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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20221201BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20221201BHJP
   F15B 11/08 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
E02F9/22 M
E02F9/20 Q
F15B11/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022509946
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010316
(87)【国際公開番号】W WO2021193187
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020051505
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰典
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲二
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173395(JP,A)
【文献】特開2015-143545(JP,A)
【文献】特開2004-150115(JP,A)
【文献】特開2000-310202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
E02F 9/20
F15B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられた作業装置と、前記作業装置を駆動する油圧アクチュエータと、エンジンにより駆動されて前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出されて前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、作動油を貯留する作動油タンクと、前記方向制御弁を切り換え制御するための制御圧を前記方向制御弁に対して供給する電磁制御弁と、前記作業装置を操作するための電気式の操作装置と、前記操作装置の操作量に応じた制御信号を前記電磁制御弁に対して出力するコントローラと、を備えた作業車両において、
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する圧力センサと、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、を有し、
前記方向制御弁は、前記油圧ポンプから吐出された作動油を前記作動油タンクへ戻す中立位置を含み、
前記コントローラは、
前記圧力センサで検出された吐出圧が前記油圧アクチュエータの駆動回路におけるリリーフ圧以上であって、前記回転数センサで検出された回転数が前記エンジンのローアイドル状態における回転数であるローアイドル回転数よりも低い場合、前記方向制御弁が前記中立位置に切り換わるように前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限した後に、前記回転数センサで検出された回転数が前記ローアイドル回転数以上になると、前記電磁制御弁に対する制御信号の出力の制限を解除することを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1記載の作業車両において、
前記電磁制御弁に対する制御信号の制限を解除する解除信号を前記コントローラに対して出力する解除装置をさらに有し、
前記コントローラは、
前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限した後に、前記解除装置から出力された前記解除信号が入力されると、前記電磁制御弁に対する制御信号の出力の制限を解除することを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1記載の作業車両において、
前記コントローラが前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限している旨をアドバイス表示として表示する表示装置をさらに有し、
前記コントローラは、
前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限している場合に、前記表示装置に対して前記アドバイス表示を表示するための表示信号を出力することを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式の操作レバーにより荷役作業装置が操作される作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダなどの作業装置を備えた作業車両では、作業装置を駆動するための作動油を吐出する油圧ポンプやその他の様々な補機類がエンジンにより駆動される。そのため、エンジンがアイドル状態で作業装置をリリーフ動作させるような作業を行うと、油圧ポンプ側の駆動トルクと補機類側の駆動トルクとの和がエンジンの出力トルクを超えることがある。エンジンの出力トルクを超える負荷がエンジンに掛かると、エンジンはストールしてしまう。
【0003】
