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特許7186209水溶性食物繊維を含む家畜用栄養補助組成物及び該栄養補助組成物を用いた家畜の体調管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】水溶性食物繊維を含む家畜用栄養補助組成物及び該栄養補助組成物を用いた家畜の体調管理方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20221201BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20221201BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/163
A61K31/715
A61K36/48
A61P3/00 171
A61P43/00 171
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020217274
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102500
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2021-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:令和2年7月1日 ウェブサイトのアドレス:https://www.shima-tra.co.jp/products/detail/334
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503229591
【氏名又は名称】島貿易株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520513565
【氏名又は名称】ネキシラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・フィネ
(72)【発明者】
【氏名】荒木 徹
(72)【発明者】
【氏名】森国 清幸
(72)【発明者】
【氏名】堀田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】徳竹 亜耶
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】土屋 真理子
【審判官】桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-99306(JP,A)
【文献】特表2011-529697(JP,A)
【文献】特表2011-527194(JP,A)
【文献】特開2005-187442(JP,A)
【文献】特表2007-532609(JP,A)
【文献】第一回 国際畜産資材EXPOに出展致しました。,[online],2019年10月23日掲載[2021年4月13日検索],インターネット<URL,https://www.shima-tra.co.jp/news/detail/105>
【文献】[飼料原料]アカシア樹液からの100%天然 水溶性植物繊維!,[online],2020年7月3日掲載[2021年4月13日検索],インターネット<URL,https://ls.ipros.jp/product/detail/print/?objectId=2305245&hub=45+google>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビアガムを含み、反芻動物において下記(3’)に示される作用を有し、かつ非反芻動物においてリーキーガット症候群の改善及び下記(4)~(6)に示される作用のうち1つ又は2つ以上を有する、家畜用栄養補助組成物:
(3’)ルーメン内において、pHの低下を抑制しつつ短鎖脂肪酸量を増大すること
(4)腸内における細菌叢の改善
(5)絨毛の伸長、及び
(6)腸内における短鎖脂肪酸量の増大。
【請求項2】
反芻動物用である、請求項に記載の家畜用栄養補助組成物。
【請求項3】
非反芻動物の腸又は反芻動物のルーメンにおける短鎖脂肪酸の量を増大するために用いられる、請求項に記載の家畜用栄養補助組成物。
【請求項4】
容器に収容され、該容器は、家畜用栄養補助組成物の作用として、
(3’)反芻動物のルーメン内において、pHの低下を抑制しつつ短鎖脂肪酸量を増大すること、及び
(4)非反芻動物の腸内における細菌叢の改善
(5)非反芻動物の絨毛の伸長、又は
(6)非反芻動物の腸内における短鎖脂肪酸量の増大
ついて記載するラベルを含む、請求項1又は3に記載の家畜用栄養補助組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の家畜用栄養補助組成物とともに飼料を含む、家畜用飼料。
【請求項6】
飼料が基礎飼料である請求項に記載の家畜用飼料。
【請求項7】
請求項1及び3~4のいずれかに記載の家畜用栄養補助組成物、又は該家畜用栄養補助組成物とともに飼料を含む家畜用飼料を反芻動物又は非反芻動物に給与し、該反芻動物において
(1’)ルーメン内における細菌叢の改善、もしくは
(3”)ルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
を行い、非反芻動物において
腸内における細菌叢の改善
)絨毛の伸長、もしくは
腸内における短鎖脂肪酸量の増大
を行う方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法を実施することにより、反芻動物又は非反芻動物の体調を維持又は改善する方法。
【請求項9】
反芻動物の体調の維持又は改善が、反芻動物のルーメン内pHの変動抑制によるものである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性食物繊維を含む家畜用栄養補助組成物、及び該栄養補助組成物を用いた家畜の体調を管理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜用栄養補助組成物(又は家畜用栄養補給剤、家畜用栄養サプリメント)は知られており、家畜の体力・健康維持や家畜の生産性の向上のために用いられている。
