(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】アミガサタケ属(Morchella)活性物質の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/062 20060101AFI20221201BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221201BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
A61K36/062
A61P21/00
C12N1/14 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021039083
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2021-03-26
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517344446
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】李 宜蓁
(72)【発明者】
【氏名】李 宗儒
(72)【発明者】
【氏名】呂 庭宇
(72)【発明者】
【氏名】江 玲慧
(72)【発明者】
【氏名】陳 彦博
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-258022(JP,A)
【文献】特開2009-256250(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108977364(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/062
A61P 21/00
C12N 1/14
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルコペニア改善
用組成物の製造におけるアミガサタケ属活性物質の使用であって、前記アミガサタケ属活性物質の調製方法が、
アミガサタケ属菌糸体をプレート培地で15℃~30℃、1~2週間培養するステップ(a)と、
ステップ(a)において培養した前記アミガサタケ属菌糸体をフラスコに植菌し、前記アミガサタケ属菌糸体を15℃~30℃、pH2~6で、4~7日間培養するステップ(b)と、
ステップ(b)において培養した前記アミガサタケ属菌糸体を発酵タンクに植菌し、前記アミガサタケ属菌糸体を撹拌しながら15℃~30℃、pH2~6で、6~10日間培養し、前記アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体発酵培養液を形成するステップ(c)と
、
ステップ(c)の前記アミガサタケ属菌糸体発酵培養液を凍結乾燥し、その後挽いて、前記アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を形成するステップ(d)と、
純水でおよび/またはエタノールで前記アミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を抽出し、前記アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体抽出物を形成するステップ(e)と
を含む、使用。
【請求項2】
前記アミガサタケ属菌糸体はアミガサタケ(Morchella esculenta)、アシブトアミガサタケ(Morchella crassipes)、コトガリアミガサタケ(Morchella angusticeps)、トガリアミガサタケ(Morchella conica)、オオトガリアミガサタケ(Morchella elata)、アシボソアミガサタケ(Morchella deliciosa)、およびそれらの組み合わせから選択される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記アミガサタケ属菌糸体は、食品産業研究開発研究所
(Food Industry Research and Development Institute)に受託され
当該研究所から購入可能な受託番号BCRC-36352のアミガサタケ菌糸体である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記アミガサタケ属菌糸体活性物質の前記調製方法は、前記アミガサタケ属菌糸体抽出物を乾燥させて前記アミガサタケ属活性物質を得るステップ(f)をさらに含む請求項
1に記載の使用。
【請求項5】
前記サルコペニアは、筋萎縮、筋肉量の減少、握力の減少および/または筋持続力の減少を含む症候を有する請求項1に記載の使用。
【請求項6】
