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▶ 東芝キヤリア株式会社の特許一覧

<図1>
  • 特許-回転式圧縮機および冷凍サイクル装置 図1
  • 特許-回転式圧縮機および冷凍サイクル装置 図2
  • 特許-回転式圧縮機および冷凍サイクル装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】回転式圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 23/00 20060101AFI20221201BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20221201BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F04C23/00 F
F04C29/00 C
F04C18/356 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020559610
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2018045713
(87)【国際公開番号】W WO2020121443
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑山 昌宏
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116912(WO,A1)
【文献】特開2018-135780(JP,A)
【文献】特開2016-100944(JP,A)
【文献】特開2017-133474(JP,A)
【文献】特開2009-41546(JP,A)
【文献】特開平4-143483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/00
F04C 29/00
F04C 18/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に被圧縮ガスを圧縮する圧縮機構部と潤滑油を収納し、前記圧縮機構部は、
シャフトと、
第1シリンダ室を形成する第1シリンダと、
前記シャフトの軸方向に沿って前記第1シリンダと並んで配置され、第2シリンダ室を形成する第2シリンダと、
前記第1シリンダと前記第2シリンダとの間に配置され、前記シャフトが通されるシャフト孔を有し、前記第1シリンダ室および前記第2シリンダ室を閉塞する仕切板と、
前記第1シリンダを挟んで前記仕切板とは反対側に配置され、前記シャフトを支持する第1軸受と、
前記第2シリンダを挟んで前記仕切板とは反対側に配置され、前記シャフトを支持する第2軸受と、
前記第1軸受の前記第1シリンダ側に形成され、前記第1シリンダ室を閉塞する第1表面を有する第1フランジ部と、
前記第2軸受の前記第2シリンダ側に形成され、前記第2シリンダ室を閉塞する第2表面を有する第2フランジ部と、
前記シャフトに形成され、前記軸方向において前記第1シリンダの位置に配置される第1偏心部と、
前記シャフトに形成され、前記軸方向において前記第2シリンダの位置に配置され第2偏心部と、
前記第1偏心部の外周面に沿って配置され、前記シャフトの回転に伴って前記第1フランジ部の前記第1表面に沿って移動する第1ローラと、
前記第2偏心部の外周面に沿って配置され、前記シャフトの回転に伴って前記第2フランジ部の前記第2表面に沿って移動する第2ローラと、を有し、
前記仕切板の前記軸方向の厚さは、前記第1フランジ部の前記軸方向の厚さおよび前記第2フランジ部の前記軸方向の厚さより薄く、
前記第1軸受は、前記第1フランジ部の表面にリング状に形成されて前記シャフトと同軸状に配置される第1溝部を有し、
前記第2軸受は、前記第2フランジ部の表面にリング状に形成されて前記シャフトと同軸状に配置される第2溝部を有し、
前記第1ローラの移動に伴って前記第1ローラの前記仕切板側の端面が前記シャフト孔に露出しうる部分の面積をSc1とし、前記第1ローラの移動に伴って前記第1ローラの前記第1フランジ部側の端面が前記第1溝部の外周の内側領域に露出しうる部分の面積をSe1としたとき、1<Sc1/Se1≦1.6が成立し、
前記第2ローラの移動に伴って前記第2ローラの前記仕切板側の端面が前記シャフト孔に露出しうる部分の面積をSc2とし、前記第2ローラの移動に伴って前記第2ローラの前記第2フランジ部側の端面が前記第2溝部の外周の内側領域に露出しうる部分の面積をSe2としたとき、1<Sc2/Se2≦1.6が成立し、
前記第1フランジ部の前記第1表面および前記第2フランジ部の前記第2表面に、固体潤滑被膜が形成され、
少なくとも、前記第1ローラと前記第2ローラ及び前記仕切板には固体潤滑被膜が形成されない、
回転式圧縮機。
【請求項2】
前記固体潤滑被膜は、リン酸マンガン被膜または二酸化モリブデン被膜である、
請求項1に記載の回転式圧縮機。
【請求項3】
前記固体潤滑被膜は、下層のリン酸マンガン被膜と、上層の二酸化モリブデン被膜と、を有する、
請求項1に記載の回転式圧縮機。
【請求項4】
