(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子を含む基材、関連する物品、およびそれらを作製する連続工程
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20221202BHJP
D21H 19/06 20060101ALI20221202BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20221202BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20221202BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221202BHJP
C02F 1/50 20060101ALN20221202BHJP
B01D 39/18 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
D06M11/83
D21H19/06
B22F9/24 C
B22F9/24 E
B22F9/24 B
B22F9/24 D
B82Y30/00
B82Y40/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 520A
C02F1/50 531E
C02F1/50 560Z
C02F1/50 550C
C02F1/50 540F
C02F1/50 531F
C02F1/50 531D
B01D39/18
(21)【出願番号】P 2018555844
(86)(22)【出願日】2017-01-14
(86)【国際出願番号】 US2017013608
(87)【国際公開番号】W WO2017124057
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-10
(32)【優先日】2016-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518250704
【氏名又は名称】フォリア ウォーター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダンコビッチ,テレサ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】カーソン,カントウェル,ジョージ
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060342(WO,A1)
【文献】国際公開第03/080911(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/040435(WO,A1)
【文献】特開2008-202159(JP,A)
【文献】国際公開第2009/132798(WO,A1)
【文献】特表2008-527169(JP,A)
【文献】DanKovich,Microwave-assisted incorporation of silver nanoparticles in paper for point-of-use water purification,Environ. Sci.Nano,2014年,367-378
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-11/84
D06M 16/00
D06M 19/00
D06M 23/00-23/18
D21H 19/00-19/84
D21B 1/00-1/38
C02F 1/50
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を形成する方法であって:
金属塩および還元剤を含むナノ粒子前駆体の水溶液を、連続運転時に繊維の集合体に塗布すること;および
熱エネルギーを用いて前記繊維の集合体を連続的に乾燥させて前記基材を形成し、これによって、乾燥により、少なくとも一次元において1から約200ナノメートルまでの範囲にあるサイズを有する金属ナノ粒子を、前記基材の前記繊維の集合体の表面上に生じさせること;
を含み、前記水溶液中の固形分含量が10~60%であり、前記ナノ粒子前駆体が毎分30グラム~毎分3500グラム塗布される、
方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子のサイズが、少なくとも一次元において約1から約100ナノメートルの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子のサイズが、少なくとも一次元において約1から約50ナノメートルの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子のサイズが、少なくとも一次元において約50から約200ナノメートルの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子のサイズが、少なくとも一次元において約100から約200ナノメートルの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子のサイズが、少なくとも一次元において約150から約200ナノメートルの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金属塩が:
銀、金、白金、パラジウム、アルミニウム、鉄、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、カドミウム、イリジウム、およびそれらの混合物の少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属塩が銀を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属塩が、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀、硫酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、四フッ化ホウ酸銀、過塩素酸銀、炭酸銀、または塩化銀である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属塩が銅を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属塩が、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記還元剤が糖である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記糖が:グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、乳糖、マルトース、二糖類、三糖類、コーンシロップ、グルコースシロップ、高フルクトースコーンシロップ、マルトースシロップ、およびそれらの混合物の少なくとも一つである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記還元剤がアルデヒド形成薬品である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
乾燥により、前記金属塩と前記還元剤の化学反応が活性化され、それにより前記基材中で前記金属塩が還元されて金属ナノ粒子になる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液を前記繊維の集合体に塗布することが、前記金属塩および前記還元剤を前記繊維の集合体に単一操作で塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
乾燥に先立って、前記水溶液を前記繊維の集合体に塗布することが:
前記金属塩を含有する第1の溶液を前記繊維の集合体に塗布すること;および
