(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】浸漬冷却用流体
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20221201BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20221201BHJP
C07C 21/02 20060101ALN20221201BHJP
C07C 21/18 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 C
F28D15/02 104A
F28D15/02 M
C07C21/02
C07C21/18
(21)【出願番号】P 2019567289
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 IB2018053699
(87)【国際公開番号】W WO2018224908
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-21
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ブリンスキー,マイケル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】トゥマ,フィリップ イー.
(72)【発明者】
【氏名】コステロ,マイケル ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ラマンナ,ウィリアム エム.
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ショーン エム.
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505423(JP,A)
【文献】特表2015-507038(JP,A)
【文献】特表2015-507666(JP,A)
【文献】国際公開第2016/048613(WO,A1)
【文献】特表2011-518395(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081780(WO,A1)
【文献】特開2013-187251(JP,A)
【文献】特表2015-514814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0269521(US,A1)
【文献】特表2010-530952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 31/00- 61/00
C07B 63/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
C09K 5/00- 5/20
F28D 15/00- 15/06
H05K 7/20- 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するハウジングと、
前記内部空間内に配置された熱発生構成要素と、
前記熱発生構成要素と接触するように前記内部空間内に配置された作動流体液と
を含む、浸漬冷却システムであって、
前記作動流体が構造式(IA)
【化1】
[式中、各R
f
1及びR
f
2は、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する]を有する化合物を含
み、
前記作動流体が2.5未満の誘電率を有し、
前記熱発生構成要素が電子デバイスを含む、浸漬冷却システム。
【請求項2】
各R
f
1及びR
f
2が、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全フッ素化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全フッ素化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する、請求項1に記載の浸漬冷却システム。
【請求項3】
構造式(IA)を有する前記化合物が、前記作動流体中の構造式(IA)を有する前記化合物と構造式(IB)
【化2】
を有する化合物との総重量に基づいて、少なくとも90重量%の量で前記作動流体中に存在する、請求項1に記載の浸漬冷却システム。
【請求項4】
作動流体中に熱発生構成要素を少なくとも部分的に浸漬することと、
前記作動流体を使用して、前記熱発生構成要素から熱を伝達することと、
を含む、熱発生構成要素を冷却するための方法であって、
前記作動流体が構造式(IA)
【化3】
[式中、各R
f
1及びR
f
2は、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する]を有する化合物を含
み、
前記作動流体が2.5未満の誘電率を有し、
前記熱発生構成要素が電子デバイスを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浸漬冷却システムに有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬冷却で使用するための様々な流体は、例えば、P.E.Tuma,「Fluoroketone C2F5C(O)CF(CF3)2as a Heat Transfer Fluid for Passive and Pumped 2-Phase Applications」,24th IEEE Semi-Therm Symposium,San Jose,CA,pp.174-181,March 16-20,2008、及びTuma,P.E.,「Design Considerations Relating to Non-Thermal Aspects of Passive 2-Phase Immersion Cooling」,to be published,Proc.27th IEEE Semi-Therm Symposium,San Jose,CA,USA,Mar.20-24,2011に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
