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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】オイルシール用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 109/00 20060101AFI20221201BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20221201BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20221201BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C09D109/00
C09D7/65
C09D191/06
F16J15/16 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021533893
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025688
(87)【国際公開番号】W WO2021014902
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019136651
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】安永 奈津美
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-189892(JP,A)
【文献】特開2007-332269(JP,A)
【文献】特許第3893985(JP,B2)
【文献】特開平9-109703(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108587404(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
F16J 15/3284
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、充填剤を10~90重量部およびワックスを10~40重量部の割合で含有させた有機溶媒溶液として調製され、充填剤として粒子径が0.5~10μmであるシリコーン樹脂粒子および粒子径が0.1~2μmであるフッ素樹脂粒子を、それぞれ全充填剤量の20~80重量%占めるような割合で用いたオイルシール用コーティング剤。
【請求項2】
シリコーン樹脂粒子がポリメチルシルセスキオキサン粒子である請求項1記載のオイルシール用コーティング剤。
【請求項3】
粒子径が0.5~5μmであるシリコーン樹脂粒子が用いられた請求項1記載のオイルシール用コーティング剤。
【請求項4】
粒子径が0.1~0.5μmであるフッ素樹脂粒子が用いられた請求項1記載のオイルシール用コーティング剤。
【請求項5】
充填剤量が40~80重量部用いられた請求項1記載のオイルシール用コーティング剤。
【請求項6】
ワックスが10~30重量部用いられた請求項1記載のオイルシール用コーティング剤。
【請求項7】
請求項1記載のコーティング剤を用いてコーティング処理したオイルシール。
【請求項8】
コーティング処理後、150~250℃で10分間~24時間加熱処理された請求項7記載のオイルシール。
【請求項9】
オイルシール表面とエンジンオイルとの接触角が35°未満である請求項7または8記載のオイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール用コーティング剤に関する。さらに詳しくは、充填剤の分散性にすぐれたオイルシール用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルシールは、自動車、産業機械等の分野で、重要な機械要素として広く用いられている。オイルシールは、運動用途や摺動用途に用いられるが、その際シールの摩擦熱による密封油やシール材料の劣化、摩擦抵抗による機器のエネルギー損失が問題となることが多い。
【0003】
オイルシールのトルクを低減させるためには、摺動面にオイルを保持することが好ましく、そのためには摺動面の粗さを大きくすることで、オイルとの濡れ性を向上させることが必要とされる。しかしながら、従来からコーティング剤に用いられている約0.1~10μmといった低粒子径のフッ素樹脂粒子のみを充填剤として配合したものは、フッ素樹脂の表面エネルギーが高いため、オイルとの濡れ性を著しく向上させることが難しく、また粒子径が小さいためコーティング表面の粗さを大きくすることも難しかった。
【0004】
一方、オイルシールリップ部の摺動面に、シール材料よりも摩擦係数の低い材料の塗膜を形成させることにより、オイルシールは低摩擦化されるが、摺動により塗膜が剥がれると低摩擦化の効果は失われてしまう。
【0005】
本出願人は先に、特許文献1~2において、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、軟化点40~160℃のワックスおよびフッ素樹脂またはそれとポリエチレン樹脂との両者を、それぞれ10~160重量部の割合で含有させ、有機溶媒溶液として調製された加硫ゴム用表面処理剤を提案している。これらはオイルシール等に有効に適用されるとされているが、さらなる低トルク性が求められている。