前記第1の溶液を塗布した後、前記還元剤を含有する第2の溶液を前記繊維の集合体に塗布すること;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記繊維の集合体を乾燥させることが、a)抄紙機の蒸気加熱またはガス加熱されたシリンダー、またはb)強制空気加熱された装置、またはc)IRヒーターによる照射、を用いて乾燥させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記基材が、紙、布地材料、または不織材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記繊維の集合体が、セルロース系繊維の集合体であり、前記基材がセルロース系基材である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
乾燥に先立って、前記セルロース系繊維の集合体が、セルロース系繊維のウェブである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記水溶液を塗布することが、抄紙機の塗布ユニット内で前記セルロース系繊維のウェブを前記水溶液と接触させることを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記水溶液を塗布することが、前記セルロース系基材を作製した抄紙機の部分ではない塗布ユニット内で、前記セルロース系繊維のウェブを前記水溶液と接触させることを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記水溶液を前記セルロース系繊維のウェブに塗布することが:
前記金属塩を含有する第1の溶液を前記セルロース系繊維のウェブに塗布すること;および
前記第1の溶液を塗布した後、前記還元剤を含有する第2の溶液を前記セルロース系繊維のウェブに塗布すること;
を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
乾燥が、前記還元剤を含有する前記第2の溶液を前記セルロース系繊維のウェブに塗布するのに先立って生じる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記還元剤を含有する前記第2の溶液を前記セルロース系繊維のウェブに塗布した後に、追加の乾燥ステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
乾燥に先立って、前記繊維の集合体が、プレフォームされた基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記プレフォームされた基材のロールを巻き戻した後に、前記水溶液を、前記プレフォームされた基材に塗布することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記水溶液を、前記プレフォームされた基材に塗布することが:
前記金属塩を含有する第1の溶液を前記プレフォームされた基材に塗布すること;および
前記第1の溶液を塗布した後、前記還元剤を含有する第2の溶液を、前記プレフォームされた基材に塗布すること;
を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記水溶液を、前記プレフォームされた基材に塗布した後、前記プレフォームされた基材を巻き取って、基材のロールとすることをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記プレフォームされた基材が、紙、布地材料、または不織材料である、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記水溶液を塗布する前に、抄紙機のヘッドボックス内において、前記繊維の集合体に木材パルプスラリーを塗布する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記水溶液を塗布することが、抄紙機のヘッドボックス内において前記繊維の集合体に塗布された木材パルプスラリーに対して、前記水溶液を塗布することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水溶液を塗布することが、前記金属塩を塗布した後に前記還元剤を塗布することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記水溶液を前記繊維の集合体に塗布することが、前記水溶液を前記繊維の集合体上に噴霧することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記水溶液を前記繊維の集合体上に噴霧することが:
前記金属塩を含有する第1の溶液を前記繊維の集合体上に噴霧すること;および
前記第1の溶液を噴霧した後に、前記還元剤を含有する第2の溶液を前記繊維の集合体上に噴霧すること;
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
乾燥が、前記還元剤を含有する前記第2の溶液を前記繊維の集合体に噴霧するのに先立って生じる、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記還元剤を含有する前記第2の溶液を前記セルロース系繊維の集合体に噴霧した後に、追加の乾燥ステップをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年1月14日に出願された米国仮特許出願第62/278,768号の優先権、およびその利益を主張し、その開示全体は、あらゆる目的のために、参照によって本明細書中に援用される。
技術分野
【0002】
本開示は、金属ナノ粒子を含む基材、ならびに基材上での金属ナノ粒子のインサイチュ(in situ)合成および固定化を製造工程中に生じさせる連続工程に関する。
【背景技術】
【0003】
世界中の多くの農村社会における清浄な飲料水の不足は、重大な人間の健康上の懸念である。使用場所(point-of-use)(POU)での水浄化は、例えば、病原性微生物への暴露を低減させる手頃な価格で便利な方法を提供する(Clasen,2010(非特許文献1))。紙製造物に埋め込まれた金属ナノ粒子は、水の濾過を改善する非常に大きな可能性を有している。金属ナノ粒子をセルロース系基材に添加するこれまでの方法は、主にベンチ・トップ・バッチ(bench-top batch)法である。そのような方法では、ナノ粒子を、インサイチュでバッチ式に基材上に形成する、またはプレフォームされたナノ粒子を、セルロース系繊維の改質された表面に付着させる(Dankovich, 2014(非特許文献4、5)、Wan et al, 2013(特許文献4)、およびLiu et al 2013(特許文献3))。
【0004】
これまでに使用されているバッチ法は複雑で時間がかかるものである。典型的には、プレカット紙が、様々な個々の水溶液を用いた別々の処理ステップにおいて処理される。処理された紙は、指定温度で数分から数時間の間、オーブン内で加熱される。オーブンから取り出された後、処理された紙は洗浄され、再び乾燥されて過剰な水が除去された後、保管および塗布がすぐに可能な状態となる(Dankovich, 2014(非特許文献4、5))。
【0005】
バッチ法は、酸化等の表面処理を使用して、セルロース系基材の金属取り込みを増加せて(Wan et al, 2013(特許文献4))、またセルロース系基材上のエポキシリンカーを増加させて(Liu et al 2013(特許文献3)、ナノ粒子をセルロース系繊維に結合させる。そのようなバッチ法は、低い坪量を有する非常に薄い紙に適用可能であり、ナノ粒子を紙の片側にのみ導入した。銀ナノ粒子を塗布する分散物噴霧技術は、しばしば粒子凝集という結果をもたらし、これは、紙の表面上にナノ粒子が不規則に分布することにつながる可能性がある。さらに、バッチ法は、厚紙内部の紙繊維を完全に被覆することはなく、これは、ナノ粒子繊維塗膜を紙全体に分布させる必要がある多くの応用にとっては不利である。加えて、プレフォームされたナノ粒子は、酸化(Wan et al, 2013(特許文献4)、およびLiu et al 2013(特許文献3))等の事前の表面処理ステップなしではセルロース系繊維表面に強力に接着することはない。表面酸化工程は、製紙中に細孔構造および水素結合を変えることにより、望ましくない紙の特性という結果をもたらし、これは、紙の仕様における重大な不規則性という結果をもたらす。金属ナノ粒子を材料に強力に接着するために、リンカー薬品を使用しセルロース表面への表面酸化を行うことが、抄紙機による製造にまで大規模化できるかどうかは、実証されていない。リンカー技術の使用は特に、製造には非常に高コストであり、高価な原材料を使用する。