また、近年、作業車両では低燃費が重要視されており、燃費を低減するための技術開発が求められている。作業車両の燃費を低減させる方法の一例としては、車体の駆動に必要な最低限の出力トルクに合わせた出力のエンジンを選定することが考えられる。このようなエンジンが搭載された作業車両の場合、燃費を低減させる対策が講じられていないエンジンが搭載された作業車両と比べて、エンジンの出力トルクを超える負荷がエンジンに掛かりやすくなり、エンジンのストールが頻繁に発生してしまう可能性がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載されたホイールローダでは、作業装置を駆動するための油圧回路にエンジンの出力トルクを超える負荷が掛かり、エンジンの実回転速度がローアイドル時におけるエンジンの回転速度よりも低くなった場合に、作業装置用の油圧ポンプから吐出された作動油を、排ガス浄化装置のフィルタ再生用の負荷掛け用切換弁を介してタンクへ逃がすことによってエンジンに掛かる負荷を低減させてエンジンのストールの発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6175377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のホイールローダは、排ガス浄化装置のフィルタの目詰まりを解消してフィルタを再生するために用いられる負荷掛け用切換弁を利用して、作業装置用の油圧ポンプから吐出された作動油をタンクにアンロードしているが、例えば、排ガスの処理システムとして選択触媒還元システム(SCRシステム)が採用された作業車両の場合には、フィルタが不要となるため、負荷掛け用切換弁が備わっていない。このような作業車両では、作業装置用の油圧ポンプから吐出された作動油をタンクにアンロードさせるための専用回路が別途必要となる。そのため、車体に搭載される部品点数が増加し、車体の大型化、およびそれに伴って作業スペースに制約が出てしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気式の操作レバーにより荷役作業装置が操作される作業車両において、車体に搭載されるシステムの種類によらず、エンジンのストールの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、車体に取り付けられた作業装置と、前記作業装置を駆動する油圧アクチュエータと、エンジンにより駆動されて前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出されて前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、作動油を貯留する作動油タンクと、前記方向制御弁を切り換え制御するための制御圧を前記方向制御弁に対して供給する電磁制御弁と、前記作業装置を操作するための電気式の操作装置と、前記操作装置の操作量に応じた制御信号を前記電磁制御弁に対して出力するコントローラと、を備えた作業車両において、前記油圧ポンプの吐出圧を検出する圧力センサと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、を有し、前記方向制御弁は、前記油圧ポンプから吐出された作動油を前記作動油タンクへ戻す中立位置を含み、前記コントローラは、前記圧力センサで検出された吐出圧が前記油圧アクチュエータの駆動回路におけるリリーフ圧以上であって、前記回転数センサで検出された回転数が前記エンジンのローアイドル状態における回転数であるローアイドル回転数よりも低い場合、前記方向制御弁が前記中立位置に切り換わるように前記電磁制御弁に対する制御信号の出力を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気式の操作レバーにより荷役作業装置が操作される作業車両において、車体に搭載されるシステムの種類によらず、エンジンのストールの発生を抑制することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの一構成例を示す外観側面図である。
図2】荷役作業装置における駆動システムの構成を説明するシステム構成図である。
図3】コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図4】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の変形例に係るコントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図6】本発明の変形例に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図7】エンジン回転数と出力トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る作業車両の一態様として、例えば、露天掘り鉱山において土砂や鉱物を掘削してダンプトラックなどへ積み込む荷役作業を行うホイールローダについて説明する。
【0012】
<ホイールローダ1の全体構成>
まず、ホイールローダ1の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の一構成例を示す外観側面図である。
【0014】
ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵するアーティキュレート式の作業車両である。具体的には、車体の前部となる前フレーム110と車体の後部となる後フレーム120とが、センタピン101によって左右方向に回動自在に連結されており、ステアリングシリンダ116のロッドが伸縮することにより前フレーム110が後フレーム120に対して左右方向に屈曲する。なお、以下の説明において、車体の左右方向のうち、前進方向を向いた状態での左手側を「左方向」とし、その反対となる右手側を「右方向」とする。
【0015】