いくつかの実施形態において、浸漬冷却システムが提供される。浸漬冷却システムは、内部空間を有するハウジングと、内部空間内に配置された熱発生構成要素と、熱発生構成要素と接触するように内部空間内に配置された作動流体液とを含む。作動流体は、構造式(IA)を有する化合物を含む。
【化1】
各R
f
1及びR
f
2は、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する。
【0004】
いくつかの実施形態では、熱発生構成要素を冷却するための方法が提供される。この方法は、作動流体中に熱発生構成要素を少なくとも部分的に浸漬すること、及び作動流体を使用して熱発生構成要素から熱を伝達することを含む。作動流体は、構造式(IA)を有する化合物を含む。
【化2】
各R
f
1及びR
f
2は、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する。
【0005】
上記の本開示の概要は、本開示の各実施形態を説明することを意図したものではない。本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明にも記載される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、本明細書及び特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態の二相浸漬冷却システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
大規模コンピュータサーバシステムは、著しいワークロードを実行し、その稼働中に大量の熱を生成し得る。熱のかなりの部分は、これらのサーバの稼働によって生成される。生成された大量の熱に部分的に起因して、これらのサーバは典型的にはラックマウントされ、内部ファン及び/又はラックの後部若しくはサーバエコシステム内の他の場所に取り付けられたファンを介して空冷される。ますます多くの処理及びストレージリソースへのアクセスの必要性が拡大し続けているので、サーバシステムの密度(すなわち、単一のサーバに配置された処理能力及び/若しくはストレージの量、単一のラック内に配置されたサーバの数、並びに/又は単一のサーバファームに配備されたサーバ及び若しくはラックの数)が増加し続けている。これらのサーバシステムにおける処理又はストレージ密度を高めたいという要望により、結果として生じる熱的課題は、依然として大きな障害となっている。従来の冷却システム(例えば、ファンベース)は大量の電力を必要とし、そのようなシステムを駆動するために必要とされる電力のコストは、サーバ密度の増加と共に指数関数的に増加する。したがって、サーバシステムの所望の処理及び/又はストレージ密度の増加を可能にしながら、サーバを冷却するための効率的な低電力使用システムが必要とされている。
【0008】
二相浸漬冷却は、液体(冷却流体)を気体(すなわち、気化熱)に気化させるプロセスにおいて吸収された熱に依存する高性能サーバコンピューティング市場のための新しい冷却技術である。本出願で使用される流体は、用途において実行可能である特定の要件を満たす必要がある。例えば、稼働中の沸騰温度は、例えば30℃~75℃の範囲であるべきである。概ね、この範囲は、熱が最終的なヒートシンク(例えば、外気)に効率的に放熱されることを可能にしながら、サーバ構成要素を十分に冷却温度に維持することに適応する。流体は、構成体及び電気部品の材料と適合するように不活性である必要がある。特定の全フッ素化及び部分フッ素化材料は、この要件を満たし得る。流体は、水などの通常の汚染物質と反応しないように、又は稼働中に流体をスクラブするために使用され得る活性炭又はアルミナなどの試薬と反応しないように、安定なものであるべきである。親化合物及びその分解生成物の地球温暖化係数(global warming potential)(GWP、100yr ITH)及びオゾン破壊係数(ozone depletion potential)(ODP)は、許容限度より下、例えば、それぞれ250及び0.01未満であるべきである。流体は、2.5未満の誘電率(1KHzで室温(約25℃)で測定)を有するべきであり、それにより、高周波電子部品及びコネクタが、シグナルインテグリティを大幅に失うことなく流体中に沈められ得る。
【0009】
単相浸漬冷却は、コンピュータサーバの冷却において長い歴史がある。単相浸漬において相転移はない。その代わりに、液体は、それぞれコンピュータサーバ及び熱交換器に流れるか、圧送される際に温められ、冷却され、それによってコンピュータサーバから熱を伝達させる。コンピュータサーバの単相浸漬冷却に使用される流体は、典型的には、蒸発損失を制限するために約40~75℃を超える高い沸騰温度を有することを除いて、二相浸漬冷却に関して上記で概説したものと同じ要件を満たすべきである。
【0010】
概ね、全フッ素化液体は、2.0以下の誘電率を示し得ることが理解される。しかしながら、これらの材料は、多くの場合、高GWPに関連し、二相及び単相浸漬冷却を含めた多くの工業用途の要件のかなり範囲外である。したがって、業界の誘電率要件(2.5未満)を満たす二相及び単相浸漬冷却に有用であると同時に、業界の許容限度未満(典型的には約250未満)であるGWP(100yr ITH)も呈する作動流体が引き続き必要とされている。
【0011】
