(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】保護領域における獣害防止構造
(51)【国際特許分類】
A01M 29/30 20110101AFI20221201BHJP
【FI】
A01M29/30
(21)【出願番号】P 2022141345
(22)【出願日】2022-09-06
【審査請求日】2022-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩崇
(72)【発明者】
【氏名】大西 崇太
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135933(JP,A)
【文献】特開2010-094058(JP,A)
【文献】特開2019-146488(JP,A)
【文献】特開2012-060958(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0116488(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面および裏面を有する帯状を呈するスノコパネルを使用し、該スノコパネルを保護領域の外周縁部に沿って敷設することで保護領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、保護領域内の植物を保護する獣害防止構造であって、
前記スノコパネルはパネルの長手方向に沿って並列した板状を呈する複数の縦リブと、該縦リブと交差して並列した棒状を呈する複数の交差リブとを具備した通気性を有する格子構造体であり、
前記複数の縦リブはスノコパネルの表面側に露出して形成すると共に、前記複数の交差リブはスノコパネルの裏面側に露出して形成してあり、
前記複数の縦リブと複数の交差リブとが同一方向に揃って露出するように、交差して隣り合うスノコパネルの表面と裏面を異なる組み合わせにして保護領域の外周縁部に沿って複数のスノコパネルを敷設したことを特徴とする、
保護領域における獣害防止構造。
【請求項2】
傾斜した保護領域の外周縁部を複数組のスノコパネルが四角枠状に囲繞し、保護領域の左辺部と右辺部には複数の縦リブを露出させたスノコパネルを傾斜方向に沿って敷設し、保護領域の上辺部と下辺部には傾斜方向に沿った複数の交差リブを露出させた別途のスノコパネルを傾斜方向と直交する方向に沿って敷設したことを特徴とする、請求項
1に記載の保護領域における獣害防止構造。
【請求項3】
前記縦リブと交差リブの交差部に上下に貫通して形成した複数の開口と、前記スノコパネルが隣り合う縦リブの間に縦リブの長手方向に沿って連続した形成した保護溝とが連通していることを特徴とする、請求項1に記載の保護領域における獣害防止構造。
【請求項4】
前記縦リブはその上端面が平坦面であり下端面が波形面であることを特徴とする、請求項1に記載の保護領域における獣害防止構造。
【請求項5】
前記スノコパネルは合成樹脂で一体的に成形されていることを特徴とする、請求項1に記載の保護領域における獣害防止構造。
【請求項6】
前記保護領域の全面に亘って植生マットまたは植生シートが敷設してあることを特徴とする、請求項1に記載の保護領域における獣害防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シカ、イノシシ、クマ等の野生動物による植物の食害防止機能と、野生動物の侵入を防ぐ侵入抑止機能を発揮できる、保護領域における獣害防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面や傾斜地では、斜面の安定及び景観の向上等の目的として緑化工を施している。
緑化工としては吹付工が広く知られている。吹付工では、土壌、堆肥、植物種子等の混合物からなる緑化基材を傾斜地等に層状に吹付け、芝、クローバー、ヨモギ等の在来種の植物を植生している。