家畜用栄養補助組成物のうち、家畜の腸内の細菌叢を改善し腸内環境を整える物質は、プレバイオティクスの一種として知られている。プレバイオティクスには水溶性食物繊維が包含される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-99306号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「各種試験結果掲載資料(ファイバーガムフィード)」、https://premium.ipros.jp/shima/catalog/detail/470148/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれまでの家畜用栄養補助組成物は、給与できる家畜の範囲が必ずしも広くない汎用性に欠けるものが多く、そのため、汎用性が高い家畜用栄養補助組成物に対する需要が存在すること、及び、反芻動物及び非反芻動物のいずれにも用いることができる家畜用栄養補助組成物は数が少ないことを、本発明者らは知り及んだ。
したがって本発明は、家畜の体調管理に優れる、汎用性が高い家畜用栄養補助組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、これまで知られていなかった作用を有する特定の資材を用いることにより上記課題が解決できる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1] 水溶性食物繊維を含み、反芻動物において下記(1)~(3)に示される作用のうち1つ又は2つ以上を有し、、非反芻動物においてリーキーガット症候群の改善及び下記(1)~(3)に示される作用のうち1つ又は2つ以上を有する、家畜用栄養補助組成物:
(1)腸内又はルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、及び
(3)腸内又はルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大。
[2] 水溶性食物繊維がアラビアガムである[1]の家畜用栄養補助組成物。
[3] 反芻動物用である、[1]又は[2]の家畜用栄養補助組成物。
[4] 家畜の腸又はルーメンにおける短鎖脂肪酸の量を増大して、該家畜における腸内及びルーメン内の環境を調整するために用いられる、[1]~[3]のいずれかの家畜用栄養補助組成物。
[5] 容器に収容され、該容器は、家畜用栄養補助組成物の作用として、
(1)腸内又はルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、及び
(3)腸内又はルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
のうち1つ又は2つ以上について記載するラベルを含む、[1]~[4]のいずれかの家畜用栄養補助組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかの家畜用栄養補助組成物とともに飼料を含む、家畜用飼料。
[7] 飼料が基礎飼料である[6]の家畜用飼料。
[8] [1]~[5]のいずれかの家畜用栄養補助組成物、又は[6]もしくは[7]の家畜用飼料を家畜に給与し、該家畜において
(1)腸内もしくはルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、又は
(3)腸内もしくはルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
を行う方法。
[9] [8]の方法を実施することにより、家畜の体調を維持又は改善する
方法。
[10]
家畜の体調の維持又は改善が、反芻動物のルーメン内pHの変動抑制によるものである、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反芻動物及び非反芻動物のいずれにおいても、家畜個体の体調を良好に管理し、該家畜個体の健康を維持することができる。
家畜における腸内及びルーメン内の環境の調整が、家畜の肥育には必要であることは知られている。水溶性食物繊維のプレバイオティクス機能としての有効性は知られていたが、リーキーガット症候群の改善に寄与する原料としての科学的データは乏しく、とくに日本国内においては初めてなされた試験によるデータを与えるものである。しかも水溶性食物繊維の反芻動物のルーメンにおける作用はこれまで知られていなかった。
これに対し本発明の家畜用栄養補助組成物は、pHに影響を与えないか又は影響を抑制しながら食餌の消化率の向上を促す作用を有することが明らかになった。かかる作用により本発明の家畜用栄養補助組成物は、反芻動物におけるルーメンアシドーシス及び非反芻動物におけるリーキーガットを回避させ(予防)、又は改善する(治癒)。かかる効果について、本発明においては生体を用いて確認がなされている。
水溶性食物繊維の反芻動物のルーメンにおける作用が知られていなかったことを併せ考えると、本発明の家畜用栄養補助組成物が奏する上記効果は、従来技術からは当業者といえども予測できない格別なものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「家畜用栄養補助組成物」は家畜が飼料から得る栄養を補給する剤であり、一般に「家畜用栄養補給剤」、「家畜用栄養サプリメント」又は「飼料原料」と称されることもあるものである。
本明細書において、「添加」又は「添加する」の語は、添加の対象となる2つの成分、物質及び材料のうち、両方が混在している状態にすることを意味する。すなわち、「AをBに添加する」の記載は、必ずしもBにAを加えることのみを限定的に意味するものではなく、AにBを加えることも包含して意味する。本明細書において、「混和」、「混合」及び「配合」についても同様な意味を有する。
また本明細書において、「%」又は「ppm」により表される量・割合(濃度)は、他に特段の記載がない限り重量による割合を示す。
【0010】
本発明において、媒体が成分を「含む」の語は、当該成分が当該媒体に存在することを意味し、成分の由来は限定されない。すなわち、前記「含む」には、元々原料中に存在している、原料中に存在していなかった成分を外部から添加する、あるいは製品の製造過程において生じるといった、当該成分が存在することとなったいずれの場合も包含される。