前記被圧縮ガスが二酸化炭素であり、前記潤滑油がポリアルキレングリコール油である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の回転式圧縮機と、
前記回転式圧縮機に接続された放熱器と、
前記放熱器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置に接続された吸熱器と、を有する、
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転式圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置において回転式圧縮機が利用されている。回転式圧縮機は、シリンダ室の内部でローラを偏心回転させ、気体冷媒を圧縮して外部に送出する。ローラは、シリンダ室の端面を形成する部材(軸受または仕切板)の表面を摺動する。シリンダ室の端面を形成する部材が摩耗すると、回転式圧縮機の圧縮性能が低下する。圧縮性能の低下を抑制することができる回転式圧縮機が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-202200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、圧縮性能の低下を抑制することができる回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転式圧縮機は、容器内に被圧縮ガスを圧縮する圧縮機構部と潤滑油を収納している。前記圧縮機構部は、シャフトと、第1シリンダと、第2シリンダと、仕切板と、第1軸受と、第2軸受と、第1フランジ部と、第2フランジ部と、第1偏心部と、第2偏心部と、第1ローラと、第2ローラと、を有する。第1シリンダは、第1シリンダ室を形成する。第2シリンダは、前記シャフトの軸方向に沿って前記第1シリンダと並んで配置される。第2シリンダは、第2シリンダ室を形成する。仕切板は、前記第1シリンダと前記第2シリンダとの間に配置される。仕切板は、前記シャフトが通されるシャフト孔を有する。仕切板は、前記第1シリンダ室および前記第2シリンダ室を閉塞する。第1軸受は、前記第1シリンダを挟んで前記仕切板とは反対側に配置される。第1軸受は、前記シャフトを支持する。第2軸受は、前記第2シリンダを挟んで前記仕切板とは反対側に配置される。第2軸受は、前記シャフトを支持する。第1フランジ部は、前記第1軸受の前記第1シリンダ側に形成される。第1フランジ部は、前記第1シリンダ室を閉塞する第1表面を有する。第2フランジ部は、前記第2軸受の前記第2シリンダ側に形成される。第2フランジ部は、前記第2シリンダ室を閉塞する第2表面を有する。第1偏心部は、円柱状に形成される。第1偏心部は、前記シャフトに形成される。第1偏心部は、前記軸方向において前記第1シリンダの位置に配置される。第2偏心部は、前記シャフトに形成される。第2偏心部は、前記軸方向において前記第2シリンダの位置に配置される。第1ローラは、前記第1偏心部の外周面に沿って配置される。第1ローラは、前記シャフトの回転に伴って前記第1フランジ部の前記第1表面に沿って移動する。第2ローラは、前記第2偏心部の外周面に沿って配置される。第2ローラは、前記シャフトの回転に伴って前記第2フランジ部の前記第2表面に沿って移動する。前記仕切板の前記軸方向の厚さは、前記第1フランジ部の前記軸方向の厚さおよび前記第2フランジ部の前記軸方向の厚さより薄い。前記第1軸受は、前記第1フランジ部の表面にリング状に形成されて前記シャフトと同軸状に配置される第1溝部を有する。前記第2軸受は、前記第2フランジ部の表面にリング状に形成されて前記シャフトと同軸状に配置される第2溝部を有する。前記第1ローラの移動に伴って前記第1ローラの前記仕切板側の端面が前記シャフト孔に露出しうる部分の面積がSc1と定義される。前記第1ローラの移動に伴って前記第1ローラの前記第1フランジ部側の端面が前記第1溝部の外周の内側領域に露出しうる部分の面積がSe1と定義される。このとき、1<Sc1/Se1≦1.6が成立する。前記第2ローラの移動に伴って前記第2ローラの前記仕切板側の端面が前記シャフト孔に露出しうる部分の面積がSc2と定義される。前記第2ローラの移動に伴って前記第2ローラの前記第2フランジ部側の端面が前記第2溝部の外周の内側領域に露出しうる部分の面積がSe2と定義される。このとき、1<Sc2/Se2≦1.6が成立する。前記第1フランジ部の前記第1表面および前記第2フランジ部の前記第2表面に、固体潤滑被膜が形成される。少なくとも、前記第1ローラと前記第2ローラ及び前記仕切板には固体潤滑被膜が形成されない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む冷凍サイクル装置の概略構成図。
図2】圧縮機構部の拡大図。
図3図2のF-F線における圧縮機構部の断面図。
図4】第1ローラの受圧部分の第1説明図。
図5】第1ローラの受圧部分の第2説明図。
図6】第1ローラの受圧部分の第3説明図。
図7】第1ローラの受圧部分の第4説明図。
図8】第1ローラおよび第2ローラの内側受圧面積の説明図。
図9】第1ローラおよび第2ローラの外側受圧面積の説明図。