緑化基材を構築するにあたり、緑化基材の内部または上面に菱形金網等の網状物を敷設して傾斜面を安定化している。
【0003】
このような保護領域に、カモシカ、ニホンジカ等の野生動物が侵入して、植物を食べつくす食害の問題と、保護領域を踏み荒らす問題が指摘されている。
食害を放置すると自然景観の再生が困難となり、野生動物による踏み荒らしは、土壌が流出して斜面崩壊の原因となる。
【0004】
野生動物による食害の防止手段としては、例えば保護領域全体を網状物で被覆することが知られている(特許文献1~3)。
特許文献1には、硬質の補強材と柔らかい金網とを組み合わせて形成したアーチ体で被覆することが開示され、特許文献2には傾斜地に井桁状の枠体を敷設し、この枠体の上面に金網を張ることで、傾斜地から離間した状態で金網を敷設することが開示され、特許文献3には、帯状ネットをアーチ状に屈曲して成形した複数のネット材を使用し、各ネット材の相対向する両辺を固定ピンで固定して傾斜地を覆うことが開示されている。
【0005】
また野生動物の侵入を防止する他の手段としては、保護領域を侵入防止柵で囲うことも広く知られている。
特許文献4には、支柱の間にネットを張設した柵本体の一部に、複数の裸電線を追加設置した侵入防止柵が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-213606号公報
【文献】特開2004-73192号公報
【文献】特許第5503067号公報
【文献】特開平11-206305号公報
【0007】
従来の食害防止技術にはつぎの解決すべき課題を有する。
<1>保護領域を各種の網状物で被覆することで、ある程度の食害防止効果を期待できるものの、野生動物の侵入を確実に抑制することができない。
食害防止効果を高めるには、保護領域の周囲に侵入防止柵を別途に設ける必要がある。
そのため、大規模な施設となって建設コストが高くなる。
<2>従来の網状物は地面から浮かして配置しているが、網状物が撓み変形や弾性変形を許容する構造である。
そのため、網状物の上に野生動物が載ると、網状物が沈み込んでしまうため、植物が根元近くまで食い荒らされてしまい、防食効果を十分に発揮できない。
【0008】
従来の侵入防止柵はつぎの課題を内包している。
<1>侵入防止柵は、多数の支柱と大面積の網状物を構成資材とするため、侵入防止柵の設置に多くの時間と労力を要するだけでなく、建設コストが非常に高くつく。
<2>侵入防止柵は柵の高さのみで野生動物の侵入を防止する構造であるため、柵高が十分でない場合や、シカ等の跳躍力の高い野生動物が柵を飛び越えて侵入する。
そのため、野生動物に対する侵入防止効果が限定的である。
<3>山岳地帯に設置した場合、雪塊の滑落により侵入防止柵が破壊され易く、融雪後における柵の補修に多くの手間とコストがかかる。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、以上の課題を解決できる、保護領域における獣害防止構造を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面および裏面を有する帯状を呈するスノコパネルを使用し、該スノコパネルを保護領域の外周縁部に沿って敷設することで保護領域内への野生動物の侵入を防止しつつ、保護領域内の植物を保護する保護領域における獣害防止構造であって、前記スノコパネルはパネルの長手方向に沿って並列した板状を呈する複数の縦リブと、該縦リブと交差して並列した棒状を呈する複数の交差リブとを具備した通気性を有する格子構造体であり、前記複数の縦リブはスノコパネルの表面側に露出して形成すると共に、前記複数の交差リブはスノコパネルの裏面側に露出して形成してあり、前記複数の縦リブと複数の交差リブとが同一方向に揃って露出するように、交差して隣り合うスノコパネルの表面と裏面を異なる組み合わせにして保護領域の外周縁部に沿って複数のスノコパネルを敷設した。