前フレーム110には左右一対の前輪113が、後フレーム120には左右一対の後輪123が、それぞれ設けられており、車体全体では4つの車輪113,123が備わっている。なお、図1では、4つの車輪113,123のうち、左側の前輪113および後輪123のみを示している。
【0016】
前フレーム110には、荷役作業に用いる油圧駆動式の荷役作業装置11が取り付けられている。荷役作業装置11は、前フレーム110に基端部が回動可能に取り付けられたリフトアーム111と、各ロッド117Aが伸縮することによりリフトアーム111を駆動する2つのリフトアームシリンダ117と、リフトアーム111の先端部に回動可能に取り付けられたバケット112と、ロッド115Aが伸縮することによりバケット112を駆動するバケットシリンダ115と、リフトアーム111に回動可能に連結されてバケット112とバケットシリンダ115とのリンク機構を構成するベルクランク118と、を有している。
【0017】
リフトアーム111は、油圧ポンプ12(図2参照)から吐出された作動油が2つのリフトアームシリンダ117のそれぞれに供給されて、各ロッド117Aが伸びることにより前フレーム110に対して上方向に回動し、各ロッド117Aが縮むことにより前フレーム110に対して下方向に回動する。なお、2つのリフトアームシリンダ117は車体の左右方向に並んで配置されているが、図1では、左側に配置されたリフトアームシリンダ117のみを破線で示している。
【0018】
バケット112は、土砂などを掬って放土したり、地面を均したりするための作業具であり、油圧ポンプ12から吐出された作動油がバケットシリンダ115に供給されて、ロッド115Aが伸びることによりリフトアーム111に対して上方向に回動(チルト)し、ロッド115Aが縮むことによりリフトアーム111に対して下方向に回動(ダンプ)する。なお、バケットシリンダ115および2つのリフトアームシリンダ117はいずれも、荷役作業装置11を駆動する油圧アクチュエータに相当する。
【0019】
後フレーム120には、オペレータが搭乗する運転室121と、エンジン190(図1において破線で示す)などのホイールローダ1の駆動に必要な各機器を内部に収容する機械室122と、車体が傾倒しないように荷役作業装置11とのバランスを保つためのカウンタウェイト124と、が設けられている。後フレーム120において、運転室121は前部に、カウンタウェイト124は後部に、機械室122は運転室121とカウンタウェイト124との間に、それぞれ配置されている。
【0020】
<荷役作業装置11の駆動システム>
次に、荷役作業装置11の駆動システムについて、図2を参照して説明する。
【0021】
図2は、荷役作業装置11における駆動システムの構成を説明するシステム構成図である。
【0022】
荷役作業装置11の駆動システムは、バケットシリンダ115と、2つのリフトアームシリンダ117と、各シリンダ115,117に作動油を供給する油圧ポンプ12と、油圧ポンプ12から吐出されて各シリンダ115,117に供給される作動油の流れ(方向および流量)を制御する方向制御弁装置9と、作動油を貯留する作動油タンク10と、を含んで構成される。
【0023】
油圧ポンプ12は、エンジン190により駆動される固定容量型の油圧ポンプである。油圧ポンプ12の吐出圧Pは、油圧ポンプ12の吐出口に取り付けられた圧力センサ14で検出される。エンジン190の回転数Nは、エンジン190の出力軸に取り付けられた回転数センサ13で検出される。また、エンジン190は、油圧ポンプ12以外の補機15も駆動する。
【0024】
方向制御弁装置9は、油圧ポンプ12から吐出されてバケットシリンダ115に供給される作動油の流れを切り換え制御する第1方向制御弁5と、油圧ポンプ12から吐出されて2つのリフトアームシリンダ117のそれぞれに供給される作動油の流れを切り換え制御する第2方向制御弁6と、方向制御弁装置9における最高圧力、すなわちバケットシリンダ115および2つのリフトアームシリンダ117の駆動回路におけるリリーフ圧Prを規定するメインリリーフ弁16と、を有する。なお、バケットシリンダ115および2つのリフトアームシリンダ117の駆動回路におけるリリーフ圧Prは、所定の値に任意に設定することが可能であり、また、以下の説明では、単に「メインリリーフ圧Pr」とする。
【0025】
第1方向制御弁5および第2方向制御弁6は、それぞれオープンセンタ型の方向制御弁であって、油圧ポンプ12と作動油タンク10とを接続するセンタバイパスライン17上に設けられている。第2方向制御弁6は、センタバイパスライン17における第1方向制御弁5の上流側から分岐して第2方向制御弁6の上流側に接続されたパラレルライン18により第1方向制御弁5とパラレルに接続されている。
【0026】
第1方向制御弁5は、第1切換位置5Lと、中立位置5Nと、第2切換位置5Rと、を含む。第1切換位置5Lは、油圧ポンプ12から吐出された作動油をバケットシリンダ115のボトム室115Bに流入させ、ロッド室115Cから排出された作動油を作動油タンク10へ導く。中立位置5Nは、油圧ポンプ12から吐出された作動油をそのまま作動油タンク10へ戻す。第2切換位置5Rは、油圧ポンプ12から吐出された作動油をバケットシリンダ115のロッド室115Cに流入させ、ボトム室115Bから排出された作動油を作動油タンク10へ導く。
【0027】
第1切換位置5Lと中立位置5Nと第2切換位置5Rとは、第1方向制御弁5の内部に設けられたスプールが移動することにより切り換わる。スプールは、第1電磁制御弁3から供給される制御圧に比例して変位する。したがって、第1電磁制御弁3から供給される制御圧を制御することによって、第1切換位置5Lと中立位置5Nとの間や第2切換位置5Rと中立位置5Nとの間で、スプールの変位を制御することが可能である。
【0028】