概ね、本開示は、二相浸漬冷却システム(two-phase immersion cooling system)及び単相浸漬冷却システム(single-phase immersion cooling system)における冷却流体としての使用に特に適するものにする沸点、反応性、安定性、GWP及び誘電率を示す、組成物又は作動流体を対象とする。
【0012】
本明細書で用いる場合、「連結されたヘテロ原子」は、炭素鎖(直鎖若しくは分枝鎖又は環内)の少なくとも2個の炭素原子に結合して炭素-ヘテロ原子-炭素結合を形成する、炭素以外の原子(例えば、酸素、窒素、又は硫黄)を意味する。
【0013】
本明細書で用いる場合、「フルオロ-」(例えば、「フルオロアルキレン」又は「フルオロアルキル」又は「フルオロカーボン」の場合などの、基又は部分に関して)又は「フッ素化」は、(i)炭素に結合した水素原子が少なくとも1つは存在するように、部分的にフッ素化されているか、又は(ii)全フッ素化されていることを意味する。
【0014】
本明細書で用いる場合、「ペルフルオロ-)」(例えば、「ペルフルオロアルキレン」若しくは「ペルフルオロアルキル」若しくは「ペルフルオロカーボン」の場合などの、基若しくは部分に関して)又は「全フッ素化」は、完全にフッ素化されており、したがって、別段に指示され得る場合を除き、いかなる炭素に結合した水素原子もフッ素原子で置き換られていることを意味する。
【0015】
本明細書で用いる場合、「全ハロゲン化」は、別段に指示され得る場合を除き、いかなる炭素結合水素もハロゲン原子によって置換されるように、完全にハロゲン化されていることを意味する。
【0016】
本明細書で用いる場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容が他のことを明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。本明細書及び添付の実施形態において使用されるとき、用語「又は」は、その内容が特に明確に指示しない限り、一般的に「及び/又は」を包含する意味で用いられる。
【0017】
本明細書で用いる場合、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に含まれる全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.8、4及び5を含む)。
【0018】
特に指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用する量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されていると理解するものとする。これに応じて、特に指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態の列挙において示す数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変化し得る。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして端数処理技術を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは請求項記載の実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、以下の構造式(IA)を有するハイドロフルオロオレフィン化合物を含む、組成物又は作動流体を含み得る:
【化3】
驚くべきことに、構造式(IA)のアルキレンセグメント、すなわち、セグメントの各炭素が、E(又はトランス)構成で1つの水素原子及び1つの全ハロゲン化部分に結合しているアルキレンセグメントは、驚くべきことに、2.5未満の低い誘電率をもたらすことが発見された。同様に低い誘電率をもたらす他のハイドロフルオロオレフィン構造は見出されていない。したがって、本開示のハイドロフルオロオレフィン化合物は、浸漬冷却システム、特に、高周波数(例えば、2GHz超、又は3GHz超、又は4GHz超、又は5GHz超、又は6GHz超、又は7GHz超、又は8GHz超、又は9GHz超、又は10GHz超)で稼働する高性能コンピュータサーバハードウェア又はデバイスの浸漬冷却に使用されるものにおける作動流体としての使用に特に適したものにする、測定された誘電率を有することが発見された。
【0020】
構造式(IA)のハイドロフルオロオレフィン化合物は、2つの異性体形態で存在し得るハイドロフルオロオレフィンのE(又はトランス)異性体を表し、他の異性体形態は、構造式(IB)に示されるZ(又はシス)異性体である:
【化4】
驚くべきことに、(E)異性体(構造式(IA))は、その(Z)対応物よりも著しく低い誘電率を有するので、(Z)異性体に富む組成物は、高性能サーバ浸漬冷却システムにおける作動流体としての使用に適していると思われる誘電率を呈さないことも発見された。
【0021】
いくつかの実施形態では、各Rf
1及びRf
2は、独立して、(i)1~6個、2~5個若しくは3~4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であってよく、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有してもよく、又は(ii)3~7個若しくは4~6個の炭素原子を有し、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であってもよい。いくつかの実施形態では、各全ハロゲン化Rf
1及びRf
2は、フッ素原子又は塩素原子のみで置換されてもよい。いくつかの実施形態では、各全ハロゲン化Rf
1及びRf
2は、複数個のフッ素原子及び1個の塩素原子のみで置換されてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、各Rf
1及びRf