サルコペニア症の対象における筋肉量、握力および/または筋持続力の増加
用組成物の製造におけるアミガサタケ属活性物質の使用であって、前記アミガサタケ属活性物質の調製方法は、
アミガサタケ属菌糸体をプレート培地で15℃~30℃、1~2週間培養するステップ(a)と、
ステップ(a)において培養した前記アミガサタケ属菌糸体をフラスコに植菌し、前記アミガサタケ属菌糸体を15℃~30℃、pH2~6で、4~7日間培養するステップ(b)と、
ステップ(b)において培養した前記アミガサタケ属菌糸体を発酵タンクに植菌し、前記アミガサタケ属菌糸体を撹拌しながら15℃~30℃、pH2~6で、6~10日間培養し、前記アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体発酵培養液を形成するステップ(c)と
、
ステップ(c)の前記アミガサタケ属菌糸体発酵培養液を凍結乾燥し、その後挽いて、前記アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を形成するステップ(d)と、
純水および/またはエタノールで前記アミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を抽出して、アミガサタケ属菌糸体水抽出物および/またはアミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物を形成し、前記アミガサタケ属活性物質は、前記アミガサタケ属菌糸体水抽出物および/または前記アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物に含有されるステップ(e)とを含む、使用。
【請求項7】
前記アミガサタケ属菌糸体は、アミガサタケ(Morchella esculenta)、アシブトアミガサタケ(Morchella crassipes)、コトガリアミガサタケ(Morchella angusticeps)、トガリアミガサタケ(Morchella conica)、オオトガリアミガサタケ(Morchella elata)、アシボソアミガサタケ(Morchella deliciosa)、およびそれらの組み合わせから選択される請求項
6に記載の使用。
【請求項8】
前記アミガサタケ属菌糸体は、食品産業研究開発研究所
(Food Industry Research and Development Institute)に受託され
当該研究所から購入可能な受託番号BCRC-36352のアミガサタケ菌糸体である、請求項
7に記載の使用。
【請求項9】
前記アミガサタケ属菌糸体活性物質の前記調製方法は、前記アミガサタケ属菌糸体
水抽出物
および/または前記アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物を乾燥させて前記アミガサタケ属活性物質を得るステップ(f)をさらに含む請求項
6に記載の使用。
【請求項10】
前記アミガサタケ属活性物質は、前記アミガサタケ属菌糸体水抽出物および/または前記アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物を同じ重量で含有する請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミガサタケ属(Morchella)活性物質の調製方法およびその使用に関連する。より具体的には、筋萎縮を遅らせるため、筋肉量、筋肉握力、および筋持続力を増加させるため、または、サルコペニア改善用医薬組成物を調製するために、アミガサタケ属活性物質の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
骨格サルコペニア、または、略してサルコペニアは、年齢とともに骨格筋量および骨格筋力が失われ、身体活動が低下する現象を指す。一般的に言えば、30歳を過ぎると、筋肉量は毎年0.5%~1%失われ、75歳を過ぎると約40%、90歳のとき50%失われる。アメリカ合衆国およびいくつかのヨーロッパ地域の研究によってサルコペニアの有病率は60~70歳の人で約5~13%、80歳以上の人で約11~50%であることが示された。台湾における研究によってサルコペニアの有病率は65歳以上の高齢者で約3.9~7.3%であることが示された。
【0003】
筋肉は、力および動きを生み出す器官としてだけでなく、サイトカインを生成し放出する内分泌器官としても特定されている。したがって、サルコペニアに苦しむことは病気の発生率を増加させ、生活の質を低下させ、死さえ引き起こし得る。しかしながら、現在、サルコペニアに対する効果的な治療はない。
【0004】
