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特許7186277水性分散体、化粧料組成物、及び化粧料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】水性分散体、化粧料組成物、及び化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20221201BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20221201BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/19
A61Q1/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021502664
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008523
(87)【国際公開番号】W WO2020175701
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019036653
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀川 洋
(72)【発明者】
【氏名】中之庄 正弘
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235028(JP,A)
【文献】特表2016-528164(JP,A)
【文献】特開2011-016778(JP,A)
【文献】特開2009-221140(JP,A)
【文献】Monalie et al.,Continuous synthesis of PVP stabilized biocompatible gold nanoparticles with a controlled size using,Chemical Engineering Science,ELSEVIER,2017年,vol. 171,pp. 233-243,特に、Abstract, Materials and methods参照。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/90
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm以下の平均粒子径を有する金粒子と、ポリビニルピロリドンと、ポリエチレンイミンとを含む水性分散体であって、
前記ポリビニルピロリドンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~20質量%であり、
前記ポリエチレンイミンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~300質量ppmであり、
以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水性分散体。
(1)前記水性分散体を25℃で1年間保管した場合、保管後の前記金粒子の平均粒子径の変化率が30%以内であり、多分散指数の変化率が25%以内である。
(2)前記水性分散体を4℃で1年間保管した場合、保管後の前記金粒子の平均粒子径の変化率が10%以内であり、多分散指数の変化率が20%以内である。
【請求項2】
前記金粒子の多分散指数が0.1以上である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
200nm以下の平均粒子径を有する金粒子と、ポリビニルピロリドンと、ポリエチレンイミンとを含む水性分散体であって、
前記ポリビニルピロリドンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~20質量%であり、
前記ポリエチレンイミンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~300質量ppmであり、
前記金粒子の多分散指数が0.1以上である、水性分散体。
【請求項4】
前記金粒子の含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.001~10質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項5】
更に1,2ヘキサンジオールを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の水性分散体を含む、化粧料組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の水性分散体を他の原料に配合する工程を含む、化粧料の製造方法。
【請求項8】
マイクロ流体デバイスにより水性分散体を製造する工程を含み、
前記水性分散体が、200nm以下の平均粒子径を有する金粒子と、ポリビニルピロリドンと、ポリエチレンイミンとを含み、
前記水性分散体における前記ポリビニルピロリドンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~20質量%であり、
前記水性分散体における前記ポリエチレンイミンの含有量は、前記水性分散体の総量に対して0.1~300質量ppmである、水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性分散体、化粧料組成物、及び化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金の粒子を水性媒体等の連続相に分散させた水性分散体が知られており、タンパク質等の生体分子を検出するバイオセンシング材料などの分野での応用が期待されている(特許文献1~3)。また金粒子について抗炎症、抗老化、肌の弾性回復等の各種生理機能が報告されており、化粧料用途での利用が期待されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-299112号公報
