(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20221202BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20221202BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20221202BHJP
G03B 17/14 20210101ALN20221202BHJP
【FI】
G02B7/02 E
G02B7/02 G
G02B7/08 B
G02B7/08 A
G02B7/04
G03B17/14
(21)【出願番号】P 2019021158
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】武澤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 将志
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲哉
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-255899(JP,A)
【文献】実開昭57-025310(JP,U)
【文献】特開2017-138543(JP,A)
【文献】特開2004-138770(JP,A)
【文献】特開平08-234259(JP,A)
【文献】特開2010-107709(JP,A)
【文献】特開2012-194338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/08
G02B 7/04
G03B 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリングと、光軸方向にスライド移動することで、第1の位置と、第2の位置とを切り替え可能な第2のリングと、前記第1のリングもしくは前記第2のリングのいずれかに備えられ、径方向への付勢力を有する複数の付勢機構と、前記第1のリングもしくは前記第2のリングのうち付勢機構のないいずれか一方に備えられる係止部と、を有し、前記付勢機構は接触部を有する弾性部材と、前記弾性部材を
光軸に向かう方向に付勢する付勢部材からなり、前記第2のリングが前記第2の位置にあるときに、前記接触部が、前記接触部と対向する前記係止部と圧接することで、前記第1のリングと前記第2のリングとが一体となって回転可能であることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記弾性部材及び前記付勢部材は締結部材によって前記第1のリングもしくは前記第2のリングのいずれかに共締めされる板状部材であり、前記付勢部材は締結穴を挟んで両側に屈曲部を有し、前記弾性部材は前記屈曲部によって径方向に付勢されることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記付勢機構は前記第1のリングもしくは前記第2のリングのいずれかの円周上に互いに均等な距離で3か所配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
回転軸を有する検知レバーを有し、前記検知レバーは
貫通穴を備え、前記貫通穴に挿入された締結部材を軸として回転移動し検知スイッチを操作することで前記第2のリングの光軸方向の位置を判定可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
球状部材と、前記第2のリングの内周側に形成された傾斜部に対して前記球状部材を付勢するクリックバネからなるクリック機構を有し、前記クリック機構は前記第2
のリングの光軸方向へのスライド移動を規制することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記第1のリングは距離表示を備えるスケールリングであり、前記第2のリングはマニュアルリングであり、前記第1の位置においては前記マニュアルリングによって前記距離表示が覆い隠され、前記第2の位置においては前記距離表示が外観に露出されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
撮像装置に取り付けられるレンズ鏡筒であって、前記マニュアルリングが前記第1の位置にあるときは前記撮像装置の測距結果に従って焦点調節が行われ、前記マニュアルリングが前記第2の位置にあるときは前記マニュアルリングの回転操作に従って焦点調節が行われることを特徴とする請求項6に記載のレンズ鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光軸方向にスライド移動可能なマニュアルリングを搭載したレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マニュアルリングを光軸と平行な方向(以下光軸方向)にスライド移動させることで、フォーカスモードを切り替えて焦点調節を行うことが可能なレンズ鏡筒が公知である。