アミガサタケ属は、世界的に有名な大型の食用菌類であり、その子実体は、形状において羊の胃袋のような不規則な窪みとひだを有することからその名前が付けられた。アミガサタケ属は美味しくて栄養価が高く、その栄養素含有量は牛乳および魚と同等である。アミガサタケ属は、タンパク質および炭水化物が豊富なだけではなく、様々な微量元素および19種のアミノ酸をも含有する。この菌類は腸と胃に効き、消化を補助し、痰を切り、および気(Qi)を調整するという効果を有し、脾臓および胃、消化不良および息切れを治療するために使用され得る。
【0005】
現在のところ、アミガサタケ属がサルコペニアを改善するために使用できたり、筋肉量、握力および筋持続力を増加させるために使用できることを示す関連研究はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、アミガサタケ属活性物質の調製方法を提供し、その方法は、特定の方法でアミガサタケ属菌糸体から抽出し、新たな用途にその使用を適用する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、アミガサタケ属活性物質の使用が提供され、アミガサタケ属活性物質はサルコペニアの改善に使用される。アミガサタケ属活性物質の調製方法は、
アミガサタケ属菌糸体をプレート培地で15℃~30℃、1~2週間培養するステップ(a)と、
ステップ(a)において培養したアミガサタケ属菌糸体をフラスコに植菌し、アミガサタケ属菌糸体を15℃~30℃、pH2~6で、4~7日間培養するステップ(b)と、
ステップ(b)において培養したアミガサタケ属菌糸体を発酵タンクに植菌し、アミガサタケ属菌糸体を撹拌しながら15℃~30℃、pH2~6で、6~10日間培養し、アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体発酵培養液を形成するステップ(c)と
を含む。
【0008】
本開示の別の実施形態によれば、アミガサタケ属活性物質の使用が提供され、アミガサタケ属活性物質は筋肉量、握力および/または筋持続力の増加に使用される。アミガサタケ属活性物質の調製方法は、
アミガサタケ属菌糸体をプレート培地で15℃~30℃、1~2週間培養するステップ(a)と、
ステップ(a)において培養したアミガサタケ属菌糸体をフラスコに植菌し、アミガサタケ属菌糸体を15℃~30℃、pH2~6で、4~7日間培養するステップ(b)と、
ステップ(b)において培養したアミガサタケ属菌糸体を発酵タンクに植菌し、アミガサタケ属菌糸体を撹拌しながら15℃~30℃、pH2~6で、6~10日間培養し、アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体発酵培養液を形成するステップ(c)と
を含む。
【0009】
一実施形態において、アミガサタケ属菌糸体は、アミガサタケ(Morchella esculenta)、アシブトアミガサタケ(Morchella crassipes)、コトガリアミガサタケ(Morchella angusticeps)、トガリアミガサタケ(Morchella conica)、オオトガリアミガサタケ(Morchella elata)、アシボソアミガサタケ(Morchella deliciosa)、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0010】
一実施形態において、アミガサタケ属菌糸体は、食品産業研究開発研究所(Food Industry Research and Development Institute)に受託された受託番号BCRC-36352のアミガサタケ菌糸体である。
【0011】
一実施形態において、アミガサタケ属菌糸体活性物質の調製方法は、凍結乾燥し、その後ステップ(c)のアミガサタケ属菌糸体発酵培養液を挽いて、アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を形成するステップ(d)をさらに含む。
【0012】
一実施形態において、アミガサタケ属菌糸体活性物質の調製方法は、少なくとも1つの溶媒でアミガサタケ属菌糸体凍結乾燥粉末を抽出し、アミガサタケ属活性物質を含有するアミガサタケ属菌糸体抽出物を形成するステップ(e)をさらに含む。
【0013】
一実施形態において、溶媒は純水および/またはエタノールである。
一実施形態において、アミガサタケ属菌糸体活性物質の調製方法はアミガサタケ属菌糸体抽出物を乾燥させてアミガサタケ属活性物質を得るステップ(f)をさらに含む。
【0014】
一実施形態において、サルコペニアは、筋萎縮、筋肉量の減少、握力の減少および/または筋持続力の減少を含む症候を有する。
本発明の上記の態様および他の態様を理解するためにより明確にかつより容易にするために、以下の実施形態は、添付の図面とともに詳細に説明するために与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】アミガサタケ属菌糸体の水抽出物はグルココルチコイド-デキサメタゾンで誘導されたマウス骨格筋細胞C2C12の筋萎縮を回復できることを示す図。