【文献】特表2009-501786号公報
【文献】特開2009-221140号公報
【文献】Journal of Pharmaceutics Volume 2018,19 pages
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、金粒子の水性分散体を化粧料の用途に適用すべく、本発明者が鋭意検討したところによれば、金粒子の水性分散体は、化粧料として使用する際の配合性(保存安定性)について検討する余地があった。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、化粧料に配合した際に保存安定性に優れる水性分散体及び当該水性分散体を配合した化粧料組成物を提供することを目的とする。また、本開示は、そのような水性分散体を用いた化粧料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水性分散体は、200nm以下の平均粒子径を有する金粒子を含み、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、水性分散体。
(1)前記水性分散体を25℃で1年間保管した場合、保管後の前記金粒子の平均粒子径の変化率が30%以内であり、多分散指数の変化率が25%以内である。
(2)前記水性分散体を4℃で1年間保管した場合、保管後の前記金粒子の平均粒子径の変化率が10%以内であり、多分散指数の変化率が20%以内である。当該金粒子の多分散指数が0.1以上であると好ましい。
【0007】
本開示の水性分散体は、200nm以下の平均粒子径を有する金粒子を含み、当該金粒子の多分散指数が0.1以上であってもよい。
【0008】
本開示の水性分散体は、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンイミンを更に含むと好ましい。
【0009】
本開示の化粧料組成物は、上記水性分散体を含む。
【0010】
本開示の化粧料の製造方法は水性分散体を他の原料に配合する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、化粧料に配合した際に保存安定性に優れる水性分散体及び当該水性分散体を配合した化粧料組成物を提供することができる。また、本開示は、そのような水性分散体を用いた化粧料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の水性分散体は、200nm以下の平均粒子径を有する金粒子を含む。本実施形態の水性分散体は、更に、以下の条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす、又は金粒子の多分散指数が0.1以上である。
(1)水性分散体を室温(25℃)で1年間保管した場合、保管後の金粒子の平均粒子径の変化率が30%以内であり、多分散指数の変化率が25%以内である。
(2)水性分散体を4℃で1年間保管した場合、保管後の金粒子の平均粒子径の変化率が10%以内であり、多分散指数の変化率が20%以内である。
このような水性分散体は、化粧料に配合した際に、化粧料に配合される各種添加剤との相性も良く、様々な化粧料処方において凝集物の発生を抑制することができ、広いpH、温度等の範囲でも、凝集物の発生が抑制できる。そのため、本実施形態の水性分散体は、保存安定性に優れ、配合性、水性分散体の外観等にも優れる。また、本実施形態の水性分散体は、広いpH、温度等の範囲で、抗炎症、抗老化、肌の弾性回復等の各種生理機能において優れている傾向にある。また、本実施形態の水性分散体は、皮膚透過性に優れる傾向にある。
このように、本実施形態の水性分散体は、化粧料用途に使用することができる。
【0013】
上記金粒子の平均粒子径は、200nm以下であり、更に保存安定性を高める観点から、170nm以下であると好ましく、150nm以下であるとより好ましく、120nm以下であると更に好ましく、100nm以下であると特に好ましい。上記金粒子の平均粒子径は、保存安定性の観点から5nm以上であると好ましく、20nmより大きいとより好ましく、25nm以上であると更に好ましく、30nm以上であると特に好ましく、40nm以上であるとより更に好ましい。粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定することができ、具体的な装置としては、Zetasizer Nano(Malvern社製)等を挙げることができる。粒子の平均粒子径は、個数基準での累積粒度分布における累積50%となる粒子径(d50)であってよい。
【0014】
また、上記金粒子の個数基準での累積粒度分布における累積90%となる粒子径(d90)は、400nm以下であると好ましく、350nm以下であるとより好ましく、300nm以下であると更に好ましい。
【0015】
また、上記金粒子の多分散指数は、製造コストの低減の観点から、0.1以上であると好ましく、0.15以上であるとより好ましく、0.2以上であると更に好ましい。上記金粒子の多分散指数は、化粧品への配合性や外観向上の観点から、0.5以下であってよく、0.4以下であってよい。金粒子の多分散指数は、上述の動的光散乱法により測定することができる。
【0016】
本実施形態の水性分散体は、上記条件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たすものである。保管条件としては、更に暗所、振動のない場所での保存であってよい。
保管後の金粒子の平均粒子径の変化率は、保管終了時点での平均粒子径と保管開始時点の平均粒子径との差の絶対値を、保管開始時点の平均粒子径で除したものである。
同様に保管後の金粒子の多分散指数の変化率は、保管終了時点での多分散指数と保管開始時点での多分散指数との差の絶対値を、保管開始時点での多分散指数で除したものである。
保管後の金粒子の平均粒子径及び多分散指数の変化率は、いずれも百分率で表す。
保管開始時点は、水性分散体の製造直後であってもよく、製造後の任意の時点であってもよい。保管終了時点は、保管開始から1年時点であり、1年2か月時点であってもよく、1年5か月時点であってもよい。
