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特許7186215凍結および解凍プロセスを含むボルデテラ・パータシス(BORDETELLA PERTUSSIS)由来タンパク質を得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】凍結および解凍プロセスを含むボルデテラ・パータシス(BORDETELLA PERTUSSIS)由来タンパク質を得る方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/235 20060101AFI20221201BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C07K14/235
C07K1/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020505266
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 KR2018008283
(87)【国際公開番号】W WO2019027168
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2017-0097716
(32)【優先日】2017-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アン・ドンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ギソプ
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ジェフン
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ヒョンジン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ジョングワン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ヘリョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ボミ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-506649(JP,A)
【文献】特表2015-531389(JP,A)
【文献】特表2010-500398(JP,A)
【文献】特表平08-507763(JP,A)
【文献】国際公開第2009/016651(WO,A1)
【文献】Zenglan Li et al.,Vaccine,2016年06月11日,Vol. 34,p. 4032-4039
【文献】Mohammed Shehadul Islam et al.,Micromachines,2017年03月08日,Vol. 8, No. 83,p. 1-27,doi:10.3390/mi8030083
【文献】Yan Jie et al.,Journal of Zhejiang Medical University,1992年,Vol. 21, No. 3,p. 106-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)由来PRNタンパク質を得るための方法であって、
1)ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結する工程;
2)凍結した試料を解凍する工程;
3)解凍した試料を破砕する工程;および
4)破砕された試料を精製する工程
を含む、方法であり、
ボルデテラ・パータシスを含有する試料が、ボルデテラ・パータシス培養物を遠心分離してスラリーを得、次いで、該スラリーをすぐに遠心分離するかまたは5℃で1~3日間保存した後に遠心分離することにより得られるペレットであり、
工程1)において、凍結が、-30℃以下の温度で20時間~10日間行われ、
工程2)において、解凍が、1℃~20℃の温度で12時間~60時間の冷蔵で行われる、
方法
【請求項2】
工程1)において、凍結が、-30℃~-85℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程1)において、凍結が、20~30時間行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
解凍が、1℃~10℃の温度で冷蔵することにより行われる、請求項1~3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
解凍が、36~48時間冷蔵することにより行われる、請求項1~4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程3)において、破砕が、尿素処理、熱処理、グアニジン処理およびヨウ素処理からなる群から選択されるいずれか1つの処理により行われる、請求項1~5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