【
図2】アミガサタケ属菌糸体のエタノール抽出物はグルココルチコイド-デキサメタゾンで誘導されたマウス骨格筋細胞C2C12の筋萎縮を回復できることを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施例1 アミガサタケ属菌糸体培養
この実施例で使用するアミガサタケ属は、台湾の食品産業研究開発研究所の生物資源研究センター(BCRC)から取り寄せたものであり、アミガサタケ属株は、受託番号BCRC-36352のアミガサタケ(Morchella esculenta)である。しかしながら、本発明で使用されるアミガサタケ属は、アミガサタケに限られず、アシブトアミガサタケ(Morchella crassipes)、コトガリアミガサタケ(Morchella angusticeps)、トガリアミガサタケ(Morchella conica)、オオトガリアミガサタケ(Morchella elata)、アシボソアミガサタケ(Morchella deliciosa)および上記の種の組み合わせからも選択され得る。他の実施形態において、本発明はまた他種のアミガサタケ属、およびそれに限られないものを使用することができる。
【0017】
(1)プレート培養:アミガサタケ属菌糸体をプレート上に植菌し、15~30℃で1~2週間培養(この実施例では25℃で7日間培養)した。プレート培地の組成はポテトデキストロース寒天(PDA)、炭素源および窒素源を含み得、特に限定はされない。
【0018】
(2)フラスコ培養:プレート培養が完了した後、菌糸体を掻き取り、フラスコに植菌し、その後15℃~30℃、pH2~6、回転速度110~150rpmで振盪しながら4~7日間培養した(この実施例では培養物は25℃、pH5、回転速度120rpmで7日間振盪された)。この振盪培養物は以下の表1に示される培地で培養された。
【0019】
【0020】
上記の培地配合において、包括的な炭素源および窒素源は穀物(小麦粉など)または豆類(大豆粉、緑豆粉、大豆種子粉、シナモン粉など)から選択され得る。糖類はグルコース、フルクトース、マルトース、スクロースなど、無機塩類は硫酸マグネシウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸鉄などであり得る。特に、表1の培地配合は単に一実施例であり、特別な制限はないので、成分を使用中の必要に応じて調節し得るか、または、市販の培地を使用し得る。
【0021】
(3)発酵タンクでの培養:(2)においてタンクで培養された菌糸体を、15℃~30℃、タンク圧力0.5~1.0kg/cm2、pH2~6、撹拌速度50~150rpm、および通気速度0.1~1.5VVMで6~10日間発酵タンク中に植菌し、アミガサタケ属菌糸体発酵培養液を形成した(この実施例では、条件を25℃、タンク圧力0.5kg/cm2、pH5、撹拌速度80rpmおよび通気速度1.0VVM(空気)14日間に設定した)。発酵タンク内で使用される培養培地は、ステップ(2)においてフラスコ培養中で使用した培養培地と同じであり得る。このアミガサタケ属菌糸体発酵培養液は、本発明のアミガサタケ属菌糸体活性物質を含有する。アミガサタケ属菌糸体発酵培養液は、凍結乾燥ステップによるアミガサタケ属菌糸体発酵培養液の凍結乾燥粉末としてさらに調製され得る。この実施例において、100Lのアミガサタケ属菌糸体発酵培養液から約3kgの凍結乾燥粉末を得ることができる。
【0022】
(4)抽出物の調製:(3)の凍結乾燥粉末を抽出するために純水またはエタノールを溶媒として使用した。
水抽出物:初めに、200gのアミガサタケ属菌糸体発酵培養液の凍結乾燥粉末をその凍結乾燥粉末の体積の20倍の体積の蒸留水に加え、その後100℃で30分間加熱し、凍結乾燥粉末を溶解した。冷却後、凍結乾燥プロセスを行い、アミガサタケ属菌糸体発酵培養液の水抽出物を得た。
【0023】
エタノール抽出物:200gのアミガサタケ属菌糸体発酵培養液凍結乾燥粉末をその凍結乾燥粉末の重量の20倍の重量のエタノールに加え、超音波で一時間振盪し、その後濾過して上清を得た。上清を減圧下で濃縮し、アミガサタケ属菌糸体発酵培養液のエタノール抽出物を得た。
【0024】
抽出ステップを通して、高濃度のアミガサタケ属活性物質を得ることができる。アミガサタケ属活性物質の種類は、アミガサタケ属菌糸体発酵培養液(菌糸体および透明な液体/上清)、発酵培養液凍結乾燥粉末、水抽出物、エタノール抽出物、水抽出物とエタノール抽出物との混合物、水抽出物またはエタノール抽出物の凍結乾燥粉末、または他の剤形を含む。以下の実施例において、水抽出物およびエタノール抽出物は筋萎縮を改善するアミガサタケ属活性物質の種類として使用される。実施例3において、水抽出物およびエタノール抽出物を徹底的に混合し、給餌試験でアミガサタケ属活性物質として使用される「抽出混合物」を得た。一実施形態において、水抽出物とエタノール抽出物との混合比は重量で1:1である。