【0003】
特許文献1においては、距離目盛を有する距離表示部と、第1の位置及び第2の位置に位置することが可能であり光軸回りの回転が可能な回転操作部が備えられ、距離表示部は第1の位置においては回転操作部と係合して一体となって回転し、第2の位置においては回転操作部と係合しないレンズ鏡筒が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献1には距離表示部と回転操作部の係合方法の一実施例として、両者間の摩擦によって係合を行う技術が記載されている。回転操作部が第2の位置に位置している状態において、回転操作部をマウント方向に向かって付勢する付勢力によって回転操作部を距離表示部に押し付けることにより、両者間に摩擦力を生じさせ、回転操作部と距離表示部とがともに回転するように構成されている、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術においては摩擦力を生じさせる付勢機構として弾性を持つC型リングが使用されている。しかし回転操作部と距離表示部を係合させるだけの摩擦力が生じるほどC型リングを変形させるためには、非常に大きな力量が必要である。その結果、スライド移動に際して使用者の感触に悪影響を与えていた。また、スライド移動をする度に通常状態から変形状態へと遷移するだけの負荷をかける必要があるため、C型リングの耐久性に問題があった。また、C型リングは固定されていないため、回転操作部の回転によって距離表示部に対して空転してしまう可能性がある。従って、付勢機構としての機能を十分に発揮できない恐れがあった。
【0007】
上記課題から本発明は、マニュアルリングの光軸方向のスライド移動に際して使用者の感触に優れながら、感触を調整可能であり、省スペースな付勢機構を備えたレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のレンズ鏡筒は、第1のリングと、光軸方向にスライド移動することで、第1の位置と、第2の位置とを切り替え可能な第2のリングと、前記第1のリングもしくは前記第2のリングのいずれかに備えられ、径方向への付勢力を調整可能な複数の付勢機構と、前記第1のリングもしくは前記第2のリングのうち付勢機構のないいずれか一方に備えられる接触部と、を有し、前記付勢機構は接触部を有する弾性部材と、前記弾性部材を付勢する付勢部材からなり、前記第2のリングが前記第2の位置にあるときに、前記接触部が、前記接触部と対向する前記係止部と接することで、前記第1のリングと前記第2のリングとが一体となって回転可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、マニュアルリングの光軸方向のスライド移動に際して使用者の感触に優れながら、感触を調整可能であり、省スペースな付勢機構を備えたレンズ鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例における第1の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す面図である。
【
図2】本発明の一実施例における第2の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施例における第1の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施例における第2の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒のマニュアルリングを示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の第2検知リングを示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の検知機構を示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒のクリック機構を示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の付勢機構を示す斜視図である。
【
図10】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の付勢機構を示す断面図である。
【
図11】本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の各位置における付勢機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面に従って、本発明を実施する一実施例について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は本発明の一実施例における第1の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す平面図である。