本発明の他の形態において、傾斜した保護領域の外周縁部を複数組のスノコパネルが四角枠状に囲繞し、保護領域の左辺部と右辺部には複数の縦リブを露出させたスノコパネルを傾斜方向に沿って敷設し、保護領域の上辺部と下辺部には傾斜方向に沿った複数の交差リブを露出させた別途のスノコパネルを傾斜方向と直交する方向に沿って敷設した。
本発明の他の形態において、前記縦リブと交差リブの交差部に上下に貫通して形成した複数の開口と、前記スノコパネルが隣り合う縦リブの間に縦リブの長手方向に沿って連続した形成した保護溝とが連通している。
本発明の他の形態において、前記縦リブはその上端面が平坦面であり下端面が波形面である。
本発明の他の形態において、前記スノコパネルは合成樹脂で一体的に成形されている。
本発明の他の形態において、前記保護領域の全面に亘って植生マットまたは植生シートが敷設してある。
【発明の効果】
【0011】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>表面側に複数の縦リブを露出して形成すると共に、スノコパネルの表面側に縦リブと交差して複数の交差リブを形成したスノコパネルの表裏面を使い分けすることで、保護領域の外周縁部を同一構造のスノコパネルで囲繞して敷設することができる。
<2>保護領域の外周縁部に複数組のスノコパネルを敷設することで、保護領域に対する野生動物の侵入防止作用と、野生動物による食害防止作用を発揮することができる。
したがって、従来の野生動物の侵入防止柵を追加して設置する必要がなくなる。
<3>獣害防止装置を設置した保護領域において、野生動物の侵入を防止できるだけでなく、スノコパネルの全高分だけ植物の生育長を確実に保護することができる。
したがって、従来の食害防止技術と比べて、食害防止面積が広くなって、保護領域のほぼ全域において食害を防止できる。
<4>スノコパネルが防護機能を発揮して地面を保護するので、野生動物による地面の踏み荒らしを効果的に防止することができる。
<5>獣害防止装置のスノコパネルが雪塊の誘導作用を発揮して、雪塊によるスノコパネルの下方への潜り込みを抑止するので、融雪時に獣害防止装置の変形や破損の心配がなく、融雪後に特別な補修やメンテナンスを必要としない。
<6>スノコパネルが通気性を有する格子構造体である。
そのため、作業中にスノコパネルが風の影響を受け難く施工性に優れるうえに、敷設後においてはスノコパネルが風により捲れ難くいため、固定ピンの使用本数が少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一部を破断した本発明に係る保護領域における獣害防止構造の全体図
【
図2】スノコパネルの説明図で、(A)は表面側からみたスノコパネルの斜視図、(B)は裏面側からみたスノコパネルの斜視図
【
図3】スノコパネルの説明図で、(A)は表面側からみたスノコパネルの平面図、(B)は裏面側からみたスノコパネルの平面図
【
図4】一部を破断した保護領域の外周縁部に複数組のスノコパネルを敷設した獣害防止構造の平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>獣害防止装置
図1を参照して説明する。本発明で使用する獣害防止装置10は、保護領域50内への野生動物の侵入を防止しつつ、保護領域50内の植物40を野生動物の食害から保護するための装置である。
【0014】
獣害防止装置10は保護領域50の全面または保護領域50の周縁部に亘って敷設する折り曲げ可能な可撓性を有するスノコパネル20と、スノコパネル20を固定する固定ピン25とを具備する。
【0015】
<2>スノコパネル
スノコパネル20は表面20aと裏面20bを有する帯状を呈する合成樹脂製の格子構造体であり、通気性を有する。
本発明で使用するスノコパネル20は、後述するように裏返して使用可能なように、表面20aだけでなく裏面20bも含めて野生動物が歩行困難なように滑り易い面として形成してある。
【0016】