【0025】
実施例2 アミガサタケ属活性物質(水抽出物およびエタノール抽出物)による筋萎縮の改善
現在、デキサメタゾンを使用してマウス骨格筋細胞C2C12で筋萎縮を誘導する実験がある。Chen-Yuan Chiu、Rong-Sen Yang、Meei-Ling Sheu、Ding-Cheng Chan、Ting-Hua Yang、Keh-Sung Tsai、Chih-Kang Chiang、Shing-Hwa Liuによって行われた論文、「Advanced glycation end-products induce skeletal muscle atrophy and dysfunction in diabetic mice via a RAGE-mediated、AMPK-down-regulated、AKt pathway」、J Pathol、2016 Feb;238(3):470-82を参照されたい。この論文では、合成グルココルチコイド-デキサメタゾンを使用して、サルコペニア研究のための筋萎縮モデルとして、分化したC2C12の萎縮を誘導し、筋萎縮の重症度を筋管の形態および直径の観察により測定している。そのような方法にしたがって、本実験では、分化したマウス骨格筋細胞C2C12をH&E(ヘマトキシリンおよびエオジン)で染色し、筋萎縮におけるアミガサタケ属菌糸体活性物質の効果を評価した。本実験方法は以下である。
【0026】
(1)マウス骨格筋細胞C2C12を回収し細胞懸濁液濃度を調整した後、細胞を6ウェルプレートに細胞密度1×105~2×105で細胞増殖培地(DMEM、10%ウシ胎児血清)とともにプレーティングした。
【0027】
(2)(1)の6ウェルプレートを37℃の5%CO2インキュベータに2日間置き、その後顕微鏡下で観察した。70%の集密度まで細胞が増殖したとき、分化培地(DMEM、2%ウマ血清)を誘導のために加えた。2日ごとに新しい分化培地に置換した。分化プロセスはあわせて7日であった。
【0028】
(3)細胞分化7日目、約90%の細胞が筋管を形成した後、1μMデキサメタゾンおよび実施例1で得られた単一の用量のアミガサタケ属菌糸体水抽出物(10μg/ml)またはエタノール抽出物(1μg/ml)を添加した。アミガサタケ属菌糸体の抽出物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、その毒性が細胞増殖に影響を与えないように、試験中DMSOの濃度が0.1%になるように調整して添加した。対照群は0.1%DMSOで処理し、全ての実験群および対照群を三重反復試験で行った。細胞を37℃の5%CO2インキュベータで24時間培養した後、続いて試験実験を行った。
【0029】
(4)筋管が委縮したとき、その幅は有意に減少する。倒立顕微鏡を使用して40×に拡大された視野下で、60個の細胞が各繰り返しで取られ、Image-Pro Plusソフトウェアを使用して、筋萎縮の程度を決定するために筋管の幅を計算した。
【0030】
(5)各試験を3回繰り返し、数値を平均±SD(標準偏差)で表す。統計的方法は各項目のパーセンテージを分析するために対応ありt検定を使用し、p値が0.05未満のとき有意差を決定した。
【0031】
(6)アミガサタケ属菌糸体水抽出物(WMe)の実験結果を以下の
図1および表2に示す。図において、濃赤の部分は筋管である。デキサメタゾンで処理したC2C12筋管(右上)は対照群(左上)より、有意に小さい直径(30.39μm→19.98μm)を有し、このモデルが筋萎縮を引き起こすことを証明した。アミガサタケ属菌糸体水抽出物は、デキサメタゾン誘導された筋肉直径の減少を有意に回復することができた(右下、19.98μm→29.37μm)。また、アミガサタケ属菌糸体水抽出物のみの処理(左下)は筋肉量に有意な影響を有さなかった。
【0032】
【0033】
(7)アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物(エタノール、EMe)の実験結果を以下の
図2および表3に示す。デキサメタゾンで処理したC2C12筋管(右上)は、対照群(左上)より、有意に小さい直径を有する。アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物の添加はデキサメタゾンによる筋肉直径の減少を有意に回復することができた(19.98→30.70μm、右下)。また、アミガサタケ属菌糸体エタノール抽出物のみの処理は、筋肉量に有意な影響を有さなかった(左下)。
【0034】
【0035】
