(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】酸化チタン粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/053 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
C01G23/053
(21)【出願番号】P 2020509160
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013090
(87)【国際公開番号】W WO2019189307
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018062355
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】友成 雅則
(72)【発明者】
【氏名】井田 清信
(72)【発明者】
【氏名】細川 拓也
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-063496(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023621(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136765(WO,A1)
【文献】特開2010-208863(JP,A)
【文献】特開平09-165218(JP,A)
【文献】特開平02-022127(JP,A)
【文献】米国特許第4923682(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04-23/08
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液と、アルカリとを混合して(オキシ)塩化チタンを中和加水分解する工程と、
次いで、中和加水分解後の溶液を80℃以上110℃以下の温度に加熱して、中和加水分解後の前記溶液に残存する(オキシ)塩化チタンを熱加水分解する工程と、を有
し、
前記中和加水分解工程において、(オキシ)塩化チタンのうちの0.1~50mol%を加水分解する、
酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中和加水分解工程のカルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液を、アルカリと混合する前、混合中、又は混合後に40℃以上80℃以下の温度に加熱する、請求項1に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項3】
動的光散乱式粒子径分布測定装置により測定した酸化チタン粒子の90%累積体積粒度分布径(D90)(nm)と前記酸化チタン粒子の比表面積から算出したBET径(nm)との比(D90/BET径)が1~35の範囲であり、前記酸化チタン粒子に含まれる炭素含有量が0.4~10質量%の範囲である、酸化チタン粒子
。
【請求項4】
前記90%累積体積粒度分布径(D90)が10~180nmの範囲である、請求項3に記載の酸化チタン粒子
。
【請求項5】
酸化チタン粒子を600℃で2時間加熱した後のルチル化率が10%以下である、請求項3又は請求項4に記載の酸化チタン粒子
。
【請求項6】
酸化チタン粒子のBET比表面積が100~400m2/gである、請求項3乃至請求項5の何れか一項に記載の酸化チタン粒子
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平均一次粒子径が0.1μm以下の酸化チタン粒子(本願では、「微粒子酸化チタン」とも称する)は、可視光に対して透明性を有し、紫外線に対しては遮蔽能を有するため、日焼け止め化粧料や紫外線遮蔽塗料として利用されている。また、高比表面積であることから、脱硝触媒やダイオキシン分解触媒等の触媒担体に用いられ、紫外線の照射により励起して光触媒作用や、親水性作用や、防曇作用を発現することから、光触媒や太陽電池用電極等に用いられる。
また酸化チタン粒子は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)用の誘電体材料として知られるチタン酸バリウムや、チタン酸ストロンチウムや、チタン酸リチウム等のチタン複合酸化物を製造するための原料に用いられる。
【0003】
酸化チタン粒子を製造する方法としては、大別して、四塩化チタンなどの(オキシ)塩化チタンを気相で酸化したり加水分解したりする「気相法」と、四塩化チタンなどの(オキシ)塩化チタンを液相で加水分解する「液相法」とがある。一般に、「液相法」で得た酸化チタン粒子は原料由来の塩素の混入が少ない傾向にあるので、こうした物性が求められる用途(例えば、誘電体材料の原料など)に適している。
【0004】
上述の「液相法」として、例えば特許文献1には、(オキシ)塩化チタンをチタン源としてアルカリで中和加水分解する方法や、(オキシ)塩化チタンをチタン源として第1加水分解を行った後、更にチタン源を追加して第2加水分解を行う方法などが記載されている。この方法によれば、酸化チタン粒子の比表面積から算出したBET径が1~50nmであり、レ一ザ一回折・散乱式粒子径分布測定装置で測定した50%累積質量粒度分布径(D50)を凝集粒子径として、その凝集粒子径が1~200nmであり、且つ、それらの比(凝集粒子径/BET径)が1~40である酸化チタン粒子を製造することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/002755号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、「液相法」において酸化チタン粒子の一次粒子径を小さくすると、溶液中の凝集が起こり、凝集粒子径が大きくなり易い。