【0011】
本発明は下に再掲して示す、上記[1]の発明に基礎を置くものである:
水溶性食物繊維を含み、反芻動物及び非反芻動物において、リーキーガット症候群の改善及び下記(1)~(3):
(1)腸内又はルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、及び
(3)腸内又はルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
に示される作用のうち1つ又は2つ以上の作用を有する、家畜用栄養補助組成物。
すなわち本発明は、食物性繊維の作用として知られていたリーキーガット症候群の改善に加えて、上記(1)~(3)に示される作用を有する家畜用栄養補助組成物に基礎を置くものである。
【0012】
本発明の家畜用栄養補助組成物における水溶性食物繊維として、アラビアガムは好ましい。
アラビアガムは、アカシア属の植物の樹液から得られる多糖類であり、ガラクトース、アラビノース、ラムノース、及びグルクロン酸を主な構成糖とする。
【0013】
本発明において用いられるアラビアガムは限定されないところ、本発明におけるアラビアガムとしてファイバーガム(登録商標)フィード(Fibregum(登録商標) feed、島貿易株式会社)は好ましい。
【0014】
ファイバーガム(登録商標)フィードは、アカシア樹液からの水溶性食物繊維含有組成物であり、非特許文献1に開示されている。ファイバーガム(登録商標)フィードは、化学的な処理または酵素処理を伴わない、物理的工程のみによって精製された難消化性高分子多糖類であり、固形分の90%(AOAC法985.29)以上が水溶性食物繊維からなる。ファイバーガム(登録商標)フィードはまた、分子量が大きく腸全体で働く持続型プレバイオティクスである(非特許文献1)。
【0015】
本発明の家畜用栄養補助組成物の作用について説明する。
(1)腸内及びルーメン内における細菌叢の改善
本発明の家畜用栄養補助組成物により奏される腸内及びルーメン内における細菌叢の改善は、例えば、善玉菌である乳酸菌・酪酸菌(ラクトバチルス属細菌及びビフィドバクテリウム属細菌)の比率の増大、及び悪玉菌(病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌等)の減少であるが、かかる増大及び減少に限定されない。
【0016】
(2)腸内及びルーメン内における絨毛の伸長
本発明における絨毛の伸長は、本発明の家畜用栄養補助組成物を与えない場合と比較して、絨毛の長さが長くなることを意味する。本発明の家畜用栄養補助組成物を与えることにより、絨毛がすり減っている状態が改善され絨毛の長さが長くなるところ、長くなる割合は限定されない。
【0017】
(3)腸内及びルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
本発明における、腸内及びルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大は、本発明の家畜用栄養補助組成物を与えない場合と比較して、腸内及びルーメン内における短鎖脂肪酸量が多くなることを意味する。前記多くなる割合は限定されない。
【0018】
本発明の家畜用栄養補助組成物は、反芻動物及び非反芻動物のいずれにおいても用いられる。
本発明における反芻動物は限定されず、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びシカが例示される。本発明の家畜用栄養補助組成物及び飼料は、反芻動物としてはウシにとくに好適に用いられる。
本発明における非反芻動物は限定されず、ブタ、ニワトリ、及びウマが例示される。本発明の家畜用栄養補助組成物及び飼料は、非反芻動物としてはブタにとくに好適に用いられる。
本発明の家畜用栄養補助組成物が用いられる生体の生育ステージは限定されず、本発明の家畜用栄養補助組成物は家畜の成体及び非成体のいずれにおいても用いられる。
また、本発明の家畜用栄養補助組成物は、一般に家畜とされる上記各種動物以外に適用してもよい。
【0019】
本発明の家畜用栄養補助組成物は、反芻動物用としてもよい。
反芻動物用の場合、少なくとも(3)腸内及びルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大、の作用を有する本発明の家畜用栄養補助組成物は好ましく、ルーメンにおいて短鎖脂肪酸量の増大する作用を有する本発明の家畜用栄養補助組成物はとくに好ましい。
本発明の家畜用栄養補助組成物は、反芻動物においては食欲の維持による栄養状態の改善により、ヒートストレスに抗して乳量や乳質を良好に確保できる効果を奏しえる。理論に拘泥するものではないが、家畜用栄養補助組成物は、反芻動物においてエネルギーとして用いられる揮発性脂肪酸(「VFA」。非反芻動物においては短鎖脂肪酸と称されることがある)である酢酸、プロピオン酸及び/又はn-酪酸の腸内及びルーメン内における存在量を良好に確保することにより、上記のような乳量や乳質を良好に確保できる効果を奏しえる可能性がある。
本発明の家畜用栄養補助組成物はまた、肉牛においても好適に用いられる。肉牛には飼料として米、大豆及びコーンといった穀類・豆類由来の濃厚飼料が給与されることが多いため、ルーメン内のpHが、ウシの生育に好適である約6~7より低下しやすい飼料の給与環境にある。これに対し本発明の家畜用栄養補助組成物は、揮発性脂肪酸として酢酸、プロピオン酸及び/又はn-酪酸の産生を促し肉牛のルーメンのpHも約6~7より大きく低下しないように保つことにより、ルーメンアシドーシスを回避又は改善しやすくすることができるのである。
【0020】
なお、ある物質又は組成物が生体におけるVFAを増加させるか否かは、生体からのルーメン液を用いたインビトロの試験により評価することができる。本発明の家畜用栄養補助組成物についても、かかるインビトロの試験によりVFAの量に対する影響を調べることができる。
【0021】
本発明の家畜用栄養補助組成物は、非反芻動物に用いられる場合、
(1)腸内における細菌叢の改善、及び
(2)絨毛の伸長、の作用を有するものは好ましく、