図2は本発明の一実施例における第2の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す平面図である。
図3は本発明の一実施例における第1の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す断面図である。
図4は本発明の一実施例における第2の位置におけるレンズ鏡筒の主要部材を示す断面図である。以下、
図1から
図4を使用してレンズ鏡筒1の部材について説明する。また、本出願においては
図1における右側を撮像装置側、その反対側を物体側と呼称することとする。
【0013】
レンズ鏡筒1はマウント部を介して不図示の撮像装置に取り付けられた交換可能な撮影レンズであり、その光学系は中心に光軸を持つ。また、レンズ鏡筒は、前枠10、固定筒20、カバーリング30、マニュアルリング40、スケールリング50、第1クラッチベース60、第2クラッチベース64、第1検知リング70、第2検知リング80及び検知機構を有する。また、レンズ鏡筒は不図示のレンズCPUを備え、撮像装置のCPUと各種情報を通信する。また、レンズ鏡筒はマニュアルリング40を使用者の操作によって光軸方向にスライド移動可能なクラッチ機構を備えている。
【0014】
前枠10は距離指標12が外観部に設けられた固定部材である。固定筒20は内部に光学系を備える固定部材である。光学系は複数のレンズ群から構成され、一部のレンズ素子はフォーカスレンズとして焦点調節に際して移動する。また、カバーリング30はレンズ鏡筒の外観部材である。
【0015】
マニュアルリング40は使用者が手動で回転操作をすることで焦点調節が可能な円筒状の操作部材である。マニュアルリング40は使用者の操作によって光軸方向にスライド移動可能であり、非操作時には移動範囲両端のどちらかに選択的に位置する。また、マニュアルリング40の取り得る位置について、物体側を第1の位置、撮像装置側を第2の位置と呼称することとする。
【0016】
図5は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒のマニュアルリング40を示す断面図である。マニュアルリング40は内周部に第2検知リング80の突起部81と係合する直進キー溝41を2か所備えている。また、内周部には山状部42を備えており、第1の位置においては撮像装置側の傾斜部がボール62と当接し、第2の位置においては物体側の傾斜部がボール62と当接する。また、内周部には同様に係止部43を備えており、第1の位置においては他の部材と当接せず、第2の位置においては付勢機構の摩擦バネ53と当接する。
【0017】
スケールリング50は距離表示51を表面に備えた円筒状の部材である。スケールリング50は光軸を中心として回転可能であり、その外周上に互いに均等な位置で3か所の付勢機構を備える。付勢機構について、詳しくは後述する。
【0018】
第1クラッチベース60はクリック機構を備える円筒状の部材である。クリック機構は溝部61とボール62とクリックバネ63とから構成され、第1クラッチベース60の外周上に6か所備えられる。また、第2クラッチベース64は検知機構を備える円筒状の部材である。
【0019】
第1検知リング70はスケールリング50と一体的に回転する円筒状部材である。第1検知リング70は回転検知用のエンコーダブラシを備え、固定部材に備えられた不図示のエンコーダによってその絶対位置を検知することで、回転方向及び回転量が検知される。また、第1検知リング70はバヨネット部によって固定筒20に係合する。固定筒20の溝は2カ所の突き当て部を有し、溝部61に係合したバヨネット部は突き当て部と衝突することで、回転範囲が規制される。
【0020】
図6は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の第2検知リング80を示す斜視図である。第2検知リング80はマニュアルリング40と係合して一体的に回転する円筒状の部材である。第2検知リング80は内周部が 歯形状となっており、固定筒20に設けられた不図示の2対のフォトインタラプタによって回転に係るスリットの通過が検出されることで、基準位置からの回転方向及び回転量が相対位置として検知される。また、外周部には複数の突起部81を備え、マニュアルリング40の直進キー溝41と係合する。マニュアルリング40が光軸方向へスライド移動する際には、直進キー溝41は突起部81と常に係合しながら摺動する。
【0021】
図7は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の検知機構を示す斜視図である。第1検知レバー90は第2クラッチベース64に備えられたマニュアルリング40の位置検知部材である。第1検知レバー90は貫通穴を備え、貫通穴に締結部材93が挿入されることで第2クラッチベース64の背面に存在する第2検知レバー91と固定される。第2検知レバー91には付勢バネ92が取り付けられており、付勢バネ92の付勢力によって第1検知レバー90は常にマニュアルリング40と当接するよう付勢される。