図2,3に例示したスノコパネル20について説明すると、スノコパネル20は、所定の間隔を隔てて起立状態で並設した複数の縦リブ21と、縦リブ21の交差(直交)方向に位置し、所定の間隔を隔てて並設した複数の交差リブ22とを具備し、両リブ21,22の交差部を固定して、両リブ21,22の間に上下に貫通した開口23を有する。
【0017】
複数の縦リブ21はスノコパネル20の長手方向Yに沿って形成し、複数の交差リブ22はスノコパネル20の長手方向Yと直交する幅方向Xに沿って形成する。
【0018】
スノコパネル20の表面20a側には複数の縦リブ21を露出して形成し、スノコパネル20の裏面20b側では複数の縦リブ21の下端面21bが凹みつつ、複数の交差リブ22を露出して形成する。
【0019】
<2.1>縦リブ
板状を呈する縦リブ21は、上下端面21a,21bを縦向きで使用し、複数の縦リブ21がスノコパネル20の長手方向Yに沿って並行に配列してある。
縦リブ21を縦向きにして使用するのは、植物の育成高さを確保するためと、野生動物の着地面積を少なくして歩行をし難くするためである。
【0020】
縦リブ21の全高hは、植物40の種類に応じて適宜選択する。
実用的には縦リブ21の全高hは例えば5~30mm程度が望ましい。
【0021】
縦リブ21の板厚tは野生動物がスノコパネル20に乗ったときに縦リブ21が簡単に潰れないだけの強度確保が可能な寸法とする。
縦リブ21の板厚tは、例えば0.5~7mm程度とするのが望ましい。
【0022】
縦リブ21の上端面21aは平滑面に形成して野生動物の脚を滑りやすくする。
【0023】
縦リブ21は高さ方向の板幅を均一にした板体でもよいが、縦リブ21は高さ方向の板幅を不均一にしてスノコパネル20に撓み性を付与することも可能である。
本例では、縦リブ21は高さ方向の板幅を不均一にする形態として、縦リブ21の下端面20b側を波形面として形成した形態を示す。
縦リブ21に撓み性を持たせることで、スノコパネル20をロール状に巻き取ることが可能となるだけでなく、スノコパネル20を敷設する際に敷設面の起伏に追従させることが可能となる。
【0024】
<2.2>交差リブ
交差リブ22は縦リブ21の間隔保持機能と、野生動物の脚を滑り易くして歩行をし難くする滑落機能を併有する。
縦リブ21の下端面20b側には突部と凹部が交互に形成してあり、隣り合う縦リブ21の突部の間を交差リブ22が横架する。
【0025】
<2.3>開口
スノコパネル20は、両リブ21,22で画成した複数の開口23を有する。
植物40の植生空間として機能する開口23の大きさは、野生動物の足(または蹄)が入り込まない寸法とする。
開口23の大きさは、縦リブ21の間隔l1と交差リブ22の間隔l2により求められ、例えば縦横何れかの一辺が5~60mm程度とするのが望ましい。
【0026】
<2.4>保護溝
隣り合う各縦リブ21の側面21c,21cの間には、連続した保護溝24を有する。
複数の保護溝24は開口23と連通していて、植物40の植生空間として機能する。
【0027】
保護溝24の溝幅は、野生動物の足(または蹄)または口先が入り込まない寸法とする。
保護溝24の溝幅は、例えば5~60mmとするのが望ましい。
保護溝24の溝幅が5mmより狭いと、野生動物に対する嫌気作用が減少し、60mmを越えると野生動物の歩行を可能にするとと共に、保護溝24内に繁茂した植物40が食べ尽くされるといった問題が起きる。
【0028】
<2.5>縦リブと交差リブの間隔
縦リブ21の間隔と交差リブ22の間隔は、例えばシカ、イノシシ、クマ等の野生動物の何れか一種の足(または蹄)または口先が入り込まない寸法とする。
【0029】
[獣害防止装置の設置方法]
獣害防止装置10の設置方法について説明する。
【0030】
<1>保護領域
保護領域50は、斜面等に繁茂させた草花等の植物を野生動物の食害から護るため等の目的で特定領域内へ野生動物の侵入を規制する領域を意味する。
【0031】