【0006】
かかる課題に対して、本出願人はさらに、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、粒子径が0.5~30μmであるフッ素樹脂、シリカ、シリコーン樹脂またはポリカーボネート充填剤を10~160重量部の割合で含有させ、有機溶媒溶液として調製されたコーティング剤であって、これをコーティングした基材表面とエンジンオイルとの接触角が35°未満となるオイルシール用コーティング剤を提案しているが、フッ素樹脂であるPTFE充填剤の分散性にさらなる改良が求められている(特許文献3)。
【0007】
ここで、PTFEの分散性を向上すべく分散剤の添加を行うことが行われるが、その添加量が多い場合にはコーティング剤から形成された膜の強度を低下させてしまう。一方、PTFE以外の充填剤を使用した場合には、耐摩耗性の低下がみられる。そのため、コーティング剤の強度とその分散性とのバランスをとることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3893985号公報
【文献】特許第4873120号公報
【文献】WO 2016/132982 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コーティング剤の良好な分散性を保持しつつ、オイルシールの本来有するすぐれたシール性能を発揮せしめ、さらに低トルク性をも達成可能なコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、充填剤を10~90重量部およびワックスを10~40重量部の割合で含有させた有機溶媒溶液として調製され、充填剤として粒子径が0.5~10μmであるシリコーン樹脂粒子および粒子径が0.1~2μmであるフッ素樹脂粒子を、それぞれ全充填剤量中20~80重量%の割合で用いたオイルシール用コーティング剤によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
コーティング剤に含有せしめる充填剤としてフッ素樹脂粒子とシリコーン樹脂粒子を併用することでコーティング剤の分散性を担保せしめるとともに、シリコーン樹脂粒子の粒子径が大きいものを用い、コーティングされたオイルシール表面とエンジンオイルとの接触角が35°未満となるようなものを選択することにより、コーティング表面の粗さを大きくする一方で、油との濡れ性を向上させ、油中での動摩擦係数を下げることができるので、オイルシールの低トルク性を達成せしめるといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとしては、末端基としてイソシアネート基が付加された分子量1,000~3,000程度のものが用いられ、これは市販品、例えば日本曹達製品日曹TP-1001(酢酸ブチル50重量%含有溶液)等をそのまま用いることが出来る。末端基としてイソシアネート基が付加されていることから、加硫ゴム表面の官能基や水酸基含有成分と反応し、接着、硬化することができる。このポリブタジエン樹脂は、同様のイソシアネート基で反応し、高分子化するポリウレタン樹脂よりも、ゴムとの相性、相溶性が良いため、ゴムとの密着性が良く、特に耐摩擦・摩耗特性が良いのが特徴である。
【0013】
充填剤としては、粒子径(画像解析により測定)が0.1~2μm、好ましくは0.1~0.5μmであるフッ素樹脂粒子および粒子径が0.5~10μm、好ましくは0.5~5μmであるシリコーン樹脂粒子が、それぞれ全充填剤量中20~80重量%の割合で用いられる。フッ素樹脂粒子は、耐摩耗性にすぐれたコーティング膜を形成せしめることを可能とし、少量の配合であってもその効果を発揮することができ、コーティング剤の耐久性を向上せしめることができる。また、シリコーン樹脂粒子は、凝集しにくく、比重が低いことからコーティング液中での分散性が良く、これに対して分散剤を用いる必要はないといった特徴を有する。
【0014】
フッ素樹脂粒子の粒子径がこれより大きい場合には、フッ素樹脂粒子の凝集が大きくなってしまい、コーティング膜表面の粗さをコントロールすることが難しくなってしまう。特に凝集体の大きさが30μmを超えてしまうと、コーティング表面の粗さが大きくなり、シール性の悪化がみられ、油漏れが発生するようになる。さらにフッ素樹脂粒子は比重が高いので、粒子径が大きい場合には分散剤の効果が発揮できないことから、沈殿が生じてしまい、コーティング液の安定性も損なわれてしまう。
【0015】
シリコーン樹脂粒子の粒子径がこれより小さい場合には、コーティング表面の粗さが小さくなり、油を保持する効果が維持できなくなり、シール摺動面のトルクが高くなってしまう。一方、これより粒子径が大きい場合には、沈降スピードが速くなり、長時間放置後にハードケーキとよばれる沈殿物が発生してしまうようになる。
【0016】
また、フッ素樹脂粒子の割合がこれより少ないと耐摩耗性が悪化し、一方これより多い割合で用いられるとコーティング膜の表面粗さが小さくなり、油の保持能力が下がって撥油性が高くなり、トルクが高くなってしまう。また、エンジンオイルとの接触角、摩擦係数とも大きくなる傾向となる。