【0022】
次にマニュアルリング40のクラッチ機構について説明する。本実施例のレンズ鏡筒はフォーカスモードをクラッチ機構によって切り替え可能な構成である。マニュアルリング40が第1の位置に位置する際には自動で焦点調節が行われるオートフォーカスモード、第2の位置に位置する際には手動で焦点調節が行われるマニュアルフォーカスモードとなる。なお、本実施例におけるレンズ鏡筒はマニュアルリング40とフォーカスレンズが機械的に連結しないバイワイヤ方式であり、フォーカスモードに関わらず撮像装置の命令によってフォーカスレンズが駆動し、焦点調節が行われる。
【0023】
まず、第1の位置における構成について説明する。第1の位置において、マニュアルリング40の物体側端は前枠10に当接し、物体側への光軸方向の移動が規制される。また、山状部42の撮像装置側の傾斜部42aがクリック機構のボール62に当接し、撮像装置側への光軸方向の移動が規制される。また、スケールリング50はマニュアルリング40に覆われることで外観に露出せず、焦点調節に際して回転しない。
【0024】
第1の位置におけるオートフォーカスモードによる焦点調節は、撮像装置の測距結果に従って、不図示のレンズ内モーターによってフォーカスレンズが移動することで行われる。本実施例のレンズ鏡筒においてはオートフォーカスモードにおいてもマニュアルリング40による手動調整が可能なフルタイムマニュアル機能を有する構成となっている。マニュアルリング40は第2検知リング80と係合しているため、使用者の回転操作によって第2検知リング80と一体的に回転する。第2検知リング80はフォトインタラプタによって回転量及び回転方向が検出されるため、その情報を撮像装置側へと送信することで、使用者の意図通りの焦点調節が可能となる。
【0025】
ここで、本実施例におけるクリック機構は溝部61、クリックバネ63及びボール62で構成されており、マニュアルリング40の光軸方向移動に係るクリック感の生成、及びマニュアルリング40の光軸方向における規制部材としての効果を有する。なお、本実施例のボール62は金属を素材とするが、それに限られるものではない。
【0026】
図8は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒のクリック機構を示す断面図である。第1クラッチベース60は光軸と略直交する方向に溝部61を備えており、溝部61の中央には丸穴部61aが備えられる。丸穴部61aにはボール62、溝部61にはボール62を付勢するクリックバネ63が圧入されている。
【0027】
第1の位置においてボール62は山状部42の撮像装置側の傾斜部42bに当接している。ここで、ボール62がレンズ鏡筒の外径方向からの力を受けるとクリックバネ63は収縮し、ボール62は丸穴部61aの内部へと押し込まれる。従ってボール62を丸穴部61aに押し込むだけの力を超えない範囲内で、クリック機構はマニュアルリング40の撮像装置側への光軸方向のスライド移動を規制している。
【0028】
次に、第2の位置における構成について説明する。第2の位置において、マニュアルリング40の撮像装置側端は第2クラッチベース64に当接し、撮像装置側への光軸方向の移動が規制される。また、物体側の傾斜部42aがボール62に当接し、物体側への光軸方向の移動が規制される。また、スケールリング50は外観に露出し、焦点調節に際してマニュアルリング40と一体となって回転する。従って、使用者は距離表示51を前枠10の距離指標12によって確認しながら焦点調節を行うことが可能となる。
【0029】
第2の位置においてマニュアルリング40はスケールリング50と付勢機構から発生する摩擦力によって係合する。従って、使用者がマニュアルリング40を回転させるとスケールリング50は一体となって回転をする。
図9は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の付勢機構を示す斜視図である。
図10は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の付勢機構を示す断面図である。付勢機構はチャージ板52、摩擦バネ53及び締結部材55によって構成され、スケールリング50の外周上に互いに均等な位置で3か所備えられる。
【0030】
チャージ板52と摩擦バネ53はチャージ板52を上層として、締結部材55によってスケールリング50に共締めされる。チャージ板52及び摩擦バネ53はスケールリング50の周方向に長辺を持つ長板状の部材であり、中央付近に締結部材55が挿入される締結穴を2か所備えている。また、チャージ板52は締結穴を挟んで両側に備える屈曲部52aを境にして光軸側に折れ曲がっている。摩擦バネ53は締結穴を挟んで両側に備える第1屈曲部53aを境にして光軸から離れる方向に折れ曲がっており、更に第2屈曲部53bを境にして光軸に向かう方向に折れ曲がる段差形状をしている。また、摩擦バネ53は第2屈曲部53bよりも更に先端部分にマニュアルリング40の内周部と接触する接触部54を備えている。