本例では、スノコパネル20の敷設に先行して、またはスノコパネル20の敷設と並行して植生マットや植生シート等の植生マット30を敷設して保護領域50を形成する形態について説明するが、緑化植物の種子の吹付けや公知の植生手段によりより保護領域50を形成する形態でもよい。
以降に本例で使用する植生マット30について説明する。
【0032】
<1.1>植生マット
図1,3に例示した植生マット30は、上下面を有するマット基材31と、マット基材31の上面に間隔を隔てて列設した複数の植生袋32と、複数の植生袋32に投入した緑化基材33とを備える。
【0033】
<1.2>マット基材
マット基材31は長尺の帯状体で、ロール状に巻回が可能である。
マット基材31と植生袋32の素材には、公知のポリエチレン等化学繊維またはジュート繊維、椰子繊維、藁等の生分解性の天然繊維が使用可能である。
【0034】
<1.3>植生袋
植生袋32は独立した細長い筒状の袋体であり、マット基材31の長手方向に対して直行方向(横断方向)に向けて配置する。
マット基材31の長手方向に沿った植生袋32の設置間隔は、適宜選択が可能である。
【0035】
<1.4>緑化基材
緑化基材32は、土壌、植物種子、肥料を少なくとも含み、必要に応じて保水材、土壌改良資材等を追加して含む。緑化基材32は少なくとも植物種子を含んでいればよい。
これらの混合物を予め植生袋32に収容して封入しておく。
【0036】
<1.5>スノコパネルと植生マットの関係
本例ではスノコパネル20と植生マット30を分離して使用する形態について説明するが、スノコパネル20と植生マット30は予めリングや紐材等の連結材を用いて一体化してもよい。
【0037】
<2>スノコパネルの敷設範囲(
図4)
斜面Gには、例えば長方形を呈する保護領域50が形成してある。
本発明では、保護領域50の全域をスノコパネル20で覆う必要はない。
本発明では、保護領域50の外周縁部(左辺部50a、右辺部50b、上辺部50c、下辺部50d)を囲繞するように、複数組のスノコパネル20を四角枠状に敷設する。
各スノコパネル20は上方から固定ピン25を打設して、スノコパネル20と植生マット30を地面Gに固定する。
スノコパネル20の敷設幅(横断幅)は、野生動物が容易に飛び越えられぬ寸法を有する。スノコパネル20の敷設幅(横断幅)は、スノコパネル20の並列数を選択することで適宜調節できる。
【0038】
<2.1>スノコパネルの裏表面の使い分けについて
保護領域50の外周縁部にスノコパネル20を敷設するに際し、保護領域50の全周に亘ってスノコパネル20の表面20aまたは裏面20bの何れか一面のみを露出して敷設してもよいし、保護領域50の全周に亘ってスノコパネル20の表面20aと裏面20bの両面を露出して敷設してもよい。
本例では、スノコパネル20の表面20aと裏面20bの両面を露出して敷設する形態について説明する。
【0039】
スノコパネル20の表裏面に形成した各縦リブ21と交差リブ22が、保護領域50の傾斜方向に沿うように、スノコパネル20の表面20aと裏面20bを使い分けすることで、同一のスノコパネル20を傾斜に沿った縦向きだけでなく、傾斜に対して横向きにも敷設することができる。
【0040】
<2.1.1>スノコパネルの縦向き敷設
保護領域50の左辺部50aと右辺部50bでは、スノコパネル20の表面20aを上向きにしつつ、スノコパネル20を保護領域50の傾斜方向に沿って縦向きに敷設する。
保護領域50の左辺部50aと右辺部50bと平行にスノコパネル20を縦向きに敷設することで、スノコパネル20の表面20aに複数の縦リブ21が傾斜方向に沿って露出する。
【0041】
<2.1.2>スノコパネルの横向き敷設
保護領域50の上辺部50cと下辺部50dでは、スノコパネル20の裏面20bを上向きにしつつ、スノコパネル20を保護領域50の傾斜方向と直交方向の横向きに沿って敷設する。
保護領域50の上辺部50cと下辺部50dと平行にスノコパネル20を横向きに敷設することで、スノコパネル20の裏面20bに複数の交差リブ22が傾斜方向に沿って露出する。