条件(1)について、1年間保管した後の金粒子の多分散指数の変化率は、22%以内であると好ましい。
条件(2)について、1年間保管した後の金粒子の平均粒子径の変化率は、5%以内であると好ましく、3%以内であるとより好ましい。また、条件(2)について、1年間保管した後の金粒子の多分散指数の変化率は、15%以内であると好ましく、10%以内であるとより好ましい。
保管は、水性分散体の水分の蒸発を防ぐことができる環境下で行われ、例えば、水性分散体を密閉した容器内に保管することが好ましい。
なお、「以内」とは、0から所定の上限までの範囲を指すものとする。4℃又は室温での保管後の平均粒子径の変化率は、実質的に0%であってもよいが、0%より大きくてもよく、0.1%以上であってもよい。また、4℃又は室温での保管後の多分散指数の変化率は、実質的に0%であってもよいが、0%より大きくてもよく、0.1%以上であってもよい。
【0017】
金粒子の粒子径の標準偏差は、製造コストの低減の観点から、1nmより大きいと好ましく、3nm以上であると好ましく、5nm以上であると更に好ましくい。金粒子の粒子径の標準偏差は、化粧品への配合性や外観向上の観点から、40nm以下であると好ましい。金粒子の粒子径の標準偏差は、上述の動的光散乱法により測定することができる。
【0018】
金粒子の粒子径の変動係数は、製造コストの低減の観点から、0.68以上であると好ましく、0.70以上であるとより好ましく、0.72以上であると更に好ましく、0.75以上であると特に好ましい。金粒子の粒子径の変動係数は、0.90以下であると好ましい。金粒子の粒子径の変動係数は、粒子径の標準偏差を平均粒子径で除したものであり、上述の動的光散乱法により測定した値から算出することができる。
【0019】
上記金粒子は、金原子以外の成分を含んでいてもよい。金粒子における金原子の含有量は、70質量%以上であると好ましく、80質量%以上であるとより好ましく、90質量%以上であると更に好ましい。金原子以外の成分としては、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0020】
水性分散体における金の粒子の含有量は、配合性等の観点から、水性分散体の総量に対して0.001~10質量%であると好ましく、0.005~50質量%であるとより好ましく、0.01~1質量%であると更に好ましい。
【0021】
本実施形態の水性分散体における、還元剤の含有量は、化粧品として添加する際に他の成分と組合わせ易く、加えて肌への刺激性が低いことから10質量ppm以下であると好ましく、5質量ppm以下であると更に好ましく、実質的に0質量ppmであると更に好ましい。還元剤としては、クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム等)、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム等)、クエン酸ナトリウムカリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、二糖、三糖、多糖類テトラヒドロホウ酸ナトリウム、ギ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0022】
水性分散体は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、一般的に化粧品で使用されるようなアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が使用できる。
アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリエチレングリコール(PEG)脂肪酸アミドモノエタノールアミド(MEA)硫酸塩、アルキルメチルタウリン塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸塩、アシルアミノ酸塩、アルキル乳酸塩、アルキルイセチオン酸塩等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジポリオキシエチレンオレイルメチルアンモニウム、塩化ポリオキシエチレンベヘニルリルメチレンアンモニウム、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-18)ジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルジメチルアンモニウム、メチル硫酸ジココイルエチルヒドロキシエチルアンモニウム、ヤシ油アルキルプロピレングリコール(PG)ジモニウムクロリドリン酸、リノール酸アミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、ステアラミドプロピルメチルアミン、ジメチルステアラミン、ポリオキシエチレン(POE)ヤシ油アルキルアミン等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタイン型両性界面活性剤、ラウリン酸アミドプロピルベタイン等のアミドベタイン型両性界面活性剤、ヒドロキシアルキル(C12-14)ヒドロキシエチルサルコシン等のカルボイシベタイン型の両性界面活性剤、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン等のアミドスルホベタイン型の両性界面活性剤、ココアンホジ酢酸ナトリウム等のイミダゾリニウムベタイン型の両性界面活性剤、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム等のプロピオン酸型の両性界面活性剤、ラウリルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド型の両性界面活性剤、N-[3-アルキル(12,14)オキシ-2-ヒドロキシプロピル]-L-アルギニン塩酸塩等のアミノ酸型の界面活性剤等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル型の