【0017】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。これらのフッ素樹脂粒子としては、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られたフッ素樹脂を粒子径約0.1~2μm程度に分級したものや、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などで得られた分散液をせん断攪拌などにより、約0.1~2μm程度に微粒子分散させたもの、上記重合法で得られたものを凝析・乾操後、乾式粉砕や冷却粉砕により、約2μm以下に微粒子化したものなどが用いられる。
【0018】
また、シリコーン樹脂としては、縮合反応型、付加反応型、紫外線または電子線硬化型等のシリコーン樹脂、例えばポリメチルシルセスキオキサン(メチルトリメトキシシラン重合体)等が用いられる。これらは本発明では粒子径が規定のものであれば特に限定されず、市販品をそのまま用いることができる。
【0019】
充填剤としては、フッ素樹脂粒子およびシリコーン樹脂粒子以外にも、本願所望の目的を損なわない範囲で、例えばシリカ、ポリカーボネートの粒子を併用することもできる。これらの充填剤は、その合計量がイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し10~90重量部、好ましくは40~80重量部の割合で用いられる。充填剤総量がこれより多いと、コーティング膜のゴムとの密着性、耐摩擦・摩耗特性が悪くなり、コーティング膜の柔軟性も損なわれるようになり、硬化した後の塗膜にヒビ割れが発生するようになる。一方これより少ないと、滑り性が悪くなるようになり、コーティング膜の表面粗さが小さくなり、油の保持能力が小さくなりトルクが高くなってしまう。
【0020】
コーティング剤には、さらにイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し10~40重量部、好ましくは10~30重量部の割合でワックスが用いられる。ワックスがこれより少ない割合で用いられると、耐摩耗性が低下し、フッ素樹脂粒子の沈降およびシリコーン樹脂粒子の沈殿物発生を制御することが難しくなる。一方、これより多い割合で用いられると、コーティング剤が軟化し、耐摩耗性が低下するようになる。
【0021】
ワックスの使用により、コーティング膜の耐摩耗性を向上させ、また低比重であることからフッ素樹脂粒子に混合することでフッ素樹脂粒子の凝集および沈殿の防止、シリコーン樹脂粒子のハードケーキ(沈殿物)を抑制することができる。
【0022】
ワックスとしては、融点40~160℃、好ましくは60~120℃の植物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス等が用いられる。植物系ワックスとしてはカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等が、石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が、また合成ワックスとしてはポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、脂肪酸アミド、各種変性ワックス等が挙げられ、通常は市販されている所定融点のワックスをそのまま用いることが出来る。
【0023】
融点が40~160℃のものを用いると、コーティング剤の焼付時にワックスが融解し、バインダー樹脂内に均一に分散することとなる。融点がこれより高いものを用いると、コーティングの焼付後に融解せず、塊となったワックス部分で基材との密着性の低下が生じる場合があり、一方これより融点の低いものを用いると、製品使用時の高温環境によりワックス成分の抜けが発生し、コーティング剤の耐摩擦・摩耗性が低下する場合がある。
【0024】
以上の成分は、有機溶媒の溶液(分散液)として調製され、オイルシールのコーティング剤として用いられる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が用いられ、これは一般的に市販されている溶媒をそのまま用いることが出来る。有機溶媒による希釈量は、塗布厚み、塗布方法に応じて、適宜選択される。なお、塗布厚みは、通常約1~30μm、好ましくは約3~20μmであり、塗布厚みがこれより小さい場合には、ゴム表面をすべて被覆することが出来ず、滑り性、非粘着性を損なうことがある。一方、塗布厚みがこれより大きいと、塗布表面の剛性が高くなり、シール性、柔軟性を損なうことがある。シール部品などの使用用途では、約3~20μm程度が好ましい。
【0025】
本発明においては、最終的に有機溶媒溶液のコーティング剤として調製され、オイルシール表面をコーティング後に、コーティング処理されたオイルシール表面とエンジンオイル、例えばエンジンオイルOW-20等との接触角が35°未満となるものが用いられる。コーティング後の接触角がこれより大きくなってしまうような充填剤粒子を用いると、油を弾いてしまうようになり、オイルシール摺動面の油の保持力を損ない、所望の低トルク性を達成することが困難となる。
【0026】