第1方向制御弁5が第1切換位置5Lに切り換わった状態および第2切換位置5Rに切り換わった状態ではそれぞれ、スプールの変位量は最大となる(フルストロークの状態)。また、第1方向制御弁5が中立位置5Nに切り換わった状態では、スプールの変位量は0となってスプールは中立で止まる。このとき、第1電磁制御弁3からの制御圧の供給は停止されている。
【0029】
スプールが第1切換位置5Lと中立位置5Nとの間に変位した場合、油圧ポンプ12から吐出された作動油は、一部がバケットシリンダ115のボトム室115Bに流入し、残りがセンタバイパスライン17を通ってそのまま作動油タンク10へ戻る。したがって、第1方向制御弁5が第1切換位置5Lに切り換わっている状態から制御圧の供給を制限することにより、油圧ポンプ12から吐出された作動油の一部が作動油タンク10にアンロードされる。
【0030】
同様にして、スプールが第2切換位置5Rと中立位置5Nとの間に変位した場合、油圧ポンプ12から吐出された作動油は、一部がバケットシリンダ115のロッド室115Cに流入し、残りがセンタバイパスライン17を通ってそのまま作動油タンク10へ戻る。したがって、第1方向制御弁5が第2切換位置5Rに切り換わっている状態から制御圧の供給を制限することにより、油圧ポンプ12から吐出された作動油の一部が作動油タンク10にアンロードされる。
【0031】
バケット112は、荷役作業装置11を操作するための電気式の操作装置としての操作レバー19によって操作される。例えば、バケット112をダンプさせる方向に操作レバー19が操作されると、バケット112のダンプ操作に係るバケット操作信号が操作レバー19からコントローラ2に出力される。
【0032】
コントローラ2は、入力されたバケット操作信号に基づいて、バケット112のダンプ操作量に応じた制御信号を第1電磁制御弁3に対して出力する。そして、第1電磁制御弁3は、第1方向制御弁5を第2切換位置5Rに切り換え制御するための制御圧を第1方向制御弁5に対して供給する。これにより、第1方向制御弁5が第2切換位置5Rに切り換わり、バケットシリンダ115のボトム室115Rから作動油が排出されるため、ロッド115Aが縮んでバケット112がダンプする。
【0033】
第2方向制御弁6は、第1切換位置6LFと、中立位置6Nと、第2切換位置6Rと、第3切換位置6LTと、を含む。第1切換位置6LFは、油圧ポンプ12から吐出された作動油を2つのリフトアームシリンダ117のロッド室117Cにそれぞれ流入させ、ボトム室117Bからそれぞれ排出された作動油を作動油タンク10へ導く。中立位置6Nは、油圧ポンプ12から吐出された作動油をそのまま作動油タンク10へ戻す。第2切換位置6Rは、油圧ポンプ12から吐出された作動油を2つのリフトアームシリンダ117のボトム室117Bにそれぞれ流入させ、ロッド室117Cからそれぞれ排出された作動油を作動油タンク10へ導く。第3切換位置6LTは、2つのリフトアームシリンダ117それぞれのボトム室117Bおよびロッド室117Cから排出された作動油を作動油タンク10へ導く。
【0034】
第1切換位置6LFと中立位置6Nと第2切換位置6Rと第3切換位置6LTとは、第2方向制御弁6の内部に設けられたスプールが移動することにより切り換わる。スプールは、第2電磁制御弁4から供給される制御圧に比例して変位する。したがって、第2電磁制御弁4から供給される制御圧を制御することによって、第1切換位置6LFと中立位置6Nとの間や第2切換位置6Rと中立位置6Nとの間で、スプールの変位を制御することが可能である。
【0035】
第2方向制御弁6が第3切換位置6LTに切り換わった状態および第2切換位置6Rに切り換わった状態ではそれぞれ、スプールの変位量は最大となる(フルストロークの状態)。また、第2方向制御弁6が中立位置6Nに切り換わった状態では、スプールの変位量は0となってスプールは中立で止まる。このとき、第2電磁制御弁4からの制御圧の供給は停止されている。
【0036】
スプールが第1切換位置6LFと中立位置6Nとの間に変位した場合、油圧ポンプ12から吐出された作動油は、一部が2つのリフトアームシリンダ117のボトム室117Bに流入し、残りがセンタバイパスライン17を通ってそのまま作動油タンク10へ戻る。したがって、第2方向制御弁6が第1切換位置6LFに切り換わっている状態から制御圧の供給を制限することにより、油圧ポンプ12から吐出された作動油の一部が作動油タンク10にアンロードされる。
【0037】
同様にして、スプールが第2切換位置6Rと中立位置6Nとの間に変位した場合、油圧ポンプ12から吐出された作動油は、一部が2つのリフトアームシリンダ117のロッド室117Cに流入し、残りがセンタバイパスライン17を通ってそのまま作動油タンク10へ戻る。したがって、第2方向制御弁6が第2切換位置6Rに切り換わっている状態から制御圧の供給を制限することにより、油圧ポンプ12から吐出された作動油の一部が作動油タンク10にアンロードされる。
【0038】
リフトアーム111は、操作レバー19によって操作される。すなわち、本実施形態では、リフトアーム111およびバケット112は共に、操作レバー19によって操作されるが、これに限らず、異なる操作レバーによってリフトアーム111とバケット112とが操作されてもよい。例えば、リフトアーム111を上昇させる方向に操作レバー19が操作されると、リフトアーム111の上げ操作に係るリフトアーム操作信号が操作レバー19からコントローラ2に出力される。
【0039】
コントローラ2は、入力されたリフトアーム操作信号に基づいて、リフトアーム111の上げ操作量に応じた制御信号を第2電磁制御弁4に対して出力する。そして、第2電磁制御弁4は、第2方向制御弁6を第1切換位置6LFに切り換え制御するための制御圧を第2方向制御弁6に対して供給する。これにより、第2方向制御弁6が第1切換位置6LFに切り換わり、2つのリフトアームシリンダ117それぞれのボトム室117Bに作動油が流入されるため、ロッド117Aが伸長してリフトアーム111が上昇する。