上記の実験によって、本発明のアミガサタケ属活性物質は、デキサメタゾン誘導された筋萎縮を改善する効果を有することが確かめられ、それは薬学的に許容されるキャリヤ、賦形剤、希釈剤、またはアジュバントと組み合わせて医薬組成物を調製できるか、または、サルコペニアの予防/治療のために食品添加物としても使用できる。
【0036】
実施例3 アミガサタケ属活性物質(水/エタノール抽出混合物)による筋肉量、筋肉握力、および筋持続力の増加
現在のところ、ギプス固定(IM、固定された機械的機構を使用してマウス後肢を固定し筋萎縮を引き起こす)を使用してマウス骨格筋萎縮を誘導する実験がある。Peter Bialek、Carl Morris、Jascha Parkington、Michael St. Andre、Jane Owens、Paul Yaworsky、Howard Seeherman、およびScott A. Jelinskyの論文、「Distinct protein degradation profiles are induced by different disuse models of skeletal muscle atrophy」、Physiological Genomics、2011 Oct;43(19):1075-1086を参照することができる。本実験において、同じ方法を使用して、ギプス固定(IM)によるマウスに骨格筋萎縮を誘導した。7日間IMを誘導した後、IMを除去し、筋肉握力試験を測定し、その後18~20m/分の固定された速度で30分まで電気刺激を避けるようにトレッドミルで走らせた後、筋持続力試験を測定した(電気刺激の回数による)。試験の終わりに、マウスを屠殺し、後肢の骨格筋を除去し、重量を計測し、および記録して、筋肉量、筋肉握力および筋持続力の増加におけるアミガサタケ属菌糸体抽出混合物の結果を評価した。
【0037】
(1)C57BL/6Jマウスを動物実験に使用し、各群6匹のマウスで、対照群(Sham群)、IM群、およびアミガサタケ属菌糸体抽出混合物群に分けた。対照群およびIM群のマウスに等量の二次純水(ddH2O)を与え、試験物質(すなわち、アミガサタケ属菌糸体の水/エタノール抽出混合物)を500mg/kgの濃度で与えた。試験物質は胃管によって経口で給餌され、使用した体積は10mL/kg体重/回であった。試験物質は投与前に新たに調製した。マウスを毎日の給餌後継続的に観察し、体重、食物摂取、および水摂取を記録した。
【0038】
(2)サルコペニアを誘導するために、マウスをギプス固定(IM)で処理し、同時にアミガサタケ属菌糸体の水/エタノール抽出混合物を14日間与えた。その後、マウスで筋肉握力および筋持続力(電気刺激の回数による)を試験した。試験の終わりに、マウスを屠殺し、後肢の骨格筋を除去し、重量を計測し、および記録した。
【0039】
試験結果は全て平均±SDで表され、実験データの統計的分析にはGraphPad Prism(バージョン8.0)を使用した。統計的方法に関して、群間の差を決定するために1元配置分散分析(one-way ANOVA)および事後ダネットの検定(post-hoc Dunnett’s test)を使用した。統計的結果のp値が0.05未満(p<0.05)である場合、2群間に有意差があることが決定される。
【0040】
マウス筋肉握力試験の結果を以下の表4に示す。筋肉握力試験は、マウスの最大握力を測定し、高い値ほど良い。14日目に、IM群はSham群よりも筋肉握力が低下し、アミガサタケ属菌糸体水/エタノール抽出混合物群はIM群よりも筋肉握力が有意に増加した。
【0041】
【0042】
マウス筋持続力試験の結果を以下の表5に示す。記録された電気刺激の回数が多いほど、持続力が悪い。14日目では、IMで処理された群の筋持続力は、記録された電気刺激の回数が増加したので(3.00→500.83)有意に減少した。しかしながら、アミガサタケ属菌糸体水/エタノール抽出混合物における記録された電気刺激の回数はIM群のそれよりも有意に低かった(500.83→78.50)。
【0043】
【0044】
マウスを屠殺した後、後肢の骨格筋を除去し、重量を計測した。体重測定結果を以下の表6に示す。IMの腓腹筋の重量は対照群(Sham群)のそれよりも低く、アミガサタケ属菌糸体水/エタノール抽出混合物群はIM群と比較して、有意に腓腹筋重量が増加した。これらの発見によって本発明のアミガサタケ属菌糸体水/エタノール抽出混合物は、筋肉重量を増加させることができることが証明された。
【0045】
【0046】
実施例4 組成物の調製
上記の実験により、本発明のアミガサタケ属活性物質(水/エタノール抽出混合物)は筋肉量、筋肉握力および筋持続力の増加に影響を与え、医学分野でアミガサタケ属の新たな適用として使用できることが確かめられた。したがって、特にアミガサタケ属の活性物質を適用するために、アミガサタケ属活性物質を含有する組成物が製造され、その有効量が治癒効果を達成するために対象に投与される。
【0047】