かかるコーティング剤により処理が可能なオイルシールを構成するゴムとしては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴム等の一般的なゴム材料が挙げられ、この内好ましくは、ゴムに配合される老化防止剤、オイル等のゴム配合剤のゴム表面層へのブルームミングが少ないゴム材料が用いられる。なお、ゴム材質、目的に応じて、上記各成分の配合比率および有機溶媒の種類、有機溶媒量、有機溶媒混合比率は適宜選択される。
【0027】
コーティング剤のオイルシール表面への塗布方法としては、浸せき、スプレー、ロールコータ、フローコータなどの塗布方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。この際、あらかじめコーティング剤塗布前にゴム表面の汚れ等を洗浄などにより除去することが好ましい。特に、ゴムからブルーム物、ブリード物が表面に析出している場合には、水、洗剤、溶剤などによる洗浄および乾燥が行われる。
【0028】
コーティング剤をオイルシール表面へ塗布した後、約150~250℃で約10分~24時間程度熱処理される。加熱温度がこれより低く、また加熱時間がこれより短い場合には、皮膜の硬化およびゴムとの密着性が不十分で、非粘着性、滑り性が悪くなる。一方、加熱温度がこれより高く、また加熱時間がこれより長い場合には、ゴムの熱老化が起こるようになる。従って、各種ゴムの耐熱性に応じて、加熱温度、加熱時間を適宜設定する必要がある。
【0029】
また、アウトガス量の低減が要求される品目の場合には、熱処理、減圧処理、抽出処理などを単独または組み合わせて行うことができるが、経済的には熱処理が最も良く、アウトガス量を減らすには、約150~250℃で約1~24時間程度熱処理することが好ましく、ゴム中の低分子成分および皮膜中のポリブタジエンに含まれる低分子成分をガス化させるために、温度は高いほど、また時間は長い程有効である。
【実施例
【0030】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0031】
実施例1
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン 200重量部
(日本曹達製品TP1001;酢酸ブチル50%含有) ( 100 〃 )
ポリメチルシルセスキオキサン粒子 30 〃
(モメンティブ社製品トスパール130;粒子径3μm)
ポリテトラフルオロエチレン粒子 30 〃
(AGCセイケミカル製品フルオン172J;粒子径0.2μm)
パラフィンワックス(融点100℃) 20 〃
酢酸ブチル (残部) 〃
合 計 2000 〃
【0032】
以上の各成分を混合し、この酢酸ブチル溶液からなるコーティング剤溶液を厚さ2mmの加硫ゴム上に10~30μmの厚さでスプレー塗布し、200℃で10時間熱処理した後、表面粗さ、接触角、油中での動摩擦係数および耐摩耗性の測定または評価を行った。また、コーティング液の分散性、再分散性の評価も行った。なお、各重量部は溶液重量部で示されており、各成分の実重量部は( )内に示されている(以下の実施例および比較例も同じ)。
【0033】
分散性:コーティング液調製後、シリコーン樹脂粒子またはフッ素樹脂
粒子の沈降スピードを目視にて確認し、10分後において沈降が
みられないものを○、10分未満の間に沈降がみられたものを×
と評価
再分散性:コーティング液調製後、一日静置後のハードケーキ(沈殿物)
を再分散させて、1時間の攪拌により沈殿物が再分散された場
合は○、残留物がある場合は×と評価
表面粗さRz:JIS B0601(1994)準拠、東京精密製Accretech Surfcom
1400A使用
接触角:協和界面科学製Drop Master 500を用い、エンジンオイルOW-20
に対する接触角を計測し、35°未満を○、35°以上を×と評価
油中での動摩擦係数:新東科学製HEIDON TYPE14DR表面性試験機を利用
し、下記条件下で往復動を行い、往路側の動摩擦
係数を測定し、0.2未満を○、0.2以上を×と評価
荷重:50g
速度:50mm/分
往復動距離:50mm
圧子:10mm径鋼球
油種:エンジンオイルOW-20
注) 油中での動摩擦係数は、オイルシールの実機評価と
相関している評価であり、上記テストピースを用い
た油中での動摩擦係数が低いとオイルシールを用い
た実機評価も良好になる
耐摩耗性:レスカ社製フリクションプレーヤーFPR-2000を用い、コーテ
ィング被膜表面に直径0.4mmのSUSピンをドライの状態で80℃
、荷重300gで押し当て、線速度400mm/秒の速さで回転させ
、コーティング被膜が剥がれ、ゴムが露出する迄の距離を測
定し、0.1km以上を○、0.1km未満を×と評価
【0034】
実施例2
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子として、モメンティブ社製品XC99-A8808(粒子径0.7μm)が同量(30重量部)用いられた。
【0035】
実施例3
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子として、モメンティブ社製品トスパール1100(粒子径10μm)が同量(30重量部)用いられた。
【0036】
実施例4
