(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】液体試料中の特定の分析物を検出するための装置および方法、並びに前記装置の使用
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20221201BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20221201BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/30 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/32 20060101ALI20221201BHJP
C12Q 1/58 20060101ALI20221201BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20221201BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20221201BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20221201BHJP
C12N 9/80 20060101ALN20221201BHJP
C12N 9/08 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
C12M1/34 E
C12M1/34 B
G01N35/10 A
G01N37/00 101
C12Q1/02
C12Q1/26
C12Q1/28
C12Q1/30
C12Q1/32
C12Q1/58
C12N9/04 F
C12N9/02
C12N9/00
C12N9/80 Z
C12N9/08
(21)【出願番号】P 2020500219
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2018063865
(87)【国際公開番号】W WO2019007588
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102017211478.9
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519365311
【氏名又は名称】アンヴァジョ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Anvajo GmbH
【住所又は居所原語表記】Zwickauer Str.46, 01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】フラエドリック ステファン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-048198(JP,A)
【文献】特表2011-517777(JP,A)
【文献】特開2007-163309(JP,A)
【文献】特開昭59-140876(JP,A)
【文献】広瀬 宗孝ら,ウレアーゼ添加セルロースゲルを用いた全血における尿素連続測定法,人工臓器,1990年12月31日,19(3),p1227-1229
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
C12N
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の特定の分析物を、該分析物の酵素触媒および/または酸媒介変換により、少なくとも1つのガスを生成させて、検出するための装置であって、
a) 少なくとも1つの流体ライン;
b) 液体試料を受容するための少なくとも1つの受容ゾーン;
c) i)測定される分析物の変換を触媒して、少なくとも1つのガスを生成するのに適した、少なくとも1つの特定の酵素を含む少なくとも1つの酵素ゾーン
であって、前記少なくとも1つの酵素ゾーンは、生体細胞および/または細胞溶解物を含み、前記生体細胞および/または細胞溶解物が、前記測定される分析物の変換を触媒して、少なくとも1つのガスを生成するのに適した、少なくとも1つの酵素を含む、酵素ゾーン;および/または
ii)
室温および標準圧力で固体である酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸を含む少なくとも1つの酸性化ゾーン;並びに
d) 気泡を形成するための少なくとも1つの反応ゾーンであって、該反応ゾーンは、前記少なくとも1つの流体ラインに流体的に接続され、液密壁を有するチャンバを含むか、または該チャンバから構成される、反応ゾーン;
を含み、前記少なくとも1つの流体ラインは、毛細管力および/または流体ライン内の少なくとも1つのマイクロポンプによって、前記少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または前記少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、前記液体試料を、前記受容ゾーンから前記反応ゾーンに輸送するのに適していることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記装置が、
i)
毛細管力および/または流体ライン内の少なくとも1つのマイクロポンプによって、少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、液体試料を、受容ゾーンから反応ゾーンに輸送するのに適した複数の流体ラインを含み;並びに/あるいは