(3)腸内における短鎖脂肪酸量の増大、の作用をさらに有するものはとくに好ましい。
【0022】
本発明の家畜用栄養補助組成物は、非反芻動物に用いられる場合、腸(小腸、大腸、空腸、及び盲腸)における透過性抑制効果によりリーキーガットを防ぎ、腸内環境が整えられることにより生体の免疫力の向上に寄与する。
なお、リーキーガットが生じると、毒素や悪玉菌が血流に乗ることにより、生体の健康状態が害される。リーキーガットの抑制は、腸内におけるラクチュロース/マンニトール比の低下や盲腸粘膜のタイトジャンクション関連遺伝子の発現度合いの向上により特定することができる。なお、pH異常はリーキーガットの要因の一つである。
このように、腸内又はルーメン内における好適なpHがそれぞれ異なる各家畜群のいずれにおいてもpHを好適に保つことができるという本発明の家畜用栄養補助組成物が奏する効果は、従来技術からは予測することができない格別な効果である。
【0023】
家畜用栄養補助組成物を給与する量は限定されず、成長過程に応じて給与量を調整してよく、例えば通常の飼料の量の約0.1重量%~約3.5重量%の量で給与してよい。非反芻動物においては、例えば約0.15重量%~約0.5重量%の量は好ましく、反芻動物においては、例えば約0.8%~約3.5重量%の量は好ましい。前記給与する量は、給与対象である家畜の種類に応じて調整してよい。
【0024】
本発明の家畜用栄養補助組成物のうち、家畜の腸又はルーメン(反芻動物における第一胃)における短鎖脂肪酸の量を増大して、該家畜における腸内及びルーメン内の環境を調整するために用いられるものは好ましい。
【0025】
また、本発明の家畜用栄養補助組成物のうち、容器に収容され、該容器は、本発明の家畜用栄養補助組成物の作用として、
(1)腸内又はルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、及び
(3)腸内又はルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
のうち1つ又は2つ以上を記載するラベルを含む、本発明の家畜用栄養補助組成物は好ましい。リーキーガット症候群の改善について記載するラベルを含む本発明の家畜用栄養補助組成物は、より好ましい。
かかる本発明の家畜用栄養補助組成物は補助組成物の有効成分を変えることなく、使用者が本発明の家畜用栄養補助組成物の効果を明確に認識することができるといった効果を奏する。
前記ラベルの形状、材質等は限定されず、紙又はプラスチック等のものが例示される。該ラベルは、前記容器と一体化し、記載内容が容器の一部に印刷されているものであってもよい。
【0026】
<製造方法>
本発明の家畜用栄養補助組成物の製造方法としては、アカシアの樹液を精製したものが挙げられる。
本発明の家畜用栄養補助組成物の形態は限定されず、そのまま給与してよいし、製剤化して給与してもよい。
【0027】
<家畜用飼料>
本発明の家畜用栄養補助組成物は、単独で家畜に給与してよいし、通常の飼料と配合されて家畜用飼料として家畜に給与してもよい。本発明は本発明の家畜用栄養補助組成物とともに飼料を含む、家畜用飼料にも関する。
【0028】
本発明の家畜用飼料において本発明の家畜用栄養補助組成物と配合される飼料は限定されず、一般飼料(繁殖用飼料)及び基礎飼料が例示される。
上記一般飼料は、基礎飼料にビタミン類等をプレミックスしてなる配合飼料である。かかる一般飼料は限定されず、粗たん白質、粗脂肪、粗繊維、及び粗灰分などが例示される。
また、本発明の家畜用栄養補助組成物と配合される飼料として、基礎飼料は好ましい。本発明の家畜用飼料に用いられる基礎飼料は限定されず、コーン、小麦等の穀物類、豆類、魚粉、及び肉紛などが例示され、これらの基礎飼料からなる単体飼料は好ましい。
本発明の家畜用飼料には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の飼料添加物を添加してよい。他の飼料添加物として、ミネラル、ビタミン及びアミノ酸などが例示される。
【0029】
本発明の家畜用飼料を家畜に給与する方法は、限定されず、本技術分野における通常の給与する方法であってよい。
【0030】
本発明の家畜用飼料の製造方法は限定されず、本発明の家畜用栄養補助組成物を添加物として通常の飼料と混和して製造してよい。本発明の家畜用栄養補助組成物と通常の飼料とを一つの容器に共存させてなる家畜用の飼料は、本発明の家畜用飼料に包含される。
【0031】
<家畜の体調を管理する方法>
本発明により、上記いずれかの本発明の家畜用栄養補助組成物、又は上記本発明の家畜用飼料を家畜に給与し、該家畜において
(1)腸内もしくはルーメン内における細菌叢の改善
(2)絨毛の伸長、又は
(3)腸内もしくはルーメン内における短鎖脂肪酸量の増大
を行う方法、すなわち家畜の体調を管理する方法、も与えられる。
かかる方法における本発明の家畜用栄養補助組成物、又は家畜用飼料を家畜に給与する方法は限定されず、本技術分野における通常の給与する方法であってよい。
【0032】
本発明により、上記の方法を実施することにより、家畜の体調が維持又は改善される。したがって、本発明により、家畜の体調を維持又は改善する方法も与えられる。
これらの方法のうち、反芻動物におけるアシドーシス又は非反芻動物におけるリーキーガット症候群を改善する本発明の方法は好ましい。
また、上記方法のうち、家畜の体調の維持又は改善において、反芻動物のルーメン内pHの低下を抑制することによる、該pHの変動抑制によるものである本発明の方法も好ましい。
【実施例
【0033】
以下に実施例を示して、本発明についてさらに説明する。本発明は、いかなる意味においてもこれらの例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]離乳後期仔ブタを用いたファイバーガムフィード給与による膜透過性亢進抑制効果
●材料と方法
試験期間:18年12月~19年3月
被験物質:ファイバーガム(登録商標)フィード
供試動物:一般的な一貫経営農場で飼育されている交雑種仔豚6頭(30日齢、去勢オス)
ベース飼料:試験用飼料(国内配合飼料製造メーカー製)
飼育期間:6週間
1群:被験物質無給与の陰性対照群
2群:ファイバーガム(登録商標)フィード0.15%添加飼料給与群
計2群 X 3頭。