【0040】
<コントローラ2の構成>
次に、コントローラ2の構成について、図3を参照して説明する。
【0041】
図3は、コントローラ2が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0042】
コントローラ2は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、および出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、操作レバー19といった各種の操作装置、および圧力センサ14や回転数センサ13といった各種のセンサなどが入力I/Fに接続され、第1電磁制御弁3、第2電磁制御弁4、およびモニタ7などが出力I/Fに接続されている。なお、モニタ7は、運転室121内に設けられ、コントローラ2が第1電磁制御弁3や第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限している旨をアドバイス表示として表示する表示装置である。
【0043】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された制御プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された制御プログラムを実行することにより、制御プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ2の機能を実現する。
【0044】
なお、本実施形態では、コントローラ2をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、例えば他のコンピュータの構成の一例として、ホイールローダ1の側で実行される制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0045】
コントローラ2は、データ取得部21と、アンロード条件判定部22と、記憶部23と、信号出力部24と、を含む。
【0046】
データ取得部21は、操作レバー19から操作量に応じて出力された操作信号、圧力センサ14で検出された油圧ポンプ12の吐出圧P(以下、単に「吐出圧P」とする)、および回転数センサ13で検出されたエンジン190の回転数N(以下、単に「エンジン回転数N」とする)に関するデータをそれぞれ取得する。
【0047】
アンロード条件判定部22は、データ取得部21で取得された吐出圧Pがメインリリーフ圧Pr以上であって(P≧Pr)、データ取得部21で取得されたエンジン回転数Nがエンジン190のローアイドル状態における回転数であるローアイドル回転数NLよりも低い(N<NL)アンロード条件を満たすか否かを判定する。なお、メインリリーフ圧Prおよびローアイドル回転数NLは、メモリである記憶部23に記憶されている。
【0048】
ここで、「アンロード条件を満たす場合」とは、荷役作業装置11の駆動により、エンジン190の出力トルクを超える負荷がエンジン190に掛かり、このままではエンジン190はストールしてしまう状態である。
【0049】
また、「ローアイドル回転数NL」とは、具体的には、燃費を考慮して設定されたエンジン回転数であって、作業時においても使用されるエンジン回転数である。すなわち、作業負荷が掛かってもエンジン190がストールしないように必要最低限に設定されたエンジン回転数である。
【0050】
ここで、図7Aおよび図7Bは、エンジン回転数と出力トルクとの関係を示すグラフである。ローアイドル回転数NLよりも低いエンジン回転数は、図7Aおよび図7Bに示すように、最低エンジン回転数(=0)以上であってローアイドル回転数NLよりも低いエンジン回転数NL1に相当する(0≦NL1<NL)。なお、図7Bに示すように、このエンジン回転数NL1の最大値として、ローアイドル回転数NLよりも僅かに低い回転数NSを設定してもよい。この場合、アンロード条件判定部22は、エンジン回転数Nがローアイドル回転数NLより低くなっても、直ちにアンロード条件を満たすと判定せず、回転数NSに達してはじめてアンロード条件を満たすと判定することになる。このように、ローアイドル回転数NLから余裕を持たせた回転数NSをエンジン回転数NL1の最大値に設定することにより、エンジン回転数がハンチングしないようにすることができる。
【0051】
また、ローアイドル回転数NL以上のエンジン回転数は、図7Aおよび図7Bに示すように、作業時に適用されるエンジン回転数NWに相当し、ローアイドル回転数NLから最大エンジン回転数Nmaxまでの範囲における領域に設定されている(NL≦NW≦Nmax)。なお、作業時の最大エンジン回転数Nmaxは、無負荷で最高となるエンジン回転数に設定されている。
【0052】
信号出力部24は、アンロード条件判定部22においてアンロード条件を満たさないと判定された場合には、データ取得部21で取得された操作信号に基づいた制御信号を第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対して出力し、アンロード条件判定部22においてアンロード条件を満たすと判定された場合には、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限する。
【0053】
本実施形態では、信号出力部24が第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限した後、アンロード条件判定部22は、データ取得部21で再取得されたエンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上であるか否かを判定する。そして、信号出力部24は、アンロード条件判定部22においてエンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上である(N≧NL)と判定された場合には、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除する。