尿素処理が、3M~7Mの尿素濃度で行われる、請求項記載の方法。
【請求項8】
尿素処理が、150~210分間行われる、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
工程4)において、精製が、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)およびゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を行うことにより行われる、請求項1~8いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結および解凍プロセスを含む、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)由来PRNタンパク質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
百日咳は、主に乳児に発生し、2週間以上の咳により特徴づけられる急性呼吸器疾患である。グラム陰性で好気性の短い球桿菌であるボルデテラ・パータシスは、百日咳を引き起こすことが報告されている。ボルデテラ・パータシスは、その唯一の宿主としてヒトを用い、主に気道を介して感染する。さらに、ボルデテラ・パータシスは、気道粘膜上に生息し、人体に疾患を引き起こす。1930年代には、細胞百日咳ワクチンが開発され、このワクチンは百日咳に対して予防効果があることが証明された。さらに、1940年代には、百日咳ワクチンは、破傷風およびジフテリア不活化死菌ワクチンと併用された;しかしながら、全細胞百日咳ワクチンの有害作用(癲癇発作、浮腫、発熱など)が報告された。したがって、安全性のある百日咳ワクチンの開発が必要とされた。
【0003】
1950年代には、ボルデテラ・パータシスの病原性についての研究が行われ、光源として、百日咳毒素(PT)、繊維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(PRN)および線毛(FIM)などの成分が報告された。その後、これらのタンパク質の単離および精製を含む非細胞百日咳ワクチンの開発が進行中であった。1980年代以降、精製百日咳ワクチンが開発され、日本で初めてワクチン接種された。
【0004】
非細胞百日咳ワクチンを調製するためには、PT、FHAおよびPRNなどのタンパク質を精製しなければならなかった。従来、抗原は、硫酸アンモニウム沈殿および密度勾配遠心分離を繰り返すことにより同時に精製されていた。しかしながら、このような方法には、多くの不純物が生成され、精製プロセスを制御することが困難であるという欠点がある。物理的方法と化学的方法を併用してそれぞれの抗原を個別に精製することができる別の方法がある。韓国公開特許第2015-0124973号には、PT、FHA、ならびにFIM2型および3型を含有する非細胞百日咳ワクチンが記載されている。
【0005】
その一方で、3つまたは4つの成分を混合することを含む百日咳ワクチン製造方法には、1つの成分でも生産性が低下すると全体の生成期間が長くなる可能性があるという問題がある。
【0006】
したがって、百日咳ワクチンを効率的に調製するために、PRNタンパク質を大量に効率的に製造する方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに関して、本発明者らは、ボルデテラ・パータシスのPRNタンパク質の抽出量を増加させ得る条件を得るための努力をしながら、ボルデテラ・パータシスを含有する試料が特定の条件下で凍結工程(低温ショック)および解凍工程を受ける場合にボルデテラ・パータシスのPRNタンパク質の抽出量が増加することを確認し、それにより本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ボルデテラ・パータシスのPRNタンパク質の抽出量を増加させることができる、PRNタンパク質を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結する工程;2)凍結した試料を解凍する工程;3)解凍した試料を破砕する工程;および4)破砕された試料を精製する工程を含む、ボルデテラ・パータシス由来PRNタンパク質を得る方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるボルデテラ・パータシスのPRNタンパク質を得る方法は、PRNタンパク質の抽出量が最大になるように、ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結し、冷蔵温度で試料を解凍することを含む。上記条件下で前処理を行った試料を精製することによりPRNタンパク質を得る場合、PRNタンパク質の抽出量は、そのような前処理を伴わない抽出方法と比べて著しく増加した。さらに、該PRNタンパク質を得る方法はまた、百日咳ワクチンを生産する目的でPRNタンパク質の大量生産にも効果的に使用できる