●結果:試験開始後42日でのラクチュロース/マンニトール比及び盲腸粘膜のタイトジャンクション関連遺伝子が顕著に改善しており、ファイバーガム(登録商標)フィード給与によるリーキーガット改善がみられた。
ファイバーガム(登録商標)フィードは、大腸で腸内細菌によって発酵を受け、生産された短鎖脂肪酸がリーキーガット改善に関与していると考えられた。
【0035】
[実施例2]離乳後期仔ブタを用いたファイバーガム(登録商標)フィード給与による膜透過性亢進抑制効果における小腸絨毛高さ測定
●材料と方法
試験期間:19年4月~19年5月
被験組織:実施例1で解剖した離乳後期仔ブタの小腸組織(18検体)

●結果:小腸5(空腸)における絨毛の高さがファイバーガム(登録商標)フィード給与で高値を示していた。
【0036】
[実施例3]繁殖母豚へのファイバーガム(登録商標)フィード給与による腸内細菌叢の変化
●材料と方法
試験期間:19年3月~19年9月
被験物質:ファイバーガム(登録商標)フィード
供試動物:香川大学農学部付属農場で飼育されている繁殖用母豚 4頭。
(尚、健康な豚を使用し、試験期間をとして抗菌剤の投与などは行わない。)
ベース飼料:市販繁殖母豚用飼料(ヘルシー種豚、国内配合飼料製造メーカー製)
試験内容:繁殖母豚4頭にファイバーガム(登録商標)フィードを給与
・0~3週 0.05% / 3~6週 0.15% / 6~9週 0.5% / 9~12週 1.00% をベース飼料に添加した。段階的に濃度を高めて給与した。
給与期間3週間の最終日に直腸便を採取し、有機酸濃度、細菌叢、を測定した。