また、一次粒子径が小さいと加熱した際に粒子同士の焼結が起こり易い。そこで、上述の従来技術によって製造した酸化チタン粒子は、一次粒子径が小さいものの、凝集粒子径が比較的小さなものであるが、凝集の程度(即ち、一次粒子径に対する凝集粒子径の大きさ)は依然として大きい。酸化チタン粒子の凝集の程度が大きいと、可視光の透過性が低下したり、溶媒中の分散性が悪くなったりするなどの問題がある。また、他の原料(例えばバリウム源等)との混合が不十分になり反応性が低下し、微細な反応生成物が得られないという問題もある。更に、酸化チタン粒子を加熱した際に粒子同士の焼結が起こり易く、当該焼結が起こると、他の原料(例えばバリウム源等)との反応性が低下し、微細な反応生成物が得られないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、(オキシ)塩化チタンの加水分解の条件を更に検討した。その結果、加水分解を2段階で行う場合に、1段目の加水分解と2段目の加水分解の条件を適切に設定することにより、凝集の程度がより一層抑制された酸化チタン粒子を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)カルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液と、アルカリとを混合して(オキシ)塩化チタンを中和加水分解する工程と、
次いで、中和加水分解後の溶液を80℃以上110℃以下の温度に加熱して、中和加水分解後の前記溶液に残存する(オキシ)塩化チタンを熱加水分解する工程と、を有する、
酸化チタン粒子の製造方法、
(2)前記中和加水分解工程のカルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液を、アルカリと混合する前、混合中、又は混合後に40℃以上80℃以下の温度に加熱する、(1)に記載の酸化チタン粒子の製造方法、
(3)前記中和加水分解工程において、(オキシ)塩化チタンのうちの0.1~50mol%を加水分解し、次いで、熱加水分解工程において、残存する(オキシ)塩化チタンを加水分解する、(1)又は(2)に記載の酸化チタン粒子の製造方法、
(4)動的光散乱式粒子径分布測定装置により測定した酸化チタン粒子の90%累積体積粒度分布径(D90)(nm)と前記酸化チタン粒子の比表面積から算出したBET径(nm)との比(D90/BET径)が1~35の範囲である、酸化チタン粒子、
(5)前記90%累積体積粒度分布径(D90)が10~180nmの範囲である、(4)に記載の酸化チタン粒子、
(6)酸化チタン粒子に含まれる炭素含有量が0.4~10質量%の範囲である、(4)又は(5)に記載の酸化チタン粒子、
(7)酸化チタン粒子を600℃で2時間加熱した後のルチル化率が10%以下である、(4)乃至(6)の何れか一項に記載の酸化チタン粒子、
(8)酸化チタン粒子のBET比表面積が100~400m2/gである、(4)乃至(7)の何れか一項に記載の酸化チタン粒子、などである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化チタン粒子の製造方法によれば、動的光散乱式粒子径分布測定装置により測定した酸化チタン粒子の90%累積体積粒度分布径(D90)(nm)と前記酸化チタン粒子の比表面積から算出したBET径(nm)との比(D90/BET径)が小さい酸化チタン粒子を得ることができる。ここで、BET径は一次粒子径、D90は粒度分布における粗大側の凝集粒子径の指標と考えることができる。そうすると、D90/BET径が小さいということは、一次粒子径と粗大側の凝集粒子径との差が小さく、粒度分布のほぼ全域において凝集の程度が小さいことを意味する。
【0010】
本発明の酸化チタン粒子は、凝集の程度が小さいため、可視光の透過性が高く、溶媒中の分散性がよく、しかも、他の原料(例えばバリウム源等)との十分な混合ができ、反応性がよくなって微細な反応生成物が得られる。また、本発明の酸化チタン粒子は、加熱した時の粒子同士の焼結が起こり難く、本発明の酸化チタン粒子を原料に用いることで、より小粒径のチタン複合酸化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例2の試料Bの加熱後の電子顕微鏡写真である。
【
図4】比較例3の試料cの加熱後の電子顕微鏡写真である。
【
図5】比較例3の試料cの加熱後の電子顕微鏡写真の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の酸化チタン粒子の製造方法は、カルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液と、アルカリとを混合して(オキシ)塩化チタンを中和加水分解する工程と、次いで、中和加水分解後の溶液を80℃以上110℃以下の温度に加熱して、中和加水分解後の前記溶液に残存する(オキシ)塩化チタンを熱加水分解する工程と、を有する。
尚、本願において「(オキシ)塩化チタン」とは、塩化チタン又はオキシ塩化チタンの意である。
【0013】
中和加水分解工程では、先ず、カルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを含む溶液を準備する。この時、カルボン酸と水系溶媒を混合した溶液を準備し、これと(オキシ)塩化チタンとを混合してもよいし、(オキシ)塩化チタンと水系溶媒を混合した溶液を準備し、これとカルボン酸とを混合してもよいし、水系溶媒とカルボン酸とオキシ塩化チタンとを一度に混合してもよい。上記溶液をよく撹拌して、カルボン酸を十分に溶解させておくことが好ましい。(オキシ)塩化チタンとカルボン酸とを含む溶液に水を更に添加して、(オキシ)塩化チタンの濃度を適宜調整してもよい。(オキシ)塩化チタンを含む溶液にカルボン酸を含ませることにより、カルボン酸によって(オキシ)塩化チタンが溶液中に安定して存在する。