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、PRN精製プロセスのフローチャートを示す。
図2図2は、ペレット調製および解凍のためのプロセスと、尿素処理のためのプロセスの詳細なフローチャートを示す。
図3図3は、様々な調製および保存条件下で得られた各ペレットを尿素で処理することにより得られた結果を示す。
図4a図4aは、SDS-PAGE技術を用いて、比較例1~5および実施例1~3の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す
図4b図4bは、SDS-PAGE技術を用いて、比較例6~10ならびに実施例4および5の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す。
図4c図4cは、SDS-PAGE技術を用いて、比較例11~16および実施例6の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す
図5a図5aは、ウエスタンブロット技術を用いて、比較例1~5および実施例1~3の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す。
図5b図5bは、ウエスタンブロット技術を用いて、比較例6~10ならびに実施例4および5の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す。
図5c図5cは、ウエスタンブロット技術を用いて、比較例11~16および実施例6の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す。
図6図6は、様々なスラリーおよびペレット保存条件下で較例1~7および実施例1~3の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量を示す。
図7図7は、様々なペレット保存条件下で比較例15~17および実施例7の各方法によりPRNタンパク質を得た場合のPRNタンパク質の抽出量を示す。
図8図8は、様々なペレット解凍条件を用いた場合のPRNタンパク質の抽出量の差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の態様では、1)ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結する工程;2)凍結した試料を解凍する工程;3)解凍した試料を破砕する工程;および4)破砕された試料を精製する工程を含む、ボルデテラ・パータシス由来PRNタンパク質を得る方法が提供される。
【0013】
第1に、ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結する工程を行う。
【0014】
本発明において、「ボルデテラ・パータシス」は、ボルデテラ・パラパータシス(Bordetella parapertussis)とも称され、鞭毛および胞子を含まないわずか約0.3~1μm程度のグラム陰性球桿菌である。ボルデテラ・パータシスの主要タンパク質の1つであるPRNは、パータクチンの略語であり、百日咳を引き起こすボルデテラ・パータシスの病原性因子である。さらに、気管上皮細胞に付着する外膜タンパク質であるPRNは、ボルデテラ・パータシスから得られ、百日咳ワクチンの重要な成分の1つである。
【0015】
本発明において、「ボルデテラ・パータシスを含有する試料」は、ボルデテラ・パータシスを培養することにより得られる培養物、連続遠心分離により培養物から分離されたスラリー、または高速遠心分離によりスラリーから得られたペレットであり得、ペレットが好ましい。ここで、得られたスラリーをすぐに遠心分離してペレットを得てもよい。しかしながら、得られたスラリーを1~5日後に遠心分離してペレットを得てもよい。ここで、スラリーを0℃~25℃で保存してもよい。しかしながら、本発明はこれらに限定されない。
【0016】
本発明の実施態様では、ボルデテラ・パータシス株を改変スタイナーショルト(modified stainer scholte)(MSS)培地中にて35℃の温度で培養し、細胞培養物を室温で2時間連続遠心分離し、それから得たスラリーを2℃~8℃にて7,000rpmの速度で50分間高速遠心分離することによりペレットを製造した。
【0017】
第2に、凍結した試料を解凍する工程を行う。
【0018】
ボルデテラ・パータシス株を含有する試料を凍結する工程において、凍結は、-1℃、-2℃、-5℃、-10℃、-20℃、-30℃、-40℃、-50℃、-60℃、-70℃、-80℃もしくは-90℃の温度で、または-1℃~-90℃、-5℃~-85℃、-15℃~-75℃もしくは-30℃~-60℃の温度で行われ得る。凍結は、0.5時間、1時間、2時間、5時間、10時間、20時間、30時間もしくは40時間、または0.5時間~40時間、1時間~30時間、2時間~20時間もしくは5時間~10時間行われ得る。