【0006】
製紙工程は、従来のバッチ工程で使用される技術に従う。実例では、セルロースパルプの表面化学を変更することは、製紙工程への有害な影響を有する場合がある。製紙は、水溶液におけるセルロースパルプの分散物の特異的なコロイド化学に依存することが多いので、ナノ粒子の付着に必要な表面改質は、紙基材の強度または柔軟性の減少に起因する劣悪な紙という結果をもたらすことがある。特に、セルロースパルプの表面化学のわずかな変化が、製紙における水素結合のレベルに悪影響を与えることがあり、これにより、木材パルプ繊維どうしの結合が弱まり、紙が弱くなる直接の原因となる(Roberts, J.C. 1996(非特許文献7))。上に記載のバッチ法および化学は、パルプおよび製紙業界を通じて使用されている連続加工には好適でない。工程の力学は、連続的な製紙工程においては非常に異なっており、これらの工程は、トンの重さ、幅3メートルにわたるロールで、その長さがキロメートルになりうるものを生産している。上述のように、バッチ法は、プレカットしてシートのサイズにした未処理紙の存在が前提である。これまでに開示された方法を用いてさらに大きな紙サイズを処理することができるものの、これまでのバッチ法を使用して工業的規模のロール紙を処理することは可能ではなかった。バッチ法は連続工程よりも高コストであり、紙製造物へのナノテクノロジーの商業的応用には限界があった。
【0007】
セルロース系基材を形成する1つのいわゆる連続工程は、プレフォームされたナノ粒子を紙上に噴霧塗布することを含んでいてもよい(Miekisz Jerzy, R., et al, 2015(非特許文献6))。しかしながらこの特定の方法は、プレフォームされ、既に合成されたナノ粒子を、薄いセルロース系ウェブ上に塗布する。プレフォームされたナノ粒子を、そのようなセルロース系ウェブ上にいかなる表面前処理も施さずに塗布するので、ナノ粒子が容易にはずれ、長期有効性にとっては高すぎるレベルの放出を生じる。さらにこれは、飲料水用のフィルターとして使用するのに好適であるには高すぎる放出を生じる。
【0008】
本開示において引用されている金属ナノ粒子形成に関連した背景技術文献の例は以下のとおりである。本開示全体をとおして、開示を通じての引用は、以下の列挙から「著者、年」の形式でなされる:
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願第62/001,682号 Dankovich, T.A. “Compositions and methods for preparing copper-containing paper and uses thereof”
【文献】米国特許出願第2015/0336804A1号
【文献】米国特許出願公開第2013/0319931A1号 Liu, H., Jin, Z., Liu, Y., Method of forming and immobilizing metal nanoparticles on substrates and the use thereof
【文献】米国特許第8,367,089 B2号 Wan, W., Guhados, G. Feb. 5, 2013. Nano-silver coated bacterial cellulose
【非特許文献】
【0010】
【文献】Clasen, T., 2010. Household Water Treatment and the Millennium Development Goals: Keeping the Focus on Health, Environ. Sci. Technol. 44(19), 7357-7360;
【文献】Dankovich, T.A., Gray, D.G., 2011. Bactericidal Paper Impregnated with Silver Nanoparticles for Point-of-Use Water Treatment. Environ. Sci. Technol. 45(5), 1992-1998;
【文献】Dankovich, T.A., Levine, J.S., Potgieter, N., Dillingham, R., and Smith, J.A. 2015.Inactivation of bacteria from contaminated streams in Limpopo, South Africa by silver- or copper-nanoparticle paper filters, ES: Water Research and Technol, DOI: 10. 1039/ C5EW00188A;
【文献】Dankovich, T.A., Smith, J.A. Incorporation of copper nanoparticles into paper for point-of-use water purification. Water Research. 63, 245-251;
【文献】Dankovich, T.A. 2014. Microwave-assisted incorporation of silver nanoparticles in paper for point-of-use water purification, ES Nano 1(4), 367;
【文献】Miekisz Jerzy, R., Boczek Slawomir, L., Helfojer Tomasz, S., A method of making paper antibacterial and apparatus for the production of paper antibacterial, PAT.219092. 31.03.2015 WUP 03/15;
【文献】Roberts, J.C. The Chemistry of Paper. RSC Paperbacks. 1996, pp 56 - 68;
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
埋め込まれた金属ナノ粒子を含む基材、およびそのような基材を形成する連続工程が必要であることは、長きにわたり感じられている。本開示は、ベンチ・トップ・バッチ法から連続加工ラインへと技術を転換させる新規の概念を含んでいる。本開示の実施形態は、基材を形成する方法である。本方法は、ナノ粒子前駆体の水溶液を繊維の集合体に塗布することを含み、このナノ粒子前駆体は、金属塩および還元剤を含んでいる。本方法はまた、連続運転時に熱エネルギーを用いて繊維の集合体を乾燥させて、基材を形成することを含み、これによって、乾燥により基材中に金属ナノ粒子が生じる。金属ナノ粒子は、少なくとも一次元において1から約200ナノメートルまでの範囲にあるサイズを有する。
【0012】
前述の「発明の概要」とともに、本出願の「発明を実施するための形態」は、添付図面を併せて読むことによって、より良く理解されることになろう。本出願を例示する目的のために、開示の例示的な実施形態を図面に示す。しかしながら、本出願は、示された正確な配置および手段に限定されるものではないことは理解されるものとする。
図面では:
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施形態に係るセルロース系基材を作製するための製造ラインの概略図であり;
【
図2】本開示の別の実施形態に係るセルロース系基材を作製するための製造ラインの概略図であり;
【
図3】本開示の別の実施形態に係るセルロース系基材を作製するための製造ラインの概略図であり;
【
図4】本開示の実施形態に係るセルロース系基材のSEM画像であり;
【
図5】本開示の実施形態に係るセルロース系基材中に形成されたナノ粒子の粒子サイズ分布を例示するチャートであり;そして
【