【0014】
本発明の製造方法における「(オキシ)塩化チタン」としては、四塩化チタン、三塩化チタン、オキシ塩化チタン等を用いることができる。中でも四塩化チタンが好ましい。水系溶媒は、水又は水にアルコール等の有機溶媒を混合した溶媒を指す。有機溶媒を混合する場合、その含有量は、水系溶媒の10質量%以下程度が好ましい。
【0015】
本発明の製造方法における「カルボン酸」は、多価カルボン酸やこれらの塩を包含し、例えば下記(a)~(g)のものが挙げられる。
(a)カルボン酸:例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸。
(b)ポリ(多価)カルボン酸:特にジカルボン酸、トリカルボン酸、例えば、シュウ酸、フマル酸。
(c)ヒドロキシポリ(多価)カルボン酸:特にヒドロキシジ-又はヒドロキシトリ-カルボン酸、例えばリンゴ酸、クエン酸又はタルトロン酸。
(d)(ポリヒドロキシ)モノカルボン酸:例えばグルコヘプトン酸又はグルコン酸。
(e)ポリ(多価)(ヒドロキシカルボン酸):例えば酒石酸。
(f)ジカルボキシルアミノ酸及びその対応するアミド:例えばアスパラギン酸、アスパラギン又はグルタミン酸。
(g)ヒドロキシル化され又はヒドロキシル化されていないモノカルボキシルアミノ酸:例えばリジン、セリン又はトレオニン。
【0016】
上記のカルボン酸の塩としては、どのような塩でも制限なく用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0017】
カルボン酸の量は、(オキシ)塩化チタンに対して0.1~50mol%が好ましく、0.1~12.5mol%が好ましい。また、多価カルボン酸としてクエン酸を用いる場合、クエン酸量は、(オキシ)塩化チタンの酸化チタン相当量に対する質量%で表して、0.5~15質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい。
【0018】
次に、上記溶液とアルカリとを混合する。これにより、(オキシ)塩化チタンの一部が中和加水分解され、微細な酸化チタン粒子(シード)が溶液中に生成する。
【0019】
アルカリとしては、アルカリ性を呈する化合物であればどのようなものでもよいが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、アンモニアガス等のアンモニウム化合物、アルキルアミン、エタノールアミン等のアミン化合物等が挙げられる。上記アルカリとしては、酸化チタン粒子に不純物として残留しないアンモニウム化合物やアミン化合物が好ましく、アンモニア水が特に好ましい。アルカリの添加量は、(オキシ)塩化チタンの中和加水分解量が、0.1~50mol%になる量が好ましく、0.25~40mol%になる量がより好ましい。このような中和加水分解量とするためのアルカリの具体的な添加量は、アルカリが持つ塩基量にもよるが、(オキシ)塩化チタンに対して1~200mol%の範囲が好ましく、1~150mol%の範囲がより好ましい。中和加水分解反応により、酸化チタン粒子の前駆体としての微細粒子(シード)が生成する。
【0020】
中和加水分解反応を行う際には、溶液の温度を室温(20℃程度)~80℃にすることが好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましく、50℃以上75℃以下が更に好ましい。このとき、溶液の温度を上記温度範囲とした後にアルカリと混合してもよいし、アルカリとの混合の途中に上記温度範囲に到達するようにしてもよいし、アルカリとの混合後に上記温度範囲に到達するようにしてもよい。
【0021】
もっとも、アルカリと混合前に加温を完了しておくことで、均一な温度条件で(オキシ)塩化チタンの中和加水分解を行うことができる。また、予め溶液の温度を40℃以上に加熱することで、中和加水分解反応を十分に進行させることができる。更に、溶液の温度は80℃以下に設定することで、中和加水分解中に熱加水分解が生じることを抑制することができる。上述したように、(オキシ)塩化チタンはカルボン酸によって安定化されているので、上記温度範囲に達するまでの間の加温による熱加水分解についても十分抑制される。
【0022】
上記アルカリの添加後は、溶液の温度を維持しながら数十分~数時間の間、熟成してもよい。熟成時間は、5分~1.5時間が好ましい。熟成により、生成するシードの粒子のサイズ、粒子数のバラつきを抑制することができる。
【0023】
次いで、上記中和加水分解工程に引き続き、溶液を80℃以上110℃以下の温度に加熱する(熱加水分解工程)。ここで、「溶液を80℃以上110℃以下の温度に加熱する」とは、中和加水分解後の溶液を加熱してその温度を上昇させ、80℃以上110℃以下の温度とすることを意味する。これにより、溶液中に残存する未反応の(オキシ)塩化チタンが熱加水分解され、この加水分解生成物により、中和加水分解によって生成させた微細な酸化チタン粒子(シード)が粒子成長して、酸化チタン粒子を得る。
【0024】
熱加水分解工程では、溶液中の(オキシ)塩化チタンが一部残存しても構わないが、溶液中の全ての(オキシ)塩化チタンを使用する(換言すると、溶液中の全ての(オキシ)塩化チタンが熱加水分解して酸化チタンに変換される)ことが好ましい。従って、反応率を上げる観点から、熱加水分解時の温度はより高いことが好ましく、85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上が更に好ましい。
【0025】
上記熱加水分解の温度に到達した後は、溶液の温度を維持しながら数十分~数時間の間、熟成してもよい。熟成時間は、5分~3時間が好ましい。熟成により、反応収率が高くなったり、生成する粒子の粒度分布がシャープになったり、あるいは粒子の結晶性が高くなるなどの効果が期待できる。