ii)
気泡を形成するための複数の反応ゾーンを含み、ここで、各反応ゾーンは、それぞれ少なくとも1つの流体ラインに流体的に接続され、かつそれぞれ液密壁を有する、チャンバを含むか、または該チャンバから構成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チャンバが、少なくとも1つの
壁を含み、
i) IR領域、可視領域、UV領域およびそれらの組み合わせからなる群から選択される領域内の波長の光に対して透過性を示
し;並びに/あるいは
ii) 液体、気体、およびそれらの組み合わせに対してタイトネスを
示す、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの受容ゾーンが、血液、尿、痰、食品、河川水、塩水、海水、地下水、飲料水、廃水、およびそれらの混合物を含むか、またはそれらから構成される水溶液からなる群から選択される液体試料の受容に適している、
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの酵素ゾーンが、
i) ウレアーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、チレオペルオキシダーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの酵素を含み;並びに/あるいは
ii) 少なくとも1つのさらなる酵素を含み、ここで、該少なくとも1つのさらなる酵素は
、カタラーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、およびそれらの組合せからなる群から選択され;
iii) 酵素の少なくとも1つの補因
子を含み;並びに/あるいは
iv) 液体試料を受容するための前記受容ゾーンと、気泡を形成するための前記反応ゾーンとの間に配置されるか、または気泡を形成するための前記反応ゾーン内に配置される、
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの酵素ゾーンが、前記少なくとも1つの酵素および/または該少なくとも1つの酵素の少なくとも1つの補因子を、
i) 乾燥形態
で;または
ii) 水性形態
で、
含む、ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの流体ラインが
、
i) ≦20μ
mの細孔直径を有し;並びに/あるいは
ii) 生体細胞の除
去に適しており;並びに/あるいは
iii) 液体試料を受容する前記受容ゾーンと、気泡を形成する前記反応ゾーンとの
間に配置される、
膜を含む、
ことを特徴とする、請求項1~
6のいずれ一項に記載の装置。
【請求項8】
前記酸性化ゾーンが、
i)
クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物からなる群から選択される酸を含み;並びに/あるいは
ii) 液体試料を受容する前記受容ゾーンと、気泡を形成する前記反応ゾーンとの間に配置されるか、または気泡を形成する前記反応ゾーン内に配置される、
ことを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記装
置が、少なくとも1つの酸化
剤を含む少なくとも1つの酸化ゾーンを含み、前記少なくとも1つの酸化ゾーンが
、
i) 二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、NAD
+およびそれらの混合物からなる群から選択される酸化剤を含み;並びに/あるいは
ii)
クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物からなる群から選択される酸を含み;並びに/あるいは
iii) 液体試料を受容する前記受容ゾーンと、気泡を形成する前記反応ゾーンとの
間に配置さ
れる、
ことを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの流体ラインが、
i) 0.1~20c
mの長さを有し;並びに/あるいは
ii) 0.05~20m
mの幅を有し;並びに/あるいは
iii) 0.05~2m
mの高さを有し;並びに/あるいは
iv) 0.05~20m
mの範囲内の最大直径を有する、
ことを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記特定の分析物が、
i) 質量が<500Daの有機小分子、ペプチド、タンパク質およびそれらの混合物からなる群から選択さ
れ;並びに/あるいは
ii) 疾患、水質汚染、食物汚染およびそれらの組み合わせからなる群から選択される状態のマーカーである分析物である、
ことを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置が、光学検出機
器の中または上に配置され、
前記光学検出機器が
、該装置の前記反応ゾーンを光学的に検出し、前記試料中の前記分析物の濃度の定性的および/または定量的測定を行うように構成さ
れていることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
液体試料中の特定の分析物を、該分析物の酵素触媒および/または酸媒介変換により、少なくとも1つのガスを生成させて、検出するための方法であって、