2は、独立して、(i)1~6個、2~5個若しくは3~4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖の全フッ素化非環式アルキル基であってよく、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有してもよく、又は(ii)3~7個若しくは4~6個の炭素原子を有し、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する、全フッ素化5~7員環式アルキル基であってもよい。いくつかの実施形態では、Rf
1及びRf
2は、同一の全フッ素化アルキル基(任意の連結されたヘテロ原子を含む、非環式又は環式)であってもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、構造式(IA)(E異性体)の異性体に富んでいてもよい。この点に関し、いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、組成物中の構造式(IA)及び(IB)を有するハイドロフルオロオレフィンの総重量に基づいて、少なくとも85、90、95、96、97、98、99又は99.5重量%の量の構造式(IA)を有するハイドロフルオロオレフィンを含み得る。
【0024】
様々な実施形態において、一般式(I)の化合物の代表例には、以下が挙げられる。
【化5】
【0025】
いくつかの実施形態において、本開示のハイドロフルオロオレフィン化合物は、疎水性であり、比較的化学反応性に乏しく、熱的に安定であり得る。ハイドロフルオロオレフィン化合物は、環境影響が少ない場合がある。この点に関して、本開示のハイドロフルオロオレフィン化合物は、ゼロ又はゼロに近いオゾン破壊係数(ODP)、及び500未満、300未満、200未満、100未満、又は10未満の地球温暖化係数(GWP、100yr ITH)を有し得る。本明細書で使用する場合、GWPは、化合物の構造に基づく化合物の地球温暖化係数の相対的尺度である。化合物のGWPは、1990年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって規定され、2007年に改訂されており、特定の積分期間(ITH)にわたる、1キログラムのCO2放出による温暖化に対する、1キログラムの化合物放出による温暖化として計算される。
【0026】
【数1】
この式中、a
iは大気中の化合物の単位質量増加当たりの放射強制力(その化合物のIR吸光度に起因する大気を通る放射束の変化)であり、Cは化合物の大気濃度であり、τは化合物の大気寿命であり、tは時間であり、iは対象化合物である。一般的に許容されるITHは、短期間の効果(20年間)と長期間の効果(500年間以上)との間の折衷点を表す100年間である。大気中の有機化合物iの濃度は、擬一次速度式(すなわち、指数関数的減衰)に従うと仮定する。同じ時間間隔のCO
2の濃度は、大気からのCO
2の交換及び除去に関する、より複雑なモデルを組み込む(Bern炭素循環モデル)。
【0027】
いくつかの実施形態において、本開示のハイドロフルオロオレフィン化合物のフッ素含有量は、化合物をASTM D-3278-96 e-1試験法(「Flash Point of Liquids by Small Scale Closed Cup Apparatus」)による不燃にするのに十分となり得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、構造式(IA)によって表されるハイドロフルオロオレフィン化合物は、国際公開第2009079525号、同第2015095285号、米国特許第8148584号、J.Fluorine Chemistry,24(1984)93-104及び国際公開第2016196240号に記載の方法によって合成することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物又は作動流体は、上記のハイドロフルオロオレフィン化合物を、組成物の総重量に基づいて、少なくとも25重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも99重量%含むことができる。ハイドロフルオロオレフィンに加えて、組成物は、作動流体の総重量に基づいて、合計で最大75重量%、最大50重量%、最大30重量%、最大20重量%、最大10重量%、最大5重量%、又は最大1重量%の(個々に又は任意の組み合わせで)以下の構成成分:エーテル、アルカン、ペルフルオロアルケン、アルケン、ハロアルケン、ペルフルオロカーボン、全フッ素化三級アミン、ペルフルオロエーテル、シクロアルカン、エステル、ペルフルオロケトン、ケトン、オキシラン、芳香族、シロキサン、ハイドロクロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロエーテル、若しくはこれらの混合物;又はアルカン、ペルフルオロアルケン、ハロアルケン、ペルフルオロカーボン、ペルフッ素化三級アミン、ペルフルオロエーテル、シクロアルカン、ペルフルオロケトン、芳香族、シロキサン、ハイドロクロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロエーテル、若しくはこれらの混合物;の1つ以上を、含むことができる。このような追加成分は、組成物の特性を、特定の用途向けに改変又は強化するために選択できる。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物又は作動流体は、室温でASTM D150に従って測定したときに、2.5未満、2.4未満、2.3未満、2.2未満、2.1未満、2.0未満、又は1.9未満である誘電率を有し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物又は作動流体は、30~75℃、又は35~75℃、40~75℃、又は45~75℃の沸点を有し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物又は作動流体は、40℃より高い、又は50℃より高い、又は60℃より高い、70℃より高い、又は75℃より高いの沸点を有し得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示は、上述のハイドロフルオロオレフィン含有作動流体を含む浸漬冷却システムを対象とし得る。浸漬冷却システムは、単相又は二相浸漬冷却システムであってもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、浸漬冷却システムは、1つ以上の熱発生構成要素を冷却するための二相気化凝縮冷却システムとして稼働し得る。