図10】第1フランジ部の第1表面の摩耗量の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
本願において、極座標系のZ方向、R方向およびθ方向が以下のように定義される。Z方向はシャフト31の軸方向である。+Z方向は、圧縮機構部33から電動機部32に向かう方向である。例えば、Z方向は鉛直方向であり、+Z方向は鉛直上方である。なお、Z方向を軸方向Zと呼ぶ場合がある。R方向はシャフト31の径方向である。+R側は、径方向の外側であって、シャフト31の中心軸から離れる側である。なお、R方向を径方向Rと呼ぶ場合がある。θ方向は、シャフト31の中心軸の周方向である。なお、θ方向を周方向θと呼ぶ場合がある。
【0008】
冷凍サイクル装置について簡単に説明する。
図1は、本実施形態の回転式圧縮機2の断面図を含む冷凍サイクル装置の概略構成図である。冷凍サイクル装置1は、回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器(例えば凝縮器)3と、放熱器3に接続された膨張装置(例えば膨張弁)4と、膨張装置4に接続された吸熱器(例えば蒸発器)5とを備えている。冷凍サイクル装置1は、二酸化炭素(CO)等の冷媒を含む。冷媒は、相変化しながら冷凍サイクル装置1を循環する。
【0009】
回転式圧縮機2は、いわゆるロータリ式の圧縮機である。回転式圧縮機2は、例えば、内部に取り込まれる低圧の気体冷媒(流体)を圧縮して高温・高圧の気体冷媒にする。なお、回転式圧縮機2の具体的な構成については後述する。
【0010】
放熱器3は、回転式圧縮機2から吐出される高温・高圧の気体冷媒から熱を放出させる。
膨張装置4は、放熱器3から送り込まれる高圧の冷媒の圧力を下げ、低温・低圧の液体冷媒にする。
吸熱器5は、膨張装置4から送り込まれる低温・低圧の液体冷媒を気化させ、低圧の気体冷媒にする。吸熱器5において、低圧の液体冷媒が気化する際に周囲から気化熱を奪うことで周囲が冷却される。吸熱器5を通過した低圧の気体冷媒は、上述した回転式圧縮機2の内部に取り込まれる。
【0011】
このように、本実施形態の冷凍サイクル装置1では、作動流体である冷媒が気体冷媒と液体冷媒との間で相変化しながら循環し、これらの放熱や吸熱を利用して暖房や冷房などが行われる。
【0012】
回転式圧縮機2の具体的な構成について説明する。
本実施形態の回転式圧縮機2は、圧縮機本体11と、アキュムレータ12とを備える。
アキュムレータ12は、いわゆる気液分離器である。アキュムレータ12は、上述した吸熱器5と圧縮機本体11との間に設けられている。アキュムレータ12は、吸込管21を通じて圧縮機本体11に接続されている。アキュムレータ12は、吸熱器5で気化された気体冷媒を、吸込管21を通して圧縮機本体11に供給する。
【0013】
圧縮機本体11は、シャフト31と、シャフト31を回転させる電動機部32と、シャフト31の回転によって気体冷媒を圧縮する圧縮機構部33と、これらシャフト31、電動機部32および圧縮機構部33を収容した円筒状の密閉容器34とを備えている。
【0014】
シャフト31および密閉容器34は、シャフト31の軸心(軸線)Oに対して同軸状に配置されている。なお、シャフト31の軸心Oとは、シャフト31の中心(回転中心)を意味する。電動機部32は、密閉容器34のなかで、軸心Oに沿う+Z側(図1における上側)に配置されている。圧縮機構部33は、密閉容器34のなかで、軸心Oに沿う-Z側(図1における下側)に配置されている。
シャフト31は、軸方向Zに沿って、電動機部32を貫通するとともに、圧縮機構部33の内部に伸びている。
【0015】
電動機部32は、いわゆるインナーロータ型のDCブラシレスモータである。具体的には、電動機部32は、固定子36と、回転子37とを備える。固定子36は、筒状に形成され、密閉容器34の内壁面に焼嵌めなどによって固定されている。回転子37は、固定子36の内側に配置されている。回転子37は、シャフト31の上部に連結されている。回転子37は、固定子36に設けられたコイルに電流が供給されることで、シャフト31を回転駆動する。
【0016】
次に、圧縮機構部33について説明する。
図2は、圧縮機構部の拡大図である。圧縮機構部33は、複数のシリンダ室を有する多気筒の圧縮機構部である。例えば、実施形態の圧縮機構部33は、2個のシリンダ室51a,52aを有する2気筒の圧縮機構部である。圧縮機構部33は、複数のシリンダ51,52と、仕切板53と、主軸受(第1軸受)54と、副軸受(第2軸受)55と、複数のローラ56,57と、主マフラ部材91と、副マフラ部材92とを備える。
【0017】
複数のシリンダは、第1シリンダ51と、第2シリンダ52とを含む。第1シリンダ51および第2シリンダ52は、軸方向Zに並んで配置されている。第1シリンダ51および第2シリンダ52は、軸方向Zに開口した筒状に形成されている。第1シリンダ51および第2シリンダ52は、シャフト31と同軸状に、シャフトの径方向Rの外側に配置される。これにより、第1シリンダ51には、第1シリンダ室51aとなる内部空間が形成されている。第1シリンダ51の内周面は、リング状の第1シリンダ室51aの外周面を形成する。第2シリンダ52には、第2シリンダ室52aとなる内部空間が形成されている。第2シリンダ52の内周面は、リング状の第2シリンダ室52aの外周面を形成する。