【0031】
ここで、摩擦バネ53は単体であれば第1屈曲部53aまで直線形状をしているところを、本実施例においては2か所のチャージ板52押さえ箇所においてチャージ板52が接触して付勢することで、光軸に向かう方向に撓み変形をしている。このように摩擦バネ53が予め変位量を持つことで、直線形状と比較して、マニュアルリング40と接触する際の力量を好適に設定することが可能となる。このような効果について、詳しくは後述する。
【0032】
第2の位置におけるマニュアルフォーカスモードによる焦点調節は、使用者がマニュアルリング40を回転させることによって行われる。ここで、スケールリング50は第1検知リング70と係合しているため、使用者の回転操作によって第1検知リング70と一体的に回転する。第1検知リング70はフォーカスブラシによって逐次絶対位置が検出され、回転量及び回転方向が検出される。従ってレンズCPUが相対移動量を撮像装置側へと供給し、撮像装置がフォーカスレンズを駆動させることで、使用者の意図通りの焦点調節が可能となる。
【0033】
また、第1検知リング70は固定筒20によって回転範囲が規制されているため、一体的に回転するスケールリング50も同様に回転範囲が規制される。ここで、スケールリング50の回転が止まる位置がフォーカス至近端及びフォーカス無限遠端となる。使用者がマニュアルリング40を回転させると、スケールリング50は付勢機構によって一体的に回転し、フォーカス至近端若しくはフォーカス無限遠端に突き当り回転不能となる。スケールリング50が回転不能となった状態で使用者が更にマニュアルリング40を回転させると、付勢機構による摩擦力を上回る力量がマニュアルリング40に加わり、マニュアルリング40はスケールリング50との係合関係が外れて単体で回転する。すなわち、スリップしてマニュアルリング40が回転可能な状態(スリップ状態)となる。この状態で、マニュアルリング40を逆に回転させると、マニュアルリング40はスケールリング50との係合関係がすぐさま復帰し、マニュアルリング40は、スケールリング50と一体となって回転する。
【0034】
これにより、レンズ鏡筒をカバン等に収納した状態で不用意にマニュアルリング40に回転方向の負荷が生じたり、使用者による過大な荷重でマニュアルリング50を回転操作され、フォーカス至近端及びフォーカス無限遠端に突入時も機構の破損を防止できる。また、使用者がスリップ状態でマニュアルリング40を回転させ続けたとしても、使用者が逆方向に回転させるとスリップを開始した位置までマニュアルリング40を戻すこととなく、フォーカス位置を調整できる。
【0035】
次にマニュアルリング40を第1の位置から第2の位置へと移動する際の構成について説明する。所定の力をマニュアルリング40に加えると、クリック機構におけるボール62は山状部42の撮像装置側の傾斜部によって溝部61へと押し込まれ、撮像装置側への光軸方向のスライド移動が可能となる。山状部42の頂点がボール62を通過すると、山状部42の物体側の傾斜部が続いてボール62と当接し付勢をする。更にマニュアルリング40がスライド移動すると最終的に第2の位置へと到達し、クリック機構よって物体側への光軸方向の移動が規制される。また、光軸方向に所定の力量をマニュアルリング40に加えた際にはクリックバネ63によってクリック感が発生する。
【0036】
また、マニュアルリング40と第2検知リング80とは、マニュアルリング40が第1の位置から第2の位置へと移動する際に、ガイド部41が突起部81と常に係合しながら摺動することで位置関係が変化する。
【0037】
また、マニュアルリング40を第1の位置から第2の位置へと移動する際には第1検知レバー90が締結部材93を軸として常にマニュアルリング40と当接しながら回転する。第1検知レバー90と固定された第2検知レバー91はマニュアルリング40の移動と連動して回動し、腕部が不図示の検知スイッチを操作することによってマニュアルリング40の位置が検知される。検知された情報はレンズCPUから撮像装置へと送信される。
【0038】
図11は本発明の一実施例におけるレンズ鏡筒の各位置における付勢機構を示す断面図である。
図11(a)は第1の位置における付勢機構を示しており、
図11(b)は第2の位置における付勢機構を示している。摩擦バネ53の接触部54はマニュアルリング40の係止部43とのみ当接し、その他の箇所には当接しない高さである。ここで、係止部43は山型の形状をしており、接触部54と係止部43は第1の位置においては非接触であるが、第2の位置においては接触部54と係止部43の頂点が接触する位置関係となっている。従ってマニュアルリング40が第1の位置から第2の位置へと移動する際には、接触部54と係止部43の頂点が接触し、マニュアルリング40が更に押し込まれることで、摩擦バネ53は光軸に向かう方向にわずかに撓み変形をする。この撓み変形の反発力による径方向への付勢力により、マニュアルリング40とスケールリング50は係合する。