a) 測定される分析物を含む可能性のある液体試料を、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置の受容ゾーンに適用する工程;
b) 酵素含有および/または酸含有液体試料が、前記流体ラインから前記反応ゾーンに輸送された時点で、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置の反応ゾーンを光学的に検出する工程;並びに
c) 前記反応ゾーンに気泡の形成が発生する場合に、前記特定の分析物が前記試料中に存在することを評価する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
光学的
検出が、カメラ、顕微鏡、光度計、屈折計およびそれらの組み合わせからなる群から選択される光学検出機器によっ
て行われる、
ことを特徴とする、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が
、前記試料中の該分析物の濃度を定量的に測定する工程を含む、
ことを特徴とする、請求項
13または
14に記載の方法。
【請求項16】
さらに、
a) 既知の濃度の測定される分析物を含む少なくとも1つのさらなる液体試料を、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置の受容ゾーンに適用する工程;
b) 酵素含有および/または酸含有液体試料が、前記流体ラインから前記反応ゾーンに輸送された時点で、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置の反応ゾーンを光学的に検出する工程;並びに
c)
前記試料中の分析物の濃度を定量的に測定する工程、
を含むことを特徴とする、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置の使用であって、
i)
疾患のインビトロ診断;並びに/あるいは
ii) 食品の品質管
理;並びに/あるいは
iii) 水
質の試験、
のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の特定の分析物(analyte)を検出するための装置および方法に関する。前記方法に使用できる装置は、少なくとも1つの流体ライン、液体試料を受け入れるための少なくとも1つの受容ゾーン、少なくとも1つの特定の酵素を含む少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸を含む少なくとも1つの酸性化ゾーンを含む。さらに、前記装置は、気泡の形成に適した少なくとも1つの反応ゾーンを含む。少なくとも1つの流体ラインは、毛細管力および/または流体ライン内の少なくとも1つのマイクロポンプによって、液体試料を、受容ゾーンから酵素ゾーンおよび/または酸性化ゾーンを介して反応ゾーンに輸送するのに適している。前記装置は、液体試料中の特定の分析物の迅速、簡便かつ費用対効果の高い検出を可能にし、検出感度、検出特異性および検出精度が高い検出が可能である。さらに、本発明の装置の使用を提案する。
【0002】
バイオマーカーは、疾患および生理学的状態に関する結論を引き出すことを可能にする生物学的プロセスのための測定可能なパラメータである。最もよく知られているバイオマーカー分子は、特にホルモン(例えば、T3/T4)、代謝産物、血糖であり、またコレステロールおよび他の血液脂肪である。
【0003】
バイオマーカーは、非常に低濃度で、多数の他のタンパク質と複合体を形成して存在することが多く、このことは特性評価を困難にするだけでなく、分析を高価かつ時間のかかるものにする。市販されている、無料で入手できる迅速試験は、通常、定性的なイエス/ノーの回答に基づいているが、液体試料中の特定の分析物の濃度を定量的に評価することはできない。
【0004】
非常に多くの場合、血清学的方法が、分析物としてのバイオマーカーの検出に用いられる。前記方法の欠点は、適切な抗体を選択しなければならないこと、抗体を(例えば、蛍光染料を用いて)標識しなければならないこと、および測定方法に時間がかかることから、実験が非常に複雑なことである。さらに、前記測定方法は、高い検出不確実性と負の関連がある。
【0005】
液体試料中の特定の分析物の定性的または定量的検出のための先行技術において既知の方法の多くは、測定される分析物のエピトープ(例えば、抗原のエピトープ)と、検出器分子上の特定のパラトープ(例えば、抗体のパラトープ)との間の高特異性結合事象(event)の検出に基づいている。バイオマーカーを同定するための既知の方法は、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ゲル電気泳動、表面プラズモン共鳴分光法(SPR分光法)、タンパク質マイクロアレイ(例えば、質量感知BioCDタンパク質アレイ)の使用、表面増強ラマン分光法、比色法または電気化学法、および蛍光分光法である。
【0006】
バイオマーカー診断における現在のゴールドスタンダードは、固相に固定化された捕捉抗体が存在し、抗原との反応が二次抗体を用いて読み取られる、イムノアッセイである。前記イムノアッセイの欠点は、センサ表面への他のタンパク質の非特異的結合が、偽陽性を提供するという点で結果に影響を及ぼし、したがって結果を大きく歪める可能性があることである。
【0007】