【0019】
さらに、凍結した試料を冷蔵保存することによりゆっくりと解凍する。ここで、解凍は、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、7℃、10℃、15℃、20℃もしくは25℃の温度で、または1℃~25℃、2℃~18℃、5℃~15℃もしくは7℃~10℃の温度で冷蔵することにより行われ得る。解凍は、0.1時間、1時間、5時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間もしくは60時間、または0.1時間~60時間、1時間~55時間、5時間~50時間もしくは12~48時間冷蔵することにより行われ得る。
【0020】
本発明の実施態様では、ペレットを-30℃以下で2時間凍結保存し、凍結したペレットを室温または1℃~7℃の冷蔵温度で解凍した。
【0021】
ここで、凍結工程および解凍工程は、1回以上繰り返して行うことができる。
【0022】
第3に、解凍した試料を破砕する工程を行う。
【0023】
解凍した試料を破砕工程にかける。ここで、破砕は、例えば尿素処理、熱処理、グアニジン処理およびヨウ素処理を介して行われ得る。しかしながら、破砕方法は、これらに限定されず、当該技術分野において知られている様々な破砕方法を適用することができる。
【0024】
尿素処理により試料が破砕される場合、該処理は、0.1M、0.5M、1M、2M、3M、4M、5M、6M、7Mもしくは10Mの尿素濃度で、または0.1M~10M、1M~8M、3M~7Mもしくは4M~5Mの尿素濃度で行われ得る。尿素処理は、5分間、10分間、20分間、50分間、80分間、120分間、180分間、240分間もしくは360分間、または5分間~360分間、20分間~240分間もしくは50分間~180分間行われ得る。
【0025】
本発明の実施態様では、解凍したペレットにペレット重量の4倍の量の5.0M尿素バッファーを負荷し、3時間撹拌することにより、ペレット中のボルデテラ・パータシスの外膜を破砕した。
【0026】
第4に、破砕された試料を精製する工程を行う。
【0027】
細胞可溶化物または細胞溶媒物を遠心分離した後、様々なカラムクロマトグラフィー法などを用いて、不要な細胞デブリを除去することができる。カラムクロマトグラフィー法としては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル排除クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC、逆相HPLC、親和性クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0028】
本発明の実施態様では、破砕されたペレットを精製する工程において、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)およびゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を行うことによりPRNタンパク質を得た。
【0029】
本明細書で用いる場合、「イオン交換クロマトグラフィー」は、アニオンまたはカチオンが交換樹脂である固定相と共有結合しているイオン交換樹脂を使用することができる。移動相中の反対に荷電された溶質イオンは静電引力により固定相に引き付けられる。イオン交換クロマトグラフィーは、静電力によってイオンまたは荷電化合物がイオン交換体に吸着することにより達成される平衡に基づいている。
【0030】
本発明の実施態様では、イオン交換クロマトグラフィーカラムにアニオン交換樹脂を使用し、平衡バッファーとしてTris-HCl溶液、洗浄バッファーとしてNaCl含有Tris-HCl溶液、溶離バッファーとしてNaCl含有Tris-HCl溶液を使用して、PRNタンパク質を溶出した。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語「疎水性相互作用クロマトグラフィー」とは、疎水性官能基を有するマトリックスと分子との間の疎水性相互作用を用いる分取方法をいう。親水性で不活性なアガロースを変性させることによりマトリックスに疎水性機能を持たせることができる。アルキルアミンをBrCN活性化アガロースと反応させることにより得られる変性アガロースが広く使用される。疎水性相互作用クロマトグラフィーはタンパク質の純粋な分離に広く使用されている。さらに、疎水性相互作用クロマトグラフィーでは、タンパク質溶離のために、イオン強度を低下させることができるか、またはpHを上昇させることができ、極性を下げる脂肪族アミン、アルコール、または非イオン界面活性剤(例えば、Tween-20およびTriton X-100)を使用することができる。
【0032】
本発明の実施態様では、平衡バッファーとしてNaCl溶液含有Tris-HCl溶液、洗浄バッファーとしてNaCl溶液含有Tris-HCl溶液、および溶離液としてNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を使用して、PRNタンパク質を溶出した。