【0042】
<2.2>スノコパネルの表面と裏面を使い分けする理由
例えば、表面20aのみに複数の縦リブ21を形成したスノコパネル20を使用した場合、保護領域50の左辺部50aと右辺部50bには複数の縦リブ21を傾斜方向に沿ってスノコパネル20を敷設できる。
同様に、保護領域50の上辺部50cと下辺部50dに沿ってスノコパネル20を敷設すると、複数の縦リブ21が傾斜の横断方向に向いてしまい、野生動物の歩行を可能にする。
保護領域50の上辺部50cと下辺部50dにおいて、複数の縦リブ21を傾斜方向に沿うようにするには、短い寸法に切断した複数のスノコパネル20を縦向きに並べる必要があるため、保護領域50の上辺部50cと下辺部50dにおける施工性が非常に悪くなる。
【0043】
本発明ではこの点に鑑み、スノコパネル20を傾斜方向と直交方向に敷設する際にも、スノコパネル20に連続性を持たせて使用できるように、スノコパネル20の表面20aに縦リブ21を形成するだけでなく、裏面20bにも縦リブ21の直交方向に向けて複数の交差リブ22を形成した。
保護領域50の上、下辺部50c,50dにスノコパネル20を横向きにして敷設するにあたり、スノコパネル20を短く切断したり、短く切断したスノコパネル20を敷き並べたりする必要がなくなり、簡易に施工することができる。
【0044】
このように、両面を活用してスノコパネル20を敷設して固定するだけの簡単な作業で獣害防止装置10を設置できる。
しかも、スノコパネル20が通気性を有するため、スノコパネル20が風の影響を受け難く、施工性に優れるうえに、敷設後においてはスノコパネル20が風により捲れ難くいため、固定ピン25の使用本数が少なくて済む。
【0045】
[獣害防止装置の複数の作用]
図4~7等を参照して獣害防止装置10の作用について説明する。
【0046】
<1>野生動物の侵入防止作用(防獣作用)
保護領域50の外周縁部に敷設したスノコパネル20の表側面には、複数の細幅の縦リブ21と交差リブ22が露出している。
そのため、野生動物がスノコパネル20に載ろうとすると、脚裏に細幅の縦リブ21または交差リブ22が食い込んで違和感を与える。
野生動物が有蹄類の場合は、蹄の主蹄や副蹄の間に縦リブ21または交差リブ22が挟まると脚裏に不快感を与えて、保護領域内への侵入を困難にする。
【0047】
特に、獣害防止装置10を傾斜地に設置する際に、上位に位置するスノコパネル20の縦リブ21と交差リブ22が傾斜方向に沿って露出しているので、野生動物の脚が縦リブ21または交差リブ22上で滑るので、野生動物が自由に動き回ることができない。
そのため、野生動物が傾斜地を乗り越えることが困難となる。
【0048】
野生動物はスノコパネル20への入り込みを何度か繰り返すが、その都度、不快感を感じ、不快感の学習効果によって野生動物は保護領域内へ侵入しなくなる。
【0049】
以上説明したように、保護領域50の外周縁部を囲繞するようにスノコパネル20を敷設するだけで、スノコパネル20の上面で野生動物の脚裏に積極的に不快感を与えたり、野生動物の脚を滑らせたりすることで、野生動物が保護領域50へ侵入するのを効果的に防止することができる。
【0050】
さらに野生動物が保護領域50の外周縁部に入り込んでも、スノコパネル20が防護機能を発揮して地面Gを保護するので、野生動物によるスノコパネル20の直下の地面Gの踏み荒らしも効果的に防止することができる。
【0051】
<2>食害防止作用(防食作用)
植生マット30等から発芽した植物40は、生育を続けてスノコパネル20の開口23を経て保護溝24内に伸びる。
スノコパネル20の縦リブ21が植物40の保護部材として機能するため、野生動物は保護溝24内にある植物40を食べることができない。
スノコパネル20は、野生動物の侵入防止作用を発揮しながら防食作用も発揮する。
【0052】
過大に成長した植物40はスノコパネル20の上面から上方にはみ出して野生動物の草食対象となるが、それは保護領域の一部だけである。