要するに、バイオマーカーを同定するための現在の方法は、時間の面での高い支出、装置の面での高い複雑性、技術者の必要性、低い検出感度、低い検出特異性、および低い検出分散によって特徴付けられる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、液体試料中の特定の分析物を、迅速、簡便かつ費用対効果高く検出することができ、しかも、検出感度、検出特異性および検出精度が高い装置並びに方法を提供することにある。さらに、このような装置の使用を提案する。
【0009】
前記目的は、請求項1の特徴を有する装置、請求項14の特徴を有する方法、および請求項18の特徴を有する使用によって達成される。従属請求項は、有利なさらなる発展を示す。
【0010】
本発明は、液体試料中の特定の分析物を、該分析物の酵素触媒および/または酸媒介変換(conversion)により、少なくとも1つのガスを生成させて、検出するための装置を提供し、当該装置は、
a) 少なくとも1つの流体ライン;
b) 液体試料を受け取るための少なくとも1つの受容ゾーン;
c) i)測定される分析物の変換を触媒して、少なくとも1つのガスを生成するのに適した少なくとも1つの特定の酵素を含む少なくとも1つの酵素ゾーン;および/または
ii)少なくとも1つの酸を含む少なくとも1つの酸性化ゾーン;並びに
d) 気泡を形成するための少なくとも1つの反応ゾーンであって、少なくとも1つの流体ラインに流体的に接続され、液密壁を有するチャンバを含むか、または該チャンバから構成される、反応ゾーン;
を含み、少なくとも1つの流体ラインが、毛細管力および/または流体ライン内の少なくとも1つのマイクロポンプによって、少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、液体試料を受容ゾーンから反応ゾーンに輸送するのに適していることを特徴としている。
【0011】
したがって、本発明の装置は、上記特徴を有する少なくとも1つの酵素ゾーン、または上記特徴を有する少なくとも1つの酸性化ゾーンのいずれかを含むか、あるいは上記特徴を有する少なくとも1つの酵素ゾーンと、上記特徴を有する少なくとも1つの酸性化ゾーンとの両方を含むことができる。
【0012】
さらに、前記装置は、少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、液体試料を受容ゾーンから反応ゾーンに能動的に(すなわち、エネルギーの入力によって)輸送するのに適したマイクロポンプを含むことができる。この能動輸送は、受動輸送(すなわち、毛細管力による輸送)をサポートすることができる。しかしながら、その代わりに、前記装置(特に少なくとも1つの流体ライン)はまた、マイクロポンプなしで、液体試料を、少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、受容ゾーンから反応ゾーンに受動的に(すなわち、毛細管力単独によって)輸送するのに適していてもよい。
【0013】
少なくとも1つのマイクロポンプによる輸送の場合、本発明の装置は、好ましくは、電池、蓄電池、光起電力素子、およびそれらの組み合わせから好ましく選択されるエネルギー源を含む。しかしながら、マイクロポンプの動作に必要なエネルギー源は、光学検出機器に含まれていてもよく、前記装置は、該装置が光学検出機器の中または上に配置されると、エネルギー源からエネルギーを引き出すことができる。
【0014】
本発明は、幾何学的に区切られた試料チャンバ内でガス発生化学反応を用いてバイオマーカーを検出するための装置に基づいている。前記装置によって、特定の分析物(例えば、バイオマーカー)を、簡単に、迅速に、かつ費用効果的に特徴付けることができる。
【0015】
前記分析物は、酵素または酸によって触媒的に変換され、少なくとも1つのガスを生成し、わずか1モルのガスの生産は、標準圧力(1013hPa)および室温(25℃)で24.465・10-3m3(すなわち、約24.465リットル)の体積を占めるので、前記装置では、液体試料中の分析物を高い検出感度で測定することができる。言い換えると、わずか1ナノモルの分析物の変換で、1ナノモルのガスが生成し、24.465ナノリットルのガス量(volume)が放出され、これは、確立された光学測定方法によって容易に測定および定量化することができる。その結果、ガスの生産はシグナル増幅を引き起こし、高い検出感度をもたらす。
【0016】
さらに、本発明の装置は、酵素触媒変換反応の特異性が、酵素の基質に関する特異性に依存するため、および/または、分析される特定の試料が、必然的に、酸との反応によって変換されてガスを生成する1つの分析物のみ(例えば、試料としての血液の場合:HCO3
-の変換によるCO2+H2Oの生成)を含むことができるため、高い検出特異性を提供することができる。酵素による分析物変換および分析物結合事象の場合、分析物-抗体結合事象の場合とは異なり、非特異的分析物-酵素結合事象は、実際には起こらないか、またはほとんど起こらないので、特異性は、多数の分析物-抗体結合事象の特異性よりもさらに高くなる。たとえ分析物が酵素に非特異的に結合するとしても、すなわち、活性部位ではなく酵素に結合するとしても、(ガスの生産の形で)分析物の変換は起こらず、シグナルも発生しない。
【0017】
さらに、本発明の装置の少なくとも1つの流体ラインは、毛細管力および/またはマイクロポンプによって、液体試料を反応ゾーンに輸送するのに適しているので、本発明の装置は、低い検出分散または高い検出精度(すなわち、真の値への高い近接性)を提供することができる。これは、発生するシグナルレベルの原因となる、分析物を酵素および/または酸と接触させる重要な工程が、“自動化”されており、特定の量で行われることを意味する。言い換えると、ユーザによる特定の量の手動混合によって引き起こされるエラー(例えば、“ピペットエラー”)は、ここでは適用されない。言い換えると、本発明の装置の場合、特定の量の混合の精度は、実験毎に明らかにより一定であり、実験毎の分散は、明らかにより小さい。さらに、シグナル形成の開始は、前記装置の受容ゾーンへの液体試料の添加によって正確に定義され(“自動化”開始)、したがって、ユーザによって手動で引き起こされた反応開始に関する不正確さはない。その結果、測定毎の分散がより小さくなり、検出精度が向上する。