【0033】
本明細書で用いる場合、「ゲル濾過クロマトグラフィー」は、固定相でモレキュラーシーブを使用し、該モレキュラーシーブは、親水性であるために水を吸収して膨潤することができる、Sephadex、ポリアクリルアミド、またはアガロースゲルである。試料分子のサイズが膨潤したゲルの最大孔よりも大きい場合には、該分子は、ゲル粒子を通過しないため、固定相粒子の空間を通ってカラムから出てくる。より小さな分子は、ゲル粒子の開いた孔に入り、それらのサイズおよび形状に応じて様々な速度で通過する。したがって、分子は、サイズが小さくなる順に溶出される。ゲルクロマトグラフィーでは、試料サイズ、粘度、イオン強度、流速などが考慮される。
【0034】
本発明の実施態様では、平衡バッファーとしてNaCl溶液含有硫酸ナトリウムを使用してPRNタンパク質を溶出した。
【0035】
発明のモード
以下に、下記の実施例により、本発明をより詳しく記載する。しかしながら、下記の実施例は本発明を例示するためだけのものであり、本発明の範囲をこれらに限定するものではない。
【実施例
【0036】
実施例1.PRNを得るプロセス
PRNを得るプロセスは、以下のプロセス工程で行った:ペレットの調製および解凍、尿素処理、カラムクロマトグラフィー(IEX、HICおよびSEC)、濃縮およびバッファー交換(UF/DF)、ならびに不純物不含PRNタンパク質の精製。PRNを得るプロセスのフローチャートを図1に示す。
【0037】
実施例1.1.ボルデテラ・パータシスの培養
ボルデテラ・パータシス(Korea National Institute of Health)をMSS培地で35℃の温度で4日間培養した。培養期間については、具体的には、種培養のために1日、一次濃縮培養に1日、二次濃縮培養に1日、主培養に1日かかった。
【0038】
実施例1.2.ペレット調製
細胞培養物を、室温で2時間、流速100L/時および9,500rpmの条件下での連続遠心分離により、細胞上清とスラリーとに分離した。分取したスラリーを、5℃±3℃で50分間、7,000rpmにて高速遠心分離して、ペレットを得た。移管お実施例において、スラリーを3日間保存する場合には、スラリーを5℃の冷蔵温度で3日間保存し、次いで、高速遠心分離してペレットを調製した。
【0039】
実施例1.3.凍結および解凍
調製したペレットを-30℃以下で2時間保存し、次いで、室温(RT)で1日間保存して解凍した。その後、下記の実施例1.4~1.7の手順を行ってPRNタンパク質を得た。さらに、下記の表1に示す実施例1~6および比較例1~16におけるようにスラリーの保存条件ならびに凍結および解凍条件を変えて実験を行い、次いで、下記の実施例1.4~1.7の手順を行ってPRNタンパク質を得た。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1.4.尿素処理
解凍したペレットに該ペレットの重量の4倍量の5.0M尿素バッファーを添加し;磁気棒を使用して280rpmの速度で3時間、撹拌を行った。3時間撹拌しておいた尿素処理した溶液を、5℃±3℃の条件下、7,000rpm(12230RCF)の速度で1.5時間高速遠心分離した。この遠心分離後に、細胞デブリを除去し、上清を回収した。回収した上清を0.22μmフィルターで濾過した。ペレット調製、実施例1.2および1.3の解凍、ならびに尿素処理の詳しいプロセスフローチャートを図2に例示する。
【0042】
実施例1.5.IEXカラムによる精製
IEX樹脂を充填したカラムに3CVの蒸留水(DW)を100cm/時で流して保存溶液を除去した。次いで、該カラムに1N NaOH溶液を40cm/時で1時間流して洗浄を行った。該カラムに、3CVの、平衡バッファーであるTris-HClを流して平衡化を行った。平衡化完了後、該IEXカラムに濃縮およびバッファー交換1のためのプロセス溶液を流して吸着させた。該カラムに3CVの該平衡バッファーを流して、カラム内に残っていた溶液を除去した。その後、該カラムに、5CVの、洗浄バッファーであるNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を流して洗浄を行った。洗浄完了後、該カラムに、5CVの、溶離バッファーであるNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を流してPRNタンパク質を溶出させた。
【0043】
実施例1.6.HICカラムによる精製