【0026】
以上に述べたように、本発明の酸化チタン粒子の製造方法では、カルボン酸と(オキシ)塩化チタンとを予め混合し、その後にアルカリを混合して(オキシ)塩化チタンの一部を中和加水分解し、残りの(オキシ)塩化チタンを80~110℃で熱加水分解する。こうすることで、一次粒子径と粗大側の凝集粒子径との差が小さく(具体的には、D90/BET径が1~35)、加熱による粒子同士の焼結が抑制される酸化チタン粒子を簡便に得ることができる。
また、カルボン酸の存在量やカルボン酸の種類、中和加水分解の量(シードの生成量)、熱加水分解の温度などを上述のように適切に制御することで、上記特性の酸化チタン粒子をより一層簡便に得ることが可能となる。
【0027】
本発明の酸化チタン粒子の製造方法では、上記のように2段階の加水分解プロセスを経るが、チタン源としての(オキシ)塩化チタンは、一段目の中和加水分解の段階から必要量の全量を投入する。こうすることで、各段階でチタン源((オキシ)塩化チタン)を投入する場合と比較して、中和加水分解工程での(オキシ)塩化チタンの加水分解量をコントロールし易いという利点がある。
【0028】
前記の方法で製造した酸化チタン粒子を含む溶液にアルカリ又は酸を添加してpHを0~9の範囲に調整し、溶液の温度を50~90℃に保持して熟成してもよい。熟成時間は10分~5時間程度である。熟成することにより酸化チタン粒子の結晶性を高めたり、凝集の程度を抑制したり、一次粒子径(BET径)を適当な範囲に調整したりすることもできる。
【0029】
前記の方法で製造した酸化チタン粒子を含む溶液を必要に応じてアルカリ又は酸を添加してpHを6.0~8.0の範囲に調整し、任意で凝集剤を添加後、ろ過し、乾燥することにより、粉末状の酸化チタン粒子を製造してもよい。
【0030】
前記の方法で製造した酸化チタン粒子を焼成してもよい。焼成温度は150~800℃程度が好ましく、バリウム、リチウム等との反応性がよく比表面積の低下が生じ難いことから150~600℃の範囲がより好ましい。焼成時間は適宜設定することができ、1~10時間程度が適当である。焼成の雰囲気は、大気等の酸素ガス含有雰囲気下、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。本発明の酸化チタン粒子を焼成しても、ルチル化の進行を抑制でき、粒子同士の焼結を抑制できる。
【0031】
また、得られた酸化チタン粒子を、必要に応じて公知の方法により湿式粉砕、整粒を行ってもよく、その後更に従来の顔料用二酸化チタンや微粒子酸化チタンで通常行われているのと同様にして、粒子表面をアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、亜鉛から成る群より選ばれる少なくとも1種の含水酸化物、水酸化物や酸化物等で被覆してもよい。被覆処理量としては、基体の酸化チタン粒子に対して全量で1~50質量%が好ましく、より好ましくは5~30質量%である。この範囲は、被覆処理量が1質量%未満と少なすぎると所望の耐光性などの効果が得られず、逆に被覆処理量が50質量%を超えるように多すぎると凝集が生じるばかりでなく、経済的にも不利であるという問題を避けることができる点で好ましい。また、得られた酸化チタン粒子を触媒担体、触媒、光触媒、吸着剤として用いる場合、通常の方法により触媒成分、例えば、白金、タングステン、銅、銀、金等の金属や化合物を担持してもよい。
【0032】
酸化チタン粒子に無機化合物を被覆するには、例えば、酸化チタン粒子を水中に分散させたスラリーに、撹拌しながら無機化合物を添加し、pH調整を行い酸化チタン粒子の表面に無機化合物を析出させた後、ろ過、洗浄、乾燥する湿式法を用いることができる。
【0033】
また、酸化チタン粒子の表面に、脂肪酸やその塩、アルコール、アルコキシシラン化合物、アミノアルコキシシラン化合物等の有機化合物を被覆処理してもよい。アルコキシシラン化合物及び/又はアミノアルコキシシラン化合物等は、加水分解された状態で被覆してもよい。有機化合物の被覆処理量としては、基体の酸化チタン粒子に対して全量で1~50質量%が好ましく、より好ましくは5~30質量%である。この範囲は、被覆処理量が1質量%未満と少なすぎると所望の分散性などの効果が得られず、逆に被覆処理量が50質量%を超えるように多すぎると凝集が生じるばかりでなく、経済的にも不利であるという問題を避けることができる点で好ましい。被覆処理する有機化合物は用途、目的に応じて二種類以上を併用してもよい。アルコキシシラン化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等を挙げることができる。アミノアルコキシシラン化合物の例としてγ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0034】
酸化チタン粒子に有機化合物を被覆するには、例えば(1)酸化チタン粒子をヘンシェルミキサーなどの高速撹拌機に入れて撹拌しながら、有機化合物、又はこれらの水あるいはアルコール溶液を滴下、あるいはスプレーにより添加し、均一になるように撹拌した後、乾燥する乾式法、(2)酸化チタン粒子を水中に分散させたスラリーに、撹拌しながら有機化合物、又はこれらの水あるいはアルコール溶液を添加し、充分に撹拌した後、ろ過、洗浄、乾燥する湿式法、のいずれかを用いることができる。
【0035】
本発明の酸化チタン粒子は、動的光散乱式粒子径分布測定装置により測定した酸化チタン粒子の90%累積体積粒度分布径(D90)(nm)と比表面積から算出した前記酸化チタン粒子のBET径(nm)との比(D90/BET径)が1~35の範囲である。
【0036】
本発明の「酸化チタン」とは、二酸化チタン、一酸化チタンの他に、含水酸化チタン、水和酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸等といわれるものを含む。