本願では、軸方向Zにおける第1シリンダ51および第2シリンダ52の仕切板53側を「内側」と呼ぶ場合がある。また、軸方向Zにおける第1シリンダ51の主軸受54側および第2シリンダ52の副軸受55側を「外側」と呼ぶ場合がある。
【0018】
仕切板53は、軸方向Zで第1シリンダ51と第2シリンダ52との間に配置され、第1シリンダ51と第2シリンダ52との間に挟まれている。仕切板53は、軸方向Zで第1シリンダ室51aの内部空間に面して、第1シリンダ室51aを閉塞している。同様に、仕切板53は、第2シリンダ室52aの内部空間に面して、第2シリンダ室52aを閉塞している。また、仕切板53には、軸方向Zにシャフト31が通されるシャフト孔53hが設けられている。上述したシャフト31は、第1シリンダ51,第2シリンダ52および仕切板53を貫通する。
【0019】
図1に示すように、第1シリンダ51には、径方向Rに沿って伸びる第1吸込孔76が形成される。第1吸込孔76の径方向Rの内側端部は、第1シリンダ室51aに開口する。第1吸込孔76の径方向Rの外側端部は、アキュムレータ12から伸びる吸込管21に接続される。これにより、第1シリンダ室51aは、アキュムレータ12から気体冷媒を吸い込むことができる。また、第1シリンダ51、仕切板53および第2シリンダ52には、軸方向Zに沿って伸びる第2吸込孔79が形成される。第2吸込孔79の軸方向Zの上側端部は、第1吸込孔76に開口する。すなわち第2吸込孔79は、第1吸込孔76から分岐して形成される。第2吸込孔79の軸方向Zの下側端部は、第2シリンダ室52aに開口する。これにより、第2シリンダ室52aは、アキュムレータ12から気体冷媒を吸い込むことができる。
【0020】
主軸受54は、第1シリンダ51を挟んで仕切板53とは反対側に位置する。主軸受54は、シャフト31を回転可能に支持する。主軸受54は、第1シリンダ51側の端部に形成された第1フランジ部54fを有する。第1フランジ部54fは、第1シリンダ室51aを閉塞する第1表面54sを有する。
【0021】
副軸受55は、第2シリンダ52を挟んで仕切板53とは反対側に位置する。副軸受55は、シャフト31を回転可能に支持する。副軸受55は、第2シリンダ52側の端部に形成された第2フランジ部55fを有する。第2フランジ部55fは、第2シリンダ室52aを閉塞する第2表面55sを有する。
【0022】
上述したシャフト31には、第1偏心部41と、第2偏心部42とが軸方向Zに並んで設けられている。第1偏心部41は、第1シリンダ室51aに対応する軸方向Zの位置に設けられ、第1シリンダ室51aの内部に配置されている。第2偏心部42は、第2シリンダ室52aに対応する軸方向Zの位置に設けられ、第2シリンダ室52aの内部に配置されている。第1偏心部41および第2偏心部42の各々は、軸方向Zに沿う円柱状に形成され、軸心Oに対して径方向Rに同一量ずつ偏心している。第1偏心部41および第2偏心部42は、軸方向Zから見た平面視で例えば同形同大に形成されるとともに、例えば周方向θに180°の位相差をもって配置されている。
【0023】
複数のローラは、第1ローラ56と、第2ローラ57とを含む。第1ローラ56および第2ローラ57の各々は、軸方向Zに沿う円筒状に形成されている。第1ローラ56は、第1偏心部41の外周面に沿って嵌められて、第1シリンダ室51aに配置される。同様に、第2ローラ57は、第2偏心部42の外周面に沿って嵌められて、第2シリンダ室52aに配置される。各ローラ56,57の内周面と各偏心部41,42との間には、各偏心部41,42に対する各ローラ56,57の相対回転を許容する隙間が設けられている。第1ローラ56および第2ローラ57の各々は、シャフト31の回転に伴い、各ローラ56,57の外周面を各シリンダ51,52の内周面に摺接させながら、各シリンダ室51a,52aの内部で偏心回転する。
【0024】
次に、シリンダの内部構成について説明する。
第1シリンダ51の内部構成と第2シリンダ52の内部構成は、各偏心部41,42および各ローラ56,57の位相差に応じて異なる部分を除いて、互いに略同じである。このため、ここでは第1シリンダ51の内部構成を代表として説明する。そして、第2シリンダ52において第1シリンダ51と同一の機能を有する構成には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0025】
図3は、図2のF-F線における圧縮機構部33の断面図である。
図3に示すように、第1シリンダ51の内周面には、径方向Rの外側に向けて延びたベーン溝71が設けられている。ベーン溝71には、径方向Rに沿ってスライド移動可能なベーン72が挿入されている。ベーン72は、図示しない付勢手段によって径方向Rの内側に向けて付勢され、その先端部が第1シリンダ室51a内で第1ローラ56の外周面に当接している。これにより、ベーン72は、第1シリンダ室51aの内部を、吸込室74と圧縮室75とに仕切っている。ベーン72は、第1ローラ56の偏心回転に伴って第1シリンダ室51a内に進退する。これにより、吸込室74に気体冷媒を吸い込む吸込動作および圧縮室75で気体冷媒を圧縮する圧縮動作が行われる。