非イオン性界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル型の非イオン性界面活性剤、ソルビタン及びポリオキシエチレンソルビタン型の非イオン性界面活性剤、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油型の非イオン性界面活性剤、ピロリドンカルボン酸(PCA)イソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリン型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型の非イオン性界面活性剤、アルカノールアミド型の非イオン性界面活性剤、ショ糖エステル型の非イオン性界面活性剤、アルキルグリコシド型の非イオン性界面活性剤、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(PEG)型の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
これらは、1種又は2種以上を用いてもよい。水性分散体中の界面活性剤の量は、皮膚への刺激性及び配合性等の観点から、水性分散体の総量に対して0.01~80質量%であることが好ましく、0.1~50質量%であるとより好ましく、0.5~40質量%であると更に好ましい。
【0023】
水性分散体は、分散剤を含有していても良い。分散剤としては水溶性であることが好ましい。例えば、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸塩、コーンスターチ、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸塩などの天然物由来の水溶性高分子、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアーガムなどの天然物を原料に化学修飾をした半合成タイプの水溶性高分子、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコールなどの化学合成による水溶性高分子が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いても良い。水性分散体中の分散剤の量は、皮膚への刺激性及び配合性の観点から、水性分散体の総量に対して0.01~80質量%であることが好ましく、0.1~50質量%であるとより好ましく、0.5~40質量%であるとさらに好ましい。
水性分散体は、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンイミンの両方を含むことが好ましい。この場合、ポリビニルピロリドンの含有量は、水性分散体の総量に対して0.1~20質量%であると好ましく、0.5~15質量%であるとより好ましく、1.0~11.0質量%であると更に好ましい。また、ポリエチレンイミンの含有量は、水性分散体の総量に対して0.1~300質量ppmであると好ましく、1~200質量ppmであることがより好ましい。
【0024】
水性分散体は、上記金粒子と共に、連続相である水性媒体を含む。水性媒体としては、水自体であってもよいが、水と共に有機溶媒、添加剤等の他の成分等を含んでいてもよい。添加剤としては、酸化防止剤や防腐剤等を含んでいてもよい。酸化防止剤としては、例えばアスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル、1,2ヘキサンジオール、クエン酸、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の水性分散体は、Chemical Engineering Science Volume 171, 2 November 2017, Pages 233-243等に記載されている公知の方法で製造することができる。金粒子の原料としては、例えば、塩化金酸溶液(塩化金(III)酸四水和物の水溶液等)などの酸化状態の金を含む錯イオンを含有する溶液が挙げられ、当該錯イオンを還元して金粒子を得ることができる。本実施形態の水性分散体は、マイクロ流体デバイス等により、金粒子を水性媒体に分散させることにより製造することができる。例えば、Eur. J. Pharm. Biopharm.117, 286~291 (2017)記載の方法、Eur. J. Pharm. Biopharm.63, 128~133 (2006)記載のマイクロ流体デバイスを用いた水性分散体の調製方法等が利用できる。
【0026】
本実施形態の水性分散体は所望に応じて、金粒子以外の粒子(「その他の粒子」という)を適宜含んでいても良い。その他の粒子は1種または2種以上含んでいても良く、そのような粒子としては例えば、平均粒子径が50nm以下のビタミンEの粒子、平均粒子径が200nm以下のクルクミノイドの粒子、及び平均粒子径が200nm以下のセラミド類の粒子が挙げられる。上記ビタミンEの粒子はビタミンE以外の成分を含んでいてもよく、ビタミンEの粒子の総量に対してビタミンEを70質量%以上含有することが好ましい。上記クルクミノイドの粒子はクルクミノイド以外の成分を含んでいてもよく、クルクミノイドの粒子の総量に対してクルクミノイドを70質量%以上含有することが好ましい。上記セラミド類の粒子はセラミド類以外の成分を含んでいてもよく、セラミド類の粒子の総量に対してセラミド類を70質量%以上含有することが好ましい。
【0027】
<化粧料組成物>
本実施形態の水性分散体は、通常化粧料に配合される成分(化粧料用添加剤)を配合することにより、化粧料組成物とすることができる。化粧料組成物における、上記金粒子の含有量は、化粧料組成物における金の粒子の保存安定性をより高める観点から、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.001質量%以上である。また、化粧料としての性能を確保する観点から、好ましくは50質量%以下である。各種成分としては、以下に説明するものが挙げられる。
【0028】