HIC樹脂を充填したカラムに3CVの蒸留水を100cm/時で流して保存溶液を除去した。次いで、該カラムに1N NaOH溶液を40cm/時で1時間流して洗浄を行った。該カラムに、3CVの、平衡バッファーであるNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を流して平衡化を行った。平衡化完了後、IEXカラムによる精製プロセスを介して得られた溶離液と3.6M NaClとを1:1の割合で混合することにより得られた溶液を該HICカラムに流して吸着させた。該カラムに3CVの該平衡バッファーを流して、カラム内に残っていた溶液を除去した。その後、該カラムに、5CVの、洗浄バッファーであるNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を流して洗浄を行った。洗浄完了後、5CVの、溶離バッファーであるNaCl溶液含有Tris-HCl溶液を流してPRNタンパク質を溶出させた。
【0044】
実施例1.7.GFCカラムによる精製
GFC樹脂を充填したカラムに3CVの蒸留水を15cm/時で流して保存溶液を除去した。次いで、該カラムに1N NaOH溶液を15cm/時で1時間流して洗浄を行った。3CVの、平衡バッファーであるNaCl溶液含有リン酸ナトリウムを流して平衡化を行った。平衡化完了後、濃縮およびバッファー交換2のためのプロセス溶液をGFCカラムに流してPRNタンパク質を溶出させた。
【0045】
実験例1.ペレット調製および保存条件によるPRN抽出量の差異の同定
PRNタンパク質の抽出量が効果的に増加する条件を同定するために、実施例1のPRN入手プロセスにおけるペレット調製および保存条件を変えて実験を行った。ペレット調製および保存条件は実施例1.3の表1に示したとおりであり、実験手順および各条件による結果を以下の実験例1.1~1.5に示す。
【0046】
実験例1.1.スラリーおよびペレット保存条件による尿素処理に起因する上清の色の変化
実施例1.3の表1に示すように調製および保存条件を変えて使用することにより得られた各ペレットを尿素バッファー処理し、撹拌を行った。次いで、得られたものを遠心分離した。遠心分離により得られた上清をフィルターで濾過し、各保存条件による上清の色の違いを同定した。上記のプロセスを実施例1.4に詳述し、実験結果を図3に示す。
【0047】
図3に示されるように、上清は、ペレットを凍結保存し、次いで、冷蔵保存した条件(実施例2と実施例3、および実施例5と実施例6)で暗黄色(dark yellow color)を示した。これは、冷凍保存および冷蔵保存の後に尿素処理した場合に多くのペレットが破砕されることを意味する。
【0048】
実験例1.2.ペレット保存条件によるタンパク質抽出量の差異の同定
ペレット保存条件によるPRNタンパク質の抽出量の違いを同定するために、SDS-PAGEおよびウエスタンブロット技術を用いた。ここで、ウエスタンブロット技術において、抗体として、モルモット抗PRN(Young In Frontier)およびビオチン標識モルモット抗PRN(Young In Frontier)を使用した。これらの結果は図4および5に示されている。
【0049】
図4および5に示されるように、ペレットを凍結保存し、次いで、冷蔵保存する条件で、大量のPRNタンパク質が得られた。
【0050】
実験例1.3.スラリーおよびペレット保存条件によるPRNタンパク質の抽出量の同定
スラリーおよびペレット保存条件によるPRNタンパク質の抽出量の違いを同定するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)技術を使用した。これらの結果は図6に示されている。ここで、図6のグラフの下部にある1~11の番号のそれぞれのペレット保存条件は以下のとおりであり、より詳しい条件は下記の表2に示されている:
1: ペレット調製直後に尿素処理;
2: 凍結保存、および室温で1日間解凍;
3: 凍結保存せずに室温で1日間解凍;
4: 凍結保存、および1日間冷蔵で解凍;
5: 凍結保存、および3日間冷蔵で解凍;
6: 凍結保存せずに1日間冷蔵で解凍;
7: 凍結保存せずに3日間冷蔵で解凍;
8: 1日間凍結保存(-30℃);
9: 3日間凍結保存(-30℃);
10: 1日間凍結保存(-70℃);および
11: 3日間凍結保存(-70℃)。
【0051】
【表2】
【0052】
図6に示されるように、スラリー状態で0日間保存した後に調製されたペレットは、ペレットが凍結保存されている間じゅうPRNタンパク質の抽出量の経時的増加を示し(実施例2と実施例3との比較による);スラリー状態で3日間保存された後に調製されたペレットは、ペレットが凍結保存されている間じゅうPRNタンパク質の抽出量の経時的減少を示した(実施例5と実施例6との比較による)。さらに、凍結保存されたペレットは、凍結保存されなかったペレットと比較して、PRNタンパク質の抽出量の増加を示した(実施例1と比較例2との比較、実施例2と比較例3との比較、および実施例3と比較例4との比較による)。これは、PRNタンパク質の抽出量を増加させるためには、スラリーをそのまま保存するよりも、ペレット化しスラリーを直ちにペレット化して該ペレットを保存する方が効果的であり、また、凍結工程によりPRNタンパク質の抽出量が大幅に増加することを意味している。
【0053】
実験例1.4.ペレット解凍によるPRNタンパク質の抽出量の差異の同定