【0026】
また、第1シリンダ51には、上述した第1吸込孔76と、吐出溝77とが設けられている。第1吸込孔76の径方向Rの内側端部は、第1シリンダ室51aの吸込室74に開口している。吐出溝77は、圧縮室75に設けられている。吐出溝77は、第1シリンダ51の内周面に軸方向Zに沿って設けられ、後述する主軸受吐出孔に連通している。吐出溝77は、圧縮室75で圧縮された気体冷媒を主軸受吐出孔に導く。一方で、第2シリンダ52に設けられた吐出溝77は、後述する副軸受吐出孔に連通している。第2シリンダ52の吐出溝77は、圧縮室75で圧縮された気体冷媒を副軸受吐出孔に導く。
【0027】
図2に示すように、主マフラ部材91は、主軸受4との間に主マフラ室91aを形成する。第1シリンダ室51aの圧縮室75で圧縮された気体冷媒は、第1フランジ部54fに形成される主軸受吐出孔(不図示)から主マフラ室91aに吐出される。主マフラ室91aに吐出された気体冷媒は、主マフラ室吐出口91eから密閉容器34の内部に吐出される。副マフラ部材92は、副軸受55との間に副マフラ室92aを形成する。第2シリンダ52の圧縮室75で圧縮された気体冷媒は、第2フランジ部55fに形成される副軸受吐出孔(不図示)から副マフラ室92aに吐出される。副マフラ室92aは、第2シリンダ52、仕切板53および第1シリンダ51に形成された貫通孔(不図示)を介して、主マフラ室91aに連通する。そのため、副マフラ室92aに吐出された気体冷媒は、主マフラ室91aに移動し、主マフラ室吐出口91eから密閉容器34の内部に吐出される。
【0028】
密閉容器34は、電動機部32の回転子37の+Z側に、吐出管35を有する。吐出管35は、密閉容器34の内部に吐出された気体冷媒を、放熱器3など、密閉容器34の外部における冷凍サイクル装置の構成機器に吐出する。
【0029】
上述した主軸受54の第1フランジ部54fは、第1溝部61を有する。第1溝部61は、第1フランジ部54fの第1シリンダ51側の表面に形成される。第1溝部61は、軸方向Zから見てリング状に形成される。第1溝部61は、シャフト31と同軸状に、シャフト31の径方向Rの外側に配置される。これにより、シャフト31と第1溝部61との間には、シャフト31を支持する第1カラー66が形成される。
同様に、副軸受55の第2フランジ部55fは、第2溝部62を有する。シャフト31と第2溝部62との間には、シャフト31を支持する第2カラー67が形成される。
【0030】
多気筒の圧縮機構部33では、主軸受54と副軸受55との間に複数のシリンダが配置されるため、主軸受54と副軸受55との間の距離が長くなる。そのため、主軸受54と副軸受55との間においてシャフト31が撓み易い。シャフト31が撓みながら回転する場合でも、第1カラー66および第2カラー67は、シャフト31と共に撓みながらシャフト31を支持する。これにより、シャフト31の回転に伴う主軸受54および副軸受55の摩耗が抑制される。
【0031】
仕切板53の軸方向Zの厚さTcは、第1フランジ部54fの軸方向Zの厚さTe1および第2フランジ部55fの軸方向Zの厚さTe2より薄い。これにより、主軸受54と副軸受55との間の距離が短くなる。したがって、シャフト31の撓みが抑制される。
【0032】
次に、圧縮機構部33に設けられた給油通路80について説明する。
密閉容器34の内部には、潤滑油が収容されている。潤滑油(冷凍機油)として、ポリアルキレングリコール(PAG)油が収容されている。PAG油は、POE油やPVE油などの他の潤滑油に比べて、冷媒が溶解した場合の粘度低下が小さい。特に、二酸化炭素冷媒が圧縮されて高温になっても、PAG油は粘度低下が小さいので、良好な潤滑状態が維持される。
【0033】
図2に示すように、給油通路80は、シャフト31に設けられた主通路81と、第1偏心部41に設けられた副通路82および連通路84と、第1偏心部41の+Z方向に設けられた端部通路85と、を有する。第2偏心部42にも同様に、副通路および連通路が設けられる。また、第2偏心部42の-Z方向にも同様に、端部通路が設けられる。ここでは、第1偏心部41に設けられた副通路82、連通路84および端部通路85を代表として説明する。
【0034】
主通路81は、軸心Oと同軸状に設けられ、シャフト31の内部に形成されている。主通路81は、軸方向Zに沿ってシャフト31の内部を延びている。主通路81は、副軸受45に支持されるシャフト31の端部において、密閉容器34の内部に開口している。圧縮機構部33の一部は、密閉容器34に収容された潤滑油に浸かっている。主通路81には、潤滑油が流入する。主通路81の内部には、シャフト31の回転に伴って潤滑油を主通路81内に汲み上げるねじり板等のポンプ手段(不図示)が設けられている。
【0035】
副通路82は、第1偏心部41の外周面に設けられた溝である。副通路82は、第1偏心部41の外周面と第1ローラ56の内周面との間に形成されている。副通路82は、軸方向Zに沿って第1偏心部41の全体に亘って延びている。