図6】本開示の実施形態に係るセルロース系基材の細菌濾過の有効性を例示するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の実施形態は、金属ナノ粒子を有する基材、基材上に連続工程において金属ナノ粒子を合成すること、ならびに関連する、物品、装置、およびそのような基材の用途を含む。金属ナノ粒子の合成は、連続的な、工業的な規模での、および/またはそうした規模にまで拡大できる工程において、繊維表面上にインサイチュで生じる。出来あがったものは、基材のロールであってもよく、それからさらに小さい物品を切断して、使用することができる、そして/またはその他の物品または装置内へ組み込むことができる。基材および埋め込まれた金属ナノ粒子は、使用場所設置型の水の浄化システムにおける濾紙として使用してもよい。基材は、触媒過程、および吸着過程において、その他の応用、例えばヘルスケア製造物、食品包装用製造物に使用してもよいが、これらには限定されない。
【0015】
本開示の実施形態は、一つに結合された繊維を含む基材、および基材中の複数の金属ナノ粒子である。本明細書で開示された新規の概念にしがって形成された基材は、セルロース系繊維またはセルロース系材料から形成された、セルロース系基材とすることができる。セルロース系繊維は、木材パルプ、綿、レーヨン、またはその他のあらゆるセルロース系材料であってもよく、自然界に由来するものであれ合成によるものであれ、どちらでもよい。一例では、セルロース系繊維は、製紙に使用される木材パルプである。しかしながら基材は、ポリマー繊維等のその他の繊維から形成してもよい。よって基材は、非セルロース系繊維、および/またはセルロース系繊維と非セルロース系繊維との配合物から作られた、不織材料、および/または布地材料を含んでいてもよい。例示的なポリマー繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびポリ乳酸などが挙げられるが、これらには限定されない。したがって、本明細書で使用する基材は、紙、布地材料、不織材料、および/またはそれらの積層体等のセルロース系基材などを挙げてもよい。例えば、基材には、紙、濾紙、吸い取り紙、ティッシュペーパー、ペーパータオル、吸収パッド、セルロース系布地(例えば綿および/またはレーヨン布地)、および/またはセルロース系不織布地、不織材料(例えばスパンボンド(spundbond)、メルトブローン(meltblown)、スパンボンド-メルトブローン(spunbond-meltblown)積層体、スパンレース、乾式、および/または湿式不織布)を挙げてもよいが、これらには限定されない。別途、考察したとおり、基材はフィルターに使用してもよい。例示的な濾材には、再生セルロース、酢酸セルロース、セルローストリアセテート、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリエーテルスルホン膜なども挙げられる。
【0016】
いったん形成された基材は、基材中に複数の金属ナノ粒子を含む。「基材中」という語句は、基材の表面上、繊維の表面上、繊維マトリックスによって形成された間隙の内部、そして場合によっては繊維自体の内部に金属ナノ粒子が見いだされ得ることを意味する。金属ナノ粒子は、本明細書に記載の基材中にいったん形成されると、少なくとも一次元において約1.0から約200.0ナノメートル(nm)までの範囲にある粒子サイズを有していてもよい。しかしながら、本明細書に記載の金属ナノ粒子は、非常に大きな、例えば数百ナノメートルになり得る凝集体になっていてもよいことは理解されるものとする。一例では、凝集ナノ粒子のサイズは200nm以上であってもよい。しかしながら、個別の金属ナノ粒子のサイズは、その直径が約1nmから約200nmまでの間にあるものとする。好ましい例では、サイズは約1nmから約100nmの間にあるものとする。一例では、ナノ粒子のサイズは、約1nmから約150ナノメートルの間にある。別の例では、ナノ粒子のサイズは、約1nmから約100ナノメートルの間にある。さらに別の例では、ナノ粒子のサイズは、約1nmから約50ナノメートルの間にある。本明細書に記載の方法は、さまざまなナノ粒子サイズを、加工条件、ライン速度等に応じて製造してもよいことは理解されるものとする。粒子サイズは、あらゆる複数のタイプの粒子分布を有していてもよい。よって、基材中にはさまざまなサイズのナノ粒子がある。一例では、観察される粒子サイズの少なくとも90%は、約200nmより小さいものとする。好ましくは、観察される粒子サイズの90%は、約100nmより小さいものとする。
図6に、本明細書に記載の新規の概念に準拠した基材中に形成された金属ナノ粒子の粒子サイズ分布を例示する。
図6に見られるとおり、粒子サイズは、20nmから約100nmまでの範囲にあってもよい。しかしながら上に言及したとおり、粒子サイズは20nmより小さくても、100nmより大きくてもよい。
【0017】
本明細書で使用される金属ナノ粒子のサイズは、ナノ粒子の粒子サイズを測定する公知の画像解析法に準拠して観察された、少なくとも一次元でのサイズである。例示のとおり、寸法を記載するには、例示を容易にするために「直径」を使用する。「直径」という用語は、粒子のSEM画像において観察された粒子の境界を定める直径を指し、当技術分野で公知のとおりである。直径という用語を使用していても、金属ナノ粒子が完全に球状構造であることが示唆されるわけではない。金属ナノ粒子のサイズを指すために使用してもよい平均粒子サイズは、所定の試料または試験レジメンにおいて観察された測定結果についての平均粒子サイズである。
【0018】
金属ナノ粒子は、さらに以下に記載の連続工程中に、金属塩の合成および還元剤から形成される。しかしながら、その結果として得られるのは、金属ナノ粒子を有する基材である。金属ナノ粒子は、銀、金、白金、パラジウム、アルミニウム、鉄、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、カドミウム、イリジウム、およびそれらの混合物を含んでいてもよい。一例では、金属ナノ粒子は銀を含んでいる。別の例では、金属ナノ粒子は銅を含んでいる。その他の金属ナノ粒子を使用してもよい。金属ナノ粒子を形成するのに使用される前駆体金属化合物に関する詳細を、以下に記載する。
【0019】
新規の原理に準拠して作製された基材は、実質的に湿っている場合には、色を変化させる。実例では、セルロース系基材は、実質的に乾燥している場合には第1の色を有し、実質的に湿っている場合には第2の色を有する。この例では、第2の色は第1の色とは実質的に異なる。色変化および色のタイプは、使用される金属ナノ粒子に依存することがある。したがって、第1の色または第2の色のどちらかが、黄色、橙、緑色、青色、紫色、灰色、黒色、白色、もしくは赤色、またはそれらとは異なるあらゆる単色であってもよいことは理解されるものとする。色は、公知の測色法を使用して検証することができる。例えば、セルロース系基材の色は、当業者に公知の技術を使用して測定されたCIE L*a*b*色値を有していてもよい。一例では、第1の色(乾燥している場合)は、45~75の範囲にあるL*値、0~40の間に範囲にあるa*値、および20~80の間の範囲にあるb*値を有する。第2の色は、これらの範囲内に収まってもよいが、しかしそれでも統計的に異なる値を有するL*a*b*色値を有していてもよい。
【0020】
基材はさまざまな坪量を有していてもよい。実例では、基材は、30グラム/平方メートル(gsm)から約400gsmの間の坪量を有する。一例では、坪量は30gsmと100gsmの間にある。一例では、坪量は50gsmと200gsmの間にある。別の例では、坪量は100gsmと200gsmの間にある。別の例では、坪量は200gsmと300gsmの間にある。別の例では、坪量は300gsmと400gsmの間にある。本明細書で使用される坪量は、測定されたISO536:2012、紙およびボード-坪量の測定(Paper and board - Determination of grammage)であり、本出願の最も早い出願日の時点で公表されている。
【0021】