図6において、凍結保存した実験グループ(実施例1と実施例4、実施例2と実施例5、実施例3と実施例6、比較例5と比較例13、比較例6と比較例14、比較例7と比較例15、および、比較例8と比較例16)にうち、凍結保存し、次いで、解凍した実験グループ(実施例1と実施例4、実施例2と実施例5、および、実施例3と実施例6)は、PRNタンパク質の抽出量の顕著な増加を示した。したがって、PRNタンパク質の抽出量が解凍に応じて変わるかどうかを同定するために、さらなる実験を行った。ここで、ペレットの解凍は5℃の冷蔵温度で48時間行った。実験結果は表3および図7に示される。
【0054】
【表3】
【0055】
表3および図7に示されるように、ペレットが尿素処理前に解凍された場合、ペレットが凍結された場合と比較して、PRNタンパク質の抽出量の約3倍増加が観察された。凍結したペレットを尿素処理した3つの実験グループ全てにおいて、PRNタンパク質が低レベルで抽出された。これは、尿素処理前のペレットの解凍がPRNタンパク質抽出に大きな効果を奏することを意味している。これらの結果から、PRNタンパク質の抽出量を効果的に増加させるためには、ペレットを尿素処理前に解凍しなければならないことが判明した。
【0056】
実験例1.5.ペレット解凍条件によるPRNタンパク質の抽出量の差異の同定
ペレット解凍方法によるPRNタンパク質の抽出量の違いを同定するために、ペレットを凍結保存し、次いで、それぞれ、冷蔵(2日間)、室温(1時間)、および37℃(15分間)で保存した場合のPRNタンパク質の抽出量をチェックした。これらの結果は図8に示されている。
【0057】
図8に示されるように、解凍を行った場合、冷蔵で徐々に解凍した場合には、高温で急速に解凍した場合と比較して、PRNタンパク質の抽出量の増加が観察された。さらに、冷蔵で2日間解凍した場合には、37℃で15分間解凍した場合と比較して、PRNタンパク質の抽出量の約2倍増加が観察された。これらの結果から、PRNタンパク質の抽出量を効果的に増加させるためには、ペレットを凍結後に冷蔵でゆっくりと解凍しなければならないことが判明した。
【0058】
実験例2.スケールアップの可能性の同定
実験例1.1~1.5で同定したPRNタンパク質の抽出量が効果的に増加する条件を50Lスケールでさえ適用することができるかどうかを同定するために、スラリーを保存せずに直ちにペレットし、得られたペレットを1日間凍結保存(-30℃)し、次いで、冷蔵(5℃)で2日間解凍した。その後、ペレット533gを回収し、5.0M尿素バッファー1,800mLで処理し、磁気棒を使用して3時間撹拌した。撹拌した尿素処理溶液を6,300rpmの速度で1.5時間遠心分離した。遠心分離後、細胞デブリを除去し;上清1,650mLを回収し、フィルターで濾過した。その後、実施例1.5~1.7の手順を行った。結果は表4に示されている。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示されるように、実験例1.1~1.5で同定したPRNタンパク質の抽出量が効果的に増加する条件を50Lスケールでさえ適用することができ、200LスケールでPRNタンパク質約300mg~400mgを得ることができることが判明した。
本願は下記の態様も包含する。
[態様1]
ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)由来PRNタンパク質を得るための方法であって、
1)ボルデテラ・パータシスを含有する試料を凍結する工程;
2)凍結した試料を解凍する工程;
3)解凍した試料を破砕する工程;および
4)破砕された試料を精製する工程
を含む、方法。
[態様2]
ボルデテラ・パータシスを含有する試料が、ボルデテラ・パータシス培養物を遠心分離することにより得られるペレットである、態様1記載の方法。
[態様3]
工程1)において、凍結が、-5℃~-85℃の温度で行われる、態様1記載の方法。
[態様4]
工程1)において、凍結が、20~30時間行われる、態様1記載の方法。
[態様5]
工程2)において、解凍が、冷蔵で行われる、態様1記載の方法。
[態様6]
解凍が、1℃~10℃の温度で冷蔵することにより行われる、態様5記載の方法。
[態様7]
解凍が、36~48時間冷蔵することにより行われる、態様5記載の方法。
[態様8]
工程3)において、破砕が、尿素処理、熱処理、グアニジン処理およびヨウ素処理からなる群から選択されるいずれか1つの処理により行われる、態様1記載の方法。
[態様9]
尿素処理が、3M~7Mの尿素濃度で行われる、態様8記載の方法。
[態様10]
尿素処理が、150~210分間行われる、態様8記載の方法。
[態様11]
工程4)において、精製が、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)およびゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を行うことにより行われる、態様1記載の方法。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8