【0018】
本発明の装置は、複数の流体ライン、好ましくは、毛細管力および/または流体ライン内の少なくとも1つのマイクロポンプによって、少なくとも1つの酵素ゾーンおよび/または少なくとも1つの酸性化ゾーンを介して、液体試料を受容ゾーンから反応ゾーンに輸送するのに適した複数の流体ラインを含むことを特徴とすることができる。ここで、流体ラインはそれぞれ、本発明の装置の少なくとも1つの酵素ゾーン、酸性化ゾーンおよび/または反応ゾーンに接続させることができ、あるいは、代わりに、各流体ラインはそれぞれ、別個の酵素ゾーン、酸性化ゾーンおよび/または反応ゾーンに接続させることができる。後者の場合、本発明の装置を用いて、複数の異なる分析物の同時取得が可能である。ここで、流体ラインは全てをそれぞれ、本発明の装置の少なくとも1つの受容ゾーンに接続させることができ、あるいは、代わりに、それぞれを別個の受容ゾーンに接続させることができる。
【0019】
前記装置は、複数の反応ゾーン、好ましくは気泡を形成するための複数の反応ゾーンを含むことができ、ここで、反応ゾーンは、各々が少なくとも1つの流体ラインに流体的に接続され、各々が液密壁を有するチャンバを含むか、または該チャンバから構成される。
【0020】
前記チャンバは、IR領域、可視領域、UV領域およびそれらの組み合わせからなる群から選択される領域内の波長の光に対する透過性(transparency)、好ましくは可視領域内の波長の光に対する透過性を示す、少なくとも1つの壁、好ましくは少なくとも2つの対向する壁を含むことができる。
【0021】
さらに、チャンバは、壁、好ましくは少なくとも2つの対向する壁を含むことができ、液体、気体、およびそれらの組み合わせに対してタイトネス(tightness)を示し、好ましくは液体に対して液密性を示す。
【0022】
前記装置は、複数のチャンバを含むことができる。この場合、ここで述べたように、チャンバの特徴は、前記装置の全てのチャンバに適用することができる。
【0023】
前記装置は、少なくとも1つの流体ラインの少なくとも1つの受容ゾーンが、血液、尿、痰、食品、河川水、塩水、海水、地下水、飲料水、廃水、およびそれらの混合物を含むか、またはそれらから構成される水溶液からなる群から選択される液体試料の受容に適していることを特徴とすることができる。
【0024】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、ウレアーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、チレオペルオキシダーゼ(thyreoperoxidase)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの酵素を含むことができる。
【0025】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、少なくとも1つのさらなる酵素を含むことができ、ここで、少なくとも1つのさらなる酵素は、好ましくは、カタラーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0026】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、酵素の少なくとも1つの補因子、好ましくはNAD+を含むことができる。
【0027】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、液体試料を受容する受容ゾーンと、気泡を形成する反応ゾーンとの間に配置することができ、または、気泡を形成する反応ゾーン内に配置することができる。前記装置が複数の酵素ゾーンを含む場合、そのような配置は、該装置の全ての酵素ゾーンに適用することができる。
【0028】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、少なくとも1つの酵素および/または少なくとも1つの酵素の少なくとも1つの補因子を、乾燥形態、好ましくは凍結乾燥形態、または水性形態、好ましくは水溶液、水性懸濁液もしくは水性ゲルとして含むことができる。
【0029】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、生体細胞および/または細胞溶解物を含むことができ、ここで、生体細胞および/または細胞溶解物は、好ましくは、少なくとも1つのガスを生じるように測定される分析物の変換を触媒するのに適した、少なくとも1つの酵素を含む/含有する。この実施形態の利点は、酵素の単離(精製)が不要であり、酵素が精製された形態よりも高い長期安定性を有することができる環境にあることである。その結果、前記装置は、より高い長期安定性を有することができ、より費用効果的に提供することができる。
【0030】
少なくとも1つの酵素ゾーンは、少なくともウレアーゼを含むことができる。少なくとも1つの酵素ゾーンは、乳酸オキシダーゼおよびカタラーゼを含むことができる。少なくとも1つの酵素ゾーンは、ピルビン酸デカルボキシラーゼを含むことができる。少なくとも1つの酵素ゾーンは、乳酸デヒドロゲナーゼおよびピルビン酸デカルボキシラーゼを含むことができる。