図1に示すように、いくつかの実施形態では、二相浸漬冷却システム10は、内部空間15を有するハウジング10を含んでもよい。内部空間15の下部体積15A内に、上部液体表面20A(すなわち、液相20の最上部レベル)を有するハイドロフルオロオレフィン含有作動流体の液相20が配置されてもよい。内部空間15はまた、液体表面20Aからハウジング10の上部10Aまで延びる上部体積15Bを含んでもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、熱発生構成要素25は、作動流体の液相20に少なくとも部分的に浸漬される(及び完全に浸漬されるまで)ように、内部空間15内に配置されてもよい。すなわち、熱発生構成要素25は上部液体表面20Aの下方に部分的にのみ沈められているように図示されているが、いくつかの実施形態では、熱発生構成要素25は、液体表面20Aの下に完全に沈められてもよい。いくつかの実施形態では、熱発生構成要素は、コンピューティングサーバなどの1つ以上の電子デバイスを含み得る。
【0035】
様々な実施形態において、熱交換器30(例えば、凝縮器)は、上部体積15B内に配置されてもよい。概ね、熱交換器30は、発熱要素25によって生成される熱の結果として生成される作動流体の気相20Bを凝縮することができるように構成されてもよい。例えば、熱交換器30は、作動流体の気相の凝縮温度よりも低い温度で維持される外部表面を有してもよい。この点で、上昇気相20Bが熱交換器30と接触する際に熱交換器30に潜熱を放出することによって、熱交換器30で、作動流体の上昇気相20Bを液相又は凝縮物20Cに再凝縮することができる。次いで、得られた凝縮物20Cを、下部体積の15Aに配置された液相20に戻すことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、本開示は、単相浸漬冷却によって稼働する浸漬冷却システムを対象とし得る。概ね、単相浸漬冷却システムは、作動流体の液相に少なくとも部分的に浸漬される(及び完全に浸漬されるまで)ように、ハウジングの内部空間内に配置された熱発生構成要素を含むことができるという点で、二相システムのものに類似している。単相システムは、ポンプ及び熱交換器を更に含むことができ、ポンプは、作動流体を熱発生構成要素及び熱交換器に、そして熱発生構成要素及び熱交換器から移送させるように稼働し、熱交換器は作動流体を冷却するように稼働する。熱交換器は、ハウジング内又はハウジングの外部に配置されてもよい。
【0037】
本開示は、適切な二相及び単相浸漬冷却システムの例を記載しているが、本開示のハイドロフルオロオレフィン含有作動流体の利益及び利点は、任意の既知の二相又は単相浸漬冷却システムにおいて実現され得ることを理解されたい。
【0038】
いくつかの実施形態では、本開示は、電子部品を冷却するための方法を対象とし得る。概ね、本方法は、上述のハイドロオレフィン化合物又は作動流体を含む液体中に、熱発生構成要素(例えば、コンピュータサーバ)を少なくとも部分的に浸漬することを含むことができる。本方法は、上述のハイドロオレフィン化合物又は作動流体を使用して、熱発生構成要素から熱を伝達させることを更に含むことができる。
【0039】
実施形態の一覧
1.内部空間を有するハウジングと、
内部空間内に配置された熱発生構成要素と、
熱発生構成要素と接触するように位置付けられた、内部空間内の作動流体液と
を含む、浸漬冷却システムであって、
作動流体が構造式(IA)
【化6】
[式中、各R
f
1及びR
f
2は、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全ハロゲン化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全ハロゲン化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する]を有する化合物を含む、浸漬冷却システム。
【0040】
2.各Rf
1及びRf
2が、独立して、(i)1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分枝鎖の全フッ素化非環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有するか、又は(ii)3~7個の炭素原子を有する、全フッ素化5~7員環式アルキル基であり、任意に、O若しくはNから選択される1個以上の連結されたヘテロ原子を含有する、実施形態1に記載の浸漬冷却システム。
【0041】
3.Rf
1及びRf
2が、同じ全フッ素化アルキル基である、実施形態2に記載の浸漬冷却システム。
【0042】
4.構造式(IA)を有する化合物が、作動流体中の構造式(IA)を有する化合物と構造式(IB)
【化7】
を有する化合物との総重量に基づいて、少なくとも90重量%の量で作動流体中に存在する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0043】