基材は、以下に記載する連続加工ラインを使用して形成される。しかしながら、パッケージ化された形態では、基材は大きな巻き棒上にパッケージ化されたロール品であってもよい。使用時には、基材は、或るサイズに切断した物品に形成してもよい。実例では、物品は2~30cmの長さ、および2~30cmである幅を有する切断された紙であってもよく、幅は長さに対して垂直である。切断された物品は、その意図される用途向けに好適なあらゆる形状を有することができ、直線的でなくともよい。さらに、基材は複数の用途向けの物品に形成してもよい。物品は、水浄化装置の一部、吸収性材料、ヘルスケア製造物、または食品包装用製造物として使用してもよい。
【0022】
概して
図1~3を参照すると、連続工程を使用して、金属ナノ粒子を有するセルロース系基材を製造する。以下に記載の工程は、例示を容易にするために、セルロースを用いた加工ラインを参照する。しかしながら、この新規の概念は、水性である、または、製造中に水性組成物を材料に塗布する能力を有するその他の工程に応用できる可能性がある。例えば、湿式不織布加工ラインは、本明細書に記載の水溶液を含むような構成にしてもよい。さらに、スパンレース(spunlaced)・ライン等の、その他の不織加工ラインは、本明細書に記載の水溶液を塗布するような構成してもよい。
【0023】
概して
図1~3についてさらに続けると、工程は、ナノ粒子前駆体の水溶液を繊維の集合体(例えばセルロース系繊維)に塗布することを含む。この場合には、ナノ粒子前駆体の水溶液は、金属塩および還元剤を含む。繊維の集合体は、製造ラインに沿ったあらゆる点での材料の状態を広範に包含していてもよい。例えば、水溶液は木材パルプに、紙製造の初期段階で、形成用区画の後のもっと後の段階にある間に、および/またはプレフォームされたセルロース系基材に添加してもよい。一例では、水溶液を繊維集合体に塗布することは、金属塩および還元剤を単一操作で塗布することを含む。例えば、
図1および2を見られたい。しかしながらこれに代えて、水溶液を繊維の集合体に塗布することは、金属塩を含有する第1の溶液を繊維の集合体に塗布することを含む。続いて、第1の溶液を塗布した後、還元剤を含有する第2の溶液を、繊維の集合体に塗布する。例えば
図3を見られたい。水溶液および/またはその前駆体が、いかにして繊維に塗布されて基材が作製されるかという点での上の変形例を、以下に記載し、
図1~3に例示する。
【0024】
しかしながら、ほとんどの場合では、水溶液が繊維に塗布された後、工程は、連続運転時の熱エネルギーを用いて繊維の集合体を乾燥させて、基材を形成することを含む。乾燥により、基材中に金属ナノ粒子が生じる。より具体的には、例えば、乾燥により、金属塩と還元剤の化学反応が活性化し、それにより基材中で金属塩が還元されて金属ナノ粒子になる。乾燥段階の時間および温度プロファイルが、例えば基材の幅および坪量(坪量(grammage))、溶液の塗布中に維持される水、水溶液の組成、および乾燥段階の間に到達する所望の最高温度といった様々な要因に依存するであろうことは、当業者は容易に認識するであろう。
【0025】
水溶液は、金属塩および/または還元剤を含むが、これは使用される工程のタイプによる。金属塩は、銀、金、白金、パラジウム、アルミニウム、鉄、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、カドミウム、イリジウム、およびこれらの混合物などが挙げられるが、これらには限定されない。一例では、金属塩は銀を含む。典型的な銀塩には、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀、硫酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、四フッ化ホウ酸銀、過塩素酸銀、炭酸銀、塩化銀、またはトリフルオロメタンスルホン酸銀などが挙げられる。一例では、例えば銀塩のモル濃度は、0.05mMから1000mMまでの範囲にあってもよい。モル濃度の好ましい範囲は、1mMから50mMまでの間であってもよい。一例では、これらの銀ナノ粒子含侵セルロース系基材を抗菌水フィルターに応用するための典型的な濃度範囲は、10ppmから50,000ppmまでの銀とすることができる。
【0026】
別の例では、金属塩は銅を含む。銅塩には、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅、またはそれらの混合物などを挙げてもよいが、これらには限定されない。一例では、例えば銅塩のモル濃度は、200mMから1000mMまでの範囲にあってもよい。モル濃度の好ましい範囲は、250nMから600mMまでの間にあってもよい。一例では、銅ナノ粒子含侵セルロース系基材を抗菌水フィルターに応用するための典型的な濃度範囲は、10ppmから150,000ppmまでの銅とすることができる。
【0027】
金属塩用のいくつかの異なる還元剤を、基材を製造する工程において使用してもよい。好適な還元剤には、アルデヒド類およびアルデヒド生成薬品などが挙げられるが、これらには限定されない。一例では、還元剤は糖であってもよい。糖は、単糖類、二糖類、三糖類、および/または多糖類、またはそれらの部分的な混合物であってもよく、前述のあらゆるものとその他の添加剤との混合物を含む。一例では、還元糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、乳糖、マルトース、リボース、ソルボース、ならびに、例えば、コーンシロップ、グルコースシロップ、高フルクトースコーンシロップ、マルトースシロップ、およびこれらの混合物であってこれらには限定されない混合物などが挙げられるが、これらには限定されない。アルデヒド生成薬品を使用してもよい。例示的なアルデヒドおよびアルデヒド生成薬品には、アセトアルデヒド、グリセロアルデヒドとともに、スクロース等の非還元糖類、アスコルビン酸、アルコール、またはそれらの混合物などを挙げてもよいが、これらには限定されない。還元剤は、二段階工程で使用するには、水素化ホウ素ナトリウム等の他の化合物であってもよい。その他のアルデヒド類およびアルデヒド生成薬品およびその他の糖誘導体を、一緒にまたは単独で使用して、金属イオンを還元し基材中にナノ粒子を形成させてもよい。加えて、トレンス試薬(Tollen’s reagent)、すなわちアンモニア性銀に銀塗膜の形成を開始させる、あらゆる化学薬品が適切であろう。
【0028】
水溶液は追加の薬剤を含んでいてもよい。追加の薬剤は、填料、バインダー、顔料、サイジング剤、湿潤紙力増強剤、およびその他の一般的な製紙用添加物を含んでいてもよい。追加の薬剤は、結果として得られる基材の特定の特性を調整するために溶液に加えてもよい。通常技術の同業者は、上記のナノ粒子前駆体に加えてどのような追加の薬剤を使用してもよいか、理解するであろう。
【0029】
本明細書に記載の例示的な水溶液は、70~120部の還元剤に対して1部の金属塩を含んでいてもよい。そのような比は、水溶液を繊維に単一ステップで塗布するのに好適である場合がある。例えば、水溶液は、70から120部の糖、例えばフルクトース、グルコース、グルコースおよび/もしくはフルクトースの混合物、またはその他の糖類に対して、1部の銀金属塩を有していてもよい。塗布の間に前駆体が二相に分けられている場合等の、その他の例では。還元剤に対する金属塩の比は変えてもよい。例示的な二相溶液は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム等の5部以上の還元剤に対して1部の金属塩を有していてもよい。
【0030】
図1~3に、本明細書に記載のセルロース系基材を形成するのに使用される例示的な加工ラインを例示する。
図1を参照すると、パルプ貯蔵クタンク12、形成用区画およびプレス16内へパルプを供給するヘッドボックス14を含む、紙加工ライン10が例示されている。加工ライン10は、第1のダイヤー(dyer)区画18、塗布ユニット22(サイズプレス等)、第2のダイヤー区画26、および仕上げ処理されたセルロース系基材を重いコア上に巻き上げてロールを製造するための巻き取りリール30を含んでいてもよい。パルプ貯蔵クタンク12は、セルロース系基材を形成するのに使用される木材パルプを保持する。ヘッドボックス14は、加工ライン10の幅にまたがって、パルプ懸濁液中の木材パルプと水の混合および均一な分散をもたらす。パルプ懸濁液は、この点で、典型的には、0.2~0.7%の固形分である。しかしながら、より高い固形分値が可能である。タンク12およびヘッドボックス14は、本開示においてセルロース系繊維の集合体とも称される場合もある木材パルプを含む。