【0031】
少なくとも1つの流体ラインは、好ましくは、≦20μm、好ましくは≦6μm、特に好ましくは≦2μm、特に≦100nm、任意に≦1nmの細孔直径を有する膜を含むことができる。前記膜は、生体細胞の除去、好ましくは血液細胞の除去に適することができる。前記膜は、液体試料を受け取るための受容ゾーンと、気泡を形成するための反応ゾーンとの間、好ましくは、液体試料を受け取るための受容ゾーンと、酵素ゾーンおよび/または酸性化ゾーンとの間に配置することができる。前記装置が複数の膜を含む場合、そのような配置は、該装置の全ての膜に適用することができる。
【0032】
少なくとも1つの酸性化ゾーンは、好ましくは、室温および標準圧力で固体の酸、HCl、H2SO4、H3PO4およびそれらの混合物からなる群から選択される酸を含み、好ましくは、室温および標準圧力で固体の酸からなる群から選択される酸を含み、特に好ましくは、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物からなる群から選択される酸を含む。
【0033】
少なくとも1つの酸性化ゾーンは、好ましくは、液体試料を受容する受容ゾーンと、気泡を形成する反応ゾーンとの間に配置され、特に好ましくは、気泡を形成する反応ゾーン内に配置される。前記装置が複数の酸性化ゾーンを含む場合、そのような構成は、該装置の全ての酸性化ゾーンに適用することができる。
【0034】
前記装置、好ましくは少なくとも1つの流体ラインは、少なくとも1つの酸化ゾーンを含むことができ、ここで、少なくとも1つの酸化ゾーンは、少なくとも1つの酸化剤、好ましくは、少なくとも1つの酸化剤および少なくとも1つの酸を含む。
【0035】
少なくとも1つの酸化ゾーンは、好ましくは、過マンガン酸カリウム、二酸化マンガン、NAD+およびそれらの混合物からなる群から選択される酸化剤を含む。
【0036】
少なくとも1つの酸化ゾーンは、好ましくは、室温および標準圧力で固体の酸、HCl、H2SO4、H3PO4およびそれらの混合物からなる群から選択される酸を含み、好ましくは、室温および標準圧力で固体の酸からなる群から選択される酸を含み、特に好ましくは、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸およびそれらの混合物からなる群より選択される酸を含む。
【0037】
少なくとも1つの酸化ゾーンは、好ましくは、液体試料を受け取るための受容ゾーンと、気泡を形成するための反応ゾーンとの間に配置され、特に好ましくは、酵素ゾーンと、気泡を形成するための反応ゾーンとの間に配置される。特に、少なくとも1つの酸化ゾーンは、酸性化ゾーンと少なくとも局部的に(regionally)重複するか、またはそれと同一である。
【0038】
少なくとも1つの流体ラインは、0.1~20cm、好ましくは0.5~10cm、特に好ましくは1~5cmの長さを有することができる。少なくとも1つの流体ラインは、0.05~20mm、特に好ましくは0.1~10mm、特に好ましくは1~5mm、特に2~4mmの幅を有することができる。少なくとも1つの流体ラインは、0.05~2mm、特に好ましくは0.1~1mm、特に好ましくは0.2~0.8mm、特に0.4~0.6mmの高さを有することができる。少なくとも1つの流体ラインは、0.05~20mm、好ましくは0.1~10mm、特に好ましくは1~5mm、特に2~4mmの範囲内の最大直径を有することができる。
【0039】
特定の分析物は、質量が<500Daの有機小分子、ペプチド、タンパク質およびそれらの混合物からなる群から選択でき、好ましくは、ホルモン、質量が<500Daの代謝産物、炭水化物、ステロール、トリグリセリド、カルボン酸、カルボン酸のアミド誘導体およびそれらの混合物からなる群から選択でき、特に好ましくは、T3ホルモン、T4ホルモン、グルコース、コレステロール、血液由来のトリグリセリド、乳酸、尿素およびそれらの混合物からなる群から選択できる。
【0040】
特定の分析物は、疾患、水質汚染、食物汚染およびそれらの組み合わせからなる群から選択される状態のためのマーカーである分析物であり得る。
【0041】
前記装置は、光学検出機器の中または上、好ましくは、光学顕微鏡の中または上に配置することができ、ここで、光学検出機器(例えば、光学顕微鏡)は、特に好ましくは、該装置の反応ゾーンを光学的に検出し、試料中の分析物の濃度の定性的および/または定量的測定を行うように構成される。
【0042】
光学検出機器(例えば、光学顕微鏡)は、気泡の形成が反応ゾーン内で起こる場合に、試料中の分析物の存在を定性的に測定するように構成することができる。
【0043】
光学検出機器(例えば、光学顕微鏡)は、単位時間当たりの気泡の数および体積によって、特に単位時間当たりの気泡の数および体積の積が試料中の分析物の濃度に正比例するという関係によって、試料中の分析物の濃度を定量的に測定するように構成することができる。
【0044】
光学検出機器は、本発明の装置(例えば、その少なくとも1つのマイクロポンプ)にエネルギーを供給するように構成されたエネルギー源を含むことができる。前記エネルギー源は、好ましくは、電気グリッド、電池、蓄電池、光起電力素子およびそれらの組み合わせからのエネルギーから選択される。
【0045】
本発明はさらに、液体試料中の特定の分析物を、該分析物の酵素触媒および/または酸媒介変換により、少なくとも1つのガスを生成させて、検出するための方法を提供し、当該方法は、以下の工程を含む。