上記化粧料用添加剤としては、例えば、油性成分、粉体成分、油ゲル化剤、水性成分、水溶性高分子、紫外線吸収剤、酸化防止剤、美容成分、防腐剤などが挙げられ、これらの添加剤は、各種の効果を付与するために適宜配合することができる。
【0029】
油性成分としては、動物油、植物油、合成油等の起源及び、固形、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、エステル油類、硬化油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類等が挙げられる。具体的には、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素類、モクロウ、ミンク油、オリーブ油、アボカド油、ヒマシ油、マカデミアンナッツ油等の油脂類、ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ゲイロウ等のロウ類、ロジン酸ペンタエリスリットエステル、ホホバ油、トリ2―エチルヘキサン酸グリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール等のエステル類、オレイン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸類、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、トリメチルシロキケイ酸、架橋型ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、メタクリル変性メチルポリシロキサン、オレイル変性メチルポリシロキサン、ポリビニルピロリドン変性メチルポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン等のシリコーン油類、ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体類、イソステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸等の油性ゲル化剤類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上用いることができる。これらの中でもトリ2―エチルヘキサン酸グリセリル、イソノナン酸イソノニル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール等の低分子量エステル油が、伸び広がりや付着性の観点から好ましい。
【0030】
粉体成分としては、球状、板状、針状等の形状、煙霧状、微粒子、顔料級等の粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造等により特に限定されず、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、金属粉体類、複合粉体類等が挙げられる。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、硫酸バリウム等の白色無機顔料、酸化鉄、カーボンブラック、酸化クロム、水酸化クロム、紺青、群青等の有色無機顔料、タルク、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、合成雲母、絹雲母(セリサイト)、合成セリサイト、カオリン、炭化珪素、ベントナイト、スメクタイト、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、珪ソウ土、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ホウ素、シリカ等の白色体質粉体、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄被覆雲母チタン、酸化鉄雲母、紺青処理雲母チタン、カルミン処理雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等の光輝性粉体、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン-アクリル共重合体等のコポリマー樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の有機高分子樹脂粉体、ステアリン酸亜鉛、N-アシルリジン等の有機低分子性粉体、澱粉、シルク粉末、セルロース粉末等の天然有機粉体、赤色201号、赤色202号、赤色205号、赤色226号、赤色228号、橙色203号、橙色204号、青色404号、黄色401号等の有機顔料粉体、赤色3号、赤色104号、赤色106号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等のジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキ等の有機顔料粉体あるいは更にアルミニウム粉、金粉、銀粉等の金属粉体、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン二酸化珪素、酸化亜鉛二酸化珪素等の複合粉体、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末のラメ剤、タール色素、天然色素等が挙げられ、これら粉体はその1種又は2種以上を用いることができ、更に複合化したものを用いても良い。尚、これら粉体成分は、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、金属石鹸、レシチン、水素添加レシチン、コラーゲン、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、ワックスクワランス、ロウ、界面活性剤等の1種又は2種以上を用いて表面処理を施してあっても良い。
【0031】