連通路84は、径方向Rに沿って第1偏心部41の内部に設けられている。連通路84は、主通路81と副通路82との間に設けられ、主通路81と副通路82とを接続している。主通路81に汲み上げられた潤滑油は、シャフト31の回転に伴う遠心力により、連通路84を通って副通路82に流入する。さらに潤滑油は、副通路82から圧縮機構部33の様々な摺動部分に供給される。
【0036】
端部通路85の径方向Rの内側端部は、主通路81に開口する。端部通路85の径方向Rの外側端部は、シャフト31の外周面に開口する。主通路81に汲み上げられた潤滑油は、シャフト31の回転に伴う遠心力により、端部通路85を通ってシャフト31の外周面に供給される。さらに潤滑油は、シャフト31の外周面から圧縮機構部33の様々な摺動部分に供給される。
【0037】
各ローラ56,57が軸方向Zに受ける圧力について説明する。
最初に、各ローラ56,57の内側端面(仕切板53側の端面)が受ける圧力について説明する。
前述したように、圧縮機構部33で圧縮された気体冷媒は、密閉容器34の内部に吐出される。密閉容器34の内部の気体冷媒および潤滑油は高圧の状態である。同様に、給油通路80を介して潤滑油が供給される部分も高圧の状態である。給油通路80の副通路82を介して、仕切板53のシャフト孔53hの内側領域である中央部領域53Aに潤滑油が供給される。給油通路80の副通路82および端部通路85を介して、第1フランジ部54fの第1溝部61の外周の内側領域である第1端部領域61Aに潤滑油が供給される。なお、第1カラー66の-Z方向の先端は、第1フランジ部54fの第1シリンダ51側の表面より+Z方向に配置される。そのため、径方向Rにおいてシャフト31の外周から第1溝部61の外周までが第1端部領域61Aである。同様に、第2フランジ部55fの第2溝部62の外周の内側領域である第2端部領域62Aにも潤滑油が供給される。したがって、中央部領域53A、第1端部領域61Aおよび第2端部領域62Aが、いずれも高圧の状態である。
【0038】
図4は、第1ローラの受圧部分の第1説明図である。同様に、図5は第2説明図であり、図6は第3説明図であり、図7は第4説明図である。図4から図7は、図2のF-F線における要部断面図である。
中央部領域53Aから第1シリンダ室51aへの潤滑油の直接流入を抑制する必要がある。そのため、第1ローラ56が偏心回転する過程で、中央部領域53Aの外周(シャフト孔53hの内周)は、常に第1ローラ56の外周の内側に配置される。また、第1偏心部41はシャフト孔53hを通って第1シリンダ室51aに配置される。そのため、第1偏心部41の外径はシャフト孔53hの内径より小さい。したがって、第1ローラ56が偏心回転する過程で、中央部領域53Aの外周(シャフト孔53hの内周)の一部が、第1ローラ56の内周(第1偏心部41の外周)の外側に配置される。
【0039】
これにより、図4に示すように、中央部領域53Aの外周の一部が、第1ローラ56の内周と外周との間に配置される。すなわち、第1ローラ56の内側端面の一部が、中央部領域53Aに露出する露出領域56pとなる。
図5から図7は、図4から第1ローラ56が90degずつ偏心回転した状態を示している。第1ローラ56の偏心回転により、第1ローラ56の内側端面の内周に沿った各部が、露出領域56pとなりうる。
【0040】
図8は、第1ローラおよび第2ローラの内側端面の受圧面積の説明図である。第1ローラ56の偏心回転により、第1ローラ56の内側端面の内周に沿ったリング状の領域が、中央部領域53Aに露出しうる部分である。このリング状の領域が、中央部領域53Aから高圧を受ける高圧領域c1である。第1ローラ56の内側端面の高圧領域c1の面積(内側受圧面積)をSc1とする。
同様に、第2ローラ57の内側端面の内周に沿ったリング状の領域が、中央部領域53Aに露出しうる。このリング状の領域が、中央部領域53Aから高圧を受ける高圧領域c2である。第2ローラ57の内側端面の高圧領域c2の面積(内側受圧面積)をSc2とする。
【0041】
第1シリンダ51の内部構成と第2シリンダ52の内部構成とは、各偏心部41,42が周方向θで異なる位相に配置される点を除いて同様である。また、中央部領域53Aの外径(シャフト孔53hの内径)は、軸方向Zに沿って一定である。そのため、第1ローラ56の内側受圧面積Sc1と第2ローラ57の内側受圧面積Sc2とは同等である。
【0042】
次に、各ローラ56,57の外側端面(主軸受54または副軸受55側の端面)が受ける圧力について説明する。
図2に示すように、第1端部領域61Aから第1シリンダ室51aへの潤滑油の直接流入を抑制する必要がある。そのため、第1ローラ56が偏心回転する過程で、第1端部領域61Aの外周(第1溝部61の外周)は、常に第1ローラ56の外周の内側に配置される。また、第1ローラ56が偏心回転する過程で、第1端部領域61Aの外周の一部が、第1ローラ56の内周の外側に配置される。したがって、第1端部領域61Aの外周の一部が、第1ローラ56の内周と外周との間に配置される。第1ローラ56の外側端面の一部が、第1端部領域61Aに露出する。
【0043】
図9は、第1ローラおよび第2ローラの外側受圧面積の説明図である。