【0031】
図1についてさらに続けると、形成用区画およびプレス16は、形成用ベルト等の形成用ワイヤ、またはその他の多孔質コンベヤ、またはドラムを含む。繊維が融合して繊維のウェブWになる際に、形成用ワイヤにより、セルロース系繊維の集合体から水を排出することが可能になる。真空ボックスを使用して、さらなる水を除去してもよい。形成用ワイヤを出るウェブは、典型的には15~20%の間の固形分である。重い布(例えばプレスフェルト)の中へ水を押し込むために、ウェットプレスを区画16において使用し、ウェブに圧力をかける。この点で、プレス区画16を出たウェブは、典型的には40~50%の固形分である。随意の平滑なプレス(図示せず)を使用して、セルロース系繊維ウェブWをさらに結合させるために圧力をかけてもよい。
【0032】
図1に示す加工ライン10は、塗布ユニット22ならびにドライヤー区画18および26を用いたナノ粒子合成を実現する。第1のダイヤー区画18、第2のダイヤー区画26は、ウェブWの水分含量を低減させるのに使用されるあらゆる熱機器を含んでいてもよい。ダイヤー区画18および26は、蒸気加熱されたシリンダー、ガス加熱された熱シリンダー、強制空気加熱された装置、および/または赤外線加熱ユニットを含んでいてもよい。蒸気加熱システムが各ドライヤー区画内に例示され、平滑な表面を有する複数の鋼ドラム20を含んでおり、これらのドラムは蒸気を濃縮させることにより内側から加熱される。ウェブWは、区画18を通って、ドラム20の上下の蛇行経路を辿って進む。ウェブWは典型的には、強力な布材料によりドラム20の表面に強く押し付けられて、所定位置に保持される。ウェブWとドラム20の高温表面との間の密な接触により、ウェブWは加熱され、残留水は蒸発する。最終的なウェブは通常、90~96%の固形分である。いくつかの加熱方法、すなわち誘導性の、マイクロ波による、赤外線による、強制的な空気対流による、ガス火力による、または電気による乾燥ローラを使用して、ウェブWがその中に保持される水をサイズプレス後に蒸発させるために必要な熱を加え、ナノ粒子を形成する金属還元工程を開始することができることは、理解されるものとする。
【0033】
塗布ユニット22は、金属塩および還元剤を含む、ナノ粒子前駆体の水溶液を、移動しているウェブWに塗布する。塗布ユニット22は、第1および第2の乾燥区画18および26の間に位置する。よって、ウェブWは、塗布ユニット22内で溶液がウェブWに塗布される前には、実質的に乾燥している。示されているとおり、塗布ユニット22はサイズプレスであってもよく、これは製紙技術において公知である。塗布ユニットは、2つのロールの間のニップにおいて水溶液の浅い池を維持し、紙を鉛直下方にニップに通し、ウェブWが水溶液を吸収できるようにすることにより、ウェブWの表面に塗膜を塗布してもよい。サイズプレスは、トレイまたはディクソン・コーター(Dixon coater)を使用して、ウェブWを水溶液と接触させてもよい。水溶液をウェブWに塗布するいくつかのタイプの塗布ユニットおよび方法があることを、当業者は認識するであろう。実例では、塗布ユニット22は、噴霧システム、ポンドスタイル(pond-style)、エアーナイフ、計量装置、ブレードコーター(blade-coater)、およびその他のサイズプレス塗布装置を含んでいてもよいが、これらには限定されない。さらに、塗布ユニット22は、鉛直の、水平の、または傾斜した配置を含め、あらゆる方向に向いていてもよい。
【0034】
図1の例示の実施形態では、塗布ユニット22を介してウェブWに塗布された水溶液は、(1)所望の金属ナノ粒子のもとになる一つまたは複数の金属塩と(2)上記の一つまたは複数の還元剤との両方を含有する。一例では、水溶液における、サイジング剤に対するナノ粒子前駆体の比は、約0.11100と1:100の間にあってもよい。一例では、金属濃度は0.05%から最高約2.0%までの間にあってもよい。別の例では、金属濃度は0.05%から約1.0%までの間にあってもよい。さらに、塗布ユニットからの固形分ピックアップ(pickup)は、5%から約30%までの範囲とすることができることは理解されるものとする。さらに、塗布ユニットにおける固形分含量は10~60%の間とすることができ、大部分は還元剤を含む。金属塩と薬剤の水溶液をウェブWに塗布した後、過剰な溶液は、塗布ユニット22中での(または別の設備を用いた)さらなる洗浄なしに除去される。塗布ユニット22から、ウェブWは加熱されたドライヤー区画26に直接供給され、そこで十分な熱エネルギーが加えられて、残った水分がウェブWから除去される。一例では、ダイヤー区画が、90℃から150℃の範囲の温度にウェブWを曝露させた後、形成されたセルロース系基材Cは、ドライヤー区画26を脱し、リール30により巻き取られて、仕上がったセルロース系基材のロールになる。
【0035】
ドライヤー区画26を介して連続運転時に熱エネルギーを用いてセルロース系繊維Wの集合体を乾燥させることにより、水分が除去されるだけなくセルロース系基材中に金属ナノ粒子が生じる。ドライヤー区画26では、熱エネルギーにより、ウェブWに、白色等の第1の色から、橙色、黄色、赤色、紫色、青色、および/または緑色の色の紙への視認可能な色変化も生じ、これは、セルロース系基材の表面上で形成された金属ナノ粒子の様々なタイプを示している。この色変化は、本開示の別途記載の比色試験を介して観察してもよい。
【0036】
塗布と乾燥の段階にある間の加工レートは、ナノ粒子を埋め込んだ基材を作製する従来技術のバッチ法の製造能力とは大きく異なる。一例では、記載の加工ラインの製造速度は、毎分10メートルから最高で毎分700メートル以上の範囲となることがある。単位時間当たりに塗布されるナノ粒子前駆体の量は、毎分30グラムから毎分3,500グラムまでの間となることがあるが、これは所望の坪量、ナノ粒子の付属物、およびその他の加工上の考慮事項による。例えば、毎分30グラムは、0.559m(22インチ)のウェブ幅を有し10m/分で移動している125gsmの紙へのサイズプレスにおける、5重量%のピックアップに基づいている。毎分3,500グラムの上限は、制限するものではない。例えば、毎分3,500グラムは、商業用の製紙ライン上、2メートルインチのウェブ幅を有し毎分21.33メートル(70ft/分)で移動する270gsmの紙へのサイズプレスにおいて、30重量%のピックアップを仮定している。これに代わって、単位時間当たりの金属塩のピックアップ量は通常、製造されたセルロース紙の質量の約1000分の1である。例えば、1000kgの紙を毎分、作製する場合には、0.1%の金属塩濃度として1000gの金属塩を1分の加工ごとに加える。単位時間当たりの金属塩量のピックアップは、製造されるセルロース紙の質量の1000分の1より高くても低くてもよい。したがって、セルロース系基材上またはその内部でのナノ粒子の合成は急速に生じ、これはセルロース系基材上に金属ナノ粒子を形成するのに使用される典型的な方法とは異なる。
【0037】
多くのウェットエンド化学添加剤は、ヘッドボックス14内のパルプスラリーと混ざっていてもよく、そして/または塗布ユニット22を介して塗布される溶液に混合してもよいことを、当業者は容易に認識するであろう。ウェットエンド化学添加物は、填料、顔料、高分子電解質、内添サイジング剤、湿潤紙力増強剤、およびその他の一般的な製紙用添加薬品を含んでいてもよい。
【0038】
図1に例示の加工ラインの代替実施形態では、金属ナノ粒子前駆体の水溶液は、セルロース系繊維の集合体に別々に塗布することができる。実例では、加工ライン10を修正して、ヘッドボックス14内で(または形成用区画16の後に)、金属塩を含有する第1の溶液をセルロース系繊維に塗布するようにすることができる。ウェブWは、木材パルプ懸濁液および水溶液から、上に考察した形成およびプレス区画16を介して形成される。ウェブWは続いて、第1のドライヤー区画18を介して乾燥される。次に、塗布ユニット22は、還元剤を含有する第2の溶液を、セルロース系繊維Wのウェブに塗布する。続いて、第2のドライヤー区画26はさらに、ウェブWを乾燥させて、セルロース系基材上での金属ナノ粒子の合成を開始させることにより金属ナノ粒子を生じさせる。形成されたセルロース系基材は続いて、リール30を介して巻き取られて、ロールの形態になる。