●結果
結果1.:有機酸濃度は、酢酸・プロピオン酸及びn-酪酸がファイバーガムフィード用量依存的に増加し、ファイバーガム(登録商標)フィード0.5%添加で無添加区と比較して有意に高値を示した。n-酪酸はファイバーガム(登録商標)フィード0.15%添加で無添加区と比較し約2倍に増加していた。

結果2.:ファイバーガム(登録商標)フィードを0.15%添加し3週間給与したところ、糞便中のビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属の占有率が増えた。
【0037】
[実施例4]離乳後期仔ブタを用いたファイバーガム(登録商標)フィード給与による大腸発酵促進効果確認
●材料と方法
試験期間:19年10月~19年12月
被験物質:ファイバーガム(登録商標)フィード
供試動物:日清丸紅飼料株式会社で飼養されている交雑種仔ブタ(35日齢)16頭
ベース飼料:離乳後期試験用飼料(抗菌剤無添加、国内配合飼料製造メーカー製)
試験群: 1群:被験物質無給与の陰性対照群
2群:ファイバーガムフィード0.15%添加飼料給与群
計2群 X 8頭。
試験内容:35日齢で飼料を離乳後期飼料に変更し、71日齢まで飼育した。

●結果
結果1. 血漿中のラクチュロース/マンニトール比がファイバーガム(登録商標)フィード給与群で低値を示した。
腸管の細胞同士の結合が強まることで腸透過性が下がったと推測できる。
結果2. 盲腸内容物の有機酸濃度測定。酢酸及びプロピオン酸濃度がファイバーガム(登録商標)フィード給与で高値を示した。
結果3. 門脈血中の有機酸濃度測定。酢酸及びプロピオン酸濃度がファイバーガム(登録商標)フィード給与で高値を示した。
結果4. 小腸の長さ及び空腸における絨毛の高さにおいてファイバーガム(登録商標)フィード給与で高値を示した。
【0038】
[実施例5]本発明の家畜用栄養補助組成物のヒツジのルーメン液を用いたインビトロ培養試験(ルーメン内の発酵性状を推定する)
●材料と方法
試験期間:19年10月1日~19年10月15日
供試物質:ファイバーガム(登録商標)フィード
供試動物:ヒツジ3頭
試験内容:朝の給餌前のルーメン液を採取。0.2%, 1.0%, 2.5%を添加し培養を行った。