5.構造式(IA)を有する化合物が、作動流体の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量で作動流体中に存在する、実施形態1~4のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0044】
6.作動流体が2.5未満の誘電率を有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0045】
7.作動流体が30~75℃の沸点を有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0046】
8.作動流体が75℃を超える沸点を有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0047】
9.熱発生構成要素が電子デバイスを含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0048】
10.電子デバイスがコンピューティングサーバを含む、実施形態9に記載の浸漬冷却システム。
【0049】
11.コンピューティングサーバが3GHzを超える周波数で稼働する、実施形態10に記載の浸漬冷却システム。
【0050】
12.作動流体液の気化時に作動流体の蒸気が接触するようにシステム内に配置された熱交換器を更に含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0051】
13.二相浸漬冷却システムを含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0052】
14.単相浸漬冷却システムを含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0053】
15.作動流体を、熱交換器へ及び熱交換器から移送するように構成されているポンプを更に含む、実施形態1~11又は14のいずれか1つに記載の浸漬冷却システム。
【0054】
本開示の操作を、以下の詳細な実施例に関連して更に説明する。これらの実施例は、様々な実施形態及び技術を更に例示するために提供される。しかしながら、本開示の範囲内に留まりつつ、多くの変更及び修正を加えることができるということが理解されるべきである。
【実施例】
【0055】
本開示について、単なる例示を目的とする以下の実施例でより詳細に記述するが、それは、本開示の範囲内の多数の変更及び変形が、当業者に明らかにされるからである。特に明記しない限り、以下の実施例において報告される全ての部、百分率、及び比は、重量に基づく。試薬は、特に示さない限り、Sigma Aldrich Company,St.Louis,MO,USAから購入した。
【0056】
実施例1、3及び4、並びに比較例CE2、CE3、及びCE4は、Synquest Laboratories,Alachua FL,USAから購入し、受け取ったままの状態で使用した。
【0057】
実施例2を調製するために、五フッ化アンチモン(30g、138.41mmol)を600mLのParr反応器に装入した。反応器を密封し、ドライアイスで冷却した。次いで、反応器が冷えているときに、真空を適用した。次いで、1,1-ジフルオロ-N-(トリフルオロメチル)メタンイミン(205g、1541.1mmol、ビス(トリフルオロメチル)カルバミンフルオリドの脱炭酸によって調製され、これは、ジメチルホルムアミドの電気化学的フッ素化によって調製され得る)及び(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(240g、2104.5mmol、Honeywellから入手可能)を、次いで液体として反応器のヘッドスペースに順次装入した。次いで反応器をスタンドに置き、攪拌し、室温まで加温した。室温になったら、反応器の熱を徐々に70℃に上昇させた。16時間保持した後、反応器を冷却し、通気し、氷上に注いだ。回収された粗フルオロケミカル生成物の重量は138gであった。GC分析によれば、回収された総質量の約68%は所望の生成物である。その後、この材料を分留によって精製し、構造は、GC/MS及びF19及びH1 NMRによって、主に3,3,3-トリフルオロ-N,N-ビス(トリフルオロメチル)プロパ-1-エン-1-アミン(E)の異性体であることが確認された。
【0058】
比較例CE1を調製するために、オーバーヘッド攪拌機、熱電対、冷水凝縮器、乾燥N2ライン及び添加漏斗を備えた1Lの3つ口丸底フラスコに、ホウ化水素ナトリウム(5.23g、138mmol)及びジエチレングリコールジメチルエーテル(102g)を装入した。混合物を攪拌して、ホウ化水素の一部を溶解させた。次いで、混合物を-72℃まで冷却し、1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-(トリフルオロメチル)ペンタ-2-エン(103g、343.285mmol)を、-72℃~-63℃の温度を維持すると同時に、攪拌しながら添加漏斗を介して滴加した。添加が完了したら、バッチを-72℃で更に1時間攪拌した。次いで、反応混合物を15℃に加温し、10gの水及び400gの35%H3PO4でクエンチした。反応混合物を分液漏斗に移し、90gの生成物を回収した。GC-MSの結果は、粗生成物が、主に一水和物及び二水和物から構成されていたことを示す。所望の一水和物を分留により更に精製し、純粋な材料を得た。材料の沸点は52℃である。GC/MS及びF19及びH1 NMRによって構造を確認した。
【0059】
1KHzで報告された平均値を用いて、室温でASTM D150を使用して、誘電率を測定した。
【表1】
【表2】
【0060】
一部の実施形態の説明のために、本明細書では、特定の実施形態を例示し、説明したが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、広く多様な代替的かつ/又は同等な実装により、示されかつ説明された特定の実施形態を置き換え得ることを理解するであろう。