【0039】
図2を参照して、セルロース系基材を製造するのに使用される別の代替加工ライン110を例示する。
図2に例示の加工ライン110は、リール・ツー・リール(reel-to-reel)加工ラインである。加工ライン110は、プレフォームされたセルロース系基材を保持する巻き戻しリール114、塗布ユニット122、ドライヤー区画126、および巻き取りリール130を含む。
図2では、加工ライン110は、プレフォームされたセルロース系基材のロールをリール114から巻き戻し、セルロース系基材Cを塗布ユニット122に案内する。塗布ユニット122は、金属塩と還元剤とを含有する水溶液を塗布する。塗布ユニット122も、上記の塗布ユニット22と同様に動作することができる。次に、ドライヤー区画126は、セルロース系基材を乾燥させ、これにより、セルロース系基材上での金属ナノ粒子の合成が開始する。形成されたセルロース系基材は、リール130を介して巻き取られてロールの形態になる。ダイヤー区画126は、上記のドライヤー区画22および26と同様に動作してもよい。この実施形態における水溶液中の、サイジング剤に対するナノ粒子前駆体の比は、約0.11100と1:100の間にあってもよいと理解されるものとする。一例では、金属濃度は0.05%から最高で約2.0%までの間であってもよい。別の例では、金属濃度は0.05%から約1.0%までの間であってもよい。さらに、塗布ユニットからの固形分ピックップは、5%から約30%までの範囲とすることができる。さらに、塗布ユニットでの固形分含量は10~60%の間とすることができ、大部分は還元剤を含む。
【0040】
図2において、プレフォームされた基材が本明細書に記載のあらゆる基材であって、ロールの形態にパッケージされたものであってもよいことは、理解されるものとする。プレフォームされた基材には、紙等のセルロース系基材、またはその他のセルロース系材料、不織材料、布地、またはそれらの積層材などを挙げてもよい。例示的な不織材料は、スパンボンド、メルトブロー式、スパンボンド-メルトブローン積層体、スパンレース不織布、乾式および/または湿式不織布などが挙げられるが、これらには限定されない。別途考察したとおり、プレフォームされた基材には、セルロース系繊維、再生セルロース、酢酸セルロース、セルローストリアセテート、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維、および/またはポリエチレン繊維、それらの配合物等、さまざまな繊維などが挙げられる。プレフォームされた基材は、フィルター応用に好適ないかなる材料であってもよい。
【0041】
加工ライン110の代替実施形態では、ナノ粒子前駆体は、プレフォームされたセルロース系基材に別々に塗布される。実例では、塗布ユニット122は、金属塩を含有する第1の溶液を、プレフォームされたセルロース系基材に塗布してもよい。第1の溶液を塗布した後、追加の塗布ユニット(図示せず)は、還元剤を含有する第2の溶液を、プレフォームされたセルロース系基材に塗布することができる。次に、ドライヤー区画126がセルロース系基材を乾燥させて、セルロース系基材上での金属ナノ粒子の合成を開始する。第2の溶液を、プレフォームされたセルロース系基材に塗布した後、プレフォームされたセルロース系基材は、リール130を介してロール上に巻き取られる。
【0042】
図3に、金属ナノ粒子を有するセルロース系基材を形成するのに使用される別の加工ライン210の代替実施形態を例示する。
図3に示される実施形態に準拠して、加工ライン210は、単一段階または別々の段階において噴霧システムを介して、水溶液をセルロース系繊維のウェブに塗布する。この実施形態では、ナノ粒子前駆体の別々の塗布を例示した。
図3に示すとおり、加工ライン210は、パルプ貯蔵クタンク12、ヘッドボックス214、形成用区画およびプレス216、第1の噴霧塗布ユニット220、第1のダイヤー区画218、第2の噴霧塗布ユニット222、第2のダイヤー区画226、ならびに巻き取りリール230を含む。パルプ貯蔵クタンク212、ヘッドボックス214、形成用区画およびプレス216、第1のダイヤー区画218、第2のダイヤー区画226、および巻き取りリール230は、
図1に示された加工ライン10の対応する構成成分と実質的に同様である。
図3に示すとおり、第1の噴霧塗布ユニット220は、金属塩を含有する第1の溶液を、セルロース系繊維Wのウェブ上に噴霧する。第1のドライヤー区画はウェブWを乾燥させる。次に、第2の塗布ユニット222は、還元剤を含有する第2の溶液を、セルロース系繊維Wのウェブ上に噴霧する。第2のダイヤー区画226は、続いてウェブWを乾燥させる。
【0043】
図3に示された加工ライン220は、塗布ユニット122およびドライヤー区画226を用いて、ナノ粒子合成を実現する。具体的には、塗布ユニット122は、ナノ粒子前駆体の水溶液で還元剤を含むものを、既にここまでの噴霧塗布から金属塩を含有している可能性のあるウェブに塗布する。還元剤を含有する第2の水溶液をウェブWに塗布した後、ドライヤー区画226を介して熱エネルギーが印加される。この実施形態における水溶液中の、サイジング剤に対するナノ粒子前駆体の比は、約0.11100と1:100の間にあってもよいと理解されるものとする。一例では、金属濃度は、0.05%から最高で約2.0%までの間にあってもよい。別の例では、金属濃度は0.05%から約1.0%までの間にあってもよい。さらに、塗布ユニットからの固形分ピックアップは、5%から約30%までの範囲とすることができる。さらに、塗布ユニットにおける固形分含量は10~60%の間とすることができ、大部分は還元剤を含む。ダイヤー区画が、90℃から150℃の範囲の温度にウェブWを曝露させた後、形成されたセルロース系基材Cは、ドライヤー区画226を脱し、リール230により巻き取られて、仕上がったセルロース系基材のロールになる。ドライヤー区画226を介して連続運転時に熱エネルギーを用いてセルロース系繊維Wの集合体を乾燥させることにより、水分が除去されるだけでなく、セルロース系基材中に金属ナノ粒子が生じ、これは上記のとおりである。
【0044】
加工ライン10、110、および210の使用にかかわらず、形成されたセルロース系基材は、ロールの形態で出荷する、保管する、またはすぐに切断して、個々に使用される金属ナノ粒子を埋め込んだ紙フィルターおよび/または本明細書に記載のその他のセルロース系物品を製造することができる。そのような製造物が切断されることなく、プレカットされた水フィルターの製造からさらに先に進んで複数のその他の操作のために使用される可能性もあることを、当業者は容易に認識するであろう。したがって、金属ナノ粒子を埋め込んだセルロース系基材は、水の浄化、ヘルスケア製造物、吸光製造物、食品包装、およびそれらの組み合わせに使用することができる。これらの紙の多くの応用にとって、耐久性と抗菌機能性の長寿命とは必要条件である。
【実施例】
【0045】
新規の概念および用途を、さらに以下の非限定的な例により例示する。
実施例A
【0046】
実施例Aは、パイロット紙生産ラインにおいてセルロース基材上に銀ナノ粒子を製造することを含んでいた。実施例Aでは、約138kgの木材パルプをパルプ貯蔵クタンク中で水と混合して、近似的に1.0%の固形分含量を実現した。パルプスラリーはヘッドボックスを通して供給し、さらに形成テーブル上にウェットプレスおよび第1のドライヤー区画を通して供給した。紙ウェブは、0.04Mの硝酸銀の水溶液および3Mの還元糖類を用いたサイズプレスに通して処理した。糖類は、この例ではグルコースとフルクトースの混合物であった。ウェブは、ナノ粒子前駆体をピックアップした。第2のドライヤー区画では、加熱とグルコース還元との組み合わせにより硝酸銀を還元して銀ナノ粒子にした。ウェブは、第2のドライヤー区画において実質的に白色から橙色に変化したことから、銀ナノ粒子形成を示している。銀ナノ粒子を含有する均一に着色されたシートを形成するのに必要な、第2のドライヤー区画内でのウェブの滞留時間は、約40秒であった。以下の表1に、CIE-Lab分析による、紙における白色ウェブから橙色ウェブへの比色変化を示すが、ここでL*は、明から暗(100から0)を表し、a*は緑色から赤色を表し、b*は青色から黄色を表す。パイロット装置は、近似的に9.75m/分で動作させて、銀ナノ粒子を埋め込んだ紙154kgを1.75時間で製造した。