油ゲル化剤としては、デキストリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、デンプン脂肪酸エステル、ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、疎水性煙霧状シリカ、有機変性ベントナイト等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いてもよい。
【0032】
水性成分としては、水及び水に可溶な成分であれば何れでもよく、水の他に、例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセロール類、アロエベラ、ウイッチヘーゼル、ハマメリス、キュウリ、レモン、ラベンダー、ローズ等の植物抽出液等が挙げられる。
【0033】
水溶性高分子としては、グアーガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ムコ多糖、コラーゲン、エラスチン、ケラチン等の天然系のもの、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の半合成系のもの、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成系のものを挙げることができる。
【0034】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、PABA系、ケイ皮酸系、サリチル酸系、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、オキシベンゾン等が挙げられる。
【0035】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール等のビタミンE、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0036】
美容成分としては、例えばビタミン類、タンパク質、消炎剤、生薬等が挙げられる。
【0037】
防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0038】
また、上記以外の各種成分としては、例えば、保湿剤、皮膜形成剤、褪色防止剤、消泡剤、香料、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタンなどのフッ素系油剤;多価アルコール、糖類、アミノ酸、各種ポリマー、エタノール、増粘剤、pH調整剤、血行促進剤、冷感剤、殺菌剤、皮膚賦活剤なども、本開示の効果を損なわない範囲内で配合可能である。
【0039】
また本実施形態の化粧料組成物は、その剤形や製品形態が特に限定されるものではなく、油中水型、水中油型、水分散型、プレス状、固形剤、パウダーなどの剤形とすることができ、また製品形態(化粧料)としては、洗顔フォーム・クリーム、クレンジング、マッサージクリーム、パック、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧下地、日焼け止めなどの皮膚用化粧料、ファンデーション、水白粉、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、アイブロウ、コンシーラー、口紅、リップクリーム等の仕上げ用化粧料、ヘアミスト、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ポマード、チック、液体整髪料、セットローション、ヘアスプレー、染毛料等の頭髪用化粧料、パウダースプレー、ロールオン等の制汗剤などを例示することができる。この中でも、ファンデーション、フェースパウダーなど固形状製剤等が本開示の効果が発揮されやすい化粧料である。
【0040】
上記化粧料組成物、又は化粧料を製造する方法としては、特に限定されず、本実施形態水性分散体を、化粧料を作製するための他の原料(化粧料用添加剤等)に配合する工程を含むものであればよい。
【実施例
【0041】
以下、実施例に基づいて、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<金粒子水性分散体の調製>
公知のマイクロ流体デバイスを用いた水性分散体の調製方法により、金を、界面活性剤、キレート剤等の保護材を含む水溶液に分散させて、金粒子を含む透明な水性分散体を得た。得られた水性分散体について動的光散乱測定装置(商品名:Zetasizer Nano、Malvern社製)を用いて測定したところ、金粒子の平均粒子径(個数基準)は、81.2nmであり、多分散指数は0.292であった。なお、動的光散乱法による測定は、室温(25℃)で、分散媒体の屈折率=1.33、試料の屈折率=1.46、試料の粘度(cP)=0.89の実験条件で行った。
なお、上記水性分散体は、100質量ppmの金、6.0質量%のポリビニルピロリドン(分散剤、Tween 80)、4.5質量%の1,2-ヘキサンジオール(防腐剤)、150質量ppmのポリエチレンイミン(分散剤)、及び残部の水を含む。金粒子は、塩化金酸(III)(HAuCl)を還元することによって得られたものである。
【0043】
<金粒子の安定性試験>
上記水性分散体について表1に示す条件で安定性を確認した。表1における評価基準は、水性分散体を表1に記載の安定性試験の各条件に曝した後、5日間保存し、水性分散体が目視による透明性を維持できていれば「A」、目視により析出物が確認された場合は「B」とする。
【0044】
【表1】
【0045】
<金粒子の経時安定性試験>
上記水性分散体について、4℃で1年間保存後に、前記と同様の方法で平均粒子径及び多分散指数を測定した。金粒子の平均粒子径(個数基準)は、82.5nmであり、多分散指数は0.272であった。保管後の平均粒子径及び多分散指数の変化率は、それぞれ1.6%及び8.2%であった。保管後の水性分散体は透明性を維持していた。
上記水性分散体について、室温(25℃)で1年8か月保存後に、前記と同様の方法で平均粒子径及び多分散指数を測定した。粒子の平均粒子径(個数基準)は、105.4nmであり、多分散指数は0.243であった。保管後の平均粒子径及び多分散指数の変化率は、それぞれ29.8%及び20.2%であった。保管後の水性分散体は透明性を維持していた。