【0039】
ここで、本実施例における摩擦バネ53はチャージ板52によって付勢されることで、予め光軸方向に撓み変形をしている。従って変形をしていない摩擦バネ53と比べ、少ない力量で光軸方向へ向かう撓み変形が可能である。必要な力量が少なくなることから、本実施例のレンズ鏡筒はマニュアルリング40のスライド移動の際に、使用者の感触に悪影響を与えない構成となっている。
【0040】
また、摩擦バネ53が光軸方向に撓むことから、変形をしていない摩擦バネ53と比べ、レンズ内に必要なスペースを抑えることが出来る。また、レンズ鏡筒内の別部材と接触する恐れのない構成となっている。
【0041】
ここで、マニュアルリング40およびスケールリング50の周方向に円錐面を形成し、一方のリングを光軸方向に移動させ、他方のリングに押し付けることで、光軸方向の力によって、互いの円錐面で生じる摩擦による摩擦係合により、切り替えることも考えられる。この場合、光軸方向の長さを小さくしようとすると、円錐面の角度を立てる必要があり、使用者が切り替えに必要とする力が大きくなり、不快となる。
【0042】
逆に、使用者の不快を解消するために、逆に円錐面の角度を寝かせすぎると、光軸方向の長さが長くなってしまい、コンパクト化できない。また、円錐面の角度を寝かせすぎると、製品のバラつきなどで、摩擦係合して連動して回転し始める光軸方向の位置がバラつく恐れがある。あるいは、円錐面の角度を寝かせすぎると、使用回数による円錐面の摩耗等で、光軸方向の位置がバラつく恐れがある。
【0043】
これに対して、本発明の付勢機構は、径方向へ付勢するので、光軸方向の長さをコンパクトにしつつ、使用者の光軸方向のスライド移動に際して優れた感触を実現できる。
【0044】
以上より本発明の付勢機構は、レンズ鏡筒内を省スペース化し、マニュアルリング40のスライド移動に際して好適な感触を得ながら、マニュアルリング40とスケールリング50の係合に必要な摩擦力を得られる構成となっている。
【0045】
また、摩擦バネ53に予め付与される撓み量はチャージ板52の形状によって設定されるものである。従って、チャージ板52の屈曲部の形状を変更するのみで、マニュアルリング40のスライド移動の際の感触を必要に応じて適切に調整することが可能である。
【0046】
また、摩擦バネ53を予め変位させているので、スライド移動に際して摩擦バネ53の変位量は かであり、変形に係る負荷が少ない。従って、付勢機構の耐久性に優れた構成となっている。
【0047】
また、摩擦バネ53がスケールリング50に固定されていることから、マニュアルリング40をスライド移動しても、摩擦バネ53の位置がスケールリング50に対して変化しない。更に、チャージ板52と摩擦バネ53とをスケールリング50に共締めしていることから、チャージ板52による撓み量も変化しない。従って、スケールリング50とマニュアルリング40とが付勢機構の付勢力によって確実に係合する構成となっている。
【0048】
また、付勢機構をスケールリング50の外周上に互いに均等な距離で3か所配置することで、付勢力の作用する箇所を対称的に分散させている。従って、スケールリング50から発生する摩擦力には偏りが発生せず、合焦範囲の範囲内でマニュアルリング40が空転することのない構成となっている。また、マニュアルリング40のスライド移動の際に、摩擦力の偏りによる感触の悪化が発生しない構成となっている。
【0049】
なお、本実施例においてはスケールリング50に付勢機構が備わる構成としたが、これに限られるものではない。マニュアルリング40が付勢機構、スケールリング50が係止部43を備え、第1の位置において一体となって回転する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ここに開示された技術は、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、フィルムカメラ等の、光学機器に用いられる、レンズ鏡筒として利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 レンズ鏡筒
10 前枠
12 距離指標
20 固定筒
30 カバーリング
40 マニュアルリング
41 直進キー溝
42 山状部
43 係止部
50 スケールリング
51 距離表示
52 チャージ板
52a 屈曲部
53 摩擦バネ
53a 第1屈曲部
53b 第2屈曲部
54 接触部
55 締結部材
60 第1クラッチベース
61 溝部
61a 丸穴部
62 ボール
63 クリックバネ
64 第2クラッチベース
70 第1検知リング
80 第2検知リング
81 突起部
90 第1検知レバー
91 第2検知レバー
92 付勢バネ
93 締結部材