【0037】
酸化チタン粒子の粒度分布は、動的光散乱式粒子径分布測定装置(NanotracUPA、日機装社製)を用い、後述するように、酸化チタン粒子のスラリーにポリカルボン酸系分散剤を添加し、これにメディア(ジルコンビーズ等)を加えて分散機で処理したサンプルを測定する。
チタン酸バリウムなどのチタン複合酸化物の製造原料として酸化チタン粒子を用いる場合、バリウム源と酸化チタン粒子とをメディアの存在下で湿式混合する。これを考慮して、チタン複合酸化物の製造条件により近い方法にて酸化チタン粒子を分散させた場合の粒度分布を測定しているのである。
【0038】
上記のように測定した粒度分布における50%累積体積粒度分布径を、平均凝集粒子径(D50)とする。平均凝集粒子径(D50)は小さいことが好ましく、具体的には5~100nmが好ましく、6~80nmがより好ましく、7~70nmが更に好ましい。
【0039】
上記のようにして測定した粒度分布における90%累積体積粒度分布径を、粗大側の凝集粒子径(D90)とする。上記D50と同様に、粗大側の凝集粒子径(D90)も小さいことが好ましく、具体的には10~180nmが好ましく、10~160nmがより好ましい。
【0040】
尚、粗大粒子の存在状態の確認方法としては、上記の動的光散乱式の粒子径分布測定装置による方法の他に、個数カウント式の粒度分布測定装置を用いることもできる。このような装置としては、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式粒度分布測定装置(AccusizerFX-Nano dual)などが挙げられる。
個数カウント式の粒度分布測定装置では、粒子1つ1つの大きさを計測するとともに、その個数をカウントして粒度分布を測定するため、粗大粒子の存在状態を、より実態に合わせて把握することができる。
【0041】
BET径は、BET比表面積より後述の式1を用いて算出する。BET比表面積は、流動式比表面積自動測定装置(FlowSorbII 2300、島津製作所社製)を用いて窒素吸着法(BET法)により求めることができる。上記のBET径は、酸化チタン粒子の一次粒子径の指標とみなすことができる。BET径は1~40nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましく、1~10nmであることが更に好ましい。BET径が上記の範囲であると、可視光の透過性が高く、溶媒中の分散性がよく、しかも、他の原料(例えばバリウム源等)との十分な混合ができ、反応性がよくなって微細な反応生成物が得られる。
【0042】
また、酸化チタン粒子の比表面積は、大きいものほどBET径が小さくなるので好ましく、具体的には50~400m2/gが好ましく、100~400m2/gがより好ましく、200~400m2/gが更に好ましい。
【0043】
また、平均凝集粒子径(D50)と上記のBET径との比(D50/BET径)は凝集の程度を表し、この値が小さいほど凝集の程度が小さいことを表す。D50/BET径は1~20の範囲が好ましく、1~15の範囲がより好ましい。
【0044】
また、粗大側の凝集粒子径(D90)と上記のBET径との比(D90/BET径)もまた凝集の程度を表し、この比が小さいほど凝集の程度が小さいことを表す。本発明の酸化チタン粒子のD90/BET径は1~35の範囲であり、1~30の範囲が好ましく、10~30の範囲であってもよい。
尚、BET径(一次粒子径に相当)が比較的小さい値をとる場合、酸化チタンの一次粒子が凝集しやすくなり、「D90/BET径」も大きくなる傾向にある。これに対して、本発明の酸化チタン粒子では、BET径が十分に小さい場合(好ましくは1~40nm、より好ましく1~20nm、さらに好ましくは1~10nm)であっても、「D90/BET径」が小さな値(1~35、好ましくは1~30)をとり、凝集の程度が小さいという特徴を有する。
【0045】
D90/BET径は、D50/BET径に比べて粒度分布における粗大粒子の存在がより直接的に反映される数値である。すなわち、仮にD50/BET径が非常に小さな値であったとしても、一部に粗大な凝集粒子が含まれているなど、粒度分布の粗大側での凝集の程度が大きければ、D90/BET径は大きくなる。チタン複合酸化物の製造時のバリウム源などとの反応性等の観点からすれば、粗大な凝集粒子の存在は好ましくなく、粗大側での凝集の程度は極力抑えるのがよい。このようなことから、酸化チタン粒子のD90/BET径が1~35の範囲であると、一次粒子径と粗大側の凝集粒子径との差が小さく、粒度分布のほぼ全域において凝集の程度が小さくなっているので、可視光の透過性が高く、溶媒中の分散性がよく、しかも、他の原料(例えばバリウム源等)との十分な混合ができ、反応性がよくなって微細な反応生成物が得られる。
繰り返すが、仮に「D50/BET径」が非常に小さな値であったとしても、一部に粗大な凝集粒子が含まれているなど、粒度分布の粗大側での凝集の程度が大きければ、「D90/BET径」は大きくなる。そのため、仮に「D50/BET径」が本発明と同じ酸化チタン粒子が存在していたとしても、粒度分布の粗大側での凝集の程度が大きければ「D90/BET径」は大きくなるので、それだけでは当該酸化チタン粒子が本発明と同じ1~35の範囲の「D90/BET径」を有していることにはならない。つまり、仮に「D50/BET径」が本発明と同じ酸化チタン粒子が存在していたとしても、それだけでは本発明による上述の効果を得ることはできない。本発明による上述の効果を得るためには、チタン複合酸化物の製造時のバリウム源などとの反応性等の観点から粒度分布の粗大側での凝集の程度を極力抑えることが必要であり、そのためには、酸化チタン粒子の「D90/BET径」が1~35の範囲(好ましくは、1~30の範囲)であることが重要である。
【0046】