ナノ粒子のサイズは、
図4に示すとおり、20~100nmであった。
【0047】
【0048】
実施例Bに、抄紙機で製造した銀ナノ粒子濾紙の抗菌特性を例示する。実施例Aから得られた銀ナノ粒子を埋め込んだ紙を、殺菌効果に関して、簡単な水フィルター試験により評価したが、これはここまでに詳述したとおりである(Dankovich and Gray, 2011(非特許文献2))。非病原性大腸菌は糞便汚染の指標であり、試験菌として使用した。直径24.77cmの紙を折り曲げて円錐にして漏斗で保持し、これに、蒸留水中、1.95×10
6コロニー形成ユニット数(CFU/mL)の大腸菌を含有する懸濁液を通した。流出水の試料を、栄養寒天プレート上、100マイクロリットルのアリコートを播種して37℃で24時間培養することにより、生菌に関して分析した。90リットルの大腸菌懸濁液を銀ナノ粒子紙に通し、四つのサンプルを2から6リットルの水処理量ごとに取得した。表2における式1および2にしたがって、細菌減少率を計算した:
細菌減少%=(100)(流入液-流出液)/(流入液) (式1)
対数減少=-log(1-細菌減少%) (式2)
細菌のストレス試験では、パイロット規模の抄紙機械を介して製造された銀ナノ粒子紙は、約90Lの容量で平均99.998%の大腸菌を取り除ける(5.2対数減少)ことが実証された(表2)。流入液(濾過前)の、そして流出液(濾過後)の大腸菌数を、
図5にプロットした。以下の表2に、実施例Aにおいて形成された銀ナノ粒子紙に通して濾過された1.95×10
6コロニー形成ユニット数(CFU/mL)の大腸菌の容積に対する、細菌と対数の減少を例示する。
【0049】
【0050】
本明細書に記載の連続工程は、バッチ工程に勝る複数の利点を有する。実例では、上記のバッチ法とは対照的に、本明細書に記載の連続工程により、ナノ粒子を埋め込んだ紙をせいぜい数分から数十分で大量に製造することが可能になる。本明細書に記載の連続工程は、例えば、ディクソン・コーター、長網抄紙機、およびその他の商業用の大規模製紙ラインを使用してもよい。比較的小型のディクソン・コーターは、例えば、全速運転して、12インチのロールの紙で、毎分280長さフィート(ft/min)の紙を塗工し、乾燥させる。長網抄紙機は、典型的には10フィート/分から300フィート/分までの範囲にある速度を生じさせることができるが、これは、これまでに開示された発明(Dankovich, 2015(非特許文献3))において可能な製造レベルをはるかに凌駕する。さらに大規模な商業用の製紙ラインは、典型的には500フィート/分から2500フィート/分の範囲にあるさらに高いスループットが可能である。ナノ粒子合成についてこれまでに開示されている従来のバッチ法は、この強力な技術にすぐには対応しておらず、よってそれらは広く採用されているわけではない。
【0051】
バッチ法において前述したように個々のフィルタシートにおいて金属ナノ粒子を合成する(Dankovich, 2014(非特許文献4、5))のではなく、本開示は、セルロース系基材の上にじかに行う大量の金属ナノ粒子の連続的な製造を含む。形成された基材からフィルターを切断し、標準的なシート形成装置を使用して、或るサイズにしてもよい。よって、本明細書に記載の実施形態は、バッチ法と比較して、分または時間ではなく秒単位の時間で、金属ナノ粒子をセルロース系基材中に合成する方法を含む。得られる結果は、金属ナノ粒子を埋め込んだセルロース系材料を生じる、製造速度の大幅な増加である。さらに、本明細書に記載の新規の概念は、セルロース系基材の湿式形成中にパルプまたは紙の表面化学を大幅に変えることはない。さらに、本明細書に記載の工程は、ナノ粒子合成ステップを用いない同一プロセスと比較して、得られるセルロース系基材の物理的特性を大幅に変えることはない。ナノ粒子を繊維表面上にじかに形成するインサイチュ法は、これまでのバッチ法に勝る利点を他にもいくつか有する。例えば、形成してセルロース系基材中に維持することのできる金属ナノ粒子の全体的なレベルは、本明細書に記載のインサイチュ合成工程を用いると、少なくともナノ粒子の吸収過程(Dankovich and Gray, 2011(特許文献2))と比較して大幅に高い。本明細書に記載のインサイチュ合成法では、製造工程および製造物使用段階のさなかの高価な金属試薬の過度の損失を防止することができる。塗布ユニットにおける溶液の再循環に起因する、この製造工程における金属前駆体の損失は、ほとんどないか、まったくない。
【0052】
以下に記載の定義は、本開示に当てはまる。
【0053】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、その冠詞の文法上の対象となる一つまたは複数(すなわち、少なくとも一つ)のものを参照するために使用する。例としては、「an element(要素)」は、一つの要素、または一つまたは複数の要素を意味する。
【0054】
値の範囲が設けられている場合には、その範囲の上下限値と、その記載された範囲内の他のあらゆる記載されたまたは介在する値との間に介在する各値は、他に文脈が明確に指示しているのでない限り、その下限値の単位の10分の1まで、本発明の内に包含されていることは理解されたい。本明細書では、終点により詳記されている数値範囲は、その範囲内に包含されるあらゆる数字および分数を含む(例えば、1から5は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、および5を含む)。これらのさらに小さな範囲の上下限値は、その記載された範囲において具体的に除外されるあらゆる限界値の条件のもと、それらのさらに小さな範囲に単独で含まれていてもよく、本発明の範囲内に包含される。記載された範囲が上下限値の一つまたは両方を含む場合、含まれているそれらの限界値のどちらかまたは両方を排除した範囲も本発明に含まれる。
【0055】
本明細書では、特定の範囲が、「約」という用語に先行される数値を用いて示される。「約」という用語は、本明細書では、「約」に先行される正確な数字だけでなく、その「約」という用語に先行される数の近傍にあるまたは近似的にその数である数を字義どおりに支持するのに使用される。或る数が、具体的に詳記された数の近傍にあるかまたは近似的にその数であるかどうかを判断するにあたっては、近傍のまたは近似的であって詳記されていないその数は、それが存在している文脈において、具体的に詳記された数と実質的に均等な物を提供する数であってもよい。例えば、「約」という用語は、本明細書では、記載された値から上下に5%の偏差だけ数値を緩めるのに使用される。
【0056】
本明細書および添付請求項の範囲において使用されるとおり、用語「例えば(for example)」、「実例では(for instance)」、「等(such as」、「含む(including)」、および同種のものは、より一般的な主題を明確にする例を紹介することを意図されている。他に特定されていない限り、これらの例は発明を理解するための手助けとして提供されるものであり、限定的であるとはいかようにも意図されていない。
【0057】
本明細書で使用する用語、「抗菌性」、または「抗菌活性」は、微生物を殺す、微生物の成長を阻害する、または微生物を除去することを含め、物理的性質または化学的性質のどちらかによる抗菌効果を有する工程または活性を指す。「抗菌性」、「抗真菌性」等の用語は、同様に見なされる。活性もまた、本明細書および請求項の範囲の文脈に照らして、記述のとおりと見なされる。
【0058】
本開示は、本明細書においては、限られた数の実施形態を使用して記載されている一方で、これらの特定の実施形態は、本明細書に記載され特許請求されているのでない限り、開示の範囲を制限することを意図するものではない。本明細書に記載の物品および方法の様々な要素の精密な配置、およびステップの順序は、制限的ではないとみなされるものとする。実例では、方法のステップは、図における一連の参照符号およびブロックの数列を参照して記載されるものの、方法は、所望により特定の順序で実現することができる。