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が56重量部に、またポリテトラフルオロエチレン粒子量が24重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0037】
実施例5
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が24重量部に、またポリテトラフルオロエチレン粒子量が56重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0038】
比較例1
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子として、モメンティブ社製品トスパール3120(粒子径12μm)が同量(30重量部)用いられた。
【0039】
比較例2
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が40重量部に変更されて用いられ、ポリテトラフルオロエチレン粒子は用いられなかった。
【0040】
比較例3
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が45重量部に、またポリテトラフルオロエチレン粒子量が5重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0041】
比較例4
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が10重量部に、またポリテトラフルオロエチレン粒子量が55重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0042】
比較例5
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子が用いられず、ポリテトラフルオロエチレン粒子量が40重量部に変更されて用いられた。
【0043】
比較例6
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子量が50重量部に、またポリテトラフルオロエチレン粒子量が50重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0044】
比較例7
実施例1において、ポリメチルシルセスキオキサン粒子およびポリテトラフルオロエチレン粒子が用いられなかった。
【0045】
比較例8
実施例1において、パラフィンワックス量が5重量部に変更されて用いられた。
【0046】
比較例9
実施例1において、パラフィンワックス量が60重量部に変更されて用いられた。
【0047】
比較例10
実施例1において、ポリテトラフルオロエチレン粒子としてAGCセイケミカル製品フルオン150J(粒子径10μm)が30重量部用いられ、パラフィンワックスが用いられなかった。
【0048】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表1~2に示される。

表1
実施例
測定・評価項目
シリコーン樹脂粒子の分散性 ○ ○ ○ ○ ○
シリコーン樹脂粒子の再分散性 ○ ○ △ ○ ○
フッ素樹脂粒子の分散性 ○ ○ ○ ○ ○
表面粗さ (μm) 16.5 5.6 21.5 10.5 12.7
接触角 (°) 21.3 25.3 14.5 19.4 20.8
○ ○ ○ ○ ○
油中での動摩擦係数 0.18 0.20 0.18 0.18 0.19
○ ○ ○ ○ ○
耐摩耗性 ○ ○ ○ ○ ○

【0049】
以上の結果より、次のことがいえる。
(1) 各実施例で得られたコーティング剤は、良好な分散性を保持しつつ、オイルシールが本来有するすぐれたシール性能を発揮せしめ、さらに低トルク性をも達成している。
(2) シリコーン樹脂粒子として粒子径の大きなものが用いられると、再分散性が悪くなって塗布に支障をきたすようになってしまう(比較例1)。
(3) 全充填剤量中のフッ素樹脂粒子の割合が少ないと、耐摩耗性が悪化してしまい(比較例2~3)、逆にその割合が多いと、油をはじくようになってしまい、接触角および油中での摩擦係数が大きくなってしまう(比較例4~5)。
(4) 全充填剤量が多いと、コーティング膜の表面粗さが大きくなり凸部の油切れが生じ、また全充填剤量が少ないと、表面粗さが小さくなり、何れの場合も耐摩擦・摩耗効果が低下してしまう(比較例6~7)
(5) ワックス量が少ないとフッ素樹脂粒子の分散性が担保されない(比較例8)。
(6) ワックス量が多いと、コーティング膜の軟化が起こり、耐摩擦・摩耗特性が悪化してしまう(比較例9)。
(7) ワックスが用いられないと、分散性が悪化し、所望の接触角とすることもできない(比較例10)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るコーティング剤は、オイルシールの本来有するすぐれたシール性能を維持しつつ、低トルク性を達成しているので、オイルシールは勿論のこと、複写機用ゴムロール、複写機用ゴムベルト、工業用ゴムホース、工業用ゴムベルト、ワイパー、自動車用ウェザーストリップ、ガラスラン等のゴム部品の粘着防止、低摩擦化、摩耗防止等にも有効に用いられる。