a) 測定される分析物を含む可能性のある液体試料を、本発明の装置の受容ゾーンに適用する工程;
b) 酵素含有および/または酸含有液体試料が流体ラインから反応ゾーンに輸送された時点で、前記請求項のいずれかに記載の装置の反応ゾーンを光学的に検出する工程;並びに
c) 反応ゾーンで気泡が形成した場合に、特定の分析物が前記試料中に存在することを評価する工程。
【0046】
前記方法は、カメラ、顕微鏡、光度計、屈折計およびそれらの組み合わせからなる群から選択される光学検出機器によって、好ましくは顕微鏡によって、光学的捕捉が行われることを特徴とすることができる。
【0047】
前記方法は、好ましくは単位時間当たりの気泡の数及び体積の測定によって、特に好ましくは単位時間当たりの気泡の数及び体積の積が試料中の分析物の濃度に正比例するという関係によって、試料中の分析物の濃度の定量的測定を包含することができる。
【0048】
これには、以下の工程を含むことができる:
a) 既知の濃度の測定される分析物を含む少なくとも1つのさらなる液体試料を、前記請求項のいずれかに記載の装置の受容ゾーンに適用する工程;
b) 酵素含有および/または酸含有液体試料が流体ラインから反応ゾーンに輸送された時点で、前記請求項のいずれかに記載の装置の反応ゾーンを光学的に検出する工程;並びに
c) 好ましくは単位時間当たりの気泡の数及び体積の測定によって、特に好ましくは単位時間当たりの気泡の数及び体積の積が試料中の分析物の濃度に正比例するという関係によって、前記試料中の分析物の濃度を定量的に測定する工程。
【0049】
さらに、疾患のインビトロ診断のための本発明の装置の使用が提案されており、ここで、液体試料は、好ましくは、血液、尿、痰およびそれらの混合物からなる群から選択される。さらに、食品の品質管理、好ましくは食品液体の品質管理、特に好ましくはワイン、フルーツジュースおよびそれらの組み合わせの品質管理のための本発明の装置の使用が提案されている。さらに、水質、好ましくは河川水質、塩水質、海水質、飲料水質およびそれらの組み合わせの試験のための本発明の装置の使用が提案されている。
【0050】
本発明の主題は、前記主題を本明細書に示される特定の実施形態に限定されることを望むものではなく、以下の図および例に基づいて、より詳細に説明されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1は、一例として、本発明の装置によって含むことができ、本発明の方法において使用できる、特定の分析物(バイオマーカー)の変換のための可能な酵素および/または酸(必要に応じて酸化剤を伴う)を示している。特に、前記図は、ガス発生の基礎を形成するそれぞれの化学反応も記述している。
【0052】
図2は、一例として、液体試料2中の特定の分析物を、該分析物の酵素触媒変換によって、少なくとも1つのガス7を生成させて検出するための本発明による可能な装置1を示している。装置1は、液体試料2(例えば、血液)を受け取るための少なくとも1つの受容ゾーン4に流体的に接続され、かつ、少なくとも1つの酵素ゾーン5に流体的に接続された、少なくとも1つの流体ライン3を含み、酵素ゾーン5は、少なくとも1つのガス7を生成するように、測定される分析物の変換を触媒する少なくとも1つの特定の酵素を含む。さらに、装置1は、気泡7を形成するための少なくとも1つの反応ゾーン6を含み、反応ゾーン6は、流体ライン3と流体接続しており、その他の点では気密壁10によって区切られている。装置1は、少なくとも1つの流体ライン3が、毛細管力によって液体試料2を受容ゾーン4から反応ゾーン6に輸送するのに適しており、この場合、少なくとも1つの特定の酵素は、少なくとも部分的に、酵素ゾーン5から反応ゾーン6に共輸送されることを特徴としている。この実施形態では、装置1は、さらに、受容ゾーン4と酵素ゾーン5との間に、生体細胞の除去に適した膜8(例えば、血液細胞を血漿から分離するための膜)を含む。前記膜8は、毛細管力によって、生体細胞が流体ライン3から酵素ゾーン5まで到達しないようにする。さらに、前記装置1は、少なくとも1つの酸(例えば、HCl)を含む酸性化ゾーン9をさらに含み、この場合、反応ゾーン6と一致する。酸性化ゾーン9は、反応ゾーン6に酵素を含む液体試料が、酸性化されることを保証する。酸形成(例えば、ガスCO
2の場合のH
2CO
3の形成)下で、液体試料中に溶解するガスの場合、酸性化により平衡がガス形成の方向にシフトし、したがって、CO
2のより強い(定量的な)放出がもたらされる。要するに、酸性化ゾーン9の存在は、この種のガスの場合に検出感度を明らかに高めることができる。
【0053】
図3は、本発明の装置の反応チャンバ6の上面図を示す。図示されているのは、反応中の時間的経過であり、気泡7は時間の経過とともに成長してより大きな気泡7’を形成する。より大きな気泡7’を形成するための気泡7の最終的な体積膨張に加えて、元の気泡7の状態からより大きな気泡7’の状態までの経時的な体積増加を利用することもできる。
【0054】
図4は、本発明の装置の反応ゾーンの光学的捕捉を実行し、試料中の分析物の濃度の定量的測定を実施および出力するのに適した検出機器の断面を示す。本発明の装置の反応ゾーン6に形成される気泡7は、実質的にコヒーレントまたは非コヒーレントな光源11(例えば、LED、OLED、レーザーおよび/またはガス放電ランプ)の電磁放射12によって完全に照射される。反応ゾーン6の下方に位置する画像センサ13(例えば、ダイオードアレイの形態で)は、気泡7によって生成される光学画像14(すなわち、その特徴的な干渉パターン)を取り込む。前記光学画像14から、データ処理プログラムにより、単位時間当たりの気泡の数と体積の積を計算することができ、それは反応速度および試料中の分析物の濃度に正比例する。同様に、(ここでは不図示の)光学装置を画像センサと反応ゾーンとの間に追加で配置することもできる。