第1ローラ56の偏心回転により、第1ローラ56の外側端面の内周に沿ったリング状の領域が、第1端部領域61Aに露出しうる部分である。このリング状の領域が、第1端部領域61Aから高圧を受ける高圧領域e1である。第1ローラ56の外側端面の高圧領域e1の面積(外側受圧面積)をSe1とする。
同様に、第2ローラ57の外側端面の内周に沿ったリング状の領域が、第2端部領域62Aに露出しうる。このリング状の領域が、第2端部領域62Aから高圧を受ける高圧領域e2である。第2ローラ57の外側端面の高圧領域e2の面積(外側受圧面積)をSe2とする。
【0044】
第1端部領域61Aの外径(第1溝部61の外径)と、第2端部領域62Aの外径(第2溝部62の外径)とは、同等でもよいし、異なってもよい。両者が同等の場合には、第1ローラ56の外側受圧面積Se1と第2ローラ57の外側受圧面積Se2とは同等である。両者が異なる場合には、第1ローラ56の外側受圧面積Se1と第2ローラ57の外側受圧面積Se2とは異なる。
【0045】
次に、各ローラ56,57の内側端面が受ける力と外側端面が受ける力とを比較する。
図2に示すように、中央部領域53Aの外径(シャフト孔53hの内径)Dcは、第1端部領域61Aの外径(第1溝部61の外径)De1より大きい。そのため、第1ローラ56の内側受圧面積Sc1は、第1ローラ56の外側受圧面積Se1より大きい。すなわち、1<Sc1/Se1が成立する。なお、中央部領域53Aの圧力と、第1端部領域61Aの圧力とは同等である。したがって、第1ローラ56の内側端面が受ける+Z方向の力は、外側端面が受ける-Z方向の力より大きい。これにより、第1ローラ56は、主軸受54の第1フランジ部54fに向かって押し付けられる。
【0046】
同様に、中央部領域53Aの外径(シャフト孔53hの内径)Dcは、第2端部領域62Aの外径(第2溝部62の外径)De2より大きい。そのため、第2ローラ57の内側受圧面積Sc2は、第2ローラ57の外側受圧面積Se2より大きい。すなわち、1<Sc2/Se2が成立する。なお、中央部領域53Aの圧力と、第2端部領域62Aの圧力とは同等である。したがって、第2ローラ57の内側端面が受ける-Z方向の力は、外側端面が受ける+Z方向の力より大きい。これにより、第2ローラ57は、副軸受55の第2フランジ部55fに向かって押し付けられる。
【0047】
前述したように、仕切板53の軸方向Zの厚さTcは、第1フランジ部54fの軸方向Zの厚さTe1および第2フランジ部55fの軸方向Zの厚さTe2より薄い。この場合には、仕切板53が撓み易くなるので、仕切板53と第1ローラ56および第2ローラ57との摩擦力が大きくなる可能性がある。これに対して、第1ローラ56が第1フランジ部54fに向かって押し付けられ、第2ローラ57が第2フランジ部55fに向かって押し付けられる。これにより、第1ローラ56および第2ローラ57と仕切板53との摩擦が抑制される。
【0048】
第1シリンダ室51aの外側端面を形成する第1フランジ部54fの第1表面54sには、固体潤滑被膜59が形成される。固体潤滑被膜59は、第1表面54sのみに形成されてもよいし、主軸受54の全表面に形成されてもよい。固体潤滑被膜59として、好ましくはリン酸マンガン被膜または二酸化モリブデン被膜が形成される。これらの固体潤滑被膜59は、耐摩耗性に優れ、また第1ローラ56との初期摩擦の低減に寄与する。なお、第1表面54sと接触する下層にリン酸マンガン被膜が形成され、第1ローラ56と接触する上層に二酸化モリブデン被膜が形成されてもよい。リン酸マンガン被膜は耐摩耗性に優れるので、圧縮機の信頼性が向上する。二酸化モリブデン被膜は初期摩擦の低減効果が大きいので、圧縮機の初期特性が向上する。
同様に、第2シリンダ室52aの外側端面を形成する第2フランジ部55fの第2表面55sにも、固体潤滑被膜59が形成される。
【0049】
前述したように、第1ローラ56が第1フランジ部54fに向かって押し付けられ、第2ローラ57が第2フランジ部55fに向かって押し付けられる。これ伴って、第1ローラ56および第2ローラ57と仕切板53との摩擦が抑制される。そのため、固体潤滑被膜59は、第1フランジ部54fおよび第2フランジ部55fのみに形成されればよい。仕切板53や各ローラ56,57には、固体潤滑被膜59を形成する必要がない。したがって、回転式圧縮機2のコストが抑制される。
【0050】
図10は、第1フランジ部の第1表面の摩耗量の推移を示すグラフである。図10では、第1ローラ56の内側受圧面積Sc1と外側受圧面積Se1との比の大きさに応じた2種類のマークで、摩耗量が表示されている。1<Sc1/Se1≦1.6の場合の摩耗量が、□のマークで表示されている。1.6<Sc1/Se1の場合の摩耗量が、×のマークで表示されている。なお図10では、第1フランジ部54fの第1表面54sに形成されたリン酸マンガン被膜の摩耗量が表示されている。
【0051】
1<Sc1/Se1≦1.6の場合には、第1ローラ56が、第1フランジ部54fの第1表面54sに向かって弱く押し付けられる。この場合、回転式圧縮機2の運転の初期段階では、第1表面54sの摩耗量が増加する(初期摩耗)。しかし、運転時間がt1を超えると、初期なじみの効果により、摩耗量がほとんど増加しない(定常摩耗)。すなわち、運転の初期段階における第1表面54sと第1ローラ56との摺動により、両者の接触状態が均一化されて、第1表面54sの摺動面が滑らかになる。これにより、t1時間経過後には摩擦係数が低下して、摩耗量がほとんど増加しない状態になる。