【0054】
また、本実施形態では、信号出力部24は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限した場合に、前述したアドバイス表示を表示するための表示信号をモニタ7に対して出力する。そして、信号出力部24は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除すると、モニタ7に対する表示信号の出力を停止する。
【0055】
<コントローラ2内での処理>
次に、コントローラ2内で実行される処理の流れについて、図4を参照して説明する。
【0056】
図4は、コントローラ2で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0057】
まず、データ取得部21は、操作レバー19から操作量に応じて出力された操作信号、圧力センサ14で検出された吐出圧P、および回転数センサ13で検出されたエンジン回転数Nをそれぞれ取得する(ステップS201)。
【0058】
次に、アンロード条件判定部22は、ステップS201で取得された吐出圧Pがメインリリーフ圧Pr以上であって、かつステップS201で取得されたエンジン回転数Nがローアイドル回転数NLよりも低いエンジン回転数NL1となっているか否か、すなわちアンロード条件を満たすか否かを判定する(ステップS202)。
【0059】
ステップS202において、吐出圧Pがメインリリーフ圧Pr以上であって(P≧Pr)、エンジン回転数Nがローアイドル回転数NLよりも低いエンジン回転数NL1となっている(N=NL1<NL)と判定された場合、すなわちアンロード条件を満たすと判定された場合(ステップS202/YES)、信号出力部24は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限する(ステップS203)。
【0060】
このように、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4が第1方向制御弁5および第2方向制御弁6に対する制御圧の供給を制限することにより、第1方向制御弁5および第2方向制御弁6のスプールはそれぞれ中立位置5N,6Nに向かって変位する。これにより、油圧ポンプ12から吐出された作動油は、少なくとも一部がセンタバイパスライン17を通って作動油タンク10内に戻る(アンロードする)ので、エンジン190に掛かる負荷が低減し、エンジン190のストールの発生を抑制することができる。
【0061】
また、このホイールローダ1では、コントローラ2が、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限することで油圧ポンプ12から吐出された作動油を作動油タンク10にアンロードしているが、これら第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4は、電気式の操作レバー19によって荷役作業装置11が操作される車体に必ず搭載される機器であることから、車体に搭載されるシステムの種類によらず、エンジン190のストールの発生を抑制することが可能である。
【0062】
続いて、信号出力部24は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限している間、モニタ7に対してアドバイス表示をするための表示信号を出力する(ステップS204)。これにより、オペレータは、モニタ7に表示されるアドバイス表示を見ることで、コントローラ2が第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限していることを認識することができる。
【0063】
本実施形態では、次に、データ取得部21が、回転数センサ13で検出されたエンジン回転数Nを再度取得する(ステップS205)。続いて、アンロード条件判定部22は、ステップS205において再取得されたエンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上となるエンジン回転数NWとなっているか否かを判定する(ステップS206)。
【0064】
ステップS206においてエンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上となるエンジン回転数NWとなっている(N=NW≧NL)と判定された場合(ステップS206/YES)、信号出力部24は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除する、すなわち操作レバー19の操作量に応じた制御信号を出力する(ステップS207)。この場合には、エンジン190はストールしにくい状態になっているため、油圧ポンプ12から吐出された作動油を必要以上に作動油タンク10にアンロードさせないようにして、荷役作業装置11の動作を確保している。
【0065】
そして、信号出力部24は、モニタ7に対する表示信号の出力を停止して(ステップS208)、コントローラ2における処理が終了する。モニタ7に表示されていたアドバイス表示が非表示になるため、オペレータは、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限が解除されたことを容易に認識することができる。なお、モニタ7に表示されるアドバイス表示の具体的な表示方法については、特に制限はない。
【0066】