酸化チタンは、塩素、硫黄、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の不純物を含んでいてもよく、この不純物は蛍光X線分析、ICP分析等で測定する。
【0047】
本発明の酸化チタン粒子は、不純物として塩素を含む場合、その含有量は酸化チタンに対して0.04質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。塩素の含有量が上記範囲であると、加熱時の酸化チタンのルチル型への転移が抑制されたり、加熱時に粒子同士の焼結が進行しにくくなったりするため、誘電体材料(チタン酸バリウムなど)のチタン複合酸化物等の製造原料として好適である。塩素含有量は、蛍光X線分析装置(RIX2100、リガク製)を用いて測定する。
【0048】
また、本発明の酸化チタン粒子は、使用したカルボン酸が含まれていてもよく、加熱により炭素や炭素化合物になったものが含まれていてもよい。それらを炭素原子として表した炭素含有量は0.4質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がより好ましい。炭素含有量は、CHN分析装置(varioELIII、elementar社製)を用いて測定する。
【0049】
酸化チタン粒子の炭素含有量は、多ければ多いほど上記効果(焼結の抑制など)が得られ易いという訳ではなく、比較的少量でも十分に上記の効果を奏する。従って、炭素量は0.4質量%以上10質量%以下が好ましく、0.6質量%以上8質量%以下がより好ましい。酸化チタン粒子に含有される炭素含有量は、製造過程で用いる有機物(カルボン酸など)の使用量などによって調整することができる。詳細なメカニズムは不明であるが、製造過程で用いられるカルボン酸などの有機物(これに由来する炭素)が上記の所定量含まれることにより、酸化チタン粒子を加熱したときのルチル型への転移が抑制されるとともに、粒子同士の焼結が抑制される。
【0050】
本発明の酸化チタン粒子は、アナタース型、ルチル型の何れの結晶型を有してもよく、アモルファス(無定形)であってもよいが、チタン複合酸化物を製造するにはアナタース型が好ましく、光触媒等に用いる場合でもアナタース型が好ましい。酸化チタン粒子の結晶型は、X線回折装置(UltimaIV、リガク社製)を用いて測定したX線回折スペクトルより決定する。
【0051】
本発明の酸化チタン粒子は、その結晶型がアナタース型である場合に、600℃で2時間加熱した後のルチル化率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。ルチル化率とは、全酸化チタン中におけるルチル型酸化チタンの含有率のことをいい、後述の式2に基づいて算出する。
【0052】
チタン複合酸化物の製造時には、酸化チタン粒子とバリウム源などとを混合して加熱する。酸化チタン粒子は、高温での加熱により結晶型がアナタース型からルチル型に転移する傾向がある。ルチル型とアナタース型とでは、バリウム源などのその他の原料との反応性が異なることが予想される。従って、加熱時にルチル型に転移する傾向が大きい酸化チタン粒子を原料に用いた場合、この反応性の違いにより、生成するチタン複合酸化物の粒度分布の制御が困難になる。このようなことから、ルチル化率が上記範囲であると、バリウム源などのその他の原料との反応性をより均一とすることができ、チタン複合酸化物の粒度分布の制御が容易となる。
【0053】
本発明の酸化チタン粒子は、一次粒子がある程度凝集して凝集粒子を形成しているため、その一次粒子同士の隙間を細孔として考えることができ、細孔容積を上記の窒素吸着法(BET法)の比表面積測定装置で測定することができる。細孔容積量が大きいとバリウム、リチウム等との接触面積が大きく反応性がよい。具体的には、細孔径(直径)1~100nmの範囲の細孔容積は0.2~0.7ml/gの範囲が好ましく、0.3~0.6ml/gがより好ましい。
【0054】
酸化チタン粒子の一次粒子径は、結晶子が集合して構成されているため、一次粒子径をより微細にするにはこの結晶子径をより小さくするのが好ましい。この結晶子径は、アナタース型については(101)面、ルチル型については(110)面のX線回折ピークより下記のシェラーの公式を用いて算出することができ、例えば、20~250Åが好ましく、20~150Åがより好ましく、50~100Åが更に好ましい。
シェラーの公式:DHKL=K*λ/βcosθ
ここで、DHKL:平均結晶子径(Å)、λ:X線の波長、β:回折ピークの半価幅、θ:Bragg’s角、K:定数(0.9)を表す。
【0055】
本発明の酸化チタン粒子を用いて、少なくとも一種の金属元素(但し、チタンを除く)との複合酸化物を製造すると、微細であって結晶性がよいものが得られる。金属元素には、典型金属元素(アルカリ金属元素(第1族元素)、アルカリ土類金属元素(第2族元素)、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素)、遷移金属元素(但し、チタンを除く)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。例えば、チタン酸リチウムはリチウム二次電池の負極活物質として、チタン酸ナトリウムは各種チタン酸化合物製造用の原料・中間体として、チタン酸カリウムはフィラーとして有用である。また、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムは誘電体等として有用である。その他、例えば、チタン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウムマグネシウム等は耐熱性材料として、チタン酸鉛等は圧電体として有用である。これらの複合酸化物は、本発明の酸化チタン粒子と少なくとも一種の金属化合物とを混合し反応させたり、混合物を焼成したりして製造する。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