【0055】
例1-液体試料中の特定の分析物の検出方法に関する基礎
【0056】
酵素反応の最大反応速度vmaxは、反応が行われる溶液の温度とpHに依存する。特定の、一定のpHでは、vmaxは、本発明の装置の周囲温度に依存する。周囲温度も一定(例えば、25℃の一定の室温)である場合、vmaxは完全に一定値とみなされる。この場合、基質(分析物)の測定された反応速度vは、溶液中の基質(分析物)の濃度に依存する(ミカエリス-メンテン理論)。ここで適用できるのは、以下の式である:
v=(vmax・[分析物])/(km+[分析物])
式中、[分析物]は分析物の濃度であり、kmは酵素のミカエリス-メンテン定数を示す。
【0057】
したがって、特定の条件下での既知のvmaxおよび既知のミカエリス-メンテン定数kmの場合、基質(分析物)の反応速度の測定によって、液体試料中の基質(分析物)の濃度を推定することができる。
【0058】
反応速度は、単位時間当たりに発生するガスの体積に正比例し、すなわち、検出された気泡の数と体積の積に比例する。したがって、適用できるのは、以下の関係である:
v~[数(気泡)・体積(気泡)]
発生する気泡の多くは、液体試料中では溶解しにくく、上述の関係は十分に適用可能であることを意味する。
【0059】
二酸化炭素は水溶液中で非常に溶解性が高く、部分的に解離して炭酸を生成するので、pH変化は、ガス状凝集状態への変換に用いられる。試料チャンバはガス不透過層で全て三次元的に区切られているので、試料チャンバから流れ出ることができない気泡が形成される。気泡の量と大きさを、光学的方法を用いて解析する。気泡の量および大きさは、試料中の分析物の量と相関している。
【0060】
例2-液体試料中の尿素の検出方法
【0061】
分析物尿素の検出のために、本発明の装置は、酵素ゾーンに酵素ウレアーゼを含む。
図1に見られるように、酵素ウレアーゼは尿素の変換を触媒し、アンモニアおよび二酸化炭素という2つのガスを生成する。
【0062】
本発明の装置の酸性化ゾーンは、第一に、発生する二酸化炭素が、H3O+およびHCO3
-として溶液中に溶解(go into)せず、定量的に流れ出ることを保証する。その結果、尿素に対する該装置の検出感度が向上する。
【0063】
さらに、酸性化は、発生するアンモニアをNH4
+およびOH-として優先的に溶液中に溶解させる。しかしながら、アンモニアはとにかく中性pHでも水性媒体に溶解する傾向が高いので、酸性化は平衡を溶解したアンモニアの方向にほとんどシフトさせない。言い換えると、酸性化はアンモニアガスの生成をほとんど減少させないので、アンモニアガスの生成に関しては、酸性化は検出感度にほとんど悪影響を及ぼさないことを意味する。
【0064】
したがって、二酸化炭素の気泡の数と体積(量)の積は、使用する液体試料中の尿素濃度に依存する。生成する気泡の量は、尿素濃度の低下と共に減少する。
【0065】
気泡の量は、ソフトウェア制御顕微鏡によって記録し、(例えば、それらの数と幾何学的特性に関して)評価することができる。
【0066】
例として、いわゆる“ポイントオブケア”尿素診断における装置の使用について説明する:
【0067】
一滴の血液が、前記装置の少なくとも1つの受容ゾーンに適用される。前記滴は、例えば、人の(新たに)穿刺された指から直接受け取ることができる。この場合、前記装置は、有利には、血漿分離膜を含み、その結果、血球が抑制され、血漿のみが酵素ゾーンまで進むことができる。酵素ゾーンは、凍結乾燥形態で酵素ウレアーゼを含むことが、この形態では酵素の長期安定性が非常に高いので有利であり、その結果、前記装置はまた長期使用性を保証する。
【0068】
血漿は、毛細管力によって流体ラインに沿って、受容ゾーンから酵素ゾーンへと流され、そこで凍結乾燥ウレアーゼと出会い、血漿中の溶液へ溶解する。血漿とウレアーゼとの混合物は、毛細管力によって酸性化ゾーンを経て反応ゾーンに迅速に輸送され、そこで尿素の分解によって二酸化炭素が放出される。形成される気泡の量は、光学的方法(例えば、ソフトウェア制御顕微鏡)を用いて記録され、これにより、使用する血液滴中の尿素濃度に関する結論を引き出すことができる。
【0069】
例3-液体試料中の乳酸塩(lactate)の検出方法
【0070】
酵素乳酸オキシダーゼは、乳酸塩をピルビン酸と過酸化水素に選択的に変換する(
図1参照)。第二段階では、過酸化水素は、その強力な還元効果により、硫酸でわずかに酸性化された過マンガン酸カリウム溶液と反応する。酸化還元反応は、第一に、強烈な紫色を有する過マンガン酸カリウム溶液の脱色をもたらし、第二に、酸素の形成をもたらす(
図1参照)。
【0071】
したがって、硫酸で酸性化された過マンガン酸カリウム溶液と過酸化水素との反応のために、前記装置は、さらに、少なくとも1つの酸化剤(例えば、溶解したKMnO4によるMnO4
-)および少なくとも1つの酸(例えば、溶解したH2SO4によるH3O+)を含む酸化ゾーンを必要とする。
【0072】
したがって、酸素気泡の数と体積(量)の積は、使用する液体試料中の乳酸塩濃度に依存する。生成する気泡の量は、乳酸塩濃度の低下と共に減少する。
【0073】
気泡の量は、ソフトウェア制御顕微鏡によって記録し、(例えば、それらの数および幾何学的特性に関して)評価することができる。