【0052】
これに対して、1.6<Sc1/Se1の場合には、第1ローラ56が、第1表面54sに向かって強く押し付けられる。この場合には、運転時間がt1を超えても、摩耗量が増加を続ける。すなわち、圧縮機の運転の初期段階において摺動面が滑らかにならず、初期なじみの効果が得られない。特に、冷凍サイクル装置1の冷媒が二酸化炭素の場合には、冷媒が高圧に圧縮されるため、密閉容器34の内部圧力が高くなる。これにより、第1ローラ56が第1表面54sに向かって強く押し付けられるため、初期なじみの効果が得られにくくなる。
【0053】
以上により、第1ローラ56の内側受圧面積Sc1と外側受圧面積Se1との比は、1<Sc1/Se1≦1.6を満たすことが望ましい。同様に、第2ローラ57の内側受圧面積Sc2と外側受圧面積Se2との比は、1<Sc2/Se2≦1.6を満たすことが望ましい。
【0054】
以上に詳述したように、実施形態の回転式圧縮機2では、仕切板53の軸方向Zの厚さが、第1フランジ部54fの軸方向Zの厚さおよび第2フランジ部55fの軸方向Zの厚さより薄い。これにより、主軸受54と副軸受55との間の距離が短くなる。したがって、主軸受54と副軸受55との間におけるシャフト31の撓みが抑制される。
1<Sc1/Se1が成立する。これにより、第1ローラ56が第1フランジ部54fの第1表面54sに押し付けられる。また、1<Sc2/Se2が成立する。これにより、第2ローラ57が第2フランジ部55fの第2表面55sに押し付けられる。
第1フランジ部54fの第1表面54sおよび第2フランジ部55fの第2表面55sに、固体潤滑被膜59が形成される。これにより、第1ローラ56が第1表面54sに押し付けられて移動する場合でも、第1表面54sの耐摩耗性が向上する。また、第2ローラ57が第2表面55sに押し付けられて移動する場合でも、第2表面55sの耐摩耗性が向上する。
Sc1/Se1≦1.6およびSc2/Se2≦1.6が成立する。これにより、気体冷媒が高圧に圧縮される場合でも、第1ローラ56が第1フランジ部54fの第1表面54sに弱く押し付けられる。また、第2ローラ57が第2フランジ部55fの第2表面55sに弱く押し付けられる。したがって、初期なじみの効果が得られる。そのため、第1表面54sおよび第2表面55sの摩耗量が抑制される。したがって、回転式圧縮機2の圧縮性能の低下が抑制される。
【0055】
固体潤滑被膜59は、リン酸マンガン被膜または二酸化モリブデン被膜であることが望ましい。
固体潤滑被膜59は、下層のリン酸マンガン被膜と、上層の二酸化モリブデン被膜と、を有することが望ましい。
リン酸マンガン被膜は耐摩耗性に優れるので、回転式圧縮機2の信頼性が向上する。二酸化モリブデン被膜は初期摩擦の低減効果が大きいので、回転式圧縮機2の初期特性が向上する。
【0056】
回転式圧縮機2の被圧縮ガスが二酸化炭素ガスであり、潤滑油がポリアルキレングリコール油である。
被圧縮ガスが二酸化炭素の場合には、高圧に圧縮される。この場合でも、Sc1/Se1≦1.6およびSc2/Se2≦1.6が成立するので、第1表面54sおよび第2表面55sの摩耗量が抑制される。また、ポリアルキレングリコール油は、他の潤滑油よりも、冷媒が溶解した場合の粘度低下が小さい。これにより、被圧縮ガスが圧縮されて高温になっても、良好な潤滑状態が維持される。したがって、第1表面54sおよび第2表面55sの摩耗量が抑制される。
【0057】
実施形態の冷凍サイクル装置1は、前述した回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器3と、放熱器3に接続された膨張装置4と、膨張装置4に接続された吸熱器5と、を有する。
前述した回転式圧縮機2では圧縮性能の低下が抑制される。したがって、信頼性に優れた冷凍サイクル装置が提供される。
【0058】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、1<Sc1/Se1≦1.6および1<Sc2/Se2≦1.6が成立する。これにより、回転式圧縮機2の圧縮性能の低下を抑制することができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
R…径方向、Z…軸方向、θ…周方向、1…冷凍サイクル装置、2…回転式圧縮機、3…放熱器、4…膨張装置、5…吸熱器、31…シャフト、33…圧縮機構部、34…密閉容器(容器)、41…第1偏心部、42…第2偏心部、51…第1シリンダ、51a…第1シリンダ室、52…第2シリンダ、52a…第2シリンダ室、53…仕切板、53h…シャフト孔、54…主軸受(第1軸受)、54f…第1フランジ部、54s…第1表面、55…副軸受(第2軸受)、55f…第2フランジ部、55s…第2表面、56…第1ローラ、57…第2ローラ、59…固体潤滑被膜、61…第1溝部、62…第2溝部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10