TiO2として90g分の四塩化チタンと、TiO2に対して2質量%の無水クエン酸と、純水1350mlとをビーカーに入れて室温で混合した。その後、40℃まで昇温し、四塩化チタンに対して50mol%のアンモニアを含む水溶液(安水)を30分かけて添加し、更に温度を保持しながら30分間熟成することで中和加水分解を行い、酸化チタン(シード)を作製した。
続いて、上記酸化チタン(シード)を含む溶液の温度を90℃に昇温し、60分間保持して残存する四塩化チタンを熱加水分解して、酸化チタンを析出させた。得られた酸化チタン粒子をろ過洗浄し、乾燥して、酸化チタン粒子の粉末(試料A)を得た。
【0058】
(実施例2~11)
実施例1に記載の製造方法を基本として、無水クエン酸の量、中和加水分解工程における処理温度、アンモニアの添加量、熱加水分解工程における処理温度を、表1に記載のとおり適宜変更したこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粒子の粉末(試料B~K)を得た。
表1には、アンモニアの添加量の約四分の一が四塩化チタンの加水分解量であるとの前提のもと、中和加水分解工程における四塩化チタン(TiCl4)の加水分解量の計算値を示した。
【0059】
【0060】
(実施例12~14)
実施例2で得た試料Bについて、400℃、500℃、及び600℃の3条件でそれぞれ2時間加熱処理した。これにより、酸化チタン粒子の粉末(試料L~N)を得た。
【0061】
(比較例1)
実施例1に記載の製造方法を基本として、無水クエン酸の添加量を0としたこと以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粒子の粉末(試料a)を得た。
【0062】
(比較例2)
60℃に加熱したイオン交換水1L中に、ΤiO2として100g分の四塩化チタン水溶液とアンモニア水をそれぞれ60分かけて同時に添加し、pH=5.8~6.2を保持して加水分解した。得られた酸化チタン含有スラリーをろ過洗浄し、乾燥して、酸化チタン粒子の粉末(試料b)を得た。
【0063】
(比較例3)
TiO2として30g/Lの四塩化チタン水溶液1Lを室温に保持しながら、TiO2に対して3質量%の無水クエン酸を添加し、30分間撹拌した(pHは0以下であった)。これを92℃に昇温し、30分間撹拌保持して第一加水分解した。次いで、92℃の温度下TiO2として70g分の四塩化チタン水溶液とアンモニア水をそれぞれ60分かけて同時に添加し、pH=0.8~1.2を保持して第二加水分解した。得られた酸化チタン含有スラリーをアンモニア水でpH=6.5まで中和後、ろ過洗浄し、乾燥して酸化チタン粒子の粉末(試料c)を得た。
【0064】
(比較例4)
60℃に加熱したイオン交換水1L中に、TiO2として50g分の四塩化チタン水溶液、TiO2に対して3質量%の無水クエン酸、アンモニア水をそれぞれ60分かけて同時に添加し、pH=0.8~1.2を保持して第一加水分解した。次いで、TiO2として50g分の四塩化チタン水溶液を添加混合し、pH1以下に調整した。次いで、これを92℃に昇温し、30分間撹拌保持して第二加水分解した。得られた酸化チタン含有スラリーをアンモニア水でpH=6.5まで中和後、ろ過洗浄し、乾燥して、酸化チタン粒子の粉末(試料d)を得た。
【0065】
<評価1>
粒度分布(D50、D90):
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)3gに純水30mlを加え、更に各試料に対して3質量%のポリカルボン酸系分散剤(ノプコスパース5600、サンノプコ社製)を加えたスラリーを作製した。このスラリーと、メディアとしての0.09φmmジルコンビーズ60gとを容積70mlのマヨネーズ瓶に入れ、ペイントシェーカー(ペイントコンディショナー、RED DEVIL社製)で60分間分散させた。
【0066】
これらを評価サンプルとして用いて、動的光散乱式粒子径分布測定装置(NanotracUPA、日機装社製)で粒度分布を測定した。測定時の設定条件は以下の通りである。
(1)溶媒(水)の屈折率:1.333
(2)酸化チタン粒子の屈折率
アナタース型の場合:2.52
ルチル型の場合:2.72
(3)酸化チタンの密度
アナタース型の場合:3.9g/cm3
ルチル型の場合:4.2g/cm3
尚、アナタース型とルチル型の混晶の場合は、存在比率がより多いほうの結晶型の条件(粒子屈折率、密度)を設定した。
こうして測定した粒度分布における50%累積体積粒度分布径を平均凝集粒子径(D50)とし、90%累積体積粒度分布径を粗大側の凝集粒子径(D90)とした。
【0067】
<評価2>
BET比表面積・BET径:
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)について、流動式比表面積自動測定装置(FlowSorbII 2300、島津製作所社製)を用いて、窒素吸着法(BET法)によりBET比表面積(m2/g)を求めた。このとき、脱離は窒素ガス流通下、室温の温度条件で行い、吸着は77Kの温度条件で行った。
BET径は、BET比表面積から下記式1により算出した。
d=6/(ρ・a)・・・(式1)
dはBET径(μm)、ρは酸化チタンの密度(g/cm3)、aはBET比表面積(m2/g)である。酸化チタンの密度は、結晶型に応じた値(アナタース型:3.9、ルチル型:4.2)を用いることとし、アナタース型とルチル型の混晶の場合は、存在比率がより多いほうの結晶型の密度の値を用いた。
【0068】
<評価3>
炭素含有量:
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)について、CHN分析装置(varioELIII、elementar社製)を用いてその炭素含有量を測定した。