本発明の獣害防止装置10は、防食作用と野生動物の侵入防止作用を併有するため、野生動物の草食対象となるのは、保護領域50の外周縁部だけであり、保護領域50の大半の植物は獣害防止装置10が隠れるまで植物40が生育可能である。
さらに、保護領域50の外周縁部において、スノコパネル20の高さを越えて成長した植物40が野生動物に食べられたとしても、植物40は根元から食べられずに、スノコパネル20の高さ分だけは残存する。植物40の根元が残っていれば、植物40の再生は可能である。
したがって、保護領域50の全域をスノコパネル20で覆うことなく、保護領域50の外周縁部にスノコパネル20を敷設するだけで、保護領域50の全域における食害を防止できる。
【0053】
<3>積雪の影響
獣害防止装置10を山岳地帯に設置した場合、冬季において、獣害防止装置10が積雪に埋設される。
獣害防止装置10は地面Gに沿って低い位置に敷設してあるだけであるから、獣害防止装置10に対して斜面谷側へ向けた大きな積雪荷重(または雪圧)が加わらない。
そのため、獣害防止装置10は地面Gに敷設した状態を保持できる耐久性を有しているので、積雪荷重によって獣害防止装置10が圧潰する心配がない。
【0054】
また融雪時には雪塊が斜面に沿って滑り落ちる。
斜面から浮かした状態で網状物を配置した従来の防食技術にあっては、雪塊が網状物の下面に潜り込んで網状物を剥離して破壊する。
【0055】
これに対して本発明の獣害防止装置10では、地面Gに敷設したスノコパネル20に並列した多数の縦リブ21と交差リブ22が雪塊の潜り込みを抑止しながら雪塊を谷側へ誘導する。
そのため、雪塊の滑落によってスノコパネル20が地面Gから剥がれて変形したり破損したりする心配がなくなる。
獣害防止装置10は、融雪後に特別な補修やメンテナンスを必要としない。
【0056】
<4>排水作用(侵食防止作用)
保護領域50の左辺部50aと右辺部50bに敷設したスノコパネル20に降雨があると、雨水が開口23を通じてスノコパネル20を透過する一方で、透過しきれなかった雨水の一部が縦リブ21の上端面21aと側面21cに沿って流下する。
そのため、植生マット30の素材が紫外線劣化等により破損しても緑化基材33や地面Gの侵食を効果的に抑制できるので、獣害防止装置10の支持地盤を失うことなく、獣害防止作用を長期間に亘って持続することが可能となる。
【0057】
保護領域50の上辺部50cと下辺部50dに敷設したスノコパネル20に降雨があると、保護領域50の横方向に向けて起立する複数の縦リブ21が土砂の流下を抑止するので、緑化基材33や地面Gの侵食を効果的に抑制できる。
【0058】
10・・・・獣害防止装置
20・・・・スノコパネル
20a・・・スノコパネルの表面
20b・・・スノコパネルの裏面
21・・・・縦リブ
21a・・・縦リブの上端面
21b・・・縦リブの下端面
21c・・・縦リブの側面
22・・・・交差リブ
23・・・・開口
24・・・・保護溝
30・・・・緑化マット
31・・・・マット基材
32・・・・植生袋
33・・・・緑化基材
40・・・・植物
50・・・・保護領域
50a・・・保護領域の左辺部
50b・・・保護領域の右辺部
50c・・・保護領域の上辺部
50d・・・保護領域の下辺部
【要約】
【課題】簡易な構造で以て保護領域内への野生動物の侵入防止と、野生動物による食害防止作用を発揮できる、保護領域における獣害防止構造を提供すること。
【解決手段】表面20aおよび裏面20bを有する帯状を呈するスノコパネル20を使用し、スノコパネル20の表面20aにはパネルの長手方向に沿って板状を呈する複数の縦リブ21が形成してあり、スノコパネル20の裏面20bには縦リブ21と交差する棒状を呈する複数の交差リブ22が形成してあり、複数の縦リブ21と複数の交差リブ22とが同一方向に揃って露出するように、交差して隣り合うスノコパネル20の表面20aと裏面20bを異なる組み合わせにして保護領域50の外周縁部に敷設した。
【選択図】
図1