●結果
培養開始後24時間後にVFA(揮発性脂肪酸)濃度を測定した結果、用量依存的に酢酸、プロピオン酸、及びn-酪酸が増加した。乳酸蓄積は認められなかった。一方で、培養後4時間・8時間の培養液では酢酸やプロピオン酸の生産の度合いは相対的に低かったことから、ファイバーガム(登録商標)フィードは他の糖質と比較して、ルーメンにおいて緩やかに資化される糖質であると推察された。
【0039】
[実施例6]本発明の家畜用栄養補助組成物のウシのルーメン液を用いたインビトロ培養試験-1(ルーメン内の発酵性状を推定する)
●材料と方法
試験期間:19年11月18日~19年12月23日
供試物質:ファイバーガム(登録商標)フィード
供試動物:乾乳期乳牛2頭
試験内容:朝の給餌前のルーメン液を採取。それぞれ2.5%を添加し培養を行った。

●結果:ファイバーガム(登録商標)フィードの基質発酵性は比較的緩やかであり、培養後4時間での乳酸蓄積も認められず主に酢酸やプロピオン酸に変換されていた。この傾向は培養後24時間でも同様であり、ファイバーガム(登録商標)フィードはルーメン内細菌によって主に酢酸とプロピオン酸になると考えられた。ルーメン液中の細菌叢解析結果からは、ファイバーガム(登録商標)フィードを特徴的に資化する細菌は認められず、元のルーメン内細菌叢を変えないことがファイバーガム(登録商標)フィードの特徴であることが示された。
【0040】
<実施例1~6についての総合考察>
(1)実施例1~4においてはブタを対象とした試験であるところ、これらの試験の結果からファイバーガム(登録商標)フィードを給与することについて以下のことが明らかになった。
離乳後期仔豚での膜透過性亢進抑制効果が認められた(実施例1及び4)
離乳後期仔豚及び母豚では、有機酸(酢酸・プロピオン酸)濃度が高値を示した(実施例3及び4)。
離乳後期仔豚では絨毛の長さで高値を示した(実施例2及び4)
母豚では 糞便中のビフィドバクテリウム属とラクトバチルス属の占有率が増大した(実施例3)。
【0041】
(2)実施例5及び6においては反芻動物を被検動物とした試験が行われた、ヒツジ及びウシのインビトロ試験において、ルーメン内での発酵性状を確認した。
VFA(揮発性脂肪酸)濃度を測定した結果、いずれにおいても、酢酸・プロピオン酸の増加が認められた。
これらの結果から、ファイバーガム(登録商標)フィードは、飼料へ添加し給与することにより、腸内環境改善のみならず、反芻動物においてはルーメン内でのVFAの増加といった、飼料に求められる機能を増大させる家畜用栄養補助組成物であることが明らかになった。
【0042】
[実施例7]本発明の家畜用栄養補助組成物のウシのルーメン液を用いたインビトロ培養試験-2(ルーメン内の発酵性状を確認する)
1.材料及び方法
被験物質:ファイバーガム(登録商標)フィード(FG)
対照物質:バレイショデンプン(PS)
供試動物:第一胃カニューレ装着コリデール系緬羊4頭

2.飼育条件
濃厚飼料多給(濃厚飼料:ライグラスストロー= 6 : 4 )2頭、
粗飼料のみ給与(ライグラスストロー:ヘイキューブ= 6 : 4 )2頭、
計4頭のヒツジを用いて試験を行った。3週間以上抗菌剤などの投与を行っていない事 を確認し、1日1頭当たり体重の2%量の同一飼料を2週間給与した。