上記の「有効量」は、サルコペニアの回復、および/または、筋肉量、握力および/または筋持続力の増加の前述の効果を生み出すのに十分な量を指す。インビトロ細胞培養実験に基づいて、前述の有効量は、各培養で使用された細胞培養培地の全体積に基づいて「μg/ml」として定義される。動物モデル実験に基づいて、前述の有効量は「g/60kg体重/日」として定義される。それに加えて、インビトロ細胞培養実験によって得られた有効量のデータは以下の式によって動物使用の妥当な有効量に変換できる。
【0048】
一般に(Reagan-Shawら、2008)、1「μg/ml」単位(インビトロ細胞培養実験の有効量に基づく)は、1「mg/kg体重/日」単位(ラットモデル実験の有効量に基づく)と同等であり得、ラットの代謝速度はヒトの代謝速度の6倍であることに基づくと、有効なヒトの用量を見出すことができる。
【0049】
したがって、インビトロ細胞培養実験の500μg/mlに基づいたマウスにおける使用の有効量は、500mg/kg体重/日(すなわち、0.5g/kg体重/日)として計算される。さらに、前述の代謝速度の違いを考慮すると、ヒトへの使用の有効量は5g/60kg体重/日とみなされ得る。
【0050】
上記に報告された試験結果に基づいて、ラット実験に基づいて検証された用量は500mg/kg体重/日であり、したがって、ヒトへの使用の妥当な有効な用量は2.4g/60kg体重/日である。
【0051】
一実施形態において、組成物に含有されるアミガサタケ属活性物質の有効量は500mg/60kg~10g/60kg体重/日である。
組成物はさらに添加剤を含む。好ましい一実施形態において、添加剤は、賦形剤、防腐剤、希釈剤、充填剤、吸収促進剤、甘味料、またはそれらの組み合わせであり得る。賦形剤は、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはそれらの組み合わせから選択され得る。ベンジルエタノール、パラベンなどのこの防腐剤は、医薬組成物の貯蔵寿命を延ばす。希釈剤は水、エタノール、プロピレングリコール、グリセロール、またはそれらの組み合わせから選択され得る。充填剤は、ラクトース、ヌガー、高分子量のエチレングリコール、またはそれらの組み合わせから選択され得る。吸収促進剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ラウロカプラム、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせから選択され得る。甘味料は、アセスルファムK、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ネオテーム、またはそれらの組み合わせから選択され得る。上に列挙された添加剤に加えて、使用に適した他の添加剤がアミガサタケ属活性物質の医学的効果に影響を与えることなく要件に基づいて選択されてよい。
【0052】
組成物は医学分野において異なる製品として開発され得る。好ましい一実施形態において、組成物は医薬品、飼料、飲料、栄養補助食品、乳製品、食品、または健康食品である。
【0053】
組成物は受取人の必要に応じて異なる形態を取り得る。好ましい一実施形態において、組成物は粉末、薬用ドロップ、造粒、坐剤、マイクロカプセル、アンプル(ampoule/ampule)、液体スプレー、または坐剤の形態である。
【0054】
本発明の組成物は動物またはヒトに使用することができる。アミガサタケ属活性物質の効果に影響を与えることなく、アミガサタケ属活性物質を含む組成物は、任意の医薬形態で作られ得、薬のタイプに応じて適した方法で動物またはヒトに投与され得る。
【0055】
組成物1:アミガサタケ属活性物質として水抽出物(20wt%)をとり(take)、防腐剤としてのベンジルエタノール(8wt%)、希釈剤としてのグリセリン(7wt%)とよく混合し、精製水(65wt%)に溶解し、液体の形態の本発明の医薬組成物を製造した。前述のwt%は組成物の総重量に対する各成分の比を意味する。後の使用のために4℃で保管する。
【0056】
組成物2:アミガサタケ属活性物質としてエタノール抽出物(15wt%)を使用し、防腐剤としてのベンジルエタノール(5wt%)、希釈剤としてのグリセリン(10wt%)とよく混合し、精製水(70wt%)に溶解し、液体の形態の本発明の医薬組成物を製造した。前述のwt%は組成物の総重量に対する各成分の比を意味する。後の使用のために4℃で保管する。
【0057】
本発明が実施形態とともに開示されたが、これは本発明を限定することを意図していない。当業者は、上記の教示を考慮した後、上記の実施形態の含有量に適切な変更をすることができ、それでもなお本出願の特許請求の範囲の効果を達成することができる。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲の対象となる。