一方、ステップS206においてエンジン回転数Nがローアイドル回転数NLよりも低いエンジン回転数NL1となっている(N=NL1<NL)と判定された場合には(ステップS206/NO)、ステップS203に戻り、信号出力部24は、継続して第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限する。
【0067】
なお、ステップS202において、吐出圧Pがメインリリーフ圧Prよりも低く(P<Pr)、もしくはエンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上となるエンジン回転数NWとなっている(N=NW≧NL)と判定された場合、すなわちアンロード条件を満たさない場合(ステップS202/NO)には、エンジン190に掛かる負荷に余裕がありストールが発生しにくい状態であるため、ステップS207へ進み、信号出力部24は、操作レバー19の操作量に応じた制御信号を第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対して出力する。
【0068】
<変形例>
次に、本発明の変形例に係るホイールローダ1について、図5および図6を参照して説明する。なお、図5および図6において、実施形態に係るホイールローダ1について説明したものと共通する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図5は、本発明の変形例に係るコントローラ2Aが有する機能を示す機能ブロック図である。図6は、本発明の変形例に係るコントローラ2Aで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0070】
本変形例に係るホイールローダ1は、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除する解除信号をコントローラ2Aに対して出力する解除装置としての解除スイッチ8を備える。解除スイッチ8は、運転室121(図1参照)内に設けられており、オペレータによって手動で操作される。
【0071】
図5に示すように、解除スイッチ8から出力された解除信号は、コントローラ2Aのデータ取得部21Aに入力される。図6に示すように、コントローラ2Aは、ステップS203において、信号出力部24Aが第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限した後、データ取得部21Aに解除信号の入力があったか否かを判定する(ステップS209)。
【0072】
ステップS209において解除信号の入力があった場合には(ステップS209/YES)、ステップS207に進んで、信号出力部24Aは、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除する。一方、ステップS209において解除信号の入力がなかった場合には(ステップS209/NO)、ステップS203に戻り、信号出力部24Aは、継続して第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を制限する。
【0073】
このように、本変形例では、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限の解除を、オペレータによる解除スイッチ8の手動操作によって行う。そのため、実施形態のように、コントローラ2内において、エンジン回転数Nがローアイドル回転数NL以上となった場合(N≧NL)に、自動で第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限を解除する場合と比べて、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力の制限と制限解除とを繰り返すことで発生する荷役作業装置11のハンチング動作を抑制することができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明した。なお、本発明は上記した実施形態や変形例に限定されるものではなく、様々な他の変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態及び変形例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態および変形例では、コントローラ2,2Aは、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4に対する制御信号の出力を共に制限していたが、リフトアーム111およびバケット112の駆動状況によっては、第1電磁制御弁3および第2電磁制御弁4のいずれかのみに対する制御信号の出力を制限してもよい。
【0076】
また、上記実施形態および変形例では、作業車両の一態様としてホイールローダを例に挙げて説明したが、これに限らず、電気式の操作装置によって操作される作業装置を備えた作業車両であれば、例えば油圧ショベルなどの他の作業車両であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1:ホイールローダ(作業車両)
2,2A:コントローラ
3:第1電磁制御弁
4:第2電磁制御弁
5:第1方向制御弁
5N,6N:中立位置
6:第2方向制御弁
7:モニタ(表示装置)
8:解除スイッチ(解除装置)
10:作動油タンク
12:油圧ポンプ
13:回転数センサ
14:圧力センサ
19:操作レバー(操作装置)
115:バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
117:リフトアームシリンダ(油圧アクチュエータ)
190:エンジン
NL:ローアイドル回転数
Pr:メインリリーフ圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B