3.試験内容
朝の給餌前にルーメン液を採取し、同一飼料を給与した2頭のルーメン液を等量混合した。濾過後、遠心分離し上清を人工唾液と1:4の割合で混合して培養液とした。

4.測定実施項目
(i)有機酸濃度測定 (ii)発酵ガスの組成の特定 (iii)消化率の測定 (iv)pHの測定
【0043】
5.結果
(i)有機酸濃度
濃厚飼料多給においては、培養後48時間におけるプロピオン酸及び総揮発性脂肪酸がPS区に比べFG添加区の方が、それぞれについて15%及び10%高い値を示した。

(ii)発酵ガス
メタンガス発生量について、濃厚飼料多給においては、24時間培養、48時間培養共にFG添加区の方が低値を示した。すなわち、24時間培養及び48時間培養において、それぞれ平均7%及び5%の割合で、FG添加区においてはバレイショデンプンを用いた対照区よりメタンガスの発生を抑制した。

(iii)消化率
濃厚飼料多給においては、培養後24時間における乾物消化率及びNDF消化率がFG添加で顕著に改善される傾向があった。乾物消化率では10%、NDF消化率では8%の割合で、FG添加区において対照区より高かった。

(iv)pH
FG添加区において、pHが6.25を下回ることはなかった。
【0044】
[実施例8]生体における本発明の家畜用栄養補助組成物の効果確認試験
1.試験目的
反芻動物(ヒツジ)にファイバーガムフィードを給与して、ルーメン発酵性状の変化及び微生物叢に及ぼす影響を検討する。

2.試験期間
試験開始 2020年8月
試験終了 2020年11月
馴致9日間+本試験5日間の14日間を4期、計56日間行った。

3.材料及び方法
(1)被験物質 ファイバーガム(登録商標)フィード(FG)
トップドレスにて、全飼料の重量に対して1.0%、2.0%又は3.0%を給与した。

(2)供試動物
第一胃カニューレ装着コリデール系緬羊2頭、未装着緬羊2頭であった。

4.飼育条件
京都府内で飼育されているヒツジ4頭を用いて試験を行った。なお、3週間以上抗菌剤などの投与を行っていないことを確認した。
濃厚飼料:ライグラスストロー=6:4の飼料を、1日当たり体重の1.8%量、試験期間を通して9時と16時に等量で分与した。
飲水は試験期間を通して自由摂取とした。

5.試験設計
ラテン方格法を採用した。
各被験物質を10日間給与後、4日間のサンプリング期間を設け、給与最終日朝の給餌前にルーメン液を経口により採取した。
採取したルーメン液の一部は4重ガーゼで濾過後,濾液をMcDougall's Bufferで2倍希釈し,その5mLを25mL容バイアル瓶に加え,気相を窒素ガスで置換し,ブチルゴム栓とアルミシールを用いて密栓した後、37℃で4時間静置培養を行った。1処理区につき,2反復で培養を行った。培養後のボトルは,氷冷下で培養を停止させた後,以下の測定に供試した。

6.測定
馴致9日間に被験物質を給与後、5日後の朝の給餌前に血液を採収し、ルーメン液を給餌4時間後に採収した。
上記培養による培養済みの培養液サンプルについて、ガスクロマトグラフィーで短鎖脂肪酸濃度を測定するとともにpHを測定した。
【0045】
7.結果
下表に示すとおりであった。
【表1】


すなわちファイバーガム(登録商標)フィード(FG)を給与することにより、短鎖脂肪酸(揮発性脂肪酸)の総濃度(TVFA)は増大した。
一方、pHはファイバーガム(登録商標)フィード(FG)を給与してもpHは6.7を下回ることはなく、対照区(6.96)から顕著に低下することはなかった。
これらの結果から、ファイバーガム(登録商標)フィードは、pHを低下させることなく揮発性脂肪酸の産生を促進する作用を有することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、家畜の体調管理に優れる、汎用性が高い家畜用栄養補助組成物を提供される。したがって本発明は家畜用飼料生産業及び畜産業ならびにそれらの関連産業の発展に寄与するところ大である。