【0069】
<評価4>
結晶型・ルチル化率:
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)について、X線回折装置(UltimaIV、リガク社製)を用いて、X線管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:40mA、発散スリット:1/2°、散乱スリット:8mm、受光スリット:開放、サンプリング幅:0.020度、走査速度:10.00度/分の条件でX線回折スペクトルを測定し、結晶型を決定した。
X線回折スペクトルのルチル型結晶に対応する最大ピークのピーク高さ(Hr)及びアナタース型結晶に対応する最大ピークのピーク高さ(Ha)から、下記式2により算出した。
ルチル化率(%)=Hr/(Hr+Ha)×100・・・(式2)
【0070】
<評価5>
細孔容積:
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)について、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP-miniII、日本ベル社製)を用いて、BJH法により細孔径1~100nmの範囲について求めた。
【0071】
<評価6>
塩素量:
各種実施例及び比較例の酸化チタン粒子の粉末(試料A~N、試料a~d)について、加圧成型にて分析試料を作製し、(株)リガク製蛍光X線分析装置RIX2100にて全元素オーダー(半定量)分析を行い、塩素量を定量した。
【0072】
評価1~6の結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
表2から分かるように、比較例の酸化チタン粒子のD90/BET径が比較的大きな値を示しているのに対し、実施例1~14の酸化チタン粒子では、D90/BET径が小さく、1~35の範囲であり、一次粒子径と粗大側の凝集粒子径との差が小さく、粒度分布のほぼ全域において凝集の程度が小さくなっていることがわかる。
【0075】
また、実施例1~11(熱処理前)の酸化チタン粒子では、炭素含有量が0.4質量%以上となっており、比較例の酸化チタン粒子におけるそれと比較して十分に大きい。このことが、実施例の酸化チタン粒子が加熱による焼結が進みにくいことの一要因となっていると考えられる。
【0076】
図1は、実施例2の酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真であり、
図2は、これを600℃で2時間、加熱後の電子顕微鏡写真である。また、
図3は、比較例3の酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真であり、
図4は、これを600℃で2時間、加熱後の電子顕微鏡写真である。図から明らかなように、実施例の酸化チタン粒子では、加熱による粒子同士の焼結がほとんど生じていないことがわかる。一方で、比較例の酸化チタン粒子では、加熱により所々で粒子同士の焼結が進んでおり、例えば
図4の白線で囲った部分の拡大図(
図5)を見ると、その様子がわかる。このような傾向は、その他の実施例及び比較例との対比においても同様である(図示は省略)。
【0077】
実施例1~11(熱処理前)の酸化チタン粒子は、いずれもBET比表面積が十分に大きく、250m2/g以上、大きいものでは300m2/g以上となっている。また、実施例12~14の酸化チタン粒子は、実施例2の酸化チタン粒子を400~600℃で加熱したものであるが、加熱によるルチル型への転移が十分に抑制されており、600℃で2時間加熱しても、そのルチル化率は5%以下(具体的には4%)と、十分に低い値となっていることがわかる。
【0078】
(チタン酸リチウムの製造)
Li/Ti比を0.81に設定し、SUS製容器に所定量のLiOH・H2Oを秤量し、濃度が4.5mol/Lとなるように純水を張り込み水溶液とした。その後、常温にてスラリー固形分が60g/Lとなるよう試料A~Nのそれぞれの粉末を投入し、30分間撹拌させて分散させた。その後、スプレードライ(Yamato社製:ノズル式)で噴霧乾燥を行い、乾燥粉を得た。(噴霧条件:入口温度190℃、出口温度85℃、Air圧0.25MPa)
得られた乾燥粉を所定量るつぼに仕込み、マッフル炉にて400~600℃の範囲で焼成を行った。得られた試料をX線回折、及びTG-DTA熱分析などの評価を行った結果、比較的低い温度域でLi4Ti5O12への相変化・結晶化が始まり、本発明の酸化チタン粒子はリチウムとの反応性がよいことがわかった。
【0079】
(チタン酸バリウムの製造)
試料A~Nのそれぞれの酸化チタン粉末100gとイオン交換水1Lとをビーカーに入れ、水性懸濁液とした。次いで、この水性懸濁液と市販の水酸化バリウム(Ba(OH)2・8H2O)(Ba/Tiモル比=1.5)を3リットルのオートクレーブに入れた後、加熱し、150℃の温度で1時間保持して飽和水蒸気圧下で水熱処理を行った。次いで、得られた生成物を吸引濾過器でろ過し、洗浄し、105℃の温度で乾燥してチタン酸バリウム粉末を得た。更に、前記の方法で得た乾燥物10gを550℃の温度で1時間焼成してチタン酸バリウム粉末を得た。
【0080】
得られたチタン酸バリウム試料をX線回折、及びTG-DTA熱分析などの評価を行った結果、それぞれの試料は結晶性がよく、一次粒子径が小さい化合物であって、本発明の酸化チタン粒子はバリウムとの反応性がよいことがわかった
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の酸化チタン粒子は、凝集の程度(特に粗粒も加味した凝集の程度)が小さいことから、バリウム、リチウム等との反応性がよく、チタン複合酸化物を製造するための原料の他に、触媒担体、触媒、光触媒、吸着剤等の種々の用途にも好適である。