液膜における最高到達温度は670℃であった。液膜が形成されたガラス板を電気炉に入れた直後に液膜の温度は80℃以上となった。すなわち、液膜が80℃以上である時間は、電気炉内に保持されていた275秒以上であった。乾燥後のガラス板を室温まで放冷し、ガラス板に乾燥膜が形成された。
【0077】
(実施例16)
実施例2と同様の方法で薄膜付き基材を作製した後、すなわち実施例2の脱アルカリ処理工程の後に後熱処理工程を実施して、実施例16の薄膜付き基材を作製した。得られた薄膜付き基材の各特性は、実施例1と同様の方法で評価された。実施例16で実施された後熱処理工程では、薄膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に225秒間保持したのち、電気炉から取り出した。このとき、ガラス板の薄膜における最高到達温度は650℃であった。
【0078】
(実施例17)
実施例2と同様の方法で薄膜付き基材を作製した後、すなわち実施例2の脱アルカリ処理工程の後に後熱処理工程を実施して、実施例17の薄膜付き基材を作製した。得られた薄膜付き基材の各特性は、実施例1と同様の方法で評価された。実施例17で実施された後熱処理工程では、薄膜が形成されたガラス板を、760℃に設定した電気炉に250秒間保持したのち、電気炉から取り出した。このとき、ガラス板の薄膜における最高到達温度は670℃であった。
【0079】
(比較例1)
薄膜形成時の乾燥工程が異なり、かつ脱アルカリ処理工程が実施されなかった点以外は、実施例1と同様の方法で薄膜付き基材を作製し、各特性を評価した。比較例1の乾燥工程では、液膜を室温での自然乾燥により乾燥させた。
【0080】
(比較例2)
実施例1で用いた低放射膜付きのガラス板に薄膜を形成せず、当然に乾燥工程及び脱アルカリ処理工程も実施しなかった。すなわち、実施例1で用いた低放射膜付きのガラス板を比較例2とした。
【0081】
[評価方法]
(薄膜におけるSiO2含有率及びLi2O含有率の測定)
基材の薄膜が形成されている面だけを60℃に保った濃度1NのNaOH水溶液に接触させ、薄膜を溶解した。その溶解液に含まれるSi及びLiを、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法を用いて定量分析することで、薄膜におけるSiO2含有率及びLi2O含有率を求めた。なお、低放射膜の最表面のフッ素含有酸化スズ層はNaOHに溶解しないので、薄膜だけをNaOHに溶解させることができる。
【0082】
(高温高湿試験)
薄膜付き基材を、温度80℃、相対湿度95%の高温高湿条件下で24時間保持した後、白濁の有無を目視にて観察した。さらに、白濁が確認された薄膜付き基材については、白濁の水洗での除去性の試験も行った。白濁の水洗は、実施例1の乾燥膜の洗浄と同様に、温度25℃の市水で、スポンジを用いて5往復手洗いすることによって行った。
【0083】
(基材の表面及び薄膜の表面の算術平均粗さRaの測定)
原子間力顕微鏡(SII-NT社製、SPA-400)にて、10μm×10μmの範囲をスキャンし、表面粗さRaを算出した。
【0084】
(薄膜形成前及び後のヘイズ率)
ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-2000)にてヘイズ率を測定した。
【0085】
(指紋汚れ除去性の評価)
水で湿らせた綿布で薄膜の表面を拭き取り後、呼気を吐きかけても指紋の跡が観察されないかどうかで指紋汚れ除去性を以下のとおり評価した。
◎:水で湿らせた綿布で10回拭き取り後、呼気を吐きかけても指紋の跡が観察されない。
○:水で湿らせた綿布で30回拭き取り後、呼気を吐きかけても指紋の跡が観察されない。
△:水で湿らせた綿布で30回拭き取り後、呼気を吐きかけると指紋の跡がわずかに観察される。
×:水で湿らせた綿布で30回拭き取り後、呼気を吐きかけると指紋の跡が容易に観察される。
【0086】
(耐スクラッチ性)
薄膜付き基材の薄膜の表面に対し、荷重5gを印加したダイヤモンド圧子によるひっかき試験(JIS R3255-1997に準拠)を行った。耐スクラッチ性は、比較例2の薄膜が形成されていない基材との比較により、以下のとおり評価した。
◎:優位にキズが低減された。
○:キズが低減された。
×:キズに大きな差はなかった。
【0087】
(耐アルカリ性試験後の指紋除去性及び光学特性)
薄膜付き基材に対し、以下の方法で耐アルカリ性試験を行った。この耐アルカリ性試験後の薄膜付き基材について、指紋除去性及び光学特性(ヘイズ率)を評価した。指紋除去性については、前述の「指紋汚れ除去性の評価」と同様の基準にて評価した。
・耐アルカリ性試験1
耐アルカリ性試験1は、JIS R3221の熱線反射ガラスに定める耐アルカリ性試験に準拠し、23℃の濃度1NのNaOHに薄膜付き基材を浸漬して行った。ただし、この耐アルカリ性試験1での浸漬時間は6時間とし、浸漬後の薄膜付き基材のヘイズ率と、薄膜が形成されていない状態の基材(薄膜無し基材)のヘイズ率とを比較し、以下のように評価した。
○:浸漬後の薄膜付き基材のヘイズ率が、薄膜無し基材のヘイズ率より0.1%以上低い
×:浸漬後の薄膜付き基材のヘイズ率が、薄膜無し基材のヘイズ率より0.1%未満低い
・耐アルカリ性試験2
耐アルカリ性試験2は、一部の例についてのみ実施した。耐アルカリ性試験2は、浸漬時間を24時間とした点以外は、耐アルカリ性試験1と同じであった。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
本発明の薄膜付き基材の製造方法が実施された実施例1~17によれば、高い耐久性を有する、SiO2を主成分とする薄膜を備えた薄膜付き基材が製造された。これに対し、脱アルカリ処理が実施されなかった比較例1の薄膜付き基材及び比較例2の薄膜が形成されていない基材は、耐久性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、SiO2を主成分として含み、かつ耐久性を有する薄膜を備えた薄膜付き基材を、簡単な方法で製造して提供しうる。